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【SS】オシャマリ「ポケモンサーカス団エクリプス!」

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 17/01/02 21:42:26 ID:LvCDM3Hw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







プロローグ  0 アシマリは語る






 ▼ 259 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:47:51 ID:ckyWYs.w [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「ふぅ。これで、お前は護れるかな」

ニャビー「……行かないでよお兄ちゃん、そんな事言わないで」


あたしを護る。その発言の真意を汲み損ねて、あたしはそんな脈絡のない事を言った


ニャヒート「いや、俺は逃げる。お前の分まで罪を背負ってな。

       こんな別れ方したら、どうやったってヘイトは俺に向かうだろ。

       お前の分を少しでも減らせるなら……本望だ。

       ま、恨んでねぇっつったら嘘になるけどな」

ニャビー「でも、でも……」


ぐずるあたしの頭を、お兄ちゃんの前足は優しく撫でた。

穏やかで、暖かく、しかし、力強い前足で。

あたしは、こらえきれずに、涙を流した。

行ってしまう。お兄ちゃんが、行ってしまう。

それをわかっていて、あたしは止める事が出来なかった。

駄目だった。その炎が、あたしを優しく撫でたから。
 ▼ 260 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:48:22 ID:ckyWYs.w [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告














翌日、お兄ちゃんは消えた。
 ▼ 261 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:48:59 ID:ckyWYs.w [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしは、お兄ちゃんの策略のお陰か、露骨に酷い扱いを受ける事はなかった。

――なんて、なるはずもない。

むしろ、お兄ちゃんが消えた分のとばっちりを、あたしは、より酷く受ける事になっていた。


ニャビー「……お兄ちゃん、助けてよ……」


あたしの存在は、もはやなかった。

透明ポケモン、とでも言うべきか。食事もなく、話し掛けても誰も何も返さない。

存在を否定されるという恐怖を、あたしは骨の髄まで味わった。

限界が訪れるまで、そう長くはかからなかった。

あたしは、団長に辞表を叩き付け、ネメシーを去った。

その勢いには、恨みつらみしかなかった。

ポッポがポケマメテッポウオを食らったような表情をしている団長を後目に、あたしはそのままネメシーを消えた。

そして、△2に至る。

お兄ちゃんも、きっと、サーカスからは逃れられない。少なくとも、あたしは無理だ。そう信じて。
 ▼ 262 ォッシュロトム@ムシZ 17/01/07 21:49:32 ID:ckyWYs.w [4/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
名前欄忘れてた
ここまでです
 ▼ 263 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:20:35 ID:0e8Z7aUk [1/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







43〜51 公演までに






 ▼ 264 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:21:06 ID:0e8Z7aUk [2/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
43-◇15

翌日。僕とアママイコ、そしてエクリプスの中でも腕っぷしの強いポケモン数匹を連れて、団長はルテーとの打ち合わせに出かけた。

なんと、そこには町長も立ち会うという。

これで、少なくとも不穏な行動を起こされる可能性はない。

今何かをしでかしたら、それは権力に盾突く行為。

奇しくも、この町長を巻き込んだ合同サーカスという案は、この1週間の僕たちの安全を保障していた、という訳だ。


アママイコ「あー、緊張するなー」

フーディン「い、いや、俺の方がヤバいから! ぜ、ぜ、絶対俺の方がヤバいから!」

「団長さぁ、あんたが緊張する必要ねぇだろ」と団員の1匹が言う。

フーディン「いやそうだけどさ、いや、アマージョの威厳ヤバいから! しかもこんないろいろあって、ホントダメだから!」

アママイコ「アハハ! フーディン見てたら落ち着いて来たよ」


そう言って笑うアママイコの表情がどうしようもなくかわいくて、僕は目を逸らした。


「言われてるぞ、団長」

フーディン「あーもう! ビビりで結構! みんな、こんな不甲斐ない団長の事ちゃんとフォローしてくれよ?」
 ▼ 265 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:21:39 ID:0e8Z7aUk [3/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんなコントみたいな会話をしながら僕たちは町長と合流した。

さすがの団長も、別に舞台に上がる訳でもアマージョの「じょおうのいげん」を前にした訳でもないから緊張はしていない。


フーディン「この度は、私たちの提案にご賛同下さり、ありがとうございました」

町長「いやいや。こちらこそ、お陰でこの街もより一層活気に溢れますよ」

フーディン「打ち合わせはここですよね。ルテーの方は……」

町長「まあ、少しぐらい遅れても構わないでしょう。ルテーは今、忙しいんですから」

フーディン「ですね。あ、それと町長。私は、幾分とあがり症でして、向こうの団長を前に緊張してしまうと思いますが……」

町長「ああ、そういやあがり症とか言ってましたね。新聞にインタビューが乗ってましたが、そこに書いてました」

フーディン「えっ?! 俺そんな事言ったかな……」

モクロー「団長、素が出てる」

フーディン「あっと……失礼しました」


町長は「お気になさらず」と笑った。
 ▼ 266 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:23:08 ID:0e8Z7aUk [4/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そうこうしている内に、気配を感じ、それを知っている僕とアママイコは少し身構えた。

……もっと露骨に反応しているのが団長で、まあ、お察しの通りである。


町長「いや、にしてもこの感覚は何回味わっても慣れませんな……」

モクロー「気持ちはわかるから、団長、落ち着いて。アママイコもしっかりしてるんだよ」

フーディン「いや、だからこれは――」


団長がそう叫びかけた所で、アマージョ以下数匹(ただし、ガオガエンは含まれていない)の姿が見えた。

慌てて言葉を呑み込む団長に、僕たち一同、揃って失笑した。
 ▼ 267 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:23:44 ID:0e8Z7aUk [5/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
町長「お待ちしてました」

アマージョ「お待たせしてすいません」


表向き、ただの、人当たりのいい――体からムンムンと発される、強烈過ぎるオーラを除けばだが――サーカス団の団長だ。

けれど、彼女たちは、ニャヒートを監禁した。

そして今、僕たちには、彼女の娘が付いている。

その事実に、彼女は今、何を思っているのだろうか。

生憎、その顔からはうかがい知る事が出来なかった。

が、それならそれでいい。

一時的とはいえ、少なくとも町長の目が届くうちは、表には出さないという休戦協定が結ばれた、と考えられるから。


モクロー「いえいえ。こちらも今来たばかりです。それじゃ、打ち合わせを始めましょうか」


団長は機能停止している。僕が槍玉に上がるのが一番だろう。本来の意味とはズレているが、ここではなんだか、この表現がしっくりくる。

アママイコは、唇を固く結び、僕たちが話すのを眺めていた。
 ▼ 268 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:24:18 ID:0e8Z7aUk [6/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
結局、打ち合わせ自体はなんら問題なく進んだ。

司会進行に関しては、最初はアマージョが行い、エクリプスメンバーの紹介は僕が、ルテーメンバーの紹介はアマージョが担当するという事に決まった。

アマージョが、うちのパフォーマンスを司会以外の視界から見てくれるというのが絶対条件だったため、この形で妥協した。

なるべくなら両者を比べてもらいたかったのだけれど、アマージョの実力は確かな物なのだ。僕なんかが出しゃばる隙はない。

エクリプスに関しては僕の方が知っているとの触れ込みで、最低限のラインだけはなんとか死守出来たのだ。よしとしよう。
 ▼ 269 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:25:00 ID:0e8Z7aUk [7/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
舞台の順番は、細かい所はまた詰めていくとして、それでもトップバッターだけはなんとしてもとアシマリを推した。

誰もが――あのニャヒートもが認める、「見てて楽しさが伝わるパフォーマンス」の権化、アシマリ。

そのパフォーマンスが少しでも、ガオガエンとアマージョの創り上げた城の錆び付いた扉に差すオイルとなってくれればという淡い期待を込めたのだ。

もっとも、水と油は決して出会い、交わる事をしない。そう考えると、水タイプのアシマリは少々縁起が悪い。

けれど、アシマリなら、きっとそんなもの、吹き飛ばしてくれる。何しろ、神を押し返した実力なのだから。

縁起なんて、鼻で笑うサーカス団。それがエクリプスであり、その筆頭は、友だちとしての贔屓目抜きに、どうやったってアシマリなのだ。

ちなみに、アマージョに対しては、「アシマリのパフォーマンスはとってもキャッチーなんです。最初にぶつけるには向いてます」と説明した。

アマージョも一応考えてはくれるらしい。そこまで強い拘りがある訳でもないだろうし、たぶん大丈夫だと思うよー、というのは後でアママイコが語った物だ。

やるからには、観客の評判のいい、素晴らしい物にしたいはずだからって。

それ以外には特にこちらからの希望はなかったのだが、なんと向こうから、ニャビーのパフォーマンスは最後にしてくれないかと持ち掛けて来た。

正確にはもうニャヒートだと訂正すると、けれどアマージョは、あまり驚く事なく、そのままニャヒートを最後にと言う。

狙いはわからなかったが、別段拒む理由もない、むしろ願ったり叶ったりだ。どうせなら、最後に残して置いた方が印象に残るのだ。そう言って承知した。
 ▼ 270 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:25:36 ID:0e8Z7aUk [8/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その他の順番は、また今後突き詰めていくという事になり、僕たちは別れた。


町長「それじゃあ、お二方、これからよろしくお願いします」

モクロー「はい」

アマージョ「こちらこそ」


ちなみに、最後までアママイコとアマージョが話す事はなかった。

互いに何も感じさせないような素振りを続けていたためか、恐らく町長は、2匹が親子である事に気付いていない。

隠すなら徹底的に、か。

どうやってダメージの少ない暴露をしようか頭を悩ませていた僕にとって、この展開は正直拍子抜けでもあった。

けれど、それならそれで好都合だ。

少なくとも、本番まで余計な事に頭を悩ませる必要がなくなったのだから。
 ▼ 271 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:26:09 ID:0e8Z7aUk [9/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
本番以降の事は、努めて考えないようにしていた。

きっと、アシマリとニャヒートなら成功させる。そう、無理矢理に楽観的立場に立っていた。

失敗した時の事なんて、考えたくもない。

どうやったって、見るに耐えない結末しか待っていないから。

もう、アママイコがニャヒートを連れ帰って来た時点で、いや、僕たちが合同サーカスなんて提案をした時点で、僕たちにはもう、成功しか残されていない。


アママイコ「まあ……完全にあたしは無視だったね。こうなったら、もう何が何でもお母さんを説得するよ!

