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コトネ「ポケモンしかできない癖に」

 ▼ 1 ロカロス@にじいろのはね 15/02/27 00:01:37 ID:viy17dr. [1/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 自分で言うのもなんだけど、私はポケモンに関しては天才らしい。
 チャンピオンになるまでに一度も負けなかったし元チャンピオンのグリーンさんにだってほとんど苦戦することなく勝ってみせた。
 なんとなく何をどうすれば勝ちに繋がるのかを理解していたから頑張って強くなろうと思う必要もない。世間には十数年もポケモンマスター目指して旅する人もいるらしいけど。

 だから負けることが無くてお金に困らなかったので祈祷士や船乗りはコスプレでもしてるんだと思っていた。

 当然努力しようとしたことも無いし逆にポケモンへの意欲も失せる日もあったり。


 そんな私を負かせた人は山のてっぺんで独り、空を仰いでいた。なんとなく空が好きらしいことは分かる。

 赤い帽子を深く被ったその人は何も言わずにポケモンを出してきて、あっさり私を倒した。初めて負けた後の記憶はあまり無くていつの間にかポケモンセンターのベッドに横たわっていたっけ。
 貸し出し用に量産されたであろうペラペラな毛布にうずくまる私はこの時ようやく自分が負けたことに気が付いた。何故か涙が止まらなくて、けど抱いたことのない感情に動悸が収まらなかったってのは覚えてる。

 そして今も。
 ▼ 2 安★バンバン★うんk◆G2U55GvgYU 15/02/27 00:02:04 ID:yuC/E0Jw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
お前の指のふち腐れてるけど大丈夫か?
 ▼ 3 れいなゲーチス◆PmDZtyrfB2 15/02/27 00:02:39 ID:PhIDy8aU [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 4 ラサリス@ネストボール 15/02/27 00:04:36 ID:viy17dr. [2/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「またお前か」

 彼はこちらも見ないで頂上の岩に腰かけたまま言った。目印の赤い服は相変わらずボロボロだ。

「今日は紅葉を見に来たんです。ついでなので相手してあげようかと」

 どういうわけかこの人と戦う時は胸の高鳴りが堪えられないらしい。お気に入りの大きな帽子をぎゅっと握って落ち着こうと試みる。

「シロガネの紅葉なんて別に有名でもない」

「……レッドさん、最近口数多いですね?」

 舌打ちを聞いて何故か少しだけ落ち着いた。手汗を適当に拭き取りモンスターボールを取る。

「……さっさと始めるぞ」
 ▼ 5 油:3味醂:2酒:1佐藤:2◆0000fSEl02 15/02/27 00:05:10 ID:Sy5cWiLo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 6 ャース@ヒメリのみ 15/02/27 00:06:56 ID:viy17dr. [3/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 戦う前に傾いていた夕陽が落ちるよりも早く私はカバンのボールを失った。ぺたりと後ろ手に座り込む。
 多分初めて負けた時は相当悔しかったのに四回も負けると慣れてしまったのか悔しさは無かった。無かったがあえて怒ってみる。

「ほんと、なんかレッドさんはむかつきますね」

「理不尽な」

 岩に腰かけたままレッドさんは私を見下ろして言った。戦いの後もこの人はただ無気力そうに空を仰ぐ。つられて私も紫の空を見上げた。

「……けど今日はピカチュウとラプラスがやられたな」

 レッドさんは昨日の晩ご飯を思い出すくらいの軽い口調でそんなことを言っていた。レッドさんのポケモンを二匹も倒したのはそういえば初めてだな。

 けど、なんだか私はそれがどうでもいいことのような気がした。本当にポケモンに飽きちゃったんだろうか、と少々本気で頭を抱える。けどじゃあどうしてここに来てバトルしているんだろうか。
 なんてことを考えているとレッドさんはこちらに歩いてきてリザードンを出した。
 ▼ 7 ングラー@ノワキのみ 15/02/27 00:13:40 ID:viy17dr. [4/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「さっさと帰れ」

