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SS

【スワップSS】ガバイト「おい、起きろ」メレシー「……」

 ▼ 1 XSB9B4V/6I 18/10/20 18:31:20 ID:1ogADBVQ [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
鈍い衝撃で目を覚ますと、私はどこかの洞窟に倒れていました。

そして、目の前には見慣れぬポケモン。
静かに私を見下ろして立っていました。



「やっと気がついたか」



鋭い眼光に傷だらけの体。
見るからに気性の荒いポケモンだと感じた私は、警戒心を込めた視線を返しこう問いかけました。



「あなたは誰ですか?」
 ▼ 2 XSB9B4V/6I 18/10/20 18:32:11 ID:1ogADBVQ [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
このSSは下記の企画に参加します↓
【SS企画】スワップSS祭 企画本スレ:ポケモン掲示板(ポケモンBBS) http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=897810

続きはシャッフルして決めた相手が書いてくれる企画ですので
しばしお待ちください
 ▼ 3 tgqAAlSPpw 18/10/24 21:06:04 ID:TDhsl622 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
このSSを書くことになりました。
頑張って書いていこうと思うので、よろしくお願いいたします。
 ▼ 4 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:40:25 ID:I3mIMbIc [1/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告





約束、してください


あの木の実が全て地に落ちる頃


私は貴方に問うでしょう


貴方は何も答えなくていい


だけど、どうか悲しまないで


それはきっと、貴方が未来へ羽ばたく一番の魔法だから




 ▼ 5 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:40:46 ID:I3mIMbIc [2/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




「……きろ」

「……?」

誰かの声が聞こえます。

心地よい響き、身体中に染み渡るような声。

「おい……きろ」

「う、ん……」

誰かの声がより鮮明になって聞こえてきます。

さっきまでよりも、だいぶ近く……声の主は、すぐ傍にいるのではないでしょうか。

思わず瞼をぎゅっとして、私はゆっくりと目を開けていきます。

「ん……やっと起きたか」

「あ……」

飛び込んでくる柔らかい光、それを少し遮る傷だらけの巨体、そしてつい最近見慣れた景色……

「おはようございます」

「おはようって時間じゃねぇけどな。でも、ま、おはよう」

目の前に立つ彼はそう言ってからからと笑います。

厳つい顔から作り出されるその表情は正直違和感に満ちているのですが、どうしてでしょう、私はそれを不快と感じる事はないようです。それどころか、むしろ好意的な感情さえ湧いてきます。

表情だけではありません。彼の一挙一動が、私にはとても微笑ましいものに映るのです。
 ▼ 6 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:41:05 ID:I3mIMbIc [3/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「さて、今日はちょっと外に出てみようと思うが……いけそうか?」

彼が、やや目を細めて訪ねてきます。それは、私からどういった返答があるか図りかねている、といったような顔でした。

その理由を、私は……知っています。いえ、正確に言えば、思い出した、という方が正しいでしょうか。

「……たぶん、大丈夫です。体調はもとより問題ありませんから」

「そうか」

私の返答に、彼は目を閉じて短く頷きました。良いとも悪いともいえない、複雑な表情をしています。

「あの」

「なんだ?」

「外というのは、その、この洞窟の外、という事ですよね?」

「他にどこがある? ここは俺の家、この家から出ればそこはどこであろうと外ということになる」

「いえ、それはわかりますが……」

私は最後まで喋らないうちに、言いよどんでしまいました。

彼に遠慮したわけではありません。自分が一体何を言おうとしているのか、不意にわからなくなったのです。

「……おい?」

「え、あ……」

急に黙り込んでしまった私の顔を、彼が覗き込みます。私はそれに気づき顔を上げますが、ついすぐに視線を逸らしてしまいました。

「……大丈夫、そうだな」

「はい、たぶん」

「なら、いいんだ。大丈夫だとしたら……」

彼もまた、言葉の最後をよどませてしまいます。でも、その理由は私のそれとは違うでしょう。彼はきっと、私に遠慮して最後まで話さなかったのでしょうから。
 ▼ 7 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:41:22 ID:I3mIMbIc [4/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「ガバイト」

