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ss》 テオ「俺、生きてる…?」

 ▼ 1 ノガッサ@マーマレード 25/08/27 19:41:52 ID:B1EYB6FU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
テオ「何でだ?」

ここは多分病院だ。
確か俺は、デデンネを助けようとして道路に飛び込んで、車にーー

???「テオさん!起きたの!?」

テオ「あ…あなたは?」

???「テオさん…やっぱり起きてるわ!どうして?でも…
    良かった…!!」ギュッ

その人は、テオの肩を強く握った。

テオは、心があたたかくなった。自分にとっては見知らぬ人だが、この人は見たところ看護婦だ。きっと意識の戻らない自分を、ずっと看病してくれていたのだろう。

テオ「俺…起きてますよ。それにしても、何があったんですか?」

看護婦「分からないけれど…私がここに来たら、貴方が光っていたのよ」

テオ「俺が…?」

看護婦「私は、上の人にこのことを伝えてくるわね。少し待っててもらえるかしら」

待っててもらえるかしら、と言われても、俺に断る権利はないんだろう。テオはそう思い、頷いた。

看護婦「じゃあね…」スタスタ

テオ「……」

にしても、光っていたってどういう……

テオがそう思った途端、ベッドの横にある窓の外が、突然光りだした。
 ▼ 70 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 18:27:50 ID:MtKMJjS2 [1/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
テオ「アブソルはこっちな」

テオは、口に食べ物を含んだまま立つのは行儀が悪いのを承知で立ち上がった。

それからリュックの中を漁り、ポケモンフーズの袋とそれ用の皿を2枚取り出し、そこにフーズを出した。

彼は「もう一個…」と呟きながら、もう片方の皿にもポケモンフーズを出す。

テオ(ピィは棒形にフーズが固まったやつを齧ってるから…良いのかな?)

そして袋を閉じ、リュックに仕舞った。

テオ(さて、続きを楽しませてもらおう……)

テオが麺を再度啜り、美味しそうに頬張る。

その隣ではエメリクが感激しながらラーメンを食べ進めていた。

エメリク「うっうまい…! 味付けはご自分で?」

子供の母親「いや、そんなことはないわ」

エメリク「だとしてもおいしー、時間調節が完璧ですよ」

彼女はそれを聞いて照れた。

子供は少なめによそわれたラーメンを食べていた。

子供「おいしいねー、ピィ」

ピィ「ぴぃ!」

アブソルとフラベベも微笑み合っていた。


エメリクが早めに食べ終わり、テオも最後の麺を食べ切った。

そしてスープを啜ってから、ラーメンの器を机に置いた。

テオ「ご馳走様でした……本当に美味しかったです」

子供はニコニコとしながら母親に笑いかけた。

子供「よかったね、ママ」

子供の母親「ええ。ありがとう」


そして彼らは机の上をしっかりと片付けた。


テオ「じゃあ俺たちは、失礼します」

エメリク「本当の本当にありがとうございましたっ」

子供の母親「良いのよ。それより、夜はどうするの?」

それはごもっともな質問だ。テオとエメリクはお互いに目を合わせた。
 ▼ 71 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 18:42:05 ID:MtKMJjS2 [2/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
テオ「広場の空いてるところで野宿しますよ」

子供の母親「あらまあ、そんなことを……出来れば私の家に泊めてあげたいけど」

そんなことを呟く彼女に、テオとエメリクは本気で慌てた。

テオ「あっあっそんな! 大丈夫ですって全然」

エメリク「平気です! 平気です!」

アブソル「アッアルー!」

フラベベ「ラベ!? ラベーッ」

2人のパートナーたちも驚き慌てる。

それを見た子供は「かわいいね」と呟いた。

子供の母親「でも、出来ないのよね」

テオ「お気持ちは有り難かったです」

エメリク「僕たちには気持ちだけで大丈夫です、まだまだ子供なので」

続いた子供の母親の言葉に、テオとエメリクは少し安心した。

今日初めて会った人の家に泊めてもらうなんて、とても申し訳なくて出来ないからだーー

そんな2人に、彼女は続けて大事な情報を伝えてくれた。

子供の母親「だけどね、安心して。この村にはホテルがあるのよ」


テオとエメリク、アブソルとフラベベは、子供の母親に別れを告げた。

テオ「ありがとうございました!」

エメリク「また来ます、絶対」

隣のエメリクの言葉を聞いて、テオはひっそりと思った、

テオ(また会うなんて、俺には出来ないんだろうな……)

アブソル「アルウー!」

フラベベ「ラアベー!」

子供の母親「ええ、また来てね!」


料理をご馳走してもらった恩人に背中を向けて彼らは歩き出す。

そんな一行に子供とピィがついていく。

子供「こんどはちがうポケモンもってきたからね!」

ピィ「ぴぴ!」
 ▼ 72 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 20:05:35 ID:MtKMJjS2 [3/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
そうして午後もポケモンなりきりで過ぎていくのだった。

テオ「ムゲンダイナだぞ、がおー」

子供「いくよザマゼンタ! うるぉーーど!」

ピィ「ぴぴぴーい」

エメリク「あっ、うん、ザシアン! えと……」

子供「うるぅーーど、だよ」

エメリク「うるぅーど? うるぅーーどっ!」

フラベベ「ラベェーラ!」

テオ(まただ…なんかこの子、ガラル地方に詳しいな……気のせいか?)

テオ(ていうか何で俺は悪役なんだよー!)

アブソル「アル……」


やがて空が暗くなってきた。

子供「くらいね、ぼく、かえらなきゃ…」

エメリク「うん…ここまでにする?」

子供「うん……」

この遊びをやめる流れになり、子供は悲しそうな顔をした。

子供「いやだな……まだあそびたかったな」

ピィ「ぴー…」

暗い顔をする子供とエメリクを見てテオまで気分が暗くなり、なんとかこの空気を変えられないかと思いこう発言した。

テオ「でもさ、また明日会えるから。な? 明日遊ぼうぜ」

子供「…!」

彼はにこーっと笑った。

子供「うん! また明日ね!」
 ▼ 73 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 20:17:56 ID:MtKMJjS2 [4/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エメリク「頼むよ、テオ……僕お金は持ってないんだ」

テオ「ギリギリの状態で生活してたのは、俺もだよ…今度ポケモンバトル吹っかけてみっか」

エメリク「だね。稼がなきゃ」

13歳の2人は、あるホテルでそんな会話を交わした。

テオ「…はい」

受付のお姉さん「確かに丁度、お預かりしました。では良い夢を〜」

エメリク「じゃ、行こっか。その56号室に」

フラベベ「ラベ!」

テオ「ああ」

フラベベとテオとアブソルはそう返事した。


そして56号室。

エメリク「ああー!! 良いベッド!」

フラベベ「らべ〜」

エメリク「こんな風にベッドにダイビングするの、憧れだったんだよねぇ!」

テオ「ふふ、そうか」

アブソル「アルッ!」

エメリクはベッドに寝そべってこう呟いた。

エメリク「あーもう寝ちゃいそう……」

テオが「歯磨きはしたんだろうな?」と聞くと、「もちろん」と返ってきたので彼は安心した。

テオ「じゃあ、ゆっくり寝ろよ。俺はまだ少し起きてるよ、準備終わってないから」

エメリク「じゃー遠慮なく…」

そう言ってそのまま眠りにつこうとするエメリクだが、「ねえ、テオ」と続けて呟いた。

エメリク「明日……絶対あの子に会ってまた遊ぼうね」

テオ「……」

テオはエメリクが寝る直前まで彼のことを考えていると知って微笑んだ。

それから一言だけ告げた。

テオ「勿論だよ」
 ▼ 74 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 20:19:54 ID:MtKMJjS2 [5/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
なんでだろうな……

