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【寒い日SS】グラジオ「俺は、もっと、お前の心配が、していたい……っ!!」【グラミヅ】

 ▼ 1 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/12 20:40:08 ID:KBJWkvu. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「クロバット、クロスポイズン!」

少年の緊迫した声が場に響く。

呼応して、上空を猛スピードで飛翔するクロバットが、その4枚の羽を毒々しく染め上げる。

そして、少年の声に被せるように発せられた、鈴のように可憐な声。

「コケっち! 避けて!」

瞬間。

クロバットよりも少し低空で、圧倒的な存在感が爆発して撒き散らされた。

クロバットの真下を黄色の残像が横切る。

「後ろ、斜め下!」

クロバットが振り向き、そのまま何もない虚空へ突進し始める。

とその時、クロバットの進行方向に黄色い影が割り込んだ。

残像の移動コースを予測しての指示。確かな実力だ。
 ▼ 37 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 00:02:45 ID:CYg0HTU2 [1/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
結論としては、パソコン上の処理に関して言うとロトムはこの上なく優秀だった。

実際、今日やる予定の仕事は午前中のうちに終わってしまったのだ。

次の日の分なんかを先取りして仕事の量を増やしても、全ての仕事が終わったのは夕食前。

こんなに早く仕事を切り上げられたのはいつぶりだろうか。

そのスピードはやはり、ロトムがパソコンの中に入って直接情報をいじることができるのがとても大きい。

面倒な工程も、入っているプログラムだけではできない複雑な挙動もなんのその。

また、普通の処理もスピードも手でマウスを動かしたりするより断然早く、こちらは動かさなくてもいいので快適だ。

本人曰く、データの書き換えは体を自由に動かすようなものらしい。

そんなこんなで、少なくとも一年はなかったであろう暇というものに俺は困惑していた。

何もすることがないときに何をしていたかなんて昔の経験は、もうとっくも忘れてしまっている。

特に目的もなく2階の保護区で自分のポケモンたちと触れ合っていると、後ろからミヅキの声がした。

「グラジオ、今から何かまだやるの?」

「いや、今日はもう何もない」

「ほんと? じゃあ一緒に外に出ない?」

「別にいいが……俺はライドギアなんか持ってないぞ」

メガフロートというだけあって、やはりここは海の上。

船も財団のものしかない。

私用でここから出るようなことが今までなかったので気にしていなかったが、俺はこの閉鎖空間にずっといるのだ。

「2人で乗ればいいよ」

「違反じゃないか……」

「いいよ、そんなの。私には違反とか関係ないもん」

まるで子供のように自己中心的な発言だが、ミヅキの境遇を考えるとそれがまかり通ってしまうのだった。

「……そうか。どこに行くのか知らんが、付いて行ってやってもいい」

ポケモンたちをボールに戻し、ポケモンたちと戯れていて乱れた服を払う。

「本当に? じゃあ早く行こ!」

右手が柔らかくてしっとりとした感触に包まれた。

伝わってくる温もりが少し冷えていた手を温めてくれた。
 ▼ 38 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 00:03:05 ID:CYg0HTU2 [2/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エントランスから外に出ると、冷たい夜風が吹き抜けた。

「うぅ……さ、寒いね……」

「分かっていたことだろう。何を今更」

「そうだけどさぁ……」

ぶつぶつと文句を言いつつ、震えた手でライドギアからリザードンを出す。

その出てきたリザードンを見て、俺は疑問を感じた。

「普通のライド用のリザードンは座席がついてなかったか?」

「ついてたよ。取っちゃった」

「おい、そんなことやっていいのか?」

「知らないけど、他のポケモンのも取っちゃってあるよ。だって窮屈そうなんだもん」

「……窮屈、か」

「そ。カントーではそのまま乗ってたし大丈夫だと思うの」

それに……、とミヅキはリザードンを優しく撫でながら付け加えた。

「座席なんかつけてポケモンを道具みたいにしてるの、わたしは嫌い」

それは、俺が考えても見なかったことだった。

今まで全く違和感なんてなかったが、言われてみれば確かに道具のような扱いだ。

「確かに、な。座席なんてない方がいいのかもしれない」

今までポケモン目線で一緒に関わって行く、というモットーでポケモンの保護をやってきたが、まだポケモンを道具扱いしているような面があったのかもしれない。

もしそうだとしたら、反省しなければ。

「……お前も十分すぎるくらい優しいじゃねぇか」

ボソッと思ったことを呟く。

しかし、リザードンと戯れているミヅキには聞こえなかったようだった。

「え、グラジオ何か言ったー?」

「いや、何も。どこかに行きたいなら、早くしてくれ」

「はーい」

リザードンが首を地面に近づける。

乗ったミヅキは俺に手招きをした。

「早く乗ってー!」
 ▼ 39 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 00:03:23 ID:CYg0HTU2 [3/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
成り行きのままにミヅキの後ろに跨ろうとして気づく。

――ミヅキはリザードンの首を持てるから安定するが、後ろの俺はどうするんだ?

「早く乗ってよ〜! じゃないと出発できないよ?」

「いや……このままだと体が固定できないんだが」

「あ……どうしよっか。でも、それしかない……よね?」

どうやら方法を思いついたらしいが、俺には見当もつかない。

「何か思いついたのか?」

「いや、あの〜……うん。わ、わたしに掴まってれば良いよ!」

一瞬何を言っているかよく分からなかった。

いや、察することはできたが、脳が理解するのを拒んだのだ。

「……どういうことだ?」

「いいから、早く乗ってよ!」

珍しく語勢を強めて言われ、そのままミヅキの後ろに跨る。

瞬間、手首が手錠を嵌められるかのようにがっしりと掴まれた。

そのまま腕が前に持っていかれる。

強引に前まで持っていかれたせいで、密着状態が出来上がってしまった。

「こ、これでいいよ! リザードン、お願い!」

状況についていけずに困惑している間に、リザードンはミヅキの命を受けて飛び立ってしまう。

「なっ、ま、待て!」

乗っている場所が揺れ、安定感を求めた俺は反射的に近くのミヅキへ抱きつくような格好となる。

「ひゃっ……!?」

突然お腹に力が加わったせいでミヅキが奇声をあげる。

「その……すまん」

「ち、違うよ? 危ないからむしろこうしないといけないんだもん」

飛んでいるせいで全身に当たる風は冷たく、体の末端の温度はどんどん下がっていく。

しかし、肝心の中枢部分はどうしようもなく温かくて。

俺はひたすら無心状態を維持するのに精一杯だった。
 ▼ 40 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 00:03:59 ID:CYg0HTU2 [4/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
飛んで行ったのはエーテルパラダイスから向かって南西方向。

