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SS

【SS】深緑の戦争

 ▼ 1 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 18:30:29 ID:pkKUhS2s [1/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シンオウ地方某所にある、とある小綺麗なビルにて。
真っ黒なスーツを着用した、いかにも都会派な男達が、暗い部屋の中で会議をしていた。


スーツ1『……この議題についてはここら辺で終わらせて、次の議題に移りましょう。ハクタイの森の開発についてです。資料の9ページの19行目を見てください』

スーツ2『ほう……開発するのはハクタイの森に決まったのか』ペラッ

スーツ3『ええと、確かテンガン山を切り開く計画も有りましたよね』

スーツ1『あー、テンガン山の方は地元自治体の反対にあってしまい、計画倒れになってしまいました、申し訳ありません』

スーツ3『そっか……残念だねぇ』

スーツ4『それで、次点の候補だったハクタイの森、と……』
 ▼ 29 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:07:21 ID:pkKUhS2s [2/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
   ブイイイイイイイイン

   バタッ ドサアッ


次々と倒されてゆく木々。無下にされる大好きな故郷。アゲハントは、人間一人にも勝てない己の無力さを恨んだ。
恨みに恨んだ。そして、彼は決意した。


アゲハント「……俺は、あいつらを殺してくる!!」

ドンカラス「!!」

ラッタ「馬鹿止めろ!! 死ぬぞ!?」

アゲハント「うるせえ!! 黙っていられるか!!」

ラッタ「でも!!」

アゲハント「何も出来ずに生きてるよりか、死んだほうが、マシだあっ!!」


引き留めるラッタに対してそう捨てぜりふを吐き、アゲハントは多くのケムッソ等を引き連れて、工事現場の人間達へと近づいた。
 ▼ 30 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:08:08 ID:pkKUhS2s [3/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
アゲハント「行くぞ、あいつらをぶっ殺せ!!」ダッ


そう言って、わらわらと茂みから飛び出す、アゲハント率いる大群。ケムッソ達はその場でどくばりを乱射し、体当たりをかまして労働者達を攻め立てた。


労働者1『ひいっ!!』

労働者4『不味いよ、誰か!!』


そして、アゲハント自身の最初のターゲットは、大きなオレンジ色の機械……ロードローラーに乗り込んだ男。横から飛び込んで喉仏を貫く算段だ。
阿鼻叫喚の地獄絵図を突っ切って彼は飛ぶ。
人間まで、あと3m、2m、1m……段々と距離が狭まり、これならあの男を殺しうると、アゲハントが確信したその時だった。
 ▼ 31 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:08:36 ID:pkKUhS2s [4/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
   ザシュッ

アゲハント「がはっ!!」ヨロッ


刹那、彼の身体を爪が一直線に貫いたのだ。彼はあっという間に失速し、姿勢を崩して地に落ちた。
彼の隣にノシノシと歩いてきたのは、あのクリムガンだ。


クリムガン「……惜しかったな。ポケモンは、獲物を刈るときに、最も無防備になるんだよ」

アゲハント「がっ……かはっ……」

クリムガン「……闇に抱かれて、眠れ」

クリムガン の ばかぢから!!

アゲハント「……っ!!」

   グシャッ
 ▼ 32 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:08:58 ID:pkKUhS2s [5/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
彼は捻り潰された、殺された。周囲に体液と脚が飛び散り、大地を濡らす。
周囲のケムッソ達も、ライフルで次々と撃たれていった。為す術も無く死んでゆく者達。


ラッタ「畜生!! ……ドンカラス、ケムッソ達の回収を頼む!!」

ドンカラス「分かった!!」


ラッタはドンカラスを回収に向かわせ、その場を抜け出した。
ドンカラスは弾丸の雨をすり抜けてケムッソを素早く拾い集めた。


ドンカラス「……人間め、……くそっ……」


思わず口をついて出た、彼の恨みに捌け口は無い。
 ▼ 33 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:11:15 ID:pkKUhS2s [6/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