テオは朦朧とした意識の中でそう思った。

なんでアイツの夢を見るんだ…………



エメリク「おはよー!」ガッ

テオ「うわっ」
 ▼ 75 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 20:38:46 ID:MtKMJjS2 [6/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
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なんでだろうな……

テオは朦朧とした意識の中でそう思った。

なんでアイツの夢を見るんだ…………



エメリク「おはよー!」ガッ

テオ「うわっ」

テオは驚いた。無理もない、ゆっくりと眠っていたのに突然窓のカーテンを開けられたのだから…。

テオはそれにすぐさま気づき、文句を垂れた。

テオ「なにすんだよ、人が寝てるのに」

そう言いながらも彼はんーっと伸びをする。二度寝する気は無いようだ。

一方のエメリクは、「えへへ」と笑った。

エメリク「こんな感じで起こしたらテオってどうなんのかなーと思って」

テオ「どうもこうもないだろ…?」

そう呟きながらテオが隣を見ると、アブソルがお腹を出して寝ていた。

魔が差して、テオはアブソルの腹をちょいっとくすぐった。

途端にアブソルは飛び上がって起きた。

アブソル「アゥっ!」

フラベベはそれを見てふふっと笑った。

フラベベ「ラベべ♪」

アブソル「アヴ…」


エメリク「さて! 朝ごはん食べて、あの子に会いに行こう!!」

フラベベ「ラベー!」

テオ「値段は高かったけど、朝ごはんが付いてるのは良いよなぁ」

アブソル「アヴ!」
 ▼ 76 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 20:51:49 ID:MtKMJjS2 [7/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
そして一行は朝ごはんを済ませて、ホテルを出た。

テオ「良いホテルだったな」

エメリク「うん!」

だが、行く先に人だかりを見つけたので彼らは近づいてみることにする。

エメリク「なんだろ…?」

そう呟くエメリクの隣でフラベベが震えているが、誰も気づきはしない。

テオ「あのー、なにかあったんですか…?」

テオはそっと人だかりに近づき、1人の村人らしき人に尋ねた。

その村人はちらっとテオを見た。

テオ(なんだ…? 血の気が失せてる)

テオがそれに気づくと同時に、その村人は衝撃の事実を口にした。

村人「人が………死んでる」

テオ•エメリク「「!?」」

アブソル「アル!?」

フラベベ「ラァ…!」

だが、死んでいると言われると見てみたくなってしまうものだ。

後悔するのは分かっていても、2人の視線は人だかりの真ん中へと移る。

そしてーー目に入る。


子供の死体が。


テオ「…………っ」

エメリク「…………!!」


アブソルは「それ」を目にはしなかったが、主人の反応。そして、足元に落ちていたオノノクスの縫いぐるみ。

それだけで察した。


一方テオの体は震えている。

テオ(嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ。なんでだよ? こんなの、悪夢かよ)

この現実が夢であってほしいと、テオが本気で願ったのはこれが2回目だった。
 ▼ 77 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 08:08:33 ID:ANKcQSsY [1/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
隣にいるエメリクも唖然としていた。

エメリク(な、なんで…? だって、き、昨日まで……)

エメリクはそれが本当のことなのかを確かめるために一歩前に出た。

彼は女性を軽く押し除けながらもあの子に近づいていく。

テオ「お、おい、エメリク……」

絞り出すようなテオの声がエメリクにも届くが、エメリクは足を止めない。

そしてしゃがみ込みその子供に触れた。

エメリク(冷たい………)


エメリク「な……なんで!」

彼はこれが現実なのを嫌でも知らされた。

エメリク「ねえ、起きてよ……僕たち、会いに来たよ…?」

エメリクはとうとう死体に話しかけ始めた。

テオは見ていられなくて俯いた。

テオ「ばか……やめろよ………」

エメリク「ねえ、また遊ぼうよ?」

彼が子供にかける言葉に、集まっていた人たちは涙腺を刺激されたようだった。

エメリク「なんで……? 約束したのに………あんなに楽しみにしてくれてたのに!!」

エメリクは叫んだ。


その途端、彼のその声よりも遥かに大きい声がその場を覆った。




テオ「もう戻ってこないんだよ!!!」




エメリクは歯を食いしばった。

分かってるけど……でも!

その周りに立つ村人たちはただ涙を流している。

村人「まだ、未来があったのに」


そんな彼らのもとに、2つの人影が近づいてきた。
 ▼ 78 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 08:25:55 ID:ANKcQSsY [2/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
女性「あ、れ……よ」

子供の母親「っ………メットン……」

その内の一つは子供の母親のものであった。

もう一つは、彼女と肩を組んで彼女を支えている女性のものだった。

テオとエメリクは、子供の母親のことを見て目を逸らした。

そしてエメリクが立ち上がり子供から少し遠ざかると、彼女は自身を支えてくれていた女性から離れて我が子の側に駆け寄った。

子供の母親「どうして…? メットン……そんな、嘘でしょ」

彼女は目を見開いた。

口頭で知らされていても、実際に見るまでは納得できないだろう。しかし今、変わり果てた彼の姿を見てしまった。

納得するしか無かったーー。

子供の母親「メットン…メットン!」

彼女は子供に覆い被さり、泣き出した。

フラベベも声を上げて泣いた。

フラベベ「ラベェェェッ…ラァベッ!」

エメリクもテオも泣きそうだったが、2人ともパートナーに泣いている姿を見られたくなかったので泣くことは無かった。


1人が、おずおずと前に進み出た。

男性「あの、僕たちが………1番最初に見つけました」

子供の母親は、涙を流しながらも必死で言葉を続けた。

子供の母親「うっ……メットンは、昨日夕食を、食べ……終わった時、に、オノノクスの縫いぐるみをっ…忘れたって言って。それで、取りに行って………」

子供の母親「帰ってくるのを、ま、待ちながら、ソファーに横に、なったら、ぐっすり、眠ってしまって………! ついさっき、目覚めたの………っ」

テオはそれを聞いてはっとした。

テオ(俺が………確かに、置いた)


隣でアブソルが、俯きながらオノノクスの縫いぐるみを咥えている。


テオ(じゃあ……)




俺のせい、なのか
 ▼ 79 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 08:38:42 ID:ANKcQSsY [3/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


