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【SS】 新月の夢、満月の夢

 ▼ 1 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/17 01:11:11 ID:5E8QOU8g NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





僕は、バトルが嫌いだ。




 ▼ 67 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:07:30 ID:6HV2hXyc [1/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


  『頑張ってイーブイ! “スピードスター”!』

  『いぶいっ!』



 アユミ 「えっ!?」



窓の外から聞こえる、2つの声。

私は慌てて外を見る。ここは3階の教室だったみたいで、校庭を見渡せた。


その校庭の左側、生徒たちがポケモンバトルに使っている区画で、今まさに、ポケモンバトルが行われている。

多くのギャラリーが囲む中心、バトルの主は……、私とイーブイだった。


 アユミ 「夢の中の私と……イーブイ!?」


たとえ夢の中だと分かっていても、第三者視点から見る自分の姿と言うのは、どこか不気味な感じがする。

それより、イーブイだ。夢の中のイーブイは、無事だった。

今すぐイーブイの元に駆け寄って、異変に気付けなかったことを謝りたい。

けど、夢の私と一緒にバトルしている状況では、そうする訳にもいかない。

しばらくは、バトルを見守るしかなかった。



が――。

 ▼ 68 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:08:00 ID:6HV2hXyc [2/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 『イーブイっ……まだ行ける!?』

 『ぶぃぃっ……!』


夢の私と夢のイーブイは、相手に押されっぱなしだった。

小さなイーブイが立ち向かうには、バトル相手のポケモンは大きすぎる。

それになにより……。


 アユミ 「どうして……、必殺技を使わないの?」


私とイーブイが使いこなす、8タイプの必殺技と、イーブイ渾身の“ブイブイブレイク”。

夢の中の私とイーブイは、それを全く繰り出そうとしない。

必殺技さえ打てば、一気に有利に立てるのに。



 アユミ 「あっ……イーブイっ!」


相手の攻撃に弾き飛ばされ、イーブイは体を木に強打して、その場で うずくまってしまった。

見ていて痛々しい。

今まで負け知らずの私にとって、そのイーブイの姿は、あまりにも悲惨なものだった。
 ▼ 69 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:08:30 ID:6HV2hXyc [3/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 『イーブイっ!』


夢の私がイーブイに駆け寄り、手を差し伸べようとする。

けど夢のイーブイは、それを振り払うように起き上がる。


 『まだ……行けるの?』

 『ぶいっ!』

 『……うん! イーブイの気持ち、応援するよ!』


ボロボロになって、傷だらけになって。

それでも目の輝きは失わず、相手に挑み続けるイーブイ。


 アユミ 「グスッ……、なんでっ、そんなに……」


気が付くと、私は涙を流していた。


あんなに一生懸命バトルに挑むイーブイを、私は初めて見たから。

夢の中の私とイーブイは、それでも必殺技を使わない。

そんな不利な状況でも、自分よりも大きな相手に、怯えること無く、決して諦めないで……。


 アユミ 「頑張って……グスッ、頑張って! イーブイっ!」
 ▼ 70 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:09:00 ID:6HV2hXyc [4/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
窓から身を乗り出し、私は叫ぶ。

けど、その声は夢の私のイーブイには聞こえない。聞こえていない。



 『構えて、イーブイ!』

 『いぶっ!』



あぁ、相手が突っ込んでくる。

あんな巨体が ぶつかったら、今度こそダウンしてしまう。


ねぇ、夢の中の私。

使ってよ、必殺技。このままじゃイーブイが負けちゃう。



ねぇ!


使ってよ!


