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SS

【SS】夢といっしょに

 ▼ 1 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 02:43:14 ID:Rod6vmcU [1/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 『歩き続けて、どこまで行くの?』


この世の全てを消し飛ばすかのように、風が吹き荒れる。
ポケモン達はどこかへ消え去り、緑豊かな景色は瞬く間に歪む。
何もかもが、壊れていく。

ああ。あんなに綺麗な、青空だったのに。

灰色になった空の真ん中。大きな穴が開き、私の意識を吸い込んでいく。

無かった。何も、無かったんだ。

もう、夢は終わり。

さようなら──
 ▼ 2 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 02:45:26 ID:Rod6vmcU [2/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「!!」

窓から差し込む朝の光。机の上に置かれたカバン。
足元で眠るポケモン、フシギダネ。

ここは、ポケモンセンターの一室。
そういえば昨日の夜、この部屋に泊まったんだけ……。

思わず飛び起きてしまった。何だかヘンな夢だったなぁ……。あれ? どんな夢だったっけ?
「ヘンな夢」っていうのは、漠然と覚えているけど。詳しい内容が思い出せない。

……まぁ、どうでも良いか。夢なんて。


──ほんの少し、とても大事な何かを見落としているような、不思議な違和感を覚えた。


「ダネ……?」

「あ、フシギダネ! おはよう!」

次の瞬間には別のことで頭がいっぱいになって、ヘンな夢の記憶は、意識の奥へと追いやられてしまったけど。
 ▼ 3 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 02:48:13 ID:Rod6vmcU [3/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

腰まで伸びた長い髪を整えつつ、身だしなみをチェックする。
水色のノースリーブに赤いミニスカート、ルーズソックス。
旅をするには、ちょっぴり軽装だけど……でも、トレーナーだって女の子。
オシャレくらいしたいよね。

「ダネダネ〜!」

フシギダネが、カエルみたいにぴょんぴょんと飛び跳ねる。似合ってるよ、って言ってくれているのかな。

私のふるさとで貰った、初めてのポケモン。それがフシギダネ。良い子で頼れる、大切なパートナー。

……よし。身だしなみはカンペキ。

「そろそろ行こっか!」

「ダネ!」

モンスターボールをフシギダネの方に向け、収納する。
黄色いカバンを肩に掛け、流行りのスニーカーを履く。
帽子をぎゅっと被るのが、冒険の始まる合図。

パートナーの入ったボールを、ポケットの中へ押し込む。
今日はどんな冒険と出会えるかな。
淡い期待と、少しの不安を胸に抱きながら、私はドアノブに手を掛けた。
 ▼ 4 タテトプス@GBプレイヤー 18/12/15 20:34:47 ID:MN9k1zEE NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 5 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 22:50:37 ID:Rod6vmcU [4/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「たいあたり!」

私の声が森に響くと同時に、フシギダネは相手に向かって突っ込んでいく。
しかし、その先の相手──ピカチュウは身軽にそれを躱し、フシギダネの後ろへ回り込む。

そして。

「ピイカァァァ……チュウゥゥゥ!!」

赤い頬から、目がくらむ程の眩しい電気を放出する。でんきショック。

後ろからの奇襲に驚いたせいか、フシギダネはそれを避けることが出来ない。
体に電気が直撃する。……けど。
 ▼ 6 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 22:55:19 ID:Rod6vmcU [5/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「フシギダネ、大丈夫?」

「ダネッ!」

私の呼びかけに、元気な声で答えるフシギダネ。あまりダメージは無いみたい。

それもそのはず。草タイプのフシギダネに、電気タイプの技の「でんきショック」は、効果は今ひとつ。

タイプ相性はこっちの方が有利。……でも、このままだとピカチュウの素早さに翻弄されて、手も足も出なくなってしまう。

……それなら。

「つるのムチで動きを止めて!」

フシギダネの体からするするとつるが伸び、ピカチュウを狙う。
最初は軽く躱していたピカチュウもスタミナが切れ始め、動きが鈍くなってくる。

そして遂に、つるがピカチュウの足を捕まえた。

今だ!
 ▼ 7 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 22:58:01 ID:Rod6vmcU [6/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「そのままたいあたりっ!」

つるで足を捕らえたまま、突っ込んでいくフシギダネ。
ピカチュウはすぐさまでんきショックの構えをとるも、一足遅く。

空に向かって、大きく吹っ飛ぶピカチュウ。
空中では身動きが取れない。これはチャンス。

きっと出来る。 絶対に……ゲットする!

