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【暑い日ss】クチート「祭りだ!」

 ▼ 1 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 12:53:29 ID:XgvsVB2I [1/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
クチート「暑い……」

今夏一番の暑い日だった

昼になって赤道直下となった地表はじりじりと日に焼き付けられる

男「まだ昼だからな……」

人もポケモンもそろって暑さによろめき

涼しさを求めていた

クチート「ご主人……暑いぞ……」

風もそよがず、風鈴も口をつぐむ

ただただ気怠い暑さがどんよりとした時間を運んでいくだけだった

男「そうだな……。扇風機とエアコンが無事でいてくれればこんなことには……」

姿の見えないのポケモンの鳴き声がジージーと聞こえてくる

周りで起こることすべてが暑さを際立たせているようだった

クチート「こんな所にずっといたら蒸し焼きになって死んでしまう……」

のんびりと言うには遅すぎる速度で時間が進む

じっとりと……それはもうべっとりと暑さがまとわりついてきた
 ▼ 9 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 15:35:44 ID:XgvsVB2I [2/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
――――

男「けっこう近くでやってたんだな……去年より大きくなったのか……?」

男は一人ざわめきの中で佇んでいた

男「しかしあのニャオニクス……何者だ……?お祭りの妖精か何かか……?」

クチート「おーい!ごしゅじーん!お待たせー」

男「お帰り。おお……」

クチート「へへ、どうだ?似合うか?」

クチートがが水色に花びらをあしらった浴衣姿で現れた

男「おう、似合う似合う。いいんじゃないか?」

クチート「本当か?!ありがとう!ニャオニクスも!」

ニャオニクス「おう!朝飯前よ!」

男「本当にいいのか?こんな浴衣借りちまって」

ニャオニクス「あたぼうよ!祭りのことならなんでもござれでい!」

男「お金は?」

ニャオニクス「いらん!アンタらが祭りを存分に楽しむためだからな!」

男「そうか……どうもありがとう」

クチート「よしご主人!さっそく行こう!」
 ▼ 10 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 15:37:04 ID:XgvsVB2I [3/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
ニャオニクス「その意気やよし!……と言いたいところだが、祭りにはちゃんと入口がある。そこを探すぞ」

クチート「入口!」

男「そうだな……急にこんなに人通りの多い場所に出たらすぐに波に飲まれちまう」

祭りは一行の目の前より路地を網目状に貼り巡って行われている

屋台と屋台の隙間に続く細い脇道の出口から見える光景はひたすら人の波が右往左往しているものだった

クチート「入口か、どこにあるんだ?」

ニャオニクス「なあに、少し行けばあるさ」

一行は通りに沿って歩いて行った

祭りからは色々な音や香りが漂ってくる

クチート「これは……なんとも香ばしくていい匂いだな」

男「ああ……焼きそばか……?たこ焼きかもな?後で買ってやるよ」

横目に見える人の波は徐々にまばらになっていった

そして

ニャオニクス「よし!ここだ!着いたぜ!」

クチート「おおお!ここが入口か!」

そこから見えたのはなんとも不思議な光景だった

普段その大通りを囲むビル群の前には無限にも思えるほどの屋台が真っすぐに二列、道の両脇に立ち並でいる

いつもより少し狭くなった祭り道の奥の方では何か煌びやかなそれに人が集まっていた
 ▼ 11 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 15:57:38 ID:XgvsVB2I [4/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
男「おお、あれ神輿か?……やっぱ人が多いなぁ……」

クチート「ミコシ?ってあのなんだか豪華なやつか?」

ニャオニクス「おう!あれには神様が乗ってんだ」

クチート「神様が!本当か!それはすごいな……!」

クチートは興奮したように通りを見つめている

ニャオニクス「くぅぅ……やっぱりこれだな!」

男「何がだ?」

ニャオニクス「お二人さん!これから御覧に入れるのは、世にも楽しい祭りの世界だ」

ニャオニクス「オレはちと他に用があるんでアンタらで楽しんでてくれよぃ!じゃあまた後でな!」

そう言うとニャオニクスは横道を駆けて消えてしまった

男「え?お、おい!」

クチート「行ってしまったな」

男「あいついったい何だったんだ……?」

ここまでずっと引っ張られてきたニャオニクスがいなくなり

二つの影は祭りの入り口でポツンと動かず突っ立っていた
 ▼ 12 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 15:58:39 ID:XgvsVB2I [5/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
しかしやがて

クチート「……ご主人!早く行こう!」

男「ああ……そうだな」

クチートが声を上げ、幕のかかった通りのあちらへ一歩踏み出した

通りの両側には数多の屋台とカラフルな提灯が並び、果てが見えないほど続いていた

日はまだ西に傾き始めたばかりだ
 ▼ 13 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 16:01:39 ID:XgvsVB2I [6/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
さて、祭りの醍醐味と言えば人々の活気とそれを囲みこむ多種多様の屋台であるが

