【ポケダン超SS】再びクリスマスイブに

12月、クリスマスイブにプレゼントが届けられ、http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=217539

1月は、ニャスパーの過去が明かされる。http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=192377

2月には、ピカチュウがパートナーに思いを告げ、http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=249649

3月は、忘れ物の謎を解き明かす。http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=268783

4月には、子どもたちを捜しに行き、http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=286359

5月には、想いを告げる、その姿に己を重ね、http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=302716

6月は、父への感謝を手紙に乗せた。http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=329143

7月は、願いを乗せて、街中を爆走し、http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=340105

8月は、涙をこらえてニャスパーが別れを告げた。http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=375643

9月には、カラマネロが現れピカチュウを連れ去ってhttp://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=397582

10月は、取り戻すため、力の限り戦った。http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=429582

11月、慟哭の中、ピカチュウの無事を願い、http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=441016





そして、時は巡り、再び12月。クリスマスイブに――

12月24日　クリスマスイブ

ナエトル「……よろしくお願いします、スリーパーさん、ニャスパー」

ニャスパー「うん」

スリーパー「わかってる」


数分前

ナエトル（ピカチュウの、夢の中……こんなに暗くて……）

ナエトル「っっ！」

ナエトル（い、痛い……なんだこれ、この、強すぎる思念は……）

――ナエトル、帰って。あなたとは、いられない。

ナエトル「違うよ、ピカチュウ！　君の事は、ずっと、待ってるから！」

――うるさい……帰って！　帰ってよっ！

ナエトル「うわあっ！」

スリーパー「駄目……でしたか」

ナエトル「……自分だと、駄目みたいです。たぶん、別の誰かが行かないと。自分は、今たぶん、ピカチュウとは、会えない」

ナエトル「ピカチュウは、自分の事で、苦しんでるから」

ナエトル「だから、自分は、受け入れてもらえない」

ナエトル「……ホントに、ホントにクリスマスまでに起きるの？　もう、24日だよ……？」

ピカチュウ「……」

スリーパー「……しっかりしてください。信じましょう。ジラーチの力を」

ナエトル「……」

スリーパー「大丈夫です。私の催眠を解いたんですから、あなたなら、ピカチュウを助け出せます。7月の時みたいに」

ナエトル「……だけど、あの時より、酷いから」

スリーパー「……」

タブンネ「スリーパーさん、調子は――駄目みたいですね」

ナエトル「はじき出されちゃいました。自分だけは、何も出来ないみたいです」

ナエトル「誰か、別の誰かじゃないと」

タブンネ「……そう」

ナエトル「あ、みんな……」

シキジカ「……ダメだったんだ」

ナエトル「うん……」

