▼  |  全表示468   | << 前100 | 次  |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |   ▼   
                  スレ一覧                  
SS

【SS】ポケモン不思議のダンジョン 花の盗賊団

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 17/03/27 23:18:48 ID:qk0Nxw9k [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







プロローグ






 ▼ 2 1◆J44kAZeDOM 17/03/27 23:19:31 ID:qk0Nxw9k [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
誰かを、殺した事、ある? あたしはあるよ。

絶対に忘れられない。あの出来事は。

――頬にかかる血の味。

――絞り出すようなうめき声。

彼女の目には、どこまでも、怯えが広がっていた。

あたしが、これをやった。そう思った瞬間、あたしの中で、何かのタガが外れたの。


――あたしは、絶対に忘れない。あの日、あの時、あの場所を。
 ▼ 3 ゲチック@ドラゴンメモリ 17/03/28 06:32:43 ID:cWAt11WY [1/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
このSSは
【SS】アシレーヌ「ポケモンサーカス団エクリプス!」(http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=563304
と相互補完しながら進行していきます
単体でも読めなくはないと思いますが、合わせて読む事を推奨します

基本的に、盗賊2章→サーカス1章の順に読む事を想定しています
 ▼ 4 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:38:38 ID:cWAt11WY [2/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







1章 イワンコの登場






 ▼ 5 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:39:35 ID:cWAt11WY [3/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


燦々と、陽射しが降り注ぐのを体中に感じた。

うららかに、暖かく。

痛みはない。ただ、ぼんやりとした思考がそこにあるだけ。

目を見開く。辺りは青々と植物の生い茂る、草原だ。

一陣の風が吹き抜け、僕の目を覚ます。

ふああ、とひとつあくびをして、僕は2本の足で立ち上がった。

――立ち上がろうとした。


「うおあっ!」


バランスを崩し、僕はつんのめった。

両の手で大地を踏みしめ、事なきを得る。

危なかった。こんな所でこけるなんて、シャレにならない。
 ▼ 6 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:40:10 ID:cWAt11WY [4/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこまで考えてようやく、僕は違和感に気が付いた。

――何かがおかしい。

四つん這いのこの姿勢が、妙に体に馴染む。

首回りに、どことなくもふもふと当たる物がある。

そして、だ。

草原の向こう、湖を眺めながら考える。

僕は、あんな遠くの物を、裸眼で見る事なんてできない。

だが、この時は、まだ気付けなかった。

のどの渇きが酷くなって来て、僕はその湖へ向けて歩き始めた。

四つん這いのまま、歩いた。
 ▼ 7 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:40:47 ID:cWAt11WY [5/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
歩くにつれて、少しずつ、水の匂いが混ざり込む。

どうしてそれが水だと判別できたのかはわからない。ただ、わかった。それは、水の匂いなのだと。

それを自覚した瞬間、世界に、匂いが溢れた。

植物の青臭さ。他にいるであろう生命の体臭。

唐突に押し寄せた情報の波に、僕は思わず立ち竦む。

けれど、のどの渇きは耐えがたく、鼻を伝って脳に届けられる水の匂いは僕の体に訴える。

早く、水をくれ。

その本能に従い、慣れないはずの四足歩行も苦にせず、僕は駆け出した。
 ▼ 8 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:41:23 ID:cWAt11WY [6/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目の前に広がる湖。

僕はよたよたとそこへ歩きより、水面に顔を映す。

そこに映るのは、イワンコのあどけない表情。

だが、僕はそれに構わずごくりごくりとのどをならした。

顔に付いた水滴を、体を振って吹き飛ばし、そして、改めて覗き込む。

そこまでやって、僕はようやく気が付いた。

イワンコの、あどけない表情。

僕が、人間が映っていなければならない場所に、イワンコ。

声にならない叫びをあげて、そこから僕はまた、口をパクパクと動かした。

僕は、イワンコになっていた。
 ▼ 9 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:41:59 ID:cWAt11WY [7/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
信じられない。そんな風に言葉にできたら、どれほどマシだっただろう。

そう口に出せたなら、途端にこれは現実になった。言葉の持つ嘘臭さが、僕を引き戻してくれただろう。

動揺は、それすらも許さない。

言葉にならない声をあげながら、僕は水面に顔を突っ込んだ。

しばらく目を開けてそうしていると、普通に息が苦しくなって来る。

はあっ、と息を吐き出しながら顔をあげる。苦しみ。これは、夢ではないらしい。

波紋を湛えた水面に、僕は再び顔を映す。

そこには、何事もなかったように人間の顔が映っている。

映っているのだ。

そうでなければおかしい。


――おかしな事に、紛れもなく、そこにいたのはイワンコだった。
 ▼ 10 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:42:31 ID:cWAt11WY [8/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
覚悟を決めて、僕は、考えた。

どうやら僕は、確かにイワンコになってしまったらしい。

それを前提として、これからどうすべきか。

やっぱり、人間に戻る手段を考えるべきか。

それよりも、どうしてこうなったのか、理由を捜すべきか。

それより何より、だ。最大の心配事がある。

当座の生活をどうしよう。食料はどうなる? 拠点は?

服……はイワンコに、ポケモンの姿になった以上考慮しなくていいにしても、食住の問題はこれから先生きていくために重要だ。

そこを確立しないと、生活もままならない。


イワンコ「とりあえず……歩くか」


きっと、木の実のなる木があるはずだ。

食。まずはそれを求めよう。礼節を知るのに必要なのは衣食だ。住の必要性は一段階落ちる。
 ▼ 11 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:43:14 ID:cWAt11WY [9/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
と、リンゴが落ちているのを見付けた。

落ちている物を食べる、なんてぞっとしないが、洗えば大丈夫だろうと思いまずは湖に戻る。

リンゴを湖に浸し、それを引っ張り上げる。

僕は躊躇いつつもそれにむしゃぶりついた。

しゃくり、と音を立てて噛みきると、果汁が口の中いっぱいに広がり、甘さが控えめに主張する。

旨い。僕はいきおいリンゴを腹に納めた。

リンゴ1個で腹8分目だ。満足した僕は、不意に、眠気を感じた。

今抗ってもどうにもならない。冷静な思考は、疲れのとれた、健康な体に宿る。

僕はそのまま眠りに落ちていく――
 ▼ 12 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 18:43:53 ID:cWAt11WY [10/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「待てっ! 盗んだものを返せっ!」


僕は思いっきり叫ぶ。

目の前に、逃げていくミミッキュ。

横には信頼すべき相棒の、ニューラ。

――負ける気がしない。

あのギルドの厳しい修行に、僕たちは耐えて来た。

そんじょそこらの盗賊なんかに逃げられてたまるもんか。
 ▼ 13 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 18:44:32 ID:cWAt11WY [11/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな情熱を胸に秘め、僕たちは追跡を続けた。

ニューラが持ち前の素早さを活かして詰め寄り、ミミッキュを捉えた。


ニューラ「チラーミィ、今よっ!」


僕は自らの尾を鋼鉄に変え、それをミミッキュめがけて振り下ろした。

さくり、と間の抜けた音が響く。


――さくり? ぐさり、ではなく?


違和感に僕はそちらを見やる。

ミミッキュは……その本体は、どこにもいなかった。


ニューラ「なっ、いつの間に……」

チラーミィ「逃げられたっ! 仕方ない、探すよっ!」


布切れを放置して、僕たちは駆け出した。
 ▼ 14 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 18:45:22 ID:cWAt11WY [12/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
この追跡劇は、草原のど真ん中での出来事。

隠れる場所は、そう多くない。

僕たちは必死の追跡を続けた。

と、あるものを見付けた。

――ここに逃げ込まれてたら、勝ち目は薄いな。

草原の中に、突如現れる不思議のダンジョンの入口。

草原、という領域の一部を切り取って形成されたその空間は、逃げるのにはうってつけの空間と言えた。


ニューラ「ここ……の可能性は高いよね」

チラーミィ「行く……か! でも、その前に、水だけ飲ませて」


さっきまで走っていたお陰か、体が欲している。水の匂いは、微かながら、それでも確かに僕の鼻に届いていた。


ニューラ「まあ、近いみたいだし、そのぐらいはいいよ」
 ▼ 15 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 18:46:25 ID:cWAt11WY [13/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オアシスめがけて僕たちは歩みを進める。

飲めるとわかった途端、のどの渇きが尋常ではない程に強まって、その歩は少しずつ、気付かぬ間に早くなっていく。

目の前に湖の眺望が広がって、僕はそこへ駆け寄りのどを潤した。

ニューラもおいしそうにのどを鳴らしている。

ひとつ顔を洗ってさっぱりすると、僕たちは立ち上がった。

ふと、そこに気配を感じ、僕はそちらをチラッと覗いた。

もしやと思ったが、さすがにそこまで上手く事は運ばない。


チラーミィ「ああ、ミミッキュじゃないのか」


そこにいたのはイワンコだ。

気だるげに瞼をこすりながら、こちらに目をやり、少し驚いたような表情を見せる。

その表情からは、ダンジョンにいる自我を失ったポケモン特有の凶暴さは微塵も感じられなかった。


イワンコ「え? ああ、まあですね。僕は、イワンコです」
 ▼ 16 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 18:47:05 ID:cWAt11WY [14/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラーミィ「ミミッキュ見ませんでした?」


だから、僕は安心して問い掛けた。

イワンコは少し考え込むような素振りを見せ、それから言った。


イワンコ「あっちに行きましたよ」


ビンゴ。小さく、憂鬱に呟いて、それから僕は笑った。


チラーミィ「ありがとうございます。あいつ、盗賊なんで、捕まえて反省させないといけないんです。

       あっ、僕はチラーミィ、でこっちは」

ニューラ「ニューラです。2匹で探検隊リアライズを組んでます。それじゃあ、行きますね」


そう言って、僕らは走り出した。

イワンコの指し示した、件の不思議のダンジョンへと向かって。
 ▼ 17 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:11:15 ID:cWAt11WY [15/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


イワンコ「これでいいの? 盗賊さん」

ミミッキュ「本当、ありがとうね」


皮肉交じりに言うと、ミミッキュはそう言って下半身に映る目をぱちくりと動かした。

目を覚まして早々に匿って、と言われ、思わず匿ってしまったが、こいつは犯罪者だったのか。

そんな自分の決断を、小さく呪う。


ミミッキュ「……とりあえず、あなたの話を聞かせて。ポケモンが喋った、なんてセリフ、普通は出ないよ」


覚悟はしていた。けれど、驚くべき事に対しては、どれだけ覚悟を決めてもやっぱり驚いてしまう。

現実に、ポケモンが喋った。僕にとって、最初にそれを気付かせたのは、このミミッキュ。――盗賊だ。

素直に言うべきか。一瞬の逡巡の後、けれど隠しても無駄だとも思う。

庇ったのだ。味方になってもらうには、最高のシチュエーション。

例えそれが、世間的には悪であろうと、今の僕にとって「恩を売れた相手」である彼女は、タイプにそぐわぬ妖精のように見えた。


イワンコ「……僕は、元人間だ」
 ▼ 18 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:11:54 ID:cWAt11WY [16/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
話そうと事情を説明しながら気が付いた。

僕には、記憶がない。

覚えているのは、元は人間であったという事実。それだけだ。


ミミッキュ「記憶がない……あなたも……」


愕然としたような声色で、彼女は呟いた。

ミミッキュは、しばし思案を巡らせた後で、僕に向かってニコリと微笑み、(顔として描かれた表情が、柔らかく移ろうのだ。少し驚いてしまう)言った。


ミミッキュ「とりあえず、あたしと来ない? 生活に困る事はないだろうし、何か探すにも拠点が必要でしょ」
 ▼ 19 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:12:35 ID:cWAt11WY [17/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「え、いいの?」

ミミッキュ「別に、あんたのためとかじゃなく、恩返しよあたしなりの!」

イワンコ「それでいいよ」


拠点。この言葉だけで、僕には充分魅力的だった。

誰のため、なんて事よりもまず重要なのは、そこだ。食料、そして住居。

例えどこかから奪った物だとしても、右も左もわからない僕にとってはやむを得ない。

それに、だ。

彼女の声色に、どこか捨て置けない物を感じた。

恋愛、とは恐らく違う、何かしらの感情。

月並みな言い方をすると、運命、というものを感じたのだ。


イワンコ「それじゃ、行こう。で、どっちに行けばいいの?」
 ▼ 20 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:13:58 ID:cWAt11WY [18/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕たちは、ガルーラの像が置いてある箇所まで歩いて来た。


イワンコ「ガルーラ像……何これ」

ミミッキュ「ガルーラ像。倉庫を使えるのよ。誰でもね」


そう言って、彼女は像を検めた。


ミミッキュ「リンゴ、オレン、大丈夫だろうけどイワンコの分の……そうだイワンコ、技出せるの?」

イワンコ「技、か」


小さく呟く。ポケモンになってしまった以上、避けては通れない話題だった。

イワンコが覚えそうな技を脳内でリストアップする。


ミミッキュ「見た所、あなた、レベルは5ぐらいでしょ」

イワンコ「そうなんだ」


言われて初めてそれを知る。

あまりレベルが高いとは思えない。
 ▼ 21 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:14:44 ID:cWAt11WY [19/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「まずはたいあたり試してみなよ

      大概、あたし1回なら無傷で受けられるし、そもそもノーマル技なら無効だから試し打ちしてもいいよ」


お言葉に甘える事にする。

大地を踏みしめ、ミミッキュを見据える。

ふう、と軽く息を吐き出し、前足で強く蹴った。

そのままミミッキュに向けて飛びかかる。

僕の体は布に絡まれ、身動きが取れなくなる。

ミミッキュは布を僕から引き剥がし、その顔を笑顔に変える。


ミミッキュ「できたじゃん、たいあたり。その調子で試してみてよ」
 ▼ 22 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:15:41 ID:cWAt11WY [20/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
結局、試し打ちで判明した僕の技は、「すなかけ」、「にらみつける」、そして……。


僕は、何の事はない、ただ4つ目の技がないか探そうとしていただけだ。

けれど、ミミッキュは、「この時点で3つもあれば充分でしょ」と言って、像を振り向いた。

それでも、本来4足歩行で技を出すなんて初めての体験なのだ。

ドタバタと、派手な音が鳴っていたため、気付かないはずもなかった。

そのはずだったのだ。
 ▼ 23 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:16:14 ID:cWAt11WY [21/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


僕は危うい所で踏み止まる。ミミッキュは「エイダーも取ったし、戦利品も預けたし……」などと呟いている。


イワンコ「ミミッキュ?」

ミミッキュ「きゃっ! ちょ、何よ! いきなりこんな近寄って来て!」


彼女は、僕の接近に気付いていない。それを確信し、僕は事情を説明する。


ミミッキュ「ふいうち、じゃないそれ」

イワンコ「別に不意を打つつもりはなかったんだけど」

ミミッキュ「そうじゃなくて、技として。それ覚えてるイワンコって、なかなかレアだよ」

イワンコ「そうなんだ……」


僕は、あまり実感もわかないまま頷いていた。


ミミッキュ「とりあえず、4つ技はわかった訳ね。イワンコ、他に何か気になる事はある?」
 ▼ 24 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:17:09 ID:cWAt11WY [22/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、この洞窟に関して説明を求めた。

先程リアライズを追い返す際、ミミッキュは「不思議のダンジョン」に行かせてしまえば勝ちだから、と漏らしていた。

恐らく、これもその不思議のダンジョンなのではないか。そう問うと、鋭いね、と言われた。


ミミッキュ「その通り、ここも不思議のダンジョン。入るたびに形が変わる、来る物を迷わせるダンジョンよ」

イワンコ「形が変わる……」


他にも、基本的に階段で階層がつながれており、そのフロア数は変わる事がない事。

1つのフロアに留まり続けていると、暴風が入口まで戻してしまう事。

ダンジョンの中で倒れると、ほとんどのアイテムを失ってしまい、お金も半分なくなってしまう事。

時には罠も仕掛けられている事。

ただし、落ちている物は拾っても咎められない事。

そして何より大事な、「ここにいるポケモンは、自我を失い、狂暴になっている」という事実。


ミミッキュ「言葉も通じない、感情もないような。あたしたちが悪ならあいつらは無よ。倒してしまっても構わない」

イワンコ「熾烈だね」

ミミッキュ「殺らなきゃ殺られる世界よ、ここは。覚悟して」
 ▼ 25 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:18:06 ID:cWAt11WY [23/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
解説の途中から、僕はその事実に気付いていた。

そもそも、ダンジョンの中ですべての体力を失う事がある前提で話されていたのだから、当然だ。

罠まであるとなれば、危険度はいや増す。

けれど、と僕は覚悟を決める。

危険を恐れていては、何もつかめない。

こうなってしまった原因を突き止めるのに、完全に平穏無事に、なんて事、初めから期待してはいけないのだ。


イワンコ「だいたいわかった。行こう」

ミミッキュ「うん」
 ▼ 26 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:19:08 ID:cWAt11WY [24/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チュート洞窟、という名前は、入った直後、ミミッキュから聞いた。

このダンジョンの名前らしい。


ミミッキュ「ま、とりあえずはあたしについて来て」


ミミッキュの先導で、僕は歩き始めた。


ミミッキュ「走ると危険なの。敵の気配に気を付けながらゆっくり歩かないといけない」

イワンコ「うん、そのぐらいはだいたいわかるよ。オレンとか、そのかばんに入ってるアイテムに関しても」

ミミッキュ「そう? なら話は楽ね。質問あったらいつでもして。あ、これあたしの足を引っ張らないようにって意味よ!」

イワンコ「しっ……敵の臭いがする」

ミミッキュ「ああ、そうね。とりあえず戦って見せるから、よく見てて」


そう言って、ミミッキュは攻撃を空振りした。

小声で僕は咎める。


イワンコ「何やってるの」

ミミッキュ「まあ見てなさいって」
 ▼ 27 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:19:42 ID:cWAt11WY [25/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
敵がミミッキュに近付いて来る。

ちょうど射程圏内だ。

ミミッキュは勢いよく近寄り、その体から黒いオーラを発散した。

敵ポケモンは怯んだように竦む。

そこをミミッキュは、内から生える木の尻尾でもってひっかいた。

敵はその猛攻にあえなく地へ消えて行った。


ミミッキュ「とまあ、ざっとこんなもんね。ダンジョンで倒れると、こんな風に消えちゃうの。ま、気付いたら入口に戻ってる感じね」

イワンコ「っていうか、さっきの空振り何?」

ミミッキュ「定石よ、ダンジョンの。射程距離に届かない時はブラフで攻撃するの。そうしたら敵は警戒心を強めて後先に襲って来るわ。

       そうして射程に入ったらこっちの物。先制で仕掛けられるから」

イワンコ「へぇ」
 ▼ 28 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:20:25 ID:cWAt11WY [26/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は頷く。ミミッキュが笑みを作り、それから歩き始めた。


ミミッキュ「ま、こんな感じで行くの。試してみる? これから、自分でもある程度戦えなきゃ、やっていけない」

イワンコ「だろうね」


そう答えると、ミミッキュは僕に先導を譲った。

やってみろ、という事だろう。

僕は敵の臭いを察知していた。

気配を消して、それに近寄る。

「ふいうち」の射程は、先程のテストでわかった事だが、長い。

だからこの技に関しては、ミミッキュが実演した空振りはあまり意味を為さない。

けれど、残念ながら「ふいうち」のPPはそう多くない。「たいあたり」も有効に使わないと、すぐに技を出せなくなるだろう。

ふう、と息を吐く。

敵が、その音を察知し、振り向いた。

僕は、軽く攻撃を仕掛ける。と、僕の耳に、さえずりが聞こえて来た。


ミミッキュ「あっ……忘れてた。遠隔技持ちはそれ撃って来るから接近しろって……」
 ▼ 29 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:21:11 ID:cWAt11WY [27/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「なきごえ」だ。僕らの攻撃力はダウンする。

恨みがましい目でミミッキュを見詰めると、ミミッキュは気まずそうな顔を描き出し、それから敵に向けてひっかくを繰り出した。

2匹がかりでなんとか倒し、ほっと一息を吐く。

と、ミミッキュが、「あ、階段」と呟いた。

僕たちは、慎重に、階段めがけて歩みを進める。

こんな風に、ダンジョンでの定石や知らないアイテムの説明を聞きながら、僕たちはダンジョンを脱出した。


ミミッキュ「ここさえ抜ければ、後はすぐよ」

イワンコ「行こう」

ミミッキュ「言われなくても」


僕たちは、どちらからともなく駆け出す。

ミミッキュも、その胴体でどうやって、と思うような速度で走っていた。


ミミッキュ「着いた。ようこそ、盗賊団、フラワーズへ」
 ▼ 30 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:21:57 ID:cWAt11WY [28/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュが、僕を振り返る。

たき火が燃えていた。

テントのような建物もある。

ここが、ミミッキュの拠点とする盗賊団か。

思っていたよりもちゃっちいが、身軽に移動するにはこの形態の方が都合がいいのだろう。

ミミッキュはテントをくぐる。僕も続いた。

ピンクの体躯から幾本かの角を生やしたポケモンが料理を作っている。

ミミッキュが彼女に声を掛けた。


ミミッキュ「ただいま、サニーゴ」

サニーゴ「あ、お帰りなさい。どうでした?」

ミミッキュ「成功よ。像に預けといたから、いつでも引き出せるわ」

「それはよかった」と、安堵の顔を浮かべたサニーゴは、すぐに気付いて言った。「あれ? 後ろ、誰ですか?」
 ▼ 31 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:22:40 ID:cWAt11WY [29/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「あっ、イワンコです」

ミミッキュ「記憶がないから、連れて来たの」

サニーゴ「まあ! 大変ですね」

イワンコ「よろしくお願いします」

サニーゴ「サニーゴです。ここの、炊事担当やってます」

ミミッキュ「凄いおいしいから、覚悟しときなさいよ」

サニーゴ「そんな、照れますよ」


2匹でほのぼのと話す様子は、なぜか気の合う気が強い女子と気の弱い女子のコンビという図を彷彿とさせた。

だが、一瞬、強い乖離を感じた。


――盗賊団って、なんだ?
 ▼ 32 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:23:31 ID:cWAt11WY [30/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「ところで今、誰がいるの? イワンコを紹介したくて」