多くの屋台の中でまずクチートが目を向けたのは

入ってすぐ、一番手前にある屋台だ

クチート「ご主人ご主人、これはなんだ?」

男「ん、ああそりゃ焼きそば屋だ、あとで食おうな」

次にクチートが指したのは向かいの屋台だ

クチート「あれはなんの店だ?」

男「ありゃたこ焼き屋台だな、たこやきも後で食うか」

その次はまた向かい、焼きそば屋のとなりの屋台を見て

クチート「これは?」

と聞いた

男「これはリンゴ飴」

クチート「あれは?」

男「わたあめ」

クチート「そっちは?」

男「かき氷」

クチート「あっちは?」

男「チョコバナナ」

クチート「それ」

男「お好み焼き」

クチート「これ」

男「アイス」

男「焼き鳥、たこ焼き、フランクフルト、きゅうりバー、クレープ、ジュース、たいやき、ケバブ、たこ焼き、パフェ、ゴルゴンゾーラ、たこ焼き……」

近くの木から虫ポケモンが飛び立った

男「食いもんばっかだな……なんでこの流れでゴルゴンゾーラだ……ってかたこ焼き多くねえか……?」

クチート「どれも美味しそうだな!」
 ▼ 14 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 16:04:51 ID:XgvsVB2I [7/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
男「あー……でも後でな、昼飯食ったばっかだろ」

クチート「しかしご主人、それでは何をしてお祭りを楽しむんだ?お神輿を見るだけか?食べ物ばかりじゃないか!」

男「あー……えーと。……きっと奥に行けばいろいろあるだろ」

クチート「本当か?どんなものがあるんだ?」

男「んー、お化け屋敷に金魚すくいに射的にくじ引き……」

男「まあ俺はそんなにおススメしないが……」ボソッ

クチート「ん?何か言ったか?」

男「いや、なんでもない」

クチート「そうか、それじゃあ早く行こう!」

男「ああ、迷子になるなよ?」

クチート「分かった!」

甘い砂糖と香ばしいソースの香り、パチパチジュージュー焼ける音

たくさんの楽しげな情報が目や耳や鼻を通じて伝わる

それらは祭りに出向いた人たちを浮足立つような気分にし

居ても立っても居られなくなるようなわくわく感を運んで来る

クチート「ご主人!何かあるぞ!あれはなんだ?」

『コイキングすくい』と書いた簾のかかった屋台だ

おじさん「一回500円!お買い得だよ!やってくかい?」

店主はニカッと笑ってクチートにそう尋ねた

男「お買い得も何もあるのか……?」

クチート「なあなあ、これは何をするんだ?!」

おじさん「お、嬢ちゃんコイキングすくい初めてかい?」

ぴちぴちとコイキングが跳ねる

おじさん「この特大のポイを使ってこうコイキングをすくいあげて捕まえるんだ!」

ドボンと音がして水しぶきが上がった

クチート「捕まえてどうするんだ?」

おじさん「育てるもよし、飼うもよし、煮るなり焼くなり好きにしな!」

男「いやー……やめとけやめとけどうせ持て余すだけだぞ」

木が風に揺れて木漏れ日が移ろいだ
 ▼ 15 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 16:08:26 ID:XgvsVB2I [8/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
クチート「焼いて……食べるのか?」

男「食べません」

コイキング「…………」ピチピチピャピチャピッチャピッチャ

屋台の大きな水槽は白いしぶきでよく見えなくなった

クチート「……これは……いいや」

活きのいいコイキングを見ながらクチートはそう言った

おじさん「そうかい、気が向いたらまた来ておくれよ!」

コイキング「…………」ピチピチピッチャーマタコイヨー

二人はまた次の屋台へ向かって行った

しばらく歩いてクチートが口を開いた

クチート「……ご主人、あれ!あれはなんだ?」

男「ん?あー……」

汗が光って滴る

男「射的だな」

一陣の風が吹いた

クチート「シャテキ?ってなんだ?どうやるんだ?」

誰かの髪飾りが日の光を反らす

男「うーん……まあ射的ならいいか、今行くから待ってろ」

神輿を担ぐ声が近づいて来る

クチート「射的なら?何かダメなものが他にあるのか?」

入口はすでに陽炎の中で揺れていた

男「くじ引きとかかな……」
 ▼ 16 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 16:10:06 ID:XgvsVB2I [9/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
男「すいません、一回お願いします」

隣の屋台からかき氷を作るガリガリという音が響いてくる

男「よし、この銃で景品を撃ち落とせばそれが貰えるってわけだ。弾は全部で五発、よく狙えよ」

クチート「おおお!鉄砲を撃つのか!ようし……あのゲーム機を……」チャキ

すぐ後ろを子どもとポケモンが駆けていった

男「待て待て、ゲーム機なんて落ちるわけないだろ?こういうのはお菓子でも狙ってればいいんだよ」

クチート「でもあと少しで落ちそうだぞ?それにお菓子なら普通に買った方が安いじゃないか」

アスファルトに下駄の音がした

男「そういうもんなんだよ、祭りってのは。特別な気分を味わって楽しめればそれでいいんだ」

どこかで風鈴がチリンと鳴った

ニャオニクス「間違っちゃあいねえな!」

男「うおぉっ……いつの間に……」

ニャオニクス「へへっ、ちょいと仕込みに行ってただけだ。それで守備はどうで?」

男「ああちょっと、クチートが射的初体験だ」

クチート「よぅし……行くぞ」

ポンッ

ポンポンッ

ポンッ!

カタバミが風になびいた

男「……当たらんな」

クチート「うーむ……」
 ▼ 17 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 16:13:20 ID:XgvsVB2I [10/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
クチート「ご主人!代わりにやって!」ズイ

頭上をヤヤコマが飛んで行った

男「え?いいのか?……そうだな……」

男「……久々にやってみるか」

クチート「お願い!」

男「分かった、まあ見てろ、俺には必殺技があるんだ」

いつの間にか笛の音がすぐ近くまで迫っていた

男「秘技!乗り出し撃ち!」シャキーン

ニャオニクス「はは、良いじゃねえか祭りを楽しんでるみてえで」

暖められた鉄板にお好み焼きの生地が延ばされている

男「……」

狙いを合わせ……的に集中する……

ポンッ!

