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【人♂×ポケ♀】神と少年

 ▼ 1 ゲキ@ヒメリのみ 20/12/16 22:51:28 ID:8qQICRC. [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
現代社会とポケモン世界のブレンドです
 ▼ 2 ブキジカ@ラグラージナイト 20/12/16 22:51:53 ID:8qQICRC. [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
実在するか幻と見るか、それは各々の思考次第だが、この世には神という存在がある。

土地神、海神、風神や雷神、はたまた全知全能の神。

だが、何事にも囚われない……悪く言えば存在価値のない神も居る。

行き場の無い神、行き場を失った神。

人に求められて、初めて神として生きることを許される。

祈り、参り、感謝、会話。

神にも感情はあるため、『求められる』というのがどういうものなのかはそれぞれ感じ方は違う。

軽く受け取ることもあれば、執着や依存してしまうほどの重みを感じることもある。

神として相応しくない感情を抱くことも少なくはない。

例えば​────
 ▼ 3 グレー@ゴッドストーン 20/12/16 23:11:08 ID:8qQICRC. [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告



男「はーーー……」

男 (日差しが眩しい……カーテン閉めててもこんなに眩しいって……閃光弾か何かか……?)

母「男ー?今日はどこにも出ないのー?」

男「あー?今日は休み!」

母「朝ごはん出来てるからねー!」

男「すぐ行くー!」

男「……はぁ」ポスン

男 (トレーナーになる夢を諦めてからずっとアルバイト、そろそろ何か無いものか……)

男 (うーん、とはいえ自分からなかなか動かないのも原因なんだけどな)

ピクシー「ぴ?」

男「あーはいはい、今日も可愛いよ相棒」ナデナデ

ピクシー「ぴぃ……」

男 (せっかくの休みだし、もう少し寝てたいんだけどな……如何せん規格外の陽射しが邪魔して眠れん)

男 (いくら夏真っ盛りだからって本気出しすぎだよな……太陽神か何かでも居たりするのか……?)

ピクシー「ぴ、ぴっ!?ぴぃっ……きゅっ!?」ワタワタ

男「ん?なんだよそんなに慌てて」

ピクシー「ぴきゅ!ぴっ、ぴっぴぃ!!」ユビサシ

男「あー、外?うん、いつもより眩しいな」

ピクシー「ぴーぴっ!!ぴっきゅ!!」ワタワタ

男「……いや、いつもよりというか……あまりにも眩しすぎるような……?」

ピクシー「ぴゅきゅ〜……」クラクラ

男 (太陽の光ってここまで眩しくなるか……?これじゃまるで……家の周りに電撃でも走ってるみたいな……)


ピカッ………!!


男「は?あ、うぉぉっ!?眩しっ……」


普段通りの変わらない日常を過ごそうとしていた1人の人間。

この閃光弾のような輝きはそんな普通の人間の1つの日常を壊す合図となった。
 ▼ 4 ョロモ@フリーズカセット 20/12/16 23:12:36 ID:.QDg6P9g NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 5 ロバー@みっけポン 20/12/16 23:36:11 ID:8qQICRC. [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告




男「……うぁー、クラクラする……なんだ今の……」チカチカ

ピクシー「ぴきゅ〜〜〜……」コンラン

男「怪しい光……いや今の光は怪しいどころじゃないだろ……」

男「外……はいつも通りだな、なんだったんだ今の……」

???「………」

男 (……ん?気配……?)

???「……ねぇ」

男「はいっ!?」ビクッ!

???「………」

男「ど、どなたでしょうか……」オソルオソル

不審者か?朝起きてから現在までの非現実的とも思える光景から繋げると、男からは強盗犯か何かしか思い浮かばなかった。

ゆっくりと背後の気配に視線を寄せる。閃光弾、若しくはポケモンのフラッシュで眩ませてから忍び込むタイプの泥棒……かと思ったのも束の間。

男の見たものは、人の形をしていなかった。

男「………お、おぉ……?」

???「………」

男「ぽ、ポケモン……?」

???「……そうとも言う」

男「え、喋って……あ、テレパシーってやつ……?」

???「話が早くても助かる」

男「えーっと……う、腕?凄いなそれ……」

???「昔はこれに篭ってたから」

男「へー、コクーンみたいだな」

???「嬉しくない」

男「あはは……ごめんごめん……で、なんだけど……」

???「何?」

男「……君、誰?」

???「………」

???「……神」

男「……はぁ?」
 ▼ 6 ガライボルト@きんのはっぱ 20/12/17 07:45:47 ID:NgAwGJJE [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
男「……そういうキャラ?」

???「違う」

男「ポケモンの割には冗談がお上手ですこと」

???「違う」

男「いや……だって神って……」

???「私は神」

男「すげー力強いなその言葉……」

???「本当のことだから」

男「へー……」

???「信じなくてもいいけど」

男「いや信じられるか」

???「ポケモンで神なんて、考えればいくらでも思いつく」

男「まあ確かに……ユクシーアグノムエムリットとか居るよな、昔本で読んだ」

???「私も、神の一角」

男「……ていうかさ、神の前にポケモンなんだろ?」

???「そう」

男「お前がどういうポケモンなのか知らないと信じようが無いんだよ」

???「………」

???「……カプ・コケコ」

男「おん?」

カプ・コケコ「私の名前、ポケモンとしての私の名前」

男「へー……聞いたことないな」

カプ・コケコ「そして……」


カプ・コケコ「私は、貴方の守り神」

男「………はぁ?」
 ▼ 7 ャラランガ@あなぬけのヒモ 20/12/17 08:56:07 ID:NgAwGJJE [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




男「…………」モグモグ

コケコ「………」ジー…

男「……なんだよ」

コケコ「野菜好きなの?」

男「見られてると食べにくいんだよ」

コケコ「それ……貴方のおばあさんの家で育てた野菜?」

男「お前何で知って……ハッ、もしや守り神と偽ってずっとストーカーを!?」

母「ちょっと、誰に喋ってんのよ」

男「はっ!?あ、いや……ピクシーに……!」

母「ピクシーちゃんなら左側に座ってご飯食べてるでしょ?」

ピクシー「ぴっきゅ」モグモグ

男「え、あ、そうだよな……」

コケコ「……変人?」

男「誰のせいだと思ってんだよ!!あと他の人に姿見えないんだったらこういう時に話し掛けんな!!」

コケコ「そっちの子には見えてるはず」

ピクシー「ぴっぴ!」グッ!

男「ほーんなるほど……ポケモンには基本的に姿は見えてて、俺はお前が守護神として憑いてるから姿は見えてて……って訳わかんねえよ」

コケコ「単純な話よ」

男「……お前ちょっとピクシーの方行け」

コケコ「……何?」スイー

男「あー……コホン。いいか、お前には後で聞きたいことが山ほどある」

ピクシー「ぴきゅ?」

コケコ「この子に話しかけるフリなんてしなくていいのに」

男「バレたくねえんだよ、精神状態おかしいって思われんだろ」
 ▼ 8 ッカニン@ようせいジュエル 20/12/17 13:07:32 ID:3Dn6skqo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
♀コケコとな
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 ▼ 9 ノワール@シーヤのみ 20/12/17 16:13:29 ID:EeLAoTjM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告



朝日が差し込む男の自室。
部屋の鍵や窓など全てを閉め切り、男はまるで戦闘態勢とも見て取れるような形で話を切り出そうとしていた。


コケコ「神を自分の部屋に連れ込むなんて、何するつもり?」

男「おめーはさっき自分から入ってきただろうが!!」

ピクシー「ぴっきゅ!ぴぃー!!」ソウダソウダ


神を名乗るポケモンは何処吹く風といった様子で緊迫した空気を崩す。


コケコ「冗談」

男「やめろよ仮にも神が冗談とか……」

コケコ「そう、私は神。貴方の」

男「そうだそれだよそれ!お前一体何なんだよ!!」


若干キレ気味の男は、カプ・コケコの身体を掴むような勢いで問いただした。


コケコ「だから、私は神」

男「それはもう分かったよ!!お前が神だろうが仏だろがこの際何でも信じてやるよ!!」

ピクシー「ぴぃっ!?」

男「俺が言いたいのは!!お前が何で俺の守り神なんだって話なんだよ!!」

コケコ「………」

ピクシー「ぴっぴぃ……」コワイヨ

コケコ「……私は、貴方のことを知っている」

男「はぁ?」

コケコ「でも、何故貴方の守り神になったかは……今は言えない」

男「何だよそれ……」

コケコ「嫌いになった?」

男「いや嫌いも何も……俺はお前のこと全然知らねえんだけど」

コケコ「……ほんとに?」

男「いや訳わかんねえよ」


おちょくられているのか、はたまたただの天然なのか。
素性の知れない自分の守り神であるカプ・コケコに対し、男は早々にお手上げ状態だった。
 ▼ 10 ルード@ほのおのジュエル 20/12/17 16:27:59 ID:EeLAoTjM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
コケコ「もう一度言うけど、私は貴方の守り神」

コケコは男の部屋をスイスイと飛び回りながら宥める。
エロ本でも探しているのだろうか。正直やめてほしい。仮にも神にそんなものが見つかったら悪いことしか起きる気がしない。

コケコ「だから、貴方の邪魔にはならない」

男「既に邪魔なんだけど」

今まで相棒のピクシーとのんびり部屋で過ごすことが何より落ち着く時間だった男は、電撃のように眩しい雰囲気を放つコケコが部屋にいるだけで気が散ってしまうのだ。
現代っ子の悪い所と言うべきか。あまり騒がしいのは好まない。

コケコ「貴方を守るのが私の義務だから」

男「義務ってことは……お前は望んで俺の守り神になったんじゃないってことか」

コケコ「………」

男「……おい、なんか答えろよ」

コケコ「内緒」

男「あぁ!?」

ピクシー「ぴっ!ぴっぴぃ!!」オチツケ

正直、こうスムーズにやり取りをしているものの、男の中ではまだ完全には信じることが出来なかった。

朝起きたら突然自分の守り神と称するポケモンが部屋に殴り込んできて……あれだのこれだの、明らかに1時間弱という短い時間で起こって良いことではない。

男「……あー、まあ……いくつか聞きたいことがあるから改めてまとめよう。まず1つ目は、どうして俺とポケモン以外には見えないのか」

男はコケコの身体に触れようとするが、まるで空気を触れているような感覚しかしない。
実体が無いのだ。

───まあ神ってそういうものか……

そう思い込んでみたものの、やはり実際体験してみると薄気味が悪い。


コケコ「別に」スイッ…

男「なっ……き、消えた……?」

コケコ「こんな風に」ピトッ

男「ひょわっ!?」ビクッ!

コケコ「実体を生み出すこともできるけど?」

男「………」


分かりました。貴方様が神だと認めます。
負けた気分になるという理由で声には出さなかったが、今度こそ本当にお手上げだ。

ポケモンという不思議な生き物が存在するこの世界に生まれてはきたが、今まで神など信じてこなかった男にとっては刺激が強すぎた。
 ▼ 11 ルペコ@つめたいにんじん 20/12/17 17:27:53 ID:Ay3k/.s2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 12 ウワウ@ようきミント 20/12/17 22:49:02 ID:8TnEIAxg [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
背中が冷えきっていた男は、元の調子を取り戻すために無理やり会話を続けた。

男「えー……っと、じゃあ2つ目だけど……」

コケコ「これからどうするつもりなのか」

男「怖……なんで分かったんだよ」

コケコ「神だから」

男「お前それ言っておけば通じると思ってんだろ……」

コケコ「もちろん、貴方の守り神として様々な災難から守っていくつもり」

男「……はぁ」

コケコ「それが私の使命だから」


妙な不審感すら感じた。
何故初めて会ったはずの、見ず知らずの人間の男にここまで尽くすのか。何か企んでいるんじゃないんだろうか。

テレパシーとはいえ人間と会話が可能なポケモンだ。その能力を悪用しようと思えばいくらでも出来るだろう。

男「……じゃあ、これは今思いついた質問なんだけど」

コケコ「何でもどうぞ」

男「何で……俺にそこまでしてくれるんだ?」

コケコ「………」

男「念の為聞くけど……俺たちが会ったのって初めてだよな?」

コケコ「それも……内緒」

男「……そうか」

あくまで素性を隠し続けるのか、詳しいことは何も話さないつもりのようだった。

コケコ「ねぇ」

男「……なんだよ」

呼び掛ける声とともに、男の手は自然とカプ・コケコの顔に向かって撫でるように動き出した。
自分の意思ではないが、これも神の能力の1つなのだろう。

男は抵抗することはない。守り神の見た目とはまるで正反対な静けさに流されていたのだ。

コケコ「触れているでしょ?」

男「……お前、意外とあったかいんだな」

コケコ「実体を生み出した時は、あくまでポケモンだから」

顔から胸元にかけての灘らかな曲線を撫でても抵抗すること無い。

神はあくまで一体のポケモンで、それでいて綺麗だった。
 ▼ 13 ガユキノオー@ぎんいろのはね 20/12/17 22:59:07 ID:8TnEIAxg [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
コケコ「何度でも言う」スゥッ…


触れていた掌に感覚が無くなった。


コケコ「私は貴方の守り神」


カーテンの隙間から微かに差し込む光とは別に、空中に移動した守り神の周辺は微かにキラキラと輝いている。


コケコ「何故貴方なのか、何故私なのか」


思わず押し黙ってしまうような特有の威圧感とは別に、安心感すら感じる雰囲気を纏っていて。


コケコ「それはこれからゆっくり教えていくつもりだから」


再び実体を纏い、守り神は両手を拘束する殻で男の頬を撫でる。


コケコ「だから私に任せなさい」


何度でも言うが、にわかには信じ難い事だ。


急に自分の守り神だとかなんだとか喋り尽くして、しまいには自分の全てを委ねろとまで。


だが男の中の不安感は既に消えていた。


むしろ───こいつは本当に神なんだと確信してしまうほど、男は守り神にまるで言いくるめられたかのように自分を預けてしまったのだ。
 ▼ 14 レユータン@ライボルトナイト 20/12/17 23:31:04 ID:8TnEIAxg [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告




男「お前何着いてきてんだよ」

コケコ「貴方を守らないといけないから」

男「だからって買い物にまで着いてくる必要ねぇだろ!!」

コケコ「だって私は貴方の……」

男「あー分かった分かった!そのくだりはもう飽きた!」

コケコ「………そう」

男「分かりやすく落ち込むなよお前面白い奴だな……」

コケコ「あんまり嬉しくない」

男「だって褒めてねぇし」


───いくら守り神とはいえ、あまりプライベートにまでベッタリとは思ってなかったんだが?
ここで逆にからかってやったらどうなるんだろう、コイツ。

守り神などという面白い存在が実在することを知った男は、内心面白がりながらも仕返しのような形で───


男「お前、俺が今から何買いにいくか分かってんのかよ」

コケコ「分からない、気になる」

男「エロ本」

コケコ「………………」


おお、表情には出てないけどあからさまに動揺したぞコイツ。
ぴたりと止まった守り神に対し、男は更に追い討ちをかける。


男「ちなみにこういうやつ」


男がかざしたスマホには淫猥な表紙と共に、『パイ〇リシンドローム』というタイトルが。
困れ困れ。離れていく勢いで困ってしまえ。

心の中でニヤつきの止まらない男は動きを止めたコケコを観察していたが、返ってきた答えは予想だにしていなかったもので。


コケコ「興味はある」

男「は」

コケコ「一緒に読む」


コイツ、どうして俺が困るようなことしかしてこないのか。
他人をからかうことに慣れていない男は、出会って早々から頭を抱えることになった。
 ▼ 15 ガハッサム@ジャラランガZ 20/12/18 06:54:19 ID:yTaMjPHI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 16 シギダネ@トポのみ 20/12/18 07:00:08 ID:RqKMc7CU [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告




男「店内だから小声な」ヒソヒソ

コケコ「ふうん、分かった」

男「えーっと、ポケモン神話……この辺か?」

コケコ「さっき探してた本はそこにあるの?」

男「あるわけねぇだろタコ、てか本気で読みたいのかよ」

コケコ「少し」

男「……お前、一緒に読んでる時に俺が興奮し始めたらどうするつもりだよ」

コケコ「汚いものは切除するわ」

男「あのさ、お前って一応俺の守り神なんだよな……?俺の体の一番大事な部分切除してどうすんの……?」

コケコ「この世に汚いものなんてらいらない」

男「……左様ですか」


男が手に取った本を捲る。
ポケモンの神話が書かれた、少しだけ対象年齢が低めの読みやすい本だ。

今まで勉強を十分にせず、アルバイトばかりしていた男にとっては丁度良いのだろう。


男「お、あったあった……行き場のない神達の一生……」

コケコ「ねぇ」

男「あ?なんだよ、今いいとこ……」

コケコ「あれ、さっき貴方が見せてきた本じゃないの?」

男「……お前、あんまりエロ本コーナー凝視しない方がいいぞ」

コケコ「どうして?」

男「……目に悪いから」

コケコ「目に悪いなら貴方もこれからこういうのはお預けね」

男「俺はいいんだよ」

コケコ「ダメ、私は貴方の守り神だから」

男「お前そのセリフ好きだな」


明らかに乱用すれば通じることを学習している。
まあ、神だからな……
 ▼ 17 ムッソ@でんせつのメモ1 20/12/18 07:55:26 ID:Bsms6i.o [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

コケコ「貴方を常に安心できる状態にしてあげないと」


そう言うとコケコは本棚からあからさまにいやらしいカバーを纏った本を取り出す。


男「……マジで読みたいの?」

コケコ「貴方が気にしているものは私も気になる」

男「マジか……」

コケコ「本当はこの本を買いに来たんじゃないってことくらい分かるけど」

男「おい!!」

コケコ「貴方を揶揄うの、少し楽しくなってきた」

男「人で遊ぶな」


男はふわふわと浮いている社会的に危険な本をコケコから奪い取り、棚に戻した。


男「……とにかくこれは神様が読んでいい本じゃありません」

コケコ「残念」


とはいうが、明らかに男を弄んでいるだけに見える。

──俺、こいつに試練でも与えられてんのか?

