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SS

【SS】俺「記憶喪失?」

 ▼ 1 ◆WaitStCgv. 16/07/01 18:17:02 ID:X.eAkX.. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







それ自体は何となく憶えているのに、ちゃんと思い出そうとしても上手く思い出せない記憶があるのは俺だけだろうか。


まるで記憶がスッポリ抜け落ちたかのような経験をした事があるだろうか。


《大切な何か》が思い出せない事があるだろうか。


これは、俺と一匹のポケモンを巡った小さな記憶の物語。





 ▼ 56 ◆WaitStCgv. 16/07/02 08:40:01 ID:CYq0wmH6 [1/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


「………えっ?」

『起きなさい、と言ったのです』


俺が藁に横になり、目を瞑って数秒後のことだった。

あの声………ユクシーの声が聞こえた。


「ユクシー!?」


俺は ガバッ と身を起こして目を見開いた。


『………全く、寝るのはまだ早いですよ』


そこには呆れたように微笑むユクシーがいた。


『今日は良いものを見せてあげると約束したではありませんか』

「えっ?」
 ▼ 57 ◆WaitStCgv. 16/07/02 08:41:44 ID:CYq0wmH6 [2/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


何のことかさっぱりわからないでいると、ユクシーは俺の手を握った。

それと同時に、俺はまた小学生の身体になっていることに気づく。

つまり、夢………過去の記憶なのだろうか。


『行きますよ』

「あっ、うん……」


ユクシーは俺を連れて洞窟を抜け出した。





外は夜だった。
 ▼ 58 ◆WaitStCgv. 16/07/02 08:46:10 ID:CYq0wmH6 [3/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


どこへ連れていこうというのか、暗い夜道をユクシーは案内してくれた。



ガサガサ と草道を歩き、複雑な森を抜ける。

辿り着いたのは高い高い崖だった。



『ここです』

「ここは?」

『私のお気に入りの場所です』

「ユクシーの?」



どうやらここはユクシーのお気に入りの場所らしい。

崖下を見るとゾッとするような高さだった。
 ▼ 59 ◆WaitStCgv. 16/07/02 08:46:52 ID:CYq0wmH6 [4/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


『ほら、上をご覧なさい』

「上……?」


言われるがままに上空を仰ぎ見る。

そこには、空に散りばめられた無数の星がキラキラと輝いていた。


「わああ………! キレイだね!」

『でしょう。秘密の場所なのですよ』


ユクシーは嬉しそうに言った。
 ▼ 60 ◆WaitStCgv. 16/07/02 08:47:22 ID:CYq0wmH6 [5/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「でも、何でこんな………?」


何でこんな俺に秘密の場所を……?


『実は、ここには誰も連れてきた事はないのです』

「えっ?」

『たった今、あなたを除いてですが。』


『理由は簡単なことです』



『……………あなたになら教えても良いと思ったのですよ』

 ▼ 61 ◆WaitStCgv. 16/07/02 08:48:26 ID:CYq0wmH6 [6/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


『もし、あなたが辛いことや苦しいこと。耐えられない事に直面した時は……』


『いつでもここに来なさい………。』


「ユクシー………」


『ただし、憶えていられたら……の話ですがね』

「えっ………それって………」








・・・
 ▼ 62 ◆WaitStCgv. 16/07/02 08:49:25 ID:CYq0wmH6 [7/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

・・・



「…………!」


目を覚ますと、そこは藁の上。

夢……ではなく………

思い出したと言うべきなのか。

今まで忘れていたが、たしかに俺はあの綺麗な空を見たことがあった。


……もしかしたらユクシーはあの場所にいるかもしれない。



「行かなくちゃ……」


俺は立ち上がると、フラフラとした足取りで洞窟を後にした。

 ▼ 63 ◆WaitStCgv. 16/07/02 08:51:54 ID:CYq0wmH6 [8/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