ニャオニクス「おっ」

コルク栓が当たったラムネ菓子の箱は、ふわりと台を浮いて地面に落ちた

男「よっしゃ!見たかクチート!」

男「って、あれ?」

振り返るとそこにクチートの姿はない

代わりに大勢の人がさっきまでの通りを埋め尽くしている

民衆の中央にはシャラシャラと鈴の音を立てる神輿が縦に揺られながら闊歩していた

それはやけに豪華で、煌びやかな神輿だった
 ▼ 18 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 16:20:32 ID:XgvsVB2I [11/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
ニャオニクス「おぉう、こりゃあこの祭りでも一二を争うすげえ神輿だ」

男「なるほど……それでこんなに人が……。ってそれよりクチートだ、あいつどっかへ行っちまいやがった……」

ニャオニクス「神輿でも見てるんじゃないのか?」

男「そうだと思うが……、おーい……!クチートぉ……!」

周りの目を憚った小さな声は神輿の掛け声にかき消される

視界は人で溢れ、小さな姿が見えることはなかった

男「離れるなって言ったのに……」

ニャオニクス「神輿を見てるだけなんだろ?そう心配することでもねえさ」

男「そうだといいんだが……あいつは気になったら何でもかんでも知りたがるタチだからな……」

ニャオニクス「探すのかい?ここで待ってれば戻って来るんじゃねえか?」

男「うーん……。お前エスパーだよな?テレパシーとかできないのか?」

ニャオニクス「オレにゃそんなに器用なこたぁできねえよ。力になれなくてすまねえな」

男「そうか……どうしたもんだか……」

すでに動くのもままならなくなってきていた

ニャオニクス「どうする?探すのかい?それともここで待つかい?」

男「探そう……あいつのことだ……また何に目をつけるかもわからん……」

ニャオニクス「分かった、オレも一緒に探そう」

男「いや、お前はここにいてくれ、戻って来るかもしれないんだろ?」

ニャオニクス「そうだな……、あい分かった」

人波に乗り込んだ男の姿もニャオニクスの目の前からはすぐに消えてしまった

一匹残ってニャオニクスは

「できればこの祭りで……嫌な思い出だけは残してくれるなよ……」

と呟いたが

それも歓声の陰に隠れて、誰の耳に届くこともなかった

遠くの屋台で何かを告げるようにコイキングがピシャリと跳ねた

――――
 ▼ 19 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 16:23:46 ID:XgvsVB2I [12/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
――――

「「「ワッショイ!ワッショイ!」」」

掛け声は熱を持って空に轟いていた

「「「ソイヤソイヤソイヤ!ハッ!」」」

太鼓に笛、鈴や鉦鼓の音が後方へ流れて行く

ゴーリキー「ソイヤ!どうした嬢ちゃん!さっきからずっとついて来て!」

神輿を担ぐゴーリキーに声を掛けられてクチートは顔をそちらに向けた

クチート「……このお神輿はすごいな、すごく豪華でカッコイイ」

彩色も煌びやかに細かな装飾が施されたその神輿は誠に豪華絢爛であった

六角形のお堂が交差した棒に支えられ、漆塗りの黒い屋根に取りつけられた無数の鈴を輝かせながら鳴らす

頂上には羽を広げた金色のポケモンの像が堂々と冠されていた

ゴーリキー「おう、イカスだろ!この祭りで一番デカい神輿だぜ!ワッショイ!」

クチート「ところでその『ワッショイ』というのはなんだ?」

ゴーリキー「ソイヤ!さあな、オイラもよく知らん!ただの掛け声だ!叫ぶと楽しくなるんだぜ!ワッショイ!」

クチート「なるほど、掛け声か!ワッショイ!」

ゴーリキー「嬢ちゃんノリがいいな!この祭り楽しんでってくれよ!ワッショイ!」

クチート「分かった!ワッショイ!」

「「「ワッショイ!ワッショイ!」」」

――――
 ▼ 20 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 16:25:56 ID:XgvsVB2I [13/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
――――

男「はぁ……やっと前までこれた……人が多すぎる……」

男「しかしすごい神輿だな……クチートも気になって近くまで行きそうだ……」

ゴーリキー「ソイヤ!どうしたあんちゃん!」

男「おわっ……なんだこのグイグイ来るゴーリキー……」

ゴーリキー「こんなに近くまでわざわざ来るたぁ、あんちゃんも神輿好きだな!ワッショイ!」

男「いや……俺はちょっと迷子のクチートを探しに」

ゴリーキー「ソイヤ!クチートだって?それならそこに……ワッショイ!?さっきまでいたんだがな!」

男「なに!?本当か!探してるんだ!何か分からないか?」

ゴーリキー「さあな!そう言やあコイキングがどうとか言ってたような気がするがよく分からねえ!すまんな!ワッショイ!」

男「クチートの様子は?!悲しそうにしてなかったか?不安そうに見えなかったか?」

ゴーリキー「ソイヤ!至って楽しんでるように見えたぜ!迷子とは気づかなかったな!」

男「……そうか、よかった……情報ありがとう」

ゴーリキー「おう!早く見つけて祭りを楽しませてやれよ!心配性のあんちゃん!ワッショイ!」

男「ああ、どうもありがとう……」

神輿は一行が入ってきた祭りの入口の方へ向かっていた

――――
 ▼ 21 黒の災い◆N/pP1Xva6I 17/08/11 16:30:22 ID:m1PjThO2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
可愛い♪
支援です!
 ▼ 22 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 16:44:24 ID:XgvsVB2I [14/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
――――

