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ヒマナッツの夜の夢

 ▼ 1 ◆WZienuer1k 20/08/12 03:31:46 ID:UtLEKmLI [1/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

これは……!

きせきのタネ……ですね。

これを……ぼくに、ですか。

先日……あの、その、キマ、っ、キマワリ、から……。

ああ……ご、ごめんなさい。取り乱して、しまって……。

その……。

キマワリから、これを託されたと。

…………。

ありがとうございます。

大変な時期なのに、わざわざ届けてくださって。

いやぁ……しかし、キマワリか!キマワリ……ふふ、そうか!

このタネ……すっかり色あせて、書いてある名前も消えかけてしまっていますね。

随分、大切に使ってくれていたんだな。

……ん?

いや、待って!

気になる事が……あるんですよね。

ぼくなら平気ですよ。今日はお休みですし、丁度話し相手に飢えていたところなので。

もしきみさえ良ければ、話をしましょう。

……ん?きみは忙しいのか?

はは、そう遠慮なさらずに。今、紅茶を用意しますから。

どうぞお入りください。

ああ、大丈夫ですよ。


ターフースタジアムの休憩所は、風通しがバツグンなんじゃ!


 ▼ 2 ◆WZienuer1k 20/08/12 03:33:57 ID:UtLEKmLI [2/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

◆

……さあ、どうぞ。

暑い日にぴったりな冷たーい紅茶ですよ。

いいですよね、そのタンブラー。

そうそう、バレンタインデーにリーグから貰ったやつです。

凝ってますよね、ちゃんとダーフースタジアムのロゴが入ってるんじゃ。

でもタンブラー自体は私物として幾つか持っているので、これは来客用に使わせて貰ってます。

はい、プライベートでもビールを飲むときにはタンブラーを使っているんだが……。

いやあ、仕事終わりに冷やしたビールを飲むのは最高で……あ、ご、ごめんなさい。

無駄話はここまでにして、本題に入ります。

あれはまだ……そう。

ぼくがきみくらいの年頃だった時の話だ。

リーグカードには優しそうに書かれているぼくだが、まあ、ジムリーダーを任されているなりに負けん気はあってな。

それはもう、トレーナー達とのバトルや、ワイルドエリアでの修行に熱を上げていたんだ!

だから、貴重なサマーバケーションのスケジュールも、ワイルドエリアでの修行でぎっちり!

ヒマナッツと出会ったのも、丁度その時期でした。

今でもはっきりと覚えていますよ。

あの年の夏は、随分と暑かったですからねぇ。

まさか、ガラルでヒマナッツに出会える日が来るとは思ってもいませんでした!いやぁ……衝撃だったなぁ!

うん。ぼくはヒマナッツのことは雑誌やら何やらで知っていたからね。

タイプ相性さえなければ、コイキングより弱いのではと噂されるくさポケモン……。

ぼくが小さい時はメディアも正直でね、過激な事も結構書かれていたものですから、ヒマナッツの記事は妙に印象的で覚えていたのです。

 ▼ 3 ◆WZienuer1k 20/08/12 03:36:11 ID:UtLEKmLI [3/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

