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【SS】最期の灯火消ゆるまで

 ▼ 1 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:20:26 ID:kL6EfNeo [1/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





──…『……あぁ、またあの夢だ』



──…『慈愛という名を借りた、命を貪むさぼる苦痛の根源』


──…『呪いという名を借りた、忌いむべき最愛の悪夢だ』


──…『幾度いくどとなく繰り返してきた。 それも、もうじき終わる。 ようやく解放される』




──…『僕の魂の終焉と共に……』






──…『……ただ、せめて……最後にたった一度きりで構わない』


──…『……この命が燃え尽きてしまう、その前に』




──…『……もう一度、君に……』




 ▼ 2 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:21:47 ID:kL6EfNeo [2/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告







【SS】最期の灯火消ゆるまで






 ▼ 3 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:25:03 ID:kL6EfNeo [3/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告





「……おや?」



「人間の霊魂……だね。 まさかこの常闇とこやみの中を彷徨さまよってこんなところまで来るだなんて」


「……そうか、僕のこの灯火に誘いざなわれたんだね」


「ここは『墓場』……とでも例えようか」

「生者の世界とも死者の世界とも違う。 生と死の狭間はざま、魂が消えゆく場所」

「この闇は全てを呑み込み膨張し続ける。 長居すれば君もこの墓場の一部となるかもね」



「…………。」



「……君、もしかしてこの場所に留まろうとしているのかい?」


「……理解に苦しむね」



 ▼ 4 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:28:12 ID:kL6EfNeo [4/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




「……どうだい? 僕の頭上に灯るこの炎は」


「実に艶めかしく鮮やかで、魅入ってしまいそうだろう?」

「吸い込まれてしまいそうだろう?」



「これはね、人間の生命力や魂を糧に燃えているんだよ」



「僕は、人の魂を喰らう化け物だ」






「…………。」

「……恐ろしくないのかい?」


「……どうやら僕は脅しや警告が苦手らしい」

「加えて嘘も」



 ▼ 5 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:32:18 ID:kL6EfNeo [5/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




「……ここは……」


「ひどく寂しい場所だろう?」


「ここには今、僕と君しかいないんだよ」

「それでもかつては何人もの同志がいたんだ」

「彼らは皆、消えていった。 一人、また一人とね」


「皆、僕と似た境遇の者たちだった」

「人間の魂を喰らい、己の糧とすることをやめた者たちだ」




「……不思議そうだね」


「この灯火。 これは確かに人の魂や生命力を糧として燃えているものだ」

「しかし彼らはそれをやめた。 無論、僕もね」

「では何故、僕の頭上には今もなお炎が灯り続けているのか分かるかい?」

「他の者たちが何故消えていったのか分かるかい?」




 ▼ 6 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:34:02 ID:kL6EfNeo [6/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


「ふふ、それはね」







「……自らの魂を代用したんだ」


「皆、自分の生命を燃やし続け、果てには燃え尽きて逝ったんだよ」

「自ら灰となって消えゆく末路を選んだのさ」

「そしてここには僕だけが残った」

「僕の命もじきに燃え尽きることだろう」

「…………」




「……そうだ、同志たちが皆消えてしまって少し退屈していたんだよ」

「少しの間、僕と一緒にいてくれるかい?」


「この頭上に灯る、最期の灯火が消えるまで」




「………………ふふ」


「ありがとう」



 ▼ 7 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:35:19 ID:kL6EfNeo [7/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




「他愛もない話をしよう。 聴いてくれるかい?」

「なんてことはない。 数多の魂を喰い潰してきたこの醜い化け物の境遇と生い立ち。 つまらない話さ」



━━━━━━
━━━━
━━
 ▼ 8 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:36:30 ID:kL6EfNeo [8/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


気がつけば、ただ人の命を貪っていた。


ここが何処かも、自分が何者かも分からぬまま、ただ捕食を繰り返していた。

ずっと、ずっと……。
悠久とも呼べる永い間ね。


やがて腹を十分に満たした僕は、それまで感じたことのない強い睡魔に襲われたんだ。
そして…────





──微睡みの中で、夢を見た。



 ▼ 9 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:37:33 ID:kL6EfNeo [9/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


