▼  |  全表示180   | <<    前    | 次100 >> |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |   ▼   
                  スレ一覧                  
SS

【SS】オーキド「サトシに何かがあったのかもしれん」 ケンジ「サ、サトシに!!? なぜ……、!!」

 ▼ 1 クロズマ@よせだまのもと 23/09/06 22:48:23 ID:LcZM6F2k [1/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
※pixivで連載してた完結済みシリーズをちょっとこっちに持ってきてみました
※初出・シリーズ全体の構想の確定がXY放送中の頃だったため、S&M以降は存在しないXY一年後の世界が舞台です


 ある日、ある時、ある場所で、厳かに顔を合わせる三人の男がいた。一人は紅いスーツを纏い、一人は蒼い海賊衣装、そしてもう一人は神官のような衣服を身に着けていて。各々が手元の紙に視線を向けながらも決して警戒を怠らない彼らの間で緊張感が高まっている。恐らく誰か一人でも腰のボールに手をかけることがあれば、一瞬でこの膠着状態は崩壊するだろう。

「計画は以上でいいな」
「えぇ、異議はありません」
「くれぐれも、変な気は起こさないでくれよ」

 誰かがそう言うも、返事は返らない。代わりに互いに向ける眼差しが物語っている。それは声を発した張本人も全く同じで牽制はただの言葉遊びだったことは語らずとも伝わってくる。

 ――隙を見せれば、潰す
 ▼ 2 ッポウオ@イエッサンのけ 23/09/06 22:48:52 ID:LcZM6F2k [2/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「さーて、ヨーギラスにでも会いに行くか!」
「ピッカァ!」

 一方その頃マサラタウンでは、カロス地方からの旅から帰ってきたサトシがのんびりと過ごしていた。まだ見ぬ地域、まだ見ぬポケモンとの出逢いがなく、そしてまるで自らを導くかのような虹も現れないため、少しの間だけポケモン達との触れ合いに重点を置いて過ごしているのだ。とはいっても中々出逢いがなければ、サトシは今度は一度行ったことのある地方にもう一度足を運ぶつもりだ。カントー地方は二度回ったため、イッシュ地方とカロス地方は最近行ったばかりなため、今度はオレンジ諸島かジョウト地方、ホウエン地方かもしくはシンオウ地方の何れかをもう一度巡ってみようと考えている。
 けれどそれはまた今度。今日はシロガネ山で過ごすヨーギラスに会いに行くだけだ。保護区であると同時に危険地帯でもあるシロガネ山だがサトシにとっては何のその。深海に大気圏にと数々の人間が生きられない場所から生還してきた彼からすれば酸素があればそれだけで十分な安全地帯だ。

「行ってきまーす!」
「ピッピカチュー!」
「フォルルルルル」

 ヨルノズクの神通力によって浮遊しながらシロガネ山の方角に移動していくサトシ達を見送りのポケモン達が盛大な行ってらっしゃいの声を上げて、それを背にしながら変わっていく眼下の景色を楽しんで。今日ボールの中にいるのはヘラクレスとベイリーフにマグマラシとワニノコ、そしてドンファン。ピカチュウのボールだけを預けることで一時的に七にん連れを可能にしてヨーギラスと親交の深いジョウト地方のメンバーを連れて行くことにしたのだ。
 サトシ達はシロガネ山で一泊してから帰るとオーキドやケンジ、ハナコには伝えていたが特に誰も心配することなく行ってらっしゃいと笑顔で送り出していた。本来ならデッドゾーンだが百戦錬磨の彼に限ってはそういった場所で過ごす術も分かっているためだ。そのため彼らはサトシが翌日の午後に笑顔で帰ってくると、信じるまでもなく当たり前のこととして意識にすら上らなかった。

「これは……一体……!?」

 そんな翌朝、ケンジが目にしたのはサトシのポケモン達が誰ひとりいなくなった広大な庭だった。そこからは研究所のお庭番の役目を持つフシギダネも、三十にんもいるケンタロス達すらも消えていて。嫌な予感を感じながらもボールの保管庫に走ると、サトシのポケモン達のボールだけがごっそり消えていた保管庫の前に立ち尽くすオーキドの姿が。

「サトシに何かがあったのかもしれん」
「サ、サトシに!!? なぜ……、!!」

 二人の視線の先には床に残るジュカインの足跡。彼が自らボールを持ち出した証拠だった。
 ▼ 3 プ・コケコ@リンドのみ 23/09/06 22:51:25 ID:LcZM6F2k [3/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「坊ちゃんよ、いーからとっとと金寄越せって言ってんの」
「現代語分かるー?」

 シンオウ地方に位置するアラモスタウンの時空の塔の目前にある大通り。そこで身なりの良い少年が、共通の紅い衣服を纏った男性二人に詰め寄られていた。身を縮めて俯きじっと耐えて立ち去ってくれるのを待つ少年に、道行く人々は同情の眼差しを向けながらも助けようとするものはいない。寧ろ皆、自分が次の標的にならないようにと足早に通り過ぎていく。

「あら、残党のくせに随分粋がってるかも」
「ちょっ、カモちゃんやめましょーよ……!!」

 そんな我が身可愛さに何もしない――否、何もできない人々の中からたった一人声をかける者がいた。緑のバンダナをした細身の少女は子ども特有の高めの愛らしい声でいとも容易く毒を吐く。その隣にいる女性のような言葉を話す男性の方が余計な飛び火を恐れて少女を止めようとしている。

「テメェは……! 何でここに!!?」
「ずらかるぞ!!」

 けれど男性の懸念を余所に二人の男達は少女の顔を見た途端血相を変えて走り去っていった。そんな情けない後ろ姿に少女は呆れて溜息を吐き、その後で快活な笑顔に切り替えて絡まれていた少年に声をかける。

「アイツら、元はマグマ団ってとこの構成員だったけど所詮は幹部いなきゃなーんにもできない下っ端共の残党連中だから気にすることないわよ」
「あ、はい、有難うございます」

 顔を見せるだけで悪い大人二人をも退けた彼女に衝撃を受けているのだろう、礼を言う声にも覇気がない。寧ろ第三勢力のラスボスが出てきたような心地がしているようで怯えすら若干入っている。

「そーだ、アタシ達これからお茶するんだけど、君も一緒にどうかしら? ケーキでも食べて気持ち落ち着かせましょうよ」
「へ?」
「ハーリーさんにしてはまともな考えかも!」
「ちょっ、どーゆー意味よ!?」
「自分の胸に聴いてみれば?」
 ▼ 4 ンパチ@セシナのみ 23/09/06 22:51:58 ID:LcZM6F2k [4/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 少年そっちのけで嫌味合戦を始めてしまった二人にどうすればいいか分からずにオロオロするしかできない。そんな少年に助け船を出すかのように嫌味が飛び交う間に少年の腰から紅い閃光が伸びて、そこから一体のポケモンが現れた。

「わぁ! かわいかもー!」
「見たことないポケモンねぇ。イッシュかカロスの方のポケモンなの?」
「あ、は、はい、そうです」

 そこから少女は生息地を教えてほしいと目を輝かせ、男性も知らない地域のポケモンの話を聴いてみたいと詰め寄って。先ほどまでとは違う純粋な好意により詰め寄られる状態になった少年はカフェに連れ込まれることになった。

「僕はラケルといいます。カロス地方のアゾット王国からこの地に参りました」
「そうなんだ! 私はハルカ、昨日ここで開かれてたコンテストに出てたの」
「アタシはハーリー、カモちゃんと同じよ」

 場所をカフェに移した彼らはまだ互いの名前も知らなかったことを思い出して自己紹介から始まった。二人、特にハルカの方が一介のコーディネーターでしかなかったことにラケルが密かに安堵していたことには気付かれなかったが。

「ラケルは何を目指してるの?」

 そう尋ねるハルカは相手が何か夢を持っていることを信じて疑っていなかった。けれどそれは決して嘗て夢がなかった自分を忘れているわけではなく、海を越えた遠い地まで旅に出てくるからにはそれなりに夢に向かって経験を積んでいるトレーナーであると判断したためのことだ。

