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SS

【SS】届かぬ手

 ▼ 1 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:30:25 ID:kr.my5lM [1/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「えー、この案件に関することなんだけど、取引先の社員の方と合同でやってもらうことになったから」


「はい、了解です」


「うん、頼んだよ」


「任せてください」


「それでは行ってきます」


ヒールの甲高い音が社内の廊下に響く。
この会社で社員として働くヒカリは、取引先の社員に挨拶をするため会議室へと足を運んだ。
 ▼ 2 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:31:24 ID:kr.my5lM [2/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「失礼します」


相手方の社員はもう既に来ているようだ。慌てて頭を下げ、早歩きでテーブルの方へと向かう。


「初めまして、株式会社ポケロンのヒカリと申します」


「初め、まして……?」


「えっ」


取引先の社員は何やら怪訝な顔。何かミスをしていたのかと頭の中を整理する。
 ▼ 3 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:32:04 ID:kr.my5lM [3/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「あっ、すみません! 名刺名刺……」


「私株式会社ポケロンのヒカリと申します」


「あっ、はい……」


「あの、僕」


「ポケムンカンパニーの、ケンゴと……申します」


「えっ」


「えっ」



「……」



「ええーっ!!!」
 ▼ 4 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:32:42 ID:kr.my5lM [4/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「やっぱり……ピカリじゃん」


“ピカリ”それは昔のヒカリのあだ名。
そのあだ名を聞き、やはりそうだ、とヒカリは相手の顔を指さした。


「ケンゴ! あなた……」


「久しぶり、だね。ヒカリ」


「……やっぱり、ケンゴ!」


ケンゴはヒカリの幼馴染。
同い年、出身も同じ、夢だって同じだった。
幼少期はずーっと隣にいた、大事な大事な親友。


……だと思っていたのだが、ある日ケンゴからの告白を受けたのだ。
断ったものの、それからは“男の子”と認識することができた。


お互いコーディネーターを引退してから10年、今年25歳。
久々の再会だった。
 ▼ 5 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:33:20 ID:kr.my5lM [5/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

――――――――――――――――――――――――


「へえ〜、今は営業の仕事をしてるのね」


「ああ、そうなんだ。コーディネーターとして活動してたから、顔で分かってくれる人も多いんだ」


「それって良いわね! あー、あたしも営業の方に回ろっかな」


「それもいいんじゃないかな」


仕事終わりの21時、たわいもない会話をしながら歩く2人。
お腹も空く時間帯、目の前には洒落たレストラン。


「どうする?」


「あたしここで食べたいな! ケンゴも一緒に入ろうよ」


「しょうがないなあ」
 ▼ 6 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:33:48 ID:kr.my5lM [6/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

2人はカウンター席に腰掛け、バーテンダー風の衣装の店員を呼んだ。まだまだ新米の両者には痛い出費だが、偶然の再会だ。惜しむことなく食べたいものや飲みたいものを選んだ。


「それじゃ」


「乾杯」


ワイングラスを交わし、濃厚な味わいの液体を口へと運ぶ。


「美味しい! あたし久しぶりにワイン飲んだかも」


「俺もだよ」


「……“俺?”」
 ▼ 7 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:34:19 ID:kr.my5lM [7/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「あっ、一人称変えようと思ってさ。まだまだ癖が抜けなくて僕って言っちゃう時もあるけど」


「へえ……意外」


「そうかな、そんなに僕のイメージ強い?」


「強いよー。髪型まで変わっちゃって、なんだか別の人になっちゃった感じ」


「別の人、か」


この時ケンゴは胸にチクリとした痛みを覚えた。
なぜだか分からないが、少し苦しい。


思わずパスタを巻き上げたフォークが止まる。
 ▼ 8 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:34:46 ID:kr.my5lM [8/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「……ケンゴ? 大丈夫?」


「あ、ああ……大丈夫大丈夫」


「さ、今日は金曜日だしたくさん飲みましょ! ハシゴもしたいなあ」


ヒカリはワイングラスを一気に空にし、同時に次のボトルを頼んだ。


「すいませーん、同じのくださーい!」


「……こりゃ大変なことになりそうだな」
 ▼ 9 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:35:36 ID:kr.my5lM [9/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

――――――――――――――――――――――――

ケンゴの予感は正しかった。


「あ〜……ケンゴォ……次行こーよー」


「ちょ、もう無理だって」


「やだぁー、飲むの」


「はあ、参ったなあ」


あれから3時間、ヒカリに連れられ居酒屋を2軒ハシゴ。
自身はあまり飲まなかったのに比べ、ヒカリは次々とコップを空にし続けた。
数えていないが、おそらく軽くジョッキ7杯は飲んだであろう。
 ▼ 10 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:36:16 ID:kr.my5lM [10/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「お前、酒に強いタイプじゃないだろ」


