▼  |  全表示189   | << 前100 | 次  |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |   ▼   
                  スレ一覧                  
SS

【寒い日SS】暑い/熱い日の願い

 ▼ 1 くだけ◆5oP7VYU6fg 17/08/09 20:51:01 ID:KyQo5oeE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

── 特に寒い日だった。

三角錐の角のように尖った崖の先端に座り込み、景色を眺める。眩く輝き、昇る朝陽が、舞う雪を橙色に染め上げ、それを無限に広がる海が鏡のように写し出す。


「綺麗だな……」

「うん。綺麗……」


「俺は、太陽になる!!」


「は?」


急に立ち上がり、宣言するのは、背中に小さな火を宿す少年。ヒコザル。

ヒコザル「お前ら知ってるか!? 父さん達のチーム名。『トモシビ』の意味!」

「いや、知らないけど……」


ヒコザル「どれだけ暗くて、深い闇のなかでも……どんな暗闇の中でも、自分達が必ず照らす光になる。って意味だ」


「父さん達みたいに、すげぇ救助隊になって! 太陽になって、みんなを照らすんだ!」


輝かせる眼には、
迷うことない自信と、
希望が溢れていた。


「いいね、そう言うの……!」

「俺も!俺も救助隊になりたい!」

ヒコザル「へへっ、じゃあ! いつか……」


「いつか三匹で、チームを組もう!!!」



あの日俺たちは、三匹で太陽を見た。

そして今、三匹が揃うことは無くなった。


 ▼ 150 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:43:57 ID:3aysx65U [1/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

真っ先にジュプトルとマニューラが地面を蹴る。走った二匹はお互いが腕、手に携えた刃を振るい、ぶつけ合う。

二撃目、三撃目、素早く振り、二本の刀が軋みあう。


マニューラ「ははっ! 速い! あんたいいな!」

ジュプトル「チッ、そう言うタイプかよ……」


スピードではマニューラの方が上のため、段々と押され、対応する側へと追い込まれる。
だが、


ジュプトル「わりぃな!」

マニューラ「……!?」


打ち合いの最中、超近距離での種マシンガン。みけんに直撃する。怯んだその隙に、背後へと回りこんだ。


マニューラ「うし、ろ!」

ジュプトル「はずした!?」


一歩前へと出て、振り向く。振りによって体勢が崩れたところに冷凍ビーム。
腕を交差させてガードするがそれがそのまま凍ってしまう。


「読んでたんだよ、キスってチームは暗殺部隊とも呼ばれてたからな。そう言う手を使うんじゃないかって……!」


マニューラ「これで終わりだ!」

ジュプトル「いや、まだだ!」


氷で固められ、交差した状態のまま攻撃を受け、氷を内側から割って弾く。腕に激痛が走った。


ジュプトル「あぁ、くっそ!」


マニューラ「ははっ! やるなお前! さいっこうだ!」

ジュプトル「何でそんな楽しそうなんだよ……!」
 ▼ 151 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:45:06 ID:3aysx65U [2/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

嬉しそうに放たれた激しい攻撃を受けながら問う。

マニューラ「楽しいんだよ、お前みたいに速いポケモンと攻撃をぶつけ合うのが!」

ジュプトル「わかんねぇな……! そんな危ない性格してねぇからよ」


氷を弾き飛ばして腕についた葉の刃を蛍光色に光らせ、切り裂く。


マニューラ「お前だって好きな戦いはあるだろ?」

ジュプトル「そうだな。敵の虚を突いて倒す瞬間。かな、基本ブリガロンを囮に隙をつく戦いかただったから、真正面からの衝突は新鮮だよ」

マニューラ「そっちの方がヤベェ趣味してんな、じゃあわからせてやるよ。この楽しさを……!」


ブリガロン「まずいな、何か仲良くなりはじめた」

ジュナイパー「ゾロアさん。前より遅くなってる……。傷がまだ残ってるんじゃ?」

ブリガロン「へぇ、よく気づいたね。化ける力で隠してはいるが、まだジュペッタとの戦闘の傷が癒えてない。このままなら負けるだろうね」

ジュナイパー「サポートしないと……!」

ブリガロン「えぇやめときな。すごい楽しそうだしあんた先に上行けば?」

ジュナイパー「だ、ダメですよ! ゴウカザルに、こいつは私が倒すって言ったんですから」


ブリガロン「えぇ〜、じゃあ……」



マニューラ「どうだ!? このスリル!緊迫感!」

ジュプトル「何となくわかってきたよ、お前が好きって言う理由が──ばつッ!?」

「!?」


ニヤリと笑うジュプトルの頭が真上から巨大で重い拳で潰される。倒れて気を失ったジュプトルはゾロアの姿へと戻る。


ブリガロン「選手交代だ」

マニューラ「!? 今からがいいところだろ!?」

ブリガロン「知るか。私たちの目的はあんたたちをさっさと倒すことだから。あんたたちの遊びに付き合ってる暇は無いの」


マニューラ「あぁそうかよ、じゃあさっさとあんたを倒して続きをしよう」


ブリガロン「やってみなノロマ」


マニューラ「はぁ!?」
 ▼ 152 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:45:38 ID:3aysx65U [3/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


明らかに目の色が変わった。それもそうだ。自分より圧倒的に遅そうな奴にあんな言われ方されれば誰でも怒るだろう。


マニューラ「だったら、このスピードについてきてみろよ!」

ブリガロン「……!」


まずい、そう思った。
完全に怒らせたのか動きが先程の数倍速い。
目で捉えられないほどに、
ジュプトル相手にはお互いが楽しむために素早さを落としていたと言うのだろうか。


