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【SS】醜い人魚姫

 ▼ 1 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:48:36 ID:tinU2eXg [1/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あるところに、海の中で暮らす美しい姫がいました。
姫は嵐の中助けた王子に恋をしました。
陸の人間である王子と結ばれるため、海の姫は声を捨てて人間になりました。
恋は叶いませんでした。
姫は王子の幸せを守り、自ら海に身を投げて、ひそかに泡になりました。


────


打ち上げられた木々と何かの破片がぶつかり、きしんだ音を奏でました。
ここは藻屑の海。荒波で壊れたモノが流れ着く、人気のない海です。
この海は「魔女の海」とも言われています。

アシレーヌ「今日の獲物はこれだけ……?最近嵐がないから、シケてるわ」

魚ポケモンを喰らったアシレーヌが血と海水を滴らせてその姿を現しました。
彼女が「魔女」。この海域の主である、恐ろしい怪物です。
 ▼ 2 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:49:27 ID:tinU2eXg [2/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チョンチー「ひいっ……!」
ラブカス「魔女が出たわ!」
キャモメ「食われないように気をつけないと」

アシレーヌ「……」
アシレーヌ「何見てるの?あたしに食べられたいの」

キャモメ「バレた、逃げろ!」
ラブカス「来ないで!」

遠巻きにアシレーヌを見ていたポケモンたちはそそくさと逃げていきました。

アシレーヌ「フン、自分が不味そうだったことに感謝しなさい……ん?」

彼女の瞳に映ったのは、海に浮かぶ見慣れない生き物。

アシレーヌ「何か浮いてる……ヒレもないし、流木みたいにヒョロヒョロ」
アシレーヌ「これってあれじゃない?……ニン、ゲン?」
 ▼ 3 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:50:03 ID:tinU2eXg [3/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しばらく経った後、アシレーヌは海沿いの洞窟にあるねぐらに、拾った人間を持ち帰っていました。

アシレーヌ「……とりあえず、巣に持って帰ってきたけど……」
アシレーヌ「これ、どうやって食べるのかしら?」

男「う……」

アシレーヌ「!生きてる……そうだ!いいことを思いついたわ」
アシレーヌ「こんな痩せた肉じゃ美味しくない。ここで飼って、肥えさせてから食べるのよ!」

こうして、孤高の海の魔女はその人間の男を世話することにしました。──いつか、肥え太ったときに、食べてしまうために。
 ▼ 4 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:50:47 ID:tinU2eXg [4/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
────

男「……」
男「……あ……?」
男「どこだァ、ここ……?」

男が目を覚ますと、そこは波の音が反響する洞窟の中だった。

男「ッてえ!なんだぁ?足から血が……」
男「……チッ!そうだ、昨日酔っぱらって海落ちて……岩にぶつけたンだわ」

昨日は散々だった。ツケを払えず酒場を追い出されたらと思ったら、前から目をつけられていた役人に追われ、──仕方がないからどこかの店の荷台から酒を盗んだのだった。

男「で、なんだこの洞窟?」

男が辺りを見回したその時、大きな影が水底から上がってくる。
それは白く、美しい──ヒレのあるポケモンだった。
 ▼ 5 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:51:08 ID:tinU2eXg [5/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ『あら、起きている。血が出ていたけど死ななかったのね』
男「……っ!ポ、ポケモン!?逃げっ……あいってえ!」
アシレーヌ『それくらいの傷でも動きに支障が出るのね、ニンゲンって』

白いポケモンに男を襲う様子は見られなかった。それどころか、ポケモンは持っていた果物を男に差し出した。

アシレーヌ『陸の生き物ならこれを食べるでしょ?まずはその傷を治してもらわないとね』
男「な、これ……俺によこしてンのか?」

恐る恐る伸ばした手に海水で濡れた果物が落とされる。
 ▼ 6 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:51:34 ID:tinU2eXg [6/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
男「……食える。毒でも腐ってもねえ」
男「このポケモン……もしや、海岸に出るっつう海の怪物か……?」

ポケモンが襲ってこないとわかり冷静になった男はとある噂を思い出した。
海岸に住み着いた肉食のポケモン。町のトレーナーも手を焼いていて、誰も海岸には近づかない。

男「……でも、こいつは襲ってこねえ」

男の懐には埃まみれのモンスターボールがあった。珍しいポケモンを捕まえて売ろうと随分前に買っていたものだった。

男「隙を見て、こいつを捕まえちまおう。あの海の怪物だ、飲み代には当分困らないだろうさ」

こうして、薄汚れた男はその怪物のねぐらで隙を伺うことにした。──油断しているところを捕まえ、売ってしまうために。
 ▼ 7 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:51:53 ID:tinU2eXg [7/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日、男はアシレーヌが海から上がる音で目を覚ました。

