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【SS企画参加作品】二人で描く夏の青

 ▼ 1 恋のペーさん 23/07/15 07:18:18 ID:U47IncBw [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
"青"を描いた二枚の絵がある。

空と海の青だった。
晴れ渡る青空にはメラメラと燃え盛る太陽が輝き、凪いだ海はどこまでも続くように雄大である。
空を、海をテリトリーとするポケモン達の姿も写し出され、その息遣いが感じられるようだ。

手掛けたのはアカデミーの美術部員二人。
実はこの二枚の絵、どちらも同じ場所から西パルデア海を望んで描かれたものなのである。

そのような作品が如何ようにして生まれたのか。
その裏には、ほんの小さな物語が隠されていた………。
 ▼ 2 恋のペーさん 23/07/15 07:19:37 ID:U47IncBw [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アオイ「暑っづ〜〜〜い゛!!」

学友の耳障りな嘆きを紛らわすように、メロコは紙上に鉛筆を走らせる。

メロコ「……………」

カリカリカリカリカリカリ…
筆先と紙が触れ合う律動的な音が精神を落ち着かせ…

アオイ「ねぇ本当に暑くない?暑っつすぎでしょ〜〜〜!」

ボウジロウ(おれの方がもっとアツいぜ!)

メロコ「……………」

カリカリカリカリカリカリ…

アオイ「暑っついよね!?アイス蒸発しちゃうよもう」

カリカリ…カリ、カリッ……

アオイ「暑ぢぢぃぃぃ〜〜〜!!」


ガリッ!!

メロコ「うるっせぇな!!言わなくても分かること連呼してんじゃねぇぞ!?」

スター団の何でも屋にしてチーム・シェダルのボス、メロコ。美術部に入って一ヶ月。

キャンバスに没頭して無に入る境地には、まだまだ到りそうもない。
 ▼ 3 恋のペーさん 23/07/15 07:20:06 ID:U47IncBw [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「あ〜あ、邪魔が入ったせいで…」

テーブルシティの街並みと、その頭上で燦々と輝く太陽。描き手として満足し難いラフ画を大きなバツ字で封印する。

メロコ「暑いならどっか別の所にでも行けよな」

アオイ「つれないこと言う!予定が完全に真っ白なんだもん」

現在アカデミーは夏季休暇真っ只中。
普段は寮生活をしている生徒達も、帰省や旅行を楽しんでいることが多い。

例えば、メロコとアオイが共通して親しくするボタンは故郷のガラルに帰省している。
他にも、ネモは別地方にバトル合宿、ペパーは食材探しの小旅行に出ていた。

アオイ「皆ばっかり楽しい思いしてさ!ちょっとは構ってよぉ」
 ▼ 4 恋のペーさん 23/07/15 07:20:40 ID:U47IncBw [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「お生憎様、オレは忙しいんだ」

スター団のボス達はといえば…ピーニャは音楽フェス、シュウメイはアニメの鑑賞会、オルティガは別荘でバカンス、そしてビワはプロレスサークルの特別強化訓練に身を投じている。

メロコの予定というのは、美術部で出された課題…夏の風景画を仕上げることであった。

もっとも、絵に注力しているのは、それ以外に予定が無いからこそと言えなくもない。
スター団のメンバーの大半も夏季休暇を楽しんでいるので、ボスの彼女にもすることがないのだ。

ボウジロウ(メロコー、どっか連れてけ!)

メロコ「そうだな。折角だし気分転換できるようは場所で描こうかね…」


「あ、メロコさん。それにアオイさんも」
 ▼ 5 恋のペーさん 23/07/15 07:20:58 ID:U47IncBw [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「部長じゃねーか。アカデミーに何か用だったのか?」

部長「はい。ちょっと借りたい資料があったもので」

穏やかな物腰で話す少年は、メロコの所属する美術部の部長である。

アオイ「メロちゃんに聞いたけど、絵を描く課題あるんでしょ?何描くの?」

部長「西2番エリア…マリナードタウンの近くに行こうかと。海のよく見える砂浜があるんです」

メロコ「海、か…」

それはちょっとした思いつきだった。


メロコ「なぁ。迷惑じゃないなら、オレも一緒に行っていいか?」
 ▼ 6 恋のペーさん 23/07/15 07:21:17 ID:U47IncBw [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アオイ「お」

部長「メロコさんも?」

メロコ「何描こうか、イマイチ纏まらなくてさ。綺麗な場所見たら、インスピレーション湧くかもしんないだろ」

部長「そういうことなら大歓迎です。じゃあ明日のこの時間…マリナード前のポケモンセンターで待ち合わせましょう」

メロコ「ああ、分かった。じゃあまた明日な」

ボウジロウ(やった!遠出だぞー!)

アオイ「………」ニヤッ
 ▼ 7 恋のペーさん 23/07/15 07:21:42 ID:U47IncBw [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜〜〜〜〜〜〜〜

その日の夜。メロコは寮の自室で明日の準備をしていた。

メロコ「スケッチブックに…鉛筆に絵の具、それから」

ボウジロウ(いつものブーツでいいのか?)

