【ポケダン超SS】七夕に

7月6日

七夕前日

デンリュウ「それではみなさん、今日も頑張って行きましょう！」

おー！！！


ピカチュウ「……ってあれ？　またジラーチ寝てるの？」

デンリュウ「ああ、そう言えばこの時期ですか」

クチート「七夕、だな」

ピカチュウ「七夕？　あの笹の葉に短冊をかけて願いを叶えてもらおうってあれ？」

デンリュウ「はい」

ピカチュウ「それがなんでジラーチに関係あるの？」

デンリュウ「実は……」

デンリュウ「ジラーチの特殊能力については知っていますか？」

ナエトル「あー、第3の目が開かれる時、誰かの願いを叶えるって言いますね」

ピカチュウ「へー……へえっ？！　何それそんなのあったの？！」

クチート「その通りだ。そして、だいたい毎年、この七夕の時期は自分でも第三の目の制御が出来なくなるようで、常時開きっぱなしなんだ」

デンリュウ「それで、その時期が終わるまでジラーチを3階の部屋に隔離するんです」

ピカチュウ「え？　なんで？」

クチート「願いを叶えられるだなんて聞いたらポケモンが殺到するだろう。前は酷かった」

デンリュウ「それで、実はワイワイタウンでは、毎年この時期に、大運動会を開くんです。

　　　　　　　そして、その競技で優勝したポケモン3匹が、願いを叶えられるんです」

クチート「まあ、ある程度の願いの制限はあるけどね。何でもOKにしてたら、それこそ意味がない」

ピカチュウ「ほえー」

ナエトル「……まあ、避けられない事態なら、いっそ注目を集めて統制を取る、かぁ。確かに理には適ってる」

デンリュウ「ってな訳で、今、私とデデンネで、宣伝ポスターを作っているんですよ」

ピカチュウ「はいはーい！　質問！」

デンリュウ「なんでしょう」

ピカチュウ「願いは叶えてもらわなくてもいいけど、その運動会には出たいんだけど、大丈夫？」

ナエトル「ピカチュウが出るんなら、自分も出ます」

デンリュウ「ええ、構いませんよ」

ピカチュウ「やったぁ！　頑張ろうね、ナエトル――」

デンリュウ「ですが、2匹は別のチームでお願いしますよ。ドーピングのし過ぎで、強さのつり合いが取れませんし」

ピカチュウ「えっ？！」

ナエトル「……って言うか、チーム戦？」

デンリュウ「チーム戦のもありますね」

ナエトル「なるほど、わかりました。で、肝心のその大会は……やっぱり、七夕当日、ですよね」

クチート「その通りだ。明日だな」

デンリュウ「という訳で、今日は普通に仕事頑張ってくださいね」

ピカチュウ「だって！　頑張ろうね、ナエトル！」

ナエトル「うん」

――――

――

――

――――

ナエトル「ふう。終わった終わった」

ピカチュウ「お腹空いたー」

ブイゼル「お疲れさん。明日は運動会だな」

ホルビー「ブイゼル、ナエトルたちは知らないよそれ」

ナエトル「いや、今朝ダンチョーから聞きましたよ。まあ、僕たちは休みにならないけど……」

ピカチュウ「私たち、明日運動会に出るの！」

アーケン「へえ！　なるほど。ナエトル、大変だな」

ナエトル「まあ、自分はピカチュウが行くとこならどこへでも……ってぐらいの覚悟はありますし」

デデンネ「ひゅーひゅー！」

ピカチュウ「ちょ、ナエトル？」

ナエトル「……恋愛ではないよ、念のため」

ピカチュウ「あっ、そっか……だよね……」

クチート「……そうなのか？」

ナエトル「たぶん」

デンリュウ「まあ、いいじゃないですか。とりあえず……」


「「いただきまぁす！」」


ぱくぱく　ぱくぱく
ぱくぱく　ぱくぱく

支援

ピカチュウ「明日は運動会だから今日は勉強しなくていいよねデデンネ！　お休みっ！　高速移動！」

デデンネ「あっ、こら待ちなさ……はぁ」


ピカチュウ「なんか久しぶりな気がする。こんな風に明日が楽しみなのって」

ナエトル「まー、最近単純作業気味だもんね。トレジャーシリーズも制覇しちゃって、やる事がほとんどないって言うか」

