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【スワップSS】ムシャムシャ

 ▼ 1 8ggXuizlzQ 17/10/14 20:39:00 ID:s0JF/1UI [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ムシャーナは夢を食べる。


ムシャムシャ。


ムシャーナは夢を食べ続けた。


ムシャムシャ


ムシャーナは食べた夢を可視化できる。


ムシャムシャ。


ムシャーナは少年の夢を食べた。


ムシャムシャ。


見た夢の中には、ムシャーナが居た。


…………
 ▼ 2 ーディ@ルールブック 17/10/14 20:40:03 ID:FcELcP42 NGネーム登録 NGID登録 報告
次は俺、、、!?
いやだぁ!死にたくないいいいい
 ▼ 3 8ggXuizlzQ 17/10/14 20:40:51 ID:s0JF/1UI [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
このssはスワップSS祭りに参加しております。
http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=690223
続きは別の方が……。
 ▼ 4 XSB9B4V/6I 17/10/22 14:11:22 ID:qLAbvAcE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
書かせて頂く者です
少し書き溜めてから投下しようと思います
 ▼ 5 ◆XSB9B4V/6I 17/10/29 22:46:02 ID:sxQ6X.GQ [1/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
…………



夢の中のムシャーナは、恐ろしい顔をしている。

赤い目。暗闇でこちらをじっと見ている。



ムシャムシャ。



ムシャーナは夢を食べ続けた。

たくさんの赤い目がムシャーナを睨んでいる。

苦い。吐き気の込み上げる酷い味だ。

飲み込むと胸の辺りが重苦しくなる。



ムシャムシャ。



それでもムシャーナは食べ続けた。

自分と同じ姿をした悪夢を。



ムシャムシャ。ゴクリ。

モワモワ。



お腹いっぱい夢を飲み込むと、額から黒い煙が立ち込める。

黒い煙はゆっくりと収縮し、ムシャーナの姿になった。





そのムシャーナは……
 ▼ 6 ◆XSB9B4V/6I 17/10/29 22:47:43 ID:sxQ6X.GQ [2/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――――――

――――

――




彼らが初めて会ったのは、ムシャーナがまだムンナで、少年がまだ幼い男の子だった頃。

パステルカラーの壁紙と、物が少なく殺風景な部屋。

両親を求めて泣きじゃくる男の子と、それに戸惑うムンナ。



ムンナと男の子は同じ子供部屋に押し込まれ、ふたりだけで暮らすことを強いられた。



ふたりだけ、といっても彼らの世話をする大人はおり、一日に数回食事や身の回りを整えに来る大人が何人かいた。

しかし、男の子の両親が姿を見せたことは一度もなく、世話をしに来る大人達は皆、泣いてすがりつく男の子をあやすこともなく黙々と作業をこなすだけだった。
 ▼ 7 ◆XSB9B4V/6I 17/10/29 22:48:22 ID:sxQ6X.GQ [3/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

部屋には大きなモニターとベッドだけが置いてあって、モニターには常に怖い映像が映し出されていた。

男の子は一日中泣き続け、泣き疲れると眠った。



その度に、ムンナは男の子の夢の中を覗いた。



男の子の夢は、暗くて、不気味な怪物が出てくる悪夢ばかりだった。

悪夢は苦くて美味しくない。

だからムンナは、甘くて美味しい夢を探した。
 ▼ 8 ◆XSB9B4V/6I 17/10/29 22:49:34 ID:sxQ6X.GQ [4/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

悪夢の中に、ひとつだけ幸せな空間があった。

そこでは男の子が優しそうな男の人と女の人に囲まれて笑っていた。

二人は男の子の両親なのだが、親という存在を知らないムンナは彼らを見てもなんの感情も抱かなかった。



ムシャムシャ。



ムンナは男の子の両親を食べた。

甘く幸せな味がした。

男の子は悲痛な声で泣き叫ぶ。



ムシャムシャ。



それでもムンナは食べ続けた。

ムンナには数日に一度の木の実しか与えられておらず、常に飢えていた。

罪悪感はあった。男の子の泣き声を聞くとムンナは悲しくなる。

でもそれ以上に、幸せな夢の味が病みつきになってしまったのだ。
 ▼ 9 マタナ@ももぼんぐり 17/10/29 22:50:10 ID:oCbWXpzE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 10 ◆XSB9B4V/6I 17/10/29 22:50:20 ID:sxQ6X.GQ [5/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

