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SS

【SS】そうだ、島巡りに行こう。続

 ▼ 1 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:12:32 ID:T8vVVcJo [1/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

↓これの続きです
http://pokemonbbs.com/sp/poke/read.cgi?no=534033

《これまでのお話》
島巡りに挫折して以来2年間引きこもっていたたんぱんこぞう(13)は、スカル団解散を機にアローラ地方に再び挑む。
負けたり勝ったり萎えたりしながらも旅は進み、旅立ちから3ヶ月、草の試練をようやく突破。
しかし、さあ次は大試練だ、と思った矢先、とある容疑でクチナシ氏に連行されてしまうのであった……。

《現在の手持ち》
コイル……自身の磁力で電信柱に貼りつけになっていたところを捕獲された。
ヤドン……コイルのレベル上げの標的に。戦闘の末、捕獲。
イーブイ……預かり所で貰ったタマゴから孵った。



書き溜めはすぐに尽きそうなので、結局ゆっくり更新していきます。
 ▼ 2 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:13:49 ID:T8vVVcJo [2/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

《第4章》


【94日目: 午後】

クチナシ「なぁ、あんちゃん」

「…………」

クチナシ「何で、他人ん家の玄関先に細い木植えちゃったのよ」

「……すいません」


草の試練を攻略した矢先、クチナシと名乗った警察官に連れられて、俺はウラウラ島の交番に来ていた。

薄灰色の冷たい部屋に、これまた冷たい簡素なテーブル。

クチナシさんと向かい合って行われているコレは、まごうことなき取調べというやつである。
 ▼ 3 ガヤミラミ@しんぴのチケット 17/09/18 18:14:26 ID:trE8Xyok NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
待ってました
 ▼ 4 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:14:44 ID:T8vVVcJo [3/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

大きなため息を一つついて、クチナシさんが気だるげに話しを続ける。


クチナシ「……あのな、あんちゃん。すいませんじゃないのよ。おじさん、何でって聞いたのね」

「…………」


黙る俺。

何故やったのか、その理由は単純だ。

だが、答えようにも口が開かない。

『ククイ博士にイライラしていたので嫌がらせに植えました』?

とてもじゃないが言えない。
 ▼ 5 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:15:24 ID:T8vVVcJo [4/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

くそう、何とか誤魔化さないと俺の人生はここで終わりだ!

言い訳を……細い木を植えるに足る理由を考えろ……!

何かこう、なるべく無難な……!


「ムシャクシャしてやった」


……って違う、そういう無難さじゃない!
 ▼ 6 リミアン@リピートボール 17/09/18 18:15:30 ID:2l5Ek/jU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
きた 楽しみ
 ▼ 7 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:16:01 ID:T8vVVcJo [5/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシ「ムシャクシャって……何にだよ」


胡乱げな目を向けて質問を続けるクチナシさん。

仕方ない、もうこのルートで何とかするしかないようだ。

まぁ、ムシャクシャしていたのは間違いない。

ここは全ての元凶ククイ博士を吊るし上げて難を逃れられる可能性に賭けてみよう。
 ▼ 8 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:16:56 ID:T8vVVcJo [6/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「クチナシさん。ククイ博士って、ご存知ですよね」

クチナシ「そりゃあな。今回の被害者だし」

「あの人、表向きは人の良い博士ですけどね。……実は極悪非道の策士なんですよ」

クチナシ「…………」
 ▼ 9 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:17:57 ID:T8vVVcJo [7/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

『なに言ってんだお前』と言わんばかりの表情のクチナシさんだが、構わず続ける。


「アローラリーグの初代チャンピオンが就任しましたよね」

クチナシ「うん」

「その子はスカル団を討伐したり、エーテル財団の闇を晴らしたりしたとか」

クチナシ「そうだな」

「それ、全部ククイ博士が仕組んだレールの上なんですよ」

クチナシ「なに言ってんだお前」
 ▼ 10 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:18:37 ID:T8vVVcJo [8/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

こんどは『なに言ってんだお前』と口ではっきり言われてしまったが、ここで怯むわけにはいかない。


「ククイ博士の筋書き通りってことですよ。彼女がグズマやエーテル上層部と接触したのも、リーグチャンピオンになったのも!」

クチナシ「筋書き、ねぇ……?」

「奴は初代を飾るにふさわしい派手なチャンピオンを求めていました。

そこで彼女を影からアシストして旅を加速させ、行く先々で巧みに誘導して大事件を解決させた。

結果として現れた、数々の逸話を持つ弱冠11歳の天才トレーナー。……これが奴のシナリオなんです!」

クチナシ「ふぅん……?」
 ▼ 11 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:19:01 ID:T8vVVcJo [9/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

少しは信じてもらえたのだろうか。

よし、この調子ならどうにか──


クチナシ「で、一応聞くけどよ。証拠とか、あるのかい?」


──ならないっぽいなぁ……。
 ▼ 12 ッタイシ@ほしのかけら 17/09/18 18:19:06 ID:OLXXGL3E NGネーム登録 NGID登録 報告
待ってたよ
 ▼ 13 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:19:37 ID:T8vVVcJo [10/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

