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【SS】ポケモン不思議のダンジョン 花の盗賊団

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 17/03/27 23:18:48 ID:qk0Nxw9k [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







プロローグ






 ▼ 2 1◆J44kAZeDOM 17/03/27 23:19:31 ID:qk0Nxw9k [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
誰かを、殺した事、ある? あたしはあるよ。

絶対に忘れられない。あの出来事は。

――頬にかかる血の味。

――絞り出すようなうめき声。

彼女の目には、どこまでも、怯えが広がっていた。

あたしが、これをやった。そう思った瞬間、あたしの中で、何かのタガが外れたの。


――あたしは、絶対に忘れない。あの日、あの時、あの場所を。
 ▼ 3 ゲチック@ドラゴンメモリ 17/03/28 06:32:43 ID:cWAt11WY [1/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
このSSは
【SS】アシレーヌ「ポケモンサーカス団エクリプス!」(http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=563304
と相互補完しながら進行していきます
単体でも読めなくはないと思いますが、合わせて読む事を推奨します

基本的に、盗賊2章→サーカス1章の順に読む事を想定しています
 ▼ 4 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:38:38 ID:cWAt11WY [2/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







1章 イワンコの登場






 ▼ 5 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:39:35 ID:cWAt11WY [3/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


燦々と、陽射しが降り注ぐのを体中に感じた。

うららかに、暖かく。

痛みはない。ただ、ぼんやりとした思考がそこにあるだけ。

目を見開く。辺りは青々と植物の生い茂る、草原だ。

一陣の風が吹き抜け、僕の目を覚ます。

ふああ、とひとつあくびをして、僕は2本の足で立ち上がった。

――立ち上がろうとした。


「うおあっ!」


バランスを崩し、僕はつんのめった。

両の手で大地を踏みしめ、事なきを得る。

危なかった。こんな所でこけるなんて、シャレにならない。
 ▼ 6 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:40:10 ID:cWAt11WY [4/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこまで考えてようやく、僕は違和感に気が付いた。

――何かがおかしい。

四つん這いのこの姿勢が、妙に体に馴染む。

首回りに、どことなくもふもふと当たる物がある。

そして、だ。

草原の向こう、湖を眺めながら考える。

僕は、あんな遠くの物を、裸眼で見る事なんてできない。

だが、この時は、まだ気付けなかった。

のどの渇きが酷くなって来て、僕はその湖へ向けて歩き始めた。

四つん這いのまま、歩いた。
 ▼ 7 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:40:47 ID:cWAt11WY [5/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
歩くにつれて、少しずつ、水の匂いが混ざり込む。

どうしてそれが水だと判別できたのかはわからない。ただ、わかった。それは、水の匂いなのだと。

それを自覚した瞬間、世界に、匂いが溢れた。

植物の青臭さ。他にいるであろう生命の体臭。

唐突に押し寄せた情報の波に、僕は思わず立ち竦む。

けれど、のどの渇きは耐えがたく、鼻を伝って脳に届けられる水の匂いは僕の体に訴える。

早く、水をくれ。

その本能に従い、慣れないはずの四足歩行も苦にせず、僕は駆け出した。
 ▼ 8 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:41:23 ID:cWAt11WY [6/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目の前に広がる湖。

僕はよたよたとそこへ歩きより、水面に顔を映す。

そこに映るのは、イワンコのあどけない表情。

だが、僕はそれに構わずごくりごくりとのどをならした。

顔に付いた水滴を、体を振って吹き飛ばし、そして、改めて覗き込む。

そこまでやって、僕はようやく気が付いた。

イワンコの、あどけない表情。

僕が、人間が映っていなければならない場所に、イワンコ。

声にならない叫びをあげて、そこから僕はまた、口をパクパクと動かした。

僕は、イワンコになっていた。
 ▼ 9 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:41:59 ID:cWAt11WY [7/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
信じられない。そんな風に言葉にできたら、どれほどマシだっただろう。