ヌメラ「終業式も終わったし、今日は、ずっと一緒にいるよ」

ヤンチャム「なぁ、ちょっとどういう状況か教えろよ」

ナエトル「わかった。……」

ナエトル「って状況。誰かが、自分以外の誰かが……」

ニャスパー「ねぇ！　……それ、私にやらせてくれないかな」

ナエトル「えっ、ニャスパー、危な――」

ニャスパー「どうせ誰かがやらなくちゃいけない。それが私であって、いけない理由がある？」

ニャスパー「あなたたちには守ってもらってばっかりだし、たまには、恩返しさせてよ」

ナエトル「……だけど、守ってもらってばっかりなのは、こっちだよ。ニャスパーがいなかったら、自分たちは生命の樹にすら辿り着けなかった」

ニャスパー「……そんな私だよ？　信じてよ。私は、自分で言うのもなんだけど、強いから」

ナエトル「でも、ダークマターが巣食ってる可能性が高いんだ！　危険なのは間違いな――」

ニャスパー「だったら！　だったら、そのスカーフを、私に貸して」

ナエトル「え？」

ニャスパー「生命の樹の力を封じたスカーフなんでしょ？　先月に、万が一に備えて」

ナエトル「うん……あっ」

ニャスパー「私、大丈夫。絶対に、ピカチュウを説得してみせるから」

ナエトル「……」

ナエトル「わかった。ニャスパー、準備してきて。ダークマターの幻影で、ピカチュウの夢の中もダンジョン化してるらしい」

ニャスパー「了解」

ヤンチャム「俺も行く！」

ヌメラ「ぼ、僕も！」

シキジカ「一緒に行こう！」

チョボマキ「俺も！」

ニャスパー「……ごめん。だけど、スカーフは1つしかない。何人も行って、それで石化なんてされたら、誰も喜ばない」

ナエトル「……みんな、待つしかないよ。ニャスパーを」

シキジカ「……そっ……か」

ヤンチャム「ったくよお、肝心な時に、また何も出来ねえのかよ。お前ら3匹ばっかりで、俺たちは、何も手伝えないのかよ……」

ナエトル「それは違う。いてくれて、自分たちの友達でいてくれて、嬉しかった。あの最終決戦の時も、みんなの声、ちゃんと届いたよ」

ナエトル「ホントに。……姿は見えなかったけど、だけど、声は、確かに聞こえた」

ヌメラ「そうだったんだ」

ナエトル「だから……ここにいてあげて。自分は――あの丘で待ってる。自分がいたら、ピカチュウは、苦しいみたいだから」

チョボマキ「……わかった」

ナエトル「……よろしくお願いします、スリーパーさん、ニャスパー」

ニャスパー「うん」

スリーパー「わかってる」

ナエトル「じゃあ、行って来る。ピカチュウに、伝えてね」

――一緒に、サンタさんを調査しよって。いつまでも、一緒に調査しよう、って。

ニャスパー「わかった」

ナエトル「お願いね」

◇

ニャスパー「じゃあ、お願いします」

スリーパー「行きますよ！」

ニャスパー「絶対に助けるから、みんな、安心して」

ニャスパー（ナエトルのスカーフ……。私に、力を貸して。ナエトル、あなたの力を……護る、力を）

ニャスパー「着いた。ここが――悪夢の中」

スリーパー「ピカチュウの思念は、きっとその、ダンジョンの奥にいます。気を付けて」

ニャスパー「了解」

ニャスパー（敵がどれだけ強いのか……。だけど、どれだけ強くても、私は戦わないといけない）

ニャスパー「待ってて、ピカチュウ」

――ニャスパー？

ニャスパー「そうよ。あなたは、奥にいるのよね。今ここで話し掛けて来るのは、全部偽物だと思うから、無駄よ。目の前で、話したいから」

――わかった。待ってるね。

○

ナエトル「……着いた」

ナエトル（懐かしいな。全部、全部ここだった）

ナエトル（夢を語ってくれた、あの日）

ナエトル（友達になってくれた、あの日）

ナエトル（ここを旅立つ前にも、見に行った）

ナエトル（そして、別れる、その瞬間も）

ナエトル（全部、全部ここだった）

ナエトル（……ピカチュウを待つのに、ここ以上にふさわしい場所なんて、絶対ない）

ナエトル（……ピカチュウは、帰って来る）

ナエトル（だけど、油断し過ぎたのかも）

ナエトル（クリスマスには帰って来る。ジラーチの言葉は、たぶんそういう事で、信じていい）

ナエトル（だけど、それに甘えて、何もしなかった）

ナエトル（それが、間違いだったのかもしれない）