       フーディン、あたしも何か出来る事ある?!」

フーディン「え? お前はルテーで何してたんだ?」

アママイコ「えっと……司会、の練習かな」

フーディン「うーん、この合同公演に関しては、モクローとアマージョでもう2匹いるしなぁ……。

       アママイコ、家事とか出来るか?」

アママイコ「えっと……お皿洗いと布団干しぐらいなら」

フーディン「布団は……まあ個人でやるからいいとして、それなら皿洗いを手伝ってやってくれ。

       照明はサーカスのキモなんだが、それ担当のブラッキーが家事好きでさ、そっちばっかであんま練習できないんだよ」

アママイコ「わっかりましたぁ!」
 ▼ 272 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:27:25 ID:0e8Z7aUk [10/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
44-△15

ニャヒート「っ!」


痛みにあたしは顔をしかめた。

いくらバルーンのクッションが効いていると言っても、痛いのは痛い。

それにあたしは炎タイプ。水のバルーンは、やはり少しずつとはいえ、あたしの体にダメージを蓄積させている。

食事、睡眠以外の時間を全て練習にあてているため、最低限の休息は取れているものの、息抜きの時間はない。

しかし、そんな事をしていたら時間が足りないのは、高さ問題を解決した今も変わらない。

まだまだ課題は山積だ。
 ▼ 273 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:27:55 ID:0e8Z7aUk [11/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
まず、未だに一度たりともピッタリの高さに合わせられない。

そして合わせられたとしても、今度はクオリティの問題がある。

力強さと繊細さを併せ持つパフォーマンス。求められているのはそういう事だ。

昨日のアシマリの発言にあたしはそう気付いた。

炎の力強さだけではダメだ。謎の引っかかりの、正体はそれだ。

ただただ強引な、力強さだけのパフォーマンスは、迫力があってもそれだけだ。

お兄ちゃんたちの心には響かない。

技術を維持したままでニャヒートならではのパフォーマンスをする。

これだけが、あたしたちの希望なのだ。

お兄ちゃんだって、わかっていたはずなのだ。バランスを崩しやすい以上今までのパフォーマンスは出来ないと。

それでもそのままのパフォーマンスに固執したのは、技術を捨てたくなかったから。

あたしは、そうなりたい。あたしがするしかないのだ。もう、お兄ちゃんには自力でのパフォーマンスは残されていないのだから。
 ▼ 274 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:28:31 ID:0e8Z7aUk [12/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリも、相変わらずあたしの横で練習している。

あたしは別にアドバイス出来る訳でもないし、みんなと一緒にすればいいのに、といつも思うのだけれど、これはアシマリなりの気遣いだろうか。

あたしを1匹にしたくないという。

けれど、アシマリの気遣いに構っている暇はない。

あたしは再び階段を登り、そして踏切台を踏み抜く。

そして、まずは最初のブランコにぶら下がった。

揺らして、飛ぶ。

炎を下へ吐き出しながら、あたしは、狙いを定める。

火力が強い。少し弱めて……。

まだ、高い。クソッ。

ブランコの棒は、あたしの下をくぐり抜けて行く。

けれど、惜しい。もう少し全体的に弱めて――

少しずつ遠くなるブランコに、あたしはそんな事を考える余裕すらあった。

柔らかく、冷たい感触があたしを包み込む。
 ▼ 275 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:29:07 ID:0e8Z7aUk [13/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そうやって、何度繰り返しただろうか。

回数に意味などから初めから数えてなどいないが、もう数えきれないぐらい飛んだ頃。

あたしの前足は、確かにブランコの棒を掴んでいた。

思わず「やった」と声が漏れる。

しかし、油断は禁物。

あたしは、再びそれを揺らし、今度は高く飛んで、ぐるりと一周大回りをして元の棒にぶら下がらないといけない。

それが出来たら2回転、3回転と飛び移る間に重ねていかなければならない。

ニャビー時代は、まだまだ遠い。

とりあえずはブランコから飛び移る事なく、そのまま向かいの踏切台に着地した。

まずは、今の感覚を掴む。

それが何よりも大前提だ。体のバランスを崩しても失敗しないあたしを見せる事が。
 ▼ 276 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:30:40 ID:0e8Z7aUk [14/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「おめでとー!! 掴めてたよ!」

ニャヒート「ううん、まだ。この感覚をものにしないと」

アシマリ「あー、それもそうだね。でも、1回出来たらなんとかなるんじゃない?」

ニャヒート「だからクセにしたいの。今までの感覚を抜くので精一杯なんだから」

アシマリ「そっか……。もう、なんというか、頑張れって、オイラ、こればっかりだ」

ニャヒート「それでもいいよ。結局、どれだけみんながお膳立てしてくれようと戦うのはあたしとお兄ちゃんの、1対1。

       それなら、応援してくれるだけでもいてくれればもう心強いから」

アシマリ「そう言ってもらえるとオイラも嬉しいよ。頑張って」

ニャヒート「――あったりまえよ」


あたしは、口角を持ち上げてみせた。
 ▼ 277 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:32:40 ID:0e8Z7aUk [15/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
45-○15

どう考えても、ニャヒートに進化してから、近付きやすくなってるよね。

前は頑張ってと言っても、「当たり前」と変わらない表情で返すだけだったのに。

それが今では、微笑みもする。

ニャヒートは、また、空を飛ぶ。

オイラの目に、真っ赤で力強い炎が映る。

ニャヒートの体はそれに包まれて、その炎が特に、重点的に下を狙うのが見える。

ニャヒートの体はふわりと持ち上がり、そして、ブランコにその前足を掛けた。

また成功だ。

オイラは「やったぁ!」と叫ぶ。

ニャヒートなら大丈夫。そう信じてはいても、やっぱりこう成功の様子を見せられると嬉しくなる。
 ▼ 278 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:33:15 ID:0e8Z7aUk [16/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒートは、現在進行形で変わり続けている。

ガオガエンに教わったパフォーマンスを超えた所で自分の道を探しているから。

ニャヒートの表情が、それをハッキリと表していた。

感情を露わにするパフォーマンス。

過去に、ニャビーはそれが出来ないと嘆いていた。


アシマリ「なんだ……出来るじゃん」
 ▼ 279 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:34:07 ID:0e8Z7aUk [17/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビーは、いいや、ニャヒートは、やっぱりサーカスの天才だ。

いいと思った物を、貪欲に取り込み続ける。

オイラが取り込まれる対象になったのは嬉しいけれど、これじゃあ困る。


アシマリ「追い付いて欲しいんじゃ、なかったのニャヒート」


あの後、オイラは勝ち負けには拘らないと返したけれど、それでも最終目標をニャビーに設定するぐらいの影響は残った。

参ったな、これじゃ、無理だ。オイラじゃ、どう足掻いたって追い付けなくなる。

でも、これでいいのかもしれない。

オイラは、いつまでも追い掛け続けられる。

ニャヒートも、いつまでも追われ続ける訳だ。

悪くない関係なのかもしれない。結局、それがわかるのは、全部終わってからだ。

さて、オイラも練習しよう。そうしないと、しっぽも見えなくなるから。
 ▼ 280 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:36:21 ID:0e8Z7aUk [18/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そう簡単には割れないバルーンを創り、その中へ飛び込む。

水に潜り、オイラは空を飛ぶ。

ニャヒートみたいな飛び方は出来なくても、重力を感じないこのバルーンは、充分空だ。

オイラも、高みを目指せる。

きっと、変わって行ける。

泡を作り、炭酸バルーンを弾けさして、オイラは着地を決めた。

オイラのコンディションは、たぶん、絶好調。

1週間と調整しなくても、今すぐにでも舞台に立てるだろう。

ニャヒートは、何度でも空を飛ぶ。5回に4回の成功率でブランコにぶら下がれるようになっていた。

けれど、まだダメ。百発百中じゃないと。

絶対ニャヒートならそういう。

それをわかったから、オイラも自分の練習を続けた。
 ▼ 281 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:37:03 ID:0e8Z7aUk [19/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「おーい! 2匹とも、ごはん出来たよ!」

アシマリ「あ、はーい、すぐ行く!」


ニャヒートは、奇しくも5分の1を引き当てたタイミングで、少し悔しそうに顔をしかめながら、すぐにこちらを振り向いた。


ニャヒート「あたしも行くよ、腹が減っては戦は出来ぬ、しね」

アママイコ「そーだよ? ホント、ごはんって大事だよ。その点エクリプスって凄いよね。あんなおいしい料理、打ち上げですら食べた事ないのにそれが日常なんだよ?

       あたし、料理習おっかな。この公演が終わったら、もう味わえなくなっちゃうかもしれないんだし」

アシマリ「それがいいよ! ルテーのみんなも、おいしい料理食べたら和むと思うよ?」

アママイコ「だよね! あの味は世界を救うよ、ホント。

       あ、もしかしてだから世界救えたの? エクリプスって」

ニャヒート「うん、それは違うかな」

アママイコ「むー」


頬を膨らませてみせるアママイコ。

ニャヒートがあざといぞ、そういうのはホントに好きなポケモンの前だけにしとけとツッコみ、オイラは愕然とニャヒートを見詰めた。
 ▼ 282 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:38:30 ID:0e8Z7aUk [20/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「何、どうかした?」

アシマリ「いや、れ、恋愛っぽい話出来るんだ……」

ニャヒート「別にあたし、鈍感じゃないから。アママイコとは違ってね」

アママイコ「あたしリーフガードなんだけどなぁ……」

ニャヒート「一般論。アママイコって「どんかん」なのが多いって聞いたから」

アママイコ「ああ、そういう。まあ、確かにそうだね。お母さんも、アママイコ時代はどんかんだった」
 ▼ 283 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:39:17 ID:0e8Z7aUk [21/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「ちょ、ご、ごめん付いてけない」

ニャヒート「いわゆる恋バナって奴ね。サーカスにしか興味がないあたしだけど、話すぐらい♀の本能で出来る」

アママイコ「え、それはちがくない? 恋バナって誰が誰を好きって話でしょ」

アシ・ヒート「アママイコが(あんたが)モクローを好き、みたいな?」

アママイコ「っっ〜〜っ!」


アママイコが、見ているこっちも恥ずかしくなるぐらい顔を赤らめた。

けれど、オイラたちは続けてからかう。


アシマリ「バレバレだよ、ハッキリ言って。当のモクロー以外」

ニャヒート「今は恋愛沙汰なんてどーでもいいから気にしてないのにそれでもわかるぐらい」

アママイコ「ふええっ?!」

アシマリ「ニャヒートにも気付かれてるんじゃ、モクロー以外はたぶんみんな気付いてるだろうね」

アママイコ「」

ニャヒート「どういう意味よ、それ。あたしを異常みたいに」

アシマリ「気にしない気にしない! ほら、みんな待ってるし、速く行こ!」
 ▼ 284 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:39:54 ID:0e8Z7aUk [22/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ごはんを食べながら、ついモクローとアママイコの顔を見てニヤついてしまう。