メロコ「そういや砂浜だもんな。確か浅瀬も歩けるサンダル…」

ロトロトロトロトロトロト…

アオイ『やっほー。準備進んでる?』

メロコ「いや進んでるけど。何だよ?」
 ▼ 8 恋のペーさん 23/07/15 07:22:00 ID:U47IncBw [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アオイ『明日着てく服は…後ろにかかってるそれ?ちょっと地味じゃない?』

メロコ「絵描きに行くんだから派手にキメる理由も無ぇだろ。オレの服にケチつけたくてかけたのか?」

アオイ『いやだって、美術部の部長君と行くんでしょ?二人っきりだよ?』

メロコ「………だから?」

アオイ『だからぁ!青春真っ盛りの二人が海辺で急接近、なんて…♡」

メロコ「くっだらねー。ゴシップ好きのオバサンかよ」

アオイ『ひどっ!?』


…前日までのメロコの意識はかくの如しであった。
アオイに囃し立てられようと、そうした状況になるはずもないと思っていたのである。
 ▼ 9 ミルタンク@きんのパイルのみ 23/07/15 13:12:02 ID:/WtoElQI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 10 ノココッチ@ミュウZ 23/07/16 20:46:29 ID:BJro4MVc [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜翌日〜

支度を整えたメロコはボウジロウ達手持ちポケモンを連れ、イキリンコタクシーに揺られていた。

ボウジロウ(遠出楽しみだなー!)ルンルン

メロコ「言っとくけど描いてる間はボールで留守番だからな。海辺だし」

ボウジロウ(えー、なんだよー)

メロコ「…お、もう来てるのか」

西2番エリア。緑の大地をケンタロスが黒く染める一帯で目を引く、ポケモンセンターの赤い屋根。

その傍らに、制服とは違うラフな格好をした部長の姿が見えた。

メロコ「よぉ、待たせちまったな」

部長「おはようございます。全然待っ………!」

メロコ「?」

部長「今日は、いつものブーツ…履いてないんですね」
 ▼ 11 恋のペーさん 23/07/16 20:46:46 ID:BJro4MVc [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
(名前変え忘れちゃった)
 ▼ 12 恋のペーさん 23/07/16 21:04:34 ID:BJro4MVc [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「え?そりゃまぁ、砂浜歩くんだからな」

今日のメロコは、炎の意匠をあしらった厳しいブーツではなく、悪路を歩くのに適したスニーカーを履いていた。

そのため、いつもは黒いブーツに覆い隠された両脚の輪郭を、しっかりと見ることができるようになっている。
健康的な太ももがホットパンツとの対比で映え渡り、白い肌が陽光を受けて輝いた。

部長「そ、それはそうでしたね」

部長「ささ、こちらですよ。本当に綺麗な場所で…」

〜砂浜〜

メロコ「へぇ〜…落ち着いてていい所だな」

部長「そうでしょう?観光客は殆どマリナードタウンに行きますから」

寄せては引く波は力強くも穏やかで、心地よい潮風を運んで来る。
太陽から降り注ぐ光を浴びながら、キャモメやカイデンが悠々と空を楽しんでいるようだ。

アカデミーから持ち出した椅子に腰掛け、メロコと部長はスケッチブックを広げた。
 ▼ 13 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/16 23:25:32 ID:BJro4MVc [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カリカリカリカリカリ…

メロコ「………」

サラサラサラサラサラ…

部長「………」

目の前のスケッチブックに没頭する二人。
さして違いのない鉛筆と紙だが、描き方の違いが異なる音を紡ぎ出し、
砂浜には確かに二人が並んでいるのだと証明していた。

メロコ「………」ペラッ

時にメロコの視線は上に向けられる。彼女が描いているのは、終わりの見えない蒼穹である。
炎が猛々しく燃え立つ様を好むメロコは、天文規模の炎である太陽に創作意欲を掻き立てられていた。その太陽が輝く空を、一枚の絵として切り取ることをメロコは決意した。

ズッ、ズ、ズッ…ガリガリッ、ガリッ

初日は様々なパターンの空、太陽のラフ画を手当たり次第描き続けることを決めている。考えを整理する手法の一つとして、描いて描いて描きまくること、要するに頭の中の思考を吐き出すことを美術教師・ハッサクに学んでいた。

やはり軸となるのは太陽である。
写実的に、あるいは太陽の纏う炎をやり過ぎなほど誇張し、空を飲み込まんとするほど大きく、あるいはどこかへ消えてしまいそうなほど小さく。

意欲に導かれるままメロコは描き続け、早くも数枚の紙が満たされる。

メロコ(次は、空全体をどうするかだな…)
 ▼ 14 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/16 23:57:01 ID:BJro4MVc [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
太陽を核とし、様々なパターンのラフ画を仕上げた。
そこから空全体の景色を描くにあたり、それぞれに別の…最適のアプローチというべきものがあるはずだった。