証拠。

証拠か……。

さっきまでの話は全部ククイ本人から裏を取っているが、録音なんてしちゃいない。

というか、そもそも証拠が出ないのがわかっているから奴も口を割ったのだ。

何か、何かないか……。

そうだ!
 ▼ 14 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:20:19 ID:T8vVVcJo [11/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「博士の家からわざマシンが大半無くなってるはずです! あと学習装置も!!」


直接の証拠にはならないが、信じさせるならこれで十分だ。

彼女の旅に奴が大きく加担していたという説明はつく。


「家宅捜索でもすればすぐに……あっ」


あっ。


クチナシ「ククイ博士の家ならちょっと前にクレーターになっちまったぞ」
 ▼ 15 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:21:27 ID:T8vVVcJo [12/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そういえばそうだった。

こないだリザードンでククイ宅を通りかかった時に、細い木を中心に謎の巨大クレーターが広がっていた。

証拠になりうるものは全て消失したと考えるのが妥当だろう。

それにしても、あのクレーターは一体なんだったんだ?


「あの……何であんなことになってたんですか?」

クチナシ「ククイ当人がわざの研究で破壊したんだとよ。細い木相手に威力実験してたんだとか」

「はぁ……」


ポケモンのわざであんな巨大なクレーターができるのか……。
 ▼ 16 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:22:52 ID:T8vVVcJo [13/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシ「本当はククイにも事情聴取しなきゃならねぇんだけどよ。どうも精神がおかしいらしくて、今は入院中なんだよ」

「精神が?」

クチナシ「ああ。なんでも、細い木と会話してたらしい。『盟友に出会えた』とか言ってんだとよ……」


なにそれこわい。


クチナシ「ま、とにかく研究所は跡形もなく消えちゃったよ」




※ククイと細い木の話↓
http://pokemonbbs.com/sp/poke/read.cgi?no=588136
 ▼ 17 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:23:40 ID:T8vVVcJo [14/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

証拠になりそうな研究所は消滅、本人は精神が不安定。

他に証明する手立てがあるとすれば……。


「あの、チャンピオンに旅の詳細を聞けば多分裏が取れますよね。

彼女をここに呼んだら……」
 ▼ 18 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:24:09 ID:T8vVVcJo [15/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そこまで言いかけて、口籠る。

呼んだら……。

必然的に、事実を彼女に突きつけることになる。

ある意味では正しいことかもしれない。

だが──


クチナシ「どうしたよ、あんちゃん」

「いえ、なんでもないです。……今までの話は全部忘れてください」


──それはあまりに酷な話だ。
 ▼ 19 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:24:37 ID:T8vVVcJo [16/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシ「……ここまで聞かせといて忘れろってのは、まぁ、無理だわな」

「……ですよね」

クチナシ「っていっても、おじさんもあんちゃんが適当にでっち上げただけの話を言いふらして遊ぶほど暇じゃないのよ」

クチナシ「……だからよ、まぁ……安心していいよ」

「……ありがとうございます」
 ▼ 20 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:25:15 ID:T8vVVcJo [17/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシ「……で、細い木を植えちまった件の聴取に戻るが」

「え!? いや、許してもらえる流れじゃないんですか!?」


色々察して無かったことにしてくれる流れかと思ったのに!


クチナシ「だってさ、あんちゃんが木ぃ植えんのとククイがやったアレコレ、なんも関係ないんだもの」

「え…………いやいや、動機ですよ! 悪への抵抗ですよ!」

クチナシ「抵抗、ねぇ。じゃあ、あんちゃんが細い木を植えてなんか良いことあったかよ?」
 ▼ 21 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:25:49 ID:T8vVVcJo [18/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

良いこと……?


「…………」


しばらく悩んだ末。


「ククイ博士が酷い目に遭った」

クチナシ「それみろ、私怨じゃねぇか」


ああ、ムシャクシャしてやったんだったなぁ……と。
 ▼ 22 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:26:45 ID:T8vVVcJo [19/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシ「まずよ、あんちゃんの言ってたことが全部本当だったとしてもな、ククイがやったことは別に犯罪じゃないのよ」

「……はい」

クチナシ「しかもあんちゃんは無関係のクソガキでしかねぇしよ」

「それは!……いや、そうですね、はい」


よく考えたらそうだ。

なりゆきで真相を知ったとは言え、俺自身がククイの謀略に巻き込まれているわけではない。


クチナシ「で、首突っ込んで行動に移した結果がコレかい。

……あんちゃん、ちょっとそりゃ良くないんじゃないの?」

「…………すいません」


ぐうの音も出ないほどのド正論だった。
 ▼ 23 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:27:24 ID:T8vVVcJo [20/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシ「ま、気持ちはわからんでもないけどね。この地方はいっつもどこか歪んでっからよ」


俯きがちにボソボソと言うクチナシさん。


「歪んでるって……」

クチナシ「平和ボケした地方に見えてよ、いつでもどこかに闇が溜まってんのよ。例えば、スカル団だったりな」


そう言ってクチナシさんは少し寂しげに窓の外をみやった。

雨に浮かぶポータウンの外壁。

その中にはもうかつての闇は残っていない。
 ▼ 24 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:27:51 ID:T8vVVcJo [21/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシ「スカル団ができたのは、なんでだか知ってるかい?」