モンスターボールを握り締め、願いを込める。

……捕まってっ!

狙いを定めて、モンスターボールを投げる。

これは、出来る──
ゲットできる!
 ▼ 8 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 22:59:49 ID:Rod6vmcU [7/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……あれ?」

──それがピカチュウに当たれば、の話だけどね。

ピカチュウに向かって投げたはずのボールは何故か左の方へ進み。
そのカプセルの中に何かが入ることも無いまま、地面にぽとりと落ちた。

結局ピカチュウは自力で着地し、森の奥へと逃げていった。
 ▼ 9 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 23:03:41 ID:Rod6vmcU [8/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「うーん、ピカチュウ、ゲットしたかったな……せっかくの初ゲットのチャンスだったのに……」

「ダネー……」

「苦労して見つけたのにな……」

思ったよりピカチュウを探すのに時間が掛かった。
今日中に次の街へは辿り着けそうにない。だから、今夜は森で野宿する。

……本当は、野宿とかあんまりやりたくないけど。
でも、夜の森を歩くのは危険だから、仕方ない。

明らかにがっかりムードが漂う夕食。

……夕食といっても、今日のご飯は一切れのパンだけ。
たまにはステーキとか食べてみたいな……。
 ▼ 10 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 23:07:00 ID:Rod6vmcU [9/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
……でも、そんなネガティブなことばかり考えていられないよね。

「まぁいっか! 新しい技も覚えられたし」

「ダネ!」

今日のバトルの収穫。それはフシギダネが新しく技を覚えたこと。
その名もずばり「ねむりごな」。相手を眠らせることが出来る技。

「この技使うの、楽しみだねー」

「ダネー」

そう言って笑い掛けると、フシギダネも笑い返してくれる。
ポケモンが隣に居る。それだけで、こんなにも幸せな気持ちになれるなんて──。

明日もきっと、素敵な日になる。だってポケモンが、フシギダネが一緒に居てくれるんだから。

そんなことをぼんやりと考えながら、残りのパンを口に入れ、パジャマに着替えて、歯を磨き。

フシギダネにおやすみの挨拶をして、私は眠りについた。
 ▼ 11 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 23:09:21 ID:Rod6vmcU [10/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


『えー、というわけで、ここの問題はこのように解きます』

『よし、じゃあお前、黒板でやってみろ』

『……え、じゃねーよ。なーに授業中にぼんやりしてんだ』

『こら、周りも笑うなー……しっかり授業聞けよ』

『ここテスト出すぞー、ちゃんとメモっとけー』

 ▼ 12 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 23:11:56 ID:Rod6vmcU [11/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

……ん?

うっすらと目を開ける。テントの中。……そりゃそうだよ、テントの中で寝たんだから。

だんだんと意識がはっきりしてくる。……ああ、夢。夢を見たんだ。
またヘンな……え? 「また」……?

「ダネーっ!」

「わっ!? お、おはよ!」

いつにも増してテンション高めなフシギダネ。
……そっか。早く「ねむりごな」を使ってみたいんだね。

夢のことなんてどうでも良い。それよりも今は、冒険の方が先!

「オッケー、すぐ準備するね!」

着替えを済ませ、顔を洗い、口にパンを放り込み、荷物をまとめる。
フシギダネをボールにしまい、肩にカバンを掛け、スニーカーを履き。

帽子をぎゅっと被る。冒険が始まる合図。

今日は次の街に辿り着けたらいいな。

そんなことを考えながら、私は街を目指して歩き始めた。
 ▼ 13 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 23:14:02 ID:Rod6vmcU [12/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ルールは一対一! どっちかのポケモンが戦闘不能になったらバトルは終了! で、良いな?」

「うん、分かったよ!」

「さぁ、俺の自慢のポケモンに勝てるかな? 行け! コラッタ!」

私は今、この短パンのトレーナーにポケモンバトルを仕掛けられている。

もう少しで森を抜けられるけど……でも、せっかくのバトル。
どうせなら、勝ってから進みたいよね!

モンスターボールを握り締め、願いを込める。

……頼んだよ!