マニューラ「どうしたノロマ! おせぇぞ!」

ブリガロン「くっ……そ! ハッ! おせぇな!」


「!?」


あまりの強がりに笑ってしまった。
マニューラの数々の攻撃がブリガロンを襲う。腕で頭を守った型から動けない。だがそれはただやられっぱなしと言うわけではない。


『相手が速いなら、動きを分析しろ。幸い耐久はそこそこあるんだ』


ジュナイパー「パターン」


ジュプトルの姿のゾロアに教わった言葉を思い出す。

ポケモンは不規則に見えて規則的な動きをする。特に速いポケモンはその速さゆえに、攻撃のパターンが単純。

何故なら常に考えなくとも素早さのお陰で勝てる。または速すぎて自分自身考えが及ばないからだ。
 ▼ 153 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:46:02 ID:3aysx65U [4/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

マニューラも例外じゃない。
いくつものパターンがあり、それを組み合わせて攻撃してる。

・正面での上からの攻撃

・正面での下からの攻撃

・後頭部への攻撃

・横へ回っての攻撃

実際の数はそれ以上。
そしてその組み合わせにもパターンがある。


『いいか、ここまで接近戦を教えたが、キス内でのジュナイパーの役目はそこじゃない』


ジュナイパー「常に……」

ブリガロン「冷静であれ!」


マニューラ「……!?」


背後に回った刹那、ブリガロンの甲羅についた刺からいくつものミサイルが発射された。

「今だ!」

直撃し、回転しながら退く。


マニューラ「くそっ、なんだ!? 何故わかった?」

ブリガロン「あんたが遅いからだよ」


ニヤリと嘲笑うブリガロンに更に苛立ちを覚えるマニューラ。


『何があっても』

『チームメンバーが壁となり』

『囮となる』


怯んだその影を、縫う。


マニューラ「しまった! 動けな……!」


『その虚を突き』


ジュナイパー「確実に仕留めること!」
 ▼ 154 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:46:19 ID:3aysx65U [5/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

背後から胸へと放たれた矢は、しっかりと体を貫き、敵は倒れた。


ジュナイパー「や、やった……!」


マニューラ「チッ……そう言うこと、かよ……」

ブリガロン「あんたが単純な戦い好きのバカで良かったわ、煽りやすかった」


マニューラ「くそ……やっぱ一対一に限る」


ジュナイパー「ブリガロン!」

ブリガロン「よくやった。いい動きだったよ」

ジュナイパー「ふふっ」


ブリガロン「さ、上に行きな。あんたは会わなきゃちけないポケモンがいるでしょ」

ジュナイパー「あ、はい! 二匹は?」

ブリガロン「私たちはやらなきゃいけないことがあるから。早くしな」


ジュナイパー「はい!ありがとう!」


親代わりのブリガロンと、救助隊としてのブリガロンへの言葉が混じって妙な口調になってしまっていた。


ブリガロン「ちゃんと、連れ戻してきなよ……」




────
 ▼ 155 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:47:08 ID:3aysx65U [6/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ゴウカザル「戦うしか無いんだな。オーダイル……」

オーダイル「そうさ。今のお前で、かかってこい!」


ゴウカザル「行くぞ!」


足をあげ、接近しようとする。
それを阻止しようとするハイドロポンプ。やはり大技はその威力の代償に隙がある。軽く横にステップを踏んでかわし、繰り出すはマッハパンチ。


オーダイル「遠距離攻撃の後は隙が出来る。か?」

ゴウカザル「……!」


オーダイル「その技も今じゃ見切れる!」

「しまっ!」


あの時より大きくなった拳を更に巨大な掌で受け止め、掴む。強く握り、逃げられない状態でのハイドロポンプ。


ゴウカザル「がっ……!」


だが直撃はしない、ギリギリで放った火炎放射が何とか直撃を防ぐ、だが水と炎のぶつかり合い、当然炎が押され、押し寄せた水流に少し退く。

炎が消え、もしこれがこの至近距離で直撃すれば、相性で不利な俺は一発で負けてしまう。

だが負けられない。


ゴウカザル「〜!!」


こんな早々に、負けはしない!


体の中の炎が燃え上がり、
炎の色が変わった。

まとまりのなく、
まだらに散っていた炎は一つの光線となり、
強烈な水流をものともしないほどの、
強力な威力、新たな技となる。

オーバーヒート!!


オーダイル「……!?」


水圧を圧倒的な火力で押し返し、お互いの技のぶつかり合う威力から爆発が起きる。
流石のオーダイルも衝撃で掴んでいた手を離した。


ゴウカザル「あっぶねぇ……!」
 ▼ 156 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:47:44 ID:3aysx65U [7/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

突然でた新技、だがあれがなければあのまま押し負けていただろう。怯んでる間も無い、すぐに走り、接近する。


オーダイル「……距離を詰めてくるのか?」


予想外だっただろう。
普通は捕まるのを嫌がって慎重になる筈だから、

だけど、オーバーヒートはかなりの威力を持っている分、使った後は遠距離攻撃の威力が下がると言うデメリットのある技。
と言うことを俺は知っていた。

だから遠くにいても何も出来ない。
勝つためには無理矢理にでも接近して攻撃するしかない。


オーダイル「チッ」

それに

ゴウカザル「接近戦なら身軽な俺の方が有利ってのは今も変わってないみたいだな」

オーダイル「……ぐっ!」


頭上に燃え盛る炎を拳にまとわせ、放つ。
胸の前に腕を交差させてガードした。

ニヤリと笑う。


ゴウカザル「どうやら成長してないところも多いみたいだな……!」

オーダイル「まさか……っ!?」


交差してた腕を両逆手で掴み、その重い身体を持ち上げた。体を後ろへとねじり、右足を弧を描くように回転させ、踏み込む。
浮き上がる体。その巨体が一回転する。

背負い投げ。


オーダイル「ぐっ、がはっ!」

ゴウカザル「はぁ……はぁ……」


地面に叩きつけられた。
しばらく動かない。隙だらけだが攻撃はしなかった。


オーダイル「何で、攻撃しない?」
 ▼ 157 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:49:04 ID:3aysx65U [8/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ゴウカザル「じゃあ聞くけど、何で立たないんだ?」