 へたり込む私を細い眼で見下ろす。いつも思うけどこの人はこういう目しかできないのか。
 もしかしたら山籠もりのせいでちゃんとご飯を食べてないのかもしれない。

 少し考えてから私はいつもの嫌がらせをすることにした。

「なんか腰ぬけちゃったので送ってください」

 少し腰を撫でて見せる。もちろん嘘だ。負けた腹いせに肉体労働を強いるのがお決まりとなっている。

「またか」

「そんなこと言ってリザードンもう出してるじゃないですか。はやく連れて行ってください」

 レッドさんは諦めた風にリザードンの頭を一度撫でた。横顔は少しだけ笑っているような気がした。
 私の右隣りに回ると腰を低くする。実際に間近に迫られると、「女の子を抱える男子の恥ずかしい顔を横目で見てやろう」というそれまでの思考は一気にショートし、大人しく彼の腕に抱えあげられる。
 まあその……お姫様だっことかなんとか言うやつだ。実際にやられると別にお姫様気分でもなんでもない。
 ぐいっとレッドさんと反対の方を睨む。荷重が前にかかり抱えにくくなるはずだ。ざまあみろ!

「リザードン、じゃあ頼む」

 抵抗には何の効果も無く、あっさりリザードンに乗せられる。こんなところで男らしさを見せられたって困るんですけどね。




 ポケモンしかできない癖に。
 ▼ 8 六穀米爆弾◆ZE/51LnddY 15/02/27 00:14:38 ID:5EzAv59A NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 9 れいなゲーチス◆PmDZtyrfB2 15/02/27 00:15:37 ID:PhIDy8aU [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 10 ーナイト@あなぬけのヒモ 15/02/27 00:16:25 ID:viy17dr. [5/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 レッドさんは私をコガネのポケセンのベッドに雑に投げ入れると躊躇いなく部屋を出て行った。
 身体を起こして、ふぅーと深く息を吐いてから枕を抱いてまた寝転ぶ。今日の会話を頭で反芻しながら瞳を閉じた。
 自分でもあっさりと意識が遠のいて行くのが分かる。廊下かどこかでした物音も気にならないほどに私は疲れているらしい。お風呂入ってないじゃん、とか賞金払ってないな、とか思い出してそのまま眠りについた。



 今思えば引き留めてもっと色々話でもしてから帰らせてばよかったような気もする。


 というのもその後、レッドさんとはしばらく会うことは無かった。シロガネ山に行ってもいなかったしぶっちゃけレッドさんの素性も良く知らないし。
 まあ気になるわけではないけど賞金払ってないしまだ勝てていないので私としては消えて欲しくは無かった。けど消えるのはレッドさんの方で私の意志なんて関係ないのだからどうしようもない。
 ▼ 11 8MEfNnmOb. 15/02/27 00:19:27 ID:viy17dr. [6/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援ありがとうございます
今日はここまで
 ▼ 12 8MEfNnmOb. 15/02/27 23:20:53 ID:5CqKaT3I [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
短いですが少しだけ更新します
最後まで書けてるので明日には完結予定です
 ▼ 13 タグロス@タラプのみ 15/02/27 23:21:48 ID:5CqKaT3I [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 それからと言うもの、次会ったときに圧勝するために私はひたすらポケモンに励んだ。人生初の努力かもしれないなあと思ったりする。
 丸一年実家には帰らなかったし、何度となくワタルさんをサンドバックにしてやった。チャンピオンロードのポケモンが私を避けるようになってシロガネ山で修行するようになると季節はまた秋になっていた。案外時が経つのは早い。

 やってきたエリートトレーナーを無言で蹴散らすだけの日々が続いた。

 グリーンさんから連絡があったのは私のことを『シロガネ山の亡霊』とか呼ぶ人が増えてきた頃だ。
 ▼ 14 ライガー@ダークボール 15/02/27 23:27:27 ID:5CqKaT3I [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

***

 カントー地方で唯一行ったことの無かったマサラタウンを訪れ、物の無さに感心する。こんなところからオーキド博士やグリーンさんが出て来たのかと思うと分からないものだ。

 秋風吹く夜道を歩いて指定された住所に行く。足元がスースーして嫌な感じだ。

 数十分ほど歩くと確かに『オーキド』の立札が認められた。ここがグリーンさんの住んでいるところらしい。

 渡されていた鍵で扉を開くと、人がいないことを除けば一般的な家庭といった感じだった。電気が消えているので少しだけ足がすくむ。
 整理整頓されたリビングを無視して薄暗い階段を一歩ずつ昇って行く。暗い家の中とは裏腹に、階段を踏むたび身体が思い出しているみたいに心臓が跳ねた。