「特に目指しているものはありません。ただ、旅が楽しいのです」

 機械に囲まれた部屋、機械仕掛けの街、そのぐらいしか知らなかったけれど、海沿いの町や山に囲まれた街、それぞれが全く違う文化の中で生きていて、それでも人やポケモンが笑い合っている姿だけは同じであることを知っていくことが楽しくて仕方ない。そう語るラケルの瞳の輝きは夢に向かって走る人達のものとなんら遜色なくて、そしてその姿にハルカは夢に向かって一直線ではあるけれど同時に旅そのものを全身で楽しんでいるある人物のことを想起した。
 ▼ 5 ガロコ@インドメタシン 23/09/06 22:52:25 ID:LcZM6F2k [5/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「なーんか、サトシみたいかも」

 夢のポケモンマスターに向かって一直線で、けれどその旅路には寄り道も多かった。でもそんな回り道すらも楽しんで自分の力に変えていく。世間一般からすれば無駄だと言われそうなことも意義あることに昇華させていくそのひたむきさが、サトシもラケルも同じような感じがしたのだ。

「サトシを知っているのですか!?」
「え?」
「え?」

 けれどそんなハルカの何気ない呟きにより一層目を輝かせた彼の反応には驚いて、ハルカとハーリーは思わず顔を見合わせた。どうやらこの出逢い、この一度きりでは終わらなそうだ。そうして話していくうちに発覚した驚くべき事実や意外な繋がりにハルカを除く二人は目を剥いた。

「サトシの後輩だったのですか!?」
「そっちこそ王子なの!?」
「あぁ、確かに皇族っぽいとは思ったかも」

 後悔に沈む自分にそっと道を示してくれたサトシの後輩が目の前にいるという事実にラケルは目を輝かせ、相手の身分にハーリーは驚く。そしてハルカはというと嘗て出会い少しだけ言葉も交わしたロータの領主アイリーンと似た空気を僅かながらに感じていたため大方想像は付いていた。加えてサトシの知り合いならば王子であろうと今更驚きはしない。

「ちょっとカモちゃん何でそんな落ち着いてんのよ!?」
「だってサトシの知り合いなんでしょ?」
「理由になってないわよ!!」

 ハルカからすればサトシの知り合いと大物をイコールで結びつけるのは割と当たり前のことなのだが、それほど深い関わりがなかったハーリーからすればそうもいかない。そういった認識のズレに当人達は気付かずにまた言い合いを始めるのはコンテスト界では今では一種の名物となっているのだがラケルはまだ慣れるほど一緒にいるわけではない。結果、カフェに来る前と同様にオロオロするしかなかった。

「まったく、二人そろって美しくない……」

 そんな状況をカフェの外から見咎めたシュウが店内に入って店員にハルカ達との相席を申し出て助け舟を出すのはこの数分後のこととなる。
 ▼ 6 シカマス@パワフルハーブ 23/09/06 22:52:30 ID:Ousc9edQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 7 ンプラー@うつしかがみ 23/09/06 22:53:03 ID:LcZM6F2k [6/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 活気溢れる街の路地裏は表通りとは反対に人通りが一切無い。そんな若干薄暗い通りでライブキャスター片手にラケルに絡んでいた二人の男が話している。その通信画面の向こうには嘗て敵対していたはずの蒼い衣服の――元アクア団の下っ端達。

「アラモスタウン調査のマグマ班だ。こっちはハズレ」
「槍の柱調査のアクア班。こっちは……っと、聴きたいか? どーしても聴きたいか?」

 ライブキャスター越しにニヤニヤとした腹の立つ笑みを向けながら挑発してくる相手に彼らは察して舌打ちする。思わずライブキャスターを放り投げたい衝動に駆られるがぐっと堪えて無言で通話を切る。

「アクアの脳筋共が……!」
「くっそ、なんであんなヤツらが当たり引くんだよ!!」

 頭をガシガシと掻き毟る彼らには敵対姿勢しか見られない。けれど彼らはアクア班・マグマ班と名乗る様から分かるように一つの組織になり生まれ変わった。下っ端同士がどれだけいがみ合おうと組織のトップの意向は変わりはしない。尤もそれぞれのトップ達もいがみ合う姿勢は変わりはしない。ただ下っ端達とは違いやり方が上手いだけだ。

「本部に戻ってやけ食いでもするかー!」
「だな、この調査終わったら俺ら今日はやることないし! 仕事増えたアクア班ザマァミロ!!」
「あっははは! 確かに!!」
 ▼ 8 マザラシ@よつばアメざいく 23/09/06 22:53:19 ID:LcZM6F2k [7/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ニュース速報です。つい先ほど、シンオウ地方カンナギ博物館にて解散したはずのアクア団が押し入りこんごうだまとしらたまを強奪していきました。繰り返します、シンオウ地方カンナギ博物館にて――」

 ポケモンセンターのテレビから流れてくる不穏なニュースにトレーナー達は怖いねと言い合う。けれど皆それほど深刻に考えることはなくただただ他人事として話題のネタにする程度。平穏な旅をする一般トレーナー達にとって、事件とはテレビの向こうにある自らとは無縁なものなのだ。

「シンオウでそんなこと起こったんだ……。私らも暫くは博物館とかには近付かない方がいいかもね」
「大丈夫じゃないか? ここホウエンだし」

 ホウエン地方のラルースシティ。都会を通り越して近未来都市なこの地には大きなバトル施設があることから普段はトレーナーが多いが、昨日のポケモンコンテストの名残で今日はコーディネーターも少なくない。ロビーでテレビを見ながら話す四人の少年少女も昨日激戦を終えたばかりだった。ニュースを見て他の利用客達と同じように適当なことを言い合う四人……否、話している三人とは違いたった一人だけは話題に加わらずに彼らとは全く違う表情を浮かべている。

「ヒカリさん、どうし……!!?」
「え? ……!?」
「お、まえ……なんて顔してんだよ!!?」

 言葉だけ聞けば状況からして一人――ヒカリは絶望か恐怖か、何れにせよ途轍もない負の感情を表情に映していると推察できる。けれどそうではない。彼女の瞳に映るのは希望、口元には不敵な弧、その表情はまるで強敵を前にしても恐れるものなど何もないとばかりに立ち上がる、何か一つのものを一心に信じる戦士のようだった。

「ちょっとタケシに電話してくる!!」
「ポッチャッ!」

 相棒の声がボールを挟まずにすぐ側から聞こえること、そんな今の彼女にとっての当たり前はサトシに影響されたのが始まりだった。ボールから出したパートナー、最後まで諦めない粘り強さ、負けても立ち上がる不屈の心、そして――大切なものを護るためには戦わなければならないこと。サトシとの旅で普通なら滅多に学べない様々なことを得られたヒカリにとって、このニュースは戦いの兆しを感じ取るには十分な情報だった。

「タケシ! さっきのニュース見た!?」
「あぁ、見たよ。――次に事が起こりそうな場所を絞り込もうか!」
「さっすがタケシ! 分かってるぅっ!」
「ポッチャァ!」


 いつだって大きな戦いの渦中にはサトシがいたから。この兆しを逃さずに戦いに身を投じれば必ず手掛かりが掴めると彼らは確信していた。――サトシが姿を消してから、一年の月日が経っていた。
 ▼ 9 ョンチー@クヌギダマのから 23/09/06 22:57:22 ID:LcZM6F2k [8/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「こんごうだまとしらたまが奪われたとなれば、やつらの標的はディアルガとパルキアって考えるのが自然よね」
「まぁ最終目的は分からないが現時点ではあいつらの捕獲か、それかあいつらを暴れさせてギラティナを誘き寄せるかのどっちかだろうな」

 歴史的資料を精査していくことは専門家にしかできないけれど、この二人には経験則に当てはめて考えることができる。それは時には本質を穿つことができ、誰よりも早く答えに辿り着ける一番の強み。ニュースで公表されず伏せられた事実もあることを知る、敵と対峙した戦闘の当事者達だけが共有する真実がある。

「ならその前準備として、湖のさんにんを求める筈ね」
「そうだな、リッシ湖付近は割と都会だからすぐに通報されて警備網が敷かれるのも早いだろう」
「エイチ湖は移動手段が乏しいし今はジンダイさん近くにいるからリスクが高いわね」

 なら、と顔を見合わせて同時に頷く。大規模に事を起こすのに最もリスクが低いのは、シンオウの中でも田舎の方でありながら移動の勝手も良く、実力者が常駐しないシンジ湖。このままでは大規模に荒らされ真っ先に捕えられるのは、ヒカリとポッチャマの最初の思い出の地と、彼女と共鳴した友となる。ヒカリが黙っている筈がなかった。

