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【SS】マタタビ少女と桃色かくれんぼ

 ▼ 1 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/16 23:13:38 ID:2K7k1uDI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



小さくて丸い体に、時折ピクりと動く三角耳。
これまた小さな両手には、体の色と同じ桃色のきのみが大事そうに抱えられている。

頭から生えた二本のギザギザ葉っぱを揺らし、黒い服に身を包んだ人の群れをキョロキョロと見渡す、1匹のポケモン。

その様子を、真っ黒のワンピースを身にまとう小さな少女がキョトンとした顔で見つめていた。
 ▼ 61 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/18 00:07:21 ID:jdAcc1.M [1/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「だから、分かるでしょ。わたしも──」

「ふざけるな!!」


父さんが、今までに初めて聞くような声で叫んだ。


「ハネッコを守る? 馬鹿を言うな、32番道路なんて入ったこともないだろう! 父さんは、母さんだけでなくお前まで失うのか!?」


言われて、初めて気づいた。

ああ、そうか。だから父さんはハネッコのことになるとあんな顔をするんだ。

ハネッコが、お父さんの大切なものを奪ってしまったから。

 ▼ 62 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/18 00:08:00 ID:jdAcc1.M [2/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「お前の母さんは、ハネッコが好きだった」

「そうだね」

「けど父さんにとっては……この町中のハネッコ全てよりも、母さんやお前の方が大事だ」


お父さんが痛いくらいにわたしの肩を握りしめてくる。


「……分かって、くれよ」
 ▼ 63 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/18 00:09:30 ID:jdAcc1.M [3/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

お父さんの手は震えていた。


「……ごめんね、お父さん」


わたしだって、お父さんの言いたいことは分かる。

けれど、きっと違う。お母さんは、わたしやお父さんが大事だじゃなかったわけじゃない。

ただ、ハネッコとわたしたちを天秤にかけることができなかっただけだと思う。

わたしが今、そうなのと同じように。


「ダメだ……やめてくれ。行っては──」

「“ねむりごな”!」


お父さんの言葉を遮って叫ぶと、後ろからハネッコが飛び出して青く光る粉を振りまいた。


「ぐ、あ……」


ガクンと脱力したお父さんをかかえて、玄関に寝かせる。


「ここで、この子たちを守ってて」


必ず、帰ってくるから。


 ▼ 64 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/18 17:00:01 ID:jdAcc1.M [4/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



◆

風は昼よりも強くなっていて、そよ風のバリアを突き破って冷たい雨が肌に刺さる。

急がないと。
わたしは顔についた雨を拭って、足を早めた。

走る、走る。雨を切り裂いて、走る。

32番道路に入ったことは一度もないのに、わたしは確かにこの道を知っていた。

ハネッコたちがいる場所も、きっとわたしは知っているはずだ。
 ▼ 65 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/18 17:00:33 ID:jdAcc1.M [5/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

何かに導かれるように入った草むらの中で、ハネッコたちが身を寄せ合って震えていた。


「大丈夫だよ」


しゃがんでハネッコたちを抱き寄せる。

ハネッコは耳をピクリと震わせて、わたしにしがみついた。
 ▼ 66 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/18 17:01:42 ID:jdAcc1.M [6/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

書斎にあったあの絵はわたしが見た夢だ。

3歳の頃のわたしが一時期毎日のようにそんな話をしていたと、お父さんの手帳にはそう書いてあった。

10年前にお母さんが死んだ後、わたしはお母さんのトゲチックと一緒にハネッコを探していたんだ。

ハネッコを集める力も、突風から身を守る風も、きっと偶然じゃない。

理由があるとすれば多分、この日のために。
 ▼ 67 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/18 17:02:27 ID:jdAcc1.M [7/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

手帳にはこう書かれていた。

“夢には制限時間があって、辺りが真っ暗になった時にかくれんぼは時間切れになる”。

きっと夜になったらもう間に合わない。

32番道路が暴風域に入って、ハネッコは風に耐えていられなくなる。

足が向かうのに任せて、走るんだ。

ハネッコは必ずそこにいるはずだから。
 ▼ 68 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/18 17:03:03 ID:jdAcc1.M [8/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