「え……? 島巡りに挫折する人が多かったからですよね?」


唐突な質問に、戸惑いながらも答える。

スカル団が挫折の象徴であるというのは、アローラでは常識中の常識だ。


クチナシ「そうだな……。で、あんちゃんはそれが悪いことだと思うかい?」

「それは……」


2つ目の質問は難しかった。

これを悪いというのなら、当然俺も悪になる。
 ▼ 25 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:28:22 ID:T8vVVcJo [22/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシ「ま、答えられないよね。意地悪なこと聞いちゃったよ」

「そう……ですね。なるべく目を瞑りたいとこです」

クチナシ「だよねぇ。おじさん、まずそこが歪みの出発点だと思うのよ。

土地が、伝統が、人々が、いろんなとこから歪みを生んでる。それが自然とわだかまる。誰が悪いとかじゃないのね」


そう言うとクチナシさんはまた、何度目か分からないため息を、ひときわ長く吐き出した。
 ▼ 26 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:28:53 ID:T8vVVcJo [23/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

土地に根付いた伝統、島巡りと守り神。

因習、とまで言うのは言い過ぎだろうが、無条件に肯定できるものではない。

現代の価値観とどういうわけか噛み合わないぎこちなさを感じることは、ままあることだ。

小さな違和感の混じった空気が、ふとした拍子に流れてくるのだ。

そして、その負の空気が……


「わだかまる……」

クチナシ「そ。そうして出来たのがスカル団なんじゃねぇかなって」
 ▼ 27 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:29:32 ID:T8vVVcJo [24/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシ「要はどっかに必ず歪みを引き受けてるやつがいんのよ。ちょっと前までは、それがたまたまスカル団だったのね」

「ちょっと前……」


おそらく、スカル団解散のことを指しているのだろう。

解散したスカル団は大人しくしているらしく、島々で悪行を働いている様子はない。

それでよかった、とはならないのか?

クチナシさんの表情はどこが憂いを帯びている。
 ▼ 28 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:29:57 ID:T8vVVcJo [25/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシ「……アローラの暗いとこを一気に晴らしてったねえちゃんがいたな」

「ええ」

クチナシ「そんですぐにリーグが新設されて、そのねえちゃんが頂点に座って……アローラは明るくなったよ」

「まぁ、そうですね」


事実として、間接的には彼女のおかげで俺は島巡りに再度挑む決意をした。

彼女が島に与えた影響は、目に見える以上に大きい。
 ▼ 29 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:30:52 ID:T8vVVcJo [26/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシ「でもよ」

クチナシ「それってまだ11の女の子1人に背負わせるもんなのかね?」


今にも泣きそうな顔でオニスズメを狩る彼女の顔がフラッシュバックする。


クチナシ「まして、その裏に誰かさんの暗躍があるってんなら……」


『誰かがあそこに立たなければならない』というククイ博士の言葉が、脳裏に蘇る。


クチナシ「それを歪みと言わずして、なんて言えばいいのよ」


クチナシさんは抑揚のない声で、吐き捨てるように言った。
 ▼ 30 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:34:19 ID:T8vVVcJo [27/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

彼女について、俺が知ることはほとんどない。

真夜中に偶然ちょっと見かけただけで、交わした会話もほんの一瞬だった。

だがそれでも、クチナシさんが言った『歪み』には納得がいく。

それくらいに、あの時の彼女の全身から悲惨感が滲んでいた


「…………」

クチナシ「……潰れてなきゃいいけどなぁ、あのねぇちゃん」
 ▼ 31 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:34:47 ID:T8vVVcJo [28/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシ「……おっと、話が逸れちまったな。で、あんちゃんの刑罰の話だけど……」

「っ!」


きたか。

どうなる俺……!


クチナシ「罰としてポータウンを掃除してけ。終わったらおじさんに報告な」

「へ?」


軽っ。
 ▼ 32 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:35:42 ID:T8vVVcJo [29/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「いや、軽くないですか?」

クチナシ「ま、事件の大元は細い木を持ち込んじまったメガやすの責任者だからね」

「あ、確かに」


なぜ違法植物が売っていたのか、甚だ謎だ。

買った俺が言うのもなんだが、どこに需要があるのかわからない。


クチナシ「そもそもあんちゃん、そんなこと知らずに植えたんだろうしな。それなら別に牢屋に入れることないよね」

「…………」


実際のところ外来種なのは知っていたが、黙っておこうと思う。
 ▼ 33 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:36:58 ID:T8vVVcJo [30/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシ「ま、今回は結果としてククイが訴えなかったってのが大きいかな」

「なるほど……」


そのククイ博士は精神が壊れて細い木と盟友になったらしいが、それについて蒸し返すのもやめておこうと思う。


クチナシ「けど、人の家に厄介な嫌がらせをしたこと。ダメなもんはダメだ。そこはキッチリ反省しろよ」

「す、すいません」

クチナシ「んじゃあ、早速掃除に取り掛かってよ。おじさん、後でチェックするからよ」

「はーい……」


ニィッと笑みを浮かべるクチナシさんに見送られ、俺は取調室を後にした。
 ▼ 34 ーテング@パイルのみ 17/09/18 18:37:35 ID:86tErLq6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
懐かしいな支援
 ▼ 35 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:37:48 ID:T8vVVcJo [31/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……ふぅー」


外に出ると、喉の奥につっかえていた空気がどっと吐き出された。

やれやれ、捕まった時はどうなることかと思ったが。

何はともあれ、街の掃除で終わるんなら良かった良かった……

……ん?