オーダイル「試したんだよ。お前が本当に勝つ気なら、今の瞬間だって、棒立ちじゃなくて構えてるはずだから」

ゴウカザル「おいおい、俺はお前に勝つのが目的じゃなくて、お前を友達に引き戻すのが目的できたんだ」


オーダイル「残念だが、それは無理だ」


ゴウカザル「何で?」

オーダイル「俺が、お前に勝つことしか考えてないからだ」


おもむろに水の入った瓶を取り出す。
それを大きく開けた口に一気に飲み込み、
残った瓶を踏み潰して叩き割った。


ゴウカザル「何をした……?」

オーダイル「今のは、進化の泉の水だ……」


ゴウカザル「……!?」


オーダイル「お前に負けたあの日、俺が水だ。こりゃすげぇよ、進化するだけじゃなくて、進化がすんだポケモンでも強くなれる」

ゴウカザル「そんなの……」


そんな力で勝って、嬉しいのか。
そう言おうとした。だが言えなかった。

あの日、


『負けるわけにはいかないんだ』


俺が勝ったのは、その力を使ったからだ。



オーダイル「何か、言いたげだな。文句があるなら言ってみろよ。俺はこれで満足だ。俺は、この力で、お前を越える!!」

ゴウカザル「……それくらい、俺に勝ちたいのか」

オーダイル「そうさ! もう負けない!」


ゴウカザル「わかった。もう、何も言わない」


俺のするべきことはただ一つ。

勝って、また三人で……
 ▼ 158 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:49:53 ID:3aysx65U [9/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「隙ありだ!」

ゴウカザル「……!」


突然放たれたハイドロポンプ。
さっきとは違い、予備動作なしで放たれたせいで反応が少し遅れた。いや、単純に技の勢いも増した。

だがまだ見て避けられる範囲横にかわし、もう一度接近する。


オーダイル「これならどうだ……!」


尻尾に水を纏う。アクアテールが来る。
だが少し遅い。この距離ならアクアテールより先に俺の攻撃が当たるはずだ。

だが、

ゴウカザル「ぐっ!!」

オーダイル「クリーンヒットだ!」


胴に直撃、勢いのまま背後に打ち飛ばされる。予想よりも遥かに速く、重くなっていた攻撃にうろたえ、立ち上がるが少し体勢を崩した。


オーダイル「足を止めるなよ!」


接近してくる。重量級のはずだが、速い。
あっという間に目の前だ。

振りかぶった拳を構える。

何とか応戦しようと体に炎を纏うが、腹へと拳がぶつかる方が早く、衝撃で火が打ち消された。


ゴウカザル「がっ……! はぁ!」

オーダイル「はぁ、はぁ、ははっ! これで……!」


倒れかけたところで右腕を掴む。俯いた上目から口に水を含んでいるのが見えた。
ハイドロポンプの準備だ。だが、痛みと疲労で体が動かない。


ゴウカザル「くそ……」

オーダイル「終わりだ!」


『また、戻れるかな……』


攻撃を放とうとした刹那、
掴んできた腕を右手で捕まえ、逃げらない状態。地を強く蹴り、もう片方の手で顎を押し上げた。頭を動かせる範囲には限度がある。

限界まで打ち上げれば口は閉じられ、
放とうとした水は行き場のない口内で暴発した。
 ▼ 159 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:50:19 ID:3aysx65U [10/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


オーダイル「ぐあああああああ!!!」

ゴウカザル「はぁ……はぁ……」



まだ、倒れられない。

俺は自分だけじゃない。

ジュナイパーや、
他の俺を強くしてくれたみんなのためにも、
負けるわけにはいかないんだ。」


ゴウカザル「だから勝つ。絶対勝って、お前を連れ戻す!」


オーダイル「それが、お前の理由か……? ははっ、良いな。仲間とか友達とか……」

「……!」


オーダイル「だから、強いのか? だから何度でも立ち上がるのか?」


『どうしたんだい? 随分辛そうな顔してる』

『無くなったんだ。信用してたことかま全部。俺にはもう何を信じればいいかわからない』

『じゃあ、新しく作ってあげるよ』

『私と一緒に来て、きっと』


『強くしてあげるよ』


拳を痛くなるほど強く握りしめる。


ゴウカザル「そうかもな」

オーダイル「ふざけんな! だったら、思いの強さで今の俺に勝てるなら、何であの時、進化の水に頼ったお前に! 俺が負けたんだよ……!」


ゴウカザル「そんなもの、わからないよ。でも、俺だって勝ちたい気持ちが強かった」



「……また、負けるのか……俺は」
 ▼ 160 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:51:01 ID:3aysx65U [11/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

オーダイル「ずっと、いつか勝てるって、信じてきたのに……結局お前には勝てないままなのか……?」

ゴウカザル「……」


何も言えなかった。

最初はおかしくなったとか、
洗脳された友達を助け出すとか。
そんな気持ちだった。


だけど、わかってしまった。
オーダイルにも、ワニノコにも自分の意思があって、ここに立ってるんだって。
色んなものを背負ってここにいるんだって。


きっと今彼に勝ったら、それは彼がここまで信じて、懸けてきたものを否定することになる。あの日と同じだ。

だけど、だからといって、何を言うべきなのかもわからなかった。


オーダイル「ずっと羨ましかったんだ。なにもしなくても、ずっと一番で、いつもトップを走り続けるお前の事が……」

「お前みたいになりたいって、ずっと思ってた……!」


ゴウカザル「違う! なにもしてなかったわけじゃない! 俺だって頑張ったさ、強くなりたくて、負けたくなくて……! でも、変わらなかった!」


オーダイル「だから、進化の泉に頼ったのか?」


ゴウカザル「そうだ……!」



俺は弱かった。
 ▼ 161 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:52:32 ID:3aysx65U [12/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ずっと一番だったから、

負けるのが怖かったんだ!