草むらの奥に、ボングリの木の中に、岩壁の隅っこに。

ハネッコたちは集まって、懸命にしがみついていた。

そして最後は、メリープたちのあいだ。


「さあ、おいで」


2匹のメリープの隙間にいたハネッコに手を差し出すと、火花が弾けた。


「めぇえ……っ!」

「っ! ……大丈夫、落ち着いて。わたしはハネッコを助けにきたの」

「めぇ……?」


メリープをなだめて、ハネッコを抱き上げる。


「ハネッコを守っててくれたんだよね?」


メリープは静かに頷いた。


「 ……ありがとね、めーちゃん」
 ▼ 69 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/18 17:04:19 ID:jdAcc1.M [9/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ハネッコたちを連れて、わたしは道路の奥の洞窟──社会の授業の記憶が確かなら、つながりの洞窟──に逃げ込んだ。

洞窟から覗く分厚い雲に塗りつぶされたような空は、もう真っ暗になりかけていた。


「はぁ、はぁ……間に、合った」


ここなら、これから風が強くなっても大丈夫だ。

手前にあったポケモンセンターが台風で臨時閉業していたから、ここに洞窟があって本当に良かった。
 ▼ 70 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/18 17:04:55 ID:jdAcc1.M [10/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ハネッコたち、みんないる?」


尋ねると、ハネッコたちは顔を見合わせた。


「ねっこ、はねっこ、ねっこ、ねっこ!」


そして何か懸命に、わたしに何かを伝えようとしている。

もしかして。


「誰か、いないの?」

「ねっこ!」

「……行ってくるから。ここで待ってて!」


わたしは洞窟を飛び出した。
 ▼ 71 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/18 17:05:25 ID:jdAcc1.M [11/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

外は真っ暗で、雨はそよ風のバリア越しでも相当に吹き付けてきた。

……時間は、もうほとんどない。


「ハネッコちゃん! どこー!?」


夢で見た場所はもう全て探した。

手がかりもなく、ふらつく体で必死に叫んで回る。

早く、早くしないと。
 ▼ 72 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/18 17:06:32 ID:jdAcc1.M [12/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「ハネッコちゃん! ハネッコちゃん!」


何度呼んでも返事はない。

まさかもう、飛ばされて──


「っ…………!」


ふとよぎった悪い予感を振り払うように、草地を駆ける。


“絶対みんな見つける”って、トゲチックと約束したんだもの。

だから返事をして……!


「はーちゃん!!」
 ▼ 73 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/18 17:06:59 ID:jdAcc1.M [13/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







「──ねっこ」





 ▼ 74 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/18 17:07:42 ID:jdAcc1.M [14/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

確かに聞こえた。

……上から、聞こえた!


「はーちゃん!?」


見上げると木の枝にハネッコが1匹、必死にしがみついていた。


「今行くから、待ってて!」


ハネッコのいる木の幹に駆けより、手をかける。
 ▼ 75 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/18 17:08:08 ID:jdAcc1.M [15/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

濡れた木の幹は滑って足をかけづらかったが、なんとか登れないこともない。

少しずつ、少しずつ上へと手を伸ばしていく。

もう一歩でハネッコに手が届く。


手を伸ばそうとすると、視界の端に、ハネッコめがけて大きな枝葉が飛んでくるのが見えた。


「あっ──」


ここからじゃわたしの手も届かない。

もう、ダメ──
 ▼ 76 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/18 17:09:19 ID:jdAcc1.M [16/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

その瞬間。

音と光が弾けて、辺りが真っ白に照らし出された。



思わず閉じた目を開くと、まさにハネッコにぶつかろうとしていた枝葉が黒焦げになって風に散っていく。


「めぇ!」


木の下で、メリープが火花を散らしていた。
 ▼ 77 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/18 17:11:03 ID:jdAcc1.M [17/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「めーちゃん……来て、くれたんだ」

