▼  |  全表示43   | << 前100 | 次  |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |   ▼   
                  スレ一覧                  
SS

【短編】セレナの待ち合わせ

 ▼ 1 ◆w5QmnsdCqg 16/08/29 01:16:53 ID:03v4U4Bc [1/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「まだ… 来ないのかな」

秋晴れが気持ち良い、とある平日の午後。

葉を赤く染めた街路樹が延々と続く大通りには大小の商業施設が並び、一角には地下鉄駅の出入り口がある。

セレナは、その駅へと降りる階段の前に立っていた。

見上げた空は澄み渡るように青かったが、石畳に積もった落ち葉を一斉に巻き上げる冷たい風は、すぐそこまで冬が迫っていることを告げていた。

 ▼ 4 ◆w5QmnsdCqg 16/08/29 01:25:01 ID:03v4U4Bc [2/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


旅をしていた頃とは違い、今のセレナはシフォン生地の白いワンピースに身を包み、また被っている帽子もグレーを基調としたものに変わっていた。

以前の彼女が好んで着ていた赤やピンク系の色は見られず、ストリート風の少し大人びた雰囲気を醸し出している。
久しぶりの再会のために、それなりのオシャレをしてきたのだ。

しかし、急激に冷え込んできたせいで身体を震わせる羽目になったばかりか、約束の相手は時間になっても姿を現さない。

セレナの小さいため息と同時にもう一度吹いた秋の風は、彼女の胸元で映える青いリボンをひらひらと揺らした。

 ▼ 5 ◆w5QmnsdCqg 16/08/29 01:56:09 ID:03v4U4Bc [3/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

目の前の大通りの往来が成す景色は、忙しなく入れ替わる。

車道を挟んだ向かい側の広場には、自分と同じように誰かを待っているらしい人がいくらか居た気がするが、そのいずれも今は姿が見えない。
おそらく待ち合わせを無事に果たして、どこか別の場所に行ってしまったのだろう。


駅の階段と手元の時計を交互に見る。そんなことを幾度となく繰り返しているうちに、さっきまで真上にあったバニプッチ状の雲は、ずいぶん離れたところまで流されていた。

「………はあ」

先ほどよりも深いため息をつき、再び時計の方に視線を落としかけた、その時であった。


「セーレナっ!」

「あっ…」


聞き覚えのある声に顔を上げると、目の前には今日の約束をしていた相手が立っていた。


「遅かったね、ミルフィ」
 ▼ 6 ◆w5QmnsdCqg 16/08/29 02:07:49 ID:03v4U4Bc [4/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「やっぱり、待たせちゃった?」

「うん、少しだけね」

これだけ待ちぼうけを食わされたのだから、現れた暁には文句のひとつくらい言ってしまおうかと思っていた。

しかし、灰色の時間の中に取り残されたような感覚から解放されたセレナはそうはせず、代わりに苦笑いを向けた。

ついさっきまで支配的だった憤りに似た何かは、跡形も無く消えている。


「ごめんねえ、乗り換えを間違えちゃって。都会の電車って、どうにもややこしくて苦手なのよね」

「もう、ミルフィったら」

謝罪の言葉を口にするも、ミルフィはあまり悪びれる様子を見せなかった。
それでも、セレナの顔は笑っていた。
 ▼ 7 ◆w5QmnsdCqg 16/08/29 02:14:02 ID:03v4U4Bc [5/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「…ところで」

そう言うとミルフィは、腰に手を当てて顔をセレナの胸に近付けた。
目は笑っておらず、まじまじと視線を上下に動かしている。

「へっ? なに…?」

不意の出来事にセレナが困惑を隠し切れないでいると、ミルフィはおもむろに姿勢を戻しつつ口を開いた。

「ふーん… 相変わらず服のセンスは良いじゃない」


セレナは心の中で「えっ」と呟くと、なんだそういうことかと納得した。
真剣な表情で何を言われるのかと、少しドキッとしたのが恥ずかしく思える。


「ふふっ、ありがと。ミルフィの服もすっごく可愛いよ」

セレナは屈託の無い笑顔でそう返す。
お世辞でもなんでもなく、率直な感想だった。


一風変わった再会の挨拶を終えると、二人は通りを並んで歩き出した。
 ▼ 8 ◆w5QmnsdCqg 16/08/29 02:15:49 ID:03v4U4Bc [6/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とりあえず、今日はここまでです。
明日も大体同じ時間帯に更新すると思います。