必殺技を!
 ▼ 71 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:10:00 ID:6HV2hXyc [5/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 『行くよイーブイ! “とっておき”!』

 『いぶぅぅぅぅぅ……ぶぶぅぅぃぃっ!』



負けを覚悟したその時。

闘志が漲るイーブイの瞳の前に、大きな、大きな“星”が作り出されていく。

ほのかにピンク色の その“星”は、まるで、イーブイの想いが結晶となったみたいに、明るく、眩しく輝いている。


そして――。

イーブイが、“星”を打ち出した。


“星”は、風切るエネルギーを巻き起こしながら砂埃を立て、一直線に、相手を呑みこんだ。



 ― 破裂。



“星”が破裂した。

イーブイの“星”が、大きなエネルギーを放出して、相手を弾き飛ばした。


破裂した“星”の余波が、衝撃波となって轟く。

校庭の木々が ざわざわと揺れる。

窓ガラスがピリピリと振動する。



そんな衝撃が収まった時、バトル相手のポケモンは、目を回して地に伏せていた。

 ▼ 72 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:12:00 ID:6HV2hXyc [6/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 『やった……やったぁぁぁぁぁ!』

 『いぶ! いぶぶぅぅぅい!』


夢の私は、ボロボロのイーブイを抱き上げて、満面の笑みで勝利を喜んだ。

夢のイーブイもまた、手足を ばたつかせ、尻尾を振って、耳をぴょこぴょこさせて、体全体で嬉しさを表現していた。

バトルを見守っていたギャラリーの中には、クラスメートたちも居る。みんな笑顔で拍手して、勝利を祝福してくれた。





 アユミ 「勝った……。勝てたんだ……イーブイっ!」


そして私もまた、喜びに満ち溢れていた。

必殺技を使わないで、イーブイの努力、イーブイ本来の力で、勝利を手にしたんだ。

ある意味での縛りプレイでも、イーブイは見事、勝利を おさめたんだ。

 ▼ 73 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:12:30 ID:6HV2hXyc [7/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 アユミ 「……あれっ?」


勝利の喜びに浸り、ふと校庭に目を戻すと、そこには誰も居なかった。

今の今まで居たはずの、夢の中の私。夢の中のイーブイ。対戦相手。下校途中の生徒たち。

その全てが、一瞬のうちに消えてしまい、校庭は不気味なほど静まり返っていた。


 アユミ 「どういうこと……」


おかしい。

だって、これは明晰夢。私の考えがある程度、夢の中に反映されるはずだ。

もっとも、夢の私とイーブイが必殺技を使わなかった時点で、そんな明晰夢の仕様なんてアテにならないけれど。

それでも私は、こんな不気味な光景を望んでいない。

夕暮れ迫る無人の校庭は、校舎の大きな影が黒く染め、まるで神隠しに遭ったんじゃないかと錯覚するような光景だ。





 『ねぇ』




 ▼ 74 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:13:00 ID:6HV2hXyc [8/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 アユミ 「ひっ!?」


不意に背後から声を掛けられて、私は背筋が凍る。

けど、その声は聞き覚えがある。と言うより、普段から聞いている声だった。


 『見てた? イーブイのバトル』

 アユミ 「あなたは……、夢の中の、私……」


声の主は、夢の中の私だった。

当然だが、体型も、服装も、声も、全て私と同じ。もう一人の私。

そんなクローンとも言える存在が、私に話しかけている。傍から見れば不気味だろうけど、不思議と恐怖心は生まれなかった。


 『イーブイ、頑張ってたでしょ』

 アユミ 「うん。すっごく。私、泣いちゃったもん」

 『ふふっ。嬉しかったもんね、不利な状況だったのに、勝利を掴んで』

 アユミ 「ねぇ、ここは……、夢の中だよね?」

 『そうだよ』

 アユミ 「夢の中なのに、自由に動ける……、明晰夢ってやつだと思うけど、私は いったい、なんで明晰夢を見てるの? なんで夢の私と向き合ってるの?」

 『う〜ん、ちょっと勘違いしてるみたいだね』

 アユミ 「勘違い?」

 『ここはね、貴方の夢の中じゃないんだよ』

 アユミ 「えっ? だって私、ついさっきまでイーブイのベッドに居て、そしたら急に睡魔が襲って来て……」

 『貴方が眠ってるのは事実。だけど、ここは……、ここはね、イーブイの夢の中、なんだ』
 ▼ 75 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:13:31 ID:6HV2hXyc [9/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
私は混乱する。


