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ルカリオ「……今までありがとう」ミミロップ「こちらこそ」

 ▼ 1 リムガン@きいろのバンダナ 18/06/01 22:04:59 ID:2k1QlQLE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
蒼黒く澄み渡った夜空に浮かぶ月が煌々と光を放ち、辺り一面を青い光の底に沈ませていた。

そこに佇む二匹のポケモン。

淡く優しい光に照らされて木々が眠りへと誘われる中、彼らはお互いが向ける強い視線をそれぞれ真摯に受け止め、気を張り詰めさせている。

風も、森も、空も、彼らの事を認め察しているのだろうか、物音一つ立てる事無く静かにそこで二匹の事を見守っているようだ。

普段は周辺で日々を過ごしているであろう者達の姿は見当たらない。また、新たにこの場へ立ち入って静謐を乱そうとする者も現れない。

森閑と静まり返ったこの舞台で、ただ彼らだけが存在を赦されていた。

ルカリオ「……悪く、思わないでね」

ミミロップ「うん」

やがて彼は凛とした声を以って、四隣の寂寞を破った。そして目を閉じ僅かに腰を落としつつ、その身に纏わせている空気を更に色濃くしていく。

再び訪れる無音。しかしその次の瞬間には、彼の踏み鳴らした跫音が、周囲の木々に木霊して大気に満ちる。

強い、とても強い、足音だった。
 ▼ 612 レフワン@イトケのみ 18/08/24 05:52:18 ID:PB9cbZ36 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ポケモン出る前のポエム?かっけえよな
 ▼ 613 リゴン2@ミクルのみ 18/08/26 20:55:28 ID:3yrg7s7I NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メガシエン
 ▼ 614 ズクモ@ふねのチケット 18/08/28 00:45:18 ID:ig0khNCo [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

淡く優しい光に包まれたハクタイの森を、ハクタイシティの方に向かって歩くルカリオとミミロップ。

大会まで日が近づいてきたとはいえ、まだ会場付近へ向かうには少し早い。この日は夕方までに良い修行場所を見つける事が目標だ。

夜通しライチュウの思い出話を聞いていた二匹だったが、明け方に一度近くの岩場で仮眠を取ったため問題無く普段の調子に戻せそうだった。

色々な出来事に出くわすとはいえ、ここまで順調にトレーニングを重ねる事ができている。それについては、ルカリオはそれなりに満足しているようだが、一つだけ気になる事があった。

ルカリオ「……大丈夫?」

ミミロップ「……うん?」

ルカリオ「いや、何か気にしてるみたいだから」

どうも、仮眠を取った辺りからミミロップの様子がおかしい。調子が悪いようには見えないが、森を歩く彼女はどこか上の空。何かについて考えをめぐらせているように思える。

伊達に長い時間近くで彼女を見てきていない、話しにくい事があるのだろうとルカリオは察した。

ルカリオ「……この前、話しかけてた話?」

ミミロップ「……うん」

それは、ピカチュウがライチュウのいる洞窟へ向かう前の夜の事。

彼女はその話を、ルカリオには話さず墓まで持っていくつもりだと言っていた。だが同時に、彼女はこれまでの経験に少なからず影響を受け、その話をしておきたいという思いが芽生えてきているとも言っていた。

おそらく、ライチュウやピカチュウを見て、彼女の中でまた一つ大きな変化が起きたのだろう。心の奥に秘めているその話を、するべきかもしれないという変化が。

ルカリオ「……あっちの岩陰に行こう。天気も崩れそうだし、今日はそこで寝泊りかな」

ミミロップ「うん、ありがとう」

ルカリオは彼女の肩を抱き、共に岩場まで歩く。

岩場の小さな洞窟に入ったまさにその時、夕立のような強い雨がハクタイの森を襲い始めた。
 ▼ 615 プ・ブルル@バンジのみ 18/08/28 00:45:41 ID:ig0khNCo [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ルカリオ「うわぁ、すげぇ雨。間に合ってよかった」

ミミロップ「危うくずぶぬれになるところだったわね」

ルカリオ「びしょびしょになったミミロップちゃん……ごくり」

ミミロップ「うわぁ……」

少しナーバスになっていたミミロップを元気付けるためだろう、ルカリオはいつも以上にふざけて見せる。その気遣いが嬉しくて、ミミロップは彼の冗談に乗ることでルカリオにお礼を言った。

ミミロップ「……話してない事があるって、そう言ってたじゃない」

ルカリオ「うん」

ミミロップ「あれね、私が……まだ、今住んでる所に来る前の話。まだ私が……今みたいに、自分の力に自信なんて持ってなかった頃……」

洞窟の外に視線をやるミミロップ。

遠い過去を思い出しているのだろう、彼女は暫くそのまま何も言わずにただ地を叩きつける幾多もの雨粒を見つめていた。

ルカリオは、何も言わずに彼女が話し始めるのを待つ。彼女には彼女のタイミングがあるのだろう、急かすものではない。

ミミロップ「……あのときも、こんな風にすごい雨が降ってたわ」

ミミロップはルカリオの方を見ず、真っ黒に染まった空を仰ぎながら話の続きを始める。

ミミロップ「ルカリオは……ポケモン、食べた事ある?」

ルカリオ「え……」

ミミロップ「私はね……あるわ」

雷が鳴る。

ミミロップの全身が一瞬、強い光の影となって真っ黒に見える。

ミミロップ「どうにかしたかったけど、どうしようもなかった……その時、私は思ったの」
 ▼ 616 ノムッチ@ひみつのコハク 18/08/28 00:45:58 ID:ig0khNCo [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





何故、どうしてこうなるの?

こんな運命に、誰がしたっていうの?

彼女に、雪が本当に白い事を実際に見せてあげたかった。

彼女に、雪が本当に冷たい事を感じさせてあげたかった。

全てを諦めかけていた彼女に、頑張って生きようと思いなおした彼女に、私はお礼がしたかった。

ただ、生きたい。普通に生きたい。本当にそれだけだったのに……


ポケモンの一生なんて、本当に不公平だ。

だけど、いくら恵まれなかったといったって、こんな仕打ちってないよ……


でも、もう泣かない。貴女との約束、無駄にしない。

ただ、貴女は忘れてと言ったけど、その約束だけは守れないわ。

いつかね、故郷に戻って、本物の雪を見せてあげる。

これは、私からの約束よ?




 ▼ 617 ギギシリ@いかずちプレート 18/08/31 01:51:17 ID:GGnUToKc [1/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




それは、何年前だっただろう、夏の暑い日の事だった。

気がつけばミミロップは、薄暗い森の中に倒れていた。

どことも知らない森。開いた瞳に映るのは見た事も無い光景ばかり。

ミミロップ「う、いたた……」

ズキンと肩の辺りに鋭い痛みが走り、反射的にその部分を手で押さえる。いつもと変わらない肌、特に傷ができているわけではないようだ。

ミミロップ「……攻撃されたんだった」

おぼろげにだが、思い出す。自分がどうして全く覚えの無い場所に寝ていたのか、自分の身に何が起きたのか。

ミミロップ「この様子じゃ完全に置いてかれたか……はぁ」

大きく息を吐くミミロップ。そして片手で額をおさえ、力なく首を横に振った。

ミミロップは、ある群れの中で行動していた。群れと言っても特別思い入れのあるような集団ではなく、ただ各々が外敵から身を守りやすくするためだけに形成されたようなものだが。

ミミロップはある街の近くで木の実を採っていた際、その群れからはぐれてしまった。少し探せば見つかるだろうと思っていたのだが、動き出そうとしたその矢先、彼女は鋭い痛みを感じ急な睡魔に襲われて地面に倒れてしまった。

そして、気がつけば全く知らない森の中。どうやらミミロップは誰かに麻酔を打ち込まれ、眠っている間にこの森へ運ばれたようだった。肩に走る鋭い痛みは麻酔を打ち込まれた際のものだろう。

何にせよ、彼女はこの森に単身放り出されてしまった。捕まえたはいいが必要無くなったのか思っていたポケモンと違ったのか、理由はわからないが、とにかく彼女は野生のままこの地に寝かされていた。

ミミロップ「困ったわね、どうしよう……」

群れからはぐれた事は彼女にとってそれ程重要な事ではなかったが、知らない地に投げ出されたこの状況には辟易とするしかなかった。

どこが比較的安全な場所か、実の採れる木はどこに生えているのか、何かあった時に隠れられる場所はあるのか、色々な事を一から考えなければならない。そしてそれは、彼女にとってそれなりに苦痛を伴う作業だった。

というのも、この時のミミロップはまだ自身を鍛える事などあまりしていない、ただのんびり生きてきただけのポケモンだったのだから。
 ▼ 618 ソッキー@ようせいジュエル 18/08/31 01:51:53 ID:GGnUToKc [2/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とはいえ、野生のポケモンとして生きる上で必要な知識はある程度身についている。考えるより先ず動くという性格も幸いし、ミミロップは頭を痛めつつも状況にそう悲観する事無く次の行動に出る事ができた。

ミミロップ「この辺はなんていうか……不思議な森ね」

辺りを見回し、違和感を覚える。

何が、と訊かれれば返答に困ってしまうような、そんな程度の違和感。

一見何の変哲も無い森に見えはするのだが、ミミロップはこの光景に得体の知れない気味の悪さを感じていた。

ミミロップ「うーん……なんか気持ち悪いわねぇ」

もしかしたら、自分がここへ放されたのには意味があるのかもしれない。現時点では完全なる邪推だが、あれこれ考えても仕方が無いと判断し、彼女は状況についてそう思うことにした。

ただ勿論、その意味とやらに副うつもりはない。ミミロップは持ち前のポジティブさを武器に、ふんと鼻を鳴らしてみせた。

ミミロップ「歩けばいずれ出口に出るわよね」

とりあえず、歩き出す。

どんな森も草原も、歩けばいずれ違う景色が広がる。同じ道をぐるぐる歩くハメにならない限りは、どんな森でも出口に辿り着く。

果たして辿り着いたその先が自分の知っているどこかであるかはわからないが、とにかく薄気味悪いと感じているこの森に長居する意味は無い。

ミミロップ「……他にポケモンはいないのかしら」

もしやと、彼女は自分が感じている違和感の正体を予想する。

風が木々を揺らす音や自分が地面を踏みしめる音は鮮明に聞こえてくるが、他の生物の息遣いなどが一切聞こえてこない。

風景として見ればとても綺麗な森、誰かポケモンが急に飛び出してきてもおかしくはない光景だが、その気配は一切感じられない。彼女の自慢の耳にも、他のポケモンが生活していそうな物音は聞こえてこない。

ミミロップ「もしかして人間の管理する森? だとしたらちょっと困るわね……」

人間がポケモンを放し飼いにするような土地を所有している、という話を彼女は聞いた事があった。そのような土地には決まったポケモンしか生息しておらず、場所によっては広大な土地にも関わらず住んでいるポケモンが数匹しかいない、なんて事もあるらしい。

しかし、もしそうだとしたなら、より気をつけて周囲を観察する必要がある。そういった施設には少なからず、ポケモン達が逃げ出してしまわないように何か仕掛けを施してある場合が多いのだ。
 ▼ 619 ジョン@ノワキのみ 18/08/31 01:52:28 ID:GGnUToKc [3/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
だが、彼女のそれは杞憂なのか、どれだけ注意深く周囲を観察しても不審な何かを見つける事はできなかった。

例えば目の前にある、大きな木。

何の木かはわからないが、それはどこから見ても自然に生えているそれそのものだ。植え替えられた様子も無ければ、ポケモンを捕らえるような仕掛けも見当たらない。

例えば今踏みしめている、大地。

茶色い土と雑草で埋め尽くされた地面にも、落とし穴や枷など罠らしきものは何も見つからない。不自然に掘り返された跡も無ければ、埋め立てられた跡も無い。

それでもと見上げた、青い空。

青く澄み渡る空に、真っ白な雲が幾つか浮かんでいる。その雲の隙間から時折太陽が顔を覗かせ、彼女を、この森を、まばゆく照らしている。

ただ、自分が知らない土地というだけ。ただ、他にポケモンが見当たらないだけ。

人工物が辺りに見当たらないとはいえ覚えた違和感が拭い去られる事は無かったが、とりあえずすぐさま何か危険を回避しなければならない状態にあるわけではないようだった。

ミミロップ「……ハクタイシティ辺りに行きたいわね」

危険が無さそうだと判断できたとはいえ、それならばと見慣れない地で暮らそうとは思わない。とにかく彼女は、ここを出ようと歩みを再開した。

ミミロップ「ハクタイかぁ……」

ただ、口をついて出たハクタイシティも、そう見知った場所というわけではない。

ミミロルの多くはハクタイの森に棲家を作ると言われているが、彼女の出身はハクタイ周辺ではなかった。

彼女ははぐれてしまった群れの一つ前に属していた群れが別な場所を移動している時に生まれたため、ハクタイの地を知らずに育った。群れの多くがハクタイの森出身という事で何度かハクタイシティ近辺へ立ち寄った事があり、それで多少は知った土地というだけなのだ。

それでも、今いる名前も知らないような地より何倍もマシだと思っているのだろう、ハクタイシティやその周辺を想像する彼女の歩みは次第にはやくなっていく。

ミミロップ「!」

歩き始めて数分、ふと自分の足音とは違う、誰か別の何者かが地を踏みしめた音を彼女は聞いた。
 ▼ 620 ズパス@きれいなウロコ 18/08/31 01:53:03 ID:GGnUToKc [4/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
いつからそこにいたのだろう、いつから見られていたのだろう。

音のした方へ視線をやると、小高い丘になっている所から、一匹のアブソルが自分のことをじっと見つめていたのが見えた。

思わずぎょっとするミミロップ。まだ戦闘経験の浅いこの時の彼女に、咄嗟に構える事など難しい。一歩後退り、ほとんど無防備に相手の出方を窺う程度で精一杯だ。

アブソルがどういうポケモンなのか、それさえ彼女はまだ知らない。襲われたらどう対処したらいいか、全力で走ったとして逃げ切る事はできるのだろうか、そういった事ばかり頭に浮かんでくる。

ミミロップ「…………」

アブソル「…………」

しかし、アブソルはミミロップを見つめるばかりで襲って来る様子は無い。

もしやアブソルは囮のようなもので、今こうしている間にも他のポケモンや人間がミミロップを狙って近づいているかもしれない。そう思ったミミロップは、アブソルから視線を逸らさず、少しずつ幹の太い木へと距離をつめていく。

やがて木に手が触れる所まで近づくと、素早い動きで反対側へ回り、アブソルの視線から逃れた。そして、木の上や周囲をざっと見回す。

他に何かが潜んでいる様子は無い。ならばと、彼女は木の幹からそっと顔を出し、アブソルの様子を窺ってみる。

ミミロップ「あれ、いない?」

アブソル「いるわ」

ミミロップ「きゃああああ!!」

いつの間に回りこまれていたのだろうか、ミミロップがアブソルのいた場所へ視線を向けるよりはやく、アブソルはミミロップのすぐ傍まで近づいて来ていた。

ミミロップ「あ、ああっ!」

一目散に走り出そうとするミミロップ。しかし、露出した大きな木の根に躓き、その身が地面に投げ出されてしまう。

ミミロップ「いたた……」

地に打ち痛む身体に鞭打って、起き上がるミミロップ。そんな彼女に、アブソルはゆっくりと近づいていった。
 ▼ 621 クタス@プテラナイト 18/08/31 01:53:27 ID:GGnUToKc [5/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「……待って。取って食べようってわけじゃないわ」

ミミロップ「……?」

立ち上がるミミロップのすぐ前に立ち、落ち着いた表情で話しかけるアブソル。

動作こそ俊敏だが敵意の欠片も見せない彼女に、ミミロップは怪訝な表情を浮かべた。

ミミロップ「敵じゃ、ないの?」

アブソル「少なくとも私はそのつもり」

アブソルは前足を揃え、座り込む。彼女なりに、敵意がない事を表しているようだ。

だが、それも含めて罠かもしれない。ミミロップは多少気を緩めはしたものの、最低限警戒はしておく事にした。

ミミロップ「あなたは、誰? それに、どういうつもり?」

アブソル「私はアブソル。どういうつもりと言われても、きっと貴女と同じよ」

ミミロップ「同じ……?」

言葉の意図をわかりかねるといった具合に、ミミロップは小首を傾げて見せる。

アブソル「貴女、ここへ連れてこられたのでしょ?」

ミミロップ「!」

アブソル「その反応、やっぱりそうなのね。私も、そうなの」

ふう、と小さく息を吐くアブソル。

つまりは、アブソルもミミロップと同じように眠らされるなどして、知らないうちにこの場所へ連れてこられたというわけらしい。

同じ境遇のポケモンがいたのかと安心感を覚える反面、やはり自分は誰かに連れてこられたのだと改めて険しい表情を浮かべる事となった。
 ▼ 622 ズクモ@こだわりメガネ 18/08/31 01:54:10 ID:GGnUToKc [6/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミロップ「私はミミロップ。ねえ、この状況について、何か知ってるの?」

何か知っているのなら、是非とも教えておいていただきたい。ただ、彼女が信用に値するポケモンかどうかまだわからない。もし彼女が敵であるのなら、適当な事を教え込まれてしまう可能性がある。

そもそも、どうしてアブソルはミミロップが同じ境遇だとわかったのだろうか。ミミロップを野生のポケモンとして捉えても不思議ではないはず。ミミロップも同じ境遇だと判断する材料が、きっと何かあるに違いない。

アブソル「そうね……少なくともここには、野生のポケモンはほとんどいないって事くらい」

ミミロップ「……やっぱりそうなのね」

ミミロップの違和感は果たして的を射ていた。

しかし、野生のポケモンがいないとなると、ますますこの森は人間が管理している場所である可能性が高まる。何かの目的に使うため、野生のポケモンを追い払っている事さえ考えられる。

そうなると、初見からアブソルがミミロップを自分と同じ境遇のポケモンだと判断しても不思議ではない。敵である可能性も考えられただろうが、怯えるミミロップを見て確信したのだろう。

アブソル「でも、生物が全くいないってわけじゃないみたいよ?」

ミミロップ「どういう事?」

アブソル「木がなぎ倒されていたり、爪痕が残されていたり、明らかに他の何かがいる様子はあるの」

ミミロップ「そう……」

あまり穏やかではない話。きっとアブソルは、この地で目を覚ましてから辺りをある程度見て回ったのだろう、それなりの情報を入手しているようだ。

遠くを見つめ、目を細めるアブソル。何かを思い出しているのだろうか、彼女はそのまま暫く沈黙してしまった。

ミミロップ「あなたは、どこに住んでたの?」

急に黙られてしまい、どうしていいかわからなくなったミミロップ。このままでは居心地が悪いと思い、別な話題で沈黙を破る事にした。

アブソル「私は、ヒワマキシティの辺り。自然の綺麗なところよ。そこで水浴びをして少し休んでいたら、気がついたらここにいたの」

ミミロップ「ひ、ひまわき?」

当時の彼女には聞いたことの無い場所だった。120番道路の辺りについて話しているのだが、シンオウの一部でしか生活した事がなかったミミロップにそれが伝わるはずも無い。

アブソル「あなたは?」

ミミロップ「え、私はハクタイシティの辺り」

アブソル「……聞いたことない場所ね」

それも当然。二匹にはわからない話ではあるが、それぞれ別な地方から連れてこられている。全く違う遠い場所から、彼女達はどういうわけか集められているのだ。
 ▼ 623 ブネーク@いわのジュエル 18/08/31 01:54:45 ID:GGnUToKc [7/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「お互い、違うところから連れてこられたのね。人間に捕まったわけでもなさそうだし、何が目的かしら」