「めぇ」


ハネッコを連れて木から降りて、メリープの頭を撫でる。


「ありがとね。本当に、ありが──」


急に声が途切れて、景色が2、3度チカチカと明滅した。

ふわり、体の力が抜けていく。

色と温度と音がなくなっていく。

それでようやくわたしは、「ああ、倒れちゃったんだな」と気づいた。


 ▼ 78 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:25:39 ID:HaVwkQJg [1/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

──
────
──────



気がつくとわたしは、シャボン玉みたいな色の空の下に広がる草原に立っていた。


「さっきあなたが助けたのはね」


後ろから、誰が語りかけてくる。


「あの日、最期の最期にやっと見つけたハネッコなのよ」


あの日、ハネッコを探していた人。

それって──


「お母、さん……?」

「……大きくなったわね」


振り返ると、とても懐かしい面影がそこにあった。
 ▼ 79 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:26:10 ID:HaVwkQJg [2/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「お母さん!? なんで……」

「だって母さん、ここで死んだのよ?」

「ああ、そう……」


本当はそれで納得できるわけがないんだけれど、こんなにあっけらかんとした顔で言われてしまうと、そうなんだとしか言いようがない。

そんなことよりも、今はお母さんに会えたことがただ嬉しかった。
 ▼ 80 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:26:37 ID:HaVwkQJg [3/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「それにしてもあなた、その頭のきのみ……」

「これ? 最近生えたんだけど……ねぇお母さん、何か知らない?」


尋ねると、お母さんは斜め上なことを言い出した。


「知ってるも何も、それ、わたしの形見じゃないの!」

「…………へ?」
 ▼ 81 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:27:05 ID:HaVwkQJg [4/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

それからお母さんが話してくれたことは、ちょっと、いやかなりファンタジーだった。


お母さんとトゲチックは、最後のハネッコを守って倒木に巻き込まれた。

その時、トゲチックが最後の力を振り絞って、お母さんが持っていたラムのみにハネッコを守るための力を託した。

そうしてできた新しいきのみが、ここ数日間わたしに芽生えた不思議な力の正体らしい。


「それじゃ、ハネッコが集まってくるのは……」

「“このゆびとまれ”」

「この風は?」

「“ようせいのかぜ”。危険な台風が来るちょっと前に芽吹くのは“みらいよち”よ」

「へー……」


こんな現実離れした話でも、実際にこれが頭から生えてきたんだからすんなりと信じられてしまう。
 ▼ 82 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:27:35 ID:HaVwkQJg [5/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「トゲチックが作ってくれたこのきのみを、最期に助けたハネッコに託したの。誰かに渡すようにって」

「なんで?」

「世界に一つしかない新種のきのみだし、貰ったら植えると思うの。それで、どこか町の中で芽生えれば、嵐の前にハネッコが集まってくるでしょ?
 そしたら、町の人がきっとハネッコを助けてくれると思って」

「あっ……」


そこまで聞いて、わたしは思い当たってしまった。
というより、状況から考えてもうこれしかあり得ない。


「わたし、それ……食べちゃった、かも」

「そうなのよ! あなた、一品モノのきのみをなんで食べちゃったのよ!」

「だってだって! 3歳だよ!? 珍しいきのみとか、分かるわけないじゃん!」


そこまで言い合うと、急になんだかおかしく思えてきて、お互いに吹き出してしまった。
 ▼ 83 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:28:26 ID:HaVwkQJg [6/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

一通り笑いあってから、お母さんがまた話し始める。


「でもこんなところまで来て、わたしと同じようなことしてるなんてね」

「だって……かわいいじゃん。ハネッコ」

「そうね。でも、あなたはお父さんをあんまり困らせちゃダメよ」

「うん……」


お父さんには、あとでちゃんと謝らなきゃ。

 ▼ 84 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:30:29 ID:HaVwkQJg [7/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

……と思ったけど、もしかしてお母さんのいるここはあの世なんじゃ?