ふとフラベベが空を見上げた。

つられてエメリクも、悲しみで歪んだ顔で空を見上げる。

そこには、

エメリク「あっ、Y…!!」


その声で、周りの人も次々と上を見る。


テオとアブソルも見た。

そこには、

確かにアイツがいた。


テオ「くそッ!」

早合点かもしれないが、テオとエメリクはこう解釈したーー

《イベルタルが彼の命を奪ったのだ》と。

エメリクが「待てよ!」と叫ぶが、イベルタルはテオと目を合わせた。

テオ(あの目……なんでだろう、早く来いよ…って伝えてるような気がする)

テオ「分かったから! もうこれ以上奪うな……!!」

村人たちも、テオの言葉につられてイベルタルが彼の生命を消したのだと理解した。

彼らは、イベルタルに話しかけるテオを変だとは思わなかった。

何故なら、イベルタルのしたことに気を取られ、それほどまで心の余裕が無かったからだ。


テオは飛び去るイベルタルを睨みながら、リュックを背負い直した。

テオ「行くぞ」

アブソル「アル」

呟くテオに素早く返事する。それから、アブソルは悲しみの涙を流す子供の母親に《忘れもの》を届けた。

子供の母親「これはっ、オノノクスの…!?」

アブソル「アル…」

大事にしてあげてね…

そう言ったように、彼女には聞こえた。
 ▼ 80 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 08:50:15 ID:ANKcQSsY [4/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エメリクも「うん」と頷いた。

エメリク「もう許さない…絶対にっ!」

許さないからといって奴をどんな目に遭わせるのかを考えるエメリクでは無かったが、ただ「許せない」。その気持ちが誰よりも強かった。

フラベベ「ラベ…!」

フラベベも怒っていた。

未来があったのに、命を消されるのが、彼には許せないことのだ。

アブソルは静かにイベルタルを睨んでいた。

主人がそうしていたからかもしれないが、それ以外の理由をテオは知っていた。

昔からだが、アブソルは正義感が強い。

旅の仲間が、村人たちが、子供の母親が、悲しんでいるから。だから彼は、奴のせいでまた誰かが悲しむことが無いように、動くのだ。

テオは仲間たちの思いを仕草で感じ取り、それぞれの思いの強さを知った。

テオ(こいつらなら、きっと、立ち止まることはないだろうな)

そう感じながら、テオは歩き出した。

テオ「俺たちはーーアイツをまた繭に戻す」

アブソルとエメリクとフラベベも後をついていく。

その後ろで、村人たちはただ祈っていた。

ただーーイベルタルの強さに、彼らが呑まれないように。望まずに志半ばでその命が途切れることが無いようにとーー。
 ▼ 81 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 13:49:40 ID:ANKcQSsY [5/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
テオ「…………」

エメリク「…………」

しかし、勿論のこと暗い空気が変わるわけでもない。

アブソルとフラベベは思わず目を見合わせた。



それから3時間。太陽が彼らの真上から日差しを降り注がせる。

相変わらず一行は無言だ。

ずっとこのままにしておく訳にもいかないので、アブソルが手を打った。

フラベベ「…ラベ?」

アブソルは2人の前に出る。

フラベベは首を可愛らしく傾げた。

そしてアブソルは、頭の突起に力を溜め……

アブソル「アヴッ!」

ーー振り切った。

前の草むらは[ザザザッ]と音を立てて切れた。

アブソルはふふんと誇らしげにするが、エメリクが「うわぁすごい…」と言っただけで人間たちの反応は終わった。

…………

アブソル「アルッ!?」

フラベベ「ラベベッ!」




ここで、一生懸命フラベベがアブソルを宥めている前を歩くテオの心情を覗いてみよう。

テオ(あの子が、なんで……)

テオ(俺の、せいだ……俺さえ居なけりゃ……)

テオ(俺なんかよりも、あの子が生きてた方が良かったのに…!!)

…彼は、どうしようもない自己嫌悪に駆られていた。

テオ(今こんなことを考えたって仕方がないのは分かってる。でも……)
 ▼ 82 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 13:59:32 ID:ANKcQSsY [6/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告





一方のエメリクはといえば……

エメリク(テオ、ずっと悩んでるな……)

エメリク(僕にはどうもできないのかなぁ? そもそもアブソルの活躍にすら目もくれないぐらいだし……)

エメリク(僕、テオの為になにも出来ないのかな……テオにこんな思いさせるくらいなら、旅に誘わなきゃ良かった)

友達のことで悩んでいた。




フラベベ「ラベー…」

アブソル「アル…」

アブソル「アルッ!」

落ち込んでいたアブソルだったが、いつまでもそうしている場合でもないので気持ちを切り替えた。まあ、フラベベまでも落ち込ませたくはないと思ったのかもしれないが。

アブソル「アウ…」

だけど、彼らのために何をしたら良いのだろう?

フラベベ「フラ…」


一方、テオの考えは別の方に進んでいた。

テオ(大体エメリクは何でゼルネアスの夢を見たんだ?)

テオ(6年経ってるらしいし、エメリクの命は特に気にされてなさそうだけどな)

テオ(にしても……

  3年……

  6年……

  9ヶ月……

  なんかあったような気がするんだよな、この日付…………)


突然、アブソルがはっとした。

アブソル「アル! アルル!」

テオ「っ、なんだよー?」

テオが思うに、彼は昼食の時間にしたがっているようだった。
 ▼ 83 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 14:14:04 ID:ANKcQSsY [7/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
テオ「……はい。料理の準備も出来たし、あとは料理するだけか…」

でも、この心境で料理でもしたら焦がしそうだな、とテオが思っているとアブソルが彼を押し除けた。

アブソル「…アルッ!」

テオ「料理すんなって言いたいのかよ?」

アブソル「…アウ!」

フラベベ「ラァべー!」

エメリク「フラベベ、君まで…」

2人はポケモンたちの思いを汲み取り、2匹に任せてみることにした。

彼らはもともとポケモンたちの意思を尊重してくれるトレーナーなのだ――。


アブソルは、主人のリュックから勝手に材料を持ってきた。

アブソル「アルル」

フラベベ「ラベ♪」

そして具材をフライパンの上に広げる。

因みに若干信じ難いが、この時のアブソルは二足で立っていた。

それから火を点ける――

フラベベ「ラベ!? ラベベェッ!」

アブソル「アル……ルヴ、アルッ」

どうやら油を入れるのを忘れていたらしい。

後から油を入れ、今度こそ火を点けた。

そうして2匹は楽しそうに2人で料理を続けた。



昼ごはん。

テオ「っ!? これ……作ったのかよ?」

アブソルはテオを料理台の方に呼んで、完成した料理を見せた。

テオ「す、スパゲッティだよな……えぇ、嘘だろ」

アブソルはふふんと誇らしげにする。今度は、テオがアブソルの頭をなでた。

テオ「すげぇよ、アブソル」

アブソル「アルー♪」

その横でフラベベが、1匹でその皿を持ち上げようと努力していた。
 ▼ 84 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 20:01:59 ID:ANKcQSsY [8/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
というわけで一行は、少し穏やかになった空気の中で朝食を頂いた。

