【ポケダン超SS】ハロウィンに

ポケモン調査団　1F　ナエトルとピカチュウの部屋

ナエトル（あいつは、虚無の世界にいる。それは間違いない）

ナエトル（だが、あそこで向こうに移った場合、自力での脱出は、不可能なはずだ。普通のポケモンなら）

ナエトル（それを、躊躇いもなく実行した。しかも、石化した体を残さずに）

ナエトル（……何かが、何かがおかしい。あいつは……もはや、ダークマターそのものだ）

ナエトル（だったら、だったら、自分が。自分にしか倒せない）

ナエトル（そのためには、まず、ピカチュウを捜す！）

ナエトル（まず間違いなく、自分も狙われる。だって、あいつを倒せるのは、自分とピカチュウしかいないんだから）

ナエトル（……自分自身が、囮だ。実行は……いつかはわからない。少しでも、あいつとぶつかれる可能性が、高いタイミングに）

10月30日　ハロウィン　前日

デンリュウ「みなさん、もう1月以上が経ちましたが、依然としてピカチュウの行方はしれません」

デンリュウ「全力をあげて、捜索しましょう！」

ナエトル「待ってください！　……ずっと、ずっと考えてた事があるんです」

デンリュウ「ん？　なんですか？」

ナエトル「明日、行動を起こします」

デデンネ「行動？　どう言う事？」

ナエトル「明日はハロウィン。街中が、みんな、お祭り騒ぎですよね」

ホルビー「まあ、そうなるな。みんな仮装して……」

ナエトル「だから、普段誰かがいるような所にも、誰もいない」

ブイゼル「ああ。……それがどうかしたのか？」

ナエトル「……誰にも迷惑をかけずに戦える」

アーケン「なっ！」

ナエトル「……ずっと、ずっと耐えて来ました。街外れ、1匹だけになれる、その瞬間を待ち望みながら」

アーケン「おま、まさか……」

ナエトル「はい。自分が、囮になります」

クチート「まあ、確かに無闇な危害というのを考えなければ、そのタイミングを狙うのが一番無難かもしれない。

　　　　　　だけど、勝算はあるのか？　向こうは、ピカチュウをポケ質に取っているような物だ」

ナエトル「……すりかえさえ対策すれば、後はなんとでもなります。あれから、ずっと、その対策ばかり、考えていました。

　　　　　　破壊を司る、イベルタル。そして、再生を司る生命の樹の化身、ゼルネアス。この2匹の力を借りて、とられずのラピスをダンジョンの外にも保管できるようにする。

　　　　　　確認したところ、2匹の協力さえあれば可能との事でした」

クチート「なるほど……」

ペロッパフ「だけど……カラマネロが、襲い掛かって来ないかもしれないじゃないですか」

ナエトル「たぶんないよ、その可能性は。間違いなく、自分も狙われる。世界をどうこうするのに、自分は、間違いなく邪魔ものだから」

デンリュウ「確かにそうです。……ナエトル、止めても無駄でしょう。が、リフレクターや光の壁の対策は出来ているのですか？」

ナエトル「壁対策は……行動させなければいいんだから、睡眠のタネをぶち当てます。すりかえが効かずに戸惑ってるところを狙えば、絶対に大丈夫です」

デンリュウ「もし、ピカチュウがいたら……」

ナエトル「……眠ってもらいます。直接操られてるんだ。そう簡単に催眠術が解けるとは思えない」

デンリュウ「そうですか。わかりました。ナエトル、明日は、戦いですね」

ナエトル「はい。街外れ、門の外の辺りを狙ってます。みんな、街の人たちをそっちに近付けないようにお願い」

みんな「わかった」「おうよ！」……

ナエトル（とにかく、基盤は固めた。後は、このふみんリングルに、とられずラピスをはめるだけ）

ナエトル（明日に備えて……と行きたいところだけど、何もしない訳にはいかない）

ナエトル（少し、街の様子でも見ようか、ピカ――）

ナエトル（……いないんだっけ）

ナエトル（……復習でもしよう。カラマネロは、ある程度、向こうに有利な状況を作っておかないと、出て来ないはずだ）

ナエトル（ハロウィンでしか出来ない、そんな特殊な状況。仮装のせいで、誰が誰だかわからない。カラマネロが化けて紛れ込んでも、ピカチュウが帰って来てても、気付かない可能性が高い）