男の子にとって唯一の心の拠り所であった幸せな夢。

ムンナは毎晩それを食べ尽くした。



すると、その夢は次第に不鮮明なものに変わっていった。



穏やかな笑みを浮かべていた二人の顔が、磨りガラスを通したようにぼんやりとしたものへと変わり、やがて全く見えなくなった。

男の子の名前を呼ぶ声も、判別出来ないただの雑音へと変わってしまう。



やがて、その二人が男の子の夢に現れることは無くなった。
 ▼ 11 ◆XSB9B4V/6I 17/10/29 22:51:35 ID:sxQ6X.GQ [6/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

――

――――

――――――



男の子は塞ぎ込んでしまい、食事もろくに取らなくなってしまった。

大人達がやって来て、男の子を手厚く世話し、様々な質問を投げかける。

ムンナはその受け答えを聞いて、初めて自身の種族に備わった力を知った。



「ムンナに食べられた夢は忘れてしまう」



あんなにも両親を恋しがって泣いていた男の子が、今では両親の存在すら忘れてしまった。

それは、ムンナが何度も夢を食べ尽くしてしまったからだ。
 ▼ 12 ◆XSB9B4V/6I 17/10/29 22:52:13 ID:sxQ6X.GQ [7/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

部屋の隅で男の子をじっと見守っていたムンナに、一人の女性が寄ってきた。

女性はムンナに木の実をくれた。

ムンナが大好きな、甘い味のするモモンの実だ。



「良い夢を食べては駄目。あなたの仕事は、悪夢を食べる事なのよ」



穏やかだが、強い口調で女性は言った。

ムンナは木の実を食べるのを止めて彼女を見上げた。

毅然とした表情だが、どこか悲しみを孕んでいるように見えた。



ムンナが頷くと女性は柔らかく微笑んだ。

その顔は、どこかで見たような気がした。
 ▼ 13 ◆XSB9B4V/6I 17/10/29 22:53:46 ID:sxQ6X.GQ [8/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

――

――――

――――――



ムンナは夢を食べる。



ムシャムシャ。



赤い目をした化物。怖い大人達。

男の子にとって悪い夢は全て食べ尽くす。

それは咀嚼する度にむせかえる程の苦味や悪臭がしたが、ムンナはひたすらに食べ続けた。



ムシャムシャ。



数日に一度だった木の実は、ムンナが充分に夢を食べられるようになってからは全く与えられなくなった。

だから、ムンナは悪夢を食べなければ飢えてしまう。



でも、ムンナが悪夢を食べる理由はそれだけではない。
 ▼ 14 ◆XSB9B4V/6I 17/10/29 22:56:35 ID:sxQ6X.GQ [9/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

『ムンナ、こっちにおいでよ』


夢の中の男の子がムンナを呼ぶ。

思わず声のする方向へ誘われるが、そこには既にムンナが男の子と戯れていた。



『むぅ!』

『一緒に遊ぼうムンナ』


男の子の両親が夢から消えた後、代わりに現れたのはムンナだった。

ふたりは凄惨な悪夢の中で無邪気に走り回って遊んでいた。

ムンナは食い入るようにその光景を見続ける。



男の子は楽しそうだ。

食べたら美味しいに違いない。

そんな誘惑が頭をよぎる。



だけど、あの夢を食べたら、男の子はムンナの事を忘れてしまうかもしれない……



ムシャムシャ。



ムンナは背を向けた。

幸せそうに笑う自分の姿から目を逸らし、再び悪夢を食べ続けた。
 ▼ 15 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 10:46:14 ID:rU.QsZMM [1/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――

――――

――――――



たくさん夢を食べたムンナがムシャーナに進化した頃、男の子は少し背が伸びて少年らしい顔つきになっていた。

少年は閉じた世界で育ったせいかあまり感情を表に出さない子供になっており、退屈そうな顔でモニターに映る残酷な映像をぼんやりと眺めていた。

少年が幼い内は怖いと言っても精々子供が怖がる程度だったが、今では大人でも目を背けたくなるような残虐な映像が流されていた。

しかし少年はもう何を見ても動じなくなっており、そんな少年の悪夢を食べ続けたムシャーナは尚更平気だった。



「ムシャーナ、後で起こして」



そう言って少年は耳障りな音声をものともせず眠りについた。

閉鎖的な空間の中。眠ることだけが少年に許された自由だった。

ムシャーナは少年の夢を覗く。
 ▼ 16 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 10:46:45 ID:rU.QsZMM [2/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
…………