 バン!と、いつかのあの人のように躊躇いなくドアを開く。
 それなりに広い二階の部屋には作業用デスクが一つと、ベッドが二人分、離れたところに置いてあった。


「……お前」

「久しぶりですね、レッドさん」
 ▼ 15 ールル@ノワキのみ 15/02/27 23:30:39 ID:5CqKaT3I [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 "あの人"は片方のベッドに腰かけて本を読んでいた。こちらを見て目を見開いている。ドッキリ大成功。

「驚きました?」

「……まあ」

 栞をはさんで本を枕元に寝かせると私にもう一つのベッドに座るよう言った。荷物を床に置きつつ腰かける。
 一年越しの再会にも関わらず淡々とした対応に異議を申し立てたい気持ちを抑えてこちらの用を伝えることにした。

「グリーンさんに頼まれて明日までお世話することになりました」

「……そうなのか」

「また口数少なくなりましたね?」

 私の言葉を鼻で笑うこの人を見てなぜか少し落ち着いた。手汗を適当に拭ってからシーツを握りしめる。

「何があったのかちゃんと話してください。グリーンさんも何も教えてくれなかったので」

 帽子をかぶっていないレッドさんはあの頃みたいに顔を隠せずにばつの悪そうな顔をした。その顔を見て何故か胸のあたりがちくりとした気がする。

「別にお前とまた会う約束してたわけでもないけど……まあ隠すような話じゃないのも事実か」

 少しずつ饒舌になってきたレッドさんに頷いて続きを促す。レッドさんはベッドに寝転んで目をつむってからゆっくりと深呼吸をした。
 寝転がる彼と座って見下ろす私の目が合う。
 ▼ 16 ーダイル@アクアスーツ 15/02/27 23:33:15 ID:5CqKaT3I [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「余命半年」

 いつになく真剣な、けどどこか抜けた表情で言った。

「……? ギャグですか?」

 思わず作った半笑いにも彼は笑わなかったので吊りあがった頬を手でぐいぐいとひっぱってみせる。そのまま何も言わずに寝返りをうって枕元の本に手をやる。

 ヨメイハントシって何?
 実際は一瞬だったんだけど文字が頭の中で意味を成すのに永遠くらい長い時間があった気がした。
 熱いものがどろりと頬を流れた。座ったままで立ち眩みを起こす。


「ジョークだ、ジョーク」

 その言葉が来たのはレッドさんが寝返りを打ってからほんの数秒のことではあったのだけど、私は既に真顔でぼろぼろ涙が溢れ嗚咽が漏れていた。見なくても酷い顔だと予想がつく。

「お、おい」

 泣き顔を見られたくないので後ろを向いた。無理に嗚咽を抑えて、何度も顔をぐしゃぐしゃ拭って深呼吸する。レッドさんは回り込んで申し訳なさそうに私の足元の床に座ってこちらを見上げてから頭を掻いた。

「お前を送った後、体調不良で倒れたんだ。んで、シロガネ山に行くのを禁止にされてグリーンの家に世話になってた。そんだけ」
 ▼ 17 オラント@カムラのみ 15/02/27 23:37:33 ID:5CqKaT3I [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 数分かけてやっと落ち着いてくると無償に腹が立ってきた。たかがジョークになんであんなに泣いたのか、なんでこんなに怒っているのかは自分でも分からなかったけど。
 まず手始めに足元のレッドさんのお腹を蹴る。うっ、と言う声を無視してベッドに立ち上がった。普段穿かないスカートが揺れるのも気にしない。
 さらに大きく息を吸って、近所迷惑も気にせず叫んだ。




「ばあっっっっっっっっっかじゃないんですか?」



 いきなり蹴られ叫ばれたレッドさんは今まで見たことのない顔をした。なんとなく得した気分になるものの続ける。

「……ばかじゃないんですか? 久しぶりに会ったと思ったら小学生みたいな嘘ついて。いや小学生どころか幼稚園児ですよ、レッドさんは。しかも倒れたのに連絡もしてこないで、一年間ニートしてたんですか? グリーンさんに連絡先聞くとかできたでしょ……。ま、まあ全然心配とかはしてないですけど。……それともそんなに私の存在ってどうでもよかったんですか? レッドさんにとってはそうかもしれませんけど私にとっては唯一の友人なんです。その辺わかってなかった感じですかそうですか。一年間ずっとぼっちでシロガネの絶景を眺めてたんですよ?」