「あん?」

「いえ……呼んでみただけです」

「そうか……そうか」

彼は私の言葉に何度も何度も頷きます。その表情は先ほどまでとは違い、どこか満足そうなものでした。

「うし! じゃあ、早速出かけるとするか」

「えっ、今からですか?」

「こういうのは思いついた時にすぐ行動に出るもんだ。それが一番なんだ……そうだよな?」

「はぁ」

その理屈はよくわかりませんが、彼がとても嬉しそうなことだけはわかります。ですので私は彼がその気分を損ねてしまわないよう、その言葉に対して何か言う事はしませんでした。そうするのが一番だと思いました。

「準備は……元々何もすることないか」

「ですね」

「よし、じゃあ出かけるぞ。そこの森へ向かう」

「はい」

彼は拳をぐっと握り、意気揚々と洞窟の出入り口に向かっていきます。私はその背中を、なんとなく少しの間眺めていました。

「おい、何やってんだ置いてくぞ」

「あっ、はい。今行きます」

流れてくる風がちょっと冷たい……なんてことない、そんな日のこと。
 ▼ 8 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:41:41 ID:I3mIMbIc [5/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




秋の寒風が木々の小枝を優しく揺らし、まだ夏の暑さを覚えている太陽がじわりじわりと熱気を放って昼時を知らせています。

もうほとんどの木の葉は散ってしまい森の風景はどこか物悲しい空気で満たされていますが、私はそれを寂しいとは思いません。

枯れ木も山の賑わい……とまでは言いませんが、たとえ葉や花をつけていなくとも樹木が沢山植わっているだけでここは森なのだなと理解する事ができ、私にはこれはこれで森が賑わいを見せているような気がするのです。

「どこまで歩くのですか?」

「もうちょいかな。あそこに岩山が見えるだろ、とりあえずあの辺りまで行くぞ」

彼には何か目的があるのでしょう、私の質問など想定内だと言わんばかりに答えてくれます。

辺りの景色に目を奪われ気づいていませんでしたが、彼はどこかに向けて一直線に歩いているようでした。

「……この辺りも、結構かわっちまったな」

「え?」

不意に、彼が話を振ってきました。

そして、私はその話に対して答えを用意する事ができません。

「この辺りには昔、大きな岩山があったんだ」

「そうなんですか」

「……ああ」

彼は私の返事が思わしくなかったのか、ため息混じりに頷いて見せました。心なしか、歩く速度もやや遅くなった気がします。

とはいえ、私は返事をしただけ。どうして彼が落胆したようになっているのか、見当もつきません。
 ▼ 9 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:42:01 ID:I3mIMbIc [6/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「……その岩山にはな、色んなポケモンの棲家があったんだ」

暫く歩いて、再び彼が話し掛けてきました。

先ほどの話の続きのようです。私は半端な返事をせず、彼の言葉に耳を傾けます。

「中でも、岩山の中で広い棲家を作っていたポケモン達は、それはもう凄い文化を持ってたみたいだ」

「凄い文化?」

「いや、文化って言っていいのかわからないけどな……大きな宝石を持っていたり、協力して磨いたりしてたみたいだ」

『そうなんですか』と答えかけて、言葉を呑み込みます。きっと、その返答は彼を再び不機嫌にしてしまうと思ったからです。

でも、だからって黙っているのも印象が悪いでしょう。何か言葉を返そうと思うのですが……

「……ま、色んなポケモンがいるよな」

だけど彼は、私が返事をするよりも先に、そう話を締めくくってしまいました。

機嫌を損ねたというわけではなさそうですが、この話をしている間彼は一度もこちらを向いてはくれませんでした。

「(私、やっぱり……)」

彼と二匹、裸の木が立ち並ぶ森を奥へ奥へと歩いていきます。

どこを見ても同じような風景にしか見えませんが、不思議と飽きることはありませんでした。それどころかむしろ、わくわくするような、むず痒いような、そんな気がします。

「あれ?」

「ん?」

ふと、急に先ほどの話に対しての疑問が浮かんできました。

どうしてでしょう、私はそれを彼に尋ねてみたくなりました。
 ▼ 10 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:42:19 ID:I3mIMbIc [7/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「その、ここに棲家を作っていたポケモン達は……どこへ行ったのでしょう?」

