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SS

【無人島SS】シャワーズ「連続殺人……?」 モウカザル「……だろうね」

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:33:39 ID:JH/KIVOk [1/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=245182関連です。

――

プロローグ 事の発端

──…とある客船にて。



「え〜、皆さん。本日は御集まり頂き誠にありがとうございます。」


立派な髭を携えた中年の船長が言った。

この船はリゾート地行きの豪華客船。

大金をはたいて買ったチケットで乗船した者、はたまた偶然に抽選が当たりチケットを入手した者など、沢山の客が入り混じった、言わばバカンスツアーだ。



「おっ、君のポケモンかっこいいね!なんて言うポケモンなの?」

「こいつか?こいつの名前は…──」


初対面の相手と話を弾ませる者、そうでない者。

また、人間だけではなく、こっそり乗り込んだ野生のポケモン達も…

たくさんの客がこのツアーを楽しんでいた。
 ▼ 2 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:35:28 ID:JH/KIVOk [2/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しかし数時間後、順調に進んでいた客船に異変が起き始める。

船長「ん…?」

サメハダー「どうしたの?船長」

操縦室にて舵をとっていた船長とその相棒、サメハダー。

船長はサメハダーの問いかけに応じることなく、みるみると血相を変えた。


船長「…!何故だ…!?舵が…言う事を聞かない…!!」

サメハダー「えええっ!?」

思い切り舵を取ろうとする船長だったが、舵はデタラメに動いてしまう。


"グラグラ…"


「うわぁぁっ!?」

「なんだ!?船が傾いたぞ!?」
 ▼ 3 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:36:49 ID:JH/KIVOk [3/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
船長「…くそっ!!」ダッ

サメハダー「あっ!船長!?」

船長は舵を取る事を諦め、操縦室を飛び出し、甲板へと駆け出した。
 ▼ 4 ピペミスった◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:37:09 ID:JH/KIVOk [4/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
やがて甲板に出た船長は力の限り叫んだ。


船長「大変だ!!皆聞いてくれ!舵が言う事を聞かない!!」


「なんだってぇ!?」

「ど、どうして…!?」


うろたえ始める乗客達。

野生のポケモン達もただならぬ雰囲気に気づいた様だ。

乗客達の一人が言った。


「じゃあ、この船は…?私達はどうなるんですか!?」


船長はその質問に対して、目を逸らしながら言った。


「…っ!…急いで救命ボートを!!」


「「わあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
 ▼ 5 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:37:40 ID:JH/KIVOk [5/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
途端にパニック状態に陥る乗客達。

揺れる客船。

言う事を聞かない舵。


船長「皆さん、落ち着いて!」


呼びかける船長。

怒号と悲鳴の飛び交う船上。


それは、最悪の事態だった。


サメハダー「どうしましょう…船長!?」

船長「何故だ…!船の整備は完璧だったはずなのに…!」

船長「…くそっ!」
 ▼ 6 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:38:02 ID:JH/KIVOk [6/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そして、何も出来ぬまま刻一刻とタイムリミットは迫ってきた。

ゴボゴボと船内に水が浸水し、船が沈み始めたのだ。


「うわぁぁ!死にたくないぃ!!」

「こんな所で…!!」

「くそっ…!!」

「お、俺は逃げる!行くぞ、ピジョット!」ポン

「あ、ずりぃぞテメェ!!」


一部の乗客の勝手な行動により、更に船上はパニックになった。

取り残された乗客達は半狂乱で叫び始める者もいた。


…絶対絶命だ。
 ▼ 7 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:38:24 ID:JH/KIVOk [7/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
もうどうしようもない状況で船長が言った。

船長「では皆さん、私はこれで!!」ガシッ

サメハダー「え?船長!?」

全員「「あっ!待てぇぇ!!」」


とうとう船長はサメハダーに捕まって脱出を図った。が…

船長「痛っ!?ちょっ…おまっ…鮫肌が…」

サメハダー「当たり前でしょうが!!」

全員「…」シラーッ

船長「あ…」


静まり返る船上。そして遂にその時は訪れた。

"ゴボ…ゴボ…"

"ゴボゴボゴボ……───"

全員「「うわああああああああああああ!!!」」


明らかに乗客を見捨てた船長を問い詰める間もなく、船は沈み、乗客達は果てしなく広い海の中へ放り捨てられたのである……─────
 ▼ 8 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:38:45 ID:JH/KIVOk [8/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
1章 無人島の出会い

シャワーズ「ったく、あのクソ船長、死ねばいいのに」

傷心旅行としゃれこんで、こっそりあの船に乗り込んだ。そこまではよかったのだ。


シャワーズ「まっさかこんな事になるとは……」


いらいらと悪態をついてみても始まらない。
とにかく、陸地に一旦上陸して、話はそれから。
こんなバカ速い海流に呑まれて流されるなんて馬鹿もいいところだし。

と、思っていたのだが、あいにく現在の状況――他にも海に投げ出された人やポケモンが大量にいる――がそれを許さなかった。


シャワーズ(あっ、炎タイプのポケモンじゃん)


どうしようか、助ける事は出来る。けれど、助けようとすると、足手まといになって結局あたしも溺れる、そうなりかねない。
そんな展開だけは願い下げ。
それでも、あたしの、考えるより先に行動する、そんな性格が、気付けばあたしを動かしていた。
 ▼ 9 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:39:13 ID:JH/KIVOk [9/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「大丈夫?」

モウカザル「」


ぐったりしている。このままでは危険だ。
そう判断して、あたしは近くに小島かなんかがないか、それを探した。

シャワーズ「あっちが一番近い……待ってて!」

背中に重みを感じつつ、流されまいとふんばりながら、あたしはその島へと泳ぐ。



まさか、その島であんな事が起こるだなんて、この時のあたしは、想像もしていなかった……
 ▼ 10 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:41:12 ID:JH/KIVOk [10/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「はあっ……はあっ……」

疲れた体を砂浜に横たえる。


シャワーズ(早いとここのモウカザルの手当てしてあげないとだけど……)

シャワーズ(無理だ。体が……言う事を聞いてくれない……)

シャワーズ(そもそもあんな海流速いとこ通ったら、誰でも流されるよ。どんな頑丈な船でも)


シャワーズ「でも……あたしがなんとかしなきゃ。今ここにいるのは……あたしとこのモウカザルだけ……」


そう、自分を無理矢理奮い立たせて(奮い立てるなんて覚えてないけど)立ち上がろうとした、その瞬間だった。
 ▼ 11 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:42:02 ID:JH/KIVOk [11/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
???「勝手に自分たちだけだなんて決めつけないで欲しいな。アロマセラピー」

シャワーズ「えっ、だ、誰?」


その何者かは、両の手から芳香を放ちながら、気障ったい笑顔で答えた。


ロズレイド「どうも。どうやら君もこの島に流されたようだね。水タイプだと言うのに」

シャワーズ「流されたんじゃありませんー!」

ロズレイド「やれやれ、ほんの冗談だ」

ロズレイド「モウカザルを助けてあれだけの急流を泳ぐと言うのは例え水ポケモンでも難しい」

ロズレイド「そのぐらい誰でもわかると言うのに、これだから野生ポケモンと言うのは……」
 ▼ 12 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:42:32 ID:JH/KIVOk [12/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「ん? あんたトレーナーに付いてんの?」


ロズレイド「ああ」


シャワーズ「はあ……」


トレーナーといるポケモンと野生ポケモンの間には、かなり大きな溝がある。
ニンゲンとポケモンが対等な立場に立ち、互いに会話し、互いの同意の上で協力関係を結ぶ、そんな時代になってこそいるが、そこにはやはり、歴然とした違いがある。
現に、この船に乗り込むのだって、本来あたしみたいな野生ポケモンは禁止されている。

まあ、あくまでも名目上は、だけれども。
恐らく、あたし以外にも野生ポケモンは大勢いたと思う。
 ▼ 13 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:43:02 ID:JH/KIVOk [13/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「まあ、僕の御眼鏡に敵うトレーナーは未だ見付からず、あてのない旅の最中、あの船でなら見付かるかと思って乗り込んだ訳だが」


出た。トレーナー厳選勢。
バトルで自分をしっかり使ってくれるトレーナーを探してうろうろする、あたしからしたら信じられないような奴。


シャワーズ「ごたくはいいの。取りあえず、あんたのアロマセラピーでモウカザルが落ち着いたのはお礼を言うわ」

ロズレイド「それだけかい? 君はどうやら、この状況が見えていないようだ」

シャワーズ「はあ?」
 ▼ 14 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:43:41 ID:JH/KIVOk [14/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「天気を見て見るんだ」

シャワーズ「晴れ。それがどうしたの?」

ロズレイド「この天候で、あれだけの急流。それを鑑みるに、あの海域はもともとそう言う場所なのだ」

シャワーズ「そうね。それがどうかした?」





ロズレイド「君も泳いで帰れない。誰かを連れて行くのならもっと」



シャワーズ「あ」
 ▼ 15 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:44:01 ID:JH/KIVOk [15/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「だから、協力を持ちかけているんだ。脱出方法する方法を探す事。そして、当座を生き残る事において。悪い条件ではあるまい?」

ロズレイド「僕、君、そしてモウカザル。この3匹がいれば後は食料さえあれば生き残る事は出来る」

シャワーズ「……あんた、いつそんな事言った?」


ロズレイド「……そのぐらい、言わなくてもわかるだろう?」


うざい。
それ以外の感想は浮かばなかった。
けど、ここで刃向ってもいい事ないのはわかり過ぎる程わかっていた。
仲間割れをしている場合ではないのだから。
 ▼ 16 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:44:25 ID:JH/KIVOk [16/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「わかった。交渉成立ね。でもさ」

シャワーズ「他にも誰か2、3匹ぐらいここに流されてるんじゃない? まずはそう言うポケモンを探す事から始めよう」

シャワーズ「あ、それよりも、まずはモウカザルを起こさないと」

ロズレイド「それはそうだな。しかし君、ニンゲンが流れ着いている可能性は考慮しないんだな」

シャワーズ「あんな速い海流に呑まれて、ニンゲンごときがここまで来られるとは思えない」

ロズレイド「案外そうでもないかもしれんが……まあ、そればかりは時の運だな」
 ▼ 17 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:44:49 ID:JH/KIVOk [17/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「ほら、モウカザル! しっかりして!」



モウカザル「う、うーん……?」


ロズレイド「目覚めたようだな」

シャワーズ「よかった……」


モウカザル「え……ここは……あ、そうか。船が沈没して……」

ロズレイド「ああ。脱出したいんだろう? 協力関係を築こうじゃないか」

シャワーズ「あんた、単刀直入過ぎでしょ」

ロズレイド「あんまり時間もないだろう。食料の確保など、するべき事はたくさんあるんだから」

シャワーズ「ま、まあそうね……」

モウカザル「うん、わかった。取りあえず、メシを探して、今日1日をしのぐ。って事だよな?」

ロズレイド「ああ、その認識で構わない」
 ▼ 18 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:45:10 ID:JH/KIVOk [18/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モウカザル「じゃあ、取りあえず島の中いろいろ探そうぜ。集合ここにしてさ」

シャワーズ「他にも誰かいないか確認しながら、ね」

ロズレイド「ああ、構わない」

モウカザル「じゃ、俺は島の中の森探しとくよ」

ロズレイド「じゃあ僕は、外周の砂浜を探す。シャワーズ、君はこの島の周りで誰か溺れていないか確かめてくれ」


シャワーズ「……はあ? あの海流の中を泳げと? これでもあたし、♀なのよ?!」


ロズレイド「別に急流と言ったって、この島のすぐ周りまでは及んでいなかったように記憶しているのだが、水タイプの君が言うならどうやら僕の記憶違いのようだ」


わかっている。
確かにこの島のすぐ周りの海流は、それほど速くない。
あたし1人なら充分泳げる速度だ。だけど。


シャワーズ「そんな言い方しなくてもいいじゃない! あたしだって疲れてんだよ?」

ロズレイド「その言い方だと、疲れているようには見えないのだが」

シャワーズ「はあ……」
 ▼ 19 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:45:34 ID:JH/KIVOk [19/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とは言え、普通に考えて、今流されてる水タイプでもないポケモンが、生きていると考えるのは、あまりに都合が良すぎる。
はっきり言って、諦めた方がいい。
だけど、協力関係を結び、そう言う役割を割り振られた以上、やるべき事はしっかりやるべきよね。