サニーゴ「ヒド君とバクガメスさんかな。ボスとコスモッグは外出中。いつものようにお宝探してるんだと思うよ」

ミミッキュ「わかった。じゃあ、行って来るね」

サニーゴ「イワンコ、よろしくね!」

イワンコ「こちらこそ」


僕らはテントを抜け、それからたき火の方へ歩いて行った。


ミミッキュ「単体ではいいポケモンなんだけど、ペアにするとマズイから、まずヒドイデからね」


そんな謎の呟きに聞き返すと、ミミッキュはなんでもないと首を横に振った。

疑問は残るが、まあ危険な目に遭わされる事もないだろうと判断し、僕は追随する。
 ▼ 33 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:24:20 ID:cWAt11WY [31/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「ヒドイデ」

ヒドイデ「お帰りミミッキュ! そいつは?」

イワンコ「イワンコです」

ミミッキュ「記憶がないらしくて」

ヒドイデ「ああ、なるほど」


そういってヒドイデは、ミミッキュを見据えた。

しばらく沈黙が降り、それから笑う。


ヒドイデ「俺らと来るんだろ? 歓迎するぜ」

イワンコ「よろしくお願いします」

ヒドイデ「ところでうちのかわいいサニーゴにはもう会った?」

ミミッキュ「会ったよ。行くよイワンコ」

イワンコ「へ?」


引っ張られるように僕は連れ去られて行く。

ヒドイデが戸惑ったような目でミミッキュを見詰めた。
 ▼ 34 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:24:58 ID:cWAt11WY [32/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「ねえどういう」

ミミッキュ「1時間はのろけるだろうけど、いいの?」


その発言に、ごくりと唾を呑みこむ。

1時間ののろけ。まあ無理だ。


ミミッキュ「わかったら、バクガメスさんに会いに行くよ」

イワンコ「ちなみにヒドイデの担当は?」

ミミッキュ「普通に盗賊。いろいろと盗って来る係ね。あたしと同じ」

イワンコ「じゃあ、バクガメスってのは?」


ミミッキュが動きを止めた。

引きずられていた僕はその勢いを殺しきれずミミッキュの体に突っ込む。

布がまとわりつき、少しもがいた。

ミミッキュは痛みも何も感じていないかのように布を念の力(「ねんりき」ではない、念のため)で引き剥がし、それからこちらを向き直った。


ミミッキュ「バクガメス『さん』。あの人、短気だから、その辺厳しいの」
 ▼ 35 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:25:30 ID:cWAt11WY [33/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「そうなんだ……。ありがと、教えてくれて」


バクガメス“さん”は、上下関係に厳しい。把握した。


イワンコ「他にもそういう人はいるの?」

ミミッキュ「いない。ボス……ラランテスは、そういうの気にしないタイプだし。ま、みんなボス呼びだけど。

       さ、行こう」
 ▼ 36 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:26:05 ID:cWAt11WY [34/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ぼうっと座り込む赤い体躯のポケモンが1匹。

彼に、ミミッキュが声を掛ける。


ミミッキュ「バクガメスさん、新入りです」

バクガメス「ああ、そうか。お前は?」

イワンコ「イワンコです。記憶がないので、たまたま出会ったミミッキュにここを紹介されました」

バクガメス「……そうか。おいミミッキュ」

ミミッキュ「はい、なんでしょう」

バクガメス「てめー、カタギかもしれない奴を何こっちに引き込んでやがる!」


怒鳴り声。僕は、思わず身を竦めた。


ミミッキュ「でも、行き倒れになるかもしれなかったんです! あたし、ここしか教えられないし! ……あたし、心配だったから」


心配だったのか。恩返しと言っていたのだが。

しかし、小さく震えるミミッキュに、そんな軽口を叩けるはずもない。

それ程までに、彼の威厳は強かった。
 ▼ 37 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:27:37 ID:cWAt11WY [35/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「……そうか。お前なりにきちんと考えてるんだな。怒鳴って悪かった。

       イワンコ、お前、まだ引き返せるぞ。今なら、俺たちの仲間になる前に逃げ出せる。

       記憶の謎は、解けるだろ、1匹でも」

イワンコ「……無理、だと思います。自分は、元人間。この世界で、ひとりでなんて、絶対に」

バクガメス「おま……元ニンゲンだぁ?! 記憶喪失の元ニンゲン……これは、マズいな」


彼はぶつぶつと呟き始める。

それきり、思考の世界に没入したのか、声を掛けても反応が返って来る事はなかった。


――記憶喪失の元人間が、マズい? 僕は、小首をかしげた。


ミミッキュ「説明し損ねたけど、バクガメスさんは経理担当。資金繰りは、やっぱり大事みたいね。

      あたしたち、行動する前はみんなバクガメスさんにお金を預けるのよ」

イワンコ「銀行みたいなもんって事?」

ミミッキュ「要はそういう事らしいね。増えないけど」
 ▼ 38 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:29:03 ID:cWAt11WY [36/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は続けて尋ねた。


イワンコ「ボスと、コスモッグ? この2匹は?」

ミミッキュ「そろそろ帰って来ると思うよ――」


ミミッキュは言葉を呑みこんだ。その目線を辿ると、空間にひずみが生じていた。


イワンコ「な、何あれ」


臭いは特に、感じない。唐突に、それはそこにあった。


ミミッキュ「コスモッグよ、あれが」


あれが、コスモッグ。どういう事かと問おうとして、僕は、その目を疑った。

そこから、紫がかった体躯に2つ頭から突起を出すポケモンと、ハナカマキリのような風貌を持ったポケモンが現れたのだ。


コスモッグ「たっだいまー! 成功だよ! 南の洞穴のお宝ゲット!」


そういって、黄金に輝くスカーフを見せびらかした。
 ▼ 39 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:29:45 ID:cWAt11WY [37/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテスが、僕を認めて問い掛ける。


ラランテス「ん? あんた誰だい?」

ミミッキュ「イワンコです、記憶喪失の」

ラランテス「……なるほどね。あたいはラランテス。よろしく!」

コスモッグ「僕はコスモッグだよ! よろしくね!」


このラランテスがボスだという。

気風のいい女性だ。

そして、コスモッグは少年と言えるような性格だろう。


ミミッキュ「コスモッグはテレポートが得意で、遠出する時はみんな頼るの」

コスモッグ「まあ、はねるとテレポートしかできないんだけどね」


コスモッグは照れたように笑う。満更でもないのだろう。
 ▼ 40 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:30:31 ID:cWAt11WY [38/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「みんなにはもう会ったかい?」

ミミッキュ「はい。イワンコ、これでうちのメンバーは全員よ。覚えた?」


さすがにこのぐらいなら覚えられる。


イワンコ「ミミッキュ、サニーゴ、ヒドイデ、バクガメスさん、コスモッグ、ボス。それから……

      僕だ。

      ラランテスさん、いいや、ボス。これから、よろしくお願いします」


この瞬間、僕は、正式に、盗賊団の一味になった。

記憶の謎を探すため。僕は、ここを拠点に、行動を開始する。


ラランテス「そうかい」


ラランテスはそう言って、ニコリと笑った。
 ▼ 41 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:31:07 ID:cWAt11WY [39/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幕章


誰も、あたしの声を聞いてくれない。

あたしは、そこに、存在していない――

いじめ。その言葉を、あたしのこの現状に当てはめても良かったのか。それはわからない。

肉体に暴力を及ぼされた事は一度だってない。

心無い暴言があたしを抉る事だって、なかった。

ただ、何もなかった。

学校に、「あたし」はなかった。
 ▼ 42 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:32:02 ID:cWAt11WY [40/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
教室の前方では、女子の何人かが、楽しげに会話をしている。

やれ誰が誰を好きだ、やれ誰々がカッコいい、やれあの教師ウザい。

教室の後方で、男子が輪になって会話している。

卑猥な単語がそこに混ざり、前方の女子が「やめてってばー」と嬌声をあげた。

その真ん中に、ちょうど教室の、教師の目が届きやすいど真ん中に、あたしの席はある。

飛び交う嬌声は、けれどあたしの周りを追い越してしまう。

あたしに声を掛けてくれる人は、誰もいなかった。

あたしは本を取り出し、その世界に没入する。そうすれば、忘れてしまえるから。

本を読む快楽は、このクラスに入ってから覚えた。

本の世界は、あたしを肯定してくれる。

無限に広がる世界の中で、あたしは、溺れてしまえる。

あたしは、あたしのいない空間の中で、ただひたすらに、現実から逃げていた。


――そんなあたしを見詰める影が、ひとつ……
 ▼ 43 ールル@1ごうしつのカギ 17/03/28 20:32:14 ID:SUY5frrk NGネーム登録 NGID登録 報告
最初に選んだポケモンがピカチュウだったらもう物語終わってたな()

支援
 ▼ 44 マナッツ@レベルボール 17/03/28 23:30:40 ID:PhyRAr/6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
毎作読んでまっせ
 ▼ 45 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:01:22 ID:WmToOqec [1/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







2章 発端のウツロイド






 ▼ 46 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:01:56 ID:WmToOqec [2/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「かかってきな!」


僕は、大地を踏みしめ、飛びかかる。

ラランテスを見据え、走る勢いでラランテスに突っ込んだ。


ラランテス「そんなもんかい」


ラランテスはすんでの所で身をかわし、そう呟いた。
 ▼ 47 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:02:37 ID:WmToOqec [3/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
話は1日前にさかのぼる。


サニーゴ「できましたよ」

ヒドイデ「おっ、できたか。お腹空いたー」

サニーゴ「ヒド君、今日は角も生えて来たし、食べていいよ」

ヒドイデ「マジで?! よっしゃー!」

サニーゴ「あ、それとみなさん、イワンコの歓迎の意味も込めて、1品多く作ってみました」

ラランテス「そうかい! あたいもう腹ペコだよ!」

コスモッグ「テレポートも疲れるしねー」

ミミッキュ「あたしも、今日は走り回ったからなぁ」

イワンコ「…………」
 ▼ 48 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:03:09 ID:WmToOqec [4/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
雑然とした会話の洪水に、僕はイマイチ乗り切れずにいた。

すると、いつの間にやら後ろに立っていたコスモッグが、僕のお尻をポンと叩いた。


コスモッグ「ほらほらイワンコ、しり込みしてちゃ馴染めないよ」

イワンコ「ああ、まあそうだね」

ラランテス「イワンコを歓迎して、みんな、今日は騒ぐよ!」

みんな「おー!」

イワンコ「お、おー!」
 ▼ 49 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:03:51 ID:WmToOqec [5/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とりあえずは食事である。

こうなってからいろいろとあったが、食べた物と言えばリンゴ1個だけである。

自覚こそしていなかったが、空腹は既に、限界に近かったらしい。

目の前に出されたおいしそうな料理に、口の中で唾が溜まる。ごくり、とそれを呑み下し、僕はそれでも、「待て」を言われた犬のように尻尾を振って待っていた。

みんながまだ、食べ始めていない。それなのに、新参の自分だけが食べ始めるのもいかがなものかと思うのだ。

一瞬の永遠を耐えていると、ラランテスが救いの声をあげた。


ラランテス「それじゃ、これからのみんなの安全を願って……」

みんな「いただきまーす!」

イワンコ「いただきます!」


ようやくだ。

手を使えないが、身を乗り出してがっつくように食べる。

舌の上を転がり落ちて行く晩餐の味のレベルは、相当に高いと言えるだろう。

果汁を活かしたサラダが特に絶品だった。
 ▼ 50 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:05:02 ID:WmToOqec [6/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒドイデ「こいつ、料理上手いだろ?」

サニーゴ「そんな、照れるよヒド君……」


そう言いながら、ヒドイデが、サニーゴの上に覆いかぶさる。きゃっ、と嬌声が上がり、それから2匹の笑いが弾けた。


サニーゴ「私、おいしい?」

ヒドイデ「ああ、最高だよ」


唐突に繰り広げられた会話。反応に困ってミミッキュの方を見やると、彼女は呪詛の念を呟いていた。


ミミッキュ「爆発しろ……爆発しろ……」

コスモッグ「こらこらミミッキュ」


何だろう、サニーゴは食べられているのだろうか。

……まあ、当の彼らが幸せなのだから、それでいいか。空腹が満たされそんな事を考える余裕が出て来た。

そんな風に冷静に考えると、ある事実に気が付く。


イワンコ「なあミミッキュ。バクガメスさんは?」
 ▼ 51 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:05:40 ID:WmToOqec [7/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「ああ……呼んだんだけど、いいって。リンゴかじりながら本読んでた。多分……記憶の謎を調べてくれてるんだと思う」

イワンコ「!」


僕がこうやって楽しんでいる間にも、バクガメスは僕のために、か。

うつむいてしまう。楽しんでしまえている、自分がいる。それが、どうしようもなく後ろめたく感じる。


コスモッグ「でもさー」


不意に、後ろから声を掛けられて、振り向いた。

コスモッグの天真爛漫な笑顔が、言った。


コスモッグ「とりあえず、楽しんじゃいなよ、イワンコ。これは、君の歓迎会でもあるんだよ!

       ま、そういう僕だって割と新参なんだけど」

イワンコ「まあ、うん」


そう言われてしまい、僕は盛り上がるみんなの中へと加わって行った。
 ▼ 52 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:06:10 ID:WmToOqec [8/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
料理にがっつき、皆の武勇伝を聞く。

皆、と言っても主にラランテスだ。

草原の空洞というダンジョンでお宝を手に入れたらしく、その話から鑑みるに、彼女は、そのおしとやかな外見とは裏腹に腕力で戦うタイプらしい。

置いてあった鍵のかかった豪華な宝箱を、なんとラランテスは、叩き割ってしまったという。

宝箱の鍵の意味……と、僕は苦笑した。


ラランテス「とまあ、そんなこんなであたいたちはこの金のスカーフを手に入れたって訳よ!」


自慢気に笑う彼女は、僕を見て問い掛けた。


ラランテス「ところであんた、自分の身は護れるのかい? 最低限」
 ▼ 53 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:06:49 ID:WmToOqec [9/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
本当に、何の脈絡もない、不意の発言。

彼女は、今を生きているのだろう。場違いにも、そんな事を考えてしまう。

そんな場合ではないと慌てて気付き、僕は言った。


イワンコ「どうでしょう……最低限だけならともかく、盗みなんて事は難しいかと……」

ラランテス「だろうね。よし! 明日から、あたいと特訓だよ!」

イワンコ「はい!」


この時にはもう、僕はフラワーズの事を好きになっていた。

やっている事は犯罪だが、それでもこのメンバーたちは皆、いい人だ。そう、確信を持って思えた。
 ▼ 54 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:07:29 ID:WmToOqec [10/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
宴が終わり、床に就く。

床と言っても、藁を敷き詰めただけの簡素な物。

もっとも、人間のいない世界で布団があるとも思えない。

藁布団だとしても、ないより何倍もマシだ。

実際、ミミッキュと出会うまで、何もない場所で僕は、平然と眠れた。

ポケモンの体は、きっと、人間の体より何倍も頑丈にできているのだ。

そんな事を心配しても仕方ないだろう。


コスモッグ「どう? 寝心地は」


同室となったのは、コスモッグとミミッキュ。ただ、ミミッキュはもう、軽い寝息を立てている。


イワンコ「うん、いいよ」

コスモッグ「ならよかった」

イワンコ「明日からしんどくなりそうだし、もう寝るよ」

コスモッグ「だね。お休みー」

イワンコ「お休み」
 ▼ 55 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:12:41 ID:WmToOqec [11/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そして翌朝。

ラランテスは僕の攻撃をギリギリでかわし、そんなもんかい、と呟いた。

彼女の顔は、無表情のまま変化がない。

危なかった、という感慨すら、そこには窺えない。

間違いない。わざとギリギリを狙っている。

僕は苛立ちの中、けれど心を抑えた。

静かに。静かに。

小さく息を吸う。

僕は、ラランテスとの距離を一気に縮め、そのまま攻撃を食らわせた。

ふいうち、だ。

ラランテスは、しかし、ビクともしなかった。


ラランテス「ま、そんなとこだろうね」
 ▼ 56 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:14:12 ID:WmToOqec [12/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そう言うと、ラランテスは腕の鎌を攻撃中だった僕の腹部めがけて振り上げた。

シザークロス。これがリーフブレードなら致命傷だ。それでも、相当な手加減がなされている。


イワンコ「……負けです」


後から聞いた事には、当てただけでも凄い、との事。

ミミッキュは、彼女にかすりもしなかったらしい。

彼女の場合ばけのかわを活かした逃亡を図れるのであまり関係はないのだが、それでも当てたという事実を皆誉めてくれて、悪い気はしなかった。
 ▼ 57 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:15:43 ID:WmToOqec [13/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それから数日、僕は、集中的な特訓を受け、ラランテスにマトモなダメージを与えられる程度にはなっていた。

マトモ、と言っても本人の弁で、僕の目には蚊に刺されたようにも感じていないように映ったのだけれど。

彼女は戦闘を終え、物凄い勢いで呟き始めた。


ラランテス「状況を嗅覚聴覚フル活用で捉えその時その時の最高のたいあたりの軌道を一瞬で見抜ける実力……」


一息に彼女はそう言い、それから僕に向かって笑顔を見せた。


ラランテス「うん、あんた、筋いいよ。ミミッキュと組んで、サポートしてあげな!

       状況を把握する能力にあんたは優れてると見た。無用な戦闘を避けるに越した事はないからね。

       敵を上手くかわしながら仕事できるよ、あんたなら」

イワンコ「はい!」


確かに、無用な戦闘は避けたい。

なるべく僕が盗賊だと知られていない期間の長い方が、表と接触しての調査もしやすいという物だ。
 ▼ 58 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:16:32 ID:WmToOqec [14/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこから僕は、バクガメスからあるレクチャーを聞いていた。

ラランテスすらも立ち入り禁止にして、僕とバクガメス、2匹だけの空間で。


バクガメス「イワンコ、お前、まだ誰にも、元ニンゲンだっつってねぇのか?」

イワンコ「ミミッキュとあなただけです。他は、なんとなくタイミングを逃してしまって」

バクガメス「周りも知らなさそうだしな。まあ、それはいい。お前が記憶喪失なのは知ってるし、それ以上はまあどっちでもいい。

       だが、調査するにあたって、絶対言いふらすな。元ニンゲン、って事実を知られる事が、どう転ぶかわからねぇ」

イワンコ「と、言いますと?」

バクガメス「この世界には過去に4度、ニンゲンがポケモンになったっつー事例が挙がっててよ……」


4度。そんなにレアではないのか、僕のこの状況は。

信じられない事だが、まさかこんな事で嘘を吐くとも思えない。

無理に呑み下して、続きを促した。
 ▼ 59 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:17:44 ID:WmToOqec [15/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「驚かねぇのな。ま、そっちの方が話ははええや。実はな、その度にこの世界、危機が訪れてるんだよ。

       ま、順序が逆で、世界を救うために呼ばれてるんだけどな、毎回」


その度に、毎回、世界に、危機が。


バクガメス「っつー訳でだ。お前さんも5匹目の世界を救う元ニンゲン、って可能性は極めて高い。4回中4回。

       試行回数は少ないが、対象がデカくて、普通ありえねぇ事。

       信ぴょう性は増すだろ?」

イワンコ「えっ、ちょっと待ってください! 世界が危機って、どういう事ですか?!」

バクガメス「それはまだわかんねえ。天変地異、星の停止、世界のリセット、石化なんて、様々だよ、起こった事件は」

イワンコ「でも、それって……」

バクガメス「ああ。どうすりゃいいのかわかんねぇ、とも取れる。

      だから、とりあえずは、目の前の仕事をこなしてくれや。

      何かしら異変があったら、俺のネットワーク使えば、速攻でわかる」

イワンコ「はあ……」
 ▼ 60 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:19:27 ID:WmToOqec [16/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメスの真剣な表情に、嘘は感じ取れない。

だから、これはきっと事実だ。リンゴをかじりながら本から仕入れた、紛れもない事実。

だけれども、言っている事の壮大さに、ため息が零れるのだ。


バクガメス「質問に答えてなかったなそういや。不用意に言いふらしちまうと、そっから騒ぎがデカくなるんだ。

      不要な騒ぎは混乱の元。やりにくいったらありゃしねぇからな、混乱っつーのは」

イワンコ「言っていいのは記憶喪失まで」

バクガメス「話が早くて助かる。んじゃ、まあ頑張りな。敵と味方はキチンと区別しろ。それからだ……」


そこからは、普通のレクチャーだ。宝箱はラランテスが開けてくれる(物理)らしいし、ダンジョンで倒れてもお金はバクガメスに預けておけばなくならない。

ガルーラ像に預けたアイテムはバクガメスに預けたお金同様ダンジョンで倒れてもなくならないとの事だ。

協力して相性をごり押すレンケイと言うシステムも教わった。ミミッキュと2匹チームだ。覚えておいて損はない。


バクガメス「それじゃ、明日から、お前はカタギの道を踏み外す。覚悟は決めてるだろうし今さら何か言う気はねぇが、頑張れよ」

イワンコ「……はい」


僕は、決意を込めて、頷いた。
 ▼ 61 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:20:29 ID:WmToOqec [17/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
帰って来たミミッキュは、今日は涼しい顔でかばんから食糧を取り出す。


ミミッキュ「今日の仕事だよ」

イワンコ「……これを、明日からは僕も」

ミミッキュ「ん? ああ、ついに特訓終了か。お疲れ」

イワンコ「うん、ありがとう。そして、明日からよろしく」

ミミッキュ「何改めて」

イワンコ「明日から、パートナーだよ僕たち」

ミミッキュ「そうなんだ」

イワンコ「うん。敵を避けるのが得意そうだからって言われた」

ミミッキュ「なるほど。まああたし苦手だしなぁ気付かれないようにするの。ばけのかわで逃げられてるからいいけど。

       ま、何にせよ、だね。あたしも明日は教えるから、頑張ろうね」

イワンコ「だね」
 ▼ 62 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:21:16 ID:WmToOqec [18/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
で、翌日。僕たちは街に出た。

