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【SS】風の悪戯

 ▼ 1 ーミラー@アシレーヌZ 19/01/24 02:44:57 ID:A106EZwo [1/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
もう春がやって来たのか......


風が爽やかに吹く季節。

桜咲く季節。

そして、僕ら───ワタッコが旅立つ季節が。

春になると、僕らは子孫を増やすため季節風に乗る。

そして世界のあちこちを旅するんだ。


だけど、去年は違った。

あの出会いを......忘れるはずない。

彼女と過ごした日々を。
 ▼ 2 ズパス@マトマのみ 19/01/24 02:45:31 ID:A106EZwo [2/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
これは去年の今頃の話だ。


─────────────────────────

今年も旅立ちの季節だ。

みんなが風に流されていく。

いよいよ僕の番だ。

フワッと軽い風が吹く。


僕らにとってはそれだけで充分だった。

少しの風でも、風に乗ってしまえばこちらの物。

いくらでも移動が出来る。
 ▼ 3 ラードン@すごいつりざお 19/01/24 02:46:32 ID:A106EZwo [3/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
風に乗ってから暫く経った。

少し綿毛が撒かれてく感覚がする。

大抵は半年から1年に一回の為、この感覚も懐かしい。

そこまで不快でもないし......


風に乗っている間は特に目的地も決めてないため、景色を眺める暇がある。


その時、急に風が強く吹いた。
 ▼ 4 ースト@ホイップポップ 19/01/24 02:47:03 ID:A106EZwo [4/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ワタッコ「あいたっ!」

???「キャッ!」

僕は誰かにぶつかったんだ。

その勢いで地上に落ちてしまう。

ワタッコ「いたた......」

???「ちょっと......気を付けてよね?」

ワタッコ「うん......ごめん、君は?」

エルフーン「私? 私はエルフーンよ、あなたは?」

ワタッコ「僕はワタッコだよ」


そう、エルフーンに出会ったんだ。
 ▼ 5 ラミドロ@ひのたまプレート 19/01/24 02:48:05 ID:A106EZwo [5/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
僕らの間に沈黙が訪れる。

ワタッコ「......」

エルフーン「......」

気まずい、どうしよう。

そう思ってると彼女が話し掛けてきた。

エルフーン「ワタッコはなんで空を飛んでるの?」

ワタッコ「僕らは子孫を残すために、風に乗って空を飛ぶんだ」

エルフーン「そうなんだ〜」

そう言って彼女は笑った。

その笑顔が、とても可愛かったんだ。
 ▼ 6 ガラグラージ@ライトストーン 19/01/24 02:48:44 ID:A106EZwo [6/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エルフーンの顔に見惚れてると......

エルフーン「ねぇ、聞かないの?」

その声で我に返る。

ワタッコ「えっ、何を?」

そう言うと、焦れったそうにエルフーンが言ってきた。

エルフーン「私が質問したんだらワタッコも質問し返してよ......ここで出会ったのも何かの縁だしさ?」

ワタッコ「あっ、うん分かったよ。 君はなんで空を飛んでるの?」

エルフーン「私は......誰かに悪戯をするためかな」
 ▼ 7 ケッチャ@ヒールボール 19/01/24 02:49:24 ID:A106EZwo [7/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ワタッコ「悪戯って?」

エルフーン「例えば、誰かの寝床に綿をばら蒔いたり」

何の為にそんな事をするんだろう......

エルフーン「まぁ私はしないんだけどね、私達の種族の中にはそんな事をするのもいるよ」

ワタッコ「じゃあ、何の為に?」

エルフーン「う〜ん......何でだろ、分かんないや。 強いて言うなら自分探しかなぁ......」

ワタッコ「そっかぁ」

まぁ理由なんて無くても軽いから風に飛ばされそうだもんね。

それは僕も同じなんだけどね。
 ▼ 8 ラティナ@みどりのかけら 19/01/24 02:50:38 ID:A106EZwo [8/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エルフーン「......あっ、そう言えば」

ワタッコ「どうしたの?」

エルフーン「旅を続けなくて良いの?」

あー......それか。

ワタッコ「風が吹けば行けるんだけどね......」

でも、それよりも......

彼女とまだ話したかったんだ。
 ▼ 9 ッポウオ@やすらぎのすず 19/01/24 02:51:09 ID:A106EZwo [9/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ワタッコ「もう暫く後で行くよ」

実際、風が吹いてないから無理だしね。

エルフーン「そっか、それならお願いがあるんだけど良い?」

ワタッコ「どんなお願いなの?」

エルフーン「私も......私も付いてって良いかな?」

ワタッコ「えっ......?」

別に誰かを連れるなと言うルールも無いし......

