▼  |  全表示295   | << 前100 | 次  |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |   ▼   
                  スレ一覧                  
SS

【1レス目企画】荒野の迅雷リバイバル

 ▼ 1 まぐれな救い主◆m3DNSoFAFg 19/03/08 18:07:09 ID:N7TsxXfE [1/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


──ここはどこだろうか?

肌寒い感覚が意識を浮上させる

抉れた地面、無造作に投げ捨てられたもう使えないであろうモンスターボール……

どれも全て、見覚えがない

──自分は誰なのか?どうしてここにいる?

必死に思い出そうとしたが、何も思い出せない

記憶の糸はどこかで途切れてしまっていた……


ふと、何かの気配がした

荒れ果てた景色の中で存在感を示す、蕾をつけた桜の木

そのそばに、誰かが倒れているのだ──
 ▼ 2 まぐれな救い主◆m3DNSoFAFg 19/03/08 18:08:12 ID:N7TsxXfE [2/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
このSSはBBS五周年を祝う一レス目企画(http://pokemonbbs.com/sp/poke/read.cgi?no=949147)のSSです
 ▼ 3 まぐれな救い主◆m3DNSoFAFg 19/03/08 18:10:17 ID:N7TsxXfE [3/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 
 よろよろと身を起こす。
 足がふらつくし、頭はガンガン鳴って酷い気分だが、痛みはない。
 
 俺は思案する。倒れてるあいつを、助け起こしにいくべきか?
 善良な一般市民としてはそうすべき、だろうが。
 躊躇せざるをえない事情もある。

 まず第一に、むしろ俺の方こそ助けて欲しいぐらいだ、ということ。

 見渡せばあたりは一面の平原、俺が倒れていた抉れた部分を除けば、目につくのはあの桜の木だけ。
 風が吹けば赤茶けた砂埃が舞い、細く背の低い草がまばらに点在するのみ。 

 だだっ広く何もない、荒野のど真ん中。
 記憶がない俺には、もちろん、ここがどこなのか、どっちにいけば人里があるのか、見当もつかない。
 ▼ 4 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:13:41 ID:N7TsxXfE [4/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 持ち物は、といえば──。
 身につけていたリュックの中身は、ペットボトルの水、ブロックタイプの栄養食。丸められたタオルが一枚に、財布と空っぽのモンスターボールが数個(このボールは未使用なようだった)。
 雑に押し込んだような散らかり具合で、俺という人間の大雑把さが伺える。

 まあ、とにかく、手持ちのポケモンもおらず、食料も心もとないわけで。自分の身を守れるかも怪しいのに人助けをする余裕は、正直あんまりない。
 これが1つめ。

 そして2つめだが──。
 記憶を失い、抉れた地面に倒れ伏していた俺。近くにいるのは、桜の木の下のあいつだけ。
 何がどうなってこんな状況になったのか、皆目分からんが……。

 しかし俺の視点からすれば、あいつは立派な容疑者なわけだ。

 ▼ 5 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:16:36 ID:N7TsxXfE [5/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 

 さて、どうしたものか。

 助けになんていこうものなら、油断して近寄ったところに今度こそ止めを刺されても、おかしくはない。
 なにしろ、何もかもがわけわからん状況だ、ありえないなんてことはありえない。

 だが──いやしかし、ここは覚悟を決めるべきだろう。その時はその時だ。
 どのみち、闇雲に歩き回ったって、野垂れ死ぬ可能性はけして低くないのだ。
 あいつが善良な一般市民で、ここらの土地に詳しい、ということを祈るしかないだろう。

 どうやら俺の頭は、この程度の判断もできないほどおめでたくできては、いないらしい。
 両親に感謝しないとな、顔も覚えてないが。

 ▼ 6 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:19:57 ID:N7TsxXfE [6/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 歩き出そうとして──俺はふと、前に出しかけた足を止める。

 ──そうだ!
 こいつがあった。

 屈みこんで、『それ』を拾い上げる。

 壊れたモンスターボール。
 記憶喪失で倒れていた俺の傍らに転がっていた、あのボール。

 ボールは開きっぱなしの状態だった。
 ボタン部分が破損しているせいか、閉めようとしてもすぐにパカリと開いてきてしまう。
 欠けてひび割れ、内部の機構が飛び出ていて、どこからどう見ても、ぶっ壊れている。

 まるで力任せに無理矢理こじ開けたような、そんな壊れ方だった。

 ▼ 7 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:24:18 ID:N7TsxXfE [7/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 しかし、手の中で転がしながらしげしげと眺めてみれば、表面には無数の細かいキズ。ところどころ、赤い塗装もハゲてしまっている。

 激しい損傷は瞬間的に強い力が加わってできたものだろうが、この細かいキズは、違う。昨日今日でできたものじゃなく、長い時間をかけて、少しずつ付いたような。

 どうやら、相当年季の入ったモンスターボールらしい。
 さしずめ、俺の思い出の品ってところだろうか。
 
 中のポケモンはどうなった?
 どこかへ逃げ出したのか? 元から何も入ってなかったのか?
 俄然、このボールに対して興味が湧いてきている俺がいた。
 
 何しろ、リュックの中に俺の身元を示すような品はなかった。
 なら、このモンスターボールこそが、俺の記憶を探る手掛かりになるんじゃないか。

 ▼ 8 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:31:23 ID:N7TsxXfE [8/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「んー?」

 何かが目に入った。
 ボールの、白い方の半球。その底の部分に何かが記されている。
 ペンで書かれたらしき黒文字はだいぶ掠れてしまっているが……かろうじて、判読はできた。

「W、Y……?」

 書かれていたのはこの2文字だけ。
 何かの頭文字だろうか。さっぱり分からない。
 しかし、へったくそな字だ。線がぷるぷるしてるし、バランスも酷い。

 ……まあ、特に役に立たなかったとしてもだ。
 このボールが俺にとって大事なものなら、捨てるわけにはいかない。記憶を取り戻したとき、なくなってたら落ち込んでしまうだろう。

 ▼ 9 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:32:55 ID:N7TsxXfE [9/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「大事に持っておかないとな」

 ひとり呟き、リュックに仕舞いこんでから、今度こそ桜の木へ足を向ける。
 
 ──そうだ。
 俺は記憶を取り戻すんだ。

 まずは木の下で寝てるあいつから、情報を聞き出す。
 たとえ小さな手掛かりでも。

 あてどない荒野から抜け出すために。
 これが、最初の一歩だ。


 ▼ 10 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:39:12 ID:N7TsxXfE [10/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ○

 桜の木、といっても花は咲いていない。

 黒々とした幹はずんぐりと太く、かなり樹齢が長いのだろう。しかしその割りに背丈が低い。枝は少なく、葉も落ちきっている。
 この肌寒さからして既に冬だと思うのだが、蕾は数えるほどしかなく、その蕾にも生気がない。

 年老いて弱っているのか。

 しかし、ここは荒れ果てた土地。周囲にも他の木はまったく生えていない。そう考えると、これでも驚異的な生命力を持っている方、だろうか。

 ▼ 11 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:45:04 ID:N7TsxXfE [11/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 桜の木に近づくにつれ、横たわっている人物の姿が少しずつ明瞭になってゆく。

 さっきは距離があって分からなかったが──どうも、思ったよりずいぶん小柄なようだ。
 いや、待て。

 小柄、どころじゃない。
 それどころか、かなり幼い、子供だ。

 纏っている服は、服というよりボロボロの布といった様子で、土に汚れて元の色も分からないぐらいだ。
 うつ伏せなので顔は見えないが──。

 こんなところに、一人ぼっちで横たわる、ボロ着の子供。

 ▼ 12 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:50:53 ID:N7TsxXfE [12/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ──おいおい、勘弁してくれよ。

 不穏なものを感じ、足取りが速くなる。
 最初に出会う相手が……なんて、幸先が悪いにもほどがある。

「おい! 生きてるか!」

 心臓が早鐘を打つ。
 駆け寄って、息を切らしながら、ゆっさゆっさと揺り起こす。
 驚くほど軽い身体にドキリとする。
 細く、弱々しく……けれど、暖かかった。

 良かった。
 生きてる。

 安堵感が身体を巡る。
 そこら中に冷や汗をかいていたことに、今になって気がつく。
 ▼ 13 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:56:08 ID:N7TsxXfE [13/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「まったく……」

 額の汗を拭いながら。焦らせやがって、と続けようとして、俺はそれ以上言うことができなかった。

 うつ伏せになっていた子供がむくりと起き上がり、こちらを見つめていた。

 幼い少女だった。
 土埃にまみれて金髪は乱れ、細かな擦り傷が目立つ顔。
 綺麗にしてれば可愛らしいんだろうな、という顔立ちだが、そんなことはどうでもよかった。

 俺が言葉を続けられなかったのは、彼女の目を見てしまったから。
 ▼ 14 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:03:42 ID:N7TsxXfE [14/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ガラス玉のように真ん丸く、綺麗なのに。
 何の光も映していないかのように、どんよりと澱んで。どこまでも暗い、暗い、吸い込まれてしまいそうな瞳。

 真っ暗な瞳。
 
 そしてその瞬間、俺は感じた。
 なぜなのかは分からないが、感じた。

 魂が打ち震えるような、張り裂けるほど狂おしい感情が涌き上がる。 
 特別で、運命的で、雷に撃ち抜かれるような、途方もなく衝動的で根元的な何かを。

 俺は感じた。

 ▼ 15 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:04:16 ID:N7TsxXfE [15/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 そんな俺の様子をまるで意に介さないかのように。
 一切の光を宿さない双眸で、無表情のまま、少女が呟く。
 抑揚のない声で、ぼんやりと俺を見つめながら、呟いた。


「──なんだ、生きてるんだ」


 ▼ 16 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:12:16 ID:N7TsxXfE [16/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ドキリ、と心臓を鷲掴みにされるような感覚。

 いま、なんと言った?

 『なんだ、生きてるんだ』と。
 俺を見て、そう言った。

 子供と分かって、すっかり頭から吹き飛んでいたが──そうだ。
 状況を考えれば、この少女が俺の記憶喪失に関わっている可能性は、ある。
 
 この子が俺を半殺しの目に遭わせて、そのせいで記憶が、とか……?
 あるいは何かそういう特殊能力を宿しているとか?
 しかし、こんな子供が? 本当に?
 
 ▼ 17 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:21:46 ID:N7TsxXfE [17/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「お前……何か、知ってるのか? 何者だ?」

 思わず声が震え、上ずってしまう。
 少女は首をかしげて、何も言わず、こちらを見つめていた。
 表情からも、目からも、仕草からも。何を考えているのか、感情がまるで読み取れない。

 得体が、知れない。
 身体までもが、ぶるりと震えてしまって。

 ──何をやってるんだ、俺は。こんな子供に何を怯えている?
 頭をぶんぶんと振って、くだらない考えを振り払う。

 そうだ、その時はその時だと、覚悟を決めてこの木まで来たんじゃないか。
 びびってちゃ、始まらない。情報を聞き出さなければ。
 ▼ 18 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:31:37 ID:N7TsxXfE [18/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「えっと、この辺の子か? どこか、近くに町がないか、知らないか」

「……あっち」

 か細い声とともに、スッと左手をあげ、俺の背後を指差す少女。
 振り向くと、その先には小高い丘がそびえていて、遠くまで見通しがきいていない方向だった。
 あの丘の向こうか。

「ありがとう。ええと、ところで君はここで一人で何を?」

「……寝てた」

 少し時間差があってから、付け加える。

「……この木の守り神さまが、お願いかなえてくれないかなって」

 ▼ 19 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:36:28 ID:N7TsxXfE [19/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「守り神さま?」

「そう。今は眠ってるって、みんな言うけど、でも──ああ、どんなお願いかは秘密」 

「オーケイ。で、俺、あそこの抉れてるところに転がってたんだけど。何か知らない? いつああなったか、とか」

「……さあ。知らない。昨日まではなかったと思うけど」

「じゃあ、『WY』って聞いたことある? というか俺のこと、どこかで見かけたりとか、してない?」

「……わかんない」

 意外にも、というか。
 第一印象の衝撃は大きかったが、話してみると、案外普通の少女のようにも思えてくる。

 やっぱり、こんな子供が俺の記憶喪失に関係してるなんて、考えすぎなんだろうか。
 ▼ 20 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:44:51 ID:N7TsxXfE [20/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 しかしやはり、あの暗い瞳と『生きてるんだ』という抑揚のないフレーズが。フラッシュバックのように蘇る。
 どうしても、ただ者とは思えない。が、一方で、有力な情報を引き出せそうにないのも事実だった。

「じゃあ、俺は教えてくれた町に向かうけど──君はどうする? 町まで送っていこうか」

「いい。帰りたくないし」

 桜の木の幹に寄りかかり、気だるげに少女は言う。

 しかし、ボロボロの服で、薄汚れた格好の幼い子供である。
 さっきまでこの少女に恐怖していた俺だが、こうなってくるとなんだか心配に思えてきてしまう。
 ここに置いていくのは、どうにも気が引ける。
 ▼ 21 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:49:52 ID:N7TsxXfE [21/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 うーむ。そうだ。

「実は、俺、記憶喪失で。自分が誰なのか、なんでここにいるのか、何も覚えてなくて、心細いんだ。だからさ、町まで俺を案内してくれないかな」

「ふーん」

 抑揚のない返事。
 何を言うのもこの調子だから、興味があるのかないのか分からないぞちくしょう。

 ええい、この際だ。
 ガキめ、大人の演技力というものを見せてくれる。
 ▼ 22 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:53:47 ID:N7TsxXfE [22/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ぐわあ持病の風邪が! 早く病院にいかないと5秒で死ぬ! どうか、人助けと思って、町まで一緒に行きましょうお願いします!」

「えぇ……」

「持ち物もほとんどなくて、手持ちポケモンもいないみたいだし! 悪いやつとか野生ポケモンに襲われたらひとたまりもないのよ! 頼む、俺をここで見捨てる、それだけはしないでくれ!」

 必死に頼み込んでいる中で──。
 少女の瞳が、わずかに揺れ動いたような気がした。
 俺の言葉のどこかに、たしかに反応した。

 ▼ 23 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:55:29 ID:N7TsxXfE [23/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「──それ、本当?」

 微かに、何かの色を帯びた問いかけ。
 チャンスだ。何に反応したのかわからんが、興味を持ってくれてる!

「ホントホント! あ、持病の風邪で死ぬのは嘘だけど、他は全部本当です!」

「ふーん……」

 こめかみの辺りで、指にくるくると髪を巻き付けながら、考え込む素振り。

 ▼ 24 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:58:46 ID:N7TsxXfE [24/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 そして。

「わかった、いいよ」

 ほっそりとした両足で、少女が歩き出す。

「お、おお! 本当か、ありがたい!」

 これで旅の道連れができて頼もしい──じゃなくて、ちゃんとこの子を町まで送り届けなければ。
 頼りなさげな小さな背中を追って、俺も足を進める。

 ▼ 25 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 20:02:23 ID:N7TsxXfE [25/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「あ、それと」

 少女がこちらを振り返り、それから、にんまりと、笑みを浮かべた。
 初めて目にした彼女の笑顔は、こびりついた土や擦り傷もまるで気にならないぐらい、可憐で。

 ぎゅっと胸を締め付けられるような痛みが走る。

 なんだ、笑えるんじゃないか。
 疑った俺がバカだった。こんな子が、俺の記憶喪失の原因だ、なんて。

 この子は、普通の子なんだ。
 ▼ 26 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 20:07:23 ID:N7TsxXfE [26/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 絶対に、町まで無事に。
 俺が決心を新たにしたところで、彼女が続ける。

「あなたが記憶を思い出すのも、手伝ってあげるね」

「えっ? え?」

「わたし、ユスラ」

「うん? うん、ユスラね……うん?」

「あなたは──覚えてないんだよね。じゃあ、桜の木で会ったから、サクラ! よろしくね」

 なんだか急に機嫌をよくしたのか、足取り軽く、ユスラが歩を進める。
 俺の方は当惑してしまって調子が狂う。
 ▼ 27 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 20:10:46 ID:N7TsxXfE [27/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 しかし、おい。
 俺の呼び名がサクラ?
 冗談じゃないぞ、らしくないにもほどがある。

「サクラは嫌だ! 別の案を要求する」

「えー、かわいいじゃん」

「それが嫌なんだって」

「なら、早く本当の名前思い出したら。サクラちゃん?」

「ちくしょう、バカにしやがって」

 ああ、もう。翻弄されっぱなしだ。
 町まで送るだけのはずが、このユスラという少女との付き合い、思いのほか長いものになりそうだった。


 ▼ 28 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:10:37 ID:zi0kf9ag [1/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ○


「わたしは9歳。サクラは?」

「いや、それも覚えてないな。……何歳に見える?」

「なんかそういうの、めんどくさい女みたいだね」

「自分がどんな見た目なのかも、まだ見てないんだって。仕方ないだろ」

「んー。20は越えてそう。30までは行ってないと思う」

「ほう、そうかそうか。だったら、若者のつもりでいてよさそうだな」 

 ▼ 29 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:15:48 ID:zi0kf9ag [2/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 町まで案内してもらう道中。
 小高い丘を越えるべく、えっちらおっちら上り坂をゆく。その間の俺とユスラの会話は、親睦を深めるためと、情報を得るためと、2つの目的があった。
 
 しかし、サクラという呼び名には、なかなか慣れられそうにない。
 そんな名前は、もっとこう、可愛らしくて、いかにも女の子って人間のための名前だろう。なんなら、俺よりユスラが名乗った方がよほど『らしい』んじゃないか。

 だいたい、桜の木の下で会ったからサクラだなんて、いくらなんでも安直すぎるネーミングであってだな……。
 ▼ 30 ッチャラ◆kjCx/BzBlg 19/03/09 10:18:40 ID:WdD2DiK. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 31 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:20:19 ID:zi0kf9ag [3/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 などと思考していたところ、突然ユスラがぴたりと足を止めた。
 こちらへ振り向き、じっと見つめてくる。

 あの、暗い瞳だ。

 出会った最初のあの時に比べれば、いくぶんかやわらいだようでもある。だがやはり、飲み込まれてしまいそうな、深い暗さに染まった瞳だった。
 そして、心なしか鋭い調子で、口を開く。

「ハナカゼタウン。いま、向かってる町」

「ん? ああ、そうか、ありがとう……?」

 記憶がないのだから当然だが、聞き覚えのない名前だ。

 ▼ 32 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:26:18 ID:zi0kf9ag [4/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「このあたりは、イカズチ荒野。夕方になると、雷がたくさん、すごくたくさん落ちるの、毎晩」

「毎日? そりゃ大変だ。迂闊に出歩けやしない」

「町の方にいれば落ちてこないんだけど──でも、昔はこうじゃなかったの。昔は大きな森があって、雷もこんなになかったって」

「森?」

 ユスラの言葉に思わず辺りを見回してしまう。
 からっからの土地。わずかにしか生えていない草。
 ひとっこひとりおらず、野生ポケモンの姿も見当たらない。

 そして、だいぶ離れたらところに小さく見える、桜の木。
 付近に他の樹木は一本もなく、ここに森が繁っていただなんて、想像もつかなかった。
 ▼ 33 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:30:29 ID:zi0kf9ag [5/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「桜の木の、守り神さまが眠っちゃってからだって。森がどんどん枯れて、あの桜だけになって、土地も荒れ放題で」

「どうしてそんなことに?」

「守り神さまがいなくなって、土地の生命力が枯れちゃったんじゃないかって、町のおじさんは言ってた」

「じゃあ、守り神が目覚めれば、土地も蘇る?」

「かもしれないって。だからわたし、時々、あの桜にお水あげてるの」

「ははあ。じゃあ、今日も水やりのためにあそこに?」

「んー、それは──」

 ▼ 34 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:35:15 ID:zi0kf9ag [6/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 言いかけたところで、ユスラは口をつぐんでしまう。
 ハッとなったような顔で、まくしたてる。

「ううん、そんなことより、ねえ、ここまで聞いて、思い出さない? 何か、少しでも覚えがあることとか」

 そういうことか。
 ユスラの方も、俺の記憶を思い出させるきっかけにならないかと考えて、色々と話してくれていたわけだ。

 しかし残念ながら、俺に思い当たるところはなく、首を横に振るしかない。

 ▼ 35 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:40:17 ID:zi0kf9ag [7/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「いや、そもそも、このあたりの出身かも分からないし」

「でも、こんな荒れ地にいたんだよ。荷物のサイズも、旅人って感じじゃないし。やっぱり、この近くに住んでたんじゃない?」

「たしかにそうかもしれないけどなあ」

「それにね、きっと完全にぜんぶ忘れちゃったわけじゃないと思うの」

「どういうことだ?」

「『俺』って。自分のこと、そう呼んでるでしょ。元々そうだったのを体が覚えてる、みたいな。違う?」

 ▼ 36 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:45:52 ID:zi0kf9ag [8/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 なるほど。
 目から鱗が落ちる気分だ。

 俺は、自分の一人称が『俺』であることは覚えていたわけだ。
 ……いや、本当にそうか?
 本来の一人称は『私』だけど、それを忘れてるだけ、とかそんなこともあるのではなかろうか。

「だとしたら、『俺』以外もいろいろ試すんじゃない? 最初からずっと『俺』としか言ってないのは、やっぱりそれが馴染んでるからだと思うな」

 疑問を口にすると、あらかじめ用意していたかのようにすぐに返事がある。

 ▼ 37 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:49:27 ID:zi0kf9ag [9/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 体の動かしかたや、動かす時の重み。
 背の高さの感覚に、自分の性別。
 もしそれすらも忘れていたら、きっともっと違和感があったはずだ。
 
 それから、最初に木を見てそれが桜の木であると分かったのも、桜の木というものを知っていたからだ。
 
 あまりに当たり前のことだったから、意識していなかっただけで。
 俺はすべての記憶を無くしたものだとばかり思っていたが、そうではなかった。

 『最低限の土台』のような、俺という人間に染み付いた大前提の知識は残されているのだ。

 ▼ 38 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:54:18 ID:zi0kf9ag [10/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ユスラが続ける。
 