本当にただのきまぐれ……としか感じられない部分もあるが。


コケコ「まあ……それでも構わないけど、私は貴方を守るのが使命でもあって趣味でもあるから」

男 (趣味悪いなぁ)


店員に会話を悟られないよう視線を交わし、店を出ようと一歩踏み出した時。


コケコ「例えば」


体が店の方に引き戻される。

神の力だろうか。かなり強い引力だった。

まるで男を危険から守るような───


──あ、そうだ、これ。

これが守り神の力なんだなぁ。
 ▼ 18 ニスズメ@ともだちてちょう 20/12/18 08:10:39 ID:Bsms6i.o [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

これが何なのか瞬時に理解することは出来なかったが、直ぐに分かった。


男の目と鼻の先を轟速で何かが横切っていった。

車か?いや、ここは歩道に直結している。事故とも言いきれないが、あれは───


コケコ「ケンタロスは暴れると誰も手をつけられないのは知ってる?」

男「あ、あぁ……」

コケコ「今、近くの牧場から逃げ出してるんだって」


ニュースなど見ない男は気付かなかったが、今横切っていったのは男の住んでいる地域に佇む牧場から逃走した一体のケンタロスだった。

幸いにも辺りに人もポケモンも少ないため大事には至らなかったものの、もし自分があのまま店を出ていたら……


コケコ「ねぇ」

男「……はい」

コケコ「……どうなってたと思う?」

男「……おみそれしました」


───これ、もし今日こいつが来てくれてなかったらどうなってたんだろう。

男は背筋にゾワゾワした感覚を走らせながらも、守り神という存在の偉大さを改めて感じていた。


こいつ、やっぱり本物だ……
 ▼ 19 ョンチー@がんせきおこう 20/12/18 08:48:08 ID:6H8o7Azk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
いいしえん
すごいしえん
 ▼ 20 ブンネ@こだいのうでわ 20/12/18 15:45:44 ID:RqKMc7CU [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
その後も………


コケコ「危ない」グイッ

男「おわっ!?……って、ヤヤコマの糞!?」

コケコ「違う、この形と水分量はココガラ」

男「どうでもいいわ!!」


───


コケコ「……!止まって」

男「え、何……」

コケコ「失せなさい」パシンッ…

クスネ「くゅっ……」

男「うわっ、この辺のイタズラ小僧」

コケコ「本、盗まれなくて良かったね」

男「お前……すごいな」


───


コケコ「待って、そこの右の曲がり角にケンタロス」

男「またケンタロス!?」


男に次々迫り来る日常の負の要素を、コケコはまるで埃を軽く掃きとるかのように男に寄せ付けることなく……男を守っていた。


───

男「お前すごいな!?」

コケコ「神だから」

男「本当それ好きだな」


そうは言っても信じざるを得ない領域まで達していた。

男は普段運が良い方とは言えないし、特別悪いわけではない。

だからこそ、今日起きた負の連鎖は普段であれば避けることが出来なかったはずだ。


男 (こいつの事、よく調べる必要があるな……)


男は先程購入した神話の本を開くと、中々興味深い項目に目を止める。
 ▼ 21 ャラコ@ロックカプセル 20/12/18 16:20:26 ID:amiw7.Xc [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
男「『行き場を失った神の行く末』……なぁ、これは?」

コケコ「一概にそうとも言えないから」

男「おい、自爆してんぞ」


自分の守り神……何故そんな都合の良い神が自分に取り憑いたのか。

そもそも意志を持ち、人間とも不自由なく会話ができる神が急に自分の守り神になど……


男「お前、元はどこか別の場所に居たんじゃないか?」

コケコ「察しが良いこと」

男「まあ、俺にこんな都合の良い事そうそう起こるはずないからな」

コケコ「言っておくけど、都合の良いことは突然やってくるものよ」

男「とはいえ俺は今まで徳を積んで来たわけでもないんだぞ」

コケコ「今まで頑張ってきたご褒美とでも思えばいいの」

男「とてもご褒美とは程遠いんだけどなぁ……」


───今まで自分からは語ろうとしなかったけど……これ、俺が問い詰めていけばこいつの事全部わかってくるんじゃないか?

調子を掴んできた──もとい、調子に乗り始めた男は自分の頭で考えつく可能性でコケコを追い詰めようとする。


男「なぁ、この行き場を失った神っていうのは……」

コケコ「私から言えることはもう終わり」

男「なっんっでだよ!!」

コケコ「楽しみを一気に消化しちゃつまらないでしょ?」

男「別に楽しみでもないぞ」

コケコ「段々とたのしくなってくるから、これからね」

男「……?」


少し引っかかる言葉。

何か企んでいるか、隠しているかは明らかだったが、あくまでも相手は神。

あまり調子に乗りすぎると天罰を下されそうだ。

素直に諦めた男は愛用する自室のベッドに倒れ込む。


男 (あー……なんか今日はどっと疲れたな……)


男の一日分──いや、1ヶ月……半年分と言っても過言ではない疲労を、ふかふかのベッドは快く受け入れていた。
 ▼ 22 ガカメックス@じてんしゃ 20/12/18 16:28:38 ID:amiw7.Xc [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
コケコ「ねぇ、もう寝るの?」

男「メシの時間になったら起こして」

コケコ「この子は?せっかく帰って来たのに相手にしてあげないの?」

ピクシー「ぴ?」

男「そいつは1人でも適当に遊んでいられるんだよ、俺と似て」

ピクシー「ぴー……」ソノトオリダガナンカヤダ

コケコ「不服そうだけど」

男「気になるんだったら相手してやってくれ」

ピクシー「ぴぃ……?」

コケコ「どうしたの?」

ピクシー「ぴぃぴ……」ジー…

コケコ「………」

ピクシー「ぴっぴー……」ジー…

コケコ「……そう、あなたは……」

男「おい、何話してんだよ」

コケコ「内緒だから大人しく寝てなさい」

ピクシー「ぴー」シー

男「ちょっと酷いなそれ」

コケコ「疲れたんでしょ、休んだ方がいい」

男「……お前も一晩ここで過ごすのか?」

コケコ「それでもいいけど、私は貴方の住むこの街に少し興味があるの」

男「夜遊びするってことだな」

コケコ「私も1人で遊び回れるタイプ」

男「……へー」

コケコ「一緒」

男「一緒にすんな」

コケコ「嫌?」

男「あんま揶揄うなよ慣れないから……」

コケコ「ごめんね」

ピクシー「びぴっ……」プークス
 ▼ 23 リーン@しろいハーブ 20/12/18 17:47:24 ID:8Z6Eq0Es [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
今まで男の傍についていたコケコは、名残惜しそうに男から離れる。

コケコ「一緒に行く?」

男「行くわけねぇだろ」

コケコ「そう、残念」

男「もう寝ていいか?」

コケコ「どうぞ」


正直疲労が限界だった。

キャパシティを軽く超えた出来事。少し寝るだけで回復するとは思えなかったが、何せ男もただの人間である。睡眠に勝る回復手段はない。


コケコ「主」

男「っ………!」


冷静さと暖かく包み込むような優しさを感じる落ち着いた声で呼ばれる。

──そうか、俺はこいつに憑かれてるから……俺は主なのか。

正直神の主なんて恐れ多い上に、本来ならば俺が下に立つ立場なんだろうが……

つまり、神を従えている……うん、なんかいいかも。こういうのいいな。


コケコ「明日は……もっと楽しくなるからね」


そう言い残し、きまぐれな守り神は男の部屋から気配を消した。


男「もっと楽しくって……アイツ俺が今日楽しんでるように見えたのかよ」


コケコの最後の言葉にムズムズしながらも、そんなものを全て忘れさせてやるかと言わんばかりに睡魔は男の意識を支配した。

まぁ、夕飯の時間など気持ちよく無視して朝までぐっすりだったのだが。
 ▼ 24 ャローダ@しんぴのチケット 20/12/18 17:57:22 ID:8Z6Eq0Es [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告




ピクシー「ぴっ……ぴきゅっ!ぴきゅっ!」ユサユサ

男「……ん〜〜〜……」


相棒の可愛らしい鳴き声が男の意識をはっきりとさせていく。

薄目を開けると、カーテンの外側は光が広がっていた。

──そうか、俺は朝まで……

正直母親に起こされるよりも目覚めは良いものだから、こうやって相棒の声で目を覚ますのをモーニングルーティンにしたいものだ。


ピクシー「ぴーーー!!」ユッサユッサ


──おぉ、なんだ。そんなに俺と朝から遊びたいか。可愛らしい奴め。

呑気にそう考えていたが、ピクシーが騒いでいた理由は直ぐに分かった。


何か居る。


昨日とは気配が違う。なんだか懐かしい感じの……田舎の……緑?草木が茂るような……心地よい匂いだ。

おかしい。それはきっと昨日のアイツよりも……分かりやすく表すならお淑やかな匂いなのに、なんだかうるさい。

気付かないうちに気持ちよく二度寝の世界へ入りかけていたというのに、無理やり現実世界へ引っ張り出されるような……


???「すぅぅーーー……」

男「うっ……ぐぐぐ……」ギリギリ

???「おはよーーーーーございまーーーーーす!!!」

男「おぉぉぁぁああっ!?」ガバァッ!!
 ▼ 25 チコール@カイロスナイト 20/12/18 22:11:15 ID:8Z6Eq0Es [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
男「な、なんだ!?なんだよ!?」

???「おぉ、お目覚めですかご主人様!」

男「……???」

???「夜明けからずーっと傍にいたのに明るくなってきても全然目を覚まさないものですから……我慢できず起こしてしまいました!」

男「いや……は?」


目を覚ますときっとアイツが居ると思っていた……が、目の前に居たのは姿形も全く違う別人……もとい別のポケモンで。


男「だ……誰?」

???「オー、申し遅れました!私は貴方の守り神その2でございます!」

男「……名前は?」

???「カプ・ブルルです!」

男「……すごい名前だな」

カプ・ブルル「あはー、ブルルとお呼びください!」


まるで草原と化したかのように爽やかな匂いに包まれる男の自室を、カプ・ブルルと名乗るポケモンは軽やかに飛び回る。


ブルル「昨日は姉がどうもお世話になりました!」

男「あ、姉……お前アイツの……」

ブルル「麗しき守り神姉妹の末っ子でございますよ!」

男「姉妹って……そうか、お前ら女の子か」

ブルル「厳密には神に性別はありませんが……」

男「じゃあオカマか」

ブルル「レディとして扱ってくださいませー!」

男 (なかなかうるさいなコイツ)
 ▼ 26 ローン@ドラゴンのホネ 20/12/18 22:47:41 ID:8Z6Eq0Es [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
男「ちょっと待て!?俺の守り神は昨日のアイツのはずだが!?」

ブルル「コケコ姉様のことですかー?」

男「そう!コケコ!あの気まぐれ守り神様!!」

ブルル「コケコ姉様は今日はシフトお休みですよ?」

男「……は?シフト……?」

ブルル「冗談でーす!」

男「お前なぁ!?」

ブルル「あーはー!」フワフワ


守り神というのは、守るべき対象を揶揄わなければ死ぬのだろうか。

連日のツッコミの嵐にぐったりしている上に、ツッコミというのは自分が何を言っているのか段々分からなくなってくるのが弱いところ。


ブルル「何故守り神は一匹じゃないのか!……って聞きたそうな顔をしていますねー?」

男「……おう、皮肉にも理解が早くて助かるよ」

ブルル「もっと褒めてくださーい!」

男「後で褒めてやるから教えろや」

ブルル「もー、ご主人様は『ソーロー』ですねー?ヨーソロー!」

男「何でもいいから早くしろ」

ブルル「はいはーい……何故姉様に続いて私もご主人様の守り神なのか!それは……」

男「っ……」ゴクリ

ブルル「そ・れ・は〜……!」

男「………!!」

ブルル「内緒でーす!」

男「お前ちょっと、ちょっとそこに直れ、俺の目の前に、なぁ」ゼンリョクツネリ

ブルル「い、いふぁいれふごひゅじんはま〜!ひゅみまへんれひたぁ!」ジタバタ

男「いいか、ご主人様をおちょくるとこうなるんだぞ」

ブルル「うぅ……反省してまぁす……」
 ▼ 27 コリータ@くちたけん 20/12/19 00:02:28 ID:07lA6SuA [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
ブルル「で、でも!本当にそれは内緒なのです……コケコ姉様から止められてるのです!」

男「あいつ……どこまで俺に追いかけっこさせれば気が済むんだよ……」

ブルル「その代わり!昔話ならしてあげられますよ?」

男「パル太郎はもういらないからな」

ブルル「わーお、桃では無く殻をお破りですかー?」

男「やかましい」デコピン

ブルル「ひゃー!」キャッキャ

男「……そういえば」


なんやかんやとやかましい守り神とじゃれあっていると、あることに気付く。


男「お前はコケコと違って常に実体はんだな」

ブルル「常に?」

男「ほら、神って普通は触れないんだろ?あいつは常に俺以外の人間には見えないようにしてたからさ」

ブルル「あー……アレですか……」

男「何かマズイこと聞いた?」

ブルル「いえ、そういうわけじゃないのです……ただ……」

男「……なんかゴメン?」

ブルル「ち、違います!ご主人様は本当に何も気にしないでくださーい!あれは姉様の気遣いというか……」


ブルルは迷ったような表情を見せると、仕方なさそうに理由を述べ始めた。

これ、やっぱり聞いたらいけなかったんだろうか。


ブルル「私達はあくまでポケモンですので、人に見える姿というのが普通なのです!」

男「え、そうなのか?」

ブルル「えぇ、ただ……私達神と呼ばれしポケモンというのは、必ず同じ世界に2体以上存在することはありません!」

男「つまり……珍獣?」

ブルル「言い方はちょーっと違いますが、見たことないポケモンだと騒がれてもおかしくはありません!」

男「…………!」


なんてこった。

男は正直驚いていた。

──あいつが常に他人に見えない姿で過ごしていたのは、男が悪目立ちしないように……俺への気遣い……?
 ▼ 28 ュバルゴ@よつばアメざいく 20/12/19 06:27:17 ID:RprofcPw NGネーム登録 NGID登録 報告
男「ん?だったら余計俺の部屋にいる時は姿が見える状態で居てもいいんじゃないか?」

ブルル「あーはー……それは……乙女心ってやつですね!」

男「はぁ?」

ブルル「ご主人に必要以上に触れられないために!ってことだと思いますよ?」

男「……俺もしかしてあいつに嫌われてる?」

ブルル「ノンノン!だーかーら、『乙女心』ですよ!」

男「じゃあ大好きってことか!?」

ブルル「わーお、ご主人様は意外と自惚れがすごいですねぇ!」

男「ほっとけ!」

ブルル「ま、とにかく!普段だったら私達は普通のポケモンと同じですので……」


手を握るように両手を合わせて掴まれる。

昨日のアイツと比べて少しひんやりしている。牛のような蹄が付いているからだろうか。

いや、そもそも蹄って冷たいのか……?