 アユミ 「イーブイの?」

 『うん。イーブイの、夢の中』


自由に動け、考えることが出来るのに、ここは私の夢じゃなくて、イーブイの夢。

確かに私はイーブイの横で眠りに落ちたけど、それだけでイーブイの夢の中に入りこむなんて……。


 『ここはね、イーブイの夢の世界……、つまり、イーブイの理想の世界なんだ』

 アユミ 「イーブイの……理想の?」


理想と聞くも、パッと見る限り、現実世界と変わりは無い。

普段の学校、普段の教室、普段の校庭。

空も、風も、空気も、音も、なにもかもが、現実世界と同じ。
 ▼ 76 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:14:30 ID:6HV2hXyc [10/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 アユミ 「どこが違うって言うの? 理想もなにも、現実と同じじゃ……」

 『違うのはね、イーブイ自身なの』

 アユミ 「えっ、イーブイが?」

 『あと一応、私もかな』

 アユミ 「ちょっと待ってよ。イーブイと私が現実と違うって……?」

 『ヒントはね、さっきのバトル』

 アユミ 「バトル……」

 『私、イーブイには、助かって貰いたい』

 アユミ 「助かるって……」

 『“本物の私”、イーブイを、起こしてあげて。夢と現実の区別が付かなくなっちゃったイーブイを、現実の世界に、戻してあげてよ』

 アユミ 「そっか……」


夢の中の私も、現実のイーブイが危ないことは、分かっているらしい。

多分、ダークライさんに眠らされて、エネルギーを吸い取られていることも。

夢の中の私は、イーブイの夢の中でしか生きられない存在。そんな“彼女”は、自分の存在が消えてしまってでも、イーブイが助かって欲しいと願っている。



私は……、彼女は、イーブイが大好きなんだ。



 『そろそろイーブイが来るよ。じゃあ、よろしくね、私』

 アユミ 「……うん。任せて。“2人”でイーブイを助けようね!」

 『ふふふっ』



彼女は、微笑むと同時に、スーッと消えていった。

 ▼ 77 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:15:00 ID:6HV2hXyc [11/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
私は、彼女が今まで立っていた場所に重なって、目を閉じる。


分かったよ、私。

全部分かったよ、私。


さっきのバトルを見て、イーブイが何を理想としているのか。

現実世界に、イーブイが何を求めているのか。


もしかしたら私は、今まで、自己満足で過ごしてきたのかもしれない。

パートナーのイーブイとの絆、信頼関係は、上っ面なものだったのかもしれない。

今までのバトルが負け無しで嬉しかったのは、私だけだったのかもしれない。

イーブイが居るから、私、仲間外れにされても耐えてこれたって言うのに。


耐えてこれた?


イーブイは、私のことも心配してくれてたんだね。

私とイーブイの理想の姿……、この夢が、まさしくイーブイの思い描く生活なんだよね。




目を開けると――。



そこには、イーブイが居た。


 ▼ 78 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:15:30 ID:6HV2hXyc [12/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ― ― ―  ◇  ― ― ―  ◇  ― ― ―  ◇  ― ― ―





 『行くよイーブイ! “とっておき”!』

 『いぶぅぅぅぅぅ……ぶぶぅぅぃぃっ!』



これで勝負を付ける。

僕は目の前に、大きな“星”を作り出す。

今までの特訓の成果を見せるために。今までのバトルの経験を形にするために。そして、一緒に頑張って来た、アユミのために。


そうして打ち出した“星”は、僕自身も驚くほどの威力を生み出した。


風切るエネルギーを巻き起こしながら砂埃を立て、一直線に、相手を呑みこんで――、



そして、破裂。


相手は吹き飛ばされ、破裂した“星”の余波が、衝撃波となって轟く。

校庭の木々が ざわざわと揺れる。

窓ガラスがピリピリと振動する。



そんな衝撃が収まった時、バトル相手のポケモンは、目を回して地に伏せていた。

 ▼ 79 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:16:30 ID:6HV2hXyc [13/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 アユミ 「やった……やったぁぁぁぁぁ!

 イーブイ 「いぶ! いぶぶぅぅぅい!」



勝った……勝ったんだ!