暫くして、ドンカラスが戦場から舞い戻った。背に乗せていた重病のポケモン達を一旦下ろし、ラッタと向かい合った。
ラッタは、この森の飛びうるポケモンを引き連れていた。


ラッタ「ドンカラス、お前に頼みがある。……今、この森の飛べるポケモンをかき集めた。怪我してるポケモン達を乗せられるだけ乗せて、ここから南東にあるヨスガシティへと向かってくれ。お前なら場所分かるだろ」

ドンカラス「そうか……つまり……撤退、か」

ラッタ「ああ。俺達ポケモンは、人間にはもう勝てない」


ラッタの背後に並ぶ、浮いているポケモンやひこうタイプのポケモン達。ドンカラスはざっと彼らを見回し、そして己の背後で息を切らすポケモン達を見回した。
深く息を吸い、吐き出す。
 ▼ 34 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:11:36 ID:pkKUhS2s [7/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ドンカラス「そうだな……俺達の負けだ。完敗だ。……で、どうしてヨスガシティなんだ? もっと近くの場所が有るだろう?」

ラッタ「ドンカラス。……俺達ポケモンは、人間には勝てない。だが……人間対人間なら、話は別だ。俺達は負けたが、……まだ破れ去ってはいないんだ」

ドンカラス「……そうか!!」


眼を驚いたようにカッと見開くドンカラス。横ではもう既にいくらかの怪我したポケモンが、ひこうタイプのポケモンに背負われていた。
 ▼ 35 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:12:03 ID:pkKUhS2s [8/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ラッタ「この板をお前に託す。さっき書いてきた、人間の文字だ。内容は、『ハクタイの森が開発されて俺達は傷ついている。助けてくれ』だ。これを持って、ヨスガのポケモン大好きクラブへ向かってくれ。そうすれば、きっと……」

ドンカラス「分かった。必ず届けよう。だが……お前達は?」

ラッタ「何、俺達は踏ん張るさ。もう、誰一人も犠牲になんてするもんか。ここのポケモンは俺達が守る」

ドンカラス「おう、分かった……死ぬなよ? お前の知識は、まだまだ必要だからな」

ラッタ「分かっているさ……じゃあ」

ドンカラス「おう、行くぞ!!」バサバサッ


闇夜に烏が飛び立った。空に舞い上がった大群はすぐに漆黒の塊となり、真っ黒な空にすうっと溶けていった。
 ▼ 36 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:12:24 ID:pkKUhS2s [9/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ラッタ「ロゼリア……俺はもうひとっ走りして、この辺りの住民に避難を呼び掛ける。バリケードの貼り方……前に教えたよな?」

ロゼリア「ええ、あのバリケードでしょう? 任せて下さい」

ラッタ「そいつは頼もしいな……じゃあ、俺は行く」タッ


その言葉を残し、彼は一気に駆け出した。
ロゼリアはそれを見送って、仲間と共に"鉄筋コンクリート"とかいう物を参考とした、丈夫なバリケードを作り始めた。
 ▼ 37 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:12:48 ID:pkKUhS2s [10/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ホタルは、闇夜を飛んでいくポケモン達を見つめていた。
その目にはもう力は全く無く、それこそ死んだ魚の様だとでも例えられていただろう。
モクセイは、そんな彼に向かってこう言った。


モクセイ『……お前の正義は、間違ってない』

ホタル『……?』

モクセイ『お前が言っている事は正しいさ。でも、この世界は正しい奴を受け入れようとはしない。正しい奴は、やっていけないんだ』

ホタル『……それは正しく無い奴の言い訳だ』

モクセイ『……いや、そんな事は無いさ……正しい奴は、あっという間に壊れちまう』
 ▼ 38 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:13:23 ID:pkKUhS2s [11/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
続くモクセイの話に、ホタルは耳を塞いだ。どうせ自分が何を言っても意味は無い……彼はそう考えた。
モクセイはそんなホタルを見てもなお、話続けた。


