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【SS】ポケモンと人間が出会い、交わると言う事

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 16/04/24 19:24:34 ID:12/Lxjok NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
プロローグ

「出来た……」


長年の夢。

パラレルワールドの行き来。

それが今、ここに完成したのだ。

彼女の目は、子どものように輝いていた。


「……待っててね。今、会いに行くから」


彼女はその機械を起動させ、別世界へと旅立った。

後には、その設計図だけが残されている。

彼女の目的が達成されたのか、それは誰にもわからない。
 ▼ 743 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 11:52:02 ID:u6OLYyic [1/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
そして今、あたしたち1匹と2人は、この凄いカメラを用いて監視していた訳だが……。


「リ、リオ?!」

「お母さんも……」


そう、戦いが始まったのだ。

リオと、ガルーラさんが、2匹で大勢を相手していた。

リオは走り抜け、ミミロップも後を追い、ガルーラさんが岩雪崩でミミロップの道を阻む。

けれど、ミミロップの姿も、岩の向こうに消えた。


「リオが……こっち来る……」と、イブは茫然と呟いた。

あたしも首肯し、画面から目を離した。
 ▼ 744 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 11:52:25 ID:u6OLYyic [2/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「……迎えに行かなくちゃ。こっちは危ないんでしょ」

「うん。私が行く。ローネにとっても、ここは危ないから」

「……」


あたしも行きたい、そう思った。

けれど、その意見を主張する事は、直前のあたし自身のセリフに妨害されている。

唇を噛んで、あたしはこらえた。


「わかった。イブ、無事でね」

「私は大丈夫だよ。ニンゲンだし」
 ▼ 745 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 11:52:51 ID:u6OLYyic [3/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
しかし、ここで冒頭に時は戻るのだ。

イブは恐怖を口にし、あたしは、励ます事が出来ない。


「ローネ、どうしてだろう……。イーブイだった時は、ローネを助けにホルードと戦った時も、他のどんな時も、怖くなんかなかったのに……。

 なんで、なんでこんなに、震えが止まらないんだろ……」

「……それは、たぶん――」


あたしは、言葉を呑み込む。

答えは、わかっている。けど、どうしてか、その先を続けたくなかった。


イブも首を横に振り、迷いを断ち切った。少なくとも、あたしにはそう見えた。


「わかってる。やるしかないよ。この世界は――」


私が護るから。
 ▼ 746 ャスパー@メガストーン 16/08/29 12:58:12 ID:rzs7CisU NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
支援!
 ▼ 747 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 14:02:13 ID:u6OLYyic [4/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


僕は、輪っかに飛び込む。

いきなり視界が真白に塗り込められた壁へと変じ、僕は、それに激突した。


「うぐっ……いてて……」


痛む頭を押さえながら、辺りを見回す。

白い壁が延々と続き、明かりに照らされて僕の陰が黒く僕の周りを包む。

どうも、複数個の光源があるらしい。

ニンゲンの臭いが辺りに立ち込めているが、その臭いにも濃淡は当然あって、僕は、その臭いが薄い方へと歩を進めた。

どこかに、ローネの臭いが混ざる事を期待して。
 ▼ 748 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 14:02:33 ID:u6OLYyic [5/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
物陰に身を隠しながら、鼻を頼りに進んで行く。

と、いきなり誰かが走る音を聞いて、立ち竦んだ。

慌てて気配を殺し、息を止めると、そこをニンゲンが走り抜けて行く。

冷や汗が流れた。ここは、妙に寒い。

そろそろと顔を出し、辺りの様子を窺う。

誰もいない。行こう。
 ▼ 749 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 14:03:06 ID:u6OLYyic [6/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


モニターに、リオの姿が映し出されている。


「全く、カメラぐらいよけてくれよ」


カズオが翻訳機を通してあたしに声を届ける。あたしも頷いた。

イブとカズオ以外にも、この画像にアクセス出来るニンゲンは大勢いるらしい。

姿が丸見えだから、見付かるのも時間の問題だ。

イブが速く見付けてくれる事を祈るしかない。

と、モニターに、今度はイブの姿が映る。


「かなり近いな」

「よしっ」


翻訳機ののっぺりとした声に対して、あたしは快哉をあげた。
 ▼ 750 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 14:03:44 ID:u6OLYyic [7/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


少し、ローネの臭いが混ざった気がした。

捉えるには、あまりに弱すぎる臭いだけれど、それでも僕を勇気付けるには充分だった。

とにかく、行こう。

一歩、恐る恐る踏み出し、辺りを見回しながら進む。

全身が感覚器官にでもなったかのように、神経を鋭く尖らせる。

変な音が聞こえたら身を隠し、変な臭いを感じたら身を隠し。変な物を見たら……普通に危険なのだけれど。
 ▼ 751 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 14:04:04 ID:u6OLYyic [8/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
牛歩を続け、少しだけ、ローネの臭いが強くなる。

辿るぐらいなら出来そうだ。

そう判断し、僕はゆっくりと先へ進む。

臭いのする方へ。

一歩一歩。

音を立てないように。
 ▼ 752 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 17:27:04 ID:u6OLYyic [9/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
音が聞こえる。

ローネの足音では、ない。

臭いは、確かにローネの物も混ざってはいる気がするが、それにしては違う物が混ざり過ぎている。

警戒を強め、僕は、身を隠した。

息を殺し、気配を消し、とにかく気取られないように。


『この辺かな……』


何を言っているのだろうか。

理解出来ないのは、ニンゲンの言語だからだろう。

こっから離れてくれ。

しかし、それは虚しい願い事。

儚く淡い希望は、一瞬で打ち砕かれる。


「……リオ、いるよね」


ただし、プラスな方向に、生まれ変わるのだ。
 ▼ 753 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 17:27:24 ID:u6OLYyic [10/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
僕は、息を呑む。

じっとこらえ、時を待つ。

いつ戦いになってもいいように、力を蓄えておく。


「リオ……隠れても無駄よ。……9×9は?」


その問いを聞き、僕の口は、弾かれたように、1つの解を唱えた。


「は、81……」


この問いは……九九の、最後を飾る、この問題は……。


『……私は、もうすぐ人間に戻る。……もし、もしまた私があなたを見付けたら。

 これだけは覚えておいて。9×9は?』

『……81』
 ▼ 754 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 17:27:44 ID:u6OLYyic [11/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「イブ……なの? ねえ、イブなの?」

「リオ……。会いたかった。物凄く、会いたかった……」


イブは、僕の体を、強く、強く抱きしめた。

僕は、震える唇を、なんとかして動かそうとした。

けれど、呼吸しか漏れ出さない。

言葉が自分の中で飽和して、イブに伝えたい想いは多すぎて、言葉じゃ全然足りなくて――

気が付けば、僕の頬を、水滴が滴り落ちていた。

どうしようもなく、溢れて止まらない。


「イブ……」

「……ううん、泣いてる場合じゃないよ。リオ、ここは危険。だけど……もう帰れないし、とにかく、私と一緒に来て。ここから逃げるよ」


涙を押し止め、僕は、顔をあげる。

そして、笑顔で応えた。


「うん!」
 ▼ 755 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 17:28:32 ID:u6OLYyic [12/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


合流出来た……よかった。

安堵のため息をもらしながら、それでも、どこかに拭いきれない違和感を覚えた。

イブは、あたしの時に、あそこまで泣いてくれただろうか。

あたしとの合流よりも、リオとの合流の方が――

いや、考えるのはやめよう。

今は、ひたすら、リオとイブの無事を願うだけだ。

それ以外の事は、出来ないし、しない。

あたしは、前足を合わせた。

余計な雑念を、振り払うために。

自分自身を、見ないで済むように。
 ▼ 756 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 17:29:07 ID:u6OLYyic [13/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