どこへいくのかと思えば――

「ほら、ここ! ナッシーアイランド!」

ミヅキが指を真下に指すと、リザードンが急降下を始めた。

思わず叫びそうになるのを気合いで押さえ込む。

地面にぶつかるんじゃないかと思うほどギリギリまで急降下し、一気に止まる。

心臓も一緒に止まるんじゃないかとさえ思ったが、特にそんなことはなく普通以上に拍動していた。

やっとの思いで降り立った地面は当然だが全く不安定ではない。

地面が揺れていないことにこんなにも安心感を覚えるのは多分今日が最初で最後だろう。

夜風が顔に当たるのがちょうどいい涼しさでとても心地よい。

ミヅキはというと、何かを祀っていたようにも見える台座の下の段差に腰掛け、空を眺めていた。

少し距離を離して隣に座り、俺も同じように空を見上げた。

まだ後ろの方の空は真っ黒な雲に覆われているが、ここから少し首を上げてみる分には一面宝石を散りばめたような綺麗な空だった。

「…………」

「…………」

「綺麗でしょ?」

「最近は星空なんて見てないから余計にな」

「カントーに行く前にもう一回見ておきたかったんだー」

チクリ、と棘が刺さるような痛みがあった。

しかし、どこが痛いのかは分からない。
 ▼ 41 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 00:04:18 ID:CYg0HTU2 [5/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「もう一度? 前にも見たことがあるのか?」

「うん……もうずっと前になっちゃったなぁ。リーリエと月の笛を取りに来た時なんだけど」

「というと、母さんがウルトラホールに入って行った時のことか」

「……思い出させちゃってごめん」

「気にするな。俺も気にしてない」

「……そっか。確かあの時は迷って別の方に行ったりとかして、なかなかここへ来る船が見つからなくてさ。やっと見つけたらもう夜だったんだけど、海の民の団長さん、普通に船出してくれたんだ」

「それで、ナッシーアイランドに行ってナッシー捕まえたりしてたら急に雨が降って。……この下に洞窟があるんだけどさ、そこで雨宿りしたんだ」

「色々話しこんでたらいつの間にか雨が止んでて……その時見たのがこんな感じの空だった。あれが一番好きな空だよ」

膝を軽く抱えて、しみじみとした口調で話を結ぶミヅキ。

空の上、遠くを見るような目をしていた。

「あの時は流星群が――流れ星の方だよ?――綺麗だったんだけど……流石にそんな都合いいことあるわけないよね……」

星が落ちるのを見逃さないように、と2人して空に食い入るように見入った。

「…………私さ。今でもリーリエが羨ましいんだよね」

「羨ましい……?」

「うん。可愛いし、どんな服着ても似合うし、誰とでも喋れるし……いっぱいあるよ」

そのもの寂しげな横顔に、どう返せばいいのか俺には分からなかった。

どう慰めればいいのか、そもそも慰めた方がいいのか。

考えているうちに、結局何もしないままミヅキは再び口を開く。

「一番は……多分リーリエは今でもお母さんの体調をよくするっていう目標に向かってずっと頑張ってるよね……私にはそんな目標、もうないし」

「……お前で目標もないなら、俺も同じだ。目的意識なんてあったもんじゃない」
 ▼ 42 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 00:04:37 ID:CYg0HTU2 [6/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒュオォ、と冷たい夜風が俺たちの間に吹き抜けた。

「うぅ……寒」

「……そうでもないな」

手を寄せて首を縮めるミヅキを横目で見ながら、俺は先ほど取り出した使い捨てカイロを手の中で弄ぶ。

「寒くないの? ……あーーー!! ホッカイロなんかずるいよ! わたし持ってないのに!」

寒さに縮こまっていたのも忘れ、こちらの手元に指を差してくる。

「ずるい、なんて言われてもな。持って来なかったのが悪いだろ」

「うぅ……そうだけどさ。ね、ちょっとだけ、貸して!」

さささっ、とすぐ横まで擦り寄られて、俺の右腕に抱きついて強引に揺さぶってくるミヅキ。

「ちょっとだけ貸して、ってそれで戻って来ない時のセリフなんだが……」

「か、返すよ! 当たり前じゃん! ……だから、ダメ?」

「…………とりあえず離れろ」

「くれるの? やったー!」

ミヅキの目が星空に負けず劣らず輝き始めた。

「左手、出せ」

「左? うん」

差し出された俺より一回り小さいその手にカイロを手渡す。

「ありが……と?」

ミヅキの言葉が途中で止まったのは、俺がカイロごとその手を握ったからだ。

「…………お前に全部くれてやるほど俺に自己犠牲心なんかない」

「え、え……? う、うん……」

ミヅキは面食らったような空返事をして、後はずっと黙っていた。

手に感じる暖かさが、なんとも言い表せない不思議な気分を作り出す。

心が安らぐような、緊張するような。

幸福なような、寂しいような。

本来知っていたのに機械的に仕事ばかりこなしていたせいで感情というものが鈍ってしまったのかもしれない。

しばらくは何も考えずに色んな気持ちが混ざったようなこの気分に浸っていることにした。
 ▼ 43 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 00:04:55 ID:CYg0HTU2 [7/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とりとめもない思考が展開されていくのを止めることなく空をずっと見上げていると。