ナエトル（そして、不意を打って自分を狙う。……釣り針として、ハロウィンは、絶好のエサになり得る）

ナエトル（……そして、1匹きりになった所を……ズドン！）

ナエトル（そう上手くは行かせないけどね。だけど、向こうは、こっちの油断を狙って来る）

ナエトル（けど、向こうだって、さすがに完全に忘れるとは思わないだろう。覚えてても、上を取る。そのぐらいのつもりなはず）

ナエトル（自分は、そのさらに上を行く。行かないといけない）

ナエトル（……待っててね、ピカチュウ）

過去作の続きの体を取っているので、前スレのうらる先を読まないと理解できないと思います

http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=397582

合わせてお読みください

支援

支援

10月31日　ハロウィン　当日

ナエトル（……いよいよだ）

ナエトル「ふあぁ……。ふみんリングルは……ある。とられずラピスもある。よし」

ナエトル（やるしかない）


――


デンリュウ「みなさん、頑張りましょう！」

おー！！！


――

ナエトル「うわぁ、賑やかだな……」

アーケン「ナエトルは……去年もいたよな、ハロウィンは」

ナエトル「うん。だけどなんか……去年より、賑やかに見える」

ナエトル（……わかってる。自分の中から抜け落ちた明るさが、そこにあるから）

ナエトル（だから、こんなに胸が苦しいんだ。そんな事ぐらい、わかってる）

ブイゼル「そぉんな暗い顔するなって。な？」

ナエトル「うん」

ホルビー「ほら、笑って笑って！　ピカチュウが帰って来た時にそんな顔じゃ、誰も喜ばないよ！」

ナエトル「うん」

ワルビル「トリックオアトリート！」

ナエトル「ワルビル、ごめん。今はそれどころじゃないんだ。調査団本部まで行って来てよ」

ナエトル（誰もいないけど。眠ってるジラーチ以外）

ワルビル「あ、そうか……。確かにそうだな、ごめん」

ナエトル「大丈夫だよ、じゃあまた」

ガルーラのカフェ

ナエトル「おばちゃん、カゴジュースある？」

ガルーラ「ハロウィンかい？　それならモモンの方が甘いし――」

ナエトル「今日は、カゴの実の気分なんだ」

ガルーラ「……わかったよ。ナエトル、頑張るんだよ。これは、おばちゃんからのおごりさ」

ナエトル「……え？」

ガルーラ「もともとハロウィンってのは、お菓子をタダで配りまくる日になるからね。その分さ」

ナエトル「……ありがとう」

ペロッパフ「ナエトルさん、頑張ってくださいね！」

ナエトル「うん。ペロッパフも、おいしいお菓子でみんなをこのカフェに釘付けにしてあげて」

ペロッパフ「もちろんです！　お菓子♪　お菓子♪」

ナエトル「ハハハ……」

ナエトル「うっ、し、渋い……」

ガルーラ「まぁ、仕方ないよ。カゴ100%なんだから」

ナエトル「わ、わかってはいるんだけど……」

ペロッパフ「どうぞ、チョコレートです。おいしいお菓子で口直しでもどうですか？」

ナエトル「あ、ありがとう……」

ナエトル「ふぅ、生き返った。なんか、普通に食べるより味が濃かった……」

ガルーラ「まあ、渋みエキスを抽出してるようなもんだしね」

ナエトル「だけど、これで出来ました、ゲン担ぎが。ありがとうございます」

ガルーラ「……危険な事はするんじゃないよ」

ナエトル「ちょっと自信はないけど……頑張ります」

ナエトル（うわ、凄いな……預かりボックス前に行くのも一苦労だ）

コジョフー「あっ、ナエトル！　どうかしたの？」

ナエトル「ああ、いや、なんでも」

コジョフー「あ、そっか……ナエトルは、仮装を楽しむって気分じゃないのか」

ナエトル「……そういうコジョフーはどうして仮装してないの？」

コジョフー「調査団のみなさんと一緒に、見回りしてるの。ほら、私、腕っぷし強いから、何かあった時にね」

ナエトル「そう……だったんだ」

ナエトル（去年は、ちっとも気付かなかった）

コジョフー「ナエトル、大丈夫よ。きっと、きっと帰って来るから」

ナエトル「ありがとう」

ナエトル（ただの気休めだ。……だけど、気持ちはありがたいよ）

ナエトル「じゃあ、自分はしないといけない事があるんで」

コジョフー「頑張ってね」

ナエトル「うん」

ナエトル（睡眠のタネは何個も調達した）