ナエトル（傍にいて寄り添うだけ。普通に、食べて、飲んで寝て）

ナエトル（……自分は、なんてバカだったんだろう）

ナエトル（……一緒にいられればいいなんて、それだけでいいなんて）

ナエトル（こんな状態のピカチュウといても、どっちも、嬉しくないはずなのに）

ナエトル（元気でいて欲しいのに、何もしなかった）

ナエトル（……ごめんピカチュウ。そりゃ、怒るよね）

◇

ニャスパー「強い……」

ニャスパー（つながりオーブの力で、レベルはたぶん、もうカンストしてるはずなのに……）

ニャスパー（……ピカチュウの想像力から産み出された幻覚なんだとすると、ピカチュウは、私なんか比べ物にならないぐらいに戦って来たんだろうな）

ニャスパー（そう、わかってた。初めから、敵いっこないって事ぐらい）

ニャスパー（……ナエトルは、もうそろそろ気付いてる。自分の感情に）

ニャスパー（……ピカチュウ、だから、素直になってよ。ナエトルも、やっと、気付いてるよ）

ニャスパー（ってダメダメ！　言葉は、全部、最後まで取っておかなくちゃ）

ニャスパー（ピカチュウを、助けるために。それが出来るのはたぶん、私だけだから）

○

ナエトル（あの雲みたいに、自由に飛んで行きたい、か）

ナエトル（飛べなくっても、自分たちは、世界地図を完成させた）

ナエトル（……自分たちは、いつも一緒だった。だから、だからわからなかったんだ）

ヤンチャム「おーい、ナエトル」

ナエトル「……ヤンチャム」

ヤンチャム「よっと……。なぁ、ナエトル、ちょっといいか？」

ナエトル「何？」

ヤンチャム「お前さ、ホントにニャスパーの事、好きなのか？」

ナエトル（……！）

ナエトル「……友達として、なら断言できる」

ヤンチャム「恋愛感情としては？」

ナエトル「……わからない。わからないから、付き合った。だけど……別れた」

ヤンチャム「……ごめんな。知ってたのに、聞いて」

ナエトル「知ってたの？　ニャスパーから聞いた？」

ヤンチャム「ううん、お前らが、8月に調査団で話してるの、丸々全部、聞いちまった」

ナエトル「……そう、だったんだ」

ヤンチャム「……お前さ、恋愛ってのが、わかんないんだろ」

ナエトル「うん。ヤンチャム、どう言うのか、わかる？」

ヤンチャム「一応わかってるつもり。俺は、シキジカちゃんに恋してた」

ナエトル「……だけど、フラれた」

ヤンチャム「やめろって、そこ突いて来んの！　俺の急所！」

ナエトル「ごめんごめん。……ヤンチャム、それで、話って？」

ヤンチャム「ああ。……ナエトルさ、お前、本気で、好き、なのか？」

ナエトル「それを、自分に聞く？」

ヤンチャム「お前なりの答えを聞きたいんだよ。生半可な気持ちでニャスパーやピカチュウと付き合うから、結局どっちも傷つけたんだろ」

ヤンチャム「お前さ、自分で自分の事ぐらい、決めろよ。今のままじゃ、ただの責任逃れなんだよっ！」

ナエトル「ヤンチャム……、わかった。とにかく、自分なりの答えを、出してみる」

ナエトル「……いっつも一緒にいて、いなくなって、寂しい。帰って来てほしい。一緒にいないと、辛い。

　　　　　　……自分は、ピカチュウの隣で、一緒に、ずっと、一緒に……。

　　　　　　だけど、恋じゃない。一緒にいたい、いないと寂しいって、それだけ。

　　　　　　最高のパートナーで、だけど、恋じゃない」

ヤンチャム「……そうか」

ナエトル「……それとも、こんな気持ちが、恋なのかな」

ヤンチャム「……さぁな。だけど、お前がそう思うんなら、それでいいんじゃね？」

ナエトル「……ありがとう、ヤンチャム」

ヤンチャム「おうよ。あーもう、こんなの俺のガラじゃねぇよぉ」

ナエトル「ハハハ……」

ナエトル（最後は茶化してたけど、ヤンチャムは、本気だった）

ナエトル（……ありがとう、ヤンチャム。自分を、自分として、受け入れる第一歩。まずは、自分を知らないとダメだ）

ナエトル（それを出来たから……、少し、考えてみよう）

ヤンチャム「じゃあ、俺はニャスパーたちを見て来るから、ナエトル、頑張れよ！」

ナエトル「うん」

支援

◇

ニャスパー「はあっ……はあっ……預かりボックスだ……ちょっと休もう……」

