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SS

【SS】深緑の戦争

 ▼ 1 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:30:29 ID:pkKUhS2s [1/65] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シンオウ地方某所にある、とある小綺麗なビルにて。
真っ黒なスーツを着用した、いかにも都会派な男達が、暗い部屋の中で会議をしていた。


スーツ1『……この議題についてはここら辺で終わらせて、次の議題に移りましょう。ハクタイの森の開発についてです。資料の9ページの19行目を見てください』

スーツ2『ほう……開発するのはハクタイの森に決まったのか』ペラッ

スーツ3『ええと、確かテンガン山を切り開く計画も有りましたよね』

スーツ1『あー、テンガン山の方は地元自治体の反対にあってしまい、計画倒れになってしまいました、申し訳ありません』

スーツ3『そっか……残念だねぇ』

スーツ4『それで、次点の候補だったハクタイの森、と……』
 ▼ 2 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:31:01 ID:pkKUhS2s [2/65] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
薄暗い会議室に響くスーツの男達の重々しい声。
都会に巣食う彼らは勿論、これから開発の手を伸ばそうとしている森がどんな物で、何がいるのかを、知りはしないし、知ろうとも思っていない。


スーツ1『はい、そうです。予定としてはハクタイシティ側から木々を伐採し、上手い具合に整地をして、わが社の系列のゴルフ場やホテルの類いの建設を予定しています』

スーツ2『成程……で、建設にはどのような物を?』

スーツ4『うちの方で重機は調達する手筈です』

スーツ3『人員は此方からも用意しますよ』


会議が進み、都会の眠らない夜が徐々に更けていく。
暗くなってゆく空は、街の光に邪魔されて、ここからは良く見えなかった。
 ▼ 3 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:31:29 ID:pkKUhS2s [3/65] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


そして、その開発の刃物を突きつけられているハクタイの森では。


ロゼリア「森の洋館勢力の話はここまでにしましょうか。……では、次の議題に移りますか……最近、ここに訪れる黒い人間達についてですね」

ラッタ「あー、あれは人間曰くスーツって奴だ。そして、あれは恐らく……ここを壊しに来た連中だろう」

ドンカラス「そうか……とうとうここにも、開発か……」

アゲハント「おのれ人間め……許せない!!」


月明かりに照らされた空き地の一角で、このハクタイの森のリーダー役を担う4匹が、話し合っていた。
先程までの、森の洋館についての議題を終え、ここを最近訪れるようになった、不振なスーツの男達の話をしている。
 ▼ 4 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:31:55 ID:pkKUhS2s [4/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ラッタ「……さて、どうする?」

アゲハント「奴等にここを明け渡す訳にはいかない!! 開発なんて断固拒否して、俺達で迎え撃つ!!」


顔を紅潮させがなり立てるアゲハント。生来彼は攻撃的なポケモンであるが、今はかなりそれが顕著である。ばたつく羽が音を立てる。


ドンカラス「その気持ちは分かるが……人間と対面で勝負するのは余りにもリスキー。出来て妨害、では無かろうか」

ロゼリア「うーん、確かに……」

アゲハント「そうだなぁ……」

ラッタ「でもさ、どう妨害するんだ? 危険が伴うぞ」
 ▼ 5 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:32:38 ID:pkKUhS2s [5/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
人間による開発の妨害を提案するドンカラスと、それの詳細を問うラッタ。簡単に妨害なんて言ったものの、相手は人間、子供騙しは通じない。


ドンカラス「うーん……」

ラッタ「本当に残念だが……これは、避難してここを明け渡すのが一番人的被害は少ないかと」

アゲハント「んなっ、」

ラッタ「……勝てっこ無いんだよ……あいつらには……」

アゲハント「あ!? やる前から決めつけるのか!?」

ラッタ「やっちまったら被害が出るだろ!?」

ロゼリア「まあまあ、落ち着いて下さい……取りあえずこれは放置、奴等が来たらまた考えましょう?」

ドンカラス「ああ……そうだな」スタスタ
 ▼ 6 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:33:06 ID:pkKUhS2s [6/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
司会を受け持っていたロゼリアの一声を良い切っ掛けとばかりに、その場を立ち去るドンカラス。
アゲハントとラッタも睨み合うのを止め、互いに帰路へとついた。


アゲハント「……チッ」スタスタ

ラッタ「……時間は無さそうなんだがな……」スタスタ


 ▼ 7 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:34:08 ID:pkKUhS2s [7/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

森の中央近くの低木、そこがラッタの家だった。新築の一戸建てである。
眠気で少し足元に不安を覚えていたラッタが家の前のほうへ歩いていくと、家から一匹のライチュウが飛び出してきた。


ライチュウ「お帰りなさいあなた……遅かったわね。大丈夫?」

ラッタ「ああ、会議が長引いた……悪いな」

ライチュウ「一体何が……」

ラッタ「……人間だよ。また……人間だ」


ライチュウに支えられながら空を見上げるラッタ。今晩の月は、恐ろしいほど紅かった。
 ▼ 8 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:35:31 ID:pkKUhS2s [8/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


そして、場所は移ってとある施設。薄汚れて黄ばんだ壁には幾つものライフルが吊るされ、むさい男達が行き来している。
だが、ここは別にヤのつく自由業の方々の事務所等ではない。シンオウ地方の猟友会だ。
その猟友会にて、二人の男が話していた。


ホタル『え、任務ですか? とうとう僕も仕事出来るんですか?』

モクセイ『ああ、そうだ。今回の任務はハクタイの森にて労働者の安全を守ることだ』

ホタル『はい!! 頑張ります!!』
 ▼ 9 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:36:11 ID:pkKUhS2s [9/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
彼らのうち、若さと勢いが溢れている、身軽な格好の青年の方がホタル、筋骨隆々な肉体を持つ老練な猟師の方がモクセイだ。
二人は数日後に控えた仕事を前にして悩んでいた。だが別に、同じことを悩んでいた訳ではない。
ホタルはどうやって初仕事の時に動こうかと考えていた。彼は凶暴なポケモンから人々を守る正義の味方を志してこの猟友会に入ったのだ、こう考えるのは至って自然な事だった。