そもそも断ると、彼女を悲しませそうで。

ワタッコ「うん! 良いよ」

エルフーン「わぁ......ありがとう!」

その笑顔をいつでも見れるのなら......
 ▼ 10 ボミー@あなぬけのヒモ 19/01/24 02:51:55 ID:A106EZwo [10/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
その日は結局地上で過ごしたんだ。

────翌日。

ワタッコ「そろそろ風が吹きそうだね......準備は出来てる?」

エルフーン「うん!」

無邪気な子供みたいだなぁ。

他愛ない話を暇潰し代わりにする。

そして風が訪れる。

爽やかなそよ風だった。

ワタッコ「じゃあ、行こう!」

風は僕の心を表しているのだろうか。


彼女との旅が始まった。
 ▼ 11 ェルダー@ふといホネ 19/01/24 02:52:28 ID:A106EZwo [11/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
もちろん誰かと一緒に飛ぶ事で景色が変わるはずはない。

だけど、自分だけで移動するよりは......

彼女と、エルフーンと一緒に行動したい。

何もない草原に、沢山の花が咲いたような......

この時間がとても愛しかった。


桜が散り、若葉が芽生え......

それでも僕らは一緒だった。
 ▼ 12 ガボスゴドラ@はかいのいでんし 19/01/24 02:53:23 ID:A106EZwo [12/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告








でも、そんな幸せな時間も長くは続かなかった。


これは全て風が悪いんだ......









 ▼ 13 レイハナ@するどいキバ 19/01/24 02:54:33 ID:A106EZwo [13/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
僕の移動手段である風は、僕とは切っても切れない存在で。

僕達が生き残るには必要な訳で......


だけど!

この時だけは風を恨んだ。


本当に許せない、だけど必要で。


話は次へと移る......
 ▼ 14 ロエッタ@げんきのかたまり 19/01/24 02:55:08 ID:A106EZwo [14/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
時はもう少し流れ、梅雨前。

当たり前のように空を飛んでいた僕らは、突然の雨に襲われた。


エルフーン「うわっ! 綿が濡れちゃうよ」

ワタッコ「どこか洞窟に避難しよう」

僕も綿が濡れると困るしね。

二匹分入れそうな所を探す事にした。
 ▼ 15 ローニャ@ハイパーボール 19/01/24 02:55:35 ID:A106EZwo [15/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
運良く洞穴を見付ける事が出来たんだけど......

僕らの災難はこれだけでは済まなかった。

エルフーン「コホン......コホン!」

身体をまともに濡らせてしまったエルフーンが風邪を引いてしまったんだ。

風邪を治すにはオレンの実が必要で......


外に雨と風が吹き荒れる中、オレンの木を探しにいった。
 ▼ 17 リバード@ルームキー 19/01/24 02:59:21 ID:A106EZwo [16/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
いくら風を自在に操れると言っても、ここまで酷かったら一筋縄ではいかない。


いくら何でも、風が強すぎる。

これは......台風なのかな。

風にあおられる事が多い。

だけど、エルフーンの為なら......


その思い一筋で移動するんだ。
 ▼ 18 ォーグル@シーヤのみ 19/01/24 02:59:56 ID:A106EZwo [17/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
だけど風が吹くって事は綿毛が飛ぶって訳で。

その風の勢いが強い程、綿毛はドンドン飛んでいって。


だからようやくオレンの木にたどり着いた頃には、綿毛の量は半分も減っていた。

何とかオレンの実をもぎ取って、両手に抱え(と言っても綿毛だけど)......

風にあおられつつ戻ってくのだった。
 ▼ 19 チュール@ひきかえけん 19/01/24 03:00:41 ID:A106EZwo [18/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
洞穴に苦労して戻れた僕。

両手に抱えたオレンの実も二つしか残ってなかった。

途中で風に飛ばされたんだ、綿毛と一緒に。

ワタッコ「エルフーン、オレンの実だよ」

エルフーン「あ、ありが......えっ......?」

エルフーンは絶句していた。

エルフーン「何......その姿」

僕の綿毛は全部飛ばされてしまったんだ。
 ▼ 20 グトリオ@メガリング 19/01/24 03:01:29 ID:A106EZwo [19/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エルフーン「私の為に......そんな」

ワタッコ「いいや、気にしてないよ」

エルフーン「そんな事言われたって......!」

ワタッコ「僕は自分の事よりも君の事が大切だと思ってる。 だから、気にしないで。 それに......」

エルフーン「それに? コフン!」

まだくしゃみしてるな......

まずはオレンを速く食べさせよう。
 ▼ 21 ンダー@6ごうしつのカギ 19/01/24 03:02:33 ID:A106EZwo [20/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
オレンを食べ終わったエルフーンに話しかける。

ワタッコ「あのね、僕の綿毛はまた生えてくるんだ」

エルフーン「ふぇ? そうなの?」

ワタッコ「あぁ、そうだよ......時間は掛かっちゃうけどね」

あまり例を見ないが、多分大丈夫だろう。

エルフーン「じゃあ綿毛が生えて、飛べるようになるまで一緒にいるね!」

風邪の中でもこんなに可愛い笑顔を見せてくれるのか......