『あいつら一番じゃなくなったんだ』


一番じゃなくなって、バカにされるのが、

何より、


『もっと、強くならなきゃな……』

『大丈夫……!』


誰かを失って誰かが悲しむのが、怖くて、

必死だった!」



ゴウカザル「だから!」



そうだ! 俺も同じだ。


ゴウカザル「羨ましかったんだ! お前の事が!」



ワニノコが……

『俺だって強くなってやる!』

弱くていじめられていた姿も、

『強くなれるんだ……』

見返してやろうって頑張ってる姿も、

結果が出て、喜ぶ姿も!

「全部! 知ってたから!」


ゴウカザル「だから! お前には本当は、自分の力で強くなってほしかった……!」

オーダイル「何だよ……それ……」


『ワニノコ、戦闘不能。モウカザルの勝ち!』


ゴウカザル「わかってる。俺が憧れたお前の姿を否定したのも、俺自身だから……」
 ▼ 162 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:53:12 ID:3aysx65U [13/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「それに気付いたんだ! 進化の水に頼るだけじゃない!」


父さんや、色んなポケモンと出会って、戦って、一人だけじゃ得られない強さもあるって!

ゴウカザル「俺一人じゃ、ここまで来れなかった! だからお前にも、教えてやりたいんだ!」


一人じゃない。仲間と強くなる。

喜びを!



オーダイル「俺が……! どんな気持ちでいたと思ってる! 俺はただお前に勝ちたくて! こんなところまで来て……!」



わかっているんだ。

本当は……。


俺が勝つのは、間違ってるってこと。

勝っちゃいけないってことくらい。
 ▼ 163 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:53:27 ID:3aysx65U [14/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

だけど、ここまで来てしまったんだ……。

ただお前に勝ちたいだけで、世界中を敵に回した。


「もう引き下がれないんだよ!」


『どれだけ高い壁で、どれだけ小さな力でも、根気よく続ければいつか結果を残せるって意味だ!』

父の言葉も捨てた!

友達も、家も、捨てた!


オーダイル「もう、俺には何も残ってないから!」


俺はもう、昔みたいに、強さを競い会う。

お前のライバルじゃない!


「俺は、お前の敵だ!!」


オーダイル「救助隊として強くなったお前の敵だ!」


俺は独りの、お前の敵だ!


「だから! 負けられないんだ!」


だから──!


ゴウカザル「……! 俺が、お前の居場所を作ってやる! お前を、助けてやる!」



── 俺を、助けてくれ……!
 ▼ 164 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:54:20 ID:3aysx65U [15/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

体を熱い炎が覆う。
亡き父に教わった技、フレアドライブだ。


『もう一段階上の使い方がある』


『その意思が強くなったとき、たとえ炎を燃えることのできない水の中だったとしても、燃え続けることができるだろう』


もう一つの使い道は、

纏った炎を持続させること。


だがフレアドライブ自体反動が大きい技、
それを持続させれば反動もその分大きくなる。

いや、今は、そんなことどうでもいい。



ゴウカザル「行くぞ!」


オーダイル「あぁ! 来い!」



オーダイルの周囲から渦を巻くような水流が生まれる。
初めてみる予備動作、だがこれから起きるのとの察しはついていた。


今度は避けない。


オーダイルが少し前屈みになり、口を開ければ渦巻く水流が巨大な砲丸のような形になった。

地面を蹴り、熱い体で正面から真っ直ぐに走る。



今は、ダメージなんて気にするな。


「くらえ!!」


オーダイル「ハイドロカノン!!!」
 ▼ 165 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:54:36 ID:3aysx65U [16/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


水の砲丸が大砲から放たれる。
かわしはしない、炎を纏った体に正面からの直撃。


「……!!」


だが、退かない!

水を打ち破れ!


あとの事なんて今は考えなくていい!


『モウカザル、覚えてるか?』

『もう一つの意味』

『たとえ、水をぶっかけられても、どれだけ小さくなってしまっても……完全に消えない限りは──』



どれだけ痛くても!

どれだけ苦しくても!


例え死んでも!



ゴウカザル「炎を、消すな!!!」

『またもう一度熱く燃え上がることができる!』
 ▼ 166 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:54:59 ID:3aysx65U [17/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


小さな海を中心から掻き消し、

目の前に立つ。


暑い熱気が広がった。


オーダイル「……!!」


『俺は、太陽になる!!』

『太陽になって、みんなを照らすんだ!』


これが、最後の一撃。



「フレアドライブ!!!!」


渾身の拳が、オーダイルの腹に突き刺さり、自ら足でブレーキを掛けるまで、殴り飛ばされる。


オーダイル「く……っ!」


何とか体を支えた。

だがそれも一瞬のこと、膝から崩れ落ち、倒れる。



ゴウカザル「……はぁ……はぁ」


体に纏った炎が消えると共に張りつめた緊張も解け、尻餅をつくように座り込む。


ゴウカザル「……」


勝った。
ガッツポーズするほど嬉しかったはずだが、
不思議と喜びはしなかった。
 ▼ 167 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:55:41 ID:3aysx65U [18/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ゴウカザル「オーダイル……ごめん」


オーダイル「お前が、先に謝るのかよ……」


ゴウカザル「当たり前だろ。俺があの時進化しなきゃ、こうはならなかった」

オーダイル「こっちの台詞だ。お前の事なんて、周りの事なんて頭になかった。ただ勝ちたいだけで、勢いだけでここまで来ちまった」


ゴウカザル「……もう、後悔しないって父さんと約束したんだけどな」


オーダイル「おいおい、俺に勝っといてまたそっちで悩んでるのか? やめろよ、負けたのは俺だ。もっと嬉しそうにしてくれ」


冗談混じりに笑って言う。
その言葉の裏、実際悔しいはずだろう。

少し懐かしい感じがした。


ゴウカザル「出来るわけ無いだろ」

「また……」


オーダイル「また、戻れるかな……?」


流れる涙を隠すように腕で顔を覆う。
恐らく、同じときを思い出しているんだろう。


ゴウカザル「戻れるさ、その為にここに来たんだ」


オーダイル「そっか……」


「良かった」
 ▼ 168 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:56:15 ID:3aysx65U [19/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