それではおやすみなさいませ。
 ▼ 9 ネイティオ@ふしぎなアメ 16/08/29 03:08:04 ID:YW6I6aGg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
2時に寝たん!?
俺は2時に起きた。
 ▼ 10 ◆.JtaKyYZ2A 16/08/29 07:04:47 ID:StoOpaIw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 11 ◆w5QmnsdCqg 16/08/30 01:18:23 ID:JRN/un9U [1/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「それにしても今日は結構冷えるわねえ。セレナは寒くないの?」

コートのポケットに両の手を突っ込んでいるミルフィは、吐いた息が白くなるのではないかと試すように深呼吸をした。

「うん。私は大丈夫」


セレナはそう言ったが、側から見ても彼女は明らかにミルフィよりも軽装だった。

とはいえ我慢出来ないほどの寒さでもないし、それに下手なことを言ってミルフィに気を遣わせるのも悪いと思ったセレナは、咄嗟にそう答えてしまった。
 ▼ 12 ◆w5QmnsdCqg 16/08/30 01:23:02 ID:JRN/un9U [2/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

しかし、やはりと言うべきか、ミルフィはそんな考えを既に見透かしてしまっている。

「そんなこと言って、さっきちょっと震えてるの見たわよ? ほらっ、早くどこかお店にでも入りましょ!」

ミルフィは呆れた表情を浮かべながら片方の手をポケットから抜くと、その腕をセレナの肩に回し、引っ張るように足の動きを速める。

ミルフィのこういうところには本当に敵わないなと思いつつ、セレナは時折見せる彼女の純粋な優しさに身を委ねていた。
 ▼ 13 ◆w5QmnsdCqg 16/08/30 01:29:25 ID:JRN/un9U [3/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

二人は近くにあった小さな喫茶店に入ると、通りに面したテーブル席に案内された。
店のインテリアは木目調で統一されており、自然と心が休まるような温かみを感じさせる。

ミルフィと向かい合わせの形で席につき、セレナは店内を軽く見回してみた。

時間が時間なだけに、着席している人影はまばらで、自分たち以外にいる客は皆ひとりで過ごしているようだった。


「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか」

「あたしはカフェラテで」

「私はホットコーヒーをお願いします」


呼び付けた店員を相手に、注文を手短に済ませる。
セレナは帽子を、ミルフィはコートをそれぞれ脱いで、ソファーの隣席に置いた。
 ▼ 14 ポワルン@ノーマルジュエル 16/08/30 01:35:45 ID:CMJVXCxs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 15 ◆w5QmnsdCqg 16/08/30 01:49:32 ID:JRN/un9U [4/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「今更こんな事言うのも何だけど、セレナはあたしと会ってて良いの? 毎日パフォーマンスのお稽古とかで忙しいんでしょ」

「うん。でも、今日と明日はお休みを貰ったの。だからテールナーたちも、今日は家のママに預けて来たわ」

「ふーん、そうなんだ。………で、急に会いたいだなんて、どうしたの? 何か話があるんでしょ?」

ミルフィはテーブルに両肘をついて身を乗り出すと、一種の期待を孕んだような口調でそう尋ねる。


しかし、セレナは首を振った。


「ううん。そういう訳じゃないの。ほんとに、ただ会いたかっただけ…」

「…え、なにそれ?」
 ▼ 16 ◆w5QmnsdCqg 16/08/30 01:59:24 ID:JRN/un9U [5/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

予想していなかった答えに、呆気にとられたミルフィは目を丸くした。

見てみれば、今のセレナの面持ちはどことなく暗いものを帯びている。
そういえば、さっきの待ち合わせの時に見たセレナの姿にも、どうにも形容し難い、憂いを感じさせるものがあった。