「覚えてることもあるなら、見たり聞いたりして、どこかに引っ掛かってピンと来るようなこと、きっとあると思うの」 

「そうだな──その通りだ」

 自分の気持ちが上向きになってゆくのを感じた。
 記憶喪失がそう簡単に解決するものだとは思わないが、それでも、光はある。
 くよくよしてたって始まらない。

 小さくて断片的なものだって構わない。少しずつでも、思いだそう。
 その記憶の欠片を辿って、俺は必ず、取り戻す。

 ▼ 39 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:59:31 ID:zi0kf9ag [11/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「なんか、ちょっと元気が出たよ。ありがとな」

「ううん、それより」

 突如、ユスラの表情が翳りだす。
 何かを思い詰めたような。
 
「ねえ、サクラ、早く思い出してね。なるべく早く」

「そりゃ俺だって早く思い出すに越したことはないが……。何か、事情でもあるのか」

「うん。なんとか今月中にお願い」

 そう言うなり、ユスラはくるりと背を向け、再び歩き始める。

 ▼ 40 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 11:05:06 ID:zi0kf9ag [12/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「うわ、締め切りつきかよ──ちなみに、今って何月何日だ?」

「1月29日」

「あさってまでじゃねえか! 大家さん、もうちょっと待ってくれませんか」

 努めて明るく、茶化すように言ったつもりだが、どうだろうか。
 追いかけ追いつき、横目にちらりとユスラの表情を伺うと、浮かない表情が目に入る。
 
 どうやら、効果はいまひとつのようだ。


 ▼ 41 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 17:35:49 ID:zi0kf9ag [13/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ○

 俺は打ち震えた。
 恐怖でも歓喜でもなく、雷の直撃を受けたような激震に、脳が揺さぶられる。

 地に膝をついていた。

 息が詰まる。ぜえぜえと、喘ぎが漏れる。

 ▼ 42 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 17:39:00 ID:zi0kf9ag [14/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ぐらつく視界の中に、少女がひょっこりと顔を覗かす。

「サクラ、どうしたの?」

「いや……大丈夫だ」

 気遣わしげに寄ってくるのを右手で制し、よろけながら立ち上がる。
 左手で頭を抑えながら、ゆっくりと周囲を見回す。今しがた得たものを、1つ1つ確かめる。

「ねえ、もしかして──」

「──ああ。俺は、この町を『知っている』」

 早くも、というべきか。
 俺は、失った記憶の断片を思い出していた。

 ▼ 43 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 17:44:52 ID:zi0kf9ag [15/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 
 丘を越えた後は、町は案外すぐ近くにあって、さほど疲弊することもなく辿り着けていた。出発してから一時間前後といったところか。
 そしてそれは、町に入った瞬間に起こった。

 町の外観を見たときから、何か引っ掛かるようなものは感じていたのだ。しかし、その正体が分からなかった。
 そして、一歩足を踏み入れた時。
 頭のてっぺんから突き抜けるような、あの雷みたいな衝撃に襲われた。

 走馬灯めいた、凄まじい勢いで脳裏をかけめぐる映像。
 この町に関する記憶の断片が、無秩序に一斉に飛び込んで来て、くらくらしてしまう。

 ▼ 44 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 17:46:00 ID:zi0kf9ag [16/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ──ハナカゼタウン。
 そうだ。そういう名前だった。
 
 乾いた大地に立ち並ぶ家々。寂れた町並み、古ぼけた標識。
 西部劇なんかに出てきそうなこの田舎町を。

 俺はここを知っている。

 俺は、このハナカゼタウンに来たことがある。

 ▼ 45 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 17:52:24 ID:zi0kf9ag [17/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 
「俺自身のことは、分からないままなんだ。でも、たしかにこの町に見覚えがある」

「じゃあ、やっぱりここに住んでるのかな」

 こてんと首を傾げるユスラ。

「単に旅で寄っただけ、かもしれないけど──でも、方針は立った」

「そっか、きっと町の誰かがサクラを知ってるもんね」

「ああ。少なくとも、俺が住民ならすぐ分かるだろう。問題はここにいた期間が短かったら、だけど」

「よその人なら珍しいから、たぶん印象に残ってるんじゃないかな。ほら、ド田舎だし」

「なら、決まりだ」

 とにかく聞き込みをして、俺のことを知ってる人間を探す。

 ▼ 46 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 17:59:05 ID:zi0kf9ag [18/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ○

 ハナカゼタウンは大きく2つのエリアに分かれている。
 北側と南側だ。

 まず南側の、イカズチ荒野に面したエリア。

 土地は乾き、砂埃が酷い。その上、夕方以降はイカズチ荒野に落ちる雷でうるさく、はっきり言って土地柄はよくない。

 そのため住民も柄の悪い者がやや多い。北側に比べると治安が悪く、閑散としていた。
 一方で酒場や賭場などは南部に集中しており、時間帯によっては賑わいを見せる。

 ▼ 47 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:04:50 ID:zi0kf9ag [19/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 そんな南側から北へ進めば、徐々に様相が変わってゆく。次第に草木が増え、ちらほらと畑や溜め池も見られるように。

 それもそのはずで、町から北には緑に満ちた広大な山脈が広がっているのだ。
 荒野から離れるにつれ、目に見えて土地の豊かさは増していき。
 山から町の近郊を通る川もあり、裾野には、同じ町の中とは思えないぐらいのどかな風景が広がる。

 南部に比べれば人の活気があり、役所や学校など、町の主要な施設の多くはこの北側のエリアにあった。
 
 ▼ 48 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:11:25 ID:zi0kf9ag [20/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ──とまあ、俺が思い出した記憶によればこんなところだ。 

 さて、俺を知る人を探すのに、北と南、どちらから当たるべきか。
 やはり、人の多い北か……?
 と、考えていたとき。
 

「──あっ!」
 
 突然、小さく声をあげたと思うと、弾かれたようにユスラが動く。

 俺の背後に回り込むと、ぴったりとくっつく。顔を俯かせ、動きを止めて。息を潜め、気配を押し殺すかのように。

 明らかに、何かに怯えている。

 ▼ 49 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:17:09 ID:zi0kf9ag [21/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 これは、一体?
 答えを求めて辺りを探れば、それらしきものはすぐに見つかった。
 

 数軒先の酒場の扉が開き、中から男が出てくるところだった。

 背が高く色黒で、目付きはねっとりとし、柄が悪い。
 まだ真っ昼間だというのに顔を赤らめていて、既にずいぶんと飲んだ後らしい。
 葉巻をくゆらせながら、ふらふらと歩き出し──目があった。
 ▼ 50 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:23:31 ID:zi0kf9ag [22/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 町に入ったと言っても、まだ人通りの少ない南部の端っこあたり。
 だから俺にとって、彼は初めて遭遇するこの町の住人だった。もちろんユスラ以外では、だが。

 なんだか緊張して、息を呑む。

 ユスラは、この男に怯えているのか?
 ならば、あまり関わらない方がいいのだろうか。
 だが、この男が俺の記憶の手掛かりになる可能性だって、ある。


 考えあぐねる俺をよそに、男は興味なさげに、俺と反対方向へ足を向ける。ユスラの存在に気がついた様子もない。

 なんだかよく分からんが、ひとまず面倒ごとは回避できそうだ。

 ▼ 51 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:33:07 ID:zi0kf9ag [23/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「わたし、あの人のこと嫌い」

 酒場から出てきた男が角を曲がり、姿が見えなくなったところで、ユスラが口を開く。
 表情筋は強ばり、唇を固く結んで。何かを押し殺すようにしていた。

「誰なんだ? ヤクザとかか」

 あれだけ怯える相手ということは、と当たりをつけてみたが、ユスラは首を横に振る。

「ううん。もっと小物。酒とタバコとギャンブルやってるだけの、ダメな男」

「じゃあ、いったい」 

 そう尋ねると、ユスラの瞳はいっそう暗く沈んだ色に染まった。
 
「わたしのママが、結婚した人。わたし、あの男と同じ家に棲んでるの」

 抑揚のない、暗澹たる声。
 月も星も町明かりも何一つない夜でさえ、これほどではないだろうというぐらい、暗かった。

 ▼ 52 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:39:58 ID:zi0kf9ag [24/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「それは──お父さんとうまくいってないってことか?」

「違う」

 ユスラの語気が強まる。

「わたしのパパは、何年も前に行方不明になったの。あの男は最近うちに来たけど、仕事もしてないし、ママやわたしを殴るし、最低」
 
「な!? ユスラに、虐待を?」

 ユスラがゆっくりと無言で頷く。

 思わず、まじまじとユスラを見つめる。
 全身が汚れや土埃まみれだから分からなかったが──言われると、細かな擦り傷とは別に、腕や足に痣のようなものが浮かび上がって見える気がした。 

 ▼ 53 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:45:47 ID:zi0kf9ag [25/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 声を荒らげる。

「そんな──そんなこと、許されてたまるか。そんなやつ、どうにかできないのか」

「どこがいいのかわかんないけど、ママは好きみたいだし。お役所もいい加減だし。わたしには、なにもできない」

 ユスラの瞳の、あれほどまでの暗さの理由、その一端が見えたように感じた。
 この、無力感にうちひしがれているのだ。


 心が痛み──そして、ズキリ、と頭に痛みが走る。


 ▼ 54 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:53:10 ID:zi0kf9ag [26/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 なんだ、これは?
 何に反応した?

 俺の記憶が、『引っ掛かり』を感じている。どこに?
 
 これは──これは、無力感の記憶だ。

 どこからともなく流れ込んでくる、濁った感情。
 全身の力が抜け落ちていくような、徒労感と絶望感。

 
 どうにもできない。何をしても何も変わらない。
 頑張っても報われない。
 なんで、頑張らなきゃいけないの──。


 知っている。
 俺は、この感情を知っている。

 ▼ 55 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:59:11 ID:zi0kf9ag [27/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 もしかしたら。
 俺はユスラと似た境遇だったのかもしれない。

 ならば、ユスラに出会ったときに感じた運命的なものは、あれは、仲間意識のようなものか。
 ユスラの力にならなければならないと、本能的な部分で感じ取ったのか。
 それが、俺のやるべきことなのか。

「なあ、ユスラ。もし家に帰りたくなかったら、俺と一緒に宿に泊まるか?」

 はじめて会ったとき、『帰りたくないし』と口にしていたのを思い出す。時間稼ぎにしかならないかもしれないが、一旦避難するのも手だ。
 そう思っての提案だった。

 ▼ 56 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 19:42:02 ID:zi0kf9ag [28/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「サクラ、ありがと。でも、いいよ。別に今まで通りだし。もう慣れっこだから」

 しかし彼女は、首を振る。
 一見すると穏やかなようでもある表情だけれど。その目はやはり悲しげで、すべてを諦めたような、もはや悟りの境地のようですらあった。

「その代わり、早く、思い出してね」

 果たしてそれが、僅かでもユスラの救いになるのかは分からない。でもやれることを1つずつやるしかない。
 この子がこんな悲しい顔を浮かべているのは、見てられない。

「──ああ、必ず」


 ▼ 57 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 08:43:41 ID:q8UsuVxE [1/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ○


「で、まず北の方で聞き込みするわけですか」

「ああ。人が多いのもあるけど、この辺の怖い顔の人にいきなりチャレンジするのは勇気がいるというか」

「まずはレベルが低い相手でトレーニングしてからということですね」

「まあ、そのような……ユスラってゲームとかするのか?」

「昔、買ってもらったことはありますよ。パパがいなくなってからはないですが」

「あ……すまん」

「ううん。気にしないで──あっ、ちょっと失礼」

 ユスラがそそくさと建物の隙間に隠れる。
 気にしないでと言われても、なんてことない世間話のつもりで地雷を踏んでしまうのは、なかなかに気まずいものだな。

 ▼ 58 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 08:52:51 ID:q8UsuVxE [2/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ドッコラーを連れた作業員の男がせかせかと通り過ぎるのを見送って、ユスラが出てくる。

「えーと、じゃああれか、最近流行った『ゴーストウォッチング』とかはやってないのか」

 一時期爆発的な人気を集めたゲームの名前を挙げる。俺も詳しくはないが、ゲームのみならずアニメや歌の知名度も高かったはずだ。
 しかしユスラは不思議そうに見返してくる。

「なにそれ」

「あれ? 知らない?」

 もしかして、テレビもない?
 再婚相手は働いていないそうだし、とても裕福な家庭とは思えない。またしても無神経だったか。

「すまん、忘れてくれ」

「変なサクラ──ひゃっ!」

 ▼ 59 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 09:00:11 ID:q8UsuVxE [3/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 妙な声を出して、また隙間に引っ込むユスラ。

 主婦らしき女性が、怪訝そうにじろじろと俺を見ながら足早に通過する。肩に乗ったデデンネが、女性とまったく同じ角度に同じ表情でこっちを見ていたのがちょっと面白かった。

「おい、ユスラ?」

 返事がない。

「おーーい?」

 返事がない。

 ▼ 60 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 09:07:00 ID:q8UsuVxE [4/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ユスラが戻ってきたのは数分後。
 寄ってきたマメパトの群れに、エサならやらんぞとたっぷり説明し、解散してもらった後だった。

「ふう。お待たせしました」

「遅かったな。トイレか?」

「は!? ち、違います」

 まあ違うだろうとは思うけど。

「さっきからそのかくれんぼはなんなんだ。あの作業員とか主婦の人も、嫌いな人なのか?」

「そうでもない、ですが。顔をあわせたくないというか、なんというか」

 口をもごもごさせて言い淀む。

 どうも様子が変だ。

 ▼ 61 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 09:14:33 ID:q8UsuVxE [5/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ずっと緊張したような面持ちだし、そわそわしてるし、さっきからなぜか敬語だし。
 なんというか、居心地が悪そうな感じがする。

 北エリアへ向かう通りに差し掛かってから、ずっとこの調子だ。正直、気が気でないし、聞き込みどころじゃない。


 そういえば町の雰囲気に、そこはかとなく違和感のようなものがある。
 町から浮いているというか、異物になった気分というか。
 
 俺が余所者だから、か?
 さきほどの主婦の訝しげな視線なんて、見慣れた住民へ向けるそれではないように思う。

 しかしこの違和感は、それだけでは説明がつかないようなところがある。
 漠然としたものだから、言葉で表すのは難しいのだけれど。

 

 ぐうー。

 ▼ 62 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 09:20:32 ID:q8UsuVxE [6/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 考えを遮るかのように間抜けな音が響く。
 あっとなったユスラ、照れくさそうな拗ねた顔。

 色々あって意識を向けている余裕もなかったが、いざ気がついてみれば、腹の内にぽっかりと穴が空いたような空腹感がある。
 知らないうちに、俺もそうとう腹が減っていたらしい。

 ええっと、今は何時頃だろうか。
 俺は時計を持っていないので、周りを見回す。

 たしか、通りのこの辺り。
 この辺に、時計が設置されていたはずだ。公園にあるような、背の高いやつ。
 ちょうど南部と北側の境目のあたりだから、待ち合わせなどの目印によく使われるはず、なのだが。

「あれ?」

 見当たらない。

 ▼ 63 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 09:27:03 ID:q8UsuVxE [7/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「おかしいな。ここらへんに、時計なかったっけ」

「時計? この近くには、なかったと思うけど」

 記憶違いか?
 思い出したばかりだし、混乱して何か勘違いしているのだろう。そう自分を納得させる。

 ユスラが小首を傾げながら空を見上げる。

「時間は、まあ、そろそろお昼ぐらいかな?」

「通りで腹が減るわけだ。先にどこかで腹ごしらえでもしようか」

「それなら、美味しいサンドイッチ屋さんがあるの。北側の、『ようきなサンドパン』ってお店」

 ▼ 64 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 09:32:34 ID:q8UsuVxE [8/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……サンドパンが店を手伝ってたりするのか?」

「そんなお店だったらわたし行かないよ──あ、とにかく、そこのモモンマゴサンドがオススメ。生クリームたっぷりで、きのみも甘くて」

「フルーツサンドか。いやしかし、俺が食べるにはちょっと子供っぽすぎるというか」

「そう? 甘いの好きそうかなって思ったんだけど」

「……たぶんそうだ。よく分かったな」

 モモンマゴサンドの説明を聞いてるだけで、口の中に分泌される唾液が急激に増加しているのは自覚があった。
 覚えてないから断言はできないが、おそらく俺の好みの味なんだろう。

 ▼ 65 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 09:39:33 ID:q8UsuVxE [9/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「やっぱり? なんとなくそうかなって──」

「──ユスラ!」

 ユスラの言葉を切り裂くように、鋭い声が割り込む。
 明らかに、怒気を孕んだ声。
 ユスラがびくりと震え、みるみる顔が青ざめる。

「昨日から、どこほっつき歩いていてたの!? 心配したのよ!?」

 近くの角から現れた、睨み付けるような怖い顔をした女性。かなり息を切らした様子で、ずんずんと迫ってくる。
 黒縁のメガネから覗くスッと細められた目がすごい迫力で、思わず俺までたじろいでしまう。

「ご、ごめんなさい、ママ」

 虫の鳴くような声での答えに、思わずふたりの間で視線を往復させる。

 そうか。この人が、ユスラの母親。 
 ▼ 66 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 21:43:55 ID:q8UsuVxE [10/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 合点がいく気はする。
 金髪の色合いはユスラとそっくりだし、言われてみれば顔立ちも……いや、顔はあまり似てないな。ユスラに比べると、だいぶキツめの顔立ちという印象だった。

「あなたは──あら?」

 母親は今まさに気がついたような様子で俺の方を見て、一瞬、目を丸くした。
 しかしすぐに元の細められた目に戻り、詰問が始まる。

「見かけない顔ですが、どちらさまですか?」

 明らかに俺を不審がっている様子である。まあ、9歳の女の子だもの、当然といえば当然か。

 ▼ 67 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 21:49:42 ID:q8UsuVxE [11/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「俺は──」

 疑いを晴らそうと口を開いたはいいが、迷いで口が止まってしまう。

 何を言えばいい?
 怪しいものではありません、記憶を無くして荒野に倒れてたんです、なんて言ったらどう考えても『怪しいもの』だ。

 と、そこでユスラが慌てて助け船を出してくれる。

「この人はサクラ! サクラが、迷子になったわたしを助けてくれたの」

「あら、そうでしたか? それは失礼」

 口ではこう言いつつも、露骨に疑っている様子。じろじろと探るような視線を送ってくる。

 ▼ 68 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 21:57:01 ID:q8UsuVxE [12/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「それでサクラさん、この子はどこにいたんでしょうか」

 それは。
 答えようとしたとき、いつの間にやら母親の死角に回り込んだユスラの姿が目に入る。
 両手で大きなバッテンを作り、ぴょんぴょんと跳ねて何かをアピールしていた。

 ……言うなってことか?
 ユスラは自分の意思であの桜まで行ったはずだが、迷子ということにしたいのか。
 ひとまず適当に濁しておこう。

 ▼ 69 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 22:04:25 ID:q8UsuVxE [13/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「南側の、路地裏です」

 母親は胡散臭がるように眉をひそめる。
 さすがに抽象的すぎるか。慌てて情報を付け加える。

「ほら、あのクワガノンの落書きがされてる近くの」

 壁にスプレー缶で描かれた、派手な落書きが真っ先に思い浮かんだ。
 地元の悪ガキが勝手に描いたあのペイントは、かなり目立つ。おおよその位置を伝えるには十分なはずだ。

 しかしなぜか、母親はいっそう目を細め、疑いを強めたかのよう。
 背後のユスラも、困惑の表情。

 ……どういうことだ。

 ▼ 70 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 22:11:14 ID:q8UsuVxE [14/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「そんな落書きは、聞いたこともありませんが」

 凍りつくような絶対零度の声で、母親の口から真実が告げられた。

 まさに一撃必殺を食らった気分。


 本当に、どうなっている?
 これも、俺の記憶違いか? だが、位置が違うのみならず、存在すらしないとは?

 さっきの時計は、まだ分かる。そこまで特徴的なものでもないし、単に位置を間違えて覚えていただけかもしれない。
 だが、あれだけ派手で印象的な落書きが、そもそも勘違いだなんて。


 そんなこと、ありえるのか?
 ▼ 71 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 22:19:49 ID:q8UsuVxE [15/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「どういうことでしょうか?」

 ユスラの母親は険しい表情を緩めない。
 俺の脳内は混迷を極める。ユスラも、おろおろと慌てた様子だった。

「ねえ、ママ! サクラは、本当に何も悪くないの! 黙っていなくなったのは、ごめんなさい。でも、サクラは悪くないの。信じて!」

 かなり苦しい。具体的な情報は何も明かさず、ただ信じてくれ、と。
 これでは、あの母親を納得させることはできないだろう。


 そう思って視線を移し──目を見張る。
 母親は明らかに狼狽し、愕然とした表情を見せていたのだ。


 なぜだ?
 今のユスラの言葉のなにに、それほどまでに。


 ▼ 72 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 22:25:38 ID:q8UsuVxE [16/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 
 母親はゆっくりと目を瞑る。
 深々とため息。
 左右に2、3度、首振って。

 目を開いたときには、今さっき見せた驚愕は鳴りを潜め、もとの鋭い顔つきに戻っていた。

 数秒の間黙りこみ、幾度か瞬きし、そして口を開く。

「そこまで言うなら、サクラさん。ひとまずは、あなたを信用しましょう。私はユスラの母、グミと申します。娘を見つけていただき、ありがとうございました」

 まっすぐに俺を見据えて、そう言った。
 ユスラが喜色を浮かべる。俺も正直ほっとした。
 
「ただし!」 

 グミと名乗った彼女は、ぴしゃりと続ける。

 ▼ 73 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 22:31:21 ID:q8UsuVxE [17/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「今後、娘には近づかないように。その時は警察へ連絡させて貰いますから。いいですね?」

「そんな! ねえ、ママ、このあと一緒に北側に行く約束してるの」

「ユスラ、あなたねえ、一晩行方不明になった後よ? 今日は家でおとなしくしてなさい」

 ユスラは抗議するが、取り合う素振りもない。
 信用するとはいったものの、あくまで今回は見逃すだけで次はないってことか。

 客観的に見て、俺、怪しいもんなあ。それに、戻ってきたばかりのユスラが心配なのも、仕方ないことだとは思う。


 思うが、ならば、俺からも言っておくことがあった。

 ▼ 74 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 22:36:17 ID:q8UsuVxE [18/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 グミの迫力は正直怖いが、言わないと。意を決して口を開く。

「グミさん、あなたの再婚相手がユスラに暴力を振るっていると、そう聞いた。俺なんかを警戒する前に、もっとしなきゃならないことが、あるんじゃないのか!?」

 グミは意表をつかれたように目をしばたかせ、唇を噛む。わずかにたじろいだようにも見えた。
 苦々しげに口を歪め、吐き捨てるように言う。

「大きなお世話です。部外者が、勝手な首をつっこまないで」

「たしかに俺は部外者だ。だけど、ユスラの力になりたいんだ。9歳の子があんな弱ってるのを見て、部外者だからって見なかったフリなんかできない」

 ▼ 75 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 22:41:39 ID:q8UsuVxE [19/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「なんなんですか、あなたは!? ポケモンバトルで白黒つけますか!?」

 グミがボールを取り出して構える。ポケモンを持たない俺には、無論、勝ち目はない。
 けれど、尚も俺は言い募る。


「事情も知らずに無責任なことを言ってるのかもしれない。けど、頼む、ユスラの力になってやってくれ! ユスラには、あんたの助けが必要なんだよ! それができなくて、一番すべきことから目を背けて、なにが母親だ!?」

 ▼ 76 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 22:46:11 ID:q8UsuVxE [20/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ほとんど叫ぶように啖呵をきってしまってから、俺はふと我にかえる。


 激情に任せて、勢いのまま口を衝いた言葉たち。
 なぜこんなにも、冷静でいられない?