ブルル「ご主人様でしたら身体のどこでも触り放題ですよ?」

男「やめろ冗談キツいわ!!」

ブルル「あーはー、そういえば昔話するんでしたね?」

男「そう!それだ!昔はどうやって生きてきたかとか、色々教えてくれんだろ?」

ブルル「もしかして、姉様からのバトンですかー?」

男「なんだよお前知ってんのか?」

ブルル「ただの予想ですよー!」


出会ってたったの数分だが、こいつのことを掴めて気がする。


ブルル「むかーしむかし、ある所に……」

男「おい、ジジババは要らないからな」

ブルル「とある遠い地方に、4つの島がありました!」

男「……よし、まともだな」
 ▼ 29 ルキア@シルバースプレー 20/12/19 07:05:57 ID:t8Q6zkn. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 30 ジロック@ヨクアタール 20/12/19 09:06:38 ID:4Bkw.gS6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ブルル「私達は島の守り神を担ってまして……あ、今はもう島は無いんですけどね?えーっと、だからこそ行く末が無くなって……あ、神っていうのは行き場がなくなるとですね?」

男「分かった分かったから落ち着け、話まとまってねえぞ」

ブルル「あはーすみません!」


短いがここまでの話で1つ掴めたことがある。
こいつらは腐っても神様で、かなり昔から存在しているということ。

4つの島が存在する、守り神が居る、今はもう存在しない島……


男「……昔本か何かで見たな」

ブルル「まー、そこそこ有名ですからねー」

男「一応あの地方の守り神だったんだろ?そんな凄い神がどうして俺の……」

ブルル「ふむぅ、先程も申した通り、神というのは行き場を失えば存在意義はなくなるのです」


今までの楽しそうな雰囲気から打って変わって、少し切なそうな表情を見せる。


ブルル「私達、島の守り神じゃなくなってから……ずーっとひとりぼっちだったんです」

男「………」

ブルル「何事にも囚われない、ただそこに居るだけの神……姉様達とも離れ離れになってしまいましたね」

男「……お前ら、俺の守り神になる前はどうしてたんだよ」

ブルル「世界のそこら中で、祠の中で過ごしていましたよ?」

男「祠かぁ……見たことあるような……」


──もしかしたら、時々人気のない場所に見掛ける祠というのは、行き場のない神が納められている場所なんだろうか。

──それなら俺にも記憶がある。子供の頃、この辺りの近くの小さな森の中……


ブルル「何故揃ってご主人様の守り神になったかはまだ内緒ですけど、みんな揃ってハッピー!ですね!」

男「なんか急に壮大な話を聞かされた気分だな……」

ブルル「あはぁ、ヒストリーの授業だと思って気軽に聞いてくれて構いませんよ?」

男「というか、一番大事なことまだ聞けてない気がするんだけど」

ブルル「そこはいつかコケコ姉様の口から聞けることを祈っていてくださーい!」

男「…………」


あくまで焦らず……というか長引かせるつもりなのだろう。

正直神の素性も知れずに憑かれてこのままでいいのか、と思うところもあるが。
 ▼ 31 オタチ@やんちゃミント 20/12/19 16:04:46 ID:yBkg80ik [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
男「そういえば、お前も守り神なんだろ?」

ブルル「はい!そうでございますよ?」

男「じゃあ……昨日のアイツ……コケコみたいに俺を危険から守ってくれたりするのか」

ブルル「モチのロンですよー!見ててくださいねー……むむむー……ハッ……!」


ブルルは何か唸り始めたと思いきや、思い出したかのように目……と思わしき部分を大きく開く。

ブルル「警告です!ご主人様は……今何か大切なことを忘れています!」

男「大事なこと……?」

ブルル「詳しいことは分からないんですが、何かとても……大事なことを……むむむーん……!」


何気なく時計に目を向ける。

時刻は8時36分。休みの日ならばゆっくりと寝ていられる時間だ。


男「……あ」


男の顔が一気に青ざめる。
目の前が真っ暗になった……とでも表現すべきか。そんな感覚。


男「今日……9時からバイトだ……」

ブルル「……わ、わーお……」


前言撤回。やっぱりこいつらは凄い神とかじゃない。ただのポンコツだ。

愛しの相棒にアホ神様との留守番を頼んだ時点で偉大な神とかじゃない。

「アホとはなんでございますかー!」と怒った声も聞こえたが、気の所為ということにしておこう。それどころじゃない。

漫画やアニメでしか聞いたことがない「遅刻だあああ!」という台詞も自分の口から言うことが出来たので、まあ貴重な経験にはなっただろう。

──ああ、なんて彩り豊かな人生なのだろう。素晴らしき日々とはこういうものか。

頭を抱えつつも、退屈とは無縁になりそうなこれからの人生にほんの少しだけ期待を抱くのだった。


まあ、結局遅刻した上にバイト先からはこっぴどく叱られたのだが。
 ▼ 32 グマラシ@クリティカッター 20/12/19 17:23:48 ID:07lA6SuA [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告



─────────────

──珍しく、夢を見た。

いや、夢くらいなら毎日とか言わないがよく見るのだが。

ガチゴラスに追いかけ回されたり、マルノームが空に向かって口を開けると花火が打ち上がったり、夜空でケンタロスが踊ってたり。

そういう夢らしい夢じゃなくて、もっとはっきりした───表現はあまり良くないが、走馬灯のような。

見覚えのある森の中。俺は小さい身体でひたすらに駆け回る。

迷っているわけではなさそうで、目的の場所へ一心不乱に駆けていく。

あぁ、段々思い出した。

ここは、俺が幼少期に1人で遊びに来ていた小さな森。木々の隙間から太陽の光がぽつぽつと漏れている様子が、子供ながらも幻想的だと感じていたあの場所。

俺はこれから友達に会いに行く。

イマジナリーフレンドだとか、そういうものではないが、実在するものでもない。

いわば、友達が少ない俺の寂しい1人遊び。

でも、俺はその場に居る時は不思議と1人という感覚はしなかった。

ピッピだってボールに入れて連れてきた。だがそれ抜きにしても、俺が目的地としている小さな祠からは、ただそこに佇むだけではない何かを感じていた。

──そこに何か居る。

悪い気配ではない。何か神秘的な……人やポケモンからは感じられないようなオーラだった。

その頃の俺は、「こんなオーラを感じ取れる俺かっこいい!」としか思っていなかったようだが。

辿り着いた先には、やはり小さな祠がぽつんと立っていた。

ガキとはいえど礼儀は一般知識として頭に入っているようで、二礼二拍手一礼を忘れない。

なんだか輝いて見える祠は、じっと俺を見つめていた。

不思議と視線を感じたのだ。

──あぁ、そうだ。お供え物も忘れてはいけない。

俺は手に抱えていた袋の中から、色とりどりの供え物を───


 ▼ 33 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 20/12/19 17:25:30 ID:07lA6SuA [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
最後まで書くっていう戒めでコテ付けるわ
 ▼ 34 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 20/12/19 23:03:11 ID:yBkg80ik [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告




今日も居るんだろうなぁ。

朝起きて早々頭に浮かんだ考えがこれだ。部屋中に不思議な空気が漂っていたのももちろんだが、1日目、2日目と続けて3日目が無い訳が無い。

寝起きは身体が重く、怠さを感じるのが普段の感覚なのだが、何故だか男の身体はふわふわと浮くような感覚──つまり『不思議感』と表現するのが正しいのだろうか。


男「……バトルを見に行くとよくイエッサンが張り巡らせてる……あれか、サイコフィールド」


既に察しはついていた。

──アレだろ、これはアイツらと同じ類の奴。二度あることは三度あるってやつだ。


男「どこだ……?」キョロキョロ


姿を消しているのだろうか。奴は部屋のどこを探しても見当たらない。

神って何でもありだな。


ピクシー「ぴっぴ」クイクイ

男「ん?」


相棒の指差した先。

まるで蜃気楼のように空気が歪んでいた。


男「おい、出て来いや」

???「ひっ……!?」

男「恥ずかしがり屋だかなんだか知らないけどよ、俺はもう分かりきってんだよ」

???「す、すみませ……」

男「あー、お前もあれか、俺の守り神の……第3号」

???「へっ……?あ、そ……そう……ですっ……」

男「ハイハイわかってましたよ、別に食ったりしないから出て来い」

???「あ、あの……わ、ワタクシ……怖くて……その、人間関係の男の人……」

男「…………」

???「ご、ごめんなさい……」

男「出てきてくれないなら窓から飛び降りるぞ」

???「わぁぁダメっ、ダメです!?コケコお姉ちゃんに怒られる!!」
 ▼ 35 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 20/12/20 21:27:02 ID:d60oTbTE [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告



カプ・テテフ「て……てふとお呼びください……」モジモジ

男「…………」ジー

テテフ「な、なんです……?」

男「お前可愛いな」

テテフ「や、やめてくださいまし!」サイキネ

男「やめろ!!照れ隠しで人間に対して使っていい技じゃねぇだろ!!」


口より先に……というか口と同時に手が出るタイプだろうか。

性格は正反対だが、なんだかんだ前に会った2人と比べて最も暴力的なのかもしれない。


テテフ「お、お姉ちゃんと妹が……お世話になりました……」

男「……おう」

テテフ「ど、どうしてそんなに微妙な反応ですの……?」

男「手に負えなくなってきてるからだよボケ」

テテフ「す、すみません……」

男「あ、ごめん言いすぎた、お前は悪くないよ多分」

テテフ「い、いえ!ワタクシ達は……実際ワタクシ達が悪いので……」

男「どういうことだよ」

テテフ「あぅ……そ、それは……その……」

男「あー分かった分かった!言えないんだろどうせ!!」

テテフ「お、怒ってますか……?」

男「怒ってるって言うかヤケクソだな」


一昨日、昨日と続いているためか、ある程度俺の中で何故こいつが俺の目の前に現れたのかは理解出来る。


男「こんな事に慣れちゃいけないんだけどな……」

テテフ「あ、あはは……ワタクシもそう思います……」

男「不本意なのか?俺の守り神になったのは」

テテフ「と、とんでもありません!ただ……や、やっぱりコケコお姉ちゃんから口止めされてて……」

男「またアイツか……」
 ▼ 36 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 20/12/20 22:15:31 ID:d60oTbTE [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
テテフ「ごめんなさい……せめてお姉ちゃんが……その、準備ができるまで……待っていてくれませんか……?」

男「何の準備か……ってのも言えないんだな?」

テテフ「ご、ごめんなさい……」

男「お前は悪くないよ、アイツが悪い」

テテフ「お、お姉ちゃんは頑張ってますから……!」

男「……まあ一昨日は世話になったからいいけど」


今日も1つの収穫。

恐らく、昨日のブルルといい今日のテテフといい、こいつらはコケコに振り回されているということ。

準備だの口止めだの言うが、まぁ四捨五入して振り回されているということだろう。

実験台にするなら他を当たって欲しいのだが、全てが分かるまでは待ってみても良い……というか少し気になる。


テテフ「わ、ワタクシ達は……コケコお姉ちゃんに迷惑してるわけじゃなくて……むしろコケコお姉ちゃんが迷惑してるかもしれない……というか……」

男「お、心読まれた?」

テテフ「うぇぇっ!?そ、そんなつもりじゃ……」

男「うーん、なんというかさ……こういう会話が円滑に進むのっておかしいよな……一般人の俺が理解していいことじゃないっていうか……」

テテフ「守り神は……一応人を幸福にするという使命もありますから」

男「幸せねぇ……」

テテフ「今はやはり不幸せでしょうか……?」

男「うんにゃ、ただちょっと変わってんなーとは思うぞ」

テテフ「わ、ワタクシもそう思います……」

男「自分の守り神という存在をこんなに易々と受け入れてさ」

テテフ「不思議な生き物が存在する世界ですから……不思議なことは四六時中起こっててもおかしくは無いはずですわ」

男「そういえもんか?」

テテフ「そういうもん……だと思います」

男「……まあ今更『もしポケモンが居ない世界だったら今はどうなってた?』とか聞かれても困るしな、お前達にとって不思議ってのは常に隣り合わせってことか」

テテフ「に、日常茶飯事ってやつですわね……」


こいつらも一応訳ありってのは分かってる。
だからこそ俺の守り神になった理由だとか諸々を早く教えて欲しいものだが。
 ▼ 37 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 20/12/21 09:32:27 ID:RXM2swHk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
男「にしても……日替わりって神としてどうなんだよ」

テテフ「あはは……それはワタクシも同意見なんですが……なんでもコケコお姉ちゃんが毎日一緒だと……あ」

男「な、なんだよ」

テテフ「これ、言っちゃいけないんでした……」

男「は?」

テテフ「すみません……今のは聞かなかったことに……」

男「ちょ、待て、気になるんだけど」


妹や姉と同じで、こいつも焦らしてくるのが上手いらしい。どう考えても今のは口を滑らせただけだが。


テテフ「ごめんなさい!全てはコケコお姉ちゃんの名誉を守るためなんです!!」

男「おい!せめてアイツが何を企んでるのかだけ!ヒントだけでも!」

テテフ「実は私も言いたくて言いたくて堪らないんですけど……」

男「じゃあ聞いたことは誰にも言わないから!な!?俺とお前の秘密!!2人の!!」

テテフ「ふ、2人の!?そんな……い、いやらしい響き……ダメです!!ダメダメ!!」

男「そういうつもりじゃねぇよ!!」

テテフ「そ、そんなことより!昨日ブルルちゃんから聞きましたわよ、お勤めは今日は大丈夫です!?」

男「あ、テメェ話逸らしやがったな!!」


意地でも口を開かないらしいが、男にはまだ希望がある。

こいつらが昔4つの島の守り神だったということは知っている。

今顔を合わせたのは三体。つまり最後の一体の神……そいつから上手く聞き出せば、こいつらの目的は分かるだろう。

──まさかとは思うが、これから先俺は永遠に見こいつらを従える……なんてことにならないよな?

