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SS

【地の文系ss】ボスゴドラ「俺って、怖いか?」ニンフィア「……ううん、かっこいい」

 ▼ 1 羽真◆9nlytNSHx. 18/03/15 20:10:05 ID:6fh3VqTc [1/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
雨が止んで、虹でも出そうなくらいにキラキラと輝く空を見上げる。

俺は、ボスゴドラ。

無駄に硬く出来たこの体表面の鋼は、雨上がりの雫が朝日を吸って放つ光を反射して鈍く光っていた。

明るく光る洞窟の外と自分の体とは裏腹に、今の俺はお世辞にも気分が良くなかった。

先の来客の雨乞いの効果が切れて太陽に居場所を追われた黒雲は、腹いせに俺の心に立ち込めている。

雨こそ降っていないのが幸いだが、さっきからずっと心がモヤモヤしているのだった。

それもこれも、さっきの客――親友のバンギラスとその彼女らしきグレイシアのせいだ。

理由を押し付けてるだけかもしれないが、多分そう。

時間でいうとまだまだ短い付き合いの割に、その仲睦まじい様子は俺の心の急所にクリーンヒットして……なんて。

そんなことを考える自分は、もしかするのかもしれない。

「……ちげぇよ。今更寂しいとか」

言霊とかいう言葉もあるし、と口に出してみたら、余計に悲しくなっただけだった。

「はぁ……羨まし……いや、何言ってんだ俺」

それ以上考えることをやめて、俺は身体的にも精神的にも疲れきった体をその場に横たえる。

――ひらり。

背中に何かが触れる。

「……あ?」

それは、洞窟の硬い床とも雨除けの大きな葉っぱとも違う、肌触りの良さを持っていた。

少し触れただけなのに、そのふわりとした感触は延々と触れた場所に残留している。

この何もないところにこんな柔らかいものあったか?

もしかしたらあいつらの忘れ物かもしれんな。

あいつらが何かを持ってた気はしないが。

起き上がるのが面倒で、俺は苦労してその場で寝返りを打った。

すると、目の前にいたのは――

「――ふぃ〜あっ……!?」
 ▼ 2 羽真◆9nlytNSHx. 18/03/15 20:13:48 ID:6fh3VqTc [2/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
体付きはしなやかなはずなのにどことなくふんわりした印象があるのは、周りで舞っているそのリボンのせいか。

何より、くりっとした水色の目、ぴょこぴょこという擬音が似合いそうなピンクの耳なんかは美しいというよりは可愛らしいというのが正しい。

(……ニンフィア、だな。この辺りに住んでた記憶はねえけど?)

ぽかんと口を半開きにして、目を見開いて俺を見るそいつは、固まっていた。

「……俺が怖いのは見た目だけなんだ。別に何もしねえから行っていいぞ」

俺と目が合った瞬間に、恐怖で固まるやつは初めてではない。

どころか、初対面の大半がそうだ。

ボスゴドラという種族、そしてその中でも大きめの体と厳つい顔の俺だから、もう仕方ないと割り切っている。

今回も同じように怖がられているのだと最初は思った。

だからいつもの通りなるべく怖がらせないように、逃げてもいいと言っておくのだ。

だが、なんとも様子がおかしい。

もじもじと落ち着きなく足を動かしているくせに、少しも逃げようとはしないのだ。

足に足を重ね、その様子を見ているだけ。

時々こちらを見上げては、目が合うと慌てて目線を再び自分の足に。その往復。

自分の住処なのになぜか感じる居心地の悪さに耐えきれなくなって、俺は話しかけた。

「あの、どうしたんだ? 何かあるなら、別に何もしないから言ってくれ」

「は、はい……」

その声は、さっきの鳴き声と同じく、技「癒しの鈴」のような可愛らしい声。

意を決した、という感じの深刻そうなニンフィアの顔は、なぜか耳のピンク以外にも赤みが差していた。

「あ、あの……困るかも、しれないけど、その……」

「ん? どうした?」



「……す、好き、です」

 ▼ 3 マヨール@ふるびたかいず 18/03/15 20:14:14 ID:lJ7kAzUY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ワイの好きなポケモン2匹やん
支援
 ▼ 4 羽真◆9nlytNSHx. 18/03/15 20:19:02 ID:6fh3VqTc [3/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「っ……はぁ!?」