元通りになった大人の身体で、さっきの夢と同じように、あの崖への道を走った。


ガサガサと草むらをかき分け、複雑な森を抜ける。


過去の夢と今とでは年月が経ち、草の生え方や風景が若干違っていたが、おおよその道のりは理解出来た。




「………着いた……」



やがて、夢で見た崖へとたどり着く一歩手前までやって来た。

この先にユクシーがいるかもしれないと思うと、心臓が高鳴るのを抑えずにはいられなかった。

あくまでも、いる かもしれない だけなので、いなくてもおかしくない。


「それでも………!」


俺は思い切って崖への道を駆け上った。
 ▼ 64 ◆WaitStCgv. 16/07/02 08:53:02 ID:CYq0wmH6 [9/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


その場所は夢と全く変わらなかった。

何か整備されているわけでも、荒れているわけでもなく………


夢と全く同じだった。


日は沈み、辺りは暗くなり始めていて、本当に夢と同じ情景になろうとしていたんだ。

同じじゃないのは……俺の身体くらいのものだろう。


 ▼ 65 ◆WaitStCgv. 16/07/02 08:53:32 ID:CYq0wmH6 [10/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



え?

《夢と同じ》ならユクシーはいたのかって?



















いたよ。

今日もそこで星を見ていた。
 ▼ 66 ◆WaitStCgv. 16/07/02 08:55:24 ID:CYq0wmH6 [11/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

ユクシーはこちらに気づいていないのか、空を見上げ続けている。


「ユクシー」


俺は星を眺める彼女(彼なのか?)に背中ごしに声をかけた。


『…………誰ですか。私の名を呼ぶのは』


ユクシーは星を眺めたまま返事をした。

俺はなんと声をかけていいのかわからず………




「ただいま」




何故か帰宅の挨拶をしてしまった。
 ▼ 67 ◆WaitStCgv. 16/07/02 08:58:46 ID:CYq0wmH6 [12/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



『………は?』


「………っ!!」


案の定、ユクシーは《何を言っているんだお前は》といった怪訝な表情で俺の方を振り向いた。


せっかく感動的な再開なのにイマイチ決まらないのは、記憶を思い出したのが最近のせいだろうか。



「俺だよ、俺。いや、小学生のころは《僕》だったかな」

『ええと………あなたは……………』
 ▼ 68 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:02:34 ID:CYq0wmH6 [13/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


「えっ……もしかして憶えていないのか?」

『いえ、ちょっと待ってください。えーっと……』

「憶えていないんだろ…!」



すぐに思い出してもらえなかったのが少しショックだったので、俺は合言葉を唱えた。


「酷いなあ……忘れるなんて。ここ、お気に入りの場所………《秘密の場所》なんだろ?」


ユクシーはその言葉を聞いて、微笑みながらこちらへと振り向いた。


『忘れた日などありませんよ』


そう言いながら、ユクシーは夢で見た時と同じように笑った。

俺が十数年前に出会った子供だと確信したのだろう。

そりゃそうだ。《秘密の場所》を知っているのは俺だけなのだから。


『ずいぶんと遅かったのですね』
 ▼ 69 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:03:05 ID:CYq0wmH6 [14/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告









『おかえりなさい』








 ▼ 70 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:04:03 ID:CYq0wmH6 [15/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


それから、ユクシーとたくさん話をした。

十年と少しぶりの再開は、一夜じゃ語り尽くせなかった。

いつもは疲れて睡魔に襲われる時間帯でさえも、久しぶりの再開に興奮してしまって眠気など一ミリも湧かない。


ユクシーに「以前と変わらないね」と言うと、ユクシーは『あなたは随分と変わりましたね』と言われた。


お互いに笑いあって、それはそれは楽しい時間を過ごした。


 ▼ 71 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:05:50 ID:CYq0wmH6 [16/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