「強いもーん、あたしぃ強い! もっとのめるー」


「ヒカリ、前から自転車来てるって……」


フラフラとした足取りで歩くヒカリを支えながら、ケンゴはようやく最寄りの駅までたどり着く。
しかし――


「終電……乗り遅れたか」


「しゅーでん?」


顔を赤くした彼女は首を傾げながら復唱する。
 ▼ 11 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:36:50 ID:kr.my5lM [11/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「タクシー呼ばなきゃ帰れないぞ、これ」


「ならあたしに良い方法があるわ!」


「なんだよ、はりきっちゃって……」


「良いからついてきて! だいじょーぶだいじょーぶー」


「待てって、危ないだろ……!」


カバンを振り回し歩くヒカリの右手を取り、連れられたのはビジネスホテル。
 ▼ 12 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:37:27 ID:kr.my5lM [12/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「今日1日くらい泊まっちゃってもだいじょーぶー。明日休みだし」


「ちょ、勝手に決めんなっ」


「あ、すみませえん受付をぉ……ぐぅ」


「はあ……大事なところで寝ちゃって」


「あ、2名一室……宿泊で」
 ▼ 13 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:38:10 ID:kr.my5lM [13/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

寝てしまったヒカリを抱きかかえ、ホテルの一室のカギを開け中へと入る。
値段の割にそこそこ良い部屋だ。窓の外からはコトブキのビルが一望できる。


……なんてことを考えてるヒマはない。
早くヒカリを寝かしつけないと。


「……これでよし」


ポンポンと優しく背中を叩き、布団をかける。
今までも見てきたヒカリの寝顔。
でも大人になってから見るのは初めてだった。
薄紅色の唇にコーラルピンクの頬。
見るだけでこちらまで酔ってしまいそうだ。


「俺も寝るか……」


スーツのジャケットを脱ぎ、洗面場へ足を運ぼうとしたその瞬間――


「……ケンゴ」
 ▼ 14 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:38:36 ID:kr.my5lM [14/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「……!」


耳元に囁かれた自分の名前。
驚き後ろを振り向くと、寝ていたはずのヒカリ。


「ケンゴ……」


「な、な、なに、ヒカリ」


「あたし……寂しいの」


「ちょ、ヒカ……」


抵抗することも出来ず、ただヒカリの意識のままに振り回されるケンゴ。
ヒカリはケンゴの首に手を回し、こう言った。
 ▼ 15 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:39:08 ID:kr.my5lM [15/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「ケンゴと……したいな」


その瞬間、彼の理性は吹き飛んだ。


「ヒカリが……悪いんだからな」


彼の首を回したままのヒカリをベッドに押し倒す。
そして――


「……めちゃくちゃにして」


「んっ……」


熱く、深い口付け――。
 ▼ 16 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:39:37 ID:kr.my5lM [16/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

――――――――――――――――――――――――


「ムックルー!ムックー!」


「……」


「ううん……」


ムックルの鳴き声に耳を弄られ、ヒカリが目を覚ましたのはふかふかの布団の上。
いつものとはどこか違うベッド……


「えっ……」


恐る恐る自分の体を触る。
 ▼ 17 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:40:11 ID:kr.my5lM [17/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「ない、ない、ない……!」


「う、うそでしょ……!」


驚くのも無理はない。
肌着の何一つも身につけていなかったのだから。


「あ、おはよう……ヒカリ」


「ケンゴ?」


「ああ、昨夜は……」


「えっ……あたし、ケンゴと……?」


傍に目を落とすと、使用済みのコンドーム。
それを拾い上げると、一足先に起きていたのか、ワイシャツのボタンを留めているケンゴは苦笑いで答えた。
 ▼ 18 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:40:48 ID:kr.my5lM [18/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「……随分酔ってたみたいだね」


「ヒカリが誘ってきたんだからな? ……でもごめん、抑えきれなくて」


「ごめん、レストランで食事を取ってからの記憶が全くないの」


「自分でも恥ずかしい……ああ」


「ヒカリ」


不意に名前を呼ばれ、きょとんとした顔でケンゴをみる。
 ▼ 19 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:41:37 ID:kr.my5lM [19/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「……可愛かったよ、とても」


「なっ……!!!」


自分の体が真っ赤に染まっていくのがわかる。
頬は1秒もしないうちに火照り、思わず手で抑えた。

ケンゴはそんな反応を見せるヒカリの頬に冷たいペットボトルをあてる。


「つめたーあっ!」


「ヘヘッ、何照れてんだよ」


「もー、いじわる」


「……そうだ」


「もー、なによー」
 ▼ 20 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:42:04 ID:kr.my5lM [20/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「俺たち……良かったら付き合わない?」


「えっ……」


突然の告白。
思わず硬直するヒカリの横で、ケンゴは続けた。


「その……ずっと、好きだった……からさ」


「どうかな? 昔の俺とは別人みたいだって言ってくれたし」


「……」
 ▼ 21 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:42:34 ID:kr.my5lM [21/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

