【ポケダン超SS】子どもの日に

ヤンチャム「な、なあニャスパー」

ニャスパー「え、何？」

ヤンチャム「ちょっと……相談したいんだけど」

ニャスパー「別にいいけど……みんなも呼ぼうよ」

ヤンチャム「いや……それは……」

ニャスパー（ん？　何かまずいのかな……。あ）

ヤンチャム「ニャスパーだけに話したいんだ」

ニャスパー「うん、わかったよ」

ヤンチャム「ホントか？！」

ニャスパー「もちろん」

ヤンチャム「やった！　ニャスパーが一緒なら百匹力だ！」

ニャスパー（にしても、遂に本気を出したか……）

ニャスパー（あの事件以来、中途半端に読めるもんだから、心を読んでみてたけど）

ニャスパー（ずっと好きだったじゃないの。去年の9月よね、終結が確か）

ニャスパー（少なくとも、そこからずっと。それ以前も、本気だったかはともかく好き好きって言ってたけど）

ニャスパー（でも、本気になったのはあの事件以来なのよね）

ニャスパー（面白くなって来たわね。でも……）

ニャスパー（まあ、心なんて、移り変わる、か……なぁ？）

ヤンチャム「実は俺……シ、シキジカちゃんの事が……」

ニャスパー「好きなんでしょ。わかってる。いいよ、手伝う」

ヤンチャム「ちょ、なんでバレてんだよ！」

ニャスパー「なんでも何も隠す気なかったし」

ヤンチャム「ぐぬぬ……」

ニャスパー「何？　手伝わなくていいの？」

ヤンチャム「あ、いや、ご、ごめん……」

ニャスパー「で、手伝ってほしいの？」

ヤンチャム「あ、うん。お願い……していいか？」

ニャスパー「いいよ」

ニャスパー（あなたの気持ちはわかる。痛すぎる程にね……）

ニャスパー「さて、そうとなったら作戦を組もう」

ヤンチャム「ごめんな、せっかくの連休の最後だってのに」

ニャスパー「大丈夫だって。私に親は……少なくとも、連休に一緒に遊びに行くような親はいないし」

ヤンチャム「ああ、そうだったな」

ニャスパー「ヤンチャムこそ、いいの？　ほら、あっちでもシビのぼりがそよいでるけど」

ヤンチャム「子どもの日は♂の子どもの日だからな。確か先生も……」

カモネギ『子どもの日は、子どもの健やかな成長を願う日』

ヤンチャム「って言ってたし」

ニャスパー（……恋愛がどれだけ成長に関係するのか、そもそも健やかって何なのかわかってるのかしら）

ヤンチャム「だから問題ないんだよ。俺がしたいと思った事をしてればな！」

ニャスパー（案の定意味若干間違ってるよねこれ）

ニャスパー（の割に、結果的にはあんまり間違ってないってのがヤンチャムの凄いとこかな……）

ニャスパー「ところでさ、チョボマキには話さなくていいの？」

ヤンチャム「ああ、あいつは……、なんでだろ、この話はあいつには向かない気がする」

ニャスパー（あながち間違いじゃないけどさ……）

ニャスパー「わかった。それじゃ、今度こそ作戦を考えよう」

ヤンチャム「ああ」

ニャスパー「まず、シキジカの性格を考えてみる」

ニャスパー「真面目。品行方正。友達思い。勝気。うーん……。趣味考えてみない？」

ヤンチャム「趣味かぁ……。えっと、花が好きなイメージがあるかな」

ニャスパー「確かに花は好きよ。他には？」

ヤンチャム「俺が真面目にやれば喜びそうな気もするけど……」

ニャスパー「でも、無理して真面目真面目して合わせてまで告白に成功しても、あんまり意味がないんじゃないかな」

ニャスパー「少なくとも、私はそんなの嫌だ」

ヤンチャム「だよなぁ……」

ニャスパー（そもそもヤンチャムの勝ち目って、今の所ないに等しいって言うかさ）

ニャスパー（わかり過ぎるってのも辛い物ね……）

ヤンチャム「とりあえず、花束をプレゼントして、それで……」

ニャスパー「うん。やっぱり作戦とか気にしないでいいんじゃない？」

ニャスパー（どっちみち砕けるんだから……）

ニャスパー「当たって砕けろ。もしフラれたら相性が悪かったって事だよ。タイプ相性はいいんだから。ゲン担ぎにもならないけど」

ヤンチャム「ちょ！　投げやりになってんじゃねぇよ！」

ニャスパー（さっきから妙に鋭いな。だけどまあ、それは表に出しちゃダメよねさすがに）

ニャスパー「え、いや別にそんなつもりはないんだけど」

ニャスパー「無理して作戦組んでみたところで、結局ヤンチャムはヤンチャム。そんなんで好きになってもらっても、あんま意味はないよ」

ヤンチャム「……つまりどう言う事だ？」


ニャスパー「普段通りの自分を好きになってもらえないなら、どっちみち、いつか破綻するわ」


ニャスパー（そもそも、私の事を好きなのかはわからないけどね。ううん、わかってる。ホントは私じゃないって事ぐらい）

ヤンチャム「えっと……」

ニャスパー「ま、あんまり考えても仕方ないって事」

ヤンチャム「そんなもん……なのか？」

ニャスパー「そんなもんよ」

ヤンチャム「そんなもんなのか！　サンキューニャスパー！　行って来る！」

ニャスパー「頑張れ」

ニャスパー（さぁて、どう出るのかな……）

ヤンチャム（い、いた……）

シキジカ「でさ、ホント、面白いの！　あのスリーパー！」

ヌメラ「いいなー。僕も会いたかったよ……」

