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【スワップSS】ヨノワール 「死神ってやつなんですよ、わたくし」

 ▼ 1 MDoGd06DxE 17/10/14 20:58:09 ID:L2RUIaN6 [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
暗い。
ひっそりとした部屋には私しかいない。冷たい空気と孤独だけが私を囲んでいた。

誰も……いない。
このままずっと1人きりなのだろうか?
そうしたら私は……私はどうなってしまうのだろう?



「どうも、初めましてお嬢さん」

誰かの声で私は目を覚ました。
目を覚ました…? いや、最初から起きていたのかも知れない。ふわふわとした意識の中、周りを見る。

そこはいつもの寝室ではなかった。
ここはどこなのだろう?
どうして私はここにいるのだろう?

「あぁ、大丈夫ですよ。ここは安全な場所ですから」

再びかけられた声にびくりと肩を動かす。じわじわと背中に冷や汗を感じる。
そしてゆるりと振り返り、私に声をかけた主を見た。

「えっ……?」

思わず声が出る。だって


「その困惑、どうしてポケモンが話しているのか……そんなところでしょうか」

私の目の前のポケモンが落ち着いた様子で話している。
そう、ポケモンが話しているのである。

「やはり皆さん驚かれますからね……お約束、なんですよこのやり取り」

そうだろう。だってこんな大きくてお腹に口の付いたお化けみたいなポケモンが、さも当然のように人間の言葉を話しているんだから。


「まぁそれよりですね、貴女は残念ながら死んでしまった訳ですが……覚えてます? 生前のこと」
 ▼ 2 MDoGd06DxE 17/10/14 21:04:38 ID:L2RUIaN6 [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
このSSはスワップSS企画に参加しています
続きは別の方が書いてくれます

本スレはこちら
http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=690223
 ▼ 3 ノ◆zBLfAqPIVA 17/10/22 10:12:52 ID:gHogS9d6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今回、私がこちらの作品の続きを書かせていただくことになりました
よろしくお願いします
11/3までの完成を予定しておりますので、少々お待ちください
 ▼ 4 ヒダルマ@すいせいのかけら 17/10/22 22:28:24 ID:05FG/kSw NGネーム登録 NGID登録 報告
しえん
 ▼ 5 ノ◆zBLfAqPIVA 17/10/25 23:13:05 ID:pOwekhMM [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
──彼の者の名は、ヨノワール。

主にシンオウ地方での発見例が多いゴーストタイプのポケモンである。

その「ポケモン」が、私の目の前で、平然と、淡々と、語りかけてくるのだ。


ただでさえ意味不明な状況なのに、ポケモンが喋るという非常識が、不可解に拍車をかけていた。

これはもしかしなくても夢ではないのか?

疑念ばかりが頭の中で全力疾走をしている。


私がただひたすらボーゼンジシツとしていると、ヨノワールは私の眼をじっと見つめて言った。


ヨノワール「もし……私の話、ちゃんと聞いておられますか? 混乱なされるのは分かるが、私は今、貴女に非常に重要な質問をしているのです。きちんとお答えください」


有無も言わせぬ妙な迫力に、私の身体は思いがけず固まった。

ヨノワールはそれを確認した後、さらに言葉を続けた。


ヨノワール「────さて、残念ながら貴女は死んでしまったわけですが。……しかし貴女、生前の記憶をどこまで憶えておいでなのでしょうか?」
 ▼ 6 ノ◆zBLfAqPIVA 17/10/25 23:16:05 ID:pOwekhMM [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シンデシマッタ? セイゼンノキオク?