イブの後ろから、なんとか気配を消しつつ進んで行く。

イブの足取りには、迷いなんてなかった。

けれど、イブが例え迷わずとも、状況がイブの足を迷わせる。

僕は今、追われている身。

その僕を匿っているイブも、同じように狙われるのではないだろうか。

後先考えずにこちら側にやって来てしまったけれど、それは結果的に、イブの首を絞めただけじゃないのか。

そんな後悔が胸を襲った。


「リオ、大丈夫。こうなったら、もう、全部公表する。今、すぐに」

「どう言う事……」

「しっ、隠れて」
 ▼ 757 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 17:29:53 ID:u6OLYyic [14/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
イブと合流しても、やる事は何も変わらない。

ひたすら、ニンゲンから逃げ隠れするだけだ。

イブが何やら言い、それに対し、別のニンゲンも、何かを返す。

理解出来ない言語による会話は、正直ストレスだ。


「リオ、外に出るよ」

「えっ」

「気にしないで。私を信じて」
 ▼ 758 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 17:30:29 ID:u6OLYyic [15/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
それから、どれだけ先程のような事を繰り返したか。

何度も何度も、ニンゲンに進路を邪魔される。


「ったく、おかしいよ……。ここまでやって、誰も気付かないって」

「同感。もう、バレる覚悟はしてるのに……」

「……疲れた。休ませて。その部屋で」

「……大丈夫だよね」

「なはず」

「……わかった。いいよ」
 ▼ 759 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 17:31:05 ID:u6OLYyic [16/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


「……どうしたんだろ、リオたち」

「疲れたんじゃないか? ひたすら逃げてたんだ。当然だろ」


執拗に、カズオは翻訳機に直接入力を続けていた。

普通に話すのを翻訳した方が絶対速いのだが、面倒だから追及もしない。

正直今は、それどころじゃないし。


「……イブ、大丈夫かな」

「大丈夫だと思う。彼女はたくましい」

「……だといいんだけど」


嫌な予感ってのは、たいてい的中する。

あたしのそんな不吉な感覚も、その御多分に漏れる事はなかった。
 ▼ 760 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 17:32:19 ID:u6OLYyic [17/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


「はあっ……」

「大丈夫?」

「うん……。嘘吐いて、嘘吐いて。あたし、向こうに行ってから、嘘ばっかり。もう、疲れちゃった……」


自嘲気味に笑ったイブ。

僕は、それを否定する事が出来ない。

だって、たいていは僕の前で吐かれた嘘なのだから。

イブが、初めて見せた弱さだった。

僕は、そっと、掌を重ね合わせる。


「ふふ、ありがと、リオ。さてと、そろそろ行かなくちゃ――」

「どこへ行くと言うのだ? リオルなんか連れて」
 ▼ 761 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 17:32:43 ID:u6OLYyic [18/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


「あっ、ヤバい。トギリさんだ」

「えっ、トギリ?!」

「イブたちの部屋に入って行ってる」

「はぁ?!」


あたしは叫んだ。

リオとイブが、危ない。
 ▼ 762 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 17:33:03 ID:u6OLYyic [19/45] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「カズオ、どうすればいいのよ?!」


あたしは、カズオを揺さぶる。

カズオは、黙として語らない。

その唇からは、声のかけらもこぼれない。

揺さぶり続けるあたしをカズオは、強く、叩いた。


「いった……」


カズオは、その体を震わせる。恐怖だ。恐怖の感情が、彼を覆っていた。
 ▼ 763 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:20:10 ID:u6OLYyic [20/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


『ト、トギリさん……』

「誰?」

「黒幕」

「えっ」

『残念だよ。君は、もっと私に従順でいてくれると思ったのだが……』

『おあいにくさま。私は、1人の人間です。あなたの読み通りに動く、駒なんかじゃありません。

わかってましたよ、あなたが私を助け出したのは、そういうのが目的だって。心の傷に付け込んで……。

ったく、素直に騙される私もどうかとは思いますけど』

『さすがだな。私が見込んだだけの事はある。が、しかし君は……愚かだ』


イブと、目の前にいる黒幕が、何やら話し込んでいる。

その間の空気は、氷だ。

視線が交錯し、空気を凍らせる。

僕は、何がなんだかわからないままに、それを見ていた。
 ▼ 764 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:20:34 ID:u6OLYyic [21/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
『トギリさん……なんで誘拐なんて馬鹿な事をしたんですか?』

『馬鹿な事、か。君なら理解してくれると思ったんだがな……。単純さ。こちらに有利になるように、だ』

『……相手の不満を高めるのは、将来的に大きなマイナスになる』

『ふん、反乱など起こらんよ。大昔、カントーやジョウトでは、刀狩りという事が行われた――なんて、知っているだろうけどな』

『ちょっ、トギリさん、ポケモンに……技術を伝えないつもりなの』

『当たり前だろう? ポケモンなぞ、所詮畜生だ。我々人間が気に掛ける必要などない』

『っ……! このっ……

 ニンゲンの、恥晒しっ!』


イブが、強く叫んだ。

黒幕が、ニヤリと笑った、気がした。
 ▼ 765 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:20:59 ID:u6OLYyic [22/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「リオ、やるよ。もう躊躇しなくていい」

「こいつが、敵なんだ」

「うん。いわゆるラスボスにあたるはず」

「こいつを倒せば、ニンゲンは止まるんだね!」

「うん!」

「行くよ、リオ。私があなたに指示を出す」

「わかった」


戦いが、始まる。

その予感に、僕の体を震えが走った。

恐怖ではない。武者震いだ。

黒幕に相対する。

彼は、ニヤリと歪めたままの唇から、言葉を放り投げる。


『さあ、仕事だ』
 ▼ 766 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:21:48 ID:u6OLYyic [23/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
宙を舞った件の紅白のボール。

緩やかな放物線を描いたそれは、僕の数メートル先に着地し、高くバウンドする。

そこから赤い光線が伸び、そこから出て来たのは――


「な、なんで……」

「嘘……でしょ?」


信じられない光景に、僕は、いや、僕たちは、驚き、立ち竦む。


「お前たちは、負ける」


黒幕が、ポケモンの言葉で話した。

黒幕が繰り出して来たポケモンが、一声、唸りをあげる。

僕は、それに怯まずにはいられなかった。

どうして? どうして捕まってるの?