ミルフィが最初に明るく声をかけたのも、得体の知れない寒さに怯えているようなセレナを元気付けるためだったのだ。


「アナタらしくないじゃない。何か悩みでもあるの? あたしで良かったら相談に乗るわよ」

「ありがとね、ミルフィ。…でも、別に悩んでる事も、困ってる事も無いよ」


それは… 一体どういうことだろう。
多忙なはずのセレナがせっかくの休みの日に突然会いたいと連絡してくるばかりか、別段相談するような悩み事も無いとは。

それなのに、目の前のセレナの表情にはいつもの笑顔の面影が一切感じられず、これから自分とのお喋りを楽しもうという浮いた雰囲気も無い。

それともセレナのことだから、また自分の胸の中にしまい込もうとしているのだろうか。


あれこれ思考を巡らせていると、セレナの方から口を開いた。
 ▼ 17 ◆w5QmnsdCqg 16/08/30 02:09:31 ID:JRN/un9U [6/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「…私ね、寂しかったんだ」

「え?」


セレナは胸のリボンを握りしめながら、ぽつりぽつりと続けた。


「…私、旅に出る前は一人でじっとしていることが多かったの。家ではママも一緒に暮らしてたし、ヤヤコマやサイホーンも居たから、その頃は別に寂しくも何ともなかった」

「………」

「でも家を出て、シトロンやユリーカ、それにサトシたちと一緒に過ごすようになってからは、普段の何気無い生活が本当に楽しく感じて…」


セレナが喋るのを促すように、ミルフィは静かに姿勢を正す。
 ▼ 18 タネボー木の実ジュース 16/08/30 02:11:54 ID:OxuBPRY6 NGネーム登録 NGID登録 報告
一体何があったんだ?
支援
 ▼ 19 ◆w5QmnsdCqg 16/08/30 02:19:40 ID:JRN/un9U [7/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「もちろん、みんなとお別れしてヤシオさんのところに行ってからも、毎日とっても刺激を受けてるし、自分の夢に少しずつ近付いているんだっていう実感もあるわ」

「………」


「…でも、たまに旅をしていた頃を思い出すと、 …凄く寂しく感じることがあるの。いつの間にか、みんなと過ごす生活が、私の中で当たり前になっちゃってたんだと思う。 …それで、今の環境には満足しているはずなのに… 何故かあの時に戻りたくなることがあって」

「………」


「そんなこと出来るはずがないし、もし出来るとしてもしちゃいけないって…… 分かってるのに、何だか…っ、心におっきな穴が開いたような気がして…っ」


いつの間にか、セレナの声は震えていた。
 ▼ 20 ◆w5QmnsdCqg 16/08/30 02:29:06 ID:JRN/un9U [8/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「…って、ごめんね。急に変なこと言っちゃって。ポケモンたちもずっと一緒に頑張ってくれてるのに、私がこんなんじゃ、みんなに失礼よね」

目尻をじんわりと赤くしたセレナは、決まり悪そうに苦笑した。

それを認めると、ミルフィはため息をつきながら頬杖をつく。


「………なーんか、新鮮ねえ」

「うん?」

「セレナがそんなこと言うなんて」

「え?」
 ▼ 21 ◆w5QmnsdCqg 16/08/30 02:39:19 ID:JRN/un9U [9/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

旅をしていた頃に出場した一連のトライポカロンでは、ミルフィはセレナに一度も勝ったことが無い。

正直なところ、その当時から力の差を肌で感じていたが、セレナがヤシオさんの元で指導を受けると聞いた時は、改めてそれを思い知らされたような気がした。

プロにその実力を認められていながら、一切おごろうとせず人望を集めるセレナの清々しい人柄に、ミルフィは嫉妬と羨望が入り混じったような念を抱いていた。


先ほどの告白は、そんなセレナの口から初めて聞いた「弱音」だった。

いつも仲間たちの笑顔に囲まれていただけに、忘れた頃にやって来た大きな孤独感は、セレナの心から容赦無く色を奪ってしまっていたのかもしれない。
 ▼ 22 ウソッキー@ピントレンズ 16/08/30 02:41:20 ID:shj4PWQI NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 23 ◆w5QmnsdCqg 16/08/30 02:47:13 ID:JRN/un9U [10/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「…でも、そういうものなのかしらね。あたしはセレナと違ってずっと一人でいたから、よく分からないけど」