脳が冷静を取り戻していく度、到底受け入れ難いヨノワールの話が、心に深く突き刺さり離れなくなっていく。




……ゴクン。
思わず、生唾を呑む。





ふと、私はある事に気付いてしまった。

……私には……何の記憶もない。

自らの名前はおろか、自らの人生の一切の詳細も、何もかも憶えていなかったのである。


嗚呼。
────まるで荒唐無稽、まさに摩訶不思議な話だ。


しかし、それこそが疑いようのない事実なのであった……。
 ▼ 7 ノ◆zBLfAqPIVA 17/10/25 23:20:53 ID:pOwekhMM [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
するとヨノワールは、そんな私の動揺を汲み取ったかのように、依然として淡白な────しかし、どこかに温かみを感じ取れる優しげな口調で、更なる言の葉を紡いだ。


ヨノワール「ふむ……死の衝撃で記憶を喪失してしまうことは珍しくない。現に、貴女は殆どの記憶を亡失してしまったようですしね」




死の衝撃で、記憶をなくした……。

いや、それよりも私は本当に死んでしまったというのか……。

足の裏の感覚が、段々薄れていくような気がしてきた。






────パチン!


すると、ヨノワールが突然、軽快に指を鳴らす。
 ▼ 8 ノ◆zBLfAqPIVA 17/10/25 23:22:45 ID:pOwekhMM [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その瞬間、闇夜の林を飛ぶ蛍の如き細かな光が、私の目の前で集まり始める。


光の集合体はやがて、巨大な長方形を形成した。

更に驚くべきことに、「それ」は映画館のモニターのように、或るワンシーンを、私の網膜にクッキリと映し出したのである。




男『よちよち〜、可愛いなぁリエちゃんは〜……!』




「あっ……」その光景を見て、思わず声が漏れた。
 ▼ 9 ノ◆zBLfAqPIVA 17/10/25 23:24:09 ID:pOwekhMM [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
眉の濃い浅黒い肌の男性が、赤ん坊を抱きかかえ、緩んだ表情であやしていた。

記憶のない筈の私だったが、私はこの男の正体を間違いなく知っていたのだ。


この人は、私のお父さんだ……!!





ヨノワール「○○○○年、×月×日……。リエという名を与えられ、貴女は現世にて生を受けた」


リエ「こ、これは一体何なんですか……!?」

氾濫するあらゆる思いが、リエの口を動かす。


それとは対照的に、ヨノワールは情感の欠片すら挟むことなく、仔細を語りだした。
 ▼ 10 ノ◆zBLfAqPIVA 17/10/25 23:25:26 ID:pOwekhMM [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヨノワール「貴女の過去をイチから振り返ることにしたのです。時間がかかりすぎてはいけないので、ダイジェスト形式ではありますが。……ああ、『この映像』の原理は聞かないでください。私には分からないことですし」



ヨノワール「……とにかく、貴女の記憶を取り戻すため、どんどん過去を見ていきましょう」


リエ「……っ!」


待って────まだ聞きたいことはたくさんある。


だが、ヨノワールの話が終わるのと同時に、モニターの映像は次の場面に転換を始めた。

こうなってしまえば、リエの意識はそちら側にもっていかざるを得ない。


彼女は再びモニターを凝視した。
 ▼ 11 ノ◆zBLfAqPIVA 17/10/25 23:32:52 ID:pOwekhMM [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
父『リエ、今日で10歳の誕生日だな。というわけで、今回はお前に特別なプレゼントをあげようと思うんだ……!』

父は何やらはしゃぎたそうな様子で、幼いリエに話しかけていた。


リエ『えー? なになにー?!』


リエもまた、プレゼントという言葉を聞き、頬を紅潮させて興奮している。

すると、父は物陰から大きめの籠を取り出した。

その中に入っていたのは……。





フォッコ『ふぉっこぉ!』


リエ『わぁぁ……!』


──艶めく毛。輝く瞳。可愛らしい声。

何もかもが魅力に満ち満ちたフォッコが、笑顔を浮かべ、籠の中からリエを見つめていたのである。
 ▼ 12 ノ◆zBLfAqPIVA 17/10/25 23:36:44 ID:pOwekhMM [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ひとまずここまで。
明日以降も定期的に更新。
 ▼ 13 トマル@ダイゴへのてがみ 17/10/26 07:08:13 ID:HVnyfucE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
いいですぞ〜
 ▼ 14 MDoGd06DxE 17/10/26 09:56:27 ID:hhFhPcA2 NGネーム登録 NGID登録 報告
続きが気になるなぁ
支援です
 ▼ 15 1◆zBLfAqPIVA 17/10/26 21:52:36 ID:LCcOCzr6 [1/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リエ『……!! お、お父さん、このフォッコって……!?』