気配を消し、レストランの食糧庫に忍び込む。

バッグにかき集められるだけかき集め、気配を消したまま脱出する。

辺りへの警戒は怠らず、鼻は常時、フル稼働だ。

近付いて来る物音も、回避しなければならない。

幸い、誰かが気付く気配もなく、僕は慎重に倉庫を離れた。

ミミッキュと合流する。ミミッキュもバッグに様々な物を詰めている。


ミミッキュ「初仕事成功、おめでとう」

イワンコ「別にそこ褒められても嬉しくないけどなあ」


犯罪なのだ。素直には喜べない。
 ▼ 63 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:22:14 ID:WmToOqec [19/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「まあいいや。あんた、あたしにかばん預けなよ。アジトの場所はわかるでしょ」

イワンコ「うん」

ミミッキュ「ほら、記憶の謎を探すんだから、行って来てよ。

      あたしは……もう、顔割れてるから普通の調査はしづらいし」

イワンコ「ありがとう」


彼女に感謝と別れを告げ、歩き出そうとした。

僕は街へ、彼女はダンジョンになっている森へ。


――その時、叫び声が聞こえた。



待てぇぇぇえええええ!
 ▼ 64 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:22:55 ID:WmToOqec [20/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一瞬の沈黙。ミミッキュが意味を呑みこんで、叫んだ。


ミミッキュ「え、ヤバいバレた? 逃げよう!」


イワンコ「待って! ……違う、方角が逆だ」


ミミッキュが帰ろうとしていた、森の中。

叫びが聞こえたのは、そちらからなのだ。

森の中に今いるポケモンが、街の中で起きた盗難に気付けるはずがない。


イワンコ「行こう。何か、緊急事態が起きたんだ」

ミミッキュ「えっ、だけど……」


しばらくの逡巡の後、ミミッキュは叫んだ。


ミミッキュ「……どうなっても知らないから! 行くよイワンコ!」

イワンコ「うん!」
 ▼ 65 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:27:02 ID:WmToOqec [21/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「どうかしましたかっ?!」

ジジーロン「おお! 助けに来てくれたのか!」


そこにいたのは、年老いたジジーロン。

ミミッキュは姿を隠し、僕だけで事情を聞いた。

話によると、どうにも孫のミニリュウが攫われてしまったらしい。

どんなポケモンが攫って行ったのかを尋ねたが、見えなかったという。

ただ、去って行く方向だけは確認したため、追ってくれないか、との事。


イワンコ「助けに行って来ます」

ジジーロン「ありがとうの」


ミミッキュと合流して、僕たちは、ジジーロンが指し示した方角へと向かって行った。
 ▼ 66 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:28:11 ID:WmToOqec [22/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ナセラドの森。この森は、そう呼ばれているらしい。


ミミッキュ「危険を察知するのがあんたは得意らしいから、リーダーお願いね」

イワンコ「まあいいけど」


僕は先頭を行く。周囲の臭いを意識しつつ、敵の行動も読みながら進まなければならない。

幸いこのナセラドの森は、散歩コースになる事もあるぐらい危険度は少ないらしいが、それでもダンジョン部にうっかり入ってしまうと容赦なく前述の法則は適応される。

この森の一部が、その不思議のダンジョンであり、彼が示した先はそのダンジョン部であったのだ。

どこかにミニリュウがいるかもと警戒しながら僕はたいあたりやふいうち、ミミッキュはおどろかすやらひっかくやらで敵を撃退し、そして奥を目指す。

先に進んでいる可能性が高いと判断した結果だ。
 ▼ 67 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:29:47 ID:WmToOqec [23/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
生憎、彼らの姿を見かける事もないままに、僕たちはいとも簡単に最奥部まで辿り着いてしまった。

ラランテスの特訓、恐るべし。


ミミッキュ「到着っと。イワンコ、何か見付かる?」

イワンコ「しっ! 何か聞こえる」


僕の耳は、何かしらの音を捉えていた。

あれは……声だ。誰かと誰かが話してる声。

――あー見付か……おねーちゃ……いね!

――次は……あた……よ!

関係ないのか。断片的だが、雰囲気だけ聞くと楽しそうで、とてもポケモン攫いの要素が入り込む余地など感じ取れない。

イワンコ「誰かいるみたいだ。訊いてみよ、叫び声を聞かなかったかって」

ミミッキュ「わかった」


僕たちはそう言って、2匹の前に姿を現した。
 ▼ 68 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:30:38 ID:WmToOqec [24/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
2匹の内1匹は、まだ幼いミニリュウ。楽しげな表情でもう1匹と話していた。

もう1匹。透き通った、ガラス質の体に、幾本もの触手が揺らめく。

顔は、なかった。

俺は、こいつを知っている。そう、不意に思った瞬間、俺は我を忘れてその謎の生命体に飛びかかる。


ミミッキュ「ちょっ、イワンコっ?!」

ミニリュウ「何すんのさっ?!」


制止の声も、僕の耳は受け流す。

ただ、恐怖の対象として、その白く透明なそれがあるのみだ。

それはこちらの敵意を認めると、俺めがけて煌めく宝石を撃ち出す。

その威力は尋常ではなく、俺はあっという間にその身を貫かれ、倒れ伏した。
 ▼ 69 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:31:30 ID:WmToOqec [25/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――大丈夫よ、イワンコ。だから、落ち着いて。


ミミッキュの声を、闇の中で聞く。

目が覚めて、ミミッキュは笑みを作る。


ミミッキュ「ザコダンジョンでも一応プチふっかつのタネあってよかった。こんな規格外、敵うはずないよ、あんたに。

       ごめんなさい、こいつ、急に襲い掛かって。悪い奴じゃないんですけど」

???「だと思うよー。この子、襲い掛かっては来たけど、へなへなだったし、ただ、あたしが怖かっただけじゃないかな」

ミニリュウ「おねーちゃんは怖くなんてないのにね」

???「ねー」


僕は頭を振る。そして、意識をハッキリさせ、立ち上がった。


イワンコ「ごめんなさい、動転しちゃって……。なんだか、あなたの事、見た事あるような気がしたから」
 ▼ 70 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:32:53 ID:WmToOqec [26/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
???「えー? あたし見た事ないよーあなたの事ー」

イワンコ「なんか、昔……あなたと会った事があるような、そんなはずないのに」

ミミッキュ「……記憶の手掛かり、か。まあ、よかったじゃん」

イワンコ「記憶喪失、なんですよね僕。それを捜したくて」

???「あー、そうなんだー。でも、答えられないなー。ごめんねー」

イワンコ「いえ、大丈夫ですよ。ところで、名前はなんですか?」

???→ウツロイド「あたしー? ウルトラビーストの一種、ウツロイドだよー。よろしくねー!」


ウルトラビーストの、ウツロイド。この種が、僕の記憶の鍵を握るのか。

どこかで嗅いだ事のあるような、懐かしさを伴う臭いがした。
 ▼ 71 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:34:08 ID:WmToOqec [27/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミニリュウ「まあ、悪い奴じゃないみたいでよかったね! で、なんでここにいるの?」

ミミッキュ「あっ! ミニリュウ君、おじいちゃん捜してたよ? そもそも、待ってって聞こえませんでした?」

ウツロイド「あー、それ……ごめーん、待たないといけないの、あたしだったかもー。

       遊ぼーって言われて、いいよーって答えて一緒にここまで来たはいいけど、なんかそんな声が聞こえて来たんだよねー」


立場が逆転している気がしなくもないが、立派な誘拐である。

盗賊に咎める権利があるのかは知らないが、れっきとした犯罪だ。この世界の基準は知らないが、普通にアウトであろう。

まあ、何はともあれ一件落着、である。

後はおじいちゃんも心配してるだろうから、なんていろいろと言い含め、名残惜しそうな顔をするミニリュウを説得するだけだった。
 ▼ 72 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:35:24 ID:WmToOqec [28/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミニリュウ「おじーちゃん!」

ジジーロン「ミニリュウか?! ミニリュウ、無事じゃったんじゃな?」

ミニリュウ「なーんにも怖い事されてないよ! ウツロイドおねーちゃんがかくれんぼで遊んでくれたんだー!」

ジジーロン「え?」

ミミッキュ「誰も、悪くないんです。遊ぼって声掛けられて、うんって答えて、一緒に遊べる場所へ行った。それだけだったんです」

ウツロイド「ごめんなさーい」


帽子のような体を傾けて反省の意を示すウツロイド。


イワンコ「悪気はなかったので、ここは僕たちに免じて、許してあげてください」

ジジーロン「おぬしらが、助けてくれたのか」

イワンコ「助けたと言うより、帰るよう説得しただけですけどね」

ジジーロン「ありがとうございます! 無事に再開できて、本当に助かりました」

ミミッキュ「いえいえ」

ウツロイド「じゃあ、あたしはこれでー」

ミニリュウ「バイバーイ!」
 ▼ 73 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:36:57 ID:WmToOqec [29/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ここで僕は、相も変わらず恩の売りっぱなしを嫌った。

売ったからには返して欲しい。もちろん、無理な事をさせる気はさらさらないし、彼だけに任せる気もないが、協力ぐらいしてもらってもバチは当たらないのではないか。

もちろん、ミニリュウがいる場所で、と言うのも気が引けるため、ジジーロンがぜひに、と言うのに甘えて盗品片手に伺わせてもらった彼の自宅で、孫を連れて来ていた両親が帰った後に依頼したのだけれど。


イワンコ「という訳で、記憶の鍵を握ってるのが、ウルトラビーストだと思うんです」

ジジーロン「そうか……。よし! ワシも、そのウルトラビーストとやら、調べてみるとしようか。息子親子も帰ってしまったしの」

イワンコ「ありがとうございます!」

ジジーロン「しかし、あんな種族、初めて見たわい……はて、どこかでウルトラビーストと聞いた事あるような気がしたのじゃが、どこじゃったかの……」

ミミッキュ「まあ、焦らなくても、大丈夫です。強制でもありませんしね」

ジジーロン「ああ、わかっておる。ゆっくりでも正しい記憶を思い出す方が大事じゃのでな」

イワンコ「それじゃあ、お願いします。ありがとうございました」

ジジーロン「いやいや、お互い様じゃしの。来週にでもまた来てくれるかの」

ミミッキュ「はい」


そんな会話を最後に、僕たちは彼の家を去る。もちろんそこからは何も盗んだりしていない。これからも定期的に尋ねる事になるのだ。そんな事できない。
 ▼ 74 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:37:35 ID:WmToOqec [30/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「よかったね、手掛かり見付かって」

イワンコ「だね。この調子なら、答えもそう遠くないかも」

ミミッキュ「だといいね。……ねえ、答え、見付けたら、どうしたいの?」

イワンコ「え? ……いやさすがに、まだわかんないよ」

ミミッキュ「だよね、変な事聞いてごめん」


そんな会話をしながら、僕たちはアジトへと帰り着いた。
 ▼ 75 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:38:13 ID:WmToOqec [31/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幕章

あたしがその視線に気付いた時、まず胸に躍ったのは、「自意識過剰」の5文字。

あたしを見る人なんて、いるはずがない。

そう思いはするけれど、感じてしまう視線は、どうしようもない。

あたしは家の中、その正体について考えた。

もしかしたら、今のあたしの現状に哀れみを覚えてくれている誰かなのだろうか。

それとも、ただの興味本位。

どちらにせよ、弱り切ったあたしは、そんな感情であろうとしがみ付くより他にない。
 ▼ 76 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:39:29 ID:WmToOqec [32/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
思い切って、あたしは授業中、こっそりとその方向を振り向く。

ど真ん中。どの方角にも等しく人がいるが、見るべき人数が10人近くで済むのは気が楽だ。

幸いにも方角は、目立つグループとは違う箇所。

躊躇いは、薄かった。

そして、彼と目が合う。彼は慌てて逸らしたが、あたしは、バッチリ捉えていた。

岩根広大。何を考えてるかわからない奴、という評判を、メイングループの会話から盗み聞いた事がある。

あたしは、彼が視線の主であるという事実に驚きながら、暖かさを胸に抱きしめた。
 ▼ 77 ンニュート@マグマのしるし 17/03/29 23:46:55 ID:q7KGqdPU NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 78 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:19:17 ID:o.RG/8e6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サーカス プロローグ・1章
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=563304&l=1-40
 ▼ 79 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:22:12 ID:qi0YQ1wY [1/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







3章 襲来のフェローチェ






 ▼ 80 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:22:51 ID:qi0YQ1wY [2/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「という訳で、ウルトラビーストに関して調べる事になったんです」

バクガメス「ほう……。なるほど。俺も聞いた事がないが、とりあえず調べておく。

      みんなにも伝えるぞ、ウツロイドがカギを握る、とな」


アジトに戻って、僕はバクガメスと作戦を練っていた。

なんだかんだ言って、一番頼りになりそうである。

彼は、ふうっと息を吐き出し、それから本を開いた。


バクガメス「俺は今から考え込む。思考の妨害したら燃やすからな」


はい、の返事も躊躇われたので黙り込むと、「返事」と催促が。


イワンコ「はっ、はい!」

バクガメス「ふん」


やりにくい。頼りにはなるが、厳しすぎるのではないだろうか。
 ▼ 81 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:23:53 ID:qi0YQ1wY [3/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とぼとぼと追い出される形で彼の周りを離れる。すると、ヒドイデが興味を示したのか、僕に尋ねて来た。


ヒドイデ「バクガメスさんのとこなんか行って、何話してんだ?」

イワンコ「ああ、記憶の謎について。いろいろ本あるじゃん、あれで調べてるんだって」

ヒドイデ「まああのポケモン、知識は凄いからなぁ。なんだって盗賊なんかやってんだろ」

イワンコ「ん? そういやなんでヒドイデは盗賊やってんの? かわいい彼女もいるってのに」


あそこまで互いに溺愛しているカップルなら、こんな悪に身を堕とす必要はなかったのではないか。

そう思って尋ねた。


ヒドイデ「あー、一応うちじゃ、その質問はカプ……つまる所、タブーだぜ。ま、俺は答えられるけどな。

     駆け落ちして来たんだ、サニーゴちゃんと。行き場がなくって、ここに拾われたんだ」

イワンコ「タブーなんだ。っていうか、カプって言うんだ」

ヒドイデ「ああ。誰がどんな事情を抱えてるか、お前みたいに直接の希望がなきゃ絶対詮索しない。

     これが、ボスの打ち出したうちの掟だ。唯一の、つってもいいな」

イワンコ「なるほどね、ありがとう」

ヒドイデ「んで、成果はどうだった?」
 ▼ 82 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:24:46 ID:qi0YQ1wY [4/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
成果。どれだけの食料を盗めたか。

割と行けたと思う、と答えると、ヒドイデはそりゃ結構、と楽しげに笑う。

動機はどうあれ、彼は、立派な盗賊だった。


ヒドイデ「まあ、それはともかくだ。お前の記憶の謎だよ」

イワンコ「ああ、そっち。バクガメスさんから詳しい説明があると思うけど、ウツロイドっていうウルトラビーストがなんか関係してるみたい」

ヒドイデ「ったく、順応早いよな、悪事に。ま、いいんだけど」

イワンコ「たはは……」


なんて会話をしていると、サニーゴが声をあげた。


サニーゴ「できましたよー!」

ヒドイデ「はーい! ほら、行こうぜ、飯だ」

イワンコ「だね」


2匹、駆け出す。食べられる、と聞くと途端に空腹が襲うのだ。

あー、腹減った。
 ▼ 83 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:25:24 ID:qi0YQ1wY [5/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「「いっただっきまあす」」


ガツガツムシャムシャと、食事を平らげる。

節操もないが、盗賊らしいとも言える。

そしてまた、メシが旨いのだ。

口の中でスルリとほどけて、後には残らないのに食べてる最中はしっかりおいしい。

サニーゴはきっと、ヒドイデのためにと修行したんだろう。

その恩恵を授かれている訳だから、リア充も悪くない。


ミミッキュ「何こっち見てんの」

イワンコ「え、見てた? ごめん」

ミミッキュ「いや別に謝んなくてもいいでしょうに……」
 ▼ 84 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:26:26 ID:qi0YQ1wY [6/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな会話をしていると、バクガメスが立ち上がり、言った。


バクガメス「聞いてくれ。イワンコの記憶の謎だが、ウルトラビーストと呼ばれるべき存在が関わっているらしい」


「来ましたか」とヒドイデが呟いた。

皆、真剣な顔でバクガメスを見詰める中、1匹、ひときわ驚いたような顔を浮かべている者がいた。

その気配が、音で感じられ、僕は彼の――コスモッグの方を見やる。

バッチリ目が合って、慌てて逸らした。

コスモッグは、何かを知っている?


バクガメス「ウツロイド。こいつは調べてもなんもわからなかったが、他にもウルトラビーストはいると考えられる。

      みんな、余力があれば情報を集めてくれ」


そう言って、バクガメスはスープを一息に飲み干した。

それから「ごちそっさん」と呟き、僕には「詳しい流れはイワンコから聞け」とだけ言い放つと、そのまま自らの部屋へと歩き始めた。

恐らく、また本と向き合うのだ。

あれ程の本を、どこから調達して来たのだろう。まあ、本屋から強奪して来たという所か。
 ▼ 85 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:27:55 ID:qi0YQ1wY [7/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サニーゴ「ウルトラビーストってなんですかイワンコさん」

イワンコ「それはよくわからないんだよね。ウツロイドってポケモンに出会ったんだけど……」


僕たちは、今日の出来事について皆に語って聞かせた。

ジジーロンの協力を取り付けた段で、サニーゴが「ええっ?! 凄い!」と感嘆の声をあげる。


ヒドイデ「盗賊なのに、ポケ助けして、あまつさえ味方に、だもんね。でも、僕は一生君の味方だから」

サニーゴ「そんなのわかってるよヒド君……」


サニーゴが顔を赤らめる。本当に、このカップルは懲りない。というか、どうやって今の発言からのろけにつながったのだろう。

ごほん、とひとつ咳払いをすると、2匹は我に返ったようにこちらを振り向いた。


ミミッキュ「いい加減にしてよホント。あーもう爆発しろ爆発しろ……」

ラランテス「ミミッキュ。あんたもいい加減にするんだよ。話を逸らすとかないからね!」

ミミッキュ「あ、すいませんボス……」

イワンコ「でもまあ、そのぐらいなんですよ、わかった事って」

ラランテス「ああ、そうなのかい。ま、仕方ない。これからも頑張るんだよ!」
 ▼ 86 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:28:49 ID:qi0YQ1wY [8/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
こうやって話している間中、コスモッグの方に意識を寄せていた。

唐突なのろけとそれに対する呪詛のせいで妨害されたりもしたが、けれど、ひとつ、疑惑は確信に変わる。


コスモッグ「ふああ……眠いや」


僕たちに割り当てられた部屋の中、コスモッグがひとつあくびをした。

ミミッキュは、もうすやすやと眠っている。寝付きが相当にいいらしい。

ずっとそうだ。この1週間、僕たちが話す間に、もう眠りに落ちている。


イワンコ「ねえ、ちょっといい」

コスモッグ「……何?」

イワンコ「君はウルトラビーストに関して、何かを知ってる。だよね?」

コスモッグ「え? なんで? 別に知らないよ」

イワンコ「コスモッグ、驚いたような顔をしてたよね」

コスモッグ「気のせいじゃない? そんな事ないと思うけど」

イワンコ「まあ、じゃあいいや。お休み」
 ▼ 87 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:30:12 ID:qi0YQ1wY [9/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
隠す。彼はそう決めた。

誰が、どんな事情を抱えて犯罪へ走ったのか。詮索されたくないという以上、そこを突き詰める事はできない。

だってそれは、フラワーズにおける唯一のカプだから。

他でもない、コスモッグはメンバーなのだ。

彼の事情を、詮索はできない。


コスモッグ「あ、うんお休み」


そう彼は返事をして、そのまま太平楽に船をこぎ始めた。


イワンコ「でも、僕は諦めないよ」


小さく、誰にも聞かれないように、胸の内でそう呟く。

幸い誰にも聞かれていないようだった。

すぐに、コスモッグから寝息が聞こえてくる。もう眠ったらしい。僕も、寝よう。

布団の上で丸くなる。すっかりこの藁布団にも慣れてしまった。それに、初めての戦いの疲れもある。

僕は、あっという間に眠りの世界に落ちて行く……。
 ▼ 88 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:32:03 ID:qi0YQ1wY [10/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
朝の陽射しに目が覚めた。

コスモッグはもう既に起きていた。

太陽の光を存分に浴び、気持ちよさそうにのびをしている。


イワンコ「おはよ、コスモッグ」

コスモッグ「ああ、おはよー」

イワンコ「気持ちいい朝だね」

コスモッグ「うん」


会話に困って、そんなどうでもいいような事を話し始める。

互いに、昨日の事をなかったようにしたくて、会話を続けた。
 ▼ 89 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:32:45 ID:qi0YQ1wY [11/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「でもさー。ウツロイドって、誰なんだろうね。僕、初めて聞いたよ」

コスモッグ「さあー。わかんないな」


その瞬間、コスモッグから、ぐう、と間の抜けた音が鳴る。

コスモッグが恥ずかしそうに向こうを見た。


コスモッグ「お腹……空いたね」
 ▼ 90 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:33:52 ID:qi0YQ1wY [12/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
朝食の時間はすぐだった。

サニーゴの穏やかな声に呼ばれ、皆、というよりミミッキュが起き出して来る。


ヒドイデ「ボスまだ寝てんのか。起こして来るわ」

イワンコ「あっ、僕が行くよ」


ヒドイデを制し、したっぱにあたる僕がその役目を買って出た。

ヒドイデは、けれど「やめとけよ……」と怯えたように言う。


ヒドイデ「俺はこのトゲで身を護れるけど、ボスを起こすなんてそんなの……!