急に意識を失った。

エルフーン「ワタッコ? どうしたのー?」
 ▼ 22 ンドラー@トウガのみ 19/01/24 03:03:03 ID:A106EZwo [21/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
そうして辛い梅雨の季節は過ぎた。

エルフーンの風邪も無事治り、また外に出れるようになった。


そして僕は地に根をはった。

土から栄養分をすいとり、綿毛を生やすため。

でも本当に大丈夫なのかな......

イレギュラーだから、僕の回りにそんな事をした仲間もいないし......

エルフーン「これで大丈夫なの?」

ワタッコ「うん、多分またあの時期になれば......」

エルフーン「そっかぁ......何とかなるよね!」


彼女に励まされてしまった。

ワタッコ「うん!」
 ▼ 23 ルマイン@やわらかいすな 19/01/24 03:03:25 ID:A106EZwo [22/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エルフーンが隣に座り、話しかけてくる日々。

それだけで、幸せだった。


でも......

突然、一陣の風が吹いた。
 ▼ 24 ロンダ@オーキドのてがみ 19/01/24 03:04:06 ID:A106EZwo [23/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告








エルフーンが飛ばされていったんだ。









 ▼ 25 ラクロス@アイテムコール 19/01/24 03:04:30 ID:A106EZwo [24/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エルフーン「あっ......」

あまりにも突然過ぎる別れ。

楽しかった時間も、一瞬で終わる。

一瞬で壊れる。


僕は当然追い掛ける事もままならない。

エルフーンは涙を流しつつ、風に流されてった。

エルフーン「ワタッコ......!」

ワタッコ「エルフーン! 僕は君を追い掛けるから! だから、空の何処かで待ってて! 辿り着いてみせるから!」

ありったけの思いを伝えた。

......エルフーンには聞こえたのかな。

僕は大粒の涙を落としていた......
 ▼ 26 ードル@ふたのカセキ 19/01/24 03:05:11 ID:A106EZwo [25/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
そして更に季節は移り......


夏の暑い日差しが照らそうとも

時々強い雨にさらされながらも

紅葉した葉が散ろうとも

雪が降ろうとも


僕はずっと根をはり続けた。


全ては彼女に会うために。
 ▼ 27 ニーゴ@ありふれたいし 19/01/24 03:05:46 ID:A106EZwo [26/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
そして今に至る。

─────────────────────────

少し生暖かい風が吹いてきた。

このチャンスを逃さず風に乗る。


やはり旅も良い。

だけど、彼女がいない。


欠けたピースがいつまで経っても修復されなさそうで......

はぁ......
 ▼ 28 ーデリア@つかまえポン 19/01/24 03:06:18 ID:A106EZwo [27/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
そんな時だった、大きな風が吹いたのは。

流石に乗れなくて流されていく。


ワタッコ「うわわわわ!?」

止まらない加速。

そして目の前に何かが迫ってきた。

ワタッコ「ちょ......うわっ!?」

???「キャッ!?」


......え?
 ▼ 29 ズゴロウ@びっくりこやし 19/01/24 03:06:41 ID:A106EZwo [28/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エルフーン「ちょっと......ってワタッコ!?」

ワタッコ「エ、エルフーン......なんだよね?」

エルフーン「うん! また、また会えたんだね......!」

僕らはお互いに泣きあった。


そんな、こんな奇跡って......


本当に風って奴は......
 ▼ 30 ヌギダマ@ハートスイーツ 19/01/24 03:07:56 ID:A106EZwo [29/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
あの時だけは風を許せなかった。

だけど、その風に乗って彼女にまた会えた。

思えば彼女に出会えた切っ掛けも風だっけ。


本当に風は気紛れだ。

いや、悪戯してるのかもしれない。

嘲笑って、でも悪い所ばかりではなくて......

まるで彼女の種族みたいな......

エルフーン「また一緒に居てくれる?」

ワタッコ「もちろん! 一緒に旅しよう!」

これからまた一緒に旅が出来ると思うとワクワクしてきた。


彼女は風の精だったり......まさか、ね。
 ▼ 31 eTsMgllceI 19/01/24 03:08:31 ID:A106EZwo [30/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
終わりです。
ワタッコは『ねをはる』を覚えないので悪しからず。
見てくださった皆さんありがとうございます。
 ▼ 32 リキリ@ピーピーエイド 19/01/24 09:16:55 ID:/tmMTowY NGネーム登録 NGID登録 報告
乙。
ふんわりとした雰囲気で良かったよ!
 ▼ 33 マカジ@みどりのはなびら 19/01/24 22:30:17 ID:LewcsMZ6 NGネーム登録 NGID登録 報告
作者病んでそう
 ▼ 34 ズモー@4ごうしつのカギ 19/01/24 22:32:44 ID:BFs2QRiE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 35 オガエン@もくたん 19/01/24 23:29:35 ID:B8AI/nsM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
前にナックラーとビビヨンのSS書いてた?
乙!
 ▼ 36 ャラドス@ガオガエンZ 19/01/26 23:19:04 ID:y0tgdomQ NGネーム登録 NGID登録 報告
乙です!
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