ピカチュウ「ふあっ、でも眠いや。お休み、明日は頑張ろうね」

ナエトル「お休みー」

7月7日
七夕当日

ピカチュウ「おはよ、ナエトル。起きて」

ナエトル「う、ううん……？」

ピカチュウ「ほら、運動会だよ！」

ナエトル「ああ、うん。わかった……」

ピカチュウ「行こ！」

――

デンリュウ「えー、それではみなさん。今日は1日頑張りましょう！」

みんな「おー！！」

ピカチュウ「ところで、みんな出るの？」

ペロッパフ「いえ、基本的には私たちはみんな裏方なんです。今日はたっくさん作らないとダメですからね、頑張らないと」

ブイゼル「司会は俺だな。ダンチョーとクチートはジラーチに付いてなきゃで、アーケンが実況、ホルビーが解説やってる」

デデンネ「私と、カフェのガルーラさんがペロッパフの料理を手伝う、と」

ピカチュウ「へぇー。本格的！　さっすがワイワイタウン！　おだやか村の運動会はこんな凄くなかったよ、ナエトル」

ナエトル（そんな事言われてもわからないけど……）

ピカチュウ「こりゃあやる気も出るってもんよ！」

デンリュウ「願いを叶える権利に関しては、個人競技限定のポイント制である程度決まりますが、これは願いを叶えなくてもいいナエトルたちには説明しなくてもいいでしょう」

デンリュウ「それでは、みなさん持ち場に付いてください！」

ピカチュウ「うわぁ、凄いな……」

ナエトル「ほんと。盛り上がってるねぇ……」


ワルビアル「ぜってぇ願いを叶えてやるぞ」

ワルビル「頑張ってくださいアニキ！　ところで、アニキの願いってなんすか？」

ワルビアル「ばっ、言える訳ねぇだろんな事！」


コジョフー「コロボーシの願い事って何？」

コロボーシ「え？　世界に音楽が響き渡りますように、かな。コジョフーは？」

コジョフー「うーん、私は……平和な世界、かな」


ナエトル「いろんな願いがあるんだね」

ピカチュウ「だね。ん？　何だろ……」

ナエトル「どうしたの？」

ピカチュウ「いや、あっちに」

ピカチュウ「あのー、すいません。選手入場口はあっちですよ」

？？？「え、あ、ああ。すみません」

ナエトル「ああ、なるほど……」

？？？「2人はワイワイタウンの……」

ピカチュウ「はい！　調査団です！」

？？？「へえ、凄い！　こんな子どもの頃から！」

スリーパー「私は、旅芸人のスリーパー。よろしくお願いしますね」

ピカチュウ「よろしくね！」

ナエトル「見かけない顔だったね」

ピカチュウ「うん。でもまあ、一大イベントだし、願いを叶えて欲しいポケモンはいっぱいいるだろうし、別にワイワイタウン以外のポケモンが来てもおかしくはないか」

ナエトル「うん。悪い願いだったらダンチョーたちが止めるだろうし、そこは安心してもいいと思うよ」

ピカチュウ「だね」

ナエトル「さて、そろそろ行こう。始まっちゃうよ」

ブイゼル『さて、始まりました、ワイワイ運動会……』

ピカチュウ「あっ、ヤバい！　高速移動！」

ピカチュウ「はあっ、はあっ、間に合った……」

ブイゼル「司会は私、ブイゼル。そして……」

アーケン「実況のアーケンと」

ホルビー「解説のホルビーでお送りします！」

ピカチュウ「ぷっ」

ナエトル「ぷっかつのタネじゃあるまいし……」

ピカチュウ「いや、なんか面白い……ぷっ」

ナエトル「ほら、集中して」

ブイゼル「まずは玉入れ！　紅白で分かれてください！」

ピカチュウ「あっ……そっか」

ナエトル「言ってたじゃん。同じチームじゃダメだって。自分は白で、ピカチュウは赤。これは決まってたんだし」

ピカチュウ「だね、仕方ない。負けないよ！」

アーケン「それで、この勝負、どちらが勝つと見ていますか？　ホルビーさん」

ホルビー「今年は新たな、そして注目参加者が3匹もいますね。ナエトル、ピカチュウ、そしてワルビアル……。この3匹の実力がいかほどなのかにかかっていると言えるでしょう」