テオ「……美味いな」

エメリク「うん! 美味しい」

アブソル「アルー!」
 ▼ 85 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 20:24:12 ID:ANKcQSsY [9/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
送信ミスです

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というわけで一行は、少し穏やかになった空気の中で朝食を頂いた。

テオ「……美味いな」

エメリク「うん! 美味しい」

アブソル「アルー!」

フラベベ「ラベ♪」


しかし、そのムードが消えてしまうと元に戻れないものだ。

2人はまた黙ってしまった。

アブソルとフラベベは思わずため息を吐いた。



そして次の日。

結局人間たちは昨日の夜もろくに話さずに就寝し、今は朝。

テオ「…ん」 

テオがピザトーストが乗った皿をエメリクに差し出す。エメリクも「…うん」と言って受け取った。


そして全員朝食を終えた。

アブソルは伸びをした。

また、今日も静かな旅になってしまうのか――



なってしまった。



次の朝、今度こそ。



ダメだ、今日もだ。




今日は、絶対に―――空気を変えてみせる。
 ▼ 86 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 20:42:51 ID:ANKcQSsY [10/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
この3日間で、テオには変化があった。

それは、精神の問題であった。

テオ(あー、もう……くそっ!)



そう、彼は確実にこの3日で精神的に追い詰められていた。



テオ(早く着けよ……なんでまだ山頂に着かないんだ! くっ……)

ただ前に足を動かしている。


それはエメリクも一緒である。

しかし彼は、精神的に余裕があった。

エメリク(どうしよう、この空気のままイベルタルに会っても、チームワーク悪くないかな?)


アブソルは、主人の精神状態が日に日に悪くなっていっていることに気がついていた。

アブソル「アゥ…」


フラベベは、近づいている決戦の時を感じて、このままで良いのかと焦っていた。

フラベベ「ラベ…」



そして、日没の時間が訪れる――

訪れてしまう。




テオ「…ちそうさまでした」

ぼそっと呟き、テオは立ち上がった。

彼らは今日は早めにご飯を食べ、明日の朝早くから後少しの山頂への道を進もうと計画していたからだ。

エメリクに関してはもう食べ終わっており、切り株に座って俯いている。

テオも、することがないので切り株に座る。丁度、焚き火を跨いで反対側にエメリクとフラベベが見えた。

することが無い時に彼の頭の中を巡るのは――

変わっていることはなかった。前と同じ、子供のことだ。

テオ(俺は、あの子の命を消したも同然なんだ。俺さえ居なけりゃ、アイツに狙われることなんて無かったはずなのに)

テオは俯く――
 ▼ 87 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 20:54:42 ID:ANKcQSsY [11/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



エメリク「っ……いい加減にしてよ!!!」

突然、エメリクは叫んだ。


テオは正直驚いた。ポケモンたちは悲しげに俯いている。


エメリク「テオがあの子のこと後悔してるのは分かってる! でも、いつまでもそんな――」

テオ「だけど! あの子には未来があったんだぞ!!! それを、俺が奪ったんだっ!!」

テオは思わず反論した。ずっと引け目を感じていたことを正直に叫んだ。

テオ「俺さえ、居なかったら――」

エメリク「だけど!!!」

しかし一線を超えた言葉を吐きそうになるテオに被せてエメリクは伝えた。


エメリク「今、アブソルもフラベベも僕も、テオも生きてるよ!! でもあの子はもう、奪われてしまったんだから…仕方ないんだよ……!!」


テオ「仕方ないって、そんなの冷た………」

ふと、テオは言葉を止めた。

思わず、そこで起こっていた現象に目が引きつけられた。

そこでは、






アブソルが涙を流していた。
 ▼ 88 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/28 17:53:31 ID:4Yt6C6mA [1/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
アブソル「ウッ……アウ……」

エメリクもそれに気づき、一行の時間は止まったように思えた。

フラベベは、ただアブソルに寄り添い、彼の身体を撫でた。

アブソル「アゥゥ……」


そしてテオはようやく気づいた。


テオ(俺……ずっと迷惑かけてたんだ)

日は沈んでゆく。

空が黒みを増した。

テオ(俺……なんで、そんなことに気づかなくて……アブソルを………)

エメリク(アブソルも、ずっと辛かったよね……僕、なんも動こうとしてなくて、ごめん………)


フラベベはただ彼を撫でる。


テオもそこに近づき、アブソルを撫でた。

テオ「ごめん……アブソル……! 俺、こんなトレーナーで、ほんと……」

一瞬彼の目から雫が垂れたように、エメリクには見えた。

そしてエメリクも彼の側に行き、彼の背中を撫でた。

テオ「…?」

エメリク「……あのさ。テオ、絶対一緒にゼルネアスに会おうね」

テオ「な、なんでだ?」

だってさ、と言ってエメリクは続けた。

エメリク「僕たちを繋いでくれたんだ。だからさ」

テオ「! …おう」

テオは誰かとそんな約束はしたことが無かったので少し戸惑う。しかし直ぐに返事をした。


テオ(だけど…ああ、ゼルネアスで思い出した。3年前と6年前と9ヶ月前って、《あれ》が共通してるじゃないか)

彼はずっと思い出せなかったことを記憶の中から取り出せて、少し安堵した。




――その頭上で空は黒に染まっていく。



 ▼ 89 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/28 18:07:02 ID:4Yt6C6mA [2/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
突然、空を切り裂くような鳴き声が響いた。


「キィィィィィ――」


エメリク「な、何!?」

フラベベは怯え、アブソルは周囲をキョロキョロと見回した。

そのポケモンたちの様子を見て、テオは思う。

テオ「この様子……もしかしてアイツか」

エメリクはそれを聞いてびくっとした。

エメリク「えっ……じゃあ僕たちは、前もそうだったから山頂に向かおうとしてたのに、今度はアイツは山頂以外の場所にいるってこと!?」

テオ「ちょっと待て、山頂以外の場所以外の所にいるとは限んない。これは……」

テオ「俺たちがこの山にいることを感じて、山頂に呼び出そうとしてるのかもしれない」

エメリク「えっ…」

フラベベ「ラベッ?」

彼らは仲良く同時に同じ反応をして、お互いに目を合わせながら呟いた。

エメリク「なんで僕らを…?」

フラベベ「ラベ?」

テオは一瞬迷ってから、その言葉を彼らに口にする。

テオ「奴の狙いは俺だ……多分」

エメリク•フラベベ「「ッ!!?」」

アブソル「アヴ……」

テオは続けて、「俺は……アイツを怒らせちまったんだ、きっと」と告白した。

エメリクとフラベベは驚いてばかりだったが、少ししてエメリクは俯きながら呟くようにして問う。

エメリク「なんでそう思うのか……教えてくれない?」

テオ「でも、今多分アイツに呼ばれてるぞ。無視したら……」

エメリク「っだけど! そのことを知らなきゃ、納得できない」

納得出来なかったら――
 ▼ 90 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/28 18:28:58 ID:4Yt6C6mA [3/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エメリク「なにをするにも、集中できないから」