モクセイ『俺はな、元々別の新入りを教育してたんだ。手持ちがアーケンの、可愛らしい男の子だったさ。だが……そいつも、正しく在ろうとしている奴だった』

ホタル『……』

モクセイ『彼は、この世界の真実を知った。己が何かを知った。そして、壊れた。……ある日の朝、彼は消えていたよ。……そして、お前もそうなっちまうんじゃねえかって、お前も壊れるんじゃねえかって、俺は思ってる』

ホタル『……』

モクセイ『お前は正しいよ。正しいさ……でも、変わって、欲しいんだ……』


彼の呟きは誰にも聞かれず、静かに空へと消えていった。
 ▼ 39 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:16:03 ID:pkKUhS2s [12/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


その日の深夜、ドンカラス率いるポケモン軍団はヨスガシティに無事到着した。
大好きクラブで呑み交わしていた偽善者共が、ドンカラスの持っていた木の板に書き込まれた歪な字を解読する。


呑兵衛1『ん……? ハクタイの森……?』

呑兵衛2『ああ、あのハクタイの森ぃ?』

呑兵衛3『へえ、開発かぁぁ……』

ドンカラス「……」


彼らはこの呑兵衛達にクラブ内へと連れ込まれ、一応の安全を手に入れた。そして同時に、シンオウの大好きクラブ団員が、ハクタイの森へと派遣されることになった。
これにて、ドンカラスの、彼の戦争は終わりを告げた。


ドンカラス「頑張れよ、ラッタ……」


闇夜に傾く歪んだ月は、彼に漠然とした不安を残すのみだった。
 ▼ 40 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:16:30 ID:pkKUhS2s [13/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


ロゼリア「皆さん、こちらですよ!!」

ラッタ「こっち側に行けばまだ安全だからな!!」


その日の早朝。ラッタとロゼリアは、森のポケモン達を率いて大移動していた。
人間の開発するエリアにポケモンがいると、相手の気分によって殺されかねない。ならば、全員纏めて一くくりにしようというのが、彼らの考えだった。


ラッタ「よし、全員来たな……」

ロゼリア「そうですね。 ……バリケード作りますか」

ラッタ「そうだな」


全員をまだ安全そうな場所へと避難させ、その場を駆け出そうとする二匹。その背中を呼び止めるポケモンが存在した。
 ▼ 41 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:16:52 ID:pkKUhS2s [14/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ライチュウ「待って!!」

ラッタ「どうしたライカ……ここに入れば安全だから」

ライチュウ「ねえ、貴方はどうなっちゃうの? まさか死ぬ気じゃ無いよね!?」ガシッ

ピチュー「……おとーさん……」


ラッタを掴んで、前後にブンブンと揺らすライチュウ。目には涙が浮かんでいた。大切な夫を喪うかもしれないという不安は、今日この日まで彼女を苛んでいたのだった。
ラッタは彼女の手を掴む。
 ▼ 42 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:17:16 ID:pkKUhS2s [15/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ラッタ「……俺は死ぬ気は毛頭無い。お前らと笑って帰る為、俺は戦うんだ。 そうだ、今度三匹で何処かに行こうか!! 何処が良い?」

ピチュー「えーと……分かんないや」

ライチュウ「そうね……また、後で決めましょう」

ラッタ「ははっ、そうか……じゃあ、また後でな」タッ


そう言って手をゆっくり放したラッタは、方向を転換し、反対側に駆け出した。
 ▼ 43 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:17:40 ID:pkKUhS2s [16/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


労働者1『ちっ、予定より整地が遅れてるよ……』

労働者2『設備の修理も早くしなきゃなぁ……』


人間の、労働者の仕事は、かなり遅れていた。数日前の野性ポケモン達の襲撃が、未だに糸を引いていたのだ。
均した地面はポケモン達にボコボコにされ、高級な装置は修理が必要となった。まだまだ完全な復旧には時間が必要だと思われた。
そこに、さらに爆弾が投下される。
 ▼ 44 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:18:05 ID:pkKUhS2s [17/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
   タッタッタッ  ザッ