思わずそう叫んでしまっていた。

しかし、心の中の叫びはこんなもんではなく、もはや絶叫。

「あぅ……ご、ごめんなさい」

たどたどしくお詫びする彼女の目はウルウルと涙が溢れる寸前だった。

慌てて俺はフォローに回る。

「困ってはないが、いや困ってるけど。申し訳ないけど、前に会ったことあったか?」

「……いえ」

「やっぱ初対面だよな。なのに……す、好き、なのか?」

「一目、惚れ」

「……そ、そうなのか」

友人すら少ない俺には、突然の告白なんてどう反応したらいいのかもわからない。

いやもちろん嬉しい。心は舞い上がって落ち着かず、脳も沸騰したように暴れ狂っているほどには嬉しい。

だからこそ正常な思考はこれっぽっちもまとまらず、でもこんな反応だけで終わらせることもできず、ただ俺は困惑するのだった。

ニンフィアは潤んだ目で不安げそうにこちらを見あげた。

「あの……だめ、ですか?」

「いや、ダメじゃねえけど……ってか何について聞いてるんだ?」

「あなたと、暮らしたい……です。出来るなら……」

「あ、あぁ。それくらいなら歓迎するぞ。どうせ俺1人だったからな」

「やった……!」

心底喜ばしげに言うその顔は薔薇の花のように可憐な笑み。

ニンフィアの周りに花畑が展開される幻覚を見ながら、俺は未だに現実を飲み込みあぐねていた。

色恋沙汰なんて全くわからない、関わりもない俺に、それこそさっきのにわか雨のように突然降りかかってきた出来事。

正直バンギラスにリードされたようで寂しかった俺には、願っても無いというのが本音だった。

だが、俺の心にはどうも言い表せない新たな色のモヤモヤが、さっきの暗雲の代わりに生まれた気がする。

全くの未経験ゾーンへの不安からだろうか。

そもそも一目惚れという感情がイマイチ理解できないのも理由の一つかもしれない。

……まぁなんにせよ、これから理解していけばいいのだ。

控えめな、しかしやっぱり可愛いニンフィアの笑顔を見て、俺は思考をやめた。
 ▼ 5 ポッコ@オニゴーリナイト 18/03/15 20:22:55 ID:wuwUgzaI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バンギとグレイシアのやつかな?
支援
 ▼ 6 羽真◆9nlytNSHx. 18/03/15 20:24:05 ID:6fh3VqTc [4/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
日が高く昇る頃には、俺の心も脳もとりあえず落ち着きを取り戻していた。