テオ「そうか……」

テオは少し考えて、「分かった」と決断した。

テオ「なるべく簡単に纏めるから、黙って聞いてるんだ」

エメリク「うん」

エメリクはこれから始まるテオの話になんとなく緊張し、ごくりと唾を呑んだ。



▼=▼=▼



今から6年前。俺は村で行われている祭りに参加していたんだ――

テオ(6)「あけましておめでとー」

その日は年明け3日目だった。

村人「おお、テオ来たか! あけおめことよろ〜」

テオ(6)「略すんなよ!」

村人「へへっ、悪い悪い」

村人「あけましておめでとうございます。今年も宜しくな」

テオ(6)「おう!」

【そうだ、俺の口調は昔から悪かったんだよ……って何言わせんだ!】

村人b「テオ君、あけましておめでとう!」

テオ(6)「おう、あけましておめでとうございます」

村人「ちぇっ女性には敬語でさー」

村人b「まあまあ……というか、少し来る時間がギリギリだったわね。ほら、そろそろ始まるよ」

テオ(6)「えっ、マジ?」

俺は驚いた。まあ母さんも父さんもいねーし、そもそも俺は時間を守るのって苦手だからな……朝起きんのも遅いし。

その時俺の後ろから声がした。

アブソル「アルー!」

テオ(6)「ん? あ、アブソル」

アブソル「アルーッ! アルゥッ」

テオ(6)「わ、悪かったよ……まだお前がいる生活に慣れなくってさ」

こいつはアブソル。俺の一人暮らしを心配した村長サンが、わざわざ手持ちの1匹を俺にくれたんだ! ……それが一週間前の話だ。
 ▼ 91 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/28 19:34:11 ID:4Yt6C6mA [4/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
だからまだ慣れない。当たり前だろ。

アブソルを手で撫でて宥めながら、俺はこの村の全員が視線を向けている方に目を向けた。

テオ(6)「あっ、ホントだ。火ぃつけてるな」

村人b「ええ」

俺らの視線の先で、村長サンが緑の盛んな植物の束にマッチをつけている。

何故かって? それはだな、Y――イベルタルに関係があるんだぜ!


――イベルタルは一度目覚めるとあらゆる命を吸い取り、やがてまた繭の姿に戻って眠ると言われている。俺はまだ本物は見たこと無いけどな。

そう、あらゆる命を吸い取る――そんな奴が、なんとこの村の直ぐ隣にある山に眠っているんだ。

だから、そいつが目覚めても機嫌を損ねてこの村に来ないように、この若々しい植物の《生命》を燃やしてるって訳だ。

命をアイツに渡しとけば、起きても割と直ぐ繭の姿に戻ってくれるみたいなんだ。だからこの植物の命を犠牲にしてるんだ……でもこれは千年も前から続いてる風習みたいだから、今更やめられねーんだな。


村人b「あの草、この村に生えてるのをみんなでむしったのよ。今日の朝の話なんだけどね」

テオ(6)「えっ、でも俺はそんなことしてないっすよ…」

村人b「ああ、良いのよ気にしなくて。テオ君はまだ小さいからね、もう少し大きくなってからかな」

村人「そうだ、無理して怪我しちゃいけないからな。育ち盛りなんだから」

テオ(6)「おう…」

[ボオッ!]

村人「あ、燃えたぞ」

テオ(6)「……」

テオ(6)(去年も見たけど、何回見ても、綺麗だな……命が消えるって、そんなに綺麗なことなのかよ?)

俺は疑問を持つが、少ししてはっとした。

テオ(6)「あっあれ、俺がずっと育ててた花だ…!」

アブソル「アウ!」

村人「えっ!?」

村人b「あれって、燃えそうになってる奴!?」

テオ(6)「ああ」

俺は、それに気づいた途端に体が動いたんだ。

絶対にあの花とまだ別れたく無い…!!

村人「おい! どこ行くんだよ!」

村人b「テオ君、その柵は超えちゃだめっ!」

アブソル「アルー!?」
 ▼ 92 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/28 20:29:57 ID:4Yt6C6mA [5/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
俺はみんなの声を無視して柵を越えた。

俺の目の前には炎が広がっている。


――でもまだあの花は燃えてねぇ!!


テオ(6)「くっ!」

テオ(6)(よし、掴めた! あとは戻るだけ――)

テオ(6)(っ!? 炎が、思ったより近くに……!)


アブソル「――アルッ!!」


テオ(6)(あっ…)

アブソルは柵を越えて、俺の側に来てくれていた。

俺はアブソルの体に丁度乗っかり、アブソルはそのまま走って柵を飛び越える。

アブソルはそこで俺を降ろした。

テオ(6)「あ……」

テオ(6)「た、助かった」

アブソル「アル!」

村人b「たーすーかーったじゃーなーいーでーしょー!」

テオ(6)「げっ…」

村人「嫌がってるのが露骨に分かるぞ」

村人b「もーう、無茶するんだから! 罰として……」

村人「お、おい?」

テオ(6)「ウッ……」

村人b「その花を! ちゃんと育てて、子供を増やすこと!!」

村人「……え」

アブソル「…アゥ」

テオ(6)「あー良かった……」



▲=▲=▲



テオ「という訳で6年前の話はこれで終わりだ」
 ▼ 93 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/28 20:44:01 ID:4Yt6C6mA [6/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エメリク「あ、うん…」

エメリク(花の命を大切にするなんて、やっぱり良い人なんだね!)

テオ「だが、その3年後、今から3年前にまた事件が起こるんだ」



▼=▼=▼



そして今から3年前の、年明けから3日後。

テオ(9)「あけましておめでとうございます」

アブソル「アルゥ!」

村人「オレにも敬語を使ってくれて嬉しいよ…」

テオ(9)「これからもよろしくな」

村人「…まあ、昔からの仲だからな。全部敬語でとは言わないよ…」

村人b「テオ君、あけおめ〜」

テオ(9)「はい! あけおめです」

アブソル「アウ!」

村人b「ことよろ!」

村人「段々テオも考えが柔軟になってきたみたいだな。あけおめ」

テオ(9)「おう」

村人b「…あ、今年もいよいよ始まるみたいね!」

彼女の言う通り、今年もまた村長はマッチを持って植物の束に近付いていた。

テオ(9)「だな」

村人「おう、楽しみだ」

俺たちはまた今年もその儀式を何事もなく見届ける。


はずだったのだが。


テオ(9)「喉乾いたな…水飲むか」

村人b「あ、水筒持ってきてたのね」

テオ(9)「ん。ゴク……」

村人「あっタツロウー!」

テオ(9)「ブフッ」

村人「あ、ごめんぶつかった…」
 ▼ 94 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/28 20:53:53 ID:4Yt6C6mA [7/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
だがもう時すでに遅し。