団員1『森の開発を、止めろ〜!!』

団員2『ポケモンを、守れ〜!!』


ポケモン大好きクラブの、工事反対デモである。


労働者1『……は?』

労働者2『おいおい、こっちは仕事なんだ。邪魔するなよ』

団員3『だったらそんな仕事辞めちまえ!!』

労働者1『んだと? それは俺らに死ねって言ってんのか? あ?』


直ぐ様彼らは罵り合いだした。正反対の思想を持つ者達が衝突し、火花を散らす。
怒号が飛び交い、視線が入り交じる。木々が切り倒され、平らに均された大地で、静かで喧しい戦いがスタートした。
そして、それをどこか冷めた目で見るポケモンがいた。
 ▼ 45 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:19:15 ID:pkKUhS2s [18/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ラッタ「現在状況は睨み合いに罵り合い……か」

ロゼリア「上手いこと殺し合いでもしてほしかったですが……」

ラッタ「まあ、そうは、行かないようだな……」


バリケードの覗き穴から、労働者と大好きクラブを見つめる二匹。視線の先では、未だに睨み合いが続いている。


ラッタ「……このままだと、すぐ作業は進むだろうな」

ロゼリア「……ですね……」

ラッタ「何とか、煽動する方法は……」


ラッタは考えを巡らせた。人間を食い止めて、撤退させる方法は何か。ここに暮らすポケモンを守る方法は何か。
彼は頭を必死に回した。正面では、未だに膠着状態が続いていた。


ラッタ「……一つ思い当たった」

ロゼリア「……何です?」

ラッタ「……今夜は遅くなるって、妻と娘に言っといてくれ」


ラッタはそう言い、その場を後にした。
 ▼ 46 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:19:47 ID:pkKUhS2s [19/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


労働者3『おい、何とかしてくれよ!!』

モクセイ『んな事言われてもなぁ……』ポリポリ


その頃、モクセイは頭を抱えていた。大好きクラブの乱入が原因だ。……昨日あのポケモン達を撃ち落としておけばと後悔が残る。


ホタル『……どうします?』

モクセイ『どうしろってな……まさか人に銃ぶっぱなす訳にはいかねえし』


そんな会話をしている二人の横に、一人の女子が現れた。フラエッテを傍らに置き、此方を睨む、今にも攻撃してきそうな女子だ。


モクセイ『……あんた、大好きクラブかい?』

ユウリ『ええ、そうよ? ユウリって言うの』

モクセイ『へぇ』

ユウリ『……貴方、人間は撃てないって言っていたわね。どうして、ポケモンは撃てるの?』ギロッ

モクセイ『……』
 ▼ 47 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:20:12 ID:pkKUhS2s [20/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
彼女の問いに答えられないモクセイ。ホタルは、視線に対して本能的に縮こまっている。
彼女、ユウリは尚も問い続けた。


ユウリ『ねぇどうして? 可哀想だとは思わないの? 畜生に与える情は無いって?』

モクセイ『あんたがどう解釈しようと構わんが、取りあえずここから出てくれよ』

クリムガン「グオッ」

ユウリ『あら、追い出したいなら、殺せば良いじゃない?』

フラエッテ「ふら?」


二人は長い間睨み合い続け、ホタルはずっと震えていた。
 ▼ 48 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:20:34 ID:pkKUhS2s [21/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


その日の夜。ハクタイの森の外れにある古い洋館にて。
ラッタは、腐りかけた床板を軋ませながら、この寂れた森の洋館の奥へと進んでいた。前方でもぞもぞとガスが蠢いている。恐らくゴースだろう。


ゴース1「あいつ何者だよ……」ボソボソ

ゴース2「知るかよ、どうする? 迎え撃つ?」ヒソヒソ

ゴース3「無理無理、あれは無理だ。ゲンガーさんに言う?」コソコソ

ラッタ「あー……ちょっと良いか?」


突然の来客に戸惑うゴース達。ラッタは取りあえず声をかけた。
 ▼ 49 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:32:15 ID:pkKUhS2s [22/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ゴース3「んなこと言われましても……」

