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【SS】オシャマリ「ポケモンサーカス団エクリプス!」

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 17/01/02 21:42:26 ID:LvCDM3Hw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







プロローグ  0 アシマリは語る






 ▼ 59 1◆J44kAZeDOM 17/01/03 20:36:17 ID:OvBdZ3n2 [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
16-△5

ルテーの公演について思いを巡らせる。

見た事あるとアシマリには言ったけれど、正直記憶が曖昧過ぎて、見たと胸を張れない。

だから、少しでも思い出して、予習をしておこうという訳だ。

司会をしていたのは……♀の、草タイプで……赤みを帯びた体……アマージョだったかな。

玉乗りしていたのは……誰だったっけ。

霞む記憶の奥深く、どれほど前足を伸ばしても、あたしは思い出せなかった。

アマージョの妙に威厳ある司会だけが、ルテーの公演の輪郭を描き出す。


ニャビー「有名だけど、そんなんじゃサーカスとしては失格よね」


呟きながら、あたしは練習場へと向かう。

飛んでいれば、他のすべてを遮断できるから。
 ▼ 60 こまで◆J44kAZeDOM 17/01/03 20:36:49 ID:OvBdZ3n2 [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしは、1人で飛ぶ、練習の時間が何より好きだ。

エクリプス事件以降、ハイペースな公演が少しマシになり、一か所に留まっている時間が増えた。

結果、公演が終わってもすぐには分解せずに済んでいる。

あの事件以前は、1週間で別の場所の公演に向かっていた。正直、アホとしか。

移動も、資材を団員に運ばせ、食料も現地調達という超低コスト。

入りが少ないのをそうして誤魔化していたっけなと少し笑った。

さて、練習だ。

あたしは階段を登り、そして飛んだ。
 ▼ 61 イリュー@2ごうしつのカギ 17/01/03 20:37:42 ID:2PtHu9OY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 62 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:12:22 ID:YaXAAu3g [1/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







17〜22 ルテーの公演






 ▼ 63 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:13:00 ID:YaXAAu3g [2/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
17-○6

数日後、オイラたちは行列に並んでいた。

横にはモクロー、ニャビー、そしてダンチョー。

行列の先にあるのはテントで、その中では今、たぶん、最終調整が行われている。

看板にあるのは「ルテー」の文字。

行列に並ぶポケモンたちは、期待に胸を膨らませているのが半分、もう半分はその顔を見て楽しんでいるような気がする。

もっとも、オイラの位置から視認できる範囲なので、それ以外のポケモンがいてもおかしくはない。

家族に無理矢理連れて来られて、仕方なく来てるポケモンだって、きっといる。

そんなお客さんを振り向かせられるかが、サーカス団の実力なのだろう。

とりあえず、オイラは「期待に胸を膨らませているポケモン」だ。間違いない。

どうしても、ワクワクと興奮で、言葉少なになってしまう。

自分のパフォーマンスですらここまでの高まりは感じない。

オイラたちが入る前のエクリプスの公演は、ほとんどダメダメだったからノーカンだとすると、これがオイラの一生の内2回目のサーカスだ。

しかも1回目は物心が付く前。

楽しみで仕方ないのも当然だというものだ。
 ▼ 64 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:13:33 ID:YaXAAu3g [3/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「なんか、緊張するね」

アシマリ「うん」

フーディン「おいおい。俺あがり症だけど、全然そんな事ないぞ」

ニャビー「憧れのサーカスで、緊張しない団長の感覚がおかしい」

フーディン「厳しいなぁ」


頭を掻くダンチョー。今の一幕で、少し緊張が解けた。


ニャビー「あたしはまあ、サーカスイコール命みたいなもんで、憧れもクソもないんだけど」

フーディン「……まあ、あっ、進み始めた」


ニャビーの、この偏ったサーカスへの愛情は、いつもの事だ。

それすらもニャビーの一部で、オイラはたぶん、そんなニャビーに惹かれている。

けれどまあ、重苦しくなるからどこでもその感覚を持ち出すのはやめて欲しいかな。

話題を変えるように、オイラは言う。
 ▼ 65 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:14:03 ID:YaXAAu3g [4/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「いやホント、楽しみ過ぎて震えがヤバいよ……」

ニャビー「だね。やっぱり、新たなバリエーションを増やせるのはありがたい」

アシマリ「……ちょっとは純粋に楽しもうよ。ね?」

ニャビー「ま、それもそうね」


これだから、ニャビーは凄い。

オイラじゃ、追いつけないだろうな。戦うなら、だけど。
 ▼ 66 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:14:45 ID:YaXAAu3g [5/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
18-◇7

なかなかの盛況だ。

僕が観客として見たサーカスは、エクリプスを含めてこれで2度目になる。

1回目がエクリプス(過疎)だったので、盛り上がったサーカスを観客目線で見るのは初めてだ。

加えて、僕の役目は「司会」。呑気にみんなのパフォーマンスを眺める訳にも行かず、だからもう、初めてみたいなものだ。

テントの入り口が開き、ポケモンたちがその中に吸い込まれて行く。

その光景は、随分と新鮮に映った。

これほどの観客が1つのテントに入り、僕たちの公演を見ているのだ。ルテーとエクリプスじゃ規模も違うだろうけれど。

それを思うと、緊張するのだろうか。生憎僕は、観客の数なんてまったく気にせずに司会をできる自信があるのだけれど。

アシマリなんかは、観客が多いとやる気がでるらしいから、あらためて実感するのはいい事なのではないだろうか。

ニャビーは……まあ、知っているだろう、身をもって。
 ▼ 67 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:15:55 ID:YaXAAu3g [6/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「こ、こんな大勢を相手どって公演してるのか……」

モクロー「出番もないクセに何言ってるんですか団長」


持ち前のあがり症を発揮して、団長でありながら一切公演に出演しないフーディンだけが今になって緊張しだして、それが妙におかしかった。


席に座り(身体構造的に座るってのもよくわからないけれど)、開始を待つ。

他の観客はざわめいているが、エクリプスの面々は、みな一様に静まり返っていた。


モクロー(アシマリ(楽しみだなぁ、どんなパフォーマンスするんだろ……))

モクロー(ニャビー(お手並み拝見とでも行くかな))

モクロー(フーディン(こんな大勢の中で、俺なら死ぬな……))


なんて、3匹に心の声をアテレコして遊んでいると、ライトが消え、辺りは暗くなり、それに伴って観客のざわめきも消えた。そろそろ始まるらしい。

いきなりライトが点いて、そこに照らされていたのは、司会のアマージョだった。


アマージョ「みなさま、本日はお集まりくださり、ありがとうございます」


そう、威厳に満ちた声が始めた。
 ▼ 68 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:16:38 ID:YaXAAu3g [7/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は居住まいを正し、その司会っぷりに耳を傾けた。

僕が参考にする必要のある箇所は、ここだ。

アマージョは、怯えや緊張などかけらも感じられない凛とした佇まいでハキハキと言うべき事、楽しませる発言などを口端に乗せていく。

観客を見やると、みな、引き込まれるように体を前倒しにしていた。

これが、「じょおうのいげん」。存在の放つオーラが、観客の目を惹く事に成功していた。


アマージョ「では、みなさん、どうぞお楽しみください!」


照明が落ち、沈黙が訪れた。

隣でアシマリが、じっとその光景を眺めていた。
 ▼ 69 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:17:45 ID:YaXAAu3g [8/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ステージに照明が当たり、そこからは、パフォーマンスの始まりだ。

いつもは舞台袖で眺めているだけのものだが、観客席から見るとそれは、本当に煌めくようだった。

もっとも、実力は、最近頭角を現して来たエクリプスの面々も負けてはいない。

けれど、こんな感動を味わったのは初めてだ。

サーカスは、観客席のお客さんに見られる事を意識して構成される。

当然僕の場所は考慮されず、結局僕が見られるのは練習のみ。

こうも違うのか。

場所が違うと、こうも違うのか。

そんな簡単な事に、打ち震えた。

僕たちが創り上げているのは、こういう世界なのだ。

飛んで、跳ねて。けれど、根源の所で、お客さんを楽しませるというのは変わらない。

改めて、サーカスの力を知った。

世界を動かす程の力がある、とアシマリが主張したのも、わかる気がした。
 ▼ 70 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:18:52 ID:YaXAAu3g [9/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
19-△6