俺の水筒から水があふれ、今燃え広がろうとした炎にぶっかかった。

村長「…………」

村人「…………」

テオ(9)「…………」

アブソル「………」

村人b「…………」



▼=▼=▼



エメリク「え……今のが事件?」

テオ「そうだ」

エメリク「でも……そんなことで怒るかな?」

テオ「だけど、今までに俺みたいに儀式の邪魔をしてきた奴なんて居ないんだよ! だから……」

エメリク「うーん……」

フラベベ「……ラベ」

アブソル「アル…」

みんなで言葉を無くしているが、俺は続けた。

テオ「あともう一つある。今年の年明けの時の話なんだが………」



▼=▼=▼



今から9ヶ月前。

テオ(12)「明けましておめでとうございます」

村人「おう。今年も宜しくな」

テオ(12)「はい…お願いします」

村人(いやはや成長したものだ…ついに俺に敬語を使ったよ…でもなんか寂しいな。)

村人b「テオくーん! あけましておめでとう! 今年も宜しく」

テオ(12)「はい! 明けましておめでとうございます。今年もお願いします」

村人b「…そろそろ始まるわね」

村人「ああ。儀式がな」
 ▼ 95 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/29 20:31:48 ID:LWL6ap5w [1/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
俺たちは、またいつものように始まろうとする儀式を見守る。

だが、俺は重要なことに気がついた。

テオ(12)「しまった! アブソルのこと忘れてた…」

村人b「そうみたいね…一体あの子はどこにいるのよ?」

テオ(12)「うーん……実は、朝散歩に行った時にアブソルが薬草探しに行くって言ってさ。それっきり帰ってこないから、ここに来るついでに迎えに行こうと思ってたのに」

村人「えっ、じゃあ助けに行かなきゃ……て、もう儀式始まるぞ」

テオ(12)「ううん、俺、行くよ。あいつが入っていった森、イベルタルがいる山辺だから…!」

俺は途端に走り出す。

村人b「あっ、待って!」

テオ(12)「来るな! 危ないから……」



テオ(12)「はぁ、はぁ…おぉい、アブソルー? いるかー」


テオ(12)「ふっ…はぁ、アブソルー!! どこだよー?」

俺は彼の名を呼びながら、段々と山を登っていく。


テオ(12)「結構来ちゃったな……戻るか?」

俺はそう思い来た道を引き帰ろうとするが、ふいに目の前が赤く光った。

テオ(12)「ん…? 赤……」

テオ(12)「イベルタルが…居る、山……おい、まさか!」

はっとする俺。俺は、最悪の可能性を考えてしまい、思わず叫んだ。

テオ(12)「イベルタルの………

    ばかあぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!」


その時、だった。



アブソル「アルー!」



横からアブソルが俺に飛び付いてきた。

テオ(12)「あ、アブソル、その草ゲット出来たんだな。これであの花も復活するはず……」




テオ(12)「って生きてたのかーー! 良かったぜーーー!!」
 ▼ 96 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/29 20:54:31 ID:LWL6ap5w [2/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
▼=▼=▼



テオ「そんで俺たちが下に戻ろうとした時、背中側が赤く光ったんだが……取り敢えず無視した」

エメリク「ああ……」

テオ「以上が、俺がイベルタルに怒られてると思っている所以だ」

エメリク「それは……確かに不味いよ」

テオは「だろ?」と言って、それから視線を山頂に向けた。

テオ「さてと、もう気になることは分かってもらえただろうし、最後の戦い……行くぞ、エメリク」

それを聞いて、エメリクは寂しそうな顔を一瞬見せたが、直ぐに顔をきりっとさせた。

エメリク「うん……行こう。イベルタルを止めるために」

そして一行は駆け出した。

テオ(俺は、命を懸けてでもお前を止めるからな……待ってろよ)

しかし、そろそろこの旅も終わるのであろうと思うと、何故かテオは少し寂しさを覚えた。



彼らがイベルタルの声がする方に向かうと、そこではイベルタルが地面に止まっていた。

しかしテオと目を合わせると、空に飛び上がった。

イベルタル「イガレッカ!!」

テオ「来たぞ……イベルタル!」

アブソル「アヴ…ッ!」

フラベベ「ラベ……!」

エメリク「……っ、イベルタル…」

それぞれは自分の闘志を高めながら、イベルタルを睨んだ。

当のイベルタルは、真っ暗な空に一声鳴いた。

イベルタル「キィィィィィ!!!」




それを見て、テオはにやっと笑った。

テオ「アブソル! ふいうち!!」

アブソル「アウッ!」ザッ

イベルタル「イガッ!?」
 ▼ 97 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/30 20:42:08 ID:4wJs8Zwc [1/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
イベルタル「キィ…!!」

イベルタルは顔を顰めた。痛むのでは無く、突然攻撃を仕掛けてきたテオに怒っているのだろう。

イベルタル「キィィィ!」

そして、強い風を起こした。

テオ「あれは……ぼうふう!?」

エメリク「ええっ! フラベベ、気をつけてっ」

フラベベ「ラベェェッ」


テオ「くっ……アブソル! 躱して距離を詰めるんだ!」

アブソル「アルッ!」

アブソルはイベルタルの技を躱し、一気にイベルタルに近づいた。

テオが続けて「つじぎりッ」と指示すると、アブソルは頭の突起に力を溜める。

アブソル「アウゥッ」

アブソル「ヴゥー!!」

そしてアブソルはイベルタルに近づき、溜めた力は奴に放たれる。

しかし当然と言うべきか、イベルタルはそれに当たることは無かった。

イベルタル「イガァァァ!!」

イベルタルはそう鳴き、再度アブソルに攻撃を仕掛けた。

イベルタル「イグァアアアッッ」

エメリクがフラベベを抱きながらこう問う。「あの技はなんだろ…っ?」

途端、彼らの頭上に突如岩が現れ、落下してきた。

テオ「あれはっ!」

その間にイベルタルは更に高く舞い上がる。先程攻撃されたので警戒しているようだ。

しかしテオはにやりと笑い、こう言った。

テオ「アブソル、いわなだれに乗れ!!」

エメリク「あっ、いわなだれかぁ」

フラベベ「らべぇ…」

その指示を受けたアブソルは落ちてくる岩に乗り継ぎ、イベルタルの側に寄る。

イベルタル「イガ…ッ、」

イベルタルは驚いているようでアブソルを見たまま動かない。そして――

テオ「いけぇ! きりさく!!」
 ▼ 98 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/30 20:59:31 ID:4wJs8Zwc [2/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
イベルタル「イガッ……レッ………」

イベルタルは地面へと落下し、衝突した。

イベルタル「キィィ……」

エメリク「い、今だっ。フラベベッようせいのかぜ!!」

フラベベ「ラァべーー!!」

指示されてフラベベはようせいのかぜを放つ。

イベルタルは顔を顰める。これは多分痛みからの表情だろう。

エメリクはフラベベに「止めて」と言い、イベルタルの様子を見た。


エメリク「…イベルタル。僕、分かんないんだよ……」

エメリク「なんで君が、人の、植物の、ポケモンの…生き物の生命を奪うのか………」


イベルタル「イガ…」

イベルタルは、エメリクの疑問を聞いて目を閉じる。まるで、お前は何も分かってない――そう言うように。




ふいに、テオはまだ地面に伏せたまま動かないイベルタルに近づいた。

エメリク「あっ、テオ。危ないよ?」

だが、テオは歩む足を止めない。



テオ(今だ、今がチャンスだ)

テオ(そもそも俺が先手を仕掛けたのは、隙を見てイベルタルに近づくためだったんだ)



テオ(大丈夫だ……間違ってない。俺は合ってる)



エメリク「な、なに……? やめてよ…なんで何も言わないの?」

フラベベ「ラベ…?」

その中でアブソルだけはテオのしようとすることを察し、アブソルの横を一緒に歩いた。

テオ「…? なにすんだよ、アブソル。お前は生きるんだ」

エメリク(お前「は」生きる……?)