眼を開き、両拳を握りしめて、彼女は父にすがり寄る。

父は嬉しさ半分申し訳なさ半分の様子で、彼女の頭をそっと撫で、優しく抱きしめた。



父『お前には早くポケモンを持たせてやりたかったんだが……お金の問題もあってな。10歳になるまで待たせてすまなかった』



────そうだ。リエの家庭は、昔からとても貧しかった。

父も母も、火を吹くような忙しさで働いているのを、幼少期のリエはいつも哀しげに見ていた。

家族を養うだけでも手一杯の状況。

ポケモンを手持ちにするには、時間のかかる貯蓄が必要不可欠だったのである。
 ▼ 16 1◆zBLfAqPIVA 17/10/26 21:53:58 ID:LCcOCzr6 [2/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
母『お父さんったらね。わざわざミアレにまで行って、あのプラターヌ博士からフォッコをお譲りいただいたのよ』



母が、夫と娘の抱き合う姿を慈しみの眼で見つめ、そう言った。

たくさんのありがとうが、リエの心の中で湧き立ち溢れ出る。



リエ『大好き……お父さんっ!!』


その言葉を契機に、お互いの抱きしめる力がますます強くなる。

それはとても、幸せな時間……。何にも代えがたい瞬間であった。


父『ハハハハ、お父さんも愛してるよ。……そうだリエ、少しいいか?』


少しして、父がリエの顔を真剣な表情で見つめてきた。

リエは首を少しだけ傾げ、彼の瞳を見つめ返す。



リエ『なぁに?』


父『必ず、フォッコを大事にして育てると誓ってくれないか……? 最初に出会ったポケモンは、一生のパートナーになることも多いからな』


父の言葉に抗する理由はない。

リエは満面の笑みを湛え、父とフォッコを交互に見つめた後、ゆっくりと頷いた。


リエ『うん分かったよ。じゃあ、よろしくね! フォッコ!!』


フォッコ『ふぉこふぉこ!』
 ▼ 17 1◆zBLfAqPIVA 17/10/26 21:54:59 ID:LCcOCzr6 [3/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リエ「……フォッコ。私の、ポケモン……」


私は呆然として一連の映像を見つめていた。

すると、モニターが突如暗転。

ヨノワールが私に話しかけてきたのである。


ヨノワール「今のが、貴女のパートナー・フォッコとの運命の出会い……。思い出していただけましたか?」


リエ「う、うん……」


確かに、濃い靄が晴れていく様に、私の記憶は少しずつ取り戻されてゆく。

でも、なんだろう? 記憶を得る度、私は思う。

────胸が異様に苦しい。まるで心を真綿か何かで締めつけられてるみたいだ、と。



ヨノワール「では、次のシーンに移りましょうか」



私のそんな原因不明の悄然たる思いを知らずしてか、ヨノワールは流暢に話を進めた。

映像は更に後の時系列へと続いてゆく。
 ▼ 18 1◆zBLfAqPIVA 17/10/26 21:56:53 ID:LCcOCzr6 [4/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リエ『テールナー、かえんほうしゃ!』