 一息で叫んで酸素が足りなくなったせいかさっき泣いたからか頭がずきりと痛む。
 そんな私にレッドさんは言葉を選びながらゆっくり短く謝った。

「いや……まあ、そのなんだ。……すまん」
 ▼ 18 才的な馬鹿 ◆B/WBfd3Z1U 15/02/27 23:38:19 ID:9KaKo9wU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ふむう
 ▼ 19 ライガー@ヒールボール 15/02/27 23:39:30 ID:5CqKaT3I [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 困ったみたいに、また頭をかく彼を見て、妙な感情が生まれてくる。
 この人も他人と深く関わったことが無いから今こうして困ってるんだ。そしてそのレッドさんが私には遠慮のない冗談が言えたんだ。

「グリーンがお前の連絡先知ってるって知らなくてさ……」

 そう思うと、許すとは言わないにしてもちょっと保留にしてあげようかな、くらいは思える。
 堪えきれずに微笑んだ。

「とにかく、私を独りにしないことです」

 さっきまでと違って柔らかい口調で言うとレッドさんは少しだけ安心したような表情になった。
 ▼ 20 ガイドス@いんせきのかけら 15/02/27 23:40:23 ID:5CqKaT3I [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

今日はここまで
今になって日本語おかしいところ見つけちゃいましたがその辺は練習中と言うことで
 ▼ 21 クーン@ながながこやし 15/02/27 23:44:30 ID:zMIYwc52 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>2
クソワロ
 ▼ 22 ーホー@シーヤのみ 15/02/28 09:14:00 ID:oMSjGJYs [1/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
***



「くそまずいな」

 レッドさんは私の作った味噌汁(何故か塩の味しかしない)を啜ってからはっきりと言った。私はそれを否定することもできず、味のしない野菜炒めをただ眺める。

 台所を見ると失敗作(今机に並んでいるものを成功と呼んでいいのかは分からない)や洗う途中の鍋、調理具なんかが乱雑に積まれていた。味わったことの無い自己嫌悪に陥る。
 それでもなおレッドさんは黙々と箸と口を動かしていた。


「ごめんなさい」

 レッドさんは白いご飯をバリバリという音を立てて食べるだけで何も言わなかった。余計に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「良く考えたら掃除とか洗濯とかその辺もできないし」

 箸を握ったままスカートの裾を握りしめる。

「……」

「私、特に料理なんて全然できないのになんでこんなこと引き受けたんですかね。馬鹿ですね馬鹿」

 ははは……と笑うと倍の長さの沈黙がやってきた。レッドさんを直視できず目のやりどころに困る。
 ▼ 23 バニア@きれいなハネ 15/02/28 09:16:35 ID:PCexHjZY NGネーム登録 NGID登録 報告
恥ずかしい
 ▼ 24 ングース@オッカのみ 15/02/28 09:23:03 ID:oMSjGJYs [2/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……」

 レッドさんはなおも私の目の前に座って料理(笑)を食べ続けた。話を聞いているのかもわからない。

 私はなんでこんなことをしているのだろう、と考え直す。
 思えばレッドさんに会えるというだけで二つ返事で引き受けた。具体的に何をするかとか、鍵をどうするかとかグリーンさんの二度目の連絡を受けるまで一度も頭に浮かばなかった。


「……ポケモンしかできない癖に」

 一瞬自分でも言ったのか分からないほどぼんやりと、頭に浮かんだ言葉を口にしていた。

 とるに足らない言葉に彼の箸が止まった。



「『ポケモンしかできない癖に』な」

 自分に言い聞かせるみたいに言うとレッドさんは、にやっと笑って箸を置いた。急に立ち上がって私の方へとやってくる。


「久々にバトルしよう。負けたほうが飯を奢るってことで」

 何故かその言葉に全てを救われた気になって笑みが零れる。

「今からですか?」

 レッドさんは無言で壁にかかるいつもの帽子を手に取り、目も隠れるほど深く被った。私の方を向き直す。

「わかりました」
 ▼ 25 ィグダ@ヤチェのみ 15/02/28 09:25:27 ID:oMSjGJYs [3/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
***