これからどうなっていくのか、見物だ。

もしかしたら、これをきっかけに、アママイコもエクリプスに加わってくれるかもしれない。

そうなったら、オイラは凄く嬉しい。


モクロー「どうしたの、アシマリ。その顔気持ち悪いよ?」

アシマリ「へ? そう?」

モクロー「ニヤニヤして僕の事見ないでよ」

アシマリ「ごめんごめん」

モクロー「ま、いいけどさ」


やっぱり、モクローは気付いていないらしい。

オイラが、アママイコの事も見ていたという事実に。

そういえば、モクローってアママイコの事をどう思ってるんだろう。

尋ねようとしたけれど、これは聞いちゃ野暮かな、と考え直し、オイラは言葉をごはんと一緒に呑み込んだ。
 ▼ 285 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:40:42 ID:0e8Z7aUk [23/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
46-◇16

アシマリ、どうしたんだろう。

僕の事をニヤニヤ眺めて来て。

ついでに、アママイコの方も眺めていた。それにはさすがに気付いた。

もしかすると、アシマリは、今の僕の微妙な感情に気付いているのかもしれない。

淡い、恋心にも似た感情に。

僕は、もう認めていた。

今の自分は、恋愛感情を持っている。

けれど、それを事実として消化する事と、受け入れる事はまた別で、僕はまだ、どうせこの感情は一過性のものだと楽観していた。

思わず厳しく遠ざけてしまったけれど、露骨に悲しそうな面持ちで「ごめんごめん」と言われると、僕としても許すしかない。

元々そんなに気持ち悪くはないのだ。むしろ微笑ましくすらある。

半ば親バカに近い感情なのかもしれないけれど。

落ち込むアシマリを宥めてから、僕は絶品グルメをお腹に詰め込んだ。
 ▼ 286 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:41:41 ID:0e8Z7aUk [24/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒートの練習に、僕も付き合う事にした。

どうせ、僕の役目は普段と何も変わらない。

それなら僕も、ニャヒートの手伝いをしようと思った。

それがルテー説得の最大の近道になるのは、間違いないから。

アシマリも当然一緒に練習するから、そこにいるのは3匹だけだ。

ニャヒートも、別段僕の事を拒みはしなかった。まあ、歓迎こそされなかったけれど。

たぶん、この事件は、ニャヒートを相当変えている。進化というのも一つの契機になったのかもしれない。

ただ、彼女は周りに心を開きつつある。そんな気がした。

僕がこうやって練習を見る事が出来る事自体、その証拠だ。

彼女は、誰かに見られる事を好まなかった。

だから朝早く練習し、全体練習をふけて個人練習し、夜に練習する。

それが今では、僕なんかがそれを見ている状態をよしとしているのだ。

進歩かどうかはわからない。けれど、間違いなく、ニャヒートは変わり続けている。
 ▼ 287 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:44:59 ID:0e8Z7aUk [25/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒートが空を舞う。

バランスを崩すと言ってた割に、確実にブランコにぶら下がってるじゃん。

そういうと、アシマリは「そりゃ相当練習してたからね。あんだけ練習したら、ニャヒートだもん、出来ない訳ないよ」と返して来た。


モクロー「凄いよね、ニャヒートは。僕は、ニャヒートが成功させる前提で、少しでも説得の確率をあげるように頑張ってる訳だけど、それもこれも、全部ニャヒートにかかってる。

      その重圧を跳ね除けて、進化のデメリットも跳ね除けて。僕なんか、サーカスに、どんだけ打ち込めてるんだろって」
 ▼ 288 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:46:01 ID:0e8Z7aUk [26/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
自虐的に笑うと、アシマリは怒ったような顔になって言った。


アシマリ「モクロー、それは違うよ。みんな、それぞれに向き合い方があるんだから」

モクロー「それはわかってるつもり。だけど――わからないんだ。僕は、本当に、サーカスと向き合いたいのか」

アシマリ「……えっ?」

モクロー「もう、アシマリは、僕がいなくても大丈夫でしょ?」

アシマリ「え、も、モクロー、どういう……」

モクロー「……言ってみただけだよ。心配しないで。やめるつもりはないから」


そう言うと、アシマリは露骨にホッとした表情を浮かべた。

僕は、くるりと首を1週回して、気持ちを切り替えた。


モクロー「そんな事より、練習だよね」

アシマリ「うん!」
 ▼ 289 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:46:36 ID:0e8Z7aUk [27/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そうは言っても、アシマリに関してはいつもと何も変わらない訳で、心配事は何もない。

だから、本当に、問題になるのはニャヒート。

飛行タイプを活かしてニャヒートのジャンプを僕は間近で見る事にした。

と言っても、近付き過ぎると今度は炎技を食らいかねない。効果は抜群。あまりありがたい話ではない。

けれど、まあそこまで近付く必要もなし、僕は空中からニャヒートのジャンプを分析し始めた。

まず、回転がない。すぐにわかるのは、それだ。

けれど、バランス感覚を完全に掴んでからでないとこちらの練習に移行するのは厳しい。

だから、そこは置いておく。後6日、ニャヒートならきっと、そこまで辿り着く。

次に気が付くのは、やはり、迫力のある炎だろうか。

光に照らされて輝く炎は、ニャビー時代よりなお、力を得ている。

けれど、残念な事にというか、ニャビー時代の軽やかさは消えている。

当時のニャビーは、それこそ飛んでいるようだった。実際に飛べる僕だからわかる。彼女は、本当に飛んでいた。

今は、跳んでいる、と言うべきか。どうしても、重みを増した体は、軽やかと言う言葉からは離れてしまう。

もっとも、それは仕方のない事であり、ニャヒートは恐らく、その先へ進む。

軽やかに、が無理なら力強くへ。もしかしたら僕の知らない他の可能性もあるかもしれないけれど、きっと、ニャヒートは何かを確立する。
 ▼ 290 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:47:36 ID:0e8Z7aUk [28/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そしてその時、真の説得は完成する。ガオガエンの教育を超えた所で、成し遂げたニャヒート。この絵を見せれば、ガオガエンには完全勝利出来る。

そしてそうなると――そうなると、どうなるんだろう。

当然のように和解出来ると考えていたが、本当に出来るだろうか。

完全に勝ってしまった時、ガオガエンは本当に、純粋に妹の成長を喜ぶだけで済むだろうか。

きっと、大丈夫だろう。僕は、そう信じる。

アシマリも、ニャヒートも。2匹は本物だ。そして、本物には力が宿る。有無を言わせぬ説得力のある力が。

それはきっと、ガオガエンにも届くはず。

とにかくだから、ニャヒートの課題は、新たなスタイルを確立する事だ。

そして恐らく、そのぐらいはニャヒートも気付いている。

僕は、その先を考えなければならない。考えるのは、僕の仕事だ。
 ▼ 291 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:48:10 ID:0e8Z7aUk [29/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「飛びながら首回さないでよ、ただただ怖い。主にあんたの首が千切れそうって意味で」


ぶら下がりながら言うニャヒート。

そういえばそうだ、ごめんと謝って、僕は地上に降り立ち、そして考えた。

力強さを演出するには、やっぱり相応のモーションが必要だろう。

炎だけなら、炎タイプであれば――炎技を覚えるポケモンでさえあれば炎タイプでなくても――誰でも可能だ。

やはりそこに、ニャヒートらしさをプラスしなければならない。

ニャヒートは恐らく、ニャビーの技術もと欲張ろうとしている。

それはそれで間違いと言い切れはしないし、出来るに越した事はないのかもしれないが、どう考えても間に合わない。

ニャヒートの力強さを押し出していくのが正解だ。

観客が求めるものは、ニャビーとニャヒートでは変わってしまう。

ニャヒートに求められるのは、やはりニャヒートならではのものだろう。
 ▼ 292 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:48:58 ID:0e8Z7aUk [30/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そうやって狙いを定めた所で、次は「どうやってそれを達成するか」だ。

力強いパフォーマンス、となるとぐるりと回転するにしても――相手にダメージを与えるような、例えるなら「かえんぐるま」だ。

残念ながら、ニャビー一族は覚えないようだけれど、技の感覚に例えると少しはわかりやすいかもしれない。

本当に、ニャヒートがかえんぐるまを習得しないのが悔やまれる。
 ▼ 293 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:49:28 ID:0e8Z7aUk [31/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「ニャヒート! ちょっといい?」

ニャヒート「何?」

アシマリ「モクローどうしたの?」

モクロー「ニャヒート、僕からアドバイス! ニャビーのパフォーマンスに拘ってちゃ駄目!

      進化したら、求められる技術も変わって来る!」

ニャヒート「わかってるけどそのぐらい」


ニャヒートがブランコの上から叫ぶ。けれど、僕は負けじと叫んだ。


モクロー「わかってるだろうとは思ったけど、でも一応! イメージは、『かえんぐるま』だよ! 力強さと技術を兼ね備えた――ニャヒートが覚えないのは知ってるけどイメージは!」

ニャヒート「かえん……ぐるま」


ニャヒートがポツリと呟いたのを僕の耳は拾った。

そう。その要領だ。どうして炎タイプなのにニャヒートが覚えないのか……。僕は小さくため息を吐いた。


ニャヒート「ありがとう! イメージつかめたかも!」

モクロー「どういたしまして!」
 ▼ 294 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:50:03 ID:0e8Z7aUk [32/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒートは地面に降り立ち、そして跳んだ。

そのままくるっと周り――背中を強打した。


アシマリ「だ、大丈夫?!」

ニャヒート「このぐらい余裕よ。回る練習も、別件でやった方がいいかなって。

       回る練習、飛ぶ練習を一旦切り離して、まずは『出来る』って状態に持って来たいの」

モクロー「うん、それの方がいい。こっちで出来ないのに、空中で出来るはずないし」

ニャヒート「別にそうとも限らないけどさ。多少回転が足りなくても空中なら前脚伸ばせばなんとかなるし。いてて……」

アシマリ「無理しないでね」

ニャヒート「もちろんよ。体調管理は何よりも大事だし」


そういうと、ニャヒートは再び宙返りの練習を始めた。

アシマリも、少し遠くにバルーンを創り出し、その中に潜り込んで練習を始めた。

僕は、心の中でそれを実況する。

どこをどう強調すれば、皆の心に響くのか。

その試行錯誤を重ねていく。
 ▼ 295 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:50:55 ID:0e8Z7aUk [33/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒートが炎を纏い、そして、跳躍する。