 なんだか自分の中の、知らない自分が喋ってるみたいな感覚だった。
 いや、実際、ほとんどそんなものなのだろう。これはきっと、記憶をなくす前の、元の俺の言葉。
 覚えていないはずの言葉が、感情が、何かの拍子に勝手に飛び出してきたのだ。

 いくらなんでも初対面の相手に言い過ぎたか?
 恐る恐る、様子を伺う。 
 

 ──グミは、何か不思議なものを見るような目でいた。

 たっぷり十数秒、沈黙が流れる。

 ▼ 77 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 22:51:00 ID:q8UsuVxE [21/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 居心地の悪い空気を破ったのはグミだった。首を振って、またため息。

「サクラさん、あなたが羨ましい」

 なんとも掴み所のなく、感情が読み取りにくい口調。
 ……皮肉か?
 
「それは、頭がおめでたくて、という?」

「いいえ」

 今度は囁くような声。

「娘がああも誰かを信用しているのは、初めて見ました。あなたの方もユスラのことでそこまで熱くなる。どうしてそこまで、と」

 ▼ 78 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 22:57:01 ID:q8UsuVxE [22/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ああ、それで、か──。
 ひとつの疑問が氷解する。

 さっきグミがあれほど驚愕したのは、ユスラが俺を庇おうとしたこと自体に、か。

 そうだ。
 俺にだって、はじめユスラは興味を示さなかった。きっと、誰に対してもユスラはあんな調子なんだ。
 母親ですら俺を羨むぐらい、誰にも心を開かない。

 それが、何をきっかけにしてか、急に俺に協力的になった。
 あれは──なぜだったんだ?

 改めて考えると、ユスラにはまだ謎が多い。
 ▼ 79 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 23:03:09 ID:q8UsuVxE [23/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 
 結局、ユスラは一旦帰宅することとなった。
 自宅で昼食をとり、シャワーを浴びて着替えもしなければ、となる。
 
 俺はこの姿しか見ていなかったから感覚が麻痺していたが、そういえばユスラは体も服も汚れ、髪も乱れて大変な有り様だった。
 再婚相手の男の方は、まだしばらくは帰ってこなそう、とのことだし。
 
「あ、そうだ。最後にひとつ、いいですか」

 ユスラの手を引き、ずるずる引っ張って去っていくグミの背中に呼び掛ける。
 せっかく、ユスラ以外で初めてちゃんと話した相手なんだ。聞いておこう。

 ▼ 80 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/10 23:08:40 ID:q8UsuVxE [24/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「前にどこかで俺を見かけたこととか、ありませんか」


 振り返ったグミは、無言のままじっと俺を見る。
 まじまじと、じっくりと。
 やがて、視線がはずれ。


「いえ、初めて会うと思いますが」

 それだけ言うと踵を返し、南側へと歩き去る。


「サクラー! 後でねー!」

「おう、頼むぞ」 

 ユスラを見送って、俺は北へ。
 まずは飯だ。教えてもらった店でサンドイッチを食うとしよう。


 ▼ 81 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 17:49:32 ID:HBhU2HnI [1/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○

 『ようきなサンドパン』は、北側エリアの中心的な大通りからはすこし外れ、奥まった立地にあった。

 店先には野草が繁り、花が咲く春の頃にはいい眺めだろうなと思わせる。
 白くて真四角で、屋根まで平たい店舗だった。サンドイッチ屋だからパンに似せて、というわけでもないだろうが。
 
 この店には見覚えがある、と思う。俺が利用したことがあるかは、思い出せないけれど。

「お、いらっしゃいませ!」 

 ガラス戸を開いて入店すると、店主らしき恰幅のいい男性がショーケース越しに出迎えてくれた。
 
 ▼ 82 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 17:56:53 ID:HBhU2HnI [2/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 
 ケース内には、真っ白く見るからにふわふわなパンを用いたサンドイッチが並ぶ。
 なお、ポケモンのサンドパンの姿はない。

 具材もさまざまだ。

 ラッキーのタマゴを分厚く焼き上げたもの、おおきなキノコとながねぎのソテー。色とりどりのきのみに、変わり種だともりのヨウカンなんてものまで。
 ユスラのお気に入りだけあってどれも美味しそうで、目移りしてしまいそうだが……ここはやはり、オススメしてもらったものにしよう。
 
「これを1つ──」

「モモンマゴサンドを1つね! いやお客さん、お目が高い。こいつはね、今朝とれた新鮮なきのみだけを使ってるんだが、それだけじゃない。マゴのみは、飛びきりひん曲がって最高に甘くなったやつを選び抜いてるのさ。もっと言えば、『ながなが』と『すくすく』をブレンドした特別なこやしを使って、土作りからこだわってるんだ。しかも水のやり方も研究しつくしててね、何時間おきに水をあげるのが最適か、きのみの種類ごとにきっちり決まってる。それから使うじょうろはゼニガメじょうろ、これは絶対だね。ホエルコじょうろ、コダックじょうろ、ハスボーじょうろ、色々あるけど、やっぱり王道を往くゼニガメじょうろだよ、こいつのキレのよさは群を抜いてるね」

 ▼ 83 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 18:05:12 ID:HBhU2HnI [3/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「あの……」

 凄まじいマシンガントークだった。大袈裟な身ぶり手ぶりを交えての熱弁。
 たまらず口を挟むが、何を勘違いしやがったのか店主はさらに続ける。

「ああ、もちろん、クリームの方もこだわって作ってるとも、そんな心配そうな顔しないでくれ。こいつはね、牧場から送ってもらったとれたてほやほやのモーモーミルクから作ってるんだ。アローラダグトリオのヘア製の特注ホイッパーがあってね、そいつと、ボウル代わりのゴツゴツメットでホイップするとうまいこといくんだな、これが。そして砂糖は使わず、あまいミツを加えることで自然な甘みが引き出されて──おっといけない、これ以上は企業秘密だぜ! まあとにかくそんなこだわりの詰まった至高の一品をこのお安さで! あんた、見る目があるぜ! さあ受け取りな!」


 ぜーはーぜーはー、と肩を上下させて深呼吸する店主。
 自分でもしんどいんじゃねーか……。
 

 そして恭しくサンドイッチを差し出す。

「お待たせしました、こちらモモンマゴサンドでございます」

 ……ああ、本当に待たされたよ。

 ▼ 84 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 18:12:28 ID:HBhU2HnI [4/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 料金を支払い、サンドイッチを受け取ってから、例の質問をしてみる。また変な長話が始まっても困るから、この人はスルーしたい気持ちもあるけど。 


「ご主人、俺に見覚えがあったりしないか」

「んん? もしかして、ハンサムな私の気を引くための作戦かな? すまないが、私にはもう妻も子もいてね! HAHAHA!」

 ちげーよ。

 心底イラッとする。
 しかし一方でどこか憎めない感じもする。通販番組の胡散臭いイッシュ人みたいな、愛すべきウザさだ。
 
 ▼ 85 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 18:17:16 ID:HBhU2HnI [5/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「どこかで会ったとか見かけたとか──あと、『WY』と聞いて何か思い当たること、ないか?」 

 壊れたモンスターボールの底に刻まれていた文字のことを思い出し、付け足す。
 あれも、俺の抱える謎の1つであり、数少ない手掛かりだ。
 

「うーん、すまないが心当たりはないねえ。『私は陽気』とかかな? HAHAHA!」

「そうか」

 使えねえなこのおっさん。

 ▼ 86 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 18:23:17 ID:HBhU2HnI [6/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 いや、他のことで聞けることがあるかもしれない。
 たとえばそう、謎といえば、ユスラにも謎が多い。

 そもそもなぜ、あんな荒野にいたのか。
 秘密だと言った、桜の木に棲む守り神への願い事とは。
 何をきっかけに、俺に興味を示したのか。
 そして、どうしてあんなにも、悲痛な瞳なのか。

 家庭環境については垣間見えたけれど、どうもそれだけではなさそうに思えた。


 ユスラについて、探りを入れてみよう。

 ▼ 87 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 18:28:07 ID:HBhU2HnI [7/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ここはユスラに教えてもらったんだが、ユスラはよく来るのか?」


 店主は一瞬きょとんとしてから、納得したように。

「ユスラちゃんに? ほう、それでね。ユスラちゃんは小さい頃からうちの味を気に入ってくれてねえ。──昨晩から行方不明だそうだが、君はなにか知ってるかい?」

「ああ、それなら、無事だ。もう母親と会って家に帰った」

「本当かい!? それはよかった。まさかとうとう、とずっと心配でね。私も心当たりの場所は探したんだが」

 店主はオーバー気味に胸を撫で下ろしたが、俺は違和感を覚える。

 ▼ 88 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 18:33:27 ID:HBhU2HnI [8/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「とうとう、とは?」

「それは──いや、気にしないでくれたまえ。君が特に感じていないなら、わざわざ私から言うことではないさ」

 単なる陽気なだけの人間かと思ったら、急に年長者らしいところを見せてくれる。自分で気づけってことか。
 

 ──あるいは、口にするのを躊躇うような良からぬ想像をしていたか。
 とうとう、のあとに続く言葉を想像してみると、なんとなく言わんとしたことが分かる気がする。

 たとえば、家庭内の暴力がエスカレートして、結果──とか。

 ▼ 89 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 18:39:11 ID:HBhU2HnI [9/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 店主は疲れきったようなため息をついた。

「あの子も不憫な子だよ。今の父親も酷いが、前の父親もなかなかに勝手な男だった」

「前の──たしか、行方不明になったって」

「うむ、ワドッカツという男だがね。身の丈も考えず大きな成功を夢見てばかりいた。家族を置いて荒野の向こうの町を目指して飛び出して、それっきりだよ」

「男の趣味が悪すぎる。心底、見る目がない」

「まあそれは否定できないな──おっと失礼、こんな話をしていては、せっかくのサンドイッチがまずくなってしまう」

 そんなことより、と窓際に設けられた席を店主が手で示す。日が差し込み、明るい席だ。
 ここで食っていけ、ということらしい。

 ▼ 90 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 18:45:46 ID:HBhU2HnI [10/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 
 ありがたく、勧められたテーブルにつく。

 すると奥から様子を窺っていたのか、店主の奥さんらしき女性が紅茶を運んできてくれた。
 花柄のかわいらしいティーカップだ。この花は桜だろうか。

 礼を言い、一口。
 茶葉の風味が豊かで……豊かで……えーっと。
 やめておこう、俺にグルメリポートの才能はないらしい。まあでも、美味しい紅茶だ。

 ▼ 91 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 18:51:37 ID:HBhU2HnI [11/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 紅茶をすすり、俺がほっと息をついたところで、店主がしみじみと呟く。

「そうか、無事だったか──。ユスラちゃんは、元気だったか?」

「ああ──いや、どうなんだろう」

 普段のユスラを知らないからなんとも言えないが、あれを元気というのは正確な表現ではない気がした。

「最初は、かなり暗いというか、掴み所がない感じがした。でも、少しずつ懐いてくれたというか。最初よりは、まあ、だいぶ元気になったかなと」


「そうか──。……さあ、食べてみてくれ! 紅茶はサービスだから、好きなだけおかわりしたまえ!」
 ▼ 92 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 18:58:59 ID:HBhU2HnI [12/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 モモンマゴサンドを手に取る。

 耳を落として直角三角形にカットされた真っ白なパンは、見た目通りやわらかく。
 たっぷり塗りつけられたクリームはきめ細かく、角切りされた桃色の果肉がこれでもかと盛り込まれていた。

 ボリューミーではあるがサイズはそれほど大きくなく、女性や子供でもペロリと食べられそうだ。
 ちなみに俺はちょうどいいサイズだと感じた。俺はどうやら大食いな方ではなかったらしいな。
 
 さて。

「いただきます」

 ▼ 93 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 19:04:35 ID:HBhU2HnI [13/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 かぶりつく。
 
 これは。

「──うまい」

 そうとしか言えない。素晴らしい味だ。

 モモンとマゴ、どちらも甘みの強いきのみだが、単に甘いというだけではなく。クリームの甘さが控えめなぶん、きのみの旨みがストレートに感じられる。
 とても柔らかくみずみずしいモモンと、歯応えのあるマゴの食感の変化も楽しく。


「ああ。うまかった」
 
 あっという間に完食していた。
 ▼ 94 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 19:11:10 ID:HBhU2HnI [14/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 満足感に腹を軽く撫でて──ハッと気づく。

 しまった!

 紅茶を全然飲んでなかった。
 なんたることだ。
 せっかくおかわり自由なんだし、たっぷり水分補給させてもらおう。

 ティーカップに手を伸ばして……カップの花柄が目に入る。
 桜の、花。 


 桜か。

 記憶を失った俺が倒れていたのは桜の木の近くで。
 その桜には、守り神が宿っているという。

 これは、果たして偶然か? 

 ▼ 95 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 19:18:48 ID:HBhU2HnI [15/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 否。そう考える方が、不自然だ。
 このことになんの意味もないとは、到底考えられない。

 であれば、あの桜の木、そしてあの木に棲む守り神こそが、俺の記憶喪失に関する重大な手掛かりなのではないか?

 糖分補給したおかげだろうか、考えが整理されて、今まで見えなかったことが見えてくる。


「なあご主人、イカズチ荒野に生えてる桜について聞きたいんだが」

「守り神さまの桜かい? 昔は、それはそれは綺麗な花を毎年咲かせてたそうだがねえ。元気だったらそろそろ咲く頃なのだが、土地があれほど痩せてしまってはね」

 店主は俺の向かいの席にどかりと腰かけ、紅茶を自分のカップに注ぎ出す。デザインは同じだが、俺のとは色違いのティーカップだ。

 ▼ 96 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 19:24:09 ID:HBhU2HnI [16/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「もう咲くのか? ちょっと早くないか」

 今は1月末。これからまだ寒さが厳しい時期のはずだった。 

「ああ、桜といっても、咲く時期の早い──ええと、寒桜といったかな。だから冬の内から花を咲かせるんだ」

 それが今では、咲きそうもない数個の蕾のみ、と。

「土地があんな荒れたのは守り神さまが眠ったから、って聞いたな」

「うむ。守り神さまがもたらす実りの力、土地の生命力。そのおかげでここらには豊かな森があったのだが、逆にいえば守り神さまに頼りきりだったわけだな」

 店主がぐいっとカップを傾け、一気に紅茶を飲み干す。

 ▼ 97 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 19:31:35 ID:HBhU2HnI [17/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「それで、いなくなってからはどんどん枯れていったと。そもそも、なんで守り神さまは眠りについたんだ?」

「さあ、それは私なんかには分からないよ。守り神さまのことだから、何か深いお考えがあるのだとは思うが」

 カップを逆さまにして、最後の一滴まで飲み尽くそうと試みる店主。


「案外、きまぐれで休みたくなっただけだったりしてな」

「きまぐれだって!? HAHAHA! 守り神さまをバカにしちゃいけないぜ! まあしかし、周期的に眠りと目覚めを繰り返しているだけ、というのは有力な説の1つではあるが」


「なにか事件があって力を失ってる、とかではないんだな?」

「そういう話は聞いたことがないな。何しろ昔のことだから、確証はないけどね」


 ▼ 98 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 19:41:04 ID:HBhU2HnI [18/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ポットからおかわりの紅茶を注ぎながら、考える。

 守り神さまと俺の記憶喪失に因果があるのならば。
 怪しいのは、眠りについたきっかけの何か。そう踏んでいたが、この線は薄そうだ。
 
 『眠り』が違うなら、考えられるのは『目覚め』か。


「守り神さまは、どうしたらまた目覚めるんだろうか」

「それもはっきりしないね。時が経つのを待つしかないのかもしれないし、桜に花を咲かせればいいのではないかと考える者もいる。せいぜい、あの木を大事に見守るぐらいしか、やりようがないな」

 ▼ 99 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 19:48:01 ID:HBhU2HnI [19/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 守り神さまが目覚めれば俺の記憶が戻るんじゃないか、とか。
 仕組みは知らんが、超自然的不思議パワーでなんかうまいことそんな風にならねえかな、と。
 
 想像力をたくましくしてみたつもりだが、どうも決め手にかける。
 
 そういえばユスラも、守り神さまを復活させるために桜の木に水をあげていると言ってたな。
 木が花を咲かせられるぐらい元気になれば、守り神さまが蘇るかもしれない、と、そう考えていたわけだ。

 ▼ 100 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 19:59:18 ID:HBhU2HnI [20/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「早く起きればいいのにな」

「そうだなあ。特に夕方からの雷はありゃ、ひどい。ここは離れてるからそこまでうるさくはないけど、それでもちょっと怖いしね」
 
 守り神さまが甦れば、土地もまた豊かになる。
 とはいえこの町自体は北の山々からの恵みで充分やっていけるから、そこまで切迫した問題ではないのかもしれない。


 なら、ユスラは?

 ユスラの家は南側のようだから、北側の住民に比べると荒野の再生への思いは強いかもしれない。
 でも、それだけだろうか。

 ▼ 101 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 20:11:49 ID:HBhU2HnI [21/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 思い当たることはある。
 

『……この木の守り神さまが、お願いかなえてくれないかなって』

 出会ったとき、ユスラは言っていた。
 ユスラには、叶えたい願いがある。
 願い事をするなら、守り神さまには目覚めてもらった方が叶えてもらいやすいだろう、たぶん。


 そのためか。
 ユスラの願いって、なんだろう。

 ユスラの立場になって考えてみると……ムカつく再婚相手の男にくたばってもらいたい、とか?
 守り神さまに願うには物騒すぎるか。


 分からない。
 俺はまだユスラのことを、全然知らない。

 ▼ 102 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 20:18:58 ID:HBhU2HnI [22/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 いや、待てよ。 

 守り神さまへの願い事とは違うだろうが、『ユスラが俺に対して願ったこと』だったら知ってる。


 ユスラは、早く思い出して欲しいと言った。できれば今月中に、と。
 1月はもうあとわずかしかない。ここまで急かす理由はなんだ。
 ▼ 103 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/11 20:27:21 ID:HBhU2HnI [23/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「なあ、店主。1月の終わりか2月の頭で、何か特別なこととか、あるか?」

 唐突な質問に店主はきょとんとなって、太い眉を上下させながら考え込み。

 何か思い付いたのか、ああ、と声をあげ、ポンと手を叩く。


「それならもしかして、誕生日じゃないか。1月31日は、ユスラちゃんの誕生日だよ」




 ▼ 104 ギアナ@オーキドのてがみ 19/03/11 22:54:57 ID:b7mYLkVE NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 105 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/12 19:04:20 ID:M2Lwyxug [1/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ○ 


「俺に見覚えはありませんか!」

「どこかで会ってませんか!」

「WYって言葉に、聞き覚えはありませんか!?」


 首を横に振り、足早に立ち去る男性。
 気味悪そうに見て、駆け足になる女性。
 ヘッドホンをしていて、そもそも聞いてないやつ。

 共通しているのは、顔見知りの相手への対応ではないってことだ。


 『ようきなサンドパン』を後にして、しばらく北側で聞き込みしたものの成果は得られず。ならばと南側に戻ってきてみたが、こちらでも芳しくなかった。

 ▼ 106 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/12 19:13:39 ID:M2Lwyxug [2/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「なあ、この辺はド田舎だし、俺っち、顔も広いからさ。余所者には敏感なわけよ」


 情報通だとの噂を聞いて訪ねた、異国風の店内で。チャラチャラした若者が言う。

「その俺っちの感覚で言うとあんたは余所者だな。でも余所者は印象に残るからな、見たら二度と忘れないわけよ」

 妙な臭いの煙を吐き出し、安酒のグラス片手に席を立ち。

「あんた、この町に来たことなんてないだろ」


「そんなはずは……」

「わりいな、俺っちも忙しいんだ。あばよ」

「……待て、待ってくれ!」

「んー、あんまりしつこいと、俺っちのポケモンでボコッちゃうよ?」


 ……クソッ。
 ▼ 107 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/12 19:20:27 ID:M2Lwyxug [3/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 俺は絶望的な気分で酒場を後にする。ちょうど、十数人ほどの団体が店先を通りすぎるところだった。

 あの中に一人ぐらい、俺のことを知っているやつはいないか。

 手を上げて「よお」とか、名前を呼んでくれるとか。
 なんてことない顔で、なんでもない挨拶の1つでも。
 してくれたりは、しないか。


 仄かな期待も虚しく。

 知らない顔をした人の群れは、俺に興味も示さず通りすぎていく。バカな冗談を飛ばしゲラゲラ笑いあうその顔を、誰も俺に向けない。

 ▼ 108 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/12 19:26:47 ID:M2Lwyxug [4/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 彼らは目の前を歩いてるのに。
 
 ちょっと手を伸ばせばぶつかるぐらい、すぐそこなのに。とんでもなく遠い距離を隔てているかのようで。
 たとえばテレビに向かって喋りかけてるような手応えのなさ。


 そんな、バカな!
 俺はたしかにこの町を、ハナカゼタウンを知っている。
 なのに、誰も俺を知らない。

 この町の住人でもなければ、余所者ですらない?
 俺は何者なんだ。
 俺はなぜ、この町を知っている。


 本当に知っているのか? 俺が知っているのは違う町じゃないのか。
 あの時計は、クワガノンの落書きは、違ったじゃないか。

 ▼ 109 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/12 19:36:00 ID:M2Lwyxug [5/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 俺は不意に、言い様のない孤独感に襲われる。

 ここは、俺の知るハナカゼタウンとは似て非なる存在なのか。俺一人だけが、別世界に放り込まれてしまったのか。
 
 立っている地面までがぐらつく。
 知らない顔が、知らない声が、俺を取り囲むすべてが渦を巻いて、俺を苛む。
 眩暈のするようなカオス。
 

 ここはどこなんだ。俺は誰なんだ。今、どっちを向いている。

 そもそも、俺は本当に存在しているのか?