     とにかく、俺は盗賊。犯罪者だが、殺しだけはやる気がない。悪い事は言わん、やめとけ」

イワンコ「え、そんな……」


そんなに酷いのか、彼女の寝相は。
 ▼ 91 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:34:42 ID:qi0YQ1wY [13/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこまで言われてしまうと、怖いもの見たさというか、そういう不合理極まりない衝動が胸の内に溜まって来る。


サニーゴ「危険を自ら引き受ける、ヒド君素敵……」

ミミッキュ「爆発しろ爆発しろ……」

ヒドイデ「いや、充分爆発してるから! これを引き受けるだけで充分!

      そんなに言うなら試してみるか? 1発無傷で耐えらえるお前ならなんとかなると思うけどさ」

ミミッキュ「わかったわよ! そのかわり無事に戻って来たら、のろけるのやめてよね!」

ヒドイデ「わかった」

サニーゴ「ヒド君!」


そんなこの世の終わりのような顔を作らない。

ミミッキュはほくそ笑みながら……と言った表情を上半身に浮かべ、ラランテスの部屋へ向かった。
 ▼ 92 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:35:51 ID:qi0YQ1wY [14/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
直後、悲鳴が響き渡る。ヒドイデは「ひいっ!」と悲鳴をあげた。

サニーゴがいたわるようにその背中をさする。


イワンコ「コスモッグ、これ何?」

コスモッグ「僕もわかんない。たまにヒドイデが朝酷い顔でごはん食べてたんだけど、こういう事だったんだ」


僕が来てから、そんな光景は一度も見られなかった。

たぶん、僕の指導が楽しかったのだろう。

それを終わらせてしまうと、楽しみが足りず、朝寝坊、ってところか。


ヒドイデ「最近来ないなって油断してたぜ……。ったく、俺も酷い事しちまったな。

      みんな、ミミッキュのために、せめて祈ろう。安らかに眠れますように。なむなむ」


なむなむ。というより、これを定期的に耐えているヒドイデも凄いと思うのだが。

ミミッキュのばけのかわは、確かに敵の攻撃を一度、無効化する。それに、この悲鳴をあげさせたのだ。

ラランテス、修行の時はやはり手抜きだったのだろう。本気を出すと、敵うはずもなかったのだ。
 ▼ 93 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:37:19 ID:qi0YQ1wY [15/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
皆、瞼を閉じて、祈りを捧げている。

と、声が聞こえた。


ミミッキュ「か、勝手に……ころ……すな……ガクッ」


ラランテス「ふいー! 久々にひと暴れするのはやっぱ気持ちいいね!

       運動したらお腹空いて来たよ! サニーゴ、よろしくね!」

サニーゴ「は、はいぃっ!」


僕は、ミミッキュの様子を見る。

気を失ってはいるが、過度な外傷は見受けられない。

どうにも命の危険はないようで、気を失っているのは精神的な問題ではないかと、僕は読んだ。

だから僕は、気軽に声を掛ける。
 ▼ 94 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:37:59 ID:qi0YQ1wY [16/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「生きてますかー」

ミミッキュ「なんとかね……。半分寝ながらゼンリョクで仕掛けてくるんだもん……ばけのかわを駆使してかわすのが精いっぱい。

      あたしじゃなかったら死んでたね、うん。

      賭けはあたしの負け。でもいつか、あいつらののろけを止めてみせる……」


そういって、彼女は首を折った。

コテン、と可愛らしい音を聞いた気がする。

コスモッグ「あっ……。まあ、無事ではいるみたいだし、大丈夫でしょ」

イワンコ「だね。ケガも浅いし、すぐ治るでしょ」

コスモッグ「うん。それにしても……ぷくく」


僕たちは、顔を見合わせて、笑う。

それはもう、ただ、面白くって。

先程までの暗い会話を吹き飛ばしてしまう程に、僕たちは、笑った。
 ▼ 95 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:39:04 ID:qi0YQ1wY [17/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕はコスモッグに関して触れられないままに、盗賊として仕事をこなした。

そもそも、再びラランテスと宝探しに行ってしまったのだ。

ジジーロンとの約束は、あの日から一週間。

それまでは、何もできない。

仕事をこなしつつ、ウルトラビーストに関しての情報を探るが、まあ、何も当たりは引けない。

そんな風に悶々と過ごしながら、4日ぐらい経っただろうか。

仕事終わりにミミッキュと別れ、情報を探していた時の事だ。
 ▼ 96 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:39:51 ID:qi0YQ1wY [18/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
どこかで感じた事のある臭いを嗅ぎ、僕は警戒を強める。

確か、探検隊リアライズ。

あの時ミミッキュを捜していた探検隊だ。

出会ってしまうと面倒なのだが、それでも、探検隊、となると何かしら情報を持っているかもしれない。

悪人を追いかけるようなチームなのだから、世界を揺るがすような事件につながっているかもしれないという僕の存在に、興味を持たないはずがない。

幸い、まだ僕は、仕事中誰かに顔を見られるヘマはおかしていなかった。

探検隊と話しても、問題はないだろう。

仕事中に、臭いが沁みついていないか。

草むらで何週も転がり、草の臭いを体になすり付け、僕は立ち上がった。ここまですれば大丈夫だ。証拠は、完全に消えたはず。

僕は、リアライズの2匹の臭いがする方へ足を向けた。
 ▼ 97 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:40:54 ID:qi0YQ1wY [19/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラーミィ「……てください! 僕……が、必……てみ……から!」

店主「……」


会話が漏れ聞こえ、ドキリとした。

僕たちが狙った店の入り口で、2匹が会話している。

完全に僕たちの件に関わる依頼だ。

動揺を押し殺し、軽く深呼吸。そして、彼らの方へと歩く。

数歩歩き、向こうもこちらに気付いたらしい。

ニューラが、何かしら僕を見て小さく呟く。口の動きからして、単音を発しただけだ。深い意味はないはず。
 ▼ 98 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:41:30 ID:qi0YQ1wY [20/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


チラーミィ「任せてください! 僕たちが、必ず捕まえてみせますから!」

店主「頑張ってね」


そう言って、彼女は店の扉を閉めた。これから警戒を強めると言っていた。けれど、まあ、恐らく意味はない。

同じ所を2度狙う程、彼らも馬鹿ではないのだ。

まったく、あの時に逃がしてしまったから、事件が広がっている。


ニューラ「ったく、セコイ盗賊の癖して、なかなかどうして逃げるスキルは高いのよね……」


彼女の母親は、本物の盗賊だ。名前を言えば、誰でも知っているような。

だからこそ、彼女はこの事件に入れ込む。

近頃ここら一帯で多発する、盗賊による窃盗事件に。
 ▼ 99 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:42:03 ID:qi0YQ1wY [21/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そもそもの事件の発端は、ヒドイデが盗みを働いている事を店主が発見した事だ。

その店主は、毒を持つトゲにやられ、全治数日のそれなりに酷いケガを負った。

そこから、僕たちはこの街に呼ばれた。

街をあげての対策を推奨したのだが、やはり「俺の店に限って」という心理が働くのか、あまり誰も乗り気にはならず、仕方なく僕たちだけである店に張り込んでいた。

その店からは、もちろん報酬を受け取った。

その内9割はギルドに差っ引かれるという絶望が待っているのだが、それでも、いやだからこそ、貰える物は貰っておきたい。

もちろん、そう多くは貰えない。警戒に出せるお金が少なくなるのは、やはり警戒心の薄さなのだろう。

けれど、この場合に関して言えば、貰えないでもよかったのだ。

だって、結論から言うと、僕たちは彼らを逃してしまったから。
 ▼ 100 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:42:43 ID:qi0YQ1wY [22/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュが盗みを働いているのを発見し、追尾する。

しかし彼女は、ばけのかわを巧みに使いこなして、僕たちを振り切った。

イワンコに情報を聞きダンジョンに突入したが、結局彼女を見付けられなかったのだ。

とぼとぼとそれを店主に報告、当然叱責を受け、僕たちは立場を失った。

今だって店主は笑ってくれたけれど、内心どうなのだろうか。

想像もしたくなかった。
 ▼ 101 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:43:23 ID:qi0YQ1wY [23/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――ひとつ、わかった事があった。

それは、恐らく彼らは、徒党を組んでいる、即ち盗賊であるという事実。

ニューラに言わせると、それで盗賊なんて甘い、との事だったが、僕からしたら徒党を組んで盗みを働くなんて立派な盗賊だ。

彼ら彼女らは、お尋ね者。たとえ白い目で見られようと、僕たちは、捕まえないといけない。
 ▼ 102 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:44:08 ID:qi0YQ1wY [24/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニューラが、「あ」とひとつ呟き、僕は我に返る。


チラーミィ「どうしたの、ニューラ」

ニューラ「あの時のイワンコだ」


イワンコは、こちらに向かって走って来る。

明らかに、僕たち目当てだとわかるような、わき目もふらない、一直線な走り。

どうかしたのだろうか。


イワンコ「お久しぶりです」

チラーミィ「久しぶり。ねえ、いなかったよミミッキュ!」

ニューラ「あたらない。あたしたちの足が遅かっただけに決まってるでしょ」

チラーミィ「それはわかってるけど……あっ、ごめんイワンコ」


イワンコは、困ったような視線をこちらに向けていた。当然だ。彼には、何の非もない。


ニューラ「なんか用でもあるの?」

イワンコ「はい。少し、僕の素性に関して調べて欲しくて」
 ▼ 103 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:46:16 ID:qi0YQ1wY [25/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
自分の素性を調べてくれ。

この発言、どう考えても、自分は記憶喪失だと主張している。

記憶をなくしたポケモンとなると、数匹心当たりがある。

ポケダンズのピカチュウさん、それから救助隊、調査団……。

このピカチュウさんには、ギルドにいた時代、お世話になった。

そもそも、彼が僕のギルド入団の動機なのだ。


ニューラ「記憶喪失かなんか」

イワンコ「はい」

チラーミィ「元ニンゲン……だったりする?」


イワンコの顔に、驚愕が浮かんだ。ビンゴ。僕は小さく呟いて、それから笑う。


チラーミィ「……元ニンゲンで、記憶喪失。何件か知ってるよ、そんな事件」

イワンコ「へぇ……へぇ?!」


一度相槌を打って、それから改めて驚き直したような間が開いた。まあ、そんなものだろう。
 ▼ 104 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:47:15 ID:qi0YQ1wY [26/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
星の停止。世界の時が止まる。そんな事件に身を投じて行った探検隊、ポケダンズ、ピカチュウとナエトル。

彼らはその事件を食い止めた。

現在、ナエトルは既に進化し、サメハダ岩でゴウカザル、エンペルトを加えた4匹で生活している。

目下、目標としている探検隊であり、同時に皆の憧れである。

語りたい事は尽きないが、僕は事件のあらましだけを選んで伝えた。

どこぞの後輩探検隊は、ポケダンズとなると目の色を変えて何時間でも話していたっけなぁ、と少し感慨に耽る。

そういえば調査団の2匹はナエトルとピカチュウのタッグだっけ。改めて考えるとポケダンズさんと同じだ。


イワンコ「……なるほど。あれはそういう」

チラーミィ「あれ?」

イワンコ「ああ、いやいろいろ調べてて。その中でちょっと聞いたんですよ」

ニューラ「で? 素性に関して調べるの?」

イワンコ「できればお願いしたいなって。僕という存在が世界の危機を救う可能性もある訳ですよね」

チラーミィ「うん」
 ▼ 105 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:48:15 ID:qi0YQ1wY [27/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
隕石の衝突、星の停止、世界のリセット、石化。

起きかけた事件は様々だが、すべてにおいてキーとなったのは元ニンゲンのポケモンとそのパートナー。

心配なのは、彼にそのパートナーがいる気配が見えない事なんだけど。

たいてい最初に出会ったポケモンがパートナーとなるのだけれど、石化事件の調査団に関して言うとその限りではないし。


チラーミィ「誰か、こうなってから凄く親しくなったポケモンっている?」

イワンコ「え? まあ、何匹か」

チラーミィ「誰?」

イワンコ「えっと……ジジーロンとか、サニーゴとか」


ジジーロン。この近辺の物知り長老だったっけ。

サニーゴは聞いた事ないが、別に住んでいてもおかしくもなんともないな。


チラーミィ「わかった。僕たちはこれ以上の事を知らないけど、何かわかったら……どこに伝えればいい?」

イワンコ「ジジーロンのとこにお願いします。

     あの、僕が調べた結果なんですけど、ウルトラビーストと呼ばれる生物が何か関わっているんです。

     その中でも、特に、ウツロイド」
 ▼ 106 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:50:39 ID:qi0YQ1wY [28/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラーミィ「ウツロイド……」

ニューラ「……ウルトラビースト?」


ウルトラビースト。聞き覚えがあるような……。


イワンコ「まだ、そのぐらいしかわかってないんですけど、とにかく、僕の記憶の中で、そいつが関わってるんだと思います」


そこで、考え込んでいたニューラが声をあげる。


ニューラ「ウルトラビーストか。あのサーカス団エクリプスの事件のだ」

チラーミィ「エクリプス? あ!」

イワンコ「エクリプス……日食?」

チラーミィ「そう。いろいろと事件があってね」


彼らがとある街でサーカスを伝説のポケモンに見せる事で、日食の際にやってくる、ウルトラビーストの侵略を止められる、という。

僕たちは、この程度の概要しか知らない。けれど、その概要だけでも伝えておこうと思った。
 ▼ 107 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:51:42 ID:qi0YQ1wY [29/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「……ウツロイド、そんな危険な生き物には見えなかったけど……」

ニューラ「もしかしたら、細かい裏はなんかあるのかもしれない。あたしたちが知ってるのは概要だけ。世間一般に知らされたようなね」

イワンコ「……とりあえず、ジジーロンの家、わかります?」

チラーミィ「あー、たぶんわかるよ。街外れの森の近くでしょ?」

イワンコ「はい。お願いします」

チラーミィ「任せときなって。じゃ、僕たちはもう行かないと! じゃあね!」


イワンコはそれに応じ、別れの言葉を言った。

僕たちは振り返ると、歩き始める。そして、会話を始めた。


ニューラ「……なかなか凄い展開になって来たね」

チラーミィ「盗賊を追いかけてる探検隊が、世界の危機に巻き込まれる、か。どうなるのかな」

ニューラ「とにかく、まずはジジーロンの家を特定しよう。だいたいの場所はわかるけど」

チラーミィ「だね」
 ▼ 108 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:52:15 ID:qi0YQ1wY [30/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


少し焦るシーンもあったが、無事依頼完了。

幸い、疑われたような気配はなかった。

恐らく、彼らの情報収集能力は高いはずだ。

そうでなければ、犯罪者グループを追いかけたりできないだろう。

今日の収穫に、僕はにんまり笑みを浮かべながら、アジトへの道を歩いた。

彼らが味方になってくれるなら、これ以上の展開はない。

――と、喜んでいたのも束の間、アジトにてとんでもない事態が発覚する。
 ▼ 109 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:53:20 ID:qi0YQ1wY [31/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
まず初めに感じたのは、違和感だった。

明らかに、気配が足りない。

臭いの強さが、おかしいのだ。

サニーゴだけがここにいるらしい。


イワンコ「サニーゴ!」


声をあげると、すぐに返事がある。


サニーゴ「イワンコ! コスモッグがいなくなったの! 今、みんなで捜してる!」


コスモッグがいなくなった。

何かを知っているコスモッグが。

僕は考えを巡らせ、サニーゴの言葉を遮るように叫んだ。


サニーゴ「ボスと一緒にお宝探してて……気付いたら消えてたって……」

イワンコ「行って来る! 僕は、ハナがきく!」

サニーゴ「私も行きます!」
 ▼ 110 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:53:57 ID:qi0YQ1wY [32/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
2匹がかりで、森の中を捜す。

ラランテス曰く、この森の中ではぐれたらしい。

敢えてここまで戻って来ておいて逃げたのかがよくわからないが、もしかすると、ここにウツロイドが現れたのかもしれない。

だから、逃げた、とか。

だとすると、僕には察しが付く。

彼女の、ウツロイドの臭いは、どこか独特で、かつ嗅いだことのあるような臭いがした。

そんな感覚、未だかつて感じた事がない。彼女を前にした時を除いて。

そう、例えばこんな……こんな?


イワンコ「近いっ!」

サニーゴ「えっ?!」

イワンコ「あいつの臭いがしたんだ! コスモッグじゃない、ウツロイド!」


と、爆音が響く。

僕はサニーゴと顔を見合わせ、頷いた。

それから駆け出す。その音がした方へ。
 ▼ 111 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:54:27 ID:qi0YQ1wY [33/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
白く、長い脚を、ラランテスの鎌が受け止め、そのまま掴み、切り裂く。

白い体躯でとびかかると、ラランテスも飛び上がり、そして鎌と足の衝突。

爆音、爆風。

白いその生き物から、ウツロイドに似た臭いが僕の鼻腔へ届く。

それが、僕の感じた全てだった。


サニーゴ「ボス!」

ラランテス「逃げな! あんたたちに敵う相手じゃないよ!」


それはそうだろう。

白い脚、白い体躯。僕が認識できるのは、その体色のみ。

あまりの素早さに、残像すら見えないのだ。

むしろラランテスが対応している事の方が理解に苦しむ。
 ▼ 112 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:55:00 ID:qi0YQ1wY [34/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
けれど、逃げる訳にはいかない。

恐らく、白い生き物もウルトラビーストの一種だ。

ウツロイドと同じ臭いがするつまり、関わりがある。

その可能性といえば、ウルトラビーストでしかありえない。


イワンコ「そこのウルトラビースト! なんでいきなり戦ってるんだ!」


白いのが、動きを止めた。

その瞬間、サニーゴが頬を赤く染め、それから首を振る。「ダメダメ、私には、ヒド君がいるんだから……」

何を言ってるのだろう。僕は頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。と、その瞬間。


???「あなたもわたくしの美貌に気付けない鈍感体質なの?」


白いのが、僕に向かって言った。
 ▼ 113 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:55:50 ID:qi0YQ1wY [35/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「ふんっ、自分で自分の事を美しいとか言うような奴が美しいもんか」

イワンコ「……はぁ?」

???「でも、あなたの戦い方、美しくってよ。わたくしの蹴りに対応したポケモンは、あなたが初めてですわ」

ラランテス「誉めても何も出ないよ。――いきなり戦いを仕掛けて来た訳、聞かせてもらおうか」

???「まだ決着も付いておりませんが?」

ラランテス「もっとやるかい? これ以上やったら、あたい、止まらなくなりそうだけどねぇ」

???「ええ、是非とも決着を付けたい物です。あなた様の美しさ、もっと味わいたい……」

イワンコ「何の話かさっぱりわかんないんですけど! あなたウルトラビーストでいいんですよね?!」

???→フェローチェ「ええそうよ、鈍感君。申し遅れました、わたくしはフェローチェです」

イワンコ「……ウルトラビーストの一種。ウツロイド、コスモッグ」


フェローチェが、驚いたような顔を浮かべ、それから笑う。

カウントを初めてからちょうど31秒、笑い続けた。
 ▼ 114 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:56:34 ID:qi0YQ1wY [36/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そして、言う。


フェローチェ「なんだ、知ってるんじゃない。コスモッグの居場所」

ラランテス「あたいたちは、コスモッグを捜してる。あいつは、大切な仲間だから」

フェローチェ「……捜してる?」


フェローチェが、不意に言葉を呑んだ。

それから7秒、彼女は言う。


フェローチェ「どうやら、わたくしの早とちりだったようです。わたくしも、彼を捜しています」
 ▼ 115 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:57:33 ID:qi0YQ1wY [37/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それから彼女は、説明を始めた。

僕たちから、コスモッグの気配を嗅ぎ取った彼女は、ラランテスに攻撃を仕掛けた。

以上。それがさっき見た光景までの原因。


イワンコ「それはわかったんですけど、コスモッグとはどういう関係なんですか」

フェローチェ「気付いてるんじゃなかったの? 鈍感君」

イワンコ「何かあるなって思っただけなんですけど」

フェローチェ「……なぁんだ。君、プラフの使い方上手いね」

イワンコ「教えてください。僕の記憶の鍵が、あなたたちウルトラビーストなんです」

フェローチェ「記憶……ああ。ウツロイドのお気に入りの片割れか! この鈍感君がねー。へー」

ラランテス「ふざけてないでとっとというんだよ!」

フェローチェ「ええ、あなた様に免じて、教えてあげますわ。彼は、ある意味で、ウルトラビーストの王子なのです」
 ▼ 116 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:58:37 ID:qi0YQ1wY [38/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「王子? コスモッグが?」


戸惑った声をあげる。

ラランテスが続きを促した。


フェローチェ「ある意味では、ですけどね。厳密に言うと彼は、わたくしたちの仲間なのです。

       今はまだ弱いですが成長すると太陽もしくは月の力を使いこなせるようになれますのよ」

イワンコ「太陽、月」

フェローチェ「ええ。太陽と月が交わる時、彼は産み落とされ、そしてわたくしたちはこちらへ来られるのです」


太陽と月が交わる時訪れる侵略者。リアライズから仕入れた情報と、今の所違わない。

日食が、彼らの訪れるためのトリガーになる。

あのバトルを前にして、侵略しに来たのか、とはさすがに尋ねられない。今わかるのは、たぶん、これが限度だ。

僕はフェローチェに言った。


イワンコ「ありがとうございます。コスモッグ、一緒に捜しましょう」
 ▼ 117 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:59:19 ID:qi0YQ1wY [39/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フェローチェ「いえ、結構です。わたくしたちの問題です。あなた方がどれだけ彼と絆を結んだのかはわかりませんが」

ラランテス「断られても、あたいは捜すよ!」

フェローチェ「別にそれは止めません。けれど、見付かり次第、わたくしたちに引き渡して頂けませんか」

ラランテス「理由は」

フェローチェ「ウルトラビーストとして、この世界をどう思うか。彼に聞かなければなりませんので」

イワンコ「……今んとこ、あなたはどうですか?」

フェローチェ「すごぶるいいですわ。ラランテス様の美しいバトルと出会えて」

ラランテス「そうかい、それは光栄だね」

フェローチェ「ですが、わたくしのみの意見では足りませんので。全ての意見を統合し、この世界を見なければなりません」

ラランテス「まあ、引き渡すかはコスモッグ次第だね」

フェローチェ「それで構いませんわ。それでは、ごきげんよう。わたくしは、コスモッグを捜します」

ラランテス「そっちが見付けても、一回はこっちに連れて来てくれよ」

フェローチェ「わかってますよ」


そう言うと、彼女は飛び去った。

あっという間に姿が消え、後には僕たち3匹だけが残されていた。
 ▼ 118 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 21:00:01 ID:qi0YQ1wY [40/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サニーゴ「はっ! 私、今まで何を!」

イワンコ「何も。どうしたの?」

サニーゴ「……なんで2匹とも、フェローチェの美貌にやられないの? あのフェロモン、♀なのにちょっとヤバかった。

     ヒド君の事を思い出して耐えたけど……」

イワンコ「フェロモン……感じましたか?」

ラランテス「いいや? ちっとも」


鈍感と言われた訳がわかった気がした。

恐らく、彼女は自らのフェロモンに絶対の自信を持っている。

僕もラランテスも気付かなかったからこそ、「鈍感」なのだ。

自分の実力を盲信しているような気もする。気付けない方が異常。

まあ、害がなかったからよしとしよう。


ラランテス「とにかく! 話はわかったよ! コスモッグはウルトラビーストだ!