そう口に出せたなら、途端にこれは現実になった。言葉の持つ嘘臭さが、僕を引き戻してくれただろう。

動揺は、それすらも許さない。

言葉にならない声をあげながら、僕は水面に顔を突っ込んだ。

しばらく目を開けてそうしていると、普通に息が苦しくなって来る。

はあっ、と息を吐き出しながら顔をあげる。苦しみ。これは、夢ではないらしい。

波紋を湛えた水面に、僕は再び顔を映す。

そこには、何事もなかったように人間の顔が映っている。

映っているのだ。

そうでなければおかしい。


――おかしな事に、紛れもなく、そこにいたのはイワンコだった。
 ▼ 10 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:42:31 ID:cWAt11WY [8/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
覚悟を決めて、僕は、考えた。

どうやら僕は、確かにイワンコになってしまったらしい。

それを前提として、これからどうすべきか。

やっぱり、人間に戻る手段を考えるべきか。

それよりも、どうしてこうなったのか、理由を捜すべきか。

それより何より、だ。最大の心配事がある。

当座の生活をどうしよう。食料はどうなる? 拠点は?

服……はイワンコに、ポケモンの姿になった以上考慮しなくていいにしても、食住の問題はこれから先生きていくために重要だ。

そこを確立しないと、生活もままならない。


イワンコ「とりあえず……歩くか」


きっと、木の実のなる木があるはずだ。

食。まずはそれを求めよう。礼節を知るのに必要なのは衣食だ。住の必要性は一段階落ちる。
 ▼ 11 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:43:14 ID:cWAt11WY [9/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
と、リンゴが落ちているのを見付けた。

落ちている物を食べる、なんてぞっとしないが、洗えば大丈夫だろうと思いまずは湖に戻る。

リンゴを湖に浸し、それを引っ張り上げる。

僕は躊躇いつつもそれにむしゃぶりついた。

しゃくり、と音を立てて噛みきると、果汁が口の中いっぱいに広がり、甘さが控えめに主張する。

旨い。僕はいきおいリンゴを腹に納めた。

リンゴ1個で腹8分目だ。満足した僕は、不意に、眠気を感じた。

今抗ってもどうにもならない。冷静な思考は、疲れのとれた、健康な体に宿る。

僕はそのまま眠りに落ちていく――
 ▼ 12 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 18:43:53 ID:cWAt11WY [10/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「待てっ! 盗んだものを返せっ!」


僕は思いっきり叫ぶ。

目の前に、逃げていくミミッキュ。

横には信頼すべき相棒の、ニューラ。

――負ける気がしない。

あのギルドの厳しい修行に、僕たちは耐えて来た。

そんじょそこらの盗賊なんかに逃げられてたまるもんか。
 ▼ 13 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 18:44:32 ID:cWAt11WY [11/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな情熱を胸に秘め、僕たちは追跡を続けた。

ニューラが持ち前の素早さを活かして詰め寄り、ミミッキュを捉えた。


ニューラ「チラーミィ、今よっ!」


僕は自らの尾を鋼鉄に変え、それをミミッキュめがけて振り下ろした。

さくり、と間の抜けた音が響く。


――さくり? ぐさり、ではなく?


違和感に僕はそちらを見やる。

ミミッキュは……その本体は、どこにもいなかった。


ニューラ「なっ、いつの間に……」

チラーミィ「逃げられたっ! 仕方ない、探すよっ!」


布切れを放置して、僕たちは駆け出した。
 ▼ 14 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 18:45:22 ID:cWAt11WY [12/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
この追跡劇は、草原のど真ん中での出来事。

隠れる場所は、そう多くない。

僕たちは必死の追跡を続けた。

と、あるものを見付けた。

――ここに逃げ込まれてたら、勝ち目は薄いな。

草原の中に、突如現れる不思議のダンジョンの入口。

草原、という領域の一部を切り取って形成されたその空間は、逃げるのにはうってつけの空間と言えた。


ニューラ「ここ……の可能性は高いよね」

チラーミィ「行く……か! でも、その前に、水だけ飲ませて」


さっきまで走っていたお陰か、体が欲している。水の匂いは、微かながら、それでも確かに僕の鼻に届いていた。


ニューラ「まあ、近いみたいだし、そのぐらいはいいよ」
 ▼ 15 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 18:46:25 ID:cWAt11WY [13/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オアシスめがけて僕たちは歩みを進める。