ホタル『モクセイさん!! 僕頑張りますよ!! 人々を守り抜いて見せます!!』ハリキリ

モクセイ『あ、ああ……』

ホタル『モクセイさんも頑張りましょう!!』
 ▼ 10 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:36:34 ID:pkKUhS2s [10/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
モクセイは、そんなホタルを見ながら悩んでいた。モクセイは知っている、ホタルは夢を見ているのだ。もしこの仕事の闇を知り、決して正義の味方等ではないと知れば……きっと。モクセイはそればかり考えていた。
嫌なビジョンが頭を過る。それを押し込めるかのように、彼は手元ののコーヒーをグビッと飲み込んだ。
 ▼ 11 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:37:01 ID:pkKUhS2s [11/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


……その数日後。その日は良く晴れていた。
森の中で遊び回る子供達。そんな彼らの元に、人間の足音が近づいて来た。


幼ケムッソ「ん?なにあれ?」

幼ミミロル「私知ってる!! あれ人間って言うんだよ!!」


そんな会話を繰り広げるポケモン達の前に、楽しかった一時を終わらせる、鋭い破裂音が鳴り響く。


   パンッ

幼ミミロル「!?」

幼スボミー「な、何……?」
 ▼ 12 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:37:36 ID:pkKUhS2s [12/65] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
音を立てて飛来し、地面にめり込んだそれは銃弾。幼いポケモン達は怯んでその場を動けなくなる。
この一発の銃弾が皮切りとなり、人間の開発がスタートした。


   ブイイイイイイイイン

幼ケムッソ「木を……伐ってる……!!」

幼ミミロル「止めて!! 木が可哀想だよ!!」

幼スボミー「止め……て……」


開発を進める人間達を見つめるポケモン達。怖いけれど、人間を止めようか?そんな事を考え出したポケモン達のその前に、ズシリと大きい一匹のポケモンが立ちはだかった。
 ▼ 13 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:38:25 ID:pkKUhS2s [13/65] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
クリムガン「おう餓鬼共、ここから先は人間が仕事してるんだ。往ね!!」

幼ミミロル「ひっ……!?」


それは、モクセイの手持ちポケモンであるクリムガンだった。主人と同じように隆々とした肉体を持つ、力強い個体だ。
そんな図体のでかいポケモンが叫んできたので、三匹の幼いポケモンは、先程までの恐怖心もあり、思わず後ずさりしてしまった。


幼ケムッソ「怖いよぉ……」ガタガタ

クリムガン「ならさっさと去れよ。家に帰りな」

幼ケムッソ「でも……家は……あっち側に……」

クリムガン「だったら諦めな。新しく探せよ」


そんな会話をしていたクリムガンの前に、羽音を立てて一匹の乱入者がやって来る。
一際攻撃的な目付きをした、あのアゲハントだ。
 ▼ 14 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:39:05 ID:pkKUhS2s [14/65] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アゲハント「ちっ、人間か……ここは俺達の住む森だ、帰れ!!」

クリムガン「んだと!? ここはもう人間の土地なんだ、お前らは出ていけ!!」

アゲハント「知るかよ!! ここは昔も今も未来も皆の森だ!!」

クリムガン「あ?殺るか? あ?」


唾を飛ばし合い罵り合いながら睨み合う二匹。これだけ見ていると勝負は五分五分の様にも見えているが、……アゲハントは背後で対戦車ライフルを構える中年の男を発見した。つまり二対一の構図だ。


クリムガン「あ? おら、かかってこいよ?」

アゲハント「ちっ、卑怯な真似を……良いか? 俺達は人間に屈したりしねえ、ここを去るのはお前らだ!!」
 ▼ 15 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:39:30 ID:pkKUhS2s [15/65] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そう叫ぶアゲハントだったが、流石にここで一騎討ちは厳しいと判断、結局幼いポケモン達と共に逃げるという事になってしまった。


アゲハント「……」バサバサ

幼スボミー「あ、あの……ありがとう」

アゲハント「……済まない」バサッ


か細く呟くアゲハント。
幼く純粋なポケモンの声を後にし、彼は今まで会議を行っていたあの広場へと直行した。そして、何時もの三匹を召集する。ポケモンを、この森を守るという信念が彼を突き動かした。
 ▼ 16 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:39:59 ID:pkKUhS2s [16/65] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
緊急事態、人間の侵入。この森を仕切る四匹は直ぐ様集まり、今後どうするかを話し合い始めた。


アゲハント「さて、来たな……人間が」

ロゼリア「案外、早かったですね……」

ラッタ「……そうだな」

ドンカラス「で、どうする?」

ラッタ「……取りあえず妨害してみようか。それで追い払えれば幸運、事業が止まれば御の字だ」

ロゼリア「成程……どうやって?」

ラッタ「まず、時刻は明日の深夜にしよう。人間は夜は眠っているからな……俺達は軍を引き連れて奴等のテリトリーへと侵入しよう。そこから――


夜が今日も更けていく。四匹を照らす星明かりは、酷く歪んで、まるで彼らを嘲笑うかの様だった。
 ▼ 17 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:43:25 ID:pkKUhS2s [17/65] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


……次の日の日中。


   ブイイイイイイイイン


チェーンソーの唸りが辺りに響く。バタバタと斬り倒される木々、起伏のあった地面を均す重機、それらをただ、幼いポケモン達は遠巻きに眺める事しか出来なかった。
そして、そのポケモン達を監視する二人は。


ホタル『……モクセイ……さん……?』プルプル

モクセイ『……』


モクセイはホタルに眼をやった。拳を握るホタルの目からは既に光が消えていて、モクセイはホタルの現在の心理を直ぐ様理解した。
 ▼ 18 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:43:55 ID:pkKUhS2s [18/65] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ホタル『……僕は、正義の味方を目指して、この猟友会に入りました。 ……でも、これ……正義なんですか?』