シャワーズ「誰もいなさそうね……よかった」


これ以上溺れているポケモンを見たくない、それだけの意味を込めた呟き。
まさかそれがフラグになるとは。
 ▼ 20 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:46:04 ID:JH/KIVOk [20/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


岩陰を覗いた。
白い何かが見えた。


シャワーズ「ん?」


確かめてみる。
それは、ニンゲンの皮膚だった。


悲鳴の類は、出なかった。
無意識の内に、言葉を封じ込めただけ。


シャワーズ「……ってこれ、あのクソ船長じゃん」
 ▼ 21 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:46:26 ID:JH/KIVOk [21/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
死因は完全に溺死。
疑う余地は、どこにもない。


シャワーズ(でも、サメハダーはどこに? 泳ぐ速度なら他のどの種族にも負けないはずだし)

シャワーズ(あたしでも泳げたこの海流に流されるはずなんてない)


シャワーズ(まあ、考えても仕方ない。こいつはもう助からない)

シャワーズ「バチが当たった……まあ、こうなったら誰でも同じね。ご愁傷さま」
 ▼ 22 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:46:46 ID:JH/KIVOk [22/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「ほう……」

シャワーズ「もう死んでたから、助けるのもなんかバカらしくて、そのまま帰って来た」

ロズレイド「まあ、あそこであの判断をした彼を、無理に助ける必要などない、か」


モウカザル「おーい! 2人とも! 朗報だ!」


シャワーズ「え?」

ロズレイド「なんだ?」
 ▼ 23 1◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:47:08 ID:JH/KIVOk [23/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モウカザル「なんか屋敷があったんだ! 少なくとも、雨風はしのげるぞ!」

モウカザル「それだけじゃない! そこにはなんと、もうすでに先客がいたんだ! 俺たちだけじゃないぞ!」

シャワーズ「え、ホントに?! やった!」


ロズレイド「その中に、飛べるポケモンは?」

モウカザル「え、いないけど……」


ロズレイド「ちっ」

シャワーズ「ちょっと、舌打ちって何よ!」

ロズレイド「え、ああ、すまない。とにかくそこを目指そう。拠点にはちょうどいい」


こうして、あたしたちは無人島にある屋敷に向かう事になった。
それがそこに存在している、それ自体がすでに不審な事に気付かずに。
いや、気付いた上であえて無視して。
あたしたちは屋敷に向かった。
 ▼ 24 日はここまで◆J44kAZeDOM 16/02/07 23:47:32 ID:JH/KIVOk [24/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幕章

「なんで……どうしてっ!」



「ご……め……」




「なんでよっ! なんで……うわああああああああ!」






「なんで……そんな事……」


「ねえ……ねえ……」
 ▼ 25 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:26:13 ID:sIZd8H9Q [1/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
2章 第一の殺人


モウカザル「ここだよ」

シャワーズ「うわ……ホントに館ね。こんな島だってのに……」


ロズレイド「僕にふさわしい絢爛さだ。素晴らしい」


モウカザル「うわあ……」

シャワーズ「ないわ」


それに気を留める事すらせず、ロズレイドは館へと歩みを進めた。
その姿からすら、どことなく自己愛が感じられて、うんざりする。
 ▼ 26 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:26:50 ID:sIZd8H9Q [2/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「うん、どうやら罠の類はないようだ」

モウカザル「なんで俺が初対面のポケモン罠にかけないといけないんだよ」

ロズレイド「万が一に備えて悪い事はあるまい」

モウカザル「はあ……」
 ▼ 27 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:27:12 ID:sIZd8H9Q [3/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モウカザル「どうも、俺と一緒に漂流した」

シャワーズ「だから流されたんじゃない!」

モウカザル「……俺を助けてくれたシャワーズとロズレイドを連れて来た」

ゴースト「よっす! 災難だったな」


ロズレイド「……飛べるポケモンはいないと言ってたはずでは?」


モウカザル「1人飛べても意味ねえだろ!」


ゴースト「……まあ、そんな訳で俺はここにいるんだ。帰ろうと思えば帰れるが、夢見が悪いってのと、体力が持たないのが怖くてな」


ワルビアル「自己紹介の流れか。俺様はワルビアル! よろしくな!」


ラクライ「ひっ……ラ、ラクライです……」


ワルビアル「そんなにビビられると傷つくんだがな」

ラクライ「ごめんなさいぃ!」


アブソル「……どうも、アブソルです」
 ▼ 28 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:27:42 ID:sIZd8H9Q [4/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「じゃあ、次はあたしたちね。どうも、シャワーズです」

ロズレイド「ロズレイドです。よろしくお願いします」

モウカザル「んで、俺はモウカザル。今んとこはこれだけみたいだな」

ワルビアル「みてえだな」


ロズレイド「とにかく、みなさん、この島を脱出したいと思っていますか?」


一同「そりゃもちろん!」


ワルビアル「まだもっとしたい事とか、いろいろあったしな! ガハハ!」

ラクライ「それ、一体何……」

ワルビアル「お前みたいな小心者は聞かない方がいい、そんな事だな」

ラクライ「ヒィ!」

ゴースト「おいおい、そりゃないぜ。ラクライビビっちまってんじゃねえか」

ロズレイド「こほん。今はいたずらに互いを怖がらせたりしない方がいいと思うのですが」


急に敬語になってる。
まあ、さっきのあの態度貫かれても困るんだけどさ。
 ▼ 29 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:28:05 ID:sIZd8H9Q [5/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「では、脱出する術を考えましょう」

モウカザル「それより先に、メシどうすんの? なんなら俺、取って来ようか?」

ロズレイド「頼みますよ」

シャワーズ「あ、あたしも行くよ」

モウカザル「じゃ、一緒に行こうぜ!」


ロズレイド「では、残った僕たちd」

ラクライ「あ、ぼ、僕も行きます……」


ロズレイド「わかりました。では、3匹で」
 ▼ 30 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:28:43 ID:sIZd8H9Q [6/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「にしてもあのロズレイド、感じ悪ーい」

モウカザル「だよな。あいつ急に態度変えて」

ラクライ「えっ?! そ、そうなんですか?」

シャワーズ「まあ、仕切り屋が1人いた方がやりやすいだろうし、それはもうロズレイドでいいんだけど……」



ラクライ「……?」



モウカザル「ん? ラクライ、どうかしたの?」




ラクライ「今……なんかいませんでした……?」
 ▼ 31 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:29:03 ID:sIZd8H9Q [7/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「え?」

モウカザル「なんもいなくね?」

ラクライ「え……そ、そうなのかな……ごめんなさい」

シャワーズ「いや、謝らなくていいんだけど」

ラクライ「うーん……まあいいか」


ラクライ、どうも怖がり過ぎる。
たぶん、それが見せた幻覚なんじゃないかな。
 ▼ 32 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:29:27 ID:sIZd8H9Q [8/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モウカザル「ところでさ、あの船に誰か連れがいたりすんの? 2人とも」

シャワーズ「えっと……いたらモウカザルを助けるより先にそっち助けるよ? あたし」

ラクライ「僕も1人で……」

モウカザル「そう……。ありがとう、答えてくれて」

シャワーズ「モウカザルは?」


モウカザル「いたよ。でも、たぶんもう助からないと思う」


シャワーズ「え……あ、ご、ごめん」


モウカザル「変に謝らないで。そっちの方が辛い」


ラクライ「……ご愁傷さま」

モウカザル「どうも」


そっか。
あたしは独り身だけど、みんながみんなそうとは限らないのか。
だけど……今頃生き残ってるポケモンってあたしたち以外にいるのかな。
 ▼ 33 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:29:48 ID:sIZd8H9Q [9/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モウカザル「お、木の実発見! 取って来る」

シャワーズ「よろしく」

ラクライ「結局僕らって、何のために来たんだろうね」

シャワーズ「まあいいじゃない。大勢いた方がいっぱい持って帰れるし」

ラクライ「それもそうか」

モウカザル「よいしょっと。はいこれ木の実。もう少し取って来るから持ってて」

シャワーズ「OK」


モウカザルは淡々と木の実を取って行く。
さっきのあの話なんて、まるで気にしてないみたいに。
それが、なんだか、余計に辛かった。
 ▼ 34 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:30:14 ID:sIZd8H9Q [10/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モウカザル「大漁大漁! 魚じゃないけど!」

シャワーズ「」ジトー

モウカザル「あ、ごめん。水タイプにそれは禁句か……」

シャワーズ「いや、まあ魚ポケモンから取ったDNAを再構築してそっからまた作り直して食料にする、だから問題ないのはわかってんだけど……」

ラクライ「やっぱり、同族が食べられるってのはなんか違和感あるよね」

シャワーズ「同族でもないんだけどね。あたしブイズだし」


ブイズ。イーブイの遺伝子は、様々な進化の可能性を秘めている。
それの、限りなく水に近付いた結果が、あたしのこの姿。
他にも、炎、電気、エスパー、草、氷、フェアリー、そして悪。7つのタイプが確認されているけど、他にもまだ可能性があるのではないか、と言う研究は、未だ盛んだ。

……大丈夫。うつむいたりなんか、しない。
 ▼ 35 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:31:01 ID:sIZd8H9Q [11/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モウカザル「じゃ、帰ろうぜ」

シャワーズ「うん」

ラクライ「そうだね」


モウカザル「にしてもさ、なんでこんな事になっちまったんだろうな」

シャワーズ「船があの海域を通ったからね。あんな速い海流が流れてるって事ぐらいわかると思うんだけどな……」

ラクライ「まあ……仕方ないですよ。でも、どうなるんでしょうね。泳いで帰れそうには?」

シャワーズ「ない。あたし1人でも、無事帰れるかどうかは怪しい」

モウカザル「うーん、って事は、誰かがこの事件に気付いて、助けに来てくれるか、それか……」

ラクライ「どうにかして誰かに伝える。やってはみてるんだけど……電波が届く範囲に僕たち以外誰もいないんだ」

シャワーズ「うーん、どうしよう……。帰れるのかな」


モウカザル「……ま、そんな事考えて暗くなるのはやめようぜ!」

シャワーズ「それもそうね」
 ▼ 36 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:31:29 ID:sIZd8H9Q [12/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
3人「ただいまー」

ロズレイド「お帰り」

ワルビアル「メシは? どうだアブソル、作れそうか?」

アブソル「それだけあれば、この人数分のごはんは作れますよ」

ゴースト「こいつ、あの船の調理担当だったんだってよ! ラッキーだぜ、これでメシに困る事はないな!」

アブソル「シャワーズさん、モウカザルさん。ちょっと手伝ってくれませんか? 電気が通ってないから水と火の調達しないとダメなんです」

シャワーズ「あ、全然OKですよ」

モウカザル「俺たちが手伝わないとメシ作れないんだろ?」

ラクライ「あの……僕も電気作れるんですが」

アブソル「あ、でも電気使う器具がないので、すいません」
 ▼ 37 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:31:54 ID:sIZd8H9Q [13/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ワルビアル「俺たちは待ってればいいのか?」