炎が煌めいて、飛び散った。

練習の時はエーフィたちのライトがなく、その炎の灯りが薄暗くなったこの空間によく映えた。

ニャビー時代もライトは「つきのひかり」だけの弱い物だったけれど、もしかすると、それすらも必要ないかもしれない。

むしろ、炎とニャヒートの力強さは、何もない舞台でこそ輝くのではないだろうか。


モクロー「そうだ。ライトはカットだな」


魅せ方を考えるのは団長の役目だけれど、それでも僕だってそちらには絡むべきだ。

ニャヒートを魅せる。それだけに専念して。

今回の事件に関して言えば、ニャヒートだけを専属で見られるポケモンがいた方が、絶対にいい。

ニャヒートは、今度は尻もちをつく。痛むお尻を少しさすって、再び取り掛かる。

僕に出来るのは、演出まで。そこから先は、ニャヒート自身の頑張りだ。

何も言わなくても、彼女は呼吸するように頑張るのだろうけれど、それでも、願わずにはいられない。

――どうか、ニャヒートが成功しますように。
 ▼ 296 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:52:18 ID:0e8Z7aUk [34/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は練習を切り上げ、団長に掛け合っていた。


フーディン「ニャヒート専属の、演出担当か」

モクロー「間違いなく、ルテー説得と、合同公演の成功はニャヒートにかかってます。

      団長、アマージョと話し合い、してください。全体を決めるのは、両サイドの意見をすり合わせないといけない」

フーディン「え、ちょおまっ……」
 ▼ 297 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:53:08 ID:0e8Z7aUk [35/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「大丈夫です。ニャヒートは舞台のラストを単独で締めるんですから。どこでも、成功すればよかったんですけど、どうせなら最もドラマチックに魅せないと」

フーディン「いやでも……俺とアマージョを話させる?」

モクロー「はい。団長、自分で思ってるよりあがり症なんかじゃないと思いますよ。だって、世界の一大事って時に、ちゃんとリーダーシップ、取れてたじゃないですか」

フーディン「いや、あの時はお前らが消えて、必死で――」

モクロー「その意気です。必死にやれば、怖い事なんて何もないでしょ?

      世界の危機を前に、乗り越えたんですから」

フーディン「……はぁ、俺の歳の、まだ半分ぐらいの奴にこんな励まし方されるとはな……。

       わかったよ、やればいいんだろ! 俺がやるしかないんだから……」

モクロー「はい! 団長もちゃんとしないとダメです」

フーディン「はぁ……大丈夫かなぁ、俺」


そう言って、団長は頭を掻いた。


モクロー「ところで、ニャヒートの演出を考えたんですけど――」
 ▼ 298 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:54:04 ID:0e8Z7aUk [36/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「ふいー! 終わったー!」

ブラッキー「料理作りたいって言ってたよね」

アママイコ「はい!」

ブラッキー「明日、早起き出来る?」

アママイコ「はい!」

モクロー「ブラッキー、アママイコ、どうしたの?」

アママイコ「うわっ、モクロー!」


驚いたようにこちらに目を向けるアママイコ。僕は慌てて目を逸らし掛け、それじゃ失礼だと思い至り開き直って首を1周させた。


モクロー「もしかして、料理の練習?」

アママイコ「うん。ブラッキーの手伝いに、少しでもなればなって」

ブラッキー「アママイコ、別に悪くないよ筋は。練習すればすぐ上達すると思う」

エーフィ「ま、あんたほどにはなれないだろうけど」

モク・マイコ「うわっ!」
 ▼ 299 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:54:54 ID:0e8Z7aUk [37/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ブラッキー「いきなり話しかけないでよ。2匹がビックリしてるじゃん」

エーフィ「ごめんごめん。でも、アママイコ? 胃袋を本気で掴みたいなら、大変だよ? 何しろ、ブラッキーレベルの料理は、そう簡単には作れないから。

      あたしは料理の才能全部こいつに取られたらしくって、もうさっぱりだけど、これだけはわかる。

      ブラッキー、天才だから。もう、ただのポケモンは、死ぬ気で努力してもどうにもならないと思う」

アママイコ「えー……」

エーフィ「ま、普通に旨い料理目指すだけなら、ブラッキーに教わればすぐだよ」

ブラッキー「お姉ちゃん、アママイコが委縮するからやめて」

エーフィ「え? ああ、ごめんごめん。あたしってホント、弟バカだよね。

      アママイコ、頑張ってね」
 ▼ 300 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:55:35 ID:0e8Z7aUk [38/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィも、僕を見て、それから少し、ニヤついた気がした。

どうも、僕のこの微妙な感情は、もう知れ渡っているらしい。


ブラッキー「じゃあ、明日も早いから。手伝いたいなら、早寝して」

アママイコ「はーい!」

モクロー「僕も寝るよ。明日の朝練にも付き合いたいし。アシマリたちの」

アママイコ「じゃ、あたしと一緒だね! 頑張ろう!」


その弾ける笑顔に、僕は、駄目だった。
 ▼ 301 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:56:29 ID:0e8Z7aUk [39/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
布団の中で、悶々として過ごす。

どうしてだろう。かわいいと感じてしまう。

瞼を閉じると、その顔が浮かんでしまう。

いよいよ重症だ。

眠りが訪れるまで、僕はずっと、ゴロゴロと、自分を持て余しながら考えていた。

僕は、どうなりたいのだろう。

アママイコに恋をして、何かが変わるのだろう。

けれど、何が、どう変わるのか。予想も出来なかった。

きっと、この1週間で――もう2日も消費された訳だけれど――すべてハッキリするだろう。

そんな予感だけは確かにあるのだけれど――
 ▼ 302 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:57:23 ID:0e8Z7aUk [40/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
47-△16

こうか? いや、違う――

「かえんぐるま」自体は覚えられないあたしだけど、その感覚、そしてイメージはなんとなく理解出来る。

それを習得すべく、まずは普通の宙返りから始めていた。

背中を強打する事は次第になくなって行き、数十回も跳んだ辺りであたしは完全に宙返りを習得していた。

実はニャビー時代にも、陸上での宙返りは成功させた事がなかったりする。回り過ぎてしまっていたのだ、いつも。

それが、ピッタリ1周。ハハ、とあたしは自嘲的な笑いをこぼした。

宙返り自体は会得しても、今度はそれを空中で、しかも炎を吐き出しながら――口からでもないのに吐くという表現はいかがなものかとは思うが――しなければならない。

そして、回転を加えてしまうと、炎を下だけに向けて発射できなくなってしまうという問題も発生する。

これだけは、何度も試行錯誤して、上手い強弱の具合をつかみ取らなければならない。

火力を全体的に強めた上で、上よりも下向きの力をより強める。

そうすればバランスは取れるだろう。
 ▼ 303 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:58:02 ID:0e8Z7aUk [41/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
けれど、そう何度もは強力な炎を作れない。

アシマリのバルーンは技じゃなく生体の一部だから何度でも使えるが、あたしの炎は技由来。

しかもいちいち「ひのこ」をより強めなければならないのだ。本来の「ひのこ」のPPよりも、使える回数は限られてしまう。

ヒメリの実が足りない。明日、団長に調達してきてもらうとしよう。

眠れば――技「ねむる」によらない普通の睡眠でないといけないが――PPは回復する。だから、今は思いっきり試そう。

そう決意し、あたしは踏切台を踏み抜いた。
 ▼ 304 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 12:58:33 ID:0e8Z7aUk [42/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
体に炎を纏うのは、簡単だ。油にまみれたあたしの体は、少し火を付けるだけで簡単に燃え上がる。

消すのは……まあ、簡単だ。どうやっているのか意識したら、それこそムカデのダンスだ。でもムカデってなんだろう……。

と、どうでもいい事をぼんやり思い浮かべているのは、まあ、結論から言うと失敗したからである。

クルリと回る、その事に意識を取られ、炎を吐き出す力を全体的に強める、という動作を忘れていたのだ。

下と比べ、少し上向きの炎を弱めただけでは、結局打ち消し合って、あたしの体は落ちていく。

そんな状況の中、こんなどうでもいいような事を考えられる程度には、あたしは落下に慣れた。

まだ消えないバルーンに受け止められ、思う。

そろそろ時間だ。寝ないと、力は回復出来ない。睡眠は、万病に効くし、寝ないと。

体調不良でパフォーマンスを見せられないとか、笑い話にもならない。

月光の照らす中、あたしはひとつあくびをし、布団へと向かった。
 ▼ 305 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 13:00:03 ID:0e8Z7aUk [43/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
48-○16

目を覚まして、オイラはニャヒートが練習しているであろう場所に向かった。

当然のようにそこで練習しているニャヒート。本当に、いつ眠っているのだろう。

ごはんの時を除いてずっとここにいるような気がする。

オイラも負けじとバルーンを創っては壊し、創っては壊す。

ニャヒートは、纏う炎を力強く演出しようとしていた。

具体的には、ただ火力を上げているだけ。

もちろん、強弱の差を付けるための練習だろう。

上手く飛ぶには、そこが重要になる。

きっと間に合う。こう期待するしかない。
 ▼ 306 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 13:01:18 ID:0e8Z7aUk [44/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
49-◇17

ただ、ニャヒートの演出プランを練って行く。

その炎の力強さを、確かに引き立てるために。

今は、僕のサーカスに対する心構えうんぬんはどうでもいいのだ。

アママイコへの恋慕も、合同公演が終わってから考えればいい。

そう割り切ってしまった。

割り切りでもしないと、今の僕は、思考の世界に潜り込んで、帰って来られなくなる。

もう、謎は、全部解かれたのだ。僕の出番は、そこにない。

熱意が足りなかろうと、アママイコに気を取られようと、僕は、僕なりに、この事件と向き合うしかないんだ。
 ▼ 307 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 13:02:03 ID:0e8Z7aUk [45/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
50-△17

必死で練習する。

強弱。迫力。その辺のコントロールは、大分精密に出来るようになって来た。

ある程度は感覚も掴めてきたと言える。

けれど、まだ足りない。

本番、確実に成功するために、あたしは、練習するしかない。
 ▼ 308 断◆J44kAZeDOM 17/01/08 13:02:56 ID:0e8Z7aUk [46/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
51-○17