「私、すぐシンオウに戻るわ」
「ポチャ!」
「分かった、俺も念のためエイチ湖に向かう。リッシ湖は……シゲルに連絡してみるよ。敵は違えど、あいつも今度こそ護りきりたいって思うはずだ」
「そうね!」
 ▼ 10 ガミミロップ@グラスメモリ 23/09/06 22:58:04 ID:LcZM6F2k [9/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 大きな事件を起こした直後の今、敵の方もすぐには動かない筈だ。次に事を起こすには準備が必要で、伝説と呼ばれるポケモンの力を目の当たりにしたことのある組織が元になっている連中ならば余計に慎重になる。それは同時に彼女らにも時間があるということ。船のチケットを取るときにお土産も買って、軽い帰省を兼ねてもいいかもしれない、なんて考える余裕があるぐらいには嘗ての彼女にとって戦いは日常の一部だった。
 けれどヒカリと旅を共にしていたわけではないライバル達にとってはそうではない。闘いとは本来自分達とは無縁の遠い世界のもので、ただ危ないことであることだけを漠然と分かっているつもりになっている程度の存在。それほどまでに死闘とは一般に知られないものであり、それほどまでに彼女のライバル達は普通の人なのだ。

「ヒカリ……まさか、とは思うけど……闘いに行くん、じゃ、ない……よね……?」

 電話を切った彼女に問いかける声が震えているのは、立ち聞きした内容から導き出される答えを認めたくないがためのもの。つい先程までテレビの向こうの世界の話だった大きな事件が起こる地に、親しい者が赴くことを実感してしまったことへの恐怖がノゾミ達の心を酷く萎縮させる。けれどヒカリにはなぜ彼女らがそうまで震えているのか欠片たりとも理解できない。彼女は他のサトシの仲間達とは決定的に違うところがある。それは、初めて旅に出たその日に護るための闘いを経験したということだ。例え相手があのロケット団のさんにん組との後に日常となったピカチュウを巡る闘いだとしても、だ。
 カスミやタケシにケンジ、アイリスにデント、シトロンは、サトシに出逢う前には既にみんなレベルに差異はあれど、それでもある一定以上の経験は持っていた。サトシに出逢う時期と新人としてのスタートの時期が近かった二人とも違う。嘗てのハルカのように非常事態に技の指示一つ儘ならない程の無知でもなく、セレナのように初日はサトシの側にはいなかったわけでもなかった。ヒカリはサトシと旅を共にしたトレーナー達の中で唯一、護るために闘う覚悟を持たない、平和で平凡な極普通のトレーナーでいられた時期がない者だ。

「そうだけどどうしたの? なんか顔色悪いけど、みんなして風邪?」

 だからヒカリには分からない、本来なら無縁でいられたはずの闘いの世界がいかに恐ろしい場なのかが。例えコーディネーターであろうともポケモンを持つトレーナーである以上は、仲間を、友を護るためならそこが戦場でも共に進むのが当然の責任だと履き違えている彼女は、きっと永遠にその恐怖を真に理解することはないだろう。
 ▼ 11 シボン@つめたいにんじん 23/09/06 22:58:26 ID:mBhgp2II NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
あれ?ダークライが入ってないやん!
 ▼ 12 ーフィ@ギガトンボール 23/09/06 22:58:40 ID:LcZM6F2k [10/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ポ……チャチャー……」

 対してヒカリの腕の中でどうしたものかと溜息を吐くポッチャマは、彼女に託される前から新人トレーナー用にある程度育成されていたポケモン。無知な場合も少なくないパートナーの支えとなるためにある程度の知識も育成施設で身に着けさせられていた。最初の旅ではサトシという何となく安心できるような心強い場所があり、ピカチュウという圧倒的な全体のリーダーがいたからこその自由っぷりだった。きっと彼らを見ていなければ進化をしないという選択肢に気付きもしなかっただろう程には、あのふたりの存在は圧倒的だったのだ。けれどそんなふたりに霞んだ上に甘えてしまっていた彼は、実際の所は専用のブリーダーによる育成を受けていないピカチュウよりもずっと「普通」や「一般常識」に関しては理解していた。そしてその「普通」の存在の理解とは裏腹に非常事態をその身で知り過ぎていたために、本来ならばポケモンであるために必要としない電子端末の扱い方をピカチュウに教わることに疑問を持つことなく積極的な姿勢で取り組んでいた。

「ポチャポーチャ」
「え? ポッチャマ?」

 ポケッチの画面に数回触れて、随分前のアップデートによって追加されたキーボード打ち込みでのメモ機能を起動させて手早く文字を打ち込んでいく。いつ、人間に正確な言葉として伝えなきゃならないことができるか分からないから、そう言って嘗て共に旅をしていた頃、ピカチュウはポッチャマにしっかりと教え込んでいてくれていた。

「えっと、"みんなヒカリが危ない所に行くのを心配してる"?」
「ポチャ!」

 結構省いたものの、ヒカリのこともよく分かっているポッチャマからすればこのぐらいにしてしまった方が逆に伝わりやすいだろうと考えられた。サトシの隣を走り共に危機に立ち向かう位置にあった彼女にはやはりその想いを心で実感することはできなかったようだけど、彼ほど自分へ向けられる心に対して無知でもないヒカリには頭で理解することはできた。

「だいじょうぶだいじょーぶ! ささっと片付けちゃってくるわ!」
 ▼ 13 スイジュナイパー@マーマレード 23/09/06 22:59:52 ID:LcZM6F2k [11/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 それでもやっぱり彼女は大丈夫と笑うことしかできないし、知らない。そんな彼女だからこそ、サトシとヒカリとアイリスの三人はとても気が合うのだろう。彼女達三人は、彼を中心とする仲間達の中でも特に、護る側の気質の強い者達だから。護られる痛みも、送り出す不安も、分からない。自分は大丈夫だと笑うことがどれだけ自分を想う者達を不安にさせるものか、理解していない。
 けれど、今ヒカリの周りにいるのは何のかかわりもない一般トレーナーではなく、一般トレーナーではあるが同時に彼女のライバルのコーディネーターでもあった。だからこそだろう、彼と彼女らはその頬を強張らせ、瞳を恐怖に揺らしながらも顔を上げてヒカリの目を見てハッキリと言い切った。

「私も行くわ! ヒカリさんなんかに任せる気はないわ!!」
「あ、あぁ! ピカリ一人じゃ荷が重いだろ!!」
「アタシも行くよ! アンタ一人で行って危ない目に遭うぐらいなら、アタシも道連れにしな!!」
「ちょ、ノゾミイケメンーッ! 何その殺し文句ぅー!!」
「は!? アタシは真面目に言ってて……!!」

 が、三人の決死の覚悟は当のヒカリ本人の緊張感皆無のはしゃぎっぷりにぶち壊された。仕方ないのだ、何度も言うが戦場へ赴く覚悟というのはヒカリにとってはいつでも使える日常的な心構えの一つでしかなく、反面他の三人にとっては未知の恐ろしい世界。根本的な認識のズレは、訂正できる者がいない以上戦場に実際に立つまでは発覚しないのだろう。
 そして同時にヒカリに対して淡い想いを抱くケンゴの精一杯の強がりも、その遥か上を行くノゾミのプロポーズを超えるレベルの剣幕にぶっ壊されたことに気付いてあげられる者もいなかった。
 ▼ 14 チグマ@こだいのどうか 23/09/06 23:01:31 ID:LcZM6F2k [12/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>11 一応ギラティナも書いたけど、この話をしてるときの二人はどっちかっていうとギンガ団のときのことを思い出して考えてるって想定なので……
 ▼ 15 ヤッキー@きあいのハチマキ 23/09/06 23:03:03 ID:LcZM6F2k [13/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>6
支援ありがとう

ってかこの小説、合計10万文字ちょいあるんだけどある程度投下したらちょっと日を改めたりとかするべきだろうか……
 ▼ 16 トウモリ@サンのみ 23/09/06 23:03:37 ID:LcZM6F2k [14/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 そうこうして彼女達は全員で船のチケットを購入したものの、闘いを控えて早くも緊迫した表情を浮かべるノゾミとウララ、ケンゴ。そんな三人とは裏腹に慣れ切っているヒカリはホウエンからのお土産をどうしようかときゃっきゃっと港の売店を周っていた。そうしてフエンせんべいの袋とつい最近目覚めて眠りに着いたというジラーチを模したヘアゴムを購入して満足顔でライバル達の元へ戻ると。

「うわっ、ちょっとみんなどうしたの!?」
「どうしたもこうしたもないわよ……」
「ちょっと感覚の違いを思い知らされたというか……」
「お前の常識どうなったんだ……」