なるほど、上手い。

これがマトモなサーカス初体験だというモクローは、恐らく幸運だと言える。

ギリギリをかすめるように火の輪をくぐるポケモン。玉乗りしながら玉回しをするポケモン。

ざっと見た限り、サーカスとしては、かなり実力派だと言える。

けれど、どうしてだろう。

なぜか、印象に残らない。

物凄く上手いはずなのに、あたしの心に響かない。

上手い物は素直に上手いと言えるのは、サーカス以外であたしが長所だと胸を張れる数少ないものだ。

それなのに、このパフォーマンスは、心に響かない。

もっとも、そんな事を思うのはあたしだけだろうけれど。

そんなモヤモヤを抱えたまま、舞台は空中ブランコへと突入する。

現れたのは、真っ赤な体躯を持った、恐らくはあたしと同じ、炎タイプのポケモンだ。

お手並み拝見と行きますか。

同じ空中ブランコ乗りの炎タイプとして、そのパフォーマンスを観察する事にした。
 ▼ 71 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:19:32 ID:YaXAAu3g [10/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
電撃に撃たれたような、そんな感覚。

あたしを襲ったのは、激情だった。

――同じだ。

――これは、紛れもなく、あたしと同じだ。

そんな事を思う。

炎を纏い、それをライトの煌めきで引き立てる。

空中を飛ぶように舞い、ゆったりと3回回って、またブランコに着地する。

どこかで見覚えのあるパフォーマンス。

――見覚え、なんてもんじゃない。

――今飛んでいるのは、あたしだ。

目の前のポケモンが感じているであろう、風の音までリアルに想像できてしまう。

それ程までに、あたしと同じだ。

――あたしなんだ。あそこにいるのは、あたしだ。
 ▼ 72 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:20:34 ID:YaXAAu3g [11/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリの方を見る。

と、すぐに目が合った。


アシマリ「……似てる、よね?」

ニャビー「うん」


小声で、だから他の誰にも、モクローにさえも、聞こえていないはず。

けれど、確かに、アシマリは、「あたし」を見付けた。


アシマリ「ニャビーのパフォーマンスと、おんなじ感じがするんだ。なんだか、怖いぐらい似てる」

ニャビー「だよね」

アシマリ「凄く上手くなると、おんなじに見えちゃうのかなぁ」

ニャビー「やめて。上手くっても、同じになれるはずなんてないよ」
 ▼ 73 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:21:20 ID:YaXAAu3g [12/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしには、どうやっても追い越せない、ライバルがいる。

ネメシーで、それを嫌という程学んだ。

あたしが上手いのは客観的事実。だけど。

――同じになれる、はずもない。

ずっと追いかけている、背中。

不意にそれが、ルテーの空中ブランコと重なった。

そして、と思う。

――これは、劣化コピーだ。あたしも、あなたも。

あのパフォーマンスには、絶対に勝てない。あたしも、あなたも。
 ▼ 74 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:22:09 ID:YaXAAu3g [13/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
20-〇7

空中ブランコのポケモン。

ニャビーと似たパフォーマンスをしたポケモン。

彼、もしくは彼女は、何かでニャビーのパフォーマンスを見て参考にしたのだろうか。

でも、だとしたら――

悪質じゃないか。

パクリだ、これは。

今すぐにでも問い詰めたかった。

サーカス自体は素晴らしい。けれど、間違っている。

参考にはしても、最後は自分たちで編み出した物に頼るしかないはずなのだ。

そうニャビーに主張すると、「いいよ、別に。模倣されようが、あたしはあたし。ここまで来るには、相当な練習が必要だし、そこは認めたいの」と返され黙り込むしかなかった。

どうしても、ニャビーの価値が貶められたような気がして辛かった。

けれど、ニャビーは真剣に舞台を見つめていた。

何かを捜すかのように、じっと。

それを見て、オイラの中の反骨精神もどんどん萎んでいき、終わる頃にはもうすっかり消えてしまっていた。
 ▼ 75 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:23:19 ID:YaXAAu3g [14/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「いやー、凄かった」

モクロー「負けてられないね、アシマリ」


舞台も終わり、そうモクローが声を掛けて来る。

それに生返事をすると、オイラはニャビーの方に視線を向けた。

彼女は、ずっと考え込んでいる。

それを見ていると、不意にモクローが声を掛けて来た。


モクロー「ところで……サーカス団同士で交流でも深めようかなって思うんだけど、どうする? アシマリ」

アシマリ「え? ああ……ニャビーはどうする?」

ニャビー「あたしはパス」

アシマリ「じゃ、オイラもニャビーといるよ。ダンチョーと行って来たら?」

モクロー「わかった。じゃ、近くにあった公園に集合しよう」

アシマリ「うん」
 ▼ 76 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:23:55 ID:YaXAAu3g [15/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
先にオイラとニャビーは集合場所の公園に向かった。

道すがら、ニャビーの思索は止まる事を知らず、気まずいままオイラはその隣を歩く。

何か会話を探すのだけれど、生憎オイラもニャビーも生粋のサーカスオタク。

この状況で、他の話題など探せるはずもなく。

真っ赤な紅葉がその存在を主張する公園で、オイラはただ、ニャビーの横に座っていた。
 ▼ 77 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:24:54 ID:YaXAAu3g [16/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
何も言わないままそうしていると、ニャビーが声を発した。


ニャビー「いてくれて、ありがと。なんか、あんたがいると落ち着く」

アシマリ「え、どうしたの急に」

ニャビー「何も訊かずにいてくれるからさ」

アシマリ「……なんか、訊きにくいし」


とは言った物の、これがモクローなら間違いなく質問攻めだ。

基本的には大人なのだけれど、好奇心の止め方を知らないってのは本人の弁。

自覚できるレベルでそうなのだ。まず間違いない。
 ▼ 78 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:25:31 ID:YaXAAu3g [17/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビーはただでさえ不機嫌そうな顔をさらに冷たくして、言った。


ニャビー「なんか、凄い混乱してる。あたしを真似る? 何バカな事言ってるのよ」

アシマリ「まあ、凄いよね。よっぽど頑張らないとニャビーのマネなんて……」

ニャビー「違うのっ! あたしは、マネされるような存在じゃない! ……あたしは昔、失敗したのに。あたしなんかより、凄い奴、ごまんといるってのに……。

      勝敗じゃない。それはわかってる。でも、わかるの。圧倒的なのって。あっ、これは無理だ、追いつけないって。

      あたしより凄いのはなかなかいない。だけど、だけど、あたしより凄い奴なんて、探せばいくらでもいるってのに!」

アシマリ「ど、どうしたのニャビー?」

ニャビー「ごめん。なんでもない。忘れて」
 ▼ 79 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:27:01 ID:YaXAAu3g [18/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビーより凄いポケモンが、いっぱいいる?

世界ってのはどれだけ広いんだ……。

オイラもまだまだだな。

そんなどうでもいいような事を考えて、間を繋いだ。

忘れて。言葉通りに忘れようとした。

けれど、さすがに無理だった。

普段は滅多に感情を表に出さないニャビーの激情。

出来るだけ、オイラは、それに応えていたい。

ニャビーはまたさっきのように考え込む。いや、もう考えてすらいないのかもしれない。


アシマリ「でもさ、ニャビーが凄いのは確かだよ。ニャビーより凄いポケモンがいるのかもしれないけど、オイラにとってはニャビーがナンバーワン」

ニャビー「ありがと。さっきはああ言ったけど、正直、あたしより凄い奴、そうはいないから、あんたの見る目は間違ってないよ。あんたが見て来た数少ないサーカスの中では一番だって自信がある」


物凄い事をサラリと言ってのけるニャビー。嫌味に感じないのは確かに実力があるからだ。
 ▼ 80 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:27:44 ID:YaXAAu3g [19/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オイラにとっても、ニャビーは1つの目標。

それが自分を見下してばっかりいたら、オイラとしてはむず痒い訳で。


アシマリ「そうだよ。だからさ、認めた方が、楽だよ。自分は、マネされるに足る存在だって。

      どんなに凄いポケモンだって、いつかは抜かれる。そうやって、どんなジャンルの物でも成長するんだよ。

      いつかは、オイラだってニャビーを抜かせるかもしれない。それと一緒。

      ニャビーだって、自分より凄いと思ってたポケモンが、いつの間にかそうでもなくなってるかもよ?」


しかし、この発言は、いわゆる地雷を踏み抜いていた。

ニャビーは一応「そうね、そうかも。あたし、超えてるのかもね」と反応した。

けれど、オイラが思わず身震いしたのは、気温のせいだけじゃ、絶対ない。

そもそもニャビーは炎タイプ。いるだけでかなり暖かいのだから。

ニャビーは泣き笑いのような表情を作り、肩を震わせた。
 ▼ 81 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:28:20 ID:YaXAAu3g [20/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「あたしは、超えてるのかも……超えてる……。