一日を、そうやって過ごしていく。

各々の――オイラはそこに含まれていないけれど――の課題もこの2、3日で浮き彫りになっている。

ニャヒートは、感覚をものにする事。

モクローは、ニャヒートの演出を考える事。

エクリプス全体としては、楽しさを伝えるパフォーマンスを身に付ける事。

そうやって目標を、そしてすべてを決定してしまうと、後はもう、一直線に練習するだけだ。

葛藤も、何もない4日間。けれど、オイラたちにとって、最も密度の濃い4日間。

そんな時を、オイラたちは過ごした。

アママイコとモクローの関係の進展だけが気になるタネだったのだが、2匹は、急速に接近して行った。

そろそろ互いに好きだと気付いているだろうか。

オイラはそれをニヤニヤ眺めたりしながら、それでも合同公演に向けて気持ちを引き締めていた。


――そして、合同公演、初演の日。
 ▼ 309 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:11:10 ID:0e8Z7aUk [47/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







52 エクリプス・ルテー 合同公演






 ▼ 310 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:12:23 ID:0e8Z7aUk [48/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
52-○18

とうとう、この日がやって来た。

オイラたちは、緊張した足取りで、ルテーのテントへと向かう。

設備が向こうの方がいいらしく、場所に拘りがある訳でもないオイラたちは、特に抗う事なくルテーを会場とする事に同意した。

そして、今、ぞろぞろとつれたって歩いている、という訳だ。


アシマリ「ヤバい、緊張してきた」

モクロー「アシマリは大丈夫。いつも通りやるだけだよ」

アシマリ「わかってるんだけど……こんな緊張、初めてで、オイラ、どうしたらいいか……」

モクロー「手……なのかな? 前脚だか手だかに『P』って3回書いて呑み込むといいよ」

アシマリ「P?」

モクロー「ポケモンのP」

アシマリ「ああ、そういう……」


観客を飲み込んでしまえば、緊張する必要もない、って事だろう。
 ▼ 311 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:12:57 ID:0e8Z7aUk [49/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「大丈夫だって。世界がかかったサーカスでその重圧を跳ね除けて、しかも僕にメッセージまで伝えてくれたんだよ?

      君なら絶対大丈夫だから」

アシマリ「うん、わかってるよ。オイラより、もっと緊張してるはずのニャヒートが普段通りなんだし、オイラも頑張らないと」

モクロー「だね。でも、ホントに凄いよね、ニャヒート」

アシマリ「……練習して来たから。まだ、成功率は半々ぐらいだけど」


結局、ニャヒートは、この1週間で、自らの体を、完全にはものにしていなかった。

成功率は、だいたい50%。

成功した時は、ニャビー時代よりも力強く、それでいてしっかりとテクニックも映える、例えて言うならドデカバシのような重量感のある飛び方を可能にしていた。

しかし、駄目な時は、一度目のジャンプで落下する。

逆に、一度目さえ乗り越えれば、後の感覚は掴めるらしい。

階段を昇る、その時間にも消えていく感覚との戦いなのだ。

――加えて、ニャヒートのパフォーマンスは公演のトリを飾る事になっている。今よりも、もっと確率は下がるだろう。

けれど、ニャヒートの顔は、いつもの公演の前と、なんら変わらない。

進化して、顔立ちこそ変わったが、彼女のきりりと真一文字に結んだ唇は、いつもの通りだ。
 ▼ 312 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:13:50 ID:0e8Z7aUk [50/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
公演前に、ルテーの器具に慣れるため、という名目で空中ブランコや火の輪くぐりその他器具を使う演目の練習時間が入る。

そして、直前のリハーサル。

それが、ニャヒートが感覚を確認出来る、最後の時間だ。

オイラは器具を使わないため、そこに加わる事はしない。だから、ニャヒートの練習は見られない。

ふぅ、とオイラは息を吐く。

どうなってしまうのか、オイラには予想も付かなかった。

ふとアママイコの方に視線を移す。

アママイコは、それでも笑顔を崩さず、メンバー数匹と会話している。

緊張をほぐそうとしているのだろうか。

実際、楽しげに談話する様子から、緊張はかけらも窺えなかった。

モクローは、オイラに釣られてアママイコを見て、そのまま見入ってしまったようだ。

ニヤニヤと「モクロー」と声を掛けると、モクローは慌てて首をこちらに向け、そして赤くなりながら「ちっ、違うよっ?!」と否定した。

それで、オイラの緊張は、ほどけてしまった。
 ▼ 313 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:14:41 ID:0e8Z7aUk [51/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ルテーのテントに辿り着いて、オイラたちは、ルテーのメンバー(ガオガエンを除く)との顔合わせを済ませた。

それから、アマージョの案内で、本番を行うテント、そして器具の場所や独自ルール(大したものがある訳じゃないけれど)の説明を受けた。

それから、器具に慣れる必要があるポケモンだけをそこに残し(屈強なポケモンもこちらにはいる。ニャヒートは、だから心配ない)オイラたちはリハまでの時間を待機する事になる。

が、モクローとダンチョーだけはアマージョに連れられて、司会の最終打ち合わせに行く事になった。


アママイコ「あー、モクロー行っちゃった」

アシマリ「まあ、司会となると、アマージョもだもんね。そりゃ、息を合わせなきゃ。で、なんだけどさアママイコ。

      ガオガエン、どこにいるの? 一回、見るだけ見ときたいんだ。ニャヒートの憧れが、どんなポケモンなのか」

アママイコ「え? まあいいけど。ついて来て」


オイラたちは、2匹連れたって――としようとすると、エーフィに気取られた。


エーフィ「あたしも連れてってよ。一応あなたたちよりも大人だし、いざとなったら味方は多いに越した事ないでしょ?」


特に断る理由もなく、オイラたちは3匹でガオガエンを一目見ようと足を進めた。
 ▼ 314 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:15:14 ID:0e8Z7aUk [52/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「ここよ。隠れてはいるけど、隠遁生活送ってる訳じゃないし、普通に厳しすぎるだけのコーチだったんだけど……」


そう言ってガオガエンの部屋を覗き込む。

そこに、ガオガエンは、いた。

横になって、目を閉じているが、恐らく眠ってはいない。

本番まで、自分が出演する訳でもないのに、体力を蓄えているような、そんな感じだ。

きっと、様々な光景が見られる訳だから、心を落ち着かせているのだろう。

と、机の上に、ニャヒートがニャビーだった時掛けていた「かわらずのいし」が置いてあるのが見えた。

進化、というのはニャヒート兄妹にとって死活問題。

あの石は、ある種の象徴だったのかもしれない。


アシマリ「ありがとう。もういいよ」


あれが、ニャヒートの憧れ。

そして、超えるべき、目標。

それだけを呑み込んで、オイラは皆が集まる場所へと戻って行った。
 ▼ 315 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:15:44 ID:0e8Z7aUk [53/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そして、リハーサルが始まる。

リハーサルと言っても軽い物で、全体の流れの再確認と、それから軽いウォーミングアップ程度の事しかしない。

結局、ニャヒートはぶら下がり、体のバランスを取るにとどめていた。

その様子だけを見るに、余裕さえ感じさせるような風格だったが、その内心はどうなのだろう。

そう考えはするけれど、考えるだけ無駄だ。どうせ、オイラに推理は出来ない。

きっと、成功するだろう。そう思いながら、ウォーミングアップを済ませた。

いよいよ、本番が始まる。
 ▼ 316 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:16:21 ID:0e8Z7aUk [54/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オイラたちは、アマージョに先導されて、控えの場所へ向かった。

エーフィとブラッキーは別の、照明用の場所へ移動。アママイコは邪魔にならないようにとテントの外で待機するらしい。

モクローが、アマージョとの最終確認の成果を報告する。


モクロー「とりあえず、ルテーとは違うエクリプスに注目してくれ、ってのだけ押して来た」

ニャヒート「ナイス。アシマリ、みんなを惹き付ける役、お願いね」

アシマリ「合点!」

ニャヒート「後は、あたしがやる。みんな、あたしの、お兄ちゃんへの想いに、ここまで付き合ってくれてありがとう」

モクロー「まだだよ。まだ終わってない」


ニャヒートは小さく笑い、そして続けた。「それもそうね」
 ▼ 317 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:16:59 ID:0e8Z7aUk [55/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「でも、モクローの場合、アママイコのためってのも大きそうだけど」


ふと思い立って、カマを掛けてみた。

元々の意味合いは、アマージョの説得だ。そこに、ニャヒート、ガオガエンの過去が絡み、より複雑になっているだけで。

普段のモクローなら、オイラでもわかるぐらいのこんな事実を見落とす訳がないのだけれど。


モクロー「え、ええっ?!」


見事に顔を真っ赤にして、慌てて首をぶんぶん横に振るのだけれど、モクローがそれをするとシャレにならないというかなんというか……。

本当に首が取れないか心配になってくる。


ニャヒート「こら。今は本番前。余計な事言うなっての」

アシマリ「てへへ……。まあ、心配しないで。両想いだよ。モクロー、アママイコからの矢印には気付いて無さそうだけど」

モクロー「えっ」

アシマリ「このサーカスが終わって、説得が上手く行ったら、アママイコに告白したら?」

モクロー「……だね。ありがとアシマリ。うん、そうだ。悩んだって仕方ない。恋ってのは誰でも起こる感情なんだしぶつぶつ……」
 ▼ 318 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:17:38 ID:0e8Z7aUk [56/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「ねえ、モクロー考え込んじゃったんだけどどうしてくれるの」

アシマリ「まあ、大丈夫だって。モクローは強いから。それにさ……恋ってのは、スッキリさせちゃった方が、集中出来ると思うよ。

      吹っ切って頑張ろうとはしてたけど、モクロー、絶対気取られてたもん」

ニャヒート「とは言ってもさぁ……」

アシマリ「モクローさ、いろいろ悩んでるんだよ。だったら、それを上書きして、それから消すのが一番いいと思ってさ」

モクロー「そんな事考えてたの?!」

アシマリ「あっ、モクロー。ごめん、今考えた」

モクロー「今……でも結構凄いけど。うん。確かにもう、うだうだした悩みは忘れられたかも。ありがと、アシマリ」

アシマリ「どういたしまして」

ニャヒート「……結果オーライって奴? ま、いいけど」


そうやってニャヒートが呟いたのを最後に、オイラたちはステージへと目を向けた。

アマージョが、ライトに照らされたからだ。


アマージョ「ご来場の皆さま、本日は、お集まりくださり、誠にありがとうございます!」
 ▼ 319 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:18:12 ID:0e8Z7aUk [57/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アマージョの司会は、こう続いて行く。