リエの指示を聞き、テールナーは威勢よく相手のゴーリキーに立ち向かい、空を舐めつくすような圧倒的な劫火を吹いた。

攻撃は見事クリーンヒット。

ゴーリキーは地面の上で大の字になって気絶する。


テールナー『テェルナ!』


ゴーリキー『ゴリィ……』


通りすがりのカラテ王『マジかよ、ゴーリキー!?』


幼女『わぁぁ、リエちゃんが勝ったよぉ!』


老人『ホッホッホ……リエちゃんは本当にバトルが強いなぁ。こりゃあ将来、偉大なトレーナーになるやもしれぬぞぉ?』


リエ『えへへ……』




────リエ、14歳。

10歳の頃から共に過ごしてきたフォッコはテールナーに進化しており、彼女のバトルの実力は町一番と話題に。


彼女自身も、バトルには一定の自信を持っており、テールナーと共に戦うことが、何よりの楽しみになっていた。
 ▼ 19 1◆zBLfAqPIVA 17/10/26 21:59:07 ID:LCcOCzr6 [5/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんなある日のこと。

リエは両親と、今後の運命を変える会話をすることになる。



リエ『えっ、旅に出たらどうかって……!?』


父『うん。リエにはバトルの才能がある。間違いなくお父さん以上の才能だ。────実は、お父さんもリエと同じくらいの歳の頃、旅に出たことがあってね。あれはとても良い経験をしたもんだ』


しみじみと懐古する父の顔はいつも以上に穏やかなものであった。

しかし一方で、そんな父親の顔を見つめながら、リエは険しい表情を見せていた。



リエ『でも、旅支度にはお金がかかるし……。それに私、働いてお金をお父さんお母さんに返したいの!』


母『リエったら……』


父『おいおい、お金のことなんて心配しなくていい。これまで稼いだお金は、全部リエを一人前にするためのものなんだから。……それに、旅に出てバトルでお金を稼ぐなんて方法もあるんだぞ?』


リエ『……』



リエは沈黙した。

一体どうすれば良いのだろうと、思案している。

そりゃあ、旅に出てみたいという気持ちはあるのだが……。
 ▼ 20 1◆zBLfAqPIVA 17/10/26 22:00:09 ID:LCcOCzr6 [6/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
父『何より、バトルをしてる時のリエが一番イキイキしてるじゃないか……。自分のやりたいことを突き詰めてこその人生だ……。リエが楽しいと思えることが、親にとって何よりの幸せだよ』


それから数日間、彼女は悩んだ。

悩みに悩んだ結果、彼女が導き出した道は……。






リエ『お父さん、お母さん! 私……行ってくるから!! ……夢は、カロス地方のチャンピオン! お金も稼いで頑張ってくるからねぇぇぇぇ!!!!』


リエは、旅に出ることを決意したのだ。

テールナーと共に、新品のランニングシューズ(どうやら母がリエのために秘密で買っていたものらしい)を履いて。

リエの決心の叫びを聞き、両親は家の前で、リエに向かっていつまでも手を振り続けていた。

ありがとう……本当に、ありがとう。

目の端に大粒の涙を溜め、彼女は平原へと歩きを進める。


そんな彼女の真っ直ぐな背中を、太陽が燦燦と照りつけていた。
 ▼ 21 1◆zBLfAqPIVA 17/10/26 22:01:47 ID:LCcOCzr6 [7/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
========


リエ『やったよフォッコ! これでジムバッジ二個目だね!』

フォッコ『ふぉこぉん!』


========


リエ『テ、テールナー……ついに進化するのね!?』

マフォクシー『マッフォォォ!』

リエ『やったぁぁ! これからもよろしくね、マフォクシー!』


========


リエ『マフォクシー……。ビャッコクの夕陽、とっても綺麗だね……』

マフォクシー『まふぉ……』


========


司会者『ハクダンバトル大会の優勝者は……こちらのリエさんに決まりましたァァ!!』

リエ『やった、やった、マフォクシー! 初めての優勝だぁ!』

マフォクシー『マッフォ!』


========
 ▼ 22 1◆zBLfAqPIVA 17/10/26 22:03:27 ID:LCcOCzr6 [8/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>21
訂正:最初のところ、フォッコではなくテールナーです
 ▼ 23 1◆zBLfAqPIVA 17/10/26 22:06:31 ID:LCcOCzr6 [9/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
光に満ちた過去の映像が、まさに風光明媚が如く、次々と滑らかに流れゆく。