      でも、あたいたちの仲間でもある! なんとしても見付け出すよ!」

イワ・サニ「おー!」
 ▼ 119 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 21:00:50 ID:qi0YQ1wY [41/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アジトに戻って、皆の話を聞く。

と言っても実入りは何もなく、コスモッグの気配すらなかったという。

僕とサニーゴがあらましを話すと、バクガメスから質問が飛んだ。


バクガメス「なあ、コスモッグがウルトラビーストだってんなら、イワンコ、お前なんも感じなかったのか」

イワンコ「あ、いや、特には……」


けどそうか。改めて考えると、おかしいのだ。ウルトラビースト特有の臭いが、コスモッグからはしなかった。


バクガメス「……太陽か月。そんな伝承があったな。お前が探検隊から聞いて来た、エクリプスだ。

      その伝承だが、ハッキリ言ってしまうと、お前が聞いて来た以上に何かある訳じゃない。

      あいつらは侵略者だ。最近こっちに来てうろついてやがる理由は謎だがな」

ミミッキュ「……だけど、ホントにそうなんですか? ウツロイド、そうは見えなかった」

ラランテス「フェローチェも、そんな悪い奴じゃあなさそうだったよ。まあ面倒な奴ではあったけど」

バクガメス「それを謎だと言ってるんだ! ちったぁポケモンの話聞きやがれ」

ラランテス「ったく……もう少し穏やかに言えないのかい?」

バクガメス「穏やかに言う必要もねぇだろ」
 ▼ 120 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 21:01:37 ID:qi0YQ1wY [42/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「コスモッグが来た時って、どうだったんですか?

     事情を探るのはご法度みたいなんですけど、今回ばかりは何か関連してるかもしれない」


ふと思い立って、口火を切った。


ヒドイデ「……ただ普通に、迷子、助けて、だった気がする」

サニーゴ「ヒド君の言う通りだよ」

ヒドイデ「よかった……」


のろけが始まりそうだったので慌てて遮る。


イワンコ「それであってますか?」

バクガメス「ああ。止めたんだが、ラランテスが……」

ラランテス「困ってるなら助ける。当たり前じゃないか」


盗賊が当たり前の善を語る違和感。

苦笑を押し止め、僕は考え込む。
 ▼ 121 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 21:02:19 ID:qi0YQ1wY [43/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
迷子。どういう事だ?

ウルトラビーストたちから逃げ出しているのかもしれない。このタイミングで姿を消したのは、僕から逃れるためか、フェローチェから逃れるためか。

恐らく、後者だ。自分だから言うのではない。この森まで帰って来て、そこから消息を絶ったというのがその証拠。

僕が怖いなら、もっと遠くで逃げるはず。


バクガメス「ほう、なかなか面白い事言うな。ウルトラビーストから逃げている……。

      一考の価値はある。少し検討してみるわ」


僕が考えを伝えると、バクガメスは考え込んでしまう。
 ▼ 122 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 21:03:01 ID:qi0YQ1wY [44/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「少しは考えてる事を伝えてくれてもいいのに。調べた結果だって、たぶん結論が出るまであたしたちには言わない気だよ」

ラランテス「ホントだよ。あたいたちもいるってのにさ。まあいいや、メシだ! 腹が減っては戦もできないしね!」


その声を合図にサニーゴが立ち上がり、給仕を始めた。

僕はその光景を眺めながら、少し考えてみる。

コスモッグは、何が狙いなんだろう。

盗賊団フラワーズに、なぜ接近して来たのか。

各々の事情を詮索しない。そのタブーが、足を引っ張る。

絶対的に、情報が足りない。僕は、早々に諦めた。

このタイミングでバクガメスは何を考え込んでいるのだろう。何かがわかるとは到底思えないのだが。

思わず、ため息が零れた。
 ▼ 123 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 21:03:59 ID:qi0YQ1wY [45/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幕章

家に帰る。誰もいない、空っぽの部屋に。

あたしの母は、仕事が忙しく、そして自分の新たな恋愛にも忙しくで、あたしに構うヒマもない。

いつから、こうなってしまったのか。わかってはいる。父が死んだ、小5の夏。

あたしは、突っ込んで来た車をかわしきれなかった。

それを、父が助けてくれた。

代わりに、父は――

あれ以来、元々忙しかった母は看護師の仕事により熱心に打ち込んだ。

お金。ひとりの人間を育てるのに、避けては通れない問題。けれど、それに執着し過ぎた結果、子どもの事が目に入らなくなっている。

文句を言うつもりはない。母は、きっと、孤独なのだ。娘の孤独にも気付けない程に。

そう考えて、あたしは、また本を開く。けれど、文字は目を横滑りし、何も入って来ない。

岩根広大。彼の視線が、未だあたしを貫く。

恋、ではない。ただ、純粋に、興味が湧いた。

ううむ、とあたしは唸り、窓の外を眺めた。

冬の冷気が、頭を冷ます。
 ▼ 124 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 21:04:38 ID:qi0YQ1wY [46/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ふと気付く。

闇の夜空に、何か、変なひずみ……?


 ▼ 125 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 21:05:22 ID:qi0YQ1wY [47/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしは、家を飛び出した。

何かが変わるような、そんな訳のわからない予感に襲われて。

そのひずみを目指して、ただ走った。

虹はどれだけ走っても近付けないが、驚いた事に、それはきちんと距離を詰められる。

何もかも投げ出してしまいたい。

あのひずみの中に、全部、ぶち込んでしまいたい。

そんな衝動が、あたしを襲い、あたしはひたすらに走った。

しかし、その道中で、それは消えてしまった。

荒い息を吐きながら、けれど、何かの突き上げるような衝動は、あたしの中に残っていた。
 ▼ 126 ミッキュ@おいしいシッポ 17/03/31 23:31:34 ID:jSFs4ZnU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そいやピカチュウとナエトルも同じ世界のお話だったか
 ▼ 127 ラピオン@やわらかいすな 17/04/01 13:24:59 ID:Q3mY6htY NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 128 ジスチル@ネットボール 17/04/01 16:00:55 ID:aO.iWQpc NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
超絶支援
 ▼ 129 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:03:42 ID:gSqSiRdA [1/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







4章 疑惑のデンジュモク






 ▼ 130 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:04:12 ID:gSqSiRdA [2/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
コスモッグが消えて数日。

探索は続いていたし、その成果は芳しい物ではなかったが、僕には既に、予定が入っていた。

ジジーロンに話を聞くのだ。

アジトを伝える訳にも行かず、勝手にあそこをリアライズの情報送り先に指定してしまったが、大丈夫だっただろうか。

不安ではあったが、僕は、ジジーロンの家へと向かった。

残念ながら、リアライズに対し顔割れしているミミッキュはあの家にもう行けない。

けれど、表世界の拠点なんて、彼の家ぐらいしかないのだ。仕方があるまい。

僕はそう自らを納得させ、彼の家へと歩みを進めた。
 ▼ 131 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:04:55 ID:gSqSiRdA [3/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジジーロン宅にて、ジジーロンは誰かと話していた。

ハッと身構えるのは、盗賊生活で身に付いた悲しい性。

その誰かは、「あっ、この子が依頼主ですか?」とジジーロンに問い掛ける。依頼なんてした記憶がない僕は、へ、と短く問い掛けた。


ジジーロン「イワンコ、彼はワシの友達で、探偵の……」

ジュナイパー「ジュナイパーです。よろしくお願いします」

イワンコ「探偵なんて雇った覚えないですけど……」

ジュナイパー「大丈夫。直接の依頼主はジジーロンだから。君のために、凄く割り引いたとはいえお金出してくれたんだよ」

イワンコ「え? あ、ありがとうございます!」

ジジーロン「構わんよ。して、ミミッキュはどこかの?」

イワンコ「ああ、あいつちょっと今日は忙しいらしくて。僕だけで来ました」

ジジーロン「そうか。よろしく伝えといてくれ」

イワンコ「はい」


その後ジジーロンは、ジュナイパーに僕との出会いを語った。

ジュナイパーは「なるほど、だからいいポケモンと断言してたのか……」なんて納得している。
 ▼ 132 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:06:14 ID:gSqSiRdA [4/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「記憶喪失。その鍵を握るのが、ウルトラビースト……」

イワンコ「はい」

ジュナイパー「君は、どこまで知ってるの?」

イワンコ「えっと……」


僕は、知っている事をすべて話した。

サーカス団エクリプスが侵略を食い止める鍵を握る事。

日食の時に彼らは攻め込んでくるという事実。

しかし、彼らは意外とフレンドリーであり、侵略者という風には到底見えないという感想。


ジュナイパー「ウツロイドが意外と優しそうだったんだ」

イワンコ「だけじゃない、フェローチェも気品系お姫様かっこバトル脳って感じだったけどいて不快じゃなかったし、敵意がある感じでもなかった」

ジュナイパー「……あの赤い奴、乱暴だったけど、今会ったらどうなんだろ……」
 ▼ 133 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:07:40 ID:gSqSiRdA [5/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「赤い奴?」

ジュナイパー「ああ、そうか説明してなかった。僕は、元サーカス団エクリプスのメンバー」

イワンコ「え」

ジュナイパー「言葉にするとひとつの物語になるぐらいの複雑な事情があって僕は妻と一緒に抜ける決心をしたんだけど、

       まあそれは何もウルトラビーストに関係ないから割愛させてもらうね。

       一度、僕が入ってすぐの頃、エクリプスはウルトラビーストの接近を食い止めるために公演をしたんだ。

       でもその時は、エクリプスが鍵を握ってるなんて誰も知らなかった。

       大昔からの伝承が、廃れちゃってたんだよね。親友の提案でサーカスをしたのが正解だったんだけど」

イワンコ「はあ、それで?」

ジュナイパー「その時に、ウルトラビーストに関してそのミリスの街のポケモンから聞いてる最中、襲われたんだよ、真っ赤なウルトラビーストに」
 ▼ 134 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:08:55 ID:gSqSiRdA [6/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「そのビーストの特徴は?」

ジュナイパー「えっと……口が針みたいに尖ってて、凄い筋肉質だった」


そのウルトラビーストとは、まだ出会っていない。残念ながら、まだ上手くつながってはくれないようだった。


ジュナイパー「まだ、モクローだったなぁ、あの頃は」


懐かしむように彼は目を閉じる。

僕にはわからないような経験を、彼はして来たのだろう。今は探偵をしているという。

どうしてその道を辿ったのか。

パーツが上手くかみ合わず、不可思議な絵だけを見せる未完成のジグソーパズル。それが彼だ。


ジュナイパー「エクリプスの居場所……と言うより、エクリプスに所属してる親友の居場所は特定済み。

        ウルトラビーストの狙いが侵略その他こちらに不利な物なら、いつでもとは言えないが、封印自体は可能だ」

イワンコ「はぁ……。あっ、でもそうなると、こっちに来たウルトラビーストたちは……」

ジュナイパー「強制送還って事になるだろうね」

イワンコ「……でも、それじゃ駄目。僕の友達の、コスモッグってポケモンが、実はウルトラビーストらしいんだ」
 ▼ 135 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:09:41 ID:gSqSiRdA [7/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「……友達、ウルトラビースト?」

イワンコ「そうなんだ。だから、ただ封印するだけじゃ……」


今さらながらに思ってしまう。

僕は、彼と特に親しくした訳ではないし、最後の方は緊迫した関係のまま別れてしまった。

共に過ごした時間は、2週間足らず。それでも彼は、僕の友達であり、仲間なのだ。


イワンコ「……だけど、侵略が狙いなら、それは封じないといけない。

     わかってます。そりゃ、そうだ」

ジュナイパー「ここで気になるのは……やっぱり君だ、イワンコ。

       君というイレギュラーな存在が、この件に関して何かしらの鍵を握っているのか。

       記憶の謎は、ウルトラビーストにどう絡むのか」


僕は頭を振った。わからない。
 ▼ 136 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:10:31 ID:gSqSiRdA [8/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「だよね。わかるはずがない。記憶がなくて、わからないからこそ、僕に依頼して来てるんだから」

イワンコ「……とにかく、僕らにできる事と言えば、探す事ぐらいだ」

ジュナイパー「その通り。僕がエクリプスの場所を特定してる間に、少しでも捜索できればいいんだけど」

イワンコ「……頑張ります」

ジュナイパー「ところで、僕“ら”?」

イワンコ「え? あっ」


一瞬動揺を見せてしまう。慌てて言い繕った。


イワンコ「ミミッキュですよ。今はいないけど」

ジュナイパー「……何か隠し事してるんじゃないか?

       ウルトラビーストの一種と互角にバトルする程の仲間がいるというのに、そっちに関して一切の言及がないって」

イワンコ「……ミミッキュ、バトルが凄い強いんです。ばけのかわを駆使して、相手の攻撃をかわすかわす」

ジュナイパー「そう」


ジュナイパーは、一瞬疑いの目をこちらに向けた……ような気がした。

探偵。その第六感は、やはり目を瞠る物があるらしい。前脚の下が、汗で滲む。
 ▼ 137 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:11:11 ID:gSqSiRdA [9/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパーが、ふっと笑う。


ジュナイパー「ま、そんな事はどうでもいいや。僕の依頼主はジジーロン。

        そのジジーロンが君をいいポケモンだっていうんだし、話してて悪いポケモンに見えないのは事実。

        協力させてもらうよ」


心の中で、ほっと息を吐く。まだまだ、彼に関しては、わからない事ばかり。

加えて、冷静に考えてみると、彼が持つ知識は、既に知っていた事ばかりだ。

それでも、ウルトラビーストと接触を持った事のあるポケモンの協力を得られたのは大きかった。

そして、サーカス団エクリプスとのコネ。それを持てたのは、幸運としか言いようがない。


イワンコ「ありがとうございます!」


僕は深く頭を下げて、礼を言った。
 ▼ 138 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:11:55 ID:gSqSiRdA [10/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それから、僕は忘れていた事実を思い出し、言う。


イワンコ「そうだ、ジジーロンさん。探検隊リアライズってここに来ました?」

ジジーロン「ああ、いや知らぬが」


まだ来ていないのだろうか。ジジーロンは、疑問をその顔に浮かべている。

そんな中、ジュナイパーが言葉を紡ぐ。


ジュナイパー「ああ、最近盗賊を追っているっていう、あの」


僕は思わずギクリと身を震わせ、それから何事もなかった風を装い、続ける。


イワンコ「ええ、あのです。協力してくれる事になってるんですけど、情報があればここにって事にしちゃったんです。

     事後承諾になって申し訳ないんですけど」

ジジーロン「ほう! 構わんよ。こんな老いぼれの所でよければ、いつでも使ってもらっても」
 ▼ 139 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:12:43 ID:gSqSiRdA [11/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「リアライズが協力してくれるんだ」

イワンコ「ええ、まあ」


一瞬嫌な予感がする。

けれど、僕はそれを掴めず終わる。


ジュナイパー「なるほど。僕、君たち、それからリアライズ。3者でそれぞれウルトラビーストを追う訳だ。了解」

イワンコ「では、そういう事で、これからよろしくお願いします」


そう言うと、僕はそそくさと逃げ帰った。

なぜか、これ以上あそこにいると、僕が今盗賊であるという事実がバレそうな気がして、怖かった。
 ▼ 140 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:13:26 ID:gSqSiRdA [12/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一抹の不安を抱いたまま、僕はアジトへの道を辿る。

コスモッグがいないか、と捜しはしてみるものの、まあ、無理だろう。

きっと、僕だけじゃ足りない。

気付けば、空は夕闇が広がっていて、僕の吐き出すため息は黒の中に溶けて行った。

上弦の月が辺りを照らす。月の力を手に入れるかもしれないというコスモッグは、今、何を思っているのだろう。

特別な臭いは感じない。

辺りには、植物の臭いが充満するのみ。ビースト独特のあの臭いは、残念ながら、存在していなかった。

とぼとぼと、僕はアジトに帰り着く。

その日も結局、コスモッグは見付からず、僕たちは陰鬱な雰囲気の中夕食を済ませた。

あれ以来、心なしか会話も少なくなったような気がする。

サニーゴとヒドイデすら、その捕食関係に覇気がない。

……もっとも、明るく食べられようが、暗かろうが、あまり見たい物ではないのだけれど。
 ▼ 141 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:14:10 ID:gSqSiRdA [13/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「あー! みんな、そんな暗くなったって仕方ないだろう?! 元気だしな!」


そうやって声をあげるラランテスに、ミミッキュが小さく反応する。


ミミッキュ「そうは言っても……全然見付からないしコスモッグ」

ラランテス「だから捜してるんだろう? 腹が減ってちゃ何もできないよ!」

バクガメス「ラランテスの言う通りだ。とにかくみんな、食え。それとイワンコ」

イワンコ「はい」


そろそろ水を向けられるだろうなと予測していた僕は、慌てる事なく答えた。


イワンコ「ウルトラビーストにまつわる物語を聞かせてくれ、ですよね。でも、駄目です。あなたが調べた以上の情報“は”ない」
 ▼ 142 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:15:15 ID:gSqSiRdA [14/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「は、か」

イワンコ「はい。元エクリプスのメンバーで、現在は探偵をやっているジュナイパーと知り合いました。

     協力してくれるそうです。ウルトラビースト捜し。

     まず、ジュナイパーはサーカス団エクリプスの場所を探るそうです。

     と言っても、心当たりはあるらしいんですけど」

バクガメス「上出来だ。味方は多いに越した事ないからな」


怒鳴り声を聞かずに済んで、ほっと嘆息する。

そうしていると、ミミッキュが問い掛けて来た。


ミミッキュ「ねえ、そっちの方面から、ウルトラビースト、見付かりそう?」

イワンコ「わからない。今は、まだ」


どこかのタイミングでまた、ジジーロンの家に行かないといけない。

ジュナイパーと情報を共有するためにも。
 ▼ 143 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:16:22 ID:gSqSiRdA [15/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
夕食を終わらせて、僕とミミッキュは床に就く。

それから空を見上げ、ため息を吐いた。


ミミッキュ「コスモッグ、どうしてるんだろ……」


空いたベッドに、未だ慣れない。

短期間とは言え、僕は、この3匹で一緒に寝ていた。ここに来てから、ずっと。


ミミッキュ「ねえイワンコ。あんたさ、コスモッグの事、なんか知ってんの?」


唐突な疑問符。僕は、え、と彼女を振り向く。

事情はすべて説明したはずだ。だとすると、彼女はそれ以上の何かを疑っているのだろうか。


ミミッキュ「ウツロイド見てあんた動揺してたけど……ねえ、ウルトラビーストなんでしょ? 記憶の手掛かり。

      だったら、イワンコの過去に何かある」

イワンコ「それはわかってる事だろ」

ミミッキュ「……だよね。けど、心配で。ねえ、あんたってさ――

      誰かと本気でつながりたいって思った事、ある?」
 ▼ 144 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:17:24 ID:gSqSiRdA [16/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「え?」


小さな疑問符に、彼女は声をあげた。


ミミッキュ「あんた、思い出そうともせず、探してばっかりなんだもの! もっと、こう、思い出そうと必死になってよ!

      手掛かりがなくったって、考えられるでしょ?!

      ……あたしも、考えてるけど、全然だから……」

イワンコ「どうしたの急に――」

ミミッキュ「知らない」


そう言って、彼女はこちらに背を向けて眠りに就いた。

どうしたのだろう。僕だって、真剣に考えてるし、それは彼女もわかってるはずなのだけれど。
 ▼ 145 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:19:16 ID:gSqSiRdA [17/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







――誰かと本気でつながりたいって思った事、ある?