目の前の屋台からは香ばしくて甘い匂いが煙と共に漂ってきている

クチート「コイキング焼き……?」

屋台の赤い旗には『実物大!コイキング焼き!』と書いてあった

おじさん「一つ500円!お買い得だよ!ってあれ?さっきのお嬢ちゃん?」

クチート「あれおじさん?コイキングすくいの?」

おじさん「ああそうさ、ほらすぐ隣」

隣の屋台を見るとコイキングが跳ねて水しぶきを上げている

クチート「あれ?ここまで戻ってきてたのか、ご主人?」

クチート「……ご主人?」

周りを見たが誰もいない

通りを歩く人々と遠ざかるお神輿が見えるだけだった

クチート「あれ……?」
 ▼ 23 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 16:46:53 ID:XgvsVB2I [15/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
おじさん「なんだいお嬢ちゃん、迷子かい?」

クチート「ま、迷子っ……!」

カナカナと野生のポケモンが鳴きだした

日はまた西へ傾いていた

クチート「で、でもこの道を真っすぐ来ただけだ……すぐに戻れる……はず」

おじさん「そうかい。まあ待っていてくれるはずさ、大丈夫。ところでどうする?コイキング焼き、食ってくかい?」

クチート「コイキングを……焼くのか?」

おじさん「いやいや、焼かないよっ。こうやってコイキング形の焼き型に生地を流して餡子を置いて……」

クチート「お……」

おじさん「こうやって型を畳んで焼けば……」

クチート「おお……」

クチートは瞳を輝かせて見ていた

型の間からは生地の焼ける美味しそうな音と共に良い匂いがしてくる

おじさん「コイキング焼きの出来上がり、と」

クチート「おおぉ……」

おじさん「餡子だけじゃないよ、チョコレートにカスタードにクリーム……」

クチート「……ゴクリ」

おじさん「ふっふっふ、どうだい?食べていくかい?」

クチート「私は……お金を持ってないんだ……すまない……」

おじさん「そうかい。ま、早くお仲間と合流した方が良いもんね」

おじさん「あ、なら後でまた来てくれよ。とびきりのを焼くからさ」

クチート「……分かった!」

――――
 ▼ 24 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 17:49:47 ID:XgvsVB2I [16/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
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男「コイキングって……さっきの……あれか?」

ポケモンの声が止んだ

男「コイキング焼き……?」

おじさん「おう、お兄さんじゃない。クチートちゃんと会わなかったかい?」

男「クチート……やっぱりここに来てたんですか?」

おじさん「ああ、さっきうちのコイキング焼きを美味しそうに見てってくれたよ」

おじさん「で、自分が迷子になってることに気づいて来た道を戻っていったけど、見なかったのかい?」

男「すれ違ったってことか……分からなかった」

男「でも良かった……教えていただきありがとうございます」

おじさん「なんのなんの、どういたしまして」

男「よし……またどこで迷子になるか分からんからな……早く戻ろう……」

おじさん「ちょいとお待ちよ、お兄さんコイキング焼き買ってかない?クチートちゃんに食べさせておやりよ」

男「え……?コイキング焼きか……」

おじさん「お八つ時だし焼きたてで美味しいよ、何かの縁だし安くしとくよ?」

男「うーむ……」

確かに少し時が経って、八つ時も近づいていた

――――
 ▼ 25 ガチルタリス@ゼニガメじょうろ 17/08/11 17:55:35 ID:d4R4xEeA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 26 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 18:15:29 ID:XgvsVB2I [17/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
――――

立ち並ぶ屋台が前から後ろへ流れて行く

あちらを見てもこちらを見ても面白そうな屋台ばかりで

気持ちの高揚を助長する

クチート「……射的の屋台……射的の屋台」

しかしクチートはそれらに気を取られないよう一つの屋台だけを探していた

クチート「あった!」

確かに大きく『射的』と書かれた屋台が見えた

しかしそれは横から出てきた大きな影に隠れて見えなくなってしまった

クチート「わぁっ……!」

笛と太鼓と鉦の賑やかな調べと共に大きな山車がゴロゴロと現れた

クチート「でっかぁ……!」

このひときわ豪華な山車はたくさんの人とポケモンによって引き転がされている

引き手の掛け声と鮮やかな祭囃子がその豪壮さを引き立たせていた

それにもまた密林のように人々が集まっていたが

小さなクチートはスルスルとかき分けて入っていけた
 ▼ 27 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 18:16:43 ID:XgvsVB2I [18/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
カイリキー「おおう!そこの嬢ちゃんソイヤ!」