単純な疑問。

彼の言葉はどれも過去形で、実際にこの光景を目にしている今の私にもここに多くのポケモンが棲家を作って生活しているようには見えません。

つまりは、もうここには誰もいないのだということ。なら、こう思うのはごく自然のことだと思います。

「……もうここには、誰も残ってないだろうな」

「それは、お引越しをされたということですか?」

「…………そうかもしれないな」

彼は少しだけ足を止め、私の問いに短くそう答えて、また歩き始めました。

何か深い事情でもあったのでしょうか、彼の声色はお世辞にも陽気なものとは思えませんでした。

今度は機嫌を損ねたというわけではないのでしょうか、彼の歩みはむしろ速くなり、軽やかに地面を蹴り進みます。

本当にどこへ向かっているのでしょう。心が踊りだすような、わくわくするような場所があるのでしょうか。まだ見ぬ目的地に、期待感が高まっていきます。

だけどどうしてでしょう、私の心の底には、それと同じくらいの不安が広がっていました。
 ▼ 11 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:42:37 ID:I3mIMbIc [8/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




「わ……」

どれくらい森を進んだでしょう、私達は小高い丘の上にやってきました。

思わず身震いをしてしまいますが、それは一層冷たく感じる風のせいだけではありません。ここから見える光景に、私は圧倒されているのです。

この辺りの森一帯を見回せる場所。季節を考えれば仕方が無い事ではありますが、やはりどこか哀愁漂う風景ではあります。だけど、私はこれを、とても美しいと思いました。

そして、どうしてでしょう。外気の気温は下がる一方なのに、私の心はじんわりと温かくなっていきます。とても不思議な気持ちです。

「……どうよ」

「え、どうっていうのは」

「この景色を見て……何か思うことはないか?」

「思うこと……」

言われて、考えます。

でもきっと、言われてから考えるようでは出てこない答えなのでしょう。私は何も言えず、それっきり黙り込んでしまいました。

「……ここにはな、ちょっとした花畑があったんだ」

彼はどこか遠いところを眺めながら、話を始めてくれました。

「お花畑、ですか」

「ああ。まぁ今じゃ跡形もなくなっちまってるけど……鉱石が光る岩肌の隙間に、小さな花畑ができてたんだ」

「それは、とても綺麗だったのでしょうね」

「……そうだな」
 ▼ 12 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:42:56 ID:I3mIMbIc [9/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「その花畑はな、ここいらじゃちょっとしたスポットになっててな。多くのポケモン達が集まる場所でもあった」

「賑やかだったのですね」

「んー」

お花畑はその辺りにあったのでしょうか、彼は丘の一点へ視線を移し、じっと見つめています。

「どっちかっていうと、デートスポットみたいなところだ。恋する二匹が集まって、愛を語らいあう」

「まぁ」

まさか、厳つい彼からそんな話が出てくるとは思いませんでした。でも、おかしいとまでは思いません。何故でしょう?

「ここがこんな風になるちょっと前に……あるポケモンが話をした」

「話ですか」

「そのポケモンは相手のポケモンに、ずっと隣で守ってやると約束した」

「あら、告白ですね。微笑ましい」

「おっ、そう思うか? そうだよな、微笑ましいよな……」

きっと、この場所は素敵なお花畑だったのでしょう。そのポケモン達も、その雰囲気を満喫していたに違いありません。

でも、そんな素敵な場所がなくなってしまったなんて、そのポケモン達だけでなく多くのポケモン達が悲しんだことでしょう。

「この場所は、どうして無くなってしまったのでしょう」

「……ここで激しいバトルがあったからな」

「あら……」

なんとなく、想像はしていた答え。地面タイプのポケモンでもいたのでしょうか、だとしたら技の余波でこの辺りの地形が崩れたのと一緒にお花畑もなくなってしまったのかもしれません。

「……さ、次に行くか」

「まだ先があるのですね」

どうやら目的地はここではないようです。彼はゆっくりと巨体を揺らし始めます。

途中で少しだけ丘の方を振り返りましたが、背を向け再び歩き出してからはもう足を止めることはありませんでした。
 ▼ 13 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:43:51 ID:I3mIMbIc [10/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