飲めるとわかった途端、のどの渇きが尋常ではない程に強まって、その歩は少しずつ、気付かぬ間に早くなっていく。

目の前に湖の眺望が広がって、僕はそこへ駆け寄りのどを潤した。

ニューラもおいしそうにのどを鳴らしている。

ひとつ顔を洗ってさっぱりすると、僕たちは立ち上がった。

ふと、そこに気配を感じ、僕はそちらをチラッと覗いた。

もしやと思ったが、さすがにそこまで上手く事は運ばない。


チラーミィ「ああ、ミミッキュじゃないのか」


そこにいたのはイワンコだ。

気だるげに瞼をこすりながら、こちらに目をやり、少し驚いたような表情を見せる。

その表情からは、ダンジョンにいる自我を失ったポケモン特有の凶暴さは微塵も感じられなかった。


イワンコ「え? ああ、まあですね。僕は、イワンコです」
 ▼ 16 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 18:47:05 ID:cWAt11WY [14/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラーミィ「ミミッキュ見ませんでした?」


だから、僕は安心して問い掛けた。

イワンコは少し考え込むような素振りを見せ、それから言った。


イワンコ「あっちに行きましたよ」


ビンゴ。小さく、憂鬱に呟いて、それから僕は笑った。


チラーミィ「ありがとうございます。あいつ、盗賊なんで、捕まえて反省させないといけないんです。

       あっ、僕はチラーミィ、でこっちは」

ニューラ「ニューラです。2匹で探検隊リアライズを組んでます。それじゃあ、行きますね」


そう言って、僕らは走り出した。

イワンコの指し示した、件の不思議のダンジョンへと向かって。
 ▼ 17 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:11:15 ID:cWAt11WY [15/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


イワンコ「これでいいの? 盗賊さん」

ミミッキュ「本当、ありがとうね」


皮肉交じりに言うと、ミミッキュはそう言って下半身に映る目をぱちくりと動かした。

目を覚まして早々に匿って、と言われ、思わず匿ってしまったが、こいつは犯罪者だったのか。

そんな自分の決断を、小さく呪う。


ミミッキュ「……とりあえず、あなたの話を聞かせて。ポケモンが喋った、なんてセリフ、普通は出ないよ」


覚悟はしていた。けれど、驚くべき事に対しては、どれだけ覚悟を決めてもやっぱり驚いてしまう。

現実に、ポケモンが喋った。僕にとって、最初にそれを気付かせたのは、このミミッキュ。――盗賊だ。

素直に言うべきか。一瞬の逡巡の後、けれど隠しても無駄だとも思う。

庇ったのだ。味方になってもらうには、最高のシチュエーション。

例えそれが、世間的には悪であろうと、今の僕にとって「恩を売れた相手」である彼女は、タイプにそぐわぬ妖精のように見えた。


イワンコ「……僕は、元人間だ」
 ▼ 18 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:11:54 ID:cWAt11WY [16/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
話そうと事情を説明しながら気が付いた。

僕には、記憶がない。

覚えているのは、元は人間であったという事実。それだけだ。


ミミッキュ「記憶がない……あなたも……」


愕然としたような声色で、彼女は呟いた。

ミミッキュは、しばし思案を巡らせた後で、僕に向かってニコリと微笑み、(顔として描かれた表情が、柔らかく移ろうのだ。少し驚いてしまう)言った。


ミミッキュ「とりあえず、あたしと来ない? 生活に困る事はないだろうし、何か探すにも拠点が必要でしょ」
 ▼ 19 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:12:35 ID:cWAt11WY [17/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「え、いいの?」