 ▼ 38 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 20/12/21 15:32:00 ID:cRm.ZYNo NGネーム登録 NGID登録 報告
翌朝



男「…………」

???「…………」ジー


起床するや否や、顔面が目の前に。
吐息などは感じられないが、まぁ案の定昨日までの奴らと同じ雰囲気は感じられた。


???「…………」ニコニコ

男「顔近い」

???「うむ、おはよう」

男「……神?」

???「カプ・レヒレだ」

男「話が早くて助かる」


やはり今日も居た、疫病神……ではなく守り神。

おそらくコイツが男の予想していた4体目の守り神──最後の1体なのだろう。

身体を囲う殻……いや、これは身体の一部なのだろう。
そこからしなやかに伸びる長い髪のようなものが相まって、いかにも女神といった風貌だった。

部屋は僅かに掠れて見渡せるあたりから、こいつが生み出した霧が部屋に篭っているのだろうか。身体中にマイナスイオンが取り込まれて気持ちいい。気がする。


男「お前かわいいな」

レヒレ「ほう、ただのポンコツ喪男だと思ってはいたが……おなごの機嫌取り程度なら出来るようで何よりだ」

男「誰が喪男だお化けみたいな見た目しやがって」

レヒレ「どあほう、吾輩のどこがお化けだ」

男「……髪?」

レヒレ「あっはっはっは!」ケラケラ

男「あ、今のちょっとイラッときたからお前もう帰れ、チェンジで、できればもっと可愛い奴と」

レヒレ「冗談であろう、く、ふふっ……!思考が浅はかな奴め……ふ、くすっ……にしても……」

男「……?」

レヒレ「吾輩を『かわいい』と言ったのは……本心のようだな?」

男「悪かったな童貞臭くて」

レヒレ「ぶふっ……あ、ははっ……あっはっは!!」ケラケラ

男「やっぱお前出てけ!!」
 ▼ 39 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 20/12/21 16:25:37 ID:OsgQTboE NGネーム登録 NGID登録 報告




レヒレ「ご主人、この度は連日妹達が世話になったな」

男「本当にな」

レヒレ「可愛い三人娘を従えた気分は爽快だったであろう?」

男「あぁ、最高に手がかかる可愛い守り神様だろ」

レヒレ「ふむ……どうにも皮肉に聞こえるな」

男「皮肉で言ってんだよ」

レヒレ「さては……お主、あまり良い性格ではないな?」

男「青天の霹靂すぎてこっちも頭抱えてんの!!」

レヒレ「悪かったなご主人?」ニマニマ

男「お前のさっきの言葉そっくりそのままお返しするぞ」

レヒレ「吾輩は数百年神として生きてきた中で、色々な人間やポケモンを見てきた末の性格だからな」

男「お前可愛い女神様だからって意地が悪くても許されると思うなよ」

レヒレ「ほう……?吾輩は可愛いか?」

男「もう言わない、お前調子乗るから」

レヒレ「なるほど、出会って数分で既に見透かされているようだな?」

男「お前が露骨すぎるだけだぞ」

レヒレ「それもそうだのう」


──いや、なんだコイツ。

初日も2日目も3日目も同じことを思っていたが、今日はそれを容易に超える勢いの『なんだコイツ』だ。

もしこいつが同級生の女子だとかそういう類だったら絶対に勘違いする輩が出る。


男「……っていうか」


加えてこのゼロ距離っぷり。

人をからかったりなんだかんだ気まぐれだったり、最も人間らしさを感じていたのがコケコだったが、あれとは違った人間らしさ。


男「……顔近くないですか?」

レヒレ「近付けておるのだ」

男「ソーシャルディスタンス」オシノケ

レヒレ「そーしゃる……?お主は難しい単語を使うのだな?」
 ▼ 40 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 20/12/21 22:25:23 ID:jfCImvbk [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
男「それよりカプ・レヒレ様」

レヒレ「レヒレで構わぬぞ?」

男「レヒレちゃん」

レヒレ「……むず痒いのう、やはり様を付けろ」

男「レヒレ」

レヒレ「まあ良いだろう」

男「お前俺の事好きか?」

レヒレ「……ほう?そのような事を吾輩に聞いて……どうするつもりだ?」

男「ちょっと聞いて欲しいお願いがあるんだよ」

レヒレ「ならばご主人が吾輩の事をどう思っているか聞かせてくれれば聞いてやらぬ事もないぞ?」

男「…………」

レヒレ「ほれほれ、どうした?」


──神のくせにやんちゃしてやがるなこいつ。


男「好きだよ」

レヒレ「戯け、恋仲でもないおなごに好きなど……勘違いさせて取り返しのつかないことになったらどうするつもりだ喪男、失格」

男「なんでだよ!!頼むから聞いてくれよ!!」

レヒレ「……まあ良いだろう、吾輩はご主人の守り神だからな」

男「そのセリフなんかコケコと被るなー……まあいいけど」


名前を呼んで思い出した。
そう、男の聞きたいことというのは自分の目の前に初めて現れた守り神の目的。

幸いにも前2匹と比べて気まぐれな部分が多いから、上手く聞き出すことができれば大きな収穫だろう。


レヒレ「コケコの事なら口を紡ぐぞ?」

男「!?」


……が、あっさりと見破られてしまう。

昔本で読んだことはあるが、カプ・レヒレの名を持つ守り神──もといポケモンはエスパータイプなど入っていないはず。

いや、そういうことではない。

男「……心読んだ?」

レヒレ「顔に出ておったぞ?」

男「んな馬鹿な……」
 ▼ 41 マゲロゲ@チルタリスナイト 20/12/21 22:40:28 ID:jfCImvbk [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
男「頼む!!この通りだ!!」

レヒレ「あほう、そうやって簡単に頭を下げるから男としてのプライドが崩れたままなのだぞ」

男「プライドとかもういらないから……頼むよぉ……」

レヒレ「ふぅむ、とはいえ妹の名誉がのぅ……」

男「頼む……もうお前らがすごい神ってのは分かったから……俺このまま不安を抱いたまま生きていくのは嫌なんだよぉ……」

レヒレ「ふ、不安て……ぶふっ……!コケコもそういう事を思われてたとは……鍛え直してやらねばなぁ……」クスクス

男「……鍛え……?」

レヒレ「あ、いんやこっちの話だ。それより……」


レヒレは正座で床に手をついた情けない状態の男の顔を覗き込む。

レヒレ「……うむ、やはり気が変わった!ご主人になら教えてやらぬこともないぞ?」

男「マジか!?」

レヒレ「マジだ。ただし……直接教えてやるわけではないぞ?あぁ、ある意味直接ではあるのだがな……」

男「ど……どういう意味だよ……?」

レヒレ「顔を貸せ」


レヒレのひんやりとした手が男の頬を撫でる。

距離が近づく度に、心地の良い香りが広がっていく。

頬からゆっくりと唇へ、徐々に指先で擽るような感覚へ変わっていく。

さすがに擽ったい。


レヒレ「吾輩の得意技で……コケコの考えていることを教えてやろう」

男「と、得意技……?」


一瞬、レヒレの目が悪戯っぽく細まる。

見れば見るほど人間的な……女性的な顔立ちをしている。

やっぱり……


男 (……綺麗だな)


少しずつ顔の距離が近づいて行くことに気付きつつも、身体は言うことを聞かず。

レヒレの言われるがままに、男は教えを受けようとしていた。
 ▼ 42 クレー@もりのヨウカン 20/12/22 17:26:15 ID:4UjwnBJ2 NGネーム登録 NGID登録 報告
男は自然と目を閉じていた。

何をされるか分からない状況で自分を全て委ねるというのは如何に危険なことか。

だが、逆らえなかったのだ。

心地の良い香り。顔を擽る感触。

じっと目を閉じていると、暗闇の世界に光が差したような……ん?光?


男「ちょ、ちょっと待て……嫌な予感がする……」

レヒレ「ほう……これは……」


カーテンの隙間から突き刺す閃光。どこかで見たことある光景だ。

──要するにデジャブだな、これ。

まるでピンチの時にヒーローが駆けつけてくれるかのような、数日前に初めて見た神秘的な光と同じ……


ゴォォォオッ……!


男「おわぁぁぁぁぁっっっ!?」


強い風と共に翻るカーテン。あれ、今日って晴天だよな……?


レヒレ「……参ったなぁ」


いつの間にか目の前で俺の顔を弄んでいたレヒレは消えていた。
部屋に充満していた霧も消え、ギラギラとした電気が部屋中を駆け回っている。


男 (これってアレか、エレキフィールドってやつか……確かこないだ見たやつ……ってことは)


そう思っていたのも束の間。

男の目の前から消えていたレヒレは、もう一体の守り神に制止されるような形になっていた。


男「……コケコ、お前またきたのか……」

コケコ「……おはよう」

男「……おう、おはよう……?」

コケコ「今日はなかなか天気が悪いわね」

男「せ、晴天ですが……」

コケコ「黙りなさい」

男「はいっ!?」
 ▼ 43 ズゴロウ@ギンガだんのカギ 20/12/22 18:34:20 ID:J5A.2rT2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カプ四神の印象が変わるな
支援
 ▼ 44 ネッコ@ノーマルZ 20/12/24 16:25:33 ID:FVVcesrk NGネーム登録 NGID登録 報告
レヒレ「なんだお主は、せっかく良いところだったというのに」

コケコ「主の困るような事をするのがいけない」

レヒレ「ほう……ご主人、吾輩に迫られて困ったか?」

男「いや、そうでもない」

レヒレ「ほれみろ」

コケコ「…………」ギロッ

男「だってほら!?嫌だったとか嘘ついて傷付いても困るし!」

コケコ「……主が優しくて良かったね、レヒレ」

レヒレ「お姉ちゃんと呼んでも良いと何度言ったら分かるのだ」

コケコ「随分と耄碌し始めてるのね、おばあちゃん」

レヒレ「ほぉ……妹のくせに言うようになったではないか」


──前置きとして自惚れている訳では無いと最初に言っておく。が……

──これってもしかして、俺のことで争ってる……?

残念ながらと言って良いのか、男はこれまでの人生で自分を間に挟んだ争いを全くされていないからこそ、こういった事には敏感だ。

今までの女性経験の無さが物語っているのか、いざとなった時に鈍感が働いてしまうよりはよっぽどマシだろう。


男 (……いやいや、ちょっと感動してる場合じゃない!!尚更俺が止めないと……多分部屋がめちゃくちゃになる!!)

──アイツは珍しくまだボールで寝てるみたいだ。身体を動かすのは久々だと思うが……頑張ってもらうしかない。


男「頼むぞピクシー、何でもいいからアイツらを止めてくれ!!」

ピクシー「ぴぃっ!?」ポンッ

男「マジカルフレイムだ!!少しでも被害を抑えるために!!頼む!!」

ピクシー「ぴっ……ぴきゅ〜〜〜……」ワタワタ


男の威勢のいい指示を受けるも、ピクシーは動かない。
恐らく、長らくバトルなどしてこなかったせいで加減が分からないのだろう。

力加減を謝って部屋を燃やされたりしても困る。自分の相棒に無理などさせられないことは1番分かっている。

だからこそ男も動けなかった。


男 (ここまでか……グッバイ俺の部屋、そして修理費に消えるポケットマネー……)


二体の守り神がぶつかり合おうとしていた。


???「ストーーーーーーップ!!!」
 ▼ 45 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 20/12/25 15:41:29 ID:iryAybwk NGネーム登録 NGID登録 報告
いつの間にか開きっぱなしだった窓を越え、牛が突っ切るかのようなスピードで何者かが乱入する。

心地の良い草木の匂いと共に感じられる、現在進行形で争ってる神々と同じくらいの重圧感。


ブルル「全くもー……ここはご主人様の部屋ですよ、姉様方!」

男「……お、お、お前が真の守り神だよブルル……!」

ブルル「はい!あなたのカプ・ブルルですよ〜♪」

コケコ「は?」

レヒレ「コケコ、顔」


コケコが物凄い形相でブルルのことを睨みつけているのはともかく、こいつは間違いなく救世主だ。今度めいっぱい遊んでやるとしよう。


コケコ「どうして貴方が止めるの?」

ブルル「だって私はご主人様の守り神ですから!」

男「お前らその台詞好きだな?」

コケコ「それはみんな同じ」

ブルル「オー、勘違いはしないでくださいね?私はあくまでコケコ姉様と……」

コケコ「ストップ」フサギ

ブルル「むぐっ!?ぷはっ……クチドメリョーは要りませんよー?」

コケコ「当たり前」

男「おい、さっきから何の話を」

コケコ「貴方には関係ない」キッ

男「すみません……」


──守り神なんて1体でも十分やかましいのに、これが2体や3体一気に集まるだけでここまで煩くなるとは。

──俺の疲れきった表情を見たレヒレが「吾輩は癒し担当であろう?」と言いたげな視線を向けてくるがそういうことでは無い。確かにお前の発する霧にはリフレッシュ効果でも付いてるのかってくらい癒されたが。


男「なぁピクシー、俺はどうすればいいんだ?」

ピクシー「ぴ……」シラン
 ▼ 46 レセリア@こおりのいし 20/12/29 13:49:46 ID:AAVsRZkY NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 47 ガオニゴーリ@デンリュウナイト 20/12/29 16:19:15 ID:ZhcEEn6c NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
支援
 ▼ 48 トリンダー@ねむけざまし 20/12/30 22:23:35 ID:O6JQQnwQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 49 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 20/12/30 23:00:27 ID:lrSErCDo NGネーム登録 NGID登録 報告
コケコ「……とにかく、貴方には関係ない」

ブルル「ノー!そんなことありません!御二方が喧嘩してるとご主人様まで……」

レヒレ「なんだ、やはり吾輩と喧嘩する理由でもあるのか?」

男「おいまだやる気か、やめろやめろ」


収まったと思ったのも束の間、コケコの怒り(?)はまだ続いているようだった。


男「おい流石に勘弁してくれ……ブルル、お前止めに入ったんじゃ……」

ブルル「わ、分かってますけどぉ!コケコ姉様はこういう時に限って頑固なのですよ〜……!」

コケコ「……これ以上余計なことをするんだったら主に二度と近付かないでもらうから」

レヒレ「こらこら、それでは守り神の意味がないだろう」

コケコ「それはみんなが勝手に……」

レヒレ「勝手に……何だ?」

コケコ「っ……」

レヒレ「ここでネタばらししても良いのか?吾輩は別に構わないがなぁ?ほれほれ♪」

男「……何の話?」

ブルル「むーん、私にはサッパリでーす」

男「白々しい〜」


女の子って難しい。

コケコ「これ以上主を危険な目に遭わせるようだったら……」ビリビリ

レヒレ「ほう、やる気か?言っておくがお主の十八番のじゅうまんぼると?なぞ吾輩は余裕な顔で耐えることが出来るぞ?」

コケコ「……そう、なら試す価値があるわね」

ブルル「ちょっと!ダメですって姉様達!」

男「そうだぞ!!俺の部屋がめちゃくちゃになる!!おいピクシー、お前も何か……」

ピクシー「ぴ」ションベンイッテクル

男「このタマ無しが……!!」
 ▼ 50 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/01 20:13:39 ID:GP5IfD8. [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
ブルル「全くもー……どうしてもやめないって言うのなら力ずくで止めるしかありませんよ!」プンスコ

男「お前本当良い奴だな〜……うるさいだけの奴らかと思ったけど1番の常識人だよ……」

ブルル「守り神同士で争っては意味が無いですからねー、それにこの部屋は私のお気に入りの場所ですし!」

男「一応俺の部屋なんだけど……」


ブルルが2体の仲介に入る……が、まるで末っ子の警告に耳を貸そうともしない。それどころか、男の部屋を焼け野原にする準備万端といった様子に見られた。


男「こうなったら……喧嘩の原因を作った俺が仲介に入るしかないか……」

ブルル「んノーですよご主人様っ!!ポケモン同士の間に割り込んでは命が危険です!!」

男「まあまあ、モテる男は辛いってやつよ……俺が間に入ればアイツらも考え直してくれるかもしれないだろ?」

ブルル「ダメですーっ!!そもそもご主人様は悪くないんですから!!」グイグイ

男「おい麗しきレディ達!俺がやってきたぞ!」


争う守り神の間に意気揚々と割り込んでいく。

コケコ「邪魔」パシッ

男「ほぎゃーーーっ!?」ズサーッ


……が、一般的な10代後半の男子が止められるほどポケモンという生き物は貧弱ではない。

コケコが軽く払い落とすように男を遠ざけるだけで、男の身体は軽々と飛ばされてしまう。

ブルル「あ……ご、ご主人様!」

男「お、おぉ……モテる男は……辛い……」

ブルル「……あーもう!!本当の本当に……今度こそカンニンブクロ?の緒が切れましたよ!!」

男「は?おいお前……何する気で……」


日本語慣れしない留学生のようなセリフを吐きながら、ブルルは今にも雷撃を放とうとするコケコに飛び込んでいった。

──正直危なっかしくて見ていられない。流石の神でもあれを喰らえばひとたまりもないのではないか。

だが、神である前にポケモン……ポケモンである前に神。
男の想像ほどか弱い存在ではなかった。


コケコ「……っ!!」

ブルル「それ以上はいけません!」

レヒレ「お、おいブルル……あまり暴れるでな……」

ブルル「いくら姉様方とはいえど容赦はしません!これが私の喝で……これが『自然の怒り』だぁーーーっ!!」

──────
 ▼ 51 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/01 20:28:33 ID:GP5IfD8. [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告