――この度は、私たちルテーと、世界を救ったと名高いエクリプスによる合同公演が実現致しました。

2つの物が交わり、重なった時に生まれる化学反応を、とくとご覧あれ。


アシマリ「あれ……」

モクロー「うん。2匹で考えたんだけど、交わって成長ってワードだけは絶対入れたくて」

ニャヒート「来るよ、アシマリ」


アマージョが、大勢の観客に向かって声を張り上げた。


アマージョ「それでは、まずはエクリプスのムードメーカー、アシマリの登場です!」


オイラは、ひとつ息を吸った。

ライトが落ちる。

出番だ。
 ▼ 320 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:19:02 ID:0e8Z7aUk [58/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
舞台上に出て行ったタイミングで、エーフィの「あさのひざし」がオイラを再び照らした。

オイラはまず、バルーンを創り出す。

小さくて、そして割れないタイプの物だ。

それに、オイラは飛びのって、トランポリンの要領で高く飛んだ。

空中でオイラは、鼻からバルーンを――オイラよりもかなり大きめな、割れるタイプのバルーンを飛ばし、その中に入り込む。

エーフィが放つ光がバルーンを乱反射し、幻想的な光景を生み出す。

オイラは、一気にバルーンを突き破り、水飛沫を浴びながら、下にトランポリンバルーンを創って、それに着地し、そこからさらに飛び跳ね、そして着地を決めた。

フィニッシュ。光と水が、虹を生み出して、観客の口から、歓声があがるのを聞いた。

成功だ。少なくとも、オイラは。

照明が消え、オイラは、急いで舞台袖へとはける。
 ▼ 321 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:19:56 ID:0e8Z7aUk [59/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「よしっ」

ニャヒート「お疲れ様」


モクローは、次の司会に向け、もうここから消えていた。

オイラの役目は、ここで終わり。

後は、ニャヒート次第だ。


ニャヒート「うん。あたしも、頑張るから。そんな顔しないで。あんたがそんなだと、変な緊張する」

アシマリ「え、オイラどんな顔だった?」

ニャヒート「いやに真剣。あんたは、楽しそうに笑ってよ。それがあんたなんだから」

アシマリ「え、と。わかった」
 ▼ 322 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:20:30 ID:0e8Z7aUk [60/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
言われて、自分の頬が強張っていた事に気付く。

パフォーマンスをしている時は大丈夫だっただろうか。そう確認すると、そこは心配ないと返された。

まあ、それならよしとしよう。

そう決めて、オイラは、口角を持ち上げた。


アシマリ「だよね。ニャヒートなら、乗り越えるもん!」

ニャヒート「声が漏れたらどうすんの。静かに」

アシマリ「あ、ごめん……」
 ▼ 323 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:21:22 ID:0e8Z7aUk [61/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこからも、次々と公演は進んで行った。

モクロー、アマージョの司会の下、エーフィやブラッキー、ルテーの照明係に照らされて、未だかつて見た事ない程の素晴らしい物だった。

技術のルテー。心のエクリプス。

その対比は、くっきりと浮かび上がっている。けれど、決して、エクリプスは、ルテーに見劣りしていない。

残念ながらというか喜ぶべき事なのか、その実力は拮抗し、オイラたちの言葉に確かな説得力を与える「勝利」という形にはなっていないのだけれど。

それでも、もともとエクリプスは三流サーカス団だった。

あの事件以来、正確にはモクローの見事な説得以来、やる気を出し始め、世界を救うに至った訳だけれど、それでもやはり、ルテーの公演を初めて見た時はどうしても見劣りを感じていた。

隣の芝が青かったのは、たぶん、見間違いじゃない。

それが、今では、拮抗と呼べるレベルに到達したのだ。
 ▼ 324 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:21:58 ID:0e8Z7aUk [62/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オイラは、ニャヒートを目標に、がむしゃらに練習しているだけだ。

けれど、みんなも、相応の努力をしているのだ。

オイラは、純粋に、感動していた。

「心」を持ったエクリプスのパフォーマンスは、決して、技術で及ばないルテーのパフォーマンスに見劣りしないのだ。

これなら、きっと。

オイラは、ニャヒートを振り向く。

ニャヒートの顔に、笑みが浮かんでいた。


ニャヒート「みんな、やれば出来るんじゃない……」
 ▼ 325 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:23:03 ID:0e8Z7aUk [63/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オイラは、気付いていた。

ニャヒートは、孤独だった。目標はあまりに遠く、背後には誰もいない。そんな状況の中で、どうしようもなく孤独だった。

だったらせめて、すぐ後ろで追いかけて、孤独を埋めたい。そう思っていた。

けれど、サーカスに打ち込むべきなのは、オイラだけじゃない。

オイラたちは、みんなでサーカス団エクリプスなんだって、ホントは、気付いてたはずなのに。

それでもオイラは、ニャヒートに認められたのをいい事に、1匹でニャヒートの孤独に立ち向かおうとしていた。

そう。ニャヒートは、もう孤独じゃない。それがどうしようもなくわかった。


ニャヒート「あたしも、やるよ。みんな、あたしとアママイコのために、ここまでしてくれたんだから」

アシマリ「その意気だよ、ニャヒート」

ニャヒート「ふぅ。……よし」


ニャヒートの顔が、きりりと引き締まる。

奇しくも、タイミングは、ルテー最後のポケモンのパフォーマンスが終わり、ライトが落ちたタイミング。

舞台は整った。頑張れ、ニャヒート!


モクロー「それでは、最後の演目となります、ニャヒートによる空中ブランコ!」
 ▼ 326 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:24:11 ID:0e8Z7aUk [64/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒートが、その炎が、照明を浴びないままに、突如浮かび上がる。

オイラは、思わず息を呑んだ。

ニャヒートのパフォーマンスは、オイラは練習で散々見て来た。

そして、オイラは知っていた。ニャヒートは、いや、ニャビーは、練習の方がいきいきしていた。

あの事件以来、その傾向は丸くなったとはいえ、それでもまだ、残り続けた。

本番。ニャヒートは、階段を昇り、踏切台を踏み抜く。

軽やかに――そう表現するより他に、オイラはなんと言っていいのか知らない――飛んだ。

練習で、ここまで綺麗に飛べた事があっただろうか。

そんなオイラの疑問を意にも介さないニャヒートはそして、その身の炎を掻き消し、ブランコを掴んだ。

ブラッキーの、弱めの「つきのひかり」がニャヒートを照らす。それは、淡く、消え入りそうな世界観を演出していた。

けれど、これは、恐らく伏線だ。力強さを演出するための。

舞台と言う物を把握して、それを最大限利用したパフォーマンス。

モクローが考えた演出だというが、さすがだと言わざるを得ない。

成功した時のインパクトは、物凄い事になる。

そして、最高に調子のいいニャヒート。行ける。オイラは、確信を深めた。
 ▼ 327 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:24:50 ID:0e8Z7aUk [65/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒートが、勢いの付いたブランコから手を離し、飛んだ。

その体から、澄んだ音が鳴る。

一瞬の静寂の後、ニャヒートの体は炎を纏い、ライトがそれと共に消えた。

下へ向かって放出される炎が、ニャヒートの体を上方へと持ち上げる。

そして、ニャヒートは、ブランコにぶら下がった。

成功だ。

鬼門の、最初のジャンプを乗り越えた。

オイラは、心の中で快哉を叫んだ。

そして、同時に、オイラの心は、思い出せと叫んだ。

そう。やっと、やっとオイラは思い出すのだろう。忘却の彼方へと押しやられた、オイラの原点を。
 ▼ 328 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:25:20 ID:0e8Z7aUk [66/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――

オイラの目には、ある1匹のポケモン――ニャヒートの姿が映る。

今、この世界に、オイラとニャヒート以外の存在はない。

そのニャヒートが、空を舞う。それ以外の物は、オイラの視界から、完全に消えていた。

纏う炎は、控えめな光に照らされて、飛び散る火の粉が煌めきを帯びる。

くるりくるりと空を舞い、そのポケモンは、あたかもそこが陸の上であるかのように、美しいパフォーマンスをしていた。

しかし、ニャヒートは、尻尾を滑らせる。

巻き付ける、その尾が、上手くブランコを捉えなかったのだ。

そのポケモンは、そのままの勢いで、落下した。

酷くスローに、その光景は映った。
 ▼ 329 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:25:59 ID:0e8Z7aUk [67/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
喧噪が、オイラとニャヒートを追い越していく。

ざわめく観客。慌てる団員たち。

そんな中、ニャヒートは、自らの4つ足で、すっくと立ちあがり、舞台袖へと消えた。

オイラは、射すくめられたように、それこそ「かげぬい」を食らったように、動けなかった。

どこまでも気高いその姿は、オイラの目に、ただただ、美しく映った。

オイラの口は、何やら訳のわからない事を呟く。

震えていた。

ステージから歩き去ったニャヒートの、あまりの強さに、震えていた。
 ▼ 330 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:27:15 ID:0e8Z7aUk [68/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ(3)「凄いよ、パパ! ニャヒートが、すっごくかっこよかった!」

パパ「え、と……」


今思えば、どことなく予感のような物があったのだろうか。

負けても、逃げても、どうしても、ニャヒートの姿は気高くて、オイラはその姿に感動していた。


アシマリ「だって、凄いんだよ?! あんな高いとこからおっこちて、それでも強いんだもん!」

パパ「そうだな……」


オイラは、ニャヒートのカッコよさを語り続けた。

ただただ、オイラは、その姿に圧倒されていたのだ。

たじろぐ父親の事なんてオイラは全く気にしていなかった。









翌朝、パパは消えた。
 ▼ 331 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:28:11 ID:0e8Z7aUk [69/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
辺りに争った形跡はなく、ただ、オイラは、残されていた。

夜逃げ。借金のカタに、連れて行かれたのではないかとその後オイラを拾ったモクローに言われた。

当時のオイラは幼くて、そんな事理解出来なかった。

ハッキリ言うと、まだ現実の事のように呑み込めていない。

ただモクローから言われたからそう言っているだけで、オイラ自身は何もわからない。

完全に、記憶を後から改竄(ざん)している。その自覚はあるけれど、そこに答えがあればオイラには充分だった。

結局、パパの夜逃げから得られた物事は2つ。

サーカスへの執着と、モクローへの信頼だ。

結局、それからの事は、ほとんど覚えている。

モクローのお金で2匹ともある程度まで……モクローが10歳になるぐらいまで生活し、そこからはリンゴを売っての生活だ。

そんな中でも、オイラはサーカスへの憧れを隠さなかった。

それで、モクローがエクリプスのチケットを取ってくれたのだ。

本当に、感謝しかない。

けれど、オイラの原点は、やはり、ニャヒートだろう。

サーカス団ネメシーの、ニャヒートなのだ。
 ▼ 332 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:28:55 ID:0e8Z7aUk [70/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――