ミミッキュ「別に、あんたのためとかじゃなく、恩返しよあたしなりの!」

イワンコ「それでいいよ」


拠点。この言葉だけで、僕には充分魅力的だった。

誰のため、なんて事よりもまず重要なのは、そこだ。食料、そして住居。

例えどこかから奪った物だとしても、右も左もわからない僕にとってはやむを得ない。

それに、だ。

彼女の声色に、どこか捨て置けない物を感じた。

恋愛、とは恐らく違う、何かしらの感情。

月並みな言い方をすると、運命、というものを感じたのだ。


イワンコ「それじゃ、行こう。で、どっちに行けばいいの?」
 ▼ 20 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:13:58 ID:cWAt11WY [18/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕たちは、ガルーラの像が置いてある箇所まで歩いて来た。


イワンコ「ガルーラ像……何これ」

ミミッキュ「ガルーラ像。倉庫を使えるのよ。誰でもね」


そう言って、彼女は像を検めた。


ミミッキュ「リンゴ、オレン、大丈夫だろうけどイワンコの分の……そうだイワンコ、技出せるの?」

イワンコ「技、か」


小さく呟く。ポケモンになってしまった以上、避けては通れない話題だった。

イワンコが覚えそうな技を脳内でリストアップする。


ミミッキュ「見た所、あなた、レベルは5ぐらいでしょ」

イワンコ「そうなんだ」


言われて初めてそれを知る。

あまりレベルが高いとは思えない。
 ▼ 21 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:14:44 ID:cWAt11WY [19/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「まずはたいあたり試してみなよ

      大概、あたし1回なら無傷で受けられるし、そもそもノーマル技なら無効だから試し打ちしてもいいよ」


お言葉に甘える事にする。

大地を踏みしめ、ミミッキュを見据える。

ふう、と軽く息を吐き出し、前足で強く蹴った。

そのままミミッキュに向けて飛びかかる。

僕の体は布に絡まれ、身動きが取れなくなる。

ミミッキュは布を僕から引き剥がし、その顔を笑顔に変える。


ミミッキュ「できたじゃん、たいあたり。その調子で試してみてよ」
 ▼ 22 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:15:41 ID:cWAt11WY [20/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
結局、試し打ちで判明した僕の技は、「すなかけ」、「にらみつける」、そして……。


僕は、何の事はない、ただ4つ目の技がないか探そうとしていただけだ。

けれど、ミミッキュは、「この時点で3つもあれば充分でしょ」と言って、像を振り向いた。

それでも、本来4足歩行で技を出すなんて初めての体験なのだ。

ドタバタと、派手な音が鳴っていたため、気付かないはずもなかった。

そのはずだったのだ。
 ▼ 23 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:16:14 ID:cWAt11WY [21/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


僕は危うい所で踏み止まる。ミミッキュは「エイダーも取ったし、戦利品も預けたし……」などと呟いている。


イワンコ「ミミッキュ?」

ミミッキュ「きゃっ! ちょ、何よ! いきなりこんな近寄って来て!」


彼女は、僕の接近に気付いていない。それを確信し、僕は事情を説明する。


ミミッキュ「ふいうち、じゃないそれ」

イワンコ「別に不意を打つつもりはなかったんだけど」

ミミッキュ「そうじゃなくて、技として。それ覚えてるイワンコって、なかなかレアだよ」

イワンコ「そうなんだ……」


僕は、あまり実感もわかないまま頷いていた。


ミミッキュ「とりあえず、4つ技はわかった訳ね。イワンコ、他に何か気になる事はある?」
 ▼ 24 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:17:09 ID:cWAt11WY [22/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、この洞窟に関して説明を求めた。