キラリと一瞬光が流れた。

「あ、流れ星!」

ぱちんと手を合わせて何かを念じ始めるミヅキ。

すでに消えてしまったのだから、流れ星に願い事をするには遅すぎると思うのだが。

「なんのお願いだ?」

「そんなの内緒に決まってるじゃん。……うん、流れ星見て満足した。そろそろ帰る?」

「俺はいつでもいい」

「じゃあもう帰ろっか」

「あぁ、分かった」

握っていた手が、離れていく。

ライドギアを取り出すためだ。

ちゃっかりカイロを持っていかれたが、その辺は多めに見ることにした。
 ▼ 44 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 00:05:14 ID:CYg0HTU2 [8/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーテルパラダイスに到着し、エントランスをくぐる。

すると、横から声がかけられた。

「帰るのが遅すぎますよ、坊っちゃま。もう10時過ぎです」

「すまない……もうそんな時間なのか」

「えぇ。これでやっと鍵を閉められます」

咎めるような、しかしやはりいつもと変わらない優しい声だった。

「待たせていたのか……申し訳ない」

「わ、わたしも……すみません」

2人で同時に謝ると、ビッケは少し意地の悪い笑みを浮かべた。

「いえ、いいんですよ。デートは楽しかったですか?」

「そ、そんなんじゃないですよ!!」

「全くだ。変な言い方はやめてくれ」

「ふふ、私にもそんな時期がありました。もうずっと昔ですけれど」

意味有りげな笑みを残してビッケは去って行った。

「もう、違うのに……」

ミヅキは顔のみならず耳まで真っ赤にしてぶつぶつと呟いていた。
 ▼ 45 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 00:05:30 ID:CYg0HTU2 [9/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
自室へ戻って、着替える。

朝以来使っていない部屋は外ほどではないが十分に寒い。

「この後はどうするの?」

ミヅキはちゃっかり今日もここにいた。

「特にやることもない。寝るだけだな」

「あ、もう寝るんだ……その、今日もいい?」

「何がだ?」

「昨日みたいに、一緒に寝ても、いい?」

「……あぁ。好きにしろ」

すると、ミヅキは俺が横になるよりも先にベッドに寝そべった。

背中合わせの格好でその隣に横たわる。

右手を伸ばして電気のスイッチを切ると、ミヅキが布団を掴んでずり上げた。

また昨日のように背中をくっつけてくるのかと思ったが、今回はそうではなかった。

もぞもぞと布団が動く。

次の瞬間、脇腹とベッドの間に、無理やり柔らかいものが割り込んできた。

続けて上からも何かが侵入してくる。

それらが俺を包むように折れ曲がる。

「なっ……何のつもりだ」

「どうしても嫌なら離れるけど……好きにしてって行ったのグラジオじゃん……」

確かにその通りではあったので、反論のしようもなかった。

仕方なく、黙り込む。

「……左腕、重くないのか」

「重い? 別に大丈夫」

耳元でささやくような声。

心拍数が際限なく上がっていく。
 ▼ 46 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 00:05:54 ID:CYg0HTU2 [10/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「…………ね、グラジオ」

「……なんだ」

「……リーリエと私なら、どっちが可愛い、かな?」

突然何を聞いてくるんだ、と思った。

こんな質問に気の利いた答えがサッと出てくるような俺ではない。

「……そもそもリーリエは妹なんだが?」

「じゃあ、妹とか関係なしで」

妹とかなしで、なんて言われてもそれで血縁関係が消えるわけではない。

そもそも比較対象が間違っているのだ。

ここで答えられる答えなんて一つしかない。

だが、それを口に出すまでにだいぶ時間がかかった。

そりゃそうだろう。

本人の目の前で「お前の方が可愛い」なんて公然と言える奴はただの節操のない奴ではないか。

「…………。…………お前でいい」

「ほんと?」

「…………何回も言わせようとするな」

「……迷ったってことは、リーリエと同じくらいってことだよね。そっか、私、リーリエと同じくらいなんだ……」

囁かれる声はとても満足げだった。

よく分からないが対応は間違っていなかったらしい。

「ありがと、グラジオ」

「あ、あぁ。全く意味が分からんが」

「ふふ、気にしないで……えと、おやすみ……」

それからたった数十秒で、後ろから規則的な息遣いが聞こえてきた。

しかし、俺の心臓はまだ寝る準備に入ろうとしない。

頭の中に、ナッシーアイランドにいた時のようなあの気分が再び現れた。

二回目を経験してみると、その正体を隠す霧が少し晴れたような気がした。



――まさかな。勘違いだろう。
 ▼ 47 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 00:06:13 ID:CYg0HTU2 [11/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
……ガタン……ゴトンガタン………………………………ガタッ……ゴトゴン……。

不規則に、好き放題鳴るジョイント音。

傍らには、ミヅキが俺に寄りかかって寝ている。

――いつまでこいつは寝ている気なんだ。そろそろ起きなくてもいいのだろうか。

少し揺さぶってみるものの、起きる気配は特になかった。

まぁもう少しいいか、と起こすのは諦めて、顔を上げる。

そこで俺は違和感を覚えた。

――こんなに人少なかったか?

人が少ない、というよりこの車両に乗っているのは俺たちだけだった。

隣の車両は人でごった返しているのに。

反対側は、運転席……なのだが、そこにも誰もいない。

そういえばこの電車は自動運転なのだったか。

それにしても、なんで誰もこっちに入って来ないんだ……?

そんなことを考えながら窓の外を眺めていると。

ミヅキが突然身震いした。

何かあったのかと聞こうとしたが、依然として寝たままで、聞くことはできなかった。

あまりいい予感はしない。

と、その時、電車が止まった。

やっと着いたのか。

ミヅキを手を引っ張って無理やり起こし、俺たちは電車の外へと出た。
 ▼ 48 コリザル@カビチュウ 17/08/15 00:08:52 ID:3I6JnxZw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あぁ〜^グラミヅたまらん
 ▼ 49 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 21:31:58 ID:CYg0HTU2 [12/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ごめんなさい本当にごめんなさい
今から更新します……
 ▼ 50 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 21:32:23 ID:CYg0HTU2 [13/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
意識が急激に浮上した。