少しの間流れた沈黙を破るようにまだ聞き慣れない友の声が聞こえた。


「ゴウカザル!!」


ゴウカザル「……! ジュナイパー!」

オーダイル「……?」


ジュナイパー「無事で良かったわ! ……あ、ワニノコ……じゃなくて」


オーダイル「オーダイル。進化したんだな」

ジュナイパー「うん……! それより……二人とも」

ゴウカザル「……?」


「仲直り、出来たんだね……!」


体を包み込んでしまうほど大きな翼の先についた小さな手をぎゅっと握りしめ、浮かぶ涙を拭く。


ゴウカザル「泣くなよ」

ジュナイパー「な、泣いてないわよ!」


『もう泣かないって決めたの……!』


オーダイル「泣き虫は卒業したんじゃなかったのか?」

ジュナイパー「うぐっ……!」


昔のように普通に話す二匹の姿にまた涙が止まらなくなった。


ゴウカザル「三匹揃って、昔に逆戻りしたんじゃないか?」

ジュナイパー「そ、そんなこと……」


羞恥心から紐を引っ張ってフードで顔を隠す。やれやれとフード越しに頭を撫でたゴウカザル。懐かしくも新鮮で、優しい雰囲気が三匹を包む。


ゴウカザル「……?」

ジュナイパー「何だか、肌寒くない?」

オーダイル「雪が降ってきた……」


空からゆっくりと、白い粒が舞い降りた。
 ▼ 169 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:57:11 ID:3aysx65U [20/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


────



ゾロアーク「最後の質問だ」


ユキメノコ「ふん」


ゾロアーク「ジュペッタは、フリーザーを復活させてどうするつもりなんだ?」


ユキメノコ「あら、やっぱり知りたい? それはね……」



──────


リザードン「まずいな……」

オーダイル「間に合わなかったか?」


リザードン「ヘルガー! オーブでみんなに知らせろ!」


「フリーザーが目覚めるぞ!」



── 「止めるのよ、時を」


── 「この山の時間がフリーザーによって止まってしまったように」


洞窟のなかから無数に伸びる氷の柱、それは全て中心であり、フリーザーが眠る巨大な氷塊へと集まる。その中を光輝く透明な水が通った。

少しずうヒビが割れ、

フリーザーの姿が露になる。


── 「世界を凍らせることで」



「自分以外の時を、止めてしまうつもりなのよ」
 ▼ 170 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:58:05 ID:3aysx65U [21/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「……!!」


ゴウカザル「何だ!?」

オーダイル「始まったんだ! 計画の最終段階!」


ジュナイパー「嘘! じゃあ……!」


突如一点から広がるように地面が凍っていき、山だけでは止まらず、麓の森や村にまで氷結は進む。



──

リザードン「おいおい、嘘だろ?」

「ゴウカザル達!」


──── 「来るぞ!!」




凍り始めた中心、

ヒビが割れ、

完全に砕けた瞬間、


火山の中心から頂上にかけて、風穴が空いた。



飛び立ったのは、大きな翼に、氷の結晶のような欠片を額に携え、オーロラのように美しく輝く尾を持つ。体色は水色と白

目に写った瞬間、確信した。


間違いない。



ゴウカザル「フリーザー!!」

ジュナイパー「……あれが!」


オーダイル「相変わらずでかいな……」


「……」
 ▼ 171 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:58:31 ID:3aysx65U [22/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


翼を羽ばたかせると同時に鳥肌が立つほどの冷気が強い風に乗り、辺りを支配した。ゆっくりと口を開く。


「やっと、この日が来た」


ゴウカザル「……!」


「今日、世界は凍りつき、時は止まる」


ジュナイパー「それを防ぐために私たちがいる!」

フリーザー「オーダイル、そうか。そうなったか」

オーダイル「悪いな。元々あんたの野望についてきたわけじゃないんだ」


フリーザー「あぁ構わないさ。それも想定内、何より」


「私一人で十分だ」



ゴウカザル「余裕だな……!」


フリーザー「当然。我は今伝説のポケモンの肉体を手にし、進化の水により当時を上回るほどの力を手にしている。貴様らなどには負けん」



「それはどうかな……」




氷火山の頂上、
ゴウカザル、オーダイル、ジュナイパー。

三匹が並び立った。


ゴウカザル「よっしゃ!」

ジュナイパー「負けない!」

オーダイル「あぁ!」


拳を強く握り、

矢を翼から抜き、

足を踏み込み、


構える。
 ▼ 172 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:58:59 ID:3aysx65U [23/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「行くぞ!」


フリーザー「無駄だ!」


火炎放射、ハイドロポンプ、エナジーボール。
三匹同時の集中砲火。だがフリーザーが一つ羽ばたけば吹雪が攻撃を打ち消し、その先にいる三匹を襲う。


ゴウカザル「すげぇ威力……!」


ジュナイパー「うっ……!」

オーダイル「ジュナイパー!!」

風の勢いに堪えきれずに体が足場のない火山の外にまで飛ばされてしまう。
咄嗟にフードを脱ぎ、紐代りの蔓を矢に巻き付け投げたが陸地までは届かない。


オーダイル「……! 大丈夫か!?」

ジュナイパー「え、えぇ……」

オーダイル「行くぞ!」


ギリギリでオーダイルが掴み、何とか助かるが、首がしまっ息が詰まった。そのまま矢を振り、ジュナイパーの体が弧を描くように振り回される。


フリーザー「何を……!」

ゴウカザル「くらえ!」


邪魔させまいと炎を纏った拳を振るうが、羽を盾に使われ、直撃はしない。だがその稼いだ一瞬でジュナイパーは背後に回り、刃を抜いた。


ジュナイパー「リーフ、ブレード!!」

「……!?」


無防備な背中を切りつける。だがまるで鋼鉄の壁のように傷一つついていなかった。ぶつけ、当てたままの拳と刃に氷が伝い、体へと侵食していく。


ゴウカザル「な!?」

ジュナイパー「嘘!」


フリーザー「その程度か……」


氷で体が包まれ、離れようとしても逃げられない。
 ▼ 173 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 19:59:42 ID:3aysx65U [24/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