そこはまるで空から漂白剤が降り注いだような、色の無い世界。

脱色した空の下、黒白の草原の中に僕は立っていて、あてもなく歩き、進んでいくんだ。


暫くすると、決まって人間の男女が現れる。
なんだかとても幸せそうに、会話を楽しんでいる様子だった。

しかし、近づいて耳を傾けてみても会話の内容は一切聞き取れない。
表情を読み取ろうと顔を覗き込んでみても、どうしても二人の顔の部分だけ不明瞭になってしまってよく見えなくなるんだ。



何故だか、ひどく……心が痛んだ。


 ▼ 10 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:38:33 ID:kL6EfNeo [10/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


そして夢から覚める頃には、理由も解わからぬ涙が目から溢れ出しているんだ。


初めは困惑した。

何故このような夢を見たのか、全く理解が及ばない。
ただ、それは確実に僕の心に苦痛を齎す悪夢だった。


しかし、そんな夢を繰り返し見るようになったとき、僕は思い出した。


それが、かつての自分であったこと。

それが……。



……かつて愛した人であったこと。


 ▼ 11 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:40:35 ID:kL6EfNeo [11/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




……そう、あの日。

彼女が故郷から遠く離れた街へ行ってしまうと告げられた日に、僕らは約束を交わしたんだ。

僕が彼女に会いに行くというだけの拙い口約束さ。

それでも彼女はとても喜んでくれた。


あのときはずっと心の内に秘めていたけれど、次に会ったとき僕は、彼女に永遠の愛を誓おう……。

そう思っていた。





……約束の日、約束の場所に彼女はいなかった。

ずっと待っていたのだけれどね、陽が沈んでも彼女が来ることはなかったんだ。


あの日 、約束を交わしてすぐに彼女が流行り病に冒され……死んでしまったのだと……僕が知ったのは、暫く経った後のことだった。

 ▼ 12 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:42:18 ID:kL6EfNeo [12/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


まさに絶望の底へ突き落とされたような感覚だった。
その事実は、どんな鋭利な刃物よりも鋭く、深く……僕の心を抉った。


そして……やがて僕は人の心を見失い、終には神を呪い、自ら命を絶ったんだ。




それで全て終わる気がした。
全て終わってほしかった。


……でも何も終わらなかった。



死んでバラバラになったはずの魂は無数の怨念を取り込みながら光も音もない常闇の中を揺蕩い、やがて人の命を糧とする一つの化け物となった。


そして……。

その化け物は今、ここにいる。



君の目の前に……。


 ▼ 13 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:44:14 ID:kL6EfNeo [13/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

━━
━━━━
━━━━━━



「人間だった頃の記憶を思い出してから僕は、魂を喰らうことをやめた」


「底無しの空腹感に耐えることは想像を絶するほどの苦痛だった。 まさに気が触れてしまいそうなほど」

「そんな中、かつての同志たちに出会ったんだ」


「彼らも本来の心を取り戻し、捕食をやめた者たちだった」

「飢えを凌ぐために自らの魂を燃やし、命の炎を頭上に灯す者たちだった」

「その行為はまさに破滅への加速。 自らの命を喰い潰すことに他ならない」

「それでも彼らは、それが今まで糧としてきた数多の魂に対する贖罪だと言った」

「そんな彼らに心を打たれ、自分も彼らと心中することを誓ったのさ」


「しかし自分の命を燃やし糧とするのもまた、想像を絶する苦痛を伴った」

「それでも今まで耐えていられたのは、同じ信念を持ち共に苦痛を耐える同志らがいたからだ。 それに……」


 ▼ 14 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:46:20 ID:kL6EfNeo [14/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


「飢えに耐えられず捕食を続け……心まで本物の化け物になってしまえば、もう彼女に会えない気がした」


「本当は解っている。 もう全てが手遅れなのだと」

「僕の想い人は遥か昔に死んでしまった。 後を追って死んだ僕も今では醜い化け物だ。
いくつもの人間の魂を燃やし、自らの糧としてきたのだから」

「それに、生前の記憶が一部蘇ったといっても、自分の名も……彼女の名も、声も、笑顔ですら……遂には思い出すことができなかった」

「恐らく、死の際に呪った神による罰なのだろう」

「神は僕から彼女の声も、仕草も、僕だけに向けてくれた微笑みさえも全て奪い去ってしまったのだろう」


「もし彼女にもう一度会えたとしても、僕にはもう彼女の名を呼ぶことすらできない」

「それ以前にこんな醜い姿では、彼女が僕に気付くことすらない」

「それでも僕は、もう一度彼女に……。
そんな望みを棄てられぬまま、今もこうして未練たらしく醜い生にしがみついている」


 ▼ 15 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:47:03 ID:kL6EfNeo [15/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