ママ……。
 ▼ 767 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:22:28 ID:u6OLYyic [24/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「お前の母親は負けたんだ。そして、今では、私の従順なる僕という訳だ」


ママが、僕たちを、ぎろりと見詰める。

背筋を、汗が滴り落ちた。


「トギリさんも話せるんだ……。なら、遠慮なくこっちもポケモン語で行きます」

「勝手にしろ。ガルーラ、こいつらを、潰せ」

「ママ、僕だよ、リオル! わかんないの?!」

「無駄。ボールの洗脳効果、トギリさんが高めてるっぽい。完全に、操られてる」

「そ、そんな……」
 ▼ 768 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:23:09 ID:u6OLYyic [25/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「リオ、やるしかない。私も辛いけど……グロウパンチ!」

「こちらもグロウパンチ」


トギリ(という名前なのだろう)の指示に従って、なんの躊躇いもなくこちらに拳を振り下ろすママ。

僕は、覚悟を決め切れずにいた。

ママの攻撃をすんでの所で回避し、隙だらけの姿を見付けても、僕は、攻撃を仕掛けられない。


「リオっ! ……卑怯よトギリっ!」

「ふん、反乱分子は、徹底的に潰すに限るからな」

「……お母さんを使って。だから、私たちを泳がせてたのか」


このセリフを聞きとがめたいのだけれど、そんな余裕はなかった。

グロウパンチを壁に当て続け、ママの攻撃力はどんどん高まって来ている。

そろそろ危険だ。あれを食らってしまったら、意識がぶっ飛ぶでは済まないだろう。
 ▼ 769 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:23:49 ID:u6OLYyic [26/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……あんたの作戦はどうでもいい! トギリっ! 絶対に許さないっ!」

「哀れだな。攻撃すら出来ないと言うのに」


目の前に拳が振り下ろされた。

それは、もはや大地を揺るがす程の威力となっている。


「うぐっ……」


歯を食いしばり、後ろに身をかわした。

いや、吹き飛ばされたと言った方が正しいかもしれない。

あまりの威力に、当たらなくても巻き起こる爆風だけで効果が出るのだ。


「リオっ!」

「降参するか? 戦えないのなら、負けあるのみだ」

「降参……するもんか!」

「ふんっ、ガルーラ、いわなだれだ」
 ▼ 770 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:24:19 ID:u6OLYyic [27/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その指示を聞いて、僕は、作戦を組み立てた。

しかし、組み立てはしたけれど、実行する勇気が、未だ出て来ない。

攻撃しないと殺される。

それはわかっている。

けれど、竦んだ足は、動いてくれなかった。


「――リオ、やるしかないよ。私たちがやらないと、お母さんは、ずっと苦しんだまま」

「……どうすればいいの? 僕、ママを攻撃なんて……」

「……やるしかないの! リオ、お母さんは、あんたがそんな風にビビる事なんて、望んでないっ!」


ママは、岩雪崩の体勢に入っている。

グロウパンチで付いた勢いが、その岩にも表れているのか、1つ1つが巨大サイズだ。当たったら、それこそ命はない。
 ▼ 771 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:24:40 ID:u6OLYyic [28/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あんたしかいないのっ! お母さんを救えるのはっ!」


ママを、救う。

ママは、苦しんでいる。

僕は……僕は……!


「うおぉぉおおおおおおおおっ!」
 ▼ 772 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:25:12 ID:u6OLYyic [29/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ママが、岩雪崩を繰り出す。

落ち着け、リオル。

冷静になって、1つ1つの動きを見極めろ。

軽く息を吸い込んだ。


「リオっ、よけてっ!」

「言われなくてもっ!」


僕は、飛び上がり、岩に向かって着地を決めた。

そして、その直後、再び今度は別の岩に向かって飛び上がる。

軌道は、見極められる。

これでも僕はリオル。波導の一族だ。

落ち着きさえすれば、このぐらい出来て当然なはずだ。

お母さんも、昔そう言っていた。

――やる。

降りかかる岩を利用し、僕は、少しずつ、高みへ向かう。
 ▼ 773 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:25:34 ID:u6OLYyic [30/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「いっけぇぇぇええええっ!」


当然、いつまでも登り続けられる訳ではない。

しかし、それこそが僕の狙いだ。

落ちる時、どんどん勢いが付いて行く。

それを利用し、全てを拳に乗せて、ぶつけるのだ。

叫びが狭い部屋に反響し、喧しく響いた。


「リオっ! 行けるよっ! グロウパンチっ!」


ママ、ごめん。

心の中でそう唱えながら、僕は、拳を振り抜いた。
 ▼ 774 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:25:56 ID:u6OLYyic [31/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
小気味のいい音が部屋に響き渡る。

僕の拳は、効果抜群の一撃を、間違いなくママにぶつけていた。

重力の相乗効果で、普段よりも格段に重い一撃を。

しかし、ママは甘くない。

多少ふらつきこそしたが、僕の全力の攻撃を受けて、それでもなお、立っていた。

そして、ニッと笑う。

いつものママの笑顔。一瞬だけど、確かに、見慣れた笑顔が、そこに浮かぶ。

しかし、それは、あっという間に黒い笑みへと塗り替えられる。


「ようやく重い攻撃をして来たか……。待っていた、この瞬間を。カウンター」
 ▼ 775 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:26:24 ID:u6OLYyic [32/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
トギリが、冷酷にそう言い放つ。

攻撃モーションのまま動けずにいた僕に、それを避ける術はない。

それを悟ったのか、イブも、指示を飛ばさない。ただ、「耐えきって!」と叫ぶのみ。

僕は、いずれ来る一撃に備え、歯を、強く食いしばる。

そして、インパクト。

ママの拳が、僕の頬を捕らえる。

捻じ込まれ、激痛が体を襲う。

そして、その衝撃を持ったまま壁へと弾き飛ばされる。

勢いの付いた体は、壁にぶつかり、鈍い音を立てる。

一瞬の、永遠。痛みが、体中を駆け巡り、狂ったように音を奏で始める。

引き延ばされた時間が、苦しみを強める。


「リオっ」


イブの叫び声も、やけにスローに聞こえた。
 ▼ 776 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:27:25 ID:u6OLYyic [33/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あまりの痛みに、意識を飛ばす事すら許してくれない。

ひたすらに、体中をオーケストラが荒らしまわっている。


「リオっ! しっかりして、リオっ!」

『もう無理だろう。大人しく降参しろ』

「嫌だっ! 誰が……誰があんたの言う事なんて聞くかっ! リオを……リオを返せっ!!」

『初めから諦めていれば……』

「リオ……リオ、ダメ、死なないでリオ……」


2匹の声を聞きながら、僕は、燃えるような痛みを、必死に抑え込んでいた。

まだ戦える。

僕は、戦わないといけない。
 ▼ 778 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:28:23 ID:u6OLYyic [35/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
指先を、軽く動かす。

その音が、とてつもなく小さな音が、それでも確かにイブの耳へ届く。


「リオ?」

「あ……きら……め……るな……」

「リオ、しゃべっちゃダメ!」

「せか……いを……まも……」

「リオ、お願いだから……」


イブの涙が僕の顔に滴り落ちる。

僕は、ニコリと笑った。
 ▼ 779 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:28:45 ID:u6OLYyic [36/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「だい……じょうぶ……僕は……イブとなら……」

「リオっ!」

「ガルーラ、とどめだ。いわなだれ!」

「……イブ、最後まで……一緒に……戦って……くれ……るよね……?」

「当たり前よ……だけど……」

「ママが……攻撃……僕……戦う……」

「――!」

「イブとなら……僕は……みんなを……護れる……強く……なれる……」

「リオ……」

「もろとも潰せ」

「……そうだよね。傷を恐れてちゃ、変化を怖がってちゃ、前には進めない!」
 ▼ 780 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:29:20 ID:u6OLYyic [37/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
決めたんだ。僕は、みんなを護れるように、強くなる。      決めたんだ。私は、みんなを護るために、強くなる。

    もう、誰にもあんな苦しみは味合わせたくない。    傷付いてるフリして自己満足するのも、充分だ。

       「僕は……」                         「私は……」

          「もっと……」                 「もっと……」

                      「「強く!」」
 ▼ 781 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:29:45 ID:u6OLYyic [38/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
言葉が、想いが、重なり合い、シンクロして。