ニャスパー（……強い。敵が、尋常じゃなく）

ニャスパー「ナエトルたちとのつながりがなかったら……やられてたな……ははっ……」

ニャスパー（ピカチュウは、奥にいるんだ。あんまり休んでるヒマはないけど、焦ったら負ける）

ニャスパー（あまり気負うといい事ないから、落ち着いて行こう、私）

ニャスパー「とりあえず、道具を調達して……」

ニャスパー「もう、プチじゃなくて本物の復活のタネを何個も取って、満腹リングルも借りてるから、お腹対策のリンゴはいらない」

ニャスパー「ピーピーエイダーを8個ぐらい持って、敵縛り玉をモンスターハウス対策に」

ニャスパー「忘れ物は……ないね。もう少し休んだら、行こう」

○

コノハナ「ナエトル」

ナエトル「ん？」

コノハナ「差し入れ、持って来ただど。アバゴーラさんのオレンから作った、サンドイッチ」

ナエトル「……ありがとう、でもいいや。ピカチュウは、今も苦しんでる。それなのに、自分は、こうして、みんなと普通に話して……」

ナエトル「せめて、今日ぐらい、我慢したい。ピカチュウに、少しでも寄り添いたい」

ナエトル「……だけど、物理的に近くにはいられないから、せめて気持ちだけでも」

ナエトル「だから、ごめん。アバゴーラさんにも申し訳ないけど、持って帰って、みんなで食べて。自分は、ひたすら、ここで待ってる」

コノハナ「うぅ……わかっただど。だけど、あんまり無理するな。今ナエトルが倒れたら、シャレにならないだど！」

ナエトル「わかってるよ」

コノハナ「……ピカチュウは、まだ起きてない。ピカチュウを心配してるのは、ナエトルだけじゃないんだど」

コノハナ「だから、全部1匹だけで抱え込もうとするな。辛かったら、いつでも話は聞けるだど」

ナエトル「ありがとう……」

◇

ニャスパー（もう……そろそろかな？）

ニャスパー（中継地点より後の方が長いなんて話、あんまり聞かないし）

ニャスパー「……そろそろであって、お願い」

ニャスパー「ピカチュウ、あなたの心は……そこまで複雑に、ねじ曲がってたの？」

ニャスパー「こんな、複雑で、強いダンジョンなんて……」

ニャスパー（ううん、弱音を吐いちゃダメだ。行かないと）

――――

ニャスパー（……あ、あれ）

ニャスパー（黒い球体、中に黄色いの……）

ニャスパー「ピカチュウ！！」

――やっと来た、遅いよ。

ニャスパー「……あんたは、誰？」

――私？　私は、ピカチュウよ。

ニャスパー「だけど、違う。ピカチュウの魂は、そこで眠っているんでしょ。あんたは、誰なの？」

――だからさ、私“も”ピカチュウなんだって。正確には、ミュウかな。魂だけなんだから、体がなんだろうと関係ない。

ニャスパー「……そう。じゃあ、区別のために、ミュウ、って呼ばせてもらうね」

――お好きにどうぞ。

ニャスパー「ミュウ、あなたは……ピカチュウの中で、暴走したの。催眠術でね」

――あなたに対する嫉妬のせいでね。私じゃ、あいつの恋愛対象にはなれないみたい。

ニャスパー「それは、私もなんだけど。ナエトル、誰にも、恋出来ないって言ってたよ」

――嘘吐き。あなたは、平然と嘘を吐けるポケモンよ。私、知ってるんだから。

ニャスパー「確かにね。二重スパイは、正直、やってて楽しくなかったって言ったら嘘になる。だけど、あの涙は、本当だって信じてくれる？」

――ま、それはそうね。

ニャスパー「……ミュウ、あなたは、何？　ピカチュウを縛り付けてる訳じゃないんでしょ？　ピカチュウは、ピカチュウとしての記憶も、ミュウとしての記憶も、両方持ってる」

ニャスパー「だから、今、自分の行動に、苦しんでる。違う？」

――その通りよ。今ナエトルが来たら、また傷つけてしまう。それを恐れてる。

ニャスパー「それは、あなたが望んだ結末じゃ、ないよね」

――もちろんそうよ。私ね、ダークマターなの。

ニャスパー「え？」

――太古の世界でダークマターを倒しきれないまま、私は、許さない、って悪意を込めて、あいつを潰した。その心自体が、もう、ダークマター。

――それがあったからこそ、私は、一度姿を消した。初めから、私も、ニンゲンも、覚悟の上の事だった。だけど、ナエトルの記憶は、戻らない。オーベムが、余計に消したから。