      アシマリ、あたしに『みずてっぽう』撃って」

アシマリ「え、でも効果抜ぐ――」

ニャビー「いいから!」

アシマリ「わ、わかったよ……。『みずてっぽう』!」


ずぶ濡れになったニャビーは、声を押し殺して、泣いていた。

どうしようもなく、泣いていた。
 ▼ 82 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:28:54 ID:YaXAAu3g [21/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
21-◇8

フーディン「す、すいま、すいません……」


そう言えば団長はあがり症だった。

軽くため息を吐いて、僕は続きを引き取った。


モクロー「すいません、サーカス団エクリプスの者です」

「ああ、あの」


エクリプスで通じるって所に小さい喜びを感じながら、僕は続けた。


モクロー「今日、こちらの公演に伺いまして、まあよければ少しサーカス団同士で話でもしたいなと思いました」

「なるほどです。団長呼んできますね。えっと……」

モクロー「エクリプスのモクローです。こっちは団長のフーディン」

フーディン「よ、よろしくです……」

「え、だ、団長……」

フーディン「ちょっと、緊張して……」
 ▼ 83 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:29:35 ID:YaXAAu3g [22/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「団長しっかり。舞台でもなんでもないし。僕たちが来た時は何ともなかったでしょ」

フーディン「いや、あれは舞台が終わってリラックスしてる時だったし……」

モクロー「初対面には変わらないでしょ。そんな怯えないで」

「と、とりあえず呼んできますね」


そう言って彼女は走り去って行った。

まあ、誰だって、こんなどうでもいい漫才にもなりきれないような掛け合いを見たいとは思わないだろう。


フーディン「あー、大丈夫かな、俺」

モクロー「たぶんだいじょばないでしょうね。深呼吸でもしてください」

フーディン「ああ……」


団長は大きく深呼吸を始めた。

それにしても、団長ってここまであがり症だったかな。

舞台での緊張はともかく、日常の中で緊張する事なんてほとんどなかったはずなのに。
 ▼ 84 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:30:28 ID:YaXAAu3g [23/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな事を考えながらルテーの団長が来るのを待っていると、不意に何かしらの「気」のような物を感じた。

何かあるのだろうか、と思った傍から、それはどんどんこちらに近付いて来る。

団長は露骨にその気にあてられて、緊張の度合いを深めているのが目に見えてわかる。


モクロー「落ち着いて」

フーディン「い、いや、ちょっと……」

???「大丈夫ですか」


声を掛けて来たそのポケモンから、「気」は放たれているらしい。


???「すいません、私、特性が『じょおうのいげん』な物で、余計緊張させてしまうかもしれませんが」

???→アマージョ「あ、申し遅れました。私はルテーの団長、アマージョです。エクリプスのフーディンさんとモクローさんですね」

モクロー「はい。ほら、団長、挨拶して」

フーディン「よ、よろしくお願いします……え、エクリプスの団長、フーディンです……」

モクロー「司会担当モクローです。すいません、団長、あがり症で」

アマージョ「いえいえ。……そんなに緊張して、サーカスでは大丈夫なのですか?」

モクロー「大丈夫じゃないので僕が司会してるんですよ」
 ▼ 85 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:31:10 ID:YaXAAu3g [24/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな話題から始まり、サーカスに関する話題がどんどん花開いて行った。

団長はほとんど何も話さなかったので、僕とアマージョの2匹が、文字通り花を咲かせたのだ。

お互い草タイプという気安さもあり、すぐに打ち解けた。

で、そんな辺りで、僕は疑問をぶつけた。

失踪したニャヒートに関する話題である。


アマージョ「ああ、それは……力にはなれそうにないですね、すいません」

モクロー「そうですか。じゃあ、少し話題を変えますが……サーカス団ネメシーのニャビーって知っていますか。今から10年ぐらい前の」


僕の新たな問いかけに、アマージョの顔は一瞬何かの翳りを帯びた……気がした。

何だかよくわからない所で、僕は、地雷を踏み抜いていた、のだろうか。


アマージョ「いえ、そちらも残念ながら……」
 ▼ 86 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:31:41 ID:YaXAAu3g [25/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――とにかく、1つだけわかった事がある。

ネメシーの、空中ブランコ乗りのニャビーと言ったらうちの団長でさえ知っていた有名なポケモンだったはずだ。

ルテーの団長が知らないはずない。

もし年齢的な問題だったら、彼女は♀なのだ、絶対意地になって「そんな事を知っている年齢じゃない」と否定するはず。

それが、ただ知らない、だけ。

間違いない。アマージョは嘘を吐いている。ニャビーと、もしかしたらニャヒートの件に関しても。


モクロー「そうですか。ありがとうございました。ところで……団長、時間も時間だし、そろそろ帰った方がいいよね」

フーディン「あ、ああ」

モクロー「ってな訳で、お時間を割いていただき、ありがとうございました。とても参考になりました。これからも、お互い切磋琢磨していきましょう」

アマージョ「いえ、こちらこそ。世界を救ったと言われるサーカス団とお話出来て、貴重な経験になりましたよ」


別れの言葉を告げて、僕たちは歩き(飛び)去った。
 ▼ 87 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:33:00 ID:YaXAAu3g [26/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ルテーのサーカス団を後にしようとしたとき、ふっと視線を感じた。

首だけ振り向くと、その陰とバッチリ目が合ってしまう。

まあ、まさかこんな迅速に振り向けるとは誰も思わないだろうからなぁ。


モクロー「隠れてないで、出て来て下さいよ、そこの方」


そう呼び掛けたが、そのポケ影は、一瞬でその身を翻すと、逃げて行ってしまった。

後には、甘い香りだけが残った。


フーディン「どうかしたか?」

モクロー「いえ、誰かに見られてた気がして……」

フーディン「気のせいじゃないか?」

モクロー「いや、この目で見ました。……まあ、別にいいんですけど」


そう呟いて、僕は首を前に向ける。そして、そのままアシマリたちが待っている公園へと翼を進めた。
 ▼ 88 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:34:05 ID:YaXAAu3g [27/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
22-○8

アシマリ「あ、モクローお帰り」

モクロー「ただいまー」


あの後、ニャビーは落ち着きを取り戻し、公園にあるブランコを揺らし始めた。

こんなとこでもブランコなのか、なんて少し呆れながら、結局オイラがしていた事もバルーンの練習なのだから、よーするにオイラたちは似た者同士って事なのだろう。

あれから、ニャビーは何も語らなかった。だから、オイラも何も聞かなかった。訊けなかった。
 ▼ 89 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:34:39 ID:YaXAAu3g [28/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「ん、アシマリどうかした?」

アシマリ「ううん、なんでも」

モクロー「そっか。ならいいや。帰ろう」

アシマリ「だね。モクロー、どうだった?」

モクロー「うん。いい勉強になったよ」

フーディン「はぁ、やっぱお前らといると落ち着くわ……」

アシマリ「どしたのダンチョー」

フーディン「いや、緊張し過ぎて……」


コケた。
 ▼ 90 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:35:31 ID:YaXAAu3g [29/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「帰ったぞー」

エーフィ「あ、お帰りなさーい」


みんながオイラたちを振り向く。

その奥から、鼻をくすぐる香りがした。

急に空腹がオイラを襲い、お腹がぐーっと鳴った。


アシマリ「あ、アハハ……」

エーフィ「ま、とりあえずごはん食べよっか。みんなが帰って来るぐらいのタイミングをあたしとブラッキーで読んだから、出来立てだよ」

アシマリ「ホント?!」

エーフィ「うん。だから急いで」

アシマリ「うん!」
 ▼ 91 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:36:11 ID:YaXAAu3g [30/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ブラッキーが作るごはんって、どうしてこんなにおいしいのだろう。

オイラもそれなりに料理は出来るけど、これには絶対敵わない。

ああ、幸せだ……。


アシマリ「ごちそうさまでした」


おいしい食べ物には、不思議な力が宿る。

その日の疲れや悩みを、全て吹き飛ばしてくれるのだ。

ニャビーの方を見やると、黙々とごはんを口に運んでいた。

どちらかというと、口をごはんに運んでいるように見えるけれど……。

その顔が、少し綻んで、オイラはほっと息を吐く。

ニャビーは、どうして泣いたのだろう。

上手いと褒められて、嬉し泣き以外の理由で泣くだろうか、普通。
 ▼ 92 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:36:45 ID:YaXAAu3g [31/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ちらりとオイラは、名探偵な大親友を振り向く。

