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SS

【鬱?】ユキメノコ事件【SS】

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:18:07 ID:DDxjVMuQ [1/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
プロローグ1

209番道路にあるロストタワーが何者かに爆破されました。

瀕死のイシツブテが倒れており、警察は関係を調べています。


テレビコトブキ
9月某日のニュースより



スキンヘッドの男が変死

スキンヘッドの男2人が昨夜、ズイタウン郊外で死亡しました。

彼の友人によると彼らは急に苦しみだし、「ロストタワー……ごめんなさい、ごめんなさい……」と言ったようで、先月の事件と関係していると思われます。

死因の特定が急がれます。


ポケモン新聞社発行
ポケモン新聞10月某日のニュースより
 ▼ 2 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:18:35 ID:DDxjVMuQ [2/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
プロローグ2

うむ。なかなかの出来だ。

本屋の平台に積まれた『ユキメノコの想い』。

私はそれの編集者だ。はっきり言って、出来はなかなか。しかしその作者は知名度も低く、本にするのは絶望的だった。

しかし私はそれを本にした。

これが売れ筋になれば、私の社内の地位もあがるだろう。

しかしそれだけではない。
 ▼ 3 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:18:56 ID:DDxjVMuQ [3/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
女(作者)「また来たの?」

男(編集者)「ああ。出版おめでとう」

女「ありがと。ま、あがってよ」

男「わかりました」

正直に言うと、内容はなかなかなのだが、雪山で死んでしまった女性がユキメノコになり、それでも人間の男を愛し続けるというのは私からすれば甘すぎてへどが出そうである。

それでも本にしたのは、世間の女性はこういうのを求めているから。そして。
















彼女の体が魅力的だったからである。
 ▼ 4 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:19:24 ID:DDxjVMuQ [4/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
男「では、今夜もよろしくお願いします」

女「まあいいけどさ。あたし、今日を最後に、もうあんたとヤル気はないから」

男「は?」

まぬけな声をあげてしまった。

男「何言ってるんですか? あなたの本を出版まで持って行ったのは、私ですよ?」

冷静を装い、あくまでも優位にいるのは私だと言う事をわからせるために言う。

女「そう。それは感謝してる。だからあんたと今まで付き合ってあげた。でもね」

そこで女は一息ついた。そして、私は次の発言を許す事ができなかった。その生意気さが。

女「出版されてしまえば、売れる。もう、あんたの助けはいらないわ」

女「だから、もうあんたとはきれるわ」

逆上に囚われた私は彼女を押し倒していた。

女は後ろ向きにひっくり返る。

悲鳴は、聞こえなかった。

女が床に倒れた。

頭から滲みだした赤を見て、私は正気に戻った。
 ▼ 5 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:19:49 ID:DDxjVMuQ [5/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
何が私をここまで怒らせたのだろう。

拒まれた事か? いや、そうではない。彼女の体は魅力的であったが、彼女そのものは大した事なかった。

だからそうではない。では、なんだろうか?

……恐らく、彼女のなめきった態度だろう。出版されれば売れる、その根性が気に入らなかったのだ。

とりあえず、彼女の死体をどうしよう?

ここは彼女の自宅。

今まで入った事はある。それに今日は、出版祝いという名目があるから、私の指紋があってもなんらおかしくはない。

問題は死亡推定時刻だが、それに関しては彼女の死体が見つからなければそれでいい。

家を荒らせば、恐らく物取りが殺して、怖くなって死体遺棄まで及んだと考えられるだろう。

とにかく、今は昼。一回戻るべきか? 今日は彼女の家には私を除いて誰も来ないはず。

いやしかし……もう一度ここに来るとなるとそれはそれでおかしなことになる。

それはまずい。かといって今から処理するにも、会社の面々から疑われるのはほぼ確実だ。

そうだ。なら、車で死体ごと会社に戻るか。臭いさえごまかせば、ばれはしないはずだ。

まして今は冬。そう簡単に腐らないはずだ。

よし。そのプランで行こう。
 ▼ 6 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:20:09 ID:DDxjVMuQ [6/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
上司「今日は祝いだ。一杯行こう」

男「すいませんが、車なので……」

上司「そうか……」

言い訳をつけて飲みの誘いを断る。時間をとられるだけでなく事実飲酒運転は禁物だ。

それで捕まって殺人が露見したら、笑い話にもならない。

男「お疲れ様でした」
 ▼ 7 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:20:31 ID:DDxjVMuQ [7/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今ここはハクタイ。

確実を期すなら、キッサキ方面のあの雪深い道路に埋めるのが最適だろう。

そう判断して、私は進路を決定した。

臭いはひどくないものの、冬のこの寒い中、暖房を付けられないのは辛い。

ハクタイ・キッサキを結ぶテンガン第一トンネルを抜けると、雪深い216番道路だった。

しばらく進んで車から降りた。

道中のホームセンターで購入したシャベルを使い、作業を始めた。

夜闇に紛れ、誰からも見られていないだろう。

絶対にばれない。その自信があった。
 ▼ 8 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:20:54 ID:DDxjVMuQ [8/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
1章