差し込む光はどう描くか。雲の密度、種類は?鳥ポケモンは飛ばすべきか。どのような風が流れるのか…

メロコ(部長はやっぱ海描いてんのかな)

思考の整理をつけるため、敢えて隣に座る同輩の絵を横目に見る。
予想通り、部長が描いていたのは海であった。波打ち際から水平線の向こうまで、塩っ辛い水に満たされた世界。

あくまで「さわり」であったが、既に色が塗られ始めていた。パレットの上にはコバルトブルー。自分とは違う描き方に好奇の念を抱いたか、メロコは暫し部長が筆を動かす様を見続けた。

部長「………う、ん?」

怪訝そうな顔と声色で、部長の目がキャンバスから離れる。
どこか満足のいかない箇所があったのか?疑問に思っていると、

部長は突然海に向かって歩き始めた。

部長「………」

躊躇うことなく浅瀬に足を踏み入れ、ざふざぶという水音が歩みに重なる。

メロコ「オイ、どこ行くんだよ!?」

不安に駆られて追いかけたメロコは、自らも足を海水に浸す。

部長「やっぱり…そうですね…」

きょろきょろと周りを見渡すと、部長は得心がいった表情になった。
 ▼ 15 アーマーガア@どくバリ 23/07/16 23:58:43 ID:M9OIjwxs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
でも売れたじゃん
 ▼ 16 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/17 00:15:10 ID:A1R2U0H. [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
部長「海って、青くないですよね」

メロコ「へ?」

思わず間抜けな声を出す。

部長「浜辺といったら、青い海と白い砂浜ってイメージが強いと思うんです。でも、周りのポケモン達を見てください」

促されるままに周囲を見渡し、海に息づくポケモン達を観察する。

部長「あそこで元気に泳いでるブイゼル。全体的な体色はオレンジで、海面では目立ちますよね?」

メロコ「確かに…」

部長「砂浜にはピンクのウミトリオもいるし」

部長「ウデッポウの水色も水面とは少し違います」

部長は感心したように目を輝かせた。

部長「海って本当は、こんなにカラフルな彩りのある空間なんだ!意識して観察したおかげで、ようやく分かりました」

部長「この賑やかさを少しでも描き出すことができれば…ううん、是非ともやってみたいです」

メロコ「なるほどな…」

メロコ(流石部長を任されるだけのことはあるんだな)

部長の絵が、入部を決めるほど自らの心を動かした理由が、少しメロコには分かった気がした。
 ▼ 17 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/17 00:28:40 ID:A1R2U0H. [2/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
浅瀬で向かい合いながらの芸術談義。
物珍しい光景に興味を抱いたのか、近づいてくる一つの影が。

「〜〜〜??」スィーッ

メロコ「…あ、ナミイルカだな」

部長「本当ですね。こんな近くで野生のナミイルカを見られるなんて」

つぶらなピンクの両眼に、白いラインの走る水色の身体。
イルカポケモン・ナミイルカであった。
よく見れば、注目を引こうとするように胸ビレをパチパチと鳴らしている。

メロコ「?何かの合図か?」

バシャアァァッ!!
興味を抱いて覗き込んだメロコに、大量の海水が叩きつけられた。

ナミイルカ「〜〜〜♪♪」

してやったり。
悪戯を成功させたナミイルカは悠々と沖へと去っていった。
 ▼ 18 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/17 00:38:24 ID:A1R2U0H. [3/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「………う」

メロコ「何しやがんだアイツぅ………!」

火花のような髪が濡れそぼり、張り付いている。
力任せに頭を振って水気を飛ばすと、すぐさま元の髪型に戻った。

部長「大丈夫ですか?」

メロコ「ああ、心配ねーよ。この天気ならすぐ乾くだろうし」

部長「よかったぁ。風邪でもひいたらどう………!?」

心配する部長の声が強張り、引き攣った顔を勢いよく伏せた。

メロコ「オ、オイ。何だよ、急、に…」

一つの事実を見落としていたことに気づく。
水を被って張り付いたのは髪の毛だけではない、薄手の白いシャツもまた、然りであろう。

一点の汚れもなかった白いシャツ。
大量の海水を吸ったそれに…胸の部分に、薄い赤の帯が浮かび上がっていた。


ここで余計な情報を一つ付け加えよう。

メロコは赤い下着が好きである。
 ▼ 19 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/17 12:18:25 ID:A1R2U0H. [4/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
簡素なブラジャーが浮かび上がった上半身を硬直させ立ち尽くすメロコ。
頬に熱が籠るのを自覚したまま、少女には為す術がない。