先程リアライズを追い返す際、ミミッキュは「不思議のダンジョン」に行かせてしまえば勝ちだから、と漏らしていた。

恐らく、これもその不思議のダンジョンなのではないか。そう問うと、鋭いね、と言われた。


ミミッキュ「その通り、ここも不思議のダンジョン。入るたびに形が変わる、来る物を迷わせるダンジョンよ」

イワンコ「形が変わる……」


他にも、基本的に階段で階層がつながれており、そのフロア数は変わる事がない事。

1つのフロアに留まり続けていると、暴風が入口まで戻してしまう事。

ダンジョンの中で倒れると、ほとんどのアイテムを失ってしまい、お金も半分なくなってしまう事。

時には罠も仕掛けられている事。

ただし、落ちている物は拾っても咎められない事。

そして何より大事な、「ここにいるポケモンは、自我を失い、狂暴になっている」という事実。


ミミッキュ「言葉も通じない、感情もないような。あたしたちが悪ならあいつらは無よ。倒してしまっても構わない」

イワンコ「熾烈だね」

ミミッキュ「殺らなきゃ殺られる世界よ、ここは。覚悟して」
 ▼ 25 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:18:06 ID:cWAt11WY [23/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
解説の途中から、僕はその事実に気付いていた。

そもそも、ダンジョンの中ですべての体力を失う事がある前提で話されていたのだから、当然だ。

罠まであるとなれば、危険度はいや増す。

けれど、と僕は覚悟を決める。

危険を恐れていては、何もつかめない。

こうなってしまった原因を突き止めるのに、完全に平穏無事に、なんて事、初めから期待してはいけないのだ。


イワンコ「だいたいわかった。行こう」

ミミッキュ「うん」
 ▼ 26 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:19:08 ID:cWAt11WY [24/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チュート洞窟、という名前は、入った直後、ミミッキュから聞いた。

このダンジョンの名前らしい。


ミミッキュ「ま、とりあえずはあたしについて来て」


ミミッキュの先導で、僕は歩き始めた。


ミミッキュ「走ると危険なの。敵の気配に気を付けながらゆっくり歩かないといけない」

イワンコ「うん、そのぐらいはだいたいわかるよ。オレンとか、そのかばんに入ってるアイテムに関しても」

ミミッキュ「そう? なら話は楽ね。質問あったらいつでもして。あ、これあたしの足を引っ張らないようにって意味よ!」

イワンコ「しっ……敵の臭いがする」

ミミッキュ「ああ、そうね。とりあえず戦って見せるから、よく見てて」


そう言って、ミミッキュは攻撃を空振りした。

小声で僕は咎める。


イワンコ「何やってるの」

ミミッキュ「まあ見てなさいって」
 ▼ 27 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:19:42 ID:cWAt11WY [25/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
敵がミミッキュに近付いて来る。

ちょうど射程圏内だ。

ミミッキュは勢いよく近寄り、その体から黒いオーラを発散した。

敵ポケモンは怯んだように竦む。

そこをミミッキュは、内から生える木の尻尾でもってひっかいた。

敵はその猛攻にあえなく地へ消えて行った。


ミミッキュ「とまあ、ざっとこんなもんね。ダンジョンで倒れると、こんな風に消えちゃうの。ま、気付いたら入口に戻ってる感じね」

イワンコ「っていうか、さっきの空振り何?」

ミミッキュ「定石よ、ダンジョンの。射程距離に届かない時はブラフで攻撃するの。そうしたら敵は警戒心を強めて後先に襲って来るわ。

       そうして射程に入ったらこっちの物。先制で仕掛けられるから」

イワンコ「へぇ」
 ▼ 28 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:20:25 ID:cWAt11WY [26/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は頷く。ミミッキュが笑みを作り、それから歩き始めた。