街?

部屋とか家とかじゃなくて?

…………。

……広くね?
 ▼ 36 ルネロス@ぎんのこな 17/09/18 20:41:01 ID:rfECWYng NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
待ってた
 ▼ 37 SxCy/NIFN. 17/09/22 00:51:26 ID:R0qJ.B8. [1/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「途方もねぇな」

ヤドン「やぁん」


エクストラ試練、『ポータウンの掃除』。

クリア条件は町内全域全ての家屋の清掃の終了。

開始から1時間半、現在の攻略状況は大体2パーセントほどだ。


「はぁ……」


もう既に腰が痛い。
 ▼ 38 SxCy/NIFN. 17/09/22 00:52:10 ID:R0qJ.B8. [2/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



話は遡って、クチナシさんと別れた直後。


「あ、あの! クチナシさん!?」

クチナシ「おうあんちゃん、忘れもんかい?」


街の掃除という罰の途方もなさに気づいた俺は、業務内容の確認をするべく交番へ戻っていた。
 ▼ 39 SxCy/NIFN. 17/09/22 00:52:45 ID:R0qJ.B8. [3/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「あの、街の掃除って具体的にどこの区画の話ですか?」


この辺のゴミを拾えとか、ゴミ袋がいっぱいになったらもういいよとか、学校のボランティア活動で良くあるやつ。

そういうアレだろうと思っていた。

まさか街全部ということはあるまい、と。


クチナシ「街全部だけど?」


そして、やはりというか、街全部だった。
 ▼ 40 SxCy/NIFN. 17/09/22 00:53:40 ID:R0qJ.B8. [4/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシさんは、スカル団が更生しもぬけの殻となった街を地道に管理し、維持しているらしい。

要は俺にその業務を代わりにやれということだった。

廃墟ならほっときゃいいのに。

まぁ、なぜそんなことをする必要があるのかは知らないが、何はともあれ罰は罰だ。

愚痴っても終わらない。次の家に行こう。
 ▼ 41 SxCy/NIFN. 17/09/22 00:54:36 ID:R0qJ.B8. [5/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「2軒目……いや、辛くなるから数えるのはやめよう」

ヤドン「やぁん」


「……さ、やるか」


ドアノブに手をかけつつ、軽く意気込む。


「おじゃましまーす……」


空き家と分かっていても、かつて誰かが住んでいたであろう家に入るのはなんとなく気が引ける。

静かにドアを開き、小声で失礼すると……。


バッドボーイ「よう」


……なぜか、見知った奴が出てきた。
 ▼ 42 SxCy/NIFN. 17/09/22 00:55:17 ID:R0qJ.B8. [6/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バッドボーイ「どうしたお前、空き巣か? 取るもんねぇぞ」


不審者を見るような顔で言うバッドボーイ。

だが空き家に人がいるこの状況、不審なのはどちらなのかという話だ。


「空き巣じゃねぇよ。つーかお前こそなんでこんなとこにいるんだ?」

バッドボーイ「…………。俺が俺の家にいて悪ぃかよ」

「お前の家……って……」


言い澱み、気持ちの悪い間がたちまち空気を重くする。

そうかこいつ、元……。
 ▼ 43 SxCy/NIFN. 17/09/22 00:55:53 ID:R0qJ.B8. [7/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「悪い。すまん」

バッドボーイ「何に謝ってんだよ。……そうだよ、俺は元スカル団だ」

「すまん、マジで」

バッドボーイ「だから謝んな意味わかんねぇから。別に隠すようなことでも……まぁ、あるけどよ」

「…………」


…………。


ヤドン「……やぁん」


間の抜けた鳴き声が、屋根を打つ雨音に吸い込まれていった。
 ▼ 44 SxCy/NIFN. 17/09/22 00:56:21 ID:R0qJ.B8. [8/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バッドボーイ「……ああもう、黙るなって! 気まずいっての!!」

「だ、だな。そもそも俺だってそういうのとやかく言える立場じゃないしな!」


そうだ、俺だって旅立つ前はスカル団をアテにしていた。

島巡り浪人中という意味でも同志だ。

別に気まずくなる必要はない。
 ▼ 45 SxCy/NIFN. 17/09/22 00:56:54 ID:R0qJ.B8. [9/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バッドボーイ「全くだぜ。……つーかお前はここで何してんだ? 入団希望ならもう受け付けてねぇぞ?」

「ちがうわ。ちょっとした罰で掃除当番なんだよ」

バッドボーイ「罰? 」

「あー……」


言うかどうか迷ったが、まぁもう過ぎた事件だ。隠すこともないか。


「人ん家の玄関に植林したら怒られた」

バッドボーイ「お前馬鹿か」

「…………」


あの時はグッドアイデアだと思っていたんだけどなぁ……。
 ▼ 46 SxCy/NIFN. 17/09/22 00:57:33 ID:R0qJ.B8. [10/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「そういや、お前こそなんでここにいるんだ?」

バッドボーイ「ああ? だから、俺ん家だって……」

「いや、攻略中断して一旦帰るにしても普通実家とかだろ」

バッドボーイ「あー……」


曖昧な声を漏らすバッドボーイ。

ライフラインも通ってなければ人もいない街に戻る理由が分からない。

普通は両親のいる家に帰るもんだと思うが……。

……まさか!
 ▼ 47 SxCy/NIFN. 17/09/22 00:58:07 ID:R0qJ.B8. [11/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「お前、家族ぐるみでスカル団なのか!?」