けれどダメだ。

モクローに相談する気にはなれない。

ニャビーの過去を、モクローはたぶん、本当に快刀乱麻で解き明かす。

けれど、それじゃダメなのだ。

ニャビーが求めているのは真実ではない。向上だ。

どんな時でも、サーカス命。

目標が誰なのかはわからないけれど、本当に知りたいのは、真実なんかよりも、今自分が、その目標にどのぐらい追い付いているのか、追い越してるのか。

それを伝えてあげるだけでいい。

モクローは、誰かを慮るには少し、頭が良過ぎる。

でも、オイラだけじゃ無理だろうしなぁ。

なんて事を思っていると、ふっと緑の細い尾が目に入った。


エーフィ「アシマリ、どうかしたの?」

アシマリ「そうだ、エーフィがいるじゃん!」

エーフィ「?」
 ▼ 93 1◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:37:25 ID:YaXAAu3g [32/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――

エーフィ「へえ、そんな事が……」

アシマリ「うん。何がなんなのかさっぱりだけどさ、とりあえず、オイラがわかるのはここまでだよ」

エーフィ「期待してもらって悪いけどさぁ……」


エーフィは言いにくそうに続けた。


エーフィ「あたしエスパーだけどさ、相手の心を読むのははっきし言って苦手だし、考えるのもそんな得意じゃないしなぁ」

アシマリ「うん。でもさ、一緒に考えれば、1匹で考えるよりも答えに近付きやすくなると思うんだ」

エーフィ「まあ、それはそうだけどさ……この場合は、考えるというより調べる訳でしょ? あたしたちにそれが出来るかってなると……うーん」

アシマリ「まあ、そうだよね……。うーん、どうなんだろ」

エーフィ「少なくとも、安心はしてもいいと思うのよ。今までだってこんな複雑な感情抱えたままそれでも気にせず生きて来られた訳だし、ニャビーはそんな、弱いポケモンじゃないのは確かでしょ」

アシマリ「それもそうだしなぁ……」

エーフィ「……アシマリ、ニャビーの事、好きなの」
 ▼ 94 こまで◆J44kAZeDOM 17/01/04 20:38:08 ID:YaXAAu3g [33/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
声を潜めて、エーフィはいきなりそう聞いて来た。

オイラは驚いて目を見開く。


アシマリ「え、な、なんで」

エーフィ「そのぐらいわかるよ見てて。こうやって本気でニャビーの事を心配する辺り、やっぱそうなんじゃないのって思ってさ」

アシマリ「……うん。好き」

エーフィ「なら、頑張らないとね。ニャビーがここに来るまで、どこにいたのかとかから調べないと」

アシマリ「エーフィ!」

エーフィ「あなたたちには恩があるからね。あたしも、一肌脱ぐよ」

アシマリ「ありがとうエーフィ大好き!」

エーフィ「アハハ。んじゃ、まずは団長に当たってみますか」

アシマリ「うん!」
 ▼ 95 マゾウ@いでんしのくさび 17/01/04 20:54:33 ID:/jb8pkQY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 96 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:26:08 ID:uAYqlY5. [1/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







23〜26  思い出と目標と






 ▼ 97 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:26:45 ID:uAYqlY5. [2/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
23-△7

寝床の中で、ぼんやりと意識を取り戻す。

ゆっくりと、けれど確実に、しっかりと目を覚ましていく。

朝練するのだ。寝ぼけていては危険だ。

少しずつ体を夢の世界から遠ざけ、あたしは、立ち上がり、大きくひとつ、のびをした。


ニャビー「ふにゃぁああ」


大きなあくびがついでに零れる。

さて、練習だ。

全てを忘れてしまうには、やはりそれしかない。
 ▼ 98 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:27:20 ID:uAYqlY5. [3/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ『ニャビーだって、自分より凄いと思ってたポケモンが、いつの間にかそうでもなくなってるかもよ?』


違うのだ。超えてはいけないのだ。

あたしの中で、彼は、永遠に目標でいて欲しい。

もちろん、あたしは着々とそこに近付いている。

けれど、圧倒的に、彼のパフォーマンスは次元が違う。

そう。彼は、あたしの永遠の目標。

超えようと努力するのは構わない。超えてると周りから評されるのも、別に構わない。

ただ、決して超えられないし、超えてはいけない壁なのだ。

彼は、孤独だった。あたしですら、支えにはなれなかった。

誰にも言えず、だから――
 ▼ 99 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:27:53 ID:uAYqlY5. [4/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしには今、アシマリがいてくれる。

あたしの事を理解しようと努力してくれる、アシマリがいてくれる。

きっと、アシマリはあたしに追い付く。だから、あたしは孤独じゃない。

背中に、視線を感じているから、だから。

彼にとってのアシマリに、あたしはなれなかった。

あたしはだから、彼を超してはいけない。

そんな権利、あたしにはない。
 ▼ 100 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:28:55 ID:uAYqlY5. [5/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ブランコを揺らし、とりあえず空を舞う。

こうしていると、邪念も空へと消えていくはず。

あたしの体から放たれる炎に、涙も乾いていく。

わかっているのだ。あたしには、ブランコしかないって事ぐらい。

けれど、みんながいる。

何が正しい、ではない。あたしにも仲間がいた、それだけだ。

それだけなのに、彼に対しての如何ともしがたい罪悪感があたしを襲うのだ。

駄目。しっかりしなさいあたし。

そんな事はどうでもいい。大事なのは、目の前の練習だよ。

ほの明るくなって来たテントの中の景色が、後ろに飛んで行く。

冷たい風があたしの炎を、激情を冷ます。

この感覚だ。この感覚だけは、信じていい。

ブランコは、練習は裏切らない。
 ▼ 101 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:29:34 ID:uAYqlY5. [6/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「おはよーニャビー」


あたしはちらりとそちらを見やり、そのまま飛び続けた。

と、アシマリもバルーンの練習を始めた。

外の寒さを学んだからか、テントの中で練習をするらしい。

この空間には、あたしたち2匹だけ。

その感覚が、どうにも心地いい。

アシマリだけだ。こんな風に思える相手は。

思うにあたしはたぶん、相当アシマリに依存している。

あれ以来だと、サーカス以外では初めてだ。誰かに依存するなんて。

いや、これもサーカスの一端と言えばそうなのだけれど――
 ▼ 102 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:30:06 ID:uAYqlY5. [7/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
練習を終え、あたしは大地に降り立った。

アシマリもそれを見て練習を中断した。


アシマリ「そろそろごはんだね」

ニャビー「何わかりきった事言ってんの?」

アシマリ「だってそう思ったんだもん」

ニャビー「まあ別にいいんだけど」

アシマリ「あーお腹空いた。今日のごはんはなんだろ……」
 ▼ 103 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:30:56 ID:uAYqlY5. [8/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
24-○9

朝ごはんを済ませて、みんなダンチョーの指示の下練習を開始した。

そんな中、オイラはエーフィと示し合わせて(エーフィはテレパシーが使えるのだ)そこを抜け出した。

そういえば、モクローもいなかった。

ニャビーが全体練習の時にいないのならそれは個人練習しているだけで普段通りなのだけれど、いなかったのは真面目なモクローだ。

どうしたのだろう。

気にはなったが、それよりもオイラにとっては、ニャビーの方が心配だった。

だから、まずは昨日エーフィが言っていた通り、ニャビーが前所属していたサーカス団を調べる事にした。


エーフィ「一応あなたたちが来る前に、聞いた事があるのよ団長に。ほら、あの子あんなキャラだから、ちょっと気になってさ」

アシマリ「でも、ほとんど何もわからなかった」

エーフィ「そーなのよ。団長のクセに、ニャビーからここに流れ着いた事情はほとんど聞かされてなかった。唯一わかってたのがサーカス団ネメシーにいたって事」

アシマリ「ネメシー……どっかで聞いた事があるような……」

エーフィ「そりゃ、有名だからね。そういうのに疎いミリスで暮らしてたあたしたちも小耳に挟んだ事あるぐらい」


ミリスとは、古くからの言い伝えを今に伝える街だ。そのせいか、新しい事には疎くなりがちである。
 ▼ 104 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:31:34 ID:uAYqlY5. [9/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「ってな訳で、ネメシーの凄いポケモン……比べてる以上、空中ブランコ乗りなはず。ニャビーが知ってるって事は、どんだけ少なくとも15歳よりは上なポケモン」