アーケン「なるほど……」

ブイゼル「分かれましたね！　それでは開始します！」

ブイゼル「終了！　みなさん、これ以上投げたら失格になりますよ！」

アーケン「いやー、熱い勝負でした。それで、ホルビーさん、どちらが勝ちだと思いますか？」

ホルビー「これは赤の方が多そうに見えますが……勝負は最後までわかりませんよ」

アーケン「なるほど！」

ブイゼル「では、数えて行きましょう！　デスカーンさん、カクレオンさん。よろしくお願いしますね」

ブイゼル「それでは行きますよ！　1！　2！　……」


ナエトル「うーん、負けちゃったか」

コジョフー「残念だったね」

ナエトル「まあ、次がありますよ」


ピカチュウ「やった！　大勝利！」

コロボーシ「やったね、ピカチュウ！」

ピカチュウ「うん！」

ブイゼル「次は綱引きです！　選手の皆さんは所定の位置に就いてください！」


ワルビアル「次は絶対負けらんねぇからな！　心して挑むぞ！」

みんな「おーっ！」

ナエトル（やる気に満ち溢れてるな……）

コジョフー「あいつ、意外に熱い奴なんだね。なんか見直しちゃった」

ワルビアル（じゃないとミルタンクに……）

ナエトル「ま、楽しみましょう」

コジョフー「だね」

スリーパー「……」

ナエトル（ん？　さっきのスリーパーか……。なんでだろ、なんか引っかかる）

ナエトル（目、かな。なんか精気がないと言うか……）

ナエトル（まあ、運動嫌いなのに願いだけ叶えたいってクチなのかな……）

ブイゼル「よーい、始めっ！」

アーケン「始まったぁーー！　さて、ホルビーさん。どちらが勝つと思われますか？」

ホルビー「そうですね……。これは、白チームが有利なんじゃないでしょうか」

ホルビー「やはり街の力自慢、ワルビアルを擁していると言うのは大きいですよ」

アーケン「なるほど。さて、この予想通り白が優勢か……いや、赤も負けてない！」

「オーエス！　オーエス！」

ホルビー「いや、だけど確実に……」

アーケン「白だ！　白強いっ！」

ブイゼル「終了！　縄を下ろしてください！　ただいまの勝負、白の、勝ち！」


ワルビアル「よっしゃ！」

ナエトル（まあ、やっぱり勝つと嬉しいかな）

――――

――

――――

ブイゼル「ここでしばらくの休憩タイムです！　選手の皆さん、水分補給は忘れずに。この時期は熱いので、熱中症になりますよ」


ピカチュウ「ふぅー、疲れた。負けちゃったな」

ナエトル「おーい、ピカチュウ」

ピカチュウ「あっ、ナエトル。どうしたの？」

ナエトル「こっから先も頑張ろうね、とだけ。楽しい？」

ピカチュウ「うん！　……おだやか村を抜け出してから、こういう行事、もう出来ないと思ってたからさ」

ナエトル「なら良かった」

？？？「あ、さっきの」

ピカチュウ「ん？　ああ、さっきのスリーパー」

スリーパー「さっきはありがとうございました。お陰で間に合いましたので、こうしてお礼に」

ピカチュウ「いいのいいの！　だけど、負けないよ！」

スリーパー「ハハ。ところで、少し私の芸でも見ませんか？　かなり自信があるんですよ。あ、さっきおだやか村って言ってましたけど、あそこのシキジカさんにも――」

ピカチュウ「シキジカを知ってるの？！」

スリーパー「はい。5月のゴールデンウィークに。凄く楽しんで頂けました」

ピカチュウ「そっかぁ。なんか運命感じちゃうなぁ……」

スリーパー「で、見ます？」

ピカチュウ「見る見る！　いいよね、ナエトル」

ナエトル「うーん、自分はいいや。カフェに入って涼んでるよ」

ピカチュウ「えー、もったいない」

ナエトル「だって暑いじゃん。頭の葉っぱが萎れそう」

ピカチュウ「ナエトルの葉っぱが萎えとる。わかった？　今ダジャレ言ったの――」

ナエトル「わかったわかった。スリーパーさん、後で見せてもらっても……」

スリーパー「全く構わないよ」

ピカチュウ「ホントごめんなさい。ナエトル、ちょっと冷静が過ぎるんじゃないの、全く……」

スリーパー「いえいえ。無理に見せても楽しんでもらえなければ意味ないですし」

ピカチュウ「まあ、それもそっか！　じゃ、私だけで全力で楽しもっと！」

スリーパー「はい。では、まずは――」

――――

――

――――