 自分で言うのもなんだけど、俺はポケモンを使わせれば天才というやつらしかった。チャンピオンになるまでに一度も負けなかったし他の地方のリーダーにもほとんど苦戦することなく勝ってみせた。
 なんとなくベストな選択肢がすぐ頭に浮かぶから強くなりたいと思うことも無かった。

 当然お金に困ることは無かったからポケモンレンジャーや理科系の男はボランティア活動もやってる良い人だと思っていた。

 そんな俺だから努力しようとしたことも無いし逆にポケモンへの意欲も失せる日もある。負けないゲームが面白いというやつは極度の恐がりかゲームの楽しさを打ち負かすことにだけ求める奴だけだろう。


 昔、数年ぶりに実家に帰るとちょうど親父が危篤状態にあったことがある。ろくに連絡を寄越さなかった俺が父の心配もせずふらふらと帰ってきたのに母怒っていた。
 『ポケモンしかできない癖に!』という言葉に俺なりに傷ついて家を飛び出したが家がその後どうなったのかは知らない。

 昔の思い出に浸りながらリザードンが倒れるのを認めた。

 『ポケモンしかできない』男がポケモンで負けた。結構歴史的瞬間かもしれないなーと思いながらリザードンを戻す。
 コトネはこれまで見たことのないどや顔で腰に手を当て、ふんぞり返っている。

「レッドさん弱いですね」

「お前も六匹目まで出してんじゃねーか」

 コトネが笑う。吊られて俺も笑う。初めての感情に戸惑う胸の高鳴りがこいつに聞こえてないか少しだけ心配した。

 コトネはメガニウムを戻すと1ばんどうろの汚い芝の上に体育座りした。上機嫌で体を揺らして俺を見上げる。

「ポケモンしかできないですから」
 ▼ 26 ロス産ジバニャン◆TsQ9OM0GWo 15/02/28 09:25:35 ID:/j4.munI NGネーム登録 NGID登録 報告
携帯小説みたいだな
 ▼ 27 ラガラ@ヒメリのみ 15/02/28 09:27:21 ID:oMSjGJYs [4/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
***

 トキワシティをコトネと歩く。 マサラタウンの飲食店はもうどこも閉まっているのでトキワシティの繁華街に行くことになったのだ。
 街にはカボチャを模した装飾が目立ち、コスプレもどきの若者が結構いる。祭りかというほどだった。

「今日はハロウィンだったんですね」

 コトネはまるで今初めて知ったというようにつぶやいた。
 俺も知らなかった。日にちどころか曜日感覚も昼夜の区別もよくわからなくなっているのに知る由もない。

「それくらい覚えとけよ」

 コトネは一度ジト目でこちらを睨むと口を尖らせてぷいぷい早歩きで行ってしまった。コスプレ集団がコトネと交差し、コトネの低身長が飲まれていく。
 ここで集団に紛れられたら困る。迷子になること間違いなしだ。

 ぐっと手を伸ばしてコトネの白い小さな手首を掴んでひっぱる。手のひらに握りなおす。
 初めて握った手は暖かかった。

 突然体を引き戻された彼女は何が起きたか分からないみたいに握られた手と俺を見比べて、目をぱちぱちしている。街灯に照らされて赤くなるアホ面に吹き出しそうになるのを抑えてコトネを引いて集団をかき分けて歩いた。
 秋の夜、心地いい涼しさにも関わらず手はべたべたになってしまった。
 ▼ 28 ロマツ@あなぬけのヒモ 15/02/28 09:30:06 ID:oMSjGJYs [5/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
***

 突然手をとって引き戻される。見るとレッドさんが何食わぬ顔で私の手をとっていた。急に耳まで熱くなる。集団はぞろぞろと私たちの左右を抜けていった。
 自分の手が彼の手と繋がっているのと彼の顔を見比べているとレッドさんはまたぐい、と引いた。
 何も言わずに集団をかき分けていくレッドさんの背中はいつになく男らしかった。