ロズレイド「それなら、館の中の探索でもしますか」

ゴースト「お、いいねえ」

ラクライ「ぼ、僕も一緒に……?」

ワルビアル「当たり前だろ?」

ラクライ「ヒィ!」

シャワーズ「ラクライ、別に誰もあんたに危害加えたりしないよ。いくら見た目が怖くても」

ワルビアル「んだとゴラァ!」

シャワーズ「って感じで口調まで怖くても、今暴力沙汰を起こすのはバカがする事だって、さすがにわかってるでしょ」

ワルビアル「……まあな。だが、あんまり舐めた口聞くようだったら……」

シャワーズ「ごめんなさい。このぐらいの方がラクライにもわかってもらえるかな、と思って」

ラクライ「……はい!」



ロズレイド「……」
 ▼ 38 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:32:16 ID:sIZd8H9Q [14/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「じゃあ、木の実を切って行くから、そこにある鍋を洗っといてください」

シャワーズ「了解」

モウカザル「俺は何すればいいんだ?」

アブソル「じゃあ、そこのかまどに火を起こしといてもらえます? スープにする予定なので」

モウカザル「オッケー!」


言われた通り、鍋を洗う。
なんでこんな所に鍋があるのか、それを言ったらなんで館なんてあるのか。
全くわからないけど、それでもこんな島だったのは、不幸中の幸いかな。
 ▼ 39 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:32:36 ID:sIZd8H9Q [15/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「鍋に水入れるんだよね」

アブソル「はい」

シャワーズ「どうせ沸かすのよね?」

アブソル「はい」

シャワーズ「熱湯!」

モウカザル「ああ! 効率よくってか」

シャワーズ「どうせあっためるなら始めっから、ってだけ」

アブソル「なるほど。じゃあ、後は任せてください。1人で大丈夫です」

シャワーズ「あ、そうですか。ならよろしく!」

モウカザル「楽しみにしてるぜ!」
 ▼ 40 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:33:10 ID:sIZd8H9Q [16/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「とは言って出て来た物の……ヒマね」

モウカザル「俺たちも、屋敷の中適当に探してみようぜ」

シャワーズ「そうね」

モウカザル「あんまり遠くに行き過ぎるなよ」

シャワーズ「わかってる。迷子になったらシャレにならないしね」


それだけ言って、部屋を出た。
屋敷なだけあって、廊下も長いし、広い。


シャワーズ(まあ、まずは寝る場所を探しとくかな……)


廊下につながる部屋は、意外に少なかった。
その代わり、無駄に広い。


シャワーズ(下手が豪華客船より豪華じゃないの……)
 ▼ 41 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:33:54 ID:sIZd8H9Q [17/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
探せば探すほど、その豪華さがわかって行く。
と同時に、なんでこんな島に、そんな豪華な館が、しかも無人で放置されてるのか。
そんな疑問がどんどん膨らんで行った。


シャワーズ「まあ、考えても仕方ない、か……」

ロズレイド「ああ、シャワーズ」

シャワーズ「げ、ロズレイド」

ロズレイド「そんな露骨に不快な顔しなくてもいいじゃないか。僕のどこに不満な要素がある?」


よりにもよってこのタイミングで出会うのがこいつかよ。
そんな怒りにも似た苛立ちが急に沸き起こる。


シャワーズ「どうも。寝る場所とかは確保出来てる?」

ロズレイド「もちろんだよ。余るぐらいだね」

シャワーズ「そう。それはよかった」


あたしたちは、なぜか並んで歩みを進めた。
うざい。ムカつく。それなのに。
無言で、並んで歩いた。
 ▼ 42 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:34:23 ID:sIZd8H9Q [18/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「そういや、あんたってさ、トレーナーと一緒にいたんじゃないの? 心配しなくていい訳?」

その言葉に、ロズレイドは、呆れたようにため息を吐き出して、言い切る。

ロズレイド「なぜ僕が心配しなければならないのだ? あんなへっぽこトレーナーを」

シャワーズ「はあ?」

ロズレイド「金に糸目を付けずに僕に辿り着いた。その選択眼は認めよう。だが、あれは、お坊ちゃんだった。自分自身の実力が足りない」

ロズレイド「あの急流に呑まれて、例え無事だったとしても、流れ着いた島で生き残れるとは思えないし、僕にも未練なんてない」


ロズレイドの言葉は鋭利な刃物。
その冷たさに触れて初めて、こいつもポケモンなんだと実感した。

だけど、結局あたしに言えた言葉は1つ。


シャワーズ「トレーナー厳選勢の気持ち、あたしにはわかりそうもないし、わかりたくもない」

ロズレイド「それなら別に構わない。君に認めてもらいたくて生きている訳でなどないのだから」


不思議と、腹はたたなかった。
気障ったい言動の中に、彼の信念が垣間見られた気がして。
 ▼ 43 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:34:59 ID:sIZd8H9Q [19/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「そう言う君はどうなんだい?」

シャワーズ「おあいにくさま。あたしは今、独り身よ」

ロズレイド「そうか。まあ、そうだろうな」

シャワーズ「ちょっとどう言う意味?!」

ロズレイド「君のような野生ポケモンに、素敵な出会いなど訪れる訳がなかろう?」

シャワーズ「あーはいはい。野生は野生らしくしますよーだ!」


見直しかけた自分を呪い殺したくなる。
ロズレイドの事は、やっぱり嫌いだ。
 ▼ 44 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:35:23 ID:sIZd8H9Q [20/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「ただいま」

アブソル「あ、お帰りなさい」

ロズレイド「ほう! 僕の花に負けずとも劣らない素晴らしい香りですね」

アブソル「お誉めに預かり光栄です。シャワーズさん、協力ありがとうございました」

ゴースト「お、お前らも帰って来たのか。早くメシ食いてぇぜ……こんないい匂い嗅がされちまったら、もうダメだ」

シャワーズ「にしても、あれだけでこんな料理が出来るなんて……」

アブソル「まあ、私としては納得は行ってないんですけどね」

ゴースト「これでまだ納得出来ねぇとかマジかよ……。この島に来たのは、マジで不幸中の幸いだな!」

シャワーズ「ああ。食も住も整ってるしね。衣に関してはあたしたちポケモンには不要な物だし。にしても……お腹空いたぁ!」

ロズレイド「はしたない。もう少し静かに待てないのですか?」

シャワーズ「野生は野生らしくしてろって言ったの、あんたよ」

ロズレイド「僕はそんな事一言も言ってませんが」

ゴースト「え、シャワーズちゃん野生なの?! 意外だなぁ」

シャワーズ「あ、アブソルさんって確か……。ごめんなさい、勝手に乗船して」

アブソル「構いませんよ。何しろ、こんな事に巻き込まれた訳ですし」

シャワーズ「結局、自業自得、と。なるほど」
 ▼ 45 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:36:29 ID:sIZd8H9Q [21/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
午後7時。ラクライが帰って来た。


ラクライ「いい匂いだなぁ。あ、みんな。これ、アブソルさんが作ったの?」

アブソル「ええ」

シャワーズ「好評ね。あの料理」

アブソル「ありがたい限りです」


そう言ってはにかむ姿は、しかし満更でもなさそうだった。
実際、あの豪華客船に料理ポケとして乗り込んでいた以上、その実力はお墨付き。
だけど、それよりも。

飾らないその態度に、すごく好感が持てた。
 ▼ 46 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:36:52 ID:sIZd8H9Q [22/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その数十分後。

モウカザル「……ただいま。いい匂いだな」

シャワーズ「ん? どうかしたの?」

モウカザル「なんでもない。お腹空いて来ちゃった」

シャワーズ「それならいいけど……」

ロズレイド「と、言う事は、後はワルビアルだけか……。しばらく待ちましょう」

ゴースト「だな。あー早く帰って来い! 腹減ったんだよ!」」
 ▼ 47 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:37:13 ID:sIZd8H9Q [23/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



だけど、どれだけ待っても、ワルビアルは帰って来なかった。


 ▼ 48 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:37:33 ID:sIZd8H9Q [24/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「先みなさん食べちゃってください。冷めちゃいますし」

シャワーズ「だけど……」

モウカザル「冷めたんなら、俺があっためるし、大丈夫だよ」

ゴースト「がー! 腹減った! 俺、ちょっと見て来る! ラクライ! ついて来い!」

ラクライ「う、うん……」


その後、ラクライの悲鳴を聞く事になる。
屋敷中に轟かんばかりの大声で、ラクライは叫んだ。


シャワーズ「……どうしたの?」

ロズレイド「とにかく、行ってみよう」

アブソル「どうしたんでしょう……」

ロズレイド「わからない、が……もしかすると」

シャワーズ「早く行くよっ! ぼやぼやしてないで!」
 ▼ 49 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:38:17 ID:sIZd8H9Q [25/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ゴーストの声が聞こえない。
それが、あたしの想像を、悪い方へ悪い方へと向かわせた。
だけど、それでも足を止める訳には行かず、必死で走った。


シャワーズ「大丈夫っ?!」


館の玄関。
そこに、2人が、茫然と立ち竦んでいた。


ラクライ「ワ、ワルビアルさんが……」

ゴースト「なあ……。どうしようか……」
 ▼ 50 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:38:37 ID:sIZd8H9Q [26/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「も、もしかして……」

シャワーズ「……死んでる?」

ロズレイド「……恐らくは」


ワルビアルは、後頭部に刃物で出来たとみられる傷を受けて、倒れていた。
赤い体が、より赤く染まっていた。


アブソル「……ダメです。応急手当も間に合わない」


ラクライ「そんな……」


あまりにもあっけなさ過ぎる最後。
突然あたしたちを襲ったその悲劇は、しかしまだ、始まりに過ぎなかった。
 ▼ 51 1◆J44kAZeDOM 16/02/08 23:38:59 ID:sIZd8H9Q [27/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幕章

「姉ちゃん、俺、進化した!」


「おめでと! なるほどね……」


「これから、いろいろ楽しくなりそう……!」


「だけど、門限は今まで通りだからね」


「ちぇっ」


「うふふ。だけど、今までより、いろいろ楽しくなるのは間違いないよ」
 ▼ 52 ブキジカ@においぶくろ 16/02/08 23:44:45 ID:W.tGn6do NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ポケモンタワー爆破事件(うろ覚え)の人かな?
 ▼ 53 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:20:09 ID:6IUp.gks [1/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
3章 疑惑の漂着者


シャワーズ「どうしてこんな事に……」


ロズレイド「とにかく、部屋に戻ろう」

アブソル「そうですね」

ロズレイド「ワルビアルは……外の、目に付かない所に置いておく。時間があれば、埋葬してあげたいがな」


反対意見も出るはずがなく、あたしたちは、リビングに戻った。
誰も、何も話さなかった。
いや、話せなかった、と言う方が正確かもしれない。


モウカザル「あーあーあーあーあー!」

不意に壁を殴りつけるモウカザルを咎める者は、誰もいなかった。
静寂の中、わめくモウカザルの声だけが、ただ響いていた。
 ▼ 54 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:20:37 ID:6IUp.gks [2/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「……あんまりこう言う事は言いたくないのだが、誰かが殺したんだと思う」


リビングに戻って、せっかくの料理を横目に誰も食べられずにいた、そんな時、
ロズレイドの声が、部屋に響いた。


ゴースト「なっ?! 俺たちの中の誰かが?!」

ロズレイド「……恐らく、は」


殺された。ワルビアルが。
その事実は、うんざりするほど、あたしたちの頭の上を覆う。


ロズレイド「犯人は、名乗り出てください。あんまり、互いに疑い合う事は、この島から脱出しないといけない僕たちにとって、いい事とは言えないですから」



ロズレイド「……誰も名乗り出ては……くれないか」
 ▼ 55 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:21:00 ID:6IUp.gks [3/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「仕方ない。犯人の絞り込みをしようじゃないか」



ゴースト「そんな事出来るのか?!」

ラクライ「……そんな必要、あるのかな」


ロズレイド「さっきも言いましたが、お互いに疑い合うのだけは避けなければなりません」

ロズレイド「だから、特定出来るなら、特定すべきです」


ラクライ「そう……ですか」


シャワーズ「まずあたし、モウカザル、ラクライはアリバイ成立で除外でいいよね」


ロズレイド「……いや、そうとも言い切れません。シャワーズを除いて」

ロズレイド「シャワーズは、木の実を取りに行き、料理を手伝い、偶然出くわした僕と探索した」

ロズレイド「これはもう、アリバイ成立とみなしていいでしょう」


ふうっとため息が漏れた。
あたしはあたしが犯人じゃない事を知っている。
だけどその上で、しかもこの鼻持ちならない奴の推理で潔白を認められて、こんなに安堵するとは思っていなかった。
 ▼ 56 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:21:26 ID:6IUp.gks [4/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「でも、なんでモウカザルとラクライは除外出来ないの?」