男(こいつ……確かアシレーヌっつうポケモンだったか)
男「果物と、木の実……それと草?なんだこれ」
アシレーヌ『薬草を取ってきたから、ホラ。使いなさい』
男「俺ぁ草は食わねえぞ」

アシレーヌ『……ちょっと、あなた薬草を知らないの?こうするのよ、こう』

アシレーヌはしびれを切らして男の足に薬草を巻き付けようとする。しかし水中ならまだしも、彼女のヒレでは大気の中でうまく薬草を扱えなかった。
 ▼ 8 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:52:15 ID:tinU2eXg [8/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
男「……薬草か、これ?」
男「足に、巻けばいいんだな?」
アシレーヌ『あ、そうよ。やっと伝わったわ』

男は足の傷にしっかりと薬草を巻き付けた。効能はわからないし、海水が沁みたが、少なくとも圧迫で流血が止まった感覚があった。

男「……ポケモンの方が、学のねえ俺よりよっぽどしっかりしてんだな」
男「なんでこのポケモン、こうも甲斐甲斐しく俺の世話を焼くんだ?捕まえやすそうなのはいいが……」
男「気味が悪いな……いや、こいつを懐かせないといけねえんだった。えーと……何したらいいんだ?こうか?」
アシレーヌ『?』

ぎこちない掌がアシレーヌの頭に触れた。
 ▼ 9 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:52:46 ID:tinU2eXg [9/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
────

アシレーヌ「え……何?」
アシレーヌ「もしかして……あたしを撫でているの?」
男『チッ、喜ぶんじゃねえのかよ。慣れてねえことして損した』

アシレーヌ「…………」

そういえば、獲物以外の生き物にここまで近づいたことは初めてだとアシレーヌは思い出しました。

アシレーヌ「自分の……獲物、取りに行かないと」
アシレーヌ「もっと肥えないと食いでがないわ」
 ▼ 10 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:53:14 ID:tinU2eXg [10/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それからアシレーヌと人間の共同生活は続き、いつしか男の傷はすっかり治っていました。

アシレーヌ「……嵐が近いわね。最近ないと思ってたけど、いつも通りだわ」
???「その声……アシレーヌか?」
アシレーヌ「あら、ドヒドイデ。まだ生きていたの」

岩肌からアシレーヌに声をかけたのは顔見知りのドヒドイデでした。
 ▼ 11 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:53:31 ID:tinU2eXg [11/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ドヒドイデ「それはこっちのセリフだな。聞いたぞ、最近人間を飼っているらしいじゃないか」
アシレーヌ「よく知っているわね。泳げないくせに、どこから聞いたんだか」
ドヒドイデ「……お前、いつまであの人間を飼うつもりだ?」
アシレーヌ「……どこまで聞いたの。肥えるまでよ」

捕食者たちの間にわずかに緊張した空気が流れます。

ドヒドイデ「人間はお前と同じ獲物を食わないことを知っているなら、果物だけで大して太りゃしないことだってわかるだろう」
ドヒドイデ「若くも健康でもない、飼っていたって美味くなる時なんて来ない。なのにまだ食わないのは……」
ドヒドイデ「もしや、情がわいたか?」
 ▼ 12 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:54:10 ID:tinU2eXg [12/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「そんなわけっ……」
アシレーヌ「……」

アシレーヌ(情、なの?これが?)

──本当はもう、あの人間は元気になっている。
──いつでも食べられる。でも、もっと太らせてからにしようと、先送りにし続けていた。

ドヒドイデ「まさか、陸のポケモンのように、人間と仲良くなれるとでも思ってるのか?」
ドヒドイデ「我々は海の怪物。あいつらと相容れることはない」
 ▼ 13 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:54:30 ID:tinU2eXg [13/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ(そう、よくわかってるはず……あたし達は怪物。海の魔女。弱い生き物はみな獲物)
アシレーヌ(じゃあ、どうしてあの人間を食べる気が起きない?)