そして、僕の体に、奇跡が起こった。

まず、光を帯び始める。

進化の光だろうか。さもありなんと思う。

リオルは、懐き進化だ。このタイミングでの進化は、充分過ぎる程に考えられる。

しかし、どうにもそうではないらしい。

本来なら鋭い突起が生まれるはずの手の甲に、そんな物は現れ出ない。

ただ、頭に付いている束が、長さ、量を増して、体の背面を包み込む。

目線は、少しずつ高まっている。

体も、再構成が始まっているようだ。

光の粒が、僕の体を行き来し、成長が始まった。
 ▼ 782 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:30:05 ID:u6OLYyic [39/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それだけではない。

記憶が、次々と蘇る。

出会い。

ローネを助けた大立ち回り。

勉強。テスト。

マイナンとプラスルのケンカ。

マイナンの捜索。

数え上げればきりがない程の、イブとの、ローネとの思い出が、脳の中を駆け巡る。

この一瞬、僕の体から、痛みが消えた。

温かい何かに包まれている、とも言えるかもしれない。

そして、自らの体から、力が湧き出す。波導の力だろうか。

それは、自らを纏い隠す、ベールとなる。
 ▼ 783 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:30:40 ID:u6OLYyic [40/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「リオ……これ」

「キズナ現象……だと?」


キズナ現象。それが何なのか、僕にはさっぱりわからない。

けれど、間違いなく、いい事だ。

僕は、立ち上がる。

痛みは、あの後戻ってこそ来たが、今は、それすらもかすむ程に、力が溢れる。

イブが、自分の中にいる。

そんな感覚だ。

間違いなく、目の前にイブはいる。けれど、自分の中にも、確かに存在している。


「何……これ」


僕とイブが、同時に言った。
 ▼ 784 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:31:10 ID:u6OLYyic [41/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「でも、とにかくチャンスだよ!」

「だね! 行ける! 今しかないよ!」

「小賢しい。ガルーラ、シャドーボール」


イブが目を閉ざす。

そして、僕の何かに、直接訴えかけてくる。

その通りに行動すると、ママのシャドーボールは、全て間違った方向へ飛んで行った。

イブが、掌を前にかざす。

それに釣られたように、僕も腕伸ばした。

纏った波導が、掌の一点に集中して行く。

僕のその姿が露わになり、ママも、それを見て、微笑んだ気がした。


「いわなだれで潰せ」

「今よリオっ!」


僕は、波導を飛ばした。
 ▼ 785 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:31:35 ID:u6OLYyic [42/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それは、思いがけない方向へと飛んで行く。

しかし、これでいいのだ。

イブが、そう指示を出しているのだから。

僕は、その作戦に、乗りかかるのみ。

襲い来る岩を、全て拳で打ち砕いた。

ひたすらに、振り払う。
 ▼ 786 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:31:59 ID:u6OLYyic [43/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「なっ……。だが、どこを狙っているのだ」

「そりゃ、お母さんを攻撃せずに勝つには……」


波導弾は、ママを遠く飛び越えて、どこかへ消えて行った。

そう思って油断した、トギリの負けだった。

波導弾は必中技。外れるはずなんて、ない。

トギリの背後に、巨大な、とてつもなく巨大な、力の塊が浮かんでいた。

トギリが、何かを察して振り返る。

その目は恐らく、恐怖に塗り替えられて行った事だろう。

波導弾が炸裂した。

狙いは――ママのモンスターボール。

爆音が鳴り響き、僕は、思わず、耳を塞いだ。
 ▼ 787 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:32:19 ID:u6OLYyic [44/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


その音は、遠いであろうここまで響いた。

リオたちが勝ったのは、監視カメラの映像で確定している。

ほっと安堵のため息を漏らした。

それにしても、なんだったのだろう、リオのあの姿は。

見た所、ルカリオではないから、進化ではない。

背は高く伸び、どことなくルカリオの面影を持ってこそいるが、どちらかと言うと、イブに近い風貌をしているように思うのだ。


「ま、これでいいや。勝ったんだし」
 ▼ 788 1◆J44kAZeDOM 16/08/29 19:32:44 ID:u6OLYyic [45/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カズオは、まだ震えている。


「ほら、カズオ。イブたちが勝ったよ。何ビビってんの」


ただ、首を横に振るのみだ。

翻訳機の言葉すら、彼の耳には届いていないのだろうか。


「落ち着きなって」



――だが、落ち着いてはいられない事態が、間もなく勃発する。
 ▼ 789 ブトプス@たいようのいし 16/08/29 19:36:51 ID:3ka6jMAU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ポケモンに技術伝えたら人間奴隷にされると思うんですけど
まさに鬼に金棒ってやつだな
 ▼ 790 ジャンボ@マスターボール 16/08/29 19:58:18 ID:uIeT3Kfg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一気に進んだね
 ▼ 791 CSn9vcIqE6 16/08/30 10:24:27 ID:Ajbf2rU. NGネーム登録 NGID登録 報告
支援です〜

面白くなってきた…!
 ▼ 792 コン@とけないこおり 16/08/30 10:52:25 ID:xDjsBhvE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イブ達はなんでポケモンに技術をあたえようとしてんの?
技術を渡したら人間側のアドバンテージが消えるしポケモンにもクズはいるし

どっかでこれに触れてた気がしたが忘れた
 ▼ 793 ャオニクス@ばんのうごな 16/08/30 13:03:35 ID:MqnE3ksU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 794 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 17:41:42 ID:h.rwy/Z6 [1/25] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


僕は、光に包まれたかと思うと、あっという間に元のリオルに戻っていた。

そして、体を疲労と痛みが襲う。

唸り声をあげ、僕は、倒れ込んだ。


「リオっ! ……ゆっくり休んでて」

「……それも……厳しいかな、痛すぎて……」


切れ切れの言葉をイブに投げかける。

イブは、心配そうに、僕を見詰めていたが、その自分が肩で息をしている事に、気付いていないようだった。

へへ、と笑い声を出した。

しかし、安心するには速過ぎる。それを、僕たちはすぐに思い知る事になる。
 ▼ 795 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 17:42:30 ID:h.rwy/Z6 [2/25] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「……私は……負けたのか……だが、ただでは消えん」


不意に、倒れているトギリの体から、声が漏れた。

いや、トギリの体だけではない。周囲から、様々な方向から、トギリの荒い息が聞こえる。


「負け惜しみもいいとこね。アナウンスなんか起動して、何するつもり? もう、あんたはダメよ。私、あんたが誘拐の自白をした所、ちゃんと録音してるから」


イブを無視して、トギリは続ける。

止めに入ろうとしたけれど、僕の体は、動かなかった。


『ここが、ポケモンに占拠された。自爆テロだ。速やかに避難の事』

『……えっ?』

「どうしたのイブ?」


イブの体が、震えている。

トギリが、手に持つ何かのスイッチを押した。


『まさかあんた……この建物に、爆弾を?』

『そのまさか、さ。正確には、私が今、手に持っている物だがな。これで、証拠もろとも、お前らを潰す』
 ▼ 796 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 17:42:53 ID:h.rwy/Z6 [3/25] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