途中、ヨノワールがリエに向かって言った。


ヨノワール「……こうして、旅に出た貴女は持ち前の才能を活かし、パートナーと共に快進撃を続けたのでしたね。……実に素晴らしい人生です」


リエ「はぁ、はぁ……」



しかし、今のリエの様子は「素晴らしい」とは全くかけ離れたものであった。

顔は青ざめ、息切れを起こしている。

ヨノワールは無表情でリエに問うた。



ヨノワール「おや、顔色が悪いですね。呼吸も乱れている。どうかしましたか?」



リエ「────そっ、それ以上は駄目……」


ヨノワール「え?」


リエ「そ、そこから先の映像は駄目……み、見たくない、ダメなのっ……!!」


ヨノワール「……」
 ▼ 24 1◆zBLfAqPIVA 17/10/26 22:06:49 ID:LCcOCzr6 [10/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
本日はここまで。
 ▼ 25 クーダ@あおいかけら 17/10/26 23:19:40 ID:1BzHdu1g NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援!
 ▼ 26 イリーフ@あついいわ 17/10/27 19:53:07 ID:QRd2V9rY NGネーム登録 NGID登録 報告
わくわく
 ▼ 27 1◆zBLfAqPIVA 17/10/27 21:02:27 ID:VkJR.Xgs [1/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
恐怖と不安が次第に増長し、脈拍が速まるのを感じる。

ネガティブな感情が胃をぎゅっと掴みだした。ギリギリと締め付けてきて、とても苦しい。

それはまるで、得体の知れない怪物が自身の臓物を食い散らかしていくような感覚と似ていた。

私はすっかり身を屈め小さくなってしまい、小刻みに全身を震わせていた。

全身の至るところから冷えた汗が流れだす。


しかしヨノワールは同情の一端すら示さず、私を侮蔑するように冷たい目で見下した。

そして彼はそのまま、私に映像を見るよう促した。



ヨノワール「見たくないなどという弱音は聞きません。ここからが大事なところなのです。さぁ、お嬢さん……過去と向き合いなさい」



強烈な気迫に押されたからなのか、私の身体は勝手に、見たくもないモニターに向いていた。

涙で滲んだ視界。映像は先程より格段にボヤけて見える。

だが、私はもうその場面のことをよく知っていた。


────そうなのだ。私はもう、殆どの記憶を取り戻している。

だから、これ以上過去を振り返ることなんてしなくていいのに……。


ああ、マズい。

見たくない「あの過去」が容赦なく私の眼に突き刺さってくる。


嫌だ……嫌だ……タスケテ……。

 ▼ 28 1◆zBLfAqPIVA 17/10/27 21:04:00 ID:VkJR.Xgs [2/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リエ『……はぁぁ』


私はある日を境に、勝負にドンドン勝てなくなっていった────勿論、勝てるバトルが全く無いという意味ではないのだが……。

あの頃の私はとにかく、「圧倒的な才能」というやつに蹂躙されていたのである。



司会者『優勝はカルム選手だーっ!! いやぁ素晴らしい戦いでしたねぇ!! 準優勝のセレナ選手も大健闘でありました!』


リエ『────あの子たちは……えっ、10歳なの?! あ、あり得ない……私はもう15歳なのに、一回戦敗退なのよ……!!』


マフォクシー『まふぉ……』


リエ『……あ、あっ。マ、マフォクシーは気にしなくていいのよ。全部、私の指示ミスのせいなんだから……』


もう旅に出てから随分経つ……。

一度は(小規模だったかもしれないが)バトルの大会で優勝することも出来た。

不遜かもしれないが、旅に出る前と比べても自分は大きく成長したはずだ。

しかし、下から新しい風が吹く度に感じる、自分への重圧。
輝かしい才能に打ち負かされる度に感じる、自分への責任。




水をどれだけ得ても潤わない砂漠のように、
私の心はそのうち、何があっても素直に喜べなくなってしまった。
 ▼ 29 1◆zBLfAqPIVA 17/10/27 21:05:36 ID:VkJR.Xgs [3/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
旅をすることがあまりにも辛くなり、両親に電話をかけようとした時もある。


父『はい、もしもし? どなたでしょうか』


リエ『……あ、あの……』


父『んん? おー、その声はリエじゃないか。急に電話してきてどうした? すまんがお父さん今仕事中でな、用件は手短に頼むよ』


リエ(わ、私はバトルで何も結果なんて出せてないのに……お父さんは今も働いてるんだ……)


リエ『ごっ、ごめん。何でもない……!』ガチャリ・・・!