ああ……また話が逸れてしまった。

彼と出会ったのは見張り塔の跡地です。そう、ワイルドエリアの。

ダイマックスバトルで鍛えようかと思った時に、予備のボールを落としてしまってな。

転がるそれを追いかけたら、低木の影に入ってしまって。

拾おうと覗いたら、モンスターボールの横で、ヒマナッツがかなり弱った状態で倒れていたんですよ。

ええ。彼はびっくりするほど弱っていました。

あちこち傷だらけで、抱き上げても呻き声すら上げず、苦しげに呼吸するだけだった。

勿論、ぼくはすぐに彼を抱えてポケモンセンターまで走りました。

当時はとりポケモンにやられたのかと思い、空を気にしながら走っていましたが……今思えば、あの傷は随分と不自然でしたね。

おそらく……彼は、人間に暴力を振るわれて、捨てられたんだな。

ポケモンセンターのお姉さんも微妙な顔をしていたし。

回復してからも周囲の人間に怯えっぱなしで、痛ましい様子でした。

ぼく自身も彼のことが気がかりで、修行の帰りにポケモンセンターに立ち寄って彼の様子を伺っていました。

しかし……中々警戒を解いてくれなくて。

それだけではなく、ポケモンセンターの方々にも怯えるものですから、皆、彼が何も食べないことに手を焼いていたんです。

ぼくは彼のトレーナーではないから、彼を見守る責任はありません。

ですが……出会いが出会いでしたから、どうも彼のことが心から離れなくて。

それに、傷こそ癒えたが、痩せていく一方のヒマナッツに対しても思うところがありました。

せっかく助けたのに、また弱ってしまわれては悔しいじゃありませんか。

はじめの数日はポケモンセンターに立ち寄るだけでしたが、日に日に弱っていく彼を放っておけなくて……。

気付いたら、修行計画そっちのけで彼の元へ通っていましたよ。

最初は帰りに寄るだけだったのが、彼と会うために早起きして行く途中にも顔を見せて。

バトルをせず、ワイルドエリアできのみを取ってきては、彼に差し出し続ける毎日。

オレンやオボン以外にもからいもの、あまいもの……いろいろ揃えました。

それでも食べてくれないものだから、きのみを刻んでみたり、刻んだものを混ぜ合わせてみたりもしましたが全然ダメで。

なにも食べず、空腹で弱る一方なのは堪えたが……それでも、日に日に怯えなくなってきてね。

少しずつ警戒が解けている実感はあったから、粘り腰で頑張りましたよ。
 ▼ 4 ◆WZienuer1k 20/08/12 03:37:53 ID:UtLEKmLI [4/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

で、アレコレ試行錯誤しながら……一週間経ってようやく、きのみジュースを口にしてくれたんです。

そして……全て飲み終わった後。

ぎこちなくはありましたが、笑ってくれたんですよ。

あの、人間にもポケモンにも怯えてばかりだったヒマナッツが……笑ってくれるなんて!

ぼくはあまりに嬉しかったもので、彼が人間に不慣れなのも忘れて撫で回してしまいました。

ええ、最初は驚かれましたが、ぼくが危害を加えないと分かってくれたのか、大人しかったですよ。

まあ、少し気の毒なことをしてしまったと反省していますが。

ただ、その日をきっかけに彼は、ポケモンセンターのスタッフにも心を開き始めました。

他のポケモン達ともあっという間に打ち解けたのは驚きでしたよ。

彼は元々『しゃこうか』だったんでしょうね。

あれは確か……彼の治療がもうすぐ終わるという頃だったな。

その頃にはもう、ぼくはワイルドエリアに行かずヒマナッツにつきっきりでね。

ええ、その日は彼とテレビを見ていたんですよ。

確かジョウト地方の公園のドキュメンタリーでした。

番組にはヒマナッツが出ていて、キミと一緒だねって笑ってたんです。

彼も面白そうに見てましたよ。

そうして番組の後半に……そのテレビに出ていたヒマナッツが、突然進化したんです。

そうそう。キマワリになったんです。

突然の進化に、ぼくと彼はびっくりして……。

そうしたら、いきなり職員の方に笑われたんですよ。

どうやらぼくとヒマナッツの表情が一緒だったのが面白かったみたいで。

仲がいいのねって。


せっかくなら仲間にしたらどうだって言われました。


 ▼ 5 ◆WZienuer1k 20/08/12 03:38:42 ID:UtLEKmLI [5/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

そう言われて、ぼくは……。

ん?

ああ、お手洗いですか。

いえ、気にしないでください。

紅茶を飲むとトイレが近くなる事はよくありますし。

ドアから出て左手にありますよ。

いってらっしゃい。

…………。


…………。


……はは。

ヒマナッツ……。

全く。


……っ。



きみと、きみというやつは……!



 ▼ 6 マホミル@ひかえめミント 20/08/12 03:38:45 ID:xo5w6JFE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 7 ◆WZienuer1k 20/08/12 03:40:52 ID:UtLEKmLI [6/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

◆

ん、おかえりなさい。

ああ、タンブラーの中身はローズヒップですよ。

お肌にいいし、ハーブティーなのでカフェインも無いんです。

今日はとびきり暑いですからね、水分補給はしっかりしなければ!

さて……話の続きですが。

そう!ポケモンセンターの方たちに勧められて、ぼくとヒマナッツは晴れて仲間になったんです。

ええ、今思えば不思議ですが……彼は随分と乗り気でね。

喜んでボールに入ってくれました。

それから、ぼくの手持ちにヒマナッツが加わり、一緒にワイルドエリアでの修行を再開したのですが……。

……その、彼の実力が圧倒的に足りなくてね。

ああ、元気はありましたよ!