クチート「そいや?」

カイリキー「あんまりソイヤ!近くにいると踏み潰しちまいそうで危ねえぜ!ソイヤ!」

クチート「おわぉ……」

近くに来てみるとそれは悠々とクチートを見下ろしてくる

二階建ての民家ほどの大きさの車がのしのしとこちらに進行して来るのだ

クチート「何と言うかこれは……凄いな……」

カイリキー「ソイヤ!嬢ちゃん!山車ってなぁ男の見栄の張り合いの結晶みてぇなもんさ!」

カイリキー「どんな山車より大きくて派手な車を求めた結果がこの荘厳さよ!ソイヤ!ハッ!」

クチート「はぁ……凄い……まるで春爛漫の大山が動いているみたいだ……」

カイリキー「ソイヤ!嬢ちゃんなかなか上手いな!そうだ、嬢ちゃんもこの山車引いてみないかい?」

クチート「引けるのか?!」

カイリキー「おうよ!前の引き綱は自由参加だ!開いてる所から引っ張ってくれや!ソイヤ!ハッ!」

クチート「だ、だが私は早く戻らないといけなくて……すまん……」

カイリキー「ソイヤ!ソイヤ!そりゃ残念!気が向いたらまた来ておくれなよ!」

クチート「うん、わかった!」

入ってきたのとは反対方向の人ごみを抜けてクチートは射的の屋台へ向かった

――――
 ▼ 28 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 18:22:59 ID:XgvsVB2I [19/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
――――

男「今度は何だ……?」

男は早歩きで進んでいた

前方にはひときわ大きな練り物と一団の人だかりが見える

男「くそ……急いでんのに……」

それはぐんぐんと近づき、目の前に迫った

次の瞬間、男は寄せる人の波に飲み込まれた

男「ぐ……ぅ……進めん……」

人は次々と押し寄せる

足元を過ぎる小さなポケモン達にも足をすくわれそうになる

男「おっとと……とっと……っとぉ……!」

駆け抜けていったポケモンに足をすくわれバランスを崩しかけたそのとき

ドンッと横から何かに押されるような衝撃があった

男は衝撃を受け体をよろめかせた

頭が傾き始め、よもやこのままでは地面に体を打ち付けてしまう

そう思った刹那

男の手が何かに触れ、それによって衝撃が受け流されて体が止まった

足元からカタンと音がした

傾いた体を起こすために足を出す

助かった……と思った直後、パキンという音と共に全身をヒヤリとするような焦燥感が駆け抜けた


男「……あ」


「……あーあー、やってくれはりましたなぁ……」

落ち着いたような口調ではあったが、男に冷や汗をかかせるには十分な声だった

――――
 ▼ 29 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 18:24:45 ID:XgvsVB2I [20/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
――――

クチート「花火!?」

ニャオニクス「おう、オレも手伝わせてもらっててな、もう少ししたら行かねえといけねえんだ」

クチートとニャオニクスは射的屋台の店先で無事落ち合っていた

ニャオニクス「しかし一本道ですれ違いになるたぁ祭りの迷子は恐ろしいもんだ……」

ニャオニクスは祭りの中で打ち上げられる花火の関係者として祭りに参加していたことを明かした

ニャオニクス「ま、あいつもそのうちに戻ってくんだろ」

クチート「ああ……」

クチート「しかし花火か……あれは一度うちから遠目で見たことがあるが……」

ニャオニクス「近くで見んのは初めてってことかい、そいつぁ楽しませてやんねえとな」

クチート「どんな花火なんだ?」

ニャオニクス「そりゃぁ見てのお楽しみよ!だがきっと面白いぜ!なんせここいらで一番の花火だからな!」

クチート「なるほど!それは楽しみだ!」

それからしばらくクチートとニャオニクスは会話をしていた

祭りの話のあれやこれ

壮麗で雄大なお神輿のことや壮観で豪奢な山車のこと

華やかな景色のことや馥郁とした香りのこと

祭りの花火に思いを馳せるうちに

気が付くと空が赤く染まり始めていた
 ▼ 30 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 18:26:53 ID:XgvsVB2I [21/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
ニャオニクス「すまん、オレはそろそろ行かねえといけねえや」

話し半ばでニャオニクスがそう言った

クチート「そうか、分かった」

ニャオニクス「あいつ遅いな……まだ探してんのかな……?」

クチート「心配ない、ご主人がマイペースなのはいつものことだ」

ニャオニクス「そうなのか……?まあ待ってさえいりゃそのうち現れるだろうさ」

クチート「うん、大丈夫だ。待っているくらい私にもできる!」

ニャオニクス「……ああ、すまねえな。きっと最高の花火を見せてやるから……期待していてくれよ!」

クチート「ああ、楽しみにしてるぞ!」

そんな会話をしてニャオニクスは花火を打ち上げる川の方へと向かっていった

クチートは一人射的屋台の前で佇んでいた

空の色は赤、紫、紺、黒と諧調も鮮やかに移ろいで行く

東の空に星が見え始め、提灯に仄かな明かりが灯り始めても男は現れなかった

人と人の隙間から見える祭りの景色は煌びやかで美しかった

しかしそれもクチートにはどこか虚しく感じられた

クチート「ご主人……」

絢爛華麗に華やかに、祭りが夜に包まれた

――――
 ▼ 31 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 18:32:05 ID:XgvsVB2I [22/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
――――時間は少し遡る