何やら騒がしい。

先程の音声アナウンスが入ってから、ずっとそうだ。

まあ、当然と言えば当然だろう。

アナウンスの音声は、翻訳機を通して、ポケモン語に変換された。

当然、あたしはその発言の意味を理解する事になる。

ここが、爆発する。ポケモンのせいで。

当然大嘘だ。追い詰められたトギリの策略に過ぎない。

しかし、ここが爆発すれば、証拠は一掃、真相を知っているあたしたちも一掃。そして、ポケモンに罪をなすり付け、向こう本位の交渉が出来る。

なんて事を冷静に考えていたのは、あまりに現実味が乏し過ぎたからだろうか。

意味を頭で理解しても、心での理解は、それから数十秒経って、ようやく訪れた。


「ってはぁぁぁああああ?!」
 ▼ 797 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 17:43:24 ID:h.rwy/Z6 [4/25] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


「トギリは……なんて言ってるの?」


痛みに耐えながら、必死で問いかける。イブの焦りが、切実に伝わって来たから。


「ここが……爆発する……。あっ、ダメ! お母さん、起きて!」


洗脳が解け、ママはどさりと崩れ落ち、そのままだ。


「お前たちは……どうせ逃げられんがな」

「通路を閉鎖するってんでしょ。そんぐらいわかってる。舐めないで。

 あっ、なんで諦めないのか。それは、諦めたら終わりだから。わかった? ってな訳でトギリさん、黙ってて。脱出方法を、ひたすらに考えるから」
 ▼ 798 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 17:44:20 ID:h.rwy/Z6 [5/25] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


イブはそう言っているが、逃げられるのだろうか。

モニターからの会話に耳を澄ます。聞き取れない部分は、翻訳機からの音声で伝え聞く。


「時限爆弾でしょ? あんたが持ってんの。人間たちが逃げる必要もあるんだし」

「ああ。任意のポイントにシャッターを下ろせる。壊すのは……外と内、両方から強力な打撃を加えればいいんじゃないか?」

「どうして教えてくれる訳?」

「どうせ無理だろうからな。シャッターから脱出したところで、出口に間に合わん」

「あっ、それもそうか……」


何納得してるのよ、イブ。事実だけど。


「だけど、やるしかないんだ」


こうなれば、外側にいるあたしも、、何とかしないといけない。

リオは満身創痍、イブも疲れているらしい。


「カズオ、爆弾を止めるしかイブたちを助ける方法はないよ。ねえ、どうすればいいのか教えて」
 ▼ 799 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 17:45:18 ID:h.rwy/Z6 [6/25] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


「教えて」と翻訳機がのっぺりした声で伝える。

僕は、どうすればいいのだろう。

怖かった。どうしようもなく、怖かった。

言葉が、体の中を、出口を求めてぐるぐる周る。

チョロネコが僕の体を揺さぶった。


『教えてよっ! どうすれば、爆弾を止められるのっ! お願いだから、教えてよっ! イブも、リオも……母さんもっ!

 お願いよっ、教えてよ! 教えてよ……イブを、リオを、母さんを……助けたいの……』
 ▼ 800 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 17:46:04 ID:h.rwy/Z6 [7/25] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
喉の奥から、かすれたような何かが浮かび上がって来る。

それを、無理に絞り出す。


「こ、凍りゃせれば……ばくでゃん……とまりゅ……」

『は? なんて言ってんの? 翻訳に引っかかんない!』


僕は、慌ててタイピングを行った。


『温度を極限まで下げれば、時限爆弾は止まるはず』

「了解! カズオ、ユキメノコ出して!」


僕は、そこにあったボールから、ユキメノコを繰り出した。


『ユキメノコ、付いて来て! カズオの想いも同じはず!』

『かしこまりました』


そのまま2匹は走り去って行った。
 ▼ 801 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 17:46:40 ID:h.rwy/Z6 [8/25] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
と思ったら慌てて戻って来る。


「道わかんない。案内して」


翻訳機の声を聞いて、僕は立ち上がった。
 ▼ 802 バット@カゴのみ 16/08/30 19:32:56 ID:rOOzYIFU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そろそろ終わりが近いのかしら
 ▼ 803 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 19:34:44 ID:h.rwy/Z6 [9/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ぼんやりする思考は、ぐるぐると訳もわからない方向へ行ったり来たり。

ただ、爆弾があって危険だ、としかわからなかった。


「お母さん、しっかりして! 扉を壊せるかもしれないのは、お母さんだけなんだよ!」

「う、ううむ……」

「お母さんっ!」

「……イブかい?」

「……な、なんでわかったの?」

「あたしの事をお母さんと呼ぶのは……イブだけさ」

「……とにかく、すぐに状況を説明する。聞いて」
 ▼ 804 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 19:35:10 ID:h.rwy/Z6 [10/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


カズオの先導で、あたしたちは走る。

逃げ惑うニンゲンたちは、あたしたちに一切構う事などない。

ただ、ヒトの流れに逆らって走るのは、かなりの重労働でもある。

急げば急ぐほど空回り。

ひたすらにもどかしかった。


「とにかく……逃げてる間は爆発もしないはずだけど」


そう呟いて、自分を安心させるのみ。

限界まで急いで、それでもなお遅いのだ。こうでもしないとやってられない。
 ▼ 805 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 19:36:17 ID:h.rwy/Z6 [11/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「……そうか。トギリ、話は……後で、署でゆっくりと聞かせてもらう。リオ、イブ。あたしのポケットの中に隠れるんだ」

「わかった。だけど、私は時間を見るから」


イブは、僕を抱え、ママの袋の中に放り込む。


「あたしは……とにかく、扉を壊すよ」

「……氷タイプの技は覚えて……ないか。4つ出てたし」

「え、どうしたんだい?」

「極度の低温は、時限爆弾を止めるんです」

「なるほど……だけど、生憎あたしは持ってないよ。誰もないだろうね、ここにいる誰も」

「……とりあえず、壊すしかない。急いで」

「了解!」


そう言って、ママは立ち上がり、グロウパンチを幾度も壁に叩き付け始めた。

僕の意識は、先程の戦いの疲れからか、薄れて行く……。
 ▼ 806 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 19:36:47 ID:h.rwy/Z6 [12/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


カズオが指差したのが、通路を防ぐ扉。

奥からは、ガンガンと殴り付ける音が聞こえる。

きっと母さんだ。目覚めて、壊そうと奮闘しているのだろう。

あたしも、外から攻める。

爪を研いで、爪を研いで、6回繰り返し、あたしは、深呼吸をした。

そして、つじぎりをぶつける。

内と、外。2つの攻撃をぶつけてなお、扉はビクともしない。

いつの間にか、辺りは静まり返り、あたしたちの攻撃の音しか聞こえなくなっている。

イブの声が、扉の向こうで叫んだ。


――後、1分。
 ▼ 807 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 19:37:15 ID:h.rwy/Z6 [13/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「くそぉぉおおおおおっ!」


あたしの叫びは、ひたすらに扉を破壊する力へと変換されて行くけれど、それでも扉は、傷だけは付けても壊れる気配なんて一切ない。


「あたしがっ! あたしにもっと力があればっ! みんな、死なずに済むのにっ!!」


扉を、拳で打ち付けた。

溢れる思いが、あたしの体を、勝手に動かす。


「どうしてよっ! どうしてっ! あたしは弱いのっ?!」

「チョロネコ、わめいてるヒマがあるなら、攻撃するんだよっ!」


母さんの叫び声が聞こえた。

それもそうだ。だが、どう考えても間に合わない。
 ▼ 808 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 19:37:56 ID:h.rwy/Z6 [14/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ったく、あんただけでも逃げればよかったのに――」