そこまで口にしたところで、ミルフィは何かを考えるように手を顎に当てる。
そしてセレナの顔をじっと見つめ距離を詰めると、そっと呟いた。


「………もしかして、サトシのこと?」

「えっ…」

ここまでの話を聞いただけで、ミルフィはセレナがその胸に抱えているわだかまりの正体を、いとも容易く言い当ててしまった。
やっぱり、ミルフィは何もかもお見通しのようだ。

声に出して答える代わりに、セレナは悲哀に満ちた表情で頷いた。

 ▼ 24 ルナトーン@ホロキャスター 16/08/30 02:52:21 ID:xDjsBhvE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しえ
 ▼ 25 ◆w5QmnsdCqg 16/08/30 02:54:40 ID:JRN/un9U [11/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

その有様に、ミルフィもいくらか同情した。

以前のセレナなら、サトシの名を出しただけで頭から湯気を出して顔を紅潮させ、大袈裟なほどに狼狽えていただろう。
ほんのちょっとからかっただけで期待以上の反応をしてくれるその様子が面白くて可愛かったのに、今の彼女はあまりにも憔悴しきっている。

それまでミルフィは自分なりに発破をかけてきたつもりだったが、恥ずかしがり屋で奥手なセレナは結局、想い人に自身の恋心を打ち明ける事が出来なかった。

その後悔は、ミルフィが思っている以上に、セレナの心に大きな風穴を開けていたらしい。

 ▼ 26 ◆w5QmnsdCqg 16/08/30 03:02:38 ID:JRN/un9U [12/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「はあ、アナタも一途ねえ。呆れるのを通り越して、むしろ感心しちゃうくらいだわ」

「うん… ダメだよね、私。昔の事をいつまでも引きずって…」

セレナはそう言いながら、力無く笑顔をつくった。


「それにしたって、サトシもサトシよね。こんなに分かりやすいのに、セレナの気持ちに最後まで気付かないなんて」

「ううん。サトシが悪いんじゃないよ。私が少し…… ほんの少し勇気を出せば良かっただけで……」

「セレナ…」


あまりにも大きな未練を断ち切れないでいるセレナに、ミルフィはどう言葉をかけたら良いものか当惑していた。
淡い色をした初恋は思い出の中にしまって、新しい恋を探せなどとは、冗談でも言う気にはなれない。

セレナにとって、サトシが初恋の相手以上の深い存在であることは、ミルフィも知っていたから。


セレナの目には、いつの間にか大粒の涙が浮かんでいた。


 ▼ 27 ◆w5QmnsdCqg 16/08/30 03:11:51 ID:JRN/un9U [13/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ミルフィはふっと息を吐く。


「……よっぽど好きなのね。サトシのことが」


子どもを慰める母親のような優しい口調でそう語りかけると、セレナは目を見開き、慌ててハンカチで顔を覆った。

膨れ上がっていく想いを必死にせき止めていた堤が決壊し、一気に溢れ出てくるような感覚に襲われる。


ミルフィや周囲の目を気にすることすら忘れ、セレナは俯いてハンカチに顔を埋めながら、ひたすら肩を震わせ続けた。


ミルフィは何も話さず、そんな親友の素直な姿をしばらく見守っていた。

 ▼ 28 ◆w5QmnsdCqg 16/08/30 03:19:39 ID:NVWOk4Lc NGネーム登録 NGID登録 報告
行けるところまで行ったつもりなんですが、今日はここまでにさせて頂きます。
明日もおよそ同じ時間帯に更新すると思います。