アシレーヌの脳裏に、かつての自分──まだ群れの中で暮らしていた、アシマリだった頃の自分が浮かびます。

アシレーヌ(あの頃のあたしは怪物になりたいわけじゃなかった)

あの頃の彼女はとある物語に憧れていました。
それは海の中に生きる美しい姫のおとぎ話。
嵐の中助けた王子に会うため声を捨てたが恋はかなわず、王子の幸せを願って自ら泡になった、悲しくも美しい物語。
描かれる「真実の愛」に、幼い彼女は憧れていたのです。

アシレーヌ(でも、今のあたしは姫なんかじゃない、魔女よ)

嵐に巻き込まれ、群れからはぐれたアシマリは、生きるためになんだってやってきました。
仲間と歌いあったこともなく、ただ相手を殺すためだけにその声を使ってきました。
やがて彼女は誰からも恐れられる怪物となったのです。
 ▼ 14 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:54:47 ID:tinU2eXg [14/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ(でも、あの人間は……)

あの人間は、彼女を怪物として見ていませんでした。
その目は魔女を恐れておびえるものではなく──美しい、価値あるものを見る目だったのです。

アシレーヌ(あんな人間は初めて……)

ドヒドイデ「どうした?まさか、あの人間に恋なんてしたわけじゃないよな?」
アシレーヌ「……あなた、毒があってあたしに食べられないからって調子に乗っているようね。その岩から剥がして海を旅行させてあげましょうか」
ドヒドイデ「おお、怖い怖い。怒るなよ。ひとつ警告したかっただけさ」
ドヒドイデ「……つまらない感情に流されるなよ」
 ▼ 15 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:55:07 ID:tinU2eXg [15/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
物心ついた時から、罵声と誰かを殴る音の中で育った。

母の顔は知らない。たむろしている女のうちの誰なのか、確かめようと思ったこともなかった。

初めての犯罪は盗みだった。モンスターボールを掴んで必死に走ったあの日を今でも覚えている。
中身は知らない。ポケモン売りに売って、その日の飯に換えた。

盗み、詐欺、暴力、なんでもやった。役人から逃げることばかり上手くなって、最低なこの町の最低な人間として生きて、死んでいく。

男「……アシレーヌ……いねえ、狩りか」

その日男が目覚めると、アシレーヌの姿はなかった。
 ▼ 16 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:55:27 ID:tinU2eXg [16/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
男「足は、もう問題なく動くな」
男「モンスターボールも、まだバレちゃいねえ」

男(いつでもあいつを捕まえられるはずだ。実際に俺がボールで捕まえるのは初めてだが……)
男(そうして、ボールごとポケモン売りに売っちまう)

男(そうしたら……あいつはどうなる?)

男(あの海の怪物だ、いい金になるだろ)
男(でも……)

男(それでいいのか…………?)
 ▼ 17 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:56:00 ID:tinU2eXg [17/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
初めてアシレーヌを見た時──襲われる危機感よりも先に、男がまず囚われたのはその美しさだった。

男にはまともにポケモンを観察したことなどほとんどなかった。
美しいと思える人間も見たことはない。

男(「海の怪物」って……あんなに綺麗だったのか)
男(あんな綺麗なポケモン……人に渡すなんてもったいねえ)

いつかどこかで誰かが言っていた。

──トレーナーになる人間は、パートナーにふさわしいポケモンに会えば、すぐにわかるんだ……

男(俺がトレーナー?まさか……)
 ▼ 18 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:56:16 ID:tinU2eXg [18/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
男は水面に映る自分の顔を眺める。

男(若え頃は、こんな大人になりたくねぇって思ってたんだ……本当さ)
男(禿げかけた髪、汚え歯、死んだ目……よくいる小悪党そのものに、なっちまった)

男(あのポケモンに、こんな俺は似合わねえ)

そのとき、洞窟の外壁に何かがぶつかる音がした。

男「何かぶつかったな。嵐が近え……波が荒いんだ。様子でも見てくるか」
 ▼ 19 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:56:38 ID:tinU2eXg [19/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
男「何かと思えば舟か」

どこからか流された小舟が、アシレーヌのねぐらまで辿り着いてきていた。
舟だけでなく、流木や壊れた何かの部品などが流れ着いている。

男「さすがに洞窟が壊れたりはしねえよな……?」
??「そこに誰かいるのか!?」
男「は……?」

そこにいたのは町の役人だった。

役人A「ん……?お前どこかで……」
役人B「あっ!お前、この前留置所から逃げた……!」
男「!やべえ!」

逃げなければ。相手はポケモンを持っている。陸じゃ追いつかれる!