ゴース1「不審者ですし……」

ゴース2「ねぇ……」

ラッタ「……俺は森の方で議員やってる、ラッタってもんだ。今回はお宅のゲンガーの力を貸していただきたく思ってな」

ゴース2「ええ……」


渋るゴース達を見つめるラッタ。もしかしたら次の瞬間には襲い掛かってくるかもしれない。そうすれば、無事では済まないだろう……これは賭けだった。分の悪い賭け。


ゴース1「あー、ゲンガーさん呼んでくるわ」

ゴース3「あ、俺もいく!! 頼むぞ2」

ゴース2「ええ……」


二匹のゴースが、更に奥の方へ飛んでいった。ラッタの前で静止する一匹。
 ▼ 50 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:32:44 ID:pkKUhS2s [23/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ラッタ「……楽にしなよ」

ゴース2「んな無茶な」

ラッタ「はぁ……なあ、ここがもし、人間に取り壊されるとしたら、お前らはどうする?」

ゴース2「え、人間がここ壊しに来たんですか?」

ラッタ「いやいや、例え話さ……だが、俺らのすんでいた森のエリアは、人間に開発されかけている」

ゴース2「……」


黙り込むゴース。それを見て、ラッタは一つ息を吐いた。


ラッタ「……そうだよな。いきなりこんな事聞いても困るよな……」

ゴース2「……」コクコク

ラッタ「……悪いね、変な事聞いて。で、ここのリーダーはいつ出てくるんだ?」

ゲンガー「……後ろにいるよ」ノソッ

ラッタ「!!」バッ


突如後ろから感じた気配に飛び退くラッタ。その気配の主が、ここ森の洋館のリーダー、ゲンガーだった。
 ▼ 51 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:33:15 ID:pkKUhS2s [24/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ゲンガー「……話は把握しているよ。人間が来てるんだろ?」

ラッタ「ああ……手伝ってもらいたいんだ」

ゲンガー「……何するんだ?」

ラッタ「……ちょっと、ちょちょーっと人間を煽動して殴り合わせるだけの仕事だ」

ゲンガー「ふぅん……ええ……でもな……」

ラッタ「……頼むっ!!」ドゲザッ


渋り続けるゲンガーの前でラッタは伏せた。一種の土下座だ。
慌てて戻すゲンガー。


ゲンガー「はぁ……分かったよ。協力しよう。ちょっと待ってくれ。 ……おーいお前ら、支度しろ!!」

ラッタ「……ありがとうっ!!ありがとうございます!!」

ゲンガー「ははは……」
 ▼ 52 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:34:19 ID:pkKUhS2s [25/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
薄笑いを浮かべるゲンガー。部下達の支度が終わるまで、あまり時間は要さない。
彼は、今のうちに質問しておこうと、ラッタに声をかけた。


ゲンガー「……お前は、逃げないのか?」

ラッタ「?」

ゲンガー「お前だけ、いち早く逃げていれば、それで問題無いだろう? わざわざこんなところまで来なくても、さ」

ラッタ「……いやいや……もう、失いたく無いんだよ。もう、何も……」

ゲンガー「……?」

ラッタ「……俺は嘗て、人間に全てを奪われた。居心地の良かった家、住み良かった故郷、……信じ合える友。全て……奪われた」

ゲンガー「……」

ラッタ「だからさ、もう、新しく得たこの故郷は、愛する者は、絶対に守るんだ。……俺は弱いけど、守るから。その為には、誰にだって頭を下げる。この命だって惜しくはない……そう思ってる」

ゲンガー「……そう思えるだけで、お前は強いさ」


深緑の中にある、暗く静かな森の洋館。彼らの近くにゲンガーの部下達が集合した。
……出撃の時だ。
 ▼ 53 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:34:53 ID:pkKUhS2s [26/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


闇夜に紛れて、紫の群れが行進してゆく。
目指す先には労働者の眠るプレハブ小屋と、大好きクラブの寝袋が並んでいた。
今は冷戦も一時的な休戦中なのか、誰一人とて口も開かず、沈黙が横たわっていた。


ラッタ「あいつらだ。何とかして争いに発展させたいんだが……」

ゲンガー「分かった、やるぞお前ら」

ゲンガー の さいみんじゅつ!!