照り付ける日に晒されながら男は山車を引いていた

男「くそぅ……なんでこんなことに……」

先刻、よろめいた男はお囃子の一人に体をぶつけ、持っていた笛を落とさせたうえその笛を踏み壊してしまったのだ

不慮の事故であり、祭りという楽しむべき行事の最中であったため、弁償こそ要求されなかったが償いとして山車を引かされる羽目になった

男「はぁ……」

懺悔のため息も大音量の掛け声に溶けて消えた

「「「ワッショイ!ワッショイ!」」」

男「わっしょいわっしょい……」

カイリキー「ソイヤ!お兄さん災難だったなぁ!」

男「な、なんだこのグイグイ来るカイリキー……」

カイリキー「ま!そんなに憂鬱になるもんじゃねえさ!全力で山車を引けばきっと楽しくなるソイヤ!」

男「そ、そいや……?」

カイリキー「ソイヤ!どんな形であれこんな楽しい祭りに参加するんでい、楽しまなきゃ損だぜ!」

男「そうか……?」

山車の行列はすでに先ほどまでの通りを外れ、別の道を移動していた

周りは常に凄まじい熱気だった

途中途中で休憩を挟みながら山車は街中を練り回った

滴る汗を拭いながら男は懸命に綱を引いていた

暑くて熱い時間が過ぎて行った

男「わっしょい……わっしょい……はぁ……」

結局男がクチートたちと共に入ってきた入口の反対側まで来て山車は止まった

時刻はすでに黄昏時でザワザワと野生のポケモンがしきりに鳴いている

山車の引き手が夜間組に交換されると同時に男も綱から解放された

男「すっかり遅くなっちまった……いったいここはどこだ……」

クチートのいる射的の屋台からはだいぶ遠い場所だった

男「これじゃどっちが迷子か分からないぜ……」

とても遠くで何かを兆すようにコイキングが跳ねたようだった

――――
 ▼ 32 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 18:39:24 ID:XgvsVB2I [23/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
――――時間は再び現在に戻る

ニャオニクスと別れてから少し経ったがクチートはまだ一人で迎えを待っていた

クチート「……クシュンッ」

日が落ちてから少し冷えてきたようで不意にくしゃみをする

昼間までのうだる暑さは何処へ行ってしまったのだろう

心なしか空気も少し湿っていて辛気臭い気分になる

クチート「……」

クチートはただじっと主人の帰りを待っていた

屋台と提灯の明かりに挟まれた人やポケモン達が通りを楽しそうに歩く顔

嬉し気に屋台で遊び、満足げに買い物をするその顔を見ていると

喉の奥がじわじわしてくるようだった


その時ふとクチートの頬に水滴が落ちてきた

ハッとして空を見上げる

祭りの夜空にパラパラと

雨の音が聞こえてきた

クチートは空を見ながら射的屋台の屋根の下に入った

雨だ

短く激しい雨もまた、夏を構成する要素の一つである

雨脚は強まり、そのまま時間は流れた

鬱な空模様はまるでクチートの心境を映し出しているようだった

クチートはその場に座り込み

ただじっと待っていた
 ▼ 33 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 18:43:52 ID:XgvsVB2I [24/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「クチート!」


しばらくしてから不意に

雨音に交じって待ち望んだ声が聞こえた

クチートは屋台の前に座っていたが、声のした方にすぐ顔を向けた

クチート「ご主人!」

男「すまん!遅くなった!」

どこかで買った傘をさして男が駆け込んできた

クチートの顔が安堵に綻んだ

クチート「ご主人……!ずっと私を探していてくれたのか……?」

男「あぁ……えーと……いろいろあってな……」

クチート「すまなかった……勝手に行ってしまって……」

男「いやいや、俺こそ……ごめん……ずいぶん待たせたな……」


男「そう言えばニャオニクスはどこに……?」

待っていると言ったニャオニクスがいないことに気づき、男はそう尋ねた

クチート「ああ、あいつは花火の準備へ行ったみたんだ……もともと花火を上げるために祭りに来ていたんだって」

男「花火……?って言ってもこの天気じゃあな……」

通りには雨が降り注いでいるが

手に手に傘をさした人々はまだ祭りを楽しんでいるようだ

男「どうする……?もう帰ろうか?」

男は少しくたびれたような声でそう訊いた

クチート「いや……」

クチート「ニャオニクスは……来るはずだ……きっと花火を見せるって……そう言ってた……!」

男「そうか……ならもう少し待ってみるか……」

男「夏の雨は短いしな……」
 ▼ 34 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 18:49:29 ID:XgvsVB2I [25/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
男はそう言った後、ハッとしたように手に持っていたものを見た

男「そうだ、すっかり忘れてた。クチート、これ食べるか?」スッ

クチート「それは?」

男「ミニコイキング焼きだ」

クチート「コイキング焼き!?」

男「そう、お前が食べたがってたって聞いてな」

クチート「ほ、本当かご主人!」

クチートの目が輝いた

男「ああ、もう冷めてるかもしれないけど……」

クチート「良いじゃないか!私はあまり熱いのは苦手だ!」

男「そうだな……じゃ、食べてみるか」

白い包みが開けられた

その中の何匹かのうち、一匹を選んで口へ運ぶ

一口サイズのコイキング焼きはまだほんのりと暖かかった

焼かれた生地は柔らかくもちもちしていて美味である

餡子の甘い香りが口いっぱいに広がった

まだその風味が消えぬうちに次の一つを頬張ると今度はほろ苦い

チョコレートが舌の上で溶けだし生地に絡んで喉へ落ちる

クリームもカスタードもキャラメルも口へ放った

クチート「ん〜まい……!」

彩やかな味が奏でる唄はさながら多様な屋台が集まり彩るお祭りの景色のようで

口へ入っては次々と消えていった

男「あれ?もうない!?俺ももう少し食べたかったのに……!」

クチート「ああ美味しかった!ご主人、もうないのか?」

男「無いよ!」

男「……あー、そうだな、帰るときまた買ってくか」

クチート「うん!そうしよう!」
 ▼ 35 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 18:50:13 ID:XgvsVB2I [26/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
そうして腹も満ち、お土産も決まったとき、どこからか地響きのような音が聞こえた