 ▼ 110 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/12 19:54:17 ID:M2Lwyxug [6/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 記憶を失うとは、拠り所をなくすというのは、こんなにも心細く残酷なことなのだと、俺は今更ながらに思い知った。
 

 今までは、ユスラの存在が命綱だった。

 考えてみれば、見知らぬ人間に対して特に関心を持たないのなんて、ごく普通のこと。その中で、なぜだかユスラだけは俺の何かに興味を示した。

 その後はユスラの存在が指針になっていた。導かれるように、俺はここまできた。ユスラがいてくれることが、俺の心の支えだった。


 俺の方こそが、ユスラに救われてきたんじゃないか。
 


 ▼ 111 リガロン@リリバのみ 19/03/12 19:55:27 ID:5xHsqW/2 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 112 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/12 20:02:49 ID:M2Lwyxug [7/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 だったら、恩は返さないと。

 まずあの再婚相手の男をどうにかすること。そういえば、あれ以来あの男はまだ見かけていない。見つけたらガツンと言ってやろう。

 そして、記憶を取り戻すこと。
 俺に早く思い出して欲しいと、ユスラが提示した期日。
 ユスラの、誕生日。
 
 そこにどんな意味を込めていたのだろう。
 その日がユスラにとって特別な日だと判明した以上、何かしらの想いが込められていることは、間違いない。

 ▼ 113 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/12 20:09:10 ID:M2Lwyxug [8/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 応えたい、と思う。

 こんなことで誕生日プレゼント代わりになるかは分からないが、それがあの子の願いなら、叶えたい。

 そのためには、今までみたいな闇雲な探り方では、ダメだ。

 北側と南側、どちらで聞き込んでも、いまだ手掛かりはゼロ。情報通だというチャラ男も知らなかった以上、俺の知り合いを見つけ出すのは難しいだろう。

 なら、もっと効率よく、確実な方法をとる必要がある。
 ひとつ、心当たりはあった。


 トレーナーズスクールだ。

 ▼ 114 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/12 20:16:09 ID:M2Lwyxug [9/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 町の北側に位置する、ハナカゼトレーナーズスクール。
 なにしろド田舎なのでこの町の学校はこれしかなく、単に『学校』と呼ばれることが多い。

 隣町には北の山脈か南の荒野を越えなければ行けない。
 そのためこの町の人間なら誰もが通い、学び、卒業する場所、それがトレーナーズスクールだった。
 ゆえにこの町の人間は全員がトレーナーなのだが、それはさておき。


 すなわち、俺がこの町の人間ならば『トレーナーズスクールの卒業アルバム』に俺の姿が写っているはずだ、ということ。 

 ▼ 115 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/12 20:22:17 ID:M2Lwyxug [10/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 歴代の卒業アルバムは校内に保管されているだろうから、それを閲覧させてもらう。
 途中で引っ越した可能性なんかも考えて、なんなら入学式や各種学校行事の写真も、何から何までしらみ潰しに。


 そこまでして、それでも俺の姿が見つからなければ、やはり俺はハナカゼタウンの人間ではないと結論づけることができる。その時は、隣町に場を移さざるをえないだろう。

 しかし全部確認するとなると、かなり膨大な量だ。俺一人では骨が折れる。ユスラに頼んで、手伝いに来てもらうか──






 ──いや、待て、今のおかしくないか。


 ▼ 116 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/12 20:33:29 ID:M2Lwyxug [11/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 
 強烈な違和感。
 違和感。

 思考が目まぐるしく回る。

 違和感、といえば。脈絡もなく差し込まれる記憶。

 あれは。


 ──そうか。
 そういうこと、だったのか。

 1つの答えに収束していく。間違いない、と結論付ける。

 ▼ 117 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/12 20:36:29 ID:M2Lwyxug [12/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 
 俺が思い浮かべたのは、ユスラと町中を歩いていた時の記憶だった。

 あの時感じた、違和感。町の風景から浮いているような、異物になったような。
 そして、挙動不審だったユスラ。

 あの正体が、いま、分かった。

 ▼ 118 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/12 20:40:31 ID:M2Lwyxug [13/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 あの時、町は『平日の昼間』だった。
 町にいるのは仕事中の大人や、買い物に向かう主婦ら、という平日の昼間の風景。
 
 その風景の中に、ユスラぐらいの年の子供はいない。
 あの時間、子供は学校に行っている。もちろんユスラも、学校に通う年だ。

 そして、こそこそとして、誰とも顔を合わせようとしなかったユスラ。

 ユスラは前日から行方不明だったのだから、今日に限っては、学校に行かずともおかしくなかったはずだ。

 だが、あれほど挙動不審になったのは。
 後ろめたい、と感じていたから。知っている人に見られることが怖かったから。


 ▼ 119 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/12 20:41:16 ID:M2Lwyxug [14/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 『学校に行っていないこと』がユスラにとって後ろめたいことなら。
 それは今日に限らず、日常的に学校を休んでいるってことで。


 だから、つまり。
 ユスラは、不登校なんだ。  



 
 ▼ 120 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 17:42:10 ID:w6fsbLWg [1/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○


「あっ、サクラ、いたいた!」

 弾むような声。
 振り向いた先、路地裏の角からぴょんと跳ね出てきたユスラは──本当にユスラか?


 表情もなんだか明るく柔らかで。
 汚れを落とし、不揃いながら髪も整え、古着ではあるが綺麗な服になって。まるで別人のようだった。
 というか、今までのコンディションが最悪すぎた。

 あの汚れた格好ですら可愛らしいと感じた俺だから、今のユスラは、ぶっちゃけめちゃくちゃ可愛い。

 めっちゃハグしたい。なんならペロペロもしたいが、それは危険な扉を開くことになりそうだ。
 本能的な警告に制止されて、俺はなんとか思いとどまる。

 ▼ 121 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 17:46:03 ID:w6fsbLWg [2/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 それに、いくら可愛いからって浮かれてばかりもいられない。
 今は無邪気に笑ってくれているけれど。

 ユスラが不登校だって俺の推測が正しかったなら。あの暗い瞳は、まさしくユスラの心そのものだ。


 学校に行かない理由は、色々考えられるけど。
 いじめとか、いじめまでは行かなくとも人間関係のもつれとか、集団生活が苦手で、とか。
 なんであれ、ユスラにとって学校が居づらい場所だってことは、たしかなんだ。

 でも学校を休んで家にいたって、そこもきっと居心地がいい場所じゃ、ない。
 無職の再婚相手もいるし、母親も、たぶんあれこれ言ってきそうだし。
 なにより、再婚相手の男の暴力という、嫌な記憶が染み付いた場所。


 だからこそ、ユスラは桜の木に水をあげにいくのかもしれない。
 家にも学校にも町にも居場所がなくて、そんなユスラにとってはきっと荒野の桜が避難場所なんだ。

 ▼ 122 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 17:53:29 ID:w6fsbLWg [3/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 なら、俺は。
 ユスラの避難場所に、なってやれるのか?
 
 最初よりはだいぶ明るくなった、と感じる。
 年相応の少女らしい感情を見せてくれていると、思う。
 その裏に秘められた闇を考えるといたたまれなくも、なるけど。 

 狭い町だ、ユスラが学校に来ていないらしいという話は、おおよその町民が知るところとなっているだろう。
 事情を知らない俺の前だからこそ、負い目を感じることなく普通に接している、という部分はきっとある。

 気づいていない振りをして、あくまでユスラが明るく、普通に振る舞える相手で、あり続けるべきなのだろうか。


 でも、それでいいのか、という迷いもある。
 軽々しく触れていい問題じゃないとは、思うけど。
 だけど、この問題を避けて通ったら。ユスラを本当に救うことは、できないんじゃないか。


 ▼ 123 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 18:00:12 ID:w6fsbLWg [4/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ん? サクラ、どうしたの?」

 不思議そうに首を傾ける。金髪がふわっと揺れる。

「あ、いや、ユスラが可愛すぎてみとれてた」

「またまたー」


「お母さんは、出てきてもいいって?」

「うん。サクラのこと、ちょっと気に入ってくれたんじゃないかな。ママ公認だよ」

「なにがあったんだ……。そうだ、教えてくれたサンドイッチ、美味しかったよ。あれはマジでいい」

「よかった。やっぱり、サクラもあの味好きだと思ったんだよね」

 ▼ 124 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 18:06:26 ID:w6fsbLWg [5/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ああ、今度は一緒にいこう。……どうした、髪いじって」

「うち、貧乏だから、お店じゃなくてママに髪切ってもらってるんだけど。たまには自分で切ってみよっかなって」


 そこでユスラがなにかを閃き、ぽむと手を叩く。

「そうだ、いっそサクラの髪型真似しちゃおっかな」

「俺の真似……? それはどうかと思う」


 俺はかなり短髪な方だ。いくらなんでも大胆がすぎる。
 真似をするぐらい慕ってくれるのは、まあ、嬉しいんだけど。

 ▼ 125 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 18:12:18 ID:w6fsbLWg [6/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「んー、いいと思うんだけどな。おしゃれとかは、あんまり、興味ないんだよね。短くしちゃえば手入れも楽そうだし」


 そう言ったユスラの顔にスッ、と影が射す。
 何かやらかしてしまったか?
 思わずぎょっとなる。

 しかし、違うな。
 暗くなったのは、ユスラの顔だけではなかった。


 髪も服も、いやユスラに限らず、道行く人も、地面も、建物の屋根も、すべてが薄暗く落ち込んでいた。

 ▼ 126 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 18:16:01 ID:w6fsbLWg [7/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「これは……?」


 視線を空へと移す。

 ──黒、黒、黒。
 どこからともなく湧き出た真っ黒い積乱雲が太陽を覆い隠し、たちまちにして空を埋めつくしていた。


「あっ、サクラは初体験になるのか。もう夕方だから、雷の時間だよ」

 そうか、これが。
 イカズチ荒野に降り注ぐ無数の雷。この雲がその源なのか。
 
 ▼ 127 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 18:23:21 ID:w6fsbLWg [8/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 話には聞いていたし、『こういうものだ』という知識としての記憶は、すでに思い出している。
 けれど実際にこの目で見た時の記憶、というのはなかったから、その光景に新鮮な驚きを感じていた。


 遮るものがほとんどないだだっ広い荒野だから、たやすく一望できる。

 空から大地へ伸びる、一条の光の筋。
 薄暗い空のスクリーンを切り裂き、細く鋭い軌跡を描いて荒野に突き刺さる。
 大地が悲鳴をあげるかのように、一拍の後に耳をつんざく轟き。


 それが数秒おきに放たれ続ける。
 荒野のあらゆる場所に、次々と。

 ▼ 128 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 18:28:25 ID:w6fsbLWg [9/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 タイミングも場所も不規則で、10秒以上の間が開いたかと思えば、立て続けに同じ箇所に落ちることもある。

 不思議なのは、これほど激しい落雷なのに、あの分厚い黒雲が雨を降らせる気配は一向にないこと。
 この雷雲は『そういう現象』と考えるほかなさそうだ。


 不思議といえば、黒雲自体はハナカゼタウンの上空にも広がっているのに、雷が落ちるのは荒野の領域だけだ。
 これに関しては町を避けて落ちているというより、安全地帯のラインまで町の領域が後退した、ということなのかもしれない。
 
 ▼ 129 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 18:36:07 ID:w6fsbLWg [10/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 雷の勢いはつゆほども弱まることなく、暴れ狂う。
 これが明け方まで鳴り止まないというのだから、にわかには信じがたい。
 

 これほどのペースと威力とは、想像していた以上に恐ろしい光景だ。 
 到底、足を踏み入れられない危険地帯。

 ユスラの実の父親、ワドッカツとやらは荒野を渡ろうとしたらしいが、果たして生きて辿り着けたのか。
 途中で夜を明かすなんてとても考えられないから、さぞや過酷な強行軍になったことだろう。


 それにしても、この光と音を間近に感じながら眠って夜を明かすというのだから、ここの住民の肝の太さは大したものだ。

 ▼ 130 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 18:42:09 ID:w6fsbLWg [11/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 すっかり慣れっこなら、見ていても特に何も感じないのだろうか。隣で眺めるユスラへ横目をやる。


 稲光が薄暗闇を照らしあげて──その横顔は、まったくの無表情だった。

 暗い瞳に、亀裂のように稲妻が映りこむ。




 ──ああッ!!!



 衝撃。


 雷の流れ弾に当たったかと錯覚するほどの。
 脳天を撃ち抜く、強烈なバカ当たり。


 ▼ 131 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 18:44:43 ID:w6fsbLWg [12/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 どうして、今まで思い至らなかったのか。

 俺よ。
 考えないようにしていたのか。
 分かっていて、見てみぬフリをしていたのか。


 ユスラ、お前は。

 お前が抱える悲しみは。

 ▼ 132 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 18:52:44 ID:w6fsbLWg [13/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 学校にもいけず、家では暴力に曝され、どこにも居場所がなくて。


 そうなったとき。
 何をしていても、押し潰されそうで。逃れられない苦しみの中にいる、そんなときに。


 町の目の前に、無数の雷が落ちる。
 
 雷が当たれば、死ぬ。 
 この無慈悲な電光は、ユスラにとっては救いの光にすら、見えたかもしれない。

 ▼ 133 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 18:54:41 ID:w6fsbLWg [14/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ユスラは昨晩から行方不明だったという。
 その間、どこにいた?

 俺が見つけた時、ユスラは桜の木の下で眠っていた。

 ユスラは、あそこで夜を明かしたんだ。
 数えきれないほどの雷が降りしきる、荒野の中で。


 今こそ、ユスラが守り神に何を願ったのか、分かる気がした。

 死んでしまったっていい、あるいは、死にたいとすら思いながら、眠りについた。
 きっと、自分の真上に雷を落としてくれと、そう願いながら。

 二度と目覚めないかもしれない、眠りに。
 ▼ 134 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 18:56:14 ID:w6fsbLWg [15/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 そして、奇跡的に生き残った。生き延びてしまった。
 ユスラは、死ねなかった。



 ユスラが目覚めた時の、一番最初の言葉が。
 耳の奥で、リフレインする。
 何度も、何度も。 


 『──なんだ、生きてるんだ』


 あの言葉を、どんな思いで発したのだろう。

 まだ9歳の少女が、これほどまでの覚悟をするのに、どれだけの絶望があったのか。

 ▼ 135 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 18:58:50 ID:w6fsbLWg [16/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 
 胸が締まる。泣きたいぐらい、息が詰まる。
 違う。違うだろう。
 辛いのは、俺じゃない。


 そして目覚めたユスラは俺と出会って。
 まだ、生きてる。

 俺の為すべきことは。
 俺がここに、いる意味は。


 誰がなんと言おうたって、否定させやしない。

 ▼ 136 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 19:01:50 ID:w6fsbLWg [17/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「なあ、ユスラ」 

「ん? どうしたの、サクラ?」

 覚悟を決めて呼び掛ける。
 振り向いたユスラは、さっきの暗い瞳が嘘のような笑顔で。


 胸が、痛む。
 俺の前でだけは、笑えるのに。俺はそれを壊さなきゃいけない。

 でも、たとえそうなってでも。
 俺の前でだけ笑っていても、俺のいないところで苦しんでいたら。
 それじゃ、意味がないんだ。 


 なにかを察知したユスラの表情が凍りつく。
 瞳が、暗く暗く、染まっていく。

 ▼ 137 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 19:04:18 ID:w6fsbLWg [18/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 今、ここでやめておけば。
 ユスラは、さっきまでの明るさに戻るのだろう。
 ……俺の前でだけは。


 俺は、ユスラのこんな悲しい目は、見たくない。
 見たくないけれど。
 でも、違う。もっと、それ以前に。
 『させちゃいけない』んだ。どこにいたって。



「明日、学校に行こう。俺と一緒に」 



 どうしても、お前を。

 ユスラを、救いたい。

 ▼ 138 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 20:52:55 ID:w6fsbLWg [19/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○
 
 乾いた風が流れた。
 痺れるような空気の震えを感じる。
 落雷の衝撃波だ。

 二度、三度と稲光が俺たちを照らし出して。

 奇妙だな。と思う。
 雷の音が聞こえてこない。 
 

 音のない世界。 
 外の雑音なんかに邪魔させない、俺たちのための、世界。
 それほど張りつめきった空気が、流れていた。

 ▼ 139 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 20:56:10 ID:w6fsbLWg [20/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「そっかあ」

 首を項垂れたユスラの小さな、小さな声。本来なら落雷で掻き消されてしまうはずなのに。真っ直ぐに、俺に届いた。


「気づいちゃったんだ。わたしが、学校、行ってないの」

「ああ」

 俺は頷く。

「それから、ユスラがどれだけ、苦しかったのか。どうして、どんな思いで、あの桜の下にいたのかも。少しぐらいは、分かったと思う」

「そっか」

 ユスラは俯いたまま表情を見せない。

 ▼ 140 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 20:59:55 ID:w6fsbLWg [21/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ユスラの選択も、仕方なかったのかもしれないと思う。きっと、それほどのことだったんだ。でも、それでも、俺は──」

「──学校、行ってもいいよ。行けっていうなら」

 抑揚のない声で、遮るように言う。

「でも、きっと意味ないよ。またすぐ逆戻りしちゃうだけ」


 その通りだと思う。

 根本的な解決をしなければ、場当たり的な対応で無理に学校へ行かせても、きっと意味はない。

 一度行くだけなら、きっとできるのだ。でも、現実はその後にもずっとずっと続いていく。

 問題は、継続しなければならないこと。


 ▼ 141 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 21:03:51 ID:w6fsbLWg [22/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「学校へ行くと言っても、教室にいく必要はない。先生とかクラスメイトにも、会わなくていい」

「えっ?」

 そこではじめてユスラが顔をあげる。
 暗い瞳。だけど、困惑の色と、微かに興味を示す色。


 俺は自分の考えを説明する。

 聞き込みでの捜査は難航したこと。
 卒業アルバムの写真に俺の姿があるのではないかと考えたこと。
 そして、俺の写真を探すのを手伝って欲しいということ。

 ▼ 142 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 21:08:37 ID:w6fsbLWg [23/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「学校って場所に慣れるリハビリにもなるし、俺の記憶も探ることができる。まさに一石二鳥だ。どうか、人助けと思って、頼む!」

 深々と頭を下げて、頼み込む。
 ちょっとせこいが、俺を助けるという名目を与えて、少しでも乗り気になってもらおうという作戦だ。


 どうだろうか。
 この体勢ではユスラの表情が分からない。

 唾を飲み込む。




「──ふふっ」

 聞き間違えか?
 最初、そう思った。

 しかし違う。
 

 顔をあげる。

 ユスラが、くすくすと、笑っていた。

 ▼ 143 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 21:13:53 ID:w6fsbLWg [24/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「どうした、なにを笑って」

「ごめん。なんか、サクラのその頼み方、最初の時みたいだなって」

「ああ……」

 そういうことか。

 なんだかおかしくなって、俺のほうも笑みがこぼれる。
 あの時は、町に一緒に来てくれるよう頼んだんだった。
 頼んでる途中で、ユスラが俺に興味を示しだしたんだよな。


「わたし、サクラに会えた時、ほんとうに嬉しかった。出会えて、ほんとうによかった」

「俺も、ユスラに会えてよかったよ。一目見たとき、なんか運命的なもの、感じたんだ」

「もう」


 ユスラの瞳に、光が宿る。小さくか細いけれど、確かにそこにある灯火。

 ▼ 144 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/13 21:21:58 ID:w6fsbLWg [25/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「いいよ、サクラ。明日、学校に行く。サクラと一緒に」

「そっか」


 何を言えばいいか分からなくて、素っ気ないような返事になってしまって。

 この気持ちをもっと伝えたいけど、どんな言葉を使えば伝わるか、分からなくて。


 俺は、思い切り抱き締める。
 ぎゅっと。触れあう肌から、少しでも何かが伝わってくれ、と念じながら。


「ユスラ、よく、頑張った。ひとりじゃないから。俺が、いるから」 

「……うん」



 幾千の雷撃を横目に、夜が更けてゆく。
 また1日、1月の終わりが迫りくる。

 明日。
 明日が、俺たちの本当の戦いだ。

 ▼ 145 lX0nF9ikQo 19/03/13 21:28:36 ID:w6fsbLWg [26/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ここまででお話の前半はおしまい。