アブソルは視線を伏せ、また小さくため息を吐く。どうも、本当にミミロップのことを警戒すらしていないようだ。

ミミロップ「(怪しいっちゃ怪しいけど……)」

アブソルはそれなりにミミロップに対して友好的に接している。だが、最低限とはいえ彼女に疑いの目を向けているミミロップは、アブソルの一挙一動をどうしても気にしてしまう。

できれば彼女を疑いたくなどない。だがこの状況、油断した途端アブソルが急に牙をむいてきても不思議ではない。たとえ実際に境遇が同じだったとしても、彼女が敵ではない保障などどこにもないのだ。

ミミロップ「……貴女はどうして私が敵じゃないってわかったの? 急に貴女を襲う可能性だって考えられたはず」

アブソルの顔色を窺いつつ、踏み込んだ質問をしていく。急襲されても逃げられるように、右足は既に外側へ開いている。

アブソル「正直、半信半疑だったわ。ただ、木を薙ぎ倒すのはともかく、貴女に大きな爪痕を木に残すことはできないと思ったから」

ミミロップ「なるほど」

確かにそれは理に適っている。ミミロップの反応に対して「やはりそうか」と発言した事も、きちんと整合性が取れている。

ただ、そうなると今度は彼女が敵ではないという証拠が欲しい。少なくとも彼女には、大きな爪痕を木々に残すなんて芸当は朝飯前だろう。大木を薙ぎ倒す事も、彼女のカマイタチならば容易く行える。

アブソル「貴女、私が敵じゃないかって、そう思ってるわね?」

ミミロップ「あ……」

どうやって真意を調べようかと考えているうちに、彼女の方からストレートに話をされてしまった。

無論、敵であるからこそのこの言動、と考える事もできるが、そうなると疑うだけキリがない。ミミロップは観念して、素直に思っている事を話してみる事にした。
 ▼ 624 ンキー@きいろいバンダナ 18/08/31 01:55:30 ID:GGnUToKc [8/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミロップ「そりゃ、急に声かけられて同じだねって言われたら、不審に思うじゃない」

アブソル「……そうよね」

アブソルは寂しそうな目をして、ゆっくりと空を仰いだ。

アブソル「信じてくれとは言わないわ。けど……私に敵意は無い。たとえ貴女が私をここへ連れてきた犯人だとしても、強く何かを思うことはないわ」

ミミロップ「どうして?」

アブソル「私には、あまり記憶が無いからよ」

アブソルは首を持ち上げたまま、横目にミミロップを見る。その表情は、とても悲しそうなものだった。

アブソル「だから、ヒワマキシティの近くに住んでいたといっても、生まれ故郷というわけじゃないかもしれない。私は、自分がどこで生まれてどこで育ってきたか、わからないの」

ミミロップ「そう、なの……」

とても嘘を吐いているようには見えない。

ミミロップに相手の心を読む力など全く無いが、少なくとも彼女の様子や表情を見る限りミミロップを騙そうとしているとは思えない。

ミミロップ「(アブソルか……)」

少し考えた末、ミミロップは決断した。

ミミロップ「……わかったわ。貴女を信じる。疑ってごめんなさい」

アブソル「ううん、貴女の気持ちはよくわかる。仕方が無い事よ」

疑いが全く無くなったといえば、嘘になる。ただ、ミミロップとしても、彼女が敵であるという心配や警戒よりは、一緒に行動できる仲間ができた事に対する安心感の方が強かった。

アブソルも心細かったのだろう、ミミロップの言葉に安堵し表情を綻ばせた。
 ▼ 625 ージュラ@ヤミラミナイト 18/08/31 23:41:55 ID:GGnUToKc [9/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
お互い、とりあえずの協力関係が結べた事で、今後の話を始めていく。他に雑談など、している暇はない。

アブソル「私が目を覚ましたのはこの辺りだけど、起きてから少し辺りを見回ったの。それで、倒れた木や爪痕を見つけたわ」

ミミロップ「待って。それじゃあ何かがいた形跡っていうのは、この近くにあるって事よね?」

アブソル「まぁ……けど、何の気配も無いし近くに誰かはいないと思う」

とはいえ、この近辺に何かが生息しているらしいとわかった以上、堂々と道を歩くわけにもいかなくなった。

この森がどれ程の面積を誇るかはわからないが、木を薙ぎ倒したり大きな爪痕を残すような何かに遭遇する可能性はそう低くはないだろう。出会ってしまわないようにするため、物音にさえ気をつけて移動しなければならない。

ミミロップ「出口はありそう?」

アブソル「わからないわ。でも、室内ではなさそうだし、歩いていけばいずれどこかに出ると思う」

考えている事はミミロップと同じだった。この状況、それが最善の選択なのかもしれない。

アブソル「問題は、どの方向に歩くかね」

ミミロップ「何か指針になるものとかないの?」

アブソル「直感だけど、あっちの方角は森の出口が近そう」

アブソルが視線を向けた方向は、ミミロップが歩いてきた方角だった。

ミミロップ「逆に歩いてきちゃってたのか……まぁいいわ。そうと決まれば、行きましょ」

アブソル「そうね、話して時間を潰しても勿体無いし」
 ▼ 626 ンデツンデ@やけどなおし 18/08/31 23:42:38 ID:GGnUToKc [10/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




明るい森の中を、二匹並んで歩く。

森の中にはほとんど人間の手が入っていないようで、草がより分けられた跡も無ければ木の枝が切られたりしている様子も無い。

獣道すらできていない所を見ると、本当にこの森にはポケモンさえ住んでいないのだとわかる。

ミミロップ「ほんと、なんで私達こんなとこに連れてこられたのかしら」

アブソル「……もしかしたら、実験なのかもしれない」

ミミロップ「え……じ、実験?」

急にシリアスな話が始まる。ミミロップは思わずアブソルの顔を見た。

アブソル「私ね、眠らされたとき、少しだけ聞いたの。人間の言葉。誰かがいやらしく笑いながら、話をしてるのを」

ミミロップ「ど、どんな……?」

アブソル「はっきりとは聞き取れてないけど……『実験』とか『観察』って聞こえたの」

ミミロップ「実験と観察……」

言葉にしてみれば、聞きなれた言葉、違和感を覚えるようなものではない。だが、現状を考えればとても不吉な言葉である事は確かだ。

ミミロップ「それって、この森に私達を放して観察する、みたいな?」

アブソル「わからないわ。けど、映像を撮影して送る『カメラ』っていう機械を人間は持ってるんだけど、そういうものも見当たらない」

辺りをぐるりと見回すアブソル。つられてミミロップも木々や上空を見回してみるも、やはり人間が仕掛けたと思われるものは何一つとして見当たらない。

アブソル「もしかしたら道中何かの事故で、私達を手放さないといけなくなったのかもしれないわね」

ミミロップ「まぁ、そういう感じだといいけど……」

理由がどうであれ、この森が人間とどう関係があるかは気になるところだ。逃がされたというのならここがどれだけ故郷から離れていてもそう思い悩む事は無いが、人間の支配下に及ぶとなれば今後の行動をよく考えていかなければならない。

繰り返しになるが、ミミロップは先の事を一から考えるのが苦手なのだ。
 ▼ 627 チミル@マゴのみ 18/08/31 23:43:18 ID:GGnUToKc [11/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「……待って」

再び道無き森を、できるだけ音を立てないように歩く。

どれ程進んだだろう、あれだけ森を明るく照らしていた太陽が西の空へと身を傾け始めた頃、アブソルは何かを目にし急に歩みを止めた。

ミミロップ「どうしたの?」

アブソル「……あれ」

アブソルはミミロップに視線を移す事無く、ある一点を見つめている。

彼女の視線の先、大きな木と木の間、そこには何かが横たわっていた。

ミミロップ「あれは……ひっ!」

目を凝らしてよく見てみると、それが何かわかる。それに気づいたミミロップは思わず小さく悲鳴をあげた。

アブソル「何かの死骸……息絶えて、どれくらいかしら」

慌てて視線を逸らしたミミロップに対し、アブソルは表情一つ変える事無く横たわる何かの死骸を見つめている。

そういう光景を見慣れているのだろうか。彼女の落ち着きっぷりに、ミミロップは感心さえ覚えた。

アブソル「もう原型を留めてなさそうだけど、あれはおそらくポケモンよ」

ミミロップ「えっ……そ、それってつまり……」

アブソル「どうかしらね。でも、その可能性は出てきたわ」

嫌な予感がする。

その先の答えを、ミミロップは耳にしたくないと思った。

ミミロップ「……ここには何かがいて、私達はその餌にされたって事?」

だが、黙っていても話は先に進まない。ミミロップは持ち前の気の強さを最大限活用し、勇気を振り絞って予感を言葉にした。
 ▼ 628 フキムシ@たつじんのおび 18/08/31 23:43:55 ID:GGnUToKc [12/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「……蠱毒、って知ってる?」

ミミロップ「こどく?」

アブソル「ええ。百虫を同じ容器に入れて共食いさせて、生き残ったものを神霊とするの。この神霊を祀って、毒を採取するのよ。その毒は与えた人間から財を奪い死に至らしめる、と言われているわ」

蠱毒の話は始めて聞いたが、勘の良いミミロップはそれで彼女が何を言いたいのかわかってしまった。

つまりは、この森が蠱毒で言う所の容器のようなもので、ミミロップたちはそこへ放り込まれた百虫というわけだ。

ミミロップ「ま、待って……じゃあ、あれって、同じ境遇に陥った誰かがやったってこと?」

アブソル「かもしれない、というだけよ。とりあえず、様子を見に行きましょ」

ミミロップ「えっ、ちょ」

アブソルはミミロップの言葉を待たず、死骸の横たわる木の近くまで注意深く歩いて行く。ミミロップは辺りを警戒しつつ、足音をたてないように彼女のあとを追った。

死骸となってしまったポケモンを襲った誰かはもうこの辺りにいないのだろうか、辺りには何のポケモンの気配も感じない。木々も空も、至って静かなものである。

アブソル「これは……酷いわね」

ミミロップ「う、っく……」

死骸を見て、絶句する。

それはある小型のポケモンだった。原型を留めていないため何のポケモンかはわからなかったが、とにかく酷い有様だ。

顔は骨ごとぐしゃぐしゃに砕かれ、身体は大きく引き裂かれて中の臓物が飛び出してしまっている。四足のポケモンだったのだろう、死骸の周りには三つ、付け根の辺りから切断された足がごろりと転がっていた。

腐臭が酷い。血肉や臓物の異臭が辺りに漂い、顔をしかめずにはいられない。油断すれば、嘔吐さえしてしまいそうだ。
 ▼ 629 ークライ@たんちき 18/08/31 23:44:32 ID:GGnUToKc [13/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「ここまでする必要、あったのかしら……」

どういう理由があれば、ここまで残酷で陰惨な殺し方をしてしまうのだろう。たとえ蠱毒のような状況に陥ったとしても、ここまでする必要は無いはずだ。

アブソル「何にしても、これは危険ね……急いでここを出ないと」

ミミロップ「こ、こんなことするやつが近くにいると思ったら、さすがに、怖くなるわね。木を倒したり、爪痕残したりした、そいつかしら?」

アブソル「おそらくは」

最低でも、その何かに出会う事があってはならない。出会えば最後、このポケモンのように無残な姿となってこの世に別れを告げなければならなくなってしまう。

ミミロップ「こんなことできるの、大型のポケモンよね?」

アブソル「どうかしら。中型でも、隙をつけば可能かも。エスパーなら、手を使わずとも相手の身体を引き千切れるかもしれない」

ミミロップ「そ、そんな事できるの……」

アブソル「できるかも、っていうだけよ」

可能性はいくらでも考えられる。

それにそもそも、ここに潜んでいるであろう何者かがポケモンではない可能性も充分に存在する。見た事も聞いた事も無いような、おぞましい姿をした何者かがこの森にはいるのかもしれない。

アブソル「行くわよ。長居してたら、見つかるかもしれない」

ミミロップ「そうね……」

二匹は、亡骸となってしまったポケモンの横を通り過ぎ、どこともわからない出口目指して歩き始めた。
 ▼ 630 ガアブソル@ロメのみ 18/09/01 01:53:40 ID:1syYeUFE NGネーム登録 NGID登録 報告
既に不穏……
支援
 ▼ 631 クジキング@ピッピにんぎょう 18/09/02 14:16:59 ID:8wKMgoXs NGネーム登録 NGID登録 報告
サンダース編以来久々に見たけどすんごいなこれ

試合、野戦、エロ、グロ……
いったい>>1は何者なんだ
 ▼ 632 ギアナ@おいしいシッポ 18/09/03 00:57:39 ID:U0oM.WKk [1/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




落ち着いて休めそうな空間を見つけた頃には、辺りはすっかり夜の闇に覆われてしまっていた。

夜は視界が悪く急襲された場合対応が遅れてしまいかねないので、無闇に歩かず体力を温存する事にした。急いで外へ出たいと逸る気持ちは充分すぎる程持ち合わせているが、それも生きていればこそ。何かあってからでは遅いのだ。

目をつけた場所は、大きな木のうろになっている所だった。

長年かけてそうなったのだろうか、うろの部分は広く、アブソルとミミロップが並んで寝る事もできそうだ。また、中は思ったよりも綺麗で泥や腐葉が溜まっている事も無い。ポケモンだけでなくほかの生物もいないのだろうか、小さな虫さえ辺りには見当たらなかった。

アブソル「なかなか良い場所が見つかったわね」

ミミロップ「そうね……でも、こういう場所こそ危なくない?」

アブソル「ここで休むポケモンを狙って、って事?」

ミミロップ「うん」

この場所は辺りの木々や葉に隠れているためそう周囲から見つかりやすい場所とは思えないが、予めここに誰かが来る事を期待して待ち伏せしている何者かがいるかもしれない。

となると、まんまとこの場所で眠りに就いてしまった日には、そのまま永眠してしまう事になりかねない。

アブソル「片方が見張るしかないわね」

ミミロップ「どっちかが起きてて、どっちかは寝るって事?」

アブソル「それがいいと思う。休むのも大事よ」

ミミロップ「まぁ」

それはミミロップもわかっている。ただ、彼女はまだアブソルを信用しきれていない。

しかしそれはあくまでも、可能性を考えた場合の話。ミミロップとしては、できるだけアブソルのことを信じ力を合わせてここを脱出したいと思っている。

ミミロップ「(アブソル……ここが山、よね)」

ここまでアブソルにはミミロップを襲う機会が何度もあったはずだが、一向にそれをしない所を見れば彼女には本当に敵意など無いのかもしれない。

ならば、最悪自らの命をかける事となるが、彼女の提案を受け入れるしかない。仮に突っぱねて睡眠をとらずにいたとしても、彼女が敵であったとしていずれフラフラになった所を狙われておしまいだ。

与えられた選択肢は、多いようでその実とても少ない。
 ▼ 633 ーシャン@TMVパス 18/09/03 00:58:10 ID:U0oM.WKk [2/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「……まだ、信じてくれない?」

ミミロップ「ううん、ごめん。どうしても考えてしまうの」

アブソル「仕方ないわよね……いいわ。それなら、先に見張りを頼めるかしら」

意外な提案。彼女は身を挺して無防備をさらす事で、ミミロップの信用を獲得する事にしたようだ。

ミミロップ「……わかったわ。なら、それでいきましょう」

ここで彼女の提案を受けなければ、二匹の関係はずっと歪なままになる。そう思ったミミロップは、大人しく彼女の提案を呑む事にした。

無論、交代した後、アブソルが急変してミミロップを襲う事も可能性としては考えられる。相手を騙すにはまず無防備をさらして信用させる、というのはよくある話だ。

しかし、そういう事を考えるのは、もうやめた。

考えてもキリが無いのは勿論だが、こうまでしてくれる彼女をこれ以上疑いたくはなかったのだ。

もしもアブソルが敵でいずれ襲い掛かってくるのなら、それはそれで考えよう。そうミミロップは思って頷いた。

ミミロップ「三時間くらいで起こすわね」

アブソル「そうね、朝は早い方がいいし、三時間ずつでいきましょう」

勿論正確な時間を計る事ができるわけではないが、おおよその感覚で交代の時間を見積もる。

アブソルはミミロップに背を向け、木のうろへと跳び乗った。そして、身体を丸め静かに目を閉じる。

ミミロップ「もう寝たの?」

返事は無い。ほんの数秒で彼女は夢の世界へと旅立ったようだ。

ミミロップ「随分と寝つきがいいわね……あら?」

ふと、彼女の前足の爪が罅割れていることに気がつく。

ボロボロになっているわけではないようだが、縦に一本筋が入ったようになっている。よく見れば、幾つかの爪にそれと同じような罅があった。
 ▼ 634 ラップ@するどいくちばし 18/09/03 00:58:42 ID:U0oM.WKk [3/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミロップ「もしかして、私と会うまでの所で何かあった……?」

あるいは、過去に受けた傷なのかもしれない。交代の際に聞いてみようか、ミミロップはそう思ってとりあえずは気にしない事にした。

ミミロップ「ふぅ……」

大木を背に、空を見上げる。

大きな月と、沢山の星。この空は、シンオウで見上げた空とそう変わらない顔を見せてくれている。

視線を落とせば、知らない森。全く同じ景色を見ているはずなのに、どうしようもなく不安がこみ上げてくる。ともすれば、泣き出してしまいそうにさえなる。

ここは、どこなのだろう?

