【SS】 独りのヨワシと一人のヨワシ

……海は、綺麗だ。



ボクは泳ぎ続ける。



あてもなく、独りで、気ままに。




……お腹が空いた。



水面へ上がろう。

パクっ……。



どこからか流れてきたのであろう木の実をかじった。


美味しい。


今日は運が良い。


何日ぶりの食事だろうか。


そのまま全て食べた。


ボクはまた深い所へ戻って行く。

ボクは独りだ。


生まれた時からそうだった。


たまにボクの目の前に現れる大きな生き物が、ボクを「ヨワシ」と呼ぶ。


ボクはヨワシというらしい。


他のボクは、見たことがない。


ボク以外の生き物なら、幾度となく会ってはいるが。


ボクを見るなり、「旨そうだ」などと言って追いかけてくる。


ボクは小さいから、岩や珊瑚の狭い通りを抜けて逃げる。


食べられるのはごめんだ。

暇だ。


何もすることがない。


あるとすれば、食糧探しか。


でも、さっき食べたからしばらくは平気な気もする。


ボクは泳ぎ続ける。

「あら、ヒトリ？迷子にでもなったの？」



突然、ボクの目の前に知らない生き物が現れた。


青くてふよふよしている。


頭部には大きな目玉みたいなものを付けている。


うねうねした触手が気持ち悪い。


普段ボクを食べようとしない奴だ。


だからと言って、警戒しないわけではない。


「ヨワシの群れなら、さっき向こうに行ったわよ。」


ヨワシの群れ………？


ボク以外のボクに、会えるかもしれない。


「ありがとう。」


ボクは礼を言って、触手が指す方へ泳いで行った。

ボクは知っている。


「ヨワシ」という生き物が、弱いということを。


群れたヨワシは、強いということを。


タロウと呼ばれた生き物や、コウスケと呼ばれた生き物がボクを見てそんなことを言った。


ボクは、独りだから弱いのだろうか。


いや、ボクは生きている。


生きている者は強いのだ。


食べられずに済んだのだから。

ボクは泳ぎ続ける。


だけど、ボクは見当たらない。


どこだろう。

「き、君、僕らの群れのヨワシじゃ……ないよね？」


ボクがしゃべっている。


違う。


ボクと同じ姿をした僕が話している。


「違うよ、ボクはヒトリなんだ。」


「そうなんだ。実は、僕もヒトリなんだ。」


群れているのにヒトリ？


そういえば、僕……君の仲間が見当たらない。


「えへへ。君の群れはどこ？」


「ボクの群れは無いよ。」


「えっ……？仲間、居ないの？」


「本当の本当にヒトリなの？」


ボクは、ヒトリ。


君も、ヒトリ。


ボクは、独り。


君は……？


「僕、群れの中でもとびきり弱くてさ。」


「友達が、居ないんだ……。」


トモダチ。

って、何だ？

「ねえ、君の仲間はどこにいるの？」


「僕の仲間は……。」


君が回りを見渡した。


居る。


たくさんの、君が。


2、3匹で集まって泳いでいる。


「普段は少数で行動しているんだ。」


「まあ、僕は一人なんだけれど。」



君の言う一人と、ボクの独り。


「ねえ、もしよければ、君も僕の群れに入らない？」


「そうすれば、僕も君も、ヒトリじゃないよ！」


「ヒトリとヒトリが集まれば、ヒトリじゃなくなるんだからさ！」

ボクは知っている。


「ヨワシ」という生き物が、弱いということを。


ボクは知っている。


群れたヨワシは、強いということを。


ボクは知っている。


群れたヨワシは、ただの弱い者同士の馴れ合いであることを。


ボクは違う。


「ボクは、独りでいい。」


「弱いヤツは、せいぜい弱いヤツで仲良く暮らせば良い。」



なんだこの感じは。


胸がムカムカする。



ボクは、君と会いたくない。


ボクはくるりと後ろを向いて泳いで行った。

後ろを振り返った。


君はいなかった。


けれど、大きな大きな生き物がいた。


怖い。


逃げた。

疲れた。


泳ぐのを止めた。


急に、辺りが暗くなった。


振り返った。


大きな生き物が、ボクの上にいた。


ボクは、その生き物の影の中にいた。



「いただきます」



生き物が言った。


ああ、食べられる。


そう思った。


視界がぼやける。


そして、暗かった影の中が明るく光った。


ぼこぼこぼこぼこ


音がして、ボクの視界は再び暗くなった。

いつのまにか目を閉じていたらしい。


ボクは目を開けた。


大きな生き物は居なくなっていた。


その代わり、たくさんの、ボクが、君が居た。


「一人でいちゃ駄目だろ？なにやってんだよったく……。」


君でもない、キミが話しかけた。


「ごめんなさい。」


ボクは言った。


ボクはキミ達から離れた。


そして、キミ達を見た。


大きな大きな生き物が、そこには居た。


怖いと思ったその生き物は、ヨワシの群れだった。


ボクは、その群れの仲間になっていた。

「これで君も、僕たちの仲間だね。」


さっきの君が近づいてきた。


「一人は危険だよ。皆といれば安全だから、ね？」


「うん。」


ボクは返事をした。


結局ボクは、君達といることを選んでしまった。


ボクは弱い者に成り果ててしまった。


なんて哀れな生き物なのだろうか。

しばらく経った。


ボクと君はトモダチになった。


ボクは、仲間と、群れて暮らしている。


ボクは、独りでも、一人でも無い。


独りは、怖い。


皆といるほうが、楽しいことも多い。


ただ、最近思う。


これで良かったのだろうか。


自分で言ったじゃないか。


群れは弱いヤツの馴れ合いだと。


ボクは、ボクは……。


ボクは弱い。


だから、いいんだ、これで。


ボクは、所詮ヨワシなのだから。



【SS】 独りのヨワシと一人のヨワシ 〜完〜

昨晩衝動的に一気に書いたので、一気に投下しました。
もし読んでくださった方がいれば嬉しいです

乙

おつ

よかったぞ

今更ながら、>>7と>>8の間の文章が抜けてることに気づいた……。






ボクは泳ぐのを止めた。


見つけた。


ボクを。



補って読んでくださいな……。