アシマリ「ニャビーって何歳なの? オイラよりかは上だと思うんだけど……」

エーフィ「モクローと同い年の、15よ。どんだけ若くても、さすがにニャビーより若い事は考えられない」

アシマリ「まあ普通に15より若いって事はないだろうけどね……」

エーフィ「うん。だから、今ネメシーにいるブランコ乗りがそうなんじゃないかなって」

アシマリ「なるほど……」

エーフィ「問題は、今ネメシーがどこにいるかがさっぱりわからないとこよね……」

アシマリ「だよね……。この街に待機してればこれから来るかもしれないけど……」

エーフィ「たぶんその頃には、あたしたちはもう別の街に行ってる」

アシマリ「……どうしよう。ニャビーと、その目標とを比べるために……」

エーフィ「うーん……」


オイラたちは揃って考え込んでしまう。

しかし、そうしていても、特に何かを思い付く事はなかった。

けれど、とにかく、オイラの今の目標は決まった。

――ニャビーを立ち直らせる。そのために、ネメシーを捜して、ニャビーの憧れのポケモンを捜す。
 ▼ 105 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:32:13 ID:uAYqlY5. [10/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
25-◇9

明らかに、ルテーは怪しい。

ニャビーの過去、そしてニャヒート失踪事件に、間違いなく何かしら絡んでいる。

となると、僕がする事は1つ。


モクロー「調査する以外あり得ない……よね」


まず何から調べて行けばいいか。

昨日の間悩み続けて、結局答えはすぐ見付かった。

ニャヒートの件を洗う。それが一番だ。

アマージョの反応からしても、何かしらの関係があるはず。

きっと、ニャヒートは、ネメシーの団員だったはずだ。

そこを調べて行けば、きっと、芋づる式にニャビーの、そしてルテーの謎につながる。

そんな予感があった。
 ▼ 106 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:33:22 ID:uAYqlY5. [11/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート失踪事件に関して、僕はまず団長に問い掛けた。

知ってる、と。まあ、あまり期待はしていなかったけれど。

当然知らなかった。ただし、ニャヒートというポケモンに心当たりはあるという。


フーディン「10年前ぐらい前だと、ニャヒートって凄いポケモンがいたとかいないとか……あんまし覚えてないけど、いたはずだ」

モクロー「なるほど、団長でも知ってるぐらいの実力者……」


やっぱりだ。

年齢的にも、たぶんそう。

彼は、ニャビーの兄だ。

同じサーカス団に2匹ブランコ乗りがいるのか。

いる。うちは1匹だけど、複数匹いてもおかしくはない。

手をつないで1匹がブランコに乗っている1匹にぶら下がる、なんて事もあるはずだし。

同系列で、同じ場所にいて、同じ事をしていて、評判も似通っている(団長の記憶力の差は、今いるニャビーと今いないニャヒートで違うだけだろう)。

これが偶然なはずない。兄妹だと考えるのが一番しっくりくる。


モクロー「ありがとうございます」
 ▼ 107 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:33:56 ID:uAYqlY5. [12/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
で、結局僕は図書館に翼を向けた。

ルテーがダメとなると、やっぱり一番情報が詰まっているのは、書物だ。

間違えた事が書いてあることもあるけれど、大概嘘は吐かない。


モクロー「10年前の事件について書いてそうなのはっと……」
 ▼ 108 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:34:27 ID:uAYqlY5. [13/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
26-△8

10年前、お兄ちゃんは消えた。

あたしの前から、突然消えた。

いや、突然なんかではない。

わかっていた。そうするであろう事は。

けれど、幼いあたしは、まだそれを止める術を持っていなかった。

だから、あたしは、涙した。

どうにもならない運命を、呪った。
 ▼ 109 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:35:19 ID:uAYqlY5. [14/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今、あたしは、ルテーのテントの前に立っている。

チケットは持っていない。

そもそも目的は、公演ではない。


アシマリ『ニャビーのパフォーマンスと、おんなじ感じがするんだ。なんだか、怖いぐらい似てる』


もしかすると、お兄ちゃんがいるかもしれない。

お兄ちゃんがあたしにしたのと同じ指導を、あのポケモンに対してしたのかもしれない。

そう考えるのは、夢を見すぎであろうか。

お兄ちゃんを想うが故の、淡過ぎる幻想だろうか。

けれど、そう考えると、どうしようもなかった。

忘れるなんて、不可能だ。

どれほど練習に打ち込んだとしても、これだけは、出来ない。

ブランコより――あたしの生の証明より優先度の高い、たった1つの例外。

お兄ちゃんとまた会えるのなら、あたしは、死んだって構わない。

そのぐらいの覚悟で、あたしは今、ここに臨んでいる。
 ▼ 110 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:36:47 ID:uAYqlY5. [15/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告















――けれどまさか、本当に死の危険に瀕する事になるなんて

――そして、実際に死んでしまうポケモンが出てくるだなんて、誰が想像出来ただろうか。

あたしは、もちろん無理だった。
 ▼ 111 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:37:33 ID:uAYqlY5. [16/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「ごめんください」

アマージョ「あら……っ!」


応対に出たアマージョの目が、驚愕に彩られる。

まあ、あたしは有名だ。サーカス界では、たぶん相当の実力者で通っていると思う。

驚くのも自然なのだろう。


アマージョ「あなた、エクリプスのニャビー……」

ニャビー「はい。少し、伺いたい事があって来ました」

アマージョ「こちらもよ。あなたとは、常々お話したいと思っていました」

ニャビー「そうですか。お互いに、何かしら得られればいいですね」
 ▼ 112 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:38:11 ID:uAYqlY5. [17/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
応接間とでも呼ぶべき空間に、あたしは通された。

周りを見回すが、サーカス団なのだ。調度品の類は移動の邪魔になるため、何もない。

結局、あたしたちは座って会話を始めた。


アマージョ「それで、伺いたい事とはなんですか」


アマージョの表情が、硬く強張っている。

チラリとあたしは恐怖を感じた。

だが、それは恐らく、彼女の特性のせいだ。

怖気づく事なんて、ない。


ニャビー「ここに、ニャヒート、もしくはガオガエンがいるのではないか、という事です」
 ▼ 113 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:38:42 ID:uAYqlY5. [18/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
言った。

言ってしまった。

もう引き返せない。

あたしは、もう止まれない。
 ▼ 114 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:39:26 ID:uAYqlY5. [19/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アマージョ「ニャヒート、もしくはガオガエン……。公演にはそのようなポケモンは出ておりませんが」

ニャビー「わかってます。でも、たぶん、いる。

      空中ブランコが、あたしと同じだったんです。

      それは、あたしと同じポケモンから教わったからじゃないかと考えました」

アマージョ「――あなたはニャビー。つまりそれはあなたの兄と」

ニャビー「はい。あたしは、兄にブランコを教わりました。

      だから、今、あたしはこうしてやっている。

      でも、お兄ちゃんは、あたしの前から消えた。

      どこに行くのかも言わないまま、消えました。

      ……希望的観測ですかね、ここにいるなんて思うの」

アマージョ「そういう事ですか。……いますよ、ガオガエン」


アマージョの言葉に、あたしは顔を上げた。

アマージョの表情は、強張ったままだった。

あたしは、口を開く。
 ▼ 115 プラス@リバティチケット 17/01/05 20:39:37 ID:xikQaE/I NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 116 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:40:05 ID:uAYqlY5. [20/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「え、いる……」


確信自体はあった。けれど、そう言われてしまうと、少し信じられない。

あたしは続けた。


ニャビー「会えますか、兄と!」

アマージョ「……はい」


どうしたのだろう。

アマージョの表情は、なおも強張ったままだ。


ニャビー「兄は、どこにいるんですか」

アマージョ「呼んできますね」


そう言って、アマージョは立ち去った。

あたしはどうすればいいのかもわからず、そこで待機する事に決めた。

まあ、間違いはないだろう。
 ▼ 117 1◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:40:36 ID:uAYqlY5. [21/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

























――そう、思っていた。
 ▼ 118 こまで◆J44kAZeDOM 17/01/05 20:41:06 ID:uAYqlY5. [22/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
不意に、何かしらのメロディーが聞こえてくる。

何かの練習だろうか。

そう思って、覗いてみるが、特にそんな気配はない。

どうしたのだろうかと再び座り込んだ瞬間、眠気を感じた。


ニャビー「ふにゃぁああ、寝不足かな……」


そう言ってみるが、そんな物ではない。

尋常ではないのだ。

急激な眠気の発作が、あたしを襲う。

そこまで来て、ようやく気付いた。

これは、『くさぶえ』だ。誰かが、あたしを眠らせようとしている。


ニャビー「待って、あたし、お兄……ちゃん……と……会……すぅ……」


後の記憶は、残っていない。
 ▼ 119 ガオニゴーリ@クリティカッター 17/01/05 20:44:39 ID:VT/wGbOc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 120 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:41:12 ID:aFPNI/3U [1/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