モクセイ『……』

ホタル『苦しむポケモン達を追い払い、悪いことをする人間を守るのが、僕らなんですか? そんなの……』

モクセイ『……依頼してきた人々を、この銃で守り抜くのが、邪魔な存在を排除するのが、俺達、猟師の正義だ。 ……決して、お前の夢見る正義の味方なんかじゃあ無いさ……』

ホタル『っ……』プルプル


相も変わらず震えるホタルを横目に、モクセイは遠巻きに此方をみるポケモン達に向かって一発威嚇射撃をした。
彼の表情は、嫌になるほど暗かった。
 ▼ 19 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:55:36 ID:pkKUhS2s [19/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


その日の夜。森の緑は宵闇に身を預け、冷たい黒が横たわる、人間に作り替えられようとしている大地にて。
どうやら、ここの工事の労働者は、プレハブ小屋で寝息を立てているようだった。見張りをする手筈だったホタルも、今は船を漕いでいる。


ラッタ「……今だ」

ロゼリア「ええ、行くわよ!!」

アゲハント「っしゃ行くぞ!!」

ドンカラス「さっさと済ませるぞお前ら!!」


茂みの中で様子を伺っていたポケモン達が、一斉に姿を現す。
ロゼリアと彼女の率いるスボミー軍団は、大地を踏みにじり木々を薙ぎ倒した重機や機械を、蔓や草で縛り上げ、アゲハント率いるケムッソ軍団にカラサリスやマユルド、ドクケイル等が、機械に糸を吹き込んで内部から破壊した。
 ▼ 20 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:56:02 ID:pkKUhS2s [20/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ホタル『ん……zzz……』

ラッタ「……」


ドンカラス率いるヤミカラスの大群や、ミミロル等の軍団は、地面を掘り返し地形を書き換えて、均された大地を耕した。
そしてラッタは、労働者の眠るプレハブ小屋の天井を破壊し、彼らを圧し潰して殺してしまおうと考えていた。


ラッタ「……」カリカリ

ホタル『……ん……あれ?』


ホタルは物音に目を覚ます。ぼやけた視界は、周囲の惨状を辛うじてホタルに伝えた。
彼は状況の理解に少し時間を要したが、何が起きたかは把握した。
彼は上司を叩き起こす。
 ▼ 21 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:56:27 ID:pkKUhS2s [21/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ホタル『モクセイさん、モクセイさん!!』

モクセイ『ん、何だ? 朝か?』

ホタル『あ、あれ!!』

モクセイ『んあ?』


指差す先に広がる惨状は、モクセイに助走をつけて殴ったかのような鋭い衝撃を与えた。これは不味いというのは、誰だって分かるだろう。
彼は素早く跳ね起きた。


モクセイ『まじかよっ……、馬鹿野郎!! 今晩はお前が見張りしておけと言ったろう!!』

クリムガン「グオオッ!!」

ホタル『すみませんっ!!』
 ▼ 22 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:57:06 ID:pkKUhS2s [22/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
モクセイは手元の対戦車ライフルに弾丸を詰め、素早く構えて、何の躊躇いも無く、重機に群れるポケモンの近くにぶっぱなした。


   ズガンッ

ラッタ「目覚めたか!!」

ロゼリア「不味い!! 撤退するわよ!!」

アゲハント「ちっ!! 永遠に眠ってりゃ良かったのに……」

ドンカラス「急げ、撃たれるぞ!!」

ラッタ「……くそっ、間に合わなかったか……」


弾かれたように、わらわらと撤退しだすポケモン達。辺りに焦げ臭い硝煙の臭いが漂い、所々で起こる火花が、真っ黒な闇を一瞬だけ明るくした。
いくらかのポケモンは傷を負い、もうこの方法で妨害するのは無理だと判断された。
 ▼ 23 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:57:43 ID:pkKUhS2s [23/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
その次の日の朝。昨夜の騒動を知り、労働者達は己の仕事場を前に唖然とするしか無かった。
重機が壊れ、地は抉れ、辺りに木々が散乱し、ついでに自分達のプレハブ小屋まで破壊されかけていたのだ。
彼らはホタルを軽く睨み、一つ舌打ちをしてから、復旧を開始した。


労働者1『はあ……こんなにボコボコにされちまって……』

労働者2『機械もイカれてるわ……』

労働者3『はぁ……こりゃきっついわ……』


労働者達は、野性ポケモン達の残した爪痕に絶句し、肩を下ろす。
そして、これからは野性ポケモンがいたらすぐ、あのモクセイって猟師に始末してもらおうと思った。
 ▼ 24 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:58:03 ID:pkKUhS2s [24/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ホタル『……』


そして、ホタルは一人、せかせかと働く労働者達を眺めながら考えていた。これでいいのか?と。
隣ではモクセイが、夜の見張りに備えて寝袋に入っていた。今、彼の思考を邪魔する者は無い。
……彼は正義の味方を目指していた。だが現実はどうやら違うようだ。力が物を言い、弱者は踏みにじられる。それで良いのか?と。
いくら考えても、答えは出なかった。
 ▼ 25 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:58:26 ID:pkKUhS2s [25/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


その頃、森の中では。


アゲハント「絶対に許さない……絶対にだ!!」ガッ

ドンカラス「ああ。負けるわけにはいかない!!」


人間には決して屈すること無く、徹底抗戦を訴える二匹。彼らは間違いなく、自分達の故郷を守らんと義勇に燃える戦士であった。


ラッタ「……いや、避難しよう。犠牲は出せない」

ロゼリア「そうよ……あなた達も見たでしょう?向こうの状況を」


対してポケモン達の避難を訴えかける二匹。これ以上人間と争っても勝ち目はない、今の逃げれる時に逃げるべきだと唱える。
 ▼ 26 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:59:02 ID:pkKUhS2s [26/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
アゲハント「なあお前ら、お前らは悔しくないのかよ!? いきなりやって来た人間に、訳もわからない破壊を受けて、黙ってすたこら退散だなんてどうかしてる!!」