体がまだもう少し寝ていたいと疲れを主張しているのを感じる。

それに任せてもう一度寝ようとしていたらタイミング悪く目覚ましが鳴った。

もうあと5分あればまた違うのだが。

けたたましい音に急かされて仕方なく起き上がる。

自分で起きた分まだ気分的にマシか、と肯定的に捉えることにした。

「んぅ……あうぁ……」

横で寝ていたミヅキが突然大きく伸びをした。

「あ、グラジオ……おはよ……」

「あぁ、おはよう」

「あー……そうだ。ね、今日用事があるんだけど、こっちでの仕事とかってある?」

「いや、特にないだろう。好きにしててくれ」

「ん、分かった」

着替えるためかスタスタと部屋から出て行くミヅキを見送り、着替えに手を掛ける。

頭にあるのは、今の話だ。

カントーへ行くのはもう明日。

多分用事というのはアローラに別れを告げに、といったところだろう。

アローラから出て行くことを望んでいるとはいえ、今生の別れとなれば見納めの風景なりやり残したことなりは当然あるだろう。

……それは本人の思い出であって、俺が関わるところでは決してない。

だから、ひとまずミヅキのことは気にせず俺は仕事に励めばいいのだ。

ちなみに、今日の仕事はマリエ図書館にて明日の仕事についての調査。

明日のカントー行きは、表向きにはリージョンでない、原種のゴローンの調査となっている。

その場の地理や、ゴローンと接する上での注意点は念のため調べておかなければいけない。

着替え終わった俺はいつもより少し大股で部屋を出た。
 ▼ 51 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 21:32:47 ID:CYg0HTU2 [14/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
順調に図書館へと到着し、俺が今いるのは図書館の資料保管室。

一般へ貸し出ししていない研究資料なども数多く収蔵されていて、ポケモンたちの生態を詳しく調べるには一番手っ取り早い場所だ。

特に、今回のように実際のポケモンがまだ近くにいないような状況では情報収集にかなり有効な手段となる。

ひたすら資料を探してはめくり、探してはめくり……というのを何回過ごしたか。

1時ごろから入って作業を始めたのが、いつの間にかもう7時だ。

帰る予定の時間を忘れる程度には少し熱中し過ぎてしまったらしい。

切り上げるか……と手に持つ資料を閉じたその時。

たたん、と何かが軽やかに着地する音がした。

振り向くとそこに立っていたのは――

「――ミヅキ? なんでこんなところにいるんだ」

「ひうっ……えっ……? ぐ、グラジオこそ……」

声をかけられただけでびくりと動揺しているところからして、怪しい。

「俺は明日の仕事の資料を見ていた。お前、そもそもどうやって入ってきたんだ」

「それは……テレポートでしゅっと……」

「不法侵入罪だぞ……」

「で、でも! どうしても最後に見たい本があったから……」

逸らしていた目を急にばっ、と上げてこちらに訴えかけてくるミヅキ。

しかし、ここはさっきも言ったが一般開放されていないのだ。

ミヅキが知っている本があるとは思えない。

「こんなところに、か?」

「うん。……これこれ。リーリエと一緒に見た、アローラの伝承をまとめた本なんだけどさ」

パッと手にした古めかしい本のページがぺらぺらとめくられていく。

その本を眺める目は昨日の星空を見上げたときのそれと全く同じだった。

その様子を黙って見ていると、いきなり第三者の声が割り込んできた。

「またあいつがいるぞ!」

保管庫の様子を見にきた職員が大声をあげると、すぐさま2,3人の別の職員もポケモンたちを引き連れて駆けつけてくる。

「まだ読みたいのに! フーディン、テレポートお願い!」

慌てて本を片付けつつミヅキはフーディンに手を合わせる。

それに答えて、フーディンがテレポートのためのサイコパワーを溜め始める。
 ▼ 52 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 21:35:22 ID:CYg0HTU2 [15/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しかし。

「ムウマージ、黒い眼差し!」

職員の1人がすかさず隣に浮くムウマージへ指示を飛ばした。

ムウマージの目が不気味に黒いオーラを発し始め、それと同じ色がフーディンの体にまとわりつく。

「えっ……!?」

「この前に侵入したばっかなのに対策されていないとでも思ったのか、馬鹿が」

別の職員たちがミヅキに遠慮のない侮蔑の眼差しを浴びせる。

「っ……!」

退路が絶たれ、血が出るほど唇を噛みしめるミヅキ。

ヤケになって、そのまま職員たちが群がっている唯一の出口へと突進し始めた。

こんなに人が密集しているところを通れるはずがないのに。

先頭に立っていた男が、ニヤリと笑う。

その拳が握られるのを、俺は見逃さなかった。

ろくに前も見ずに走るミヅキへ、男が拳を高々と振り上げる。

しかし、叩きつけるように上からくる拳はミヅキの頭へは当たらなかった。

俺がなんとか直前で間に割り込むことに成功したのだ。

的確に受け止め、引っ張って相手の体勢を崩す。

更にこちらへ倒れてくる相手を逆側、つまり職員たちが群がっている方へと突き飛ばす。

男は職員2,3人を巻き込んで、派手に床へと倒れた。

俺に非難の目線が殺到する。

今にも殴りかかってこんばかりの憎々しげな視線だが、その程度で怯む俺ではない。

「……何故それに味方しようとするの? そんなクソ泥棒に」

今度は女が吐き捨てるように俺に問う。
 ▼ 53 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 21:37:06 ID:CYg0HTU2 [16/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
女を睨み返し、ミヅキを庇いながら言う。