 あまりの気楽さに項垂れる三人の中でも特にケンゴは、昔はもっと普通の女の子だったのにとぶつぶつ呟いていてそのショックの度合いは大きいらしい。けれどもそんなことに気付くはずもないサトシほどではないがそこそこ鈍いヒカリは、目覚ましにはこれだとばかりにパチリスを出して極々自然にほうでんを指示しようと口を開きかけ。

「おい待てピカリ、今何しようとした」
「それはダメ、ダメだから。人としてアウトだからね」
「え? でもサトシの目覚ましはじゅうまんボルトよ?」
「そう、彼のせいなのね。ちょっとあの人外のギア番教えてもらえるかしら?」
「え? サトシは図鑑以外の電子機器持ってないし、だから行方不明扱いなのよ?」
 ▼ 17 ヌギダマ@ネットボール 23/09/06 23:04:12 ID:LcZM6F2k [15/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 連絡取れないから行方不明がデフォルトだけど目撃情報なしでニュースとかにも映らないのは異常だから困ってるのよねーと、さくっと言ってのける嘗ての彼の旅仲間の言葉に三人は思わず顔を見合わせる。アイツどんだけ旧時代的な生活してんの、と。ヒカリの危機感のなさや映るのがバトル大会の中継ではなくニュースである点にはもうツッコミを入れてはいけないと諦めた。諦めたところで話題転換のためにも首を傾げるヒカリを促して船に乗り込んで、出港のときを待つことにした。このときの三人は今までにない素晴らしいコンビネーションを発揮していたというのは、偶然彼女らを目撃していたモブコーディネーターK氏の談だった。
 そうこうしつつも出港した船の中。ヒカリは自販機でアイスを買って食べていて、ボールから出されたポケモン達も思い思いに船の中を探索したり備え付けのプールで遊んだりと満喫している。そんな和気藹々とした過ごし方はただ帰省するだけだと言われた方が納得のいく、戦場に赴くにはあまりにも呑気過ぎる姿で。思わずノゾミは不安そうに声をかけた。

「ねぇヒカリ……、その、今から戦いに……行くんだよね?」
「んー、そうだけど、どうしたの?」
「緊張とかしないのかい? それに何か準備とかもあるんじゃ……」

 その問いかけにヒカリはそういえば、と呟いた。それは準備のことを忘れていたのかという不安材料に通常ならなり得るとんでもない発言だったが、そこにある彼女の真意はまた別の所にあった。その気持ちをヒカリは思い出話をするような心持で、近場の自販機でもう二つアイスを購入して片方をノゾミに手渡しながら口を開く。

「サトシと旅をしてた頃は、いっつも訳が分からないままいきなり巻き込まれていってて……準備をする暇もなかったんだ」
「え……」
「だから準備をする時間があるのなんて初めてで……なーんにも考えてなかったの! ……あ、アイス溶けちゃうよ」
 ▼ 18 NIV2AxL4Mg 23/09/06 23:05:29 ID:LcZM6F2k [16/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ヒカリの指摘に慌てて袋を開けるノゾミだったが、彼女の軽い声に、それを放つ彼女のさっぱりした表情に、頭の中は混乱していた。けれど当の本人であるヒカリは「ジュンサーさん達はしっかり事前に情報を手に入れて準備してるっていうのに、私もまだまだだなー」なんて爽やかに笑うだけで。けれどそんな彼女に自覚は無くノゾミも知らないが、予めしっかりと準備をして作戦も練っているジュンサー達以上の功績を一切の事前情報すら持たなかった状態からヒカリ達は幾度となく叩きだしていた。

「やっぱり私、実戦しか知らないからちゃんとした訓練とかもしとかなくちゃかな?」
「いや、普通は順番逆だと思うよ」

 ヒカリのいつもの天然発言に幾らかノゾミも和めたのだろう、少しだけ表情を和らげて軽いツッコミを入れる。コンテストのフィールドでは対等にぶつかっていたライバルは、別の舞台では自分では遠く及ばない遥か遠くの高みにいたことを今更ながら心から感じ取ることができた。けれど不思議と戦場に行くことを当然と受け止めていることへの憐憫や、強い心を持つことへの妬みの感情は芽生えない。それはきっと、彼女自身がこうして今隣で笑っているからだろう。

(この笑顔を、隣で支えられるようになりたい)

 食べ終えたアイスの棒をゴミ箱に投げ入れると、隣からおぉー、と拍手が聞こえる。そうして同じように投げた棒がゴミ箱の蓋に弾かれて渋々と入れ直すべく立ち上がる彼女の背中に笑って。そんな些細な日常を闘いの後も変わらず送り続けるために、ノゾミは一つ頷いて立ち上がった。
 ヒカリに背を向けてノゾミは緊張した面持ちで一緒にいたケンゴとウララの元へと向かった。二人が知り合ったのは割と最近のことだったものの、意味合いは違えどヒカリのことを強く意識している者同士で意外と気が合うようで。自らも闘いに身を投じることを考えて表情を強張らせている二人を前にしてノゾミはある提案をする。

「ねぇ、今回アタシ達は後方支援に徹しないか?」
「はぁ!? それじゃあ一緒に行くって言った意味ないだろ!?」
「そうよ! ヒカリさんを独りで戦わせるなら、行かなくても同じじゃない!!」

 そう、彼女らは素直に言葉にはしなかったものの想いは同じ。いつ命を落とすか分からないような危険な場所にヒカリを独りで向かわせたくなかった。だからどれだけ怖くても、どれだけ帰りたくても、必死に隣に立とうとしてきた。それを同じ想いを持っていたはずのノゾミが否定したことは、二人にとっては裏切りにも近かったのだ。けれどそれでも、ノゾミは先ほどヒカリと話していて気付いたことがあったから。ヒカリのためにも今回は辞退すべきだと思ったのだ。
 ▼ 19 NIV2AxL4Mg 23/09/06 23:06:19 ID:LcZM6F2k [17/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ヒカリは……闘いの後には自分達の平和な日常に帰れることに、一片の疑いも持ってない」
「……どういうことだ?」
「あの子にとっては犠牲を出さずに勝つことが当然のことなんだよ。だからこそアタシ達は――足枷になることも、犠牲になることも許されない。ヒカリにとって当然の、誰一人欠けることのない平和な未来を護るために」
「……!!」
「……!!」

 何の準備も心構えもなく闘いに赴くのはいつものことだったと笑ったヒカリ。そんな非日常の中で鍛え上げられていた彼女の隣に立つのは今の自分達では不可能だと判断した。それはノゾミにとっても悔しいことだ。けれど闘うだけが覚悟ではなく、身を引くことも覚悟の一つの形。そして今、身を引くことができるのは次のチャンスがあると確信できるからだ。

「ヒカリは必ず総てを護る。絶対に次がある。だから今回は、あの子の戦闘を見て学ぶべきじゃないかって思うんだ」

 どちらかというとリアリストな部分があるノゾミがそう断言したことに二人は目を瞠った。けれど誰よりもヒカリと仲の良い彼女の言葉だからこそ、二人にとって信頼に値するものでもあったから。だからウララとケンゴも直接力になれない悔しさを押し殺す。瞼を閉じて一つ深呼吸して、再びその瞳を覗かせたときには決意を宿して頷いていた。
 フタバタウンに到着した船から降りて港を後にしたヒカリは一度家に帰るそうだ。地元を同じくするケンゴも同様に帰宅するものの、ノゾミもウララもヒカリの自宅に泊まるそうでお泊りに誘われていた。そのことにケンゴは信頼されてるのか意識されてないのかと複雑そうだったが仕方ない。ヒカリはサトシとタケシとの紅一点状態での三人旅で、平然と一緒に野宿したりポケモンセンターで部屋も分けずに同室で寝泊まりしていたのだから。とはいえ普通ならあり得ないこの状態がまかり通っていたのは、サトシがあまりにも異性への興味がなくタケシがあまりにもお母さんだったからこそで。普通の男の子で尚且つヒカリに淡い想いを抱いているケンゴからすればそれなりに意識するのも当然のことだった。