エメリク(そ、それってまさか!)


エメリクも、テオの言葉で察した。
 ▼ 99 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/01 19:33:56 ID:/TPQjqfA [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エメリク「だめだよ、テオ! まだこの旅は終わらせちゃいけない!!」

テオ「でも……俺の命は、返さなきゃなんだよ」

テオは地面を見た。

アブソルはそれを聞いて、「なら自分も」と言うように一歩前に出た。

テオ「でも、お前は……」

アブソル「アヴッ!!」
 ▼ 100 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/01 19:42:04 ID:/TPQjqfA [2/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
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エメリク「だめだよ、テオ! まだこの旅は終わらせちゃいけない!!」

テオ「でも……俺の命は、返さなきゃなんだよ」

テオは地面を見た。

アブソルはそれを聞いて、「なら自分も」と言うように一歩前に出た。

テオ「でも、お前は……」

アブソル「アヴッ!!」

アブソルはテオが続けようとする言葉を遮った。

テオ「い、」

良いのか?

そう聞こうとするテオだが、ずっと共に暮らしてきたパートナーのことだ、その思いの強さは分かっていた。

テオ「……」

テオ「…分かった」

アブソル「アル」

1人と1匹は再度歩き出し、イベルタルに近づいてゆく。


エメリクはテオに叫ぶ。

エメリク「待ってよ! だったら僕も――」

テオ「ダメだ!!」

しかしテオはその願いを断った。

テオ(折角俺が消えてほしくないと思った命なんだ)

テオ(大事にしろよ…これからも、な)

フラベベ「ラベッ!!」


そのままテオたちは歩みを止めることなく、イベルタルの前に立った。

イベルタル「キィ……ッ」

テオ「イベルタル………」

アブソル「…アウ」
 ▼ 101 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/01 19:52:55 ID:/TPQjqfA [3/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
テオ「俺の、命……」

しかし、



お前にやるよ。

その言葉が詰まって、出てこない。

なんでだよ?

テオ(俺が返さなきゃ、イベルタルは止まらない。そりゃ、なんでそう確信するのかは説明出来ないけど……)

テオ(兎に角、だから俺はこの言葉を言わなきゃ)



そう思っても言葉が出てこないテオの視界に、ふと輝く木のシルエットが見えた。

テオ(っ、あれは…!?)

テオ(ゼルネ、アス……だ)

テオは驚き、思わずゼルネアスを凝視した。

すると、その木のシルエットは、頷いた――ように見えた。




テオ「だよな……」ボソ




テオは頷き、イベルタルと視線を合わせた。

イベルタルはもう動けるようだったが、動かずにただじっとテオを見ているだけであった。



テオ「俺の、俺たちの、命。お前にやるよ」

アブソル「アウ」



イベルタルは立ち上がり、首を傾げた。

「本当に良いのか」と聞いているようだ。あんなに容赦なく子供の命を奪っておいて、それはどうなのかとテオは思う。

しかしテオは首を縦に振った。

テオ「ああ。間違いない」


エメリク「っそんな。ダメ! やめてッ!」

フラベベ「ラァべッ!!!」
 ▼ 102 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/01 20:18:08 ID:/TPQjqfA [4/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
イベルタル「…イガ」

イベルタルは翼を広げた。そして力を溜める。


テオ(デスウイングか……)

テオ(まあ良い……)

アブソル「アル……」


エメリク「や、やめてよ!!」

エメリクは状況を受け入れられず、「イベルタルに嫌われたからってそんな!」と叫ぶ。

だがテオはその叫びになんの反応も示さなかった。

それを見て、本当にもう命を渡すつもりなのだとエメリクは嫌でも知った。

エメリク(そんなぁ……テオッ…)

フラベベ「フラァべ…」


そしてテオは、今までの旅を振り返っていた。


テオ(…エメリクとフラベベと出会った時……コイツを見たな。
  イベルタルはあの時目覚めたんだと思ってたのに、コイツは俺に自分の存在を思い出させるためだけに村に来たんじゃないか、と今なら思うよ)

テオ(ズルッグに会った…あの時のエメリクの言葉、ちゃんと覚えてるぜ。
  お前の言った通りだよ。気づいてはいたのに、判れてなかったんだ、俺は)

テオ(その次は…あのお爺さんたちに会ったな。あの人と、ルヴォンさんと、クレーさん…そういえばお爺さんの名前聞いてなかったな…もう、一生聞けないのか)

テオ(そして、あの子に……会ったんだ。メットンって、彼のお母さんは言ってた……本当に申し訳ないよ。会えて嬉しかった。でも――それ以上に辛かった。
  アブソルに道を選ばせた時にアブソルが迷ってたのは、それでだったんだな。俺は、未来を知ってたら……他の出会いと、彼との出会い。どっちを選んでただろう………)

テオ(その後エメリクと喧嘩したよな……正直あれを喧嘩って言うのか分かんないけど。でも…エメリクとあんなに気持ちをぶつけ合ったのは初めてだった。
  短い旅だったけど、俺、何度もエメリクとフラベベとアブソルに、助けられたよな……)


そんな彼の思い出が、一瞬の間に一気に甦る。

それほどこの旅は内容が濃かった。逆に言うと、この旅をしていなければ、テオは薄っぺらい人生を歩んでいたのかもしれない。

テオ(良かったよ……アブソルがいて。フラベベに癒してもらって。俺が人生を楽しめてないことに気づいたエメリクが、諦め悪くて)
 ▼ 103 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/01 20:30:33 ID:/TPQjqfA [5/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
テオ(……ん?)

ふとテオは昔から持っていた疑問を思い出した。

テオ(そういえば、「ありがとう」ってどういう時に使うんだ?)