 ▼ 146 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:19:56 ID:gSqSiRdA [18/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目を覚まし、それから今日も、捜索を再開する。

昨日のケンカなどなかったかのように、ミミッキュは普通に話し掛けて来た。

きっと、不安定なんだ。コスモッグがいなくなって、彼女は、相当に堪えている。


ミミッキュ「イワンコ、今日も捜そう」

イワンコ「だな。でもちょっと、バクガメスさんに聞いてからにしないか?」

ミミッキュ「何かわかったかって? まあ、ずっと本読んで、ミリスの伝説に関して調べてはいるらしいけど」

イワンコ「うん。だから、その結果を聞きに、ね」

ミミッキュ「それもそっか。やっぱり、わかってる事は多ければ多い程いいしね」
 ▼ 147 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:21:00 ID:gSqSiRdA [19/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「アルセウス」

イワンコ「はい?」


尋ねた所、帰って来たのはその単語だった。

どこかで聞き覚えがある――と思っていると、解説が始まった。


バクガメス「創造神だ。けれど、今はもう、この世にいないらしいな。伝説では」

ミミッキュ「どうして? 関係あるんですか?」

バクガメス「あるかどうかはわからない。けどな、ビーストたちの世界の成り立ちも、遡ればそこに辿り着くんじゃねえかと思って。

      ビンゴだ。関連は、ありそうだぞ」

イワンコ「なんですか、それって」

バクガメス「詳しい事はわからんから言わん。もう少し詰めるためにも、今日は俺もUBを捜す。

      記憶の謎も、消えたコスモッグの謎も、全部、カギを握るのはUBだからな」

ミミッキュ「教えてください、途中でもいいから」


ミミッキュが即座に切り返す。バクガメスは、チラとそちらを見やった。
 ▼ 148 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:21:44 ID:gSqSiRdA [20/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
緊張が覆う。そして、バクガメスはふっと息を吐くと、言った。


バクガメス「駄目だ」

ミミッキュ「なんで?!」


バクガメスは、敬語にうるさい。それを知っていてなお、彼女はタメで迫る。

バクガメスは、顔をしかめた。


それから、何を思ったのか、彼は、ニヤリと笑う。


バクガメス「上に納得できなくてもキチンと抗える、そういうの、いいと思うぜ。

      ひとつ言うとするなら、お前らに余計なバイアスを植え付けたくない。それだけだ。

      ウルトラビーストは、敵なのか否か。先入観は、何も見せてはくれない。幻想だけだ。その先にあるのは」

イワンコ「何か、そんな過去が?」

バクガメス「それはタブーだ。イワンコ、もういいだろ。捜しに行け、コスモッグを」


僕の発言は、どうやら甘めには見てくれないらしい。
 ▼ 149 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:22:30 ID:gSqSiRdA [21/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「せめて、捜すヒントだけでも教えてください」

バクガメス「……ない。お前らは接触してるだろうが、俺はゼロだ。むしろお前らに聞きたいぐらいだ」

イワンコ「そうですか。わかりました。行こ、ミミッキュ」

ミミッキュ「だね」


頷き合って、それから僕たちは、アジトを飛び出していった。
 ▼ 150 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:23:18 ID:gSqSiRdA [22/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕たちは、森の外へと出張って行く。

ミミッキュは顔の表情を変えてしまった。自分の能力で布に顔を浮かび上がらせると言うが、なかなかにない能力だろう。

変装にはうってつけだが、残念な事に結局ミミッキュである事自体を隠せてはいない。

けれどまあ、しないよりはマシだろうか。

僕は嗅覚を頼りに辺りを探る。ウルトラビーストの臭いが紛れ込まないか。コスモッグの臭いは、残念ながら覚えていないけれど。

そして、もし見付けても、僕たちの実力じゃ撃退されて終わりだ。

だから、結局は助けを呼ばなければならない。


ミミッキュ「――ちょっと聞いて来てよ。一応、あたしはお尋ね者だからヤバいし」

イワンコ「うん」


その辺を歩いているポケモンに、僕は声を掛けた。

変わったポケモン見なかった? と。

返答は、芳しいものではなかった。

肩を落とし――落とす肩もないけれど――街を歩く。
 ▼ 151 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:23:49 ID:gSqSiRdA [23/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
後から合流して来たミミッキュは、お尋ね者なのにも関わらずあまりおどおどしていない。


ミミッキュ「むしろ平然としてればいいの。ミミッキュ、珍しいけどいなくはないし」

イワンコ「個体違いね。それを演出するための顔か」

ミミッキュ「まあね。あんま意味ないけど――」


その瞬間、悲鳴が聞こえた。

僕はミミッキュと顔を見合わせ、それから頷く。

何かあったのだ。もしかすると。

僕はその家、いや、レストランに立ち入った。


イワンコ「どうかしましたか?!」
 ▼ 152 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:24:33 ID:gSqSiRdA [24/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
コック「ああ、どうしよう……食料を無駄にした……ただでさえ盗賊に狙われてメシ不足だってのに……」


申し訳ない。


イワンコ「無駄にしたって?」

コック「電気が止まったんだよ急に! 調理中で、ちょっとの火加減のミスが命取りだってのに……」

イワンコ「それは……ご愁傷様です」


とは言ったものの、停電か。

期待外れだ。ウルトラビーストの手掛かりがあるかもしれないと思っていただけあり、僕は正直気落ちした。
 ▼ 153 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:25:31 ID:gSqSiRdA [25/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「停電だって。まあ、すぐ収まるでしょ。なんたって、電気タイプのポケモンが非常時には頑張ってくれそうだし」


外に出て、僕は彼女にそう言ったけれど、ミミッキュは考え込んでしまう。

そのように見える、というレベルでしかないのだが、確かに彼女は考え込んでいた。


ミミッキュ「ねえ、発電って、どうやってやってるのかな」

イワンコ「え? そりゃ、ポケモンがやってんじゃねえの……ん?」


僕も遅ればせながら、違和感に気付く。

停電になんて、なるのだろうか。そう簡単にはなるはずがないだろう。

なにせ、自らの体を用いて発電しているのだ。純粋にバテるような欠陥システムは使われていないだろうし、だとすると……


イワンコ「発電所が襲われた」

ミミッキュ「そうなるよね。捜しに行こ、ボスかバクガメスさんを」
 ▼ 154 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:26:04 ID:gSqSiRdA [26/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幸いな事に、2匹はすぐ見付かった。

同時に行動していたのだ。

嗅覚を活かし、彼らの臭いを辿ると、当然ながらそこにいた。


イワンコ「停電らしいです。発電所が襲われたかもしれない。

     関係してるかはわからない。けど、あたる価値はありそうだと思いませんか」

バクガメス「……停電、電気が止まったのか」

ミミッキュ「急ぎましょう! 発電所、どこですか?!」

バクガメス「着いて来いラランテス!」

ラランテス「わぁってるよ! 行くよ!」


そう言って2匹は、僕たちを置いて駆け出した。

え、と慌てて追いかける。
 ▼ 155 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:26:50 ID:gSqSiRdA [27/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「ちょっと待って――」

バクガメス「来るな! お前らには、危険過ぎる」

ミミッキュ「だけど! コスモッグの手掛かりがあるとしたら? あたしも行かせてください!」

ラランテス「わかったよ! けど、自分の安全を一番に考えるように!」

バクガメス「おい!」


ラランテスに向かって彼は怒鳴る。

何バカな事言っているのだ。2匹で充分だろう。

それに対し、ラランテスは言い返す。


ラランテス「そうかい? あたいには、2匹とも、なかなかのセンスがあるように見えるけどね。

      危機察知能力の高いイワンコ、ばけのかわで攻撃を受け止め、その間に逃げおおせられるミミッキュ。

      もちろんあたいには及ばないにせよ、危険から離してるだけじゃ、あんたの目的も達成されないだろう?」

バクガメス「こいつらは違うだろ! ……とにかく、危険だ」


今、なんて言った? 目的?
 ▼ 156 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:27:31 ID:gSqSiRdA [28/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「だーかーら! 危険に対抗する能力はあるって言ってんだよ!

      それに、あたいを誰だと思ってるんだい?」

バクガメス「あーはいはい。ボスの仰せのままに」

イワンコ「あの、目的って――」

バクガメス「……お前には関係ない話だ」


そう言って、彼は前を向いて歩き始める。

僕はミミッキュと顔を見合わせた。彼女も、疑問符を頭の上に浮かべている。


ラランテス「置いてくよ! あんたたち!」

イワ・ミミ「あっ、はい!」


慌てて後を追う。
 ▼ 157 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:28:14 ID:gSqSiRdA [29/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
発電所は、森を離れた、街の北部にある。

道中、発電システムに関してバクガメスからの解説があった。


バクガメス「あそこには、電気タイプの野生が集まって来る何かがあんだ。

      それに目を付けたお偉いさんが、そこで発せられる電気を街全体へ供給するシステムを作った。

      蓄電も容易だ。どうやってんのか、てんでわかんねえが、すげぇ技術を持ったポケモンもいるってこった」

ミミッキュ「野生が集まる? ねえ、それってまさか……」

バクガメス「そのまさかだ。発電所は、不思議のダンジョンさ」


不思議のダンジョンを発電所にしてしまうその根性が尊敬ものだ。

けれど、そこが襲われたとするならば。


バクガメス「記述によると、電気を放つウルトラビーストがいるらしい。

      そいつのせいでショートしたか、あるいは電気を奪っているのか……。

      可能性は、ゼロじゃない。ゼロじゃない以上、行くべきだ」
 ▼ 158 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:29:08 ID:gSqSiRdA [30/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そして、発電所……もといダンジョンの入口に到着した。

ガルーラ像が置いてある他、一般ポケモン立ち入り禁止の札も掲げられている。


ラランテス「さ、準備が出来次第行くよ。それとイワンコ」

イワンコ「はい?」

ラランテス「あんたの鼻は一級品。リーダーを務めてくれ」

イワンコ「はい?!」

ラランテス「なぁに! あたいが命を懸けて護ってやるから、安心しな! 危機回避能力を期待してるだけさ!」


そう直截的に言われるとそれはそれで傷付く。

けれど、実際ウルトラビーストと互角に張り合えるのは、ラランテスぐらいなものだ。

バクガメスは、どうだろうか。

ミミッキュは恐らく厳しいはずだ。僕も無理。


イワンコ「わかりました。骨は拾ってくださいよ」

ラランテス「ありがとね」
 ▼ 159 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:29:57 ID:gSqSiRdA [31/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「だ、大丈夫?」

イワンコ「ま、ボスの強さは知ってるし。言った事を翻すキャラでもないし」

バクガメス「無駄口を叩くな」


ダンジョンの中を進んで行く。

順番は、僕、ラランテス、ミミッキュ、バクガメス。

いざとなったら後ろからラランテスが敵に向けて攻撃をしてくれる事になっている。

僕はだから、敵の臭いを察知し、場所を入れ替わるだけでいい。

いいのだけれど、なんとも複雑である。

しかし、まあ僕は、ウルトラビーストも臭いで捜し当てられる……はずだ。

コスモッグは無理だったが、ウツロイドもフェローチェにも、似たような臭いを感じた。

今度の奴はどうなのか、それともウルトラビーストですらない何かなのか。

ラランテスが、また敵を倒した。

鮮やかなリーフブレードに、僕は何も言えなかった。
 ▼ 160 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:30:58 ID:gSqSiRdA [32/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「どうだい? ウルトラビーストがいる気配とか、感じないかい?」

イワンコ「どうでしょう……ない……あっ!」

ミミッキュ「どうしたのイワンコ?!」

イワンコ「ウルトラビーストの臭いだ……」

バクガメス「臭い、か。なんも変わってねえような気がするが……イワンコの嗅覚は大概のポケモンより優れてるってこった」

ミミッキュ「臭いなんて感じないのは、あたしもです」

イワンコ「じゃ、僕だけなのか……。近いっ!」


唐突に、その臭いが強まる。

気のせいか、ぱちぱちと何かが爆ぜる音もする。


ラランテス「のようだね。あたいもなんか、聞こえるよ」

バクガメス「最奥部。戦うにはちょうどいいじゃねえか」

ミミッキュ「イワンコ、下がって。攻撃を受けるのは、得意だから」

イワンコ「わかった」


女子に隠れるのもどうかとは思うけれど、事実僕は無防備だ。ここは大人しく、影から隙を狙った方がいい。
 ▼ 161 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:32:34 ID:gSqSiRdA [33/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「出て来いウルトラビースト! お前はもう包囲されている!」


バクガメスが声を張り上げ、ビーストを挑発する。

僕とミミッキュは彼の後ろに控えつつ、その様子を窺っていた。

ラランテスが追随して叫ぶ。


ラランテス「電気を奪うなんて、許された事じゃないよ!」


――ちなみに、僕たちは盗賊である。断じて警察ではない。


影から何者かが姿を現す。

黒い、コードのような体に、白い金平糖のような形の何かが頭に付随したフォルム。

そして、件のあの臭い。間違いない、ウルトラビーストだ。
 ▼ 162 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:33:24 ID:gSqSiRdA [34/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
???「ったく、なんすか。こんな大量に電気あるじゃん。

   ちょっとぐらい分けてくれたってバチは当たんないすよね」

バクガメス「ちょっとじゃないのが問題なんだ。てめぇ、どんだけ街の奴らに迷惑掛けたかわかってんのか?!」

ラランテス「コスモッグについても聞かせてもらうよ!」

???「コスモッグ……お前らっ!」


そいつは、5本のコードを大地に突き刺し、頭のあれから電気を放出した。

バクガメスの硬い甲羅がそれを辛うじて弾き、僕とミミッキュはそれに守られた。

被弾したラランテスはしかし、4匹の中から誰よりも早く立ち上がり、そして飛びかかった。
 ▼ 163 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:34:25 ID:gSqSiRdA [35/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
???「なっ! 早っ!」

ラランテス「いきなり電撃は卑怯じゃないかい?!」


そう叫んで、ラランテスはその鎌でそいつに斬りかかる。

それはラランテスめがけて電気の攻撃を放出した。

ラランテスの顔が苦悶に歪み、けれどそのまま攻撃を決めた。


ラランテス「……上手いね。ダメージを逃がしやがった」


何があったのかはわからないが、そう言うからにはそうなのだろう。


バクガメス「援護するラランテス!」


バクガメスが放つ『かえんほうしゃ』は、確かにそいつに届く。が、いかんせん、バクガメスは鈍足が過ぎる。

そいつはコードを地面から引き抜くと、寸前で回避してみせた。

その隙を狙い、僕は駆け出す。ミミッキュも一緒だ。

そしてそのまま僕はふいうち、ミミッキュはかげうちを繰り出す。
 ▼ 164 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:35:13 ID:gSqSiRdA [36/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それを見たそいつはコードを地面に突き刺す。

僕たちは攻撃を決めると――コードが衝撃を吸収したのか、感覚はあまりなかった――慌てて戻って行く。

もともと、そういう技だ。ある程度の射程がある。

そのお陰で、電撃の攻撃は大打撃にならなかった。けれど、それでも深手は負った。


イワンコ「うぐっ!」

ミミッキュ「イワンコっ!」


ばけのかわが全ての攻撃を受け止めたお陰で、ミミッキュは無傷だ。ただ、頭部がだらしなくこてっと倒れている。

ラランテス、バクガメスはそいつを見据えていた。


バクガメス「くらえっ!」


彼の頭部へ向けた攻撃を、そいつは回避する。
 ▼ 165 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:35:57 ID:gSqSiRdA [37/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「それから敵は体を5本地面に突き刺しそこから電気を吸収そして――

 ???「うるさいっすねぇ!」

      放出。こいつの攻撃のトリガーは地面に体を突き差す事ででもそうしていると敵の攻撃を回避できないだからその抜き差しの速度をあげて対処するつまるところこいつの生命線はスピードと――

 バクガメス「こんにゃろ……」

      足だよバクガメス! 足を狙うんだっ! 足さえ止めればもう何も怖くない!」

バクガメス「おうよっ!」


炎が噴き出し、そいつがコードを抜いた、その瞬間に直撃した。

最後まで地面に残るのは、足だ。末端部は、確かに狙い目だろう。

1本の足が焼け焦げていた。


???「うぐうっ?!」
 ▼ 166 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:36:48 ID:gSqSiRdA [38/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「今です!」

ラランテス「言われなくとも!」


僕が叫ぶ。ラランテスがそれに従い、跳んだ。

その鎌を振りかざし、1本に叩き付ける。地面と鎌で挟まれたその腕が、妙な音を立てる。


ラランテス「コスモッグに関して、聞かせてもらうよ」


???「どうやら形成不利っぽいっすね。しゃーなし。降参っす。

   コスモッグの何を知りたいんすか?」

ラランテス「あんたらウルトラビーストの狙いだよ。どうしてこっちに来た」

???「コスモッグじゃ……」

バクガメス「それもだ。答えろ」

???「えー! メシ食ってるとこに突撃されて、こんな扱いっすか?!」

バクガメス「そのメシの量が問題なんだ! 街中が電気切れで困ってるんだぞ!」

???「あー、それはすまんっす。もう、腹減って、腹減って。気付いたらここでこうやって贅沢に食べちまって」
 ▼ 167 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:37:22 ID:gSqSiRdA [39/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「まずお前、種族はなんだ」

???→デンジュモク「デンジュモクっす。ウルトラビーストの」


どことなくチャラい彼の名は、デンジュモクらしい。

彼はコードの体をくねらせ、それからラランテスの鎌から抜け出した。


デンジュモク「あらよっと。とりあえず、電気は返します」

バクガメス「いや、この戦いで放出された分で充分だ。後は勝手に蓄えられるしな」

デンジュモク「そっすか。よかったー」


安堵した声を出したデンジュモクに対し、ラランテスが鋭く言い放った。


ラランテス「地面から吸い取った分を放ってただけでもかい?」


ギクッ! と目に見える程動揺したデンジュモク。

彼は大人しく、電気を放出して行った。
 ▼ 168 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:37:55 ID:gSqSiRdA [40/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
デンジュモク「あー……どうすりゃいいんすか、俺のメシ……」

バクガメス「リンゴだ、食うか?」

デンジュモク「いや、電気が欲しいっす……」

バクガメス「ポケマメだ、食え」

デンジュモク「ん? ……それ、旨そうっすね」


ポケマメと言われたそれの臭いを嗅ぐと、それだけで気が遠くなりそうだった。

あまり強くはない臭いであるが、少し意識した途端余りのかぐわしさに興奮する。

口の中によだれが溜まっていたのを、慌てて飲み下した。

ポケマメ、いつかは食べてみたいものだ。


ミミッキュ「何あのおいしそうなマメ……」

イワンコ「ホントだよね……」

デンジュモク「うっまーーー! この世界こんなうめえもんがあるとか、アクジのおっさんにも教えたらねえと!」
 ▼ 169 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:38:39 ID:gSqSiRdA [41/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「アクジのおっさん?」

デンジュモク「ああ、ウルトラビーストは、8種類いて、今こっちには、1種を除いた7種各1匹が来てるんす。

       俺も、アクジのおっさんも、コスモッグもその内の1匹。アクジキングの事っすね」

イワンコ「ウツロイド、フェローチェ」

デンジュモク「ああ、そいつらもっす。後はカグヤさん、ツルギだな。

       正式名称、テッカグヤとカミツルギ。バカみたいにデカいのがカグヤ姉さん、そこに一緒にいる紙みたいに薄い剣がツルギっす。

       ほんっと、いつもいつもあいつらいちゃいちゃしやがって……」

バクガメス「それはいいんだ。お前らの目的はなんだ?」


バクガメスが、声色を変えて問う。デンジュモクは少し躊躇った後、こう言った。


デンジュモク「こんな旨いもんもらっちまって申し訳ないんすけど、それだけはダメっす。

       ここは、他のウルトラビーストの特徴を教えたって事で、手打ちにしてくれないっすか?」

ラランテス「どういう事だ――」

バクガメス「構わんよ」
 ▼ 170 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:39:40 ID:gSqSiRdA [42/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕とミミッキュ、それからラランテス。

3匹揃って一斉に、バクガメスを見やる。


バクガメス「その代わり、もう少し細かな特徴を教えてくれ。お前の他のウルトラビーストが、何に心を惹かれるのか」

ラランテス「あんた! 何言ってんだい!」

バクガメス「俺の推測が間違ってなきゃ、これが一番だ。それと、デンジュモク。コスモッグ捜しに協力してくれ。

      この2つだ。これをお前が誠意をもってやってくれるなら、目的に関して聞くのは勘弁してやる」

デンジュモク「助かるっす。コスモッグ捜しは……フェローチェが必死こいて捜してるっすけど」

ラランテス「知ってるよ。とにかく、バクガメスの質問に答えな」

デンジュモク「わかったっすよ! だから脅さないで欲しいっす!」


鎌をチラつかせるラランテスに、僕は苦笑を浮かべた。
 ▼ 171 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:40:14 ID:gSqSiRdA [43/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
コスモッグ:つかみどころのない少年。友達が欲しい

ウツロイド:楽しい事を求める天真爛漫な少女

フェローチェ:美を追求する戦闘脳お嬢様

デンジュモク:省略

テッカグヤ:巨体。両腕に竹のような噴射装置を持っている。何を求めるかは不明だが、カミツルギといられればそれでいいのではないか

カミツルギ:小さい。全身が刃物のようになっている。テッカグヤと以下略

アクジキング:何でも食べる黒い塊。満腹感を求める


デンジュモク「一応マッシブーン……まだこの世界には来てないビーストも説明しとくっす」


マッシブーン:力を追及する筋肉バカ


イワンコ「ちなみにあなたの欲しいものって?」

デンジュモク「……光、っすね。この世界、太陽と月が綺麗っす。元いた世界には、そんなのがないっすから」
 ▼ 172 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:41:09 ID:gSqSiRdA [44/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「でも、コスモッグは将来、太陽か月の化身になるって……」

デンジュモク「ああ、でもあの2匹はあくまでも化身。初めて向こうに行った時にその力だけを受け入れただけっすから」


バクガメス「なるほどな。了解した。帰るぞ」


バクガメスは聞きたい事をすべて聞いたのか、振り返ろうともせずに歩き始め、それから言う。


バクガメス「腹減ったんなら、こっから西の方にあるエレキ平原にでもいったらどうだ?