すると、なんだか雨脚が弱まっていくように見えた

男「お?……雨、上がりそうじゃないか?」

クチート「本当か!?」

男「ああ、これならもしかして……」

雨の音はどんどん小さくなっていき

やがてピタリと雨が止まった


どこからか風鈴の音がした

そして急に

ニャオニクス「お二人さん!」

勢いよくニャオニクスが飛び込んできた
 ▼ 36 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 18:54:06 ID:XgvsVB2I [27/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
男「おわっ……!びっくりした……」

クチート「ニャオニクス!花火は!?」

ニャオニクス「へへ、問題なしだ!」

黒い雲が割け、空には星が見えた

ニャオニクス「すぐに始まるぜ!特等席に急ぐぞ!」

クチート「特等席……?」

ニャオニクス「おう!ほらほらさっさと行くぜぃ!」

男「へ?お、おわぁ……!またか!」

ニャオニクス「グズグズしてる暇はねぇ!」

ニャオニクスはサイコキネシスで二人の体を持ち上げ、射的の屋台を飛び出した

昼間だったら虹が出ていたであろう、清々しい空の夜だった

男「し、しかし良かったな雨が止んで……」

念力で自らを持ち上げているニャオニクスに男はそう言った

ニャオニクス「おう。実はあの雨な、ポケモンが降らしてたみてぇなんだ」

クチート「ポケモンが?!」

ニャオニクス「そう、入口の方のコイキングすくいの屋台でな、コイキングの一匹がいきなりギャラドスに進化して……」

前から後ろへ光が混ざって流れていく

溶けて連なり線になった光はどこまでも綺麗だった

男「なるほど、あの地響きはそのギャラドスと戦っていた音だったのか」

ニャオニクス「あの暴れん坊を倒したら雨はピタッと収まったぜ!」
 ▼ 37 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 18:58:23 ID:XgvsVB2I [28/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
町内放送でアナウンスが聞こえてきた

花火大会が予定通り行われることがお祭りに来たお客全員に伝わっていった

そのまま真っ直ぐ進み、祭りの外れの方へ来たあたりで

ニャオニクスが改まったように口を開いた

ニャオニクス「今日は……いろいろと悪かったな……」

男「え?どうしたんだよ藪から棒に」

ニャオニクス「いや、俺が無理やり連れてきた祭りで大変な思いをさせちまった……」

ニャオニクス「迷子になって、山車を引かされて、雨に降られて……」

ニャオニクス「店もロクに見れてないだろ?……」

男「あー、なんだ……?」

男「お前責任感じてんのか……?」

クチート「ニャオニクスが気負うことじゃないぞ、悪いのは私達だ」

男「そうそう、悪いのは迷子になったこいつ」

クチート「ご、ご主人だって遅かったじゃないか!」

男「元はと言えばお前がいなくなったのが悪いんだろ」

クチート「だからって遅すぎだ!どれだけ心配したと……っ」

ニャオニクス「くっ……ははは」

男・クチート「「ん?」」

ニャオニクス「ははは、アンタらほんとに仲がいいな」

ニャオニクス「こりゃあ二人一緒にいさえすればどこにいようと楽しめるってやつだな」

男「む、そりゃどういう……」

クチート「そうだ!私たちならどこにいても楽しめるから大丈夫だ!」

クチート「だよなご主人!」

男「え?お、おう……」

ニャオニクス「ははは、やっぱりな。よし、そろそろ着くぜ」

見えてきたのは小高い場所に建てられた神社の鳥居の階段だった
 ▼ 38 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 19:02:59 ID:XgvsVB2I [29/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
ニャオニクスはサイコキネシスで二人を持ち上げたまま階段を駆け登って行った

ジージーと何かが鳴くスギの木を横目に誰もいない階段を勢いよく登る

薄暗い境内に着くとチラホラと人影が見えた

皆思い思いの場所に陣取り、自分たちのポケモンと共に夜空を見上げてそれを待っている

男「なるほどな、花火はあの川の上に打ち上がるのか」

街を横断する形で流れる大きな川が見える

クチート「すごくいい眺めだな!」

さっきまでいた祭りの屋台はミニチュアサイズになっている

男「よし、人が来ないうちに俺達も場所をとろう、降ろしてくれ」

ニャオニクス「へへ、その必要はねえよ。この神社は意外と知られてねぇ、皆違うところへ行っちまうのさ」

ニャオニクス「それにこのオレが『特等席』だって言ったんだ……」

男「お、おい……何する気だ……?」

ニャオニクス「へへへ、行くぜ!」

ニャオニクスは二人を連れたまま宙に飛び上がり、しばらく高度を上げてからフワリと空宙に停止した

クチート「お、お、お、おおお〜……!!」

丘の上に建てられた境内のさらに上から街を見下ろす

雨が上がったばかりの祭りはあちらこちらがキラキラと輝いていた
 ▼ 39 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 19:05:49 ID:XgvsVB2I [30/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
男「うおお……!って……お前は大丈夫なのか?こんなに長時間俺たちを持ち上げたままで……」