――二度と、ナエトルの過去は、現れない。そして、私はもう、ピカチュウの中に帰れない。だって、全てを浄化したんだから。浄化した体に、黒は似合わない。

ニャスパー「……でも、あなたは、好きなんだ、ナエトルを。わかるよ」

――うん。優しくて、賢くて。私なんかとは、比べ物にならないよ。それこそ……ニャスパーなら、釣り合うと思うな。だけど、許せない。そんなあんたが、許せない。

――もう絶対に、私はニンゲンの前に出て行けない。ナエトルから、悪魔呼ばわりされちゃって。だから、憎らしいの、あなたが。まだ、未来があるあなたが。

ニャスパー「……許してもらう必要なんてないのに。8月には、私、もう、別れてたよ？」

――え？

ニャスパー「ナエトルの気持ちは、あなたに向いている。私じゃない。私なんかじゃ、どうあがいても、あなたに、ピカチュウに、敵わない」

――気休め！　何言ってるのよ、口先だけで。

ニャスパー「違う。本気で言ってるよ」

――うるさいっ！　ニャスパー、そんなに消えたい？

ニャスパー「消すのは簡単かもしれないよ。だけど、ピカチュウは、そんな事望んでない。ううん、ミュウ、本来は、あなたも望んでない」

――黙れ……。

ニャスパー「私を消して、何が残るの？　何も残らないよ？　ねぇ、ミュウ。落ち着いて、呪縛を解き放とう」

――黙れ……。

ニャスパー「黙らないっ！　ミュウのわからずやっ！　世界を救おうとした？　聞いて呆れた！　あんたは、私の知ってるピカチュウの魂なんかじゃないっ！」

――うるさいっ！

ニャスパー「……お願いだから、ピカチュウを、返して。あなただって、元は、ピカチュウの一部なんだから。ピカチュウは、あなたを待ってるよ？」

ニャスパー「全てを受け入れて、受け止めて、それでも前に進む。ダークマターだって、それ以外の、例えば、ユニランとヒトモシたちだって」

ニャスパー「何もかもを許して豪快に歩く。それが、ピカチュウなんだから」

――じゃあ、じゃあ、私は、どうすればいいのよ……。

ニャスパー「全部、打ち解けて、素直になるしかないよ。ナエトルも、待ってるよ。今日は、クリスマスイブ、サンタさんを調査するんでしょ？」

ニャスパー「……ナエトルと、一緒に」

――な、なんでそれを……。

ニャスパー「7月に、ジラーチに願ったんだよね。サンタさんを見られますように。でも、1つだけ足りない要素があるとも聞いた。それは、たぶんナエトル」

ニャスパー「それしか、考えられないよ。調査の時は、いつでも一緒。あなたたちは、最高のパートナー、だから」

ニャスパー「サンタさんの調査でも、一緒にいる。それが、当然だから」

――……。

ニャスパー「大丈夫。行き過ぎたあなたの思念だって、自分自身なんだから、戻れないはずないよ」

ニャスパー「また、ナエトルと、一緒にいられる。絶対に！」

――……わかった。

ニャスパー「じゃあ、行こう、おだやか村に。みんな、待ってるよ」

――うん。

○

ナエトル「？」

ナエトル（何か、気配を感じた）

ナエトル「視線……懐かしいな。視線に怯えてたっけ……」

ナエトル（夕焼け空だ……そろそろ、夜だね）

ナエトル「ピカチュウ……目を覚まして」

ピカチュウ「ナーエットル！」

ナエトル「ピカチュウ……クリスマスイブの夜が、もう始まるよ」

ピカチュウ「ナエトルっ！！　何？　ずっと私の声聞いてなくって、忘れちゃった？」

ナエトル「……え？」

ピカチュウ「ただいま、ナエトル。3か月ぶり」

ナエトル「ピ、ピカチュウ……！」

ピカチュウ「よっこらせ、ふぅ。……ずっと、眠ってたよ、私」

ピカチュウ「……ごめんね、私、その間に、ナエトルを傷付けた」

ナエトル「ううん、あれはピカチュウじゃないよ」

ピカチュウ「だけど、あの嫉妬深さも、私なんだよ。そういう黒いとこも全部ひっくるめて、私。それが、ダークマターを受け入れるって事」

ナエトル「……」

ピカチュウ「ナエトル、あの時は、たぶん、ナエトルも憑りつかれてたんだよ。あのままだったら、私たちの闇が増幅して、また悲劇が起きてたかも。

　　　　　　　って、その時私たちいないんじゃ、大ピンチじゃない！　世界終わっちゃうよ！」

ナエトル「……」

ピカチュウ「……ナエトル？　泣いてるの？」

ナエトル「……ううん……」

ピカチュウ「ちょっ、ナエトル、泣かないでよ！」

◇

数分前の事――

ニャスパー「う、ううん……」

ピカチュウ「ふあぁ……」

ヌメラ「あっ、2匹とも！」

シキジカ「よかった……無事で」

チョボマキ「ピカチュウ、ナエトルが、丘の上で待ってるよ」

ヤンチャム「速く行って来いよ！」

ピカチュウ「みんな……」