部長「あ、ああっあの!僕の汗臭くて、申し訳ないけど」

目を伏せたまま、部長は首にかけていたタオルを手渡す。

メロコ「う、うん。悪ぃな」

メロコは胸をタオルで覆い隠し、二人は椅子に戻った。

部長「災難でしたね…」

メロコ「まぁな…うへぇ、ベットベトだ」

塩分を多く含んだ海水を吸ったシャツは、真水とは違った重さと不快感がある。


メロコ「流石に気持ち悪ぃから…脱いでもいいよな?」

部長「え!?ま、待って」

裾に手をかけたメロコを見て慌てて背を向ける部長。

一瞬だけ見えた腹部のくびれが、やけに鮮烈な残像として視界に焼きついていた。
 ▼ 20 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/17 14:43:58 ID:A1R2U0H. [5/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
元の数倍にまで重くなったシャツを脱ぎ捨てると、スッと身体が軽くなる。
水を吸ったブラのみを纏ったまま潮風を浴びつつ、カバンから替えのシャツと下着を取り出した。

背中の金具に両手を回す。
部長はどうしているだろう、ふと思い立って後ろを見てみると、変わらず背中を向けたままだった。

メロコ(律儀なヤツだな)

いや、正確に言えば、着替えるメロコに視線を向けないまま、部長は周囲の様子を窺っていたのである。

部長「メロコさん。そろそろ人通り多くなるかもなんで、い、急いだ方がいいと思いますっ」

メロコ「おー、うん。オレの着替えなんて、見たがる奴いるとは思わねぇけど」

部長「そ、そそんなことないですよ!もし着替えてたらつい見てしまうことだって…」

部長「いや、これはあくまで一般論であって、見ようだなんてつもりは全く…あ、そうではなくて…」

メロコ「??」

しどろもどろの部長を見て、メロコは小首を傾げる。
促される通り手早く着替えを済ませると、二人は再び筆を手に取った。


カリカリカリカリカリ…

サラサラサラサラサラサラサラサラ………

部長の没頭ぶりは殊更際立ったものであった。まるで何かを振り払うかのように。
 ▼ 21 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/17 20:15:38 ID:A1R2U0H. [6/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜夜 アカデミーの生徒寮〜

寮の自室に戻ったメロコは、ベッドの上に今日の成果を並べていた。
白い紙に鉛筆で描かれた空に、創意工夫の色が浮かぶ。

メロコ「どうだ、ボウジロウ。結構頑張っただろ」

ボウジロウ(うーーーむ………)

ボウジロウ(よく分からないけど、スゴいぞ!)

メロコ「アイツの隣で描けばこんなに捗るんだな。明日も行こうか…」

部屋の洗濯機が、海水に濡れたシャツとブラの洗浄と乾燥が終わったことを電子音で伝える。

メロコ「それに結構紳士的なヤツだったしな。びしょ濡れになってシャツが透けても」

メロコ「囲いもない砂浜で着替え始めても、上半身すっぽんぽんになっても」

メロコ「見ないでいてくれて………」

メロコ「………ん…?」


メロコ「オレ………メチャクチャ恥ずかしいことしてねぇか…!?」
 ▼ 22 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/17 22:31:06 ID:A1R2U0H. [7/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコの顔色が赤と青に激しく明滅する。

年頃の少女が外の砂浜で、それも男子が側にいる場所でトップレスになった事実に赤面し、そのことにまるで思いが至らなかった自らに蒼白となった。

メロコ「や、やべぇ。オレ、外で裸になるのをどうとも思わないガサツなヤツだと誤解されたかもしれねぇ」

メロコ「…いや、あんま誤解ではねぇけど…」

メロコ「あぁぁ〜〜〜…明日どうすっかな。行くのやめるべきか?」

一瞬浮かんだその考えを、すぐに打ち消す。
一時の恥に負け、逃げてしまう如き真似はスター団のボスに相応しくない。

メロコ「まだるっこしいのはナシ!明日もっぺん会って、認識を改めてもらえばいいんだ!」

ボウジロウ(大丈夫なのかー?)

メロコ「………敢えて…」

メロコ「見られてもいいように小洒落た下着にするか?なーんて…はははっ」

メロコ「ははははは!…は、はは…」


メロコ「………はぁ………」

気恥ずかしさから逃れるようにベッドへ潜り込む。
悶々とした心のざわめきを眠気が駆逐するまで、少しばかりかかった。
 ▼ 23 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/21 19:53:10 ID:iBqY1E9c [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜翌朝〜

昨日よりも1時間ほど早くメロコは目覚めた。
ブラインドの隙間から外を窺うと、朝陽が頭をひょっこりと出している。

ボウジロウ(……もう食えないぞ…zzz)

メロコ「…よし、早速準備しちまうか」

寝起きの気怠さもなく、テキパキと身支度を整える。
寝癖を直し、スケッチに必要な道具一式を確かめながらリュックに詰め込む。

メロコ「む゛ーーーーー……」

睨め付けるようにクローゼットと向き合い、着ていく服を決める…
下着姿で、朝食のサンドイッチを齧りながら。

…準備完了し、イキリンコタクシーの乗り場に到着したのは、昨日よりも大幅に早かった。

メロコ(今日はオレの方が待つことになるかもな)

どう話しかけようかと思ったその時、近づいてくる足音。

メロコ「!!」


部長「あ!メロコ、さん………?」

不思議なもので、誰かを思い浮かべた時に当人と顔を合わせるのは、往々にしてあることだった。
 ▼ 24 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/21 22:45:19 ID:iBqY1E9c [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一瞬の間。