「んな事、出来る訳ないでしょ、この低能! あたし、みんなに助けられたのよっ?!」


叫びながら、つじぎりを繰り出す。

扉は、開かない。


「あたしは、みんなと一緒に、死ぬっ!」

「大丈夫だよ! 死になんてしないさ!」

「比喩よっ! 攻撃を続けてっ!」


――後、50秒。
 ▼ 809 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 19:38:16 ID:h.rwy/Z6 [15/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「つじぎりっ! つじぎりっ! つじぎりっ!」

「砕け散れっ! グロウパンチっ!」


内からも外からも、攻撃は激化する。

しかし、あたしたちは同時に、疲労の色を深めて行く。


「ユキメノコ、シャドーボールぶっ放して! この辺に!」

「了解」


特殊技がここでは役割をあまり持てないのはわかる。

物理的に吹き飛ばしたいのだから。

しかし、0よりはマシだ。

少しでも、早くなるのなら。
 ▼ 810 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 19:39:23 ID:h.rwy/Z6 [16/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
次の一撃を仕掛けようとして、あたしは気付いた。


「あっ……」


PP切れだ。

このタイミングで起こるなんて、想定外だった。


「クソッ! クソッ! クソッ!」


何度念じても、あたしの手は、黒いオーラを纏わない。

あたしは、あたしの非力を、呪った。


「どうしてっ! あたしは、何も出来てないっ! イブに、リオに、母さんにっ! 何も……何も……」

「お手伝いしましょうか? チョロネコ様」


不意にかけられた声に気付いたのは、一拍おいて後だった。


――後、40秒。
 ▼ 811 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 19:40:03 ID:h.rwy/Z6 [17/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あ、あんた……なんでここに……」

「チョロネコ様をお守りするためで――」

「訳わかんない。帰ってくれる?」

「お望みとあらば。ですが、チョロネコ様、力を欲しているようにお見受けされるのですが」

「そ、それは……」

「事情は、後程説明いたします。今は、信じてください」

「っ……」

「信じてください」


唐突に、目の前に現れ、嫌に丁寧な口調であたしに話すこいつ。

それでいて、説明もなしに、信じてくれ、もないだろう。

が、あたしが腕力を欲しているのは、紛れもなく事実。

どうすればいい? あたしは、どうすればいい? こいつの狙いは、なんだ?
 ▼ 812 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 19:40:40 ID:h.rwy/Z6 [18/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一瞬の逡巡。しかし、あたしは、決めた。

全てを知るなんて不可能だ。なるべくたくさんの事を知って、それでも、ある程度は妥協するしかない。

信じる、という結果は、わからない所も含めて受け入れる、というプロセスにおいてのみ、初めて成立する物なのかもしれない。

だから、あたしは、言った。


「わかった。どうしてあんたがいきなりいんのか、後でたっぷり説明は貰うからね――





 ギルガルド」


――後、30秒
 ▼ 813 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 19:41:08 ID:h.rwy/Z6 [19/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「チョロネコ様、残りの奴らも、離れてください」


そう言ってあたしたちを押しやるや否や、ギルガルドが、その刀身でもって、アイアンヘッドを扉に向かって叩き付ける。


「うおりゃぁぁぁあああっ! 俺様の刃の前に沈めぇぇぇぇええええっ!」


恐らく、こっちが本性だろう。

あたしの前でのみ、態度が一変するこいつ。

狙いはわからないが、少なくとも今は、協力体制に入っているようだ。

なら、あたしも、見届けるしかない。

咆哮を上げながら、ギルガルドは、扉を攻撃し続ける。

目算だが、少しずつ、壁が壊れつつあるのではないだろうか。

亀裂が入っている。

何度も、何度も、斬りつける。


――後、20秒。
 ▼ 814 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 19:41:39 ID:h.rwy/Z6 [20/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
時間が、いやに短い。

1秒が、あっという間に過ぎ去る。

ギルガルド、母さん。頑張って。

あたしは、そう、祈りを込めずにはいられなかった。

そして、亀裂が広がり、ついに――

ピキリ、と音が鳴った。

そこを狙って攻撃を続けるギルガルド。

そして、広がった亀裂から、壁は、崩落した。

少しずつ、砂塵と化して行く壁。

瓦礫が、足元に転がる。


――後、10秒。
 ▼ 815 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 19:42:07 ID:h.rwy/Z6 [21/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしは、ユキメノコとともに走った。

そして、指示を出す。


「ユキメノコ、吹雪を――」

「吹雪を、あそこを狙って全力でっ!」


イブが、続きを引き取り、爆弾の詳細な場所を示した。

ユキメノコが、ニヤリと微笑み、空気を冷却して行く。

そして、トギリの体をめがけて、ひたすらに技を撃ち出した。
 ▼ 816 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 19:43:39 ID:h.rwy/Z6 [22/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
倒れているトギリ。

吹雪を撃ち出すユキメノコ。

疲れてへたり込む、母さんとギルガルド。

リオは、きっと、母さんのお腹の袋だ。

イブは、時間をカウントしている。

あたしは、ひたすらに、祈った。

お願い、止まって。

頑張って、ユキメノコ。

あたしは何も出来ないから、せめて、祈らせて。

お願い、ユキメノコ。

みんなを、助けて。
 ▼ 817 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 19:44:04 ID:h.rwy/Z6 [23/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
何秒の間、そうしていただろうか。

やけに、今度は時間が経つのが長かった。

時間にして、間違いなく、10秒以内の出来事だ。

けれど、あたしにとって、何時間にも、何日にも感じられる、それ程の長さだった。

皆が、ユキメノコを注視する。



――後、0秒。
 ▼ 818 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 19:44:38 ID:h.rwy/Z6 [24/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




時が経った。





爆弾は……









停止していた。
 ▼ 819 1◆J44kAZeDOM 16/08/30 19:45:04 ID:h.rwy/Z6 [25/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







6章 戦い 完






 ▼ 820 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 00:24:40 ID:hWQpvN82 [1/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「頑張るんだよ」


少年――いや、もう青年と呼ぶべきだろう――は、ずっと引きこもって機械いじりばかりしていた彼は、その機械いじりの能力が認められて、ある所に就職する事になった。

人口増対策プロジェクト、と言う物だ。

現在、人間の数は増加の一途をたどっている。

しかし、生命と言うのは、増え過ぎると逆にその勢いを減らす事になり、最終的にその生命を絶やす事にもなりかねない。

具体的な問題を挙げると、食糧難や、土地不足、水不足などだ。
 ▼ 821 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 00:25:01 ID:hWQpvN82 [2/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「まさかあなたが、こんな凄いとこに就職出来るなんてねぇ」


大した事ないよ、と手話でもって伝えると、母は笑って言った。


「そんな謙遜しないの! あんたの力で掴んだ栄光なんだから、もっと誇りに思いなさい」


青年はニッコリ微笑んで見せると、行ってきますと伝えた。

母も笑顔で送り出す。

彼は、振り返る事もなく歩き始めた。

その顔は、一瞬で凍り付き、ただ、絶望に伴う小さな笑いだけが浮かんでいた。
 ▼ 822 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 00:25:29 ID:hWQpvN82 [3/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


あれよあれよと言う間に、ポケモンたちが雪崩れ込み、トギリやその他人間を連れ去って行ってしまった。

イブが録音した物が証拠として採用された。

説明にはだいぶん難儀していたが、イブの苦心のお陰で無事に成功したらしい。

僕たちも、任意同行の形を取って、警察へと連行された。

こうなる事は、可能性としてはあり得ただろう。何しろ、人間なのだから。

それは予想外だったものの、計画は成功と言えるだろう。

思えば偶然に頼り過ぎた物だ。

正直ここまで上手く行くとは思っていなかった。

僕は、僕の心に、未だに暗い情念を燃やしている。

自覚はある。だが、消す気はない。

これからの展開を、見守るとしよう。
 ▼ 823 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 00:26:25 ID:hWQpvN82 [4/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そう言えば、僕は、再び言葉を話せるようになった。