次にやってきたのは、せせらぎが耳に優しい川のすぐ近くでした。

川と言ってもそう広いものではなく、あまり深いわけでもないようです。川よりむしろ、近くに生えている大きな木々に目を奪われてしまいます。今では葉を散らし存在感が薄くなってはいますが、その大きな幹が視界に入れば川などそっちのけになるというもの。

「あっ」

木を眺めている間に、彼は川の方へと近づいていきます。彼の目的は、川だったようです。

「綺麗な川だろ」

「ですね。水が透き通ってます」

規模は小さくとも、とても美しい川。私はこの場所をとても好きになりました。

「……ここも多くのポケモン達が集まる場所になってるんだ」

「それは、今もですか?」

「そうだな。ここは今でもポケモンがよくやってくる。春になれば、誰かと出会わない方が珍しいくらいだ」

先ほどの丘と違い、ここはバトルによる被害はなさそうです。バトルはいつどこで起きるかわかりませんから、もしかしたらこの場所もいつか壊されてしまうかもしれません。そう思うとちょっと悲しいです。

「春かぁ」

彼の言うように、春先になれば草花が茂り緑豊かな地となるのでしょう。その光景を見る事ができる日はまだまだ遠いですが、今から楽しみになりました。

「……楽しみか?」

「よくわかりましたね」

「まぁ……」

彼は得意気にするでもなく、むしろあまり浮かない顔をしています。未来に期待するよりも今を楽しめということでしょうか。
 ▼ 14 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:44:08 ID:I3mIMbIc [11/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「この場所でも、やはり色々あるのですか?」

なんとなく気まずくなってしまったので、私は話を変える事にしました。

「色々ってのは」

「さっきのお花畑みたいに、です」

「そうだな……ここでも、同じような話がある」

彼は、ぼんやりとした表情で空を仰ぎます。

「似たような話さ……ここでもあるポケモンが、隣でずっと守ってやると約束をした」

「沢山のカップルが生まれる森ですね」

「……そうだな」

別々のポケモンか、あるいは同じポケモンか。自然の中では当たり前と言えるかもしれない愛の語らいも、こうして話を聞くとなんだかむずむずするものがあります。

もし自分が恋愛をしたら、なんて考えた事もあったと思います。その当時は、そういう事を考えては顔を赤らめたものでしょう。

だけど……今はもう、そういう事は考えられません。考えるべきではないのです。

それでも、もし赦されるのなら、そんな未来がありえるのだとしたら、私は…………

「ここはまぁ、もういいだろ」

「ひゃっ!」

「? どうかしたか?」

「あ、いえ……」

急に声をかけられ、思わず飛び上がってしまいました。

「そうか……次行くぞ」

「はい」
 ▼ 15 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:44:25 ID:I3mIMbIc [12/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




背の低い草原地帯の一角に岩肌が露出している場所がありました。その前で、彼は足を止めます。合わせて私も、彼の隣で動きを止めました。

「この場所は、何がある場所ですか?」

色んなところを見て回るのが楽しくなってきた私は、自分から彼に問いかけました。彼は何故か嬉しいような寂しいような複雑な表情を浮かべていましたが、すぐに岩場へ目をやり、話を始めてくれます。

「ここはあるポケモンが、あるポケモンと約束を交わした地なんだ」

「また約束、ですか」

「ああ。よく見てみろ、あの岩場には光るものが沢山あるだろう?」

「あ、ほんとですね」

意識して見てみればすぐにわかります、太陽の光を鋭く反射する紫色の水晶が幾つも露出していました。

この場所はこれまでに見てきたどの場所よりも質素で、草原を駆け回っているポケモン達でさえ見落としてしまうような所ですが、私にはとても素敵な場所に思えました。

それにどこか……懐かしい感じがします。どうしてでしょう、初めて来た場所なのに。

「ここでは、どんな約束が交わされていたのですか?」

「ここではな……」

彼は空を見上げ、目を閉じました。

静寂。

私は彼が話し始めるのを、黙ってじっと待っていました。

「ここではな、あるポケモンがあるポケモンに、もっと沢山の、数え切れないくらい沢山の水晶を見せる約束をしたんだ」
 ▼ 16 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:44:41 ID:I3mIMbIc [13/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
彼は岩場まで歩き、手近の水晶を軽くひとなでします。気のせいでしょうか、それに呼応するように、水晶がきらりと太陽の光を一層強く反射したように見えました。