ニャオニクス「心配すんな!ほら始まるぜ!」

下の方で小さな子が「いいな〜」とつぶやく声がした


とたん

夜の空の星の下にカッと一輪の花が咲いた

赤い色のその花が満開になったその瞬間

ドンッ

と胸に響く重い音が聞こえてきた

男「うおぉ……」

クチート「おおおお〜……!!」

草に残った水滴が花火を映して煌めく

暗い空にくっきり燃ゆる花火はとても、とても綺麗で美しかった

赤、青、黄、緑、白、橙、紫、桃、次々と

牡丹に柳に蜂に土星、仕掛け花火まで撃ち鳴らして咲き誇る

上からも下からも放たれて、パラパラと点滅を繰り返す光は

夏の夜空を彩り、艶やかなコントラストで以て幻想的な佳景を生み出している

美のスペクタクルとも言えるそれは、この世で最も美しいものにも思えた

クチート「綺麗だ……」

男「ああ……これは……」

空も山も川も街も、全てがこの最高の芸術を一片の無駄もなく織り成している

クチートと男はただただ感動していた
 ▼ 40 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 19:11:16 ID:XgvsVB2I [31/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
クチート「……本当に、本当にすごいな」

男「……凄い」

男「……凄いんだが俺は……後ろが心配だ」

男とクチートはふっと後方へ目をやった

ニャオニクス「くっ……大丈夫でぃ!アンタらにゃあこの祭りを最っ高に楽しんでもらわなくちゃならねぇ!」

ニャオニクス「これはオレのプライドが懸かってるんでぃ!」

目をギュッと瞑ってニャオニクスは必死に耐えているようだった

男とクチートはクスッと笑った

男「こんないつ落っこちるかもわからん場所じゃ楽しいものも楽しめないぞ」

クチート「そうそう、それにそんなに目を閉じていてはこの美しい光景を見逃してしまうじゃないか」

男「ああ、俺達はもう十分に楽しめた。こんな祭りに連れてきてくれたこと、感謝してるよ」

クチート「そうだ、だからニャオニクスにも楽しんでほしい!あの花火凄いんだから降りてゆっくり見よう!」

ニャオニクス「アンタら……」

ニャオニクス「すまねぇ、適わねぇな……」

ニャオニクスはスッと力を抜いてまた境内へと降りていった

その境内からでも十分花火は見ることができた

クチート「こんな光景が世の中に存在していたんだな……」

男「いや、こんな絶景あの世でも見られねえよ……」

クチート「ああ、本当に見れて良かった……」

男「まったく……ありがとうなニャオニクス、ここまで連れてきてくれて」

ニャオニクス「本当かい?楽しんでくれたかい?」

ニャオニクス「へへ、そいつぁ良かった」

ペカーっと笑ってニャオニクスはそう言った
 ▼ 41 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 19:14:40 ID:XgvsVB2I [32/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
花火の上がる川で何かがパシャパシャと跳ねた

クチート「あれは……?」

男「コイキング……だな……」

大量のコイキングが花火に合わせて踊るように水しぶきを上げていた

その中で一匹、大きなギャラドスも楽しそうに飛んでいるのが見えた


クチート「あ!そうだ……コイキング焼き!」

男「ああ、そうそう、買って帰らないとな。ニャオニクス、お前も……」

そう言って後ろを見てみたもののそこにニャオニクスの姿はなかった

クチート「あれ?」

男「あいつどこに……?」

それまでニャオニクスがいたと思っていた場所には代わりに何かの箱が落ちていた

男「これ……俺が射的で取ったお菓子だ……あいつが持っててくれたのか……?」

クチート「今度はニャオニクスが迷子か!?」

男「いや、それはないだろ……」

クチート「じゃあどこへ行ってしまったんだ?」

男「……さあな、もしかしたら本当に祭りの精霊だったのかもな」

クチート「祭りの精霊!?そんなものがいるのか!?」

水色の浴衣をな揺らしながらクチートはそう聞いた

男「冗談だよ冗談、その浴衣も借りたものだしな」

そのとき、大きな花火が打ち上がり、地上を照らして花を散らせた

男「さて、どうする……?あいつを探すついでにもう少し祭りを見ていくか?」

クチート「うん!そうしようご主人!私はもう一度射的がやりたい!」

花火の束はまだ打ち止まず、いつまでも夜空を照らしている

クチート「焼きそばもたこ焼きもまだ食べてない!」

夢を見ているような気分だった
 ▼ 42 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 19:19:24 ID:XgvsVB2I [33/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
ぼんやりと、だが美しい景色だ

祭囃子と風鈴とポケモンの声が聞こえてくる

夏の猛暑に行なわれたこの祭りは

雨が降ってもなお熱気を帯び

人々を熱狂させた

お祭りの日は夏のうちでもとくに熱い

楽しくも美しくも風流で

暑さをもまた楽しく塗り替える

夜空は星を湛え

音と光を吸い込んでゆく

暑くて熱い祭りの夜は

いつまでも続いて行くのだった


おしまい
 ▼ 43 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/08/11 19:21:06 ID:XgvsVB2I [34/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
終わります。

お読みいただきありがとうございました。
 ▼ 44 機関銃◆/RChzaFlUA 17/08/11 19:26:16 ID:KD.gcA2U NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
お疲れ様でした!
 ▼ 45 クシーマフォクシー◆ZmNoEZzYKc 17/08/11 19:26:36 ID:g/v4SDY. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙です
 ▼ 46 しー◆iTFigG3P7M 17/08/12 14:49:06 ID:zWREb0xg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
無邪気なクチート可愛い
雰囲気の描写も好き

 ▼ 47 チ総1◆0hCZ5FlmrU 17/08/14 12:11:13 ID:sBsVpuQk [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
待ってました!
支援
 ▼ 48 チ総1◆0hCZ5FlmrU 17/08/14 12:11:29 ID:sBsVpuQk [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援w
まちがえた
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