ブルル「全く……私のお気に入りの場所をめちゃくちゃにしようとした罰です!これじゃ示しがつかないじゃないですか!」プンスコ

コケコ「………」

レヒレ「むぅ……悪かった……」

男「止めてくれたのは嬉しいけど、お前のお気に入りスポット以前に俺の部屋だからな?」

ブルル「てへ!」コツン

コケコ「………」チラ

男「……なんだよ」

コケコ「……ごめんなさい」

男「いや……いいよ、俺がモテモテなのが悪いんだから」

コケコ「馬鹿なの?」

レヒレ「どあほう」

男「2人して酷いぞ……」

ブルル「そんなことありませんよー、ご主人様はモテる男ってやつですからねー!」

男「お前ほんと良い奴だな〜……!」

コケコ「………」ジッ

ブルル「レヒレ姉様も!あんな風に挑発しては私たちがご主人様の守り神になった意味がありませんよ!」

レヒレ「楽しかったからつい」ニマニマ

男「お前……実は反省してないな」

ブルル「もー、ちゃんと反省してくださいね?ところで……」

まるで長女の如く姉を宥めていたブルルは、何かを思い出すかのように辺りを見渡す。


ブルル「テテフ姉様が……見当たりませんね?」

男「あー……」

男は数十分前から気にしていた部屋の角に目線を向けた。
座敷わらしでも居てくれれば、この騒動からも逃げることができたのだろうか。


男「おい、もう出てきていいぞ」

テテフ「あ……え、えへへ……」

男「お前……ずっとそこに隠れてたのかよ……」

テテフ「あぅ……た、助けに入るタイミングを逃してしまって……」
 ▼ 52 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/01 20:28:57 ID:GP5IfD8. [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
全然関係ないけどTwitterのアカウント一瞬ロックされてビビったわ
 ▼ 53 ブソル@はかせのふくめん 21/01/01 21:20:52 ID:MRxsRUZQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>52
本当に全然関係無くて草
支援
 ▼ 54 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/02 18:28:18 ID:gWl6EfdM [1/6] NGネーム登録 NGID登録 報告




レヒレ「ほう、バトルでは相手から受けた攻撃以外で損傷しないのか……」

テテフ「じゃあ、毒で段々手足の自由が効かなくなったりすることがないんですね……すごい……」

ピクシー「ぴぃ」テレルゼ


6畳の男の部屋に1人と5匹。
更にその内4匹は凡人に理解できないような装飾でかなり幅を取っている。

実体が無い状態で実質部屋が狭くなったわけではないが、それでも……


男「めちゃくちゃ息苦しいな」

ブルル「ソーリーですご主人様……今日はレヒレ姉様の当番だったんですけど……」

男「お前が乱入するからだな」

コケコ「私が居なかったら貴方の大切なものは奪われてた」

男「……まあファーストキスをポケモンに奪われるのも良いとは思えないからな」

コケコ「初めてなの?」

男「うるせぇな」


──神に言われたくないわ。どうせお前も神ってブランドを大事にしすぎたがためにそういうのは疎いんだろむっつり。


コケコ「私は神、色々なものを見てきた」

男「で?人間の恋愛にも詳しいってか?」

コケコ「もちろん」

男「ほーん、言うじゃねぇか」


まあ、人間もポケモンもそういった異性間での感情の抱き方は同じなのだろう。

現に、男の唯一の相棒であるピクシーは可愛い神に囲まれてデレデレしている。

──あいつ、見た目はメスみたいに可愛いのに中身はどうしようもないくらいの思春期男子だからなぁ。誰に似たんだか。
 ▼ 55 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/02 18:38:59 ID:gWl6EfdM [2/6] NGネーム登録 NGID登録 報告


コケコ「ところで……」

男「?」

コケコ「私の事、色々と詮索してたみたいだけど」

男「……悪いかよ」

コケコ「あまりレディの秘密を探るのは好ましくない」

男「神に性別は無いんじゃないのかよ」

コケコ「貴方、さっき私達のこと麗しきレディ達って」

男「はいはいすみませんでした女神様!」


既に学習済みだが、コケコは4体の守り神の中でもトップクラスで面倒だ。

それが揶揄うのが好きだとか、諸々の小さな理由ならまだ可愛いのだが。


男「まあ大体察しはついてたけどさ」

コケコ「………」

男「元凶、お前なんだってな」

コケコ「……えぇ」


男の日常が突如非日常になった訳。

男の目の前に自身の守り神が現れたのは、恐らくこいつの思いつきが原因だ。


コケコ「……少し外に出ない?」

男「喧嘩か?受けて立つぞ」

コケコ「うん、そう」

男「……冗談だったんだけど」

コケコ「私も」

男「…………」


──俺の渾身の冗談にすら便乗して揶揄ってくる守り神が何だか憎くて堪らない。

憎たらしいと思いつつ、心の中では親戚の女の子に弄られるような……形容しがたいが、本気で嫌気が差している訳では無いのは確かだ。

男は部屋に群がる4体に一言告げた後、コケコと共に自宅を後にした。
 ▼ 56 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/02 19:45:30 ID:gWl6EfdM [3/6] NGネーム登録 NGID登録 報告



男「河川敷って良いよな、なんか青春って感じ」

コケコ「うん」

男「まあ俺にはこれといった青春なんて無かったんだけどな」

コケコ「うん」

男「……守り神ならそんなことないってフォローくらいしてくれよ……」

コケコ「残念だけど、慰めは一時的な薬みたいなものだから」

男「おっしゃる通りです」


男は芝生に腰を下ろし、明後日の方向を見つめながらぼやく。

コケコは外に出る際には実体を消している──つまり男以外の人間には姿が見えていない状態。

辺りには人気が無いのが幸いし、男の不可解な独り言は誰にも聞かれずにいる。


男「俺を外に呼び出したってことは何か話してくれる気になったのか?」

コケコ「……ううん、まだ」

男「何でだよ!何なんだよお前!」

コケコ「落ち着いて、まだって言ったでしょ」

男「そうやって俺はずっと焦らされて来たんだよ」

コケコ「お嫌い?」

男「ああ嫌いだね、気になってることを先延ばしにされるのは」

コケコ「……別に先延ばしにしてる訳じゃない」

男「……じゃあなんだってんだよ」

コケコ「……私は」


常に表情を崩さないコケコが初めて顔を歪ませた……気がする。

コケコ「私にとっては、とても勇気の要る決断だった」

男「勇気……?」

コケコ「でも、それをまだ貴方に話すことはできない」

男「結局か……」

コケコ「……ごめんなさい」

男「……お前が決めたことだってんならもういいよ」
 ▼ 57 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/02 20:16:12 ID:gWl6EfdM [4/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
何事も決断を下すには心の準備というものが必要である。

思えば、唐突な守り神の登場も何もかも、男が思っている以上に様々な過程を踏んできたのかもしれない。

恋人同士のすれ違い。上司と部下のぶつかり合い。

それらと同じように、結局は全て同じ過程を歩んできた。

この守り神が男に求めるもの。

この守り神の目的。


コケコ「私は……貴方が来れない、知らない場所から来たの」

男「俺が……知らない……?」

コケコ「ううん、厳密には知っているのかもしれない……でも、仮に私が貴方を必要としていたとして……」


コケコは男の方に目を向ける。


コケコ「絶対に、貴方を連れ出せないような場所」

男「神だからか」

コケコ「そう」

男「あの世……ってわけじゃないんだろ?」

コケコ「えぇ、神は生きている」

男「お前が島の守り神としての役割を失った後……」

コケコ「うん、行き場を失った神が行き着く場所」

男「祠……っていうのは表向きで……」


何となく察しは付いていた。

男の来れない場所というのは、要するに人間の来れない場所──いや、人間だけでは無い。ポケモンはもちろん、花、水、空気──とにかく、この世に存在する全て。

それらが存在しない場所。世界と名を付けられないような場所。


男「……どこだ?」

コケコ「私にも分からない、だって何も無いんだもの」


決してボケている訳ではない。何も思い付かないのは事実だ。

だが、これらの話を聞いて心当たりなどあるはずも無かった。


思い付くのは、虚無という言葉が似合うような透明な場所だから。
 ▼ 58 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/02 20:44:26 ID:gWl6EfdM [5/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
コケコ「色なんて無い、娯楽なんてない、私の存在していた場所は……この世界をただ見ていることしかできないような場所だった」


想像ができなかった。

男にとっては、自分がそこに存在しているのが普通で、それが当たり前で。

だが、コケコ──いや、男の守り神を務めている4体の守り神は、長い間 ”無いもの” だったのだ。

誰かに気付かれるわけでもない。唯一の娯楽は、ただそこに見えるものを観察するだけ。

あの世へ行ってしまった生き物ではないのは確かだ。

だが、扱いはまるで──


男「……本当に幽霊みたいだな」

コケコ「色のない場所で、虹を見ている」

男「言ってることがまるで滅茶苦茶だな」

コケコ「そうね、でもこう言うしかないの」

男「まあ、理解はできた」


森羅万象の……全てが存在しない場所。

そういうのに憧れている、所謂『中二病』患者が聴けば目を輝かせるのだろうが。

この世の全てを知り、全てを見届けることができる場所。

だが、その世界は何よりも恐ろしいものである。


コケコ「仮に私が──沢山友達が居て、大好きな恋人が居て、大切な家族が居て、恵まれた仕事ができていて、豊かな生活を送ることができる……そんな生き方に憧れていたとして」

コケコはいつの間にか普段通りの無表情に戻っていた。


コケコ「それが絶対に叶わないの」

男「それは……嫌だな」


本心からの言葉だった。

人並みの幸せを求め続ける男にとっては、恐らく恐怖の対象にしかならないだろう。


コケコ「そんな場所に、私達はずっと存在していたの」


初めて──この守り神が大きな存在に感じた。

この世の誰よりも世界を見届けてきた存在。

──そんな奴が、どうして俺の守り神なんかに。
 ▼ 59 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/02 21:06:58 ID:gWl6EfdM [6/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
コケコ「私に覚悟が出来たら教えてあげる」

男「……覚悟ってのはいつ出来るんだ?」

コケコ「それは分からない」

男「だよな」

コケコ「でも……いつか絶対に」

男「そうでないと困るもんな」

コケコ「少なくとも……貴方に嫌われない内に」

男「はは、何だよそれ」

コケコ「嫌われたら教えても意味が無いもの」

男「……もう既に嫌いだって言ったら?」

コケコ「姉妹揃って貴方の目の前から姿を消して、自ら命を絶つ」

男「冗談だからな?」

コケコ「分かってる」


まったりとしたキャッチボールのように言葉を交わし合う。

少しだけ心地よく感じる。


コケコ「……待っててくれる?」

男「お前が言いたくなるまでは待つよ」


コケコは軽く男の周囲に電気を走らせていたが、リラックスしたのか、駆け巡っていた電気は既に足を止めている。

考えてみれば、この2人の空間に誰も寄せ付けなかったのはこの電気のおかげだったのかもしれない。

想像よりもずっとずっと長い生を歩んできた神。

そんな神が、今は男の背後に佇んでいる。

──何も無い場所で辿り着いた答えは、居るべき場所は俺の近くだということ。

──それが何を意味するのか、少しだけ興味が湧いてきたな。
 ▼ 60 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/04 10:44:50 ID:IQHwdFI6 NGネーム登録 NGID登録 報告





ブルル「起きてくださいよーご主人様ー!!お休みだからってのんびりし過ぎですよー!!」ユッサユッサ

男「……んだよもー……休日くらいゆっくり寝させろよー……」

ブルル「お母様がご飯をご用意して待ってますよー!!ご飯が冷めちゃいます!」

男「レンチンすりゃいい……すぴー……」

ブルル「いけません!!もうピクシー様はリビングへ向かいましたよ!ご主人様もゴーです!」

男「…………」


時計の針は10時を指していた。

連日の疲れからか、いつの間にか休日は以前より2時間程長く睡眠を取ることが多くなった。

とはいえ、これは単純な寝坊なのだが。


ブルル「むぅ………」

ブルルは何度呼び掛けても頑なに目を覚まそうとしない男をじっと見つめ、頬を膨らませるような仕草を見せる。


ブルル「早く起きないとレヒレ姉様お得意のドレインキッスで起こしちゃいますよー!!」

男「…………」

ブルル「もー!!どーして起きないんですかーーー!!」


春眠暁を覚えず。

男にとっての季節感など、とうの昔に捨ててしまっていたが、暦の上では今は春。

桜の木も徐々に色付き始め、冬の残りカスとも言える寒さも段々と落ち着いてくる季節。


男「ピクシーも布団来いよ〜……こういう日くらいゆっくり寝よう……」ギュー

ブルル「ホワッツ!?あ、うへへ……も、もーご主人様!私はピクシー様ではありませんよー!へへへ……!」

 ▼ 61 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/04 15:16:03 ID:QI9Ug8Yg NGネーム登録 NGID登録 報告



ブルル「もーご主人様は……どーしてお休みの日はいつもダメダメなのですか!」

男「お前だって途中からノリノリだったじゃねぇか」

ブルル「だって〜……ご主人様のハグはなかなかに心地よいのですよ〜……!」

男「感性は四姉妹の中で一番人間臭いなお前」


──妙な神々しさを醸し出されてもどう触れていいか分からなくて困るし、俺にとってはこいつくらい接しやすい方が良いんだけどな。

とはいっても、どいつもこいつも神々しさを感じたことは無いが。


ブルル「じー……」

男「なんだよ」

ブルル「いえ……ご主人様って……本当に普通ですねぇ」

男「あ!?やんのか!?」


横顔を見つめてきたと思ったら急にこれだ。デコピンで制裁でもしてやろうか。


ブルル「だ、だって私ご主人様のこと全然知りませんし〜……」

男「……まぁ今までの接し方からすれば俺は普通だよな」


それもそうだ。いくら守り神といえど、出会いは数日前。人間関係で例えれば、まだ赤の他人の状態だ。

内心、このままで良いのだろうかと薄々感じていた。


男「俺を知ってもらうと言ってもなー……」


これと言った趣味も無い。普段してることと言えばアルバイト、暇つぶしのネットサーフィンや読書……

──あれ、俺ってもしかして本当に無個性?

男「……なぁ、俺ってこのままで良いと思うか?」

ブルル「むーん、私は今のままのご主人様が一番素敵だと思いますよ?」

男「いや……ダメだな」


──というか、こいつらに無個性の主人守り神をやってるとかどうとか思われたくない。

男「なぁブルルちゃんやい」

ブルル「何でしょうご主人様?」

男「散歩に行こうか」
 ▼ 62 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/04 23:24:35 ID:weVY5j7s NGネーム登録 NGID登録 報告



ブルル「ふふ〜ん♪ご主人様とお散歩〜♪」


やけに上機嫌な鼻歌を横に、男は一切の迷いも無く足を進めていた。

ブルル「これから辿り着く場所に、ご主人様の個性を見い出せるものがあるのですか?」

男「いんや全然関係ない。っていうかその言い方ちょっとだけ傷付くな」


男の暮らす街から少しだけ外れた小さな森。

恐らく近隣では最も野生のポケモンが集まる場所だ。

男「この辺に入り口が……お、あったあった」


寄ってきた虫ポケモンを適当にあしらいながら、慣れた様子で森の中へ足を踏み入れて行った。

ブルル「随分と慣れていますね……来たことがあるのですか?」

男「昔な」


遠い記憶だが、はっきりと覚えている。

男が昔によく1人で訪れていた場所。

小脇に荷物を抱えながら、軽い足取りで森の奥へ進んで行ったあの頃。


ブルル「わ」

ふと後ろを振り向けば、数匹のヤヤコマと戯れるブルルの姿。

──うん、やっぱりポケモンには姿がはっきり見えるんだな。

物珍しくて寄ってきたのだろうか。いずれにせよあまり執拗につつかれるのはブルルの体力が持たなそうだ。


男「ほれ、俺たちゃ忙しいんだあっち行け」

ブルル「す、すみましぇん……」

男「キズぐすり要るか?」

ブルル「いえ、これくらいなら平気です!少し驚きましたけど……ここはとても落ち着く場所ですねー!」

ブルルは心底楽しそうな表情を見せる。


男「やっぱりお前を連れてきて正解だったよ」

ブルル「オー、計算ドーリというやつですかー?」

男「匂いが似てたからな」

ブルル「なるほどー!」
 ▼ 63 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/06 22:40:21 ID:Mnw6zlJ6 NGネーム登録 NGID登録 報告
男「というかお前が1番まともなんだよ、コケコは以ての外だし、テテフは何かある度にテンパりそうだし、レヒレは……あいつは何となく嫌だ」

ブルル「あ、あはー……何だか照れますねー……?」

男「実際お前が一番マシだからな」

ブルル「もー!ご主人様は言い方に可愛げが無さすぎます!」

男 (逆にこいつはいちいち反応が可愛らしいな)


長い間この森には足を踏み入れてなかったが、やはり雰囲気は変わっていなかった。

──僅かな木々の隙間を辿ると少しずつ道が広がってくるのが、子供の頃の俺は秘密基地って感じがして毎度ながらワクワクしてたんだっけか。


男「昔はよくここに1人で来てたんだよ」

ブルル「昔からぼっちだったのですか?」

男「今も昔も友達くらい居るわ!!今は疎遠ってだけで!!」

ブルル「でも1人で来てたっていうのは?」

男「……なんか1人で行くのがかっこいいって思ってた」

ブルル「なるほど、やはり昔からそっちの才能があったのですね!」

男「うるせぇわ」


駄弁りながら森の奥へ迷いなく進んでゆく。

時々木から落ちてくる虫ポケモンが男を避けていくように落下するのは、申し訳程度の守り神の力なのだろうか。

普段からおちゃらけた印象を受けるが、守り神の持つ能力は伊達ではないらしい。


男「うわっ、イトマル落ちてきた……お前こいつ払ってくれよ」

ブルル「ど、毒はちょっと……」

男「…………」

神は神でも、あくまでポケモンであることには変わりないというのは忘れないでおこう。
 ▼ 64 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/07 00:06:03 ID:UmnMWn06 NGネーム登録 NGID登録 報告
少しずつ広がってくる道。辺りに落ちた木の枝を踏みしめながら奥へ進み、仄かに木漏れ日がぽつぽつと増えてくる。

子供の頃によく見た幻想的な世界。

ふと後ろを振り向けば、気持ちよさそうに木漏れ日を浴びるブルルが視界に入る。正直これが見られるだけでも来た甲斐があったものだ。


男「そろそろだな」

数年間全く足を踏み入れなかったせいか、昔とは景色が変わっていた。

それでも目指す場所はなんとなく気配で感じ取ることができるのは、馴染みというやつだろうか。

男 (久しぶりだならこの感じ)

木々の掠れる音がする。

奥へ。どんどん奥へ。

あの時感じていた神々しい光は、ただの木漏れ日だったのは知っている。

だが、それすらも特別に感じさせてくれた存在が男にはあった。


ブルル「ご主人様?」

男は立ち止まる。

太陽の光が直に差し込むような、開けた場所に出たのだ。

男「ここが……」

目的地に着いた──はずだった。


ブルル「ご主人様、何もありませんが……ここなのですか?