ミミッキュ「ま、こんな感じで行くの。試してみる? これから、自分でもある程度戦えなきゃ、やっていけない」

イワンコ「だろうね」


そう答えると、ミミッキュは僕に先導を譲った。

やってみろ、という事だろう。

僕は敵の臭いを察知していた。

気配を消して、それに近寄る。

「ふいうち」の射程は、先程のテストでわかった事だが、長い。

だからこの技に関しては、ミミッキュが実演した空振りはあまり意味を為さない。

けれど、残念ながら「ふいうち」のPPはそう多くない。「たいあたり」も有効に使わないと、すぐに技を出せなくなるだろう。

ふう、と息を吐く。

敵が、その音を察知し、振り向いた。

僕は、軽く攻撃を仕掛ける。と、僕の耳に、さえずりが聞こえて来た。


ミミッキュ「あっ……忘れてた。遠隔技持ちはそれ撃って来るから接近しろって……」
 ▼ 29 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:21:11 ID:cWAt11WY [27/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「なきごえ」だ。僕らの攻撃力はダウンする。

恨みがましい目でミミッキュを見詰めると、ミミッキュは気まずそうな顔を描き出し、それから敵に向けてひっかくを繰り出した。

2匹がかりでなんとか倒し、ほっと一息を吐く。

と、ミミッキュが、「あ、階段」と呟いた。

僕たちは、慎重に、階段めがけて歩みを進める。

こんな風に、ダンジョンでの定石や知らないアイテムの説明を聞きながら、僕たちはダンジョンを脱出した。


ミミッキュ「ここさえ抜ければ、後はすぐよ」

イワンコ「行こう」

ミミッキュ「言われなくても」


僕たちは、どちらからともなく駆け出す。

ミミッキュも、その胴体でどうやって、と思うような速度で走っていた。


ミミッキュ「着いた。ようこそ、盗賊団、フラワーズへ」
 ▼ 30 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:21:57 ID:cWAt11WY [28/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュが、僕を振り返る。

たき火が燃えていた。

テントのような建物もある。

ここが、ミミッキュの拠点とする盗賊団か。

思っていたよりもちゃっちいが、身軽に移動するにはこの形態の方が都合がいいのだろう。

ミミッキュはテントをくぐる。僕も続いた。

ピンクの体躯から幾本かの角を生やしたポケモンが料理を作っている。

ミミッキュが彼女に声を掛けた。


ミミッキュ「ただいま、サニーゴ」

サニーゴ「あ、お帰りなさい。どうでした?」

ミミッキュ「成功よ。像に預けといたから、いつでも引き出せるわ」

「それはよかった」と、安堵の顔を浮かべたサニーゴは、すぐに気付いて言った。「あれ? 後ろ、誰ですか?」
 ▼ 31 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:22:40 ID:cWAt11WY [29/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「あっ、イワンコです」

ミミッキュ「記憶がないから、連れて来たの」

サニーゴ「まあ! 大変ですね」

イワンコ「よろしくお願いします」

サニーゴ「サニーゴです。ここの、炊事担当やってます」

ミミッキュ「凄いおいしいから、覚悟しときなさいよ」

サニーゴ「そんな、照れますよ」


2匹でほのぼのと話す様子は、なぜか気の合う気が強い女子と気の弱い女子のコンビという図を彷彿とさせた。

だが、一瞬、強い乖離を感じた。


――盗賊団って、なんだ?
 ▼ 32 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:23:31 ID:cWAt11WY [30/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「ところで今、誰がいるの? イワンコを紹介したくて」

サニーゴ「ヒド君とバクガメスさんかな。ボスとコスモッグは外出中。いつものようにお宝探してるんだと思うよ」

ミミッキュ「わかった。じゃあ、行って来るね」

サニーゴ「イワンコ、よろしくね!」

イワンコ「こちらこそ」


僕らはテントを抜け、それからたき火の方へ歩いて行った。


ミミッキュ「単体ではいいポケモンなんだけど、ペアにするとマズイから、まずヒドイデからね」


そんな謎の呟きに聞き返すと、ミミッキュはなんでもないと首を横に振った。

疑問は残るが、まあ危険な目に遭わされる事もないだろうと判断し、僕は追随する。
 ▼ 33 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:24:20 ID:cWAt11WY [31/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「ヒドイデ」