僕たち、勝ったんだ!



アユミは僕を抱き上げて、満面の笑みで勝利を喜んだ。

僕もまた、手足を ばたつかせ、尻尾を振って、耳をぴょこぴょこさせて、体全体で嬉しさをアユミに伝えた。


勝ったんだよ、僕。

必殺技なんか使わなくたって、勝てたんだよ、僕。

今までの努力、やっと報われたんだよね、アユミ!





喜びに浸っていた次の瞬間。僕の目の前が真っ暗になった。





突然のことに戸惑ったけど、視界は すぐに晴れて、気付くと僕は教室の中にいた。

モンスターボールの中から見ていた、アユミがクラスメートたちと勉強していた教室だ。



そして僕の目の前には、アユミが立っていた。


 ▼ 80 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:17:00 ID:6HV2hXyc [14/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


僕とアユミは、無言で見つめ合っている。

どうして無言なのかは、僕にも分からない。

おさまらない勝利の嬉しさから、アユミに抱き付きたい気持ちは確かにあるけど、何故だか頭が そうさせない。


その無言の時間は、一瞬だったかもしれないし、数十秒、数分、続いていたかもしれない。


沈黙の中、アユミはフワリと微笑むと、口を開いた。



 アユミ 『ねぇ、イーブイ』

 イーブイ 「ぶい?」

 アユミ 『バトル、凄かったよ。格好良かった。逞しかった』

 イーブイ 「ぶぶぃ〜」

 アユミ 『必殺技を使わないで、イーブイの力だけで勝ったの、初めてだよね』

 イーブイ 「いぶぃ!」

 アユミ 『ふふっ。偉いよイーブイ。今までずっと……、ずっと、グスッ、特訓、してきたんだね?』

 イーブイ 「いぶっ? いぶぃ……?」
 ▼ 81 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:17:30 ID:6HV2hXyc [15/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
突然、アユミは涙を流した。

本当に突然。

嬉し涙って訳じゃなさそうだけど……、涙を流す理由なんてなにも無いのに。


 アユミ 『ねぇイーブイ。落ち着いて、聞いてくれる?』

 イーブイ 「ぶぃ……」


涙を拭って、アユミは言葉を続ける。

ゆっくりと、しっかりと、覚悟を決めたかのように。


 アユミ 『ここはね……違うの』


違う?


 アユミ 『ここは……、この世界は、貴方が居るべき世界じゃないの』


この世界?

どういうこと?


 アユミ 『ここは……、イーブイが作り出した、夢の中なんだよ』


ここが……、夢の中?
 ▼ 82 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:18:00 ID:6HV2hXyc [16/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 アユミ 『ごめんねイーブイ。私、イーブイの気持ち、ずっと気付かなかった』


どうしたのアユミ?


 アユミ 『私、“イーブイとの信頼の証”だからって、今までずっと、必殺技ばっかり使ってた』


なに言ってるのアユミ?


 アユミ 『でもイーブイは、ちょっと違ったんだよね』


どういうことなのアユミ?


 アユミ 『イーブイは……、“普通にバトルして”、勝ちたかったんだよね』


あっ……。


 アユミ 『この世界はね、イーブイの夢の中。イーブイの理想の世界なんだって』


あぁっ……。
 ▼ 83 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:18:30 ID:6HV2hXyc [17/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 アユミ 『現実でさ……、いっつも私たち、必殺技で勝っちゃって。色んなタイプの必殺技があるから、勝つのは当然だよね。でもそのせいで、クラスメートたちみんな、“お前とのバトルは詰まらない”って』


やめて……。


 アユミ 『言ってみればさ、チートだよ、私たちのバトルって。みんなが私とバトルしてくれないの、当たり前だよ』


やめてよ……。


 アユミ 『だからイーブイは、さっきみたいな“普通のバトル”で、勝利を味わいたかったんだよね。いっぱい特訓して、いっぱい努力して』


違う、違うよ……。


 アユミ 『イーブイはね、現実では、ずっと眠ってるんだよ。ずっと……、2週間くらい。そのあいだイーブイは ずっと、夢の世界で、特訓してきたんだよね。それで今日、やっと勝利を掴んだんだよね』