ナエトル「くああ……」

ナエトル（しかしまあ、見事なまでに休憩所って感じ）

ナエトル（外の熱気もここには届かないし）

ブイゼル「さあ、そろそろ休憩も終わりますよ！　選手の皆さん、いよいよ決まります！　願いを叶えるのが誰なのか……」

ブイゼル「ワイワイマラソン！　運動会の午前の成績順に並んでください！」

ナエトル「へぇ、そう言う風に影響するのか……」

アーケン「空から中継したい！」

ホルビー「飛べずのアーケンさんが渾身の叫びを決めましたね」

ナエトル（ま、自分には関係ない話だけどね。願いは叶えない訳だし）

ブイゼル「ルートは、この広場からスタートして、映画館の前を通り、街の入口から――」

ブイゼル「と言うような道を辿り、広場に戻って来て、調査団前でデデンネのチェックを受ければOKです！」

ナエトル「あ、いたいた。ピカチュウ」

ピカチュウ「……ん？　何ナエトル」

ナエトル「どうだった、スリーパーの芸は」

ピカチュウ「え、ああ、凄かったよ。ナエトルも見ればよかったのに」

ナエトル「まあ、後から見せてもらえるし」

ナエトル「で、スリーパーさんはどこ行ったの？」

ピカチュウ「さあ……」

ピカチュウ「にしても、ナエトルそんな前なんだ。私結構後ろだからなぁ」

ナエトル「大丈夫でしょ、ピカチュウの足なら。でも、高速移動は使っちゃダメだからね」

ピカチュウ「わかってるって。じゃ、行くね」

ブイゼル「それでは始めます！　よーい……！」

ナエトル（な、み、水鉄砲？）

アーケン「さて始まりましたワイワイマラソンジラーチ杯！　願いを叶える権利を賭けて、街の住民たちが走ります！」

アーケン「おっと、ナエトル選手、スタート合図の把握に遅れ出遅れたか？！」

ホルビー「水鉄砲が開始の合図だなんて、ビックリするでしょうからね」

ナエトル「うわっと……」

ナエトル（凄い勢い……大地の力で蹴散らせないからモンスターハウスよりきついかも……）

ピカチュウ「あっ、ナエトル、頑張れ……」

ナエトル「あ、うん」

しえンネ

ナエトル（完全に出遅れたな……仕方ない。まあ、自分のペースで行こう）

ナエトル（と言ってもインドメタシン大量摂取のお陰で、だいぶ早く走れるんだけど……）

ホルビー「ナエトルが走り出しましたね。そのペースが速い。さすがにドーピングしてるだけありますね」

ホルビー「永続ドーピング、やはり強いですね」

アーケン「ここで視点を移すと……おっと！　ワルビアルが速いぞ！　ピカチュウのバックについて爆走する！」

ホルビー「スリップストリームですね」

ワルビアル（なんだ……こいつの走り、鬼気迫る物がある。まるで、1位にならないといけないとでも言うように）

ワルビアル（願いは3匹まで叶うっつーのに、全力超えてやがる……）

ワルビアル「ぐっ、さすがにきちぃ……」

ピカチュウ「お先」

アーケン「おっと！　ここでピカチュウがワルビアルを引き剥がす！」

ホルビー「こちらも永続ドーピングですね。正直ぶっ壊れです」

ワルビアル（いや違う。これは……ドーピングだけじゃねぇ。こいつ、あんな全力の走りしねぇってぜってぇ）

ワルビアル「だって……マ、マラソンだぜ……」

ワルビアル「いくらなんでも……気合い、いれ過ぎ……」

ナエトル「にっしても、ピカチュウ全然いないな」

ナエトル（それと、さっきのスリーパーもいない）

アーケン「おっと！　ワルビアル、疲労か？！　足が止まっているぞ！」

ホルビー「オーバーワークは命取りですからね。ピカチュウにくっつくのは失策でしたか」

ホルビー「にしても、ピカチュウ速いですね。体力はもつのでしょうか」

ナエトル（……たぶん、もたない。ピカチュウは、そこまで体力がある方じゃない。どちらかと言うと、短距離瞬発タイプだ）

ナエトル「……ピカチュウ、どうかしたのかな」

ワルビアル「ぜぇ……クソッ」

ワルビアル（どんどん抜かれちまう……。これじゃ……負ける！　願いが……）

ワルビル「アニキぃ―！　ファイトですぜぇー！」

ワルビアル（ああ……。わかってる。バトルだと……）

ワルビアル「負ける訳にはいかねぇんだよ！」

アーケン「おっと！　ここでワルビアルが息を吹き返した！」

ホルビー「願い事が絡むと真剣になりますね」