アバゴーラ「ピカチュウっ！　ピカチュウっ！」

ピカチュウ「おじい、苦しいから、抱き着かないで……」

アバゴーラ「ピカチュウがこのまま目覚めなかったらと思うと、不安だったんじゃ！　少しぐらい、構わんじゃろ！」

ピカチュウ「く、苦しい……」

ニャスパー「ハハハ……」

ニャスパー「それはそうと、スリーパーさん、ありがとうございました」

スリーパー「いえ、こちらも、敵を討ってもらったような物ですし、協力は惜しみませんよ」

ピカチュウ「ふうっ、おじいの抱き着き攻撃、私には効果抜群だよ、嬉しくて、苦しくて……」

アバゴーラ「ピカチュウ……」

ピカチュウ「だけど、ごめんね。ナエトルが、待ってる。急がないとダメだから、おじい、また後で！」

アバゴーラ「わかった！　しっかり謝るんじゃぞ！」

ピカチュウ「わかってる！」


ニャスパー（行っちゃった）

シキジカ「よかった、本当に、よかった……」

ヌメラ「さいっこうの、クリスマスイブになったね」

チョボマキ「ホントだよな」

ヤンチャム「……なぁニャスパー、ちょっと、来てくれよ」

ニャスパー「え、何どうしたの？」

○

ピカチュウ「この一年、凄いいろいろあったよね」

ナエトル「毎月のように、何か事件が起きて」

ピカチュウ「……でも、無事に、こうして一年の終わりを迎えられた」

ナエトル「無事……かはわからないけど、でも、最終的には、全部いい方向に向かってる気がする」

ピカチュウ「うん。ねぇ、ナエトル」

ナエトル「……ちょっと待って。自分から、言わせて」

ナエトル「たぶん、自分は……好き、なのかはわからないけど、いつまでも、君と一緒にいたい。……これ、好きって事、だよね」

ピカチュウ「……うん、たぶん。そうだよね、その気持ちが、恋、なんだよね」

ナエトル「……一緒にいてくれて、自分を選んでくれて――」

ありがとう。

◇

ニャスパー「なんで、なんでここに連れて来たの？」

ヤンチャム「お、ピカチュウたち、いい感じだな」

ニャスパー「ねぇ、どうして、よりにもよって、こんなとこに……。ナエトルにフラれた、私への当てつけみたいに……」

ヤンチャム「なぁ、フラれた同士さ、仲良くなれない？」

ニャスパー「え？」

ヤンチャム「ほら、俺も5月にフラれて、ニャスパーも、最初っからフラれてるんでしょ？　自分で言ってる範囲だと」

ニャスパー「うん……」

ヤンチャム「だから、フラれた同士、励まし合おうぜ、って事」

ニャスパー「……中々面白い事考えるね」

ヤンチャム「だろ？！　結構いいと思ったんだこれ」

ニャスパー「ありがと。気持ちは、すっごく嬉しいよ。だけど……」

ニャスパー「なんで……だろ……。どうして……こんなに涙が……うわぁぁぁ……」

ヤンチャム「お、おいニャスパー！」

○

ピカチュウ「あー、その……きょ、今日こそは、サンタさんを見付けようね！　夜更かしは苦手だけど……今日までずっと寝てたから、今日は待ってられそうだし！」

ナエトル「しっ！　……ニャスパー？」

ピカチュウ「えっ、ニャスパーがいるの？」

ナエトル「うん。泣いてる……？」

ピカチュウ「えっ！　行こう！」

ナエトル「……でも、自分が行って、余計に……」

ピカチュウ「あーもう、考えすぎだって！　誰かが泣いてたら、一緒にいて、励ます。当たり前じゃん！　だって、私たち、友達なんだよ？　私たち、みーんな！」

ピカチュウ「友達が泣いてたら、嫌だもんね」

ナエトル「……！」

ナエトル（……そっか、自分は、難しく考えすぎてたのかもしれないな）

ナエ・ピカ「ニャスパー！」

ニャスパー「ひっく……うぐっ……」

ヤンチャム「お、お前ら！　……ニャスパー、しばらく泣かしといてやってくれ。……きっと、辛いから」

ナエトル「うん」

ピカチュウ「……ニャスパー、今、私が何言っても、何にもならないのはわかってる。だけど、これだけは言わせて」

ピカチュウ「いきなり襲っちゃって、ごめんなさい」

ピカチュウ「私は、あなたに、嫉妬していました。私にはない賢さを持ってて、ナエトルも、賢い子が好きなんだって、ずっと、嫉妬してました」

ピカチュウ「嫉妬するぐらい、あなたは魅力的なポケモンです。それは、私が、断言出来ます」

ピカチュウ「泣き止んで、なんて言いません。だけど、後で、笑った顔を見せてください。お願いします」

ニャスパー「……うん」

――



ナエトル「ねえ、みんな。計画、実行だよ。ピカチュウが目覚めた」

「了解！」



――

シキジカ「おーい、みんな！」

ヌメラ「一緒に、サンタさんを見付けよう！」

チョボマキ「感動の再開も、そろそろ終わっ……ニャスパー」