そんなの……違う。


 アユミ 『必殺技を使わない世界……、イーブイの理想。それと、夢の私、クラスメートとバトルしてたよね。ギャラリーも いっぱいで。それもイーブイの理想なんだよね』


違う……もうやめてよ。


 アユミ 『イーブイ優しいね。夢の世界の私、みんなと仲良しだった。現実の私のこと、心配してくれてたんだよね』


違う……、違うんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!
 ▼ 84 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:19:00 ID:6HV2hXyc [18/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 アユミ 『えっ……イーブイ!?』



これは夢なんかじゃない!

これが現実なんだ!

アユミと一緒に特訓して!

アユミと一緒に強くなって!

アユミと一緒に色んな経験して!

それで今日! 念願の勝利を掴んだんだ!

僕の力で!

僕とアユミの絆で!

これは夢じゃない!

これは夢なんかじゃないんだ!



 アユミ 『イーブイ……グスッ、イーブイっ!!!』



アユミが、怒鳴った。

いつもの優しいアユミからは想像できないような、厳しい口調。

でもアユミは、泣いていた。
 ▼ 85 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:19:30 ID:6HV2hXyc [19/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 アユミ 『ごめんねっ……、ごめんねイーブイ。グスッ、私っ、イーブイのこと、全然わかってなかった……』


アユミ……。


 アユミ 『でも私っ、イーブイのこと大好き。それだけは、自信を持って言えるっ』


アユミ……。


 アユミ 『これは夢……、夢なの。イーブイが見てる、夢なの』


アユミ……。


 アユミ 『私ね、現実世界から来たアユミなんだ。夢の中の私に頼まれたの。イーブイを助けてほしいって』


グスッ、アユミ……。


 アユミ 『このまま眠り続けたら、イーブイは死んじゃうの。イーブイが死んじゃったら、グスッ、私っ……、私! そんなの絶対に嫌だっ!!!』
 ▼ 86 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:20:00 ID:6HV2hXyc [20/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
溢れる涙が空間を舞い、僕はアユミに抱きしめられていた。


夢。

理想。

僕が思い描く世界。

みんなと仲良しなアユミ。

必殺技に頼らないバトル。



分かってたはずなんだよ、これは“夢”だって。



でも……いつからだろう。

この夢が現実だったら良いな、って思い始めて。

アユミと一緒に特訓して、アユミと一緒に楽しく過ごせる この夢が、あまりにも居心地が良くて。

気が付いたら、この世界こそ現実だって信じ込んでる僕が居て。
 ▼ 87 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:20:30 ID:6HV2hXyc [21/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 アユミ 『私っ、ずっと……、ずっと、イーブイと一緒に居たい』


うん。僕もだよ、アユミ。


 アユミ 『必殺技、もう頼らない。イーブイと一緒に……、一緒に、努力していきたい』


うん。特別な力なんかより、その方が ずっと良い。


 アユミ 『だから……グスッ、だからっ!』



アユミは目を閉じると、額を、僕の額と、ぴったりと重ねた。


あぁ、アユミの想いが伝わってくる。

僕のことを心配してくれて、僕のことを大切にしてくれて、僕のことが大好きだって。


きっと僕の想いも、いま、アユミに伝わってるよね。

アユミは僕の自慢のご主人で、アユミの幸せを願って、アユミのことが大好きだよって。



僕とアユミの涙が、零れ落ちる。
 ▼ 88 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:21:00 ID:6HV2hXyc [22/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







 アユミ 『一緒に……帰ろう、イーブイ』







僕の意識は、そこで途切れた。






 ▼ 89 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:21:30 ID:6HV2hXyc [23/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







 ダークライ 「終わったな」

 クレセリア 「もう大丈夫ですね」

 ダークライ 「新月の夢と、満月の夢。こんなこと初めてだぜ」

 クレセリア 「私と貴方の夢が共鳴した、一つの奇跡ですね」

 ダークライ 「ふん。悪い気は しねーな」

 クレセリア 「自分から原因を作っておいて、まったく……」






 ▼ 90 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:22:00 ID:6HV2hXyc [24/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ― ― ―  ■  ― ― ―  ■  ― ― ―  ■  ― ― ―