「誰が相手でも――それこそ世界中から憎まれていても、それで不当な暴力を振るっていいわけがないだろうが。そんなことも分からないのか」

「私たちは既に極大の暴力を振るわれたわ! 神の敵討ちをする権利だってあるはずよ!」

「そんな権利はない。勝手に作った私怨の復讐ごときを正当化するんじゃねえ」

「勝手なんかじゃないわ! これは世間の常識のはずよ!」

「だったらその世間様が間違ってるって言ってんだよ。どうせ元からろくに信仰もしてなかった癖に叩きたいがために無駄に騒ぎやがって」

怒りに震える女相手に言い返していると、さっきの男がぶつけた腰を押さえながら再び立ち上がった。

「調子に乗りやがって、ガキが……!」

拳を握りながら男が鬼の形相でこちらへ走ってくる。

ただし、殴り方はただのド素人だ。脅威ではない。

拳を避け、そのまま背中で相手を押し出す。

男はさっきと同じようにバランスを崩して倒れていった。

「ミヅキ、行くぞ」

後ろに隠れていたミヅキの手を引っ掴んで倒れている職員たちの間を走る。

「待ちやがれ!」

追いかけてくる職員たちには目もくれず、走る。

図書館は表面上運営中で外に出ると流石に静まり返っていた。

――はずだったのだが、俺たちが出てきたことに気づいた瞬間に館内にバッシングの嵐が吹き荒れた。

それはもう、内容も量も言葉に出来ないような罵声。

無視して館内に出ると、それを追いかけてくる者まで出てくる始末だ。

路上へ出て、その状況は悪化した。

図書館という場所に配慮する必要がなくなったせいで、そこかしこから物が飛んでくるのだ。

石なんかの硬いものも、遠慮なし。

足やら背中やらに幾つも重い物体がぶつかった。

厚手の上着を脱いでミヅキの頭に被せ、そのまま走る。

走りながら、どこに逃げれば一時的に凌げるかを思案する。

すると、ちょうど目の前に「マリエ庭園 歩いて楽しむパラダイス」と書かれた看板が現れた。

「ミヅキ、あっち入るぞ」

全力疾走を保ったまま、俺たちはマリエ庭園の門をくぐった。
 ▼ 54 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 21:41:03 ID:CYg0HTU2 [17/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
時間の都合でマリエ庭園の一番の見どころである茶屋がもう店を閉めてしまっているため、庭園は閑散としていた。

茶屋まで走り、外に出ている椅子にミヅキを座らせる。

入り口を確認するが、流石にここまで追ってくる者はいないようだった。

一息ついて、俺もミヅキの隣へ座った。

ちなみにこの椅子は、歴史を重んじるとかいう理由で時代劇によく出てきそうな赤い布が掛けられた長椅子となっている。

後ろには真っ赤な傘も刺さっている忠実な再現っぷりなのだが、それを気に留める人はあまりいない。

そんな椅子に座ると、やっと体から力が抜ける。

2分ほども全力疾走したせいで体力がごっそり持っていかれていて、正直寝そべりたかった。

ミヅキが、頭に掛けてやった上着をずいっとこちらに差し出した。

受け取ろうとすると、その上着に一つシミが出来た。

2つ、3つ、増えていく。

「…………わたし、どうすればいいんだろ……」

かすれ切った、ほとんど聞き取れないような声。

「…………脚、いたい」

大半が青いあざで埋め尽くされている脚に、更に今ぶつけたばかりの赤い痕が上からできている。

これを痛々しいと言わずしてなんというのか。

そして、こんなことが日常と化していることに腹の底から怒りが湧き上がってくる。

「そりゃさ……っ……私、だってさ……っく……悪いことしたけどさ……?」

そう。いかにアローラの人々だって理由もなしにここまで過激になれるわけがない。

その理由というやつが、余計に状況を複雑化させているのだ。
 ▼ 55 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 21:45:50 ID:CYg0HTU2 [18/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それは、もう1年ほど前か。

とあるニュースに、アローラ中が震撼した。

そのニュースとは。



――現チャンピオンミヅキが守り神4体を捕獲した。



他の地域であれば、超が何個ついても足りなくらいに珍しい伝説のポケモンを捕まえたとなれば当然英雄扱いだろう。

しかし、アローラの人々にとって守り神を捕まえられるのは大問題だった。

何故なら、アローラの人々は守り神たちを神として信仰していたからだ。

要するに、自分たちが崇めていた神がたった1人の少女のボールに捕らえられた、という意味へと変貌するのだ。

文字通り神を失ってしまったわけであって、恐らく人々の衝撃は並々ならぬものだったのだろう。

リリィタウンのミヅキの家周辺は殺到する人たちがみんなシンクロしたように怒り狂う地獄絵図と化した。

警察までもが暴動に参加する異常事態は三日三晩続き、誰ともなく家に放火することでひとまずの収束を迎えた。

しかし、ミヅキはそれ以来アローラ中から排他されることになる。

道を歩けば石を投げられ、人と会えば殴られ蹴られ。

当然町の施設なんか利用できたもんじゃなかった。

守り神を捕まえる前と全く変わらない態度で受け入れてくれたのは、同じようにアローラの社会から追い出された者たちの集まりであるスカル団と、ミヅキのおかげで代表のルザミーネを止めることができたため恩があるエーテル財団の2つだけ。

他の人々が乗り込んでくるのを常に恐れながら、狭い世界に閉じこもるしかミヅキの防御法はなかったのだ。
 ▼ 56 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 21:47:38 ID:CYg0HTU2 [19/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんなミヅキの境遇。

世界中から目の敵にされる辛さは、俺には考えられないほど辛いだろうということしか分からない。

「実は今日、コケっちたちを逃がすために遺跡回ってたんだ」

「用事っていうのはそれのことか」

「うん……一応戻したんだけどな。やっぱりそれだけで許されるわけないよね……」

何かを堪えるようにミヅキは強く目を閉じる。

手も痛いほど握られて、爪が食い込んでしまっている。

「……一応アローラにだって思い出はあったのにさ。最後の日が、これかぁ……」

怒りを押し留めている濡れた声で細々と呟く。

どう声をかけたらいいのだろうか。

いや、きっと言葉程度で払拭されるような軽い感情ではないだろう。

痛いほど冷たい、乾いた風が吹いた。

せめてと受け取った上着を再び広げてミヅキの肩にかけ、その肩を抱いた。

ミヅキが嗚咽を漏らす。

それはだんだんと濡れた声に変わっていった。
 ▼ 57 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 21:48:18 ID:CYg0HTU2 [20/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
泣き止んできたミヅキは真っ赤にした目を俺に向けた。