愚痴なんて言える筈がなかった。

親に電話なんてしてる場合じゃない。

とにかく大きな大会に出て優勝しないと……!
何か目に見える結果を出さないと……!



底の知れない焦りが情け無用で心臓を締めつける。

ああ、どうしよう、どうしよう。何とかしないといけないのに。

────リエちゃんには戦いの才能があるなんて言われたのは、もう昔の話。

その錆びれた才能は今やボロ雑巾のようになってしまった。

そして、彼女は再び、負け続けるのである。
 ▼ 30 1◆zBLfAqPIVA 17/10/27 21:06:50 ID:VkJR.Xgs [4/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんなある日のこと……。


審判『ミアレ大会Aブロック二回戦の勝者はカルム選手!! いやはや、まさに破竹の勢いであります! 残念ながら負けてしまったリエ選手にも拍手を!』


リエ(……手も、足も、出なかった。……強すぎるよ……)


カルム『お手合わせ、ありがとうございました』


リエ『……こちら、こそ……』


リエは放心しながら、舞台裏へと幽霊のように歩いていった。

そうして彼女は、如何ともし難い絶望を抱え、その場にしゃがみこんで泣きじゃくり始めた。



リエ『うう、ぐすっ……ひぐっ……うぇぇぇん……』
 ▼ 31 1◆zBLfAqPIVA 17/10/27 21:08:49 ID:VkJR.Xgs [5/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マフォクシー『まふぉ……』


バトルで負けた直後にも関わらず、マフォクシーは先程の戦いでついた自身のキズを気にすることなく、リエの隣に寄り添おうとした。

しかし、この時のリエは、ある意味かなり異常────気が激しく動転していたのだ。

彼女は、マフォクシーの気持ちも知らず、こう言ってしまった。



リエ『今は、私を一人にしてよ!!』

マフォクシー『マ、マフォマッフォ……!』



リエ『そもそもマフォクシーが悪いんだよ! 私の指示は何も間違ってなかったのに……ちゃんと言うこと聞かないからぁ!!!!』


マフォクシー『……!!』


マフォクシーの普段は温厚な顔が一瞬で青ざめ、失望に塗り替えられる。

リエの心が次第に落ち着き、自身の失言に気付いた時にはもう遅い。


マフォクシーの姿はいつの間にか……何処にも見当たらなくなってしまったのだ。
 ▼ 32 1◆zBLfAqPIVA 17/10/27 21:09:23 ID:VkJR.Xgs [6/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
本日はここまで。
また明日の更新をお待ち下さい。
 ▼ 33 ルキー@ヤドランナイト 17/10/28 11:41:07 ID:45l/OrcE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
重すぎる・・・
 ▼ 34 ラセクト@パワーウエイト 17/10/28 22:35:48 ID:AEhPiOa. NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 35 ◆zBLfAqPIVA 17/10/29 22:23:33 ID:9Ii0bKCo [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リエは慌てて立ち上がった。

ああ、私はなんて浅ましく愚かな言葉を吐いてしまったのだろう。

悪いのはマフォクシー、アナタじゃないのに。

心臓を素手で掴まれたような不安、底なし沼のように陰鬱とした後悔が、彼女の心を覆う。


バトル大会の会場内を必死に駆け抜け、とにかくリエはマフォクシーを探した。

いつとはなしに、外では雨が降り始めている。


──まるで、今の自分を形容しているかのようじゃないか。
 ▼ 36 ◆zBLfAqPIVA 17/10/29 22:25:22 ID:9Ii0bKCo [2/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
息も切れ切れ。
体力も限界に近づくまで走り続けた後、リエは、バッタリ遭遇したとある太鼓腹の中年男性に尋ねた。