 アユミ 「んっ……」



あれ、私……、眠っちゃってたみたい。



夢を見た。


イーブイの夢。


イーブイの本当の気持ち。


イーブイの思い描く世界。



私は、イーブイと約束したんだ。
 ▼ 91 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:22:22 ID:6HV2hXyc [25/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ベッドの上で、点滴と呼吸器が繋がれている、痩せ細ったイーブイ。


でも、もう大丈夫だよね?



 イーブイ 「……ぃぶ」



ほらね、イーブイ、目を覚ました。目を覚ましてくれた。



 アユミ 「グスッ……、イーブイ」

 イーブイ 「ぶぃ……」


呼吸器のせいでハッキリ聞こえなかったけど、確かにイーブイは、応えてくれた。

あぁ、もう大丈夫。もう大丈夫なんだ。





 アユミ 「おかえりなさい、イーブイ」




 ▼ 92 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:23:00 ID:6HV2hXyc [26/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



それからイーブイは、みるみるうちに回復していった。


ご飯を いっぱい食べて。

少しずつ体を動かす練習をして。

ワザの練習も やってみたり。



そしてイーブイが目を覚ましてから、10日。


ついに退院の日を迎えた。


完全回復、後遺症無し。

ワザのキレも今まで通りで、今すぐにでもバトルできるコンディション……、とまでは言い過ぎか。

ジョーイさんも驚くほど、イーブイは短期間で元気になってくれた。



私とイーブイの今まで通りの日常が、ようやく戻って来た瞬間だった。


 ▼ 93 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:23:30 ID:6HV2hXyc [27/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





 イーブイ 「いっぶ、いっぶいぶぶ〜〜〜い♪」

 アユミ 「ふふっ。ねぇイーブイ」


病院からの帰り道。

ご機嫌な様子で元気よく歩くイーブイに、私は声を掛ける。


 イーブイ 「ぶい?」

 アユミ 「私ね。たとえクラスの皆から仲間外れにされても、イーブイが一緒だから大丈夫だよ」

 イーブイ 「ぶぶぃ……」

 アユミ 「うん。今さら皆が、私を受け入れてくれるとは思ってないよ。“必殺技使わないから仲良くして〜”なんて言ったら、それこそ反感買っちゃうもんね」

 イーブイ 「ぶぃ……」

 アユミ 「ありがとうイーブイ。私のこと、心配してくれて。でも大丈夫だよ。イーブイと一緒ってことが、なによりも幸せだって、私、分かったから」

 イーブイ 「いっぶぃ!」

 アユミ 「ふふふっ」


そう。

イーブイの理想は、私が皆と仲良くなることも含まれていたけど、そればっかりは、簡単には いかない。

一度できあがった関係って言うのは、簡単には修復されない。

私とイーブイが必殺技で無双してきた事実は、簡単には消え去ってくれないのだ。
 ▼ 94 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:24:00 ID:6HV2hXyc [28/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 アユミ 「森の方、行ってみよっか。木の実ずっと食べてないもんね?」

 イーブイ 「いぶぅ〜♪」


ポケモンセンターの食事は、健康面、栄養バランスは最高だけど、お世辞にも美味しいとは言えない……らしい。

人間の病院と一緒なんだね。

退院したんだから、甘い木の実を心ゆくまで食べさせてあげないと。


モモンかナナの実が見つかると良いけど――。

そう思いながら草木を掻き分けて進んで行くと、少し開けた場所に、人影を見つけた。





 *** 「ジャンプだ! その体勢から“10万ボルト”!」

 ピカチュウ 「ぴっか!」



そこに居たのは、私と同い年くらいの男の子と、ピカチュウだった。

見たことないってことは、私とは違う学校の子だ。


そんな彼らは、バトルの特訓中と思われる。

邪魔しちゃ悪いし、そのまま この場を立ち去ろうと背を向けた瞬間、聞き慣れない言葉が彼から飛び出した。
 ▼ 95 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:24:30 ID:6HV2hXyc [29/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 *** 「よし! 次は“ざぶざぶサーフ”だ!」