今更ながら、至極当然の疑問が彼女の頭の中を闊歩した。

ミミロップ「……えっ?」

ふと、どこか遠くの方で草をかき分ける音が聞こえた。

ほんの一度だけ、それも一瞬。ただ、彼女の耳でやっと聞き取れる程度の音だ、この場所からはかなり離れていると思われる。

ミミロップはうろまで音も無く跳び上がり、アブソルを起こさないよう身を縮めて辺りの様子を窺う。

ミミロップ「!」

かさり、と再び物音が聞こえた。それも、先ほどよりも近い場所で。

まだ、何の気配も感じられない。

聞こえた音の大きさを考えれば、まだここからは遠い。そもそも、こちらに近づいてきているとも限らない。

ミミロップは、仮に近くを通りかかったとしても黙ってこのままやり過ごせるようにと、今のうちから姿勢を整えておいた。
 ▼ 635 テッコツ@ラグラージナイト 18/09/03 00:59:11 ID:U0oM.WKk [4/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
がさがさと、草木を揺らす音が近づいてくる。

アブソル「……?」

眠っているアブソルを起こし反応させてしまうほど、その音は近くまでやってきていた。

いま、おそらく、ちょうどこの木の裏辺り。そこに、何者かがいる。

アブソル「…………」

ミミロップ「…………」

物音に目を覚まし、一瞬で状況を理解したのだろう、アブソルはミミロップに目配せした。それに対し、ミミロップは小さく頷いて返事をする。

アブソルは音が鳴らないよう小さく首を下に向け、視線を右下の方へ向ける。きっと、その辺りから何者かが姿を現すと踏んでいるのだろう、アブソルはすぐに対応できるよう呼吸を整えた。

ミミロップはアブソルの視線の先を気にしつつも、反対側を警戒する。そもそも、相手が一匹であるとは限らない。

アブソル「…………」

ミミロップ「…………」

その状態のまま、数分が経過する。

あれから物音は聞こえてこない。木の裏に感じた気配も、いつの間にやらすっかり消えてしまっている。

だが、油断はできない。気配を感じないのは、相手が気配を消したからかもしれない。ここで地面へ降りたなら、その瞬間に襲われてしまうかもしれない。

たらりと汗が額から頬に流れてくる。

しかし、それをぬぐう事さえ今はできない。少しでも手を動かしてしまえば、その拍子に何かにぶつけて音を立ててしまうかもしれない。なので、頬がむずむずするこの感覚はなんとか耐えるしかない。

ほんの数分が何時間にも感じられる。これほどまでに緊張した時間を過ごすのは、いつ以来だろう。そんな事が頭の中を過ぎって、すぐに消えた。
 ▼ 636 ヤシガメ@Zリング 18/09/03 00:59:36 ID:U0oM.WKk [5/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「……もう何もいないみたいね」

状況に区切りをつけるため、アブソルが小さなため息と共に緊張を吐き出した。

ミミロップ「なんだったのかしら。近くまで来てたわよね」

ミミロップは汗が通った頬の辺りをカリカリとかき、顔をしかめてむずむずと鼻を動かしている。

アブソル「すぐ後ろまで来てたような気がする……けど、いつの間にかいなくなってたわ」

ミミロップ「急に気配消えたしね。もしかして、ゴーストタイプだったのかな?」

アブソル「それなら木を貫通してくると思うわ。でも、そういう感じも無かった」

よくわからない状況。相手は、何か生物がいると気づいて近づいたはいいがミミロップ達を見つけるには至らなかったと、そういう事なのだろうか。

ミミロップ「何にしても、いきなり来たわね……」

ぐっと両手を上に突き出し、身体を伸ばす。

何が相手となっていたかはわからないが、場合によっては出会いそれすなわち死を意味する、といった事も充分ありえる。昼間に見た、無残に引き裂かれたポケモンのように自分がなってしまうかもしれない。

アブソル「でも、よく気づいてくれたわね。助かったわ」

ミミロップ「いやいや、アブソル自分で起きてきたじゃない」

アブソル「実は、何となくミミロップが上まであがってきたのを感じてたの」

ミミロップ「あら。結果オーライとはいえ、ごめんなさいね」

アブソルは気配を感じ取る事に関して得意のようだ。耳の良いミミロップとあわせれば、辺りを警戒する際お互いにこれ以上無く頼れる相手かもしれない。

アブソル「起きちゃったし、交代する?」

ミミロップ「まだはやいと思うけど。たぶん一時間くらいしか経ってないわよ」

アブソル「でも、今ので目が覚めちゃったわ」
 ▼ 637 ャース@Zパワーリング 18/09/03 01:00:21 ID:U0oM.WKk [6/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


結局、アブソルと見張りを交代することにして、ミミロップはそのまま眠る事にした。

アブソルが地面に降りたのを確認し、うろの中で横になるミミロップ。夜は気温が下がり吹き付ける風は少し冷たく感じるが、うろの中まで風が訪ねて来る事はほとんどなく、眠るのに丁度良い暖かさを保っていた。

ミミロップ「(私達、助かるのかしら……)」

睡魔は襲ってくるが、とても眠る気にはなれない。

これまで野生環境で生きてきたとはいえ、群れの中でしか彼女は生活した事が無い。このように、どことも知らない地に放り出され、何ともわからない外敵に怯えなければならないような状況は初めてだ。

いくら性格が意地っ張りで強気でも、本音を言えば不安を強く感じている。頭ではしっかりしなければとわかっていても、いつ死んでしまってもおかしくないこの状況に、どうしても手足が震えてしまうのだ。

ミミロップ「(私にも、信頼できる心強いパートナーでもいたらなぁ……)」

なんとなく、群れの中にいたニドラン夫婦を思い出し、小さくため息を吐く。

まだ彼女は信頼できるような♂との出会いが無く、心傾くような相手を見かけてさえいない。情熱的なアプローチを仕掛けられた事は何度もあったが、毎度毎度丁重にお断りしてきた。誰だって、好みでない相手と結ばれようなどとは思わない。

しかし、群れの中にいれば、近くを歩くポケモンに「ツレ」が出来ていくのを見る事は珍しい話ではない。実際、はぐれてしまった群れでは、ミミロップの知る限りでも多くのカップルが結ばれては群れを離れていった。

実際ミミロップは数年後運命的な出会いを果たすわけだが、この当時はそのような出来事が自分に起きるなど夢にも思っていない。ただただ、周りが羨ましいようなそうでないような、複雑な気分だった。

ミミロップ「(はぁ……寝よ)」

つまらない事に時間を浪費してしまった。ミミロップは再び小さくため息を吐き、寝返りをうった。

目を閉じる前に、なんとなくアブソルの様子を眺めてみる。

アブソルは律儀にも姿勢を正して周囲を注意深く観察しており、風で木の葉が揺れる音にさえ小さいながらも反応を見せては息を吐いていた。

やはり、彼女は信用に値するポケモンなのだろう。少なくとも、自分を襲うような存在ではない。ミミロップはアブソルに疑いの目を向け続けていた事を反省し、静かに瞼を閉じた。
 ▼ 638 シデ@ソクノのみ 18/09/05 01:30:51 ID:vYOYu3.k [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

――――――
――――
――

ミミロップ「……ちょっと休憩挟むわね」

ルカリオ「うん……」

小さく息を吐くミミロップ。その肩を抱き寄せてみれば、彼女は少し震えていた。

ルカリオ「でも……ミミロップちゃん、そんな経験してたんだね。全く知らなかった」

ミミロップ「まぁ、話してないからね……前にも言ってたように、誰にも話さず墓まで持っていくつもりだったし」

ミミロップは、困窮した経験も死を間近に感じた経験もした事が無いと言っていた。

何故、彼女は過去について何も話さなかったのだろう。単に「話す必要が無かったから」というわけではなさそうだ。

ルカリオ「ミミロップちゃん……」

ミミロップ「ん……」

ルカリオは彼女の頭をひと撫でし、肩を抱き寄せる手に力を込めた。

ルカリオ「(通りで肝っ玉強いわけだよ)」

単に気が強いというだけでなくそういった経験があるというのなら、これまでの彼女の言動に納得がいく。

ルカリオは彼女が過去を話さなかったことについて、落胆する様子も無ければ、彼女を責めようともしない。ただただ、彼女の悲痛であろう経験に胸を痛め、少しでも彼女の支えになろうとその身を抱きしめるばかりだ。

ミミロップ「それで……夜が明けて、私達はまた歩き出したの」

再び、彼女の話が始まる。

ルカリオは彼女を抱いたまま、静かに耳を傾けた。
 ▼ 639 ガガルーラ@ライトストーン 18/09/05 01:31:12 ID:vYOYu3.k [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




明け方の森は鬱蒼としていてお世辞にも美しい光景とはいえない有様だった。

夜中に吹き付けていた風も凪いでおり、辺りからは何の生物の声も聞こえない。それどころか、草をかきわける音も、大空へ羽ばたく音も、何一つとして聞こえてこない。ミミロップの耳に入らないのだ、少なくともこの周辺に動くものは何も存在しない事がわかる。

アブソルも、この森の様子に強い違和感を覚えているのだろう、険しい表情を浮かべながら辺りを注意深く観察している。

アブソル「……不気味ね」

ミミロップ「本当に。なんで何もいないのかしら」

ただ、この状況に何とも言い難い気持ち悪さがこみ上げてはくるものの、見方を変えれば、先を急ぐには悪くない状況とも言える。

他に何もいないのであれば、道中何らかの脅威と出会う事も無いだろう。二匹は、危なげなく森を歩いて行く事ができる。

ミミロップ「昨日いた何かは、遠くに行っちゃったのかしら」

アブソル「何の気配もしないところをみると、そうだと思うわ。音も聞こえないのでしょう?」

ミミロップ「うん。気になる音どころか、今は風も吹いてないから、私達の足音しか聞こえない」

アブソル「やっぱり、人間が管理している森なのかしら……」

ミミロップ「どっちにしたって襲われる心配しなくていいならそれに越した事は……あら?」

アブソル「どうし……あれは」

足早に歩いていた二匹はあるものを見つけ、足を止める。

アブソル「とうとう、あったわね……人工物」

二匹が視線を向ける先、そこには五十センチほどの高さの柵があった。木でできたもののようで、特に仕掛けが施してあるようには見えない。

よく見れば、柵は森を区切っているわけではなく、直径十メートルほどの草原地帯をぐるりと取り囲んでいた。
 ▼ 640 リンリキ@とうめいなスズ 18/09/05 01:31:33 ID:vYOYu3.k [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミロップ「柵の中に何かいるわけでもなさそうね……これ、何のためにあるのかしら?」

アブソル「さあ……電流が流れてるわけでもなさそうだし、機械的なものが仕掛けてあるようにも見えないわね……」

更に言えば、取り囲っている草原地帯にも何かがあるようには見えない。そこには何の生物もおらず、何か物が置かれているわけでもなさそうだ。

また、草原といっても柵に取り囲まれたそこにはほんの数センチ程度の草しか生えておらず、所々に地面が見えている。一見して、特に柵で取り囲う意味があるようには思えない場所だ。

アブソル「……待って。だけどここ、におうわね」

ミミロップ「におうって、何が?」

アブソル「これは……血と、なにかしら……」

近づいて見てみれば、所々が黒ずんでいるとわかる。きっとそれらは乾いた血なのだろう、アブソルは顔をしかめ目を細めている。

ミミロップは聴覚こそ優れているものの、嗅覚については並程度のものしか持ち合わせていない。近づけば血のような臭いがするとわかっても、アブソルのように敏感にそれらを感じ取る事はできない。

アブソルは、血以外の何かの臭いもすると言っている。ただ彼女の表情から察するに、血と同じくあまり良いものの臭いとは思えないのだろう。

アブソル「ここで何かがあった事は確かね。でも、相変わらず何の気配もしないけど……」

ミミロップ「でも、臭いが残ってるって事は、そんなに時間経ってないって事よね……?」

アブソル「どうかしらね。草や地面にしみこんでいれば、ある程度は残るから……それでも、最大でも数日前ではあると思う」

ミミロップ「血が出るって、つまりそういう事よね……」

ここで何が起きていたのか、想像は難しくない。ただひとつ不可解なのは、血肉はともかく、骨さえ残されていないこと。それを不審に思っているのか、アブソルは注意深く柵で囲まれた草原地帯を観察している。

しかし、何の手がかりも得られないのだろう、程なくして彼女は息を吐いて小さく首を横に振った。

アブソル「……何にしても、ここに立ち入る理由はないわ。迂回して行きましょう」

無闇に中へ入って罠にでもかかったらたまったものではない。アブソルはこれ以上の観察を諦め、柵に沿ってゆっくり歩き始めた。
 ▼ 641 ルンゲル@よごれたハンカチ 18/09/05 18:09:17 ID:eus6TGxM NGネーム登録 NGID登録 報告
シエンネ
 ▼ 642 ルリア@アブソルナイト 18/09/05 21:06:57 ID:3QHwlmok NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
やっと追いついた
単純におもしろい
 ▼ 643 ロピウス@ラティオスナイト 18/09/07 06:15:08 ID:aB9kQLYY NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 644 バコイル@たいりょくのハネ 18/09/08 01:05:13 ID:FQS2rPqw [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




人工物が見つかったことで、この森に対する見方も変わってくる。何と言う事もないただの森であることを期待していたが、いくらかは人の手が入っている事がわかってしまった。

柵というものの性質から言っても、人間が管理を行っている土地である可能性が高い。この事実に、二匹は不安を更に募らせる。

しかし、森の様子ばかり気にしているわけにもいかない。これまで以上に周囲を警戒しながら森を歩く二匹に、避けては通れない深刻な問題が襲い掛かる。

ミミロップ「……おなかすいた」

アブソル「……そうね」

可愛らしいおなかをきゅるきゅると鳴らすミミロップ。アブソルも、腹の音こそ聞こえてこないものの、空腹に苛立ちを募らせ始めていた。

ミミロップが森で目を覚ましてから既に半日以上が経過している。普段であれば採取した木の実を食べて腹を満たしていた夜も、この状況では何も口にできず、唾を飲み込む事で空腹を紛らわせる状態が続いていた。

ウサギは草食ではあるが、口にする事で中毒を引き起こしてしまうものも多い。タンポポやクローバーなどを好んで食べる一方、ワラビやクサノオウといった野草は禁物なのだ。

果たしてこの森にそのような野草が存在するかといえば、幸か不幸か食料になりそうなものも中毒を引き起こしそうなものも見当たらない。目にするのは、毒となるか食料となるか食べてみなければわからないような、名前も知らない野草ばかり。

この状況、もし中毒症状を引き起こすものを食べてしまえば、助かる見込みは無いかもしれない。それも、体調を著しく崩してそのまま死に至る可能性もある。食べられるかどうかわからないものを口にするには、そういった覚悟をしなければならない。だがこの時の彼女には、その覚悟も中毒への耐性もほとんど無かった。

アブソル「だけど……この辺りには、木の実がないわ」

足を止め、ぐるりと辺りを見回すアブソル。ミミロップも同じようにあちらこちら眺めてみるも、実の生っていそうな木はどこにも生えていない。

いつ外へ出られるかもわからないこの状況、外敵から身を守る事だけでなく、飢えを凌いでいく事も考えていかなければならない。

しかし、状況は全くもって優しくない。この森に、彼女達が口にしても大丈夫と断定できるようなものは全く見当たらない。

アブソル「どこか、実の生る木の方へ行かないといけないわね……」

ミミロップ「でもそれって、今歩いてる方向からそれたりしない?」

アブソル「わからないわ……けど、周りの木を見るに、少なくともこの辺りは食べられるものを見つけられそうにないわね」

ミミロップ「そんな……」
 ▼ 645 ンドパン@ぼうごパット 18/09/08 01:06:05 ID:FQS2rPqw [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
仮に今自分達が向かっている方向に出口があったとしても、そこへ辿り着くまで空腹を我慢できるかはわからない。特にミミロップのようなポケモンは定期的に食事を採らなければ腸内活動が弱まり、数日のうちに死に至ってしまう。

幸い彼女はミミロップ種の中でも身体が強い個体ではあるが、それでも二日程度が限度だろう。そう思えば、そろそろ何かを口に入れておきたいところである。

アブソル「生えてる木の見た目から考えれば、あっちの方になら何か実の生る木があるかもしれないわ」

アブソルの指す先は、今ミミロップ達が歩いて向かっている方角とは違っていた。彼女の指し示す方へと向かうなら、正面を右の方へそれていく事になる。

ミミロップ「元々どこへ向かってるかもわからないし、そっち行きましょ」

アブソル「そうね。出来るだけ助かる確率の高い動きをしないといけないし」

どこが出口かも、そこへ辿り着くのにどれくらいの時間がかかるかも、彼女達にはわからない。もし何日もかかるような道のりを歩いているとしたら、食べられない事それすなわち生きて外に出られない事を意味する。

そうでなくとも空腹は集中力の欠如を招き、正常な思考を狂わせてしまう。もしそんな状態で何かに襲われてしまえば、満足に走ることさえできず殺されてしまうかもしれない。

最悪は、周囲に茂っている草木の葉を食べるしかない。餓死するならば一か八かに賭ける方を選ぶつもりだが、今はまだその時ではないと彼女達は腹に力を込めた。

ミミロップ「クローバーでも生えてればなぁ……」

アブソル「クローバーって、シロツメクサ? あれを食べるの?」

ミミロップ「うん。割と美味しいわよ」

アブソル「そう……あまり想像もつかないわ」

アブソルは不思議そうな表情を浮かべ、視線を少し上に向けている。決してミミロップを馬鹿にしているわけではなく、単に自分がそれを食べる所が想像できないのだろう。

ミミロップ「アブソルは、肉食なの?」

アブソル「牧草なら食べるわ。でも、クローバーは、ううん、ちょっと、わからないわ……」

アブソルは、失った記憶の中にもしかしたら食べた経験があるかもしれないという思いからか、言葉の最後を濁して話した。

仮に食べた事があったとしても、その味も食感も覚えていない。ミミロップの言葉に是非食べてみたいという思いがこみ上げてくるが、残念な事にこの森ではまだシロツメクサの姿を見かけない。
 ▼ 646 ンジャラ@イーブイZ 18/09/08 01:06:53 ID:FQS2rPqw [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「……ねえ、ハクタイ、だったかしら。そこって、あったかいの? 寒いの?」

失っている記憶を引き出そうとするのは辛いからか、アブソルは話題を変えた。

ミミロップ「寒いわね。すぐ北に豪雪地帯があるし」

アブソル「雪が降るの?」

ミミロップ「それはもう、物凄い降るわよ」

アブソル「そうなの……雪、かぁ」

アブソルは空を見上げてぽつりと呟いた。心なしか、彼女を取り巻く雰囲気が少し和らいだ気がした。

ミミロップ「アブソルの住んでる所はあったかいの? えっと、ひまわき?」

アブソル「ヒワマキ、ね」

間違えられる事が多いのだろうか、アブソルは念を押すように訂正を入れた。

アブソル「ヒワマキの辺りはずっと温暖な気候ね。冬になると寒くはなるけど、雪なんて滅多に見ない……ううん、私は一度も見た事がないわ」

ミミロップ「そっちはあったかいのかぁ。ずっと寒いところに住んでるから、なんだか羨ましいわ」

アブソル「ふふ、それは私も同じ。あったかいって言うと聞こえはいいけど、湿度も高めだし、夏なんて地獄よ。私こそ、ミミロップが羨ましいわ」

記憶があまり無いといってもここ一年程度の事は覚えているのだろう、彼女は自分の住んでいる辺りについてどこか楽しそうに話をする。

あまり遠出などする事がないのだろうか、アブソルはミミロップの話に随分と興味を示していた。

アブソル「それに……暑くても何も無いけど、寒いと雪が降るじゃない」

ミミロップ「まぁ、それが嫌だったりするけどね」

アブソル「そうなの? でも、私にしてみれば、なんだか不思議。だって、雪って真っ白でふわふわで冷たくて、触ると解けて消えちゃうんでしょ? 信じられない。とっても神秘的だわ」

ミミロップ「うーん、それは幻想かなー」

現実を知るものと知らないものの間でよく起きる、理解や認知の乖離。他愛ない会話ではあるが、こうも一つの物事に対して見解が違う様子は、当事者として感じていても面白いものだ。
 ▼ 647 ーブル@ダートじてんしゃ 18/09/08 01:07:44 ID:FQS2rPqw [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「ねえ、ひとつお願いしてもいいかしら」

ミミロップ「え、急にどうしたの?」

お願い、などと思ってもみない言葉に思わずミミロップは歩みを止め、素っ頓狂な返事をしてしまう。

アブソル「大層な話じゃないんだけど、その……」

アブソルも足を止め、振り返る。だが彼女は俯いていて、少し言葉を詰まらせている。

アブソル「生きてここを出る事ができたなら、その時は……」

アブソル「私に雪を、見せてくれない?」

彼女にしてみれば、随分と勇気を出した発言だったのだろう。それを言うアブソルの頬は少し赤みがかっていた。

ミミロップ「それは別にかまわないというか、私が降らせてるわけじゃないというか……シンオウに来るって事?」

アブソル「あ、ハクタイってシンオウなんだ」

ミミロップ「そうよ」

アブソル「じゃあ、そこに私を連れて行ってくれないかしら」

ミミロップ「勿論いいわよ。でも、わざわざ寒いところに来るなんて、物好きねぇ」

アブソル「とても興味があるから」

アブソルは心底嬉しそうな顔をして、安堵の息を吐く。こんなお願いでも、断られたらどうしようと心配していたようだった。

そんな彼女を見て、ミミロップは認識を改める。

ミミロップ「(どこか冷たいポケモンなのかなって思ってたけど……こんな表情もするのね)」

ミミロップから見れば冷静でどこかばっさりしたタイプのポケモンのように映っていたアブソルだが、何という事もない、アブソルも内心は不安で仕方なかったようだ。

こんな他愛ないやり取りにさえ、心落ち着かせ表情を緩ませる。ミミロップは誤解していた事を反省した。
 ▼ 648 シャマリ@ていこうのハネ 18/09/08 23:14:30 ID:vyS63Szc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
このスレももう3ヶ月か…
シエンネ
 ▼ 649 ッコラー@くさのジュエル 18/09/09 14:06:52 ID:EphYQnyc NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 650 ラティナ@せいしんのハネ 18/09/11 01:17:40 ID:SkMISLiw [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ちょっとした会話でもお互い元気付けられたようで、二匹の足取りは先ほどまでに比べて格段に軽やかになっていた。