「サトシほどじゃないけどヒカリもかなりの鈍感だからね。大丈夫、嫌われてない以上はまだ誰のものでもない時点で可能性はゼロじゃないさ」
「そうよ、ライバルになったら最も勝ち目のない性格イケメンは女の子とポケモンの区別が付かない男だもの。可能性をゼロにする存在はハナからライバルにならないんだから少しずつ意識させてく方向に持ってけばいいわ」
「やめてくれ、サトシにはどうあがいても勝てないのは僕も分かってるんだ……」
 ▼ 20 NIV2AxL4Mg 23/09/06 23:06:44 ID:LcZM6F2k [18/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 肩を叩きながら追い打ちをかけていく二人にケンゴは沈んでいく。ヒカリの鈍感さはサトシレベルではないためナギサシティでシンオウリーグの開催地であったスズラン島行きの船に乗る前、ケンゴに二人旅を誘われた段階で想い自体は一応は届いていたのだが、ケンゴは未だにあれでも気付かれていないと思っている。加えて母、アヤコとキッチンに立って背を向けている当の本人は割と近くにいたため会話も筒抜けだ。

「いいの、ヒカリ?」
「……今はまだ、そういうことはよく分からないの。分からないまま受け入れるのも、拒むのも、嫌だって思うのはやっぱり勝手かな?」
「そうねぇ、確かに気付いていないフリを続けるのは不誠実だと思うけど、でもケンゴ君の気持ちを蔑ろにしたくないからこその選択なんでしょ? それに……」

 言葉を切って何でもないと言った母の態度に首を傾げるヒカリには、母が娘の不誠実とも取れる選択を咎めなかったもう一つの理由に気付かない。ヒカリはこれから戦地に赴く。そしてそこで死ぬ覚悟を固めるわけでもなく、寧ろ生き抜くことを当然としている。旅に出る前とは全く違う彼女のことを今はもう、母は理解してやれない。闘いを知らないアヤコにできることはもう何もないのだ。

(私も知らない、この子の生きる世界……。それを知った彼がどうするのか、それを見てから決めても遅くはないもの)

 逃げるか、引き留めるか、隣で戦うか、後ろから支えるか……。どのような選択をするかは闘いを知らない彼女には想像もできない。そしてそれは、平和で平穏な日常を忘れたヒカリにも。だからこそ彼が闘いの地で何を想いどう動くか、ヒカリが態度を決めるのはそれを見てからでも遅くない、それどころかその後でなければ早すぎるのではとアヤコは思うのだ。
 彼女が調理をしながらも思案している横で、ヒカリの手は不意に止まった。そうしてボウルを置いてソファで寛いでいたポッチャマを呼んで。

「エムリットに呼ばれた。行くわよ、みんな!」
 ▼ 21 NIV2AxL4Mg 23/09/06 23:07:19 ID:LcZM6F2k [19/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ヒカリの声を受けてシンジ湖に駆け付けた彼女達の目の前には、先客と共に平和な湖がただそこにあるだけだった。緑のバンダナと共に茶色い髪を揺らす少女の背と、彼女を真ん中に佇む少年達。――ハルカ、シュウ、ハーリー、そしてラケルだ。

「久しぶりかも、ヒカリ!」
「えぇ、久しぶり! ハルカも来てくれてたんだ」

 緊張した面持ちの少年二人、男性一人とは違い笑顔で話す余裕のある二人の少女。取り残された彼らは互いの表情を見て、自分達と同じだと気付く。そうして活動地域のすれ違い等の理由で初対面の名前だけを知る者達も、自己紹介していくことによって緊張が少しだけ解けて話ができるようになった。

「ラケルはコーディネーターじゃない、よね? どうして一緒に?」
「少し絡まれてしまっていたところをハルカに助けられたのです。その後、サトシのご友人だと知り、力になりたいと思ったため同行させていただきました」

 サトシに救われたある国の王子だと知り驚き慄く少年少女達。そんな戦闘を前にしていることを若干忘れかけているような呑気な会話をしている彼らとは違い、ハルカとヒカリは着実に情報共有を進めていた。
 エイチ湖に向かったタケシの所にはスズナとジンダイが、リッシ湖に訪れたシゲルは都会の地域故に荒事に慣れている地元のジュンサーと合流。そして田舎であるために荒事に慣れない軽犯罪専門のジュンサーしかおらず、ジムリーダー等の戦闘を任せられる実力者も常駐しないこのシンジ湖。ここにはちょうどシンオウ地方にいたハルカを呼び、ヒカリと二人で闘うことになったそうだ。

「それで、潜んでる……よね? 私達かなり警戒されてるかも」
「うん。でもなんでかな? ちょっとなめててくれてる感じもある」

 周囲の茂みに潜んでいる敵の存在も二人だけはしっかりと認識していた。自分達を警戒しつつも同時にこれはいけると余裕を持たれてもいる。そのことに首を傾げる二人だが答えは簡単だ。敵の存在に気付かずに談笑に興じる者達の存在により、ヒカリとハルカに関しても彼らと共にただ遊びにここを訪れただけだと認識されたのだ。気付かれていないため奇襲して倒すか捕えるかしてしまえば、後は全て作戦通りに進めるのみ――敵はそう思ってしまったのだ。
 ▼ 22 NIV2AxL4Mg 23/09/06 23:07:43 ID:LcZM6F2k [20/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ギャラドス、はかいこうせん!」
「ポッチャマ、ハイドロポンプよ!」

 轟音が響き、戦いの火蓋は切って落とされた。姿を見せた元アクア団員を前にしてボールを構えたのは、構えることができたのは、ハルカとヒカリの二人だけだった。
 そんな敵の奇襲から始まった攻防戦。寄せ集めの下っ端による数の暴力で押し寄せるところを、ハルカとヒカリは広範囲に広げた技の質によって薙ぎ払っていく。慣れた者からすればまだまだ序の口の大したことのない闘いで、けれど初めて戦場に立つ者達からすれば恐ろしくてたまらない世界だった。

「ズバット達、ちょうおんぱ!!」
「みんな集まって!」
「バシャーモ、ほのおのうずで防御壁を作って!」

 一定のルールの元で競う試合をフィールドとする彼らにとって、トレーナーやコーディネーターの安全が確保されていることも、互いが繰り出すポケモンの数が同数であることも、疑う余地もないほどに当たり前のものだった。けれど目の前に広がる世界はどうだろう。トレーナーへ攻撃が向けられることも、多数対少数での攻防も、まるで当然のことであるかのようで。

(二人は――本当にアタシが知るライバルなのか……!!?)

 そしてなにより敵がそれを行うことよりも、当然のようにそれらの事柄に対応できるハルカとヒカリのことをとても遠い存在に、そして少し恐ろしく感じてしまった。特に彼女達二人ともと面識があり、少しだけ天然の入った能天気な笑顔で笑う年相応の少女達の姿を知っているノゾミが受けたショックは凄まじいものだった。

「目を逸らしてはいけません。元より今回は、学ぶためにこの場に立ったのでしょう?」
「!!」
「ぁ……」

 自らの価値観すらも崩壊させかけられて、それ以上に親しい少女達に恐怖を感じてしまって、そんな自分に愕然として俯きかけた彼らに凛とした声をかけたのはラケル。嘗て操り人形にされ何も知らぬまま悪事に加担していた自責を乗り越えた、そんな今の彼の声は誰よりも力強いものだった。

「教えて下さる方々もいるのですから」

 嘗てのサトシのように何も語らずにただそっと道を示す、なんてことはまだまだできないけれど。今度は逃げないように決意を固めて戦場にじっと目を凝らす彼らを見て、ラケルはそっと微笑んだ。

(僕も少しは、サトシのようになれたでしょうか)
 ▼ 23 ンドール@ルガルガンZ 23/09/06 23:07:54 ID:PfhEv3Sc NGネーム登録 NGID登録 報告
一気に全部出すと埋もれるぞ
 ▼ 24 NIV2AxL4Mg 23/09/06 23:08:29 ID:LcZM6F2k [21/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 二人の後ろで目を凝らす。心構えだけでなく、技を、動きを、目に見える総てのものを自らの糧にするため、ただただ一心に激闘を見据える。――それが、仇となった。

「っ!!?」

 こちらへまっすぐに向かってくる攻撃と、その向こうで笑みを浮かべる敵。目を凝らしていたからこそ、余計なものにまで――相手の瞳の奥に宿る感情にまで気付いてしまった。安全が確保されているコンテストの舞台をフィールドにしているとはいえ、それでもトレーナーに技の余波が向かう危険性は少なからず存在する。故に普段ならばぎりぎり避けることも可能な攻撃だった。

(怖い……!!)