声を出さずに笑った、あの日以来だ。

言葉の話し方を忘れてしまったのか、幼児のような発音しか出来ないけれど、少しは快方に向かって行っているのかもしれない。

どちらにせよ、僕の計画は、達成されたも同然だ。

もう、後悔はない。

例え、このポケモンと人間を巡る物語が、どんな結末に転ぼうとも。
 ▼ 824 ッピ@きよめのおふだ 16/08/31 12:10:20 ID:RLdl039Q NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
支援
 ▼ 825 マザラシ@くろいビードロ 16/08/31 13:40:21 ID:hWQpvN82 [5/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







7章 ポケモンと人間が出会い、交わると言う事






 ▼ 826 チコール@するどいキバ 16/08/31 13:40:41 ID:hWQpvN82 [6/22] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


「リオル! パース!」


僕は、足元のボールを蹴り上げた。

ボールは放物線を描き、友達、シシコの目の前に着地する。


「シシコ! 任せたよ!」

「ナイスパスリオル! 行っけえ!」


シシコはそれを前へと蹴り飛ばす。

狙いはコーナーの隅。

シシコの放ったシュートは、狙い通り隅を貫いた。

僕は大きく叫んだ。


「ナイッシュー!」
 ▼ 827 マヨール@チャーレムナイト 16/08/31 13:41:05 ID:hWQpvN82 [7/22] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
夕焼けが眩しく辺りを照らしている。

校庭に、たくさんの陰が伸びていた。

そんな中、僕の親友、ローネが声をあげる。


「リオ! もうそろそろ帰るよ」


なぜかシシコがそれに答えた。


「えー、もっと遊びた――」

「だ、め、で、す」

「ちぇっ」

「もう帰ろうよ。ローネも言ってるし」

「まあ……そうだな」


落胆した声のシシコに、みんなの笑い声が響いた。
 ▼ 828 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 13:41:31 ID:hWQpvN82 [8/22] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
僕は、あの事件以来、特に変わらない日常を送っている。

世界を救ったとは言え、最初の数日間こそ、新聞の記者をママが追い払って、クラスメイトに武勇伝を語ったけれど、最近は、本当に、特に何もない。

それを、僕たちが望んだから。

変わった事と言えば、イブが居なくなった事。

そして、マイナンもいなくなった事。

向こうの世界でイブが「てれび」という物を使って捜索を依頼したらしいが、まだ見付かっていない。

だから、プラスルだけは、未だ、あの事件に取り残されている。

しかし、すぐに見付かるだろうというイブの楽観的な言葉に、クラスメイトたちは既に安心していた。まあ、僕もその1匹な訳だけど。

そんな訳で、大半のポケモンたちは、日常を取り戻しつつあった。
 ▼ 829 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 13:42:15 ID:hWQpvN82 [9/22] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「でもさ、イブはどうなっちゃうんだろうね」

「さぁ……。母さんたちがどれだけ早く釈放するのか、後、イブがどっちの世界を選ぶのか、だね」


イブと僕たちの面談は、禁止されている。向こうから手紙を送るのはOKらしいけれど。

ママですら話す事は制限されているらしいのだから、まあ、当然だろう。

あまりに僕たちと居過ぎると、イブの発言に何かの影響が及ぶ可能性が高いらしいから。

だから、先程のローネの発言は、正確には間違いだ。

母さんたち、ではなく警察、と言わなければならない。


「ま、あたしたちが気にしてなんとかなる事でもない。祈ろう」
 ▼ 830 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 13:42:35 ID:hWQpvN82 [10/22] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


あたしは、あの事件以来、基本的に変わらない日常を送っている。

世界を救ったとは言え、最初の数日間こそ、新聞の記者を母さんが追い払って、クラスメイトに武勇伝を語ったけれど、最近は、本当に、特に何もない。

それを、あたしたちが望んだから。

変わった事と言えば、イブが居なくなった事。

そして、マイナンもいなくなった事。

向こうの世界でイブが「てれび」という物を使って捜索を依頼したらしいが、まだ見付かっていない。

だから、プラスルだけは、未だ、あの事件に取り残されている。

しかし、すぐに見付かるだろうというイブの楽観的な言葉に、クラスメイトたちは既に安心していた。まあ、あたしもその1匹な訳だけど。

そんな訳で、大半のポケモンたちは、日常を取り戻しつつあった。
 ▼ 831 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 13:43:00 ID:hWQpvN82 [11/22] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ところで、先程「基本的に」、と言った。

あたしに関しては、どうしても拭い去れない違和感が、上記の事を除いて、1つある。

あれから、妙な視線を感じるのだ。

妙と言っても、視線の主はわかっている。ギルガルドだ。

あたしを、女王となるべき存在として崇め奉っている、俺様系殺ポケ犯。

あたしは自分で何も出来なかった代わりに、周囲を動かす才能があるらしく、その才能がギルガルドの気に行ったらしい。

きっと今日も、あたしの護衛に勤しんでいる事だろう。余計なお世話だけど。

憎ましいけど、結局、あいつがいないとあたしが向こうに行く事も、ギルガルドが壁を壊す手伝いをする事もなかっただろうから、まあそれはいいとしよう。

さすがに、気味が悪い。

あたしが文句を付けたら恐らくは消えるだろうけど、それもそれで怖いのだ。

ああいうタイプは、怒らすと何をするかわからない。

所謂ヤンデレ化である。

はぁ、とため息を吐いて、あたしは道を歩いた。
 ▼ 832 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 13:43:54 ID:hWQpvN82 [12/22] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


「ただいま、ママ!」

「お帰り、リオル、チョロネコ」

「ただいま、母さん」

「ふふ、やっと呼んでくれたよ、あたしの事を」

「え?」

「あの事件まで、チョロネコは、一度もあたしの名前を呼んでなかったんだよ」

「ふえ?!」

「うん。なんて呼べばいいのかわかんなくってさ。だから、主語をなんとかして誤魔化して……」

「す、凄いというかなんというか……大変だったでしょ」

「まあね」
 ▼ 833 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 13:44:43 ID:hWQpvN82 [13/22] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ママは、先程言った理由から、捜査には加われない。

そのため、最近はヒマなのだ。

ミミロップその他ニンゲンとの裏取引があったポケモンたちは、ギルガルドを除いて軒並み逮捕に向けて動いているらしいが、事件解決の功労者であるママは、それもしばらくは免除との事だ。


「ところで、あたしたちに手紙を送った主の居場所を特定してくれたよ、カクレオンが」

「え、ゾロア? ……そーいや、なんでトギリに見咎められずに、ゾロアを脱出させられたんだろう」

「ああ、そういやそれは、イブが言ってたらしいね。あたしは調書しか見てないんだけどさ――」


曰く、あそこのポケモンには、発信機が取り付けられるらしい。

売られる時に取り外されるらしいのだが、脱走したら、取り外す事は出来ない。

イブですら、事件解決後にその情報を知ったと言う。

だから、何も気にせずゾロアを送り届けたらしいのだが、恐らく今、監視されている事だろう。

だが、その日々ももうすぐ終わりだ。

ママが、その監視している奴を捕まえるだろうから。

住所の特定には、そう言う実質的な意味もあったのだ。
 ▼ 834 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 20:01:23 ID:hWQpvN82 [14/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「にしても、イブはどうしてるだろうねぇ」とママが呟いた。