暖房の効いたカフェ。

アイスコーヒーを口に含む。

仕事の途中の至福の時間。

それは、いきなり奪われた。いきなり鳴り始めたスマホによって。

後輩「はいもしもし」

上司「大変な事になった! 今すぐ戻って来てくれ!」

後輩「はい?」

上司「仕事は?」

聞く順序が逆だろと思いつつ答える。

後輩「今は大丈夫です」

上司「大至急だ!」

そう言って電話を切った上司。

後輩「何があったんだろ? ひょっとしてあの作家?」

何かミスしてしまったのだろうか……戦々恐々としながら職場へと向かう。
 ▼ 9 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:21:15 ID:DDxjVMuQ [9/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
後輩「え? え?」

敬語も忘れてただただびっくりした。

後輩「女さんが……消えた?」

上司「ああ。男が第一発見者……と言っても死体はない」

後輩「はい?」

上司「彼女の自宅に血の跡があってな、部屋も荒らされていた。犯行時刻もこれじゃわからない」

上司「とにかくこれは物取りの犯行の線だろうが、問題は……」

後輩「メディア……ですか……?」

内心違って欲しい。彼女の安否であって欲しかった。

しかし彼ならそう言いそうだとも思う。はたして彼は。

上司「その通りだ」

小さく肩を落とす。

どうしてこう自分の事しか考えられないようなのが上に立つのだろう。

いや逆か。自分の事だけ考えてるから人の上まで行けるのか。

なんて世の中の理不尽を感じながら話を切り出した。
 ▼ 10 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:21:36 ID:DDxjVMuQ [10/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
後輩「で、男さんは一体今どこにいるんですか?」

上司「警察から事情聴取を受けている。とにかく、君、ミステリーが好きでここに入ったと言ったね?」

確かにそう言った。僕は中学生からその魅力にはまり、実際に書こうとした事もあった。

もっとも、僕に文才はなかったのだけれど。

なんて事を、ぼんやり考えていたら。

上司「だから、この事件の犯人を解き明かして欲しい」

後輩「はあ?」

ああもう、さっきから敬語が取れすぎだ。心からの尊敬がないからだろうけどさ。

それはともかくとして。

後輩「何言ってるんですか?! どう考えてもそれは警察の仕事です! それに僕が担当している作家も……」

上司「君の代わりなど、いくらでもいる。あれに担当させるか……」

はあ……僕の代わりがいるというのは、実質君がやめても困らない、つまり受けないと……僕はハロワ通いまっしぐら、と言う事だ。

これだからこの人は嫌いだ。口八丁でわたって来たのは認めるが……

後輩「わかりました、わかりましたよ! やりますよ!」

上司「よろしい」
 ▼ 11 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:21:57 ID:DDxjVMuQ [11/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
どう考えても、こんな仕事、編集者の仕事じゃないよ……

でも、やるからには徹底してやる、が僕の信条だ。

こうなったらとことん調べ尽してやる!

上司「まあ、解き明かすというか、この問題に対して取り組んでいるイメージを付けたいだけだがな、はっはっは」

なんて言っているが。

後輩「わかりました。じゃあ、まずは男さんに事情聴取します。どこにいますか?」

上司「ハクタイ警察署だ」

後輩「わかりました。では、行ってきます……あ! ま、後でいっか、引き継ぎ」

上司「いや、一応しておけ。私が伝えておく」

後輩「あ、はい……」
 ▼ 12 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:22:22 ID:DDxjVMuQ [12/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
後輩「いきなり出鼻をくじかれたな……あ、先輩!」

男「ああ、後輩さんですか。どうしました?」

後輩「お勤めご苦労様です!」

男「……まるで私が犯罪者みたいじゃないですか」

言ってみたかっただけだ。

後輩「上司さんから事件を調査するよう指示が出て、それで……」

男「ああ、はいはい。事情聴取ですか。なら、カフェでも行きます? 奢りますよ」

後輩「マジで? あ、すいません」

男「いいんですよ。じゃあ、行きましょう」

この人は、尊敬できるか……と言われれば、そこそこできる方だと言わざるを得ない。

しっかり自分を持っているからだ。
 ▼ 13 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:22:45 ID:DDxjVMuQ [13/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
さっきいたカフェに帰って来た。

男「まあ、隠す事もないですし、全部話しますよ」

男「と言っても、大した情報にはならなさそうですがね」
 ▼ 14 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:23:07 ID:DDxjVMuQ [14/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
昨日は夕方……5時に切り上げて、帰って来ました。職場に帰って来た時間からも、わかるでしょう。

その時には彼女はぴんぴんしていた。

それが今日……12時頃ですかね? ……また向かったんですよ。理由は……なんとなく、ですかね。

やっぱり、自分が担当した作家って、気になるじゃないですか。

後輩「わかります、わかります! 入れ込んだ分だけ気になりますよね!」

男「君は今の所、全部に入れ込んでるように見受けられるんですが?」

後輩「やるからには徹底してやるが信条なんで」

男「ははは、続けますよ、と言ってもほぼ終わりですけど」
 ▼ 15 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:23:29 ID:DDxjVMuQ [15/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カギは、かかっていませんでした。

部屋も荒らされていました。財布も消えていたし、泥棒の犯行でしょう。

でもあの驚愕は忘れがたいですよ。絨毯の赤い滲み、ホントよく耐えたなと思います。

男「以上です」

後輩「なるほど……はあ」

状況は絶望的だ。ただの泥棒が犯人だったら、犯人なんて素人探偵に探せるはずがない。

あれ?