「ねぇどうしようお母さん、わたしもお父さんのこと置いて死んじゃった!」


慌ててそう言うわたしの頭を、お母さんは笑いながら撫でた。


「まだ早いわよ。さ、もうそろそろ行きなさい。迎え、来てるんだから」


“迎え?”。そう聞き返そうとしたけれど、声が出ていない。

すると不意に、目の前の景色が白く滲んで消えていく。


『お父さんに、よろしくね』


最後にそれだけ聞こえて、わたしの意識はまた、ふっと途切れた。


 ▼ 85 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:32:07 ID:HaVwkQJg [8/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

──
────
──────


目が覚めると、まずはじめに厳つい顔が飛び込んできた。

それから、周りにはたくさんのハネッコ。

懐中電灯の光に照らされたここは、つながりの洞窟の中だった。


「お父さん。……お母さんに、会ったよ」

「そうか……」


お父さんはそれだけ言って、わたしを抱きしめた。


ずっと雨に打たれていたからか、なんだかすごく、すごく暖かく感じた。


 ▼ 86 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:33:28 ID:HaVwkQJg [9/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





◆

チャイムを連打する音に引っ張り出されて家のドアを開けた。


「遊びに来たよー、マタタビガールwithハネッコちゃん……って、ありゃ?」


アポもなしに現れるなり、友達が目を丸くする。


「頭の葉っぱ、取れちゃったの?」

「うん。起きたらね」

「えー、残念だなぁ。生えてるうちにもっといろいろ実験すればよかった」

「そういうのは自分に生えた時にやってよ……」


わたしがそう言うと、友達はわざとらしく不満げに口をすぼめた。
 ▼ 87 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:36:14 ID:HaVwkQJg [10/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



台風が通り過ぎる深夜まで洞窟の中で待った後、わたしはお父さんに背負われて家まで帰ってきた。

そして今朝、目が覚めたら頭の葉っぱは消えていた。

試しに外に出てみたら、ハネッコを引き寄せる力はなくなっていたし、そよ風ももう吹かないみたいだ。

なるほど、台風の前に芽吹いてハネッコを集め、役割を終えるとすぐに枯れてハネッコを解放する。

本当にハネッコを守るために作ったきのみだったんだなぁと、ちょっとした感動を覚えた。
 ▼ 88 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:37:12 ID:HaVwkQJg [11/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「それじゃ今日から普通の女の子に戻っちゃうのかー」


ため息をつく友達は、当然のように靴を脱いで上がり込む態勢だ。


「っていうか、なんで来たの」

「だってさー。台風当日が学校で次の日休みなんて、読めるわけないじゃん。わたしの予定はもうめちゃくちゃだよ」


台風が通りすぎた秋晴れの日。
町中でいろいろと被害が出たらしくて、あちこちが復旧作業でお休みだった。


「要は暇なんだね」

「そゆことー」


間の抜けた返事をして、友達は軽い足取りで家に上がってきた。
 ▼ 89 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:38:27 ID:HaVwkQJg [12/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

部屋のドアをくぐると、友達は胸に手を当てて目を輝かせた。


「はわわわ……ハネッコカフェだ!」


部屋の中では、ハネッコたちが元気に鳴きながらぴょこぴょこと跳ね回っていた。

昨日道路から連れてきてしまった分も合わせて、大体100匹。


「マタタビパワーも消えたし、外に帰そうと思ってたんだけどね。なんか、離れられなくて」

「今度はそっちがハネッコに引き寄せられてるんじゃないの?」

「まさか」


なんて否定してみたけれど、本当にそうかもしれない。
今朝からずっと後ろ髪を引かれる思いだ。
 ▼ 90 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:39:21 ID:HaVwkQJg [13/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「あ」