 ピカチュウ 「ぴかぴかぁぁぁ!」



私は慌てて振り返る。


そして、目の当たりにする。


ピカチュウが……、電気タイプのピカチュウが、水を操るワザを繰り出している光景を。


厳密に言うと、それは水ではない。

観察した限りでは、放出した電気をピカチュウが器用に操って、波の形をした電気の帯を滞留させ、それを打ち出した――、そんな感じかな。



 アユミ 「凄い……凄い凄い!」


 *** 「えっ……誰だ!?」
 ▼ 96 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:25:00 ID:6HV2hXyc [30/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とにかく私は興奮した。

男の子とピカチュウに見つかることを恐れずに、思わず声を上げた。


だって、ピカチュウが水タイプのワザを使ったんだよ!?

私のイーブイと同じ……、イーブイみたいな必殺技を、使いこなしてるんだよ!?


 アユミ 「あのっ、隠れてた訳じゃないの。私、アユミって言います」

 *** 「オレはカケル。同じ学校……じゃないよな」

 アユミ 「それよりそれより! 今のピカチュウのワザ! それ凄いよ! 凄すぎるよ!」

 カケル 「あぁ、サンキューな。そんな興奮して凄いって言ってくれたの、お前が初めてかも」

 アユミ 「なんで? 凄いことだよすっごく!」

 カケル 「けど、まわりは そうは思わないんだ。バトル相手からは、“チートワザじゃ勝てっこない”って嫌味言われるし」


あぁ、なんでカケル君、こんな人目につかない場所で特訓してたのか、分かった気がした。

少し表情を曇らせて呟いたカケル君の気持ち、私、すっごく分かるもん。
 ▼ 97 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:25:30 ID:6HV2hXyc [31/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 アユミ 「そっか……。同じなんだね、私と」

 カケル 「えっ!?」

 アユミ 「私のイーブイもね、使えるんだ。違うタイプの、必殺技」


 イーブイ 「ぶいぶぃぃ」

 ピカチュウ 「ぴぃかぁ?」

 イーブイ 「いぶぶぃ〜」

 ピカチュウ 「ぴっか! ぴかぴっかぁ!」


ふふっ。

イーブイも きっと、私と同じこと、ピカチュウに訴えてるんだね。

イーブイにとっても、必殺技を使いこなすポケモンに出会ったの、これが初めてだもんね。


 カケル 「アユミ……って言ったな」

 アユミ 「うん」

 カケル 「バトルしてくれよ! オレとピカチュウの必殺技、イーブイの必殺技で受けてくれよ!」
 ▼ 98 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:26:00 ID:6HV2hXyc [32/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そう言ったカケル君は、すっごく活き活きとしていた。

カケル君も、私と同じ悩みを抱えてたんだね。

まわりの皆から仲間外れにされて、ピカチュウだけが心を許せる友達で。


本当に私と、同じなんだ。


 アユミ 「ごめんね、今日は無理なんだ」

 カケル 「そうか……」

 アユミ 「イーブイ、退院したばっかりなの。一応今日は、安静にしたいなって」

 カケル 「なんか病気でもしたのか?」

 アユミ 「ちょっとね。……だから、また会おうよ! それまでにイーブイの体調を万全にするからさ!」

 カケル 「おう! 約束だぞ?」

 アユミ 「うん! じゃあ、連絡先教えてよ。バトル出来るようになったら、すぐ連絡するから!」

 カケル 「よっしゃ。じゃあオレのアドレスは……」






 ▼ 99 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:26:30 ID:6HV2hXyc [33/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