話をする事で、それぞれが感じていた相手との溝もある程度埋めることができたのだろう。人間もポケモンも、コミュニケーションを取る事でお互いを理解し合えるのだ。

当たり前の事、だけど中々簡単にはできない事。その関門を一つ乗り越えた事で、ミミロップとアブソルの距離はぐっと縮まっていった。

アブソル「……あれは、何かしら」

ミミロップ「あれって?」

暫く調子よく歩いていた二匹だが、アブソルが何かを見つけた事で歩みが止まる。

彼女の視線の先、そこは岩場になっている場所だった。

ミミロップ「岩場が、どうかしたの? 気になる事でもある?」

アブソル「ううん、そこじゃなくて……」

よく見れば、アブソルは岩場の方を向いてはいるが、正確にはその手前の地面を見つめていた。

何があるのだろうとミミロップは目を凝らす。

ミミロップ「……何か落ちてる?」

アブソル「みたいね。自然のものじゃないような気がするわ」

周囲を見回しつつ、慎重に近づいていく。柵という人工物が既に見つかっている以上、罠が仕掛けられている可能性も充分考えられる。

もしかしたら、落ちているものに近づいた瞬間網を投げられるかもしれない。もしかしたら、そこへ辿り着く前に落とし穴にはまるかもしれない。もしかしたら、次の瞬間には何かに襲われるかもしれない。

様々な可能性を考えながら、二匹は落ちているそれのもとまで歩いた。

ミミロップ「これ……なに?」

アブソル「白い珠、かしら……」

しかし幸いにも、二匹がそこへ辿り着いて落ちているものを眺めても何かが起きる様子は無い。罠も無ければ何かの気配もしない、本当にただ何かがそこに落ちているだけのようだ。
 ▼ 651 マナッツ@キーのみ 18/09/11 01:18:00 ID:SkMISLiw [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこに落ちていたのは、丸くて白い玉だった。玉と言っても綺麗な球体ではなく所々歪になっている部分があり、そのおかげで転がらず一点に留まっていられるようだ。

大きさは大体人間の拳一つ分程度と、それなりのサイズを誇っている。見るからに、自然の中でできたものとは思えない代物。

ミミロップ「ボールみたいな?」

アブソル「でもこれ、柔らかそうよ」

ミミロップ「木の棒でつついてみようかしら」

アブソル「気をつけてね」

ミミロップは手近に落ちていた枝を用意し、白い玉に向ける。念のためアブソルは少し下がり、何が起きても対応できるよう戦闘態勢を整えた。

ミミロップ「……崩れるわ、これ。それに……なんだろ、甘い匂いがする」

アブソル「甘い、匂い……」

ミミロップが枝を動かすたびに幾つもの欠片が地面に転がり、匂いを放つ。崩れた玉本体を見ても中まで真っ白で、何かが仕込まれている様子は無い。

ミミロップ「ねえ……これ、もしかして、食べ物って事はない?」

甘い香りに空腹を思い出してしまったミミロップは、こみ上げる涎をごくりと飲み込んだ。

アブソル「だめ、待って……うう、どうして、頭が痛い……」

ミミロップ「えっ? ちょ、ど、どうしたの? 大丈夫?」

しかし、アブソルはそれどころではないようだった。顔をしかめ、前足を折り地に伏してしまっている。迫り来る痛みを必死に耐えているようだ。

甘い匂いが苦手なのだろうか、そう思ったミミロップは口内にたまってきた唾液を一気に飲み込み、アブソルを抱えて離れた茂みまで歩いた。
 ▼ 652 イティオ@イーブイZ 18/09/11 01:18:27 ID:SkMISLiw [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミロップ「大丈夫?」

アブソル「ええ、ちょっと、マシになったわ……」

ふぅふぅと辛そうに呼吸を繰り返すアブソル。彼女を地面に降ろすと、そのまま崩れるように倒れてしまった。

アブソル「ご、ごめんなさい、なんだか、頭が痛むの……何か、思い出そうとしてるのかも……」

ミミロップ「えぇ? 思い出すって、昔の事?」

アブソル「わから、ないわ……とにかく頭が変な感じなの……」

こんな時に、記憶が蘇ろうとしているのだろうか。アブソルは額に汗をびっしり浮かべ、とても苦しそうに顔を歪ませている。

だがミミロップにはどうする事もできず、ただただ心配を募らせるばかりだ。

アブソル「…………」

しかし、そんな状況もそう長くは続かなかった。やがてアブソルは荒い息を整えきり、完全に落ち着いた頃ゆっくりと瞼を開いた。

ミミロップ「大丈夫?」

アブソル「ええ、なんとか……」

ミミロップの言葉に小さく笑顔を見せ、立ち上がる。その際少しだけ身体がふらついたが、ミミロップが支えるよりはやく、彼女は体勢を整えて見せた。

アブソル「……断片的にだけど、何かを思い出したの」

ミミロップ「何かを? やっぱり記憶が蘇ってたのね?」

アブソルの身に何があったのか回復直後に尋ねるのは酷だろうと思っていたが、それについてアブソルの方から話を始めてくれた。

もう頭痛は治まったのだろう、ミミロップを見る彼女の目つきはとてもしっかりとしていた。
 ▼ 653 ヤシガメ@どくのジュエル 18/09/11 01:18:45 ID:SkMISLiw [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「こんなことを言うと、信じてもらえないかもしれない……けど、さっきの、白い玉について思い出したみたいなの」

ミミロップ「えっ?」

彼女の言葉に、思わず聞き返すミミロップ。何かを思い出したというのだからてっきり過去を思い出したのかと思っていたが、そうではないらしい。

アブソル「あの玉は……食べたらダメ」

ミミロップ「……食べ物じゃないって事?」

アブソル「そうじゃないけど……毒物みたいなもので、食べると、身体に変化が……」

???「あー!」

アブソル「!?」

ミミロップ「!!」

突然後方から誰かの大声が聞こえた。

アブソルの話に集中していたミミロップは完全に周囲に対する警戒がおろそかになっており、すぐ近くまで誰かが近づいてきている事に全く気がつかなかった。

それはアブソルも同じようで、すぐさま表情を厳しく一転させ、姿勢を低くして声の聞こえた方を睨みつける。

ミミロップ「敵……?」

アブソル「わからない。罠かもしれない」

これまで、自分達以外の何者かが生息している形跡こそ見てきたものの、実際にその姿を目にする事はなかった。それだけに、こうもあからさまに存在をアピールされたのでは余計に警戒心も強まるというもの。

二匹は声のした方へ近寄る事はせず、じっと茂みの陰に隠れて相手の出方を窺うことにした。
 ▼ 654 ーランド@ライブスーツ 18/09/11 01:19:02 ID:SkMISLiw [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
???「ここにも転がってたか。回収しておこう」

暫く身を潜めていると、再び同じ方向から声が聞こえてくる。

だが、次に聞こえてきた声は最初に叫び声をあげた者とは違うポケモンのもののようだった。

アブソル「茂みの隙間から様子が見えるわ。あれは……グラエナと、エネコロロね」

ミミロップ「グラエナとエネコロロ?」

ミミロップも茂みの陰から相手の様子を窺ってみる。そこにいたのは、当時のミミロップがほとんど知らなかったポケモン達だった。

グラエナとエネコロロは地面に落ちている白い玉を見て何かを話している。持ち帰るだの今食べるだの、白い玉をどうするか考えているようだ。

ミミロップ「……食べようとしてるけど」

アブソル「でも、あれは……あっ」

言いかけて、息を呑む。

急にグラエナがこちらの方に視線を向けてきたのだ。

ここに潜んでいる事がバレてしまったのだろうか。グラエナはこちらをじっと見つめたまま動こうとしない。二匹も、見つかっていない可能性がある以上、ヘタに動く事ができない。

そのまま暫くグラエナはミミロップ達が隠れている茂みを見つめていたが、エネコロロがグラエナの身体を前足でつついた事で、彼はミミロップ達に背を向ける。

なんとか見つからずに済んだかと、二匹は心の中でため息を着いた。

だが……

エネコロロ「そこに誰かいるの?」

緊張を緩めかけた二匹は、再び全身を強張らせることになった。

音をたてないよう隙間から様子を窺ってみれば、今度はエネコロロがミミロップ達の隠れている方をじっと見つめていた。
 ▼ 655 シレーヌ@しんかいのウロコ 18/09/11 01:19:25 ID:SkMISLiw [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
グラエナ「おい、やっぱりまずいって。敵だったらどうするんだよ」

エネコロロ「でも、でも、味方かもしれないよ? 仲間だったら、もっと心強くなるもん!」

グラエナ「そんなに甘いもんかね……」

グラエナが少しずつ緊張感を身に纏わせているのが気配でわかる。対して、エネコロロはそんなグラエナの身体を前足でちょいちょいと叩き、暢気にうーうー唸っている。

どうにも、敵には見えない。

彼らの会話から考えれば、もしかしたら同じ境遇のポケモンなのかもしれない。そう思ってアブソルを見ると、彼女も同じ事を思ったのか、アブソルとちょうど視線がかち合った。

エネコロロ「警戒してるのかな……それとも気のせい?」

グラエナ「わからん。さっきは気配がした気がしたんだけど、今は全くしないしな」

エネコロロ「うーんそういうの私にはわかんないや。ねえ、行ってみない?」

グラエナ「お前はどうしてそうも緊張感が無いんだ。オノノクスだったらどうするんだよ」

エネコロロ「あんな所に、あんなおっきいポケモンいるかなぁ?」

彼らの会話の中に、ポケモンの名前が出てきた。

もしかしたら、木を薙ぎ倒したり爪痕を残したりしているポケモンのことを言っているのかもしれない。ただ、やはりこの当時のミミロップはオノノクスと聞いてピンとくるものが無く「そんなやついるんだ」くらいの認識だったが、そのポケモンのことを知っているのだろう、アブソルはさらに表情を強張らせていた。

グラエナ「ん、また気配がするぞ。でも、確かにこれはオノノクスの気配じゃないな」

オノノクスと聞いて緊張を増してしまったせいだろう、アブソルの気配がグラエナに感じ取られてしまった。しまったとばかりに気配を消しにかかるが、もう遅い。なんとか気を落ち着ける頃には、グラエナとエネコロロは茂みのすぐ近くまで歩いてきていた。

こうなっては仕方が無い。アブソルはミミロップに目配せをし、ぐっと姿勢を低くした。
 ▼ 656 リデプス@マッハじてんしゃ 18/09/11 01:19:48 ID:SkMISLiw [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「ふっ!!」

グラエナ「な、なんだ!?」

エネコロロ「ひゃう!?」

一瞬の出来事。

グラエナとエネコロロが茂みの前に立ちまさにその奥を覗き込もうとした刹那、アブソルは茂みから飛び出しエネコロロの背後を取って彼女を地面に押さえつけた。エネコロロは抵抗する間も無く地面に転がされ、頭を踏まれ地面とキスをする。

突然のこの事態に、グラエナはただぽかんとアブソルの動きを眺める事しかできなかった。

ただそれはミミロップも同じようなもので、彼女がここまで相手を圧倒するとは思っておらず驚いた顔をしてアブソルを見ている。

アブソル「動かないで。動いたら、わかるわよね?」

ミミロップ「……マジ?」

そして、とても怖ろしい事を言う。

エネコロロはただアブソルにされるがままで、とても状況を覆せそうに無い。急な出来事に気が動転しているのか、足をばたつかせる素振りさえ見せないでいる。

いわば、無抵抗状態。そんなエネコロロを、アブソルは容赦なく踏みつけている。

この状況にはグラエナも手が出せないらしく、歯を噛み締めてアブソルを威嚇するに留まっていた。

グラエナ「やっぱり敵だったか……くそ、小型のポケモンまで敵に回るってのかよ」

アブソル「……それは、どういう意味?」

グラエナ「なんだよ今度は……どうもこうも、お前達が俺達をハメたんだろうが。こんなところ連れてきやがって、一体何が目的だ!」

今にも飛びかかろうという勢いでグラエナが吼える。アブソルは彼の威嚇をものともしていないようだが、彼の言葉には反応を見せ、怪訝な表情を浮かべ始めた。

ミミロップ「ねえ、やっぱりこれ……」

アブソル「……そうね」

ここまでくれば、もうわかる。やはり、彼らも同じ境遇のポケモンらしい。
 ▼ 657 ロア@パワーレンズ 18/09/11 01:20:15 ID:SkMISLiw [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「……あなたも、エネコロロもこの森に連れてこられたの?」

グラエナ「お前達がそうしたんだろうが。ロクな人間のポケモンじゃねぇな!」

ミミロップは黙って視線で話しかける。アブソルはそれに対して、小さく頷いて答えた。

ミミロップ「待って。その話が本当なら……私達は、敵じゃないわ」

グラエナ「なんだって?」

アブソル「……私達も、同じなの」

グラエナ「なに? 同じっていうのは……」

ミミロップ「捕まって、この森に放り込まれたのよ。眠らされるとかしてね」

グラエナ「お前達も……? なら、同士なのか?」

同士、というと少し違うかもしれない。だが、細かい事はこの際どうでもいいとばかりに、アブソルは「そのようね」と大きく息を吐いた。

アブソルを威嚇していたグラエナの表情も次第に怪訝なものに変わっていき、最後には同じように大きく息を吐いてその場に座り込んでしまった。

グラエナ「なんだ……なら、よかった。俺達二匹じゃ、心細いところだったんだ……」

ミミロップ「私達以外にも、同じ境遇のポケモンがいるなんてね」

もしかしたら、まだまだそういったポケモンがこの森のどこかにいるのかもしれない。相変わらず彼女達をここへ連れてきた何者かの目的はわからないが、まだまだどこかに仲間がいると思うと、少しは気が楽になった。

エネコロロ「あ、あの、放してもらえると……」

アブソル「あら、ごめんなさい」

状況がひと段落した所で、ようやく開放されるエネコロロ。砂がいくらか口の中に入ってしまったのだろう、彼女は皆に背を向け、地面に何度も唾を吐いた。

仕方が無かったとはいえ、それを見て気の毒に思うミミロップだった。
 ▼ 658 ンムー@ぼうごパッド 18/09/12 01:08:39 ID:KRzwIoA. NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 659 イル@あかいくさり 18/09/12 22:40:04 ID:8pNc83mQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
続きはよ
 ▼ 660 マンタ@ジュカインナイト 18/09/13 06:49:14 ID:7kIEhdP. NGネーム登録 NGID登録 報告
>>659
せかさんでもええんやで
 ▼ 661 ガヤドラン@あかいいと 18/09/16 01:37:45 ID:b9yQf8nQ [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




お互いが敵では無いとわかり、それぞれが安堵の息を漏らす。

グラエナとエネコロロはミミロップ達が知らない情報を幾つか持っているようで、共に強力して森の外を目指すため、どこか陰になっている所で腰をすえて話をする事となった。

ミミロップ「雨ね……」

アブソル「間に合ってよかったわ。濡れると寒いし」

四匹が近くの岩場にできた大き目のくぼみに落ち着いた頃、それを見計らっていたように雨が降り出した。彼らの足取りを消してくれそうな、少し強い雨だった。

アブソル「それで、オノノクスがどうとか言ってたけど……」

グラエナ「あぁ……お互い、今後一番気をつけなきゃいけない話だな」

ふーっ、と長い息を吐き、グラエナは眉間にしわを寄せる。

グラエナ「……俺は、目が覚めたらこの森の中だった。散々彷徨って、エネコロロと会って、一緒に出口を探してた時だ」

グラエナ「お前達もそうだろうけど、腹減ったんだよ。我慢できないんだけど、どこにも獲物や木の実なんて見当たらない。歩けど歩けど見た事も無い植物ばっかりで、他の生物だっていやしない」

アブソル「同じね。まぁ、同じ場所にいるから当たり前だけど」

グラエナ「あぁ。でも、俺達は見つけたんだ。木の実の生ってる場所を」

ミミロップ「えっ、木の実あるんだ」

彼の話に、希望がわいてくる。

最悪このまま飢え死にする未来さえ脳裏にちらつき始めていたミミロップだが、彼の言う事が本当なら生きてここを出られる確率が高まるというもの。

だが、事態はそう易しいものではないらしい。

グラエナ「……そこに、あいつが、オノノクスがいたんだよ」

アブソル「そういうことなのね……」

きっと、グラエナたちは折角見つけた木の実を泣く泣く諦める事になってしまったのだろう。それを話す彼はギリギリと歯を鳴らし目を細めている。
 ▼ 662 ラマネロ@スペシャルガード 18/09/16 01:38:29 ID:b9yQf8nQ [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オノノクスといえば、ドラゴンの中でも比較的気性が穏やかとされるポケモンだ。ただ、縄張りを荒らす者には頑丈な牙で襲い掛かり、相手の身を引き裂いてしまう程の凶暴さを見せる。

今回おそらく、木の実のある辺りがオノノクスの縄張りとなっているのだろう。つまりは、腹を満たすならオノノクスの目を盗んで木の実を採ってくるか、オノノクスを倒してしまうしかない。話が通じる相手ならまだやりようはあるかもしれないが、グラエナの口ぶりからして説得は不可能と思われる。

アブソル「その場所は、ここから遠いの?」

グラエナ「まぁ待てよ。木の実の話も大事だが、実はもっと良いものを俺達は見つけたんだ」

そう言ってグラエナはエネコロロの方を見る。エネコロロは、自分の出番が来たとばかりにびしっと右前足を前に出し、反対の前足で何かを前に転がす。

ミミロップ「それ、さっき転がってた白い玉……」

グラエナ「ん、なんだお前達もこれ見つけてたのか。いいよなこれ。甘いし、おなかも膨れる」

エネコロロ「お菓子みたいよね。ふふ、私これだぁいすき」

表情を緩ませ白い玉を見るグラエナとエネコロロ。

ミミロップは困惑を隠しきれず、アブソルの方を見る。アブソルは、自分の記憶に自身がなくなってしまったのか、言葉もなく俯いてしまった。

グラエナ「どういうわけかこの玉、森のあちこちにあるみたいなんだ。おかげで飢える事は無いってもんよ」

ミミロップ「で、でもそれ、自然に出来たものじゃないでしょう? もしかしたら、人間が作ったのかも……」

グラエナ「仮にそうだとしても、こいつのおかげで俺達は死なずに済んでるんだ。身体に影響があるわけでもねぇしな」

グラエナはくるりと回って、自分の身が健康体である事をアピールする。だが直後にはやや挑戦的にミミロップを眺め、不適な笑みを浮かべる。

グラエナ「別に信じなくてもいいんだぜ。食い扶持が増えないなら、俺とこいつで腹を満たすだけだ」

そしてエネコロロから玉を奪い、四分の一程の大きさに割ってそれを口に入れた。

漂う甘い香り。グラエナは玉の欠片をしっかり味わうように口の中で転がし、腹が満たせる事の幸福とともに欠片を噛み締めた。

匂いに耐えかねたようで、エネコロロも白い玉にかぶりつく。彼女もまた、とても幸せそうに可愛らしい小さな口をもぐもぐと動かした。
 ▼ 663 ズマオウ@ニニクのみ 18/09/16 01:39:08 ID:b9yQf8nQ [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
断片的にでも思い出しかけた記憶が気がかりなのだろう、アブソルは食事をする二匹を見つめるばかりで玉に手を出そうとはしない。