バッドボーイ「アホか。ちょっとここに用があったんだよ」

「用?」

バッドボーイ「ああ。グズマさん……俺らのボスに、ちょっとな。まぁ居なかったんだけど」

「そりゃそうだろ、廃墟だし」

バッドボーイ「それな。まぁそこはダメ元だったし、置き手紙だけ置いてきた」

「ふーん……」
 ▼ 48 SxCy/NIFN. 17/09/22 00:59:19 ID:R0qJ.B8. [12/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「じゃ、俺は掃除の続きだ。なんか奢るって話はまた今度な」

バッドボーイ「おう、時効とかねぇからな」



軽く挨拶してバッドボーイと別れた。

用って結局なんだったのかとか、グズマってどんな人なのかとか、まだ色々と気になることはあった。

だがなんとなく、踏み入ってはいけない話な気がしたのでやめておいた。

悪の組織には悪の組織なりの何かがあるのだと思う。

きっとスカル団もそのボスのグズマも、世間で言われているほど邪な存在ではなかったりするのだろう。

元スカル団のあいつが、俺にとっては共に試練を乗り越えた戦友であるように。


「歪み、か……」


なんとも言えない感情を飲み下して、俺は次の家の掃除に向かった。
 ▼ 49 SxCy/NIFN. 17/09/22 00:59:58 ID:R0qJ.B8. [13/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


【104日目】


「……終わりました」

クチナシ「おう、ごくろーさん」


まさか10日もかかるとは……。

肩も腰もバキバキだ。

試練達成並みの清々しさを感じる。


イーブイ「ぶい!」

コイル「##ッ!」


ほとんどボールに篭っていたこいつらもなぜか誇らしげだ。

キレそう。
 ▼ 50 SxCy/NIFN. 17/09/22 01:00:57 ID:R0qJ.B8. [14/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシ「おう、お前らも頑張ったのな」


そう言ってコイルとイーブイを軽く突っつくクチナシさん。

違いますよクチナシさん、そいつら初日と最終日ちょっと手伝っただけですよ。

ちなみにみずでっぽうで一番貢献したヤドンは疲れ果ててボールの中で寝ている。

通算で見てもパーティの中では最も活躍しているのだが、どこか不遇なやつだ。
 ▼ 51 SxCy/NIFN. 17/09/22 01:01:29 ID:R0qJ.B8. [15/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシ「んじゃまたな、あんちゃん」

「また、じゃないですよ。再犯とかしませんから」

クチナシ「ああ、いや……ま、いいか」


何か言いたげなクチナシさん。

いやいや、もう懲りましたよ。
 ▼ 52 SxCy/NIFN. 17/09/22 01:02:46 ID:R0qJ.B8. [16/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシ「ん、そうだ。最後に一つ、いいかな」


ドアノブに手をかけたところで、引き止められた。


「へ? なんですか?」

クチナシ「チャンピオンのねぇちゃんとククイの件……まだ他になんかする気はあんのかい? あんちゃん」


他に?

っていうと……。
 ▼ 53 SxCy/NIFN. 17/09/22 01:03:30 ID:R0qJ.B8. [17/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「だから、復讐なんてもうしませんって」

クチナシ「そういうことじゃなくてよ。……どうにかしよう、とか思ってんじゃねぇかなって」


ああ、なるほど。


「それができないから細い木なんて植えたんですよ」


俺にはどうしようもないということは分かっているし、分かった以上はどうにかしようとも思わない。

心配そうなクチナシさんの言葉を、卑屈に笑いとばす。


クチナシ「へっ……ま、そうだわな」


するとクチナシさんもまた、不敵に笑うのだった。
 ▼ 54 SxCy/NIFN. 17/09/22 01:04:10 ID:R0qJ.B8. [18/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

クチナシ「……呼び止めて悪かったね。もう行っていいよ」

「あ、はい。えっと……いろいろすみませんでした。……では」


ドアノブに置きっぱなしだった右手をひねり、ドアを開く。


クチナシ「ん。またな」


別れの挨拶は再び『またな』だった。


……だからもうやらないっつうの!!
 ▼ 55 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:24:28 ID:mCGS/NR6 [1/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


【104日目、続き】


「痛っ! ……尖ってんじゃねぇよ、クソ!」


棘の生えた草に意味もなく悪態をつきつつ、払いのける。

腰まで茂った濃密な蔦や草を掻き分け掻き分け進むのは、ウラウラの花園……

……の、脇の薮の中。

最寄りのライドターミナルへの道中だ。
 ▼ 56 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:25:01 ID:mCGS/NR6 [2/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

もし誰かがこれを見ているとしたら、『何故藪を通るのか』と問うだろう。

そして俺の回答はもちろん、『そこに藪があるから』……ではない。

俺だって本当は花園を観光しながら16番道路にあるターミナルに向かいたいところだ。

しかし、それができないのっぴきならない理由がある。
 ▼ 57 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:25:54 ID:mCGS/NR6 [3/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