 次回から後半に入ります。お付き合いいただけたら幸いです。
 ▼ 146 ミロップ@あかいウロコ 19/03/13 21:31:34 ID:kxOsVsuU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 147 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 18:31:03 ID:AHpkwvLs [1/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○ 


「緊張してるか?」

「少しは。久しぶりだし。半年ぶりぐらいかな」

 念入りにむしよけスプレーを吹き付けながら、ユスラが言う。今日はトレーナーズスクールの制服に身を包んでいた。

 1月30日の朝。多くの生徒が登校を終えた、午前9時すぎ。
 ユスラ宅の玄関前で、支度を整える。


 ユスラはそわそわと、所在なさげに胸の前で手を揉み。かと思えば、戸棚に置かれたパチリス型の置物を撫でだしたりもする。

 ▼ 148 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 18:36:39 ID:AHpkwvLs [2/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「大丈夫、写真見に行くだけだから」

「そうだね。ただ、友逹と遊びに行くだけ。行き先は、たまたま学校にそっくりな見た目してるけど、実は写真館なの」

「友達っていうには、ちょっと年が離れすぎてないか」
 
「ダメ?」

「いや……それも悪くない」

「よかった」

 パチリスオブジェにデコピンしながらにっこりと言う。
 この分なら大丈夫そうか。

 それにしても存在感のある置物だ。この町出身のパチリス使いのトレーナーが大きい大会で優勝した、とかで記念に配られたものらしい。

 ▼ 149 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 18:43:42 ID:AHpkwvLs [3/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ユスラ、無理しちゃダメよ。娘をお願いしますね、サクラさん」

 心配そうな顔で、グミが見送りに出てくる。彼女にも仕事の出勤時間があるはずだが、俺たちに合わせて遅らせてもらったそうだ。

「ああ。それから、あの男のこと、どうか考えてみてくれ」


 実は昨晩、俺はユスラの家に泊めてもらっていた。
 
 テレビでくだらんお笑い番組を見て盛り上がったりしつつ。
 深夜まで粘っていたのだが、とうとう再婚相手の男が帰宅してくることはなかった。

 グミによると、こういうことはちょくちょくあるらしい。決まって『徹夜でスロットしていた』と話すそうだが、グミは浮気相手のところにいたに違いないと睨んでいた。


 あの男のことも、いずれケリをつけないと。

 ▼ 150 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 18:48:57 ID:AHpkwvLs [4/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「ええ、サクラさんばかりに任せていては、母親の面汚し。母親四天王最弱の烙印を押されてしまいます」

「母親四天王……?」

「ええ、PTAにそういうのがありまして……ええととにかく、私だって、あの子を守りたいですから」

 にこやかに、グミは言う。

 この人も、なんだか変わったな。昨日会ったときより、人柄が穏やかになった。
 俺のいないところでユスラとグミの二人で話をしたらしいが、何を話したのやら。


「じゃあ、ママ」

 やや固いけれど、前向きな顔で、ユスラが宣言する。

「行ってきます!」


 
 ▼ 151 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 18:54:31 ID:AHpkwvLs [5/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ○

 トレーナーズスクール。
 トレーナーとしての基礎知識や実践訓練を授業に取り入れた、トレーナーになるための学校。
 もちろん、普通の学校で教わるような一般教養の類いも学ぶことができる。
 そして、この町で唯一の学校。


 人通りはあまりない時間だが、それでも何度か建物の陰や路地の角に身を潜めて、人をやり過ごして。
 予定より時間はかかったが、トレーナーズスクールの裏門前までやってきた。

 ちなみに正門ではなく裏門なのは、ユスラが出した条件で。
 正門から入ると校庭を横切ることになり、教室の窓から見えてしまうから嫌だ、とのことだ。

 ▼ 152 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 19:01:57 ID:AHpkwvLs [6/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「大丈夫か? 無理はするなよ」

 そのユスラは緊張の面持ち。顔は青く、唇も震えていた。

「なにも、一発でクリアする必要はない。撤退も勇気ある選択だ」 

「ううん、大丈夫」

 ユスラが足を踏み出す。数歩後ろに俺も続く。

 正門は二頭のルクシオ像が鎮座し、本物のレントラーが警備にあたっているのだが、そちらに比べると裏門はかなり簡素な造りで警備も薄い。

 守衛の老人に声をかけて開いてもらい、真っ直ぐ事務室へ。

 ▼ 153 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 19:10:07 ID:AHpkwvLs [7/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 学校内部の構造は、俺にもなんとなく分かる。頭の中に入っている。
 この記憶があるということは、単に町を訪れただけでなく、この学校にも来ているということ。

 アルバムへの期待が高まる。


 アルバムを閲覧したいということは昨日のうちに連絡してあったから、事務員の応対はスムーズだった。

 使われていない教室に案内され、年度の数字が書かれた段ボールが運び込まれてくる。
 ドン、ドン、と重量感ある音を立てて床に置かれた。

「ご用が済みましたらお声かけください。持ち出しはご遠慮ください」

 それだけ言うと事務員は事務室に戻っていく。
 

 さて。


 ▼ 154 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 19:17:26 ID:AHpkwvLs [8/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 この間ずっと身を縮こまらせていたユスラが、おっかなびっくりという様子で段ボールを覗きこむ。


「これを、全部……?」

「ああ。俺の年齢は25歳前後と推定されるが、実はもっと若いかもしれないし、実年齢より若く見えてるのかもしれない。というわけで18歳から30歳と仮定して、その範囲のアルバムを用意してもらった」

「若いって言い方にこだわるね」

「まあな。ユスラも俺ぐらいの歳になれば分かる」

 裏を返したら『実年齢より老けて見える』と『実はもっと老けてる』だからな。ものの言い方というのは大事だ。


「なあに、全部とはいっても見つかりさえすれば終わりだから、案外早く済むかもしれん。さ、はじめるぞ」


 ▼ 155 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 19:54:06 ID:AHpkwvLs [9/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○

「──見つからないね」

 ぱたん、とアルバムを閉じて机に放って。つかれきった顔でユスラが呻く。

「おかしいな。あるはずなんだが」

 俺が24歳と仮定した年のアルバムからスタートして、俺は過去の年へ遡り、ユスラは最近の年に向かって。
 分担してアルバムのページをひたすらめくり、それぞれ3年ぶんほど進んだところだった。


 これで見つからなければ、恐らくもうこの町で、俺の手掛かりは得られないだろう。
 それ以上探ろうと思うと、この町から離れるしかない。

 それはつまり、ユスラから離れるということで。


 まだだ。
 まだ、それはできない。

 一方で、誕生日までに記憶を取り戻して欲しいというユスラの希望も、叶えたい。
 だから、見つかってくれなければ困るのだ。どこかに、俺の写真が。 

 ▼ 156 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 20:01:25 ID:AHpkwvLs [10/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 とはいえさすがにくたびれた。

 見知らぬ顔、顔、顔がずらりと並んでこちらを見つめ返してくるわけで、なかなかに異様な光景だし、精神力が削られる。
 集中力を欠いて見落としてしまっても問題だ。


「少し休憩しよう」

 立ち上がって伸びをする。
 アー。

 いかに筋肉が凝り固まっていたよくわかる。

 窓辺に寄ってもたれかかると校庭の様子が見えた。今いるのは2階だから、眺望は悪くない。

 ▼ 157 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 20:07:38 ID:AHpkwvLs [11/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 生徒たちのにぎやかな歓声が聞こえてくる。

 校庭にはポケモンバトルのためのグラウンドがいくつか設けられていて、今もその1つでバトルの実技授業が行われているところだった。


 あれはラクライだな。対戦相手の方は……まだポケモンを繰り出していないのか?

 と思っていたら、何もないところから電撃が放たれる。
 ああ、なるほど、相手はバチュルか。小さすぎて見えなかっただけらしい。


 まだまだ初心者そのものの生徒だからポケモンも進化前だし、強力な技は使えないから地味な試合ではある。
 しかし、アルバムの山を掘り進む気分転換としては悪くないだろう。

 ▼ 158 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 20:13:41 ID:AHpkwvLs [12/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「おーいユスラも見るか? グラウンドでバトルしてるぞ」 

「わたしはいい」

 首を振り、床にぐでーと大の字になる。
 ここ使われてない教室だから結構ホコリ積もってるけど、いいのかな。 


 ラクライとバチュルのバトルはバチュルが優勢のようだった。
 体格差からパワーに劣るバチュルだが、ラクライの攻撃が大振りすぎてなかなか当たらない。
 一方バチュルは確実に攻撃を当て、じわじわと体力を削りとる。


 しばらく観戦していると、大の字のままで、不意にユスラが呟いた。



「サクラはさ、わたしがなんで学校行ってなかったか、聞かないの?」



 ▼ 159 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 20:20:12 ID:AHpkwvLs [13/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「あー……」

 なんて答えようか。

 正直、気にならないといえば嘘になるし。根本的に解決しようと思えばいつかは聞かなければならないとも思う。
 でも、聞いていいものかという迷いはいまだにある。これはきっとユスラの負った心の傷の本質に直結することだから。


「言いたくないこともあるかなって。でももし話してもいいって気分になったら、教えてくれると嬉しいとは思う」

「ふうん。まあ、サクラにだったら言っちゃってもいいかなって、思うんだけどさ」
 
 そう言ったきり、ユスラは口ごもる。
 ▼ 160 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 20:27:04 ID:AHpkwvLs [14/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「タイミングの問題か。たぶん、重い話だもんな」

「まあ、そう。このアルバム見るのが終わってからにしよっかな」 

「よし、じゃあ、ちゃっちゃとやっつけちまおう。……そうだ、これ、食うか」

 不意に存在を思い出して、リュックから『カイリキーメイト』を取り出す。
 俺が目覚めた時からリュックに入っていたブロックタイプのエネルギー食品だ。かなりお腹にたまることで有名なやつ。

 ▼ 161 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 20:30:44 ID:AHpkwvLs [15/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 カイリキーメイトには色々なフレーバーがあるが、俺が持っていたのはメープル味。やっぱり甘いのが好きだったんだなあ、俺は。


「メープル味? こんなのあったっけ。新発売?」

「あれ、結構前からあるイメージだけど」

「そうなんだ。わたし、お買い物なんてむしよけスプレーぐらいだから……いただきます」

「おう、アルバムにこぼさないようにな」


 エネルギーを補給して、気合い入れていこう。
 待ってろよ、アルバムの中の俺。

 ちなみに、ユスラはメープル味をけっこう気に入ってくれた。

 ▼ 162 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 20:36:58 ID:AHpkwvLs [16/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ○

「ない!」


 『確認済み』のアルバムの山に、また一冊。
 気がつけば俺の担当のアルバムは最後の一年ぶんとなっていた。

 現在30歳の卒業生たちの写真を収めたアルバム。
 一方、ユスラの方も現在18歳の卒業生のアルバムに手をつけようというところで。


 このどちらかに、俺がいるのか。
 つまり俺は30歳か18歳のどちらかということに。どっちの方が嬉しいだろうか。
 30歳なら実際より5歳若く見えることになる。18歳なら、本当に若いことになる。悩ましいところだ。

 いや、そんなのどうでもいいわ。

 ▼ 163 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 20:42:56 ID:AHpkwvLs [17/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 泣いても笑ってもこれが最後。
 このどちらかにいなければ、振り出しに戻ることとなる。


 南無三!

 祈りを込めて、ページを開いて──ドキリとする。


 そこに、いた。


 短く切り揃えられた金髪、力強くこちらを見返す瞳、鼻筋の通り方も。
 鏡で見た俺の顔に、よく似ていた。自分で言うのもなんだが、俺は結構美形な方だと思う。
 学生時代のものだから、さすがに完全一致とはいかないが──と、氏名の欄に視線を落として。



 ──え?


 ▼ 164 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 20:44:10 ID:AHpkwvLs [18/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 どういうことだ、これは。
 お前は、俺は。
 そういうことなのか?

 



 その写真の人物の名は、こう記されていた。
 ──ワドッカツ。

 ▼ 165 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 20:54:15 ID:AHpkwvLs [19/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ワドッカツ。
 ユスラの実の父で、何年も前に荒野を渡ろうと試みて以来、失踪した男。


 ──俺が、ワドッカツ?  


 いや、ありえない。そんなはずがない。 
 まず、本当にそうならグミがもっと反応するはずだろう。
 それにもっと根本的な問題もあるし。

 いくらなんでも混乱しすぎだ。
 他人の空似としか、考えられない。

 ▼ 166 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 21:00:58 ID:AHpkwvLs [20/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 改めて写真を見直してみると、そもそもそこまで似てなかったのではという気もしてくる。

 一致しているいくつかの特徴が目に飛び込んできて、そっくりだと錯覚してしまったのだろう。
 見つかってくれという願望が産み出した幻か。
 あるいは散々写真とにらめっこばかりしていた疲労も一因だろうか。


 落ち着いて見てみれば、少なくとも生き写しというほどではなかった。似てるっちゃあ似てるが、別人だとはっきりわかる程度でしかない。


「まったく、焦らせやがって……」 

 急激に上がった心拍数をなだめながら、何の気なしにページをめくる。
 そういえば、ワドッカツが載ってるってことは。

 ▼ 167 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 21:07:44 ID:AHpkwvLs [21/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ──いた。

 グミだ。
 この頃からメガネをかけている。髪質はユスラとほぼ一緒だが、やっぱり顔はあまり似ていないな。

 ワドッカツとはクラスも同じだったらしい。ほーん。
 この二人から、ユスラが生まれたわけだ。はーん。

 この二人が現在30歳ってことは、ユスラが生まれた時は21歳ぐらい。ずいぶん早いな。
 家族を置いて荒野に挑むような男だし、だいぶチャラチャラしてたんだろなあ。

 俺がこいつじゃなくてよかった。



 ……よかったか?

 最後のアルバムのページはみるみる残り少なくなっていく。
 そして、終わった。

 いない。
 俺の写真が、どこにもない。


 ▼ 168 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 21:15:17 ID:AHpkwvLs [22/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ショックにうなだれようとしたとき、朗報が届く。


「あっ!! いた! いたよサクラ!」

「本当か!?」


 信じてたぜユスラ! やっぱり俺はぴちぴちの18歳なんだよなあ!

 喜び勇んで参上し、ユスラが指差す先には──!




「なあ、ユスラ、お前疲れてるんだよ……」

 そこには、やたら目付きが鋭く、そばかすの多い少女がこちらを睨むように写っていた。たしかに金髪だけどさあ。  


 ▼ 169 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/14 21:22:49 ID:AHpkwvLs [23/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「あれ? ごめん、おかしいなあ」


 ぺらり。
 ページをめくった先は白紙。
 ユスラのアルバムも、もう、ページはなかった。


「マジかよ」

「どうしよう」 

 顔を見合わせる。


 俺の存在を示す写真は、俺の記憶を探す手掛かりは、この学校にはない。
 
 もう、この町には、ない。


 ▼ 170 lX0nF9ikQo 19/03/14 21:23:37 ID:AHpkwvLs [24/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 きょうはここまで
 ▼ 171 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 17:58:20 ID:lc6c1md6 [1/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○


 打つ手がない。


 ユスラの誕生日というタイムリミットは、明日に迫っている。迫るもクソも、最初から2日しかなかったけど。

 手掛かりが望めない以上、もはや間に合わせるのは困難。
 とはいえ、可能性がないわけじゃない。


 手掛かりなんかなくとも、直接思い出してしまえばいいだけのこと。
 事実、町に足を踏み入れた瞬間に、俺は記憶の一部を思い出している。
 何が引き金になるかは分からない。だからとにかく色んな場所で色んなものを見るしかないだろう。

 町を隅々まで歩き回って、見つけ出すんだ。
 ひたすら足掻き続ける。
 ▼ 172 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 18:05:08 ID:lc6c1md6 [2/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ユスラはどっと疲れた様子だった。

 久しぶりの学校という場所、緊張で体に力が入ってしまって、精神面だけでなく肉体的にも疲労がたまっているようだ。


「付き合ってくれてありがとな。この後、俺ひとりで歩き回ってみようと思う」

「分かった。何か、思い出せたらいいね。それと……わたしの方こそ、ありがと」

「よく、頑張った。お疲れさん。家でゆっくり休んでくれ」

「ううん。いくら頑張っても、わたしだけじゃできなかった。わたしだけじゃ、何をどう頑張ったらいいかも、きっとわかんなかった。サクラが、いてくれたから」



 ▼ 173 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 18:07:22 ID:lc6c1md6 [3/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「──ねえ、サクラ、聞いてくれる?」


 何を、とは尋ねなかった。

 今こそ明かそうとしてくれているのだ。ユスラが学校に行けなくなったわけを。
 

 きっとユスラにとって暗澹たる、忌まわしい記憶。
 言いたくないはずだ。勇気を振り絞らなきゃ、言えないはずだ。
 それを、俺に話そうとしてくれている。


「聞くよ。聞かせてくれ」

 向き合って、まっすぐ、目を見て。

 ▼ 174 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 18:12:56 ID:lc6c1md6 [4/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 
 ○


「わたしね、ポケモンが怖いの。目の前にいるとそれだけで息が苦しくて、足がすくんじゃって。触るなんて、とてもできない」
 
 ぽつりぽつりと、語り出す。俺は口を挟むことなく、ただ耳を傾ける。

「ポケモンに襲われた経験が、とかじゃないの。気づいた時には、もう、怖かった」

 自嘲気味に笑みを浮かべる。

「なんでかな。もしポケモンが攻撃してきたら、とか、考えちゃったのかな。その気になったら、わたしなんかいつでも簡単に壊しちゃえるんだなって、ふと気づいたら、なんか──」

 言葉が出てこないのか、ふるふると首を振って。


 ▼ 175 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 18:17:28 ID:lc6c1md6 [5/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「どっちかというと、なんでみんなは怖くないのかなって、その方が不思議。どうして、普通のことみたいにできるかな。わたしは、そんな『普通』には、なれないよ。普通のことって、誰も教えてくれないし。当たり前すぎて、みんな言葉で説明できないの」


 その通りだ、と。
 胸の奥の方で、俺の何かが共感する。

 どうやって息をしているか、とか、どうやって歩いてるのか、とか。
 ごく普通のことは、感覚でできてしまうから。息をしようと思えば息をできるし、歩こうと歩こうと思えば歩ける。
 だから、言葉にして伝えるのは難しい。

 『ごく普通のこと』でつまずいてしまった人にとって、残酷なシステムだ。
 そしてこの町では、人とポケモンが共にいるのが『ごく普通のこと』なのだ。

 ▼ 176 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 18:21:18 ID:lc6c1md6 [6/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「そんなだから、トレーナーはなりたくはなかったし、トレーナーズスクールも入りたくなかったんだけど。他に学校がないから、仕方なく。それに、今は怖くてもそのうち治るって、『普通』になれるって、思ってたから。わたしも、みんなも」


 けれど、ダメで。
 ポケモンへの恐怖を克服することはかなわないまま、今を迎えて。

 今。
 つまり、明日訪れる、ユスラの誕生日。
 ユスラの、10歳の誕生日。


 ごく普通の、常識だ。

 10歳になった子供は、自分のポケモンをもってトレーナーになる。


 ▼ 177 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 18:30:02 ID:lc6c1md6 [7/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○


 すべての辻褄が。
 歯車がぴったり噛み合うように、あらゆる事実が当てはまっていく。


 町中での挙動不審な動き。あれは人と顔を合わせるのを避けるため、だけではなかった。ポケモンに出くわすことを防ぐ意味もあったのだ。 

 入念に吹きかけていたむしよけスプレーのこと。

 『ようきなサンドパン』について、ポケモンのサンドパンが手伝っているのか、と聞いたときの反応や。

 学校で、グラウンドのバトルを見ようとしなかったことも。


 ▼ 178 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 18:33:37 ID:lc6c1md6 [8/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 そして。

 誰もがトレーナーズスクールに通い、誰もがトレーナーになるこの町。
 相手もトレーナーであることを前提に話を進めるから、いざこざはポケモンバトルで決着をつける、そんな習慣もある。

 身を守ってくれるガードマンであり、仕事の相方であり、友であり、理解者であり、時には意見を通すための矛にもなる、そんなパートナー、ポケモン。


 その町の中で、ひとりだけ、トレーナーじゃなかったら。
 たったひとりだけ、ポケモンを連れていなかったら。

 無力。
 屈辱。疎外感。負い目や、引け目、劣等感。
 当たり前のことができない。普通の人に、なれない。
 人が誰しもトレーナーなら、トレーナーでない者は人ですらないのか。


 ▼ 179 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 18:38:53 ID:lc6c1md6 [9/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 そういう孤独の中にユスラはいて。
 そしてそれが決定的になってしまうのが、明日、10歳の誕生日。


 今日までは、たとえトレーナーになりたくてもなれなかった。
 でも、明日からは違う。
 もうトレーナーになれる歳のはずなのに、なっていない。なれていない。
 トレーナーじゃないことが、確定的なものになってしまう日。


 そう考えると、あの疑問の答えもおのずと見えてくる。

 なぜ、急に俺に興味を持ったのか。誕生日までに記憶を取り戻して欲しいと言ったのか。


 ▼ 180 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 18:44:30 ID:lc6c1md6 [10/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 あれは。

 ユスラが俺に興味を示したのは、俺が『手持ちポケモンはいない』と伝えた時だ。 
 そう、『俺がポケモンを連れていなかった』から。


 ユスラにとって、初めての出会いだったのかもしれない。
 共通点を持った人。果てしない荒野の中で見つけた光。
 
 命を投げ出すつもりでついた、荒野での眠り。その眠りから覚めた時、そんな俺が、目の前にいた。
 


 きっと、運命的ななにかを。

 俺だけじゃなかった。あの計り知れない衝撃を、ユスラもまた感じたのだ。
 だから俺には懐いてくれたし、記憶を取り戻すのも手伝うと言ってくれた。
 ユスラの誕生日という期限を設けて。