短編とか言いながら日付またぎまくってすいません!
次で最後です。
 ▼ 29 リーフィア@ミュウツナイトY 16/08/30 05:06:47 ID:MF6fyhdE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
いい…
支援
 ▼ 30 バオッキー@ヨロギのみ 16/08/30 07:49:21 ID:6UdWudZM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
雰囲気が好き
支援
 ▼ 31 ◆w5QmnsdCqg 16/08/31 01:18:19 ID:EY9xOVh6 [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

鼻をすする音がしたあと、セレナは長く息を吐きながらハンカチをしまった。
どことなく吹っ切れた様子で、笑顔をつくる。

「ごめんね。こんな顔見せちゃって」

「良いのよ別に? …それにセレナが泣いてるところなんて、そうそう見られるものじゃないしね」

ミルフィは再び頬杖をつくと、意地悪そうに笑みを浮かべる。

自分の話を親身に聞いてくれて、一方でいつもの調子を崩さないミルフィを相手に、セレナの方もある程度は落ち着いてきた様子だった。

それを感じ取って少し安心したミルフィは、更に煽るような口調で続けた。


「……やっぱり、あたしなんかがセレナを差し置いてサトシと一緒になるなんて、最初から無理だったみたいね」

「えっ、ちょっ…! もしかしてあの時のミルフィって、やっぱり本気だったの!?」

「さあ… どうかしらね」

ミルフィが笑ってみせると、セレナは頬を赤くした。
記憶を呼び起こすような懐かしいやり取りに、ミルフィはほのかな心地良さを感じていた。

 ▼ 32 ◆w5QmnsdCqg 16/08/31 01:25:50 ID:EY9xOVh6 [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「お待たせ致しました、こちらカフェラテとホットコーヒーでございます」

「あ、はい」


タイミング良くやって来た店員からそれぞれ飲み物を受け取ると、セレナは両手でコーヒーカップを持ち、立ち上る湯気を浴びた。

ミルフィが「湿気で涙の跡をごまかすつもりか」とからかえば、セレナは笑いながら否定した。


「ミルフィ、ありがとね。お陰で気分がずいぶん晴れたわ」

「ふふっ。どういたしまして。じゃあその代わり、今日はこれからあちこち連れ回してあげるから、覚悟しておきなさい?」

「ちょっと、どこへ行くつもりなのよ…」

 ▼ 33 ◆w5QmnsdCqg 16/08/31 01:33:36 ID:EY9xOVh6 [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

それからしばらく他愛ない会話を続けていると、セレナは何かを思い出したようにカップを置いた。


「私ね。最後にサトシとお別れした時、ひとつ約束したの」

「約束?」

「そう。もし、お互いに夢を叶えることが出来たら… 私がカロスクイーンになって、サトシがポケモンマスターになったら、その時は……」

「その時は?」


「…その時は、どこかでまた会おうって」

「どこかって…… どこよ?」

「分からないけど、どこか」


セレナらしからぬ、ずさんな話に思わず口に含んでいた物を吹き出しかけたミルフィは、派手に咳き込みながら突っ込みを入れる。

 ▼ 34 ◆w5QmnsdCqg 16/08/31 01:41:45 ID:EY9xOVh6 [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「なあにそれ?! 約束って言いながら、大事な事が何一つ決まってないじゃない! しかもお互いに夢を叶えたらって、いつになるか分かったものじゃないわよ!」

「うーん… やっぱりそう思う? でもあの時の私、何故かそれで十分だと思っちゃったみたいで…」

「至極肝心なところでとんでもない大ポカをやらかしたわね… せめてもっとちゃんとした取り決めをしておけば、今こんなに後悔することも無かったんじゃないの?」

「うぅ…」


セレナはぐうの音も出ないといった様子で、胸のリボンを弄った。

それを見たミルフィは、カフェラテをすすりながら何気無い調子で尋ねる。


「そういえばセレナって、前からずっとその青いリボン付けてるけど、お気に入りなの? その割には、ずいぶんくたびれてるみたいだけど」

「ああ、これ。そういえば、ミルフィにはまだ言ってなかったね」


セレナは目を細めながら視線を落とすと、ところどころシワがよっていて少し色褪せたリボンを優しく撫でた。

 ▼ 35 ◆w5QmnsdCqg 16/08/31 01:48:54 ID:EY9xOVh6 [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「これね、旅をしていた時にサトシから貰ったプレゼントなんだ。…ずっと大事にしてる、私の一番の宝物」