 けれど、呑まれてしまった。相手の瞳の奥に宿る憎悪、狂気、そして――嘲りに。お前達は二人を殲滅するための餌だと雄弁に語るその瞳に。

「ポッチャマ! カウンターシールドよ!」
「ポチャッ!!」

 シンオウ地方を旅していた頃にヒカリのコンテストで偶発した動きをヒントとしてサトシが編み出したオリジナル技、カウンターシールド。本来は攻防一体の技として使用するその技を、まもるの技を持たない彼女は盾としても活用していた。咄嗟にヒカリがポッチャマを背後の友人達の元へと投げ込み、彼が空中でしっかりと体勢を整えて放った防壁はしっかりとその役目を果たすはずだった。僅か一歩ある一人が内側に立っていれば、防壁内に全員収まっていたのだ。

「バシャーモ!」

 ほんの僅かな立ち位置のズレから敵の攻撃とポッチャマの防壁の両方に挟まれかけていたシュウ。このままでは危険だと誰もが焦りを顔に浮かべたそのとき、ハルカの声が響きその直後には彼女はシュウに覆い被さっていた。嘗てサトシがヘイガニにやってもらったように、自らを飛ばしてもらったのだ。

「ぅぐっ、っ」
「――!!」

 轟音に掻き消された彼女の痛みに耐える呻き声は、彼の耳だけに届いていた。

「ごめんハルカ! 大丈夫!?」

 本当は振り向いて安全を確認したい。けれどそれは敵にとっては大きな隙になる。自分の浅慮も一因となって負傷しているであろう戦友を護り切るためにも、今のヒカリは全く動じていない体を装って前を向かなければならなかった。

「はんっ、冷徹なこった!」
「お仲間怪我させといてよーくそんな落ち着いてられるな!」
「何とでも言いなさい」

 例え理解されなくたって構わない。――それで護ることができるのなら。
 ▼ 25 NIV2AxL4Mg 23/09/06 23:09:02 ID:LcZM6F2k [22/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「大丈夫よ! でもそっちはお願い!!」
「オッケー!」

 背中の痛みを堪えながらも、冷静な声が返ってきたことに安堵したハルカ。正直な話、身体は痛むものの戦えないほどではなかった。にも関わらず敢えて何も説明せずにヒカリ一人に任せたのは、こちらに背を向ける彼女には理解できない別の傷の存在故だった。

「落ち着いて、シュウ」
「で、でもっ、でも……!」

 背中の大きな傷から僅かに薫る鉄のような臭いに、はらはらと右の肩口だけから落ちるざんばらになってしまったセミロングだった髪の毛に、シュウは軽い錯乱状態に陥ってしまっていた。この痛みだけはヒカリには理解できない領域だった。けれど護られる側の痛みは、ハルカは身を以て知っているから。
 彼女はそっと彼を抱き締める。苦しみ怯えるポケモンを宥めるときと同じように、温もりで包み込んでまずは話ができる状態になるまで落ち着かせる。そうして触れた肌から伝わる震えが消えてからゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

「今のシュウの気持ち、私にはよく分かるわ」
「っ、そんなわけ……! っ!?」

 そんな気休め要らない、と思わず八つ当たりにも近い気持ちで顔を上げるが、目の前には複雑そうな微苦笑。シュウはそれ以上の言葉を発することはできなかった。

「どうして自分はこんなに無力なんだ、力になりたいから来たのに、足枷になるなら来なければよかった、いや、いっそのこと――出逢わなければこんな目に合わせなかった」
 ▼ 26 NIV2AxL4Mg 23/09/06 23:09:26 ID:LcZM6F2k [23/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 紡がれていく言葉は全てシュウ自身の心情を当てていて、ただただ目を瞠り絶句するしかなかった。ただの気休めかと思っていたのに、本当に全て言い当てられていて驚いていたのだ。けれどハルカからすれば分かるのは当然のことだった。なぜならこれらの想いは――、

「私も、サトシに護られる度にそう思ってたの」

 ――嘗て、ハルカも同じように抱いていた気持ちだったから。どれだけ強くなったと思っても、どれだけコーディネーターとして結果を残しても、彼女は……彼女だけは最後まで非常事態においては護られる側の人間だった。まともに戦えたのは精々ロケット団のさんにんぐみとの小競り合いのときぐらい。四人旅の中での最後の大きな騒動である海の王冠を巡る事件のときでさえ、ハルカはサトシに護られていた。本当は自分が、マナフィを護らなければならなかったのに。

「私はついさっき、やっとあの頃のサトシの気持ちに気付けた」

 私もやっと、ヒカリ達に追い着けた。そう話すハルカはコーディネーターとしてはヒカリの先輩だけれど、戦士としては彼女達よりも大きく出遅れていたと思っていた。けれど、

「それは、違うんじゃないかな」
「え?」
「"護られる痛み"を知っていることは、君だけが持つ武器だと思う」

 そして僕も、この後悔を武器にしてみせる。そう言ったシュウが立ち上がるのと、ヒカリがポッチャマとバシャーモを駆使して最後の敵を倒したのは同時だった。
 戦闘が終わりトレーナーごと倒した敵の元アクア団員達を常備していた縄で縛りあげる。そうして後は近場で待機していた地元のジュンサーによる回収を待つだけとなったときだった。

 きゅぅうううん

 どこからともなく響いた透き通った声。驚き目を瞠るのはハルカとヒカリの二人以外の人達だった。ヒカリの目の前に淡く輝く光の玉がふんわりと漂ってきて、その輝きが形を成す過程で風を起こす。紺色のロングヘアがたなびく目の前で煌いたのは黄色い眼差し。

「――久しぶりね、エムリット」
「きゅぅうん!」
 ▼ 27 NIV2AxL4Mg 23/09/06 23:09:55 ID:LcZM6F2k [24/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 本当に姿を現した感情の神に驚き慄く者達と唯一違う反応をするのはハルカ。マナフィの育ての母であった彼女は、同じサトシの仲間である後輩が神と呼ばれるポケモンと縁を結んでいても今更驚きはしない。

「初めまして、私、ハルカ!」
「きゅうん」
「わっ、可愛いかもー!」

 笑顔で挨拶しに行って、くるくると自分の身体の周りを回るエムリットの愛らしい姿にハルカも上機嫌。けれどエムリットは背中に回ったときに見えた大きな傷に、痛ましげに目を伏せて。ユクシー、エムリット、アグノム、この三体は心を司る神だ。精神的な傷を癒せても、肉体の傷を癒す力はない。

「だいじょうぶだいじょーぶ! タケシね、ポケモンドクターになった上に人間のドクターにもなったのよ!」
「そーそー! タケシに診てもらうから大丈夫!」
「ポチャポッチャ!」
「シャァッモ!」

 彼女達の笑顔を見てエムリットも少しだけ笑みを浮かべた。普通の生き物となんら変わらないその仕草に、闘う意味を知りようやっと覚悟を固められた二人のライバル達も顔を見合わせて歩を進めていった。

「全く君は……。タケシはエイチ湖の方なんだろ」
「そうよカモちゃん、普通にポケセン行きなさいな」

 少し呆れ混じりに話しながらも彼らの顔には少しの笑みが浮かんでいて。エムリットも彼らの間にある感情を察したのだろう、笑顔で片手を上げたのだった。
 そして一通り挨拶もすませた数刻後、待機していたジュンサーの護送車により元アクア団員たちは無事に連行された。その間はエムリットは姿を隠していたけれど、護送車が去るとまたその姿を現す。そんな性別不明の――便宜上彼女とする――彼女は今はヒカリの隣で不安そうにふよふよ浮いている。
 ▼ 28 NIV2AxL4Mg 23/09/06 23:10:22 ID:LcZM6F2k [25/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「大丈夫よエムリット! ハルカは今頃治療を受けてるわ」

 怪我人であるハルカは護送車の助手席に乗せてもらって、ポケモンセンターに立ち寄ってもらうことにしたため今はここにいない。あの傷はきっと一生痕が残ってしまうだろう。それでも彼女が笑っていたのは、きっと護られる側から護る側へと変われたから。

 そうだけれど、それだけではないの。

 憂いた表情でのエムリットの呟きは、共鳴できるヒカリにだけ届いていた。けれど生憎、ヒカリには分かっていることだった。ヒカリにだけは、分かっていた。

「分かってる。この戦いは、敵にとっても前座に過ぎない」
「――つまり、僕らが力になれるチャンスもまだまだあるってことだな」

 隣に立ったケンゴに顔を向けると、そこにいる彼はもうただ怯えるだけの一般トレーナーではなくなっていた。そうしてその逆隣りで笑うノゾミもまた然り。

「アタシらの戦闘訓練、付き合ってほしい」
「んじゃ、アタシも頼もうかしらね〜。カモちゃんに教わるのは癪だし」
「それなら私はハルカさんに頼むわ。ヒカリさんなんかに教わりたくないもの」