      電気の野生がいっぱいいるし、困らねえぞ」

デンジュモク「あざーっす!」


と、この瞬間、ずっと歯噛みするような悔しげな顔を描き出していたミミッキュが言った。


ミミッキュ「ボス! これでいいんですか?!」
 ▼ 173 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:41:59 ID:gSqSiRdA [45/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しかし、ラランテスは、黙って頷く。


ラランテス「……バクガメスになんか考えがあるみたいだ」

ミミッキュ「ボス!」

ラランテス「あたいたちが考えても仕方ないよ、ミミッキュ。行くよ!」

ミミッキュ「−−っ」

イワンコ「……もう、約束したんだ、仕方ない」

ミミッキュ「コスモッグ……どこにいるのよ……」


嘆きは、空に溶けていく。彼女の声は、泣いていた。
 ▼ 174 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:42:35 ID:gSqSiRdA [46/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幕章

スマホで、さっきのひずみを必死で調べていた。

何か、あたしを変えてくれるものがあるはず。

その一心で、検索を続ける。

アインシュタインの相対性理論で出るひずみは恐らく、消えてしまうものではない。

何か、空の裂け目のような感じだったのだ。

空の裂け目、で検索を掛ける。

すると、ひとつのゲームの話が出て来た。


――ポケモン不思議のダンジョン、空の探検隊。


いや、関係はないだろう……そう思いはするけれど、どことなくフィクションめいた何かの方が正しい気がするのだ。

いきなり現れて、消えてしまうひずみ。現実に起こり得るとは、到底考えられない。

あたしの幻覚か、超自然的な何か。
 ▼ 175 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:43:21 ID:gSqSiRdA [47/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日、その疑念をぶつける相手を持たないあたしは、今日も存在を消す。

ただ、視線だけは岩根君を追っていた。

彼は、またこちらを窺っているようだ。

このもどかしい関係性に終止符を打ったのは、図書室での事だ。

声を掛けたのはあたし。無視されても構わなかった。

ただ、あたしを無視する事を強要するメイングループは、きっとここには来ないはず。

おしゃれなカフェで恋バナしたり、ゲーセン言って遊んだり。本を読むという現実逃避なんて、彼らには不要なのだ。
 ▼ 176 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:43:57 ID:gSqSiRdA [48/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ねえ、岩根君」

「……やっぱり、気付いてたんだ、久瀬」


彼は、ぶっきらぼうに本を閉ざすと、あたしを向き直る。


「……怖くないの? あたしと話してるのバレたら、あんたもハブだよ?」

「怖い? むしろ面白いぐらいだよ。人をけなさないと立てない弱さを観察するのはね」


彼は、立ち上がると、本をかばんにそっと入れた。


「とりあえず、場所を移そう。部室に来てよ」

「何部?」

「文芸同好会」
 ▼ 177 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:44:34 ID:gSqSiRdA [49/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
部室で、あたしはずっと、黙りこくっていた。

話すという事が久しぶりだったのもあるけれど、彼も何も話さないのだ。

別に彼が好意を持ってくれているだなんて思っていない。

ないけれど、もう少し会話してくれるもんじゃなかろうか。


「何読んでるの?」

「ミステリー。この作者大好きでさ。この暗い雰囲気と、読後のカタルシスが半端ない」


タイトルをチラと見る。そして頭に叩き込んだ時。


「読む?」

「あ、いいの?」

「いいよ。その代わり、君が読んでる本見せてよ」

「わかった」
 ▼ 178 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:45:10 ID:gSqSiRdA [50/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしのお気に入り。どうにもならない運命を変えるため、フィクションのような世界へ旅立って行った少年の物語。

彼の最後の言葉が、どうしようもなく胸に響いたのだ。


「あー、なるほどね。作者は知ってるけどこれはスルーしてた」

「もったいない! ホント、感動もんだよこれ。ちょっと泣きかけたもん、普段泣かないけど」

「じゃあ、貸し借りって事でいい?」

「うん」


この本が、あたしのフィクション的世界観に対するハードルを大幅に下げていたのだ。

岩根君に貸した本の中の主人公は、自らの好きなゲームに少し似た世界を旅する事になる。

あたしは別にポケモンが好きな訳ではない。けれど、そんな事があったっておかしくない。

世界はいつだって、少し、不思議に出来ているのだから。
 ▼ 179 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 19:46:08 ID:gSqSiRdA [51/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
……と思っていると、借りた本がまさにそう。S、Fを意識した物語だったのだ。

作者は、ドラ○もんが好きなのだろうか。

「ところでさ」とあたしは話を持ち掛ける。


「ポケモン、やってたりする?」

「いや……好きなの?」

「いや、別に。ただ、急に懐かしくなって」

「変なの。まあでも、好きな人なら、ひとり知ってる。ここの先輩、小林先輩が大好きだよ」

「へえ」


小林先輩。フルネームは、小林 久(ひさし)というらしい。

いずれ機会があれば、彼に尋ねてみたい。ポケモンにおいて、空の裂け目ってどんな感じですか?

そんなのを、あたし見たと思うんです。

バカにされるだろう。構わない。あたしはもう、慣れている。
 ▼ 180 マルス@ライトストーン 17/04/01 20:24:16 ID:V.2uToJo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 181 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:57:58 ID:nE37tYMA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サーカス団編 2章
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=563304&l=43-74

43から74です
 ▼ 182 イパム@こうらのカセキ 17/04/03 00:10:44 ID:7ZcS9xYA NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 183 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:36:26 ID:WDT65Pwg [1/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







5章 コスモッグの合流






 ▼ 184 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:37:01 ID:WDT65Pwg [2/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アジトへ帰還して、それから数日は、何も変わらない日常を過ごした。

ただひたすらにコスモッグを捜索し、他のウルトラビーストとの接触を図る。

その成果がでる事はなく、数日。

異変が起こった。
 ▼ 185 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:37:44 ID:WDT65Pwg [3/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
まず初めに感じたのが、例の臭いだ。

僕は、ミミッキュにそれを伝え、警戒を促した。

他のメンバーたちの臭いも混ざっている。

そしてこれは……。


イワンコ「コスモッグ?」

ミミッキュ「え?」

イワンコ「コスモッグの臭いがするんだ」

ミミッキュ「嘘!」

イワンコ「ホントだ。急ごう!」
 ▼ 186 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:38:38 ID:WDT65Pwg [4/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
急いでその臭いを辿る。

アジトへの道と重なるその道を辿ると、僕の嗅覚が間違っていない事がハッキリとわかる。

確かに、コスモッグはいる。

他の、1匹のウルトラビーストもいる。

恐らく、その場所はアジトだ。

僕たちのアジトに、コスモッグは帰って来ている。

僕はミミッキュを見る。

彼女の上半身に、笑みが浮かんでいた。
 ▼ 187 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:39:22 ID:WDT65Pwg [5/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「ただいまおかえりコスモッグ!」

イワンコ「いるんだろ! コスモッグ!」

サニーゴ「2匹ともお帰り! そうよ、コスモッグが帰って来たの!」


僕はミミッキュと顔を見合わせ、頷く。


イワンコ「食堂にいるんだ」

サニーゴ「うん。来て!」


食堂に駆け込むと、その臭いが強くなる。


コスモッグ「イワンコ、ミミッキュ!」

ミミッキュ「コスモッグ、よかった……よかった……」


ミミッキュの下半身、点のような目から涙が零れる。


コスモッグ「泣かないでよミミッキュ。君に泣かれたら、僕も……」
 ▼ 188 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:40:03 ID:WDT65Pwg [6/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一方、僕は辺りを見回す。

臭いから、ウルトラビーストがいるのは間違いない。けれど。

誰が、そこにいる?

ウルトラビーストの、一体誰が?

この場にいるフラワーズのメンバーは、僕たちとコスモッグとサニーゴだけ。

他にいるのは……


イワンコ「あ、ウツロイド……」

ウツロイド「やっほー。久しぶりー、ミミッキュ、イワンコ」


ウツロイドか。

彼女は、まだ何がなんだかわからない内に出会ってしまった事もあり、詳しく何かを追及する事はできていないはずだ。
 ▼ 189 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:41:29 ID:WDT65Pwg [7/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼女は笑うように体を震わせて言う。


ウツロイド「フェロちゃんからコスモッグ預かってさー、コスモッグがここに帰りたがってたからって」

コスモッグ「ホント。意外にみんな、こっちの事……っと」

ミミッキュ「どうかした?」

コスモッグ「ごめん、なんでもない。それより、急に消えちゃって、ごめんね。フェローチェから逃げたかったんだけどさ、まあ足はっやくて」

サニーゴ「あれは凄かったよねぇ。ボスと張り合ってた」

コスモッグ「……ボス、あれと張り合ってたのか……」

ウツロイド「足の速さでフェロちゃんとかー。凄いねーそのポケモン、会ってみたいなー」

イワンコ「まあ、ここに残ってれば会えるし。しばらく残ってれば? 俺たちに危害を加える事はないんだろ? コスモッグの対応からして」

コスモッグ「脅されてるだけかもよ?」

ウツロイド「やだなー、そんな事する訳ないってば。わかってるクセにー」

コスモッグ「冗談だよウツロイド」


知ってはいたが、まざまざと見せつけられた。コスモッグは、ウルトラビーストの一種だ。間違いない。

その上で、彼女らとではなく僕たちと共にいる事を選択した。それがコスモッグの答え、なのだろうか。
 ▼ 190 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:43:19 ID:WDT65Pwg [8/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ウツロイド「そのフェロちゃんと張り合ったポケモンってのも気になるし、あたしもしばらくここにいるー」

サニーゴ「どうぞ。歓迎します。コスモッグの友達なんでしょう?」

コスモッグ「まあね」

イワンコ「あれから大変だったんだぞ? お前捜しの道中、デンジュモクともバトルする事になったり」

コスモッグ「デンジュモクと?!」

イワンコ「ボスとバクガメスさんが大人しくさせたけど」

コスモッグ「はー、2匹とも、やっぱ強いね」

ウツロイド「あたしとバトルした時、イワンコはすぐ倒れちゃったけどねー」

イワンコ「……悪かったな」

ウツロイド「あたしとバトルしたら、どっちが勝つのかなー」

サニーゴ「ううん……わかりませんね……」

ウツロイド「ま、バトルなんてメンドーだししないけど」


そう言って彼女は、笑うかのように体を揺らした。

コスモッグが呆れ顔でそれを見詰める。
 ▼ 191 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:43:52 ID:WDT65Pwg [9/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
正直な話、聞きたい事は山ほどある。

けれど、何が彼女の琴線に触れるかわからない。

ラランテスもバクガメスもいない今、僕たちに攻撃されたら為す術も無いだろう。

今はじっとしておく。そして、2匹が戻って来たら、質問するのだ。

皮肉な事にというか、ウツロイドの疑問がそれで解決してしまう可能性もある。

もし2匹が歯も立たない程に強かったとしたら、僕はもう、諦めて泣くしかない。


ミミッキュ「どした? 考え込んで。記憶について?」

イワンコ「……まあ、そんなとこ」
 ▼ 192 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:45:12 ID:WDT65Pwg [10/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サニーゴがかいがいしく料理を作り、その間僕は、コスモッグと話していた。

ミミッキュはサニーゴを手伝っている。ウツロイドは散歩に行ってしまった。

まあ迷子になる程バカではないというコスモッグの言葉を信じ、僕はここにいる。


コスモッグ「それで、僕がいない間、ウルトラビーストと一悶着どころか二悶着ぐらいあったみたいだけど」

イワンコ「ああ。お前を捜す事になるのはわかるよな。

     そんな中、ボスとフェローチェが出くわして、高速バトル」

コスモッグ「それなんだけど、フェロモンにやられなかったの?」

イワンコ「フェロモン? そういや、サニーゴがなんか言ってたような……」

コスモッグ「イワンコ、まさか君も……」

イワンコ「うん、僕には効いてない」

コスモッグ「それでもボスの戦いを誉めてた。美しかったって。

      ……まさか張り合うレベルだとは思わなかったけど」


ハハッ、あれは……ポケモン基準でもおかしいらしい。
 ▼ 193 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:45:43 ID:WDT65Pwg [11/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
コスモッグ「それで? デンジュモクとも? 必死こいて捜してたフェローチェはともかく、電気探してふらついてたらしいのに」

イワンコ「だからだよ。停電起こしたんだ。発電所の電気軒並み奪って」

コスモッグ「停……デンジュモク、マジっすか」

イワンコ「マジっす。まあ、彼からいろいろと情報は引き出したけど。

     具体的に言うと、各々のウルトラビーストが、何を望んでいるのか」

コスモッグ「……さっすがだ。バクガメスさん、正解に近付いてるよ」

イワンコ「そうなのか?」

コスモッグ「それ以上は、言えない。全員の取り決めだから。でも大丈夫。君たちは、正しい道を進んでる」

イワンコ「取り決め、ねぇ……」
 ▼ 194 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:46:30 ID:WDT65Pwg [12/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
コスモッグ「まあでも、君たちの中にイワンコは入ってないかも。

      記憶の謎……ごめん、それは僕にもわからない。これはホント」

イワンコ「……まあ、それはいいよ。にしても、こんな話した事、あったっけ」

コスモッグ「ないね。忙しかったってのもあるだろうし、ウツロイドと君が出会ってから、いろいろあれだったから」

イワンコ「……よくわからない。どう考えればいいのか。太陽どころか月すらない闇夜を進んでるような感じだよ」

コスモッグ「太陽、月……」

イワンコ「そういやコスモッグ。どっちになりたいんだ? 太陽の化身か月の化身」

コスモッグ「うーん、どうだろ。考えてないんだよね」

イワンコ「へえ」

コスモッグ「そーいや、イワンコといえば、君も太陽と月の力をモロに受けて進化するって聞いたよ?」

イワンコ「……僕が?」

コスモッグ「うん。太陽、月。……難しいよね」


自分も、太陽と月に関係のある種族なのか。

コスモッグと同じか、むしろその下に付く存在なのかもしれない。
 ▼ 195 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:47:24 ID:WDT65Pwg [13/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「……記憶に関して、ウツロイドに聞いてみるよ。

     他のウルトラビーストじゃ、ああ動揺はしなかった。

     ウツロイドが、カギを握ってるのは間違いない」

コスモッグ「だね。ウツロイド、何しでかすかわかんないとこあるからなぁ」


同感だ。無邪気さは、傍から見ると危うい。なまじ力が強い分、その感触は強まる。


コスモッグ「ウツロイド。神経毒を注入して、120%の力を引き出す代わりに半分操ってしまう。

      そんなウルトラビーストなんだ」

イワンコ「へえ……へぇ?!」


衝撃の事実に、僕は目を瞠る。コスモッグが、やっぱり知らなかったか、と呟いた。


コスモッグ「最近はそれも抑えられてるけど、昔はそれで、大惨事を起こした事もあるらしいんだ」

イワンコ「そう……なんだ」

コスモッグ「それが、関係してるのかもしれないね。君の過去に」

イワンコ「……かもね」
 ▼ 196 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:48:17 ID:WDT65Pwg [14/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒドイデ「コスモッグが戻って来たってホントか?!」


唐突に現れて、声を掛けて来たヒドイデ。

コスモッグはニコっと笑って言った。


コスモッグ「黙っていなくなっちゃって、ごめんね」

ヒドイデ「ごめんじゃねえよ! 心配したんだぞ!」

コスモッグ「……ありがと、心配してくれて」


僕は何も言わず、ただそこに佇んでいた。

コスモッグが事情を説明する。フェローチェから逃げたけれど、結局掴まって、引き渡された。

どうして逃げたのかに関して言及はなしだ。ヒドイデは尋ねたが、それは言えないの一点張り。

ヒドイデは仕方ないとため息を吐いて、それから言った。


ヒドイデ「困った事あったら、言えよ? 黙って消えたりする前にさ。俺らみんな、力になるから」

コスモッグ「ありがとう!」
 ▼ 197 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:49:28 ID:WDT65Pwg [15/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒドイデ「まー、あれだな。後はウルトラビーストの目的と記憶との謎だけだな」

イワンコ「うん。でも、肝心要のウツロイドが今このアジトに……いるかわかんないけど、少なくとも夜には来るから」

ヒドイデ「ああ?! それマジかよ! 俺、まだ1回も会った事ねぇからなウルトラビースト、こいつ以外。どんななんだ?」

イワンコ「見た目に共通点なんてほっとんどないよ。臭いは同じだけど僕しか嗅ぎ分けられないし」

ヒドイデ「ううむ、性格は?」

イワンコ「ウツロイドは無邪気だね」

コスモッグ「フェローチェは高貴、デンジュモクはチャラ男。テッカグヤはユーモラス、カミツルギは真面目、マッシブーンは筋肉バカで、アクジキングは腹ペコ」

ヒドイデ「ほう。そのアクジキングとやらも、サニーゴちゃんの料理ならきっとお気に召すだろ」

コスモッグ「お気に召しても足りないと思うよ。なんでも食べて、お腹が埋まらないんだから」

ヒドイデ「…………」

イワンコ「満腹かぁ」
 ▼ 198 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:50:16 ID:WDT65Pwg [16/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
コスモッグ「実際、あるのかな。そんなアクジキングを満腹にさせられるような便利な食べ物」

ヒドイデ「さあ? でもまあ、そいつを満腹にさせる方法よりも、お前の記憶の鍵を握ってそうなウツロイドだろ」

イワンコ「ま、それもそっか」

コスモッグ「ふーん」

ヒドイデ「なんだよ。もしかして、お前アクジキングを満腹にさせる何かを見付けたいのか?」

コスモッグ「まあね。向こうでも割とお世話になったし」

イワンコ「まあ、余力があればだな。盗賊だと、大っぴらに活動できないのが辛いとこ」

ヒドイデ「バクガメスさんならなんか知ってるかもな。相談してみれば?」

コスモッグ「だね。そうしよ」
 ▼ 199 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:51:12 ID:WDT65Pwg [17/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな風に話していると、サニーゴが呼びに来た。


サニーゴ「ごはんできたよ! もうみんな揃ってる、急いで。それと……ヒド君、よかった」

ヒドイデ「ホントだよ。無事見付かってな」

コスモッグ「たは」

イワンコ「行こうぜ。冷めちまう」

コスモッグ「うん。ひっさしぶりだなぁ、サニーゴのごはん!」


僕たち4匹は、足取りも軽く食堂へ向かった。
 ▼ 200 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:51:53 ID:WDT65Pwg [18/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテスが、食べ始めようとしたみんなを遮る。


ラランテス「コスモッグ、お帰り。聞きたい事はいろいろあるけど、まずはたんと食べな!」

コスモッグ「はい!」

ラランテス「それからウツロイド、あんたもだよ! 話、聞かせてもらうからね!」

ウツロイド「はーい」

ラランテス「止めて悪かったね。じゃ、みんな……」

みんな「いただきまあす!」


活気がある。

心配事が減り、純粋に楽しめる、久々の食事だ。

コスモッグじゃなくても、久しぶり。
 ▼ 201 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:52:36 ID:WDT65Pwg [19/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「うーん! やっぱみんな揃ってのごはんっておいしい!」

サニーゴ「だよね」

コスモッグ「なんだよー当てつけみたいにー」

ミミッキュ「当てつけてるもん」

コスモッグ「なんだとぉ?!」

ミミッキュ「ま、いいよ別に。帰って来てくれたし」


ワイワイガヤガヤと、着実に食事は減って行く。


イワンコ「ウツロイド、乗っかれてるか、このテンションに」

ウツロイド「うーん、まあ、コスモッグとの再開が大事っぽいしねー」

イワンコ「ま、そうだ。ウツロイド、でも遠慮する事はないぞ。お前なら、楽しめると思うわ」

ウツロイド「だろーねー。あたしも、そろそろ話そうと思ってたとこだし」

イワンコ「ん? 何を?」

ウツロイド「おしゃべりに何とかあるのー?」

イワンコ「あっ、はい」
 ▼ 202 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:54:04 ID:WDT65Pwg [20/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ただのおしゃべりか。

ウルトラビーストのおしゃべりってどんなのか興味はあるが、考えてみればコスモッグと今まで普通に会話している時点であんまり僕たちの基準とズレたもんではないのだろう。

現に、コスモッグをきっかけに、躊躇う事なく彼女は会話の輪に加わって行った。


ミミッキュ「気が重いね。こんないい人を、問い詰めないといけないなんて」

イワンコ「ホントだよ。もっと違う出会いだったらよかったのに……」


お皿の上から全ての料理が消え去り、僕は頭を振った。


イワンコ「でも、探らないといけない。狙いもまだハッキリしてないし」

ミミッキュ「わかってるよ。だけど……ウツロイド見てると、どことなく安心するっていうか、なんだか、あたしの心の支えに近いというか」

イワンコ「ふぅん。僕は逆に、思いっきり心掻き乱されたけどな。ま、もう慣れたけど」

ミミッキュ「ま、それもこれも、ハッキリさせるのが、今なんだよ」

イワンコ「だな」


ウツロイドがコスモッグに習って、ごちそうさまー、なんて言っている。

おいしそうに体を揺らすと、ラランテスに向き直った。
 ▼ 203 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:55:06 ID:WDT65Pwg [21/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ウツロイド「聞きたい事があるんでしょー? 無理な事もあるけど、できるだけ答えるよー」

コスモッグ「僕も、なるべく答えます」

バクガメス「ああ。場所を移そう。サニーゴ、片付けを頼む。ヒドイデも手伝ってやれ」

ヒドイデ「俺たちはいちゃ駄目なんすか?!」

バクガメス「駄目な訳じゃない。ただ、情報を何も全員で聞く必要もない。当事者と、思考担当、腕力担当がいれば充分だ。

      皿洗いだって、大事な仕事だ」

サニーゴ「ほら、ヒド君行こ? 私たちだけでゆっくりできるんだし」

ヒドイデ「それもそっか」

ミミッキュ「2匹も呼ぶべきです」

バクガメス「あのなぁ……」


……何も言うまい。

僕、ミミッキュ、ラランテス、バクガメス、それからコスモッグにウツロイド。6匹で、庭に出て行った。
 ▼ 204 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:55:55 ID:WDT65Pwg [22/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「イワンコ、ミミッキュ。質問はお前らがしろ。俺が聞き取る。暴れ出すようならラランテスが止める。

      まあ俺の推測が正しけりゃ、そんな事まずねぇだろうが、念には念だ。お前らじゃ、ウツロイドには敵わないだろ」

ウツロイド「前勝っちゃったしねぇ」

ミミッキュ「わかりました。ボス、よろしくお願いします」

ラランテス「ま、任せときな。あたいの出番がない事を祈ってるよ」

イワンコ「ウツロイド。単刀直入に聞きます。人間って知ってますか?」

ウツロイド「ニンゲン……? って何?」

イワンコ「2足歩行で、体毛が全然なくて、力がない代わり文明を築き、頭脳で世界を支配してる種族。

     ここにはいない。だけど、僕にはその記憶がある」

ウツロイド「文明……」

コスモッグ「僕はわかんないよ。わかんない事わかってると思うけど」

ミミッキュ「だろうね。反応なしだったし。元はポケモンじゃないって伝えた時」

ウツロイド「あー! あれか!」

イワンコ「知ってるの?」

ウツロイド「うん。……あれは、忘れられないな」
 ▼ 205 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:56:35 ID:WDT65Pwg [23/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――

誰かを、殺した事、ある? あたしはあるよ。

絶対に忘れられない。あの出来事は。

――頬にかかる血の味。

――絞り出すようなうめき声。

彼女の目には、どこまでも、怯えが広がっていた。

あたしが、これをやった。そう思った瞬間、あたしの中で、何かのタガが外れたの。


――あたしは、絶対に忘れない。あの日、あの時、あの場所を。

――
 ▼ 206 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:57:05 ID:WDT65Pwg [24/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「……え?」

ウツロイド「これが、ニンゲンにまつわるあたしの記憶だよー。これ以上でも、これ以下でもない」


訳も解からず立ち竦む。ウツロイドの語った、悲惨な物語。

僕の心の中を激しく揺さぶるかと思いきや、そうでもない。

ただ、どうしようもない恐怖が、軽く胸を去就した。


ミミッキュ「これって……」
 ▼ 207 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:58:11 ID:WDT65Pwg [25/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな最中、バクガメスが、唐突に叫んだ。


バクガメス「おいテメー、殺したってどういう事だ」

ウツロイド「え? 殺したってそのままだけどどうかしたのー?」

バクガメス「ぶっ殺すぞ、明確に答えろ」


バクガメスの静かな激昂に、ラランテスを除く4匹が困惑を浮かべる。

怒鳴る事は多々あった。それでも、沈黙の持つ不気味さは、いつもの比ではない。

殺害。許されない事なのは確か。けれど、どうしてバクガメスは、そこまで怒るのだ?