その頃――。



連日に及ぶ事情聴取。

疚しい事など何もないのに、なぜここまで執拗なのか。

まあ、それはひとえに、僕の発声能力が著しく低い事に起因しているのだろうけれど。


「はい、あえいうえおあお」

「あえいうえおあお」


だから、発声の練習を、あれ以来ずっと行っている。

目の前でニコリと笑う彼女は、飽きずに付き合ってくれる。

曰く「リオに九九教えるので慣れちゃった」。

そんな彼女の好意に甘え、僕は、取り戻した声を使えるように、訓練に励んだ。
 ▼ 835 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 20:01:48 ID:hWQpvN82 [15/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
数日に及ぶ訓練の成果か、僕は、だいぶ言語を取り戻していた。

まだ少し不確かな部分もあるが、日常生活に支障を来す事はないと言えるレベルまで。

事ここに至って、ようやくまともな事情聴取が受けられる訳だ。

が、その必要は、正直なかった。

イブが、しっかりと説明してくれていたのだ。

ではなぜ、ここに拘留されているのか。

一瞬疑問に思うのだが、その理由は、すぐに知れた。
 ▼ 836 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 20:02:45 ID:hWQpvN82 [16/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ねえ、カズオ」

「ん? どうしゃの?」

「もう、割と普通に喋れるよね。だからさ……聞きたいんだけど。カズオが、言葉を失った原因」

「え?」

「――場合によっては、私は、カズオを断罪する事になると思う」

「……まずは聞かしぇてよ、話」

「いいの? 私……既存の物を組み合わせるのは、大得意なんだよ」

「うん」

「わかった。聞いて。私の、あなたに関する推理。最悪の事態もあり得るから、私は、あなたをここに留め置いた。

 警察のポケモンたちも、わかってるよ、私の懸念は。ボーマンダさんが便宜を図ってくれて、私のワガママが通ってるんだけどさ。

 ま、普通はポケモンサイドに得な事を、みすみす捨てたりしないだろうから、こっちの警察はまだ、腐り切ってないみたいだね」

「……」


今の発言でわかった。ほぼ間違いなく、イブは、正鵠を射る。

その覚悟を、決めよう。

正直、今までが上手く行き過ぎたんだ。
 ▼ 837 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 20:03:16 ID:hWQpvN82 [17/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「カズオ、まず大前提として、あんたは、実はポケモンが怖い。だよね?」


僕は、頷いてみせた。

そこを突いて来るか。

僕の顔には、知らず知らず、笑みが浮かんでいる。

目の前の少女と相対するのは、楽しい。

こんな感情、久方ぶりに抱いた。

誰かと交わる事を、純粋に楽しめる。そんな日が来るだなんて、思いもしなかった。

彼女は、いたって真剣な表情を崩さない。
 ▼ 838 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 20:03:44 ID:hWQpvN82 [18/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「カズオ、私は真剣。だから、真剣に聞いて。

 あなたはポケモンが怖い。ここを押さえたら、ある疑問を抱かざるを得ない。

 ――カズオ、あんたはなんで、わざわざ苦手なポケモンに肩入れなんかしたの?」

「質問形で聞いても、どうしぇわかってるんでしょ」

「……まあね。カズオ、あなたは、ポケモンを怖がる以上に、人間を恨んでいた。それこそ、声を失う程。違う?」

「……しぇいかい」

「やっぱり。何があったのか、そこはどうやってもわかんないから聞くしかないんだけど……。

 でさ、こっから先が、私の懸念。カズオ、あんた、必要以上に人間を下げようとしてない? 条約は結ばれるだろうけど、圧倒的に人間不利な方向へ、走らせようとしてない?

 最悪、結ばれない可能性すらある。カズオの出方次第では。違う?」

「違わない。しゅごいよ。1から10まで大しぇいかい」

「……0から1を産み出せない人にとっては、ただの皮肉にしか聞こえない」

「しょれは違う。0から1、1から10、10を保(たも)ちゅ。全部、全部大変だ」

「ありがと。……やっぱ、もう少し滑舌をよくしないとダメね」

「だね」
 ▼ 839 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 20:04:58 ID:hWQpvN82 [19/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「で、何があったの?」

「簡単だよ」


ポケモンに襲われ、トラウマが残った。

それでも無理矢理触れ合わせようとする母親に絶望し、声を失い、人間への情愛を失った。

だから、ポケモンに肩入れした。

自らに害を為す、人間を潰す。

その一心で、誘拐事件を知った辺りから、僕は、計画を組み立てていた。

トギリを必要以上に落とし、こちら側のヘイトを集めれば、交渉は決裂に終わる可能性が高い。

そう踏んで、僕は、彼女たちに手を貸したのだ。


「なるほど……。世界は広いな。私なんか、ちっぽけな事で、うじうじうじうじ」

「まあ、大丈夫だと思うよ」

「……そうね。カズオ、あんたは、何を言うかわからない。

 だから、謝罪声明は、私だけで出すよ」

「……だろうね」

「謝罪声明を出すのが、ここに残った一番の目的だし」
 ▼ 840 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 20:05:45 ID:hWQpvN82 [20/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「でもさ、カズオ。わかるよ、あなたの気持ち」

「……」

「私も、誰にも受け入れてもらえない苦しみだけは、痛い程わかるから。

声を失う程、辛いのも、わかるよ」


そう、彼女は気付いていた。わかってもらえない苦しみこそが、一番の問題だと。

そしてこう言っているのだろう。

そんな必要などないのに。

僕の過去を、不思議なぐらいに理解してくれた彼女。

フォローを重ねる必要などない。既に、理解してくれているって事は、わかっているのだから。

そんな意味を込めて、僕は、首を横に振った。顔には笑みを浮かべながら。

彼女も、ニコリと笑う。


「私は、人間も、ポケモンも、大好き。2種類の物が交わるってのは、確かに大変かもしれない。カズオは特にそう思うだろうね。

 ……だけど、いいじゃない」



――ポケモンと人間が出会い、交わると言う事も。
 ▼ 841 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 20:06:14 ID:hWQpvN82 [21/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――数日後。



「今日らしいね、イブの、謝罪会見」と、ママがカレンダーを見ながら言った。

「えっ、そうなの?」

「この会見を最後に、完全に向こうへ帰るらしいよ。まあ、あたしたちは行けないけどね。家族だからって、束縛が強すぎるよ……って、リオル?!」

「ローネ誘って行って来る! 警察だよねっ!」

「あっ……。まあ、そうだよ! 気を付けて行ってきな!」


僕は、慌てて駆け出した。

イブの言葉を、聞きたい。

いや、それ以上に。

僕たちは今、猛烈にイブに会いたい。

また、3匹で笑い合いたい。

あの雨の日以来、一度もそんな時間を取れていないから。

だから、僕は、走った。
 ▼ 842 1◆J44kAZeDOM 16/08/31 20:06:55 ID:hWQpvN82 [22/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


僕は、イブが話す言葉を、傍で聞いていた。

イブは、用意していた台本を……なんと、ビリビリに引き裂く。

そして、言葉を紡ぎ始めた。


『お集まりいただいたみなさん、これが、私の覚悟です。

 今から話すのは、台本も何もない、直球勝負。

 人間の代表としての、私の、生の声です。

 質問等は、最後に受け付けますので、今は、話を聞いてください。
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