ぼくが大切にしていた道具にちょっかいを出したり、ヒメンカとのんびり日向ぼっこを楽しんでいたりしていましたから。

うん、筋は悪くなさそうなんだが、とにかく戦い慣れてないもので。

ぼくとしては、彼にワイルドエリアは早かったかなと思ったんですが、彼はかなり乗り気でね。

大きな目が闘志で熱く燃えていたのはよく覚えています。

彼なりに強くなりたかったということは、当時のぼくにも伝わっていましたが……やはりああいった場所での修行は、彼の実力じゃどうしても厳しかったんですよ。

ぼくとしては、ワイルドエリアのような場所で鍛えなければスキルアップは見込めません。

かといって、ヒマナッツだけ見学に徹させるのもトレーナーとしての矜持が許せません。

はい、ぼくは強くなる事よりヒマナッツを取りましたよ。

まあ、少し悩みましたけどね……。

ヒマナッツを最初から鍛えると決心したぼくは、早々にワイルドエリアから撤退して地元に戻りました。

はい。

ターフー農園で、ウールー達と体力作りです!
 ▼ 8 ◆WZienuer1k 20/08/12 03:42:32 ID:UtLEKmLI [7/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

そう!農業は粘り腰、体力勝負じゃ!

特にうちのウールーは元気がいいからな、ヒマナッツもかなり手を焼いていましたよ。

それでも、彼は『しゃこうか』ですから、すぐに皆と打ち解けましたけどね。

ウールー達に混ざって、一緒に遊んで仲良くしていました。

追いかけっこに慣れた頃から、水辺でカムカメ相手にバトルの特訓を始めました。

ぼくの見込み通り、筋はよかったですよ。

少しパワーは足りないが、ぼくの指示がなくても自ら隙を見つけてわざを叩き込んで。

むしろぼくの方が勉強なるような、非常に聡い立ち回りをすることが多かったです。

農園で体力作りをして、野生のポケモンと特訓し続け……。

そんなこんなで、遂に!相性的に苦手なバチュルも難なく倒せるようになった、そんな時でした。




彼が、突然高熱を出してしまったんです。


 ▼ 9 ◆WZienuer1k 20/08/12 03:44:31 ID:UtLEKmLI [8/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

勿論、すぐにポケモンセンターに駆けつけて、ドクターに見てもらいましたよ。

診断結果はただの風邪でした。

薬を飲ませて、ゆっくり休めば回復するものだと。

でも……そのドクターに言われたんです。

ヒマナッツは元々、あまり寒さに強いポケモンではないと。

生息分布的に考えても、ガラルの夏ですらヒマナッツには涼しいと思うって。

ヒマナッツの中でも……彼は特に身体が弱いようだから、ガラルの冬を越せないかもしれないと、そう忠告されました。

ああ、いえ、驚きませんでしたよ。

一緒にバトルをしても、なんとなく丈夫じゃない気はしていましたから。

たまにいませんか?

バトルが強くても……病気に弱いポケモンさん。

彼はそういう子だったんです。

ただ……ほくの想像より、弱かった。それだけなのです。

ぼくはドクターにどうするべきか相談しました。

ぼく自身は、彼が元気に過ごせるなら離れ離れになっても構わないと思っていること。

ただ、ヒマナッツはトレーナーの元で強くなることを望んでいるようだから、もし他の人に託すなら信頼できるトレーナーに頼みたいということを。

今思えば、ドクターの仕事の範疇を超えた質問ばかりぶつけてしまいましたが……その方は嫌な顔ひとつせずに、懇切丁寧にどうすべきか教えてくださいました。

あ、そうそう!

去年きみのゲンガーに紹介したあの先生ですよ、優しい人だったでしょう?