固まる二人。

部長「えと、おはようございます」ペコリ

メロコ「へっ、あ、うん!おはよう!!」

メロコ(やべっ、キハダ先生みてぇなバカでかい声出た)

どこか決まりの悪い朝の顔合わせは、しかし長く続かなかった。
朝一番となるイキリンコタクシーの便が到着したのである。


メロコ「………なぁ」

部長「はい?」

メロコ「そんな縮こまんなくなくていいって。十分広いし」

部長「あ、じゃあ、失礼します」

出発時間も目的地も同じなのだから、当然相席である。

メロコ&部長「「あの」」

メロコ「悪い、先に話せって。オレのは長くなるから」

部長「そういうことなら………」


部長「昨日のこと、謝りたくて。すみませんでした」
 ▼ 25 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/21 23:51:26 ID:iBqY1E9c [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「へぁ?」

当惑のあまり間抜けな声が溢れ出る。

メロコ「いやいや、おかしいって。テメーは何も悪いことしてねぇよ」

部長「しかし、僕が海に近づいたからメロコさんは浅瀬に行ったようなもので」

部長「そのせいで…そ、外で着替える羽目に…」

メロコ「気にすんなよ、そんなこと。浅瀬に入ったのはオレが自分で決めたことだし」

メロコ「テメーの芸術観…てヤツかな?それを聞けてさ、オレも勉強になったなー、って思ったもん。本当に」

部長「そ、そうですか?恐縮です」

メロコ「あ!それと、これだけはどうしても言いたかったんだけど、オレだって平気で上裸になるようなヤツじゃないから!」

メロコ「テメーの後ろなら大丈夫だって思ったからであって…信用できないヤツの側なら我慢しても着続けたし」

メロコ「そ、そういうことだからな!?」

部長「はい。覚えて、おきますね?」


取り敢えず伝えたいこと、伝えるべきことを伝えて身軽になった二人。

いつの間にか、空と海の青を湛える景色が目の前に迫っていた。
 ▼ 26 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/24 20:04:13 ID:8reYuDUg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イキリンコタクシーは眼下のポケモンセンターを通り過ぎ、さらに西方で着地した。
タクシーを降りたメロコと部長の目の前に、柱を思わせる大きな建造物がある。

メロコ「これって、灯台か?」

部長「マリナードタウンで描くと決めてから、色々調べたんです。ここからの景色が参考になりそうで」

メロコ「そういうことなら早速上ろうぜ」

部長「はい?あっ!?ま…」

昨日と同じく、健康的な脚を露出したホットパンツ姿のメロコの足取りは軽い。
部長はぎこちない足取りでそれを追いかける。

メロコ「別に焦らなくていいからよ。上で待ってるし」

部長「す、すみません。是非そうしてください。見上げられないので!」

メロコ「??」

どこか腑に落ちないながらも、メロコは部長に先立って、灯台の展望台に辿り着いた。


メロコ「………お?お…」

メロコ「おおおおおお〜〜〜!」
 ▼ 27 ナゲキ@むじゃきミント 23/07/25 23:17:38 ID:4qCM3gMs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 28 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/29 22:43:20 ID:TRDkJQB. [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
灯台から望む西パルデア海の景色は、メロコをして感嘆の声を上げさせるに十分すぎるものだった。


太陽の光を受けて輝く空と海の青は水平線ですっぱりと分かたれ、互いの領分を侵すことなく、それぞれの美しさを静かに示している。
手が届きそうにないほど遥か遠くへと続いているのに、今まさに全身を包まれているような広大さ。

穏やかな風に乗りながらタイカイデンが飛ぶ。さながら、空と海を同時に泳いでいるかのように………


メロコ「………綺麗…」

部長「はい………」

メロコ「……………」


メロコ「…わぁぁッ!?の、上ってたのかよ!!」

部長「えっ?は、はい」

メロコ「び、ビビったぜ…いや、小指ほどだけど」

メロコ(うげぇ、間抜け面見られたかも…)

部長「驚かせてすみません。見ているところを邪魔してはいけないと思いまして」
 ▼ 29 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/29 23:18:13 ID:TRDkJQB. [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
部長「それで、すごく綺麗でしょう?マリナードタウンを調べてここの景色について知った時、絵を描くうえでいいインスピレーションを得られると思ったんです!」

穏やかな口調を保ちながら、情熱を抑えきれない部長の姿勢に、メロコも意欲が湧いてくるのを感じた。

メロコ「だな。ていうかオレらって、こんなだだっ広いモンを描こうとしてんだな」

部長「それが分かったのもここに上ったからこそですね。ほら、あそこに」

メロコ「昨日オレらがいた砂浜か」

共に筆を取って、浅瀬に入って、下着が透けた場所。高所から見ればいかにもちっぽけに見える。

部長「見る場所が違えばやっぱり見え方も違う。だけど見えないだけで、海の中の色はそこにある」

部長「両立させる方法はあるかな…」

真剣に考えこむ部長の横顔を、メロコはただじっと見つめていた。頼もしささえ感じさせる顔の色。

美術部の活動でもそうだが、部長が絵に打ち込んでいる時はメロコもまた然りである。
昨日にしても、横目に見ていたのは筆が走る様だった。それだけに、普段とは一味違う部長の顔は、やけに貴重なもののように、メロコには感じられた………


部長「…メロコさん?」

メロコ「………!!」

メロコ「あ゛っ!?あ、いや、悪ぃ…何でもない、何でも!」

部長「??」
 ▼ 30 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/29 23:42:53 ID:TRDkJQB. [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ(っかしいなぁ。どうしてこうも調子狂うんだ?)