ミミロップは、手を出したいのは山々なのだが、アブソルの言う事も無視できず彼女と玉を交互に見るばかりだ。

グラエナ「……一応、お前達のはここに残しておく。けど、朝までに食べなかったら、俺達の朝飯にするからな」

グラエナは半分になった白い玉を、来るときに持ってきていた大き目の葉に乗せてミミロップの前に持ってくる。

グラエナ「…………」

ミミロップ「……なに?」

グラエナ「あ、いや……」

ミミロップがどうするか見守っていたのだろうか、グラエナは玉を置いた後暫くミミロップのことをじっと見つめていた。

グラエナ「どの道この雨じゃ外を歩くのは大変だ。止むまで待とうと思うが、いいか?」

アブソル「……そうね。外に出られるようになったら、木の実の場所を教えて頂戴」

グラエナ「おうよ」

グラエナは腹が膨れて気分が良いのか、今までで一番陽気な声を出した。

エネコロロ「あっ、待ってよぅ」

そして、エネコロロと一緒に窪みの奥で眠る体勢を取る。

アブソル「……私達も休みましょう」

ミミロップ「そうね」

まだ聞きたいことはあるのだが、エネコロロに至ってはもう寝息を立て始めているのだから、仕方が無い。アブソルは「やれやれ」と小さく息を吐き、外の景色へ目を向ける。

ミミロップ「……寝ないの?」

アブソル「雨とはいえ、見張りが必要でしょう?」

ミミロップ「じゃあ私がするわ。結局昨日は私の方が長く寝てたし」

アブソル「そう? それじゃあお願いするわね」

表には出さないが、だいぶ疲れているのだろう。アブソルはすんなりとミミロップの申し出を受け入れ、彼女の近くに腰をおろした。
 ▼ 664 ルミーゼ@やみのいし 18/09/16 01:40:02 ID:b9yQf8nQ [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


雨が降り続いている。

強い雨とはいえ、視界を覆い尽くしてしまうような悪天候ではない。遠くの方までは見えないが、何者かが姿を現しても皆を起こして逃げ出す時間があるだろう程には、周囲の景色を見渡す事ができた。

ミミロップ「みんな、どうしてるかな……」

ぽつりと、声にするつもりのない言葉が口をついて出る。

彼女に、当時所属していた群れへの思い入れはほとんど無い。ただ、それでも寝食を共にしてきた者達だ、こうして時々思いを馳せることはある。

特に仲の良かった者がいたわけでもない、毎日話す相手がいたわけでもない。きっと、ミミロップがいなくなったからといって、探してくれる者などいないだろう。

それでも、ミミロップにとってその群れは「居場所」だった。

それぞれがお互いを利用しあっているだけの希薄な関係性しか持たない群れであっても、確かにそこはミミロップの「帰る場所」だった。

こうして遠く離れてしまえば、もうその群れを見つけるのは難しい。こうなってしまえば、ミミロップは帰る家を失った者と何も変わらない。

これが「寂しい」という感情なのかと、地を打つ雨の音を聞きながらミミロップは小さく息を吐いた。

ミミロップ「(じゃあ今の私にとって、ここが、アブソルたちのいるこの空間が、居場所……?)」

考えかけて、すぐに首を振る。

なんとなくだが、わかる。仮にこの四匹で森の外へ出られたとしても、その後行動を共にする事はないだろう。ただ、アブソルには雪を見せると約束した。彼女とは、もう少しだけ長い付き合いになるのかもしれない。

ミミロップ「(長い付き合い、ね……)」

生まれてこの方、ミミロップは特別仲の良い友人などを作った事が無かった。

いつ何が起きてしまうかわからない野生の群れの中で育った彼女には、今後どれ程の付き合いを続けられるかわからないような誰かとそういう関係になろうと思えなかった。

だが、そんなドライな関係を維持する群れの中からも、カップルとなって群れを離れる者達もいる。それを考えると、自分がこれからどうして行くべきなのか悩まずにはいられない。
 ▼ 665 ラベベ@こぶしのプレート 18/09/16 01:41:15 ID:b9yQf8nQ [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「…ぇ……っと…」

ミミロップ「えっ?」

ふと、どこかから声が聞こえた。

ぼんやり考え事に耽っていたミミロップははっと顔を上げ、耳をぴんと立てる。気配を消し、できるだけ動きを見せないように周囲を視線だけで探っていく。

エネコロロ「にゃはは、だめだよぉ、みんな、起きちゃうよ?」

声の主はエネコロロだった。

なんだ、と思い耳を下ろし両手で抱く。

寝言だろうか。そう思って振り向いたミミロップは、目に映った光景に言葉を失った。

エネコロロ「あっ、あんっ、んちゅ、こっ、こんな、ところでぇ……」

グラエナ「ぺろ、いいだろ、大丈夫だよ、暗くて見えないって、っく、ちゅ、ぺろ」

グラエナとエネコロロは起きていた。そして、じゃれあっていた。

だが、ミミロップにはわかった。そのじゃれあいは「大人のじゃれあい」である事が。

ミミロップ「(あ、あれって、えっち……してるの……?)」

確かに、グラエナの言う通り暗くて彼らの行為をはっきりと見る事は難しい。だが、荒い息にエネコロロの甘えた声と、聴覚からの情報だけでも彼らが何をしているかなど丸わかりだ。

アブソルを見る。彼女は、よほど疲れていたのか、すぐ近くで愛の営みが行われているというのに目を覚ます気配は無さそうだ。

ミミロップ「(ど、どうしよう)」

こういう時は、見て見ぬふりをするのが一番だろう。そう思うが、薄っすらと見える二匹の行為から目が離せないでいる。

二匹は暫くお互いをぺろぺろと舐めあっていたが、やがてグラエナはこれ以上待ち切れないといった風にエネコロロに覆いかぶさった。

犬も猫も、雄が雌に後ろから重なって交尾を行う事がほとんど。

猫の場合雄の性器に棘があるため雌にとって交尾は苦痛を伴うが、今回はグラエナが相手、挿入が行われてもエネコロロが痛がる様子は無い。

それでも性器のサイズなど犬と猫では様々違う筈だが、行為は今回が初めてではないのか、エネコロロから漏れるのは甘い蕩けた声ばかりだ。
 ▼ 666 ードル@アゴのカセキ 18/09/18 01:15:57 ID:uUFw/7Do NGネーム登録 NGID登録 報告
シエンネ
 ▼ 667 ダイトス@ヤドランナイト 18/09/20 01:14:19 ID:.lHoa/wg NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 668 ドリーノ@はかいのいでんし 18/10/06 01:50:35 ID:rVjU9WBY [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エネコロロ「あっ、あっ、ん、ふぅ、ふ、深いよぉ……あんっ、あんっ」

嬌声が聞こえる。

グラエナ「へへ、今日も具合良いじゃねぇか」

ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が響く。

ミミロップ「(うう、こんなの見せられたら……)」

流石にこれで股を濡らす程淫乱なミミロップではないが、彼らを見ていて行為の声を聞いていて、正常な気分を保つ事は難しい。

頬を紅く染め、無意識にも息を潜める。だが彼女の耳には、聞こえてくる喜悦の音色と同じほど、早鐘を打つ心臓の鼓動がうるさいくらいに響いていた。

胸が熱い。意識が蕩揺する。身体が、下半身が、股の奥が、あまり覚えの無い感覚を徐々に募らせていく。

この時のミミロップにとって性という概念はまだ知識程度のもので、実体験は勿論無く、行為を目にしたのもこれが初めてだ。暗くてよく見えないとはいえ、初めて目の当たりにした性行為に何ともいえない不思議な感覚を味わっている。

ミミロップ「!!!」

急に何かが彼女の足に触れた。

思わず声をあげそうになった所を、何とか我慢する。咄嗟に両手を口に当てる事ができたのは、まだ性の経験が浅かったおかげだろう。

ともあれ、一体何が彼女の足をなでたのか。ミミロップは恐る恐る感触のあった左足へ視線を送る。

アブソル「…………」

いつの間に起きていたのだろう、彼女に触れたのはアブソルだった。

目が合うと、アブソルは小さく首を横に振って見せた。

言葉にしなくても、彼女の意図はミミロップに伝わる。グラエナたちの行為を、見て見ぬふりをしろというのだ。
 ▼ 669 クタス@アブソルナイト 18/10/06 01:51:02 ID:rVjU9WBY [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミロップとしても、彼らの行為はできれば見なかった事にしてしまいたい。ただ、彼らから目を逸らしたとしても、意識をしないというのは難しい話だ。

欲情とまではいかないものの、ミミロップは彼らの行為を見て聞く事で複雑な感情を抱いてしまっている。早い話が、既に頭の中が悶々とし始めていてそう簡単に意識まで逸らす事ができないのだ。

だが、よく見ればそれはアブソルも同じようで、彼女も同じように顔を赤らめて大きく呼吸を繰り返している。

ミミロップ「(なんだ、私だけってわけじゃないんだ……)」

それがミミロップには何だかおかしくて、彼女には悪いがおかげで少々落ち着く事ができた。

ミミロップはアブソルの方に向き直り、彼女の前足に両手を重ねて頷く。

ミミロップ「…………」

アブソル「…………」

アブソルは話が通じて安心したのか、煩悩を追い払うように首を軽く振ると、地面に伏して目を閉じた。

なんとなく、そんな彼女を暫く眺めるミミロップ。

彼女も自分と同じなのだと思うことで、ますます親近感がわいてくる。最初は、突然現れて怪しいやつだとさえ思っていたが、今では信じてみてもいいかもしれないと感じ始めていた。

ミミロップ「(私は、どうしたいのかしら……)」

落ち着けた途端、考えていた事の続きが彼女の脳裏に蘇える。 

ここを無事に出られたとして、次はどこへ行けばいいのだろう? 群れからはぐれてしまった今、この森も森の外も自分にとっては特に何も変わらないのではないか?

居場所は無い、行く宛も無い。毎日飢えを凌ぎながら生きて、ただそれだけ。そんな自分の生涯に、どれ程の価値があるのだろう?

ミミロップ「(……雨が止んできたわね)」

答えなど出ない。出るはずもない。

そもそも、こんな事を考えた経験さえ今までほとんど無い。普段の自分なら「柄じゃない」と言って鼻で笑うだろう。

こんな事を考えてしまうくらい、自分は今追い詰められているのだろうか。実感が無い。無いからこそ、得体の知れない恐怖を感じる。

未来に対する漠然とした不安。一度気にしてしまえば、もう止まらない。

ミミロップ「(寂しい、って、いやだな……)」

どことも知らない森を眺める。雨はもう小降りになっていたが、まだ暫く止む事はなさそうだった。
 ▼ 670 マシュン@メンバーズカード 18/10/06 01:51:24 ID:rVjU9WBY [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




雨が上がり問題なく外を出歩けると判断できたのは、休眠を取り始めてから約四時間後のことだった。

真っ黒な雲に覆われていたせいで時間の感覚が失われていたが、彼らが別の地へと旅立っていくとすぐさま太陽が顔を覗かせる。

休眠前にグラエナが「朝までに食べなければ」と口にしていたが、休眠から目覚めるまでのところでという意味で話していたのだろう。何という事はない、実際にはまだ昼を少し過ぎた辺りだった。

グラエナ「ふわぁ……なんだか疲れたぜ」

エネコロロ「そうだねぇ……」

二匹して並んで欠伸をしている。ミミロップもアブソルも同じ事を考え目を細くしているが、気づいていないと思っているのかそもそも興味が無いのか、彼女達の視線に焦る様子は無い。

アブソルはそんな彼らに合わせようと思ってかそれ以上の反応は見せず、ぼんやりと森の向こうを眺め始めた。

ミミロップ「木の実のあるところはどっちなの?」

結局ミミロップもアブソルも例の白い玉を食べる事はなかった。いつまでも手をつけようとしない彼女達にため息を吐き、グラエナはエネコロロと玉を分け合った。

しかし、そろそろ身体も限界を迎える。空腹感は紛れる事があっても、体調ばかりはどうにもならない。食べなければ栄養は回らないし、そうなれば満足に身体を動かす事ができなくなってくる。

グラエナ「あっちの方だ。ちょっと歩く事になるけど、そう遠くはない」

アブソル「それはつまり、オノノクスの縄張りもここから近い、ということね」

グラエナ「あ、ま、まぁそうだけど……」

そこまで気が回らなかったのだろうか、グラエナはアブソルの言葉に焦りを見せた。

エネコロロ「色んな木の実が生ってたわ。モモンの実だってあったと思う」

ミミロップ「それは是非とも食べたいわね……」

想像しただけで涎が口内を満たしていく。

だが、それで腹は膨れない。ミミロップはたまった涎を一気に飲み込み、小さく息を吐いた。
 ▼ 671 ートロトム@フライングメモリ 18/10/06 01:51:45 ID:rVjU9WBY [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




グラエナ「……ここからは気配を消して、ゆっくり行くからな」

実の生る木がたくさんあるという辺りに向けて歩く一行。十五分程歩いたところで、先頭を歩いているグラエナが後ろを振り返った。

アブソル「とりあえず、まだ何の気配も感じないわ」

グラエナ「まだそういうのわかるほど近くじゃないってこった。あいつは気配を隠したりしないからな」

ミミロップ「オノノクスって、そんなに大きいの?」

グラエナ「いや……人間よりちょっと大きいってくらいだ」

それは何とも意外な話だった。エネコロロの口ぶりから、オノノクスは巨大なポケモンなのだと勘違いしていた。

アブソル「でも、油断できないわよ。私達から考えれば充分大きなポケモンだし、とにかく力がすごく強いから」

グラエナ「……お前、会ったことあるのか?」

アブソル「……無いと思うわ」

少なくとも今の記憶では、と彼女は口の中で自分にだけそう付け足した。

彼女の言葉を不審に思ったのだろうか、グラエナは少し怪訝な表情を浮かべる。だがすぐに前を向きそれから言葉も無く歩き始めた所を見ると、そこまで気にはならなかったのかもしれない。

エネコロロ「あのね、オノノクスが牙を振りかざしてきたら、逃げた方がいいよ」

アブソル「あいつの牙は鉄をも斬ると言われてるわね。咬むというより、牙で切断してる感じよね?」

エネコロロ「うん。逃げる時にちょっとだけ見たんだけど、大きな木がすっぱり切られたの」

ミミロップ「そんなにやばいの……」

想像しただけで身体が震え上がる。そんな威力を誇る牙だ、自分達にそれが向けられたら、攻撃が当たってしまったら……考えるだけで足が重くなる。

グラエナ「おい、そろそろ静かにしろ。縄張りに入る」

グラエナは立ち止まって鼻を利かせながら、注意深く周囲を見回し始める。

どうやら、オノノクスが幅を利かせる危険地帯に足を踏み入れたようだった。
 ▼ 672 フレシア@キーストーン 18/10/06 06:37:43 ID:YfjEaG1. NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 673 クフーン@かおるキノコ 18/10/10 01:54:24 ID:i65A57eA [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




再び、雨が降り出した。

幸いにも視界を覆いつくしてしまうような豪雨ではなかったが、彼らの可視範囲を制限するには充分だった。

グラエナ「ちっ……これじゃあいつどこで出くわすかわかんねぇ……」

歩みを止め、悪態をついてみせるグラエナ。

良くも悪くも、雨が降ればお互いに気配を感じ取る事が難しくなる。オノノクスは堂々と森の中を闊歩しているらしいが、もしも気配を隠し侵入者を仕留めようと狙っていたら……そう思うと、前に進む事さえ怖くなる。

アブソル「背の高い草に紛れて行きましょ」

ミミロップ「そうね。揺れるけど、この雨じゃほとんどわからないかも」

エネコロロ「うう、寒いよぅ……」

獣道から少しそれて歩く四匹。

足音も草を掻き分ける音も地を打つ雨が存在を潜ませてくれるが、それでも物音に気を遣わずにはいられない。

ミミロップ「…………」

ミミロップにとっては、群れで行動していた頃とあまり変わらない移動。大勢で拠点を移すとはいえ周囲に気を配りつつ行動する、これは野生として生きる以上普段から行っている当たり前の事。

だが、状況はその当時と比べて段違いに危うい。

なるべく敵がいないと思われる場所めがけて移動する群れに対して、今自分達は凶暴なポケモンの縄張りに進んで足を踏み入れている。いわば敵地に乗り込んでいくようなもの、緊張しないわけがない。

嫌な汗が額を、首元を流れていく。

野生の中で過ごしていれば毎日が死と隣り合わせだが、今回ほどまで緊張した事があっただろうか。自ら望んで死地へ赴くなど、想像する事があっただろうか。

ミミロップは全身を強張らせつつもできるだけ音を立てないようにと神経を最大限に尖らせ、大きく呼吸をしながらゆっくりと大地を踏みしめ歩いた。
 ▼ 674 モネギ@ロックカプセル 18/10/10 01:55:05 ID:i65A57eA [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
どれ程歩いただろうか、体感にして数キロは進んだように感じるも実際にはほんの数十メートル程度である。

だが、確実に目的地へ近づいている。雨が降り始めてから数十分後、やがてグラエナが歩みを止め草の隙間から奥を覗き込んだ。

グラエナ「見えるか? あれが木の実畑だ。雨のせいで見にくいけど、色んな木の実があるんだ」

彼の言葉に、それぞれ横に並んで隙間から様子を窺う。

視界に映ったのは、やや開けた地にぽつぽつと生えている実の生る木々。今四匹が隠れているような背の高い植物は周りに存在せず見通しが良いため、敵を見つけやすくもあり反対に見つかりやすくもある。

とりあえず、見渡した限りオノノクスの姿は無い。それでも気になって仕方が無いのだろう、アブソルは実の生る木を眺めることもせず、視線をあちらこちらに彷徨わせていた。

エネコロロ「うう、おなかすいた……ねえ、行っちゃだめかな?」

グラエナ「忘れたのか、ここへ初めて来たときオノノクスに襲われて死ぬ所だったのを。安易に出ていったりして、見つかったら今度こそ死ぬかもしれないんだぞ」

エネコロロ「そ、そうだけど……」

グラエナは鋭い目つきをしてエネコロロがいるであろう方を向く。当然その表情は野草に覆われエネコロロには見えないが、彼女は彼の言葉にしゅんと下を向いた。

アブソル「ねえ……むこうに、何かあるわ。右の方、一番大きな木の横辺り」

ミミロップ「あ、ほんと……あれは、なに?」

グラエナ「何かが倒れてるように見える……ポケモンか?」

エネコロロ「えっ、じゃあ急いで助けなきゃ。オノノクスに見つかったら大変」

アブソル「待って。なんだか様子がおかしいわ……もう生きてないのかも」

エネコロロ「え……」

木の麓にあるそれは、一見して獣のようなポケモンが地に伏せているようだった。だが、そう強い雨ではないとはいえ、その者がいる場所では雨風は凌げない。大きな木の下とはいえ、幹が長すぎて雨宿りには適していないのだ。現に、その何者かは全身を雨に打たれ濡れそぼちながら身を投げ出している。

水ポケモンでもない限り、そんな場所に好んで居座る事はないだろう。雨に濡れれば体温低下は免れない。
 ▼ 675 ムスター@クサZ 18/10/10 01:55:53 ID:i65A57eA [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
まさかオノノクスの仕掛けた罠ではないだろうが、念のため暫く様子を見る事にする。