ぼくも子供ながらに、ああいう大人になりたいと思っていましたが……。
 ▼ 10 ◆WZienuer1k 20/08/12 03:45:56 ID:UtLEKmLI [9/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

おっと失礼。

まあ、幸い先生の方で引き取って貰うアテがあるということで、ただ、早くても8月末になるから、それまで様子を見てくれないかと頼まれました。

勿論、了承しましたよ。

お別れの時まで、ぼくが責任をもって彼を見守るって。

先生の前では、そう意気込んでいましたが……。

ここだけの話、あの後、かなり泣いてしまいましてね。

ヒマナッツがベッドで眠る横で、彼が起きないように声を押し殺しながら泣きじゃくりました。

鼻水も出たし、腹も捩れそうだった。

それくらい必死に泣きましたよ。

ぼくはあんまり泣かない方だったが……あの時は涙が止まらなくて。

一周回って何が悲しいのかわからなかったほどだな!

号泣する時に限って、意外と何も考えていないのかもしれませんね。

そうか。


きみも、泣くときは頭が真っ白になるんですね。


ぼくと一緒だ。

 ▼ 11 ◆WZienuer1k 20/08/12 03:47:34 ID:UtLEKmLI [10/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

……はい。彼は二日ほど寝込んでいたかな。

ぼくもそれまでに、彼とどう向き合うべきかを考えていました。

先生も、あんまり疲れさせるようなことはさせるなと……まあ、要するにバトルをするなってことです。

ヒマナッツは、特訓メニューの中でも特にバトルが好きだったから、バトルに代わる楽しみをどう用意すべきかかなり悩みましたよ。

だからね、ぼくは目が覚めたヒマナッツに「よくわからんから、夏はとにかく遊ぼう!」って言ってしまいました!

ははは!彼もキョトンとしていましたね。

まあ……予定とか、何がいいとか、その時点で何もわからなかったのは事実ですから。

しかし、バトルの他にも楽しいことはいっぱいあるってこともまた事実!

せっかくの夏休みなんだ、バトルなら秋からでも出来ます。

だから一緒に遊びませんかって、彼に聞いてみたんです。

今思えば子供だましのような言い訳ですが……。

当時のぼくは必死だったからな。

それに、彼は元々好奇心が強い子でしたから……。


勿論、答えはOKでしたよ!

 ▼ 12 ◆WZienuer1k 20/08/12 03:49:35 ID:UtLEKmLI [11/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

◆

それからはもう、毎日のように遊び回りましたとも。

ヒメンカも、カジッチュも巻き込んで、朝から夜まで遊びっぱなし!

家の仕事も、ターフー農園のお手伝いも、全部ほったらかしじゃ!

うん、それが不思議と何も言われなかったんだな。

きっと……先生が何か言ってくれたのだろう。

今度当時のことを知っている人に聞いてみようかな。

ああ、何をして遊んだかというとですね。

朝起きてご飯を食べたら、草原でお宝探しです。

お宝と言っても、まあ……きのみとか不思議な花とか、あとはガラスの欠片とかですね。

そういったものを、ポケモン達ともぼくのみんなで探すんですよ。

一番探すのが得意だったのはコノハナですね、今はダーテングだが。

彼はとってもめざとくてですね、状態の良いガラス玉や陶器の破片をどこからともなく拾ってくるんですよ。

きんのたまを拾ってきた時は本当に驚いたな……。

ああ、そう。他には綺麗な湧き水を探したりしました。

うん。夏といえば川遊びだが……近所の川の水は、ヒマナッツには少し冷たいかもしれなかったからな。

森の中を探して、冷たくて美味しい湧き水をみんなで飲みました。

あ、真似しちゃダメですよ?ぼくは何ともなかったが、湧水って病原菌やら何やらで、人間には結構危ないらしいですから。

ははは!きみは真似しませんよね、失礼失礼。

他にも、ウールの群れをベッドに昼寝をしたり、木の枝を持ってカモネギの真似をしてみたり。

あと、近所のキテルグマを怒らせてかけっこをしたり、雨の中を傘もささずに走り回ったり、そんなバカみたいな事もしたなぁ……。

意外ですか?いやはや、きみだって悪戯は好きでしょうに。

そうそう、ヒマナッツは悪戯が大好きでね。

ぼくも大分やられましたよ、当時大切にしていた道具にはしょっちゅうちょっかいを出してきたし。

ウールの尻を叩いて群れを混乱させてみたり、一番酷かったのは花壇の花を半分ほど掘り起こした事でしょうか。

全く……あの時は流石に怒られましたよ。

ぼくも彼が恨めしかったし、あまりのやんちゃにバトル禁止を言い渡した先生の目は節穴だったのではとも思いました。


でも……花壇を元通りにする作業をしていた時に、掘り起こされた花が全部黄色い事に気付いたんです。

 ▼ 13 ◆WZienuer1k 20/08/12 03:52:39 ID:UtLEKmLI [12/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