27〜32 ニャビー誘拐事件






 ▼ 121 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:41:48 ID:aFPNI/3U [2/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
27-○10

晩ごはんの時間になってもニャビーが帰って来ない。

どうしたのだろうか。

全体練習をすっぽかして1匹で練習するのはいつもの事だけど、それでもいつも、晩ごはんまでにはちゃんと帰って来る。


アシマリ「モクロー、ニャビーどうしたんだろう」

モクロー「確かに、いないよね……」


幸い、オイラとエーフィが途中でいなくなった事は誰にもバレていなかった。

それをいい事に、あの後オイラたちは、練習が終わった後の自由時間を利用してネメシーに関して調べてみた。

残念ながら、図書館でいろいろと見ようとしたけれど、可能性がありそうな本を司書さんに聞いてみたところ、ほとんど全部借りられてしまっていて、何もわからなかったのだけれど。

そんな風に落胆しながら帰って来たら、こうである。

ニャビーがいない。

そろそろみんな気付いているようで、こそこそと何やら話し込んでいる。
 ▼ 122 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:42:19 ID:aFPNI/3U [3/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「あー、ニャビーだが」


とダンチョーが言う。


フーディン「あいつがどこにいったのか、俺もわからない。

       とりあえず、みんなは飯を食ってくれ。

       ニャビーの事は心配だが、何かあった時に、腹が減って動けないじゃ笑えないからな。

       ってな訳で、いただきます」


ダンチョーが言う事はもっともで、だからオイラは食べ始めたのだけれど、心配な感情のせいで、ブラッキーの料理だというのにおいしく食べられなかった。


アシマリ「ニャビー……どうしたんだろ……」
 ▼ 123 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:43:07 ID:aFPNI/3U [4/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「心配だけど……アシマリ、半分も残してるよ」

アシマリ「なんかさ、食欲出なくって。ごめん」

モクロー「謝る事じゃないけどさ……大丈夫?」

アシマリ「わからない」


ニャビーの涙に、オイラは気付いてしまった。

だから、心配が止まらない。

何か、早まった事をしてなければいいけど……。
 ▼ 124 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:43:42 ID:aFPNI/3U [5/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「どうしたんだろうね、ニャビー」


エーフィも、オイラと似たような心配をしていたらしい。

もっとも、ちゃっかりごはんは完食していたのだけれど。


エーフィ「何か……思うとこがあったのかもね」

アシマリ「そりゃあるよ……。オイラ、どうすればいいんだろう。ニャビーは、どうしたいんだろう。わからないよっ……」

エーフィ「……モクローに話そう。何かあってからじゃ遅い」

アシマリ「でも――」

エーフィ「やっぱり、謎を解くのは、モクローなんだよ。あたしたちじゃ、絶対に無理だ。

      ニャビーがどうしてるのか、わからないけど、すっごい嫌な予感がする。

      急がないと、大変な事になる」

アシマリ「えっ」

エーフィ「あたしを、信じて。エスパーで、しかも太陽の力を授かったポケモンなんだよ。

      ……絶対に、何かが起きる。そんな気がする」

アシマリ「……わかった」
 ▼ 125 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:44:16 ID:aFPNI/3U [6/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
28-◇10

モクロー「ってな訳で、今はネメシーとニャヒートについて調べてます」

フーディン「はぁ……。関係あるのか、それ、進化を嫌がる理由と」

モクロー「ニャビーの思想は、たぶん幼い頃に決まってる。となると、そう考えるしかない」

フーディン「なるほどな……」


団長の依頼だから、逐一状況を説明しないといけない。

もっとも、話す事で整理されるので、ありがたいのは間違いない。
 ▼ 126 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:44:55 ID:aFPNI/3U [7/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、話題を変えた。


モクロー「ところで、ニャビーに関して、ホントに知らないんですか?」

フーディン「え、ああ。まったく聞かされてないが……」

モクロー「どこに行ったんだろ……」

フーディン「まあ、心配ではあるが、あいつって気まぐれだし、昨日のルテーで何かしらあったのかもしれねえなって」

モクロー「まあそれはそうですけど……ニャビーって、凄く不安定だから」

フーディン「それでも、あいつは強いよ。絶対帰って来る」


団長が言う事は、正しい。

けれど、違和感が拭えない。

ニャビーがふらっと消えて、何をしているというのだろう。
 ▼ 127 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:45:50 ID:aFPNI/3U [8/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「モクロー」


そんな事を考えながら歩いていると(飛んではいなかった)、アシマリに声を掛けられた。

どうしたの、と問いかけると、アシマリはニャビーに関して、話があるという。


アシマリ「ニャビー、昨日すっごく泣いたんだ」


心配そうな声で、アシマリがいろいろと語ってくれる。

ルテーのブランコ乗りのパフォーマンスがニャビーのそれと似通っている事。

ニャビーの、いきなりの涙、その訳。


アシマリ「だから、心配で! ニャビー、どうしたのか、心配で!

      だから、モクローにも、伝えた」

モクロー「……気にしてないよ。アシマリ、君は間違ってない。

      僕に言ったら徹底的にやる。それは間違いない。

      まあ、どっちみち、団長からの依頼絡みで僕は調べてただろうけど」

アシマリ「え、ダンチョー?」
 ▼ 128 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:46:35 ID:aFPNI/3U [9/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「ニャビーが進化を嫌がる理由を調べてくれって。あの首飾りに付いたかわらずのいしに、ニャビーは何を願ってるのか」

アシマリ「あれかわらずのいしだったの?!」


アシマリがそう叫ぶ。

そして、少しだけ考えるような素振りを見せて、それから言った。


アシマリ「進化が嫌な理由ってさ……進化したら体格が変わるからじゃないの?

      空中ブランコなんて、どう考えても体格が変わってバランスが崩れたらマズイでしょ。

      そんな事よりも、今はニャビーがどこにいるのかだよ!」
 ▼ 129 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:47:08 ID:aFPNI/3U [10/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、絶句した。

アシマリは、僕を悩ませていた謎を、いとも簡単に解きほぐしてしまった。

証拠はない。けれど、それが正しいと、そう思えた。


アシマリ「ねえ、モクロー! ニャビーがどこいったのかとか、わからない?!」

モクロー「ちょっと待って、考えるから」


そう、僕の感傷なんて、どうでもいい。

大事なのは、ニャビーがどこにいるかだ。

僕は、脳みそと首をゼンリョクで回し始めた。
 ▼ 130 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:48:58 ID:aFPNI/3U [11/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビーと似通ったパフォーマンスをする、ルテーのブランコ乗り。

突然泣き出したニャビー。

10年前消えたニャヒート。

ニャビーの兄であり、恐らくは憧れの的であった、ニャヒート。

10年前失敗したニャビー。

今、ここにはいないニャビー。

ニャビーは今、どこにいて、何をしているのか。

進化を拒む。体格の変化。

何かが、何かがつながろうとしている。

なんだ。

事実は、なんだ。

僕の中にある、答えは……。
 ▼ 131 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:50:56 ID:aFPNI/3U [12/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――ダメだ、見えない。

すんでの所で、答えが僕の頭のざるからこぼれ落ちて行く。


モクロー「……なんで」

アシマリ「モクローどうし――」

モクロー「……わからないんだ、さっぱり」

アシマリ「……そ……っか」

モクロー「ごめん」

アシマリ「モクローが謝る事じゃないよ! オイラだって、考えなきゃいけないんだから」


アシマリはそう励ましてくれるけれど、それでも暗く沈んだアシマリの顔が、僕の心をどうしようもなく貫いた。

肝心な時に真相を特定出来ないで、何が推理屋だ。


モクロー「ごめん、落ち着いて考えたい。しばらく1匹にして」

アシマリ「わかった」


そう言って、僕はアシマリから離れた。
 ▼ 132 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:51:40 ID:aFPNI/3U [13/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
29-○11

モクローですら、気付けないのか。

オイラも考えないと、と言いはしたが、モクローが考えてわからない物を、オイラが推理出来るはずもない。

どうすればいいんだろう。

オイラだって、考えないといけないのだけれど。

でも、何もかもが足りない。

オイラには、それに気付く、能力がない。


エーフィ「モクローどうだった?」


オイラは首を横に振る。

エーフィの目が、驚愕に彩られて行く。
 ▼ 133 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:52:14 ID:aFPNI/3U [14/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「どこに……ニャビー、どこに……」