五分、十分と木の下を重点的に眺める四匹。しかし、オノノクスはおろか、何の気配を感じる事もない。伏していると思われる何者かも、動きだす様子は無い。

やはり、アブソルの言うとおり、あれが生物だとしたら既に息は無いのだろうか。

グラエナ「……俺が見てこよう。最悪、オノノクスが出たら囮になる」

エネコロロ「えっ、そんなのダメだよ。危なくない方法、探そう?」

グラエナ「しかし……」

アブソル「見つけた私が言うのもなんだけど、あそこで倒れているのが何であれ、関わるべきじゃないと思うわ。木の実の採取を優先させましょう」

アブソルはきっぱりとそう言い放つ。

もしあそこで倒れているのが自分達と同じ境遇に陥っているポケモンだとしたら、彼若しくは彼女も助けてやりたい。そして、一緒に森を出たい。

だが、綺麗事ばかり言っていられないのも事実だ。もし倒れているポケモンに気をとられオノノクスの接近に気づく事ができなければ、そのポケモンを助ける事でオノノクスに襲われてしまったら……背に腹はかえられない。

アブソル「……とりあえずオノノクスの気配は無いわ。そうね……モモンの木はどれ?」

グラエナ「モモンはわからん。ただ、ここから見て正面にあるのがマゴの実だ」

ミミロップ「それはいいわね。甘い木の実大好き」

エネコロロ「私も!」

グラエナ「俺はザロクが好きだから、もう少し奥へ行く」

アブソル「大丈夫なの?」

グラエナ「なに、奥って言ってもマゴの三つ向こうの木ってくらいだ。そんなに変わらないさ」

四匹はそれぞれ自分が目的とする木を見つめる。

もうすぐ、もう少しで、やっとお腹を満たす事ができる。好みの実を近くに、溢れんばかりの涎が口内へ流れ込んでいく。ミミロップなどは、その可愛らしいお腹をくぅっと鳴かせていた。
 ▼ 676 グザグマ@ひかりのいし 18/10/10 01:56:30 ID:i65A57eA [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
グラエナ「よし……行くぞ!」

グラエナが草むらから飛び出す。

続けてミミロップ達も勢いよく地を蹴り、目的の木まで一斉に走り出した。

エネコロロ「わぁ、実がたくさん! えへへ、やったやった!」

ミミロップ「ちょっと、大声出しちゃだめよ。オノノクスが来ちゃうかもしれない」

エネコロロ「大丈夫だって。周りに、ぜーんぜん誰もいないわ」

辺りを警戒しつつ木の実を採取していく四匹。エネコロロの言うとおり、近くにはオノノクスどころか何の生物の姿も見当たらない。

これだけ警戒して注意深くここまで来たというのに、これではなんとも拍子抜けだ。結果論でしかないが、ここまで気を張り詰めて歩く事もなかったのでは、とさえ思えてくる。

ミミロップ「はぁあ……美味しい。生き返るわぁ」

エネコロロ「やっぱり木の実は格別ね! 空腹だから特に」

持ち帰るだけでなく、その場でも木の実を食べ始めるミミロップとエネコロロ。

アブソル「ちょっと、食事してる場合じゃないわよ。必要な分だけとって、すぐに引き上げないと」

ミミロップ「でも、オノノクスいないし、来る気配もなさそうなんでしょ?」

アブソル「それは、そうだけど……」

くぅ、とアブソルのお腹が鳴る。

エネコロロ「ほら、アブソルもおなかすいてるんじゃん! 我慢してないで、今のうちに食べちゃおうよ!」

暢気な顔をしてアブソルの前に木の実を置くエネコロロ。ミミロップも彼女に同調し、アブソルが実を食べる事に期待している。

グラエナは奥まで行ったきり戻らない。どちらにせよ彼が戻るまでここから無闇に離れるわけにはいかない……そう思ってアブソルはゆっくりと首を下げる。

アブソル「……?」

だが彼女は実を口にしなかった。食べるより先に、何かが彼女の気を引いた。
 ▼ 677 ドラン♀@ロックメモリ 18/10/10 01:57:11 ID:i65A57eA [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミロップ「どうしたの?」

アブソル「ねえ……何かが倒れてたのって、あの木の下よね?」

ミミロップ「え? あぁ……たぶんそうだと思うけど……」

アブソルは実を食べることさえ忘れ、その木の方を見ている。様子がおかしい彼女を不思議に思い、ミミロップも彼女の視線を追った。

ミミロップ「……いない?」

アブソル「ええ……いないわ」

エネコロロ「えっ!?」

アブソル「静かに……なにか、おかしい」

異様な何かを感じ取り、アブソルはぐっと姿勢を低くする。

まさかと思い、ミミロップも集められるだけ木の実を集め、すぐにでも逃げられるよう体勢を整えた。

エネコロロ「ねえ、もしかして、オノノクス……」

アブソル「しっ。言葉を発しないで」

アブソルは最大限に気を張り詰め、辺りに探りを入れる。

三匹が動きを止めたことで、作為的な物音は一切聞こえなくなった。ただ、雨の奏でる旋律が耳に響くのみ。

ミミロップ「も、もう逃げた方がよくない?」

エネコロロ「で、でもグラエナが……」

アブソル「一旦草むらまで戻りたいところだけど……呼びに行くしかないわね」

アブソルは辺りを警戒したまま、少しずつ後退りを始める。ミミロップはアブソルの死角をフォローすべく、彼女とは反対の方へ気を配った。
 ▼ 678 ンプラー@はねのカセキ 18/10/12 02:51:31 ID:nu1Y2nwU [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
グラエナが言っていたザロクの木があるらしい場所まで来ても、彼の姿は見当たらなかった。

彼が言っていたとおりマゴの木から三つほど木を通り過ぎたところにザロクの木はあったが、そこには誰もいないばかりか木の実を採った形跡さえ確認できない。

アブソル「これは……どういうこと?」

エネコロロ「も、もしかして、何かに出くわしてここから離れたんじゃ……」

ミミロップ「囮になってくれてるって事!?」

エネコロロ「わ、わからないけど……」

アブソル「この雨よ、多少の物音なら気づかなくても不思議じゃないわ……」

ぽたりぽたりとミミロップの顎から水滴が落ちた。雨のせいだけではない、嫌な汗が額から幾つも滑り落ちている。

ミミロップ「と、とにかくグラエナを探さないと」

アブソル「そうね……ただ、右も左もわからない森の中で、闇雲に歩き回るのは危険よ。まずは草むらまで戻って策を考えないと」

エネコロロ「そ、そんな事してる間にグラエナがどうにかなっちゃったら……」

アブソル「気持ちはわかるけど、今の私達はまさに次の瞬間にどうにかなるかもしれない状態なの。彼の身は心配だけど、私達まで危険な状態でいるわけにはいかないわ」

エネコロロ「うう……」

納得、はしていないだろうが、アブソルの言う事もわかるのだろう、エネコロロはそれっきり黙りこんでしまった。

ミミロップ「とりあえず、来た道を戻るのね」

アブソル「そうしたいけど……」

アブソルは少し顔を上げ、つい先ほどまで自分達が潜んでいた草むらを眺める。だが……

アブソル「雨が霧状になってきてる……しかも勢いが強いわ。草むらが見えない」

ミミロップ「……真っ直ぐ進めば大丈夫、よね?」

ミミロップはこみ上げる不安を隠し切れず、アブソルの肩を触る。しかし、アブソルはそれに対して何も答えない、答えられない。
 ▼ 679 マザラシ@くろいヘドロ 18/10/12 02:52:07 ID:nu1Y2nwU [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エネコロロ「と、とにかく、歩こ?」

アブソル「そうね、はやく安全な場所に避難しましょ」

ミミロップ「う、うん」

ゆっくりと音を立てないように、来た道を引き返す。だが、視界が悪く本当に草むらに向かって歩いているのか全くわからない。

まるで意思をもって彼女達を困らせているかのような霧雨。気がつけば、すぐ前の地面さえ薄っすらとしか見えなくなっている。

アブソル「……ねえ、草むらってこっちよね?」

ミミロップ「えっ、ちょ、ちょっと、不安になるようなこと言わないでよ……」

アブソル「だ、だって……」

アブソルは途中で言葉を飲み込んでしまう。

だが、彼女が語らずともわかる。三匹は、周囲を見回して警戒しながらとはいえ少しずつ草むらに向けて歩いているつもりだが、一向に辿り着かない。

ゆっくり進んでいるにしても、少なくとも体感ではそれなりの距離を歩いている。真っ直ぐ草むらまで向かえているとしたら、最低でも木の実畑は抜けているはずなのだ。

エネコロロ「も、もしかして迷ったんじゃ……」

アブソル「歩く方向を間違えてるのかも……」

ミミロップ「そ、そんな……」

あまりに深い霧に、真っ直ぐ歩いているつもりでも少しずつそれてしまっているのかもしれない。

ただ、すぐ近くにはまだ実の生る木が並んでいる。木の実畑がどれ程の広さを誇っているのかわからないが、元いた場所からそう遠くまで歩いてしまったわけではないだろう。

アブソル「……嘘でしょ」

エネコロロ「えっ?」

急に、アブソルが立ち止まる。彼女は目の前に立つ木を見ていた。

ミミロップ「これって……」

それを見たミミロップも理解する。そこに立っているのは、グラエナが実を集めているはずのザロクの木だった。
 ▼ 680 ベルタル@しめつけバンド 18/10/12 02:52:42 ID:nu1Y2nwU [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミロップ「真っ直ぐ歩いてたはずよね。どうして……」

アブソル「わからないわ。だけど、この霧だもの、ぐるぐる回ってしまった可能性も充分ある」

エネコロロ「真っ直ぐ歩いてたと思うけどなぁ……」

三匹は首を傾げるが、現にここへ戻ってきてしまったのだ、彼女達が何を考えようともこれが現実。

アブソル「……今度は、縦に並んで歩きましょ」

ミミロップ「そうね、それなら真っ直ぐじゃなくなっても気づけるかも」

エネコロロ「わ、わたしどこを歩けば……」

アブソル「先頭を歩くわ」

ミミロップ「じゃあ、最後尾歩くから、真ん中歩いて」

エネコロロ「あ、ありがと!」

再び、歩き出す。

雨は霧状になっているとはいえ、身体を、毛を濡らして体温低下を招く。彼女達の身体は既に冷え切ってしまい、寒さに震えずにはいられなくなっていた。

容赦のない自然の脅威。食事ができたのは幸いだったろう、もしも何も食べられないままこの状況を迎えていれば、アブソルとミミロップは死んでいたに違いない。

アブソル「あ……」

と、何かを見つけたらしくアブソルは歩みを止めた。

ミミロップ「どうしたの?」

アブソル「あれ……木の下の……」

見れば、彼女の視線の先には大きな木が立っていた。その麓に、何か大きなものが転がっている。

ミミロップ「あ、もしかして草むらから見てた……ひっ!」

エネコロロ「えっ、ど、どうしたの……きゃっ!!」

目を凝らして見つめたそれは、木の下に横たわっていた何者かだった。

結論から言えば、それは四足の獣ポケモンだった。木の下で、強い霧雨に全身を濡らしながら、そのポケモンは地面に寝転がっている。

その身体には、頭が無かった。
 ▼ 681 トモシ@クラボのみ 18/10/20 00:43:24 ID:.4PAai0. [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミロップ「なによ、あれ……」

アブソル「落ち着いて、ただの屍よ」

エネコロロ「た、ただの、って……」

ミミロップ「全然ただのじゃない……」

アブソルはそう言うが、首から上がごっそり無くなっている様子を見て冷静でいられるわけがない。

なんとかこみ上げてくる悲鳴を呑み込むことには成功したが、身体が全く動かなくなってしまった。

アブソル「落ち着かなきゃいけないけど、聞いて。あの様子、死んでからそう時間が経ってないわ。もう噴き出してはいないけど、まだ血が流れてる……もしかしたら、あれをやった誰かが近くにいるのかもしれない」

ミミロップ「ちっ、ち、近くに、って、それじゃあ……」

ぎぎぎ、と音が鳴りそうなくらいぎこちなくミミロップはアブソルを見る。アブソルは、彼女に目を合わせて静かに頷いた。

アブソル「ええ、急いで逃げるしかないわ」

ミミロップ「…………」

エネコロロ「…………」

二匹「きゃあああああ!!」

アブソル「あっ、ばか!!」

顔を見合わせていたミミロップとエネコロロは、堪えきれなくなったらしい、悲鳴をあげて走り出してしまった。

アブソル「視界が悪いってのに……っ!!」

仕方が無いとばかりに、アブソルも駆け出す。

異常なまでの濃霧に、先に走った二匹の姿さえ見えないが、とにかく前に向かって全力で走った。
 ▼ 682 サイドン@ハガネールナイト 18/10/20 00:44:04 ID:HWhA9ooY NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
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 ▼ 683 アルヒー@モンスターボール 18/10/20 00:44:14 ID:.4PAai0. [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




ミミロップ「はぁ、はぁ、はぁ……」

可能な限りの全速力で木の実畑を駆け抜けたミミロップ。どこまで走ってきただろうか、もと来た道にあった背の高い草むらはどこにも見当たらず、辺りには見覚えの無い植物ばかりが立ち並んでいる。

もう、オノノクスの縄張りからは離れられたのだろうか。振り返るも、濃霧に覆われて走って来た道さえ見えない。

ミミロップ「どうしよう、はぐれちゃった……」

やはりと言うべきか、近くにはアブソルの姿もエネコロロの姿も無い。無我夢中で走ってきた結果、ミミロップは彼女達とはぐれてしまった。

群れから離れてしまった時の事を思い出す。それでもアブソルたちはそれなりにより所となっていたのだろう、群れからはぐれた時よりも寂しい思いがこみ上げてきた。

ミミロップ「とにかく、探さないと……」

正直、来た道を戻る気にはなれない。だが、このまま彼女達を探さず今後自分一匹で森を歩きまわろうとも思わない、思いたくない。

とりあえず、何とか気を落ち着けようと深呼吸を繰り返す。

次第に普段のペースまでおさまってゆく心拍。ただ彼女の視線だけは、落ち着こうと努力している間も忙しなくあちらこちらへ向けられ警戒していた。

ミミロップ「ふぅ……」

そして、落ち着いてきた頃、考える。

濃霧から逃れられていないということは、そう遠くまで走ってきたわけではないということ。この霧が森全体を覆っているならば話は別だが、おそらくこの霧は木の実畑一帯を襲ったものだろう。となれば、アブソルもエネコロロもまだ近くにいると予想できる。

そうなると、考えられる選択肢も自然と絞られていく。一か八か来た道を戻ってみるか、周囲の物音に気を配りつつこの辺りで隠れて待機するか。

自分としては真っ直ぐ走ってきたつもりだ。だが、おそらくそれは一緒に走り始めたエネコロロも同じだろう。そして、アブソルはそんな自分達を追いかけてきたに違いない。そう思えば、ここで待機するという選択肢もそう後ろ向きというものでもない。

ただ問題は、待機することを選んだ場合、近くを通りかかってくれなければ相手はどんどん離れていってしまうおそれがある。無論それはミミロップが動いた場合でも同じ事ではあるが、その状況を考えてなお何もせずただ待っているだけというのも気が逸るばかりだろう。

ミミロップ「うう、どうしよう、できれば戻りたくないけど……」

ただ、相手も同じ事を考えてじっとしている可能性はある。そう思いミミロップは、震える身体にぐっと力を入れ、勇気を振り絞ってきた道を戻ることにした。
 ▼ 684 ムッソ@ありふれたいし 18/10/20 00:45:08 ID:.4PAai0. [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



視界の悪い森の中を歩く。

もうすっかり雨は止んでいるが、立ち込める濃霧はその勢いを衰えさせる事無くただひたすらに辺りを覆いつくしている。

シンオウも、このような霧がよく発生する地方だ。ミミロップも群れの中で行動していた時代に、濃霧に襲われロクに行動ができなかった経験がある。その時は「きりばらい」できるポケモンが群れの中にいたため、少なくとも自分達の進路に立ちふさがる霧については取り除く事ができた。

それでも、濃霧に悩まされて行動を制限された事は片手で数える程しか無く、「きりばらい」なんて技に対して特別な感情を抱くことは無かった。霧に遭遇して技を使用してもらった時も、誰も彼もその時にお礼を言う程度で、使用者をヒーローのように扱ったりはしなかった。

それが今、こうして深い霧の中を行動しなければならないとなると、どうだろう。あの時に技を使ってくれたポケモンが思い出され、そのありがたみを嫌と言うほど噛み締めることになる。今ここに彼がいたなら、どんなに心強いことか。

ミミロップ「…………」

彼女の歩みは極端に遅い。

視界が悪い事も勿論だが、それ以上に、オノノクスの存在が気になって仕方が無い。

彼女はオノノクスを知らない。それなりに大きなポケモンらしいが、姿形がわからないとなると具体的にどういった点に気をつけて警戒すればいいかわからない。

じゃり、と足が地に着く音さえ他の誰かに聞かれているのではないかと心配になってくる。少し大きく踏み出してしまった時などは、必要以上に辺りをきょろきょろと見回してしまう。

おさまっていたはずの鼓動も再び早鐘を打つようになり、その音もまた彼女を強く焦らせた。

ミミロップ「……?」

ふと、自分が出す音ではない何か別な音が彼女の耳に飛び込んできた気がした。

足を止め、耳を澄ます……だが、勘違いだったのか、再び音が聞こえてくることはない。静けさだけが、霧に包まれた森一帯を支配するばかりだ。
 ▼ 685 ノガッサ@ロックカプセル 18/10/20 00:45:44 ID:.4PAai0. [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
疑心暗鬼に支配されるミミロップ。

今の彼女には、風が木の葉を揺らす音さえ自分を狙う獰猛なポケモンが近づく音に聞こえてしまう。

ミミロップ「……今の、なに?」

思わず声が漏れ、はっとして両手で口をふさぐ。

首を動かすことさえためらわれ、目だけをぐるぐるとあちらこちらに動かして様子を窺う。

気のせいか……そう判断できたのは、物理的に口を閉じてから約五分後のことだった。

いよいよ、実際には鳴っていない音さえ聞こえるような気がしてきている。このままではいけないとわかってはいても、身体がいうことを聞いてくれない。

ミミロップ「……やっぱり何か聞こえる」

こうなってくると反対に何もかもが幻のようにさえ思えるのだが、それでも彼女は正気を失わなかった。

やはり気のせいなどではない。確かに何か、うめき声のようなものがかすかにだが彼女の耳に届いたのだ。

両耳を立て、今一度その音を聞こうと集中するミミロップ。周囲への警戒を怠るわけにはいかないため目を閉じて注力する事はできないが、できうる限りの神経を耳へ集中させた。

ミミロップ「これは……声?」

まさかと思い、声のする方へ視線を向ける。濃霧に阻まれここからでは何も見えないが、この先に誰かがいるのだろうか。

聞こえた声は、弱々しいうめき声のようなものだった。少なくとも、オノノクスのような捕食者側が出すものではない。獲物をおびき寄せるために仕掛けていない限りは。

そうなると、声の主はアブソルかエネコロロ、もしくはグラエナのうちの誰かかもしれない。

聞こえた声の様子を思い出す。声質から考えれば、アブソルかエネコロロに絞られた。

ミミロップ「まさか怪我をして動けないとか……」

心配が募りだす。

彼女の足は自然と歩みを始め、これまでとは打って変わって素早いペースで森を進んでいった。本人は自覚していないが、ゆっくりと歩くことと比較してもそう大きな足音はしなかった。
 ▼ 686 ルノーム@ねばねばこやし 18/10/20 00:46:23 ID:.4PAai0. [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ミミロップ「あれは……アブソル!」