クチナシさんと別れた後、交番から少し西に進むと、トレーナーがわんさかいた。

廃墟しかない行き止まりのポータウン周辺ではほぼ見かけなかったが、当然この島も島巡りの舞台。

ここがウラウラ島なことを考えるとおそらく彼らは数歩先を行く島巡ラーであり、今戦えば勝ち目はない。

しかし花園には遮蔽物もなく、ライドターミナルがある16番道路ポケモンセンターまでノーバトルで済ませるのは至難の業。


そんなわけで、俺はシルバースプレーを身に纏い、誰も通らないであろうこの深い藪を突っ切っているのである。
 ▼ 58 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:26:44 ID:mCGS/NR6 [4/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「ってぇ! また棘草! 半袖短パンなんだから手加減してくれよ……」


ブツブツと毒づきながら、森と格闘すること1時間半。

これまで入った森と違って、人が通ることが一切想定されていない自然そのままのエグさだ。

舐めて突入したことを少し後悔する。
 ▼ 59 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:27:36 ID:mCGS/NR6 [5/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「畜生、次に藪に入る時は長袖小僧に……」

???「ぴぃーーーっ!!」

「はっ!?」


真上から聴こえた鳴き声に、愚痴っぽい思考を中断する。

緊張が走る。

なにせ、ここは俺たちのレベルで来るところじゃない。

ただの野生ポケモン相手でも苦戦は必至だ。

スプレーの効果でポケモンは近づいてこないはずなのに……!
 ▼ 60 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:28:07 ID:mCGS/NR6 [6/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ええい、出てこいヤドン!」

ヤドン「やぁん」


ヤドンを繰り出し、林冠を見上げる。

どこだ……どこから来る……!

どこから……!

…………。

…………?
 ▼ 61 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:28:40 ID:mCGS/NR6 [7/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……来ねぇな」

ヤドン「やぁん」


10秒ほど経っても何も来ない。


「何かに狙われたわけじゃないのか。じゃあ……」


気を取り直して先に進もうとすると……。


???「ふわわっ! ぴぃ! ぴぃーーっ!!」

「!?」


また鳴き声。

というより……悲鳴?
 ▼ 62 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:29:44 ID:mCGS/NR6 [8/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「なんなんだよ……」


もう一度辺りを見渡す。

だが、やはり何も見当たらないわけで……。


ヤドン「や。やん」


キョロキョロしていると、何事か、ヤドンが俺に呼びかけてきた。

振り向くと、目線で右上の方を示している。

指図されるがままに、その方向に目を凝らすと──


「……あ」

モンメン「ぴぃーーー!」


──視界を緑に染める葉っぱに混じって、モンメンが枝に刺さっていた。
 ▼ 63 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:30:50 ID:mCGS/NR6 [9/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

モンメン「ふわっぴぃぃ! ぴぃいいい!」

「あー……」


涙目で何やら必死に訴えるモンメン。

なんだか強烈なデジャブを感じる。

モンメンは風に乗って移動するポケモン。

そしてそのモンメンが枝葉に刺さったこの状況。

つまりは……。


「……事故ったのか、お前」

モンメン「ぴぃぃ!」
 ▼ 64 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:32:03 ID:mCGS/NR6 [10/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

まぁ、ひとまず戦闘じゃなくてよかった。

別に急ぎでもないし、取り敢えず救出しよう。


「ヤドン、適当に撃ち落としてやって」

ヤドン「やぁ、んっ」

モンメン「ぴひっ!?」

軽くみずでっぽうが放たれ、モンメンに直撃。

枝葉が大きく揺れる。


モンメン「ぴ……ぴぃ! ぴぃーっ!!」

ヤドン「や、やぁん……」


しかし、刺さった枝はなかなか厄介な絡み方をしているようで、モンメンは落ちて来ない。

逆ギレされてヤドンが困っている。
 ▼ 65 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:32:33 ID:mCGS/NR6 [11/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ダメか。……じゃあ、コイル! 直接枝を解きに行ってやれ!」

コイル「##ー!!」


ボールからコイルが飛び出し、意気揚々と林冠に向かって上昇する。

だが、モンメンまでの距離を半分ほど詰めたところでふよふよと停止し、徐ろにこちらを振り向いた。


コイル「#……##ーっ!」

「そこまでしか飛べないのか!?」

コイル「#ー!!」


どうやら3mちょっとの高度がコイルの限界らしい。

地面からの磁力とかの関係だろうか。
 ▼ 66 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:33:25 ID:mCGS/NR6 [12/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

仕方ないので直接木を登って救出することにする。

本当にデジャブ感がすごい。


モンメン「ふわ……ぴぃ! ぴぴぃーーっ!!」

「うるせぇよ! いいから黙って待って……」

モンメン「ふわわ……ぴぃっ!!」

「んなっ……!? ゴホッ! ぶはっ!? 」


突然撒き散らされたドス黒い粉をモロに吸い込む。


「ごへっ!」


口に入り込んだ粉のあまりのエグみに、思わず幹から手ご離れ、腐植の地面に体が打ち付けられた。

コイツ、どくのこな撒きやがったな!?
 ▼ 67 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:33:50 ID:mCGS/NR6 [13/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「助けられたいのか助けられたいのかハッキリしろよ!!」


胸の辺りになんでもなおしを吹き付けつつ憤る。

持ってなかったらあと8ターンで死ぬとこだったじゃねぇか!