少年の見る夢は、相変わらずおぞましい景色で彩られていた。

暗闇に潜み、ムシャーナを睨む赤い瞳。

地面から這い出て掴みかかろうとする無数の腕。



ムシャムシャ。



ムシャーナは、それらを手当り次第食べ尽くした。

酷い味にももう随分と慣れてきた。



ムシャムシャ。



ムシャーナのおかげで最近少年はよく眠れるようになったらしい。

それだけで、ムシャーナは、



『ムシャーナ』



ムシャーナを呼ぶ声がした。
 ▼ 17 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 10:47:30 ID:rU.QsZMM [3/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
振り返ると、少年が手招きしている。

その傍らには、ムシャーナのよく知る女性が寄り添っていた。

彼女は大人達の中で唯一、少年とムシャーナに親しく接してくれる人だ。

少年は女性を慕っており、最近では彼女も少年の幸福な夢の常連になっていた。

少年がムシャーナを急かしている横で、彼女は厳しい顔をしていた。



『あなたの仕事は悪夢を食べることよ』



女性の発した言葉は、深く、くっきりとムシャーナの心に刻まれる。

そして、彼女は少年の手を引いて歩き出した。



名残惜しそうに何度も振り返って手を伸ばす少年に背を向け、ムシャーナは夢から抜け出した。
 ▼ 18 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 10:48:08 ID:rU.QsZMM [4/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
夢から戻ったムシャーナは、部屋の穏やかさに辺りを見回す。

耳をつんざくような奇声も悲鳴も怒号もしない。

微かに心地良い音楽が聞こえる。



モニターには何かの映画が流れていた。

ムシャーナは慌てて少年を揺り起こす。



「わぁ!映画だ!」


少年ははしゃいだ声を上げてモニターの前に座り込んだ。

いつもは趣味の悪い映像ばかり映し出されているのだが、時折、こうして映画が観れるときがあった。

恐らく、あの女性がこっそり手配してくれているのだろう、とムシャーナはなんとなく察していた。
 ▼ 19 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 10:48:37 ID:rU.QsZMM [5/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
少年は食い入るようにモニターを見つめる。

放映される映画は誰でも一度は目にする機会のある有名なタイトルばかりだったが、下界の情報を一切絶たれている少年にとっては全てが真新しく、未知なる世界だった。

そして、今日の映画は今までになく少年の興味を引くものだった。



男の子が4人、線路の上を歩いていた。



彼らは、子供たちだけで長い長い距離を歩いて冒険していた。

犬ポケモンに追い回されたり、あわや列車に引かれそうになったり、近道をしたつもりの森で虫ポケモンに襲われたり……



目まぐるしく変わる場面に、少年は圧倒された。



いつの間にか、その目から一筋の滴が零れる。
 ▼ 20 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 10:49:22 ID:rU.QsZMM [6/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……むしゃーな?」

ムシャーナがその滴を掬いとって慰める。





何故涙が出るのだろう。

少年にはその理由が分からなかった。



この映画に恐怖を感じる場面はない。

なのに、胸を焦がす程の熱い感情が湧いてきて、涙がとめどなく溢れてくるのだ。





でも、ムシャーナには分かっていた。



時に諍い、時に語り合う男の子達のノスタルジックな友情。

未知なる世界を進んでいく彼らの冒険。



それらは、暗い悪夢の中で生きてきた少年に初めて「冒険心」という感情を芽生えさせるには充分すぎるものなのだと。
 ▼ 21 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 10:50:12 ID:rU.QsZMM [7/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――

――――

――――――



「お願い」



少年の無垢な瞳が女性を捉える。

女性は顔を背けこそしないが、その目を見ることはできなかった。



「外に出たいんだ」



その切なる訴えかけに、女性は先日の自分の行動を深く後悔した。

あの映画を観せて以来、少年はひっきりなしに外の世界に出たいと訴えかけてくる。

自分が軽はずみな同情をしたが為に、少年は叶うことのない夢を抱いてしまったのだ。
 ▼ 22 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 10:50:45 ID:rU.QsZMM [8/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
少年は既に、普通ならポケモントレーナーとして旅立つ年齢になっていた。

冒険に憧れる気持ちが芽生えるのも至極当然のことだろう。



「駄目よ」



だが、女性はその願いを拒絶することしか出来ない。



「どうして!」



少年は興奮して女性に詰め寄り、何度もその理由を問いただそうとする。

しかし、女性は何も語らなかった。

いや、何も語れなかったのだ。
 ▼ 23 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 10:51:10 ID:rU.QsZMM [9/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
少年は激昂した。