ゲンガーが催眠術を使用する。一人の大好きクラブ団員がふらふらと起き上がり、工事現場にあったバールを片手に、プレハブ小屋へと歩きだした。
周りのゴーストやゴースも、眠りこける団員を操りだす。
 ▼ 54 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:35:15 ID:pkKUhS2s [27/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
   バリバリィンッ

労働者1『何だあっ!?』

団員1『……』


飛び起きる労働者達に各々の得物を振り回す団員達。
一瞬の戸惑いの後、労働者達も応戦しだした。


労働者1『おらっ!! 倒れろや!!』ガンッ

団員1『……っ、んだと!?』ゴンッ

労働者2『死ね!! このヒッピーめが!!』ドンッ

団員2『はぁ!? お前こそ死ねよ!!』ギンッ

団員3『そうだそうだ!!』

労働者3『黙れ偽善者共!! こっちの苦労も知らないで!!』
 ▼ 55 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:35:39 ID:pkKUhS2s [28/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
……こうなってしまえば、もうゲンガー達が催眠術を使用する必要は無い。たった一つの小さな切っ掛けさえ有れば、人間は勝手に争いだすのだ。
それは人間の特筆すべき特長であり、穏和なポケモン達には全くもって理解の届かない事であった。


ユウリ『全てのポケモンに謝りながら死になさいこの人でなし!!』

モクセイ『うるせぇ、本当はポケモンを憐れむ自分が可愛いだけだろこのアマ!!』

ユウリ『何ですって!?』


怒鳴り合う人々を前にして、唯一正気を保っていたホタルは、震えながらライフルを抱いていた。
こんなことなら、正義なんて夢見なければ良かったと後悔する。
 ▼ 56 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:36:01 ID:pkKUhS2s [29/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ホタル『何で……何で皆……』


虚ろな目で周囲を見渡した彼は、茂みに隠れるゲンガーとラッタを発見した。
きっと奴等が犯人だ。このままではきっと皆殺されてしまう。そう彼は確信し、抱いていたライフルに弾丸を装填した。


   カチャッ

ホタル『もう、訳が分からないよ……。もう、何も分からない……』


そう呟きながら、照準をラッタに合わせる。
ホタルは、彼が悪だなんて全く思ってはいない。ただ単に、人間に危害を加えたから、自分が危ないから、撃つだけだ。
そこには正義なんて無い。あるのは、人間のエゴのみ。


   パアンッ


闇夜を切り裂く、破裂音が響いた。
 ▼ 57 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:36:26 ID:pkKUhS2s [30/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ラッタ「っぐっ!?」

ゲンガー「ラッタ!?」

ラッタ「っかはっ……ちっ、やられた……」

ゲンガー「ラッタ、死ぬな!! お前ら、撤退するぞ!!」


銃声はゲンガー達を退散させ、殴り合う人間達を黙らせた。
ボロボロになった工事現場を前に佇む労働者達、体に負った傷の痛みに今になって気づく団員達。
そしてモクセイは、ふらふらとホタルの隣へ倒れ込んだ。
上る朝日が、彼らの頬を照らした。
 ▼ 58 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:36:50 ID:pkKUhS2s [31/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
スーツ1『……どうしましょうか』

スーツ2『設備が故障、仕事の遅れ、それに加えて大好きクラブの連中と殴り合い……』

スーツ3『もう、これは……』

スーツ1『……』


その日の朝。灰色の、コンクリートの森の中では、スーツの男達が話し合っていた。
内容は、ハクタイの森から手を引く事について。


スーツ1『……もう、この事業は止めにしましょう』

スーツ3『そうだな。わが社は、これを機にこことの提携を断ち切らせて貰おう』

スーツ4『そうだな』

スーツ1『……』


森から遠く離れた、コンクリートの森の中に、それまでの生き方を断ち切り、自然を敵に回した、人間達は生きている。
 ▼ 59 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:37:16 ID:pkKUhS2s [32/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


木漏れ日が降り注ぐハクタイの森の中。
先程まで人間に怯えていたポケモン達は、今はもう解放されていた。
だが、その喜びは続かなかった。人間と争い勝利した、ラッタは倒れていたからだ。