ナエトル（うーん、なんか醜い一面みたいでなんかやだな……。理には適ってるんだけどさ）

ナエトル（……って言うか、願い事がかかると本気になる、ねぇ）

ナエトル（ピカチュウが本気を出す意味って……願いは叶えないはずなのに）

ナエトル「……」

ナエトル「……急ごう。ピカチュウに追い付けるのは、自分だけだ」

ピカチュウ（勝たないと……）

ピカチュウ（……よくわかんないけど、凄いマズイ気がする。私が優勝しないと）

ピカチュウ（でも、どうして？　楽しめればいい、そのはずなのに……）

ピカチュウ「はあっ……はあっ……」

ピカチュウ「うっ、く、苦しい……」

ピカチュウ（ダメ。走らないと……）

ワルビアル「はあっ……はあっ……」

ワルビアル（行ける。ペースもいいし）

ワルビアル（何より……毎朝の牛乳運びで鍛えた脚力舐めんなよ）

ワルビアル「うおおおおおおおおお！」

アーケン「おっと！　ワルビアル、熾烈な追い上げを見せる！」

ワルビアル「へへっ……」

ワルビアル（今、俺は注目されてる。なんつーか、こういうのも、満更じゃねぇな）

ワルビアル（よっしゃ行くぞ！）

ナエトル（今の所、トップ争いはピカチュウがぶっちぎり、ワルビアルがかなり候補みたいな感じだね……）

ナエトル（走りながら情報収集してみたけど、やっぱりおかしい）

ナエトル「ピカチュウ、明らかにオーバーワークだよ」

ナエトル（それと、スリーパーを誰もマラソン中に見かけてない）

ナエトル「……どう言う事だ、これ」

ナエトル「……とりあえず、前の方に来てはみたけど……」

ナエトル（ピカチュウ、どこまで行ったんだろ）

ピカチュウ（訳わかんない。私、どうかしてる）

ピカチュウ（もう、止まりたい。疲れた）

ピカチュウ（なのに、足が止まってくれない）

ピカチュウ（もう無理。死にそう……）

ピカチュウ（……半分は行ったよね……）

アーケン「おっと、ピカチュウ、顔が死んでいるぞ」

ホルビー「相当無理してる様子ですね……心配です」

ナエトル（やっぱり、ピカチュウは無理してる）

ナエトル「あっ、ワルビアル」

ワルビアル「おお、ナエトルか……」

ナエトル「ピカチュウとスリーパー見なかった？」

ワルビアル「ピカチュウは遥か前。スリーパーは……見てねぇな」

ナエトル「ありがとう」

ナエトル（嫌な予感がする。ピカチュウ、スリーパーのあの芸の間に……）

ナエトル「急がないと！」

ワルビアル「あっ、おい！」

ピカチュウ（絶対おかしい。足が、まるで私の足じゃないみたい）

ピカチュウ（そう、これ……）

ピカチュウ（操られ状態だよ）

ピカチュウ（体が勝手に動く……そして、私に願い事をさせる気なんだ。私を操ってる……誰かは）

――

ナエトル（十中八九間違いない）

ナエトル（ピカチュウは、スリーパーに操られてる）

ナエトル（スリーパー。芸。そしていつもと様子が違う。苦しみながら走り続けるようなキャラじゃない）

ナエトル（1つ1つは証拠がないけど、つながると、確信しかない）

ナエトル（スリーパーは……誰よりも足が速いピカチュウを操って、願いを叶えさせようとしているんだ）

――

ピカチュウ（……）

ピカチュウ（……もう、考えるのも辛い……）

ナエトル（ピカチュウ、待ってて。絶対に助けるから）

ピカチュウ（誰か……助けて）

ナエトル（走れ、自分！）

ピカチュウ（止まれ、私）

ナエトル（行ける！）

ピカチュウ（助けて……ナエトル……）

ナエトル「はあっ……はあっ……」

ピカチュウ「はあっ……はあっ……」

ナエトル（見えて来た……ピカチュウ！）

ピカチュウ（……来た）

ナエトル「ピカチュウっ！」

ピカチュウ「……な、ナエトル」

ナエトル「止まって！　これ以上走ったら、死んじゃう！」

ピカチュウ「無理なの！　力づくでいいから止めて！」

ナエトル「……っ！」

ナエトル（無理だ、自分には、ピカチュウを攻撃するなんて……）

ナエトル（クソッ！）

アーケン「おっと！　ここで広場に戻って来たのは……ピカチュウとナエトルだっ！」

ホルビー「何やら様子がおかしいようですが……」

ナエトル「誰か、ピカチュウを止めて！　このままじゃ、死ぬ！」

ホルブイアーケン「なっ！」

ホルビー「死ぬって……」