ナエトル（……カゴにふみんリングルで、自分は今、たぶん、絶対に眠れない）

ナエトル（……カラマネロにも、負けない）

ナエトル「……行くぞ」

――

――

数十分後
街外れ

ナエトル「…………」

ナエトル「……やっぱり来たね。そりゃ、自分は、誰よりもお前の目的に邪魔だろうけど」

カラマネロ「その通りでございます。察しがいいですね」

ナエトル「……ピカチュウを、返してもらえる？」

カラマネロ「構いませんよ」

ナエトル「お前は――は？」

カラマネロ「だから、返して構いませんよ」

ナエトル「……洗脳されてるピカチュウなんて、ピカチュウじゃないよ。そこの所はわかってる？」

カラマネロ「おっと！　そうでしたか」

ナエトル「……ピカチュウは、いないんだ」

カラマネロ「ええ」

ナエトル「お前の……お前の望みはなんだ」

カラマネロ「世界を……私たちの理想郷へと塗り替える事です」

ナエトル「私……たち？」

カラマネロ「仲間がいるとか、そう言う訳ではありません。ただ、こんな醜い世界で生きるのに疲れ切った同胞がいる――そう思っているだけです」

ナエトル「……ふざけるなっ！　消える事を望んでいるポケモンなんて、いるはずがないだろ！！」

カラマネロ「……そう、思ってるのですね」

ナエトル「はぁ？」

カラマネロ「この世界でも、1日に何十匹のポケモンが、自らの命を放り投げています。

　　　　　　　この世界に、生きにくさを感じているポケモンがいる事は、間違いなく事実。

　　　　　　　そして、あなたも」

ナエトル「自分が、この世界を？」

カラマネロ「あなたは……元の世界が嫌になって、逃れたかった。だから、命の危険も顧みず、古代で、ミュウを助けた。違いますか？」

ナエトル「わからないけど……それがどうした」

カラマネロ「どうせ、この世界だって、元の世界だって、誰にとっても生き辛い場所なのです。それなら、壊してしまって、作り直してしまって、何が問題だというのでしょう」

ナエトル「……それがお前の言い分か？」

カラマネロ「まあ、よく考えてみてくださいよ……」

ナエトル「……お前は、上手く丸め込もうとしてる。だよね？」

カラマネロ「さあ、どうでしょ――」

ナエトル「ピカチュウを、ピカチュウを返せっ！」

――大地の力！！

カラマネロ「光のか――」

ナエトル「葉っぱカッターっ！」

カラマネロ「うぐぅっ！」

ナエトル「かみつく、からのギガドレイン！」

ナエトル（こいつは攻撃技を持っていない。操られさえしなければ、こっちの物だ！）

ナエトル「絶対に、絶対に許さない！」

ナエトル「ピカチュウを、ピカチュウを！」

ナエトル「ギガドレインっ！！」

カラマネロ「防御……する隙もない。さすが、世界を救っただけの事はありますね……うぐっ」

ナエトル「お前の負けだ。話せ。ピカチュウはどこだ」

カラマネロ「素晴らしい……。その愛情に狂った姿」

ナエトル「答えろっ！」

カラマネロ「あなたの中にも、闇は巣食っているのですよ……ごふっ」

ナエトル「御託はいいから！　ピカチュウを返せ！」

カラマネロ「私にとどめを刺してください。そうすれば、彼女は、育った場所に現れます」

ナエトル「……おだやか村」

カラマネロ「ナエトル……とどめを刺すのです。でなければ、彼女は戻りません」

ナエトル「……」

ナエトル（殺す、って事だよね）

ナエトル（恨みは、ある。だけど、そこまでしていいのだろうか）

ナエトル（殺しは、やり過ぎじゃないのか。だけど……）

ナエトル（お前は……お前は……！）

ナエトル「……ギガドレインっ！」

カラマネロ「そう……それで……あなた……の……闇は……」

ナエトル「はあっ……はあっ……」

ナエトル（なんだろう……凄い、疲れた。体力は減ってないのに……何か、自分が自分でないみたいだ――）

ナエトル（心の闇……か）

ナエトル「ピカチュウは、おだやか村にいる」

ナエトル（すぐに行く。待ってて）

ナエトル（……ん、オーブに通知？）

デデンネ「あっ、通じた！」

ナエトル「デデンネ！」

デデンネ「どう？　首尾は」

ナエトル「……街外れに、カラマネロの死体が転がってるはずです」

デデンネ「え？　し、死体？」

ナエトル「……止まりませんでした。ピカチュウを、迎えに行ってきます」

デデンネ「え？　え、ちょっｔ」