リエ『はぁ、はぁっ……! お、おじさん……!』


おじさん『……お、おお? ど、どうしたんだね、お嬢ちゃん。そんな汗だくになって……』


突然現れた謎の少女に驚きつつも、男性はひどく心配した様子で優しく応えてくれた。


リエ『わ、私の……はぁ、マフォクシーをっ……しっ、知りませんか?』


荒い息遣い、ますます苦しくなる呼吸。


それでもリエは、神にすがるかのようにして、男性にマフォクシーの行方を問いかける。



男性はセイウチのように弛んだ肉と顎髭を擦りながら、合点のいったような表情で言葉を返す。


おじさん『マフォクシー? ……ああ、もしかして、さっき外に出て行ったあの……』
 ▼ 37 ◆zBLfAqPIVA 17/10/29 22:27:44 ID:9Ii0bKCo [3/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リエ『そっ、外に行ったんですか!?』


おじさん『う、うん、酷く落ち込んだ様子だったからよく覚えてるよ。ほら、あっちのB出口から出てったんだ……』


ついさっきまで快晴だったはずの外は、スッカリどしゃ降りになっている。


炎タイプのマフォクシーがそんな豪雨の中に飛び出していったというのなら、そんな大変なことはない。


────急いで、助けなきゃ。

反射的に動く身体。

リエはいつの間にか、降りしきる雨粒の中にその身を投じていた。
 ▼ 38 ◆zBLfAqPIVA 17/10/29 22:36:45 ID:9Ii0bKCo [4/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リエ『はぁっ……はぁ……はぁ……っ』

そのうち、ミサイルのような雨に混じり、雷光が間断なくうねり始め、まるで爆撃機が来訪したかのような凄まじい破裂音が轟いた。

怖い。怖い。とても怖いけど、マフォクシーを探さないと。
今の私にとって、マフォクシーがいなくなることこそが何よりの恐怖なのだ。


リエ『マフォクシーッ!!』


リエ『ご、ごめんマフォクシー! 聞いてるのなら出てきてちょうだい! 私が悪かった、バトルで負けたのは全部、私のせいなんだ! 殴ってもいい、私のことをどれだけ痛め付けてもいいからっ……だからっ……私に、謝らせてっ……!!』


決死の思いだった。

しかし彼女は、その一筋の思い故に、背後から迫り来る死の存在に、気づかなかったのである。



──ガラガラガラッ……!!
 ▼ 39 ◆zBLfAqPIVA 17/10/29 22:39:59 ID:9Ii0bKCo [5/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
土砂崩れ。

それは、何の予告すらなく、突然訪れるものだ。

慈悲などない。慰みなどない。

それは、ただ無機質に生きとし生ける者を殺そうとしてくる化け物に過ぎない……。





リエ『えっ……』


後方の崖から崩れ落ちた岩の数々が、雨のように零れてくる。

走馬灯など流れる暇はない。

リエの視界が、一気に闇に包まれる。





その時だった────。
 ▼ 40 ◆zBLfAqPIVA 17/10/29 22:41:36 ID:9Ii0bKCo [6/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


マフォクシー『マフォォォォォォォッ!』


突如、泥だらけになったマフォクシーが、リエの前に現れたのだ。

マフォクシーは彼女を助けようと、必死に手を伸ばしてきたのである。





リエ『マ、マフォクシ──────』


駄目よ、マフォクシー!

こっちに来ちゃ駄目。

土石流に呑まれるのは、死ぬのは、私一人だけでいい。




だから、マフォクシー────お願い……
 ▼ 41 ◆zBLfAqPIVA 17/10/29 22:42:12 ID:9Ii0bKCo [7/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告











こっちに、来ないで。









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