そして、朝を迎える頃にユクシーは言った。


『では私はこれで……』


そう言って、ユクシーは洞窟へと帰ろうとする。


「待ってくれ!」


俺は反射的に彼(いや、やっぱり彼女なのか?)を呼び止めていた。

何故なのだろうか。

元々は、フラッシュバックの原因を突き止めるために行動してきたのに、いつしか俺は《ユクシーと一緒に暮らせるんじゃないか》と考えるようになっていた。



「ユクシー……もし良かったら俺と……」

『ダメです』
 ▼ 72 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:08:32 ID:CYq0wmH6 [17/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「えっ?」

『言いたいことはわかりますよ。一緒に暮らしたいと言うのでしょう?』


ユクシーは俺に背中を向けたまま話を続けた。


『ダメです。私が許しません』

「そ、そんな………!」


俺は落胆した。

それは、ユクシーなら快く承諾してくれると思っていたからだ。


『もう話しても良いでしょう。』

「?」


ユクシーは話を続けた。
 ▼ 73 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:09:16 ID:CYq0wmH6 [18/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

『私はちしきポケモン。知識を司るポケモンです』

『そして、そんな私の能力は《記憶を消すこと》』

「!」

『もうわかったでしょう?』


ユクシーから突然告げられた衝撃の事実。

もし俺の考えが正しいのなら……


「それじゃあ、俺の記憶が消えていたのは……」


ユクシーはこちらを向いて頷いた。


『私のせいです』
 ▼ 74 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:10:40 ID:CYq0wmH6 [19/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


驚いた。実に驚いた。


「俺の記憶喪失の原因がユクシーにあったなんて……」

『きっと、一緒に暮らしたとしても、また記憶を消し去ってしまうだけでしょう』

『ならば私はそれを拒否します』



『だって、私にとってあなたは大切な存在だから……』



俺はどうしようもなかった。

こんなことってあるか。

離れていたら寂しいのに、近づけば近づくほど記憶が消滅するなんて。
 ▼ 75 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:17:39 ID:CYq0wmH6 [20/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

『さあ、記憶が消えないうちに帰りなさい』


ユクシーは俺を帰らせようとした。

しかし、感情を押し殺すので精一杯なのだろう。

彼女は震えていた。


「そんな………」



俺は自分の胸に手を当て、服を握りしめた。


怒り。

悲しみ。

やるせなさ。


俺も色んな感情が混ぜ合わさってどうすればいいのかわからなかった。
 ▼ 76 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:18:52 ID:CYq0wmH6 [21/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



だが、握りしめた服に違和感を感じるのはそう遅くはなかった。


「これは……!」


ふと、自分の服に視線を落とすと、胸ポケットにペンが入っていたのだ。

それを見た瞬間、俺は咄嗟にペンを手に取った。

右手にペンを持ち、キャップを外す。


そして数秒の後、俺はユクシーに向かって叫んだ。



「これを見てくれ!」


そう叫んで左の手のひらをユクシーに向かって突き出す。

手のひらには、《ユクシー》と書かれていた。

そう。これなら記憶をなくしても、手のひらに書かれた文字を見て思い出せるというわけだ。
 ▼ 77 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:23:11 ID:CYq0wmH6 [22/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


「俺なら大丈夫! だから……」

「一緒に暮らそう!!」


俺は解決策を見つけて歓喜していたのもあって、思い切って提案した。

しかし、そんな俺とは対照的に、ユクシーは残念そうに微笑した。


『全く、あなたという人は……』


「ダメ……なのか……?」



ユクシーはとても嬉しそうだったが、悲しそうでもあった。


これが運命?

ユクシーは誰にも近寄れないのか?

俺はユクシーに何もしてやれないのか?