「光るものが好きなポケモンはその約束に喜んだそうだ。それならばと、是が非でも相手を守らなければと改めて意気込んだらしい」

「いいですね、そういうの」

「っていうと?」

「なんていうか……ただ与えたり与えられたりするだけの関係じゃないっていうか、損得勘定でものを言いたくはないのですけど、どちらにも目的があるというか利益があるというか」

「あぁ、まぁ言いたい事はわかる」

どちらか一方にだけ良い事がある関係なんて、長くは続かないと思うんです。恋愛でも友好でも、ビジネスの関係なんて特にそうではないでしょうか。

「……まぁ、その約束は果たされることはないけどな」

「え?」

「よし、どうだちょっと休んでいくか?」

「あ、えっと、そうですね。もう少しこの水晶を眺めていたいですし、そうしていただけると」

「じゃあ、十分くらい休憩な」

「えらい短くないですか」

「ははは、それくらいにしておかないと後が辛いんだよ。後がな……」

彼は岩場のすぐ横の草原に腰をおろし、静かに目を閉じました。仮眠でしょうか、邪魔するのも悪いと思い、私は水晶に集中することにしました。
 ▼ 17 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:45:01 ID:I3mIMbIc [14/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「ほんとに、綺麗……」

なんということもないただの水晶ではありますが、自分がメレシーである事を差っ引いても、これらはとても美しいと断言できます。

いつまでも、ずっとでも眺めていられそう。本当に、こんなに素敵な場所が近くの森にあるなんて。

「(私は知らなかった……のかな)」

なんとなく、顔を上げて空を見ます。

澄み渡る空。いつの間にか散り散りになっていた雲さえ見当たらない、気持ち良い快晴が広がっています。

天気も、景色も、雰囲気も、どこをとっても素敵で心地良い状態。だけど私は、ここにいるのに、どこか別の遠い場所からこの地を見ているようで……

「……そろそろ行くぞ」

「あ」

私の視界を、彼の身体が覆います。もう仮眠は終了したようです。

「あの……」

「なんだ?」

歩き出そうとする彼を、私は呼び止めました。

「えっと、その、約束をされたポケモン達のことですが……」

「ああ」

「幾つもの約束を結んで、それらはきちんと守られたのでしょうか……」

それらすべてが、同じポケモン達による約束であると思っての問いかけ。訊かれることは想定内だったのでしょうか、彼は目を閉じ、少しの間考える素振りを見せます。

「……行くぞ」

でも、彼は私の問いかけに答えをくれませんでした。ゆっくりと踵を返し、次の目的地に向けて歩き始めます。

「約束、か……」

そのポケモン達が結んだ、幾つもの約束。本来であれば、果たされるはずであった約束。どうして、それが叶わなかったのでしょう……私はその答えを、知っている気がします。
 ▼ 18 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:45:31 ID:I3mIMbIc [15/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告