ロズレイド「残念ながら、今の所、シャワーズと別れてからのアリバイは主張出来ない。違いますか?」


モウカザル「……ああ」

ラクライ「は、はい……」


それだけ言うと、ロズレイドはラクライに微笑みかけた。
安心しろ、とでも言わんばかりに。
みんなは、ただ黙ってロズレイドの言葉に耳を傾けるのみ。
 ▼ 57 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:21:50 ID:6IUp.gks [5/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「ですがラクライは、違う理由で犯人候補から除外出来ます」

ロズレイド「体格、もありますし、それより何より……」

ロズレイド「演技であそこまでの大声を出せる物じゃない。あの恐怖の悲鳴は、信頼出来ると思いますが、どうでしょう」


誰からも異論は出ない。
それを見届けて、ラクライはほっと息を吐いた。


ロズレイド「それで、1つ聞きたいのは、誰か、探索を始めてから、ワルビアルと会って、話していないか、と言う事です」


効果を狙ったのか、1音ずつ区切ってゆっくりと話す。
その様子は、認めたくはないが、紛れもなくリーダーだった。
 ▼ 58 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:22:12 ID:6IUp.gks [6/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラクライ「あの……僕、帰って来る40分ぐらい前に、会いました」

ラクライ「体内時計で申し訳ないんですけど……」

シャワーズ「ホント?!」

ロズレイド「犯人を庇っているか、よほどの演技派なのでなければ信用していいでしょう」

シャワーズ「……って事は、あたしがあんたのアリバイ証人になれるって事ね、ロズレイド」

ロズレイド「ああ。僕は、その時間はシャワーズと会話していた」

シャワーズ「アブソルの手伝いを終えてからすぐ出会って、ずっとこいつといたんだから、それはいい」

シャワーズ「後はモウカザル、ゴーストの2人ね。この調子で全員のアリバイを確定させよう」

ロズレイド「全員が確定するはずない……じゃないですか。しかも、アブソルは、まだ否定出来ません」


ロズレイド「料理を速く作って、それからワルビアルを殺し、何食わぬ顔で今ここにいる、って可能性もありますから」

アブソル「……」
 ▼ 59 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:22:37 ID:6IUp.gks [7/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「とにかく! 6時20分以降のアリバイを主張出来る人、他にいますか?」


沈黙。
それは、無言の否定。


ロズレイド「そうですか……」

シャワーズ「仕方ないよ! 元気出そう! こんな事になっちゃったけど、取りあえずごはん食べて、寝よ!」

ロズレイド「寝る、って事ですが……警戒する必要がありますね」

シャワーズ「え?」

ロズレイド「この島に偶然流された同士、動機があるとは思い辛い。とすると、これは愉快犯の仕業と見るのが普通です」

ロズレイド「シャワーズ、ゴーストのように自分の意志でここに流れ着いたとしても」

ゴースト「ちょっと待ってくれよ! 俺は違う!」

ロズレイド「ストップ! ワルビアルがここに来るとは限りません。だから、それは関係ないはずです」

ロズレイド「そもそも、地面タイプでもあるワルビアルが、あの海流に呑まれて無事な事の方が奇跡に近い。普通なら無理に殺そうとこんな所まで追い回したりなんてしません」
 ▼ 60 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:23:59 ID:6IUp.gks [8/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「それはそうとして……愉快犯の仕業だとすると、1つ気がかりな事があります」

ロズレイド「目的のない殺人。それその物が楽しい。だから、犯行が続く。その可能性」

ラクライ「それって……」


シャワーズ「連続殺人……?」

モウカザル「……だろうね」


ゴースト「なんだって?!」

アブソル「……」

ロズレイド「ですから、提案があります」

ロズレイド「3人1組で交代で見張りをする、ってのはどうでしょう。みんなでここで寝て、今日見張る組と、深夜から朝にかけて見張る組」


悔しいけど、ロズレイドの言葉はいちいち論理的で、隙がない。
仕方なくあたしは、「異議なし」と答えた。
他の誰も、異論を唱えたりはしなかった。
 ▼ 61 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:24:41 ID:6IUp.gks [9/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「念のためにですが、3人の技、確認しときますね」

シャワーズ「一応全員確認しとこうよ」

ロズレイド「まあ、それもそうですね」


あたしが熱湯、冷凍ビーム、融ける、ハイドロポンプ。

モウカザルが火炎放射、火炎車、マッハパンチ、インファイト。

ロズレイドがアロマセラピー、ギガドレイン、ヘドロ爆弾、目覚めるパワー炎。

ラクライが放電、充電、電磁波、10万ボルト。

ゴーストが催眠術、ヘドロ爆弾、悪の波導、祟り目で、

アブソルが辻斬り、かまいたち、サイコカッター、未来予知だった。
 ▼ 62 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:25:06 ID:6IUp.gks [10/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「……取りあえず、ごはん食べよう」

モウカザル「もう冷めちゃったでしょ。俺あっためるよ」

アブソル「お願いします」

ラクライ「どうして……どうしてこんな事に……」

シャワーズ「落ち着いて。震えても、何も変わらないよ。あたしたちで、犯人を見付けだして、それで、みんなで無事に、島を脱出するの!」

ラクライ「……うん」

ゴースト「……そうだよな。うつむいてたって、何も……。そうだな。普通にしてよう。笑って!」


ロズレイド「……」
 ▼ 63 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:25:27 ID:6IUp.gks [11/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「出来ました」

モウカザル「味はちょっと劣化したらしいけど、でも味見してみたら、全然まずいなんて思わなかったよ」

アブソル「そう言っていただけるとありがたい限りです」

シャワーズ「では……いっただっきまあす!」


辛い。
だけど、それを押し隠して、無理にでも笑おう。
この島で、このみんなと生きて行かないといけないんだから。
 ▼ 64 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:25:49 ID:6IUp.gks [12/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「えっ、何これおいしっ!」

ラクライ「初めて食べた……凄過ぎるよ」

ゴースト「生きててよかった……」

モウカザル「今それは不謹慎じゃ……」

ゴースト「おっと」

ロズレイド「素晴らしい……!」


その後、いちいちうんちくを語りだしたロズレイドを無視して、幸せな時間を満喫した。
数時間ぶりに、心が休まった。
 ▼ 65 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:26:12 ID:6IUp.gks [13/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「じゃあ、寝ましょう」

シャワーズ「そうね。だけど、3人1組って、どう分けるつもりなの? あたしはあんたとだけは嫌よ」

ロズレイド「そうですか……なら、ラクライ、ゴーストは僕と一緒にいましょう。アブソル、モウカザルはそちらで」


4人はめいめいに同意の声をあげた。
元々のしがらみがないのだから、あたしみたいに○○とは嫌! ってのがはっきりある方がおかしいのだけれども……
 ▼ 66 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:26:48 ID:6IUp.gks [14/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「よろしくね」

アブソル「こちらこそ、よろしくお願いします」

モウカザル「よろしくな。でさ? どっちが先寝るんだ?」

ロズレイド「それは……」

シャワーズ「じゃんけんでいいでしょ。ほら、モウカザルにゴースト!」

ゴースト「え、俺?!」

シャワーズ「手の指があるのあんたたち2人だけじゃないの! ほら、さっさと!」

モウカザル「わ、わかったよ……最初はグー」

じゃんけんポン!
 ▼ 67 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:27:11 ID:6IUp.gks [15/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モウカザル「ごめん、負けちゃった」

シャワーズ「全然大丈夫だよ。負けたから睡眠時間が変わるって訳でもないし」

アブソル「勝負は時の運ですから」

モウカザル「それもそうか。サンキュ」

シャワーズ「はあ……にしても、なんで船はあそこ通ったのよ。あんな海流速いならわかるはずでしょ! 避けなさいよ……」

アブソル「なんか……申し訳ありません」

シャワーズ「あ! いやいや、別にアブソルを責めてる訳じゃなくて!」

モウカザル「悪いのは、変なルートを通ったサメハダーだ。料理人のアブソルには関係ない関係ない」

アブソル「……そうですか」

モウカザル「そういや、船長ってこの辺で溺れ……」

シャワーズ「死んでた。面倒だから助けなかった。あいつクズだし」

アブソル「……」ボーゼン

シャワーズ「ん? どうかした?」

アブソル「なんでもないです……」
 ▼ 68 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:27:54 ID:6IUp.gks [16/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モウカザル「そういやさ、みんな誰が犯人だと思ってんの?」

シャワーズ「あたしはロズレイド一択。だけど……あたしがアリバイ証人になってるからなあ」

シャワーズ「モウカザルはあたしが助けた訳だから、この島に流れ着いたのも純粋な偶然」

シャワーズ「動機があるとは考え辛いし、シリアルキラーならそれはそれであのうめきの理由もわからない」

シャワーズ「だから、モウカザルは、絶対犯人じゃないよ」

シャワーズ「アブソルとゴーストに関しては……否定は出来ないけど、違うと思うな」


アブソル「なるほど……」
 ▼ 69 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:28:18 ID:6IUp.gks [17/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル「それにしても、なんでシャワーズさんって、ロズレイドさんを毛嫌いしてるんですか?」

シャワーズ「え? ああ。あいつ、みんなの前では猫被ってるけど、ホントはもっと高圧的で、あれ以上に気障で……」

モウカザル「知り合いだったの? なんかロズレイド、シャワーズの前でだけ変わるよな」

シャワーズ「んな訳ないじゃん! なんであいつ、あたしの前だけ本性を現すのかなあ……」

モウカザル「へえ……それきっと……いや、やっぱいいや」

シャワーズ「何よ! 気になるじゃない!」

アブソル「ああ……はいはい」

シャワーズ「アブソルまで! どうしたってのよ!」

アブソル「さあーどうでしょうねえ」

シャワーズ「むうっ」


それからも、くだらない事を話しながら、楽しい時間を過ごした。
もちろん、あの事を忘れた訳じゃない。だけど。

意図して意識を逸らそうとして、笑う。
そんな状況でも、楽しい事に変わりはなかった。
 ▼ 70 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:28:39 ID:6IUp.gks [18/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モウカザル「もうこんな時間か。そろそろ交代だな」

シャワーズ「うん。みんな起こそう」

シャワーズ「すぅぅっ、起きろおおおおおお!」

ラクライ「ヒャッ!」

ゴースト「うわあっ!」

ロズレイド「……もう少し静かに起こしてくれませんかね……ふぁぁっ」

シャワーズ「あ、ごめん。大声で起こすの、もうクセになっちゃってるんだ」

モウカザル「それにしたって大き過ぎだろ……ビックリしたぁ」
 ▼ 71 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:29:09 ID:6IUp.gks [19/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「それにしても、楽しそうな顔してますね」

シャワーズ「うん。楽しかったよ」

ロズレイド「それは何より」

ゴースト「へえ。ならさ、俺、怖い話でもしようか?」

ラクライ「ヒィっ!」

ロズレイド「おお! それはいいですね!」

ラクライ「やめてよ……」

モウカザル「ラクライ、頑張れ」

シャワーズ「んじゃ、お休み」
 ▼ 72 1◆J44kAZeDOM 16/02/09 20:29:30 ID:6IUp.gks [20/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幕章

「ん? どうかしたの?」


「えっ? な、なんでもないよ」


「あんたさ……」



「隠し事してるでしょ?」


「してないってば! ほっといて!」


「……言いたくないならそれでいい。だけど、言いたくなったら、いつでも聞いてあげるから」


「……ほっといてって言ってんだろ」


「……」
 ▼ 73 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:44:49 ID:srF.3iv. [1/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
4章 第2の殺人