「行け! フシギダネ!」

任せて! と言わんばかりに、フシギダネが飛び出す。
 ▼ 14 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 23:17:59 ID:Rod6vmcU [13/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行くぞ! コラッタ、たいあたり!」

「フシギダネ! こっちもたいあたり!」

互いの体をぶつけ合う。少しの間があった後、どちらも一旦引き下がる。
……互角。

「つるのムチで捕まえて!」

「でんこうせっかで避けろ!」

フシギダネのつるが伸び、コラッタを狙う。
しかし、ゆらゆらと動くつるの間を、コラッタは簡単にくぐり抜ける。

コラッタの一撃が、フシギダネにぶつかる。

「どうだい、俺のコラッタは! スピードなら負けないよ!」

そう、相手のコラッタはネズミのようにすばしっこいポケモン。フシギダネの苦手なタイプ。
それにトレーナーに育てられたポケモンなら、昨日のピカチュウのようにはいかない。

……でも、弱気にはならない。だって、こっちには秘策があるんだから!
 ▼ 15 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 23:19:57 ID:Rod6vmcU [14/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「それなら……行くよ、フシギダネ! ねむりごな!」

緑色の粉が舞い上がり、きらきらと輝きながら、ゆっくりと降下する。
……心なしか、フシギダネも嬉しそう。

コラッタは空から降り注ぐその粉を吸い込んでしまい、とたんに眠り始める。

今なら、攻撃出来る!

「つるのムチ!」

「お、おいコラッタ! 目を覚ませーっ!」

そんなトレーナーの声も空しく。
コラッタは一度も起きることがないまま、戦闘不能となった。
 ▼ 16 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 23:21:21 ID:Rod6vmcU [15/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「負けた……うぅっ、悔しい! 君、強いな! あとフシギダネも!」

「ありがとう! 君のコラッタも強かったよ」

「君達なら、きっとポケモンリーグに行けるよ! もしかしたら、チャンピオンにもなれるかもよ!?」

「ポケモンリーグ……うーん、どうかな」

「絶対行けるって! ねぇ、また今度バトルしようよ! 次こそ勝ちたいからさ!」

「……うん! じゃあ、またいつか!」

「おう! お互い頑張ろう!」
 ▼ 17 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 23:25:07 ID:Rod6vmcU [16/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ポケモンリーグ。ほとんどのトレーナーは、そこでチャンピオンになることを目標にしてる。
皆の憧れ。皆の夢。

でも、私は──

「……ダネ?」

「あっ……ゴメンね、起こしちゃった?」

森を抜け、街に辿り着いた私達は、今ポケモンセンターの部屋に居る。
もうそろそろ、日付が変わるくらいの時間だけど……。

……眠れない。

布団の中で、さっきのトレーナーに言われたことを思い出していた。
 ▼ 18 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 23:30:14 ID:Rod6vmcU [17/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ポケモンリーグ。皆がそこを目指している。
そのために、トレーナーとしてポケモンを捕まえたり、育てたりしているんだ。

……でも。私には、夢が無い。やりたいことも無いし、目標も無い。

小さい頃から、周りの人達に流されて、ぼんやりと生きてきた。

思えばトレーナーになったきっかけだって、そんなようなもの。
周りの皆がやっているから。だから何となくポケモンを貰って、何となく旅を始めて。

別に旅は嫌いじゃない。ポケモンも好きだし、バトルも楽しい。
だけど……このまま何も考えずに続けていくのは、何だか違うような気がして。

……本当にこのままで良いのかな。
このまま皆と同じように、ポケモンリーグを目指して良いのかな……。
 ▼ 19 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 23:33:46 ID:Rod6vmcU [18/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ダネ……」

フシギダネが心配そうに見つめる。

「……ゴメンね! ちょっと眠れなくって」

なるべく心配を掛けないように、明るい声で答えた。

……すると。

「ダネっ!」

にっこりと笑うフシギダネ。途端に、上からきらきら輝く緑色の粉が降ってきた。
……これって、まさか……。

突然、瞼が重くなる。頭がしびれて、意識が遠のく。

「────」

私はそのまま、気を失うように眠りに落ちた。
 ▼ 20 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 23:34:52 ID:Rod6vmcU [19/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


『ねぇねぇ! この前のテスト、どうだった?』

『……ふーん、まぁまぁだね……あたし? 聞かないでよ〜』

『あ、こんな所にボール落ちてるー! ……まったく、しょうがないなー!!』

『……あーあ、どこに投げてんの、もう……ん? どうしたの?』

『……ふふっ、君、いっつもポケモンのことばかり話してるよねぇ』

 ▼ 21 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/15 23:36:44 ID:Rod6vmcU [20/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