 ▼ 181 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 18:49:14 ID:lc6c1md6 [11/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ユスラは、知りたかったんだ。

 『大人なのにポケモンを連れていない』俺が、どんな生き方をしていたのか。
 『トレーナーじゃない人』になる前に、知っておきたいと。
 藁にもすがる思いで、そこに希望があると信じて、そう望んだ。


 つまり。
 俺が記憶を取り戻すことは、ユスラを救うことに繋がる。俺の記憶が、きっとユスラの心の支えになる。

 俺にしかできないこと。
 俺がやらなきゃならないことだ。


 ユスラの瞳をまっすぐ見つめる。
 ユスラも、俺の目を見ていた。
 何も言葉にしなくとも、通じあうものがあった。



 ▼ 182 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 18:58:39 ID:lc6c1md6 [12/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ユスラの家の前まで、来ていた。
 木造の、狭い小屋のような外観の、古びた家。

「よく、話してくれた。なんとか、思い出すから。ユスラが胸を張って10歳になれるように」

「うん。いってらっしゃい!」


 玄関をくぐるのを見届けて、俺は再び町へ足を向ける。
 やってやる。
 死に物狂いで、見つけ出してやる。

 時刻は午後4時半。
 まもなく、町と荒野に黒雲が立ち込めようという時間だった。



 ▼ 183 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 20:45:05 ID:lc6c1md6 [13/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○


 奇妙な感覚だった。

 道という道の一本一本を、くまなく駆けまわって。一軒一軒の建物をこの目に焼き付けて。
 町中を巡れば巡るほど、その感覚は強まる。


 ここにこんな家、あったっけ。
 この看板、もっと薄い色じゃなかったか。
 この木は、もっと背が高かったような。

 俺自身も気づいていないような小さく細かな差異も含めたら、きっと数えきれないぐらい。


 ここは本当に、ハナカゼタウンなのか?
 俺の記憶とは、少しずつ、微妙にずれている。


 ▼ 184 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 20:52:13 ID:lc6c1md6 [14/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 俺だけが、似て非なる別世界に迷いこんでしまったみたいだって、そう感じた時もあったけど。
 この謎の正体こそが、俺の記憶を閉ざす扉の、最後の鍵ではないか。
 そう思えてならない。

 
 きっと、答えはすぐ目の前にある。そう確信できた。
 なにか、もう一押しのきっかけさえあれば今にも飛び出てきそうで。
 手を伸ばせば届きそうな答えは、しかし蜃気楼のようにすり抜けてゆく。

 
「もう少し、もう少しなんだ」 

 頭を鷲掴みにして、頭皮に指を突き立てて。
 雷鳴と稲光の中で、振り絞る。
 閃け。閃け。




「──なっ!」



 驚きで喉から音が漏れる。


 たまたま通りがかっていた賭場の前。
 その扉から、のっそりと、姿を表す。

 記憶を思い出したのではなく、その人物の顔を見て。


 ──『あの男』だ。

 ▼ 185 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 20:59:40 ID:lc6c1md6 [15/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 長身で色黒、ねっとりした嫌な目付きの、柄の悪い男。
 ユスラを苦しめる男。グミの再婚相手の男。


 今日も1日、遊び呆けていたのか。 
 ユスラがどれほど苦しんでいるか、こいつはきっと知りもしない。考えようともしない。想像することもできない。そんな高度な知能は、こいつにはない。
 
 はらわたの底から、煮えたぎるような怒りが込み上げる。
 こんなやつが。こんなゴミが。
 

「おい!」

 ちらりと俺を見て、ヒックとしゃっくり。酒臭い息を吐いて立ち去るその背中に。
 呼び止めないわけには、いかなかった。

 ▼ 186 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 21:06:10 ID:lc6c1md6 [16/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「んあー? なんだあ、おまえ」

 胡乱な目つきで、男が振り向く。不揃いの無精髭がだらしない、間抜けな顔で。


「なあ、お前、申し訳ないとか思わないのか。恥ずかしいと思わないのか」

「何の話だ? てか誰だよお前」

 舌打ちの音。
 雷が響き、薄暗い路地に稲光が走る。


「ユスラを、お前はどれだけ苦しめた? あの子は、死んだっていいって、本気でそう思うぐらい、本当に追い詰められてるんだよ。そんなことも、お前、知らないだろ」

「死ぬ? マジ? やっば」

 茶化すように男は言う。


 ダメだ。
 どれだけ真摯に思いを込めて言ったって、こいつには伝わらない。同じ言語を使ってると思えないぐらい、何を言ってもこいつは何も感じない。
 こんなやつ、人間じゃない。クソ以下だ。知性の欠片もない。

 生理的な嫌悪感が込み上げる。

 ▼ 187 ドリーノ@ウッディメール 19/03/15 21:06:34 ID:dntYYnro NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 188 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 21:12:18 ID:lc6c1md6 [17/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「というか、俺が悪者みたいに言ってくれちゃってるけど、俺が何か悪いことしましたかー?」

「ユスラを、殴ったんだろ」

 ギリギリと、歯噛みしながら、答える。


「あんなのただの躾だろ? 言っても分からねーやつには、体へ直接教え込んでやらないと。知ってるか、あいつ、あの歳で、怖くてポケモン触れないんだぜ? ウケるよな」

 ギャハハ、と唾を飛び散らせながら、品性の欠片もない笑い声。


「──よく分かった。お前は最低のクソ野郎だ」

 自分でも驚くぐらい、冷えきって抑揚のない声が出た。

 ▼ 189 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 21:17:31 ID:lc6c1md6 [18/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「フン、お前こそムカつくクソったれだ。そこまで言うなら、バトルでケリをつけるか?」

 
 ──来た。


 男がボールを放り、閃光とともにグラエナが姿を現す。

 グルルと低い唸り声。
 鋭いキバと爪を剥き出しに重心を落とし、今にも飛びかかれる攻撃姿勢。
 

「おら、お前も出せよ」

「……その必要はない」


 緊張で口の中が渇く。

 怖い。
 ポケモンを持っていない俺では、こいつには勝てない。
 こんな時、トレーナーじゃない人間は、無力だ。


 でも、逃げるわけにはいかない。
 そうだろ、ユスラ。

 トレーナーじゃなくとも、戦う権利はあるから。

 ▼ 190 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 21:23:30 ID:lc6c1md6 [19/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「舐めやがって。お前、何様だ? いきなり出てきて、ユスラユスラって。お前、あのガキのなんなんだ?」


 じりじりと間合いをとりながら、考える。


 俺とユスラの関係は。
 助けて、助けられて、救いたいと願って。
 そんな関係にぴたりと当てはまる言葉は、思い付かないけれど。
 でも、言えることは。



「──友達だ!」


 ちょうど、雷が落ちた瞬間だった。
 男が俺を指差して、なにかを叫び。

 グラエナが、動き出す。



 ▼ 191 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 21:30:34 ID:lc6c1md6 [20/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 振るわれる右の爪を後ろへとかわし──次いで突進の追撃がくる。

 ダメだ、避けられない。
 

 肺が押し潰される。
 一瞬遅れて、後頭部に走る衝撃。  

 脳が揺さぶられる。

 壁だ。吹き飛ばされた先の壁に、打ち付けられたのか。


「ガハッ……! が、ぐぁ」
 
 息が絶え絶えになる。頭も回らない。
 まだ一発だけ、なのに。
 これが人とポケモンの差。トレーナーと、トレーナーでない者の差。


 ──まだだ。まだ、くる。
 グラエナが迫り来る。牙を剥き、俺に食らいつこうと。


 ▼ 192 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 21:35:04 ID:lc6c1md6 [21/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「クソッ!」

 反射的に右腕をつきだす。
 反撃のためではなく、急所を守るために。


 牙が肉に突き立てられる。
 筋肉が引き裂かれる。血管が食い破られる。


 信じられないぐらい、痛い。 

 泣き叫びたくなる。
 でも違う。泣き叫んだりするな。
 叫べ。
 涙なんかいらない、ただ、ただ、でかい声を張り上げろ。雷なんかで掻き消されないぐらい、激しく。


 ▼ 193 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 21:38:02 ID:lc6c1md6 [22/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「あがあああああああああッッ!!」



 これでいい。
 


 なあ、信じてたぜ。

 お前ぐらい考えなしで低能な男なら。
 町中で、生身の人間にポケモンをけしかけるなんて、バカな真似をしてくれるって。

 死ななきゃ、安い。

 ▼ 194 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 21:44:59 ID:lc6c1md6 [23/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「おい! 何をしてる!?」

「あいつ、グミさんのところのろくでなしだ!」

「きみ、大丈夫か!」


 近くの店や家々から。
 騒ぎを聞きつけた人々が姿を現していた。
 これだけ派手にやれば、そりゃな。

 そして、ハナカゼタウンなんてド田舎じゃ、面はすぐに割れる。
 あの男は取っ捕まえられる。少なくともしばらくの間、ユスラたちは解放される。時間を稼げる。


 これで──。





 ──俺は、崩れ落ちた。

 ▼ 195 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 21:53:23 ID:lc6c1md6 [24/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 血が流れ出る右腕を抑え、よろよろと立ち上がろうとした瞬間だった。


 頭が。


 ガンガンと鳴り響く。不穏なノイズが鳴りやむことなく。
 ぐるぐると。俺が回っているのか。世界が回っているのか。


 したたかに打ち付けられた頭部へのダメージが。
 今になって脳に襲いかかる。


 極彩色のような、モノクロのような。とち狂った脳が生み出す幻影が生まれては消えて。
 ぐわんぐわん。
 めちゃくちゃにゴングを叩き鳴らすような耳鳴りの中で。



 朦朧とする意識の彼方に。
 何かが、見えた。



 ▼ 196 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/15 21:57:18 ID:lc6c1md6 [25/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 凍りつく。

 そんな、そんなことが。



 すべてが、見えた。
 すべてを思い出した。失った記憶のすべてが、鮮明に蘇って。 
 すべての真実が、そこにあった。


 俺は、とんでもないミスを犯している。


「待、て……」

 震えながら、左腕を伸ばす。
 慌てて走り去ってゆく、あの男とグラエナの背に。 

 行かせてはならない、こいつを行かせてはいけない。

 行かせて、は──









 意識が閉じる。


 ▼ 197 lX0nF9ikQo 19/03/15 21:59:56 ID:lc6c1md6 [26/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

今日の更新はここまでです

 ▼ 198 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 17:23:53 ID:xxtQBaVo [1/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○







「──待て!」




 虚空に突きだされた左腕。


 叫びながら。
 俺は目覚めた。

 伸ばした手の先にあの男はいない。
 誰もいない。

 そこにあるものは賭場前の路地とはうってかわっていて。
 白く、清潔な空間。

 俺は簡素な造りのベッドに横たわっていた。


 病院、か。
 あの場の誰かが救急車を呼んでくれたのだろうか。


 ▼ 199 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 17:28:54 ID:xxtQBaVo [2/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 頭がまだズキズキと痛む。くらくらと目眩がする。
 何より、包帯でぐるぐる巻きにされた、右腕。その芯から発せられる鋭い痛みが、『あれ』が現実のことだと教えてくれる。


 あれからどれだけ経った。
 俺は、どれだけ倒れていた。

 ベッド脇の壁に掛けられた時計に視線を飛ばす。
 10時半。
 外は暗い。遠くに雷の音も聞こえる。午後10時半だ。
 

 行かなければ。


 意識を失う寸前、俺は遂に思い出したのだ。
 俺のことを。忘れていた、すべてを。

 俺は何者なのか、どこから来たのか、なぜ荒野に倒れていたのか。
 すべての疑問の答えが、いま、俺の頭の中にある。

 だけど、今はそれどころではない。
 急がなければならない。

 ▼ 200 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 17:35:37 ID:xxtQBaVo [3/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ナイトテーブルのペン立てから引っ掴んで一本拝借し、乱暴にポケットへ押し込む。
 傍らに置かれたリュックを背負い。


「ぁがッ」

 よろめいて、ベッドに倒れこむ。

 クソ!

 まだ動ける状態じゃない。でも、行かなきゃ。
 痛む右腕を抑え、再び立ち上がる。

 間に合わないかも、しれない。でも行かないと。


 看護師やラッキーに見つかったら引き戻されてしまうだろうから、可能な限り慎重に、それでいて全速力で。

 病室から抜け出す。
 目指すは、ユスラの家。


 ▼ 201 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 17:40:56 ID:xxtQBaVo [4/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○


 足を止める。

 頭がからっぽになって、呆然と、それを遠巻きに見ていた。


「なんたることだ。信じられん」

「あいつは、いつかやると思ってたよ」
 
「娘の方も行方不明なんでしょ? もしかして──」  


 ユスラの家は、バリケードテープに取り囲まれていた。

 寄り集まった野次馬たちが口々に不穏な言葉を並べ立てる。
 警官たちが忙しなく動き回って。
 記者たちのカメラのフラッシュと、雷の明かりが、うるさいぐらいに照らし出す。

 ▼ 202 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 17:46:09 ID:xxtQBaVo [5/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 
 事件現場。その言葉がぴったりの光景。
 事件は起こってしまった。
 運命は変えられなかった。


 俺はこれを予想できたはず、なのに。

 この世界で、俺にだけは、この悲劇を防げる可能性があったんだ。
 もっと早く思い出していれば。あんなところで、何時間も伸びていなければ。


 グミは、死なずに済んだかもしれないのに。


 ▼ 203 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 17:52:27 ID:xxtQBaVo [6/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 
 グミは玄関近くの床に倒れ伏していた。

 致命傷は、鈍器による頭部への一撃。凶器は遺体近くに転がっていたパチリスの置物と見られる。

 遺体を発見したのは警官だ。
 『あの男』が俺を襲ったことで通報が入り、行方を追ってこの家まで来た、その時にはもう。

 現場は争った形跡があり、あの男の姿はなく。


 ──そして、ユスラがどこにもいない。

 警察は状況から考えて『あの男』が犯人と目し、行方を追う。ユスラは容疑者によって拐われた可能性が高い、とのことだ。


 ▼ 204 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 17:56:07 ID:xxtQBaVo [7/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ──でも、俺には分かる。
 俺には、この事件の全容が分かる。


 ユスラが待つ家に、まず帰ってきたのはあの男。

 逃げるにしろ、どこかに身を隠すにしろ、あの男が一旦自宅に向かうことぐらい、容易に想定できたのに。あの男の私物や何やらはこの家にあるんだから。

 ユスラを一人にしてしまった、俺のミスだ。あまりにも、愚かで間抜けだ。


 そうしてふたりが鉢合わせして。
 あの男の暴力の矛先がユスラに向けられた。ユスラは必死に抵抗して。

 そこへ、グミが帰ってくる。
 そして──彼女はユスラを守ろうと動いた。ユスラを逃がそうとして、あの男と揉み合いになり。

 そうして争っているうちに、悲劇は起きた。
 
 ▼ 205 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 17:58:33 ID:xxtQBaVo [8/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 あの男は、とうとう、人の命を奪った。
 死ぬべきは、お前なのに。


 グミが稼いだ時間にユスラは身を隠し、あの男をやり過ごした。
 あの男も余裕はないから、長居はできなかったはずだ。
 だから、ユスラはあの男に拐われたのではない。


 ふたりは、別々にいる。

 ▼ 206 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 18:04:01 ID:xxtQBaVo [9/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 どちらを追うべきかは、明白だ。


 あの男のことは、もちろん許せない。
 この手でぶち殺したいぐらい、憎悪が募る。それはたしかだ。
 だが、あいつは放っておいても捕まる。罰を受けることになる。『俺には分かる』。


 ユスラのもとへ、行かなければ。
 これは俺にしかできないこと、俺がやらなきゃならないことだから。

 そしてユスラがどこに向かったかは、考えるまでもない。

 ▼ 207 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 18:09:40 ID:xxtQBaVo [10/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ユスラとグミの親子仲は、けしてよくなかった。
 一向にポケモンへの恐れを克服できず、学校も休みだしたユスラにグミは辛く当たって。ユスラの方も、そんな母に怯えていた。


 けれど俺が来てから、ふたりの間でなにかの会話があって。改善の兆しはあったのだ。
 グミの態度が柔らかくなり、ユスラも少しずつ、希望を見出だした。
 そんな矢先に。


 目の前で、グミが死んだ。
 やっと、光が見えだしたのに。希望をちらつかされた途端に、どん底へと突き落とされた。

 ましてやユスラは、命を投げ出す淵までいったばかりなんだ。
 再生しかけた心のバランスを粉々に突き崩すには、充分すぎる仕打ち。

 だから。


 ユスラは、荒野にいる。
 あの、桜の木の下に。

 あの暗い瞳で、ただ死ねることを。
 果てしない暗闇から解放されることだけを、一心に願って。


 ▼ 208 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 18:14:07 ID:xxtQBaVo [11/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 行かなければ。
 事態は一刻を争う。

 最後にもう一度だけ、ユスラの家を振り返る。

 ──ごめんなさい、お母さん。助けられなくて。
 だけど、ユスラのことだけは、今度こそ必ず、救うから。


 幾筋もの雷が、矢の雨のように絶え間なく降り注ぐ。
 真っ黒な寒空に、死の閃光が走っては、消える。
 この内のどれか1つでも、当たれば命はないだろう。

 この上なく、危険な場所。
 あの中に、いるのか。ユスラ。


 ▼ 209 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 18:17:12 ID:xxtQBaVo [12/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 足がすくむ。
 
 だけど。
 俺はユスラの苦しみに、打ちのめされた記憶に、思いを馳せる。

 それに比べれば、こんな雷がなんだというのか。

 この荒野から。
 鳴り止まない雷の恐怖から。
 明けない夜から。

 
 どうしても、お前を。

 ユスラを、救いたい。


 ▼ 210 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 18:22:53 ID:xxtQBaVo [13/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




 ○


「ポケモンが怖いって子、たまにいるんですよ。でも大丈夫、友達と一緒にポケモンと触れあっていけば、みんな慣れていきますから」

「本当ですか? 先生、よろしくお願いします」

「ええ、ええ、ご心配なく。ユスラちゃん、一緒に頑張ろう。よろしくね」

「はい!」


 ──きっとわたしも怖くなくなるって。
 みんなと同じようになれるんだって、そう、思ってた。



 ▼ 211 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 18:26:55 ID:xxtQBaVo [14/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○


「コリ?」

「ひっ!」


「あら、うちのコリンクちゃんはお利口だから怖くないわよ? なでなでしてみる?」

「いや、その……ウッ」

「……何よ、失礼な子ね」

「すみません、うちの子が……ほらユスラ、ちゃんと謝りなさい?」
 

 ──わたしが、悪いの?

 なにがいけなかったの?
 生まれてきたこと?

 ▼ 212 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 18:30:27 ID:xxtQBaVo [15/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 
 ○


「たしかに、少し時間はかかっていますが……いや、問題ありませんよ。それぞれ『個性』がありますからね。ユスラちゃんも、もうひと踏ん張りですよ」

「そうでしょうか……」


「……ちなみに、ポケモンを怖がるようになったのは、何か事件があった、とか?」

「いえ、物心ついた頃にはもう……」

「そうですか。アレルギーがある、ということでもないですし──」


 何か特別な理由があるわけでもないのに。って。
 最初はかわいそうに、って目だったけど。だんだん、だらしない人を見る目になっていった。

 本当に頑張る気があるのか、触れないフリしてるんじゃないか、って。


 ▼ 213 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 18:35:22 ID:xxtQBaVo [16/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 違うって言いたい。
 わたしは頑張ってるって。
 言いたいけど、誰も信じてくれない。


 わたしは気がついた。

 触れるようになることでしか、証明できないんだって。
 だから触れるようにならなきゃって、思えば思うほど、息が苦しくなる。


 すごく嫌な目にあったとか。病気のせいで、とか。
 そんな理由がなくても、本当に、どうしようもなく、怖いの。
 
 ──ねえ、どうしてもできないっていうのは、『個性』じゃないの?