そして……もう朝が来たらしい。
ゆさゆさと揺らされ、目が覚めた。


ゴースト「起きろ! よし起きた」

モウカザル「うーん、おはよ」

アブソル「おはようございます」

ラクライ「」

ロズレイド「ラクライ……恐怖のあまり気絶してしまったようです」

シャワーズ「ゴースト……あんたどんだけ怖い話したの?」

ゴースト「聞きたいか?」

アブソル「ぜひ、また今度」


その今度が来ればね。
さすがにその言葉は、自分のうちに留めた。だけど。
それでも、寒気が体を走った。
 ▼ 74 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:45:18 ID:srF.3iv. [2/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
アブソル「では、料理をしたいのですが……材料を集めて来ましょうか」

シャワーズ「あ、あたし行くよ」

アブソル「じゃあ、私も行きます」

ゴースト「んじゃ俺も行くかな」

ロズレイド「ラクライは……まだこんな状況ですし、僕たち2人で残ってますよ」

ロズレイド「よろしく、モウカザル」

モウカザル「うん」
 ▼ 75 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:45:49 ID:srF.3iv. [3/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
シャワーズ「昨日と違う方向に行った方がいいよね。違う木の実があるかもしれないし」

アブソル「ですね。出来れば味にバリエーションを付けたい物ですし」

シャワーズ「じゃあ、あっちに行ってみよ。昨日は向こうに行ったから」

ゴースト「OK」


アブソル「あ、マトマ。アクセントにちょうどいいので取ってもらえませんか?」

ゴースト「了解。そして1個味見っと」

アブソル「ストップ! ……遅かった」

ゴースト「? ……! かれええええええ!」

シャワーズ「マトマが辛いって常識でしょ……言わんこっちゃない」


ゴースト「はあ……はあ……」

アブソル「近くにモモンがあって助かりました」

シャワーズ「さ、行こう! もう少し欲しいでしょ」

アブソル「はい」
 ▼ 76 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:46:09 ID:srF.3iv. [4/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
シャワーズ「さあて、と。結構取れたし、そろそろ帰る……か? ん? なんだあれ?」

アブソル「ほこら……ですかね」

ゴースト「……なあ、おい」

シャワーズ「え、何?」

ゴースト「……ありゃ、誰だ? なんたって……なんたってあいつが、倒れてんだ……?」

シャワーズ「えっ?!」

アブソル「……サメハダー。船長の……な、なんで?」

ゴースト「……どう言う事なんだよっ! なんなんだよっ! この島は、一体……」


2人の体は、わなわなと震えていた。
あたしも、言葉が出なかった。

かろうじて絞り出した言葉は、「どうして……」、ただそれだけだった。
 ▼ 77 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:46:37 ID:srF.3iv. [5/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
思い返せば、始めからおかしかった。


シャワーズ「この島……ポケモンが死に過ぎる……」


船長、ワルビアル、そしてサメハダー。
はっきり言って、異常な程だ。

船長は事故死だとしても、他2人は明らかに他殺。
しかも……ほとんど同じ方法で殺されている。

それだけでない。
いなかったはずのポケモンが、不意に現れる。
そして殺される。連続殺人鬼によって。


シャワーズ「おかしいよ……。こんなの絶対おかしいよ……」
 ▼ 78 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:47:00 ID:srF.3iv. [6/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ゴースト「なあ……どうしようか」

アブソル「……と、とにかくみんなを呼んで来ましょう!」

シャワーズ「うん……あたし行って来る! 絶対触っちゃダメよ! 死んでるから」


走った。
ただひたすらに、走った。
荒い息遣いを感じながら、走った。



シャワーズ「着いた……! みんな! 今すぐ出て来て!」
 ▼ 79 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:47:21 ID:srF.3iv. [7/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ロズレイド「なんでs」

シャワーズ「また殺人よ! 急いで!」

モウカザル「くっ……」

ラクライ「え、ウソ……また?!」

ロズレイド「やれやれ、恐れていた事が本当になりましたか。で、被害s」

シャワーズ「モウカザル待って! 場所わかるの?!」

モウカザル「あっ……そうだ、わからないんだった」

シャワーズ「話は後。ついて来て!」
 ▼ 80 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:47:41 ID:srF.3iv. [8/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
モウカザル「疲れてるみたいだけど、大丈夫?」

シャワーズ「……正直限界。でも、やらなきゃ」

モウカザル「……行こう」

ラクライ「はあっ、追い付いた……」

ロズレイド「急ぎましょう」

シャワーズ「言われなくても!」

ゴースト「おーい! こっちだ!」

ロズレイド「アブソルが殺されたんですか」

シャワーズ「違う……つ、着いたあ……」

アブソル「……みなさん、ここです」


ラクライ「なっ……なんで?」

ロズレイド「……サメハダー、ですか」
 ▼ 81 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:48:04 ID:srF.3iv. [9/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ロズレイド「殺害方法が同じ……つまり、これはワルビアルの事件と同一の犯人に因る物である可能性が高いです」

ロズレイド「いつ殺されたのかは皆目見当も付きませんね……。それに、探してはいたのに見付からなかった……」

ロズレイド「わかりません、が、1つはっきりした事があります」

ロズレイド「速くこの島から脱出しないと、それこそ『そして誰もいなくなった』になりかねない……と言う事です」

モウカザル「『そして誰もいなくなった』?」

ロズレイド「有名なミステリー小説です。マザーグースの通りある島に集められた10人のニンゲンが、1人ずつ命を落として行き、最終的には……」

シャワーズ「ストップ! 全滅なんてさせない。犯人がわからないなら、速く脱出する。それでいいよね?」

ラクライ「……だけどさ」

ラクライ「僕たちが帰ったら、犯人も帰って行って、普通に暮らし始めるんだよね……」

ゴースト「……」

ラクライ「……やっぱり僕、犯人、捕まえるべきだと思う。じゃないと、戻れても、またそいつは、犯罪を繰り返すかもしれない……」


シャワーズ「でもさ……取りあえず、ごはん食べよう。帰るにしろ犯人捕まえるにしろ、お腹空いてたら始まらないから」

ゴースト「だな」
 ▼ 82 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:48:36 ID:srF.3iv. [10/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
アブソル「じゃあ、よろしくお願いします」

シャワーズ「熱湯!」

モウカザル「火炎放射!」

アブソル「じゃあ、これで大丈夫です」


サメハダーは、ワルビアルと同じ場所にいる。
埋められる、その時をただ待ちながら。
せっかく昨日盛り返した雰囲気が、また暗くなってしまった。

なんて考えながらアブソルを見ていた、その時。
ふっとアイデアが頭に下りた。


シャワーズ「ワルビアルもサメハダーも、悪タイプよね……?」
 ▼ 83 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:48:56 ID:srF.3iv. [11/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
アブソル「えっ?!」

シャワーズ「あ、アブソルも……ねえアブソル。あたしと離れちゃダメよ。もしかしたらだけど……次狙われるのは、アブソルかもしれない」


思い付きをただ口にする。
あまりいい事ではないのはわかっている。だけど。

心配と言う感情が、理性の訴えを押さえ込んでいた。


モウカザル「確かに、悪タイプばっか……」

アブソル「た、確かに……」

モウカザル「……俺も一緒にいる。絶対、無事帰ろうな!」

アブソル「……うん」


その口調、表情。
はっきり言って、心配は残った。
それでも、無理に笑って、言った。


シャワーズ「取りあえず、ごはん楽しみにしてるから!」
 ▼ 84 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:49:16 ID:srF.3iv. [12/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
期待以上だった。
楽しみにしてるとは言った。でも。
ここまでおいしいと、もはややる気もそがれ……ちゃダメだけど、そのぐらいおいしかった。


ゴースト「あー、幸せだぁ……」

アブソル「じゃあ、私もいただきます」

モウカザル「旨い!」


おいしい、あったかい料理ってのは、人の心を明るくしてくれる。
それは、この暗い状況において、数少ない希望だった。


シャワーズ「ごちそうさま」
 ▼ 85 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:49:42 ID:srF.3iv. [13/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
皿を片付け終わった所で、あたしはさっきの仮説を披露した。
悪タイプが狙われているのだとすれば、次狙われるのはアブソルなのではないか。


ロズレイド「もっともだ……と言いたい所だが、そうとは言い切れませんね」

ロズレイド「こんな時に、悪タイプへの恨みを晴らそうだなんて思わないだろう。それなら、船の中で虐殺していたはずです」

ロズレイド「何も乗り込んだその日に事故に遭った訳でもない。充分に時間はありましたし」

シャワーズ「むぅ、そっかあ……。あれ、でもさ? それなら無差別連続殺人だったとしても、船の中でしてたはずだよ?」

ロズレイド「いや、それは、この異常事態で、日頃溜まっていた何かが噴出したのかもしれまえsん」

ゴースト「でもよ? 俺にはそんな奴がこん中にいるようには見えねえけど?」

ゴースト「自分を隠せるような奴が無差別連続……合わねえんだよ、人物像と」

ロズレイド「そんなあいまいな事で……」

ラクライ「あいまいでも! そ、それは重要な事だと思う。僕たちの中に、犯人はいないよ」

シャワーズ「よく言った!」

モウカザル「まあ、そのあいまいな事を不採用にするならさ」

モウカザル「ラクライを外すのは速過ぎんじゃねえの?」

ロズレイド「ぐぬぬ……。わかりました。これに関しては僕の負けです」
 ▼ 86 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:50:05 ID:srF.3iv. [14/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
負け? 何が?
そんな心中の疑問を、だけど口にする訳にもいかず、あたしは議論に意識を再び集中させた。

あたしは……この中に犯人がいるとは思いたくない。
その一心で、あるアイデアを提案した。


シャワーズ「もしかすると、外部犯……だったりして」

シャワーズ「今この島には、あたしたち以外にも誰かいて、そいつが殺している」

シャワーズ「あり得ない、は通用しないよロズレイド。現にサメハダーがいた訳だから」

ロズレイド「なるほど。では、その案に従って、昨日の3人1組で島を探索しましょう」


異論の声は出なかった。
あたしたちは、また集まって、どこを探すか話し合った。
 ▼ 87 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:50:29 ID:srF.3iv. [15/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
シャワーズ「ん? アブソル、向こう気にしてどうしたんだ?」

アブソル「……え? ああ、なんでもないよ」

シャワーズ「ウソ。なんでもないはなんでもあるだよ」

アブソル「だから心配しないでください」

シャワーズ「でも、気になるよ」

アブソル「ほっといてください」

シャワーズ「でも」

モウカザル「シャワーズ」


顔を見合わせる。
モウカザルは、静かに首を横に振った。
 ▼ 88 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:50:53 ID:srF.3iv. [16/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
シャワーズ「わかった。だけど、絶対変な事しないでね。お願いだから」

アブソル「……」

モウカザル「じゃあ、行こう。まずは屋敷の中かな。絶対ないだろうけど、それでもしらみつぶしに探さないと」

シャワーズ「……そうね。切り替えなきゃ。しっかりしろ、あたし」

シャワーズ「ところでさ、ふと思ったんだけど、あのほこら、何を祭ってんだろ?」

モウカザル「と、唐突だな」

シャワーズ「唐突過ぎるぐらいがちょうどいいの! 忘れさせて!」

モウカザル「う、うん……」

アブソル「……じゃあ、行こう」
 ▼ 89 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:51:20 ID:srF.3iv. [17/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ほこらが何を祭った物なのか。
それとも、なんでもないのか。

無人島にあんな――この屋敷もだけど――人工物があるって時点で、この島には、何かある。
それが、この事件と関係あるのかないのか。そして、それを知って帰れるようになるのかどうか。それはわからない。
だけど、知っておいて損はない。そう思った。