オーダイル「させるか!」


口内に水の渦を作り出す。ハイドロポンプの準備、だがその攻撃を放つ前に真下放たれた光線がフリーザーを撃ち、二匹を助け出した。

フリーザー「……!?」


「リザードン!!」


穴の中から急上昇し、ゆっくりと羽ばたき、着地する


リザードン「大丈夫か?」

ゴウカザル「はい、何とか」


リザードン「本人がぶっ壊してくれたお陰ですぐに来れた」

ジュナイパー「助かりました……!」


オーダイル「しかしどうする? 敵が強すぎる。四匹でも勝てるかどうか」


リザードン「いや、直に他のやつらも来る。それまで時間を稼ぐんだ」


ゴウカザル「わかった!」


フリーザー「ふん、何をしようと無駄だ!」


放ったビームが地面に当たると同時に大きな氷の柱ができた。何とかかわし、反撃に移る。


リザードン「大して効いちゃいないか」

フリーザー「伝説を、嘗めるなよ!」
 ▼ 174 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 20:00:41 ID:3aysx65U [25/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


冷凍ビームと火炎放射、光線の打ち合い。ゴウカザル達には干渉できない高さだ。


ゴウカザル「くっそー! やっぱ空飛べるのずるいな」

オーダイル「小さい分、リザードンの方が動きが早い。攻撃はかわしやすいか?」

ジュナイパー「いえ、フリーザーにはもう、それも関係ないわ……」


フリーザー「小癪な!」

リザードン「……!?」


フリーザーが少し気合いをいれ、声をあげただけで衝撃波が起こり、怯むポケモン達。
その隙をつき、嘴に冷凍ビームの予兆。


気合いを込めて放とうとした瞬間、何かに尻尾を引かれバランスを崩して全く明後日の方向に氷がばら蒔かれた。

何だ?
そう言わんばかりに睨み付ける。背後には、山からずるように巨大なポケモンが尻尾を捕まえていた。


ゴウカザル「あれは、ハガネール!?」


ジュナイパー「違う!」


フリーザー「化け物か……!」


ハガネール「正解」


「よくやったゾロア! そのまま逃がすな!」


ドクロッグ「どくどく!!」

ブリガロン「ミサイル針!!」


ミサイルのように飛び交う鋭い針が、どくどくによって紫色のオーラを纏い、フリーザーに直撃する。

狙い通り、毒の状態異常がかかった。
いくら伝説のポケモンでもそれは防げないらしい。


ジュナイパー「みんな!!」


フリーザー「チィ!」

 ▼ 175 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 20:01:06 ID:3aysx65U [26/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ドクロッグ「あらら、だいぶ怒らせちゃったみたいだな」

ゾロア「まぁそりゃあ、プライド高そうだし」

ブリガロン「来るわよ」



フリーザー「私の、邪魔をするな!!」



オーダイル「そりゃ無理だな」

ゴウカザル「俺たちにも負けられない理由がある」


ゾロアーク「お前の野望なんざ俺らにとっちゃどうでもいいんだよ!」


両手を重ねてエネルギー溜めた状態でジャンプする。正面突破、普通ならば翼の一振りで消し飛ばすはずだったが

フリーザー「!?」

風によってその姿は塵となり、砂のように消えてしまう。


「幻だ」


フリーザー「しまっ」


気づいた時にはもう遅い、背に乗り、両手を後頭部に押し付ける。


ゾロアーク「凍らせてみろよ。それでも攻撃は終わらねぇけどな……!」

「ナイトバースト!!!」


フリーザー「ぐあああ!!!」


影の衝撃波が球体型に広がり、その中では激しい電流のような痛みが襲う。振りほどこうとするがしっかりと張り付かれては振り落とせない。


「あぁっ!!」

ゾロアーク「……!?」


冷凍ビームをわざと口のなかに留め、暴発させた。爆風で吹き飛ばされる。


ゾロアーク「そんなのありかよ……!」
 ▼ 176 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 20:02:18 ID:3aysx65U [27/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ジュナイパー「みんな! 作戦があるの! 協力して!」

「……!」


白い蒸気で包み込まれた敵。恐らくこちらの位置もわかっていないはずだ。


オーダイル「離れてろ。いくぞ……! ハイドロポンプ!」


フリーザー「くそ、何故だ……! 何故!」


翼を交差させ、勢いよく解くことで風を起こし、白煙を吹き飛ばす。その瞬間、目の前に現れたのは、水の水圧で空を飛ぶオーダイルの姿。


「!?」


すぐに対処しようとするが体が動かない。


ジュナイパー「影縫い……!」


オーダイル「くらえ!!」


空中で身を翻し、強力な水の鞭を顔面に打ち込んだ。だがもちろんそれでは終わらない。


フリーザー「お前は、本物か……! 一人で正面から突破とは……!」


ジュナイパー「いや」

ゴウカザル「一人じゃない」

刹那、ジュナイパーはブリガロンを、ゴウカザルはリザードンを踏み台に跳び、フリーザーの傍まで接近する。


フリーザー「何、だと……!? まだ、下に……!」

ゾロア「お前には、同じポケモンが二体居るように見えてるかもな」

ゾロアーク「それも幻だ」


ゴウカザル「俺たちが本物!」
 ▼ 177 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 20:02:51 ID:3aysx65U [28/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