「…………グラジオ、ごめん……」

「お前が謝るところがどこにある」

「……だって、巻き込んじゃったから」

「俺が勝手に乱入しただけだ。いちいち気にするな」

「…………じゃあ、助けてくれて、ありがとう」

悲壮感溢れるような顔が、少しだけ笑顔に変わった。

「もう外の騒ぎも収まってきた。エーテルの船に乗るか?」

「お願いします……」

ミヅキの肩を抱いた状態のまま椅子から立ち、小走りで船へ向かった。
 ▼ 58 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 21:58:55 ID:CYg0HTU2 [21/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーテルパラダイスに着いたのは予定より1時間遅れた時刻。

時間的に、もう一つ予定していた仕事は出来そうにない。

少し早いが、そのまま寝ることにした。

壁を向いて、ベッドに寝転ぶ。

すかさずミヅキが隣に滑り込んできた。

3回目ともなると少し慣れてしまっている自分が怖い。

電気を消すと、明るさに慣れていた目が対応しきれず一瞬視界が真っ暗になった。

少しずつ目が常夜灯の光に慣れてくる。

「……グラジオ」

突然後ろから呼ぶ声は少し湿っぽかった。

「なんだ」

「……壁向いてないで、体こっちに向けるの、ダメ……かな?」

驚愕に心臓が跳ねすぎて、危うく口から出て来るのではないかとさえ思った。

向かい合いって寝るなんて、そんなのは……。

「ダメならダメって言ってくれても、別にいいの。なくても、いいから……」

しばらく葛藤した。

しかし、すがりつくように背中を掴んでくる小さな手に負けて俺はその場で寝返りを打った。

目の前には、何もない。

代わりに視界の下の方でわずかに頭が動くのが見えた。

トゲデマルのように丸くなって俺に顔を押し当ててくる。

「………わたしばっか。……みんな笑ってて、わたしだけ逃げてて。わたしだって、みんなで笑いたいのに……」

「……別に、カプたちだってみんな捕まえられたからイヤイヤ私に従ってたわけじゃないよ? コケっちだって、テフちゃんだって、レヒねぇにブルさんも、みんな私を認めてくれたもん……!」

少しずつ、静かに、ミヅキの心の中で点火した炎が火勢を強める。

「勝手に、守り神を取ったとか言われたって、知らないよ……。みんな全然拝んでなんかなかったくせに……!」

遣り場のない怒りを必死に堪えているのが見ているだけで分かる。
 ▼ 59 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 21:59:43 ID:CYg0HTU2 [22/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そしてそれは諦めへと変化した。

「……アローラになんか、来なきゃよかった」

「なぁ、ミヅキ」

「なに……?」

「お前の言ってるのは、合ってると思う。あいつらは、おかしい。……でも、それで来なきゃよかったなんて言わないでくれ」

「…………」

「リーリエとの思い出、楽しそうに話してくれただろうが。アローラに来てたからこそ、じゃないか?」

俺に人を慰めるなんて高度なことはできない。

だから、思ったことを言うくらいしかやってやれることはなかった。

「……!」

強く握っていた拳がから、力が抜けた。

「…………そう、だよね。……うん、楽しかった」

顔を離して、下から見上げるように俺を見てくる。

「……ありがと。グラジオのおかげで、アローラのこと嫌いにならなそう」

一瞬、本当に一瞬だけ、にこりと花が咲くような笑顔を見せた。

「…………あ、あぁ。良かった」

ミヅキはすぐにまた丸まって、そのまま寝てしまった。
 ▼ 60 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 22:00:49 ID:CYg0HTU2 [23/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「…………」

その寝顔を見ているだけで、まるで春の陽だまりの花畑に寝転んでいるような、そんな温かさが湧き上がってくる。

急にパァっと部屋の中が明るくなった。

月明かりがこちらへ差し込んだのだ。

さっきまで曇っていたのだが、今はもう雲は遥か西へ飛んで行ってしまっている。

透明感のある綺麗な銀の光がミヅキの白い肌を照らした。

ボブカットの黒髪が月光を跳ね返して碧く輝く。

艶やかな黒髪が緑髪と呼ばれる理由が今分かった気がした。

少し目線を下げると伏せられた長い睫毛、白い頬ときて――

朱色の絵の具を水で薄めに薄めたような、淡く紅い唇。

小さな吐息が漏れるたびにかすかに動くそれに、いつの間にか見入っていた。

別に誰が見ているわけでもないのに、慌てて目を逸らす。

肋骨の下から突き上げるような拍動。

すぐ近くのミヅキに聞こえないかが心配でならない。

仰向けに寝転ぶと、自然と頭に浮かんでくるのは気持ち――



――これ、は…………?



――まさか。……その、まさか、なのか……?



――……でも。……しかし……だとしたら…………。





――…………っ!!

 ▼ 61 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/15 22:01:07 ID:CYg0HTU2 [24/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
見渡す限り、緑、緑、緑。

どこかも分からない、草原。

視界は360度、足首くらいまでの丈の短い草だけだった。

ポケモンが出てこないようにスプレーを取り出して自分に吹きかける。

歩く。

歩く。

駆ける。

走る。

歩く。

止まる。

刻み付いていた道が完全に草の中に溶け込んで、曖昧に消えてしまっている。

と、服の裾口がちょんちょんと引っ張られた。

ミヅキが、何かを指差している。

その木にはピンクの丸いきのみがいくつもなっていた。

確か名前は……ゴスのみだったか。

2人で1つずつもぎ取って、一口に食べる。

程よい酸っぱさと絶妙な甘さがとても美味しい。

もう1つ、もう1つ。

口いっぱいに甘さが広がった。
 ▼ 62 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/16 20:39:31 ID:koPv/r2U [1/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
体が勝手に起き上がった。

遅れて脳も目を覚ます。

しばらくそのままの体勢でぼーっとしていて、それから起床したのだと自覚した。

目覚ましに頼らずに起きるのは久しぶりだ。

時間を見れば、まだ鳴る時間より1時間も早い。

全然寝られなかった。

その上、やっと寝られたと思えば、こうしてすぐに起きてしまう始末。

まぁ、理由は分かっているのだが。

(……寝るのはもう無理だな、諦めよう)

どうせ今日はすぐに遠出の準備をしなければいけない。

時間があって困ることはないだろう。

ミヅキがいて着替えようにも着替えられないため、俺は着替える場所を探して部屋の外へ出た。
 ▼ 63 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/16 20:39:47 ID:koPv/r2U [2/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
荷物の中身を確認したりとなんだかんだしていると、いつの間にか出発30分前。