はい、彼は元々、黄色いものが好きでな。

彼が手を出すものは、必ず黄色いんですよ。

宝探しの時は黄色いチラシを何枚も拾ってきたり……。

タンスからハンカチやパンツを掘り起こす時も、必ず黄色いものを取っていくんです。

しょっちゅう盗まれたぼくの宝物も、一応黄色でした。

花を掘り起こしたのはいただけないが、彼は命の大切さをよく分かっている子だ。

単なる悪戯ではなく、何かワケがあっての行動だと思いまして。

家に帰ってから……大人達にこってり絞られて凹んでいた彼に、黄色い画用紙を数枚ほどあげてみたんです。

そうしたら……彼はその画用紙をうまい具合に重ねて、うーん……なんといえば良いのでしょうか。

六芒星って言えば伝わりますか?アレのトゲトゲが多い感じなるように、こう、ずらしていって。

完成した後に、その星の真ん中に寝転がったんです。

そう、キマワリの真似ですよ!

紙のギザギザをキマワリの花びらに見立ててたんです、賢いですよねぇ。

紙の上に寝転がる彼の目は、とってもキラキラしていて、楽しそうで。

きっと、花を掘り起こしたのはキマワリの真似をしたかったんでしょうね。

ええ。

動きもせず、ただじっと横たわっているくせに、悪戯している時よりイキイキとしているような気がして……。

その時、ぼくはようやく彼の夢に気が付いたんです。

彼はバトルが好きとか、悪戯が好きとかじゃなくて……。



キマワリに、なりたいんだなって。


 ▼ 14 ◆WZienuer1k 20/08/12 03:53:44 ID:UtLEKmLI [13/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

当時のぼくは、ヒマナッツがどうやってキマワリになるのかよく分かりませんでした。

ヒマナッツもキマワリも、ガラルじゃかなり珍しいですからね。

今なら「たいようのいし」が必要だって知っていますが……。

あの時のぼくは、普通のポケモンと同じで、バトルをして強くなって進化するものと思い込んでいて……ぼくじゃ彼の夢をサポートできないと悔しい思いをしていました。

そうして何もせず遊んでいるうちに夏も終わりに近付き……彼に対して何もできないままお別れの日が近付くのかなって思っていた時でした。


コマタナ座流星群の予報ですよ。

 ▼ 15 ◆WZienuer1k 20/08/12 03:55:26 ID:UtLEKmLI [14/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

ははは!言うなれば神頼みですね。

でも、当時のぼくには願うことしか出来なかったことも事実です。

たとえ効果がなくても……神頼みくらいはしたいと思いまして、まあ、ぼくなりのまけんきですよ。

運がいい事に、流星群の予定日のターフータウンは見事な晴れマーク!

これはヒマナッツと一緒に見るしかないと思いました。

少し時間が遅いのが気がかりだったが……迷いはありませんでしたよ。

流星群が来る日の夜、ぼくはヒマナッツを連れて家を出ました。

ええ、ヒマナッツとふたりきりです。

他のポケモンは……すでに寝てしまっていましたからね。

ヒマナッツも眠そうでしたが……絶対に見せたいものがあると言って、少し頑張ってもらいました。

その日は暗くなってもやけに暑くて……汗水を垂らしながら丘を登った記憶があるなぁ。

ええ、あそこの高台は人が多く集まるので、2人きりで見れる場所へ行ったんですよ。

睡魔や暑さと格闘しながら、ようやく丘を登り切った時でした。

雲ひとつない夜空に、一瞬一筋の光が差しましてね。

最初は見間違いかと思うような小さな光でしたが……徐々に、光の数が増して、輝きも強くなって。
 ▼ 16 ◆WZienuer1k 20/08/12 03:56:19 ID:UtLEKmLI [15/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

見事でしたよ、腕の中で眠そうにしていたヒマナッツも、声を上げて夜空を見上げていました。

ぼくは彼に、流れ星に願い事をすると夢が叶う事を教えました。

今日は流れ星がいっぱい降るから、お願い事をするのは今ですよって。
そう言ったら、彼は目を輝かせて、空に向かって鳴き声を上げました。

きっと、キマワリになりたい!