シャワーズ「屋敷があるって事は、誰か住んでたって事だよね」

シャワーズ「何かしらの理由でここに住まないといけない……その理由を探す事から始めよう」

アブソル「うん」

モウカザル「わかった」

シャワーズ「無駄になるかもしれないけど、その時はごめんね」
 ▼ 90 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:51:41 ID:srF.3iv. [18/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
まずこう言う所で探すべきは、日記。
置いてあると、調査がはかどる。

だけど、そう都合よく見付かる訳ないよね……。


アブソル「えっと、本棚の中から日記を探すって事ですよね」

シャワーズ「うん。いっぱいあるから、大変だけど」

モウカザル「たぶんあると思うよ。だいたい、こう言うとこに1人でいると、日記でも書いてなきゃやってけないだろうし」

シャワーズ「そう言うもん?」

モウカザル「想像でしかないけど」


そう言って不愛想にうなずくモウカザル。
その言葉に希望を貰い、本棚を漁り始めた。
スカでも仕方ない。当たればラッキー。そのぐらいの間隔で。
 ▼ 91 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:52:01 ID:srF.3iv. [19/20] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
だから、本当にビックリした。
ふと手に取ったノート。
パラっと見ると、それは……








シャワーズ「これ……日記じゃん」
 ▼ 92 1◆J44kAZeDOM 16/02/10 18:52:33 ID:srF.3iv. [20/20] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幕章

「どうせ……姉ちゃんには俺の気持ちなんてわかんねえんだ」


「なんでそんな事言うのよ。あたしはいつだって、あんたの味方だよ」



「そうかよ。じゃあ、俺はどうすりゃいいってんだよ。タイプのせいでみんなから嫌われて」

「俺は悪タイプ、それだけなのに……」


「……」
 ▼ 93 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 18:40:35 ID:T098DCac [1/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
5章 第3の殺人


シャワーズ「日付は関係ないだろうけど……」

モウカザル「取りあえず、読んでみようぜ」

アブソル「はい」



どうしてこうなってしまったのだろう。

理由はわかっている。悪タイプだからだ。

悪タイプでしか、あの神は制御し得ない。

妖精の力を借りて、しかし実行し得るのは悪タイプのみ。

……わかっている。破壊の神は、悪タイプ。

悪タイプの力を増す不思議なオーラを持っている。

だが、なぜ私なのだろう。

なぜ、こんな島なのだろう。


なぜ、封印しなければならないのだろう。
 ▼ 94 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 18:40:56 ID:T098DCac [2/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「悪タイプだから……」

アブソル「……なるほど。確かに、この島に来てから、なんか力が沸いてる気がするんです」

シャワーズ「じゃあ、この日記は、真実とみて良さげね」

アブソル「いいと思います」

シャワーズ「破壊の神、ねえ……」

モウカザル「どう言う事だろ。妖精の力を借りて……あっ、そうだ! さっきそんな本見かけた気がする!」

シャワーズ「ホントに?!」

モウカザル「えっと……あった!」

シャワーズ「絵本ね……」
 ▼ 95 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 18:41:17 ID:T098DCac [3/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イベルタルは暴れん坊です。

村のみんなの食べ物を奪って行くのです。

困った人々が、ゼルネアスに助けを求めました。

ゼルネアス「わかりました。イベルタルを止めて来ます」

――中略――

イベルタル「仕方ねえだろ! 俺だって、出来る事ならみんなといてえよ……」

ゼルネアス「それなら、一緒にいますか? ちゃんと謝れば、みんな許してくれるはずです」


シャワーズ「ありがちだけど、なんとなくわかった」

アブソル「ねえ、それよりもこっちの方がもっと詳しい事書いてると思うんですけど」

モウカザル「え?! そんな本あったんだ……」

シャワーズ「ゼルネアスとイベルタルに関する本がたくさん……破壊神=イベルタルって事で確定して良さげね」
 ▼ 96 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 18:41:42 ID:T098DCac [4/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「ところで、絵本見てる限りだと、イベルタルは飛べるのよね」

モウカザル「なっ、ま、まさか……」


シャワーズ「ここに封印されてるなら、載せてってもらおうと思ってるの。ダメ?」

モウカザル「ダメに決まってるだろ! 危な過ぎだって」

シャワーズ「むう……」



アブソル「別の案を考えた方がいいのかもしれませんね」


シャワーズ「ふと思った。もしかしたらだけど、そいつが事件の犯人なのかもよ? 実はもう封印が解けてる説」

アブソル「気付くはずです。却下」


モウカザル「そうかなー? あり得ない話じゃないと思うけど、俺は」

モウカザル「少なくとも、みんなの中の誰かが犯人だってよりは、全然」

アブソル「……」

シャワーズ「とにかく、アブソルのその本も読んでみるね」
 ▼ 97 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 18:42:09 ID:T098DCac [5/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「えっと、何々? 覚える技まで事細かーに書いてるね。誰かの研究日誌みたい……カルムって人が書いたのね」


シャワーズ「ねえ、ほら! かまいたち覚えるんだって! 空気の刃で敵を襲う技」


アブソル「ええ。実際、私も覚えてますけど、確かにあれは、ナイフみたいな傷跡が出来ます」

モウカザル「えっ?! ヤバいじゃん……。疑われちまう!」

アブソル「大丈夫ですって。私、何もしてないんですから」


シャワーズ「でも……ロズレイドの事だし、どう考えるかわかんないよ?」

モウカザル「……まあ、それはいいんだけど、でもシャワーズのその説には無理がある気がして来た」



モウカザル「なんでデスウイング……自分の一番の得意技で殺さないのか。それに矛盾なく説明を付けられないと」

モウカザル「動機があるとしたら生存本能、で、それがそうだとすると普通にデスウイングで殺した方がいい。隠す理由もないんだし」


シャワーズ「そっか……。いい案だと思ったんだけどなぁ」

モウカザル「まあ、その案にすがりたいよな」
 ▼ 98 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 18:42:30 ID:T098DCac [6/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「うん……。いや、こじつけだけど、ない事はないかも」

モウカザル「ええっ?!」

シャワーズ「あたしたちにほこらを気付かせて、それで、封印を解けば脱出出来る、と思わせれば勝ちじゃない」

シャワーズ「現に、あたしもさっきそれ提案したでしょ?」

モウカザル「まあ……こじつけはられたな。封印を解きたい、か。だけどなぁ……」

シャワーズ「さすがに無理がある、よね。わかってる」
 ▼ 99 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 18:42:52 ID:T098DCac [7/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「取りあえず、なんでこの島にこんな豪華な館とほこらがあるのかわかっただけでも収穫だよね! 別のとこ探しに行こう!」

モウカザル「だな」

アブソル「賛成です」


だけど、その提案は。
ある事情により、一蹴される事になる。



シャワーズ「あ、ラクライ。ゴーストはどうしたの?」

モウカザル「ロズレイドは完全無視なんだな……」
 ▼ 100 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 18:43:15 ID:T098DCac [8/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







ロズレイド「……死んだ」

シャワーズ「……は?」


モウカザルと、アブソルの顔も、話しかけようとした形のまま、凍り付いた。
沈痛な表情で、ロズレイドが口を開く。


ロズレイド「いきなり苦しみだして……そのままだ」
 ▼ 101 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 18:43:58 ID:T098DCac [9/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「そ、そんな……」

モウカザル「なっ……」


ロズレイド「だが、犯人はこれでわかった」


そう言って、ロズレイドはあたしたちの方を向き直る。














ロズレイド「アブソル、お前だ」
 ▼ 102 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 18:44:34 ID:T098DCac [10/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「え、ちょ、ちょっと待ってよ! ゴーストが殺されたって何?! どう言う事よ?!」


あまりに突然過ぎて、悲しみどころか驚きすら起こらない。
あるのはただ、怒りのみ。


シャワーズ「アブソルにはアリバイが……完全なアリバイがあるのよ! あたしたちがずっと一緒にいた!」


激昂して行くあたしとは対照的に、ロズレイドの声は、どんどん暗く、抑鬱した物になって行く。
ロズレイドは、静かに、だが突き刺すような鋭さを持って、こう一言、言った。


ロズレイド「未来予知」


アブソルの方を振り返る。
うつむいた彼女の顔は、陰に隠れてよく見えなかった。


ロズレイド「時間差で相手を襲う攻撃だ。アリバイなんて関係ない」


シャワーズ「なっ……」


ロズレイド「他の事件なら、アリバイも関係ない」
 ▼ 103 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 18:45:00 ID:T098DCac [11/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「待ってよ! 愉快犯の連続殺人鬼がアブソルなら、普通に別の時間に、切りつけて殺すでしょ? おかしいよ!」


ロズレイド「だが、この島で、他にエスパー技が使える奴がいるか?」


シャワーズ「この島にいるバケモノ。可能性はあるよ」


ロズレイド「ほう」


シャワーズ「あの本取って来よ」


モウカザル「残念ながら! 残念だけど、エスパー技はなかった」

シャワーズ「そんな……だけど、バケモノはいる! アブソルが犯人なんじゃなくて、そいつなんだ!」


ロズレイド「バケモノとは?」


あたしは、事細かに、さっき手に入れた情報を全て話した。
時折モウカザルの補足も入って、たぶん、ロズレイドもラクライも、完全に理解出来ただろう。


ロズレイド「だが、仮にそうだとしても、第1、第2の事件も彼女に依る物だと考えて問題ないでしょう。アリバイ的にも犯行は可能だし、彼女の技もあの傷跡と合致する」
 ▼ 104 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 18:45:29 ID:T098DCac [12/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「でも、それならなんで、ゴーストだけ殺し方が違うの? 別に殺さなくたっていいじゃない!」

ロズレイド「罪の隠蔽……なんて、考えればきりがない」

シャワーズ「でも、それならあんただよね? 普通。未来予知は、ゴーストだけじゃなく、あんたにも抜群なんだし」


ロズレイド「……とにかく! 彼女は悪タイプだろう? 何かしら、そう言う秘密を抱えているんだ!」


キレたように言うロズレイド。
だけど、その言葉に、

あたしは、完全にキレた。
 ▼ 105 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 18:45:49 ID:T098DCac [13/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「……ふざけんな」


シャワーズ「ふざけんなっ! 何が悪タイプだっ! 悪タイプを偏見で決めつけるなっ!」


アブソル「シャ、シャワーズ……」


シャワーズ「ふざけんなっ! ふざけんなふざけんなふざけんなぁぁぁあああああっ!」


ロズレイド「なっ、ど、どうした……」


シャワーズ「ふざけんなっ! ふざけんな……ふざけんな……うああああああ……」
 ▼ 106 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 18:46:19 ID:T098DCac [14/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幕章

「姉ちゃん、俺、もうヤだよ……」


「ダメだよ……ね? 一緒にやり直そう?」



「……姉ちゃん、最後まで気楽だよな」


「……」



「じゃあな」




「待って、ブラッキー! ダメぇぇぇえええええっ!」
 ▼ 107 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:02:25 ID:T098DCac [15/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
6章 事の真相


シャワーズ「うわあああああああっ!」

モウカザル「落ち着け! どうしたんだよいきなり」

ロズレイド「仕方ない……アロマセラピー!」


シャワーズ「はあっ、はあっ……ごめん、ありがと。だけど、やっぱり許せないよ」

シャワーズ「悪タイプだから悪だ、悪タイプだから悪い事してる。それがどれだけ悪タイプのポケモンを傷つけてるか、あんたにはわかんないでしょ?」

シャワーズ「あたしの弟、ブラッキーなの。あんたみたいな事言う奴のプレッシャーで、自殺したけど」


ラクライ「そんな……」


シャワーズ「だから、そう。アブソルがもし犯人なんだとしたら、その原因の一端は、あんたにある」

ロズレイド「……そう、だったのか」


素直に驚いてる。
その事が、ちょっと意外だった。
もっと突っ張って来る、そう思ってたのに。
 ▼ 108 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:02:51 ID:T098DCac [16/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな事をぼんやりした頭で考えている。
その時だった。