男「そうだ、この舟で……!」
男「まだ乗れそうだ、これで逃げ切る!」
 ▼ 20 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:56:54 ID:tinU2eXg [20/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
役人たち「待て!」

役人たちは海岸を走り追いかけてくる。
高波の飛沫が容赦なく男に降りかかった。

男「っ!洞窟から、引き離さねえと……」
男「ここを探されたらあいつが見つかる!捕まっちまうかもしれねえ」

男は必死に舟を漕いだ。できるだけ洞窟から遠い、沖の方へ。

男(役人どもにアシレーヌを見つけられてたまるか!)
男(あいつは、俺……いや、誰のもんにもなるべきじゃねえ!)

いつしか、役人たちの声は聞こえなくなっていた。
 ▼ 21 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:57:11 ID:tinU2eXg [21/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
男「ハア、ハア……撒いたか……?」

大きく海が動き、舟が揺さぶられている。
深暗い曇天から冷たい雨が降り出した。

男「うおっ!波がやべえ……!雨も降ってきやがった、もう嵐が来てんだ」
男「奴ら撒いたし、早く戻ら……」

その時、一際大きな波が、舟ごと男を飲み込んだ。
 ▼ 22 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:57:28 ID:tinU2eXg [22/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
海面に上がらなければ、と思う間もなく、掴んで引っ張るような海流が男を海深くへと押し流した。

男(溺れる!)

男は水中でじたばたと藻掻く。しかし風に吹かれるハネッコのように、大海相手には無駄な抵抗だった。

なりふり構わずどこか捕まるところを探して足掻く掌が、いつの間にか懐から浮き上がったモンスターボールを掴んだ。

男(俺にはこの──空っぽのボールしかねえのか)
 ▼ 23 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:57:45 ID:tinU2eXg [23/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
このボールに入っていたかもしれないあのポケモンを思い出す。

男(もし、今あいつがこの中にいたら……)
男(いや、そんなことできやしねえ)

男(俺はもう汚れちまったんだ……綺麗なあいつに、俺は似合わねえ)

男は抵抗をやめた。
力の抜けた弱い人間の体は意識ごと深い海に沈んでいく。

──もし、生まれ変わって綺麗な人間になれたなら。
──その時は、お前を……

青い闇が消え、苦しみが消え、最期に静かな世界が訪れた。
 ▼ 24 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:58:13 ID:tinU2eXg [24/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
────

嵐が来る前にはいろいろな海域からポケモンが流されてくることがあります。
かつてのアシレーヌもそうでした。そして、今のアシレーヌにとっては獲物が取れる機会でもあります。

アシレーヌ(今度の嵐は大きいわ……波も強いし、獲物には期待できそう)
アシレーヌ(あたしの狩りをしたら、人間の食べ物も採って……)

──我々は海の怪物。あいつらと相容れることはない

アシレーヌ(……わかってるわよ!もうちょっとよ、もうちょっと)
 ▼ 25 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:58:29 ID:tinU2eXg [25/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「それにしても、思ったよりは獲物が少ないわ」
アシレーヌ「……へんな匂いがする。誰かが狩りをしたのね」
アシレーヌ「あたし以外の、捕食者が……!」

その瞬間、アシレーヌの背後から聞いたことのない音が聞こえました。

アシレーヌ「何……!」

アシレーヌは咄嗟にかわしましたが、炎のような衝撃が鱗を少し焼きました。

アシレーヌ「電撃……!」
アシレーヌ「誰!?」

アシレーヌの視線の先──水底から音もなく、複数のシビルドンが現れました。
 ▼ 26 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:58:49 ID:tinU2eXg [26/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ(見たことない奴ら……群れごとこの海域にやってきたのね)

捕食者同士、言葉はありません。
食べるか、食べられるか。それが答えです。

アシレーヌ(この海域はあたしの縄張りよ!)

アシレーヌは波を操って、シビルドンたちをまとめて押し流そうとします。しかし彼らは器用に海流の間を縫って、電気の矢を放ってきました。

アシレーヌ「ぐ……っ!」
 ▼ 27 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:59:11 ID:tinU2eXg [27/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
明らかに相性不利、しかも数でも負けています。

アシレーヌ(今はだめだわ、逃げ……)

そこで、彼女はここがねぐらに近いことを思い出しました。

アシレーヌ(あたしは逃げられるけど……人間が見つかってしまう!)
アシレーヌ(あれがこの電撃を受けたら、すぐに丸焦げになってしまうわ!)

アシレーヌ(戦うしか……ない!)

成長してアシレーヌになってから、彼女はほとんど本気で戦ったことはありませんでした。しかし、ここまで経験値を積み上げてきたからこそ、今の彼女は恐ろしい魔女なのです。
 ▼ 28 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:59:32 ID:tinU2eXg [28/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ(一匹ずつ潰していくほかない!)