メロコは自分を、よく言えば果断即決タイプ、悪く言えば大雑把な人間だと思っている。
単純明快を何よりも尊び、分かりやすい行動と結果が何より望ましい。

その筈なのに、部長と二人で景色を描き始めてから、メロコはたまに自分自身がどういう心の動きをしているのか分からなくなる。

何より不思議なのが、そんな浮足立った状態が、妙に悪しからず思えてしまうことであった。


メロコ(今度は筆動かす前に、もちっと観察してみるかな)

描いて試すを繰り返すのと同様、それに先立つ観察に時をかけるのも一つの方法である。
昨日とは違う西パルデアの景色を楽しむつもりで、焦らず、じっくりと目を凝らす。

部長「………」

メロコ(こうして見てみると…うん…)

こう描きたい、こう描くのがよいだろう。晴れ渡った大空を見て、ぽつぽつと浮かび上がる言葉。
どう描くべきか、そうした悩みが浮かび上がることもある。

メロコ(テメーなら………)

部長ならどう描くだろう、そう思い立って横を見ると、


メロコ&部長「「あ」」

二つの視線が交わっていた。
 ▼ 31 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/30 00:32:42 ID:DqJgrI7s [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「な、なんだよ?」

部長「はっ、いや、えと…調子は、いかがですか?」

目を伏せながら問いかける部長は、どこかバツが悪そうである。

メロコ(昨日と様子違うから心配かけちまったのか?)

メロコ「実は、少し気になってることがあってさ…」

特にやましいことがあるでもない。心中を素直に打ち明けることにした。

メロコ「オレ、空の風景画を描こうと思ってんだけどさ…せっかくこんな綺麗なのに、海を省くわけにはいかないんじゃねぇかな、って」

部長「なるほど。海を描いてる僕も、空について同じことを思ってたんです」

メロコ「だよな?両方揃ってこそだって気はする、んだけど…主題に集中した方がいいかなって気はするしよ」

メロコ(せっかくここを教えてくれたんだ。今更別の場所なんて勿体ねぇし)

部長「ふ〜〜〜む………!!」

部長「そうだ!!」

考え込んでいた部長が、ぱっと顔を輝かせてメロコに向き直る。


部長「最初の予定通り、僕が海を、メロコさんが空を描けばいいんです」

部長「それを一つの絵として!」
 ▼ 32 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/30 22:19:37 ID:DqJgrI7s [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「つまり、オレとテメーがそれぞれ描いた絵を最終的に一つにして」

メロコ「でっかい一つの風景画にしようぜってことか?」

部長「はい。せっかく二人で一緒に描いているなら、そういう挑戦をしたら面白いかなと思って」

メロコ「………」ウーーーン

部長「もちろん無理にとは言いませんが…」


メロコ「……いいな…」

メロコ「それ、すげぇいいと思う!!」

部長の提案をメロコは快諾した。
とても心躍る申し出を受けた、何故かそのようにメロコは確信していた。

部長「ありがとうございます。いい作品を描きましょうね」

メロコ「そうと決まれば早速始めようぜ。まずどの景色にする?」

部長「例えばここからの角度なら、海と空に加えてマリナードタウンも収められますよ」

メロコ「なるほど、いいアクセントになって面白いかもな」
 ▼ 33 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/31 12:35:53 ID:HidEOY5. NGネーム登録 NGID登録 報告
互いのキャンバスに向かいながら、二人は言葉を交わし続ける。
筆を走らせる度に一語一語を交換し、そして紙に線を刻んでゆく。

互いの持ち味を活かすため、敢えて厳密にぴったり合うような形にはしない。
それでも、互いの思うところを明かしながら描き進めていくことは、一つの作品を共に手がけている実感を二人に齎していた。

メロコ(宝探し、か…)

アカデミーの校是を思い出す。絵の完成形を探しながら二人で描き進めていくことを形容するのに、丁度良い言葉かもしれなかった。


メロコ「なんか、テメーの絵は何が描きたいのかハッキリしてていいな。オレもやりやすいよ」

部長「ありがとうございます。そう言うメロコさんの描き方も、すごく大胆で見てて楽しいです」

メロコ「そ、そうかよ。…ところでさ、ここって灯台だよな」

メロコ「今はオレ達しかいないみたいだけど、こんな所で絵描いてて大丈夫か?」

部長「それについては、今日なら大丈夫だと思ったんです。ほら」

部長が指差した先には、昨日より数割増しで賑わうマリナードタウンがあった。
 ▼ 34 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/07/31 23:30:11 ID:T69cMQhA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「こっからでも分かるくらいすげぇ人集りだな。イベントでもやってんのか?」