体に炎を纏い、

矢を刃へと変え、

二つの方向から同時に攻撃する。


「フレアドライブ!!」

「リーフブレード!」

打ち、切り裂く。


だが、まだ終わらない。


リザードン「日本晴れ!!」

その掛け声と共に雲が晴れ、傾きかけた太陽の日差しが強く山頂を照らした。

次の攻撃へと、繋げる。


フリーザー「……ぐっ!」


オーダイル「ハイドロカノン!!」

ゴウカザル「オーバーヒート!!」

ジュナイパー「ソーラービーム!!」


空中の三匹が、三方向から三色の光線を放つ。命中。三匹が着地し、全員が一点に注目した。


フリーザー「はぁ……はぁ……まだ……」


ゴウカザル「……!」


フリーザー「俺が、止めなきゃ……」


「悲しみを……終わらせなきゃ……」



意思とは逆に、体は限界だったようだ。

翼が羽ばたくことをやめ、地面に倒れる。
 ▼ 178 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 20:03:19 ID:3aysx65U [29/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ゴウカザル「……はぁ」

ジュナイパー「たお、したの……?」

オーダイル「8人がかりでやっと倒せた。めちゃくちゃな化け物だ」

リザードン「流石伝説のポケモンだな」



何とか強敵を倒し、一安心する一同。

だが、少しも安堵する余裕は与えられなかった。


「!?」


全員の注目が地面に向く。

響くような重低音と、少しでも気を抜けばバランスを崩し、倒れてしまいそうになるほどの揺れ。


オーダイル「何だ?」

ゴウカザル「地震!?」



ゾロアーク「……違う!」



足場が赤みがかり、次第に暑くなっていく。


「噴火だ!!」
 ▼ 179 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 20:03:43 ID:3aysx65U [30/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


リザードン「急いで逃げるぞ!」

ゾロア「フリーザーがいなくなったことで、止めていた時間が動き出した。もう一度、火山が活動を始めたんだ」


「きっと溜まりにたまったその威力は、昔話の比じゃない」


どんどん地響きが大きくなり、マグマのおとが聞こえ始めた。ポケモン達が急いで山から降りる。

ゴウカザル達もリザードンや空を飛ぶポケモンに変身したゾロアーク達に、乗り、下山しようとしていた時。


ゴウカザル「フリーザーは……?」

リザードン「は?」


ゴウカザル「フリーザー降ろしてやらないと死ぬ!」

オーダイル「放っとけばいいだろ、それに、あんなでかいのどうやって」

ゴウカザル「だけど見殺しにするわけにもいかないだろ!」

ジュナイパー「ちょっと! 待ってよ!」


リザードン「あのばか!」

「!?」


フリーザーのもとへ向かうゴウカザルを無理矢理連れていこうとするが、何せ今にも噴火しそうな火山の山頂だ。マグマが噴き出して近寄れない。


ゾロア「あいつら何やってんだよ……」

リザードン「くそ、どうする!?」
 ▼ 180 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 20:04:33 ID:3aysx65U [31/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ジュナイパー「無理よ! ここから降りられても、更に逃げなきゃダメなのよ!?」

オーダイル「言う通りだ! こんなでかいの連れて行けない!」

ゴウカザル「だけど! こいつ根っからの悪者じゃない! 俺とか、お前と同じ眼だった」


「きっと俺たちと同じで、何かに囚われて、こうするしかなかったんだよ! だから!助けてやりたい!」


オーダイル「んなこと言ったって……」

ジュナイパー「気持ちは、わかるけど」


ゴウカザル「何か、方法が……」


「!?」


──────── 刹那

全員が気づいた。
危機察知能力、と言ったところだろうか。
もう、時間はない。

至るところからマグマが噴き出し、煙が上がる。


ジュナイパー「うぅっ……! 息が……」

オーダイル「まずい、始まるぞ!」


ゴウカザル「どうすれば……」


──── 「もうダメだ!」


リザードン「近づけない!」

ゾロア「逃げよう! このままじゃ俺らも死ぬぞ!」

ゾロアーク「あいつらを置いていくのか!?」

ゾロア「仕方無いだろ!!」



警告音がなったかのように全員が気づいていた。

今逃げなければ、死ぬ。と


押し寄せてくるのが聞こえた。


暑い火山の上、決断を迫られる。
 ▼ 181 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 20:05:11 ID:3aysx65U [32/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ゴウカザル「……二人、だけでも……」


オーダイル「馬鹿言え! 一番あり得ねぇ選択だよ」

ジュナイパー「そうよ! 三人じゃないと、二人だけ生き残っても意味ないわ!」


ゴウカザル「じゃあ……」


「……!」

オーダイル「大丈夫か!?」


ジュナイパー「え、えぇ、ごめんなさい……」


ジュナイパーがあまりの暑さに堪えられず、ふらつく。残りの二匹も意識が朦朧としてきた。


ゴウカザル「あぁ……」


体が、
内側からも、外側からも、

焼かれるように暑い。

熱い。


このまま意識を失えば、

噴火に巻き込まれて死ぬだろう。

だけど、それもいいのかもしれない。

全員が意識を失ったまま、


終わるのなら……。



『こっちに、おいで?』



その瞬間、

赤く、全てを溶かす水が噴き出し、
鋭い雨と、体を蝕む黒煙が空へと広がっていく。
 ▼ 182 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 20:06:19 ID:3aysx65U [33/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
熱気は世界中に広まり、その日は、世界で一番暑い日になった。


