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【SS】世界は残酷だ 〜R団の下っ端〜

 ▼ 1 1◆2v71vgndRI 18/09/18 00:36:38 ID:Z8gocXkE [1/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
世界は、残酷だ。


選ばれた人間とそうでなかった者たちの差は、酷く深く、遠い。


一人で組織に立ち向かった赤い少年も。

少年の友人らしき緑髪のキザ男も。


彼らに敗れ去ったボスも。


確かなカリスマを持ち、人々を惹きつける。


勝者敗者は存在すれども。

彼らは常に人生の勝利者であるといえよう。

そして敗北者。

例えばオレ。


R団の下っ端。

シルフカンパニー占拠から崩壊に至るまで、何も残さなかった男。

これは主役の物語ではない。

ありふれた、石ころの話だ。
 ▼ 2 1◆2v71vgndRI 18/09/18 00:37:13 ID:Z8gocXkE [2/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
「全く、なんでこんなのができねぇんだ!」

「すみませ......」

「もういい!お前はクビだ!どこへなりとでもとっとと消えやがれ!」


バイト先の店長がブチ切れて、オレは外は放り出される。

またやった。

放り出された拍子に目に砂が入ったらしい。

温かいものが頬を伝った。

それを拭った後、口の中にはガリガリとした感触と、仄かな鉄の味がした。


オレに残ったのはそれだけだった。
 ▼ 3 1◆2v71vgndRI 18/09/18 00:38:18 ID:Z8gocXkE [3/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
立ち上がって、店に一礼する。

「......ありがとうございました」


こんな時トレーナーだったなら、手持ちが慰めてくれるのか?

歩き出したオレの前を、6歳くらいの子供が走り去っていく。

「まってよピカチュウ!」

その先には電気ネズミが走っている。


だれもいなくなった後。

唾を吐いてその場を去った。


オレにも、小さい頃は夢があった。

最強のポケモントレーナー。

カントー中のジムを攻略して周り、セキエイリーグで頂点に立つ。


バカバカしい。

13にもなった頃、それはまるで砂場からダイヤのかけらを探すようなものとわかった。

そもそも、オレはポケモンを貰えなかった。
 ▼ 4 1◆2v71vgndRI 18/09/18 00:38:53 ID:Z8gocXkE [4/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
成績上位、将来有望な何人かの才能のある者だけが、ポケモンを貰って旅へ出て行った。

殆どの者はそのまま勉学に励むのだ。


なぜかというとシンプルである。

旅にはお金がかかるからだ。

それこそ、博士に頼まれて図鑑を渡されるなら話は別だが、一般家庭に支払えるような額ではないことは明らかだった。

別に旅なんてしなくても、ポケモンを持つことに問題はないのだから。


だが10歳のオレはポケモンを持たなかった。

最初のパートナーは、旅の相棒と決めていたからだ。


そしてそのまま大人になった。

既に旅に出れる体ではなくなっていた。

『ポケモンを貰う』そのチャンスを失ったオレは、ただただ勉強し知識を蓄えた、無能に過ぎなかったのだ。
 ▼ 5 1◆2v71vgndRI 18/09/18 00:39:22 ID:Z8gocXkE [5/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
そしてフリーターとして仕事を転々とする日々。

また一つクビが増えた。

当てもなく、煌めく世界から離れ、ビルとビルの間の路地へ。

生まれ育ったヤマブキでさえ、今のオレには眩しかった。


「なぁ、あんたちょっといいか?」


そこで話しかけられた。

そいつは黒い服と帽子で全身を包んでいた。

服の真ん中には、『R』の文字が入っている。


「......お前、R団か?」

「そうだぜ兄ちゃん。あんた今、『絶望』してたな?」

R団。

カントー地方全土に根をはると言う秘密結社。

相手は自分をR団と名乗ったのだ。
 ▼ 6 1◆2v71vgndRI 18/09/18 00:39:55 ID:Z8gocXkE [6/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
「......捕まりたいのか?」

真面目な疑問だった。

なんでこいつはこんな分かりやすく話しかけるんだ。

せめてマシな変装でもしてくれ。

「いや、俺はわかる。あんたの目、それは絶望してる目だ」

「人のことを目だけで推量しないでほしいね」

「じゃあどうなんだい?今、幸せかい?」


少し間を開けて、オレは言った。


「ああ、幸せだとも」


相手はニヤリと笑った。

「じゃあ苦しくなったら、ここに来てくれ」

そう言ってオレの手に、紙切れを握らせた。
 ▼ 7 1◆2v71vgndRI 18/09/18 00:40:17 ID:Z8gocXkE [7/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
数日後。

紙切れには住所が記していた。

というか、それはゲームセンターだった。

入り口に、あいつはいた。


「来ると思ってたよ」

「......」


踵を返したそいつの後ろについていく。

R団の服だった。


「心配すんな。ここは俺たちのもんだ」

「そうなのか」


そうなのだろうな。

従業員しか入れない筈の部屋に入っていく様はある意味愉快だった。
 ▼ 8 1◆2v71vgndRI 18/09/18 00:40:41 ID:Z8gocXkE [8/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
そこで、R団の服と、一つのモンスターボールを渡された。