部長「あそこで並んでる人達の多くが、マリナードの外から来ているんです」

部長「これは定期的に起こることなんですけど、ロースト砂漠の砂嵐が激しくなって、イキリンコタクシーがマリナードまで辿り着けなくなるんですよ」

部長「だから、今日のうちに買えるものを買う人が多いそうです」

メロコ「へぇ〜〜〜」

メロコ「………」


メロコ「なぁ、イキリンコタクシーが出ないってことはさ、テーブルシティからもか?」

部長「はい、そうらしいです」

メロコ「…じゃあ、オレ達明日ここに来れないのかよ?」

部長「そうなりますね。盛り上がってきたところなのに、残念ではあるんですが」
 ▼ 35 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/01 07:47:30 ID:TGC.mDXQ NGネーム登録 NGID登録 報告
部長「だけど、現地に来れなくてもできることはありますよ。砂嵐も三日足らずで収まるそうですし」

部長「僕は寮の部屋で、塗り方とかをじっくり考えてみるつもりです」

メロコ「……そう、だな」

部長「数日開きますけど、完成に向けて頑張りましょうね!」

〜〜〜〜〜〜〜〜


ジリリリリリリリリリリリリリ…

重い瞼をこすりつつベッドから身を起こす。

メロコ「目覚ましの設定昨日から変えてなかった…」

ボウジロウ(メロコー、朝だぞー!)

顔を洗ってテーブルに朝食を並べる。メロコは口を動かしながら、
いつの間にか画材に目を向けている自分に気づいた。

ボウジロウ(今日は海行けなくてつまんないなー)

メロコ「しょうがねぇだろ?砂嵐で危険なんだから」
 ▼ 36 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/02 07:28:54 ID:txHMzWhI NGネーム登録 NGID登録 報告
そう頭では分かっていても、せっかく走り始めた筆が躓いてしまったように思う気持ちを止められそうもなかった。

昨日、寮に帰ってから幾度も線画を見直した。手直ししたい箇所、試してみたい表現がいくつもある。
それを共に描き上げる部長に見せないわけにはいかない。

あの篤実な部長はきっと、いいアイデアを何倍にも膨らませてくれるはずだ。


メロコ「………会いたいな…」


メランコリックな表情で溜息を吐く親友に驚くボウジロウ。
この時メロコの脳裏に浮かんでいたのは、部長の告げていた今日の予定だった。

メロコ「今日は寮の部屋にいるって言ってたっけ」

メロコは部長の部屋を知っている。以前、美術部顧問ハッサクに頼まれて、プリントを届けに行ったことがある。

そこに至るまでの道筋がパッと思い出されたのだ。

メロコ「いや…でも、なぁ」
 ▼ 37 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/02 15:12:22 ID:lyjkSpcY NGネーム登録 NGID登録 報告
メロコ「部屋で色々やるっていってるのに、それを邪魔しに行くのもなぁ」

残ったサラダを口に放り込んで、空の皿を流しに置く。

メロコ「オレだって誰かがいないと描けないほどガキじゃねぇし」

櫛を手に取り、強引に寝癖を潰す。

メロコ「部屋の片付けとか、他にやることがないでもないしな」

パジャマを脱ぎ捨て、シャツとズボンの裾に手足を通す。

メロコ「数学の点数とか結構ギリギリだったっけ、勉強した方がいいかも」

画材の入ったリュックを背負う。

メロコ「マリナードだって三日後には行けんだ。今日ぐらいゆっくりしよ」

ボウジロウをボールに入れ、自室の扉を開けた。


メロコ「………なんで?」

自分自身の行動に対し、メロコは疑問を口にする。

何故か分からないが、彼女は今、部長の部屋がある寮棟の前にいた。
 ▼ 38 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/02 23:53:35 ID:rsNgHrYk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「いや、なんだ。不思議なこともあるもんだな。はは、ははは…は…」

ほんの一瞬立ち尽くしていたメロコだったが、すぐに入口に向けて歩き出す。
部長の部屋に赴く…それを見送ろうとは何故か思わなかった。

「へぇ〜、それが昨日買ったやつ?」
「ハッコウでね。ほしのすな集めんの苦労したのよ」

前方から話し声が聞こえて、咄嗟に物陰に身を隠す。

メロコ(…どうして隠れてんだ?オレ)

別にやましいことなどないのだ。堂々と脇を通って部屋に向かえばよいものを。

女子A「今度ボウルのイベントに行こうと思っててさ…じゃ〜ん!どうよ、このスカート」

女子B「あー、いいじゃん」

女子A「あとはもっとお尻を引き締めたいんだけど…」

メロコ(早く行かねぇかな…)


「あ、もしもしペパー!どう、旅行楽しんでんの〜〜〜?」


メロコ「げっ…!」

アオイ「へ〜、別の地方の食べ物とか売ってるんだ。いいなー、行きた〜い」

寮棟から少し離れた道、そこからでも分かるような元気な声で通話しながら歩いているのは、メロコにとって現在最も会いたくない人物であった。
 ▼ 39 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/03 00:02:10 ID:ua9o8Dec [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
女子A「ヒップライン綺麗になったらぁ、リップさんみたいな丈のスカートなんて履きたいんだよね」

女子B「あ、そうそうお尻といえばこないだ男子がさ…カエデさんのお尻がどうこう…」

メロコ(もう〜〜〜!いつまでケツの話してんだ!)