ニャスパー「……ううん、泣いてなんか、ないよ。みんな、そうだよね。一緒に、サンタさんを調査しよう！」

ヤンチャム「だって俺たち、子ども調査団、だもんな！」

みんな「うん！」

ピカチュウ「アハハ！　私たちと一緒だね！」

ナエトル「あっ、ねぇ見てみんな！」

ピカチュウ「えっ、どれ？」

ナエトル「あれ、サンタさんじゃない？」

ピカチュウ「えっ、ホントだそれっぽい！」

ヤンチャム「すげえ！　俺たち、本物見付けちまったんだっ！」

ヌメラ「やった！　みんな、やったよ！」

シキジカ「ちょっと物足りないけど、でもよかったよね」

ピカチュウ「ジラーチに願った甲斐があったよ。サンタさんが見られますようにって」

ナエトル「……これにて一件落着、だね」

――


ナエトル「大成功だよ、みんな」

デデンネ『えっ？　まだ、飛ばしてないけど。キルリアとジラーチのエスパーが、上手くかみ合わなくって』















ナエトル「えっ？！！」

ナエトル（あっ、叫んだらマズイ……）

ピカチュウ「ん？　ナエトル、調査団のみんなと、連絡取って、何してるの？」

ナエトル「サ、サンタさんを調査団のみんなに飛ばしてもらおうって……約束してた……偽サンタでも、納得できるかなって……」

ニャスパー「え、何？　ナエトル、仕掛けてたって訳？　私たちも知らない内に？」

ナエトル「だって、子どもの夢を、誰が見てるかわからない……。でも、サンタって、ホントは親のはず……」

ナエトル「サンタ……本当に、本当にいた？」

ピカチュウ「……って、信じてなかったの？！　ショック！」

ナエトル「ごめん……いやごめん、ちょっと、整理させて。ゆっくり考えたいから」

ピカチュウ「わかったよ。みんな、少し冷静にしてあげよ！」

「わかった」「だね」

ナエトル「ホント、ごめん……」

ナエトル（まずは、1回、落ち着こう。落ち着いて考えなきゃ！）

ナエトル「え、自分がこの目で見たのは……」

ナエトル「いや、でもおかし……別に去年だって、普通にダンチョーが……」

ヌメラ「ふあぁぁ……」

シキジカ「なんか……いろいろ終わってスッキリしたら、眠くなって来ちゃったね……」

ヤンチャム「なんだよお前ら！　眠くなるの速過ぎるぞ！　これだから近頃の若い奴は……ふあぁ」

チョボマキ「そういうヤンチャムだって……」

ニャスパー「うん……私も疲れがどっと出て来たよ……」

ニャスパー「みんな、もう今日は帰って寝よ……」

「だね」「そうだな」

ナエトル「〜〜っっ！」

ピカチュウ「あっ、ナエトル！」

ニャスパー「……考えすぎて倒れちゃったのかも。ピカチュウ、連れてってあげて」

ピカチュウ「了解！　じゃあ、みんなお休み。また明日！」

支援

支援

12月25日　クリスマス

ナエトル「おはようコノハナ」

コノハナ「おはようだど！　あっ、気付いたか？　オラからのプレゼント！」

ナエトル「うん。……絵手紙、だよね」

コノハナ「ああ。よく考えたら、何をプレゼントすればいいのかも知らなかっただど。だから、こんなのの方が誰でも喜ぶんじゃないかと思ったんだ」

ナエトル「ありがとう、すっごい嬉しいよ」

ナエトル（ほら、サンタなんていないじゃないか。プレゼントをくれたのは、紛れもなくコノハナだ）

コノハナ「……今日、行っちゃうんだよな？　オラ、少し寂しいだど……」

ナエトル「大丈夫だって。また、いつでも帰って来られるよ」

コノハナ「……まあ、それもそうだ。ナエトル、頑張るんだど！」

ナエトル「うん！」

ピカチュウ「おっはよー！　なぁんて、なっつかしいなぁ」

ナエトル「おだやか村を旅立って以来だね」

ピカチュウ「でさ、ナエトルも、プレゼントもらったでしょ？　サンタさんはいるんだよ！」

ナエトル「……アバゴーラさんに、ちゃんとお礼いいなよ」

ピカチュウ「え、なんでおじい？　ナエトル、まだサンタさんはいないって言い張るの？」

ナエトル「だって、自分の枕元にはプレゼントが1つ、コノハナがくれたのだけだった」

ピカチュウ「それは信じてないからだって。じゃあ、なんでニャスパーがもらえてんの？」





ナエトル「……え？」







ピカチュウ「親のいないニャスパーが貰ってるってのは、立派な証明になると思うよ」

シキジカ「ナエトル、どうしたの？」

ピカチュウ「ちょっと、本気でサンタを信じてなかったみたいで、私が論破してから、ずっとこの調子」

ナエトル「」

ニャスパー「へえ、なんだ、比べ物になってるじゃん」

ピカチュウ「まあ、ここで育った経験の差だね。知識に囚われてちゃ、常識からは逃れられない」

ナエトル「まあね……」

ヤンチャム「……まあ、いいんじゃねぇの？　っつーかそれより、お前らもう向こうに戻るんだろ？」