と同時に、いくつか分かったこともあった。

「なぁ、熱くないか? 特に俺の体は日中温まりやすいしよ」

「熱く、ない」

まず一つは、会話が苦手らしいこと。

直接聞いてはいないが、このたどたどしい単語の受け答えでなんとなくそう察した。

「そういや、さっきから俺なんでこんなぐるぐるに巻かれてるんだ?」

「好き、だから」

「あ、ありがとう」

二つ目は、喋らない代わりに行動で示すらしい、ということ。

壁にもたれて座っている俺に対し、ニンフィアは俺に寄りかかりつつそのリボンのような触手を巻きつけてくるのだ。

べったりとくっついて、すり寄ってきて離れようともしない。

いや、別に不快なわけではないのだ。

なんとも言えない気分だが、確かに嬉しさはある。

ただ未だ経験がないせいかどうにも戸惑ってしまうのだ。

「……ね、この洞窟、案内して?」

「おう、いいぞ。広いけどな」

ニンフィアは俺を見上げてすりすりと前足を俺にこすりつけた。

いちいち可愛い仕草だ。わざとやっているのか、それとも天然なのか。

とりあえず何もやることがない状況が抜け出せて何よりだ。

ニンフィアとともに立ち上がり、火が消えた松明――その辺の適当な木を束ねただけのものだが――を手に取る。

「危ないから下がっとけ。これに火をつける」

「ん……」

ニンフィアが俺の後ろに隠れたのを確認し、俺は威力調節した火炎放射を口から放った。

ちなみにこの技はバンギラスから教えてもらった。

炎タイプでもないくせに炎技を使いこなしていた時にはびっくりしたものだ。

「熱くないか?」

「だいじょうぶ」

ボッ、と音を立てて松明は燃え上がり、暗闇に覆われて見えなかった洞窟の奥がオレンジの光に照らされる。

「行くぞ。一応入り組んでるから離れるなよ」
 ▼ 7 ガライボルト@ルームキー 18/03/15 20:26:10 ID:BE.cYInU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
似てるなと思ったら作者同一人物だったか
 ▼ 8 羽真◆9nlytNSHx. 18/03/15 20:26:41 ID:6fh3VqTc [5/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――俺の洞窟、こんなに広かったか?

というのが一番の感想だった。

これは自慢になるのだが、この洞窟一帯は全部俺の縄張りとして一応通っているのだ。

俺はあまりそういうものを気にしないので普通に開放してしまっているが。

そんなこんなで、全部回るのに予定よりもだいぶ時間がかかってしまった。

やっといつもの生活圏である入り口に帰ってくると、外はもう夜だ。

「遅くなっちまったな。悪い」

ニンフィアは無言で首を横に振った。

それを「気にしてないよ」の意味で取った俺は、次にやる事を教えた。

「外で少し薪を拾うんだよ。焚き火がないと体が冷えちまうからな」

ニンフィアがどうかは知らないが、少なくとも俺の鋼の体は冷えすぎると翌日ひどい目にあうのだ。

ニンフィアは、今度はこくこくと首を縦に2回振った。

俺が先導して外へ連れ出し、すぐ目の前の森の入り口で大きめの枝を20本ほど拾う。

再び洞窟内へ戻り、拾った枝を簡単に組み立てて、そこに松明を差してやれば――

「――こんな感じに、な。火は割と保つんだぞ?」

「そう、なんだ。すごい……」

ニンフィアの青い瞳は炎を映して赤く輝いている。

こんなんでも喜んでもらえるなら嬉しい事だ。
 ▼ 9 羽真◆9nlytNSHx. 18/03/15 20:27:30 ID:6fh3VqTc [6/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……美味しい」

「そうか、良かった。まぁきのみにゃ外れはないわな」

焚き火に当たりつつ、溜め込んであった木の実を食べる。

今日は食べる分を取ってきていないから、明日に補わなければならない。忙しくなりそうだ。

「温かいきのみ、初めて」

「いつもそのままで食べてたのか?」

こくりと首肯する首の動きより、その小さい顎の動きの方が大きい気もするが。

「でも……温かいから、美味しいわけじゃ、ない」

「他にもあんのか?」

「ん……あなたと、いっしょ」

こちらを見もせずに、しかしその言葉は温かいを超えて熱いくらいで、なんだか胸がむず痒くなる。

好き、だとこれが当然なのだろうか。

俺にはそんなものはまだ分からなかった。

そしてまたお互いに話さない時間が始まるのだ。

こうなってしまうとどうにも落ち着かなくて、何か話題を探すしかなかった。

さっきも言った気がするが、ニンフィアは相当に無口だ。

黙っているのが好きと言うか、喋るのを嫌っているというか……。とにかくそんなやつらしい。

別に嫌いなわけじゃない。むしろ俺も話は上手くないので助かってはいる。

……助かっているはずなのに、なぜ俺は居心地が悪いのか、自分が分からない。

他のポケモンといて、話さないことに居心地の悪さを感じたのは今日が初めてだった。
 ▼ 10 羽真◆9nlytNSHx. 18/03/15 20:35:06 ID:6fh3VqTc [7/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
結局たわいもない話題なんて俺には考えられなかったので、思ったことをそのまま聞いてみることにした。