ラッタ「俺も悔しいさ!! だが、これ以上の犠牲を出すのはもっと悔しい!!」

ドンカラス「……」

ラッタ「勿論さ、ここを追われるのは嫌だよ。でも、でも……」

アゲハント「……」

ラッタ「……悪い、今日は帰らせてくれ」トボトボ


ラッタは、他のメンバーより一足先に帰っていった。
人間の手による絶望が、じりじりと躙り寄っているのは、誰にも分かりきった事だった。
 ▼ 27 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:59:39 ID:pkKUhS2s [27/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


それから数日後。
切り倒された木々はとっくの昔に100を超え、大地は均され川は埋められた。
アゲハントとドンカラスは、変わりゆく森をただ眺める事しか出来ない。


モクセイ『奴から、絶対に眼を放すなよ……』

ホタル『……』


対戦車ライフルを構えるモクセイは、鋭く二匹を睨み付ける。
彼の横には屈強なクリムガンが立ち、今飛び込んでもアゲハントとドンカラスには勝ち目はない。


アゲハント「ちっ……帰るぞ」

ドンカラス「ああ」


二匹は、舌打ちを残して茂みへと戻っていった。
 ▼ 28 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:06:35 ID:pkKUhS2s [28/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
それからさらに数日……森の住民達は外出の自粛を余儀無くされ、閉塞感に苛まれながら日々を過ごしていた。
ラッタの住むこの低木も、同様である。


ピチュー「おとーさん、おそと、いけない?」

ラッタ「ああ……すぐ、出られるようにしてやるから、……待っていてくれ」

ピチュー「いつ?」

ラッタ「……」

ライチュウ「……あなた……無理しないで」

ラッタ「俺がやらずに、誰が……誰がお前達を守れるんだ。誰が……」

ライチュウ「……」

ラッタ「行ってくる。手頃な木の板を用意しておいてくれ」


そう言いながら、ラッタは巣を後にした。
彼の背中には、家族を守るという義務感が、重く、重くのし掛かっていた。
そして、彼らの守るべき森は今。
 ▼ 29 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:07:21 ID:pkKUhS2s [29/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
   ブイイイイイイイイン

   バタッ ドサアッ


次々と倒されてゆく木々。無下にされる大好きな故郷。アゲハントは、人間一人にも勝てない己の無力さを恨んだ。
恨みに恨んだ。そして、彼は決意した。


アゲハント「……俺は、あいつらを殺してくる!!」

ドンカラス「!!」

ラッタ「馬鹿止めろ!! 死ぬぞ!?」

アゲハント「うるせえ!! 黙っていられるか!!」

ラッタ「でも!!」

アゲハント「何も出来ずに生きてるよりか、死んだほうが、マシだあっ!!」


引き留めるラッタに対してそう捨てぜりふを吐き、アゲハントは多くのケムッソ等を引き連れて、工事現場の人間達へと近づいた。
 ▼ 30 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:08:08 ID:pkKUhS2s [30/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
アゲハント「行くぞ、あいつらをぶっ殺せ!!」ダッ


そう言って、わらわらと茂みから飛び出す、アゲハント率いる大群。ケムッソ達はその場でどくばりを乱射し、体当たりをかまして労働者達を攻め立てた。


労働者1『ひいっ!!』

労働者4『不味いよ、誰か!!』


そして、アゲハント自身の最初のターゲットは、大きなオレンジ色の機械……ロードローラーに乗り込んだ男。横から飛び込んで喉仏を貫く算段だ。
阿鼻叫喚の地獄絵図を突っ切って彼は飛ぶ。
人間まで、あと3m、2m、1m……段々と距離が狭まり、これならあの男を殺しうると、アゲハントが確信したその時だった。
 ▼ 31 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:08:36 ID:pkKUhS2s [31/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
   ザシュッ

アゲハント「がはっ!!」ヨロッ


刹那、彼の身体を爪が一直線に貫いたのだ。彼はあっという間に失速し、姿勢を崩して地に落ちた。
彼の隣にノシノシと歩いてきたのは、あのクリムガンだ。


クリムガン「……惜しかったな。ポケモンは、獲物を刈るときに、最も無防備になるんだよ」

アゲハント「がっ……かはっ……」

クリムガン「……闇に抱かれて、眠れ」

クリムガン の ばかぢから!!

アゲハント「……っ!!」

   グシャッ
 ▼ 32 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:08:58 ID:pkKUhS2s [32/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
彼は捻り潰された、殺された。周囲に体液と脚が飛び散り、大地を濡らす。
周囲のケムッソ達も、ライフルで次々と撃たれていった。為す術も無く死んでゆく者達。


ラッタ「畜生!! ……ドンカラス、ケムッソ達の回収を頼む!!」

ドンカラス「分かった!!」


ラッタはドンカラスを回収に向かわせ、その場を抜け出した。
ドンカラスは弾丸の雨をすり抜けてケムッソを素早く拾い集めた。


ドンカラス「……人間め、……くそっ……」


思わず口をついて出た、彼の恨みに捌け口は無い。
 ▼ 33 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:11:15 ID:pkKUhS2s [33/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


暫くして、ドンカラスが戦場から舞い戻った。背に乗せていた重病のポケモン達を一旦下ろし、ラッタと向かい合った。
ラッタは、この森の飛びうるポケモンを引き連れていた。


ラッタ「ドンカラス、お前に頼みがある。……今、この森の飛べるポケモンをかき集めた。怪我してるポケモン達を乗せられるだけ乗せて、ここから南東にあるヨスガシティへと向かってくれ。お前なら場所分かるだろ」