男「………いや………」


不自然な程に開けた場所で立ち尽くす。

それもそうだ。

この場所には、男の記憶に張り付くように残る青臭い思い出が立ち尽くしていたはずだった。

何も無い。

まるで記憶喪失をした際の脳内の断片的な部分のような──白紙の如く、『元から何も無かった』と言わんばかりに何もかもが掃き出されていた。

──俺の記憶が間違っている?いや、有り得ない。俺は確かに昔ここに来た記憶がある。毎日見つめていた。毎日話し掛けていた。毎日崇めるように供え物もした。今でも俺の記憶の中にしっかりと残っていた。



男「祠が───」

 ▼ 65 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/07 07:55:00 ID:RbTUoFUs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あの時は自分だけが特別だと思っていた。

こんな目立たない森の奥へ好きで遊びに来るのは自分だけだろう、と。

それを見つけた日には、自分が少しだけ特別な存在に思えたと同時に、見つけた祠も幼少時代の自分にとっての特別な存在となっていた。

それが今は、全て消えている。


ブルル「あの……」

男「……この前言ってたよな、行き場の無い神……お前らってどこに居たんだっけ?」

ブルル「分かりますよ、あったのですね?ここに……」

男「……エスパー?」

ブルル「それはテテフ姉様です!……ってそうじゃなくて……何となく分かるんですよ、神ですから」

男「神ってすげえな」

ブルル「そーでしょう!」


ブルルが誇らしげな表情を見せる。

雰囲気が感じ取れるというのは、流石は神といったあたりか。


ブルル「私が察するにご主人様は……祠が消えたのをミステリーだと思っておりますね?」

男「ミステリーって……まぁ驚きはしたな」

ブルル「そうですね、恐らくご主人様が思っているようなものではないですよ?」


──恐らくこいつが言いたいのは、祠が消えたのは非現実的な理由……ということだろう。

ブルル「ご主人様的には……撤去されたとか思ってらっしゃいますか?」

男「撤去……されるか?祠が……?」

ブルル「そーですよね、そのとーりです!」


──そうだ。俺が居る世界なんて……非現実的なことくらい起こってもなんら不思議ではない。

目の前に守り神が居るこの状況で、今更驚くようなことなど無いに等しい。


ブルル「神が……行き場の無い神が、神としての力を取り戻すのは……どういう時だと思いますか?」


祠に祀られた……というよりは、閉じ込められた神。

そんな神が、どうやって ”神に戻る” ことができたのか。


ブルル「人の強い思いを受け取った時なんです」
 ▼ 66 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/07 13:12:47 ID:0Xtw5YyI [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
ブルル「祠というのは、半ば幻……のようなものなんです」

男「幻……?」

ブルル「はい、不思議なものだと思ってください!」


人の強い思いを受け取った時、行き場を失った神は神としての力を取り戻す。

つまり──

男「じゃあ、ここにあった祠ってのは……」

ブルル「はい」

──俺があの時毎日のように見つめていたのは行き場を失った神であり、今は祠は存在しない。

これらから結びつく答え……


ブルル「良かったですね!」

男「……何が?」

ブルル「ここに居た神は、ご主人様のおかげで神として生きていけるようになったのかも知れませんよ?」

男「はぁ?俺?」

ブルル「そーですよ!だって毎日来てたって言ってたじゃないですか?」

男「そうだけど……」

にわかには信じ難い。男にとって、そういった『特別』な瞬間を他人に与えるのは自分ではないと思い込んでいた。

相手が神であろうと、自分が他人に与える影響など極わずかなもの……それこそ、生き方を変えてしまう程の影響を与える人間になることは到底ないものだと思っていた。


男「………」

木々が風に惑わされる音がする。

この場所は、こんなに静かな場所だっただろうか。

あの頃は自分の話し声……厳密に言えば独り言だけがこの場に響いていた。

今はどうだろう。

昔は居て当たり前だった存在が、いつの間にか忽然と姿を消している。

だが、それは神にとって幸福を噛み締めたもの。

自分がその幸福を与えたのかもしれないと思うと、何だか落ち着かない。

今まで自分目立つものなど何も無いと思っていた男は、知らない間に他人を変える存在となっていた。
 ▼ 67 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/07 13:34:59 ID:0Xtw5YyI [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
ブルル「ご主人様、神にとっては……神として生きたいという感情を与えてくれた人は、とてもありがたーい存在なのですよ!」

ブルルは心底嬉しそうな表情を見せる。


ブルル「だってだって、必要としてくれたんですよ!1つの神という存在を救ってくれたってことです!」

男「救った……?」

ブルル「はい!ですから……」


静かな空間に見合わないくらい嬉しそうで、楽しそうな声が響いた。


ブルル「もしその時の神を救ったのがご主人様なら……」


何故こんなにも自分の事のように喜べるのだろうか。

──そうか、そういえばこいつは良い奴だったな。


ブルル「これから先の未来、ご主人様には沢山の幸せが訪れるに違いありません!」


男の感情は舞い上がるわけでも驚く訳でもなく。

ただひたすらに、自分が幸福を与えたという実感の無さを噛み締めていた。


──もしかしたら、もしかするのかもしれない。

──俺はあいつの……いつか共に時を過ごした神の特別になれたのか?

──そう思っても、やっぱり……


男「……なんか、慣れないな。こういうソワソワした感覚……」
 ▼ 68 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/07 13:52:46 ID:0Xtw5YyI [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告



いつの間にか日の沈む時間になっていた。

あれから帰路に着こうとすると、ブルルは男の手を引っ張り「幸せ体験しに行きましょう!」と言い、街へ引っ張り出したのだ。

とはいえ、ブルルの言う幸せ体験は単に男のポケットマネーから甘ったるい幸福を買い漁るだけのものだったのだが。


ブルル「ん〜〜〜、やっぱりクレープはサイコーです!べりべりおいし〜です!」

男「お前が俺の財布で幸せになってどーすんだよ!?さてはこれがやりたかっただけだな!?」

ブルル「神は食事しなくても生きていけますが……それでも美味しいものは大好物です!」

男「まぁたまには良いけどよ……」

ブルル「島の守り神をやってた時は皆さん毎日色々なものをくれましたから……いつの間にかグルメになっちゃいましたね!」

男「幸せそうで何よりです」

ブルル「あー……あの頃頂いたマボサダは本当に美味でしたねぇ……」

男「マラサダか、幻じゃないけど飾りっけのないやつなら作れるんじゃねえの?」

ブルル「本当ですか!?」

男「まぁ暇があれば作ってやるよ、他に何か食いたいもんあるか?」

ブルル「ななな、なんて太っ腹なんでしょう……!ラブになってしまいそうですよ〜……!」

男「現金な神だな」

ブルル「えっとえっと、私は美味しいものならなんでも……!あ、でも島の守り神の時に貰ったガラルの料理はもう食べたくないですね……」

男「あー、ガラル料理はマズイって聞くよな」

ブルル「ウー……あの地方の人達はあんな物を毎日食べていたと思うと……想像だけでもブルーになります……」

男「いいじゃん、ピンクで可愛いし」

ブルル「そっちのブルーじゃありませんー!!……あれ、ご主人様は随分ピンクがお好きですね?ピクシー様も……」

男「そうだなー、気付けば好きになってた。ピンクって可愛い奴多いし」

ブルル「へー、ならテテフ姉様もお好きなのですか?」

男「まぁアイツは可愛いと思うよ」

ブルル「オー、何だかニヤニヤしちゃいますね!……っと、噂をすればあんな所にテテフ姉様!」

男「あ、ほんとだ……おーい」

テテフ「ひぇ!?あ、こ、こんにちは……ですわ……」

 ▼ 69 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/07 21:47:49 ID:L8z.SaYs NGネーム登録 NGID登録 報告
声を掛けると、特徴的なシルエットがびくりと跳ねる。

テテフ「え、えっと……」

ブルル「姉様はおひとり様ですかー?」

テテフ「い、いえ……その、ワタクシは先程までコケコお姉ちゃんと……」

男「コケコ?どこか行ったのか?」


周りから見えなかろうが、ただそこに居るだけで眩しいくらいに目立つアイツが見当たらない。


テテフ「そ、それが……」

テテフが言い難そうにソワソワとした態度を取る。

──なんだ、なんか隠し事か?


テテフ「コケコお姉ちゃん、ブルルちゃんと主様が一緒にいる所を見て……用事があるのを思い出したって急に飛んで行ってしまったんです……」

男「アイツマジで何なんだよ……」


気まずい会話などした覚えもない。だが明らかに避けられている。いや……避けられているというより、都合が悪かったのかもしれない。

男を見た途端反射的にその場を離れるということは、単純な男の脳内で導き出された答えはやはり──


男「さてはアイツ俺の事好きだな?」

テテフ「あ、あはは……」


人生19年、異性との交渉歴0。

こんな冗談めいた思い込みですら周りから苦笑いされるだけの人生。どこで間違ったのだろうか。


ブルル「オーそれはとても素敵なお話ですねー!胸キュンという言葉を聞いたことがありますよー!」


恐らくこいつが人間だったら、損など知らない人生を送っていただろうな。さぞかし毎日が楽しいだろう。

だが、周りの反応に僅かな煽りを感じながらも、妙に鋭い男の勘は悪巧みをし始めた。

──俺の事を好きってのは冗談として、アイツにとって都合が悪いことには違いないだろう。

それが俺と鉢合わせすることなのか、それとも俺がブルルと一緒に居たことなのか──

男「なぁテテフ」

テテフ「な、なんですの……?」

思いついた時には既に口は開いていた。

男「明日俺とデートしようか」

テテフ「…………はい?」
 ▼ 70 ルビアル@にじいろのはね 21/01/08 05:50:45 ID:ygR2T3lk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 71 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/08 06:44:49 ID:CEW6Lq4I [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告







男「……よし、行くか」

テテフ「あ、あのぅ……ほんとにしちゃうんですか……?」

男「何が?」

テテフ「その、ぁ、えと……で、で、で……」

男「デート」

テテフ「はぅぁっ!?」

男「ウブ過ぎだろ」


午前のアルバイトを終え、朝から背後を着いて回っていたテテフを外へ連れ出す。


テテフ「あ、あの……やっぱり恥ずかしすぎます……!」

男「お前がそういうと思って……ほら」

ピクシー「ぴっ!」ヨッ

男「今日はこいつも同伴だ」

テテフ「あぅ、もしかして……1人で喋ってる変質者に思われるから……ですか?」

男「変質者て」


いくら臆病といえど、姉妹揃って自然な流れで毒を吐くのは遺伝のようだ。


男「まぁそれもあるけどな、お前ちょっとした事でテンパって危ないから」

テテフ「うぅ、頼りなくて申し訳ありません……ワタクシあくまでも守り神ですのに……」

男「お前はそこに居てくれるだけで良いんだよ」


実際、直にそういった不幸から免れる瞬間を目にしなくとも、傍に居るだけで神の力というものは発揮されているのだろう。

確かに頼りない印象ではあるが、男の中での神としての信頼はそれなりだ。


テテフ「そ、それで……今日は一体どんな目的で……?」

男「よくぞ聞いてくれた、ズバリ……コケコをおびき寄せるんだよ」


──今回のデートでの作戦はこうだ。

──まず、俺とテテフが仲良さそうな雰囲気を出す。それからテテフに協力してもらい、一人の時間を作る。これの繰り返しだ。
 ▼ 72 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/08 06:58:48 ID:CEW6Lq4I [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
男「あんまり詮索はしないようにしてたんだけどさ……いや、これは詮索じゃないんだ。こっちからあいつの事を知るきっかけになればな」

テテフ「そ、そうですか……」


昨日のコケコの様子からするに、明らかに男を避けているようだった。

ただ単に避けている……ということなら、今日のデートで男の目の前に現れることは無いだろう。

だが、昨日のコケコが男を避けた理由──これが『ブルルと2人でいる所を見たから』という理由ならどうだろうか。

男が1人になって隙を見せれば、きっとまた気まぐれな守り神は姿を見せるだろう。


男「じゃあ行くか」

ピクシー「ぴぃ」オテテニギニギ

テテフ「あ、あの……」

男「お前も手繋ぐか?」

テテフ「い、いえ……今は繋げませんし……」

男「あ、そっか……触れないのか、まぁ雰囲気だけでも、ほら」

テテフ「ぁ、そ、そうじゃなくて!あの……う、うしろ……」

男「後ろ……?」


振り向こうとすると、瞬時に視界が暗闇に覆われる。


男 (んなっ……ポケモンハンターってやつか!?)