後輩「なぜ、女さんは消えていたんでしょう?」

男「恐らく泥棒も殺人という行為に動揺したのでしょう。それで……」

恐らく呑み込んだのは、死体遺棄という言葉。確かに言いよどむのもわかる。むしろそれが普通だ。

後輩「なるほど……筋は通りますね」
 ▼ 16 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:23:49 ID:DDxjVMuQ [16/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
男「とにかく、私も協力します」

男「このままじゃ寝覚めも悪いですしね」

後輩「ホントですか? よろしくお願いします!」

アイスコーヒーをすする。

男「この真冬にアイスコーヒーとは……」

後輩「暖房が効いた中での冷たい物は鉄板でしょう」

男「少しはこの星の環境も考えてあげてください……」
 ▼ 17 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:24:11 ID:DDxjVMuQ [17/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
2章

ムウマ「お兄ちゃーん!」

ムウマ兄「ん? なんだ?」

ムウマ「遊ぼ?」

ムウマ兄「いいけど……何して?」

ムウマ「ニンゲンを驚かせよ!」

ムウマ兄「ですよねー」

ムウマ「ほら来た。行こ♪」

ムウマ・兄「きゃああああ!」

ラブラブカップル男「うわああああ!」

ラブラブカップル女「きゃ……なあんだ。ムウマじゃない」

ムウマ「大成功♪」

私たちムウマは、怖がる心を吸収して栄養にする。

だからちょっと驚かすぐらいの事は、生きて行くために必要なの。

もちろん、楽しいけどねっ!
 ▼ 18 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:24:33 ID:DDxjVMuQ [18/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロストタワーでの暮らし。驚かされたニンゲンに襲われる事もあったけど、楽しかった。

そう、あの事件があるまでは……

スキンヘッド1「きゃはは! こーんな陰気なとこ、消えた方が世のためだっての!」

スキンヘッド2「だよな! さっき捕まえたこいつ、爆発させようぜ」

1「せやな」

1・2「ぎゃはははは!」

男2人の下品な笑い声が響く。だが、まだそこでは現実の恐怖はなかった。

ムウマ「お兄ちゃん。なんか言ってるよ?」

ムウマ兄「ちょいと追っ払って来るか……」

しかし、次の瞬間、あたしたちは恐怖のどん底へと突き落とされた。

2「イシツブテ、自爆!」
 ▼ 19 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:24:57 ID:DDxjVMuQ [19/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ムウマ兄「あいつら……マジだ。やべえ。お前は急いで逃げろ!」

ムウマ「お兄ちゃん?」

ムウマ兄「いいから! 俺も後から行くよ」

その言葉に従ってまっしぐらに逃げる。

お兄ちゃんなら絶対大丈夫だよね! ……そう、信じていた。

爆音が響く。ロストタワーが一瞬にしてただのがれきの山と化していた。

1「大成功!」

ムウマ「うそ……」

さっきまで普通に暮らしていた家。それが、あっという間に……

信じられない。絶対ありえない。そうだ。これは夢だ。

あれ……お兄ちゃん?

ムウマ「お兄ちゃん、どこ? いるなら返事して……ねえ、ねえ! お兄ちゃん! どこ!」

ムウマ「うそ……でしょ? ねえ、冗談やめて! 今そこで、あたしの恐怖を食べてんでしょ? ねえ、ねえったら! ねえ!」




ムウマ「お兄ちゃん、いないの?」
 ▼ 20 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:25:22 ID:DDxjVMuQ [20/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ムウマ「お兄ちゃん、死んじゃった?」

ありえないそんな事天地が裂けてもありえないだって。

あたしたち、初めからお化けなんだよ?

死ぬなんて、ありえない。

必死にがれきを避ける。誰かの体が見当たらないかと。

ヤミカラスじゃなくて、あーもう今はゴースもどうでもいい!

こいつはムウマ違いで……いた。

お兄ちゃんが。いや、お兄ちゃんだった物体が。

ムウマ「うそ、冗談やめて……お願い……起きて、起きてよお……うっ、うわあああん!」

ムウマ「ひっく、あいつら……絶対……えぐっ、許さない」

ムウマ「……呪い」

思ったより、いや、必要以上に、私は冷静だった。

あたしの体力が尽きても、復讐を遂げるつもりだった。


その数か月後、彼らは死んだ。

ニンゲンなんて、所詮そんなもろい生き物。そのくせして、命だけは奪っていく、最低な生き物だ。
 ▼ 21 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:25:55 ID:DDxjVMuQ [21/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
3章

後輩「他の関係者もあたるんですけど……誰がいますかね?」

男「関係者というよりは、目撃者だろうね。でも今日はもう遅い。一旦帰るべきだと、私は思うがね」

確かに時計を見るともう遅かった。その言葉に従うべきだろう。

いかんせん何時に運び出されたかわからないのだ。時間がわかれば毎日決まった時間に通るような人から情報を引き出せるけど……

後輩「では、そうしますか」
 ▼ 22 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:26:16 ID:DDxjVMuQ [22/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
後輩「ただいまあ」