……。

ぼんやりと目を開ける。

何だか不思議で、でもどこか懐かしい。
上手く言葉に出来ないけど。何だかそんな夢だった、ような気がする。

……いや、それよりも。

「フシギダネ、昨日の夜──」

「ダネ?」

フシギダネがきょとんとした顔を向ける。微塵の悪意も感じられない顔。

……きっと、良かれと思ってやったんだろうな。
まあいいか。そのお陰で眠れたし……。

「……あれ、もうこんな時間?」

部屋にあった時計を見ると、時刻は既にお昼前。昨日寝るのが遅かったからかな。
ともかく、早く支度しないと。

いつものように準備をし、荷物をまとめ、フシギダネをしまう。

肩にカバンを掛け、スニーカーを履き。

帽子をぎゅっと被りながら、外へと向かった。
 ▼ 22 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/16 12:58:25 ID:BraAFaeM [1/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

……ポケモンジムっていうのが、あるはずなんだけどな。

ぼんやりと街を歩きながら、その建物を探す。
トレーナーとして、街にジムがあったら挑戦しておいた方が良いだろうし……。

──昨日の夜、考えていたことが蘇る。

ジムへの挑戦だって、ゆくゆくはポケモンリーグへと繋がる。
結局、周りに流されて。夢も何も無いまま、何となく旅を続けて……。

私は──
 ▼ 23 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/16 13:00:03 ID:BraAFaeM [2/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「…… ……」

不意に肩を叩かれる。振り返ると、赤い服を着て、赤い帽子を被った、私と同い年くらいの男の子が、こっちを見つめていた。

手にはモンスターボールが握られている。……トレーナーかな。

「えっと……」

綺麗に澄んだ瞳。真っ直ぐ前を見つめてる。

──きっとこのトレーナーも、素敵な夢を持ってるんだろうな……。

「……あっ! もしかして、バトル?」

何も言わずに頷く男の子。話すのが苦手なのかな?

まあ、丁度良いや。ポケモンジムの前に腕試しがしたかったし。

「良いよ! ルールは一対一で良いかな?」
 ▼ 24 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/16 13:02:16 ID:BraAFaeM [3/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

モンスターボールを握り締め、願いを込める。

「……行け! フシギダネ!」

「ダネっ!!」

ボールからフシギダネが飛び出す。やる気はバッチリ!

「…… ……」

男の子もボールを投げる。
飛び出してきたのは……。

「ピッカァ!」

……ピカチュウだった。
 ▼ 25 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/16 13:04:13 ID:BraAFaeM [4/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
この前の野生のピカチュウを思い出す。私がゲット出来なかったポケモン。

あの子はゲットしたんだ──。

……でも、タイプ相性はこっちの方が有利! 大丈夫、きっと勝てる!

「フシギダネ、ねむりごな!」

スピードでは敵わない。まずは動きを封じよう。その後──

「…… ……」

「ピカっ!」
 ▼ 26 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/16 13:06:27 ID:BraAFaeM [5/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


──一瞬だった。まさに、電光石火だった。

ねむりごなはいとも簡単に躱された。次の技を指示する間も無かった。
気づいたら、フシギダネはピカチュウの攻撃によって吹っ飛ばされていた。


──目の前が、真っ暗になった。

 ▼ 27 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/16 13:07:40 ID:BraAFaeM [6/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「お預かりします」

お願いします、と言えなかった。
何か喋ったら、きっと涙が溢れてしまうから。

誰にも、何も言えなかった。
フシギダネにさえ、謝れなかった。

何も出来なかった。本当に何も。
 ▼ 28 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/16 13:10:01 ID:BraAFaeM [7/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ポケモンセンターの部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。

──こんな旅に、何の意味があるの?

あんなに強い人が居るのに。

私なんかがポケモンリーグに行ける訳が無いのに。
ポケモンだって、ロクに捕まえられないのに。

夢も無く、目標も無く。
ただ何となく、ぼんやりと旅に出て。ずっと、周りに流されて。

たった一つのふるさとを捨てて。たった一つの命を燃やして。
フシギダネにまで、迷惑を掛けて。

──この旅に、それほどの価値があるの?
 ▼ 29 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/16 13:11:18 ID:BraAFaeM [8/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

どうして私は、旅をしているの?

どうして私は、ここに居るの?

私は一体、何がしたいの?

私は──


 歩き続けて、どこまで行くの?