ハネッコたちをわしゃわしゃといじり回していた友達が、わたしの勉強机の方を見てふと手を止めた。


「あれ、昨日まで頭についてたきのみじゃん」

「うん。葉っぱと花は消えたんだけど、枕元にこれだけ残ってて」


どうしたものかと、とりあえず机に置いておいたんだった。


「ふーん。……これ食べたらわたしもマタタビ女子になれるかな?」

「あはは、オススメはしないな……」


なんともなしに核心をついてきた友達から、それとなくきのみを遠ざけた。

また食べてしまった、なんてことになったらきっとお母さんは呆れてしまうだろう。

そんなことになる前に、あの日の幼いわたしが託されたことを果たさないと。


「一緒にうちの畑に植えてみない? せっかくだからさ」

「やる!」


食い気味に返事をした友達と一緒に、ハネッコたちも目を輝かせていた。
 ▼ 91 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:39:51 ID:HaVwkQJg [14/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



少し冷たい風が吹く、透き通るくらいに晴れた空の下。


「んー……こんなんでいいのかな」


ハネッコたちと友達が見守る中、きのみに土を被せていく。


「いーんじゃないの? 頭からでも生えてくるような屈強な草なんだし」


友達はそう言って雑草をむしっている。

そんないい加減な、と思ったけど、一理あるかもしれない。

食べられた後10年越しに生えてくるなんて、考えてみればコンクリートから芽を出すよりも難しい。

次の嵐が何年先になっても、たとえこの畑が道路になっていたとしても、きっとまた芽吹いてハネッコたちを守ってくれると思う。


「またいつか、お願いね」


わたしはそう語りかけて、ポンポンと土を軽く叩いた。
 ▼ 92 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:40:50 ID:HaVwkQJg [15/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「さ、帰ろっか。それじゃバイバイ、ハネッコちゃん」


土をほろって立ち上がり、玄関に向かって2、3歩歩いて、また立ち止まる。


「……ダメだよ」


ハネッコがついてきている。
きのみの効果は切れているはずなのに。

胸がきゅうっと苦しくなった。
 ▼ 93 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:42:01 ID:HaVwkQJg [16/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


胸の中の息を深く吐き出す。


「ねぇ。風、どっちから吹いてる?」

「……北、かな」


友達が真上に放り投げた雑草は、南の方角──32番道路の方へ、はらりと飛んで行った。


「行くよっ!」

「ちょっと!?」


友達の手をひっつかんで向かい風の方角へ、わたしは全速力で走り出した。
 ▼ 94 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:43:17 ID:HaVwkQJg [17/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「はやっ、速いって! ちょっとー!」

「いいから走る! 追いつかれるよっ!」


冷たい風を全身に浴びて、どこまでも北を目指す。

わたしを追いかけようとするハネッコたちは、向かい風に押し戻されては大きな声で鳴いていた。

大丈夫、きっとまた会えるよ。

お母さんとトゲチックが守ってくれるから。


「またねー! はーちゃんー!!」


どこまでも青く澄んだ空を見上げて、わたしはいっぱいに声を張り上げた。




 ▼ 95 よもぎ餅◆IkuNl/.uOs 18/12/19 00:44:01 ID:HaVwkQJg [18/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告








【SS】マタタビ少女と桃色かくれんぼ






               ──おわり

 ▼ 96 ジーランス@ようせいジュエル 18/12/19 00:55:21 ID:EOrgiyaA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙でした
 ▼ 97 メタング@こころのしずく 18/12/19 19:31:30 ID:6AsgbpA. NGネーム登録 NGID登録 報告
乙!
 ▼ 98 クサイハナ@カムラのみ 18/12/19 22:27:43 ID:S1bszPkM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙です!めっちゃ面白かったです!
 ▼ 99 ドーブル@ミストシード 18/12/21 21:27:38 ID:OEikpF/g NGネーム登録 NGID登録 報告
乙です!
 ▼ 100 ルナアーラ@クロスメール 18/12/25 18:51:45 ID:NxwwkKUQ NGネーム登録 NGID登録 報告
乙!
素敵な作品でした。
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