リオル「くわんぬ!」

後輩「おーよしよし、腹減ったか」

リオル「くーんぬ」

首を縦に振りながらそう言うリオルの愛らしさは、僕の心を温めてくれる。

後輩「じゃ、メシ用意するからな」

リオル「くわんぬ!」

喜びの鳴き声も、やっぱりかわいい。
 ▼ 23 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:26:36 ID:DDxjVMuQ [23/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
独り身が孤独でポケモンでも飼うか、と思い、かと言ってトレーナーになれる訳でもなく、ペットとして買うには金がかかり過ぎる。

そんな時、ホウエンのバトル……フロンティアになったんだっけ? でたくさんタマゴが捨てられるから、保護してくれる引き取り手を探している、との情報を聞いた。

一番大きかったのは、無料。この二文字だ。

……はあ。我ながら情けないなあ。

それはともかく、そのタマゴから孵ったのがこのリオル、という訳だ。
 ▼ 24 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:26:59 ID:DDxjVMuQ [24/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
後輩「そうだ。明日、一緒に行くか?」

2人の料理を用意しながらそう話を切り出す。

リオル「わんぬ?」

後輩「人の考えてる事が読めるんだろ? リオルって」

リオル「くわんぬ」

深く頷くリオル。その表情に、思わず吹き出る笑い。

後輩「ったく、お前妙にかわいいな。で、その考えてる事を読む力が、どこかでいるかもしれないんだ」

後輩「だから、一緒に来てくれ」

リオル「くわんぬ!」

その明るい表情に同意を感じ取った。

後輩「ありがと」

リオルは、にかっと笑った。
 ▼ 25 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:27:21 ID:DDxjVMuQ [25/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝。

男「これは……」

後輩「これ呼ばわりはひどいですよ。こいつはリオルです。人の考えてる事がわかるんで、役にも立ちますよ?」

リオル「くわんぬ……」

後輩「どうしたんだ?」

どう考えても、先輩に怯えているようにしか見えない。

後輩「この人は悪い人じゃないよ?」

リオル「くわんぬ!」

首を横に振る。

男「どうやら嫌われたみたいですね、ははは」

後輩「すいません」

男「いいんですよ。別に私もポケモンはそんなに好きではないのでね……」

後輩「え? こんなにかわいいのに? あ、すいません。敬語……」

男「君はたまーに素が出ますね。気を付けないと、社会にはそういうのに厳しい人が多いですよ」

後輩「はい……」
 ▼ 26 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:27:44 ID:DDxjVMuQ [26/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リオルが何故先輩を嫌うのかはわからないが、とにかく調査を再開する。

後輩「まず、目撃者がいれば話は早いんですけど……」

後輩「とりあえず家に連れてってください」

男「わかりました。こちらです」
 ▼ 27 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:28:06 ID:DDxjVMuQ [27/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
後輩「先輩、どうかしました?」

先輩の案内で女さんの家へと向かう途中、先輩が不意に立ち止まった。

まるで、その表情は、何かを、自分にとって不快な何かを見付けたような、そんな感じだった。

男「あ……いや、大丈夫です。行きましょう」

後輩「ホントですか?」

男「大丈夫ですから」

後輩「リオル、どう?」

リオル「くーんぬ」

首を横に振る。

男「はあ、隠せないというのも辛い物ですね。ちょっとめまいがしただけです」

後輩「はあ……」
 ▼ 28 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:28:30 ID:DDxjVMuQ [28/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
男「ここです」

後輩「へえー」

賃貸アパートだった。とはいえ、駐車場なども完備されていて、そこそこいいアパートではあった。

ジュンサー「あなた……第一発見者の」

男「はい。男です」

ま、そりゃそうか。素人探偵には無能警察がつきものだ。もっとも無能なんて思っていないけれど。

ジュンサー「一体どのような御用で?」

後輩「上司からこの件について調査するように言われまして……」

ジュンサー「はあ……とにかくこの件は警察にお任せください」

後輩「そんな! 僕の首がかかってるんですよ!」

ジュンサー「それはお気の毒ですが、残念ながら捜査情報をお教えする訳には……」
 ▼ 29 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:28:52 ID:DDxjVMuQ [29/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
警察モブ「ダメです。男さんが帰って以降の人の出入りはありませんでした!」

ジュンサー「あ」

警察モブ「え? あ」

後輩「情報提供ありがとうございます」

前言撤回。やっぱり無能だ。

後輩「となるともうここでの情報はなさそうです。他あたりましょう」

ジュンサー「……捜査情報、広めないでくださいね」

男「わかってますよ」

ジュンサー「ったく、容疑者に情報漏らしちゃって」

彼女としては声を抑えたつもりだったのだろう。しかし苛立ちのせいか、その声は僕たちにも聞こえた。

男「ああ、私、容疑者なんですね。そりゃそうか」

ジュンサー「しまった!」

ははは……ダメだこりゃ。ただの税金泥棒じゃないか。
 ▼ 30 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:29:12 ID:DDxjVMuQ [30/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
男「次はどうします?」