「ふーん… あのサトシがそんなことを?」

ミルフィは信じられないといった地味な反応を示すと、再びカップを口元に持って行った。


「うん。それにね」

「うん?」


「このリボンを付けていれば、いつかまたサトシに会えるような気がするの」


 ▼ 36 ◆w5QmnsdCqg 16/08/31 01:55:37 ID:EY9xOVh6 [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

先ほどに続き、ミルフィはまたも吹き出しそうになった。

まさかセレナの口からそんなドラマみたいな台詞が出てくるなんて、考えたことも無かった。
もっとこう、現実的な性格をしていると思っていたのに。


「セレナ… アナタって乙女チックというか、相当おめでたい性格みたいね… ここまで来ると、逆に尊敬するわ」

「ふふっ。でも、こういうのもちょっと素敵じゃない?」


やっぱり、今日ミルフィと会って良かった。

胸の内を閉ざしていた分厚い灰色の氷の壁は、じんわりと溶け始めている。

 ▼ 37 ◆w5QmnsdCqg 16/08/31 02:03:28 ID:EY9xOVh6 [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

今日一番の笑顔を見せたセレナは、ふと窓の外に目をやった。
落ち葉が風に舞っているのを見ると、外の寒さを思い出す。

しかし寂しさをすっかり吐き出した今のセレナの心は、色を帯びたかつての温かみを取り戻していた。



時間も場所も決めていない、未来の待ち合わせ。

ミルフィにはおめでたいって言われちゃったけど、いつの日かそれを果たせる時が来るまでは、私の新しい「大好き」を追いかけるから。


この先心の拠り所となるであろう約束を胸に、セレナは決意を新たにする。



どこか遠くにいるあの人も、きっとこの空を見ているんだろうな。


そう見上げた空は、セレナの胸のリボンと同じ色をしていた。


〜 『セレナの待ち合わせ』 Fin 〜

 ▼ 38 ◆w5QmnsdCqg 16/08/31 02:05:46 ID:EY9xOVh6 [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
以上でこの作品はおしまいです。
読んで下さった方、支援して下さった方、どうもありがとうございました。
 ▼ 39 コアルヒー@あかいビードロ 16/08/31 02:09:27 ID:3uEPGP5s NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
乙
 ▼ 40 ◆.JtaKyYZ2A 16/08/31 02:09:49 ID:08JQSN92 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙です。

きっとまた逢えるはずです
 ▼ 41 メガチャーレム@サンのみ 16/08/31 02:33:45 ID:JwR0qI22 NGネーム登録 NGID登録 報告
乙
しっとりとした文章好きだわ
 ▼ 42 リングマ@ヨロギのみ 16/08/31 06:50:07 ID:kEx97vkw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
おつ!
落ち着いた雰囲気が良かったです
 ▼ 43 イルミーゼ@リピートボール 16/09/01 21:21:16 ID:FEmXi/P. NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
乙です
  ▲  |  全表示43   | << 前100 | 次  |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |  ▲      
                  スレ一覧                  
荒らしや削除されたレスには反応しないでください。
書込エラーが毎回起きる方はこちらからID発行申請をお願いします。(リンク先は初回訪問云々ありますがこの部分は無視して下さい)

. 書き込み前に、利用規約を確認して下さい。
レス番のリンクをクリックで返信が出来ます。
その他にも色々な機能があるので詳しくは、掲示板の機能を確認して下さい。
荒らしや煽りはスルーして下さい。荒らしに反応している人も荒らし同様対処します。




面白いスレはネタ投稿お願いします!
(消えた画像の復旧依頼は、問い合わせフォームからお願いします。)
スレ名とURLをコピー(クリックした時点でコピーされます。)
新着レス▼