アブソル「…アゥ」

テオはイベルタルが溜めているデスウイングを横目に見ながら、アブソルを撫でた。

そしてテオは気づく。

テオ(あぁ、そうか…)

テオ(これが、感謝の気持ちなんだな。良かったよ、じゃなくってさ。俺は言わなきゃいけないんだ)

テオはふっと哀しげに笑った。

こんなことが、なんで今まで分からなかったのだろう。

それから、テオは大事な仲間たちに向かって叫んだ。





テオ「エメリクッ! フラベベェ! アブソルも…


  ありがとうーーー!!!」

アブソル「アウゥゥ!!!」



エメリク「ッ!」

エメリクとフラベベがはっとする間にも、イベルタルの光線はついに放たれようとする。

エメリクはフラベベに攻撃の指示を出そうとするが、ふと先ほどのテオの迷いのない眼を思い出した。


テオは、この選択に後悔なんてしてないんだ――。



エメリクも、気づいたらこう叫んでいた。




エメリク「ありがとう!!!! 

    テオッ、アブソルー!!」

フラベベ「ラァベベーーー!!」
 ▼ 104 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/01 20:42:51 ID:/TPQjqfA [6/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
テオの耳に、その声は届いた。

しかし、返事などする間もなかった。

イベルタルのデスウイングが、テオとアブソルに降り注ぐ――

エメリクとフラベベは、眩しさに負けて目を覆った。







エメリクが手を下ろし、イベルタルを見ると、イベルタルは空に飛び上がっていた。

既に、その真下の地面には誰も存在していなかった。

エメリク「あっ……」

フラベベ「フラ……」

イベルタルはそんな彼らを見て、一声鳴いてから飛び去っていった。

イベルタル「イガレッカ!!」


エメリクは、飛んで行くイベルタルを見る視界が歪んでいくことに気づいた。

当たり前だ、大切な仲間ともう二度と会えなくなってしまったからだ。

エメリク「ひぐっ……うぅ……あ”あ”あ”あ”!!」

フラベベも、涙を堪えきれずに溢した。

フラベベ「らぁ……べっ。らぁべぇ…!」

エメリク「ゎあああ…うっ……うぅう……」



暫くして、フラベベが突然泣き止んで地面に近づいた。

エメリクもそれが気になり、一度悲しみに暮れる気持ちを抑えた。

エメリク「…どっ……どうしたの?」

フラベベ「ラベ」

フラベベは地面を指差す。

そこに在ったのは――






エメリク「芽……だ………」
 ▼ 105 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/01 20:56:23 ID:/TPQjqfA [7/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エメリク「ここ、さっき、テオたちが、いた場所…だよね」

フラベベ「ラベ…」

エメリク「じゃあ、テオたちの生まれ変わり……?」

エメリクは若干ぶっ飛んだ発想を口にした。

しかしフラベベは頷いた。

フラベベ「ラァ!」

きっとそうだよ、という風に。

エメリク「だよね!? さっきまでこの芽無かったよね!!」

フラベベ「ラベべ!」

エメリク「ハハッ、やったぁ!」

エメリクは笑った。

エメリク「この木、大事に育てようよ! 僕たちで!」

フラベベ「ラァべ〜♪」


彼らは、笑った。

お腹の底から笑った。


笑い声はずっと響いてゆく――









――そしてX年後。

エメリクとフラベベは、老人と化していた。フラベベに関してはフラージェスになったし、老ポケと言うかもしれないが。

老人になったエメリクは、家にやってきた孫に笑いかけた。

エメリク「昔の話だけどね、僕の友達は木になったんだ」

孫「…えっ?」

エメリク「ほっほっほ……世界を救うため、だったんじゃよ」

現に、エメリクはあの時イベルタルを見送って以来奴の姿は見ていないし、噂にも聞いたことが無かった。

エメリク「彼は良い人だったよ……ほんの少ししか共に旅をしていなかったけど……本当に、楽しかった」

エメリク「笑うような楽しさよりも、なんじゃろうな……思い出すだけで、楽しいんじゃ。ずっと一緒に居たかったな」

孫「へぇ……」
 ▼ 106 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/02 17:55:28 ID:bXGsPMAE [1/3] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エメリク「ほら、あの木が見えるじゃろう?」

エメリクが指差す先には、地面から葉の青々しい木が姿を見せていた。

エメリク「あれが、僕の友達だよ」

孫「えぇー、嘘ぉ」

孫は笑った。しかし、祖父の真剣な顔を見て笑うのをやめた。

エメリク「違うかもしれない……でも、あれは僕の友達が生きていた証なんじゃ。それは、誰になんと言われようと変わらん。のう、フラージェス」

かつてフラベベだったフラージェスは、黄色の花を抱えながら「ラジェ」と頷いた。

孫「そっかぁ……」

彼は木を窓越しに見つめ、ぼうっとしながら何かを考えた。

そして、ぱっと顔を輝かせた。

孫「あのさ、ボク、絶対いつになってもあの木を大切にするよ!」

孫「じいじの友達……枯らしたくないから」

友達を枯らしたくないから、という文章は、側から見れば滑稽な表現の仕方だろう。

しかし、エメリクはしっかりと孫の伝えたいことを理解していた。

エメリク「…ああ。頼むよ、スュイット」

祖父はにっこりと微笑む。

その隣で、2匹のフラージェスがフラエッテと笑い合っていた。



――2匹。

そう、2匹である。



孫は、いやスュイットは、へへっと笑った。

その空間は、穏やかな雰囲気に包まれている。

その中で、エメリクは木を見ながらこう思った。


エメリク(この木は、テオとアブソルかもしれないしそうじゃないかもしれない。でも)

エメリク(この木を見ていると、テオたちが隣にいるような気がする……誰からも忘れられる訳にはいかない)

エメリク(ちゃんと、僕の続きに――スュイットに、繋いでいくよ)

エメリク(ところで、彼の父さんはこの世に居ない――僕たちと一緒だな……




    ね、テオ)
 ▼ 107 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/02 18:05:56 ID:bXGsPMAE [2/3] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告










「あのさぁ、この村に棲みついている《イベルタル》って知ってるか?」

「あー、知ってる知ってる。人の命を奪う、悪い奴だろ」

「居てほしくないよなー、ホントに」






――彼らは、イベルタルが居なければゼルネアスとのバランスが取れないということを知らない。

そして――



ある少年たちの命の《始まり》と《終わり》に、イベルタルが関わっていたということも――










今では大木に育った木が、風でそっと揺れた。
 ▼ 108 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/02 18:08:57 ID:bXGsPMAE [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
これにて完結します

諦めずに最後まで読んでくださった方、途中までしか読まずに諦めた方、一回開いて僕の名前を見て諦めた方、とにかく少しでも興味を持ってくださりありがとうございました!
 ▼ 109 ルスワン@どろだんご 25/10/04 20:06:16 ID:opLwQ/vs NGネーム登録 NGID登録 報告
6年前・3年前・9か月前を上手く繋げた気になってそうで草

6年前、儀式で燃えるはずだった花をテオが回収した→面識すらないエメリク(笑)がゼルネアスに命を与えられた

3年前、意図せず儀式を邪魔した→なんか知らんけど雑に命を奪われ特に理由もなく命を与えられた

9か月前、イベルタルのバカヤローと言った→なんの縁もない山にイベルタルが住み着いた


マジでこれで問題なく回収出来てる気になってるなら大分おめでたいぜ

結局エメリク(笑)は全くいる意味なかったし
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