ドンカラス「そうか……つまり……撤退、か」

ラッタ「ああ。俺達ポケモンは、人間にはもう勝てない」


ラッタの背後に並ぶ、浮いているポケモンやひこうタイプのポケモン達。ドンカラスはざっと彼らを見回し、そして己の背後で息を切らすポケモン達を見回した。
深く息を吸い、吐き出す。
 ▼ 34 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:11:36 ID:pkKUhS2s [34/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ドンカラス「そうだな……俺達の負けだ。完敗だ。……で、どうしてヨスガシティなんだ? もっと近くの場所が有るだろう?」

ラッタ「ドンカラス。……俺達ポケモンは、人間には勝てない。だが……人間対人間なら、話は別だ。俺達は負けたが、……まだ破れ去ってはいないんだ」

ドンカラス「……そうか!!」


眼を驚いたようにカッと見開くドンカラス。横ではもう既にいくらかの怪我したポケモンが、ひこうタイプのポケモンに背負われていた。
 ▼ 35 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:12:03 ID:pkKUhS2s [35/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ラッタ「この板をお前に託す。さっき書いてきた、人間の文字だ。内容は、『ハクタイの森が開発されて俺達は傷ついている。助けてくれ』だ。これを持って、ヨスガのポケモン大好きクラブへ向かってくれ。そうすれば、きっと……」

ドンカラス「分かった。必ず届けよう。だが……お前達は?」

ラッタ「何、俺達は踏ん張るさ。もう、誰一人も犠牲になんてするもんか。ここのポケモンは俺達が守る」

ドンカラス「おう、分かった……死ぬなよ? お前の知識は、まだまだ必要だからな」

ラッタ「分かっているさ……じゃあ」

ドンカラス「おう、行くぞ!!」バサバサッ


闇夜に烏が飛び立った。空に舞い上がった大群はすぐに漆黒の塊となり、真っ黒な空にすうっと溶けていった。
 ▼ 36 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:12:24 ID:pkKUhS2s [36/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ラッタ「ロゼリア……俺はもうひとっ走りして、この辺りの住民に避難を呼び掛ける。バリケードの貼り方……前に教えたよな?」

ロゼリア「ええ、あのバリケードでしょう? 任せて下さい」

ラッタ「そいつは頼もしいな……じゃあ、俺は行く」タッ


その言葉を残し、彼は一気に駆け出した。
ロゼリアはそれを見送って、仲間と共に"鉄筋コンクリート"とかいう物を参考とした、丈夫なバリケードを作り始めた。
 ▼ 37 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:12:48 ID:pkKUhS2s [37/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ホタルは、闇夜を飛んでいくポケモン達を見つめていた。
その目にはもう力は全く無く、それこそ死んだ魚の様だとでも例えられていただろう。
モクセイは、そんな彼に向かってこう言った。


モクセイ『……お前の正義は、間違ってない』

ホタル『……?』

モクセイ『お前が言っている事は正しいさ。でも、この世界は正しい奴を受け入れようとはしない。正しい奴は、やっていけないんだ』

ホタル『……それは正しく無い奴の言い訳だ』

モクセイ『……いや、そんな事は無いさ……正しい奴は、あっという間に壊れちまう』
 ▼ 38 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:13:23 ID:pkKUhS2s [38/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
続くモクセイの話に、ホタルは耳を塞いだ。どうせ自分が何を言っても意味は無い……彼はそう考えた。
モクセイはそんなホタルを見てもなお、話続けた。


モクセイ『俺はな、元々別の新入りを教育してたんだ。手持ちがアーケンの、可愛らしい男の子だったさ。だが……そいつも、正しく在ろうとしている奴だった』

ホタル『……』

モクセイ『彼は、この世界の真実を知った。己が何かを知った。そして、壊れた。……ある日の朝、彼は消えていたよ。……そして、お前もそうなっちまうんじゃねえかって、お前も壊れるんじゃねえかって、俺は思ってる』

ホタル『……』

モクセイ『お前は正しいよ。正しいさ……でも、変わって、欲しいんだ……』


彼の呟きは誰にも聞かれず、静かに空へと消えていった。
 ▼ 39 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:16:03 ID:pkKUhS2s [39/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


その日の深夜、ドンカラス率いるポケモン軍団はヨスガシティに無事到着した。
大好きクラブで呑み交わしていた偽善者共が、ドンカラスの持っていた木の板に書き込まれた歪な字を解読する。


呑兵衛1『ん……? ハクタイの森……?』

呑兵衛2『ああ、あのハクタイの森ぃ?』

呑兵衛3『へえ、開発かぁぁ……』

ドンカラス「……」


彼らはこの呑兵衛達にクラブ内へと連れ込まれ、一応の安全を手に入れた。そして同時に、シンオウの大好きクラブ団員が、ハクタイの森へと派遣されることになった。
これにて、ドンカラスの、彼の戦争は終わりを告げた。


ドンカラス「頑張れよ、ラッタ……」


闇夜に傾く歪んだ月は、彼に漠然とした不安を残すのみだった。
 ▼ 40 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:16:30 ID:pkKUhS2s [40/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


ロゼリア「皆さん、こちらですよ!!」

ラッタ「こっち側に行けばまだ安全だからな!!」


その日の早朝。ラッタとロゼリアは、森のポケモン達を率いて大移動していた。
人間の開発するエリアにポケモンがいると、相手の気分によって殺されかねない。ならば、全員纏めて一くくりにしようというのが、彼らの考えだった。


ラッタ「よし、全員来たな……」

ロゼリア「そうですね。 ……バリケード作りますか」

ラッタ「そうだな」


全員をまだ安全そうな場所へと避難させ、その場を駆け出そうとする二匹。その背中を呼び止めるポケモンが存在した。
 ▼ 41 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:16:52 ID:pkKUhS2s [41/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ライチュウ「待って!!」

