ミミッキュ「どうして……っ！」

私は、ヨウさんと共に怖そうな森の中へ踏み込みました。

しかし、私は、その中で迷ってしまったのです。

これは、そんな私の元にやって来た、悲しみの物語。

リーリエ「ヨウさん！　どこにいるのですか？！」


どうしましょう。

私は、ポケモンを戦わせるのが苦手です。

バトルをすると、どうしてもポケモンさんが傷付いてしまうのですから、私にはそんな事出来ませんでした。

しかし、そうも言ってはいられない事態が起こってしまいました。

ヨウさんとはぐれてしまったのです。

見渡せば、日差しの届かない程にうっそうと茂った森。

草むらからは、いつどんなポケモンさんが飛び出して来るのかわかりません。

つまり、ここは危険と隣り合わせ。


リーリエ「どうしたらいいのでしょう……」

事の発端は、ククイ博士に頼まれた事。


ククイ「ヨウ君！　リーリエちゃん！　君たちには、ある森に行ってポケモンの生態系を調査して欲しいんだ」

ヨウ「えー、それならハウもいるじゃないですか」

リーリエ「いえ、私はヨウさんがいいです」

ヨウ「え？」

ククイ「決まりだね！　ヨウ君、リーリエちゃんはバトルをしないから、君がしっかりするんだよ！」

ヨウ「……はーい」


そうして私たちは、この森に調査に来た……のですが。

？？？「がぁぁぁああああ！」

ヨウ「うわっ、なんだ？！　ロトム、こいつは？」

ロトム「こいつはキテルグマだロ！　物凄い怪力の持ち主で、抱き着かれたらアバラの1本や2本は簡単に消し飛んじゃうロ！」

リーリエ「だけどこのキテルグマ、物凄く気が立って……」

ロトム「速く逃げた方がいいロ！　こいつは、縄張りを侵されて、許さないって言ってるロ！」

ヨウ「はあっ？！　リーリエ、逃げよう！」

リーリエ「はい！」


しかし、私たちは、その逃げる最中に、お互いの事を見失ってしまったのです。

どうすればいいのでしょう、と私は改めてため息を吐きました。

ヨウさんもロトムもいない今、私にはこのかばんしかありません。

かばんの中にある物と言われても、この状況で何かの役に立つとは到底思えませんでした。

イワンコが走り抜けていきます。

こんな森の中で、それでもたくましく生きていました。

私とは大違いです。

とにかく、私は、まずヨウさんを見付けないといけません。

しかし、あてもない状態で歩き回るのは、激しく危険な事でもあります。

どうすればいいのか、私の葛藤が始まりました。

こんな絶体絶命な展開の中で、脳内戦争が幕を開けてしまったのです。

考え込むと1人の世界に浸り込んでしまうのは私の悪い癖でした。

探し回るのが正解か、この場所で待機するのが正解か。

これを考えるべく、私はその場所で、立ったままその動きを完全に止めていました。

そんな私が我に返ったのは、足元を何かが通り過ぎて行った時でした。

何か、布のような物が足をこすり、その感触に私は目を下に向けました。

何かが足元を通り過ぎて行っています。

これは……。


リーリエ「ピカチュウ……？」


いや、違います。ピカチュウのような見た目をしてはいますが、よれよれで、布製です。

これは、ぬいぐるみ？

いや、それも違います。だって、動いているのです。

ヨウさん曰く、ホウエンにはジュペッタと言う、ぬいぐるみに憑りついたゴーストタイプのポケモンさんがいるらしいのですが、これはそんな感じでもありません。

私はしゃがみ込み、観察をしようと試みました。

しかしそれは、一声奇声を発すると、飛ぶように逃げて行きました。

追いかけて行こうか、とも思ったのですが、あいにく今の私は、不用意な行動なんて出来ません。

私は泣く泣く諦め、その場所にぼんやりと座り込みました。

その時でした。

？？？「ミミッ……」


幻聴？　一瞬、そんな疑いが脳裏を過りました。

しかし、幻聴と言うには、あまりにポケモンさんの鳴き声っぽ過ぎます。

では、もしかして。

とさっきのあれが進んで行った方向に、足を向けました。


？？？「ミミッ……」


やっぱりです。さっきのあれが、声をあげていました。

つまり、恐らく、さっきのあれは、実はポケモンさんだったのでしょう。

私は、観察を始めました。