オイラの目から、涙が滴った。

ニャビーに、何か危ない事が起こるかもしれない。

そんな予感が、胸を締め付けた。

それなのに、オイラは何も出来ない。

何も、してあげられない――
 ▼ 134 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:55:03 ID:aFPNI/3U [15/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――気付けば、朝だった。

エーフィが布団に運んでくれたのだろうか。

完全に、眠ってしまっていた。

ニャビーは、いない。

練習場に向かったが、そこにもいない。

ちょっとどこかに行っただけ、なんて望みは完全に消えた。


フーディン「アシマリ」


不意に後ろから声を掛けられて、オイラは振り向いた。


アシマリ「ダンチョー」
 ▼ 135 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:55:58 ID:aFPNI/3U [16/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「ニャビー、まだ帰って来ないのか。

       あいつの事だから、心配はいらない、って思ってたんだが……あいつは、ブランコから離れられないからなぁ、精神的に。

       移動で1日潰れる時以外は、毎日やってるよな」

アシマリ「どんだけ遅くなっても、今頃には練習してるはず」

フーディン「……まあ、練習自体はここ以外の場所にいたって欠かしてないだろうけど、なるべくなら戻って来てちゃんとした器具を使ってやりたがるはずだ」

アシマリ「わかってる。だから、おかしい。ダンチョー。もう、ひょっこり帰って来るかもなんて言えないよ。捜さないと」

フーディン「ああ」
 ▼ 136 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:56:55 ID:aFPNI/3U [17/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「それでだな……アシマリ、お前に聞きたいんだ。ニャビーについて」

アシマリ「ああ……でも、モクローに全部話したよ」

フーディン「ああ、それも聞いた。モクローから直接な。

       俺が聞きたいのは、そう言う事じゃなくてだな……。

       ニャビーのパフォーマンスは、マネしようと思って、そう簡単にマネ出来るもんか? って事だ」

アシマリ「え、絶対無理だよそんなの!」

フーディン「だろ? そのぐらいは俺だってわかる。わかるけど、お前に確かめたかったんだ。

       ニャビーのパフォーマンスは、マネ出来ない。

       でもさ、ニャビーには、憧れのポケモンがいたんだ」

アシマリ「そうだけど、それがどうしたの?」


ここでフーディンは、頭を掻いた。

少し言うのを躊躇うような素振りを見せ、そして口を開いた。
 ▼ 137 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:57:29 ID:aFPNI/3U [18/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「モクロー、この事はお前にだけは言うなって言ってたんだけど、言わない訳にもいかない」

アシマリ「えっ、何を?」

フーディン「あいつ、一晩中悩んでた。ずっと首回してさ。

       今はもう、爆睡中だよ」

アシマリ「そう……なんだ」


オイラは寝ていたというのに。

その間にも、モクローはずっと考えていたのか。


フーディン「これは、あいつの推理だ。一晩かけて、ようやく絞りだした物だ。

       入り組んでるが、解けない謎じゃないって言ってたな、あいつ」

アシマリ「聞かせて、すぐに!」

フーディン「ああ」
 ▼ 138 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:58:14 ID:aFPNI/3U [19/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「ニャビーのパフォーマンスは、マネ出来ない域に達している。

       けど、それを成し遂げたポケモンがいる。

       じゃあ、そのポケモンは、何を見てそこまで達したのか。

       ニャビーだって、最初から天才だった……のかもしれないけれど、それにしたってブランコのいろはを教えた存在がいるはずだ。

       それが、ニャビーの憧れ。恐らくは、10年前に失踪したニャビーの兄、ニャヒートだ」

アシマリ「えっ……」

フーディン「ニャビーは、兄であるニャヒートからブランコを学んだ。

       その兄には、今でも追い付けてないって言ってるんだろ、ニャビー。

       だったら、ニャヒートはそれ程の実力者って事になる」


フーディンの説明は続く。

けれど、オイラの耳は、何か1つの単語にひっかかり、先へと進んでくれなかった。
 ▼ 139 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 13:58:59 ID:aFPNI/3U [20/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「ちょっと待ってダンチョー……今、なんかちょっと変な感覚が……」

フーディン「え」

アシマリ「ああいや、オイラの昔の話なんだけど、ちょっと待って……続けていいよ」


何の単語がひっかかったのか、それが何故なのかはわからない。

それよりも大事な問題が、今は目の前にある。

けれど、どうしてか、オイラの幼い日の記憶の引き出しが少し開いた――ような気がした。

しばらく心を落ち着けて、続きを促す。
 ▼ 140 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:00:06 ID:aFPNI/3U [21/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「……まあいいや。

       兄であるニャヒートが憧れのポケモンなのだとしたら、きっとニャビーは、兄から学んだはずだ。

       だからこそ、ニャビーはいつまでも追い越せないと思ってる訳だし、それでもここまでの実力を手に入れもした。

       で、だ。どういう事かわかるか? ルテーにも、ニャビーと似たようなパフォーマンスをするポケモンがいるって事が」


あっとオイラは声を出す。


アシマリ「そのポケモンも……ニャヒートから学んだ?」

フーディン「そういう事だ。だからこそ、同じように感じられたんだ。もちろん、向こうだってそれ相応の努力はしただろうがな」

アシマリ「そっか。ん? ちょっと待って、じゃあ今、ニャビーは……」

フーディン「ああ。俺もアシマリと話して確信したよ。

       恐らく、兄に会いに、ルテーに出かけたんだ。

       なんでまだ帰って来ないのかは謎だが、とにかくそのはずだ」

アシマリ「今すぐ行こう、迎えに!」

フーディン「ああ」
 ▼ 141 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:00:40 ID:aFPNI/3U [22/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
出かける支度をしていると、朝ごはんを作っているブラッキーに気付かれた。


ブラッキー「何してるの」

アシマリ「ニャビーを捜しに行くんだ」

ブラッキー「心当たりは?」

アシマリ「あるよ。モクローが推理してくれた」

フーディン「お前は……料理を作っててくれ。まあ、そんな危険な事があるとは思えんが、もし昼過ぎても帰って来なかったら、みんな引き連れてルテーまで来てくれ」

ブラッキー「ルテーね、了解」


ブラッキーによろしくと声を掛け、オイラたちはテントの入口を潜った。
 ▼ 142 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:01:31 ID:aFPNI/3U [23/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
30-△9

暗闇。

あたしを縛る、過去の思い出が、あたしの中を駆け巡る。



ニャビー「お兄ちゃん、凄かったね!」

兄ニャビー「ありがとな、ニャビー。……やっぱ、俺たちって呼び分けるべきだよな」

ニャビー「えー。でもお兄ちゃんはお兄ちゃんだし、それでいいじゃん!」

「ふふ、ほんっと仲いいな」


そう声を掛けて来たのは、あたしたちの同僚。

あたしたちはネメシーの中で、楽しく暮らしていた。
 ▼ 143 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:02:30 ID:aFPNI/3U [24/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
場面は暗転し、再び視界が戻って来た時、あたしとお兄ちゃんは、雨に降られていた。


兄ニャビー「おい、待てよ。こいつは……妹はどうなるんだよ、親父、お袋」

ニャビー「にゃぶにゃぶ」


まだあたしは、ほとんど物心も付いていない状態。

けれどこれは、あたしの一番古い記憶。


「ごめんなさい、だけど……このままじゃ、あなたたちも、私たちも、死んじゃうから……」

「せめて、お前たちは、サーカス団で、不自由なくメシが食えるようにだな」

兄ニャビー「ふざけんなよ、俺たちを売ろうとしてるクセに」


そう言うお兄ちゃんの怒った顔が徐々に薄れ、また暗転。

そして光が戻って来て、あたしは、1匹ぼっちだった。
 ▼ 144 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:03:07 ID:aFPNI/3U [25/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
誰からも見捨てられ、お兄ちゃんも消えて。

何度も死のうと思った。

けれど、駄目だった。あたしには、死ぬ勇気もない。

ネメシーを追い出され、それでもなお、あたしはサーカスに執着した。

サーカスは、もはやあたしの生の一部。

そして、あたしとお兄ちゃんを繋ぐ唯一のものだったから。

それを失えば、あたしは、あたしでなくなる。そう、知っていたから。


徐々に世界が掻き消えて、瞼の奥にほんのりと明かりが忍び込む。
 ▼ 145 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:03:37 ID:aFPNI/3U [26/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
31-△10

ニャビー「う、ううん?」


ぼんやりと目を開き、それからしばらくかけて、覚醒へと向かって行く。

と、その内に違和感を覚える。

あれ、ここどこだ?