ラッタ「どうしたライカ……ここに入れば安全だから」

ライチュウ「ねえ、貴方はどうなっちゃうの? まさか死ぬ気じゃ無いよね!?」ガシッ

ピチュー「……おとーさん……」


ラッタを掴んで、前後にブンブンと揺らすライチュウ。目には涙が浮かんでいた。大切な夫を喪うかもしれないという不安は、今日この日まで彼女を苛んでいたのだった。
ラッタは彼女の手を掴む。
 ▼ 42 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:17:16 ID:pkKUhS2s [42/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ラッタ「……俺は死ぬ気は毛頭無い。お前らと笑って帰る為、俺は戦うんだ。 そうだ、今度三匹で何処かに行こうか!! 何処が良い?」

ピチュー「えーと……分かんないや」

ライチュウ「そうね……また、後で決めましょう」

ラッタ「ははっ、そうか……じゃあ、また後でな」タッ


そう言って手をゆっくり放したラッタは、方向を転換し、反対側に駆け出した。
 ▼ 43 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:17:40 ID:pkKUhS2s [43/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


労働者1『ちっ、予定より整地が遅れてるよ……』

労働者2『設備の修理も早くしなきゃなぁ……』


人間の、労働者の仕事は、かなり遅れていた。数日前の野性ポケモン達の襲撃が、未だに糸を引いていたのだ。
均した地面はポケモン達にボコボコにされ、高級な装置は修理が必要となった。まだまだ完全な復旧には時間が必要だと思われた。
そこに、さらに爆弾が投下される。
 ▼ 44 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:18:05 ID:pkKUhS2s [44/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
   タッタッタッ  ザッ

団員1『森の開発を、止めろ〜!!』

団員2『ポケモンを、守れ〜!!』


ポケモン大好きクラブの、工事反対デモである。


労働者1『……は?』

労働者2『おいおい、こっちは仕事なんだ。邪魔するなよ』

団員3『だったらそんな仕事辞めちまえ!!』

労働者1『んだと? それは俺らに死ねって言ってんのか? あ?』


直ぐ様彼らは罵り合いだした。正反対の思想を持つ者達が衝突し、火花を散らす。
怒号が飛び交い、視線が入り交じる。木々が切り倒され、平らに均された大地で、静かで喧しい戦いがスタートした。
そして、それをどこか冷めた目で見るポケモンがいた。
 ▼ 45 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:19:15 ID:pkKUhS2s [45/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ラッタ「現在状況は睨み合いに罵り合い……か」

ロゼリア「上手いこと殺し合いでもしてほしかったですが……」

ラッタ「まあ、そうは、行かないようだな……」


バリケードの覗き穴から、労働者と大好きクラブを見つめる二匹。視線の先では、未だに睨み合いが続いている。


ラッタ「……このままだと、すぐ作業は進むだろうな」

ロゼリア「……ですね……」

ラッタ「何とか、煽動する方法は……」


ラッタは考えを巡らせた。人間を食い止めて、撤退させる方法は何か。ここに暮らすポケモンを守る方法は何か。
彼は頭を必死に回した。正面では、未だに膠着状態が続いていた。


ラッタ「……一つ思い当たった」

ロゼリア「……何です?」

ラッタ「……今夜は遅くなるって、妻と娘に言っといてくれ」


ラッタはそう言い、その場を後にした。
 ▼ 46 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:19:47 ID:pkKUhS2s [46/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


労働者3『おい、何とかしてくれよ!!』

モクセイ『んな事言われてもなぁ……』ポリポリ


その頃、モクセイは頭を抱えていた。大好きクラブの乱入が原因だ。……昨日あのポケモン達を撃ち落としておけばと後悔が残る。


ホタル『……どうします?』

モクセイ『どうしろってな……まさか人に銃ぶっぱなす訳にはいかねえし』


そんな会話をしている二人の横に、一人の女子が現れた。フラエッテを傍らに置き、此方を睨む、今にも攻撃してきそうな女子だ。


モクセイ『……あんた、大好きクラブかい?』

ユウリ『ええ、そうよ? ユウリって言うの』

モクセイ『へぇ』

ユウリ『……貴方、人間は撃てないって言っていたわね。どうして、ポケモンは撃てるの?』ギロッ

モクセイ『……』
 ▼ 47 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:20:12 ID:pkKUhS2s [47/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
彼女の問いに答えられないモクセイ。ホタルは、視線に対して本能的に縮こまっている。
彼女、ユウリは尚も問い続けた。


ユウリ『ねぇどうして? 可哀想だとは思わないの? 畜生に与える情は無いって?』

モクセイ『あんたがどう解釈しようと構わんが、取りあえずここから出てくれよ』

クリムガン「グオッ」

ユウリ『あら、追い出したいなら、殺せば良いじゃない?』

フラエッテ「ふら?」


二人は長い間睨み合い続け、ホタルはずっと震えていた。
 ▼ 48 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:20:34 ID:pkKUhS2s [48/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


その日の夜。ハクタイの森の外れにある古い洋館にて。
ラッタは、腐りかけた床板を軋ませながら、この寂れた森の洋館の奥へと進んでいた。前方でもぞもぞとガスが蠢いている。恐らくゴースだろう。


ゴース1「あいつ何者だよ……」ボソボソ

ゴース2「知るかよ、どうする? 迎え撃つ?」ヒソヒソ

ゴース3「無理無理、あれは無理だ。ゲンガーさんに言う?」コソコソ

ラッタ「あー……ちょっと良いか?」


突然の来客に戸惑うゴース達。ラッタは取りあえず声をかけた。
 ▼ 49 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:32:15 ID:pkKUhS2s [49/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ゴース3「んなこと言われましても……」

ゴース1「不審者ですし……」

ゴース2「ねぇ……」

ラッタ「……俺は森の方で議員やってる、ラッタってもんだ。今回はお宅のゲンガーの力を貸していただきたく思ってな」

ゴース2「ええ……」


渋るゴース達を見つめるラッタ。もしかしたら次の瞬間には襲い掛かってくるかもしれない。そうすれば、無事では済まないだろう……これは賭けだった。分の悪い賭け。


ゴース1「あー、ゲンガーさん呼んでくるわ」

ゴース3「あ、俺もいく!! 頼むぞ2」

ゴース2「ええ……」


二匹のゴースが、更に奥の方へ飛んでいった。ラッタの前で静止する一匹。
 ▼ 50 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:32:44 ID:pkKUhS2s [50/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ラッタ「……楽にしなよ」