アーケン「気にしてる場合じゃなさそうだ」

ブイゼル「俺が行く、アクアジェット！」

ピカチュウ「うぐっ……」

アーケン「と、止まらないっ！　直撃を食らってなお、ピカチュウは進み続ける！」

ホルビー「実況してる場合じゃないです」

ナエトル（こ、ここまでか……）

？？？「ナエトル、俊足のタネだ！　受け取れっ！」

ナエトル（えっ……）

ルチャブル「諦めたら、そこで試合終了、だぞ！」

ナエトル「ル、ルチャブル……」

ルチャブル「観客席から応援する！　頑張れナエトル！」

観客一同「頑張れ！」

ナエトル「み、みんな……」

ナエトル「……やる。絶対、ピカチュウを止めてみせる！」

ナエトル（調査団までの距離の概算は、もう後何10メートルもない）

ナエトル（でも、今の自分のスピードは、普段の2倍）

ナエトル（勝てる……よね）

ナエトル「うぉぉおおおおおお！」

ピカチュウ（ナエトルっ！）

ナエトル「止まれぇぇぇえええ！」

ピカチュウ「……ナエトルっ！」

ナエトル「うぐっ……」

ピカチュウ「……と、止まった……」

アーケン「ダメです！　非常に混雑していて、実況出来ません！」

ブイゼル「みんな！　そこは邪魔になるからどいてくれ！」

観客「わーわー！」

ブイゼル「こらっ！」

デデンネ「ど、どうしたの、そんな死にそうな顔して……」

ナエトル「デデンネ、オレン、2個……後癒しのタネ……」

デデンネ「う、うんわかった……」

ナエトル「ピカチュウ……君は操られて――」

ピカチュウ「わ、わかって……る……。スリー……パーで……しょ」

ナエトル「うん……」

ナエトル「誰かが……3つ……願いを……叶え……終える……まで、自分は……ここ……動かない……」

ピカチュウ「ナエ……トル……」

デデンネ「持って来たよ！」

ナエトル「ありがとう……ピカチュウ……食べられる……？」

ピカチュウ「……厳……しい……かな……」

デデンネ「な、何がどうしたの……」

ナエトル「詳しい……話……後で……。ピカチュウに……食べさせて……あげ……て」

デデンネ「う、うん……」

ピカチュウ「い、生き返ったぁ……。後、なんかスッキリした。足、止まってるし」

ナエトル「よ、よか……」

ピカチュウ「……な、ナエトル？！　ナエトルっ！　しっかりしてナエトル！」

ナエトル「はあっ……。自分は、死には、しない……」

デデンネ「ナエトル！　ピカチュウ、とりあえず、ナエトルを部屋まで運んで！」

ピカチュウ「うん！」

ワルビアル「邪魔だオラっ！」

ブイゼル「どいてください！　進行の邪魔です！」

ホルビー「いきなり止めないと死ぬじゃ気になるのは確かですけど……みなさん落ち着いて！」

ワルビアル（……かき分けて行くしかねぇか）

ワルビアル（よし）

ピカチュウ「ナエトルしっかりして！」

ピカチュウ「ほら、オレンの実だよ、食べて……」

ナエトル「……」

ピカチュウ「もう……こうなったら！　トレジャーバッグはここにあるから……あった！　プチ復活のタネ！」

ピカチュウ「ナエトル、使って！　死なないで！」

ナエトル「……う、うーん……」

ピカチュウ「ナエトル！」

ナエトル「あっ、ふ、復活のタネか……。ピカチュウ、ありがとう」

ピカチュウ「いいのよ。こっちこそ、ありがとう。私を止めてくれて」

ワルビアル「はあっ……はあっ……、さ、3番乗り……勝った……」

ワルビアル「これで……願いを……」

ミルタンク「お疲れ様。はい、モーモーミル――」

ワルビアル「お、俺を……ミルタンクと付き合えるようにしてください……」

ミルタンク「……えっ？！」

ワルビアル「えっ……ええっ？！」

ミルタンク「ジ、ジラーチはここじゃなくて、3階……ええっ？！」

ワルビアル（しまったぁぁぁぁ！　やらかしたぁぁぁぁ！）

ナエトル（……部屋から出てみたら、とんでもない光景になってる）

ナエトル（スリーパー探さないといけないのに、なんか出辛い……）

ピカチュウ「ねえ、これって……もしかしてエッチな？！」

ナエトル「いや、違うって。言いたいだけでしょそれ」

ピカチュウ「あ、バレた？」

ワルビアル「あ、いやその……」

ミルタンク「なんで、なんでジラーチに願おうと思ったのよ。そう言うのは、直接言ってよ……」