「……でも、それももう……じきに終わる」





「僕の命も、じきに燃え尽きるから」




 ▼ 16 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:47:49 ID:kL6EfNeo [16/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告







「……最後に……。 最期にもう一度、彼女に会いたかったな……」





 ▼ 17 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:49:08 ID:kL6EfNeo [17/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告





「……最後まで……聴いてく、れてありが……とう」


「そろそ、ろ……お別れのよ、うだ」


「そう、だ……最後に、明かりを……灯そ、う」


「僕が消、えれば……君は独り、に、なってしまう……から」


「その明、かりを頼りに……また揺蕩って、いけば……いい」


「きみ、が本来あ……るべきせかいに……帰れるは、ず……」



「ここは……自ぶんの命、を喰いつ、ぶすばしょ……。 本来きみは……ここにいてはいけ、ない」


「……それで……も、きみが……きてくれ……て、よかった……。 ひと、りでいるの、が、さびしかっ……た。 こころ……ぼそ、かった」


「……ひとりでおわ、る……のが……たまら、なく……こわかっ……たんだ。 だか、ら……」



 ▼ 18 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:50:02 ID:kL6EfNeo [18/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




「あ、りが……ぅ…………」




「………………      」






 ▼ 19 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:50:42 ID:kL6EfNeo [19/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告










────…(( おやすみなさい、✘✘✘✘✘ ))







 ▼ 20 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:52:13 ID:kL6EfNeo [20/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告








僕が深い深い眠りにつく頃


薄れゆく意識の中


底へと沈みゆく微睡みの中で


誰かが僕の名を呼ぶ声が聞こえた




とても心地が良くて


全てが赦されたような気がした


救われたような気がした



それは水面を揺蕩う泡沫のように、すぐに消えて無くなってしまったけれど


 ▼ 21 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:53:11 ID:kL6EfNeo [21/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告






『……良い夢だ……。』




『  ありがとう。 』




 ▼ 22 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:53:43 ID:kL6EfNeo [22/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告








 ▼ 23 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:54:52 ID:kL6EfNeo [23/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告





──…おやすみなさい、※※※※※。




──…あの日の約束、守れなくてごめんなさい。



──…ずっと待たせてしまって……ずっと側にいられなくてごめんなさい。



──…このお別れは永遠じゃないと、信じています。
   だって私はあなたを見つけ出せたんだもの。



──…だから今度は、あなたが私を探してくれたらうれしいな。



 ▼ 24 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:55:46 ID:kL6EfNeo [24/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



──…私はいつまでも待つわ。
   たとえどんなに辛くても、苦しくても。
   どんな姿になろうとも、私が私である限り。



──…あなたがそうしてくれたように。
   いつまでも、いつまでも……待ち続ける。








──…いつか命の灯火が燃え尽きる、その日まで。





 ▼ 25 ZZ9zuXJ0Gw 19/02/10 01:56:27 ID:kL6EfNeo [25/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告






【SS】最期の灯火消ゆるまで


おしまい
 ▼ 26 ソクムシ@ゴーストZ 19/02/10 01:57:02 ID:kL6EfNeo [26/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


ヒトモシの ともす あかりは ひとや ポケモンの せいめいりょくを すいとって もえているのだ。

(ポケモン全国図鑑No.607『ヒトモシ』の説明文より一部抜粋)

 ▼ 27 グレー@ライブドレス 19/02/10 02:12:00 ID:J6/cxAgE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
おつです
 ▼ 28 クロズマ@おいしいシッポ 19/02/10 02:20:27 ID:YL2cykxc NGネーム登録 NGID登録 報告
 ▼ 29 ニシズクモ@ナナのみ 19/02/10 10:10:37 ID:m/pIBr9k NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とても綺麗
乙です
 ▼ 30 ンジャラ@はっかのみ 19/02/10 11:07:11 ID:1PkYxyDA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙!
 ▼ 31 ムナイト@はかいのいでんし 19/02/10 15:14:30 ID:MKUMkUsE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙です
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