 一部素直になれない者達もいるが、それはライバルとして意識しているからこそ。本当に嫌っているのならば彼女らは今ここにいないのだから、その時点でただ素直になれないだけだというのは周りにはバレバレだった。

 いい友人達ね。

 届いた声にヒカリはそっと微笑んで頷いた。エムリットもまた笑って頷いて、そうしてテレポートで姿を消した。けれどまた会えることを願って前を向くヒカリは気付かない。

 私も、ヒカリの力になりたいわ。

 彼女のテレポート先は木陰に置いてあったリュックの前で、こっそりボールに吸い込まれていたことには。
 ▼ 29 NIV2AxL4Mg 23/09/06 23:11:37 ID:LcZM6F2k [26/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>23 なるほど把握

トリも付けといたんでキリいいから今日はここまでにしときます
 ▼ 30 ラピオン@ふといホネ 23/09/06 23:44:00 ID:32ysoyYY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>15
別にいんじゃないかな今日で
 ▼ 31 ロッゴン@マスターボール 23/09/07 13:30:36 ID:MkbUMH5s [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
面白い
 ▼ 32 ブリアス@おだやかミント 23/09/07 14:19:04 ID:MkbUMH5s [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
面白い
 ▼ 33 NIV2AxL4Mg 23/09/09 09:54:07 ID:gveE.f6Q [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 炎が燃えて風が舞う。鳴き声轟く中、駆け抜けるのは――一人の少女。火炎が壁になり背後が遮られたことを感じ取った色黒の少女は苛立った様子で毒吐いた。

「ほんとアイツらしつこい!!」

 * * *

 ハルカの背中の治療も無事に終えて、彼ら彼女らはようやっと緊張が解けたことにより疲れが出たのだろう。ポケモンセンターのロビーで少しだれていた。それでもやはり決意を固めて二人の少女達と同じフィールドへのスタートラインを決められたからだろうか、戦闘前には抱いていた緊張や恐怖といった感情は見られない。

「私は服新しくしなくちゃなー」
「確かに背中のとこボロボロだもんね」
「髪も切り揃えなくちゃならないんじゃない?」

 ハルカの身なりを整えるためにコトブキシティに行こうかと話し合っていると、ポケモンセンターの自動ドアが開く音がした。そんな日常的な雑音は誰も気に留めなかったが、建物に入ってきた方はそうでもなかったらしい。たったと駆け寄って来て、こちらが顔を向けるのと同時に不機嫌な顔で話しかけてきた。

「ヒカリ久しぶり! ねーねー聴いてよ聴いて!! すっごくムカつくの!!」
「アイリス!? 久しぶりね! 何々? 何があったの?」

 最強女子コンビの唐突な再会によって始まったマシンガントークに周りは目を白黒させていた。だがそんな様子もどこ吹く風、というよりは気付いていないのだろう。久々の友人との再会に気が緩んだのか出てくる出てくる不満の数々。

「それで私のこと狙うハンターがうじゃうじゃしてて――」

「蹴散らしても蹴散らしても次から次へと襲撃してきて――」

「さっきもちょっと撒いてきたんだけど――」

「もうほんとウザい! ムカつく!!」
 ▼ 34 NIV2AxL4Mg 23/09/09 09:54:51 ID:gveE.f6Q [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 一通り話して落ち着いたようで、ここで一息吐いてノゾミがさりげなく近くに置いた水を飲み干して。

「落ち着いた?」
「あはは……、うん、ありがと」

 荒れていた自覚はあったのだろう、少しバツが悪そうに苦笑を浮かべてノゾミに一言お礼を言って。それから今度はいつもの彼女らしく快活に笑う。

「初めまして、私アイリス! イッシュ地方の竜の里出身で、ドラゴンマスターを目指すソウリュウジムリーダーです!!」

 サトシ達との旅の頃、ジムリーダーを継ぐ話を保留としていたけれど。その後の旅で更なる成長を遂げた彼女は今、イッシュ地方最強のジムリーダーの座を譲り受けていた――

* * *

「話を整理するとまず、アイリスは竜の里に受け継がれていっているドラゴンタイプのポケモンと心を通わせる力を持っている、と」
「けど、竜の里の人は誰もがその力を持っていたのは遠い昔のことで、今ではアイリスを含む三人のみ」
「にもかかわらず、竜の里の人間というだけでアイリスは興味本位のハンターに狙われることが多い、と」

 ――それ、どっからどうみても民族衣装な服装変えればいいだけじゃね?

「そっか……! 返り討ちだけが全てじゃないのよね!」
「シュウもノゾミもラケルも頭いいかもー!」
「ちょっとした変装ね! さっすがー!」

 アイリスとハルカ、そしてヒカリというこの三人の反応で一同は察した。彼女もサトシと旅したことある者だと。戦闘が前提になっているこの思考回路、一緒だ。彼ら彼女らの心がそんな微妙な状態で一つになっているなんて思いもせずに、三人はそれなら今から行く予定だったブティックに一緒に行こうと盛り上がっていて。
 ▼ 35 NIV2AxL4Mg 23/09/09 09:55:26 ID:gveE.f6Q [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「その前にハルカは髪だろ」
「え、シュウがやるの?」
「まあね。僕が原因だし、これぐらいやらせてよ」

 そうして連れたって切った髪が多少散らばってもいいようにと屋外に出ていった二人は、傍から見てるとまるで付き合っているようで。当人達にその気ゼロでも、絶賛片思い中のケンゴは羨ましそうに見ていて、ハーリーは面白そうにニヤついて、アイリスはリンゴを取り出して丸かじりしていた。

「え、どうしてリンゴ……」
「恋のことになるとお腹すくのよねー」
「キバキバー」
「キバゴも食べる?」

 髪から出てきたパートナーにもう一個のリンゴを差し出すと嬉しそうに齧っていて。ウララは少し引きながら流石はサトシの旅仲間ねと、頭を抱えながら呟いた。

「ねぇねぇアイリス! どんな感じの服にするの?」
「んー、私オシャレとかあんまり分かんなくて……。あ、でも動き易いのがいいな!」

 けれどそういう恋バナに行きそうでいかないぐらいの空気なら気付かないちょっと鈍いヒカリはこれからのショッピングにうきうきするのみ。ただリンゴを食べながらアイリスは応えるけれど、ファッション関連に疎い自覚がある彼女の返事は歯切れが悪い。
 ▼ 36 NIV2AxL4Mg 23/09/09 09:55:49 ID:gveE.f6Q [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「じゃあさ、お互いの服をお互いで見立ててみるのはどうかな?」
「それはいいですね。自分が似合う服なら中々分からなくても、相手に似合う服を考えるというのは楽しそうです」

 そんな中響いたノゾミの提案とラケルの頷きにより、ヒカリもイメチェンが決定してしまったけれど。それいい!! と二人は目を輝かせて賛成した。そうと決まれば早速とばかりにここ、マサゴタウンのポケモンセンターからコトブキシティのブティックへと足を運ぶことが決定。ちょうどそのときハルカとシュウも戻ってきて話をすると。

「楽しそうかも! 私も参加ー!」
「いいわね!」
「じゃあローテにしよっか!」

 さっぱりしたショートカットになったハルカも目を輝かせて突撃。話はすぐに纏まってハルカはヒカリの服を、ヒカリはアイリスの服を、そしてアイリスはハルカの服を選ぶことになった。

「じゃあみんなの回復終わったらすぐ出発だね」
「でも女子のショッピングって長いよなー……」
「あら、それをその女子の前で言うの?」

 ケンゴの少し憂鬱そうな声にウララが笑顔で凄むと、すぐさま彼はノゾミの後ろに隠れた。あのねぇ、と呆れ気味に苦笑するノゾミに対してケンゴは少し申し訳なさそうに苦笑い。そんな愉快な様子を見て彼が何も言わないはずがなく。

「あーらら、そこのお二人さんのコンビもなかなかいい感じじゃなーいー?」
「ハーリーさん……」

 彼の隣でラケルが一つ困ったように笑いを零す。シンオウで出逢った当初とは違いハーリーの性格も分かってはいるものの、彼の性格ではストッパーにはなれなかった。だがこのからかいに関してはノゾミもケンゴも動じなかった。
 ▼ 37 NIV2AxL4Mg 23/09/09 09:56:13 ID:gveE.f6Q [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「まぁ、ライバルとしては仲悪くはないし……」
「だね。それにケンゴはヒカリ一筋だし」
「ちょっい、言うな!!」
「勝者、ノゾミさん」
「……アンタ、やるわね」

