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まだ朝は少し冷える時期だった。しかし、春が近づいてきていることは確かだ。
アランは「ふぅ」とため息をつく。それはかつて訪れていた季節の時のように白く染まることもなく、透明のままどこかへ消え去った。
ふと周りに目を向ける。
気づけば、辺りはバレンタインの甘い雰囲気を纏っていた。桃色のハートの風船、ショーウィンドウに並ぶチョコなどなど。チョコを売っている男性が声をかけようとアランに目を向けたが、アランは気づかないふりをしてそっぽを向いた。
――バレンタイン。
そう思うと、いつでもどこでも彼の脳内に彼女の姿が浮かんでくる。
バレンタインといえば男女のイベント。男であるアランにとって、女性といえばマノン――今ともに旅をしている彼女――が、一番に思い浮かぶのだった。
彼女といってもただの代名詞であり、本物のガールフレンドという訳ではない。ただし、「今は」が入るかもしれないが。
手から体温が奪われていることに気づき、アランはポケットに手を突っ込んだ。
温まるまではまだ時間がかかるかもしれない。そう思った、丁度その時だった。
「随分と早起きなのねぇ」
少し低い嗄れ声が、辺りに響いた。