「お前は、無口だな」

「……きらい?」

「いや、そんなことはねぇ。俺も喋るのは苦手だからな」

「そう。……無理に話す必要なんてない」

「それもそうだな」

「話さなくても、好きなのは伝えられるから」

既に体はくっつけていたのに、体を押し付けるようにニンフィアは更に迫ってくる。

何とは無しにニンフィアへ手を伸ばそうとして、やめた。

不意に体の奥が熱くなったのだ。

今日はおかしな日だったな、と洞窟の中からでも少し見える夜空を見上げて考える。

今日になって急に現れた、このモヤモヤした気分は確かに嫌なものではない。

だがなぜなのか。このまま進んではいけないような、そんな不安が混ざっているのだ。

なんの前触れもなく起こった今朝の出来事が、文字通り夢みたいだからだろうか――

「どう、したの?」

「ん、あぁ。いやなんでもない」

きょとんと首を傾げたまま、ニンフィアは小さくあくびをした。

その眠そうな目を見ると、こっちまで眠くなってしまう。

「……もう寝るか」

やはりニンフィアは何も言わずにこくこくと頷くのだった。
 ▼ 11 羽真◆9nlytNSHx. 18/03/15 20:40:38 ID:6fh3VqTc [8/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ふぃ〜〜〜〜〜あ!!」

澄んだ高い声が一瞬だけ山中に響き渡る。

すると、月明かりに照らされる洞窟に、新たな影が出現した。

元あった影が、出現した影に近づいていく。

「安心して、私。サーナイトよ。ニンフィア、ここの調子はよさそう?」

「ううん、この森は珍しいものは特にないし、きのみはたくさんあるけど取るのはちょっと面倒みたい」

「そう……じゃあ明日は別の場所に行く?」

「その必要はないよ。ほら、あそこにデカイの一体いるでしょ?」

「えぇ……ボスゴドラかしら」

「当たり。最初ここに入ろうとしたらコイツが住処にしてたみたいでさ、ちょっとびっくりしたんだけど、すり寄って『好きです』って言ったらすぐ落ちた」

「本当にそのあたりは上手いわよね。それで、何か手に入りそうなの?」

「あぁ。ふっかつそうが大量に茂ってるところがある。洞窟は入り組んでてまだあたしには分からないけど、コイツなら知ってるっぽい。ある程度定期的に取りに行くみたいだからそこについていけばふっかつそうは当分困らなそうだね」

「本当? 助かるわね。これで当分小さい怪我には困らないわ」

「あぁ。きのみもそれなりにあるみたいだし、せっかくのカモだからしばらくここに残ることにする。ガブにも言っといてね」

「分かったわ。じゃあ、また呼んでちょうだい」

「多分夜になるから、そこだけ気をつけてね」

「えぇ。それじゃあ」

軽く手を振って、サーナイトは胸の前に両手を合わせる。

一瞬サイコパワーが膨らんで、ぴしゅん、とまたサーナイトの姿が掻き消える。

さっきまで寝ていた場所――ボスゴドラに包まれるみたいな格好になる、ボスゴドラのすぐ目の前――に再び戻って寝転んだ。

「……しばらく、よろしくね?」

ニンフィアは静かに目を閉じる。

まるでドククラゲが獲物を逃さないようにするみたいに、自身のリボンをボスゴドラに巻きつけて。

その小さな口は、ニンフィアが眠りに落ちるまでの間、獰猛なカーブを描いていた。
 ▼ 12 ガラティオス@こおりのジュエル 18/03/15 20:41:45 ID:bMEzQvXw NGネーム登録 NGID登録 報告
サザンドラ「素晴らしいぞ」
 ▼ 13 羽真◆9nlytNSHx. 18/03/15 20:42:01 ID:6fh3VqTc [9/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今日の分はここまでとなります。
今回は、ボスゴドラ×ニンフィア。
バンギラス×グレイシアの続編(URLは下に貼っておきます)という位置付けではありますが特に前を読んでいなくても大丈夫なように書いていくつもりです。
さて、書き溜めはここでもう尽きているので、更新は不定期で亀です。
ですが失踪だけは絶対にしないので、これから恐らく数ヶ月の間よろしくお願いします。