ヒドイデ「お帰りミミッキュ! そいつは?」

イワンコ「イワンコです」

ミミッキュ「記憶がないらしくて」

ヒドイデ「ああ、なるほど」


そういってヒドイデは、ミミッキュを見据えた。

しばらく沈黙が降り、それから笑う。


ヒドイデ「俺らと来るんだろ? 歓迎するぜ」

イワンコ「よろしくお願いします」

ヒドイデ「ところでうちのかわいいサニーゴにはもう会った?」

ミミッキュ「会ったよ。行くよイワンコ」

イワンコ「へ?」


引っ張られるように僕は連れ去られて行く。

ヒドイデが戸惑ったような目でミミッキュを見詰めた。
 ▼ 34 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:24:58 ID:cWAt11WY [32/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「ねえどういう」

ミミッキュ「1時間はのろけるだろうけど、いいの?」


その発言に、ごくりと唾を呑みこむ。

1時間ののろけ。まあ無理だ。


ミミッキュ「わかったら、バクガメスさんに会いに行くよ」

イワンコ「ちなみにヒドイデの担当は?」

ミミッキュ「普通に盗賊。いろいろと盗って来る係ね。あたしと同じ」

イワンコ「じゃあ、バクガメスってのは?」


ミミッキュが動きを止めた。

引きずられていた僕はその勢いを殺しきれずミミッキュの体に突っ込む。

布がまとわりつき、少しもがいた。

ミミッキュは痛みも何も感じていないかのように布を念の力(「ねんりき」ではない、念のため)で引き剥がし、それからこちらを向き直った。


ミミッキュ「バクガメス『さん』。あの人、短気だから、その辺厳しいの」
 ▼ 35 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:25:30 ID:cWAt11WY [33/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「そうなんだ……。ありがと、教えてくれて」


バクガメス“さん”は、上下関係に厳しい。把握した。


イワンコ「他にもそういう人はいるの?」

ミミッキュ「いない。ボス……ラランテスは、そういうの気にしないタイプだし。ま、みんなボス呼びだけど。

       さ、行こう」
 ▼ 36 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:26:05 ID:cWAt11WY [34/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ぼうっと座り込む赤い体躯のポケモンが1匹。

彼に、ミミッキュが声を掛ける。


ミミッキュ「バクガメスさん、新入りです」

バクガメス「ああ、そうか。お前は?」

イワンコ「イワンコです。記憶がないので、たまたま出会ったミミッキュにここを紹介されました」

バクガメス「……そうか。おいミミッキュ」

ミミッキュ「はい、なんでしょう」

バクガメス「てめー、カタギかもしれない奴を何こっちに引き込んでやがる!」


怒鳴り声。僕は、思わず身を竦めた。


ミミッキュ「でも、行き倒れになるかもしれなかったんです! あたし、ここしか教えられないし! ……あたし、心配だったから」


心配だったのか。恩返しと言っていたのだが。

しかし、小さく震えるミミッキュに、そんな軽口を叩けるはずもない。

それ程までに、彼の威厳は強かった。
 ▼ 37 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:27:37 ID:cWAt11WY [35/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「……そうか。お前なりにきちんと考えてるんだな。怒鳴って悪かった。

       イワンコ、お前、まだ引き返せるぞ。今なら、俺たちの仲間になる前に逃げ出せる。

       記憶の謎は、解けるだろ、1匹でも」

イワンコ「……無理、だと思います。自分は、元人間。この世界で、ひとりでなんて、絶対に」

バクガメス「おま……元ニンゲンだぁ?! 記憶喪失の元ニンゲン……これは、マズいな」


彼はぶつぶつと呟き始める。

それきり、思考の世界に没入したのか、声を掛けても反応が返って来る事はなかった。


――記憶喪失の元人間が、マズい? 僕は、小首をかしげた。


ミミッキュ「説明し損ねたけど、バクガメスさんは経理担当。資金繰りは、やっぱり大事みたいね。

      あたしたち、行動する前はみんなバクガメスさんにお金を預けるのよ」

イワンコ「銀行みたいなもんって事?」

ミミッキュ「要はそういう事らしいね。増えないけど」
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