そう叫んだんでしょうね。

ぼくも、ヒマナッツが進化しますように!って、大きな声で叫びましたとも。

ヒマナッツがキマワリになりますように、なれますようにって。

星が流れる綺麗な光景そっちのけで、ぼくたちは必死で夢を叫びました。

流星群が流れ切ったときには、ぼくもヒマナッツも叫び疲れて、草むらに寝そべってましたね。

いやあ……凄かったな。

若輩者のぼくが言うのも説得力に欠けるかもしれんが……。
 ▼ 17 ◆WZienuer1k 20/08/12 03:56:56 ID:UtLEKmLI [16/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告





あの時見た星空が、ぼくの人生で一番綺麗でしたよ。





 ▼ 18 ◆WZienuer1k 20/08/12 04:01:28 ID:UtLEKmLI [17/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

◆

本当に、楽しいサマーバケーションはアッという間に終わったな。

はい。彼との別れは、丁度9月の始業日でした。

夏の盛りも過ぎ、次第に太陽の光が弱まってきましたからね。

身体の弱い彼のことを考えたら、早い別れも仕方なかった。

でも、離れ離れになることに悔いはありませんでしたよ。

長く一緒に居られないことは分かっていた分、あの夏は、心残りがないよう遊び尽くしましたから!

結果として、その年のバトルの成績は振るわなかったが……。

ぼくもポケモン達も、思い切り遊んで悔いはありませんでしたよ。

何よりも、あの夏の夜……流星群の下でお互いの夢を願った事は最高の思い出です。

けれど、彼は寂しかったみたいですね、別れ際はかなり泣き付かれましたよ。

勿論ぼくだって辛かったさ!

そこまでぼくを慕ってくれたのかと、思わず引き止めたくなったが……彼の身体のことを考えると、別れるのが一番ですからね。

ええ、このきせきのタネは、その時に渡したものなんです。

これは、当時のぼくにとって……一番の宝物でした。

だから、自分の大切な宝物を託していいと思えるほど、きみのことが大好きだって事を伝えたくて。

タネに自分の名前を書いたのも……ぼくはヒマナッツを応援してるっよっていうメッセージのつもりだったんです。

だから今よりも大分字が下手なんだな……きみ、よくこれがぼくのものだと分かりましたね。

掠れている上に小さい癖字なんて、読みにくさの極みじゃないか。
 ▼ 19 ◆WZienuer1k 20/08/12 04:02:11 ID:UtLEKmLI [18/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
はは!それは苦労をかけました!

でもね、彼はタネを受け取ることを拒んだのですよ。

あれだけぼくのカバンから盗んでおいて、いざ差し出したら拒むなんてと思いました。

でも、別れ際に一番の宝物を渡すなんて……二度と、会えないみたいじゃないですか。

当時のぼくはそんなつもりはなかったんですが、彼はそりゃあもう渋りましてね!

だから……ぼくはそんな彼に、自分の素直な気持ちを……このタネをお守りに、夢を叶えて欲しいと言い聞かせました。

夢が叶わなくても構わないから、ただ、元気に生きて欲しいと。

けれど、彼はひたすら駄々を捏ねて。

まるでぼくの言い分に納得出来ないというかのようにね。

あまりに引き下がらないものでしたから、ぼくは敢えて挑発的なことを言ってしまいました。

うん。



「そんなに納得がいかないなら、キマワリになってからこれを返しに来い」



ってね。

 ▼ 20 ◆WZienuer1k 20/08/12 04:02:49 ID:UtLEKmLI [19/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
……そこまで言って、彼はようやく泣き止んでくれました。

あの時、ぼくを真っ直ぐに見つめてきた彼の目はよく覚えています。

とても、生命力に溢れる目をしていましたよ。

……もし、彼が強くなる手助けをぼくが出来ていたとしたら、これ以上喜ばしいことはないと思います。

このタネが、彼に勇気を与えていたのなら……トレーナー冥利に尽きますとも。

…………。

……もう一度聞きますが。

これをきみに託したのは、本当にキマワリなんですよね。

……はい。

彼は、本当に……キマワリになれたんですね。

…………。

……っ!

あっ、す、すまない!

いやぁ……っ、驚かせてしまったな。

はは、ダメだ……涙が、止まらん……。

いや、いや!悲しいわけじゃないんだ。

……嬉しいよ、とても。


これは嬉し涙じゃ!