支援
地の文が神ってる

一見ただのくたびれたピカチュウのぬいぐるみ。

しかし、その下の方には、よく見ると、目のような黒い点が付いています。

もしかすると、このピカチュウのぬいぐるみはただの着ぐるみで、下の方に本体が入っているのでしょうか。

私は、好奇心にかられ、その着ぐるみに手を伸ばし、触れてみました。

世の中には触ると毒を撒き散らす、そんな危険なポケモンさんもいます。

しかし、このポケモンさんに関しては、そんな事ないように思えました。

肌触りは、少し湿気を含み、あまりいいとは言えませんでした。

そして、そこに害意はありませんでした。

リーリエ「どうしたのですか？」

？？？「ミミッ……」

？？？『こんなとこで何してるの……』


一瞬、我が耳を疑いました。

このポケモンは、テレパシーで自分の言葉を伝えられるとでも言うのでしょうか。


？？？『何……してるんだ？』

リーリエ「私は、この森のポケモンさんの事をもっと良く知りたくて、いろいろと調べています」

？？？『そう……なんだ。僕の事、知りたい？』

リーリエ「……え？」


いきなりテレパシーで話し掛けて来て、唐突にそんな事を持ち掛けて来る、彼の意図がさっぱりわかりませんでした。

けれど、私は、基本的に好奇心の徒ですから、内側から溢れる衝動に勝つ事なんて不可能でした。


リーリエ「是非、お願いします」

？？？『それじゃ、まずは僕の名前から……。僕はミミッキュって言うんだ』

リーリエ「ニンゲンのリーリエです」

ミミッキュ『よろしく……』

リーリエ「よろしくお願いします。それで、まずはどうして、そんな着ぐる――」

ミミッキュ『ストップ！　それは……ちゃんと最後に話すから、待ってて欲しいんだ』

リーリエ「そうですか。それでは、お任せします」

ミミッキュ『ありがとう……』


そう、私に伝えて来たミミッキュは、私の目を見据えて、言葉を、紡ぎ始めました。

僕は、大昔、ニンゲンと一緒に暮らしていたんだ。

その時は、物凄く楽しかったんだ。

そのニンゲンはとても優しくて、僕も、穏やかな日差しの下、満ち足りた暮らしをしていたんだ。

そんな日も、突然に終わりを告げるんだ。

僕が、病気になったんだ。

日に日に弱って行く僕。

ニンゲンは、必死で看病してくれた。

だけど、僕は、もう寿命だったんだ。

だから、死んじゃったんだ。

そのニンゲンは、泣いてくれたんだ。

だけど、僕は、辛かったんだ。

そのニンゲンが、ずっと泣いている事が、辛かったんだ。

だから、僕は、また彼の前に行ったんだ。

だけど彼は、僕の事を遠ざけたんだ。

怖い、怖いと泣き叫んで。

アドバイスですが、句読点は、あまり、多用しない方が、いいと思われます。

僕は、裏切られたんだ。

そして、彼は、ピカチュウのぬいぐるみを抱きしめていたんだ。

僕を失った悲しみを、癒そうとしていたんだ。

だけど、僕その物は、もういなかったんだ。

彼の心の中に、いなかったんだ。

僕は、それを恨んだんだ。

そして、こういう風に、今も着ぐるみを被っているんだ。

リーリエ「……そんな事が」

ミミッキュ『だけど……いつの間にか、着ぐるみを被ってないと、怖くなって来たんだ』

ミミッキュ『日光が痛いんだ。だけじゃなくて、着ぐるみを被ってないと、誰も、僕を僕だって認めてくれないんだ。それが辛いんだ』

リーリエ「そんな……」

ミミッキュ『……話を聞いてくれて、ありがとう』

リーリエ「……だけど、悲し過ぎます。そんな、誰からも愛されずに……」

ミミッキュ『いいんだ……。僕は、それで満足なんだ。今もこうして生きている。それだけで、満足なんだ……』

リーリエ「違うでしょう！　あなたは、本当は叫んでいる！　ありのままの僕を受け入れてと、叫んでいる！」


そう、思わず叫んでしまいました。

ミミッキュの話は、私には悲し過ぎたのです。

ミミッキュ『でも……』

リーリエ「あなたのその着ぐるみの中。それを知らないと、私は、本当にあなたを知った事にはならない！」

ミミッキュ『……それでも、僕は、見せたくないんだ。こんな』

ミミッキュ『こんな、醜い僕を』

リーリエ「例え醜かろうと、それを受け入れる。それこそが、知ると言う事です」