荷物をいつものアローラへ出る用の船ではなく、大きめの船に移動していく。

とはいえ5日程度なので、荷物は少ない。

船も寝る用で大きいものを用意しただけであって荷物だけならいつもの大きさで十分なくらいだ。

荷物を運び終わると、自然に職員たち合計6人が俺の前に整列した。

「荷物はもうないな?」

「はい! 今ので全部です!」

「時間が中途半端に余ったな……。早く出発すると不都合な人いるか?」

念のため聞いては見るが、やはりいなかった。

「よし、なら前倒しで出発するぞ」

「「「「「分かりました!」」」」」

職員たちが一斉に船へ乗り込んで行く。

俺も乗り込むと、残っているのはミヅキだ。

「どうした。何かあったか」

「あ、なんでもないよ。すぐ行く」

声をかけると、ミヅキもすぐに乗り込んできた。

その際の「じゃあね、アローラ……」という声がいやに耳に残った。

船がおもむろに動き出す。

メガフロートなので仮とはいえ、陸地が離れていく。

いつもならそこに何か感じることなどないが、名残惜しげに後ろを眺めるミヅキがいるとなるとまた別だった。
 ▼ 64 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/16 20:45:47 ID:koPv/r2U [3/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
順調に航海は進み、予定していた時間よりだいぶ早く目的地へ到着した。

降り立った先は、ナナシマと呼ばれるカントーの列島。

カントーとは言っていても、その距離はだいぶ離れているのでカントーらしさはあまりないが。

そして、原種のゴローンを探しての調査が始まった。

……のだが、俺は作業に全く身が入らなかった。

もちろん理由は分かっていて、だからこそどうしようもなかったのだ。

まぁ、調査だけなら俺がいなくとも十分なデータは集まっているはずなので問題はない。

そして、出港の時間が来た。

それはつまり、ミヅキがカントーへと去る時間に他ならない。

船には財団の人間全員が乗っていて、しかしミヅキは港で立ち止まったまま。

半ば上の空でミヅキとたわいもない事を話しているうちに、ミヅキが乗る予定のフェリーの時間がやって来てしまう。

「えと……じゃあね! 連れて来てくれて、ありがと!」

ミヅキは少し寂しそうに俺に笑いかけ、くるりとこちらに背中を向けた。

そのまま、歩いて行ってしまう。

「――――ミヅキ!」

呼び止めた瞬間、まるでディアルガが時間を操作したように体感時間が極限まで引き伸ばされた。

ミヅキが足を止めて振り向くまでが既にとてつもなく長い。

「ん、どうしたの?」

手が、足が、顎が、背中が、震えて震えてろくに言うことを聞かない。
 ▼ 65 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/16 21:02:28 ID:koPv/r2U [4/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんなおかしな様子を不思議そうな顔で見つめられて、余計にその震えが増して行く。

心臓が喉にドクドクと振動を伝え、声を出すのを邪魔してくる。

「グラジオ……?」

呼び止めてしまった以上、今更後戻りは出来ない。

……覚悟を決めろ。

精一杯自分に言い聞かせて、肺から息を絞り出す。

「……行かないで、くれ」

ミヅキの眉がピクリと跳ねた。

「…………お前が何処かに行ったら、また何かされてないか、心配でならない」

ミヅキの喉が何かを飲み込むように動いた。

まるで、決定的な何かを待つような仕草。





「俺は、もっと、お前の心配が、していたい……っ!!」




 ▼ 66 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/16 21:08:32 ID:koPv/r2U [5/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
昨晩あれだけ頭を回っていた言葉も、動きも、全く出てこなかった。

それだけに留まらず、「好きだ」の一言も言えなかった。

結局、出てきたのは全く意味がわからない怪文。

表には出さず、俺は途方にくれた。

今ほど自分が嫌いになった事はない。

目はキチンと見えているはずなのに真っ暗で、もう何も見えない。

永遠にも等しい数秒を経て。

ミヅキの目から、キラキラと光るものが溢れた。

ミヅキが地面と船を結ぶタラップを踏んで走ってくる。

俺の目の前に来ても、その勢いは止まらない。

タックルするように突っ込んでくるミヅキの肩を手で持って、受け入れた。

「……グラジオの、バカ……!」

「っ……なんで、だよ」

「遅いよ……遅すぎるよ……! わたし、ずっと好きだったもん……っ!」

握った拳を俺に叩きつけてくる。

しかし、痛くはなかった。

「それに……卑怯……! 迷惑かけちゃうからって、最後にグラジオと一緒に色々出来たからいいやって、諦めたのに……直前でさ……!」

とめどなく溢れる涙が甲板をどんどん濡らしていく。

「……悪かった。あんまり泣かないでくれ……」

「違うもん、グラジオのばか! これは……これは、嬉しいからだからいいの……!」

しまいには俺に抱きついてきて声をあげて泣き始めるミヅキ。

俺はその小さな背中をひたすらさすり続けた。
 ▼ 67 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/16 21:10:39 ID:koPv/r2U [6/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
行きと同じように8人を乗せた船がナナシマを出てから数時間後。

甲板には月明かりによる淡い影が2つくっついて落ちていた。

「わたし、今のこの空がアローラで一番好きだな」

「一番はリーリエと見た流星群じゃなかったのか?」

「違うよ。流星群よりグラジオの方が好きだから」

さらっとこっぱずかしいこと言いやがって……。

こいつは無意識にとんでもないことを言いだすから困る。

「……勝手に言ってろ」

放置して水平線を眺めていると、今度は腕に巻きついてきた。

「うあ、服のせいで全然あったかくない……ねぇ、ホッカイロないの?」

「ない。積んできてすらない」

「むー……じゃあこれでいいや」

上着のポケットに入れてあった手が勝手に引っ張り出され、少し冷たい手に包まれた。

「冷てっ……人から勝手に熱を取るな」

振りほどこうとしても解けなかったので、ミヅキの手ごとポケットに入れることにした。

「……も、もう……ね、グラジオ」

「なんだ」

「呼んでみただけー! 一回やってみたかったんだー!」

きゃっきゃと1人楽しそうに笑うミヅキ。

手を額に当てて、うんざりした様子を伝えてみる。

「……気安く呼ぶな」

「どしたの? 厨二病? 気安く呼ぶな……」

「や、止めろ! それは昔だろ!」
 ▼ 68 RIVER◆zFLCCAWaiw 17/08/16 21:11:52 ID:HJ0F.cC2 NGネーム登録 NGID登録 報告
スレタイの怪文はこういうことだったのかー