シキジカ「さすらいの旅芸人って凄いよね。大陸を股にかけて、みんなを楽しませてるんだから」

ヌメラ「これからこっちに来るとか言ってなかった？」

シキジカ「残念ながら……。うーん、ヌメラたちにも見せてあげたかったなぁ……」

ヤンチャム（何の話してんだろ……。にしても、ヌメラ邪魔だ！」

ヌメラ「あっ、僕もうそろそろ帰らなきゃ！　また明日！」

シキジカ「バイバーイ！」

ヤンチャム（よしっ！　まずは声かけるとこから……）

ヤンチャム（あ、あれ？　口が、上手く動かない……）

シキジカ「あっ、ヤンチャムどうしたの？　そんなとこで。そろそろ帰らないと、もう夕方だよ」

ヤンチャム「あ、いやその……お、俺と……付き合ってください！」

シキジカ「……」


シキジカ「…………」


シキジカ「………………え？」

ヤンチャム「あ、いやその……ずっと好きだった」

シキジカ「あの……さ。なんで、なんで急に？」

ヤンチャム「いやあのさ……ふっと思ったんだよ。先月の入学式事件でも、あいつらが世界を救った事件でも、1歩間違えてたら、もう2度と会えなくなってたんだなって」

ヤンチャム「そう思ったら、なんか急に、伝えたくなって……」

シキジカ「……ごめん、今すぐ返事は、出来ない。ちょっと考えさせて」

ヤンチャム「ああ。待つよ、いつまでも」

シキジカ「ありがとう……」

シキジカ（……どうしてこうなるのよ……）

シキジカ「ちょっとごめん！　少し、少し考えて来る！」

ヤンチャム「あ、おいシキジカちゃんっ！」

ヤンチャム「……行っちゃった」

ニャスパー（えっと……なんでこうなっちゃったの？）

シキジカ「ニャスパーにはもうバレてるんだろうけどさ」

ニャスパー（バレてるって言うか、始めから知ってるって言うか……）

シキジカ「私、どうすればいいの？　断ったりしたら、ヤンチャムが傷付いちゃうよね？　でも……」

ニャスパー「ストップ！　それ以上は言わないであげて」

シキジカ「え、なんで？」

ニャスパー「ほらそこ。ヤンチャムが来る」

シキジカ「え……」

ニャスパー「シキジカ隠れて。私、ヤンチャムの相談にも乗らなきゃだから」

シキジカ「う、うん……」

ヤンチャム「ニャスパー」

ニャスパー「お帰り、どうだった？」

ニャスパー（まぁ、聞くだけ無駄なんだけど……）

ヤンチャム「わかんない。返事は待ってだってさ」

ニャスパー「そ。じゃあ、後はお祈りするしかないね」

ヤンチャム「だな。あ、あの……その……」

ニャスパー「どういたしまして」

ヤンチャム「なっ」

ニャスパー「ありがとうって言いたいのはわかるよ。だけど、辛いってのも。もしかしたら、ダメかもしれない。怖いよね」

ヤンチャム「……」

ニャスパー「その気持ち、ほんっとにわかる。だけど、他人の心までは変えられないの」

ニャスパー「だから、伝えたら、後は祈るだけ」

ヤンチャム「ああそうだな。ニャスパー」

ヤンチャム「ありがとう！」

ニャスパー「お礼なんていいよ。私はほとんど何もしてないし」

ニャスパー（……行っちゃった）

シキジカ「なるほど。つまり、手伝ってたんだ」

ニャスパー「アドバイスしただけ。私は別に、シキジカにどうのこうの言うつもりはないよ」

ニャスパー「恋愛対象として好きになれないのなら、そうやって言うべき。ヤンチャムにも言ったけど、無理に心を惹いても、結局は元に戻る物よ」

シキジカ「……」


ニャスパー「……好きなんでしょ、ヌメラの事」

シキジカ「……うん」

ニャスパー「先月の入学式事件の時以来だよね」

シキジカ「……うん」

ニャスパー「カバルドンからみんなを庇って……その時に」

シキジカ「知ってるんなら……」

シキジカ「知ってるんなら、なんで止めてくれないのっ！」

ニャスパー「……」

シキジカ「私、わかんないよ。どうすればいいの？　ヤンチャムも大事。だけど、私……」

ニャスパー「……」

シキジカ「ニャスパーはいいよね！　ナエトルと付き合えて！　好きな人に好きになってもらえて！」

ニャスパー「……違う。ナエトルは、違う。ナエトルがホントに好きなのは、私じゃない」

シキジカ「なんでそんな事言うの！」

ニャスパー「私……他人の心が読めるのよ？」

ニャスパー「ナエトル本人は、今はまだ気付いてない。だけど……私には、私にはわかっちゃう。ナエトルの心は、私に向いてない」

シキジカ「……」

ニャスパー「だから、無理して付き合っても、どっちみち破綻する。それなら、自分の想いをちゃんと伝えて欲しい」

ニャスパー「ヤンチャムだけじゃなく、シキジカにも」

シキジカ「……つまり、私に断れ、と」

ニャスパー「それが本心なら。今まで通り友達でいてくれるのは間違いない。それは、私が保証出来る」

シキジカ「……ありがとう」

ニャスパー「どういたしまして」

ニャスパー「……ダメだった、か」

ニャスパー（告白したからって、気持ちが変わるなんて事、ないんだ）

ニャスパー（心は、やっぱり、そう簡単には移ろわない）

ニャスパー「……」

ニャスパー「……」

ニャスパー（こうやって、ポケモンは大人になって行くのかな……）

TO BE CONTINUED……