ナエトル（ごめん。オーブ越しじゃ、伝えきれない）

ナエトル（……ピカチュウ、君は……君は……！）

数時間後

ナエトル「着いた……おだやか村」

ナエトル「ピカチュウ！　いるんだよね！」

ナエトル「ピカチュウっ！」

ヤンチャム「おっ、ナエトル！　ピカチュウは？」

ナエトル「先にこっちに来てるはず。知らない……みたいだね」

ヤンチャム「へ？」

ナエトル「訳合って、ピカチュウを捜してる。お願い、一緒に捜して！」

ヤンチャム「わ、わかったよ……」

ナエトル（ピカチュウ、本当にいるの……？）

ニャスパー「わかった。育った場所に、現れる、か」

ナエトル「うん。自分はアバゴーラさんの家に行ってみるから、ニャスパーは心当たりを捜して！」

ニャスパー「わかった」

――

ナエトル「ピカチュウ！　お願い、出て来てよ！」

ナエトル（……育った場所に現れる。おだやか村でしかありえないけど……）

ナエトル（そのおだやか村で、一番ピカチュウが育ったと言えるのは……アバゴーラさんの家。だけどいなかった）

ナエトル（学校にも行った。だけど、見付からない）

ナエトル（育った。育った……何が、何が育った？）

ナエトル（ピカチュウは、このおだやか村で、何を育てた？）

ナエトル（夢だ。世界地図を完成させたいという、大きな、大きな夢を）

ナエトル（それが育ったのは……）

ピカチュウ『あの雲みたいに、飛んでいけたらなって』

ナエトル（ピカチュウが夢を育てたのは……）

ナエトル「……大きな木のある丘」

ナエトル「ピカチュウ！　ここだよね！　いるんだよね！」

ナエトル「ピカチュ……ウ？」

ニャスパー「やっと来た、遅いよ！」

ピカチュウ「ナエトル！　よかった、元気で」

ナエトル「な、なんで？　なんで、戦って……」

ニャスパー「たぶん、催眠が、解けてない！　心が、ピカチュウの心が、私にはわからないの！」

ピカチュウ「ナエトル、ずっと、ずっと会いたかった」

ナエトル「自分もだよ。だから、こんな事やめてくれ！」

ピカチュウ「ずっと、ずっとナエトルの事が、好きだった」

ナエトル「自分だってピカチュウの事が――」

ピカチュウ「放電っ！」

ナエトル「ニャスパー危ないっ！」

ニャスパー「きゃっ！　あ、ありがとナエトル……」

ナエトル「ひ、久々に痛いな……」

ピカチュウ「ほら、やっぱり、ニャスパーが大事なんじゃない。私よりも、ニャスパーなんだよ」

ナエトル「それは……」

ニャスパー「それは違う！　ナエトルと私は、もう――」

ピカチュウ「言い訳は聞きたくないっ！　エレキボール！！」

ナエトル「うぐあっ！」

ニャスパー「ナエトルっ！」

ニャスパー（わ、私を庇って……）

ピカチュウ「ほら、また……。ナエトル、どうして？　どうして一緒になってくれないの？」

ナエトル「……返せ、ピカチュウを、返せ、カラマネロ……」

ナエトル「こんなの……こんなのピカチュウじゃないっ！　新緑ギガドレインっ！！」

ナエトル「ピカチュウに憑りついてる悪魔っ！　出て来いっ！」

ピカチュウ「エレキボールっ！　一緒にならないなら、一緒に死ぬっ！」

ナエトル「ピカチュウを返せ、悪魔っ！」

ピカチュウ「私はいつだって、あなたと一緒にいるっ！」

ナエトル「ピカチュウを、ピカチュウを……」

ピカチュウ「ナエトルと、ナエトルと……」

――

ニャスパー（2匹とも、気絶した。全てを出し切り、倒れた）

ニャスパー（ナエトルを巡る三角関係は、ほんの少し、カラマネロの後押しで、世界一同士の戦いを生み出した）

ニャスパー（2匹は、タブンネ先生の病院で、必死の看護を受けている）

ニャスパー（……お願い、早く、気が付いて）

ニャスパー（……目を覚まして、また、一緒に笑ってよ）

ニャスパー「お願いよ……。2匹を、助けてよ……」

TO　BE　CONTINUED……

当SSはこれにて完結です
お読み下さりありがとうございました

7月http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=340105
8月http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=375643

こちらも合わせてお読み下さるとより理解しやすいと思います

乙