アシマリ「思い……出したぁ」


オイラは、ポツンと呟く。

やっぱりだ。

モクローは、全部正しい。

オイラも、それを見ていたのだ。

ネメシー。ニャヒート。失敗。その全て。

オイラとニャヒートは、同じ物に囚われ続けていたのだ。全くの、別ベクトルで。

これは、ある種の奇跡と言えるだろう。

――きっと、運命だ。オイラとニャヒートを結ぶ。
 ▼ 333 断◆J44kAZeDOM 17/01/08 18:29:32 ID:0e8Z7aUk [71/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒートは、空を舞う。

炎が照り輝き、闇を切り裂いて振り子の軌跡を描く。

自由自在。ニャヒートは、辿り着いた。

新たな境地に、辿り着いた。


アシマリ「おめでとう……ニャヒート」


そう、呟いていた。オイラが言うのもお門違いかもしれないけれど、ただ、そう、勝手に呟いていた。

ニャヒートがブランコを終え、舞台が闇に包まれる。

そして、モクロー、アマージョ、2匹の姿が照らされた。


モクロー「本日の公演はこれにて終了となります!」

アマージョ「ご来場くださり、誠にありがとうございました!」
 ▼ 334 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 19:38:40 ID:0e8Z7aUk [72/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







53〜59 決戦の夜






 ▼ 335 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 19:39:25 ID:0e8Z7aUk [73/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
53-◇18

終わった。ライトが点いて、観客たちが立ち上がるのが見えた。

僕とアマージョは、互いに顔を見合わせた。

笑いはしない。対決は、ここから。

僕にとって、本番は、ここからだ。


モクロー「素晴らしいパフォーマンスでしたね」

アマージョ「そうね」


観客を見送りながら、小声で会話する。

アマージョは、自制を続けているようだった。

最後の観客が帰り終わるまで、僕たちは、見送りを続けつつ会話を広げた。


モクロー「どちらも足りないものを補い合って、本当に化学反応を起こしてましたね」

アマージョ「そうね。で、あなたたちの狙いは何?」

モクロー「後で、後で説明します」
 ▼ 336 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 19:42:05 ID:0e8Z7aUk [74/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
観客が完全にはけ、僕たちも舞台袖に別れた。

アシマリが声を掛けて来るが、僕は今、それどころではない。

説得を完成させるには、外で待っているアママイコが必要だ。

アマージョの説得は、アママイコにしか出来ない。


モクロー「ガオガエンに、ニャヒートと話付けて来て!」

アシマリ「へ? わ、わかった!」


慌てたようにアシマリはニャヒートを見た。

ニャヒートは呆気にとられたような表情を浮かべていた。

僕は、チラリとそれを見やり、全速力で飛んだ。
 ▼ 337 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 19:42:37 ID:0e8Z7aUk [75/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「あっ、モクロー!」

モクロー「アママイコ! 終わったよ! 大成功だ!」

アママイコ「やったー! ねえ、これからどうなるの?」

モクロー「アマージョと話そう。サーカスは成功した。今が、一番だ」

アママイコ「了解! 行こう!」


僕はアママイコと顔を見合わせて、頷いた。

決戦が始まる。ふと空を見上げると、太陽が赤く沈みつつあった。

ふう、と荒い息を吐き出して、僕はアマージョの下へ向かった。

もう、失敗は考えない。

アママイコの言葉は、絶対にアマージョに届く。そう、訳もない確信があった。
 ▼ 338 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 19:43:36 ID:0e8Z7aUk [76/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「お母さん!」

アマージョ「もう来たのね」


2匹が向かい合う。

僕は、それを眺めていた。

僕が出来るのは、ここまで。アママイコを、アマージョの下に帰す事。

そこからは、2匹の問題だ。

けれど、僕は、アママイコの傍にいたい。

彼女の勇気に、少しでもなればいい。そう思っている。

アママイコは、真剣な面持ちで、アマージョを見据えた。

アマージョも、体からオーラを発散させつつ、娘を見据える。

2匹の間に差すような視線のやり取りを感じ、僕は、黙り込んだ。

頑張ってくれ、アママイコ。

そんな心中の呼びかけに答えるように、アママイコが口を開く。
 ▼ 339 断◆J44kAZeDOM 17/01/08 19:44:44 ID:0e8Z7aUk [77/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「お母さん……どうして、どうしてニャビーを監禁したりしたの?」

アマージョ「どうして、どうしてあなたは逃げたのよ」

アママイコ「質問に答えてよ、お母さんっ! どうして?」

アマージョ「……私は、あなたの事を思ってたのに、あなたの事だけを想っていただけなのにっ!」


アマージョが叫ぶ。アママイコは、思わず「え?」と問い返した。


アマージョ「このルテーを、あなたに誇れるサーカス団にしたかっただけよ……。

あたしはどう思われようと構わない。

けど、ルテーだけは、あなたに、しっかり引き継ぎたかった……」

アママイコ「そ、そんなの……そんなの、自己満足だよっ! やっていい事と悪い事があるでしょ?!

犯罪までして強くなったサーカスなんて、あたし、いらない!

       ただ、みんなで楽しく上手くなってけばそれでいいのっ!」


一瞬揺らいだかに見えたアママイコは、それでもアマージョに、思いの丈を吐き出した。

アマージョは、面食らったようにアママイコを見詰める。

アママイコは続けた。
 ▼ 340 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 19:56:35 ID:0e8Z7aUk [78/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「お母さん、見たでしょ? あたしも、こっそりテントの外から眺めてたよ。

       エクリプスは、一緒にいて楽しかった。

       普通に恋バナして、誰かのために悩んで、おいしいもの食べて、練習して――

       エクリプスは、そんなでも凄いの。

       誰も、天才なんていないのにだよ?

       アシマリだって、ニャヒートだって、凄く練習して、でも、自発的で、ホントに楽しそうだったの!

       ルテーはどう? お母さんがおっかないからやってただけじゃないの?」

アマージョ「うるさい……」

アママイコ「あたし、わかったの。お母さんのやり方は、間違ってるよ。

       お母さん、いっそ、やり直そうよ。まだ、間に合うよ」

アマージョ「うるさい……」

アママイコ「あたしは、こんなルテー嫌だ。おばあちゃんだって、優しくて、厳しくて、凄かったじゃない。

       お母さん、無理しないでよ。あたし、ルテーの事、嫌いじゃないのに……」

アマージョ「うるさいっ! あんたに、何がわかるっていうの!」
 ▼ 341 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 19:57:11 ID:0e8Z7aUk [79/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「わからないよっ! わからないけどっ! わからないけど、それが何よっ!」


アママイコは、泣いていた。

泣きながら、それでも言葉を続ける。


アママイコ「おかしいよ……。サーカスって、みんなが楽しむものでしょ?

       まず自分が楽しめないと、どうしようもないじゃないの……」
 ▼ 342 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 19:58:18 ID:0e8Z7aUk [80/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アマージョ「……ねえ、アママイコ」

アママイコ「何、お母さん」

アマージョ「……ルテーは、お母さんを、求めてないのかな」

アママイコ「違うよ。ルテーに、お母さんは、欠かせない」

アマージョ「お母さんね、怖いの。おばあちゃんと比べて、劣ってる事実が」

アママイコ「おか……」

アマージョ「だから、無理してた。だけど、あなたに見抜かれてるようじゃね……」

アママイコ「……そんな事ない。お母さんは、お母さんだもん。あたしにとってたった1匹の、お母さんだもん」

アマージョ「……アママイコ」

――ありがとう。
 ▼ 343 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 19:58:55 ID:0e8Z7aUk [81/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
2匹の間に、どんな心の揺れがあったのか。

僕の位置から、全てを窺い知る事は出来ない。

出来ないけれど、それでも僕は、考えようとはしなかった。

ただ、僕たちのパフォーマンスと、アママイコの訴えが、アマージョに届いた。それだけだ。

2匹は、ギュッと抱き合い、それから2匹で、しばらく泣いていた。

僕はどうにもお邪魔なようで、そこから離れた。

と、みんなが、ざわめいているのに気付く。

エクリプスと、それからルテーのほとんどのメンバーが、テントを見上げている。

釣られて見上げる。

空には、星が数多浮かび、そこに、一筋の煌々とした赤い光が――赤い光? 星が見える夜に夕焼け?

少し下に視線をずらす。


――火事だ。テントの一部が、燃えている。
 ▼ 344 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 19:59:32 ID:0e8Z7aUk [82/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「ダンチョーっ?!」

フーディン「モクローかっ?!」

モクロー「何があったの?!」

フーディン「わからないが、火事だ!」


僕は、辺りを見回した。

ルテーはわからないが、エクリプスのメンバーなら把握している。

数える。

2匹足りない。

2匹。誰よりも見慣れた、2匹の姿が。


モクロー「アシマリっ! ニャヒートっ!!」
 ▼ 345 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 20:00:08 ID:0e8Z7aUk [83/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「モクローこれ……」

モクロー「中に、アシマリたちがいるんだっ!」

アママイコ「えっ、あっ、モクロー待ってっ!」

モクロー「無理っ!」


僕は、燃え盛るその部屋の中へ、タイプ相性も恐れずに踏み込んだ。

アママイコが何故か付いて来る。

アマージョの静止の声が聞こえたが、それも振り切って。




――話は、数分前に遡る。
 ▼ 346 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 20:00:40 ID:0e8Z7aUk [84/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
54-○19

ニャヒート「お兄ちゃん、久しぶり」


ニャヒートは、ついにガオガエンと対面した。

ガオガエンもきっと、どこかから、オイラたちのパフォーマンスを見ていたはず。

だとしたら、知っているはずだ。

“ニャヒートの”成功を。

こちらを振り向いたガオガエンは、どこか諦めたような表情を浮かべていた。


ガオガエン「ひさしぶりだな、ニャビー。いや、もうニャヒートか」


机のかわらずのいしを手に取り、こちらに投げてよこす。


ガオガエン「お前にはもういらねえだろうけど……一応返すわ」

ニャヒート「あ、ありがとお兄ちゃん」


2匹は、間に炎をたぎらせて(さすがに比喩だよ)にらみ合っていた。
 ▼ 347 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 20:01:27 ID:0e8Z7aUk [85/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
どちらから口を開くのだろう。