ライチュウ「貴方!! 貴方!!」ユサユサ

ピチュー「おとーさん!?」

ラッタ「」

ロゼリア「……」

ゲンガー「っ……」

ライチュウ「貴方が……貴方が皆を守っても!! 貴方が死んだら……意味が無いじゃない!! 私には、貴方しか居ないのに!!」ユサユサ

ラッタ「」


号哭が森にこだまする。周りのポケモンは彼らを前にすると黙って俯いて、何も言うことは出来なかった。
 ▼ 60 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:37:45 ID:pkKUhS2s [33/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



ラッタ「……ここは?」


ラッタはいつの間にか、青々とした、柔らかい草の上に立っていた。
前方には綺麗な清流がそよそよと流れ、空は蒼く澄み渡っていた。


ラッタ「……天国、か……」


彼は清流の向こうに、どこか懐かしい顔を見たような気がした。
一歩、川の流れへ踏み出す。それを止める者がいた。
 ▼ 61 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:38:10 ID:pkKUhS2s [34/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
   ガシッ

ラッタ「?」

アゲハント「よお」

ラッタ「……アゲハント、お前……」


それは先日殺された、アゲハントだった。
体は少しだけ透けていて、もうこの世のものでは無いことはすぐに理解できた。
目を見開くラッタを前に、アゲハントはさらに話し出す。


アゲハント「この前は済まなかったな、勝手に死んじまって……見てたぞ、お前の、故郷を救う様」

ラッタ「……」

アゲハント「……ありがとう、皆を守ってくれて。……お前は強いよ」

ラッタ「いや……俺は、弱いさ。弱かったから、お前は……」
 ▼ 62 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:38:32 ID:pkKUhS2s [35/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
そらには綿雲が流れ、どこか心地よい音楽が流れている。
弱くて強い戦士二匹は、草の上で風に吹かれていた。


アゲハント「仮にお前が弱いとしても、俺の中では、お前は強いさ。」

ラッタ「……」

アゲハント「……お前は、まだ帰る場所が有るだろう?」


彼は後ろを向き、清流の反対側を示した。
そこはラッタには、白い光が溢れる、暖かい場所に思えた。
 ▼ 63 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:38:56 ID:pkKUhS2s [36/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
アゲハント「さあ、行け!! お前を大切に思う連中が、勝者の帰還を待っている」

ラッタ「……ああ。分かった。じゃあ……行くよ」

アゲハント「そうか、良かった」

ラッタ「……向こうで、俺を知ってるって奴に出会ったら、俺はなんとか生き抜いているって、伝えてくれ」

アゲハント「おう」

ラッタ「……じゃあ」


ラッタは、白い光に飲まれていった。
アゲハントは彼が消えるのを見届けてから、清流の向こうへと、伝言を抱えて飛んでいった。


 ▼ 64 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:39:23 ID:pkKUhS2s [37/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ラッタ「……っ……?」

ライチュウ「!!」

ピチュー「おとーさん!?」

ゲンガー「……生きていたのか!!」

ラッタ「……皆……無事か?」

ロゼリア「ええ。貴方のお陰よ……」

ラッタ「……良かった……本当に良かった」


彼は帰還した。多くの仲間が彼を出迎え、共に勝利を喜んだ。
そして、ラッタは周囲を見回した。
人間によって荒らされた大地からは、新しい緑が芽吹いているようだった。


【SS】深緑の戦争  完
 ▼ 65 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 16/08/27 19:40:41 ID:pkKUhS2s [38/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ささっと終了
まえ書き込んであったリクエストから書きました

関連作
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 ▼ 66 ノクラゲ@ふしぎのプレート 16/08/27 20:08:54 ID:9JH/gA7. NGネーム登録 NGID登録 報告
 ▼ 67 ンリキー@こだいのぎんか 16/08/27 20:50:46 ID:QU9vizcA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 68 CSn9vcIqE6 16/09/07 08:20:52 ID:ZJI0x8DQ NGネーム登録 NGID登録 報告
乙ー!
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