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サザンドラには政治がわからぬ。サザンドラは、村の牧人である。笛を吹き、ウールーと遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明サザンドラは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此このエイセツの市にやって来た。
サザンドラには父も、母も無い。女房も無い。十六の、内気な妹と二人暮しだ。この妹は、村の或る律気な一牧人を、近々、花婿はなむことして迎える事になっていた。結婚式も間近かなのである。サザンドラは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。
サザンドラには竹馬の友があった。ギルガルドである。今は此のエイセツの市で、石工をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。
歩いているうちにサザンドラは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。「のんき」な性格のサザンドラも、だんだん不安になって来た。