ハラハラしながら眺めていると、ニャヒートが口を開いた。


ニャヒート「この子は、あたしに憧れてくれてるアシマリ。エクリプスのメンバーよ。ま、見てただろうけど」

ガオガエン「へえ、お前が憧れられる立場か。成長したんだな、お前も」

アシマリ「あっ、アシマリと申します……」


憧れ2匹を前にして、不意に話す必要に迫られたオイラは、10年以上のポケ生で初めてというぐらい言葉遣いを丁寧にしていた。というか、なっていた。


アシマリ「そ、その、オイラは、あなた方2匹のパフォーマンスに憧れて今ここにいる訳でありまして……」

ガオガエン「えっ、俺?」

アシマリ「10年前、あなたの姿に、たいそうはっ、励まされたものでして……」

ニャヒート「えっ、どういう……」

アシマリ「こっ、言葉通りでありましてそ、その……ガオガエンさんの姿に、オイラ、感激しまして……。

      そっ、それからオイラ、サーカスに憧れた訳であります!」


言い切ってしまうと、オイラは慌てて深呼吸。そして、ガオガエンに向き直った。
 ▼ 348 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 20:02:09 ID:0e8Z7aUk [86/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「オイラも、思い出したのはさっきなんですけど、でも、間違いない。オイラは、ガオガエンの、ちょうど失敗の公演を見てたんだ」

2匹「はあっ?!」

アシマリ「でも、その姿が気高くて、オイラは、感動したんです」

ガオガエン「……」

ニャヒート「そう……だったんだ」

ガオガエン「そう……か。俺は、ミスして。せめて繕いたくて、立ち去る姿だけはカッコよくって。まさか、こんな事になるなんてな。

       10年越しに、俺のそんな微妙な拘りに感激したなんてさ……」

アシマリ「あっ、でも、ガオガエンがやった事は、間違いだよ。どうして、どうしてニャヒートを監禁したりしたの?」


オイラの昔話に流れそうだったので、慌てて話題を元に戻した。
 ▼ 349 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 20:02:45 ID:0e8Z7aUk [87/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ガオガエン「どうして、か。ニャヒート、お前は、わかってんだろ? わかってなかったら、そんな返事しない」


ガオガエンは、オイラが持つかわらずのいしを指さした。

ニャヒートも、確かに頷く。


ニャヒート「だけど、あれが答えだから。あたしは、エクリプスに残るよ」

ガオガエン「わかってる。お前のブランコ見て、わかるなって方が無理な相談だよ」

ニャヒート「……お兄ちゃん」
 ▼ 350 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 20:03:31 ID:0e8Z7aUk [88/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ガオガエン「はあっ! お前、すげぇな。俺、もうお前に適わねえ。

       俺も知らねぇ境地に辿り着きやがったんだもんな。

       お前は、エクリプスにいる方が輝けるよ、間違いない。

       俺に拘ってちゃ、ああはなれなかったしな」

ニャヒート「お兄ちゃん……」

ガオガエン「行けよ。お前の居場所は、エクリプスだろ?

       あー、それから、アシマリ」

アシマリ「えっ、オイラ?」

ガオガエン「ああ、お前だ。これから、ニャヒートを、よろしくな。

       俺のあれが、お前を護るのに繋がってたんだから、因果だな」


そう言って、ガオガエンは笑った。

オイラは、戸惑いの目で彼を見詰める。
 ▼ 351 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 20:04:05 ID:0e8Z7aUk [89/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ガオガエンは、なおも言った。


ガオガエン「行けよ、ニャヒート。なんだ? こっちに来たいのか?」

ニャヒート「……ううん。ネメシーの事、どう思ってる?」

ガオガエン「恨んでるよ。恨んでねえつったら嘘になる。

       でも、その復讐は、お前ら見てたら、俺がしなくてもいいやって。

       お前らなら、きっと超えてくれるだろ、正攻法で。

       俺は、俺のやり方を貫く。でもな、お前ら、俺に影響されなくてもいいんだからな」

ニャヒート「――わかってるよ、お兄ちゃん」

アシマリ「はいっ!」


そう言って、オイラたちは、ガオガエンから離れて行った。
 ▼ 352 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 20:04:40 ID:0e8Z7aUk [90/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒートが、歩きながら、話し始める。


ニャヒート「アシマリ、あの時、見てたんだ」

アシマリ「うん」

ニャヒート「お兄ちゃんね、あたしを監禁したけどさ、でも、すっごく優しくて、あたしの事、好きだった。もちろん、変な意味じゃないよ」

アシマリ「わかるよ」

ニャヒート「あたし、お兄ちゃんがいなかったら、とっくに死んでた。

       ……お兄ちゃんが、あたしを育ててくれた。お兄ちゃんが、お兄ちゃんが……」


ニャヒートは、気付けば泣いていた。

オイラは驚いてそちらを見る。

ニャヒートは、滴るそれを隠そうともせず、掠れた、弱く、細く、甲高い声でオイラに向かって続けた。
 ▼ 353 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 20:05:24 ID:0e8Z7aUk [91/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「お兄ちゃんは、あたしに、数えきれない物をくれた。あたしに、目標をくれた。

       あたしは、お兄ちゃんを、助けられなかった。

       お兄ちゃんの孤独を、埋められなかった。

       ねえ、お兄ちゃん、今、幸せなのかな」

アシマリ「……わかんないけど、なんなら、聞けばいいじゃん、今。あなたは今、幸せなの? って」

ニャヒート「……ちょっと待って。お兄ちゃんの前で、泣いてたくないよ……」


しばらく、ニャヒートは泣いていた。

オイラは、それに付き合っていた。

ただ、隣にいるだけ。オイラに出来るのは、それだけだった。
 ▼ 354 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 20:05:59 ID:0e8Z7aUk [92/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「……よし。行こう」

アシマリ「だね」


オイラたちは、踵を返し、ガオガエンの下へと向かった。

そこで、オイラたちは、驚愕の光景を目にする。

ガオガエンが、火を噴いていた。

辺り中に、火を灯していた。


ニャヒート「お兄……ちゃん?」


ガオガエン「……どうして、どうして戻ってくんだよぉ、ニャヒート……」


ガオガエンも、泣いていた。

泣きながら、燃やしていた。
 ▼ 355 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 20:06:38 ID:0e8Z7aUk [93/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「ど、どうしてこんな……」

ガオガエン「……わかんねぇけど、俺、もういいんだよ……」

ニャヒート「ねえっ! お兄ちゃんっ! 孤独なの? 不幸なのっ?! 教えてよ、叫んでよ、主張してよっ! 俺は孤独だって、伝えよっ!

       あたし、お兄ちゃんを護れなかったんだよ?! 少しぐらい、協力させてよっ!」

ガオガエン「だからお前を監禁――」

ニャヒート「あれだけでもわかんないよっ! あたしは別に、お兄ちゃんの孤独を埋められる訳じゃないっ!

       お兄ちゃんは、遠すぎるから。あたしの中で、もう、追い付けない程遠くにいるから……」

ガオガエン「……お前さ、自分を見くびり過ぎ。っつーか、俺を神格化し過ぎ」

ニャヒート「だって、あたしって……」

ガオガエン「孤独じゃねえよ。ただ、もう嫌になっちまった」

ニャヒート「バカな事やめて、逃げるの!」

ガオガエン「嫌だ。お前は、もう俺を必要としてない」

ニャヒート「それは違うよっ! あたしには、お兄ちゃんが必要なのっ!」

ガオガエン「言ってるだけだろ」
 ▼ 356 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 20:07:17 ID:0e8Z7aUk [94/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「とにかく、炎を消すよっ! 『みずてっぽう』ーっ!」


オイラは、ふっと我に返り、必死に、炎に水を掛け始めた。

けれど、それこそ焼石に水だ。

炎は新たな住処を求め、舐めるように部屋中に広がり、煙が部屋を満たしていく。

オイラが出せる程度の弱い水じゃ、足りない。


アシマリ「クソッ、バルーン!」


バルーンを創る。水で出来た物だから、消化自体は可能だ。

しかし、それでもなお、オイラじゃ力が足りない。


ニャヒート「お兄ちゃん、逃げるよっ! お願い、逃げようよ……」

ガオガエン「俺はいいんだ。お前は逃げろ」

ニャヒート「いやっ! お兄ちゃん、死なないでよっ! あたしの目標で、あたしのライバルでいてよ……っ!!」

アシマリ「ダメだ、ニャヒート! ガオガエンは、もう聞かない!」

ニャヒート「でも――」
 ▼ 357 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 20:07:54 ID:0e8Z7aUk [95/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒートが何かを続けようとした瞬間、部屋に、煙の臭さを打ち消す程の甘い香りが広がった。

そちらを見ると、モクロー、そしてアママイコが踏み込んで来た。


モクロー「アシマリニャヒート大丈夫っ?!」

アママイコ「急いで逃げてっ! テントの構造はあたしがわかるからっ!」

アシマリ「逃げよう、ニャヒート。ガオガエンは、もうダメ」

ニャヒート「でも、お兄ちゃんが……」

ガオガエン「行けつってんのがわかんねぇのかニャヒートォ! お前は、まだまだ希望があんだろ?! そんな仲間がいるんだからよっ!」


オイラ、モクロー、そしてアママイコを一目見て、ガオガエンは言った。


ガオガエン「俺は、サイテーなポケモンだ。けど、せめて、ポケ殺しにはさせないでくれ。死ぬなら、1匹だ」

ニャヒート「……お兄ちゃんの、バカあああああああっ! 何言ってんのっ?! アンタ今、何言ってんのかわかってる?!」

ガオガエン「ああ。わかってるつもりだ。だから早く――危ないっ!」
 ▼ 358 1◆J44kAZeDOM 17/01/08 20:08:32 ID:0e8Z7aUk [96/96] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ガオガエンが、ニャヒートに飛びかかり、覆い被さる。

その上から、燃え盛るテントの骨組みが落下して来た。


ガオガエン「うぐっ」

ニャヒート「お……兄ちゃん」


2匹は、鉄骨の下から這い上がって来た。

炎は、けれど炎タイプの2匹をやけど状態には変えない。

それは不幸中の幸いなのだが、オイラの目は、もっと違う物を見付ける事になる。

即ち、入り口が塞がれてしまったという事実を。
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