見渡すと、あたしは檻に閉じ込められていた。


???「ようやくお目覚め?」


その声に、聞き覚えがあった。

頭の引き出しを引っ掻き回し、その声の主を探り当てる。


ニャビー「アマージョ……。アマージョ?!」


どういう事だ、なぜいきなり……。

あたしの中でその声が姿と一致した瞬間、様々な記憶が一気に巻き戻る。

「くさぶえ」で眠らされるまでの、その記憶が。
 ▼ 146 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:04:07 ID:aFPNI/3U [27/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「アマージョ、どうして……お兄ちゃんは?」

アマージョ「いるわ。……でも、会いたくないそうよ」

ニャビー「え」

アマージョ「あなたに会えば、決意が揺らいでしまうからだそうね」

ニャビー「け、決意?」


いきなりの発言に、戸惑いしか覚えられない。

お兄ちゃんは、どこにいて、何を考えているの?


アマージョ「あなたには話さないといけないわね……」


アマージョは、まだ強張った表情を消さない。

それが演技なのか真正なのかはわからないけれど。
 ▼ 147 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:05:45 ID:aFPNI/3U [28/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アマージョが語る話はこう。

お兄ちゃんは、あの事件以来、姿を消した。

そして誓ったのだという。

ネメシーを潰す。絶対王者になって、ネメシーを、潰す。

そんな思いで、サーカス団ルテーの陰の団長になった、らしい。


ニャビー「自分たちのパフォーマンスしか見ていなかったネメシーを許さない、か。お兄ちゃんらしいや」


確かに、あの時の周りの目の豹変ぶりったらなかった。

誰もあたしを見ていなかった。

あたしのパフォーマンスだけだった。大事なのは。

それをありありと知らされた。
 ▼ 148 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:06:24 ID:aFPNI/3U [29/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「でも、だからって、あたしを閉じ込める意味よ。訳わからないんだけど」

アマージョ「今のあなたは、過剰なまでに凄過ぎるからよ。私たちが描く理想に、あなたの存在は、強すぎる」

ニャビー「それが言い分? お兄ちゃんがそんな事あたしに言うとは思えないから、あんた1匹で考えた事だろうけどさ。

      あたしが消えたら、みんなが捜しに来るよ。

      その時、どう言い逃れするの?」


あたしを隔離して、エクリプスの人気を落とし、一番になりたいのだろうか。

アマージョは、お兄ちゃんの計画を履き違えている。

お兄ちゃんはただ、当時の絶対王者、ネメシーを潰したいだけなはずだ。
 ▼ 149 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:07:08 ID:aFPNI/3U [30/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アマージョ「だから、あなたを閉じ込めてるの。あなたを説得するために、ね」

ニャビー「は?」

アマージョ「まあ、しばらくここにいるだけだから。どうせあなたの事だもの。俺の事は話してないはずって、ガオガエンも言ってたわ」

ニャビー「……え、ちょっと待って、お兄ちゃんは、これ知ってるの?」

アマージョ「ええ、知ってるわよ。またあなたとサーカスを出来るかもしれないってね」

ニャビー「!」


なるほど、つまりお兄ちゃんの狙いは、またあたしとサーカスを創りたい、か。

けれど、それをしてしまうと、ネメシーへの殺意が消えてしまう。

だから今は、覚悟を固めていると。


ニャビー「ふざけんなよ。

      お兄ちゃんを出せ! あんたなんかに何がわかるっての!」
 ▼ 150 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:08:18 ID:aFPNI/3U [31/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アマージョ「ですから、しばらく落ち着いて」

ニャビー「……うるさい。あんたがいなけりゃっ! 今頃お兄ちゃんと会えてたのに!」


あたしは、もはや何も見ていない。

ただ、奥に隠れているお兄ちゃんを求めるだけ。

そんなわめきに意味はなく、しばらくの後、ようやく冷静さを取り戻すまで、延々と叫んでいた。


ニャビー「……ああもう! わかったわよ、話聞く!」


その言葉で、あたしを縛る呪縛は、完全に解けてしまった。

兄は、もういないのだ。

少なくとも、あたしの知っている、兄は。
 ▼ 151 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:09:04 ID:aFPNI/3U [32/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アマージョ「そう。じゃあ、話すわ。

       私たちがあなたに望むのはただひとつ。

       エクリプスをやめて、こちらに移ってくれないか、という事。

       あなたはガオガエンと共演出来て、私たちはルテーをさらなる高みへ……っ!」


恍惚とした表情を浮かべ始めたアマージョとは対照的に、あたしの心はどんどん冷え切って行った。

何よ、今さら。あたしがエクリプスにいるって事は、あの事件以来広く知られてる。

そんなにあたしが欲しいなら、すぐに会いに来てよ。

もう、遅いよお兄ちゃん……。
 ▼ 152 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:09:56 ID:aFPNI/3U [33/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アマージョ「どちらにとっても利益でしかないでしょう? ニャビー、よく考えて」

ニャビー「それで、なんで閉じ込めた訳?」

アマージョ「まだ足りないか。

       あなたは、たぶん暴れてしまう。でも、ここで、あなたを暴れさすとかない、って言ってたわ。

       俺はあいつを止められないし、誰にも無闇に止めさせたくないから、って。

       現にその通りになったわね」


確かに、あたしは暴れたけれど、もっと穏便な話し方だってあったはずだ。

お兄ちゃん、あなたの狙いは、何?
 ▼ 153 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:11:22 ID:aFPNI/3U [34/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アマージョ「まあ、しばらく時間はあるでしょう。まだ夕方よ。

       落ち着いて考えて。どうするのが、一番いいのか」


そう言ってアマージョは立ち去った。
 ▼ 154 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:12:15 ID:aFPNI/3U [35/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
数時間後、あたしは、重大な、極めて重大な問題に直面した。

檻の中に閉じ込められて、身動き出来ないとはつまり、ブランコに乗れない、という事を示す。

別に、常に練習していないと死ぬとまでは言わない。

もちろん完全に辞める時が来るとしたらそれは半ば死、というか新たな生の始まりと言えるけれど、物理的にずっと続けている必要は、ハッキリ言って、ない。

だからこそ、あの事件の時アシマリと一緒にミリスに行くと名乗りをあげられた訳だし、食事、睡眠その他の時間、別に普通に取っている。

だから、このぐらい、問題ではない。

ないはずなのだが、どうしてか、あたしは今、禁断症状という極めて重大な問題に襲われている。

恐らく、いつでも乗れる、という安心感さえあれば、あたしは大丈夫なのだ。

飛びたくなったら飛べる。その感覚が、あたしを護る。

けれど、それが封じられようとする時、あたしは、自分を自分で抑えられない。

イスカーの時、エーフィたちに辛くあたったのも、その時にアシマリの前で涙を流してしまった事も、全部そうだ。

ブランコが奪われる。これが、ただ怖かった。

そして今、あたしは――


ニャビー「飛びたい」
 ▼ 155 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:13:42 ID:aFPNI/3U [36/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目の前にブランコがあるというのに、それに駆け寄って行く事の出来ない苦痛。

あたしは、止まらなかった。

飛びたい飛びたい飛びたい飛びたい飛びたい飛びたい飛びたいとびたいとびたいとびたいとびたいとびたいトビタイトビタイトビタイトビタイトビ……











――エクリプスに、帰りたい。
 ▼ 156 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:14:35 ID:aFPNI/3U [37/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
どうして急に、そんな思考に至ったのかはわからない。

いつの間にか、あたしの飛びたいという感情が、帰りたい、にすり替わっていた。

あたしは、ネメシーを追い出され、サーカスにしがみ付くために、仕方なくエクリプスを選んだ。

だから、ルテーのような実力のあるサーカス団に入る、しかもそこにお兄ちゃんもいるとなれば、移らない理由はない。

そのはずなのに、どうしても、あたしは、それがいい事だとは思えない。

あたしがいる場所は、ここじゃない。

あたしのいるべき場所は……
 ▼ 157 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:15:07 ID:aFPNI/3U [38/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしは、首に掛けた紐を燃やした。

お兄ちゃんがいるなら、これで意思表示出来るはず。

あたしがいるべき場所は、ここじゃない。

かわらずのいしが地面に落ちて、あたしの体は光を纏う。

ほの暖かな力が流れ込み、あたしの体は分子レベルまで分離して、再構成を始める。

首に、熱が集中し、熱い。

その熱が、進化の感覚だった。

ふう、と息を吐く。

――あたしが、あたしがいるべき場所は!
 ▼ 158 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:15:58 ID:aFPNI/3U [39/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







ニャヒート「ポケモンサーカス団エクリプス!」






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