支援
 ▼ 69 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/16 21:13:08 ID:koPv/r2U [7/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「わがままだなぁ。なら気安くじゃなきゃ呼んでいいよね!」

ふわりと甘い香りがした直後。

「グラジオ……」

負けず劣らず甘い声と甘い吐息が耳を直撃する。

自分の顔がみるみる赤熱するの感じる。

「あははは! ……はー、楽し」

そりゃ散々人を振り回した側は楽しいだろうな、と悪態を吐こうと思ったのだが、どうも様子がさっきまでと違った。

「……グラジオが告白してくれなかったら、わたし今頃船で泣いてただろうなぁ」

喜びを深く噛みしめるような、神妙な表情で呟く。

「……ありがとね、グラジオのおかげ」

ミヅキがこんなにも満ち足りた顔をしているのを俺は今まで見たことがない。

思えばミヅキの笑いはいつも中身のない空っぽの笑みだった。

それを満たせたのだと思うと、素直に嬉しかった。

「……あっ!? グラジオ、見て見て!」

言われるがまま目線を跳ねあげると。

ちょうど、星が1つ光りながら落ちていった。

消えてしまった、と思えば、絶え間なく次の星が降ってくる。

「綺麗……これで、文句なしに今日が人生で一番の夜だよ……」

とんとん、と肩が叩かれた。

「ん? なん――」

右の頬に、極限の柔らかさが花開いた。

一瞬で脳が活動する機能を奪われる。

数秒の後、起こったことを悟って俺は右手を頬にくっつけた。

たった一瞬のことだったのに、それはあまりにも強く意識に刻み込まれていて、ずっと感触が残り続ける。

ミヅキは悪戯っぽく笑って、俺に抱きついてくる。

俺も苦笑いを返して、ミヅキを抱き込む。

(……温かい)

冬の冷たい大気が、今は少し遠ざかった気がした。

2人の頭上では幾多の星々が、圧倒的な光量の月明かりに負けじと光り、降り注いでいた。
 ▼ 70 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/16 21:13:49 ID:koPv/r2U [8/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




――――Fin.

 ▼ 71 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/16 21:17:54 ID:koPv/r2U [9/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 あとがきもどき

なんか1レスが60行まで解禁されたおかげでレス数少ないのにめちゃめちゃ長くなりましたよね
あとがきにかけることが多くなったのは偉大なメリットですけど
それにしてもほんと色々長かった
このSS、32475文字(ラノベ4分の1冊くらい?)あるらしいんですが……夏休みとは言え3週間で書き切ったのがまず疲れました
もっと早く始めろや(怒)と3週間前の自分に怒鳴りたい
というかそれが本職とは言え小説家の方々ってすごいですね
あとまともに更新時間守ってなくてごめんなさい

と、本編に関係ない話は置いておくとして……
いかがだったでしょうか?
前からやろうと思ってたグラミヅをちょうどいいところに企画があったのでやってみました
リーリエも出して三角やろうかなーとか思ってたら長編になりそうで断念
リーリエ出さずにこの締め切りギリギリなんで英断でしたかね
え、寒い日企画のくせに寒いってことが軸じゃないじゃないかふざけんな?
境遇が極寒の真冬ってことで勘弁してください……
ちなみに、冒頭のミヅキがお泊まりすることになるシーンなのですが、「遣らずの雨」とかいう言葉があるの、皆さん知ってます?

あとは……そうですね、3回出てきた夢について補足
電車→異性と電車に乗っている夢は「恋が実る」という目的地へと向かっている暗示
人がいない→2日目のような夢はいなくなった人物が離れていく警告夢だそうで、この場合は3日目のミヅキの境遇についての伏線、というと大げさですがそんな感じのもの
ゴスのみ→3日目の夢のゴスのみはDPPtのポフィン(懐かしい)とかに使う甘いやつで、瑞々しい甘い果実は異性をものにしたい=告白したいという内面の表れ
とまあ一応の意味も、なくはないです。


それでは、今回はこの辺りでお開きです
いつもの通り、感想質問疑惑文句挑発いちゃもんなどなど(長い)ありましたら遠慮なくレスしてってください
それでは、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました! さようなら!

なお、このSSは「暑い日/寒い日SS企画」に参加しております(URLは以下)
今回はなんと、僭越ながら僕が主宰させていただいてます!
20日開催のBBS夏祭りともコラボしてますので、作品展覧会と結果発表にも是非是非いらっしゃってください!
http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=633896(【企画】暑い日/寒い日SS 本スレ)
 ▼ 72 羽真◆Ju6JKuHffQ 17/08/16 21:19:30 ID:koPv/r2U [10/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>68
怪文ですいませんw
でも全体で見てクール装った優しさの塊グラジオが不遇ミヅキを心配するっていうのが大筋なのでスレタイはこれ以外ないと自分では思ってます
 ▼ 73 Hope◆SCP948ZBFs 17/08/16 21:53:46 ID:w//98M4Q NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 74 クシーマフォクシー◆ZmNoEZzYKc 17/08/17 00:08:28 ID:yE.7Kdmg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙です
 ▼ 75 RIVER◆zFLCCAWaiw 17/08/17 00:26:41 ID:txvFheZE NGネーム登録 NGID登録 報告
>>72
目的あるスレタイなら余裕でオッケーでしょ!

(と、スレタイセンスが壊滅してる私が言う)

乙です
 ▼ 76 メパト@チャーレムナイト 17/08/28 02:48:39 ID:l.cH.5sw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
グラミヅはやっぱええな
どっちもカワイイし^^

乙です
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