リーリエ「私は、それから目を背けたりなんかしません」

リーリエ「……だから、お願いします。見せてください、あなたの中を」


理不尽なお願いであると言う事は、重々理解しています。

知りたい。この願望は、私のワガママです。

けれど、私なら、彼の孤独を癒せるのではないか。

そんな、少し傲慢な感情が、私の中を渦巻いていました。

ミミッキュ『……でも、君も、どうせ言うんだ。怖い、恐ろしい、気持ち悪いって、絶対に言うんだ』


私は、何も言い返せません。

彼の言葉は、泣いていました。

安直にその発言を否定する事なんて、私には出来ません。


リーリエ「……お願いします」


私に出来たのは、ただただ、頼む事でした。


ミミッキュ『……』

リーリエ「……」

ミミッキュ『……僕の事、嫌いにならない？』

リーリエ「わかりません。だけど、受け止める覚悟はあります」

ミミッキュ『……ここで嫌わないって言わないヒト、始めてだ。みんな、嫌わないって言って、それでも、僕の事を遠ざけたんだ』

リーリエ「ご胸中、お察しします」

ミミッキュ『……リーリエさん。覚悟、してください』

リーリエ「はい」


彼は、着ぐるみをめくりました。

その中からは、ドロドロに溶けて、原型を留めていない何かがありました。

それは見るもおぞましく、ヘドロよりも醜い物でした。

この世に再び生を受けた代償と言うのは、これ程までに重いと言うのでしょうか。


ミミッキュ『……嫌いに、なった？』

リーリエ「……」

ミミッキュ『まあ、そうだとは思ってたんだ。君も、そうだとは思ってたんだ……』

リーリエ「……」

ミミッキュ『……ほら、逃げるんだ。君も、逃げるんだ』

リーリエ「……」

ミミッキュ『……』


私は、何も言いません。

確かに、恐ろしいとは思いました。

が、それとこれとは、一切の関係がありません。

見た目が醜いから、なんだと言うのでしょう。

有名な寓話に、醜いコアルヒーの子、と言うのがありますが、そのコアルヒーも、最後はスワンナに進化しました。

美しさは、何かを決める基準足りえます。

しかし、醜さは、そうではありません。

本当の美しさは心の美しさ、とまで言い切る事は、私には出来ません。

見た目の美醜に囚われてしまうのは、避けがたい事です。

だけど。

ミミッキュ『どうして……っ！』

ミミッキュ『どうして、逃げないんだ？！』

ミミッキュ『どうして、いなくならないんだ？！』


リーリエ「確かにあなたは、恐ろしい。だけど……」

リーリエ「それだけで、あなたの事を嫌いになったりなんて、しません」

その言葉に、着ぐるみの下から覗く目には、涙が溢れて行きました。

どうやら、私の答えは、彼のお眼鏡に適ったようです。

私は、そっと、ミミッキュを抱き寄せました。

ミミッキュからも、優しい気持ちが伝わって来ます。

いつまでそうしていたでしょうか。

ヨウさんの声が聞こえました。

ヨウ「おーい！　リーリエ！　どこだー！」

リーリエ「あっ、ヨウさん！　ごめんなさい、ミミッキュ。彼は、私の連れなんです。心配掛けてるから、もう行かないと」

ミミッキュ『行っちゃうんだ……』

リーリエ「うん。でも、貴重なお話、ありがとうございました」

ミミッキュ『こちらこそ、ありがとうなんだ』

リーリエ「いえいえ。もしまたここに来る事があれば、その時はよろしくお願いしますね」

ミミッキュ「ミミッ」


彼は、最後にテレパシーに頼らず、自分の言葉で話しました。

その言葉は私には伝わりませんでしたが、言ってる事の意味は充分に伝わってきました。

やめろヨウ

リーリエ「ヨウさん！」

ヨウ「あっ、リーリエ！　良かった無事で……」

リーリエ「はい。少し、いろんな体験をしてました」

ヨウ「いろんな体験？」

リーリエ「はい」

私……




新しい友達が出来ました。

ミミッキュ「どうして……っ！」　完

乙！
いい話でした！

ほー　　　　　　　　　　　ん　乙

当SSはこれにて完結です
お読み下さりありがとうございました

>>13
アドバイスありがとうございました

リーリエも脱げ！ちんちんビキビキだ！

乙
神SSだった

まんこ！まんこ！まんこ！