だがピクシーに手出しされる様子は伺えない。というよりは、覆われた目元にほんのり温かみを感じる。

辺りに涼しい空気が漂うこの感覚──


男「おい離せ離せ!お前レヒレだろ!何外なのに姿丸出しなんだよ!」

レヒレ「なんだ、バレておったか」


目元を覆う感覚が一瞬にして消える。実体を消したのだろう。

振り返ると、案の定ニヤニヤとこちらを見つめるレヒレがまるでこちらを揶揄うかの如くふよふよと浮いて佇んでいた。


男「なんの用だよ」

レヒレ「吾輩のことは『でぇと』に連れて行ってはくれぬのか?」

男「行きたいのか?」

レヒレ「うむ、ご主人と出かけるのは単純に楽しそうだからな」

怖いくらい素直な奴──と思いながらも、これはなかなか良い状況を作り出せるのではないか。
 ▼ 73 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/08 16:21:48 ID:wVL2XXVA NGネーム登録 NGID登録 報告




昨日のコケコの行動から考えるに、何故男を避けたのか……大きく絞ると2択。だ。

まず1つ、単純に都合が悪かった。

男の姿を見てその場を立ち去ったのは明確だ。出来れば鉢合わせたく無かったのだろう。

そして2つ目──これは正直実感が湧かないが……可能性としては最も高い。


テテフ「ご主人様とブルルちゃんが仲良さそうな姿を見て嫌な気持ちになった……ですか?」

レヒレ「要するに嫉妬というやつじゃな」

男「そういうこと」

レヒレ「ほほう……?ご主人様もなかなか……自分が男として意識される立場にあるということに気付いてしまったか……結構結構」

男「バカそんなんじゃねえよ、大体俺に男としての魅力あるか?」

レヒレ「……どう思う?」

テテフ「あ、えっと……す、すごく良い人だと思いますわ……」

男「露骨なんだよお前らは」

今になって人生で異性とロクに接することが出来なかった弊害が露になってきたが、気にしたら負けである。

男「そうじゃなくて、アイツの場合はだな……遊び相手というか、弄り倒す相手が居なくなって拗ねてるって感じだな」

守り神であるというのに、今まで散々男を揶揄い続けてきた。

いざとなると心に引っかかるものが出来てしまうのは、唯一と言っても良いコケコの弱みなのだろう。


男「というか……俺はもう少しアイツの事知りたい」

レヒレ「お熱い宣言だのう」

男「俺の人生の目標の1つはアイツの本性を暴くことだからな」

テテフ「い、色んな意味で熱いですね……」


出向いているスイーツのキッチンカーにピクシーが興味を持ち始め、長話になってしまったことに気付く。

まるで珍獣の撮影を試みている気分だが、とにかく目的は単純。

男の人生の初デートはロマンスの欠片も無いものとなるのだった。

男「ん?思えば昨日ブルルと出掛けたのってデートでは……?」


異性(厳密には異性ではないが)との外出の線引きに疑問を感じながらも、男は1匹で寄り道を始めようとするピクシーを引っ張り出し、3体と1人で栄えた駅前へと向かっていった。
 ▼ 74 タング@でんせつのメモ2 21/01/11 20:14:16 ID:vsxcbfNY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 75 ティオス@オレンジメール 21/01/12 16:19:35 ID:fpzU.Fus NGネーム登録 NGID登録 報告
咄嗟にデートの予定を組んだものの、進みは至って順調だった。

ペット連れの1対2のデートのようなものなのだろうか。基本的には男がピクシーに買ってやりたい物を中心に回り、外出らしく適当に寄り道をするようなごく普通のデートだ。

途中で何故かテテフが薬局で薬の成分を熟読していたり、レヒレが兵器のプラモデルに興味を持っていたのは意外な収穫だった。

今日のメインであるテテフとレヒレの寄りたい場所にも足を運ぶつもりだったが、興味を持った物への執着心がおぞましかったため後回しに。


男 (女の子って買い物長いって言うしな……)


現在進行形で、一般人よりも長時間本を見て歩いてる男は他人のことを言える立場ではないと気付かず、熱心に神話のコーナーを眺めていた。


ピクシー「ぴっ」

男「お、欲しいもの見つかったか?」


ピクシーが差し出したのはポケモンが出した著書……要するに、ポケモンが読むことができる本。

数十年前、ヤドキングやヤレユータンが紙に書き残した文字のようなものがポケモンが読むことの出来る文字だという結果が出て以来、ポケモンが著者として書き上げた本を出版社が挙って出し始めたのだ。

最も、人間は解読不可のため内容を確認出来ずに販売しているのはモラル的に危ういと思う者も居るが、今のところそういった問題などは起きていない。


男「……うん、俺には読めんな」


なお、今までまともに勉強などしてこなかった男に解読など不可能である。


男「表紙は……あぁ、ドーブルか……なんだこれ恋愛物か?」

ピクシー「ぴぃ〜〜〜……」ウットリ

男「お前メスみたいな趣味してんな〜」

ピクシー「ぴっ!?ぴーーーっっ!!」

男「あーごめんごめん悪かった、静かにな」


俺も勉強してみるかな……と心の端で感じたものの、過去に何度も同じ事を考えて結局早々に挫折したのだ。恐らく同じ結果になることは見えている。


テテフ「あ、主様……これ欲しいです……」

男「ん、どれどれ……『虫ポケモン大図鑑 -鱗粉からその成分まで大解説-』……お前はお前で面白い趣味してんな」

テテフ「あ、えへへ……ちょっと興味があって……」


そう考えると、人間の言葉を理解出来る上に言葉を交わすことの出来る神々のポケモン達はかなり貴重な存在なのだろう。

男 (うん、神にもそれぞれこんな感じで興味がる分野が違うって考えるとなんか面白いな……)
 ▼ 76 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/13 16:07:26 ID:GY6oZYbk [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
レヒレ「ご主人、欲しいものは決まったのか?」

男「お前は何も要らないの?」

レヒレ「うむ、この世界を長い間眺めてきた吾輩にとっては見て回るだけで十分だからな」


何だかんだ達観している女神様には頭が上がらない。


男「なぁ、お前ら4姉妹に関する記述がある本って分かるか?」

レヒレ「なんだ、興味を持ったのか?」

男「ちょっとな」

レヒレ「ほほう……ご主人も吾輩達の事をもっと深く知りたくなったのか……」


……が、少しでもこうして隙を見せると、頬に手を添えて初キスを奪おうとしてくるのは何とかしてほしい。


テテフ「お、お姉ちゃん……駄目ですよ、密ですよ……!」

レヒレ「おっと」


こいつとコケコに常識のある妹が2人も居て良かったとつくづく思う。


ピクシー「……?ぴ、ぴぃっ!?」

男「ん?どうした」

ピクシー「ぴっ!ぴゃああっ!!」


突然ピクシーが騒ぎ出したと思えば、男の持っていた買い物カゴの中から1冊の本を取り出す。


男「なんだそれ、俺そんな本入れ……んん!?」

レヒレ「ほう」

テテフ「ひぇぇっ……!?///」


ピクシーの手には、初めてコケコと出会った日、コケコを揶揄うために見つけた本。表紙には露骨なほどいやらしいいらが描かれている。要するに……


男「エロ本じゃん……」

レヒレ「なるほど……ご主人も『おとこのこ』というやつじゃのう……」

男「ちげーよ!!いや違くないけど!男の子だけど!!」
 ▼ 77 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/13 16:29:50 ID:GY6oZYbk [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
男が困惑するのも当然、本を触るどころか自分はその手の本の売り場に行ってすらいないからだ。

男「おい何でだ!?俺は入れた覚え無いぞ!?」

レヒレ「なんだ、ご主人が買おうとしていたのではないのか」

男「ちげーよ!!お前か!?イタズラ娘め!!」

レヒレ「戯け、吾輩に罪を擦り付けるでない」

男「じゃあお前!!」

テテフ「なっ、ななな無い無い!!無いですありえませんっ!!///」

恥ずかしがる様子が少し可愛いと感じるがそれどころではない。


男「じゃあピクシー!!」

ピクシー「ぴ」

『人間の女にゃ興味ねえ』とでも言いたげな顔で適当にあしらわれる。


レヒレ「素直になったらどうだご主人、吾輩達はオスの趣味に対して偏見など持っておらぬぞ?」

テテフ「そっ、そうですわ……わ、わ、ワタクシはその、嫌な気持ちになんて……!」

男「分かったから無理に慰めようとすんな!!あと俺じゃねぇ!!」


三方向から温かな視線を送られるが、だんだんとぬるま湯の如く冷えていくような感覚がして気が気でない。

興味が無い訳ではない。むしろ10代後半の男子としては興味を持たない方がおかしな話だ。

ただ、異性……というか、異性のような神が隣に居れば話は別。何かしらの天罰が降り掛かってくるのでは無いかと感じてしまう。


男「はー……なんなんだよホントに……ほら、俺が戻して来るから貸してみ」

レヒレ「こっそり買ってくるつもりか?」

男「ちげーよアホ!!」


これ以上は他人に見られてロクな結末になる気がしない──興味が無い様子を装ってピクシーの手から肌色の多いカバーを纏った本を手に取る。

────パチッ


男「どおぉっほぉぅ!?」

ピクシー「ぴゃ!?」

テテフ「ひゃあ!?」


たまたまピクシーの手に触れた瞬間、季節外れの静電気が男とピクシーのゼロ距離に駆け巡った。

これもまた偶然なのか、それとも──
 ▼ 78 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/14 15:48:27 ID:IZ4gvAzE [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
レヒレ「どうした、急に奇妙な声を上げおって」

男「いや、静電気が……」

ピクシー「ぴぃ〜……」

レヒレ「ほう」


おそらく、レヒレも勘づいているのだろう。

何故か買い物カゴに入れた覚えの無い本。季節外れの静電気。

その上、入れられていた本は男がコケコを揶揄うために見つけたもの。つまり、共有されているのは男のコケコだけ。

男 (電気、電気……)

周辺の本棚に触れると、どこも微量の静電気が走っているようだった。

──そういえば……コケコの特性上、アイツの居る周辺は電気が……

咄嗟に今日のデートの目的を思い出す。

コケコが昨日男を避けた理由。大まかに言えばそれを見つけ出すのが目的だった。

予定を立てる際に思い浮かんだのは、男がブルルと2人で居たがために遊び相手──否、弄り相手が居なくなったという、いわゆる嫉妬に似たようなもの。

……と、最初はこう考えていた。

だが、深く考えればこういうことなのではないか。


男 (コケコが俺の事をどういう目で見ているか……どういう感情を抱いてるか、ってことだよな)


もしこの近くにコケコが居るとすれば──

明らかに男の気を引くために買い物カゴに放り投げた本。カプ・コケコ特有の辺りに電気を掛け巡らせる特性。


男「なるほどなぁ……なんか面白くなってきたな……」

テテフ「な、何がです……?」

男「女の子を揶揄うの」

レヒレ「ご主人も悪い男になったものだな」

男「よしテテフ、手繋ぐか」

テテフ「はぃぃ!?わ、ワタクシとですか!?で、でも……今は主様に触れませんし……」

男「アイツからそう見えればいいんだよ、これも作戦の1つだ」


もっと酷いことが起こるかもしれないということを承知で、男は自分を追尾している……かもしれないコケコの気を引くために、さらに追い討ちをかけてゆく。
 ▼ 79 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/14 16:15:36 ID:IZ4gvAzE [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告




男 (とは言ったものの、過剰にベタベタしたら殺されそうだもんな……4方向から)

自分を気にしている相手の気を引くためにはどうすれば良いか。今まで異性に気にされたことなど一度たりとも無かった男にとってはなかなかの難問だった。

男 (さっきみたいに普通に接してるだけでちょっかい出てきたんだし、今まで通り仲良さそうにしてりゃ良いとは思うんだけど……)


10代後半。何だかんだ中学生男子と同じくらい刺激を求める年頃。

『普通』にしているだけでは物足りず、自然とスパイスを探求してしまう。


男「レヒレ」

レヒレ「どうした?」

男「お前もうちょい近付いてきてくんね」

レヒレ「ほほう、ご主人がそう言うなら吾輩は遠慮なく密着するが……それでもよいのか?」

男「むしろウェルカム、俺にとっては都合が良いんだ」

レヒレ「そうかそうか!それでは遠慮なく!」


男の身体の右側はテテフに、左側はレヒレに独占され、言わば両手に花の状態となった。

隣を歩くピクシーからの視線が生ぬるい。


男 「(……おい、俺の考えはお見通しなんだろ)」

レヒレ「(さぁ?どうであろう)」


周りから気付かれないようにレヒレに耳打ちするが、白々しく流される。

一応レヒレなりの気遣いなのだろう。気になって聞いてみたものの、確かに男にとってはこのような対応の方が好都合だった。


──何だか視線を感じる。うんうん、成功してるな。


男はチクチクと刺さるような視線を感じる。

周辺を歩くポケモンがチラチラと視線を向けているが、これは男のに対してでは無く、見覚えの無い守り神二体を物珍しそうに見ているのだろう。

無論、人間からの視線でもない。

???「………」

これは確実に──釣れている。

男 (よし、いいぞ……この調子だ……!)
 ▼ 80 ケニン@きちょうなホネ 21/01/15 16:39:49 ID:6rXUnMv6 [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告



先程の陽の当たる世界と甘ったるい雰囲気とは真逆に、男はビルの影の中の路地裏に1人で進んで行った。

念入りな焦らしを終えて二体の守り神とも別れ、まるで決闘の申し込みをされたかのように構えている。

男「無いとは思うけど、もし決闘になったとしたらお前にたよらせて貰うからな」

ボールに帰したピクシーにタラプの実を添え、最悪の状況に備える。

とは言ったものの、男も向こうが自分を傷付けるようなことはしないと分かっている。

今日のデートのために引っ張り出してきた余所行きの服が汚れるような心配もない。


───カタン。

男「……?」

ニャルマー「……にゃ?」

男「……あ」


……このように、偶然通り掛かったニャルマーが生ゴミの詰まったゴミ袋の山を崩していかなければの話だが。


男「ちょ、嘘だろ!?俺のなんちゃってブルジョワファッションが汚れ……!」


男に土砂崩れのように降りかかるゴミ山はそのまま男に直撃──することはなく。


──パチッ、パチッ……


男「……あら?」

中身がぶち撒かれずに散乱したゴミ袋は、微量の電気を纏っていた。

それは、何かに弾かれるような動線を描いて──


男「っ………!!」


振り返るが、そこには何も居ない。

──おかしい。俺を守ったこの電気は、確かにアイツの……


???「……だーれだ」

男「おわっ!?」


突如視界が暗闇に覆われた。

その瞬間に身体中に走った静電気は、手加減をするかのように心地よい感覚で──
 ▼ 81 ロア@イワZ 21/01/15 17:03:07 ID:6rXUnMv6 [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
男「お前の殻の中って結構涼しいんだな」

???「誰だか当ててくれないと離してあげない」

男「……コケコさん」

コケコ「正解」

拘束されていた顔面が解放され、声が聞こえた背後を振り返れば、先程は姿など見えなかったコケコが心做しか不機嫌そうな表情で佇んでいた。

コケコ「随分とつまらない気の利き方をするのね」

男「バレたか」

コケコ「貴方は私がずっと近くに居たのも気付いてた」

男「おう、その通りだよ」

知ってて構って貰えなかったのがよっぽどつまらなかったのか、ムッとした表情を見せる。

──構造上分かりにくいけど、こいつは何だかんだ表情豊かなんだよな。

コケコ「私をこんな所に誘き寄せて、話がしたかったんでしょ?」

男「ご名答」

こんな不機嫌な表情にしたのは自分のせいだと分かっていながら、男はコケコに真っ直ぐな視線を向けた。

男「単刀直入に聞くぞ」

話はあまり長引かせるものでは無い。

男「昨日俺の事避けた理由」

何より、男が最も気にしていたことだ。

男「というか、お前俺の事どう思ってるんだ?」

コケコ「好き」

男「おう、お前の頑張り次第では彼女にしてやらないこともないぞ」

コケコ「馬鹿なことは言わないで」

一刀両断されてしまう。

ちょっと調子に乗ったがため、まあ当然の結果だろう。

コケコ「貴方で遊ぶのは楽しいって意味」

男「まあそうだよな」

しかしながら、男もその返事をまるで分かっていたように軽く吹き出す。

レヒレ達に見られていれば、きっと仲睦まじい様子を揶揄われていたことだろう。

男にとっては、この距離感が心地よく感じた。
 ▼ 82 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/16 12:26:50 ID:YcvATkUU [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
男「俺のこと弄れなくてつまんなかったんだろ」

コケコ「……うん」

男「お前って変なところで素直だよな」

コケコ「私はいつでも素直なつもり」

男「うそつけ」


まあ決して表情豊かとは言えないが、自分の思っていることをそのまま伝えられる辺りは確かに素直な性格なのだろう。

普段のクールさが変なところで噛み合って変な奴だと思ってしまうところでおあいこなのだろうが。

コケコ「今日の貴方は楽しそうだった」

男「あぁ楽しかったぞ、皮肉でもそうでなくても」

コケコ「本は買った?」

男「やっぱりお前だったか……」

コケコ「あの時気になってたみたいだから」

男「別に気になってね……いやちょっとだけ気になってたけどさ」


こいつはこいつなりに、今の日上を楽しんでるのかと思うと不思議と憎めなかった。

あの時河川敷で話を聞いて以来、男は何かとコケコを気にするようになっていた。

──こいつは、俺の倍以上この世界を生きてきた神だ。

──俺が生まれる前にだって、もしかしたら色々な事があって……その中でも、悲惨な出来事を目の前にしてきたのかもしれない。

同情とは少し違う。だがマイナスな感情でもなく、『少なくともこいつの味方であってやりたい』という気持ちが男の中にはあった。

気まぐれな部分も全部引っ括めて、この守り神は今自分が存在するこの世界を全力で楽しんでいるのだ。


男「……なぁ、俺の守り神になってまだ日が浅いだろ?何かやりたいこととかあるか?」

コケコ「……何?」

男「ちょっとな」

コケコ「ふぅん」

興味が無いかのように振る舞われるが、暫し考え込んだ後に再び男に視線を向けた。


コケコ「私も貴方とデートがしてみたい」

男「………マジ?」
 ▼ 83 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/16 12:40:40 ID:YcvATkUU [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
呆然としてしまった。