果たして、彼女が足取り速く向かった先、大きな木の下にはアブソルの姿があった。

やはり霧が邪魔をしてあまり周囲の様子はわからないが、彼女達が走って逃げた時よりも晴れてきたようで目先一メートル程度なら見通す事ができる。

アブソルは、血を流して座り込んでいた。

ミミロップ「大丈夫? まさか、オノノクスに襲われて……」

急いで彼女の元へ駆け寄るミミロップ。

アブソル「来たらダメ!!」

ミミロップ「え……?」

だが、アブソルは近寄ろうとするミミロップに怒号にも似た声を飛ばす。

あまりの声に、ミミロップは足を止めた。その直後……

???「グルゥラァアアアアア!!」

ミミロップ「きゃっ!!」

突如、何者かがミミロップとアブソルの間に割って入る。

砕ける地面、弾ける岩石。

目で確認せずともわかる。もしミミロップがアブソルの静止を無視して近づいていたならば、今頃ミミロップの身体は臓物を噴き出し真っ二つに引き裂かれていただろう。

ミミロップ「あ、ああ……」

足が震え、すとんと無防備に尻餅をつくミミロップ。だが幸運にも、すぐに次の攻撃が飛んでくることはなかった。

ミミロップ「お、オノノクス……?」

その可愛らしい瞳に、薄緑色の巨体が映る。

鋭い爪、巨大な牙、太い尾、そしてなにより、視線だけで対象を怯ませてしまいかねない程の鋭い眼光を携えた黒い瞳。

彼女達が恐れていた捕食者が今、ミミロップの目の前に姿を現した。
 ▼ 687 カリオの相棒 18/10/20 06:55:23 ID:rqQExrtE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 688 ワガノン@みずのジュエル 18/10/23 22:50:06 ID:fLmkp8Ok NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援だで
早く続きみたい
 ▼ 689 マシュン@インドメタシン 18/10/26 05:37:03 ID:jtmcKEe2 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 690 ンニュート@アブソルナイト 18/11/05 23:10:24 ID:x/7YtUNE [1/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミロップ「あ、ああ、たすけ……」

恐怖に怯える言葉すら、最後まで紡ぐ事ができない。

足は奮え腰は抜け、ミミロップはその場から動く事もできずただ目の前で唸り声を上げている怪物を見ているばかり。

もう自分の一生はここで終わってしまうのか……攻撃されたら、食べられたら痛いだろうな、もっともっとやりたいこと沢山あったのにな、様々な思考が脳裏を過ぎって消えていく。

状況を打開しようなど、考えることさえできない。

オノノクス「グガァゥ……」

一歩、また一歩、オノノクスがじわりじわりと距離を縮めてくる。

どうせなら一思いに殺してくれればとも思ったが、それさえ彼は赦してくれないようだ。

ミミロップ「っ、く、はっ、ふっ……」

もう呼吸すらままならない。あまりの恐怖に、過呼吸を起こし始めている。

だが彼はおかまいなしにミミロップとの距離を縮め、やがて目の前で足を止める。

オノノクス「…………」

ミミロップ「……?」

静止。

ミミロップのすぐ前で彼女を見下ろすオノノクスは、その状態のまま沈黙した。

もしかして、敵視されているわけではないのだろうか……淡い期待がふわりと浮かび、ミミロップの表情を僅かに弛緩させる。

かすかにだが、オノノクスが笑った気がした。
 ▼ 691 ノンド@エドマのみ 18/11/05 23:10:39 ID:x/7YtUNE [2/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ドスン

ミミロップ「いぎゃああああああああ!!!」

耳を劈くような悲鳴。

オノノクスが見逃してくれたのではと安堵しかけていたそのとき、彼女の華奢な足を、オノノクスの巨大な足が踏み潰した。

ミシミシと嫌な音が聞こえ、気が狂いそうなほどの激痛が彼女を襲う。

ミミロップにオノノクスの様子を、自分の足が今どうなっているかを確認する余裕など無い。むしろその光景を瞳に映すことで、より鮮明に痛みを感じてしまうかもしれない。

ミミロップ「あっ、あがっ、っぐぃ、いぎっ」

悲鳴をあげ続けたせいで早くも声がかれてくる。もはや彼女は、言葉にならない声を涙や涎と共に垂れ流し、少しでも痛みから意識を逸らそうとすることしかできない。

だがその間もオノノクスは体重をかけてミミロップの足を踏み続ける。彼は、この状況を楽しんでいるようだった。

アブソル「っ、ぐ、ミミロップから、離れ、なさい……!」

オノノクス「……?」

サイコカッターがオノノクスの背中に直撃する。

血を流して倒れていたアブソルは何とかミミロップを助けようと歯を食いしばって技を繰り出していた。

だが、悲しいかな、彼女の攻撃は全くオノノクスには効いていない。彼の気を一瞬だけ逸らすことはできたが、ダメージを与えることはおろか、ミミロップに対する攻撃をやめさせる事さえできなかった。

ミミロップ「あ……ぅあ……痛い、よぉ……」

もう限界だ……そう思い意識を手放そうとした瞬間、オノノクスは足を上げ彼女を解放した。

それで激痛が和らぐわけではないが、骨肉が押しつぶされていく感覚からは逃れる事ができた。ただ、やはり彼女にそれを確認する余裕は無い。ミミロップは涙と唾液で顔をぐちゃぐちゃにしながら、必死に痛みに耐えている。

オノノクスはそれを見て、薄気味悪い笑みを浮かべる。そして、ひとしきりそれを堪能した後、ミミロップの反対の足を同様に潰そうと再び足を上げた。
 ▼ 692 ォッコ@セシナのみ 18/11/05 23:10:58 ID:x/7YtUNE [3/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「っ、さ、させない……!」

アブソルは痛みを堪え立ち上がり、血が噴き出すのもお構いなしにミミロップの所へ駆け寄る。

アブソルが動いた所でたいした事は何もできないと鼻で笑っているのだろうか。オノノクスはそれを阻止せず地に足をおろし、にやにやと獲物を甚振るような目で彼女達を見つめていた。

アブソルは彼の様子にかまうことなく、どうにかミミロップをうつ伏せにさせて自分の背に乗せる。再び、彼女の肩から血が少し噴き出した。

アブソル「手だけでも、つかまってて……」

ミミロップは返事をする事ができない。ただ、彼女の言葉は理解したようで、両手で彼女の胴に抱きついた。

アブソル「っ!!」

足に力を込める。これまで以上に多くの血を流したが、歯を食いしばり、オノノクスから逃げようと一歩踏み出した。

足取りは決して速くない。オノノクスが大またで歩けばそれだけで追いつかれてしまうペースでしか、アブソルは歩けない。

ここまで来ると、もう逃げるという行為に意味は無いのかもしれない。だがそれでも、彼女は諦めたくなかった。記憶を失っていても生きたいという意思と、そんな自分と仲良くしてくれたミミロップを守りたいという一心が彼女を突き動かしている。

アブソル「っ、く、はぁ、はぁ、ぐうっ……」

そうやって、どれ程歩いただろうか。

後ろからは何の音も聞こえてこない。それどころか近くに来ている気配もなければ、攻撃を仕掛けられている様子も全く無い。

何故か諦めてくれたのだろうか。気にはなるが、振り返る勇気は無い。

アブソル「……ねぇ、ミミロップ、私、ね、思い出したことが、あるの」

震えながら息も絶え絶えに、アブソルはミミロップに話しかけた。

だが、返事は無い。どうやらミミロップは痛みに耐え切れず気絶してしまったようだ。

それでも、アブソルは話を続けた。もしかしたら、彼女が気絶していることをわかっているからこそ話し始めたのかもしれない。

アブソル「ここは、私達の、おかれた、この状況は……全部、仕組まれた、こと、なの……ここは、この場所は……」

???「へぇ、もうそこまで思い出しちゃったんだ」

アブソル「!?」

何かの気配。声のする方へ視線を向けると、いつからそこにいたのかスリーパーが一匹、木の幹に手をついて立っていた。
 ▼ 693 インディ@シールぶくろ 18/11/05 23:11:18 ID:x/7YtUNE [4/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「あ、あなたは……」

スリーパー「おや、おいらの事まで思い出したのか? ふむ、それは計算外だ……ただ、もしそうであるなら、あの事も思い出したんだろう?」

アブソル「あのこと……?」

ずるりとミミロップが背から滑り落ちそうになるのを何とかバランスを取ってこらえ、スリーパーに向けている視線を細くする。

実を言えば、アブソルはすべてを思い出したわけではなかった。端的に言えば、この状況は仕組まれてできたもの、という事だけしかわからない。誰が何のためにといった、肝心な部分は何一つわからないままだ。

しかし、この口ぶり、スリーパーがこの件に深く関わっている事は明らか。アブソルが記憶を失っている事も知っている辺り、元凶である可能性さえ高そうだ。

無防備にも両手を広げてやれやれといった風に首を振るスリーパー。アブソルは彼から一瞬たりとも目を逸らさず、彼の一挙一動に気を配っている。

アブソル「何か知ってるのね……教えなさい!」

スリーパー「なんだ、そこは覚えてないんだ」

落胆したような表情を浮かべ、大袈裟にがっくりと肩を落とすスリーパー。その様子はまるで道化師のよう。

スリーパー「おいら的には一番大事なとこなんだけどなぁ……そうだなぁ、うーん、どう話したもんか……」

今度は顎に手をあて、うんうん唸り始めた。はじめは何かされるのではと警戒していたアブソルだが、彼の動作を見ているうちに、恐怖と平行して苛立ちが募り始める。

どこか人を馬鹿にしたような態度。この状況を楽しんでいるのだろうか、ちらちらとアブソルの方を見ては口角を吊り上げている。

アブソル「いいから話しなさい!」

中々進まない話に、苛立ちを言葉に乗せるアブソル。しかしスリーパーはそれを見て再び嫌味な笑みを見せるばかり。

だが、何度も同じやり取りを繰り返す気はないのだろう、スリーパーは急に顔を無表情にも似たものに一転させ、組んでいた腕を解く。

スリーパー「おまえ、自分たちの立場わかってないだろ」

アブソル「!」

スリーパーはアブソルの前まで瞬時に移動し、右手でアブソルの肩を強く掴んだ。
 ▼ 694 イクン@コンテストパス 18/11/05 23:11:35 ID:x/7YtUNE [5/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「うぐ、ああああっ!!」

そこは、オノノクスにつけられた大きな傷があるところ。スリーパーが強く肩を掴むことで、少しずつふさがってきていた傷口が一気に開いた。

激しい痛みに苦しみ悶えるアブソル。スリーパーは噴き出した血飛沫をその身に浴び、気持ち悪いくらい満面の笑みを浮かべる。

スリーパー「いいねいいねいいね!! その表情、とってもそそるよ!! でもねでもね! おいら、君みたいな仔はそんなに好みじゃないんだよね!! もっとこう、幼い感じのがさぁ!!」

アブソル「ああああああ!!!」

スリーパーはアブソルの肩をつかんだままがくがくと彼女の身体を揺らす。その度に彼の指が傷口に食い込み、より多くの血が飛散する。

それを見て、更にスリーパーは笑う。狂ったように、笑う。

スリーパー「おや?」

アブソルが激しく揺らされた衝撃で、彼女の背に乗っていたミミロップが地に落ちた。気絶してしまっている彼女はそれでも起きる事はなく、ただスリーパーの気を引いた。

スリーパー「そうかそうか、今回の道連れはこの仔だったのか。うーん、可愛いね、可愛いね! 幼くはないけどなぁ、でもかわいくて、なんかエロいね!!」

スリーパーはアブソルから手を放し、地面にずり落ちたミミロップの前に立つ。

アブソル「な、なにを……」

スリーパー「おっ、この仔は足がやられてるのかぁ。オノノクスに潰されたんだねきっと。ぐってやったら目を覚ますかな?」

アブソル「や、め……」

スリーパー「ほいっ」

ミミロップ「っ!!!??」

悲鳴にならない声が周囲に木霊する。スリーパーはアブソルが言葉を紡ぐよりはやく、ミミロップの足の傷に指を突っ込んでいた。

スリーパー「ほほっ、こりゃそそるわ、そそりますわ。とってもイイ顔しなさる」

何が起きているか全くわからず、ただ襲い掛かる激痛に目を白黒させるミミロップ。もうこれが痛みであることさえわからなくなっているのかもしれない。
 ▼ 695 ネコロロ@チャーレムナイト 18/11/05 23:11:51 ID:x/7YtUNE [6/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それから暫く、スリーパーは彼女達の傷口を抉っては観閲に酔い痴れていた。

なすすべもなく、ただただ彼に玩ばれるアブソルとミミロップ。もういっそ死なせてくれと嘆願してしまう程の苦しみに、彼女達の精神は壊れかけていた。

アブソル「…………」

しかし、彼女はまだ諦めてはいなかった。

享楽に恍惚としている彼の隙を、彼女は見逃さなかった。

アブソル「……っ!!!」

スリーパー「っ、な、なにを」

鈍い音が大気に満ちる。

彼女のものとは違う、別なポケモンのそれが彼女の視界を赤一色に染め上げる。

スリーパーの咽喉元に突き刺さるアブソルの鋭い牙。恨み辛みが強く込められた、彼女の攻撃。その威力は、彼のそこから噴き出す夥しい量の血が物語っている。

彼の両手がアブソルの首を、傷口を強く掴んだ。

これまでとは比べ物にならない程強烈な痛みが彼女を襲う。

だがそれでも、彼女はつきたてた牙を引き抜く事はない。それどころか尚も強く牙を食い込ませていく。

深く、より深く。

肉が千切れ、骨の砕ける音がする。口内を、彼の血が満たしていく。

力を込める程、彼の肉に食い込んでいく牙。それに比例して彼の生命が薄れていくのが、よくわかる。

アブソル「…………」

スリーパー「…………」

やがて、彼は彼女の首や肩を掴んでいた手をだらりとさせ、彼女によりかかるようにして倒れ込む。

だがそれでも……それでもなお、彼女は牙に力を込め続けた。やがて彼の骨肉が最後の悲鳴をあげ、残された胴体が夥しい量の赤い雨を降らせる。

そこでようやく、彼女は口を閉じる事となった。
 ▼ 696 クロッグ@もりのヨウカン 18/11/05 23:12:14 ID:x/7YtUNE [7/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「う……」

力を使いすぎたせいか、アブソルはそのまま地面に倒れてしまう。

かろうじて意識を保てていたミミロップは、その始終を目にしていた。短い付き合いではあるが、その中で一度も見た事が無い、アブソルの血も凍るような表情。しかし、その瞳の奥には確かな炎が宿っているのもわかった。

彼女は、生きることを選んだ。

終わりの見えない地獄に未来を放棄しかけていたミミロップは、そんな彼女をとても美しいと思った。

彼女を前に、ミミロップは痛みさえ忘れ自分を恥じた。そして、感謝した。

ミミロップ「私、だって……やらなきゃ……」

もう何度もアブソルには助けられた。ミミロップは片足を引きずりながらも何とかアブソルを背負い、岩陰に非難しようと歩き始める。

片足で飛び跳ねるようにしながらの移動。アブソルはおろか自分の砕けた足さえまともに引き連れる事はできていない。

地を蹴るたび、地に足がつくたび、気が狂うような激痛が走る。それでも彼女は、一歩一歩、確実に前へ進もうと歯を食いしばった。

ミミロップ「…………」

スリーパーの生首が視界に映る。

心なしか、その表情は死してもなお狂気の笑みを浮かべているように見えた。
 ▼ 697 ンガー@シールいれ 18/11/05 23:12:36 ID:x/7YtUNE [8/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


アブソル「う……あ、りが…と……」

岩場に着き、アブソルをできる限りそっと地面に下ろす。彼女が地に落ち着いた事を確認するや否や、ミミロップはその隣に倒れ込むようにして転がった。

ミミロップ「……アブソルが、あんなに、強いと思わなかった」

アブソル「強い……ううん、それは違うと、思う」

ミミロップ「強い、よ……私、もう、諦めてた、もん」

アブソル「ううん、私は、事情を知ってるから、できたの……」

ここまで来たはいいが、状況が好転したわけではない。

彼女達の負った傷からはとめどなく血が流れ出ており、事故修復もままならないだろう。二匹ともあまりに多くの血を流しすぎていて、言葉どころか思考もまともに回らない。

状況は依然として最悪。たとえ生きる想いを奮い立たせたところで、身体がそれについてくるとは限らない。

アブソル「ねえ……聞いて、くれる?」

だがそれでも、アブソルはミミロップに思い出したことを伝えようと口を開く。

ミミロップも、彼女の言葉を聞こうと薄れる意識をなんとか保ち耳を澄ませる。

もうミミロップに、アブソルへの不信感はない。あるのは信頼と、言葉では伝えきれない程大きな恩義だ。

アブソル「ここで、この森、では、ね……ある、実験が、行われているの……」

彼女は、少しずつ話し始める。

この森で何が起きているのか、彼女たちはどうして連れて来られたのか。そして、どうすれば助かる事ができるのか……
 ▼ 698 ョロゾ@クオのみ 18/11/05 23:12:55 ID:x/7YtUNE [9/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



――――――
――――
――

ルカリオ「なんかもう聞いてるだけで辛い……」

ミミロップ「まぁね……私も、普段は思い出さないようにしてる。忘れる努力もしてるし」

ルカリオ「辛かったろうね……でも、いっこ言えるのは」

ミミロップ「言えるのは?」

ルカリオ「そいつら生きてたら俺がぶっ殺す。絶対に赦さねぇ!!」

ミミロップ「あらあら、怖い怖い」

口元に手を当て短く笑うミミロップ。勿論ルカリオは冗談で言ってるわけではないのだが、彼の真っ直ぐな気持ちが嬉しくて、ミミロップはとても幸せな気持ちになった。

ルカリオ「……サンダースの気持ちがわかったきがするよ」

ミミロップ「そうね……私の場合はルカリオとまだ出会ってない頃の話だけど、シャワーズがどれだけ絶望したかはわかる気がする」

ルカリオ「ほんとに……ああああああああ!!」

ルカリオは頭をがりがりとかきむしった後、急にミミロップの足元に跪いた。

彼の思わぬ行動にミミロップはきょとんと首を傾げる。しかしそれも束の間、ルカリオはミミロップの足を優しく触り、ぺろぺろと舐め始めた。

ミミロップ「えっ、ちょ、なに」

ルカリオ「っちゅ、ミミロップちゃんの足をそんな風にしたのが赦せない。んちゅ、ちゅ、ぺろ」

ミミロップ「ちょ、あは、くすぐったいって、もう、それに、ふふ、傷治ってるわよ」

足を引くことはないが、彼の舌使いが絶妙で身体をくねらせるミミロップ。

きっと彼は悔しいに違いない。どんな話を聞いてもそれは過去のこと、今の彼にはどうする事もできないのだ。

それが歯がゆくて悔しくて、彼はそんな行動に出たのだろう。自分のやり場の無い想いを、彼女への愛情と服従に変えて。
 ▼ 699 ガサーナイト@どくけしのみ 18/11/05 23:13:10 ID:x/7YtUNE [10/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ルカリオ「でも……こんなに足綺麗だよね。そんな傷、跡くらい残ってそうだけど……」