僕は思考を加速させていく。

確かに先輩が犯人だとすると、全てが矛盾なく説明できる。

それにリオルが怖がる理由も殺人犯だからで説明がつく。

でも、それだけだ。全て状況証拠だ。先輩が犯人であると示している訳ではない。

男「うっ……そんなバカな……」

後輩「どうかしました?」

男「まさか……そんなはず……」

後輩「ひょっとして、女さんの幽霊でも見ました?」

ほんの冗談ではあったが、そうであってもおかしくはない動揺っぷりであった。

男「あ、いや、大丈夫ですよ」

後輩「嘘ですよね。僕たち、パートナーなんですから、正直に話してください」

リオル「わんぬ」

リオルも小さいながらどこか諭すような口調と表情で頷いた。
 ▼ 31 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:29:34 ID:DDxjVMuQ [31/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
男「だから何もないですって。はあ……今日はもう、打ち切りますか」

後輩「え、ちょっと待ってください!」

男「疲れました。慣れない事はするもんじゃありませんね」

後輩「大した事してないんですけど」

男「いいから! 今日の調査はおしまいです!」

後輩「でも……」

どこか納得のいかないままに追い立てるように別れた。
 ▼ 32 1◆J44kAZeDOM 15/08/06 23:30:00 ID:DDxjVMuQ [32/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今日はここまでです
 ▼ 33 EEVEE◆fnkquv7jY2 15/08/06 23:51:06 ID:bMgUi2K. NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 34 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 13:41:51 ID:VaAqDrjg [1/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
4章

ロストタワーを壊した男2人に対する恨みだけで生きていた。

いや、もうそれを生きている、なんて言っていいのかどうか、私にはわからない。

自分の事をあたしなどと言う幼さは完全に抜けきり、私はもう、死んでいた。

そもそもムウマ、いやもうムウマージになったが、という種族に生きているという考え方が通じるのかもわからない。

だから、ニンゲンが使うテレビ、という機械が、あの男たちの死を映し出した時は、歓喜の涙が溢れたものだ。

もっとも、私は、ニンゲン、という種族を許していない。

見境なく危害を加えたりはしないが、悪い事をしているニンゲンは……










私は、絶対に許さなかった。
 ▼ 35 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 13:42:23 ID:VaAqDrjg [2/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あの2人の死を見届けてから、行くあてもなく、ぼんやりと北に向かった。

この時期、北は物凄く寒くなる。

それこそ、命が尽きてしまうほどに。

それならそれでいいや。こんな醜い世界にいるぐらいなら、死んだ方がいい。

こんな世界に、意味などなかった。

そこから私の歯車は、狂い始める事になる。
 ▼ 36 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 13:43:25 ID:VaAqDrjg [3/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
217番道路

ムウマージ「うう、寒い……でも……これでみんなと……お兄ちゃんと会える……」

ムウマージ「私、このまま死ねそう……」

ムウマージ「あっ……なんか……あったかい……」

ムウマージ「……」
 ▼ 37 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 13:44:01 ID:VaAqDrjg [4/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
???「大丈夫ですか?」

ムウマージ「う、ううん?」

???「よかった! 気が付きましたか!」

ムウマージ「あなたは……」

ユキメノコ「私はユキメノコです。あんなところで氷タイプでもないのに寝てたら、死んじゃいますよ?うふふ」

その言葉を聞いて、ふっと思い出した。

ムウマージ「そうだ! 私、ここに死にに……」

ユキメノコ「あら。自殺志願者。なるほど。余計な事しちゃいましたね私」

ムウマージ「行かせて、外へ」

ユキメノコ「まあまあ。一旦私に何があったか話してくださいよ」

その言葉には、同性ながらどこか惹かれるような温かさがあった。

その温かさに心の氷が溶かされたのか、気が付けば目から温かい水が滴り落ちた。
 ▼ 38 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 13:44:29 ID:VaAqDrjg [5/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ユキメノコ「それは災難でしたね。でも、それで自殺は早まりすぎでしょう。あなたのお兄さんも、そんな事望んでいません」

ムウマージ「うん……わかってるよ、わかってるけど……」

ユキメノコ「辛いですが、それが残された者の定めですからね……」

ムウマージ「うん、うん……うん!」

涙が止まった。少し気分が上向いた気がする。

ユキメノコ「わかってくれました? でも今帰るのは難しそうですしね……」

ユキメノコ「そうだ! しばらくここにいていいですよ」

ムウマージ「ありがとう……」
 ▼ 39 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 13:45:27 ID:VaAqDrjg [6/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それから、私たちの同棲は始まった。