確かに先程まで二体の守り神を誑かしてデートをしていたのは事実だが、それは建前であり、名目のみ。

自分から正式に誘うことなどこれから先訪れないとさえ思っていた。

男「……デートって恋人とするようなことじゃないのか?」

コケコ「さっきまでしてたじゃない」

男「あれは正式にはデートじゃ……いやもうデートでいいな」

コケコ「それに、私はデートというのは恋人とすることが全てじゃないと思ってる」

男「ほう」

コケコ「男女は、色々な過程を経て二人の仲を築き上げていくでしょ」

男「まあな」

コケコ「デートだって、お付き合いはしてなくても2人で出掛ければデートのようなもの。つまりは過程に過ぎない」


言いたいことは理解できるが、相変わらず達観しすぎているせいかいまいち頭に入ってこない。


男「分かったよ、シフトもないし早速明日でいいか?」

コケコ「話が早くて助かる」

男「つまり俺の事が大好きだってことが分かった」

コケコ「うん、貴方と居ると飽きないから」

男「……遊び相手としてだよな?」

コケコ「さぁ」

意識はしているが、少しでも隙を見せれば全てペースを持ち去られてしまう。

だが、男もそんな守り神と同じ時を過ごす事は悪い気分ではなかった。

 ▼ 84 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/16 12:56:26 ID:YcvATkUU [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
─────


コケコ「………」

レヒレ「見ておったぞ、お主の勇姿」

コケコ「悪趣味ね」

レヒレ「気になってしまったものでな」

コケコ「ずっと後をつけてたの?」

レヒレ「乙女の秘密じゃ」

コケコ「幼稚な姉ね」

レヒレ「なんだその言い分は……これでも姉妹全員お主に感謝して、こうしてあの男の守り神を務めておるのだぞ」

コケコ「……そうね」

レヒレ「あの男にだけ素直な顔を見せおって……うむ、姉として寂しいと同時に感慨深いな」

コケコ「……後悔は?」

レヒレ「しておらぬぞ?姉妹揃って時を過ごせるのならな。もちろんテテフやブルルも同じだ」

コケコ「…………」

レヒレ「お主は、気に入った奴のためなら何でもするような性格であったな」

コケコ「どうしてそう思うの?」

レヒレ「吾輩達を救った張本人だ、そうに決まってる……それに、あの男もきっとお主と同じだ」

コケコ「分かるの?」

レヒレ「あぁ、人間も神も……結局は自分勝手な生き物だ、他人のために時間を割く……まぁ要するに、命を削るようなことをする生き物はそうそう居らぬ」

コケコ「私も自分勝手な方よ」

レヒレ「いや……お主は吾輩の妹だ」

コケコ「随分と自惚れてるのね」

レヒレ「妹達を可愛がってるだけであろう」

コケコ「……そろそろいい?明日の準備があるから」

レヒレ「心の準備か?」

コケコ「…………」

レヒレ「……コケコ」

コケコ「……何?」

レヒレ「吾輩達はお前が何を起こそうと、責め立てたりなどはしないぞ」

コケコ「……うん」
 ▼ 85 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/16 16:28:38 ID:fdT2i/Wk [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
─────────



少年「……はー、ようやくかーちゃんから逃げてこられた!野菜持っていくってバレた時はどうしようかと思った……」


森を駆ける少年が居た。


少年「おーい!来たぞー!」


少年が呼び掛ける先​────木漏れ日の下にひっそりと佇む小さな祠。


少年「今日はなー、うちのばーちゃん家で育ててる新鮮な野菜だぞー!」


少年はそこに居る何かに届けんばかりに声を張り上げ、抱えていた手提げ袋の中から取り出した野菜を祠の前に供えた。

傍から見れば独り言にしか見えないだろうが、少年の声は本人にも見えていない生命に向けられている。


少年「今日さー、クラスの友達にお前のこと話したんだよ。毎日祠にいるすげー奴に話し掛けてるって」


ここは、無音の森。世界は閉じている。


少年「そしたら『そんなん居るわけねーじゃん』って変な奴扱いされてさー……俺は元々変な奴だからいいんだけどさ!」


その接し方は、まるで親しい友人を相手にしているかのようだった。


少年「それでもさ、お前の事を信じないのはバカだなーって思ったよ!俺もバカだからこういうの信じちゃうんだけどさ、お前からは他から感じないすげーの感じるんだ!」


他人の心を突き動かせそうなほど無邪気で、それでいて他から感じられない情が詰まっている。


少年「こうやって話してるとさー……1回はお前とちゃんと話してみたいなーって思うよ、俺はこういうオカルト?不思議系?なやつとか信じてるからさ」


この少年は、自分がひとつの生命の運命を揺るがせたことに気づいていない。


少年「いつか俺の元に来て、召喚!みたいな感じでさー!」


…………



───────────
 ▼ 86 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/16 23:07:25 ID:fdT2i/Wk [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
男「…………」


また夢を見た。

今度はあの時とは違い、はっきりとした夢。

何故決まって走馬灯のような夢を見るのだろうか。


男「くぁ〜……」


大あくびをして腫れぼったい目を擦り、時計を見れば今は9時。


男「……まだ早いかな」


デートの時間が近づいていた。

まだ余裕はあるものの、なんだか落ち着かない。


男「……ま、早めに出てもいいか」


朝食をピクシーと共に軽く済ませ、今日は2人きりのデートにさせて欲しいと相棒に頼み込んでから家を出た。

この時点で時刻は9時半。

待ち合わせは10時。先日男とコケコが2人で行った河川敷が待ち合わせ場所だ。

30分も早いんだ、流石にまだ来てはいないだろう。男としての余裕を見せてやらねば。

……とは思ったものの──



男「……お前早過ぎないか?」

コケコ「そっちこそ」

男「いてもたってもいられなかったんだよ」

コケコ「そんなに楽しみだった?」

男「お生憎様、お前には負けると思うぞ?」


──自分から待ち合わせ場所と時間を指定して、かつ本来の時間よりも早めに到着する……定番中の定番を貫いてきやがったなコイツ。

何より、いつものポーカーフェイスにほんのり日が差し込んで何だか綺麗に思えてしまう。


男 (落ち着け俺、惑わされるんじゃない……!)
 ▼ 87 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/16 23:20:57 ID:fdT2i/Wk [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
男「ていうか、何でわざわざ待ち合わせなんて決めたんだよ?俺ん家分かるんだから来ればいいだろ」

コケコ「こっちの方がデートって感じだから」

男「ほー、お前そういうのにもこだわるのな」

コケコ「そっちこそ、今日は随分と朝ご飯を食べるスピードが早かったんじゃない?」

男「来てんじゃねぇか!!声掛けろよ!!」

コケコ「たまたま通りかかっただけ」


こんな調子でデートが進むのかと、少し不安に思ってしまう。

大失敗することはまず有り得ないだろうから、あとは計画次第だが。


男「どこか行きたいところとかあるか?」

コケコ「私は……主と一緒ならどこへでも」

男「そういうのが1番迷うんだよなー……」

コケコ「主は何が好きなの?」

男「ん?そうだなー、ピクシーによくCDとか買ってやってる関係で音楽とかまあまあ好きだぞ」

コケコ「そう、じゃあCDが売ってる場所にでも行きましょう」


何だか機嫌のよさそうなコケコの様子に、思わずこちらも心が跳ね上がってしまう。


男 (音楽……音楽かぁ、こいつは音楽とか聴いたことあるんだろうか)


ピクシーはなかなかのロマンチストのようで、昔から男の部屋でお古のお気に入りのCDを流しては癒されている。


男「お前は好きなのか?音楽」

コケコ「うん、嫌いじゃない」

男「ヘビメタ?」

コケコ「私のことをどう思ってるのかは知らないけど、後でお仕置ね」

男「すんません」


──でもどうしよう。ヘビメタとかじゃなくても激しい曲が好みだったりしたら……こいつ興奮して店の中で暴れ散らかすんじゃなかろうか。

店の中激しい電気が走り回ってメチャクチャになる様を想像すると、自然と身体が怯んでしまう。

男は今日のデートが無事に終わることを、ひっそり神に願っていた。


男 (……ん?そういやコイツも神だったわ)
 ▼ 88 イタラン@シルフスコープ 21/01/19 19:26:44 ID:M1CUEkA6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 89 ーケオス@ラッキーパンチ 21/01/22 18:20:11 ID:DcSYsFrQ NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 90 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/25 15:50:07 ID:AbLM/.8A [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
駅前のショッピングモール内で営業しているCDショップはかなりの広さを誇る。

常人なら目当ての物を探し求めるのに疲労を感じてしまう程だ、

だが、時間を忘れて本を探し回ることに苦を覚えない男にとってはそれなりに心地よく感じられる空間。

何より、商品の陳列は事ある毎に変わろうと、ここは昔から馴染みのある空間。

今となっても時々訪れるが、相棒であるピクシーの好むCDを迷いなく探し出すことが出来る。


男「俺はさ、これといった音楽の趣味とか無いんだよな」

コケコ「そうなの?」

男「ピクシーの趣味に付き合ってたら自然と……ってなだけなんだよ、そもそも俺って音楽とか好きそうなガラじゃないだろ?」

コケコ「それはそう」

男「もーちょいイケてる男だったら音楽好きってだけでもモテてるんだろうけどなぁ」

コケコ「貴方がモテてる様子なんて想像したくもない」

男「ぬぁんだと!?」


他愛もない話を続けていると、あっという間目当ての場所に辿り着いていた。


男「お、あったあった」

コケコ「これがあの子の趣味?」

男「おう、クラシックな。ほんとメスみたいな趣味してるよなーあいつ」

コケコ「私は無難で良いと思うけど」

男「どうせこれが俺の趣味だったら似合わないとか言うんだろ」

コケコ「うん」

男「お前な……」


男は1枚のCDを手に取る。

聞き覚えのある曲が入ったCDだが、これは有名ピアニストがカバーしたものだ。

 ▼ 91 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/25 16:19:56 ID:AbLM/.8A [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
男「ピクシーはこれの3曲目が好きなんだよな」

コケコ「Piccadilly……サティの曲ね」

男「お、よく知ってるな」

コケコ「こういうのには少し興味があるから」

男「意外だな、もっとうるさいのが好みかと思ってた」

コケコ「見た目で判断しすぎるのは主の悪い癖ね」

男「まあお前の性格的には合ってるかもだけどさ」


お互い深く入り込む程の知識は持っていないようだが、ここで少しジャブを入れてみる。


男「俺の好きな曲何だと思う?」

コケコ「グノシエンヌ」

男「あー、俺あの曲苦手なんだよなー……昔初めて聴いた時ゾワッとしたっつーか……」

コケコ「そうなの?私は好きだけど」

男「もっとこう……明るいような曲が好きなんだよ、たとえば……」


頭の中で軽く例えを思い浮かべる。

──明るい曲、明るい……

ふと、目の前に何にも劣らない例えが居ることに気付く。


男「お前みたいな」

コケコ「…………」


視線の先では、守り神が珍しくポカンとした間抜けな表情を見せていた。

流石に分かりにくかっただろうか。


男「夢見る魚」

コケコ「なるほど」

男「神出鬼没な曲調がお前そっくりだよ」

コケコ「私はそんなに気まぐれ?」

男「レヒレ達に聞いてみろ、多分満場一致だぞ」
 ▼ 92 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/25 17:34:50 ID:UCGAgyFQ NGネーム登録 NGID登録 報告
コケコ「それにしても……随分私の事をちゃんと理解してるのね」

男「嫌でも分かりやすいよ、お前の性格は」

コケコ「そう」

男「なんか嬉しそうだな」

コケコ「別に」


口ではこう言うが、コケコはあからさまに上機嫌な様子だった。

自分を理解されるというのにそこまで嬉しくなれるのだろうか。

何者も寄せつけないような雰囲気ながらも、こういう感性は人間らしく感じる。


コケコ「じゃあ、私の好きな曲でも当ててみる?」

男「ビックリ箱」

コケコ「貴方のイメージを押し付けてるようにしか聞こえないのだけれど」

男「そうか?ピッタリだと思ったんだけどな」

コケコ「でも、貴方がそうやって私に対してのイメージを膨らませてくれてるのは正直に嬉しい」

男「……そうかよ、でもお前の好みってぶっちゃけ分かりづらいぞ」

コケコ「さっき私の性格がどうとか言ってたじゃない」

男「……Je te veuxとか?」

コケコ「正解」

男「まぁ、らしいっちゃお前らしいよな」


──周りにこいつが見えているなら聞きまわりたい。おそらく10人に聞けば満場一致でイメージとはかけ離れていると言われるだろう。

こうは思うが、不思議と似合わないという感情は抱かなかった。

男にとっては、むしろ懐かしささえ感じてしまう。

この曲を聴くと不思議と浮かんでくる情景。

閉じた緑の世界は、今思えばこいつにそっくりだった。


コケコ「……どうしたの?」

男「いや……何でもない」


澄ましたような横顔も、遠くを見つめるような視線も、主張を感じない様子は森に僅かに差し込む太陽の光に似ている。

きっとピクシーのロマンチストな部分は、男に似てしまったのだろう。
 ▼ 93 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/26 00:15:48 ID:BrvIlS5k NGネーム登録 NGID登録 報告
男「まぁ……あれはいい曲だよな、俺も好きだよ」


昔からピクシーが聴いていたせいか、曲を聴けば自然と情景が脳内に浮かんでくる程度には馴染みがあった。

しかし、見える景色はいつも同じ。


コケコ「私が惹かれたのは、曲だけじゃないの」

男「ほう?」

コケコ「Je te veux──この曲について、知っていることくらいあるんじゃない?」

男「…………」


そうだ。

聞き覚えがある。

Je te veux……それこそ原題のまま呼ばれることが多いが──


コケコ「少しだけ……繋がってるの」

男「……何がだ?」

コケコ「私が貴方の守り神になった理由……それについて」


なかなか思い出せない。互いに齧る程度しか学んで来なかったと思っていたが、コケコは一枚上手だったようだ。

少しでも調べたことがあればすぐに思い浮かぶのだろう。

この曲に込められた意味───


男「あ」

ブーッ…ブーッ…


男「悪い、ちょっと母ちゃんから電話……」


悪戯でも仕掛けられたかのようなタイミングで、男の思考が途切れる。


コケコ「…………」


コケコ「……うん、まだ要らない言葉なのかも」
 ▼ 94 木めぇーぐる◆LUgX5keOhk 21/01/26 09:50:54 ID:GNzURlB2 NGネーム登録 NGID登録 報告


ピクシーへの土産としてCDを購入し、2人は特に行き場もなく適当にモール内を歩き回っていた。

コケコは男が興味を持つもの全てに対して関心を持ち、不思議と時間が経つのが早く感じてしまう。


男「あ、これ……」

不意に目が止まった先には、昨日のデートでレヒレが妙に気にしていた兵器のプラモデル。


男「レヒレってこういうのが趣味なのかな」

コケコ「単に生き物を傷付けた物がこうして飾られてることに違和感を覚えてるだけだと思うけど」

男「なーんか意味深だなその言い方」

コケコ「……神はね」


コケコはほんの少し切なそうな表情を見せる。


コケコ「生命っていうものに敏感だと思う」

男「想像はし易いな」

コケコ「今まで色々なものを目にしてきたからこそなの。勿論、逃げることも出来ずに」

男「…………」


要するに守り神は、全てを見届けなければいけない存在。

神も他の生き物と同じように感情を持ち、喜びや悲しみを分かち合う。

だからこそ、辛いものを目の当たりにしてきたとしても、人間のように逃げることは許されない。


コケコ「ある神は人々を癒し、ある神は争いを避け、ある神は戦を止め、ある神は幸福の象徴となった……」


守ってきたものが一瞬にして崩れ去っていくのを目にしてきた神々。


コケコ「壊れやすいものだっていうことは知ってるからこそ、私は出会いを大切にしたい」


今まで見せたことの無い強い意志を感じられる言葉だった。

こいつが守り神だからこそ分かるのだろう。

その力強い視線は、真っ直ぐに男の顔に向けられている。
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