「歓迎するよ」

「歓迎されるよ」


そこで握手を交わした。

それが、R団としてのオレの始まりだった。

内心は浮き立っていた。


モンスターボールをいとも容易く渡されたことと。

同じ服を着る同僚がいることにだ。


R団と言えばカントーの人間で知らない者はいない。

一年間で起きる犯罪の8割にはR団が絡んでいると言われている。

団員数は5000を超える超大型犯罪組織。

オレはなんだか強くなった気がした。
 ▼ 9 1◆2v71vgndRI 18/09/18 00:41:06 ID:Z8gocXkE [9/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
オレに支給されたのはドガースだった。


「お前も嫌われ者か?」

「ドガ?」


一般的に毒・悪・霊タイプのポケモンは嫌われる傾向がある。

人にとって害であることが殆どだからだ。

しかしこの場においては『害』こそが『益』となる。


「オレは社会の『害』だったらしい」

「ドガー」

「よろしくな」


なんだか通じ合った気がした。

ゲームコーナーの裏側がオレの働く場所だ。

同じR団員はみんなどこかしらに瘤を抱えた者たち。

仲良しのやつもできた。
 ▼ 10 1◆2v71vgndRI 18/09/18 00:41:40 ID:Z8gocXkE [10/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
2ヶ月ほど経った日。

脅威は現れた。


赤い帽子を被った少年はレッドと名乗り、並み居る団員達をなぎ倒していった。

オレも例外に漏れず倒された。


彼の瞳にはオレは、オレとして映っていなかった。

数いる有象無象の一人。


そして、そのまま職場を離れることを余儀なくされた俺たちは、身分を隠して行動した。


倒されたことに、ドガースは悔しさを感じていた。

『意地っ張り』らしい。


あのスカウトマンが言っていた。

『近々、大仕事がある。上位の下っ端だけがそれに参加できる。目指してみないか?』
 ▼ 11 1◆2v71vgndRI 18/09/18 00:42:02 ID:Z8gocXkE [11/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
無気力だったオレに目標ができた。

ドガースに触発されて、柄にもなく修行を始めた。

やがてドガースはマタドガスに進化した。

仲の良かった同僚達は、オレから離れていった。

無気力だから来たのに、気力を漲らせようとしているオレが鬱陶しくなった。


そんなことだろう。


だがオレの内心はもっと黒かった。


あの少年は主人公だ。

自信に満ちた目。

鍛え上げられたポケモン。


ズタズタにしてやりたかった。

敗北者の思いを、勝者へとぶつけて、引き摺り下ろしてやりたかった。
 ▼ 12 1◆2v71vgndRI 18/09/18 00:42:38 ID:Z8gocXkE [12/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
運命の日。

大企業シルフカンパニーをR団が占拠した。



集められた精鋭の一人にオレは。



いなかった。




ゴミが努力をしたところでこんなものだと、笑われた気がした。


程なくシルフカンパニーは落ちた。

あまりにも呆気ない。

呆気ない最期だった。


団員服はゴミの日に出した。
 ▼ 13 1◆2v71vgndRI 18/09/18 00:43:11 ID:Z8gocXkE [13/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
その後、何番道路かも忘れたが、あの少年と出会った。


俺は通りすがりのトレーナー。

彼はR団を壊滅させた英雄。


どちらが勝つかなど考えるまでもなかった。


ピカチュウ一体に、鍛えたマタドガスは敗れた。


賞金を渡して、聞いてみた。


「オレのこと覚えてる?」

少年は少し考えて言った。

「すみません」

笑いながら言われて、なんとなく笑ってしまった。


「もう一つ聞いていいかい?」

「何ですか?」
 ▼ 14 1◆2v71vgndRI 18/09/18 00:43:32 ID:Z8gocXkE [14/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
「どうしてR団と戦ったんだい?」

「俺の信念です」

「信念?」

「ポケモンを道具に使うヤツは、許さない」

「なるほど」


信念か。

それが人生の境目だったのかな?


「R団でしか、生きられない人もいるかもよ?」

「ポケモンを傷つけてしか生きれない?」

「いや、誰しも君みたいにはなれないってことさ。

君は信念と言うけども、それは主観でしかない。

正義は見る向きで姿を変えるのさ」

「?」

「わからないか。まぁいい。聞いてくれてありがとう」
 ▼ 15 1◆2v71vgndRI 18/09/18 00:44:00 ID:Z8gocXkE [15/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
握手を求めて、オレは手を伸ばした。

少年は笑って握り返してくれた。

去り際、自転車に跨って彼は言った。


「お兄さんは、大丈夫だと思う」

「?」

「マタドガスが楽しそうだった」


そう言って彼は、去って行った。


数ヶ月後、リーグ優勝の話を聞いた。
 ▼ 16 1◆2v71vgndRI 18/09/18 00:44:48 ID:Z8gocXkE [16/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
世界は残酷だ。

しかし全てを与えてくれる。


オレにとってはそれがR団だった。

世界の一部にR団もいた。


それだけの話さ。




とりあえず、こいつを可愛がってやろう。



それだけで幸せじゃないかな。





 ▼ 17 1◆2v71vgndRI 18/09/18 00:45:03 ID:Z8gocXkE [17/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
 ▼ 18 ンパン@ピーピーリカバー 18/09/18 00:46:18 ID:iqOwFEuY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 19 トライク@ピーピーマックス 18/09/18 00:47:10 ID:50UElnhY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 20 のアイツ◆Jx1Vgc1Dso 18/09/18 00:48:30 ID:0BAo2PeU NGネーム登録 NGID登録 報告
面白かった。乙
 ▼ 21 ーロット@ザロクのみ 18/09/18 08:20:48 ID:6Fjsjnn2 NGネーム登録 NGID登録 報告
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