ここから出せと叫び、泣きながら女性に掴みかかった。

女性は力なく項垂れ、首を降る。



ムシャーナが二人を前に狼狽えていると、部屋のドアが空いて数人の大人達が少年を抑えにやって来た。

女性から少年を引き剥がし、抵抗をやめるまで押さえつける。

女性が罪悪感に塗れた顔で部屋を後にすると、少年はやがてゆっくりと動作をやめた。



部屋のドア再び閉じられると、少年はうずくまった。

ムシャーナは少年に寄りそう。

少年はムシャーナの縋り付き、声の限り激しく泣いた。
 ▼ 24 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 23:52:16 ID:rU.QsZMM [10/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
…………



その夜の悪夢は、これ以上にないものだった。



重く、果てしない暗闇の中で、沢山の赤い目がひしめき合ってこちらを睨んでいる。

無機質で、虚ろに光る赤い瞳。

それらは全て、ムシャーナの形をしていた。



ムシャムシャ。



ムシャーナは、自分と同じ形の悪夢を食べた。

食いちぎる度に上がる悲鳴と共に、激しい苦味が口中を刺激する。

苦しい。飲み込む度に酷い吐き気が込み上げる。



ムシャムシャ。



だけど、ムシャーナは食べるのを止めない。
 ▼ 25 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 23:52:49 ID:rU.QsZMM [11/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャムシャムシャ。




ムシャーナはひたすら食べ続けた。

少年の心に巣食う黒い感情――怒り、悲しみ、失望、それらを全て自身の中に詰め込んだ。



『悔しい』



咀嚼する度に、少年の声が聞こえる。



『どうして』『外に出たい』『裏切られた』『ここに居たくない』『力があれば』『寂しい』『あいつらを全員』



少年の黒い感情がムシャーナの中を満たしていく。



何もかもを食べ尽くし、夢の中に誰もいなくなったのを確認すると、ムシャーナは夢から抜け出した。
 ▼ 26 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 23:53:39 ID:rU.QsZMM [12/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

部屋中を黒い煙が満たしていた。



夢の煙だ。



ムシャーナには特別な力がある。

額から出るその煙が、夢で見たものを実体化させるのだ。



部屋に充満していた煙が中央へと流れ、一つの塊になった。

現れるものが恐ろしくて、いつも出てきた煙をすぐに霧散させていたムシャーナだったが、今はただその光景を静かに見守っていた。



その黒い塊は、ムシャーナへと姿を変えた。
 ▼ 27 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 23:54:13 ID:rU.QsZMM [13/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
『悔しい』



黒いムシャーナは、少年の声で呟いた。



『悔しいよムシャーナ。どうして僕達は、こんな場所に閉じ込められているの』


『あいつらが』


『あいつらが悪いんだ。僕を閉じこめる大人達』


『あいつらを全員、食べてしまえば、僕達はきっと、』



黒い影は、部屋の外へと飛び出していった。
 ▼ 28 ョンチー@メガバングル 17/11/03 23:54:23 ID:lcT5NWws NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
悪夢がッ!消えるまでッ!僕はッ!食べるのを止めないッ!
 ▼ 29 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 23:54:51 ID:rU.QsZMM [14/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ムシャムシャ。



黒いムシャーナは食べた。

自身の同胞、少年に悪夢を見せていたムシャーナ達を。



ムシャムシャ。ムシャムシャ。



その中にはムシャーナの親もいた。兄弟もいた。

ムシャーナもそこにいるはずだった。

だけど、悪夢を食べるのを嫌がるムンナだったムシャーナは、少年と共に飼われることになったのだ。



ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。



ムシャーナ達は、鉄のにおいがした。

赤い雫が沢山床に零れる。

それでも、苦い味の悪夢に比べたら美味しかった。
 ▼ 30 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 23:55:37 ID:rU.QsZMM [15/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ムシャムシャ。



黒いムシャーナは食べた。

白衣を着た人間達を。



ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。



彼らは為す術もなく黒いムシャーナに捕食されていく。

これまで食べてきた恐ろしい怪物たちに比べると、なんと脆弱で呆気ないものだろう。



ムシャムシャ。


ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。
ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。
ムシャムシャ。ムシャムシャ。
ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。ムシャムシャ。




「やめて!」



その声に、黒いムシャーナは動きを止め、その人間をじっと見つめた。
 ▼ 31 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 23:56:13 ID:rU.QsZMM [16/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
最後に残された一人。

彼女は怯えた目で後ずさり、やがて壁に背を預けてへたり込む。

黒いムシャーナがゆっくりと彼女に近づくと、女性は観念したように口を開く。



「待って。私は、私はあの子の……」



彼女は命乞いをすべく「その」真実を語ろうとした。

しかし、



ムシャ……



黒いムシャーナは、彼女が言葉を紡ぐ前に飲み込んだ。
 ▼ 32 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 23:56:51 ID:rU.QsZMM [17/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