ゴース2「んな無茶な」

ラッタ「はぁ……なあ、ここがもし、人間に取り壊されるとしたら、お前らはどうする?」

ゴース2「え、人間がここ壊しに来たんですか?」

ラッタ「いやいや、例え話さ……だが、俺らのすんでいた森のエリアは、人間に開発されかけている」

ゴース2「……」


黙り込むゴース。それを見て、ラッタは一つ息を吐いた。


ラッタ「……そうだよな。いきなりこんな事聞いても困るよな……」

ゴース2「……」コクコク

ラッタ「……悪いね、変な事聞いて。で、ここのリーダーはいつ出てくるんだ?」

ゲンガー「……後ろにいるよ」ノソッ

ラッタ「!!」バッ


突如後ろから感じた気配に飛び退くラッタ。その気配の主が、ここ森の洋館のリーダー、ゲンガーだった。
 ▼ 51 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:33:15 ID:pkKUhS2s [51/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ゲンガー「……話は把握しているよ。人間が来てるんだろ?」

ラッタ「ああ……手伝ってもらいたいんだ」

ゲンガー「……何するんだ?」

ラッタ「……ちょっと、ちょちょーっと人間を煽動して殴り合わせるだけの仕事だ」

ゲンガー「ふぅん……ええ……でもな……」

ラッタ「……頼むっ!!」ドゲザッ


渋り続けるゲンガーの前でラッタは伏せた。一種の土下座だ。
慌てて戻すゲンガー。


ゲンガー「はぁ……分かったよ。協力しよう。ちょっと待ってくれ。 ……おーいお前ら、支度しろ!!」

ラッタ「……ありがとうっ!!ありがとうございます!!」

ゲンガー「ははは……」
 ▼ 52 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:34:19 ID:pkKUhS2s [52/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
薄笑いを浮かべるゲンガー。部下達の支度が終わるまで、あまり時間は要さない。
彼は、今のうちに質問しておこうと、ラッタに声をかけた。


ゲンガー「……お前は、逃げないのか?」

ラッタ「?」

ゲンガー「お前だけ、いち早く逃げていれば、それで問題無いだろう? わざわざこんなところまで来なくても、さ」

ラッタ「……いやいや……もう、失いたく無いんだよ。もう、何も……」

ゲンガー「……?」

ラッタ「……俺は嘗て、人間に全てを奪われた。居心地の良かった家、住み良かった故郷、……信じ合える友。全て……奪われた」

ゲンガー「……」

ラッタ「だからさ、もう、新しく得たこの故郷は、愛する者は、絶対に守るんだ。……俺は弱いけど、守るから。その為には、誰にだって頭を下げる。この命だって惜しくはない……そう思ってる」

ゲンガー「……そう思えるだけで、お前は強いさ」


深緑の中にある、暗く静かな森の洋館。彼らの近くにゲンガーの部下達が集合した。
……出撃の時だ。
 ▼ 53 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:34:53 ID:pkKUhS2s [53/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


闇夜に紛れて、紫の群れが行進してゆく。
目指す先には労働者の眠るプレハブ小屋と、大好きクラブの寝袋が並んでいた。
今は冷戦も一時的な休戦中なのか、誰一人とて口も開かず、沈黙が横たわっていた。


ラッタ「あいつらだ。何とかして争いに発展させたいんだが……」

ゲンガー「分かった、やるぞお前ら」

ゲンガー の さいみんじゅつ!!


ゲンガーが催眠術を使用する。一人の大好きクラブ団員がふらふらと起き上がり、工事現場にあったバールを片手に、プレハブ小屋へと歩きだした。
周りのゴーストやゴースも、眠りこける団員を操りだす。
 ▼ 54 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:35:15 ID:pkKUhS2s [54/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
   バリバリィンッ

労働者1『何だあっ!?』

団員1『……』


飛び起きる労働者達に各々の得物を振り回す団員達。
一瞬の戸惑いの後、労働者達も応戦しだした。


労働者1『おらっ!! 倒れろや!!』ガンッ

団員1『……っ、んだと!?』ゴンッ

労働者2『死ね!! このヒッピーめが!!』ドンッ

団員2『はぁ!? お前こそ死ねよ!!』ギンッ

団員3『そうだそうだ!!』

労働者3『黙れ偽善者共!! こっちの苦労も知らないで!!』
 ▼ 55 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:35:39 ID:pkKUhS2s [55/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
……こうなってしまえば、もうゲンガー達が催眠術を使用する必要は無い。たった一つの小さな切っ掛けさえ有れば、人間は勝手に争いだすのだ。
それは人間の特筆すべき特長であり、穏和なポケモン達には全くもって理解の届かない事であった。


ユウリ『全てのポケモンに謝りながら死になさいこの人でなし!!』

モクセイ『うるせぇ、本当はポケモンを憐れむ自分が可愛いだけだろこのアマ!!』

ユウリ『何ですって!?』


怒鳴り合う人々を前にして、唯一正気を保っていたホタルは、震えながらライフルを抱いていた。
こんなことなら、正義なんて夢見なければ良かったと後悔する。
 ▼ 56 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:36:01 ID:pkKUhS2s [56/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ホタル『何で……何で皆……』


虚ろな目で周囲を見渡した彼は、茂みに隠れるゲンガーとラッタを発見した。
きっと奴等が犯人だ。このままではきっと皆殺されてしまう。そう彼は確信し、抱いていたライフルに弾丸を装填した。


   カチャッ

ホタル『もう、訳が分からないよ……。もう、何も分からない……』


そう呟きながら、照準をラッタに合わせる。
ホタルは、彼が悪だなんて全く思ってはいない。ただ単に、人間に危害を加えたから、自分が危ないから、撃つだけだ。
そこには正義なんて無い。あるのは、人間のエゴのみ。