モウカザル「……なあ。もしかすると、わかったかもしんない。事件の……全貌が」



シャワーズ「……え?」

ロズレイド「アブソルが犯人、だろう?」


モウカザル「違うっ! アブソル! あんたももっと否定しろ! 自分がしたのは、ゴーストだけだって!」

モウカザル「この事件は、連続殺人でも、なんでもないんだって!」


シャワーズ「……え?」

ラクライ「なっ!」

ロズレイド「……どう言う事だ?」


モウカザル「言った通りの意味だよ。最初の2つの事件がアブソルを追い詰めた。その結果、アブソルの中で犯人になっていたゴーストが殺されたんだ。未来予知でね」
 ▼ 109 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:03:22 ID:T098DCac [17/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「……こほん。アブソルがワルビアル、サメハダーを殺していないと言う理由は?」


モウカザル「動機。隠れていくらでもって言ってたけど、それは違うよ」

モウカザル「でも、シャワーズの今の慟哭を聞いて、なんとなく、わかったんだ」


そう言って、モウカザルは息を吸い込んだ。


モウカザル「アブソルは悪タイプ。だから狙われるかもしれない」

モウカザル「モウカザルは犯人じゃないと思う」


シャワーズ「あたしが、昨日今日で言った事ばっか……」


モウカザル「うん。たぶん、アブソルは、不安だったんだ。それで、シャワーズに依存した」


モウカザル「不安な時に傍にいてくれた、シャワーズに」



モウカザル「だから……その言葉を、あんまり素直に受け取り過ぎた」
 ▼ 110 ールナー@こぶしのプレート 16/02/11 20:03:56 ID:rjVLNSik NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援!
 ▼ 111 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:04:00 ID:T098DCac [18/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モウカザル「アブソルは、第1、第2の事件で自分が犯人でない事を知っている。そして、シャワーズの言葉で、僕の可能性も切り捨てられた」

ロズレイド「切り捨てられてなんていないが……」

モウカザル「アブソルの中では、って事だよ。合ってるよな?」


アブソル「………………ええ」


シャワーズ「そんな……あたしのせい……」


体がわなわなと震えた。
あたしの不用意な発言が、ゴーストを……死に追いやった?







モウカザル「違うよ。やっぱり、悪いのは船長、そしてサメハダーなんだ」
 ▼ 112 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:04:20 ID:T098DCac [19/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モウカザル「そもそも、なんで僕たちがここに流されたか」

モウカザル「あいつらが……あんな海流が速い所を通ったから。わざとな」

モウカザル「そして、この島にやって来た。この事から考えられるのって、1つしかない」


モウカザル「サメハダーは、ワルビアルを殺そうとしてたんだ。船を沈没させる事で」



誰も、何も言えないでいる。
モウカザルの口から語られる、とんでもない推測。
だが、それに反論出来るはずもなく。

あたしたちは、ただ、モウカザルの言葉に耳を傾けるのみだった。
 ▼ 113 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:04:40 ID:T098DCac [20/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モウカザル「明らかにカタギじゃないし、借金取りでもしてたんでしょ」

モウカザル「サメハダーは、自らの家庭を守ろうと、ワルビアルを殺し、恐らくは、自分も殺した。自殺には見えないように、ね」

モウカザル「保険金ももらえるでしょ。責任は、船長にでも負わせるつもりだった」

モウカザル「ただ、運命のいたずらか、ワルビアルは無事流れ着いてしまった」


モウカザル「サメハダーは、それを見ていた」

モウカザル「そして、生きている可能性を確認した彼は、自分にしがみついている船長を振り払い、この島にやって来たんだ」

モウカザル「たぶん、木の実集めに行くときにラクライが感じた気配ってのは、こいつだったんだろうな」


ラクライ「……それなら、確かに筋は通る……」


モウカザル「で、サメハダーは、俺たちがバラバラに行動してる隙を突いて、ワルビアルを殺したんだ」


ラクライ「でもさ……じゃあ誰がそのサメハダーを殺したの?」


ロズレイド「まさか、バケモノとでも言うつもりか?」
 ▼ 114 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:05:01 ID:T098DCac [21/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モウカザルは黙り込む。
そして、なぜか、その視線をあたしに向けて来た。

その目から、なぜか涙がこぼれて行くのが見えた。



……!

その時、あたしは、何かに気付いた。
言うべきか、一瞬迷った。頭は、あたしを止めようとする。

だけど、口は止まらなかった。

考えるより先に行動する。
それが、あたしの性格だから。










シャワーズ「ごめん……何個か気になる所があるの。モウカザル」
 ▼ 115 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:05:26 ID:T098DCac [22/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
みんながあたしの方を見ている。
それが、たまらなく辛い。
だけど、これは、あたしがやらなくちゃいけないんだ。

訳もなく、そう思った。


シャワーズ「その1」

シャワーズ「サメハダーの死体を発見した時のあんたのセリフ」


シャワーズ「モウカザル待って! 場所わかるの?!」

モウカザル「あっ……そうだ、わからないんだった」


シャワーズ「あの時はただ慌ててるだけだと思ったけど」

シャワーズ「冷静に考えて、この言い方だと、本当は知ってる。そんな風にも聞こえるよね?」
 ▼ 116 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:06:17 ID:T098DCac [23/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「その2」

シャワーズ「あんたの、いきなりの、鮮やか過ぎる推理」

シャワーズ「凄過ぎて、言葉も挟めなかったけど、よくよく考えると、微妙に飛躍があるの」


モウカザル「そして、この島にやって来た。この事から考えられるのって、1つしかない」

モウカザル「サメハダーは、ワルビアルを殺そうとしてたんだ。船を沈没させる事で」


シャワーズ「さっきまで、あいつらとか、船長も入れたような言い方してたのに、あんたは急に、断定した」

シャワーズ「ワルビアルを殺そうとしたのはサメハダーだ! ってね。まあ、船長の態度的に、違うのは目に見えてたけど」

シャワーズ「そこはいいの。結果的に、ワルビアルを殺そうとしてるって方も、結果論だけど、あながち間違いじゃないような気もする」

シャワーズ「たぶん、ワルビアルは、カタギじゃないしね」

シャワーズ「問題は、あんたがいきなり、完全にゴーストが犯人説を切り捨てた事」

シャワーズ「根拠は、それこそどこにもないよ? 死人に口なしみたいで申し訳ないけど。だけど」

シャワーズ「サメハダーにその論理を適用させるなら、ロズレイドのこの発言は、意味を為さなくなる」


ロズレイド「そもそも、地面タイプでもあるワルビアルが、あの海流に呑まれて無事な事の方が奇跡に近い。普通なら無理に殺そうとこんな所まで追い回したりなんてしません」
 ▼ 117 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:06:51 ID:T098DCac [24/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「それだけじゃない」

シャワーズ「あんた、寝る前のあの時、言ったよね? まだサメハダーの死体が見付かってない時に!」


モウカザル「悪いのは、変なルートを通ったサメハダーだよ。料理人のアブソルには関係ない関係ない」


シャワーズ「まだあるよ」

シャワーズ「いくらなんでもサメハダーがワルビアルを殺した動機、想像力が足り過ぎだよね」

シャワーズ「根拠もないのに、あそこまで思い付けるなんて、普通ないよ」


シャワーズ「本人の口から聞いた、とかじゃない限り、ね。そもそも、自殺するつもりもなかったと思うし」

シャワーズ「サメハダーなら、たぶん、普通に帰れる。泳ぎが速いし。あたしでも泳げたんだもん」
 ▼ 118 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:07:18 ID:T098DCac [25/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「その3」

シャワーズ「サメハダーとワルビアルの殺害方法が同じ事」

シャワーズ「体型的にサメハダーの自殺の線は完全に捨てていいと思うから、あれが連続殺人じゃないとするなら、結論は1つしかないよね」

シャワーズ「模倣犯」

シャワーズ「だとすると、生存本能に従ってるはずのバケモノ、イベルタルが犯人ではあり得ない。これは、さっきのモウカザルのセリフで、はっきりする」


シャワーズ「ね? だから、あたしたち以外に誰もいないのなら、あたしたちの中に犯人がいる。だけど、それは……」

シャワーズ「サメハダーに対して動機を持つポケモン。つまり、サメハダーの悪事に気付いてるポケモン」

シャワーズ「そうだよね? モウカザル?」
 ▼ 119 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:08:21 ID:T098DCac [26/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



あたしの頬も、熱い物が流れて行く。
そう。
あたしは今、紛れもなく。











モウカザルを断罪しようとしている。


 ▼ 120 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:08:42 ID:T098DCac [27/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「ねえ、あたしの推論、聞いてくれる?」

ラクライ「シャワーズさん……」


モウカザル「……ああ」


シャワーズ「あんたは、サメハダーがワルビアルを殺す現場を、目撃していた」


シャワーズ「それを見たあんたは、キレた。正義感なのか、それとも船の計画をその時聞いて、怒ったんだと思う」


シャワーズ「モウカザルは、逃げるサメハダーを追ってほこらに来た。そして、サメハダーが持っていたナイフを奪った」


シャワーズ「それで、怖くなっちゃったんだろうね。あんたは、事実を隠す事に決めた」
 ▼ 121 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:09:04 ID:T098DCac [28/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラクライ「でも……なんであの時行かなかったの? 一緒に行ってれば見付からないように誘導出来たかもしれないのに……」


シャワーズ「あたしがほこらの方に行こうって言ったのは、完全に偶然。もしあたしがそう提案したら、変に止めると万が一の時に疑われる」

シャワーズ「だから、運を天に任せた。結果的に見付かった訳だけどね」


シャワーズ「でも、それは、連続殺人だと思われた」


シャワーズ「殺し方が同じだったからね。あんたはたぶん、無意識の保身なのか意識的なのかは知らないけど、真似たのよね」


シャワーズ「だけど……あんたは気付いてしまった。アブソルの動機に」


シャワーズ「それで、言ったんだよね? あたしでも、誰でもよかったんだろうけど、気付いて欲しくて、推理を披露した」


シャワーズ「そうだよね? あんたは、アブソルの事を思いやれた。そうだよね? お願い、そうだって言って!」


モウカザル「……」
 ▼ 122 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:09:34 ID:T098DCac [29/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしの声は、涙に濡れていた。
絞り出すような声で、モウカザルを責め立てる。


モウカザル「……」

シャワーズ「あっ、待ってモウカザル! どこ行くのっ!」


唐突に走り出すモウカザル。
あっけに取られ、追いかける事も出来ずに立ちすくんだ。


ロズレイド「……ほこらだ。間違いない」


ロズレイド「恐らく、イベルタルの封印を解いて、自らを滅ぼすつもりだ」


シャワーズ「そんな……行こう! 止めないとっ!」



ラクライ「僕……走れます! 先行ってます!」

シャワーズ「よろしく!」
 ▼ 123 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:09:55 ID:T098DCac [30/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソル、ロズレイド、あたし。
3人で、ほこらへの道をひた走る。
会話はない。ただ、無言で走った。


シャワーズ「モウカザルっ!」

モウカザル「……ごめん」


ラクライ「やめろぉぉおおおお!」


ラクライが飛びかかる。

モウカザルは、ほこらの扉に手をかけた。

ラクライがぶつかる。

モウカザルが、ほこらの扉を






開いた。
 ▼ 124 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:10:16 ID:T098DCac [31/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「モウカザル……」


ロズレイド「まあ待とう。開いただけで、封印が解ける、その保障はない訳だ」


アブソル「……なんかい今、すごい気配が……力を感じる……」


シャワーズ「それ……ダークオーラ?」


アブソル「……たぶん。封印、解けてるよ」


シャワーズ「なっ……」


モウカザル「……みんな。ホントにごめん」


ラクライ「……どうなっちゃうの?」



あたしたちは、時が止まったように立ち竦んでいた。
恐怖にただ、震えながら。
これから起こる事に、身構えるより他なかった。

今やダークオーラは、あたしたちでも感知出来る程に強まっている。
 ▼ 125 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:10:40 ID:T098DCac [32/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
大地が唸り声をあげる。
木々が揺れる。