夜――。


自分の部屋でイーブイと一緒に眠るのは、なんだか久しぶりだ。

こんな平和な日常がどれだけ尊いものか、今なら身に沁みて分かる。


 アユミ 「ふふっ。早速カケル君から LINE 来てるよ」

 イーブイ 「いぶ?」

 アユミ 「ピカチュウのスタンプで“よろしくね”って」

 イーブイ 「ぶぃ〜」

 アユミ 「嬉しいね。私たちと同じ境遇の友達ができて」

 イーブイ 「ぶい!」

 アユミ 「よ〜し、明日から特訓だよ! カケル君をガッカリさせないように、今まで以上に強力な必殺技を鍛えるんだから! ……あ、必殺技ばっかりに頼る訳じゃないからね?」

 イーブイ 「ぶぶぶぃ!」


さっきのピカチュウのワザを見る限り、カケル君とピカチュウの必殺技は強力だ。

私とイーブイで、まともに立ち向かえるかどうか……。


だから努力するんだ。

イーブイと一緒に特訓して、一緒に頑張って、一緒に強くなるんだ。



 アユミ 「イーブイ。これからも、よろしくねっ」

 イーブイ 「いぶぶ〜ぃ♪」





   ― 完 ―


 ▼ 100 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:27:00 ID:6HV2hXyc [34/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ― ― ―  ▼  ― ― ―  ▼  ― ― ―  ▼  ― ― ―





そんな微笑ましい雰囲気の、アユミとイーブイの部屋。

その屋根の上に、2つの影が、静かに空を見上げていた。


 ダークライ 「まったく。イーブイが目を覚まして10日も経つってのに、セリアは心配性だな」

 クレセリア 「お互い様じゃないですか? わざわざ彼女の家の屋根で様子を伺っているなんて」

 ダークライ 「あの2人、もう心配いらねーな」

 クレセリア 「えぇ。2人の絆、信頼関係を信じた私たちが、正しかったようですね」

 ダークライ 「俺はお前の力を信じてたよ。サンキューな。あいつらを助けてやって」

 クレセリア 「柄でもないことを。……悪夢とは、なんなんでしょうね」

 ダークライ 「俺が悪夢だと思った夢は、イーブイにとって、吉夢だった――。他人の夢なんざ分からねぇよ、俺にだって」

 クレセリア 「そうですか……」

 ダークライ 「なんだよ」

 クレセリア 「私が見せる吉夢も、人によっては悪夢になってしまうのかと考えると、少し心配になりまして」

 ダークライ 「お人好しだなセリアは」

 クレセリア 「私は本気で考えてるんです」
 ▼ 101 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:27:30 ID:6HV2hXyc [35/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
雲の切れ目から、月が顔を覗かせる。

静かに降り注ぐ柔らかな明かりが、2匹を優しく照らした。


 ダークライ 「……綺麗な三日月だな」

 クレセリア 「あれは二十六夜の月です。三日月とは欠けが反対でしょう」

 ダークライ 「お前のこと言ったんだよ。三日月の化身さんよ」

 クレセリア 「なっ……///」

 ダークライ 「へへっ。まぁ悩め。思いきり悩め。答えが出たら聞いてやるよ」

 クレセリア 「っ……次またナイトメアで誰かを苦しめるようなことがあれば、必ず止めに行きますからね!」

 ダークライ 「へへっ。楽しみにしてるぜ」





   ― 終 ―


 ▼ 102 州街道◆IVIG1YNTZ6 18/12/24 02:30:30 ID:6HV2hXyc [36/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


以上で完結です。

最期までお読みいただき、ありがとうございました。



当SSは、こちらの企画に【応援枠】として参加しています。
http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=911303

 ▼ 103 西ノ女 for EST◆Ms3gHxMZzM 18/12/24 03:39:42 ID:d3t2VMoA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
おつ
 ▼ 104 ダック@ゴージャスボール 18/12/24 04:16:44 ID:O/Zw3.Uw NGネーム登録 NGID登録 報告
乙!
 ▼ 105 ガユキノオー@コイン 18/12/24 05:28:33 ID:tu3MVd0E NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙です!
 ▼ 106 ガディアンシー@むしのジュエル 18/12/24 11:20:05 ID:PVik.ND. NGネーム登録 NGID登録 報告
乙!
ちょっとイーブイの相棒ワザ封印してくる
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