「俺は…………」
 ▼ 78 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:23:55 ID:CYq0wmH6 [23/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



『私なら大丈夫です。』

「………!」


ユクシーは俺の頭を優しく撫でた。

そして、俺に微笑みかけると、ただ一言



『ありがとう』



とだけ呟いた。
 ▼ 79 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:24:35 ID:CYq0wmH6 [24/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告














『私はあなたのことをずっと忘れない』











 ▼ 80 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:36:50 ID:CYq0wmH6 [25/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告








・・・


・・・


・・・






 ▼ 81 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:37:52 ID:CYq0wmH6 [26/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




………とある都会の高層マンションの一室。

そこで男は目覚めた。


「…………ん……」


まだ眠たいのか、ベッドに埋もれて睡眠を貪ろうとする。

その直後、男は思い出したかのように起き上がった。


「………ユクシー!?」


その名を呼び、辺りを見回す。

窓から差し込んだ朝日を眩しいと感じたところで、やっと男は自宅のベッドで寝ていたことを自覚する。
 ▼ 82 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:38:33 ID:CYq0wmH6 [27/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



「そんな……!」


男は混乱していた。


《あれは夢だったのか》と。

《どこからが夢なのか》と。


収集のつかない頭をフル回転させて事態を整理していた。



「ウォーグル……」


部屋の片隅では大きな鳥型の生物が寝ている。

他には誰もいない。

ただ、外から小鳥のさえずりが聴こえるだけだ。
 ▼ 83 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:39:20 ID:CYq0wmH6 [28/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「夢……だったのか……」


男はガッカリして肩を落とした。

もう一度ベッドに身をうずめ、ため息をつく。

そして、手のひらをのぞき込む。


「あっ……!?」



《ユクシー》



そこには自分の見知った名前が書いててあった。

そして、肝心の記憶が消えていないことにも気がついた。
 ▼ 84 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:39:55 ID:CYq0wmH6 [29/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



男は安堵して、今度は嬉しいため息をついた。


あれは夢じゃなかったのだと。

ちゃんとユクシーに会えたんだと。


男は切実にそう思った。




「………さて、今日も会社に行かないとな」







 ▼ 85 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:41:10 ID:CYq0wmH6 [30/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

その後、男はいつも通り顔を洗い、朝食を食べ、身支度を済ませると玄関へと向かった。

靴を履き、ドアノブに手をかける。



「行ってきます」



男はそう言って玄関を出ると、眩しい朝日に照らされて気持ち良さそうに呟いた。



「今日も一日頑張るぞ……!」




左手でアタッシュケースを肩の後ろに回すように持った男。

その手の甲には《マタアイマショウ》という文字が不器用に書かれていた………────


 ▼ 86 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:41:30 ID:CYq0wmH6 [31/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

〜おしまい〜
 ▼ 87 ◆WaitStCgv. 16/07/02 09:44:50 ID:CYq0wmH6 [32/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


この物語は前編からの続きとなるお話でした。
遠い過去のお話はこちらになります。

http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=336899


ご閲覧頂きありがとうございました。


 ▼ 88 クレセリア@ドリのみ 16/07/02 09:56:40 ID:SdgbQxZ2 NGネーム登録 NGID登録 報告
乙ですた
 ▼ 89 フーディン@しろいビードロ 16/07/02 12:50:53 ID:anpAjkCk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙
 ▼ 90 プロトーガ@ノーマルジュエル 16/07/02 14:23:04 ID:NCTmUgng NGネーム登録 NGID登録 報告
後れ馳せながら乙!
 ▼ 91 チョボマキ@ねっこのカセキ 16/07/02 22:00:25 ID:xMNh63Wo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙!
面白かったよ〜
 ▼ 92 ケロマツ@ねむけざまし 16/07/03 18:10:20 ID:c5dYihic NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙

いつか一緒に暮らせるといいな...
 ▼ 93 ドジョッチ@バクーダナイト 16/07/04 13:06:13 ID:zJ.NkAus NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
前編から読んだよ

面白かった
 ▼ 94 ウインディ@ノワキのみ 16/07/06 22:34:42 ID:VcW5rShI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙
 ▼ 95 フレフワン@しめつけバンド 16/07/07 10:39:09 ID:UFjRyAJg NGネーム登録 NGID登録 報告
乙!
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