 側にいながら早々に興味を無くしてマイペースに爪にやすりをかけだしていたウララが淡々と告げて。ハーリーは謎の対抗心を燃やし始めた。これからケンゴとノゾミが一緒にいるときの、ハーリーのケンゴいじりは加速していくことだろう。
 ちなみにハルカといるときは標的になることもあるが、基本はストッパーであるシュウはというと。

「いっそアイリスは髪型も変えてみたらどう?」
「そうだね、君は……ポニーテールも似合いそうだし、何よりアップにすると印象も変わる」
「そうかな? じゃあやってみるわ。あ、ヒカリは二つ縛りとかも似合いそう!」
「それいいかも! 私もヒカリの髪いじってみたいし」

 ショッピング組に普通に混ざっていた。流石女性ファンが多いだけあって、女性のファッションにもそれなりに詳しいようだ。
 そうこうしているうちにポケモン達も回復が完了し、マサゴからコトブキまでのバスに乗って移動。コトブキシティにあるブティックにハルカ、ヒカリ、アイリスが突撃して――、

「これとかどう?」
「いやいや、それじゃあんまり変わらないかもー」
「せっかくのイメチェンだし、ベースカラーごと変えてしまうのもいいと思うな。特にアイリスは変装の意味合いが強いわけだし」
「なるほど!」

 ――シュウが普通に混ざったままだった。あれでもないこれでもないと吟味している三人に自然な様子でアドバイスをしている。これにはいわゆるオネエ系であるハーリーですら頬を引き攣らせた。
 ▼ 38 NIV2AxL4Mg 23/09/09 09:56:30 ID:gveE.f6Q [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「同じ女である私でもあのテンションは遠慮したいというのに……」
「アタシもヒカリ達のショッピングに付き合うのはちょっとキツイものがあるんだけどね……」
「それはそれでどうかと思うわよ……」

 同性であるもののあまり馴れ合いを好まないウララの溜息と、サバサバしているノゾミの苦笑にハーリーが少し呆れた顔をして。ケンゴがぼそりとあんたもオカマだからブーメランだろと呟いた。けれどいつもなら嫌味を三倍にして返してくる彼は意外にも今回は目をきょとんと瞬いて。

「あら、言ってなかったかしら? 私はこれでも中身も男、トランスジェンダーじゃないわよ?」
「え、そうだったのですか?」

 トランスジェンダー、医学用語では性同一障害と呼ばれるそれは肉体の性別と精神の性別が一致しない人々を指す。世間一般的な"普通"の枠組みに入らない彼らは多くの場合、異端として爪弾きにされてしまう。ただハーリーはそのトランスジェンダーだと周囲には思われていたものの、寧ろ当人の灰汁の強い性格と比べれば些細なこととされてきた。けれどどうやら、そうではなかったらしい。

「うちの実家、アタシ以外みんな女なの。で、そういう環境で育ったから女っぽい話し方と性質になっちゃってるだけよ。自分自身の性別には別に違和感も疑問もないわ」
「へぇ、そうだったのか」
「なるほど……大変勉強になります」

 他の面々はただなるほどと頷いているだけだったが、ラケルはそうではなく真剣にメモを残していた。一国の王子として、どこの国でも解消すべき問題である差別問題に関連しそうになる事象はしっかりと勉強しておきたいのだろう。
 そうやってときには実のない、ときには誰かしらには役立つ雑談を繰り返している内にショッピングもどうにか終了したようで。男子であるシュウが混ざっていたことも幸いしたのか、待機メンバーが雑談にも飽きて待ちくたびれるよりは早く店から出てきた。
 ▼ 39 NIV2AxL4Mg 23/09/09 09:56:45 ID:gveE.f6Q [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「アイリス、ファッションに自信ないって言ってたけどばっちりじゃない!」
「うんうん、この服気に入ったかも!」
「そ、そーお? でもヒカリもハルカも、シュウもチョイスいいわよねー。私は結構アドバイスもらっちゃったし……」
「まあ僕らはコーディネーターだから、相手の魅力を引き出す目は必須スキルなんだよ。寧ろバトル専門の君がこういう分野で僕らに付いてこれたことには少し焦るね」

 ポケモンコーディネーターは確かにポケモンの魅力を引き出すことを競技としているが、その試合の中で培われた審美眼が人間に応用できない訳ではない。そういったこともあってコーディネーター達は総じて高いファッションセンスを持っているのだ。
 アイリスをフォローするよう説明を行うシュウの隣で、ハルカとヒカリがへーっと頷いているのは彼は見ないことにした。

「ふぅん、ポニータにも衣装ね」
「あら、それ、選んでくれたアイリスも馬鹿にしてることになるわよ?」

 女の冷戦と言えば疑問符が残るが、そういった空気の舌戦を早速始めるハーリーとハルカ。黒のベアトップとキャミソールタイプの赤いトップスを重ね着し、白いボトムスは惜しげもなく足を晒すショートパンツ。赤白のブーティーからソックスは見えず、全体的にスポーティーな印象だ。けれど彼女自身の年齢以上のスタイルの良さが、それだけとは感じさせずセクシーさも覗いている。
 笑顔で嫌味を飛ばすハーリーに負けぬよう、小首をかしげて口汚い言葉を話しながら考え抜くハルカの頭では、ショートカットになった濃い茶髪と共にリボン結びの赤いバンダナが揺れている。

「シュウ、ラケル、止めなくていいの?」
「キバ?」
「いつものことだよ」
「お二人にとっては遊びのようです」
「そ」
 ▼ 40 NIV2AxL4Mg 23/09/09 09:57:01 ID:gveE.f6Q [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 本気の喧嘩じゃないのなら気にすることもないか、と、意外とさっぱりした反応をするアイリスは長くて多い髪をポニーテールにしていて。ノースリーブの桃色のボレロの内は、裾にむかっていく部分がカシュクールになっている黒のワンピース。木々を駆ける彼女の動きを阻害することのない桃色のスパッツとキャバリエブーツは、元々アイリスと親交のあったヒカリが選んだからこそのものだろう。髪型が変わったことにより潜りにくくなったのだろうか、キバゴは彼女の左肩に乗っていた。
 ヘアピンで留めた桃色のリボンが揺らめき、その中心でキーストーンが煌いている。職人によりキーストーンとリボンは以前から一つにされていたそうだが、それをヘアピンに着けたのはシュウだった。

「ピカリにしては、ま、まあまあじゃないか」
「ヒーカーリーでーすー!! ノゾミどーおー?」
「うん、可愛いよ」
「わーいノゾミ大好きー!」
「……」
「ヘタレ」
「ポチャ」

 素直に可愛いと言えないケンゴに呆れるウララとポッチャマの傍らでノゾミに抱き付くヒカリ。白と桃色のサンバイザーの下揺れるロングヘアはおさげにしている。水色のオフショルダーネックのトップスで、肩には桃色のストラップ。淡い黄色のフリルスカートを翻す彼女が纏う服は、これまでの黒の面積が大きかった衣服とは裏腹な明るい色合いでヒカリという名にぴったりだ。
 そうして和やかとは程遠いもののわいわい賑やかな一行は、とりあえずはポケモンセンターにと移動しようと誰からともなく声をあげようとしたのだが。

「あ、いたいた! ヒカリさん達に……アイリスさんも一緒だったのね」
「シロナさん!」
「はい、お久しぶりです!」
  ▲  |  全表示180   | <<    前    | 次100 >> |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |  ▲      
                  スレ一覧                  
荒らしや削除されたレスには反応しないでください。
書込エラーが毎回起きる方はこちらからID発行申請をお願いします。(リンク先は初回訪問云々ありますがこの部分は無視して下さい)

. 書き込み前に、利用規約を確認して下さい。
レス番のリンクをクリックで返信が出来ます。
その他にも色々な機能があるので詳しくは、掲示板の機能を確認して下さい。
荒らしや煽りはスルーして下さい。荒らしに反応している人も荒らし同様対処します。




面白いスレはネタ投稿お願いします!
(消えた画像の復旧依頼は、問い合わせフォームからお願いします。)
スレ名とURLをコピー(クリックした時点でコピーされます。)
新着レス▼