アオイ「いかりまんじゅう?知ってるよ…ウソ!お土産に!?やった〜〜〜!!」

アオイは立ち止まって話し込んでいるが、いつこちらの存在に気づくか知れたものではない。

メロコ(万が一にもオレの行き先がバレたりしたら………)

〜〜〜〜〜〜〜〜

アオイ『うわ〜〜〜…男子の部屋で逢瀬とかメロちゃん超だいた〜ん♡』

〜〜〜〜〜〜〜〜

メロコ(だーーーっ!違う!そんなんじゃねぇって!!)

そう、あくまで作品の完成に近づくため、部長に会うことを望んでいるのだ。
それを誤解されては………


誤解されるのは、それほど困ることだろうか?


メロコ「………は?」

一瞬浮かんだ自らの考えに呆気に取られる。
気がつくと、話し込んでいた女子二人は何処かへと歩き去っていた。

見つからぬよう、滑り込むように寮棟へと足を踏み入れる。
 ▼ 40 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/03 22:37:51 ID:ua9o8Dec [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そつのない早歩きで寮を進むメロコ。
窺うようにキョロキョロと周りを見渡すが、人影は見当たらなかった。
夏季休暇という時期が幸いしている。

メロコ「ここだ」

目当ての部屋に辿り着いた。自身のものと変わり映えのしない扉の前に立ち、
メロコはノックの体勢のまま…しばし固まった。

忘れていたはずの躊躇が再び胸中を迫り上がる。
だが、立ち尽くしていれば誰かの目に留まってしまうかも…静かに焦燥を募らせる。


「………メロコさん?」

メロコ「ひゃいっ!?」


突然の呼びかけ、それから自分の喉から出たと思えない声に驚き、肩を跳ね上げたメロコが横目に見たのは、まさに会おうとしていた部長の姿であった。

部長「おはようございます。どうかしましたか?」

メロコ「あー…えと、今日も暑い、な?」

部長「そう、ですね」


パタ パタ パタ パタ

「もう、アオイさんだから特別だよー?」
 ▼ 41 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/03 22:52:06 ID:ua9o8Dec [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アオイ「ごめんごめん、どうしても必要だからさぁ」

メロコ「!!!!(ま、ま、ままままずい………)」

階段を上ってくる声に、メロコの緊張が危険水位まで急上昇する。
入口の近くにアオイがいたのは決して偶然ではなく、目的地が同じ寮棟だったためなのだ。

メロコは半ば思考を捨てた。

部長「わわわっ!?」

がしりと掴まれたのは、部長にとって利き手の反対の手であった。
自らの握力を知るメロコが、殆ど本能でそうした。

空いた手でドアノブを掴み捻ると、開かれた扉の隙間に二人分の身体を一瞬で捩じ込ませる。

部長「………!!」

声なき驚愕を遮るように、バタンとドアが閉まる。
アオイが階段を上り終わった先に、人がいた痕跡はなくなっていた。


メロコ「ぜえっ、ぜえっ、ぜえっ、ぜえっ………!!」

部長「ふうっ、ふっ、ふーーーっ…」

扉から離れた部屋の中央で荒く肩を揺らす二人。
ただしその理由は異なっていて、部長は突然の事態に巻き込まれたからだが、
メロコは厄介なピンチを切り抜けたことによる脱力である。
 ▼ 42 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/03 23:01:15 ID:ua9o8Dec [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「………あのー、色々と深い事情があったんだけどさ」

メロコ「本当にごめんな。突然…」

部長「いや、僕は、大丈夫…なんですけど」

部長につられて目線を下に向ける。少し角張った掌の穏やかな温もり。
指の一本一本に至るまで絡まり合った二人の手。

メロコ「あっ!わ、悪ぃ、痛かったよな。ごめんな、加減できなくてさ」

部長「大丈夫、平気ですよ。部屋に飛び込んだことより握力にびっくりしちゃいましたけど」

部長「ところで、メロコさんはどうしてここに?」

メロコ「………」

「色々と深い事情」について破綻なく説明したければならないのだが、口が上手くないメロコはどうも上手くいきそうにない。

助けを求めるように部屋の中を軽く見回すと、キャンバスと画材が目に入った。

メロコ「昨日言ってた通り、色々絵進めてんだな」

部長「そうなんですよ。見ますか?」
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