逃げ惑うポケモン達。

それを、空から、見ていた。


ゴウカザル「……死んで、ない……?」


オーダイル「ここは?」

ジュナイパー「気持ちいい……」


三匹が目覚めるとそこは冷たく、心地いい柔らかい地面。辺りを見渡せば青空と下には、黒い海。


フリーザー「……目覚めたか」


ゴウカザル「!? フリーザー! お前、なんで!?」

フリーザー「あまり暴れるな。落ちるぞ」


驚いて仰け反る。後ろを見れば背後には地面はない。三匹がギリギリフリーザーの背中に乗っている状態だった。


ジュナイパー「……何で? 助けてくれたの?」

フリーザー「声が聞こえたんだ。昔の、優しさを思い出した」

オーダイル「お前にも、そう言うところあるんだな」


「もう、戻ることはない。戻ることもできない」

フリーザー「だけど今は、気分がいい」


ニヤリと笑った。
その時、三匹同時に察する。


ジュナイパー「フリーザー……」


フリーザー「俺は、この伝説の力を使って世界を止めようと思った。凍らせれて、保存すれば、俺以外時は流れないんだ」


「だけど、世界を壊すのは、俺の意思とは違う。今の俺に野望を成し遂げるほどの力はない」

フリーザー「助けることになるのは気にくわないが」


「生きろよ」


ゴウカザル「……待て! フリーザー!!」
 ▼ 183 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 20:06:43 ID:3aysx65U [34/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



強く羽ばたき、俺達を振り落とした。

急降下し、紅に滾るマグマのなかに飛び込む。

あっという間に核に辿り着き、強く力を発し、


全てを凍らせた。


フリーザーは力を使い果たして、凍った火山。氷火山の中心で眠る

三匹は不思議と、宙に浮き、ゆっくりと着地した。地面は水色の氷に覆われた奥に火山のマグマが覗いていた。


ゴウカザル「……終わった、のかな」

ジュナイパー「長かったようで、短かったね」


本当に駆け抜けたような時間だった。

あの日、三人で日の出を見てから、今まで。


オーダイル「こっちでも、色々あったんだぞ」

ジュナイパー「また、聞かせてね」


ゴウカザル「……あ、太陽が沈む」

 ▼ 184 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 20:06:59 ID:3aysx65U [35/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
山頂からは、
山、街、森、海、全てを一望できた。
崖のギリギリに座り込む三匹。

空に散ったまま凍ったマグマや灰は雪となり、世界に降り注いだ。沈む太陽の、橙色の輝きが綿のような雲を裂き、濁りの無い真っ青な空と雪を染め上げる。


「綺麗だな……」

「えぇ。綺麗……」


こうして眺めていると、昔の思い出が蘇る。

きっとそれは、全員同じ。


オーダイル「こうやって、三匹で太陽を見たっけ」

ジュナイパー「うん……!」


「『いつか三匹で、チームを組もう!!!』」


声が揃い、笑いあった。


ジュナイパー「三人揃ったら、相談しようって思ってたんだ……チーム名! 何にする?」

オーダイル「スイセン」

ジュナイパー「親と一緒はいやよ」


オーダイル「じゃあ……ゴウカザルは何が良いと思う?」


ゴウカザル「チーム名、かぁ……考えてなかったなぁ」

ジュナイパー「……うん」


ゴウカザル「じゃあ」


「タイヨウ」




【寒い日SS】暑い/熱い日の願い ─── 完。

 ▼ 185 カブ@ほのおのジュエル 17/08/16 20:17:43 ID:aP3PlXSI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
心が震えた
 ▼ 186 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 20:20:17 ID:3aysx65U [36/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


まず最初に
このSSを読んでくださったかた。
支援、感想等の書き込みをてくださったかた。
ありがとうございました。

このSSは暑い日/寒い日SS企画に参加しています。
http://pokemonbbs.com/sp/poke/read.cgi?no=633896



反省点は色々ありますが、

とりあえず長すぎですね。
何とその文字数58000越え。
企画にねじ込む長さじゃない。

本当に企画者様には申し訳ない。


あと結構後で知ったので途中で訂正しませんでしたが、レス番19(ネタバレになるので安価はしません)に出てくるデリバードは完全にミスです。

元々ゾロアークが化けていたドクロッグとデリバードは逆の予定で書いており、
モウカザルと行動するのはデリバードの予定だったのが、後から無理矢理上書きした為、vsダーテングの場面はかなりおかしな所が多くなってしまいました。本当に申し訳ないです……。

力入れた分色々喋りたいので、
僭越ながら次のレスから余談を少し
 ▼ 187 い◆5oP7VYU6fg 17/08/16 20:26:30 ID:3aysx65U [37/37] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

── 余談 ──

なので興味のないかたは無視してください。


願いシリーズ(仮)第一弾完結!(言い忘れてた)
この世界観で書きたいSSが沢山あるので好評だったら書きます。一応布石もちょくちょくありますね。


実はこのSS最初はもっと長くなる予定で、
登場キャラもかなり多かったのですが、企画と言うことでかなり削りました。

さっきシリーズと言ったように
ジュペッタの過去とか、
ギルドに所属してる他の救助隊の話とか、
トモシビ、やスイセン、の掘り下げとか、

もしかしたら書くかもしれないです。

と言うわけでまた他のSSで見かけたらよろしくお願いします。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
 ▼ 188 ッチール@みずのジュエル 17/08/16 20:46:31 ID:GcQRfroo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙です
一気に読んでしまった
 ▼ 189 ージュラ@オッカのみ 17/08/18 22:20:49 ID:3Be52SbQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙です
このページは検索エンジン向けページです。
閲覧&書き込みは下URLよりお願いします。
https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=650901
(ブックマークはこちらのページをお願いします)
  ▲  |  全表示189   | << 前100 | 次  |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |  ▲      
                  スレ一覧                  
荒らしや削除されたレスには反応しないでください。

. 書き込み前に、利用規約を確認して下さい。
レス番のリンクをクリックで返信が出来ます。
その他にも色々な機能があるので詳しくは、掲示板の機能を確認して下さい。
荒らしや煽りはスルーして下さい。荒らしに反応している人も荒らし同様対処します。




面白いスレはネタ投稿お願いします!

(消えた画像の復旧依頼は、お問い合わせからお願いします。)
スレ名とURLをコピー(クリックした時点でコピーされます。)
新着レス▼