それが、どこかからおかしくなっていった。

どこかというのは昨日、ユキメノコがある1人のニンゲンが別のニンゲン(それも死体)を雪山に埋めている所を目撃して以来の事だ。

考え事をしている時間が増え、かと思うといらいらして物にあたる。

どう考えても昨日までの彼女ではなかった。

ムウマージ「どうかしたの? そんなにショックだった?」

ユキメノコ「うん。めっちゃ辛い」

言葉遣いまで変わってしまった。

ユキメノコ「ねえ、私、あの男に復讐したい。私がやる義理じゃないかもだけど」

その言葉に、正直ちょっと驚いた。

彼女はそんなあらあらしい事をしないと思っていたから。

でも。そんなニンゲンなら……

ムウマージ「私も手伝うよ」
 ▼ 40 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 13:46:07 ID:VaAqDrjg [7/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
5章

男「昨日はすいませんでした」

後輩「で、大丈夫だったんですか?」

正直、リオルの態度や状況証拠に引っ張られて、心証は真っ黒だった。

男「ええ。いや、ユキメノコの幻覚なんて、そんなに彼女に引っ張られてるのかと思いまして……」

後輩「はあ?」

正直、話してもらえるなんてつゆほども思っていなかったから、見破るの使えるリオルに頼もうと思っていたところだったのだ。

男「どうかしました?」

後輩「いいえ、なんでも……」

どうして? なんで話す? 心証を取り戻すためか?

後輩「ユキメノコの話でしたよね」

男「ええ。まさかその幻覚を見るなんて、おかしいでしょう?」

後輩「はあ……」

罪悪感の表れ? それとも、本当は先輩が殺したのに、適当な嘘を……いや、何か見たのは疑う余地がない。

じゃあ、白なのか?
 ▼ 41 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 13:46:28 ID:VaAqDrjg [8/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それにしても、だいぶやつれた顔をしている。

先輩、ひょっとして深夜もずっとユキメノコの幻覚を?

だとすると、そのやつれ具合も納得なのだが、だとすると……

それ、何か外部からの要因が働いてるような気が……

だって、一晩中同じ事ばかり考えるというのもおかしな話だ。

眠っている時でさえ、なのだとしたらだが。

男「さあ、行くぞ……といっても何ができるかと言えば……」

後輩「あなたの無実の証明、ですかね?」

男「え?」

後輩「もっとも、できるとは限りませんけど」
 ▼ 42 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 13:47:43 ID:VaAqDrjg [9/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
まず、あなたが犯人だと仮定します。

あくまでも仮定の話。状況証拠に過ぎませんので、深く考える必要はないですが。

男「ちょっと待ってくれ」

後輩「だから仮定ですって。続けますよ」

男「そうですか……わかりました」

あなたが殺人を犯した後、彼女を自分の車に詰め込んだ。

そして仕事が終わるまで待って、どこかに処理した。

後輩「こう考えると、一切の矛盾が無く説明できるんです」

男「確かに、矛盾はないですね。でも、その証拠は?」

後輩「だから仮定だって言ってるじゃないですか。ホントに想像ですよ」

後輩「でも僕でも想像できたんです。警察でも考えるでしょうね」

後輩「それで車調べられたら終わりでしょうね」

男「それで?」

後輩「ところで、あなたの話に引っ張られて女さんが死んだと思い込みましたが……」

後輩「上司さんも、警察も死んだなんて断言してませんよ?」
 ▼ 43 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 13:48:08 ID:VaAqDrjg [10/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼の表情が歪んでゆく。

それはもう、見ていて滑稽なほどに。

男「なるほど……確かに失言でしたね……でもいいんです。どうせ死ぬんだから……」

男「今、ユキメノコが来ました。私を許さない、殺すってね」

男「私、死にたくない。だから、原因を直接……」

いきなり走り出した。あっけにとられた。

後輩「あ、ちょっと……リオル、見破る!」

リオル「くわんぬ!」

そこに現れたのは、ある1匹のポケモン、ムウマージだった。
 ▼ 44 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 13:48:54 ID:VaAqDrjg [11/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
先輩を捕まえるのも重要だが、それよりもまず、先輩を追い詰める者の正体を掴んでおきたかった。

じゃないと、罪を償わせる事ができない。そんな気がして。

後輩「リオル、行くぞ」

リオル「くわんぬ!」

ポケットには、未使用のモンスターボールが1つ。これにポケモンをぶつけると、確実に一瞬動きを止められるのだから、トレーナーでなくても襲われた時のために1つは持っている物だ。

だが逆に言うと、1つしかない。

だから捕獲するチャンスは一度きりだ。
 ▼ 45 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 13:49:19 ID:VaAqDrjg [12/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
後輩「リオル、電光石火!」

リオル「くわんぬ!」

ムウマージの方へと突っ切っていくリオル。しかし、ムウマージの方が一枚上手だった。

ムウマージのシャドーボール!

ぎりぎりまで引きつけての攻撃は戦い慣れしていない僕たちにとって、まさしく想定外。

リオルのダメージも相当大きな物だった。

後輩「リオル! 行けるか? まねっこ!」

リオル「く……んぬ……!」

リオルのシャドーボール!

ムウマージに効果は抜群だ!