アシレーヌは海流に乗って巧みに泳ぎ回り、シビルドンたちを翻弄します。そして、確実に攻撃を与えて数を減らしていく戦法を取りました。

アシレーヌ(これで一匹!)

光球を撃ち込まれ、一匹のシビルドンが沈んでいきます。反撃の電流を氷の光線で相殺し、シビルドンたちをより深くへと誘いました。

アシレーヌ(負けるものか……あの人間はあたしの獲物だ!)
 ▼ 29 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 21:59:52 ID:tinU2eXg [29/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
戦いは激しさを増します。
シビルドンの数はかなり減っていました。

しかしアシレーヌの方も無傷ではありません。

アシレーヌ「痛っ……よくもあたしのヒレを焼いたわね」
アシレーヌ(相性が悪すぎる……!)

攻撃を仕掛けようとした時、海面に映る影をアシレーヌの視線は捉えました。

アシレーヌ「あれは……?」
アシレーヌ(生き物じゃない、あれは人間が使う木の魚……)

誰かが舟を漕いで、海を渡っているのです。
使う人間などここには一人しかいません。

アシレーヌ(ああ、ねぐらから出て……逃げた、のね)
 ▼ 30 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 22:00:17 ID:tinU2eXg [30/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「……とうとう、あなたを食べられなかったのね」
アシレーヌ「でも、惜しいとは思わない……あたしは……あなたを食べたくないと、思ってしまった」
アシレーヌ「この気持ちはなんなのかしら?ドヒドイデの奴が言うように、恋?それとも……陸のポケモンのように、あたしはあの人間と共にありたいと思ったの?」
アシレーヌ「どちらもあたしは知らないわ。あたし、恋も人間も、今まで知らなかったのよ」

迂闊にも捕食者の真上を泳ぐ舟に、シビルドンたちも気づいたようでした。
しかしすぐに、アシレーヌの……いや、力を開放した“魔女”の脅威を感じ取り、視線を戻しました。

魔女は蓄えていた力を解き放ちました。
海の怪物の触手のように、周囲に不気味に髪が広がります。
 ▼ 31 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 22:00:35 ID:tinU2eXg [31/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「あたし、やっぱり綺麗な姫なんかじゃないわ」
アシレーヌ「でも、あなたの中で、あたしは綺麗だったのかしらね?」

彼女は察していました。
人間はきっと、自分と同じ感情を持ってはいないだろうということを。

現実にはアシレーヌは嵐の中で王子を助けたわけではないし、人間になろうと声を捨てたわけではありません。

あの人間は、きっと彼女に応えない。

アシレーヌ「それで……充分よ」
 ▼ 32 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 22:00:59 ID:tinU2eXg [32/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌは全ての力を解き放ち、辺りの海流をまとめて、一つの槍を作り出しました。
シビルドンたちも負けじと電気を放ちます。

──激流と雷光の激突。

身を焦がす熱の中で、アシレーヌは自分が笑っていることにも気づきませんでした。

──報われない想いのために、泡になるんじゃない。

──真実の愛を手に入れるために、あたしは怪物にだってなれるのよ……

まもなく嵐が藻屑の海を包み込みました。
生も死も、全てを飲み込んで。
 ▼ 33 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 22:01:18 ID:tinU2eXg [33/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ドヒドイデ「……あいつ、気配がしないな」
ドヒドイデ「はあ……馬鹿だよ、あいつは。見捨てればよかった、好きになんてならなければ……」
ドヒドイデ「そんなこと、言っても無駄か」


いつものように嵐が明け、静かな海が戻りました。
木片や人工物の破片、海藻など、海岸にはモノが溢れています。

その中に、ひび割れた空っぽのモンスターボールが一つ──まるで捕獲に失敗したボールのように、流れ着いていました。

この海で起こったことは、誰も知りません。
 ▼ 34 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 22:02:48 ID:tinU2eXg [34/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

【SS企画】ポケモンBBS ファイナルラストSS企画 【9/27〆切】

https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=2381088

完結
企画参加作です
 ▼ 35 テトラポット◆Pcf6Vw29GM 25/09/27 22:05:28 ID:tinU2eXg [35/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
☆挿絵を描いてくださる人へ☆
男はいかにも小悪党のモブおじさんですが、別に描かなくても大丈夫です
アシレーヌと男以外にメインキャラはいません
 ▼ 36 トドゼルガ@さざなみのおこう 25/09/27 22:05:59 ID:MAqwAvB2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙
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