 ファミレスを出ると自然にどちらからと言うこともなく手を繋いだ。周りから私たちはどう見えてるんだろうか、とキョロキョロ見回しても頭に血が上るばかりだった。
 どこかで笑うようにヤミカラスが鳴く。


 まあでも躊躇いもせずお姫さまだっこする人が特別な意味を持って手を握るかと聞かれるとそれは怪しい。どうせこの人は私の気持ちにも気づいていないだろうし。
 レッドさんが特別な気持ちでなくても周りの人にカップルだと思われるのは嫌じゃないな、と思う。



 しかし、集団がすっかり見えないところまで来てもレッドさんは手を離さなかった。
 そのままで1ばんどうろが見えてくると彼は突然問いかける。

「お前これからどうするんだ?」

 ▼ 29 ガメタグロス@ヤチェのみ 15/02/28 09:32:24 ID:oMSjGJYs [6/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「え?」

 想像もつかなかった話題に驚きそちらを見る。なおも彼は夜空を仰いで歩き続けていた。
 一応グリーンさんのお姉さんのベッドを借りていいことになっているし泊まる気なんだけどな……。

「俺を倒したんだ。もう目標も無いだろ」

 勘違いに気づいてまた前をむき直す。レッドさんの言う『これから』っていうのは今からの予定では無かったらしい。

「……ああ、そっちですか。まあ確かにそうですね。……やりたいこともないですし……」

「そうか」

 私は手を強く握って立ち止まった。レッドさんは振り向きながら視線を落としてなんで止まるんだ、という風に私を見据える。

「……レッドさんは?」

 彼はそのままで少し硬直した。彼の手をもっと強く握る。
 彼は私を見つめて、たっぷり十秒以上考えてから口を開いた。

 半ば祈るように言葉を待つ。
 ▼ 30 ルード@カゴのみ 15/02/28 09:33:50 ID:oMSjGJYs [7/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「一緒に暮らすか」


 更に間髪を入れずに付け足す。

「ポケモンしかできないお前を独りにしとくのは心配だからな」


 レッドさんは照れ隠しのようにまた月を眺める。きれいだな、とつぶやいた。

 『それってどういう意味ですか?』『冗談じゃないんですよね?』……頭で返答が浮かんでは消える。胸のあたりがぽかぽかと温かくなってくるのがわかる。


 私は握った手を"恋人繋ぎ"にして、笑った。彼の肩に頭を委ねる。


「レッドさんこそ、『ポケモンしかできない癖に』」

 夜道に男女の笑い声が響いた。普段無言で生きる二人なんだから今日くらいは許される、と思う。
 せーのっ!と手を繋いだまま段差を飛んだ。
 ▼ 31 ラガラ@カイスのみ 15/02/28 09:34:56 ID:oMSjGJYs [8/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「それでレッドさん。一緒に暮らすならはっきりさせておきたいんですけど」

 歩く振動に合わせてより深く指と指が絡む。

「なんだよ」

 それでもレッドさんは動じてないみたいで黙々と歩きながら返してきた。私としてはもっと動じていて欲しかったけど。

「私はレッドさんと手を繋いでると爆発しそうなくらい心臓が鳴ったり、話すだけで呼吸がおかしくなりそうになるんですけど、レッドさんは私のことどう思ってるんです?」

「……そうだな」


 少し考える風にするので「じゃあ私はレッドさんの何ですか?」と聞こうとするとレッドさんは急に顔を近づけてきた。開きかけた口が塞がれる。
 メロンソーダの味がした。

 いつの間にか解けた手は私の肩に添えられている。

 ようやく離れたかと思うとレッドさんは私の頭を自分の胸に押しつけた。空いている手が強く私を抱き締める。


 どくんどくん、と音がする。

「……レッドさんも結構動じてたんですね」

 じゃあ料理とか練習しなきゃな、と思いながら二度目のキスを受け入れた。

終わり
 ▼ 32 マゲタケ@ホズのみ 15/02/28 09:35:40 ID:oMSjGJYs [9/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>26
自分でも読み返して思いました
精進します
 ▼ 33 ガアメモース◆POWA.hL3fE 15/02/28 11:08:00 ID:B1uQ7d9k NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
面白かった!おつ!
 ▼ 34 風の翼を持つ小鳥◆2cBCGsfnD. 15/02/28 13:19:35 ID:XQXdA2j. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙です!
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