 ▼ 21 ◆WZienuer1k 20/08/12 04:04:20 ID:UtLEKmLI [20/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

その、なんと言えばいいのか分からんが……とにかく、彼がキマワリになっていた事が嬉しいんです。

あのヒマナッツが……抵抗もせずただ怯える事しか出来なかった小さなヒマナッツが、夢を叶えて、キマワリになっていたなんて。

はは……ダメですね。

こうして言葉に詰まるたびに、もっと小説を読んでおけばよかったと後悔します。

そうやって後悔ばかりしておいて、仕事にかまけて結局本を読まないんじゃ。

大人なんてそんなものですよ。

…………。

……きみも、ニュースで知っていると思うが。

今回のパンデミックで、ターフー農園の経営はかなり厳しくなりました。

咳き込むウールーが増え続ける中、昨年の不作による資金不足と、感染防止の人手不足が重なり……。

ぼくたちは彼らに対して、十分な対策を打つことが出来なかった。

今となれば、犠牲が出なかっただけ幸運だと思っていたが……はは。

こうも涙が止まらんとは、流石のぼくも参っていたみたいじゃ……。

うん。大丈夫ですよ、ありがとう。

むしろ、きみからヒマナッツの……キマワリの話を聞けてよかった!

心から報われましたよ。

あの彼が……ぼくの腕の中で震えることすらできなかった彼が、進化という夢を叶えていたんですからね!

よかった、本当に。

勇気付けられました。

心の底から、元気が出ましたよ。

その話を聞けただけで、明日からの仕事も精一杯頑張れます。

……っ。

ありが、とう……。



きみは、優しいんだな。


 ▼ 22 ◆WZienuer1k 20/08/12 04:05:17 ID:UtLEKmLI [21/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

◆

いやあ。

しかし……まさか彼がガラルに戻っていたとは。

うん、連絡が欲しかったと言えば欲しかったが、彼と別れたのはもう大分前の話じゃ。

向こうで色々あったのかもしれないし、引き取った方もぼくのことを忘れていたのかもしれない。

でも……遠い地方に行ったはずの彼がガラルに戻ってくるなんて、縁がありますね。

どちらにせよ、今更アレコレ言うのはナンセンスですか。

さて!彼がガラルにいるなら、ただ仕事にかまけてばかりではいられないな!

ヒマナッツが……いえ、今はキマワリですね。

丁度先日、近所の花屋でグラシデアの花が入荷されたんですよ。

早速買いにいかなければ。

あと、彼が大好きだった黄色い花も!

喜んでくれるといいな……進化すると性格が変わるポケモンもいますが、彼のお花の好みが変わっていないことを祈るしかありません。

いずれにせよ、手ぶらで彼に会うなんてことは出来ませんからね。

言わずもがな、しっかり準備をしてから会いに行きますよ。


だから……

 ▼ 23 ◆WZienuer1k 20/08/12 04:05:56 ID:UtLEKmLI [22/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告





オニオンさん。





今度、彼のお墓に案内してくれますか?





 ▼ 24 ◆WZienuer1k 20/08/12 04:06:46 ID:UtLEKmLI [23/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

──End──

 ▼ 25 ヤドキング@くちたけん 20/08/12 04:07:54 ID:nVwYw8BY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
お疲れ
いいもの見た
 ▼ 26 バリヤード@あおぞらプレート 20/08/12 22:14:01 ID:DeVULBEc NGネーム登録 NGID登録 報告
埋もれるには惜しい
あげ
 ▼ 27 パッチール@ズリのみ 20/08/12 22:35:49 ID:Cl4IVq7A NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒマナッツの夜の夢・・・あっ(察し)









ヴォー・・
 ▼ 28 スバメ@Zパワーリング 20/08/12 22:37:09 ID:4012ynWk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マナッツの夜の淫夢?
 ▼ 29 チャーレム@かくれポン 20/08/15 17:53:57 ID:QAUsuNQ6 NGネーム登録 NGID登録 報告
乙
 ▼ 30 ジグザグマ@せいなるはい 20/08/15 18:48:03 ID:ZYbA6FRI NGネーム登録 NGID登録 報告
いつ幸せなキスをするの?
 ▼ 31 ムウマ@おしえテレビ 20/08/15 18:49:13 ID:oUJQ0y0s NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あげ
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