前作→http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=584866&l=1-
【地の文有りSS】バンギラス「俺って、怖いか?」 グレイシア「怖いと思うわよ?」
 ▼ 14 黒の災い◆7B7OwE3LJM 18/03/15 22:32:20 ID:Oktc/.9s NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援です!
 ▼ 15 ドキング@ポケモンずかん 18/03/15 22:56:13 ID:rFpS.krA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あの人か、支援
 ▼ 16 ネネ@ラブタのみ 18/03/15 22:59:07 ID:WAg2BA0E NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 17 イリュー@りゅうのキバ 18/03/15 23:07:33 ID:GBwJC4hs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 18 羽真◆9nlytNSHx. 18/03/18 23:38:28 ID:XpTOEZcg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
更新のレスではなくて申し訳ないです
SSの方は毎日毎日一応書いてはいます
ただ1日分の量が1レスあるかないかくらいに留まってしまっているのが現状です
読んでくださる皆さんに一つ相談があります
1.一回の量が少なくてもいいから書いたそばから落として行くか
2.それとも時間はだいぶ開くがある程度区切りになってから落とすのがいいか
一回が少しだと物足りないという方もいらっしゃるでしょうし、逆に毎日少しでも見たい、という方もいらっしゃると思うので、そこで迷っていまして
皆さんとしてはどちらがいいのでしょうか
 ▼ 19 ドリドリ@しろいハーブ 18/03/18 23:40:00 ID:3YNUvSMA NGネーム登録 NGID登録 報告
2

気持ちとしては1だけど細切れにしたら色々ガバくなりそうだし
 ▼ 20 羽真◆9nlytNSHx. 18/03/19 23:26:23 ID:8kvwsRyE [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ぅわーっくしょい!」

突然鼻がむずむずとし始め、自分でしたくしゃみの音で俺は目覚めた。

柔らかいなにかが鼻の周りをなにかがうろついているのだ。

「は、は……あっくしょい!」

再びのくしゃみの衝撃でまた頭が動き出し、俺は腕の中の温かいものにも気づく。

最初こそびっくりしたが、すぐにきちんと思い出した。

そういえば、昨日からもう寝るときも1人ではなくなっているのだった。

つまりなにが起こっていたかというと、ニンフィアのリボンがふわふわ揺れて俺の鼻に当たっていたのだ。

「……ぅ、ふぇ……」

もぞもぞと手の中の柔らか物体が動き出す。

「起きたか。おはよう」

「あ、おはよう……♪」

寝起きの朝一番でも笑顔の輝きは薄れない。

「今日は、なにする……?」

「おう、飯食ったら適当にきのみを取りに行くぜ。昨日分も補っとかないといけないしな」

「うん……あなたが一緒なら、どこでも」

「聞いといてそりゃねえぜ」

軽く撫でてやったら、ニンフィアはまた淡く笑った。
 ▼ 21 羽真◆9nlytNSHx. 18/03/19 23:28:40 ID:8kvwsRyE [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
何はともあれ、朝といえばまず朝食だ。

さて、と適当に呟いて、洞窟の奥に貯めてあるきのみを取りに行くため起き上がる。

一歩、二歩、歩いてニンフィアがついてこないことに気づいた。

「おい、どうした? きのみ取りに行くぞ」

「……起こして、ほしい、な?」

「……はぁ?」

寝転んだまま、キラキラと光る目でこちらを見て、ニンフィアは首をかしげた。

甘えているのだろうか。

いや、その仕草が可愛くないと言えば嘘にはなるのだが。

「起こしてほしいの。……ダメ?」

「いや、構わんが……」

寝そべるニンフィアの前足を軽く掴んで引っ張る。

ニンフィアはその勢いのまま起き上がり、俺の脚に抱きついた。

「ん、ありがとう……」

「おう。んじゃ行くぞ」

結局、なんで俺が起こしたんだろうか。
 ▼ 22 羽真◆9nlytNSHx. 18/03/20 21:37:21 ID:UmH4tVFE [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
朝食用のきのみは、俺はいつも通り好きなのを選んで、シュカのみだ。