 ▼ 214 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 18:40:26 ID:xxtQBaVo [17/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○


「みなさんは、今年、10歳を迎えトレーナーになり、大人に一歩近づきます。どんなトレーナーに、どんな大人になりたいか、考えてみましょう」


「先生、俺、保安官がいい! かっこいい電気ポケモンと一緒に、悪いやつを捕まえるんだ!」

「私、看護師さんになりたいな。ラッキーとかタブンネとか、可愛いポケモンと一緒に働けるもん」

「では、僕は水ポケモンと共に消防士……いや、牧場でケンタロスやミルタンクを育てるというのも捨てがたい」


「──ユスラさん、あなたは?」


 ▼ 215 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 18:44:04 ID:xxtQBaVo [18/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「わたし……わたしは、トレーナーにはなりたくない、です」

「ユスラさん、ワガママ言わないの。みんな立派なトレーナーになるのにあなただけ、なんて恥ずかしいでしょう? ……ほら、ちゃんと考えてみましょう、ね?」


 ──ワガママ。

 ワガママ?
 そんな、軽い言葉に当てはめて、わたしのこと、分かったつもりにならないでほしい。

 先生、わたし、考えてないわけじゃない。
 


 ▼ 216 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 18:52:14 ID:xxtQBaVo [19/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 

 ○


「ユスラ。ほら、触りなさい。チェリンボなら、可愛いし大丈夫でしょ?」

「ママ……ダメ、わたし、できない」

「ああ、もう。あれも嫌、これもダメ、何なら大丈夫なの?」

「……ごめんなさい」


「お前のやり方はぬるいんだよ。こーゆーのは心が弱いだけなんだから、ちゃんと躾してやらないと。ほら、触れ!」 

「いや、やめて! 離して! 助けて!!」

「ああ!?」

「やめて! 痛いよ!」

「触りゃあいいんだよ、そしたらやめてやる。痛いのが嫌なら、とっとと触れ!」


「助けて! ママ! 助けて!!」

「はあ……。他の子はみんな平気なのに。なんでこの子はこうなの?」


 ──ダメな子で、ごめんなさい。


 ▼ 217 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 19:01:49 ID:xxtQBaVo [20/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○


「誕生日おめでとう!」


「へへ、やっと俺もトレーナーだ!」

「最初のポケモンはどうしたの?」

「パパとママが捕まえてくれたんだ。ラクライのライラック。実は、半年ぐらい前からウチで育てててさ、もうだいぶ慣れてるんだ」

「すげー! 触ってもいい?」

「ああ、いいぜ。いいよな、ライラック? ──あっ、ユスラ、お前も触る?」

 ▼ 218 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 19:04:10 ID:xxtQBaVo [21/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「やめなよ、あの子、ポケモンが怖いんでしょ?」

「あっ……そっか。ごめんな、ユスラ」

「なあそれよりさ、さっそく俺のバチュルとバトルしよーぜ!」

「おっ、やるか? 負けねーぞ!」


 ──周りの子が、ひとり、またひとりとトレーナーになっていく。
 わたしの誕生日も、近づいてくる。
 

 来ないで。 
 時間が、止まってほしい。



 ▼ 219 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 19:08:50 ID:xxtQBaVo [22/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○


「最近、あの子、学校こないね」

「病気なのかな。家、そこだし、お見舞い行く?」

「やだ、違うわよ。恥ずかしくて来れないだけよ」

「えっ、じゃあ、ズル休みってこと?」

「なんだ、心配して損した」


 ──窓際の壁にもたれかかって。
 飛び込んでくる話し声を、受け止めるでもなく、聞き流すでもなく。

 ただ、わたしは聞いていた。



 ▼ 220 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 19:57:29 ID:xxtQBaVo [23/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○


「ねえ、もう時間ないのよ! なんで、触るぐらいもできないの!?」

「だって、わたしだって頑張ってるけど──」

「言い訳しないでって、言ったでしょ! ねえ! そのままポケモン怖がってるまま、大人になる気!?」

「もうやだ! もうどうでもいい!」

「あのねえッ!! あんたみたいな出来損ないを産んじゃって、ママ恥ずかしいの! あんたみたいな、ワガママな怠け者が、生きていけるとでも思ってんの!?」



 ──生きていけないなら。
 じゃあ、生きなくて、いいよね。


 ▼ 221 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 19:58:05 ID:xxtQBaVo [24/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○










 ねえ、誰か、助けてよ。



 ▼ 222 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 20:03:30 ID:xxtQBaVo [25/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○




「──持ち物もほとんどなくて。手持ちポケモンもいないみたいだし!」

 

 ──光。
 あの言葉に、どれほど救われただろう。

 そんな人も、いるんだって。
 ちゃんと、いるんだ。


 会ったばかりなのに、なんでだろう、この人なら信じていいんだって、思えた。


 その人の目を、キレイだと思った。
 芯があって。わたしよりずっと強くてまっすぐで、ちょっと抜けてて、あたたかい。
 そして、かっこいいと思った。
 あんな瞳になりたいと。

 そう、思った。


 ▼ 223 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 20:09:32 ID:xxtQBaVo [26/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○


「サクラさん、ね。不思議な人」

 ママとサクラが出会って、その後、家まで戻る途中で。
 ママがぽつりと言った。
 

「サクラはね、ポケモン、連れてないんだって」

 ママは目を丸くする。
 この辺りに、トレーナーじゃない人なんて、誰もいないから。

「そう。それでユスラがあんなに──」

「うん。わたし、サクラのこと、もっと知りたい」

 
 それから家の目の前まで、わたしもママもなにも言わなかった。
 黙ったまま歩いて。
 でも、不思議と寂しい時間じゃなかった。久しぶりに、ママといるのが心地いいと思った。


 ▼ 224 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 20:14:57 ID:xxtQBaVo [27/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 

 玄関に手をかけて、ぎぎいと軋ませながら開いたところで、ママが言う。

「ユスラ、もうすぐ誕生日だったね。久しぶりにケーキ、買ってこよっか」

「あっ──」


 誕生日。
 わたしが、10歳になる日。
 トレーナーになってなきゃおかしいって、そうなる日。

 ずっと、どうか来ないでって思ってた。
 わたしにとっては全然おめでたい日なんかじゃなくて。

 何をしても、何もしなくても、その日は近づいてきて。1日1日が、怖かった。
 ただそこにいるだけでも、進んでく一秒一秒ごとに、息が苦しくて。


 でも、今なら。
 少しだけ、お祝いしてもいいかなって、思えた。


 ▼ 225 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 20:20:48 ID:xxtQBaVo [28/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 サクラが、ちょっとだけ、変えてくれた。
 小さいけど、わたしにとって、すごく大きい何かを。
 

「じゃあ、モモンとマゴのケーキがいい! あのサンドイッチのケーキ版みたいな」

「本当に好きね。じゃあ、そういうケーキ探してみる」

「絶対だからね」

「はいはい。あっ、そうだ。チェリンボの小さい玉、ケーキに乗せてみる?」

「え……ポケモンを、食べるの?」

「ラッキーのタマゴは食べたことあるでしょ? それと同じよ。甘くて美味しいの」

「……じゃあ、頑張ってみる。ダメだったらごめんね」


「ううん、いいの」


 ▼ 226 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 20:34:15 ID:xxtQBaVo [29/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○






「グミ! おい、グミ、いるか!?」


「なあ、ちょっと金がいるんだ、また貸してくれや」


「……チッ、いねえのか? いるなら出てこいよおい!」



「……ママならいないよ。まだお仕事から帰ってない」


 ▼ 227 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 20:40:58 ID:xxtQBaVo [30/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「んあ? なんだ、ユスラかよ」

「うわ、酒臭い」

「ああん!? 父親に向かってその口の利き方はなんだ?」

「あなたなんか、親じゃない」

「調子にのりやがって! ポケモンも触れないガキが、偉そうな口利くんじゃねえ!」  



「ちょっと……こないで」


「ああああムカつく! もう、どうでもいいわ。お前、相手しろや」


 ▼ 228 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 20:45:15 ID:xxtQBaVo [31/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「イヤ! 離して! ケダモノ!」

「思い知らせてやる! 前から、お前のことは気に食わねえんだよ!」 


「どいつもこいつも! 俺をバカにしやがって!」


「だいたい、お前がいるせいで金もかさんでんだよ! 邪魔なんだよ穀潰しが!」
 

「じたばたすんな! お前らは、おとなしく俺の言うこと聞いてりゃいいんだよ!」


「弱っちいくせに! 口だけ達者で、俺を見下して! 生意気なんだよ、お前らはよお!」




「──あんた。何、してんの」


 ▼ 229 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 20:52:12 ID:xxtQBaVo [32/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「あ!? お、おう、グミ」


「いや、ちげえんだよ、ちょっとこいつが──」

「──ユスラに! 何しようとしたか、聞いてるんだよ!」
 

「う、うるせえ! 俺に指図するな!」

「ユスラッ! 逃げて!! 早く!」

「ぐッ、う、うるっせえッ!!」



 鈍い音。


 ▼ 230 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 20:54:33 ID:xxtQBaVo [33/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 その瞬間、わたしは本能的に悟った。
 分かってしまった。
 
 なにが起こったのか。
 なにが失くなったのか。

 ▼ 231 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 20:58:50 ID:xxtQBaVo [34/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「お、おい、グミ?」


「ウソだよな? 俺をからかってんだろ?」


「なあ、おい──」


「──マジかよ」


「やべえ」

「やべえやべえやべえ!」


 ▼ 232 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 21:05:20 ID:xxtQBaVo [35/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「お、俺は悪くねえ、おお、お、お前が悪いんだからな、あんな……」


「そうだ、ユスラ! おい! 出てこい!」 

「そこにいんだろ! おい!」


 ガン!
 ガンガンガンガンガン!


 トイレの扉が叩き鳴らされる。
 簡単な鍵がかかっただけの、薄い、頼りない扉。

 怖い。
 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 
 がたがたと体が震える。
 扉から少しでも遠い壁に貼り付いて、頭を抱え込んで体を丸めて。


 早く。
 早く早く早く早く。


 どっか行って。早く!


 ▼ 233 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 21:11:38 ID:xxtQBaVo [36/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ○


 どれぐらい、経ったんだろう。
 何時間も経った気もするし、ほんの十数秒かもしれない。


 あの男の気配が遠ざかる。
 でも、体の震えは治まらなくて。
 わたしは身動きがとれなかった。
 
 いなくなったと見せかけて、待ち伏せてるかもしれない。
 見つかったら、きっとわたしも殺される。


 そうだ。
 ママが。

 仲は、あんまりよくなかったけど。
 そんなに、好きじゃなかったけど。
 でもたったひとりの、ママが。
 最後にはわたしを守ってくれようした、ママが。


 ▼ 234 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 21:14:43 ID:xxtQBaVo [37/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 わたしはひとりになった。
 ずっと、ひとりぼっち。
 暗い部屋の中で、ひとりきり。


 心がボロボロになって。
 引き裂かれて、血みたいな何かが流れてく。
 きっともう塞がらない。
 

 ボロボロで、ひとり。
 暗闇に、ひとり。
 ひとり。


 暗い。
 暗い。
 ずっと。
 何もない。



 ▼ 235 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 21:20:24 ID:xxtQBaVo [38/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ──ああ、そうか。
 わたしは、急に、気がついた。 


 扉を開く。 


 もう、なんにもないから。
 なくなるものは、ないから。

 
 わたしは、どうして、あんなに怖がってたんだろう。
 もう、死んだっていいんだから、殺されたって、なにも変わらない。
 
 なんにも、怖いことなんかない。


 ママの姿が目に入る。
 虚ろで、何も映していない瞳。
 光のない瞳。
 きっとわたしもあんな目をしてるんだろうな。


 ──サクラ、ごめんね。
 わたし、もう、疲れちゃった。



 荒野へ。

 ▼ 236 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 21:26:42 ID:xxtQBaVo [39/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ○


 守り神さま。
 どうか、どうかお願いです。


 どうか、わたしに雷を落としてください。
 そうしたら、きっと、すぐに死ねるから。


 高いところから飛び降りたりするのは、すごく痛そうだ。
 痛くて苦しい死に方は、いやだ。

 だって、生きるのがこんなに苦しいのは、そんなの、わたしのせいじゃない。
 自分で自分に痛い思いをさせるなんて、そんな罰を与えるみたいなこと、おかしい。


 だから、どうか。
 痛みも苦しみも、なにも感じないぐらい、一瞬で。


 わたしを殺してください。


 ▼ 237 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 21:29:31 ID:xxtQBaVo [40/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 

 ああ、雷の光が。

 目の前が、ぜんぶ、真っ白に染まって。
 これでぜんぶ、おしまい。




 ▼ 238 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 21:33:16 ID:xxtQBaVo [41/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○





 ▼ 239 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 21:35:19 ID:xxtQBaVo [42/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○










 ねえ、誰か、助けてよ。


 ▼ 240 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 21:37:09 ID:xxtQBaVo [43/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ○





 ──ッ!!

 ▼ 241 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 21:42:14 ID:xxtQBaVo [44/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○


 声が聞こえる。

 誰かが叫んでる。
 誰?
 雷のせいで、耳がキーンとなって、よく聞こえない。

 待って。
 おかしい。
 雷に撃たれて死んじゃったなら、もう耳なんてないはず。


 死んでない?
 どうして。


 誰かがいる。
 わたしのことを、抱きしめてる。
 誰?
 雷が眩しすぎて、よく見えない。




 ▼ 242 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 21:47:34 ID:xxtQBaVo [45/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 この顔は、この声は。
 
 段々、目が慣れてきて。耳鳴りが治まって。

 
 ──ああ!
 
 光が見える。


 ひとつひとつの言葉がじんわりと、胸に広がって、染み込むみたいにすっと入ってく。
 心の傷口が、そっと撫でられて、ぽかぽかする。


 涙でにじんで歪んだ中でも分かる、強くて真っ直ぐな光。
 瞳の中に灯る、あたたかなあの光を、わたしは知っている。
 あの目を、わたしは知っている。


 あの瞳は。


 ▼ 243 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 21:50:17 ID:xxtQBaVo [46/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「──ユスラ! 死ぬな!」


「ユスラ! お前は、生きる! 生きていい! 生きられるんだ!」


「ひとりじゃないから! どんな時も、俺がついてるから!」


「生きられるんだよ! 諦めるな!」 


「どうか──自分を信じて! 自分を愛して!」
 


 ──サクラ!

 ▼ 244 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/16 21:52:38 ID:xxtQBaVo [47/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

今日はここまで。
そして、明日、完結予定です

どうぞよろしくお願いします
 ▼ 245 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 17:57:00 ID:F9RMRaqM [1/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○


 降り注いだ雷は、桜の木を直撃していた。
 幹はぱっくりと真っ二つに割れ、その裂け目から火の手が上がる。
 
 間一髪、救出に成功したものの、もう少し遅ければ木の間近にいたユスラの命はなかった。



「サクラ、ごめん、ごめんね」


 憔悴しきったユスラの顔面は涙と鼻水でぐしゃぐしゃで、土や埃にもまみれ、酷い有り様だった。

 でも、どうだっていい。
 生きててくれた、それだけでいい。


「よく、頑張った。もう、大丈夫だから。どんな時でも、俺だけは、絶対に、ユスラの味方だから」

 胸がいっぱいになって、俺の方まで泣けてきて。
 力いっぱい、ぎゅうっと、抱き締めていた。


 ▼ 246 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 18:02:16 ID:F9RMRaqM [2/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「サクラ、ママが……ママが──」

「ああ……。助けられなくて、すまなかった」

「わたしじゃないよ。あれは──」

「分かってる。あの男が……ユスラ、お前は悪くない」


 不安げに揺れるユスラの瞳を、まっすぐ見つめて。俺ははっきりと言い切る。
 迷いはない。
 この世界中でただひとり、他の誰よりもずっと、俺だけは、そのことを確信できるのだから。


「サクラ、怪我してる」

 俺の右腕に、ユスラの視線が注がれる。傷口が開いてきて、包帯が赤く染まっていた。

「わたしの、せい? ママは、わたしを守ろうとしてくれたの。わたしのせいで……」  

「──違う! ユスラのせいじゃない」

 喉が渇ききって、掠れた声。構わず、俺は言う。


 ▼ 247 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 18:07:20 ID:F9RMRaqM [3/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「俺はユスラを救いたいと思った。ただ、俺がやりたかったからやるんだ。お母さんも、きっと同じだ。──たとえ何があったって、最後までユスラの味方だし、最後までユスラを信じなきゃいけないんだ」

「どうして。どうしてそこまで、わたしなんか。こんな、危ない場所まで」


 嗚咽まじりの声だった。
 わたしなんか、なんて言わないでくれ。 

 理由は色々あるけれど、たくさんの言葉で語るよりも。
 俺は万感の思いを込めて、言葉を選ぶ。


「ユスラのことが大好きだから。大切だから。それじゃ、ダメか」


 ▼ 248 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 18:14:17 ID:F9RMRaqM [4/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「もう。サクラは、バカだなあ。ほんとに、もう──」

 泣きながら。
 涙に顔を歪めながら、ユスラが笑う。
 これだけ汚れていても、ユスラの笑顔はやっぱり可愛い。ユスラには、笑っていてほしい。  

 俺もニッコリと、出来る限りの笑顔を返した。



「でも、なんで、ここにいるって分かったの?」 

 ひとしきり泣いて、涙も収まった頃、息を整えながら、ユスラが尋ねる。


 今こそ、真実を話す時だ。
 
「ユスラのことなら何でも分かるさ──と、言いたいところだけど。思い出したんだ。全部。俺は──知ってたんだ。ユスラがここに来るってことも」

 ゆっくりと呼吸を整えて、告げる。


「なあ、ユスラ。俺は──未来から来たんだ」



 ▼ 249 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 18:19:53 ID:F9RMRaqM [5/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○
 

 たとえば。

 俺はたしかにこの町を知っているのに、町の住民が誰ひとり、俺と面識がなかったこと。
 流行したゲームをユスラが知らなかったこと。
 それから、俺の記憶するハナカゼタウンと、ところどころで町並みに食い違いがあったこと。 

 他にも、細々とした違和感がいくつか。


 単なる記憶違いかとも思ったが──違う。

 なぜ気付かなかったのか。
 もっと明快な答えがあった。

 俺がもといたのは、ここから何年も先の、未来の世界だったんだ。


 ▼ 250 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 18:23:36 ID:F9RMRaqM [6/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 住民は誰も俺に見覚えがない。当然だ、未来の人間である俺のことが分かるはずがない。無論、卒業アルバムにだって、載っていない。

 ユスラに『ゴーストウォッチング』の話が通じなかった時、俺は家にテレビがないのかと思った。
 しかし、昨晩泊めてもらったユスラの家で、俺は『テレビを見て』いる。くだらないお笑い番組を、見ている。

 テレビはあるのに、あの一大コンテンツを知らない。
 なにせ、まだこの世界に『ゴーストウォッチング』なるゲームは存在していないんだから。
 俺の方で、未来での記憶と認識がごっちゃになっていたわけだ。


 ▼ 251 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 18:28:24 ID:F9RMRaqM [7/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 時間が経てば、町並みだって変わる。

 俺にとって、この世界のハナカゼタウンは『過去のハナカゼタウン』だ。
 だから、『町自体のおおよその風景』には見覚えがあっても、『この頃の正確な町並み』までは記憶していなかった。


 そして。

「未来から……? どうやって、そんなことが」

「それは、論より証拠、百聞は一見に如かず、というやつだ」

 ユスラの当然の疑問。
 その答えを示すべく、俺は桜の木に視線を移す。
 雷に引き裂かれ燃え盛る桜は、今まさに焼け落ちようとしていた。  

 そろそろ、だろう?


 ▼ 252 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 18:36:00 ID:F9RMRaqM [8/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「あ……あ、燃えて……守り神さまが──」


 ユスラは、今まさに初めて、桜の木の炎に気づいたようだった。
 それぐらい、余裕がなかったのだ。無理からぬことだ。

「わたしの、せいで……?」

 俺はユスラの肩を抱く。少しでも、支えられるように。


「いや、違う。それに、あの桜はまだ死んでいない。まだ生きている。あの木は、あの木の守り神さまは、そんなヤワじゃない」

 それどころか。
 木が炎上するというピンチになって、その刺激を受けてようやく、あの寝ぼすけは目覚めるんだ。


 ▼ 253 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 18:41:45 ID:F9RMRaqM [9/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 あっ、と声があがる。


 業火に包まれた桜が、眩く、輝きを放っていた。
 淡い若草色を帯びた光が、火の手を掻き消すかのように、木の全身を包み込み、渦を巻く。
 その渦の中心から、生まれでるかのように、何かが跳ね出す。


 光をまとった、それはポケモンだった。


 久方ぶりの空への喜びを表しているのか。
 小さな身体で桜の周りを旋回し、舞い踊るように飛び回る。
 薄羽から弾け散る光の粒子が、星くずみたいに夜空を照らし出す。
 空気に、大地に、生命力が満ち満ちてゆく。

 夢を見ているような、幻想的な眺めだった。
 

 ▼ 254 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 18:45:46 ID:F9RMRaqM [10/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 

 それから。

 やがて、ゆっくりと俺たちの前に降り立った。
 目の前で、宙にふわふわと浮かび、触覚を微かに揺らしながら。
 じっと、大きく澄んだ瞳で、こちらを見つめている。まるで、何かを待つように。


「やっと会えたな。守り神さま」

「あのポケモンは、まさか──」


 驚愕に目を見開いて、恐怖にかたかたと震え、胸を抑え喘ぎながら。けれど夢見るような眼差しで。
 ユスラが、その名前を呟く。


 綺麗な森に棲むとされ、現れた森には草木が生い茂るという。
 時を越える力を持つ、幻のポケモン。



「──ときわたりポケモン、セレビィ」


 ▼ 255 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 18:50:18 ID:F9RMRaqM [11/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○


 知っている。
 俺はこのポケモンを知っている。 

 セレビィの持つ、ときわたりの力。
 その力で、俺は時間を移動し、この世界にやってきた。
 そして、本来出会うはずのなかったユスラと、時を越えた遭遇を果たしたのだ。

 セレビィがいたから。
 セレビィが、ユスラという人間を救おうとしてくれたから。
 セレビィが、そんなきまぐれを起こしてくれたから。


 そうだ、言わなきゃならないことがある。
 伝えたい思いがある。

 なあ、セレビィ、お前──。


 ▼ 256 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 18:55:57 ID:F9RMRaqM [12/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「──お前、乱暴すぎんだよ! もっと優しく飛ばせって、このズボラ野郎!」

 怒りが堰をきって溢れる。
 ユスラ、唖然。ちょっと待っててな。


 こいつだよ!

 俺が記憶なくす羽目になったのは、こいつがめんどくさがって雑な『ときわたり』させたせいだよ!

 俺が倒れてたところの地面が抉れてたのも、全部そのときの衝撃のせいだよ!
 ありえねえだろこいつ!?

 ▼ 257 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 18:57:50 ID:F9RMRaqM [13/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 俺の剣幕を前に──セレビィは両手を顔の前で合わせると、てへっとウインク。

 ダメだこいつ、全然反省してねえ。
 今のは、人間でいえば「メンゴメンゴ、許してちょんまげ」ぐらいの謝り方だ。

 舌出しても無駄だ。
 可愛いからって許されると思うなよ、ちくしょう。

 俺はそっとリュックに左手を忍ばせる。ごそごそ探って、『それ』をひっつかみ──


 ──思いっきり、ぶん投げる!