驚いた様子のヒカリだったが、すぐに笑顔になり


「……もう、終わった恋でしょ?」


と優しく告げた。


「そうだよな、もうフラれてたもんな、アハハ」


ケンゴはほんのりと微笑み、頭をかく動作をした。
それが何を意味したのかは、ヒカリには分からない。



「もう、ケンゴも男の子じゃなくて男の人なんだなあ」


「そりゃそうだろ。今何歳だと思ってるんだ」


「フフ」
 ▼ 22 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:43:08 ID:kr.my5lM [22/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「ケンゴもあたしも、新しい場所で、新しい人と……出会えたらいいね」


「……そうだな」


「あたしから誘っておいてアレなんだけど、昨晩のことは無かったことにしましょ」


「……うん」


「ほんと、ごめん……あっ、電話!」
 ▼ 23 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:43:35 ID:kr.my5lM [23/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「もしもし、はい……えっ、今からですか! 分かりました、今すぐ向かいます!」


「あーあ、仕事入っちゃった! ごめん、あたし先にホテル出る!」


「……そうか」


「あー、寝癖やっばーい! だいじょばないー!!!」


「……」


「やっぱり」


ケンゴはクス、と笑いながら小さく意味深に呟いた。
 ▼ 24 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:44:27 ID:kr.my5lM [24/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

――――――――――――――――――――――――

あれから十数年。

ケンゴもヒカリも別々の異性と恋愛、結婚し平和な生活を送っていた。
そして、それぞれの家族が交わる日がついに訪れる――


「パパ、かたぐるましてー」


「おっ、まかせとけって」


“パパ”と呼ばれた赤茶色の髪の男、ケンゴはよく似た赤茶色の髪の子供を肩の上に乗せた。
隣にはその光景を微笑ましく見つめるケンゴと同年代の女性。


そう、紛れも無くこの3人は“家族”である。
 ▼ 25 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:45:05 ID:kr.my5lM [25/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「パパー、ぼくあれ乗りたい!」


「おっ、メリーゴーランドか。いいぞ、乗ってこい」


「やったー!」


子供を遊具へと向かわせ、チケットをポケットから出していた次の瞬間――


ドンッ!


「うわっ!」

「おおっ!」



「うええええーん! ママー! パパー!」


「あっ、ごめんねお嬢さん」
 ▼ 26 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:45:40 ID:kr.my5lM [26/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「ああっ、大丈夫ー!?」


「……!」

こちらへ掛けてくるこの子の母親らしき人物。
その人物には見覚えがあった。

青い髪の、僕の――


「あっ! 良かったー! もう、走っていっちゃダメって言ったでしょ!」


「ごめんなさあい……」


「すみません、いきなりぶつか」


「……あっ」
 ▼ 27 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:46:14 ID:kr.my5lM [27/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「ケンゴ……」


十数年ぶりの再会。
胸がドキンと大きく揺れる。


「あっ、ママー! 大丈夫かい?」


彼女の口癖を口にしながら走ってくる黒色の髪の男。
ヒカリはこの男をパパと呼んでいた。


「うん、大丈夫大丈夫ー!」


「そうか、じゃあ帰るか」


「うん!」
 ▼ 28 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:46:40 ID:kr.my5lM [28/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

その男と同じ黒い髪をした女の子は、父親に手を繋がれ向こう側へと歩いていった。

その子の母親であるヒカリも、後を追うように歩いて行く。
しかし途中で振り返り、


「ケンゴー!」

と大きく叫んだ。


そして満面の笑みを見せると、「また会おうねーっ!」と叫び、手を振りながら走っていった。


「……!」


「おう! またなー!」


ケンゴもまた手を振り返す。


あの三人家族が見えなくなるまで、ずっと。
 ▼ 29 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:47:47 ID:kr.my5lM [29/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「……パ」


「パパ!」


「……あ、ママ」


「さっきの人、お友達? 息子と同い年くらいの子供連れてたわね」


「……うん。俺の」



頭の中で「初恋」の言葉を飲み込み、ようやく出てきた言葉は――





「大事な幼馴染だよ」




-end-
 ▼ 30 リアどす◆CZJwmh/vfc 16/11/10 21:48:54 ID:kr.my5lM [30/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
これにて完結です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

そして、今まで作品をご覧になってくださりありがとうございました。
 ▼ 31 ガエルレイド@アクアカセット 16/11/10 21:58:15 ID:qvZOFn6Q NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ノーマルケンゴSS初めて見た
 ▼ 32 ッポ@しんかいのキバ 16/11/10 22:07:34 ID:.oP8kjYg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
せつねええええぇぇぇぇぇ!!!!!

とても良かった
乙ンゴケンゴ
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下URLから閲覧下さい。
https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=437897
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