ワルビアル「えっ……」

ミルタンク「とりあえず、外に出て話そう」

ワルビアル「あ、ああ……」

ナエトル「これは……脈ありだね」

ピカチュウ「良かった良かった。あれ？　でもワルビアルの願い事どうすんだろ……」

ナエトル「しないんじゃない？　となると、後から来た3匹が……」

ピカチュウ「あっ、2匹来たよ！」

ナエトル「あっ、本当だ」

ナエトル「だけど、それはどうでもいい。スリーパーを探さないと」

ピカチュウ「あの2匹が願いを叶えたら、最後の1個って訳か……」

ナエトル「一応、念のために……」

ナエトル「すいません、スリーパーって見ました？」

A「いや、見てないけど」

B「だよね」

ナエトル「ありがとうございました」

ナエトル「あの2匹は操られてない。行こう、ピカチュウ」

ピカチュウ「うん！」

ナエトル（どこだ……スリーパー）

ナエトル（絶対に許さない。ピカチュウをこんな目に遭わせるなんて）

ピカチュウ「あっ、スリーパー！」

ナエトル「えっ……。あっ、もう調査団の中に！」

ナエトル（騒ぎに乗じて侵入する作戦なのか……）

ナエトル「ピカチュウ！　願いは3つまで！　最後の願い、消費して来て！」

ピカチュウ「わかった！　高速移動！」

ピカチュウ（行けるっ！　足は痛いけど……でも行く！」



ピカチュウ「届くっ！」



ピカチュウ「届くっっ！！」







ピカチュウ「届くっっっ！！！」

ナエトル「ピカチュウ、間に合ってくれ……」

ナエトル「はあっ……はあっ……」


クチート「ピカチュウ、どうし――」

ピカチュウ「それどころじゃない！　ナエトルから聞いて！」


ナエトル「あっ、ダンチョー、クチート。ピカチュウとスリーパーは……」

デンリュウ「3階です……何があったんですか？」

ナエトル「話は後で！　行かせてください！」


ピカチュウ「ジラーチ！」

スリーパー「ジラーチ――」

ピカチュウ「お願いっ！　私の願いを叶えて！」

ピカチュウ「私の願いは――」

――――――

――――

――

――――

――――――

ナエトル「どう……なった……？」

ピカチュウ「ナエトル！」

ピカチュウ「ナエトル、勝ったよ！」

スリーパー「そんな……ここまでして……私は……」

ナエトル「……スリーパー、どうしてこんな事したんだ」

ナエトル「ピカチュウをあんなになるまで走らせて、お前の願いは一体なんだっ！」

スリーパー「はは……ははハハハハ！」

ピカチュウ「えっ、ス、スリーパー大丈夫？！　……どーしよ、倒れちゃった」

ナエトル「スリーパー！　どうしたんだ？！」

ジラーチ「あの、いくら僕が天才だと言っても、さすがに状況が良く分からなさ過ぎるんだけど」

ピカチュウ「私、スリーパーに操られてたの。願いを叶えるために、この街でたぶん一番足が速い私に」

ピカチュウ「でも、ナエトルがそれを解除してくれたから、そしたらスリーパーが自分で……」

クチート「なるほど、そういう事か……」

デンリュウ「余りにも勢いよく飛び込む物でしたので、もはや何も出来ませんでしたよ、やれやれ」

ピカチュウ「ダンチョー！　クチート！」

ジラーチ「このスリーパーが入るのを止められなかったの？」

デンリュウ「いえ、実は私たち、顔なじみな物で」

ナエトル「ええっ？！」

ピカチュウ「そ、そうなの？！」

デンリュウ「スリーパー一族に対する偏見をなくしたい、って願いを込めて、毎年走ってますから」

デンリュウ「草の大陸のトレジャータウンにも、最近夢に関するスリープの店が出来たらしいですし、気にしなくてもいいんですけどね」

ナエトル「……でも、じゃあなんで今日に限って？」

デンリュウ「さあ。全くわかりませんが……いつもと様子が違う。もしかすると、彼も操られていたのかもしれませんね」

ナエトル「そんな事……証拠は」

デンリュウ「ないです。と言うか、何かを推理するには情報が足りません。ナエトルもわかってはいると思いますが」

ナエトル（……その通り。情報がない）

デンリュウ「突然倒れたってのも、操られるのに体が耐え切れなくなったから、とか、ジラーチの第3の目が閉じて、スリーパーがもう用済みになったから、とかいろいろと辻褄は合います」