 ▼ 258 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 19:00:50 ID:F9RMRaqM [14/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「うおおぉぉーッ! くたばれええぇーッ!」


 至近距離から全力投球で放たれた、モンスターボール。
 壊れたボールではなく、最初からリュックに入っていた新品のものだ。

 そのボールは、狙い違わずセレビィの顔面にクリーンヒットを果たす。
 

「ビィエ〜ン!」

「ああっなんてことを!?」

 セレビィとユスラの悲鳴がこだまして。
 次の瞬間、横っ面にめり込んだボールから赤い閃光が迸る。光はセレビィを包み込むと、たちまちその体をボールの内へと収め。

 勢いのまま、数メートル先の地面に落下する。
 ボタン部分を点滅させ、左右に揺れ動きながら。


 ▼ 259 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 19:07:05 ID:F9RMRaqM [15/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 一回。
 二回。

 ボールが揺れ、しかしセレビィは飛び出してこない。


「ねえサクラ、まさか──」

 冷や汗を垂らしながらユスラが呟き。


 三回目。
 小さく揺れて、そして。
 

 カチリ。


 小気味良い音ともに、ボタン部分から白い火花が散る。
 ボールの揺れは完全に収まり、静止した状態で、大地に鎮座していた。


「うそでしょ」

 ユスラ、呆然。

 ▼ 260 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 19:12:21 ID:F9RMRaqM [16/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 それもそのはずだ。
 幻のポケモンというのは、単に珍しいというだけではない。その捕獲が極めて困難だからこそ幻なのだ。
 それが、こうもあっさりと。


 もちろん、実はマスターボールだったなんてオチはない。ハイパーボールでもスーパーボールですらもなく、タネも仕掛けもないごくごく普通のモンスターボールで。
 加えていえば、バトルで弱らせたわけでもなく、出会い頭に投げつけただけ。
 更についでに言うと、右腕は負傷して使えないので、慣れない左腕での投球。

 客観的に見て、奇跡的なレベルの捕獲だった。


 ▼ 261 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 19:17:29 ID:F9RMRaqM [17/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「セレビィ、ゲットだぜ!」

 快哉をあげ、ポーズをとって──は見たものの、正直、なんだかなあ。
 だってこいつ、たぶんわざと捕まったもんなあ。


 まあ、でも。
 なんだかんだ、このズボラできまぐれな守り神さまのおかげで救われたのは、たしかなんだから。
 俺だって、ちゃんと感謝はしているとも。


 ボールを拾い上げる。
 幻のポケモンセレビィを収めた、世にも珍しいモンスターボールがここにある。

 自分の為すべきことが、はっきり分かっていた。俺の記憶が、道しるべとなって進む道を照らし出している。


 ──今度は俺の番、そうだろう?

 ボールの中のセレビィが、小さく頷いた気がした。


 ▼ 262 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 19:30:45 ID:F9RMRaqM [18/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 荒野に座り込む。

 ボールを足で挟み込んで、固定して。
 ポケットから、ペンを取り出す。病室からかっぱらってきたものだ。


 ボールの白い面、その底に、文字を刻みこむ。

 左手で字を書くのは初めてだったから、バランスの崩れたへなへなした字になってしまったが、まあ読めるし別にいいだろ。


「ほれ、ユスラ、このボールを差し上げよう。ボールに入ったままなら、怖くないだろ」

 ぽーん、と軽く放ったボール。
 え、え? と困惑の声をあげつつも、ユスラがキャッチ。

 ▼ 263 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 19:38:05 ID:F9RMRaqM [19/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「たしかにこれなら大丈夫だけど……えっ、守り神さまだよ?」

「大丈夫、そいつは多少ぞんざいに扱うぐらいでいい。ボールからは出さなくてもいいし、もし、怖さが薄れてきたら、その時は出してやればいい」

 遠慮なく、練習台にしてやれ。
 と、そこで思いつく。


「そうだ、誕生日プレゼントってことにしよう」

 時計がないから正確には分からないが、おそらくそろそろ0時を回った頃だろう。

「ハッピーバースデイ、ユスラ。10歳、おめでとう」 

「そっか、もう10歳なんだ、わたし。……ありがとう、サクラ」

 しみじみと呟いて。
 微笑む。

 ▼ 264 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 19:48:46 ID:F9RMRaqM [20/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「あれ? 何これ」

 ボールをくるくる回して見ていたユスラが、底に記された文字に気がつく。

「WYだ。これ、なんだったの?」

「そうだなあ。俺たちが出会えたことの証、かな」


「Yはわたしのイニシャル? じゃあサクラは──そっか、本当の名前、思い出したんだよね。なんていうの?」

「ああ、俺の名前は──」

 告げようとして、遮られる。

 
 光が。

 眩しいぐらい強い、光が。視界のすべてを埋め尽くす。


 どこから。何が光を放っている?

 ▼ 265 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:00:59 ID:F9RMRaqM [21/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 いくばくかの間、頭を悩ませて。
 ユスラの悲痛な顔が目に入った瞬間、気づく。

 そうか、『そうだった』。


 俺だ。
 俺の体が光を放っているんだ。

 手からも、腕も、胴体も、足も、きっと頭からも。
 光の粒子が生まれては消えて、明滅を繰り返す。


「サクラ──ねえ、サクラ、何それ」

 恐ろしいものを見るように、ユスラが言う。
 きっと気づいていて。
 俺が否定してくれることを、願っている。


 ▼ 266 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:10:11 ID:F9RMRaqM [22/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「守り神さまが甦って、俺の記憶も戻って──俺の役割が終わったってことだと思う。未来へ、戻らなきゃいけない」

「──なんで」

 ユスラが、くしゃくしゃに泣き崩れる。


「なんで! いなくならないでよ! ママがいなくなって、サクラまでいなくなったら、わたし、本当にひとりになっちゃう」


「ねえ! わたし、もっと、サクラと話したい! もっと、聞きたいことがあるの!」 


「まだ、いっしょにサンドイッチも食べてない! もっといっしょにいてよ!」


「──わたしを、助けてよ!」



 ▼ 267 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:13:25 ID:F9RMRaqM [23/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 心臓のど真ん中を貫く、電撃のような鼓動。
 血管を駆け巡り、全身へと、激震が波及してゆく。


 そうだ。
 まだ俺は、ユスラを救えていない。


 これからも、ユスラは苦しみ続けることになる。
 ポケモンへの恐怖、誰もいない家、町での孤独感。 

 そんな現実の中で、ユスラは生きていかなければならない。
 このどうにもならない現実に、ユスラをひとり、取り残さなければならない。


 俺だって、もっと、ここでユスラの力になりたい。
 でも、もう、時間がない。
 ときわたりの魔法は、夜中の12時でもう終わりなんだ。

 胸が張り裂けそうになる。
 だけど、それでも。


 ▼ 268 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:14:46 ID:F9RMRaqM [24/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「どんなに遠く、離ればなれだって。それでも、俺はユスラの味方だから! 他の誰よりも、一番そばについてる!」
 

 光の奔流が渦を巻く。甲高い音が鳴り響く。
 負けないよう、聞こえるよう、喉が涸れ果てても、叫ぶ。

 言うべき言葉、伝えたい言葉。
 用意していたわけじゃないのに、とめどなく次々と口をつく。
 きっと俺の奥深いところに根差す言葉。口先だけじゃない、心の底から放たれる言葉たち。

 ▼ 269 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:15:57 ID:F9RMRaqM [25/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「ずっと苦しくて、終わりがなくて、それこそ荒野みたいな辛い人生だけど、それでも!」


「その先に、俺はいるから! ユスラが生きて生きて生き抜いた先の未来は、俺のいるところに、たしかに地続きで繋がってるから!」


「大丈夫! ユスラはきっと、ここまで来れる! 俺が保証するから!」


「そして、いつか、同じようにひとりで苦しんでる人がいたら! 死んだっていいなんて思ってる人がいたら!」


「その時は、今度はユスラの番だ! ユスラが、手を差し伸べる番だ!」


「ユスラならできる! 誰よりも、その気持ちを知っているから!」


 ▼ 270 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:17:22 ID:F9RMRaqM [26/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 光が激しさを増して。
 渦巻く音は、もう自分の声さえ聞こえないぐらい、大きくなって。

 それでも、叫び続ける。
 届け、届けと祈って。
 どうか、ユスラの力になってくれと願って。 


「15年後の未来で、俺は待ってる!」


「俺たちは、必ず、また会えるから! 俺のいる未来まで会いに来て! どうか、ここまで辿り着いて!」


「自分を信じて! 自分を愛して!」



「どうか──幸せになって!」 



 ▼ 271 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:18:40 ID:F9RMRaqM [27/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 もう、目も開けていられない。
 意識が霞む。感覚が、この世界から消えていく。

 届け、届け!


 






「──ユスラ!!」

「俺の名前は──ユスラ!」


 ▼ 272 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:22:04 ID:F9RMRaqM [28/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ──ありがとう。



 微かに耳に残った、最後のあの声は。
 俺のものか、わたしのものか。


 薄れて、ぼやけて、ほどけて、途切れた。



 ▼ 273 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:23:30 ID:F9RMRaqM [29/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○


──ここはどこだろうか?

肌寒い感覚が意識を浮上させる

草木に覆われた地面、無造作に投げ捨てられたもう使えないであろうモンスターボール……

どれも全て、『見覚えがあった』

──自分は誰なのか?どうしてここにいる?

必死にもがいてその答えを探し、遂に思い出して

記憶の糸を辿った果てに、俺は、ここへ帰ってきた


ふと、辺りの気配を探る 

緑溢れる景色の中で存在感を示す、桜の木

そのそばに、俺は倒れていた──


 ▼ 274 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:29:52 ID:F9RMRaqM [30/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ○


 仰向けのまま、ゆっくりと視線を動かす。

 右腕には、傷1つなかった。
 あれほど痛んだのが嘘みたいに、血まみれの包帯すらも、綺麗さっぱりと消え失せていた。


 ──俺が見たものは、夢?

 違う。
 俺はたしかにあの町で、ユスラと出会った。ユスラを救おうと、駆けずり回った。

 ユスラ。
 15年前の、俺。
 幼き日の、俺自身。


 ▼ 275 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:33:19 ID:F9RMRaqM [31/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 今回サクラとして過ごしたあの2日間。
 15年前は、俺がユスラの側だった。


 荒野に惑い、立ち尽くして、ひとりで泣いていた。
 うちひしがれて震えていた。

 出口の見えない真っ暗闇で、手を差し伸べてくれた人がいた。
 誰かが、俺に光を見せてくれた。


 15年前のあの冬の日、たしかに俺は心を救われた。
 今度は俺が、救う番だったんだ。

 ▼ 276 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:36:50 ID:F9RMRaqM [32/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 俺こそが、ユスラ。


 記憶を取り戻したあの瞬間まで、そんなことは考えもしなかったけれど。
 思えばそれらしき符合は、あった。
 
 たとえば味の好みが同じこと。髪の色が同じこと。
 ユスラは母のグミと顔があまり似ていない、ということは父親の方に似ているわけで、俺とワドッカツが似ているのは当然のこと。

 それにもちろん、俺の性別が女であることは『最低限の土台』として覚えていたから、最初から明白なことだった。
 もし俺が女じゃなかったら、ユスラもお母さんも、あそこまで気を許してはくれなかったろう。


 ▼ 277 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:39:05 ID:F9RMRaqM [33/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 それから、ときおり胸の深くから溢れだした、叫び。
 覚えておらずとも込み上げてくる、ユスラへの共感。
 あれは、ユスラの境遇のすべては俺自身が辿った道だったからだ。

 だから、あれほどまでに。

 放っておけなかったし、救いたかった。
 他の誰よりも、ユスラの苦しみを知っていたから。


 ▼ 278 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:45:19 ID:F9RMRaqM [34/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 未来と過去の俺自身が出会うだなんて。普通じゃ、到底ありえないこと。

 だからだろうか、歴史の修正力というやつなのかは知らないが。
 今回のセレビィのミスでの記憶喪失とは関係なく、俺はあの2日間の記憶をいつしか忘れてしまっていた。
 15年前の世界ですべてを思い出したあの時まで、俺は『サクラ』のことを覚えていなかった。


 でも、たしかに『何かがあった』ことは覚えていて。
 10歳の誕生日を境に、少しだけ、勇気が持てるようになった。自分はひとりじゃないと、不思議と心強く思えた。


 それから、『俺』という一人称を使い始めたのもこの頃だ。
 
 周りの男どもに負けない強さを、とか。自分に自信を持てるように、とか。
 そんな理由だと思っていたけど、本当の、一番の理由は。

 未来の自分自身の姿に憧れて、使い始めたんだ。


 ▼ 279 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:49:23 ID:F9RMRaqM [35/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 『ユスラ』の視点で見た記憶が蘇る。
 あの、強い光を宿した瞳。わたしを救ってくれた瞳に、あんな目になりたいと願った。

 わたしは、なれたんだ。憧れたあの瞳に。


 『サクラ』の視点での記憶がよぎる。
 あの、暗く沈んだ瞳の少女が。
 よくぞ、ここまで。
 よく、ここまで辿り着いてくれた。


 たまらなくなって、自分の体を抱き締める。
 ぽろぽろと、堪えようもなく涙がこぼれて。

 顔も名前も忘れ去ってしまっても、それでも、荒野で見つけたあの光を追い続けて。
 わたしは。


 また、会えた。


 ▼ 280 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:54:44 ID:F9RMRaqM [36/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 

 ──ただ、ちょっと不満なところもあって。
 
 これってなんかナルシストっぽくないか。
 過去の自分に対しても可愛い可愛い言いまくってたし。

 あれは、たぶん「自分を愛して」っていうサクラの言葉を胸に刻んじゃったせいだろうなあ。
 そういう意味じゃなかったんだが、変なところで抜けてやがる。
 
 でも、それが俺なんだって、そう思う。
 ちょっと間抜けというかお茶目なところもあるのが、俺であり、ユスラという人間なんだ。
 こんなところだって、ぜんぶひっくるめて、俺は好きでいられるから。


 ▼ 281 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:58:46 ID:F9RMRaqM [37/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 

 それに、その言葉が伝わっていたのならば。
 どうかユスラに届けと願った言葉たちは、たしかに通じていたということで。


 ああ。

 胸に手を当てれば、そこにたしかに息づいているのが分かる。
 自分で言ったから、だけじゃない。大切な人から贈られた、大切な言葉が、そこに。
 心臓の鼓動の奥深く、俺の一番芯の部分に脈打つエールが。
 

 ▼ 282 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:01:28 ID:F9RMRaqM [38/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 贈られた、といえば。
 俺は、壊れたモンスターボールに目をやる。

 タイムスリップした直後には壊れていたボール。
 このボールこそが、サクラがユスラへ託したあのボール。
 ここに、セレビィが入っていたのだ。


 底に刻まれた、WYという下手くそな二文字。
 ふたりのユスラだから、ダブルY。

 ユスラとサクラのあの出会いが、夢でも幻でもなく、たしかにあった証。


 ▼ 283 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:08:03 ID:F9RMRaqM [39/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 この15年間、ずっとこのボールと共にいた。
 辛いとき、どうしようもなく心細いとき。このボールに触れれば、自然と心が軽くなって、前を向けた。


 ずっと自分が嫌いだった。自分なんか生まれてきてはいけなかったと。いつ死んだって、別にいいと。
 でも違った。
 大好きで、憧れたあの人が、他ならぬ自分自身だというなら。


 たとえ覚えていなくたって。
 未来の自分自身が、保証してくれたのだ。ここまで来れると。こんな大人になれるんだと。

 なら、それ以上に頼もしいことがあるだろうか。
 これ以上、信じられる言葉があるだろうか。

 こんなにも、自分を好きになれる、自分を誇れる拠り所が、他にあるだろうか。


 ▼ 284 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:14:37 ID:F9RMRaqM [40/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ボール越しのセレビィに少しずつ、少しずつ、慣れていって。
 ほんのわずかな時間だけ、ボールから出せるようになって。
 本当に少しずつ、少しずつ。前に進んで。

 完全に克服するまで、15年もの年月がかかった。


 15年。
 長かった。ほんとうに、終わりが見えなかった。
 それでも、歩み続けて。

 これでようやく。
 ようやくだ。
 俺は、ポケモンを恐れずに済むようになった。


 俺は、もう、大丈夫。


 ▼ 285 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:20:06 ID:F9RMRaqM [41/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 それはつまり、セレビィが『俺の番』での役割を終えたということ。俺が救う番が来たということ。
 だからこそ、今だった。

 俺は何かに誘われるように、この森へ足を運んだ。
 ここまで来たとき、ボールが砕け、セレビィが解き放たれて。
 そしてセレビィは俺を15年前の過去へと送り込んだ。
 次の順番へと、『わたし』へと託すために。


 俺は、ぎゅっと、ボールを抱き締める。

 ──サクラ。ほんとうに、一番近くに、ずっといたんだね。

 他の誰より、わたしのそばに俺がいた。
 支えられて、救われて、ここにいる。
 いま、ここにいる。


 ▼ 286 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:24:06 ID:F9RMRaqM [42/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 そして、今日。
 15年後の1月31日、俺の25歳の誕生日。


 俺は体を起こす。
 下草は朝露に濡れ、湿り気を含んだ地面が俺の体重を優しく受け止める。
 どこからか、野生ポケモンの楽しそうな鳴き声が聞こえた。
 鳥ポケモンのさえずりもする。
 
 木漏れ日が俺に注ぐ。
 柔らかな、若草色の明かり。
 風が吹けば、爽やかな空気がそこに流れている。
 若い樹木の香りを運び、そっと頬を撫でる。


 この場所は。
 この活気溢れる森こそが、あのイカズチ荒野。

 ▼ 287 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:29:15 ID:F9RMRaqM [43/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 セレビィの復活で溢れだした精気が、土地に命の息吹を吹き込んだ。
 普通じゃ信じられないスピードで、木々や草花が芽吹き、生長して。
 たった15年で、森はここまで生き返ったのだ。


 そして。
 あの桜が、花を咲かせていた。
 
 満開だ。
 淡い紅色の花を、目一杯、枝につけて。


 雷で真っ二つに裂け、焼け落ちたこの桜は、それでも潰えることなく、生きて。
 生きて生きて、生き抜いて。

 今年、とうとう花をつけた。
  
 ▼ 288 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:30:42 ID:F9RMRaqM [44/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
  

 もう、雷に怯えることはない。
 乾いた土地は生命力で満たされ、生き返った。
 もう、荒野じゃない。

 長く苦しくて、終わりのないようだった荒野は。
 荒野はもう、終わったんだ。
 

 荒野の先で。
 俺は、生きている。生きて、ここまで来た。

 わたしも、生き返れた。甦れた。


 咲き誇る桜を見上げ、胸の内で何度も繰り返す。
 ありがとう。ありがとう。と。


 ▼ 289 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:32:00 ID:F9RMRaqM [45/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 
 ふわり。

 花風がそよぎ、ひとひらの桜を散らす。
 舞い降りるように、俺をやわらかく包み込んで。

 桜がやさしく香る。

 冬の冷たい風のはずなのに、なぜだか、ほのかな温もりが心を撫でて。
 胸がとくんと高鳴る。
 心地よい日差しの中で、あの日のふたりの笑いあう声が聞こえる気がした。    



 ▼ 290 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:33:21 ID:F9RMRaqM [46/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 

 ぴとり、と。
 桜の花びらが、寄り添うように肩に触れる。

 大丈夫。
 俺はひとりじゃないから。
 
 今なら、きっとどんなことだって怖くない。


 ユスラは。
 サクラは。
 俺は。
 わたしは。

 いま、幸せです。









 fin

 ▼ 291 lX0nF9ikQo 19/03/17 21:37:27 ID:F9RMRaqM [47/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 最後まで読んでくださった方、支援してくださった方、本当にありがとうございました。
 
 なにかひとつでも、読んで印象に残ることがあったなら幸せです
 ▼ 292 ッチャラ◆kjCx/BzBlg 19/03/17 21:37:48 ID:mXx6SwOs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
すごく良かったです!
乙です
 ▼ 293 リーパー@やわらかいすな 19/03/17 21:53:25 ID:iem6kbi2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
おつ!
 ▼ 294 SS主催者◆nkH/UxNEwQ 19/03/21 20:13:44 ID:vOkEFhrQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
本企画唯一の倒れていたのが人間だったSSでしょうか
冒頭では桜の木に生気がなく、ユスラにもどこか抜けたものがある
そんなに廃れた世界なのかな? なんて想像もしてみましたが……
ユスラの深い闇や主人公が徐々に記憶を取り戻していくその様は読んでいてこの先の展開がわからず、どうなるのかあれこれ考えてみたりしてましたね
サクラのチグハグな記憶、サクラがユスラが唯一心を開いた人間
記憶喪失の原因であると思われる桜の木に深く関わる守り神
ポケモンに恐怖する謎の少女
彼女の暗い過去は悲しいものだったと思います
主人公の正体はまさかの人物でしたね
ドキドキ、ワクワク、ハラハラするような読んでいてとても楽しいSSでした
長編SSなので感想も長めですね
お疲れ様でした!
 ▼ 295 ッコアラ@パワーウエイト 19/03/22 07:24:33 ID:eAlAXcgg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>294
感想ありがとうございます!

そういえばこれだけなんですね、人間なのは

倒れてるのが誰だったら一番面白いのかな、というところが発想のスタートだったのですが、
そのせいもあってなかなかポケモンが登場せず、原作の人キャラや舞台も登場しないのでやや異色寄りだったのかなとは思います

それでもポケモンssとして書く以上は、ポケモン世界だからこそ、という要素を軸に書けたつもりなので僕は満足です

企画運営お疲れ様でした!
このページは検索エンジン向けの機能制限版の旧ページです。
下URLから閲覧下さい。
https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=957132
  ▲  |  全表示295   | << 前100 | 次  |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |  ▲      
                  スレ一覧                  
荒らしや削除されたレスには反応しないでください。
書込エラーが毎回起きる方はこちらからID発行申請をお願いします。(リンク先は初回訪問云々ありますがこの部分は無視して下さい)

. 書き込み前に、利用規約を確認して下さい。
レス番のリンクをクリックで返信が出来ます。
その他にも色々な機能があるので詳しくは、掲示板の機能を確認して下さい。
荒らしや煽りはスルーして下さい。荒らしに反応している人も荒らし同様対処します。




面白いスレはネタ投稿お願いします!

(消えた画像の復旧依頼は、お問い合わせからお願いします。)
スレ名とURLをコピー(クリックした時点でコピーされます。)
新着レス▼