 ▼ 30 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/16 13:14:31 ID:BraAFaeM [9/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


この世の全てを消し飛ばすかのように、風が吹き荒れる。
ポケモン達はどこかへ消え去り、緑豊かな景色は瞬く間に歪む。
何もかもが、壊れていく。

──いつか見た、ヘンな夢と同じ。


ああ……そうだったんだ。
あの問いかけは、私自身のものだったんだ。

きっと、心のどこかで気づいてた。こんな旅に、意味なんて無いと。

だって──


カエルも。
ステーキも。
ネズミも。

ポケモンの世界には、存在していないのだから。


ポケモンの世界は──
私が見ていた、夢の世界なのだから。
 ▼ 31 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/16 13:18:13 ID:BraAFaeM [10/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

意味なんて、ある訳が無かった。

寝ている間だけの世界に、意味なんてある訳が無かったんだ。


──さっきまで輝いていた青空は、気が付くと灰色になっていた。

大きな穴が開き、私の意識を吸い込んでいく。


もう、夢は終わり。


さようなら、ポケモン──

 ▼ 32 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/16 13:21:36 ID:BraAFaeM [11/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「……」

そっと目を開ける。

無機質な天井。机の上に置かれた宿題。枕元の目覚まし時計。
……ここは私の部屋。

ぼんやりと足元を見る。当たり前だけど、私以外の誰かは居ない。

……。

なんか……なんか、変な感じ。
何かが足りないような。大事な何かを見落としているような。

心にぽっかりと大きな穴が空いたような……そんな、不思議な違和感と、喪失感。


……あれ? 今日の空、何だか──
 ▼ 33 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/16 13:22:58 ID:BraAFaeM [12/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ジリリリリリリリリッ!!!

「うわぁっ!」

慌てて目覚まし時計を止める。
びっくりした……けど、おかげで目は覚めたかな。

……さあ。早く朝の支度をしないと。

違和感を無理やり意識の奥へ押し込み、私は布団から体を起こした。
 ▼ 34 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/16 20:04:52 ID:BraAFaeM [13/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ぼんやりと着替えを済ませ、顔を洗い、朝ご飯を食べて。

腰まで伸びた髪を整えつつ、身だしなみをチェックして。

いつものようにカバンを肩に掛け、スニーカーを履き、帽子を……

──何かを掴もうと伸ばした手が、空を切る。

あれ……どうして帽子なんて被ろうとしたんだろう……?

……やっぱり。
やっぱり、何か──
 ▼ 35 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/16 20:06:50 ID:BraAFaeM [14/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「何してるの? 学校に遅れるでしょ?」

お母さんの一言で、私は現実に引き戻される。
そうだ、早く学校へ行かなくちゃ。

「ゴメン、ボーっとしちゃった! じゃあ、行ってくるね!」

いつまでも、ぼんやりしてちゃダメだよね。
そうやって自分を奮い立たせながら、私はドアを開く。


──街を見渡してみても、そこには人が居るだけだった。
……当たり前のことだけど。
 ▼ 36 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/16 20:09:15 ID:BraAFaeM [15/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「えー、というわけで、ここの問題はこのように解きます……よし、じゃあお前、黒板でやってみろ」

「……えっ」

いつの間にか、先生が目の前に来ている。
思わず声が出てしまった。

どうしよう、全然聞いてない……。

「え、じゃねーよ。なーに授業中にぼんやりしてんだ」

少し苛ついた声が頭の上から降ってくる。
周りからも、くすくすと笑う声が聞こえた。

「こら、周りも笑うなー……しっかり授業聞けよ」

ぐっと念を押される。

「ここテスト出すぞー、ちゃんとメモっとけー」

それだけ言うと、先生は教壇へ戻って行った。
 ▼ 37 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/16 20:10:41 ID:BraAFaeM [16/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ああ、ぼんやりしないように、って思ってたのに……。

学校で授業を受けているというのに。
私のノートは開かれているだけで、中はほとんど白紙のまま。

前はこんなこと、無かったんだけどな……。

「……」

窓の外に目を向ける。
そこには、いつもと同じ景色が、いつものように広がっていた。

……前はもっと、綺麗な景色だったような気がするんだけど……。
この景色に、慣れてしまったからかな……。


結局、私は今日の授業を、ぼんやりと聞き流すだけで終わらせてしまった。
 ▼ 38 雷キャット◆qsBYGjqx5E 18/12/16 20:12:30 ID:BraAFaeM [17/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ねぇねぇ! この前のテスト、どうだった?」

放課後。相変わらずぼんやりと校庭を歩いていると、同じクラスの女の子に声を掛けられた。

あまり話したことが無い子だから、少しびっくりしたけど。

──誰かと話していれば、この違和感を少しは忘れられるかも……。

「……70点くらいだったかな」

「ふーん、まぁまぁだね」

「そっちはどうだったの?」

「あたし? 聞かないでよ〜」

えっ、私は正直に言ったのに……。
それってなんか、ズルくない?
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