あれから、どれ程の距離を歩いたでしょう。

岩場を越え森を抜け、小高い丘を突っ切った先に、一本の大きな木がぽつりと立っている場所がありました。

彼はその少し手前で立ち止まり、その木を見上げています。つられて私も、同じようにその木を仰ぎました。

暫くの沈黙。なんとなく彼に声をかけることができず、私はただ黙って成り行きに身を任せることにしました。

「……そのポケモンはな、この場所で、彼女に出会ったんだ」

やがて彼は静寂の海に一石を投じ、視線を地へ落とします。

だけど彼は、それからこちらを向くことはありませんでした。

「この先の、小さな祠になっている所で彼女と出会い、そして約束をした」

「また約束、ですか」

「それが最初の約束だった……ヤミラミに棲家を襲われ傷ついた彼女を救ったそいつが、悲願だった自身の進化を諦めて彼女と居る事を選んだ……そんな、約束だ」

「……そう、ですか」

「彼女は……群れの中で生活をしていた。でも、天敵に棲家を荒らされ、命からがらここまで逃げてきた。そこで、そいつと出会ったんだ」

「はい」

「そいつは、強くなりたかった。大空を自由に飛びまわり、圧倒的な力で正義を貫きたかった。それを目標に生きてきたし、それ以外の事は何も考えられないはずだった」

「はい」

「……そこでそいつは酷く怯えていた彼女と出会い、彼女を守ろうと決めた。だけどそれは、自分の目標の妨げになってしまう事。光物を追いかけてばかりいるのは未熟の証、そいつの進化はそれを卒業する事で成し遂げられる気がした。少なくともそいつは、だけどな」

「はい」
 ▼ 19 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:45:48 ID:I3mIMbIc [16/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「悲願の進化を前に、また暫くの我慢を余儀なくされたわけだが……後悔はしちゃいない。それもまた自分の一生として、悪くないと思ったんだ」

「はい」

「だけど……どうしてだろうな、運命って、悪い事が起きた時にこそよく聞く言葉だと思う」

「……そうかもしれません」

「この祠で交わした約束も、丘の花畑で交わした約束も、川原で交わした約束も、水晶の岩場で交わした約束も、きっと果たされることはない。だって彼女は……襲撃に遭ったショックからか、たびたび記憶をなくしてしまう体質になってしまったのだから」

「…………」

「約束をしては忘れてしまい、また約束をして、それもまた忘れて……もう何度、それを繰り返したんだろうな。酷いときは、次の日には全部失われてしまっていた」

「はい……」

「でも、彼らは諦めなかった。いずれ失われるとわかっていても、重ねた努力が徒労に終わるとしても、何度も、何度でも、流れ落ちる記憶の砂を掬っては流し込んだ」

「はい……」

「だけどな……何度もそれを繰り返していたある日、彼女はそいつに言ったんだ。諦めないと誓った彼に、たくさんたくさん涙を流して、笑顔を作って、一生懸命、彼に話したんだ……」

一陣の風が、私達の身体にぶつかって通り抜けていきます。それはまるで、この場所で立ち止まっている私達の背中を押しているようでした。

彼も、それを感じたのでしょうか。彼は言葉の続きを紡ぐことなく、ゆっくりと前に足を踏み出しました。
 ▼ 20 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:46:30 ID:I3mIMbIc [17/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告





『約束、してください』




大きな木の麓まで歩くと、目の前に小さな祠が見えました。

彼は少しだけ木の上を改めて見上げましたが、すぐに祠に向けて歩き出しました。


『あの木の実が全て地に落ちる頃』


彼が振り向きます。

彼女と出会ったこの場所で、約束をしたという祠の中で。

彼の表情は、意外にも穏やかなものでした。

もう覚悟を決めているからでしょうか、整理をつけることができたからでしょうか。いずれにしても、彼は真っ直ぐな瞳でこちらを見ています。

ふと見た木はまばらに木の葉を着飾るばかりで、木の実はひとつも生っていませんでした。


『私は貴方に問うでしょう』


彼が、呼んでいます。

最後の話をしようと、無言で私を見つめています。


『貴方は何も答えなくていい』


ずきりと頭が痛みます。

はやく彼のもとへ向かわなくては……はやく彼と、言葉を交わさなくては……


『だけど、どうか悲しまないで』


不意に襲い掛かる頭痛に、身体がふらつきます……視界も若干ですが、ぼやけてきました……

はやく、行かなきゃ……彼の待つ、祠へ……はやく……


『それはきっと、貴方が未来へ羽ばたく一番の魔法だから』


もう少し……あと少しで……彼の、ところに…………

でも……これで、いい、んだよね……これでやっと……彼は、空へ…………
 ▼ 21 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:46:50 ID:I3mIMbIc [18/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告






「おい、起きろ」

「……」


鈍い衝撃で目を覚ますと、私はどこかの洞窟に倒れていました。

そして、目の前には見慣れぬポケモン。
静かに私を見下ろして立っていました。



「やっと気がついたか」



鋭い眼光に傷だらけの体。
見るからに気性の荒いポケモンだと感じた私は、警戒心を込めた視線を返しこう問いかけました。



「あなたは誰ですか?」





 ▼ 22 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:47:30 ID:I3mIMbIc [19/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