「ったく、誰のためにやってると……」

ヤドン「やぁん」


悪態をついていると、ヤドンが不意に足をちょんちょんしてきた。
 ▼ 68 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:34:24 ID:mCGS/NR6 [14/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ああ?」

ヤドン「やんやん」

眉をひそめてこちらを見て、鼻を抑えるような格好を取るヤドン。


「なるほど、そういう」

モンメン「ぴぃ!」


シルバースプレーつけたまま近寄んなってことね。
 ▼ 69 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:34:48 ID:mCGS/NR6 [15/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

しかしこうなると厄介だ。

俺と3匹の力じゃあれだけの高さはどうすることもできない。

心苦しいが、もうほっとくしか……。

……いや、まてよ?


「あー、モンメン」

モンメン「ぴぃ?」

「避け……はできないか。はじいたりすんなよ?」


俺はリュックからモンスターボールを取り出し、投球の構えをとった。
 ▼ 70 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:35:20 ID:mCGS/NR6 [16/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




カチリと音が鳴り、ボールの揺れが止まった。


「お、おう」


若干戸惑う。

ボールの機能を利用して枝から解放すること。

そこは目論見どおりだったが、まさかそのまま捕獲されてしまうとは。

あのモンメン、思った以上に体力が削れていたらしい。

結構長いことあそこに刺さっていたんだろうか。
 ▼ 71 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:35:48 ID:mCGS/NR6 [17/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「どうすっかな、これ……」


モンメンが入ったボールを見つめながらぼやく。


「##?」

「いや、食費とかレベルとかな」

「##……?」
 ▼ 72 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:36:11 ID:mCGS/NR6 [18/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

コイルはよく分かっていないようだが、モンメンを手持ちにそのまま加えるのは正直厳しい。

一般に、初心者トレーナーの手持ちは3匹程度が無難と言われている。

その理由の一つが、金銭的な問題。

単純に、ポケモンを養うには金がかかる。

浪人ならなおさらだ。
 ▼ 73 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:36:32 ID:mCGS/NR6 [19/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そしてもう一つは、育成の問題。

確かに6匹まで持てるルールだが、経験値効率を考えると、手持ちを増やすというのは非常に難しい。

3匹を4匹にするだけでも、これまでの1.3倍の戦闘をこなす必要が出てくる。

現状でさえレベル不足気味なのだ。

それは流石に厳しいと言わざるを得ない。
 ▼ 74 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:37:15 ID:mCGS/NR6 [20/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……まぁ、モンメンだって捕まりたくて捕まったわけじゃないしな。

ポケセンに着いたら手続きして逃してやればいいか」

コイル「##ーー!?」


コイルが不服をあらわにするが、そこはどうにもできないことなので納得してもらうしかない。


「文句言わない! さ、そうと決まればさっさと森抜けるぞ!」


そう言ってヤドンとコイルをボールに戻そうとした、その時。


「!」


久方ぶりに、例の感覚が五臓六腑を貫いた。
 ▼ 75 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:37:53 ID:mCGS/NR6 [21/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「なっ……!?」


ここ森の中だぞ!?

慌てて『視線』を感じた先を振り向く。


ホープトレーナー「藪の中が騒がしかったから来てみたら……やっぱりトレーナーだ」


ホープトレーナーがしたり顔でこちらを指差していた。

なるほど、モンメン救助でドタバタしてたからか。

確かに道はすぐそこに見える距離だもんなぁ。そりゃ気づくわ。
 ▼ 76 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:38:52 ID:mCGS/NR6 [22/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ホープ「さ、所持金の1割と経験値は貰ってくよ!」


おい、率直すぎるだろ。


「賊かなんかかよ、趣味悪い」

ホープ「賊って……。君ここまできてそれ言うの?」


困惑気味に言うホープトレーナーの少年。

まぁ、一理あるか。

俺としては完全に狩られる側の意識だったが、向こうからすれば同格勝負のつもりだろう。

単に『バトルしようぜ』的なノリで『金と経験値よこせ』と言っただけなのかもしれない。

……それはそれで嫌な世界観だが。
 ▼ 77 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:39:31 ID:mCGS/NR6 [23/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

状況の整理がついてきたところでふっと息を深く吐き出し、真っ直ぐに相手を見据える。


「金と経験値? お断りに決まってんだろ」

ホープ「だよね。じゃあ早速バトルを……」

「頼む、金だけで勘弁してくれ」


俺はそう言ってひざまづき、頭を地面にこすりつけた。


ホープ「!?」


自慢のわざ、『いのちごい』。

プライドを身代わりにして難を逃れる退場わざだ。
 ▼ 78 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:40:07 ID:mCGS/NR6 [24/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ホープ「ちょっ……顔上げて!? 君プライドとかないの!?」

「いや、ある……!」


さらに深く、腐植の地面にめり込むほどに頭をこすりつけていく。

思うに、プライドのない土下座はただのポーズでしかない。

プライドがあるからこそ、俺の土下座には意味がある……!
 ▼ 79 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:40:47 ID:mCGS/NR6 [25/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