ひとしきり足を舐め回したルカリオはその姿勢のままじっと彼女の両足を見つめる。

ミミロップ「それは、もう少し話した時にわかるわ。ここからがまた……大変だったのよ」

ルカリオ「そっか……辛くなったら、いつでも話すの止めていいからね」

ミミロップ「ううん、ここまで来たら話さない方が辛くなると思うわ」

ルカリオ「大丈夫そうならいいんだけど……今は俺がついてるから」

立ち上がり、彼女をぎゅっと抱きしめる。ミミロップは暫く彼のぬくもりに甘え、そっと目を閉じた。

あれだけ鳴り響いていた雷はもうどこかへなりを潜めたようで、しとしとと降り続ける雨が木の葉を揺らす音色だけが奏でられていた。

直感だが、ルカリオにはわかる。

彼女の話はもう佳境。そして、最も辛い出来事が待ち受けているのだろう。

目を細め、彼女を抱きしめる手に力がこもる。彼女は、そんなルカリオの優しさを汲み取ったのだろう、彼の腕の中に一層自身を潜り込ませた。

ミミロップ「……じゃあ、話すわね」

ルカリオ「うん」

ルカリオは彼女を腕の中におさめたまま、ゆっくりとその場に腰を降ろす。そして自分の前にミミロップを抱きかかえ、彼女の話を待った。

ミミロップはルカリオの胸に背を預け、小さく深呼吸。そして、少しずつ話し始めた。

雲の切れ間から太陽が姿を見せる。だが雨はその勢いを衰えさせることはなく、変わらず地面を濡らし続けていた。
 ▼ 700 ラチーノ@アゴのカセキ 18/11/06 00:10:08 ID:v7ioiD8E NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
毎回続き気になるところできるなあ
 ▼ 701 ンゲラー@サンのみ 18/11/06 03:33:28 ID:FDUskmfo NGネーム登録 NGID登録 報告
お、きてた
支援
 ▼ 702 ドシシ@まひなおしのみ 18/11/07 01:45:07 ID:Eih2fyJw [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




アブソル「この森は……ある目的で作られたと聞いているわ。だから、他のポケモンはおろか、特定のポケモン以外の生物がほとんどいないの……」

乱れた息を整えつつ、アブソルは語り始める。

傷が治りかけているのか感覚が麻痺しているのか、彼女はもう痛みに言葉を失うことはないようだった。

アブソル「あいつらは、ここに、無防備なポケモンを連れてくる……そして、何も持たせず、森の中に放り出すの」

ミミロップ「確かに、そんな、感じだった……」

ミミロップは激痛に表情を歪ませながらも、彼女の話を聞き届けようと歯を食いしばって意識を保っている。

何より、話に傾注すれば痛みも少しは忘れられるような気がした。

アブソル「スリーパー、見たでしょう? それに、オノノクスも……彼らは、この森で行われて、いる、実験の執行側……」

ミミロップ「実験、って、いったい、何を……」

アブソルは静かに目を閉じる。

顔色が悪いのは、きっと血を流しすぎたせいだけではないだろう。

もしかしたら、ミミロップもそれを聞いて気分が悪くなるかもしれない。だがそれでも、ミミロップは黙って続きを促した。話そうとしてくれている彼女の気持ちを汲むだけでなく、生きるにしても死ぬにしてもこのまま何も知らずにはいたくないと思ったのだ。

アブソル「嗜虐的快楽を含む、生殖行為の強制……簡単に言えば、ここは、人間達でいう『育て屋』の敷地内、なの」

ミミロップ「育て屋……」

道中で見た、人工的な柵を思い出す。あれはおそらく、育て屋の施設の一部として何かに使われているものなのだろう。

この時点ではその手の知識に乏しいミミロップにはぴんと来ない内容であったが、「育て屋」というものは聞いた事があった。

ポケモンを預かり、育てる施設。時に、敷地内で仲良くなったポケモン同士の卵ができる事もあるらしい。

ありていに言えば、繁殖行為を行いやすい場でもあるということ。ただ、それをここでは、非道徳的な嗜好を含んで繰り広げられているらしい。
 ▼ 703 クロズマ@ガオガエンZ 18/11/07 01:45:25 ID:Eih2fyJw [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「何も知らずに、放り込まれたポケモンは、ここで、様々な辱めを受けることに、なるの……だいたい最初は、右も左もわからないポケモンを見て、衰弱する様子を楽しんで見てる……」

ミミロップ「でも……監視されてる様子は、なかったけど」

アブソル「その辺りはよくわからない……常に監視、してるわけじゃない、のかも……」

どうやら、彼女はこの件に関して全て知っているというわけではないらしい。

というかそもそも、アブソルはどこまでこの話を知っているのだろう? そして、どうして知っているのだろう?

幾つか疑問が浮かんではきたが、話がそれていくことを恐れ、ミミロップはとりあえず最後まで耳を傾けることにした。

アブソル「この規模よ、ポケモンだけで、行ってるわけじゃないわ……人間も、絡んでるはず」

ミミロップ「じゃあ……オノノクスや、スリーパーは、誰かのポケモンって、こと?」

アブソル「そうね……これは推測になる、けど……その人間が、この事業を始めて、その人間のポケモンが、連れ込まれたポケモンに乱暴、してるんだと思う」

育て屋では普通、トレーナーから直接ポケモンを預かり、目の届く範囲での飼育や管理が行われている。しかしこの森はおそらく非公式のものなのだろう、どこかから連れ去ってきたポケモンに乱暴を働き、卵を作らせているのだという。

これはアブソルもミミロップも知らないことではあるが、一部人間達によるポケモンへの嗜虐行為はポケモン協会でも大きな問題となっている。警察組織と協力して事態にあたってはいるのだが、取り締まりも難しくそういった犯罪行為は年々増え続けているのだ。

彼らの犯罪はポケモンの密猟などに留まらない。人間の中には、歪んだ性愛を持った者が一定数いるらしく、ポケモン達の性行為や性的暴行の現場映像が高値で取引される事もあるという。そういった嗜好を満たすため、莫大な金銭を取得するため、非公式でそれらを行う場所が作られているのだ。

その一つが、この森、この育て屋。

そう思えば、オノノクスがミミロップ達にトドメをささなかった理由も察しがつく。スリーパーの現れたタイミングといい、全てはアブソルの言う通り「仕組まれていた」のだろう。
 ▼ 704 オッキー@ていこうのハネ 18/11/07 01:45:47 ID:Eih2fyJw [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミロップ「……でも、どうしてアブソルは、そんな事を知ってるの……?」

アブソル「それは……」

アブソルは再び辛そうな表情を浮かべ、視線を地に落とす。

だがすぐ意を決したように顔をあげ、真っ直ぐにミミロップを見た。

アブソル「おそらく私も……その人間の、ポケモンだからよ……」

ミミロップ「!!」

一瞬にして血の気が引く。

急に周囲が真っ暗になったような感覚。やっと彼女を信じる事ができたというのに、彼女から告げられた事実はそれを一気に突き崩すようなものだったのだから無理もない。

だが、自分でも不思議なくらい、ミミロップは冷静だった。

自らが傷つくのも厭わずオノノクスから必死にかばってくれたアブソル。死ぬより辛い地獄を味わわせてくれたスリーパーを殺害したアブソル。そして、敵視されてしまいかねない事実にも関わらずありていに話してくれたアブソル。

彼女はきっと、ミミロップを騙そうとして今まで一緒にいたわけではない。そこには何か事情があるのだと、ミミロップにはそう思えてならなかった。

ミミロップ「……何か、あるのよね」

アブソル「私を、信じてくれるの?」

ミミロップ「……全部話して。まずは、それからよ」

アブソル「そう、ね……わかったわ」

縋りつくような目でミミロップを見るアブソル。それでも隙は見せないようにと牽制しつつも、ミミロップは疑いの眼差しを彼女に向ける事はなかった。

それだけで嬉しかったのだろう。アブソルの表情はこれまでと一変し、だいぶ穏やかなものになった。
 ▼ 705 ルシアン@エレベータのカギ 18/11/07 01:46:04 ID:Eih2fyJw [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「私は……記憶を失って、いる……でもそれは、失ったんじゃなくて、あいつに……スリーパーに、奪われていたの」

ミミロップ「奪われて……」

アブソル「ええ……金縛りの応用とか、言ってた気がするわ。私の記憶を封じこめて、連れ込まれたポケモン達と同じ立場で動かしたかったみたい……」

ミミロップ「え、それって……」

嫌な想像が脳裏を過ぎる。それはすぐに真実として、彼女の口から話されることとなった。

アブソル「……私も、同じってこと。彼らの嗜虐の対象……何度も乱暴されて、痛めつけられて、そんな記憶を、思い出したわ……」

ぽたりと彼女の瞳から涙が零れ落ちた。

彼女は、こんな辛いことを何度も何度も繰り返し行わされてきた。記憶が奪われているとはいえ、身体にはその恐怖や痛みが染み込んでいるだろう。そんな状況、考えただけでも苦しくなる。

アブソル「私のことは、もういいの……それより、聞いて」

もういいなんて言わないでと彼女に詰め寄るより先に、アブソルはミミロップをじっと見つめた。

強い意志を持った瞳。彼女の思いに、ミミロップは言葉を呑み込むしかなかった。

アブソル「この森は、孤島になってはいるけど、本土と陸続きになってる道があるの……そこからなら、ここを、出る事ができる……」

ミミロップ「それは、どこにあるの?」

アブソル「はっきりとは思い出せないけど……ここからなら、結構、近い……海の方に向けて、歩けば、大丈夫よ」

ミミロップ「なら、すぐにそこへ、向かいましょ」

アブソル「そうね……ミミロップなら、だい」

ミミロップ「あなたも連れていく」

今度は、アブソルの言葉をミミロップが遮った。

ミミロップ「雪、見たいって言ってたでしょ?」

ミミロップの瞳にも、アブソルが決めた覚悟と決意が強く込められている。それを見てアブソルは、小さく笑みを浮かべ、やはり言葉を呑み込むしかなかった。
 ▼ 706 ニリュウ@ポイントマックス 18/11/07 01:46:24 ID:Eih2fyJw [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
丁度そのとき、遠くの方から大きな物音が聞こえた。

木をなぎ倒すような音。もしかしたら、オノノクスが動き始めたのかもしれない。

アブソル「あんまり時間、なさそうね……」

ミミロップ「この怪我だし、動けるうちに、動いた方がいいわね……」

おそらくは脱出経路となる方へと目を向ける。

まだ痛む片足を引きずりながら立ち上がり、短く息を吐いて気合を入れなおした。

逃げ遅れること、それはすなわち死を意味する。

一度は生きることを諦めた彼女も、今は未来への希望をしっかりとその胸に抱いていた。何より、アブソルに雪を見せに行く、その一心で彼女は立ち上がる事ができた。

ミミロップ「…………」

ただ、気がかりな事が無いわけではない。グラエナとエネコロロはあれからどうしているのか、今どこにいるのか。少なくともオノノクスの餌食にはなっていないようだったが、こうしている間も彼らは危機にさらされている可能性がある。

しかし、後戻りはできない。

手負いになっていないうちであれば彼らを探す事もできたが、正直なところ、この状態では自分たちの身を守って逃げることで精一杯だ。

アブソル「仕方ないわ……誰も、それを責めることはないはずよ……」

ミミロップの考えている事を察したのだろう、アブソルはやや自虐的にフォローを入れる。自分が言うのもなんだけど、という言葉は胸の奥にしまいこんでおいた。

ミミロップ「……そうね」

現状、生きるためには仕方の無い事。それでもミミロップは、心の中で何度もごめんなさいと謝った。

アブソル「この岩場から、北東に進めば、海が見えると思う……海に着いたら、本土が見えるほうへ」

ミミロップ「わかったわ。それじゃ……行きましょ」

二匹が岩場を後にする。

ゆっくりと、だが確実に、彼女たちは新しい未来へと歩みを進めていた。
 ▼ 707 ゲチック@マトマのみ 18/11/07 22:20:02 ID:5pyQf83k NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 708 ーピッグ@きいろのバンダナ 18/11/09 23:24:57 ID:G70Ax0k. [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




森の中を、できる限り急いで進むポケモン二匹。

落ち着き始めたはずの雨は再びその存在を強く主張し始め、ひたすらに彼女達の体力を奪っていく。

霧もろとも奪ってくれたのは、幸か不幸か。少なくとも、彼女達が進むべき道を見失う事はなさそうだ。

アブソル「この向こうに、大きな門があるの……」

ミミロップ「門……っていうと、出入り口?」

アブソル「そう。育て屋の主要施設から、森に入るための……だから、そこは迂回して、進むわ」

彼女が言うには、スリーパーやオノノクスのようなポケモンはまだまだ多く存在するらしい。それらの中には一定の地で見張りの役を請け負ったポケモンもいるのだろう、その周辺に近づくのは危険極まりない。

できるだけ獣道になっているようなところを避けて歩いてはいるが、この辺りは背の高い草むらが少なく遠目にも見渡せてしまう場所、できるだけ他のポケモンがいそうな場所には近づかないでおきたい。

アブソル「伏せて」

ミミロップ「!」

突然、アブソルは倒れこむようにして草むらに身を屈ませる。

ミミロップもそれに合わせて地面へ尻餅をつくように腰を降ろし、息を潜めた。

アブソル「エテボース……複数いるわね」

ミミロップ「あれが、見張りのポケモン?」

アブソル「私の記憶が、正しければね……」

雨のおかげで足音や草木を掻き分ける音は誤魔化せそうだが、視界が悪いとはいえ近づかれたら即アウト。嗜虐的な性的欲求に貪欲な者複数に捕まりなどしてしまえば、その先には地獄しか待っていないだろう。

入り口が近くなるにつれ、見張りの数も多くなっていると予想される。反対に言えば、敵の数が目に見えて増えていれば、それは出口に近づいているということ。
 ▼ 709 クガメス@バグメモリ 18/11/09 23:25:31 ID:G70Ax0k. [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「傷さえなければ……」

アブソルは悔しそうに唇を噛む。

二匹ともそれなりに歩けるまで回復したとはいえ、敵に追いかけられればすぐに捕まってしまうだろう。仮に走ることまで可能だったとしても、あまりの激痛に程なくして倒れ込んでしまうに違いない。

となれば、敵に見つからない事がそもそもマスト。見つかれば、その時点で全てが終了してしまうと言っていい。

ミミロップ「経路はここしかない、のよね?」

アブソル「無い事もないけど……だいぶ大回りになるわ」

そうは言うものの、見つからず島を出る必要がある以上、可及的安全なルートを選ぶべきである。大回りと言いはしたがアブソルもそこを進むしかないと思っているようで、彼女は出口とは違う方へと視線を向けた。

アブソル「この向こう……岩場の陰になっているところを抜けて川を越えた先まで行けば、別方面から出口に辿り着けるわ」

ミミロップ「そこは、見張りがいないの?」

アブソル「険しい岩場だもの、そこを通ることは誰も想定してないの。というか、道って言える道は皆無だから」

それはつまり、普通に歩いて通れるような経路ではないということだろう。ただ、見つからないように逃げられる道としては最適かもしれないが、彼女たちは手負い、そもそもそんな道を進む事ができるかどうか怪しい。

アブソル「……見つからずに出口へ逃げるには、そこしかないわ」

進めなければどちらにせよ終焉を見る事になる、と彼女は視線に力を込めた。

思わず唾を呑み込むミミロップ。しかし覚悟は既にできているようで、すぐさま頷き応えてみせた。

アブソル「こっちよ」

ミミロップの意思を確認したことで、アブソルはゆっくりと立ち上がり、遠くに見えたエテボース達の様子を確認しつつできるだけ音を立てないように歩き始めた。
 ▼ 710 リジオン@ライブスーツ 18/11/09 23:25:59 ID:G70Ax0k. [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




ミミロップ「すごい場所……」

アブソルが先導する道は薄暗いうえ地面がぬかるんでおり、朽木などの障害物が沢山あった。

しかも彼女達がこれから歩く道は結構な上り坂で、岩山のようになっている所を歩かなければならない。しかもその道幅は数十センチ程度しかなく、場所によっては足場が崩れかかっている所もある。

無論、登っている最中に足を滑らせればかなりの高さから身を投げることとなってしまう。もしそうなれば、最低でも複雑骨折は免れないだろう。そうでなくとも、岩場からは尖った岩石が突き出ている部分もあり、地面へ叩きつけられずともそこへ串刺しになってしまうかもしれない。

周囲を警戒し逃げるだけでなく、重症を負った状態で足取りにも最大限気を配る必要がある。

また、岩山の麓には猛毒を持った植物が多々生えているらしく、歩く事ができないとのこと。逃げるには、命がけでこの険しい道を進まなければならない。

アブソル「転んだら、相当運が良くない限り死を見る事になるわ。気をつけて、でもできるだけ速く進むの」

ミミロップ「うう、できるかな……」

崖の途中にできた道を通るも同然だ、怖くないわけがない。

それでも、非常に不安だがやるしかない。できなければ、地獄を迎え入れる事になる。

アブソル「一箇所だけ、危ないところがあるの」

ミミロップ「危ないっていうのは……」

アブソル「……敵に見つかりやすい場所のことよ」

アブソルは傾斜を見上げる。その表情はかなり険しい。

アブソル「この岩場を登りきった辺りに、ちょっとした広場になってる所があるの」

ミミロップ「広場……そこにも見張りがいる、ってこと?」

アブソル「見張りはいない……けどその場所は、その……行為を行う場所、なの」

アブソルははっきりと口にしなかったが、要するにその広場は雌に暴行を加えるために設けられた場所ということ。こんな実験をしているくらいだ、そこでは連日強制的な種づけが行われているに違いない。

アブソル「私達は、その広場の裏を通らなければいけない……途中広場から丸見えの所もあるから、見つかってしまう可能性があるの」

ミミロップ「そんな……」

一箇所だけとはいえ、やはり危険を冒さなければ出口まで辿り着く事はできないらしい。だが彼女達に用意された選択肢はそう多くない。こんな道でも、比べてみれば最善の経路なのだ。
 ▼ 711 ガヘルガー@はつでんしょパス 18/11/09 23:26:16 ID:G70Ax0k. [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「じゃあ、歩くわね……」

ミミロップ「うん……」

襲い来る激しい痛みになんとか耐えつつ、ぬかるんだ急勾配を歩き始める二匹。

何度も足を取られそうになりながらも、ゆっくりじっくりと一歩一歩踏み出していく。

ミミロップ「っ、と……」

集中して歩いていれば、いつの間にか結構な高さまで進んでいる。ふと後を振り返れば、一目見ただけで「足を踏み外せば死ぬ」とわかるくらいに険しい道。あまりの恐ろしさに、思わず足を止めてしまう。

だが、長らくじっとすることも赦されない。雨が降れば降るほど足元に泥が流れ、岩石は滑りやすくなる。雨に流された木の枝や小石などが上から転がってくるかもしれない。

アブソル「……下を見たら、振り向いたらだめ。歩けなくなるわよ」

ミミロップ「うっ、うん……」

からん、と足に当たった小石が落ちていく。

その後岩肌や地を打つ音が聞こえなかったのは、雨音のせいだけではないだろう。一度でも足を踏み外してしまえば、自分の身がどうなってしまうのか……想像に難しくない。

ミミロップ「うぅ、こわい……」

足が、手が、身体中が震えて止まらない。足を止めるわけにはいかないが、慌てて踏み出せばこの状態、すぐにでも滑って落ちてしまうだろう。増してやミミロップは片足に重症を負っているため、一歩一歩が本当に命懸けだ。鋭い痛みが走り反射的に思わぬステップを踏んでしまうなどすれば……

アブソル「……大丈夫?」

ミミロップ「大丈夫じゃ、ないかも……」

前を向く余裕すらない。だがアブソルの声から、彼女との距離が少し離れているのがわかる。仕方が無い事とはいえ、それにさえ焦りを感じてしまうミミロップ。

焦れば焦るほど身体は震え、前に踏み出す勇気が出なくなる。胸の鼓動ばかりがうるさく聞こえ、次第に呼吸も深く激しくなっていく。

それでも何とか前に進もうと、ミミロップは足を踏み出した。
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