ほこらの中に、黒い渦が巻かれる。


そこから、漆黒の体を持つ、「Y」の字の形をした鳥が飛び出して来た。


ガタガタと歯が鳴る。
震えは、止まらない。


イベルタル「……ふああ。……封印、解いたんだ」


その穏やかな声を聞いて、モウカザルは、不意に我に返った。
そして、自分の心を伝える。


モウカザル「イベルタル……俺を、殺せ」


イベルタル「えっ、いきなり何言ってんの?」



モウカザル「俺は……アブソルを、殺人行為に追いやったんだ。俺を……俺を殺してくれっ!」
 ▼ 126 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:11:01 ID:T098DCac [33/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イベルタル「え……? あの……」


モウカザル「頼むから!」



そのやり取りを見ている内に、あたしも気付く。
こう、ぼんやり見ている場合ではないと。


シャワーズ「ダメよモウカザル! 自殺は、逃げよっ! あんた、反省する気があるなら、最後まで生きなさいよっ!」


モウカザル「俺……でも、やっぱり」


イベルタル「あの……さ? 私、殺したい、だなんて、これっぽっちも思ってない。どころか、むしろ殺したくない……」


イベルタル「あなたたちの間に何があったのか知らないけど、私が封印されたの、もう殺したくないからで……」


イベルタル「だから、封印したのも、自分から望んで、なんだよ?」


シャワーズ・モウカザル「……え?」
 ▼ 127 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:11:57 ID:T098DCac [34/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イベルタル「だから、殺して欲しいんだったら、私以外を当たって」


彼女の言葉が、耳を通り過ぎて行く。
意味が、よく理解出来ない。


イベルタル「驚くだろうね……。私が悪タイプ。だから、殺戮したくてたまらないはず。みんなそう思ってるんだもん」


まただ。
またこんな思想だ。


イベルタル「はあっ。全く、みんな何にもわかってない。別に、殺したくて殺してる訳じゃないってのに……」

ロズレイド「あの……いろいろわからない事だらけで、イメージとも合わないし、でも、それはいいんです」

イベルタル「ええっ?! せっかくだから話聞いてよ! 完全に聞いてくれる流れじゃん!」

ロズレイド「……」
 ▼ 128 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:12:19 ID:T098DCac [35/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
予想外のキャラに、完全にペースが乱される。
破壊神だと言うのに、これほど穏やかと言うか……むしろあたしと同い年ぐらいの女子みたいな感じで。

だけど。それなら。
あたしと同じ悩みを抱えた、女子なら。


シャワーズ「わかった。聞くよ。ストレス、溜まってそうだし」

イベルタル「ホント?! ありがとう!」
 ▼ 129 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:12:52 ID:T098DCac [36/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イベルタル「実は私ね……生命の釣り合いを取るために、仕方なく殺してんの」

イベルタル「ゼルネアスが与え過ぎちゃうから。あいつバカだし」


シャワーズ「は、はあ……」

イベルタル「で、過剰に増えすぎるとマズイじゃん? どうしたかはわかるよね?」

ロズレイド「増えすぎると、食料問題水問題、その他様々な物の取り合いになり、争いを生み、結局全員が滅びる」

ラクライ「あー、確かにそんな事習ったな……」


イベルタル「まあ、だから私は、増え過ぎないように命を適切量奪う」

イベルタル「そうしないと生命を維持出来ないように、そうするための生命(いのち)として生み出された」

イベルタル「だけど、殺しってのは、やっぱ気分いいもんじゃないわ」


アブソル「えっと……」

モウカザル「ホントそうだよな」


実感のこもった声に、なんとなく寂しさを感じた。
だけど、あたしは、イベルタルの話の続きを促した。
 ▼ 130 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:13:14 ID:T098DCac [37/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イベルタル「ありがとう。で、私、もう嫌になっちゃったのよ。それで、ゼルネアスの力を借りて、自らを封印したって訳ね」

イベルタル「この島に入り込めるニンゲンやポケモンは、海流に阻まれて、ほとんどいないだろう、って事だったんだけど」

イベルタル「でも結局、こんなに入り込んで来ちゃったんだし、あんまり意味なかったかもね」


イベルタル「ところでさ、殺して欲しい、って言ってたけど、なんで?」


モウカザル「俺は……殺人を犯して、しかも、それがアブソルを追い込んで……」


イベルタル「へえ、なら私と同じじゃん。元気出しなよ。私が言えた立場じゃないんだけどさ」
 ▼ 131 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:13:44 ID:T098DCac [38/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラクライ「……あの!」

イベルタル「ん? 何?」


ラクライ「この島から脱出する方法、何かありませんか?」


イベルタル「え? ……いや、私に乗れば万事解決だけど?」



ラクライ「え……? それって……」

イベルタル「この島に閉じ込められてるんだったら、助けてあげてもいいよ。そのぐらいしてあげたい。いい事しないと、やってらんないし」

ラクライ「そんな軽いノリで言われても……」

モウカザル「なら、帰れるな。……なんだろう、こいつと話してると、死のうと思ってた自分がバカみたいだ」

モウカザル「どれだけ重い罪の意識でも、耐えながら気丈に笑ってる。そんなの見せられちまったら、もう……」

イベルタル「あーそんな悲しそうな顔しないで。何があったのかは詳しくは聞かないけど、でも、そんな顔されると、辛い」


イベルタル「私は、誰かの笑顔を、見て見たいだけなんだから」
 ▼ 132 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:14:41 ID:T098DCac [39/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「なら、お言葉に甘えさせてもらいます。だけど……」

ロズレイド「帰る前に、1つだけ、決めておきたい事、そして、しておきたい事があるんです」

ロズレイド「まずは3人の埋葬。そして……」

ロズレイド「アブソルとモウカザル、2人の今後について」


今更のように敬語に戻るロズレイド。
まるで、さっきの失敗を挽回するように、仕切り屋な一面を発揮する。


ロズレイド「僕たちは、自由に事件を隠ぺい出来る立場にいます」

ロズレイド「海流に流された。おそらく死んでいるだろう」

ロズレイド「そう言えば、通ってしまう、そんな立場です」


ロズレイド「ですが、そこは……アブソルとモウカザル、あなたたち自身に一任します」

ロズレイド「どうすれば罪を償えるか」

ロズレイド「自分は、どうしたいのか」

ロズレイド「それと相談して、今すぐに決めてください」
 ▼ 133 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:15:07 ID:T098DCac [40/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
はっきり言って、意外だった。
ロズレイドが、こんな柔軟な思考をする、と言う事が。

見詰めたロズレイドの横顔は、苦い表情で。

不意にこちらを振り向くと、言った。


ロズレイド「……完敗だ。リーダーとしても、探偵としても」

シャワーズ「な……あんたまさか、あたしに対抗心でも燃やしてたの?!」

ロズレイド「少なくとも、途中からは。君がアブソルやモウカザルとすぐに打ち解け、ラクライの恐怖を取り払い、ゴーストとも親しくなった」

ロズレイド「それはいい。だけど、僕よりもそう言う事に優れている。それが許せなかったんだ」

シャワーズ「でも、しょっぱなからあたしの前では……」

ロズレイド「仕方あるまい。あの時はまだ、3人しかいないと思っていたのだから」
 ▼ 134 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:15:28 ID:T098DCac [41/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロズレイド「さあ、こんな事話しててもどうにもなりません。穴を掘って、3人を埋葬しましょう。ラクライ、ついて来て下さい」

ラクライ「あ、はい!」

シャワーズ「あたしも手伝うよ。当然だけど」

ロズレイド「わかりました。やっぱり最後も、3人1組で」


シャワーズ「……あんたにしては珍しく、粋な事言うじゃん」


ロズレイド「珍しくとはなんですか珍しくとは!」

ラクライ「ふ、2人とも落ち着いて……」
 ▼ 135 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:15:54 ID:T098DCac [42/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「ふうっ」


最後の土をかける。
墓標として、木の枝と石を組み合わせたオブジェクトを、ラクライが前足で器用に作り、備えた。

ゴーストはともかく、サメハダーも、ワルビアルも、悪い事してたんだろう。だけど。
だけど、それでも、冥福を祈らずにはいられなかった。

気付けば、アブソルとモウカザルも横に立っている。

あたしは、目を閉ざした。


どうか、安らかに眠れますように。
 ▼ 136 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:16:16 ID:T098DCac [43/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イベルタル「終わった?」

シャワーズ「うん。で、結局2人の結論はどうなの?」


モウカザル「俺は、黙ってる事にした。素直に裁かれるより、そっちの方が辛い。だけど」

モウカザル「俺は、辛さを自分に課した。その方が、より償いになる、そう思って」


ロズレイド「なるほど。それならその考え方を尊重しましょう。で、アブソルは?」


アブソルは、うつむいていたその顔をあげて、口を開いた。
そして、その結論を、あたしたちに伝えた。
 ▼ 137 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:16:53 ID:T098DCac [44/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エピローグ 脱出


シャワーズ「……にしても、いろいろあったね」

ロズレイド「ああ。もう2度と経験したくない」


モウカザル「俺なんか……これから天涯孤独だもんな」

シャワーズ「そっか。あ! だからあんた、あんなにキレたんだ。殺したくなるほど」

モウカザル「うん。いくら自分が脅されて、家庭崩壊寸前だからって、他の家庭どんだけ壊してんだよって思ったら、もう歯止めがね……」


ラクライ「でも、よかったと思える事も、少しだけど、ホントに少しだけど、あるよ」


シャワーズ「何?」


ラクライ「こうやって、みんなと出会えた事。みんな、いろいろ悪い所もあるけど、基本的にはいい人ばっかりなんだよ」
 ▼ 138 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:17:13 ID:T098DCac [45/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シャワーズ「……それ、あたしを泣かせる気?」


ラクライ「えっ、ちょ、泣かないでよ……」


ロズレイド「はは。まあ、そうなのかもしれないな」


モウカザル「うん……」



イベルタル「見えて来た。着陸するよ!」
 ▼ 139 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:17:34 ID:T098DCac [46/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モウカザル「……着いた。思ったより、あっけないな」

ロズレイド「ああ。助かった、と言うのにな」


イベルタル「じゃあ、私もう、帰るよ。今は夜だからいいけど、明るくなったら、みんなを不用意に怖がらせるだけだし」


イベルタル「今度こそ、封印を解かれないように。出来る事なら、私が、もう2度と目覚めなくていいような世界に……なんて、まだ理想論なんだけど」


イベルタル「じゃあね」


イベルタルが飛び去る。
その方角に、朝日が昇りだした。


砂浜に、長い4つの陰が伸びた。
 ▼ 140 1◆J44kAZeDOM 16/02/11 20:18:16 ID:T098DCac [47/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
【無人島SS】シャワーズ「連続殺人……?」 モウカザル「……だろうね」

 ▼ 141 ミロップ@スペシャルアップ 16/02/11 20:19:00 ID:T098DCac [48/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
当SSはこれにて完結です。
お読みくださり、ありがとうございました。

>>52
ロストタワーですかね
 ▼ 142 バメ@しずくプレート 16/02/11 20:32:01 ID:KCNR6ksc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙です
 ▼ 143 リゲイツ@ウタンのみ 16/02/11 20:34:47 ID:aqWQ2XJI NGネーム登録 NGID登録 報告
とりあえず乙
 ▼ 144 ードラ@ディアンシナイト 16/02/11 21:17:41 ID:wJQmuBbM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙でした
無人島SSの中で完結したものってどのくらいあるんだろう
 ▼ 145 ルズキン@まんたんのくすり 16/02/12 09:07:41 ID:fm8Evzt2 NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
乙です
 ▼ 146 ットレイ@むげんのふえ 16/02/21 10:27:25 ID:Xlh1ggjM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙〜
 ▼ 147 ッポウオ@ジュペッタナイト 16/02/21 13:58:04 ID:P3YDIxjQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙です
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