デンリュウ「でも、想像でしかないですね。それはわかってます」

ピカチュウ「でも、仮にダンチョーが言う通りだとして、どうすれば」

デンリュウ「それはピカチュウ、自分が一番わかってるんじゃないですか？　操られ状態を解除するには――」

ピカチュウ「あっ、そっか、癒しのタネ！　よし、私取って来る！」

ナエトル「……だけど、でも、だとしたら――」

デンリュウ「いや、やめましょう、想像の話は。操られていて、自分で自分の行動を制御出来ないってのが最悪の事態ですから」

デンリュウ「自分の意志での行動なら、説得出来る。だから、操られている可能性を排除したい、ってだけです」

ピカチュウ「お待たせ！　持って来たよ！」

デンリュウ「ありがとうございます」

クチート「少し気になる事があるんだけど……スリーパー、倒れる前に笑ってたよね」

ナエトル「はい。何かもう、壊れた、みたいな感じ」

クチート「……操られていないとするならば、今、願いを叶えたいよっぽど切実な理由があったんだろう」

クチート「それが何かはわからないけどね」

ナエトル「とりあえず、起きるの待ちですね」

スリーパー「う、うーん……」

スリーパー「こ、ここは……」

ジラーチ「調査団の3階、天文台だよ」

スリーパー「そうか……。私は、何て事を……」

ナエトル「……なんで、なんでピカチュウを操ったりしたんですか」

スリーパー「……」

ピカチュウ「私は責めないよ。なんか事情があるんだよね。話してよ」

スリーパー「……そう言われても、私は、自分で納得出来ません」

スリーパー「本来なら操る側の自分が、操られて、よりにもよってこんな最低な事をっ！」

スリーパー「……取り乱してしまいました。言い訳にしかならないでしょうが、全てお話します」

スリーパー「そもそも私は、旅芸人を名乗ってはいますが、芸自体はそれほど上手くないのを自覚しています」

スリーパー「けれど、誰かに幸せを届けたい。そう思っていました」

スリーパー「自分に出来る事を……と探した結果、かけられたポケモンが幸せだと感じられる催眠術を開発したんです」

スリーパー「それを、芸の中に仕込み、少しでも幸せを感じてもらえたら……ずっと、そう思って来ました」

ナエトル「……催眠術を悪用しようとはしなかったんですね」

スリーパー「はい。一族の一部が、そういう事をし続けて来たために、私たちはずっと迫害されて来ました」

スリーパー「自分が、そんな奴らと同じところに身を落とす……これが、何よりも辛いのです」

ピカチュウ「そっか……」

スリーパー「そう言う、種族だけで偏見を受けているポケモン、意外にいるんですよ」

スリーパー「ゴミゴミとか言って罵られるダストダスとか、その最たる例ですよね」

ピカチュウ「酷い……。別にダストダス、そんなに汚くないのに……」

スリーパー「はい。だから偏見なんです。でも、そう言うのが、現実にある。だから私は、それを変えたい。そう思って、今まで走って来ました」

スリーパー「……それを、悪用されたのです」

スリーパー「あの日、私は、いつものように、芸を見せていました」

スリーパー「もちろん、催眠術と言う名のイカサマ混じり、ではありますが」

スリーパー「その日も、大成功を収めた――と思ったんです。しかし」

？？？『催眠術を使っているな』

スリーパー「……言葉も出ませんでした。驚いて立ち竦んでいると、彼は、こう語り掛けて来たんです」

？？？『どうしてそんな事をする？』

スリーパー「私は、誰かの幸せのため。そして、こうする事で、少しでも偏見を減らせればいい。そう、答えました」

スリーパー「偏見、と聞かれたので、さっきもしたような説明をして、そして、ジラーチさんの能力の事を話したんです」

ジラーチ「ははぁ、そいつに利用されたんだ。脅されるか、それとも本当に操られてか――たぶん、後者だよね。脅されたとしても、願いの内容からして、それなら自分だけが悪人のそしりを受ければ済むんだし、そのまま自分の事を晒してた……そんな気がするよ」

スリーパー「はい。そいつは、それを聞くと、ニヤリと笑ったんです。そして、私に暗示をかけた」

スリーパー「そうと気付かない内に、です」

スリーパー「催眠に気付いたのは、今日、ピカチュウさんに芸を見せた時」

スリーパー「いつもとやってる芸が、少し違うような気がしたんです」

スリーパー「修正しようとしても、どうにもならなかった。体が、勝手に動いたんです」

ピカチュウ「あー、わかる。今日、意識はしっかりしてるのに、足だけが止まらなかったもん」

スリーパー「申し訳ない。そして、そこから先は、知っての通り、です」

ナエトル「なるほど、事情はわかった。そいつらこｒ」

ピカチュウ「ちょっとナエトル落ち着いて！」

ナエトル「だってさ！　スリーパーの心に付け込んで、ピカチュウまで苦しめたんだよ？！　絶対許せない！」

ピカチュウ「だから許す心が大事だって言ってるでしょ？！」

ナエトル「……だけど。なんか、やっとわかった気がする。ダークマターは、蘇る。誰の心の中にも等しく存在しているんだ、悪意は」

ナエトル「それはもちろん、自分の中にも」

ナエトル「……だからこそ、それを自分の物と認めて、それと上手く折り合いを付けて行かないといけない」

ナエトル「……ごめん、落ち着いた。でもさ、ダークマターを受け入れるって事は、全てを許す事とはまた違う気がするんだよね」

デンリュウ「まあ、その向き合い方はポケモンそれぞれでしょう。そんなに簡単に結論が出る物ではないです」

デンリュウ「とにかく、2匹はもう地図は完成させています。もし2匹が望むのであれば……」

デンリュウ「その犯人を捜す。その仕事を命じますが」

ナエトル「……お願いします」

デンリュウ「わかりました！　では、2匹とも、これからよろしくお願いしますね」

ナエトル「はい」

ピカチュウ「はいっ！」

ナエトル（そのポケモンの種族はカラマネロらしい。まあ、スリーパーを超える催眠の名手って時点で察しは付くけど）

ナエトル（とにかく、絶対にカラマネロには罪を償ってもらう）

ナエトル（例えその怒りがダークマターを産み出す物だとしても、それは、自分の一部だ。受け入れるより仕方ない）

ピカチュウ「頑張ろうね、ナエトル」

ナエトル「うん」

TO　BE　CONTINUED……

おまけ

ワルビル「アニキ、なんかマヌケな顔してますぜ」

ワルビアル「う、うるせいやい！」

ワルビアル（……と、とにかく）

ワルビアル「さて、バイト生活も終わりだ！　俺たち、正社員として認められたからな！　気合い入れろよワルビル！」

ワルビル「はいっ！」

当SSはこれにて完結です
お読み下さり、ありがとうございました

乙