その場所は、大きな木が目立つちょっと変わった所でした。

目を覚ました私はすぐ近くにいたポケモンに驚き、恐る恐る声をかけます。

でも……そのポケモンは私の問いかけに対し、何も答えてはくれませんでした。

私が生きていることを確認して満足したのでしょうか、無言でゆっくりと歩いて私の横を通り過ぎ、やがて見えなくなってしまいました。

よく意味がわかりません。私はあのポケモンに、助けられでもしたのでしょうか。目を覚ますまでの記憶が曖昧すぎて、何も思い出せそうにありません。

全く見慣れぬポケモン。見るからに気性が荒そうで、厳ついポケモン。

だけど、どうしてでしょう。私は、不思議と彼を、怖ろしい存在だとは思いませんでした。

まぁ、私を助けてくれたのであれば、とても失礼なことを思っているわけですが……

ともあれ、どことも知らない場所で目を覚ましたわけで。ここは、住むには心地よさそうな場所ではありますが、誰か他のポケモンが使っていたりするのでしょうか、確認してみる必要がありそうです。

しかし、この辺りは鉱石が豊富なようで、岩や地面の性質も私が暮らしていくのにぴったりなものばかり。できればこの場所を棲家に、新たに生活を始めたいところです。

「色々用意しないとね……地面を掘ったり、敵よけの仕掛けを作ったり、あと……」

ふと、私の脳裏をあるものが過ぎります。

どうしてでしょう、私はそれを、とてもたくさん集めておかなければいけない気がしました。

「数え切れないくらい沢山の、水晶…………あれ?」

ぽつりと、涙が地面に流れ落ちました。

泣きたいわけじゃないはずなのに、悲しいことなんて何一つないはずなのに……涙が溢れて止まりません。

「あはは、おかしいなぁ……泣いてる場合じゃ、ないんだけどなぁ……」

ふと、なんだか懐かしい気持ちが一瞬ですが全身を駆け巡ったような気がします。よくわかりませんが、水晶を集める事はとても大切なことだと感じている自分がいます。

どうして、なんのために、誰のために、何一つわかりはしませんが、私はこれから水晶を集めておこうと心に決めました。

数え切れないくらい、沢山の水晶。集めきれば、きっと何かが起きると、そう信じて。
 ▼ 23 tgqAAlSPpw 18/11/02 23:50:35 ID:I3mIMbIc [20/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



おしまいです。
思ったのと全然違うと言われそうですが……
◆XSB9B4V/6I様、素敵な1レス目をありがとうございました。
お読みくださった方、ありがとうございました。
 ▼ 24 XSB9B4V/6I 18/11/05 03:17:33 ID:gDuEhcIg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
なんて美しいSSなんだ……

このSSの冒頭はガバイトの図鑑説明文を知っているかどうかで内容が左右されることを意図して書いたのですが、そこもばっちり回収されてますね。
1レス目も上手く活かして貰えたし、何より私の好みの作風ドストライクでもう最高でした!

◆tgqAAlSPpwさん、素晴らしい物語をありがとうございました
 ▼ 25 トラポット◆Pcf6Vw29GM 18/11/05 17:48:27 ID:uRFIbGYI NGネーム登録 NGID登録 報告
乙です!
まず最初の邂逅を初対面じゃなくしたところから発想がすごいし、一つ一つの会話をとっても雰囲気というか感情の込め方が綺麗
繰り返し読みたくなる話でした
雑ですが挿絵(?)描かせてもらったので上げます
 ▼ 26 tgqAAlSPpw 18/11/05 22:31:52 ID:x/7YtUNE NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
>>25
素敵なイラストをありがとうございます。
大切にします。
 ▼ 27 XSB9B4V/6I 18/11/07 15:09:32 ID:RdDs35Tg NGネーム登録 NGID登録 報告
>>25
こっちも描いてくれてたんですね
ありがとうございます!
雰囲気とても好き
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