ピカチュウ「うん。……調査の仕事も、再開したいし」

チョボマキ「そっかー。残念だな……」

ピカチュウ「大丈夫、ちゃんと帰って来るからさ！　ほら、ナエトル、そろそろ元気出しなよ」

ナエトル「わかった……」

ニャスパー「しっかりしてよ。サンタさんごときで、何そんな沈んでるのよ」

ナエトル「わかったよ……」

スリーパー「……ワイワイタウンに戻るんですか」

ピカチュウ「あっ、スリーパー！　昨日は、ホントありがとね、協力してくれて」

スリーパー「いえ、夢の事ならお手の物ですので。……ワイワイタウンに戻るんですか？」

ナエトル「ああ、はい」

スリーパー「それなら、向こうまで同行しても構いませんか？　他の大陸で、サーカス団が世界を救ったという話を聞きまして、どうせなら大道芸も行けるとこまで行って、ピエロにでもなろうかと思ったんですよ。

　　　　　　　ですから、ラプラス大陸便に乗るため、ワイワイタウンに」

シキジカ「ああ、それいい！　サーカス団エクリプスだよね？　最近ちょっとおだやか村でも話題になってた！」

スリーパー「はい。まあ、エクリプスでは無理でも、他のサーカスにでも。種族単位に降りかかる悪いイメージを払拭するには、目立つのが一番ですから」

ピカチュウ「エクリプス？　何それ」

ナエトル「さあ……自分もよくは知らないけど」

ニャスパー「まあ、エクリプスって調べれば、すぐにわかると思うよ。こっちではピカチュウ事件のインパクトが強すぎて負けてたけど、たぶん他の大陸はその話題で持ち切りだったよ」

ナエトル「ありがとう。調べてみる」

スリーパー「とりあえず、そういう目標ができました。だから、もうお別れです。本当に、申し訳ない事をしました」

ピカチュウ「いえいえ。よし、じゃあ、一緒にワイワイタウンに行こう！」

スリーパー「ありがとうございます！」

ニャスパー「元気で。しっかりやってね」

ナエトル「わかってる。ニャスパーたちも、調査の時は、ケガに気を付けて」

ヤンチャム「おうよ！」

ピカチュウ「バイバーイ！」

みんな「元気でー！」

――

ニャスパー「行っちゃった……ね」

シキジカ「でもま、元気出して行かないと！　2匹とも、これから頑張るんだし、私たちも負けてられないもの！」

ヌメラ「だね。……ピカチュウ、ナエトル。頑張って」

ヤンチャム「まあ、あいつらなら心配はいらないだろ！　これから、幸せにやってくんじゃねえの？」

チョボマキ「2匹とも、なんか前より仲良くなってたもんね」

ニャスパー（……そう。きっと、2匹は、これからも、幸せにやって行く）

ニャスパー（あたしが心配する事なんて何もない……よね！）

ニャスパー「みんな！　今日、パーティーでもしない？　昨日は忙しかったしそんなムードでもなかったから」

シキジカ「え？！　ニャスパーからそんな事言うなんて……。でも、いいよ！　クリスマスは今日だもん！」

ニャスパー「ナエトルたちのお祝いも兼ねてさ……。今いないけど」

ヤンチャム「だな！　んじゃ、いろいろ準備しようぜ！」

みんな「おー！！」

――

デデンネ「もうそろそろこっちに着くらしいです！」

アーケン「本当か？！」

ホルビー「やっとだね！　3か月ぶりだよ……」

ブイゼル「歓迎のパーティーだな！」

ペロッパフ「腕にはよりをかけてますよ！」

デンリュウ「それはとても楽しみですね！」

クチート「ふふふ、料理が楽しみなのかピカチュウたちが帰って来るのが楽しみなのか……」

デンリュウ「なっ！　ナエトルたちに決まってるじゃないですか！」

ジラーチ「まあ、どうでもいいじゃん。僕は信じてたよ、ピカチュウが帰って来るって。だって僕天才だし」

ブイゼル「信じてたのは俺たちも同じだよ、なぁ？」

みんな「もちろん！」

ジラーチ「……あっ、来たよ！」

ナエトル「ただいまっ！」

ピカチュウ「ただいまーっ！」

よい時をいっしょにすごしたそのたましいは、かならずひかれあい、また会える







いつかきっと、また会える

THE　END

当SSシリーズはこれにて完結です
1年間本当にありがとうございました

>>1と>>2に貼らなかった関連作のうらる
【ポケダン超SS】ブイゼル「俺が何したって言うんだよ！」
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=210432

【SS】アシマリ「ポケモンサーカス団エクリプス！」
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=404456


という訳で……メリークリスマスアンドハッピーニューイヤー！！

乙