――

――――

――――――



少年とムシャーナが施設を出てから数年の月日が経った。

少年の心には未だに深い傷が残っている。恐らく、生涯消えることはないだろう。

それでも、近頃は悪夢を見る頻度もだいぶ減ってきた。



…………



ムシャーナは少年の夢の中をさまよう。

そこにかつての闇は無く、様々な景色が広がっていた。


新米トレーナーの集う街道。緑の生い茂った深い森。のどかな町。そびえ立つ山の頂上。水平線の彼方まで続く海。


少年とムシャーナが共に旅をして巡った場所だ。
 ▼ 33 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 23:57:32 ID:rU.QsZMM [18/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
心地よい風の吹く草原で、ムシャーナは少年の姿を見つける。

少年は、沢山のポケモン達に囲まれて笑っていた。

その中には、ムシャーナの姿もあった。



ムシャーナが食べる悪い夢は、もうここにはない。

夢を食べなくても、少年はムシャーナに大好きな甘い木の実を食べさせてくれる。

だから夢を食べる必要も、もうないのだ。



ムシャーナはそっと立ち去ろうとした。



『ムシャーナ』



だが、その声に呼び止められる。
 ▼ 34 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 23:58:24 ID:rU.QsZMM [19/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ムシャーナが振り向くと、少年は優しく微笑んでいた。



『ムシャーナ、食べてもいいんだよ』



ムシャーナは首を振った。

少し夢を食べたくらいでは少年の記憶が失われることはないだろう。

だが、これまでずっと甘い夢への欲求を抑え、辛い悪夢を食べてきたムシャーナにとって、少年の幸福な夢を食べることには強い罪悪感があった。



『僕にはもう、覚めた後にも夢があるんだ』



それは、絶対に無くならない夢だ。

戸惑うムシャーナに、少年は告げる。





『だから、ムシャーナ。もう食べてもいいんだよ』

 ▼ 35 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 23:59:02 ID:rU.QsZMM [20/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ムシャムシャ。



ムシャーナは、少年を食べた。

今までに味わったことのない、甘く、幸福な味がムシャーナを満たした。

 ▼ 36 ◆XSB9B4V/6I 17/11/03 23:59:35 ID:rU.QsZMM [21/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


………………

…………

……



澄み渡る青空の下、そよ風の吹く草原の中。

少年とムシャーナは、木陰で寄り添って眠っていた。



ムシャーナの額から、桃色の煙がキラキラと輝きながら放たれていく。



煙は幼い男の子とムンナの形になると、少年とムシャーナが眠る巨木の周りを駆け回って遊び出した。




 ▼ 37 ◆XSB9B4V/6I 17/11/04 00:11:45 ID:A.YxugX2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
終わりです。
ものすごく駆け足で連投したんですがちょっと遅刻してしまいました。

ほのぼの路線にするかシリアス路線にするか散々迷った挙句こんな感じに……
想像力を働かせてくれる秀逸な冒頭文を提供してくれた◆8ggXuizlzQさん、ありがとうございました。
 ▼ 38 ルトス@いんせき 17/11/04 00:13:11 ID:.UGBD16U NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
レスはしてなかったけど、読んでた!表現の仕方がカッコいい(凄い)と思った!(KONAMI)
 ▼ 39 ニョニョ@インドメタシン 17/11/04 02:33:12 ID:IhUFFluQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
面白かった。真相や何故少年を暗いとこに閉じ込めていたのかとかが気になるけど…
 ▼ 40 ◆XSB9B4V/6I 17/11/05 02:26:22 ID:WTljNpMg NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
こっそり補足

・少年とムシャーナが囚われていたのは夢の煙を研究していた施設。
・少年にわざと悪夢を見させ、その夢を具現化することで兵器として利用しようとしていた(沢山のムシャーナ達は「あくむ」の技を使って少年に悪夢を見せていた)
・少年と同じ部屋で過ごすことになったムシャーナ(ムンナ)は悪夢を嫌がって食べようとしない個体だったので、少年と共に監禁し通常の餌を断つことで悪夢を食べざるを得ない状況を作って克服させようとしていた(夢を食べる力が未熟なので万が一暴走しにくいという利点もある)
・作中で何度か出てきた女性は少年の母親。しかし、記憶がおぼろげな幼少期に夢に現れる姿をムンナに何度も食べられたので忘れてしまっていた。
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