後輩「いいぞ、効いてる! 畳みかけろ、はっけい!」

リオル「くわんぬ!」

ムウマージ「うぐう……」

行けるか? 今なら、ダメージも充分だろう。

チャンスは一度きり……
 ▼ 46 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 13:49:44 ID:VaAqDrjg [13/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
うん、行こう。

緊張するなあ……

後輩「いけっ、モンスターボール!」

あやまたずムウマージに命中したボールは、ムウマージを中へ吸い込む。

1つ揺れる。

2つ揺れる。

3つ揺れた。

カチッと小気味のいい音をたてた。

周囲の野次馬の拍手が聞こえて、自分が捕獲に成功したと知った。

後輩「先輩! いませんか!」

野次馬「先輩が誰か知らないけど2匹を早くポケモンセンターに連れてった方がいいんじゃないか?」

そうだ。確かに今の戦いで傷ついたはずだ。

先輩は気になったが、ひとまず2匹をポケセンに連れて行こう。話はそれからだ。
 ▼ 47 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 13:50:05 ID:VaAqDrjg [14/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジョーイ「お預かりしたポケモンは(ry」

後輩「ありがとうございます!」

そう言って2匹を受け取ると急いでムウマージをボールから出す。

後輩「なあ、ムウマージ。捕まえたからって言う事全部聞いてもらえるとは思ってない」

後輩「でも、なんであんな事したかは教えてくれ。頼む!」

ムウマージは同意を示すかのように頷いた。
 ▼ 48 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 13:50:30 ID:VaAqDrjg [15/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
また夜に再開します
 ▼ 49 しあ Cynthia◆TARA.EYz9Y 15/08/07 13:55:11 ID:J/O.Td3g NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
うん >_<
 ▼ 50 ングラー@コインケース 15/08/07 18:27:34 ID:VaAqDrjg [16/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
6章

ユキメノコの作戦はこんな物だった。犯人の男に私がユキメノコの幻覚を見せる。

それで適当になんで私を殺したの? みたいに脅かしてれば、罪悪感みたいなのが刺激されて、勝手にこっちにくるでしょう。

それを彼女がしとめる、という物だった。

その男は悪いニンゲン。許されざる存在であった。

それに、ずっといさせてくれた恩もある。

私は手伝う事に決めた。
 ▼ 51 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 18:28:00 ID:VaAqDrjg [17/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
急いで吹雪の中を通り抜け、なんだか本末転倒してるな、と思う。

吹雪の中を帰らせないように、という気遣いでいさせてもらったのに、一番吹雪がひどいタイミングで都市まで戻るなんてね。

ユキメノコが言うには、彼の車はハクタイの物らしい。

その言葉通り、ハクタイの方へと向かった。

そして、その男を発見した。

別の男と一緒に。でもそいつは今関係ないか……

相手に見せるべき幻覚を思い浮かべる。

ユキメノコ「なんで私を殺したの? ねえ?」

これでいっか。

男の目には、いきなり吹雪いたと思ったらそこからユキメノコが現れ、今のセリフを呟いたように見えただろう。
 ▼ 52 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 18:28:33 ID:VaAqDrjg [18/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その夜。夜には集中的に見せる。

焦らず、少しずつ、小刻みに。

少しずつ恨みを吐き出していく。

ユキメノコ「私を殺したのよ? あなたも死んで」

ユキメノコ「なんなら私が殺してもいいのよ?」

……


翌朝、男は、憔悴しきっていた。
 ▼ 53 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 18:28:50 ID:VaAqDrjg [19/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その後も、男に張り付き、時々幻覚を見せた。

しかし、張り付いている事が私の運の尽きだった。


ニンゲン「リオル、見破る!」


そう、見付かってしまったのだ。

しかも、勝負に負け、ゲットされてしまった。

私、一生の不覚。
 ▼ 54 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 18:29:11 ID:VaAqDrjg [20/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ポケセンの中で。

リオル「にしても強かったね!」

ムウマージ「何それ皮肉?」

リオル「皮肉って? ホント強かったよー。ホント後輩君がいなかったら絶対負けてたもん」

ムウマージ「どうも、ずいぶんニンゲンを信用してるみたいね」

リオル「うん。だっていい人なんだもん!」

ムウマージ「ニンゲンに……いい人なんているんだ」

リオル「いるよー! そりゃ悪いニンゲンもいるけどさ。さっきの後輩君といた男とかね」

ムウマージ「わかってたの?」

リオル「考えてる事がわかるんだもん。そりゃ、ばれないようにばれないようにって考えてたら怪しいでしょ?」

ムウマージ「へえ、すごいね」

リオル「その点後輩君はすごいんだよー! だって、悪いとこほっとんどないんだもん!」

ムウマージ「へえ」
 ▼ 55 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 18:29:32 ID:VaAqDrjg [21/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
なんとなく、この天真爛漫さが、かつての私を彷彿とさせた。

私だって、ほんの数か月前まではこんなんだったのよね……

だから私は、このリオルを。そしてリオルが信用しているコウハイというニンゲンを信用する事にしてみた。

だからコウハイが私の行動の理由を聞いて来た時、幻覚で素直に説明した。

コウハイ「ユキメノコが主犯……やっぱり、女さんは雪の中か……」

頷いて見せた。そして、ついて来て、の意味を込めて体を翻す。

コウハイも察したらしく、ついて来た。

ムウマージ「あの男も、たぶんあの死んでた女のとこに行くから」

リオル「よくわかんないけど、捕まえられる?」

ムウマージ「さあ」

それはユキメノコ次第としか言えない。

ムウマージ「でも野放しにはならないわ」

リオル「よかったあ」
 ▼ 56 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 18:29:46 ID:VaAqDrjg [22/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
7章