   パアンッ


闇夜を切り裂く、破裂音が響いた。
 ▼ 57 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:36:26 ID:pkKUhS2s [57/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ラッタ「っぐっ!?」

ゲンガー「ラッタ!?」

ラッタ「っかはっ……ちっ、やられた……」

ゲンガー「ラッタ、死ぬな!! お前ら、撤退するぞ!!」


銃声はゲンガー達を退散させ、殴り合う人間達を黙らせた。
ボロボロになった工事現場を前に佇む労働者達、体に負った傷の痛みに今になって気づく団員達。
そしてモクセイは、ふらふらとホタルの隣へ倒れ込んだ。
上る朝日が、彼らの頬を照らした。
 ▼ 58 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:36:50 ID:pkKUhS2s [58/65] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
スーツ1『……どうしましょうか』

スーツ2『設備が故障、仕事の遅れ、それに加えて大好きクラブの連中と殴り合い……』

スーツ3『もう、これは……』

スーツ1『……』


その日の朝。灰色の、コンクリートの森の中では、スーツの男達が話し合っていた。
内容は、ハクタイの森から手を引く事について。


スーツ1『……もう、この事業は止めにしましょう』

スーツ3『そうだな。わが社は、これを機にこことの提携を断ち切らせて貰おう』

スーツ4『そうだな』

スーツ1『……』


森から遠く離れた、コンクリートの森の中に、それまでの生き方を断ち切り、自然を敵に回した、人間達は生きている。
 ▼ 59 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:37:16 ID:pkKUhS2s [59/65] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


木漏れ日が降り注ぐハクタイの森の中。
先程まで人間に怯えていたポケモン達は、今はもう解放されていた。
だが、その喜びは続かなかった。人間と争い勝利した、ラッタは倒れていたからだ。


ライチュウ「貴方!! 貴方!!」ユサユサ

ピチュー「おとーさん!?」

ラッタ「」

ロゼリア「……」

ゲンガー「っ……」

ライチュウ「貴方が……貴方が皆を守っても!! 貴方が死んだら……意味が無いじゃない!! 私には、貴方しか居ないのに!!」ユサユサ

ラッタ「」


号哭が森にこだまする。周りのポケモンは彼らを前にすると黙って俯いて、何も言うことは出来なかった。
 ▼ 60 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:37:45 ID:pkKUhS2s [60/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



ラッタ「……ここは?」


ラッタはいつの間にか、青々とした、柔らかい草の上に立っていた。
前方には綺麗な清流がそよそよと流れ、空は蒼く澄み渡っていた。


ラッタ「……天国、か……」


彼は清流の向こうに、どこか懐かしい顔を見たような気がした。
一歩、川の流れへ踏み出す。それを止める者がいた。
 ▼ 61 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:38:10 ID:pkKUhS2s [61/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
   ガシッ

ラッタ「?」

アゲハント「よお」

ラッタ「……アゲハント、お前……」


それは先日殺された、アゲハントだった。
体は少しだけ透けていて、もうこの世のものでは無いことはすぐに理解できた。
目を見開くラッタを前に、アゲハントはさらに話し出す。


アゲハント「この前は済まなかったな、勝手に死んじまって……見てたぞ、お前の、故郷を救う様」

ラッタ「……」

アゲハント「……ありがとう、皆を守ってくれて。……お前は強いよ」

ラッタ「いや……俺は、弱いさ。弱かったから、お前は……」
 ▼ 62 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:38:32 ID:pkKUhS2s [62/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
そらには綿雲が流れ、どこか心地よい音楽が流れている。
弱くて強い戦士二匹は、草の上で風に吹かれていた。


アゲハント「仮にお前が弱いとしても、俺の中では、お前は強いさ。」

ラッタ「……」

アゲハント「……お前は、まだ帰る場所が有るだろう?」


彼は後ろを向き、清流の反対側を示した。
そこはラッタには、白い光が溢れる、暖かい場所に思えた。
 ▼ 63 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:38:56 ID:pkKUhS2s [63/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
アゲハント「さあ、行け!! お前を大切に思う連中が、勝者の帰還を待っている」

ラッタ「……ああ。分かった。じゃあ……行くよ」

アゲハント「そうか、良かった」

ラッタ「……向こうで、俺を知ってるって奴に出会ったら、俺はなんとか生き抜いているって、伝えてくれ」

アゲハント「おう」

ラッタ「……じゃあ」


ラッタは、白い光に飲まれていった。
アゲハントは彼が消えるのを見届けてから、清流の向こうへと、伝言を抱えて飛んでいった。


 ▼ 64 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:39:23 ID:pkKUhS2s [64/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ラッタ「……っ……?」

ライチュウ「!!」

ピチュー「おとーさん!?」

ゲンガー「……生きていたのか!!」

ラッタ「……皆……無事か?」

ロゼリア「ええ。貴方のお陰よ……」

ラッタ「……良かった……本当に良かった」


彼は帰還した。多くの仲間が彼を出迎え、共に勝利を喜んだ。
そして、ラッタは周囲を見回した。
人間によって荒らされた大地からは、新しい緑が芽吹いているようだった。


【SS】深緑の戦争  完
 ▼ 65 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:40:41 ID:pkKUhS2s [65/65] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ささっと終了
まえ書き込んであったリクエストから書きました

関連作
http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=339570o&l=1-1000#resall0
 ▼ 66 ノクラゲ@ふしぎのプレート 16/08/27 20:08:54 ID:9JH/gA7. NGネーム登録 NGID登録 報告
 ▼ 67 ンリキー@こだいのぎんか 16/08/27 20:50:46 ID:QU9vizcA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 68 CSn9vcIqE6 16/09/07 08:20:52 ID:ZJI0x8DQ NGネーム登録 NGID登録 報告
乙ー!
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