普段であれば甘んじて敗北を受け入れ、またか、とため息をつきながらポケモンセンターに走っただろう。

だが今はプライドを捨てるだけの理由がある。

そう、さっき捕まえてしまったモンメンだ。

今現在は俺の手持ちにカウントされている以上、戦えばモンメンも犠牲になる。

助けておいてそんなものに付き合わせるのは流石にあんまりだろう。

逃すまでの間、保護した者として最低限の責任は持ちたい。

そしてその責任の形が、この土下座なのだ。
 ▼ 80 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:41:24 ID:mCGS/NR6 [26/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……実は、俺たちまだアーカラ島もクリアしてないんだ。ここにはちょっとした事情で来ただけで、ポケモンも弱いんだよ」

「さっき色々あって捕まえたポケモンも弱り切ってて、戦わせるのが忍びないしさ」

「賞金は払うから、経験値は諦めて見逃してくんないかな」


土にひたいを押し付けたまま、率直に慈悲を願う。


ホープ「……だから、顔上げてよ」


ホープトレーナーがかがみこみ、肩を軽く叩いて来た。

促されるまま顔を上げると──


ホープ「それはそっちの事情だよね? バトルしようよ」


──至近距離でこちらを覗き込む少年の顔は、全くの無慈悲だった。
 ▼ 81 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:42:22 ID:mCGS/NR6 [27/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ジョーイ「お待ちどうさま。あなたのポケモンはみんな元気になりましたよ!」

「ありがとうございます……」


ラランテス戦で培ったまもる戦術で全力で遅延しながら勝ち筋を探り、指示の合間に数え切れないほど降参を宣言した。

が、無情にもバトルは続行され、全滅。

プライドと所持金を両方失い、さらにモンメンに深い心の傷を負わせる結果となった。

とはいえ結構頑張った方だと思う。

このレベル差で20分以上も戦闘が続けられたのだ。

戦闘を相手の『わるあがき』発動までもつれさせたのは、もう快挙と言ってもいいのではないか。

格上相手に一矢報いたという点では及第点だろう。
 ▼ 82 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:42:52 ID:mCGS/NR6 [28/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


モンメン「ふわ……」

「……マジですまんかった」


げっそりとしているモンメンに謝罪する。

一旦ボールの中に入ってもらうだけのはずだったのにコレだ。

本当すまない……。
 ▼ 83 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:43:34 ID:mCGS/NR6 [29/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「まぁ、これからは気をつけて飛べよ」

モンメン「ぴぃ?」


俺はソファから立ち上がり、ちょうど列が切れたポケセン共用PCを起動した。


「……っと、これか」


メニュー画面を手探りで弄り、すこし苦戦しつつもポケモン管理画面を開く。

あとはモンスターボールを読み取り台に乗せて、『逃す』を選択すれば手続きは終了。

モンメンは晴れて野生のポケモンに戻れるというわけだ。
 ▼ 84 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:44:04 ID:mCGS/NR6 [30/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「バトルに付き合わせて悪かった。……じゃあな」


そう言って画面のキーに軽く触れると、ボールを置いている台が青く光った。

これでモンメンのモンスターボールから諸々の登録がクリアされ、効力が消える。

人間の臭い的なものもまださほどついていないだろうし、すぐにでも野生の生活に戻ることができるだろう。
 ▼ 85 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:44:48 ID:mCGS/NR6 [31/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ポケセンの外に出て、モンメンを放す。


「枝に気をつけて帰れよな」

モンメン「ぴぃー?」


モンメンが不思議そうにこちらを見つめる。


「どうした? 多分お前の実家ってすぐそこの花園だろ? 」

モンメン「ふわわ……」


促すも、なかなか離れない。

情がうつるから早く行ってくれよ……。
 ▼ 86 SxCy/NIFN. 17/09/26 06:45:50 ID:mCGS/NR6 [32/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

結局モンメンは日が沈んでも離れなかった。

コイルやイーブイが駄々をこねて余計別れにくい空気にしてくるせいで二進も三進もいかず、その日は結局ポケセンに一泊。

そして夜中モンメンが寝ているうちにポケセンをチェックアウト。

モンメンの対処はこっそりジョーイさんにお願いして、そのまま逃げるようにウラウラ島を後にした。


まぁ、この島にはいずれ戻ってくる。

もしかすればまた会うこともあるだろう。
 ▼ 88 ノンド@もうどくプレート 17/09/26 21:29:48 ID:TSN3zO7U NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 89 SxCy/NIFN. 17/09/30 13:29:49 ID:VWdRCg5. [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


【105日目】


「あー、着いた」


星空をライドで抜けて、久しぶりのアーカラ島、カンタイシティポケセンに到着した。

現在時刻は深夜2時過ぎ。

睡眠を普段の半分ほどで切り上げて旅立ったので、流石にちょっと眠い。
 ▼ 90 SxCy/NIFN. 17/09/30 13:30:35 ID:VWdRCg5. [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「さて、こっから島巡り再開か……」


思えばラランテス撃破から10日以上。

とんだロスだったが、いざ島巡りのコースに再び立つと、言いようもない倦怠感がこみ上げてくる。

むしろ、10日間仮宿とその場の使命を与えられて島巡りから逃避できたのは僥倖だったのかもしれない。
 ▼ 91 SxCy/NIFN. 17/09/30 13:31:17 ID:VWdRCg5. [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

しかしその逃避もここでひとまず終え、残り半分となった試練を片付けねばならない。

中だるみの時期だからこそサクサク進むべきだ。

となれば未明のうちにここを発ち、トレーナーがいないトンネルを一息に抜けてコニコシティを目指した方がいいだろう。
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