私は車を走らせていた。

雪山で遭難した女性がユキメノコになるなんて、ただの伝説。

絶対にありえない。

絶対にありえないが……こうして何度も何度も殺す殺す言われると、どうにも精神的に参ってしまうらしい。

男「はは、ははははははは!」

運転しながら、突如として笑いの発作に襲われた。かと思うと涙が溢れてきたり。

なんかもう、たどり着く前に事故死しそうだった。
 ▼ 57 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 18:30:08 ID:VaAqDrjg [23/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それでもなんとかたどり着いた。

確か、あのあたりに埋めたはず……

駆け寄り、シャベルを振りかざす。

ここだ、間違いなくここだ。ここには女がいる。いや、あると言うべきか。

だから、掘れば確実に見付かる。

















そう、思っていた。
 ▼ 58 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 18:30:24 ID:VaAqDrjg [24/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
男「ない、ない、嘘だ、ない、ないないないないない!」

頭がどうにかなりそうだった。一部残った理性で必死に食い止めている。

ありえるはずがない。こんな事。絶対に!

その時、猛烈な吹雪が襲って来て、私の意識は途切れた。
 ▼ 59 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 18:30:39 ID:VaAqDrjg [25/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
男「う、うーん……」

男「って、うわああ!」

まぬけな声が漏れた。だが、いきなり私に殺意を持っているポケモンが目の前にいたら誰でも驚くだろう。

そうか……私はここで死ぬのか……

もはや奇妙な、諦めにも近い感覚が襲って来た。

しかし、私は死んでなどいなかった。

ユキメノコはこっちに来い、とでも言うように身を翻した。

後は野となれ山となれの精神でそのまま付いて行く。
 ▼ 60 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 18:30:56 ID:VaAqDrjg [26/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこには、圧巻の光景が広がっていた。

たくさんの氷像。どこか毒々しくも、美しい物だった。

しばし目を奪われていたが、ふとある1つの氷像に目が留まった。

彼女……女の物だった。

なんだ。そんな超自然的な事、ある訳なかったのだ。

男「ははは、はははは、ははははは!」

笑いが漏れた。もうそれは、狂ってしまったかのように。

背後から冷気を感じる。

そうか、私もこのコレクションの1つになるのか。ははははは……

薄れゆく意識の中、彼女の美しい体だけが私の目に焼き付いていた。

……
 ▼ 61 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 18:31:12 ID:VaAqDrjg [27/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
後輩「こっちか?」

ムウマージが頷いた。

後輩「うー、寒……はっくしょん! あーもう」

後輩「このあたりか……」

ロッジ雪まみれで借りたシャベルを振りかざす……必要はなかった。

もうすでに掘り返されていたから。

後輩「くそ……ムウマージ、他に心当たりは?」

ムウマージ「マージ!」

こっちよとでも言うように身を翻す。
 ▼ 62 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 18:31:27 ID:VaAqDrjg [28/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しかし、結局、そのユキメノコを見付ける事はなかった。

ムウマージも困惑した様子だった。

波導で何かわからないかとリオルを頼ってみたが、何もわからなかった。

後輩「これ以上いると僕らが危ない。もう帰ろう」

心残りはあるが、仕方なかった。本格的に死が目前に迫っているような感じだった。
 ▼ 63 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 18:32:01 ID:VaAqDrjg [29/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
結局朝も探したが、見付からなかった。

なぜか少し詩的な表現が思いついてしまった。

そんな場合じゃないけどな……












真相は雪の下、なんて陳腐すぎるだろうか?
 ▼ 64 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 18:32:17 ID:VaAqDrjg [30/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エピローグ

ふう……いい出来ね、この男の氷像も。

私の氷像の隣に男の氷像を置く。

これで、私の体は、永遠に男の隣。私だけが独占できる。

この体に乗り移った時はびっくりしたけど、これであなたは、永遠に私の物。

あの時はもういいなんて言ったけど、あれは嘘。むしろそれでキレて私を殺すなんて、そんなに私を愛してくれてたんだ。

だから、私もあなたを一生、ううん、文字通り死んでも愛し続けるからね?
 ▼ 65 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 18:32:39 ID:VaAqDrjg [31/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ユキメノコ事件 完
 ▼ 66 1◆J44kAZeDOM 15/08/07 18:34:29 ID:VaAqDrjg [32/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
これにて完結です。

お読みくださった方、ありがとうございました。

良ければ1の過去作も読んでやってください。


http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=105591

http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=124144
 ▼ 67 カンプー@オボンのみ 15/08/07 19:19:33 ID:OBFrglI. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

面白かった
 ▼ 68 リッパー@アクアカセット 15/08/23 02:40:34 ID:O1IF0t3A NGネーム登録 NGID登録 報告
茶♪
 ▼ 69 J44kAZeDOM 15/08/23 22:58:15 ID:KR2q/ICo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>68
どういう事でしょう?
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