ニンフィアは特に何かを選ぶ風もなかったので、少し聞いてみた。

「きのみ、好きなのとかは?」

「……好きも、嫌いも、ない」

流石に予想外だ。

嫌いなものがなくても好きなもの一つくらい、普通あってもおかしくないのだが。

「少しだけ好きとかもないのか?」

「うん……食べられれば、なんでも」

「そ、そうか。まぁ適当に選んでくれ」

こだわりがないなら、目に留まったものを適当に取っていけばそう時間もかからないだろう。

きのみを両手に優しく――強く握ると潰れてしまう、それだけの理由だ――持ったまま俺はつっ立って待っていた。

不意にニンフィアがこちらを振り向く。

「……あなたが、選んで。なんでも食べる」

「俺が?」

首肯し、ニンフィアは付け加えた。

「あなたが選んだなら、おいしく食べる」

「そ、そうか……」
 ▼ 23 羽真◆9nlytNSHx. 18/03/20 21:38:34 ID:UmH4tVFE [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
俺も表面上お願いを拒んでこそいないものの、内心は怪しい光を受けたように混乱状態だった。

なんでも食べるとはいえ、まずいものは食べたくないだろうし。

でもニンフィアが美味しいと感じるものも分からない。

俺とこいつではタイプも体も違いすぎるから、俺の好みをそのまま選んでも多分効果は薄い。

……とりあえず甘いものを選んでおけばハズレはないだろうか。

幸いきのみの種類はそれなりに豊富だったので、甘くて食べやすい筆頭であるモモンのみとウタンのみをいくつか拾い上げた。

「モモンのみとウタンのみ。どうだ?」

ニンフィアのリボンが一瞬びくりと跳ねた。

ニンフィアは少し考えた後、ゆっくりと一回だけ首を縦に振った。

歩き出すと、しゅるしゅると滑らかな動きでリボンがまた腕に巻きついてきた。

じゃれついてきたかと思ったが、少し締め付ける力が強い。

「暗いの、苦手か?」

ここは場所が入り口からほど近いこともあって、暗いものの夜目が効けばギリギリ辺りが見える程度に明るいのだ。

松明を持っていないのもそれが理由だ。

いちいち松明をつけるのが面倒でそのままくるせいで、たまに上手く周りが見えずきのみが潰れたりする事故も起きたりするのだが。

詳しい表情までは読み取れないが、ニンフィアは勢いよく首を振って否定した。

あまりの必死さに余計に「やっぱり苦手なんだろうか」と考えてしまう。

巻きつけたリボンを後ろに引っ張ってニンフィアが抗議してくる。

「はは、すまんすまん」

思わず苦笑しながら謝ると、後ろに引っ張る力が消えた。

あんなに必死だったのは、やっぱり暗いのが苦手で恥ずかしいからなんだろうか。
 ▼ 24 羽真◆9nlytNSHx. 18/03/24 20:25:41 ID:zF7caxa6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カリッ、コリッ、と口の中でシュカのみが香ばしい音が弾ける。

この食感と香りが美味いのだ。

ふと何気無く横を見たら、ニンフィアもこちらを見ていた。

ふわり、ニンフィアが微笑む。

「欲しいか? シュカ」

ふるふると首を横に振り、ニンフィアはもう一度微笑んだ。

思わず手が伸びた。ニンフィアの頭に手を乗せて、一撫で。

ニンフィアは俺から目を離してまたモモンのみを小さな口で食べ始めた。

俺がほとんど食べ終わるというのに、ニンフィアはまだ半分も食べ終わっていない。

「多すぎたか? 要らないなら言ってくれ」

「じゃあ、1個ずついらない」

「悪いな。量の加減が分からなくて」

こくり。

モモンのみ、ウタンのみを一つずつ取って口に放り込む。

柔らかい果肉が潰れると、控えめな甘みが口に広がった。

「うん、美味いな」

残ったシュカのみも全部まとめて食べきって、俺はニンフィアがモモンのみを食べる様子と外の景色に視線を往復させた。
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