ウツロイド「あたし、もう誰かを殺したりとかしないもん」

バクガメス「もうとかそういう問題じゃねぇ。ふざけんな」

ラランテス「バクガメス」


鋭い制止の声が飛ぶ。


ラランテス「あんたはもう、警察やめたんだろ」
 ▼ 208 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:59:15 ID:WDT65Pwg [26/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
警察? とバクガメスを見やった。

彼はそれ以上を拒むかのように腰を下ろす。

しんと静まり返った空気の中、ラランテスが明るく言った。


ラランテス「悪かったね。続けて」


僕は我に返り、ミミッキュをこづく。

ミミッキュも倒れたばけのかわを建て直し、それからウツロイドに向かって言った。


ミミッキュ「ウツロイド、あなたは、殺す以外に何もしてないの?」

イワンコ「ほら、誰かをポケモンにするとか」

ウツロイド「そんな力はあたしにもないよー。うーん、そーだねー、何かしたって程でもないかな。ただ、生きてただけー」

イワンコ「そっか。……じゃあなんで、僕は君を見て、あんな動揺してたんだ」

ウツロイド「さー。何かあったんじゃない? 記憶がないんでしょー」

イワンコ「まあね」
 ▼ 209 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 20:59:54 ID:WDT65Pwg [27/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ウツロイドは、俺たちの方を見て、体を震わせた。


ウツロイド「自然に思い出せる時が、来ると思うよー」

イワンコ「やっぱり、何か知ってるのか?!」

ウツロイド「たぶんねー。でも、自信はないし、合ってたとしたらまだ、耐えられないと思うよー」

ミミッキュ「耐えられない……?」

イワンコ「それって……?」

ウツロイド「あたしが言えるのは、これだけだよー。他に何か気になる事ある?」

バクガメス「……お疲れ様。お前らはもういいよ。さっきはすまなかった。

      最後にひとついいか?」

ウツロイド「いいよー」
 ▼ 210 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 21:00:29 ID:WDT65Pwg [28/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメスが訊いた質問は、予想外なものだった。


バクガメス「この世界のポケモン、好きか?」

ウツロイド「うーん、うん! みんな大好きだよー! ミニリュウと遊んだり、みんなと一緒にごはん食べたり」

バクガメス「そうか。ならいいんだ。ありがとう」

イワンコ「あ、ありがとう」

ミミッキュ「ありがとうございます」

ウツロイド「いいよー、そんな改まってお礼言わなくても。それじゃ、あたしはもう行くねー。

      コスモッグをよろしくー」


そう言うと、彼女は姿を消してしまった。

あっという間の出来事だった。


イワンコ「コスモッグ、ウツロイドはどこ行ったの?」

コスモッグ「さあ。ほんっと、天真爛漫な自由ビーストだからね」
 ▼ 211 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 21:01:16 ID:WDT65Pwg [29/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「まあ、それはそうなんだけど……バクガメスさん、警察って何の事ですか?」

バクガメス「チッ」

コスモッグ「……セコイですよ、そういうの。僕たちに質問するんなら、教えてくれたっていいじゃないですか」


恩の売りっぱなしを嫌う。どこかで見た事あるような考え方だ。

バクガメスが、ううむと唸り声をあげる。


ラランテス「正論を黙殺する程愚かな♂じゃあないだろうね?」

バクガメス「ああもう! わかりましたよ!」


イライラと、しかし彼はこちらを向いて、言った。


バクガメス「俺の過去は、全員に関連がある。この盗賊団成立の由来だ。

      ラランテス、お前の過去にも、触れざるを得ないぞ」

ラランテス「わかってるさ。どこまで話すかは、あんたに任せるよ」
 ▼ 212 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 21:02:22 ID:WDT65Pwg [30/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幕章

翌日も、あたしは、文芸同好会の部室へと足を運んだ。

小林先輩とも、岩根君とも会いたい。

それに、あたしが貸した本を、どれだけ読んでくれたのかも気になる。

昨日岩根君から借りた本は、それなりに読み進めた。

自分を偽る事により、誰とでも親しくできる主人公。

彼女とある少年が、親しくなっていく。

その存在が、あたしとどことなく重なって見えて、心が震わされた。

まだ、全体の4分の1も読んでいない。けれど、掘り出し物を発掘したような感覚に、あたしの心は少し上向いた。


「どう? 僕の本」

「面白いよ。そっちは?」

「うん。迫って来るね。このリアリティは、さすがだよ」
 ▼ 213 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 21:03:05 ID:WDT65Pwg [31/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「入部希望か?」


不意に後ろから声を掛けられて、ひっと短く悲鳴をあげる。

「あ、いやその……」としどろもどろになりながら答えようと焦ると、岩根君が言った。


「先輩、いきなり後ろから人に話し掛けるのやめてください。あの、彼女ですよ。ハブられてる」

「ああ……なるほどね」

「彼が小林先輩。なんか聞きたい事あるんじゃない?」


彼が。

あたしは振り向いた。
 ▼ 214 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 21:03:49 ID:WDT65Pwg [32/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
どことなく、獣めいた風貌。まず抱いたのは、そんな感想だった。

改めて見返すと、メガネの奥の目はきりりと引き締まり、制服がうっとうしいと言わんばかりに首元を外していた。


「久瀬さんだっけ。どうかした?」

「ああ、いやその……バカバカしい事なんですけど、先輩ってポケモン好きですよね」

「うん? 好きだけど、なんで?」

「あたし、ちょっと、変なひずみを見かけまして」


慣れている。慣れているはず。

――そんなはずがないだろう。

やはり、孤立は怖い。孤立そのものというより、その道のりが、少しずつ回りが離れていくその感覚が怖い。
 ▼ 215 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 21:04:43 ID:WDT65Pwg [33/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ひずみ?」

「はい。空に現れたと思ったら、消えちゃって。それでいろいろ調べてたら、空の探検隊ってゲームがヒットして……」

「久瀬、何言ってんの?」と岩根君が呆れたように声を掛けて来る。

「ポケダン空、となると空の裂け目……いや、でもそれにもっと該当するのが、ポケモンにはあるよ。まあ、関係あるかはわかんないけど」

「ええっ?! マジにしちゃうんですか?!」


あたしも、正直同じ感想だ。もっと、鼻で笑われると思った。ただ、最初にヒットしたフィクションだったから、それに縋っただけ。

唖然として見詰めていると、彼は懐かしそうに目を細め、言った。


「世の中には、そんな奇跡が、あってもいい。でも、なんでポケモンだと思ったの?」

「最初に検索にヒットしたから……。なんだか、それが正解だって気がして」

「ハハ、なるほど。そりゃあいい。ところで、ポケモン知ってるの?」

「いや、ピカチュウとポッチャマぐらい……」

「典型的なポケモン知らない俺たち世代だな。……懐かしいな。っと」
 ▼ 216 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 21:05:40 ID:WDT65Pwg [34/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「で、先輩。もっと該当するのってなんですか?」とあたしが問うと、先輩はこう言った。

「去年発売された、ポケットモンスターサン、ムーン。そこに出てくる、ウルトラビーストっていうのが、ひずみから現れるんだ」


ウルトラビースト。聞いた事はない。


「ありがとうございます。とりあえず、調べてみます」

「うん。何があるかはわからないけど、まあ気が済むまで頑張れ。

ところで……入らない? 文芸に」

「あ……考えときます」
 ▼ 217 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 21:06:28 ID:WDT65Pwg [35/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
帰宅して、とるものもとりあえずスマホへ直行。

そしてウルトラビーストに関して調べてみる。

その後、「サンムーン ひずみ」で画像検索を掛けると、そこに正解があった。


「これだ……」


あたしが見た、そのままの光景が、ゲームの中に再現されている。

どこかの祭壇のような場所に、主人公と思しき人が立って、それを眺めている画像。

震えるまま、あたしはそれに関して調べて行く。

ソルガレオ、ルナアーラ。それぞれが司る力と逆の時間に祭壇に行くと、それが開いている。

この場所に、なぜそれが現れたのか。納得のいく説明が付けられる気はしない。

けれど、それは、確かにある。あたしの中で、塗り潰せない程に膨らんだその確信は、あたしを窓に向かわせた。

もしかしたらまた。そんな、無謀な願いを込めて、あたしはその姿を捜す。


――信じられない事に、再びそこには、そのひずみがあった。
 ▼ 218 1◆J44kAZeDOM 17/04/03 21:07:00 ID:WDT65Pwg [36/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
慌てて外へ飛び出し、それめがけて歩を進める。

待って。消えないで。

あたしを変えてくれる、ウルトラビースト。

ひたすらに走った。息があがる。苦しい。けど走った。

あたしのヒーローが、そこにいる。そんな気がする。

ああ待って。消えないで。


――あたしは、その真下に辿り着く。
 ▼ 219 ュカイン@きいろいかけら 17/04/03 21:30:02 ID:qn4y8psE NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 220 クロッグ@ビスナのみ 17/04/04 17:20:34 ID:KyAcsGlg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 221 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:12:48 ID:GHkOfw2I [1/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







6章 バクガメスの悔恨






 ▼ 222 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:13:39 ID:GHkOfw2I [2/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕たちは一同に会し、彼の言葉を待った。

バクガメスは、ふうっと息を吐き出して、それから言った。


バクガメス「本当に悪いポケモンなんて、実はどこにもいない。どっかのギルドの親方のセリフだ」

――

俺は、確かに元警察だった。

将来を嘱望された、いわばエリートさ。ジバコイル保安官とは今でもたまーに呑みに行く。

そうさ。あいつは知ってるんだ。盗賊団フラワーズの活動を。知っていて、見逃してもらってる。

俺が考えた、理想が詰まってるからだ。警察じゃあ救えない奴を、俺が救う。そんな動機で、俺はここを作った。
 ▼ 223 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:14:13 ID:GHkOfw2I [3/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「警察でも……救えない?」


ふん、警察ってのは、よくも悪くも権威主義だからな。

事件が起こる前には動けないし、起こったとしても、強者に靡(なび)いちまう。

多数の声を尊重するのは大事だ。けど、少数を黙殺するのは違う。

事件を解決する中で、そんな事を考えて来たよ。

親を誰かに殺され、生きていく術を失い、誰かから奪う以外に活路を見いだせなかった♂。

♀だからって虐げられ、♂をたぶらかす事にしか活路を見いだせなかった奴もいる。

そんな中で、一番大きかったのは、あるヌメルゴンとの出会いだ。
 ▼ 224 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:14:56 ID:GHkOfw2I [4/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――話は過去に遡る。

バクガメスの記憶の中で、黒いヴェールに包まれたもの。


ジバコイル「ヌメルゴン ヲ事情聴取シテ欲しいノデスガ」

バクガメス「ヌメルゴン? あの暗い沼地の傷害事件か。了解した」


俺は、ヌメルゴンの待つ牢屋へ向かった。

彼はそこで、うつむいていた。


バクガメス「おい、起きろ。事情聴取だ。全部、正直に話してくれ」

ヌメルゴン「ああ、はい。うん。僕、テールナーと約束したから、正直に話しますよ」

バクガメス「テールナーか。ああ……チームエンドレスだな。プクリンのギルド所属の」

ヌメルゴン「はい。あの中のテールナーも、いじめられてたらしくって」

バクガメス「あー、そういうのは聴取で語ってくれ。行くぞ」

ヌメルゴン「はい」
 ▼ 225 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:15:27 ID:GHkOfw2I [5/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼は、本当に何ひとつ隠さなかった。

動機は、いじめに対する復讐。

進化して力を手に入れたのは、そのためだ。

エンドレスというチームのテールナーというメンバーが、いじめられて、それを庇ったポケモンに二次被害が及び、自殺した。

その話が、彼の胸に届いていた。

そして、俺は違和感を覚えた。

警察がやっている事って、なんなのだ。事情も鑑みず、やった事実だけで全てを判断する。

過程は、無視だ。所定の罪さえ償わせれば、仕事は終わる。

けれど、それでいいのか。否、いいはずがない。
 ▼ 226 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:17:19 ID:GHkOfw2I [6/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこからは、速かった。

どうすればそういう辛い境遇のポケモンを救えるのか。

考えた結果がこれだ。そういうポケモンを集めて、力を付けよう。

ひとつひとつの声は小さいかもしれない。けれど、合わされば、その力はホエルオーを超える。

で、どこに集めるか。そんな風に考えている最中に、家出娘のカリキリと出会ったんだ。

彼女は、公園で巷で話題の不良を斬りまくっていた。

身のこなし、攻撃のキレ。素晴らしい才能だった。

けれど、立場上、過剰防衛を責めないといけなかったんだ。

んで、そう言ったんだ。したら、そいつはこう言った。


カリキリ「だって、このおっさんたち、あたしを襲おうとしてくるんだよ?! 倒さないと、やられちゃうもの!」

バクガメス「君みたいなちっちゃな♀がうろついてるのも問題だと思うよ。どうしたの?」

カリキリ「……お家の事は言わないでください。私は、家を追い出されました」
 ▼ 227 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:17:57 ID:GHkOfw2I [7/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
歳に似合わない丁寧な言葉。けれど、初っ端のタメの方が本性なのは見てわかった。

もしかすると、良家の出なのかもしれない。

そう気付いて、俺は愕然としたね。

腕っぷしが強いから、追い出されたんじゃないか。そう訊いてみると、カリキリは泣き出した。

うわんうわん。ほんっと、喧しいったらありゃしなかったよ。


ラランテス「悪かったね!」


ま、俺ガキは嫌いだからな。

んでまあ、家に戻れないっつーから、一旦警察に行って、それから引き取ったんだ。

俺も倒されたらたまらんからな。

そして、ふと思ったんだ。

こいつを鍛えて、そのままその集団のリーダーにすればどうだろう。
 ▼ 228 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:18:46 ID:GHkOfw2I [8/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんなたわいもない妄想が現実味を帯びて来たのが、ある事件解決のためにダンジョンに潜った時だ。

最奥部の宝物庫に逃げ込まれて、入るための仕掛けを起動させないといけなかった。

こいつ、勝手に付いて来やがって、実力は知ってたから強く止めてなかったんだけどよ。

だからつまり、俺とこいつがそこにいたんだ。

俺がその仕掛けの起動方法に頭を悩ませていると、こいつはまあ、いとも簡単に解き明かしてしまった訳だ。


カリキリ「レバーを右に回すとこの歯車は左右左右そしてロープが回って左右右左……ダメ!

     って事は、バクガメス、左だよ!」

バクガメス「なっ……」

カリキリ「回しちゃうよ! えい!」

バクガメス「あーっ! ミスってたらどうすんだ?!」

カリキリ「バクガメス、心配しないでいいよ。絶対行けるから!」


はたして、扉は開いた。
 ▼ 229 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:19:49 ID:GHkOfw2I [9/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「あたいはまあ、観察力が高いんだ」

サニーゴ「ボスって、そんな口調だったんだ」

ラランテス「まあ、あれでも押さえてた方さ。少しずつ、丁寧さが抜けて、今じゃこのザマ」

バクガメス「……続けるぞ」


そのお尋ね者を捕まえて、その帰り道だよ。

こいつが急に「楽しかった」とか言いやがったのは。


カリキリ「お宝探し出すのって、すっごいワクワクする!」

バクガメス「ほう。お前なら、探検隊になれるかも……」
 ▼ 230 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:20:24 ID:GHkOfw2I [10/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこまで言って、魔が差した。

こいつなら、本当に、虐げられてきたポケモンの声を代弁するものになれるのではないか?

そのためには、一度悪の道に堕ちる必要がある。

そうせざるをえなかった、強い動機を持つ。

そうしたポケモンたちを束ねるための実力と、観察眼を持つ。

パズルのピースが、ピタリとはまったんだ。


バクガメス「お前、盗賊、やらないか?」

カリキリ「盗賊ー? 何それ?」

バクガメス「お宝探したり、お前を追い出したような街のポケモンたちからメシを調達したりする。

      悪者だ。悪者だけど、お前なら、正義の盗賊になれる」

カリキリ「正義の悪者……?」

バクガメス「お前の行動が、たくさんのポケモンを救うかもしれないんだ」

カリキリ「ホント?!」

バクガメス「ああ」
 ▼ 231 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:21:09 ID:GHkOfw2I [11/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「これが、俺の昔話。弱い者の声を束ねて、世間に伝えるためのシナリオだ」

ヒドイデ「……このチーム、そんな由来があったのか」

バクガメス「まあな」


コスモッグ「あれ? でも……今そういう、虐げられてきたポケモンってどのぐらいいるの?」


僕は辺りを見回す。

サニーゴ、ヒドイデは、駆け落ちの末拾われた。

コスモッグも迷子の所を拾われた。

俺は記憶喪失で行くあてのない所を拾われた。

ミミッキュは……。


ミミッキュ「あたしも違うよ?」

バクガメス「ああ、そうだ。今現在、そんなポケモンは、1匹たりともいない」

ラランテス「ここにしばらくいると、みんな、何かを掴むんだ。そして、いつの間にか、いなくなる」

バクガメス「別れは告げてるけどな」
 ▼ 232 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:23:09 ID:GHkOfw2I [12/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サニーゴ「みんな、何かを見付ける……」

バクガメス「ああ。俺のこの計画は、間違ってない。同じような辛い過去を持つポケモンたちの中で、みんな強くなれる」

ラランテス「来るもの拒まず去るもの追わず。この生活に、決してあたいたち、後悔はしてないよ」

イワンコ「……そういう事、だったのか。この前のデンジュモク追っかける前のあのセリフも」

バクガメス「ま、そういうこったな」

サニーゴ「凄いねヒド君……ヒド君?」

ヒドイデ「そんな、そんな目的があったとも知らず、俺、ただぼーっと、駆け落ちだなんてそんな幸せな理由で……」


ヒドイデが、泣いていた。

サニーゴが、そっと彼を支える。


バクガメス「事情を詮索すんなってのもそういう訳だ。イワンコとかは例外だったがな。

      ふん、もう上弦の月が沈んでやがるぜ。もう遅い、寝ろ。明日からまた、ウルトラビーストを捜索する。

      記憶の謎は、まだ解かれてねぇからな。それに、まだ狙いもハッキリしない。隠すのは構わんが、俺たちはゼンリョクで詮索するからな」

コスモッグ「わかってますよ」
 ▼ 233 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:27:25 ID:GHkOfw2I [13/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「それじゃ解散! みんな、寝るよ!」

みんな「はーい!」


と、返事して、ふと気になった。


イワンコ「サニーゴたち、いつの間に?」

ヒドイデ「ちょ、そりゃヒドイデ! バクガメスさんが話し出した辺りだよ」

ミミッキュ「まったく気付かなかった……」

サニーゴ「これでも盗賊だしね、私たち」

バクガメス「そんなんじゃつけられてるのにも気付けないぞ。お前らしっかりしやがれ」

ラランテス「気にしちゃ駄目だよ。あたいたちの話に集中してたんだし。

      ほら、速く休みな!」

みんな「はーい」
 ▼ 234 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:28:28 ID:GHkOfw2I [14/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
3匹分の藁布団を敷き、コスモッグが帰って来たんだなぁと実感する。

コスモッグの感動はひとしおなようで、「あったかいとこで寝るの、久しぶりだなぁ」との事。

ミミッキュが、すんなりと眠ってしまう。


イワンコ「でも、どうして来た理由だけ執拗に答えてくれないんだ?」

コスモッグ「それ言っちゃったら手掛かりになるもん。それも言えない。まあ、諦めて。

      もちろん、推理で当てるのは構わないけど、答え合わせもできない。

      ただ……バクガメスさん、あれわかってないって言ってるけど、どこまで本気なのかな」

イワンコ「え?」

コスモッグ「それが正解かはともかく、少なくとも、自分の中にもう答えを持ってるみたいだけど」

イワンコ「……まあ、そうだろうね。重要なのはそれが正解なのかなんだけど」

コスモッグ「へへ。ま、せいぜい頑張って」

イワンコ「……わかった。せいぜい頑張るよ。お休み」

コスモッグ「お休み」
 ▼ 235 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:29:18 ID:GHkOfw2I [15/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ふわふわと眠りの暗闇を彷徨う。

気付けば前脚が地面から離れ、僕は2本の足で立っていた。

何かに導かれるままに、僕は歩いて行く。

そこにいたのは――僕だ。人間の、僕だ。

僕はそれと重なり合う。途端に、僕の心は、焦りと恐怖で満たされた。


――あたしは、空っぽ。何もできないから、せめて満たしてくれる存在が欲しかった。

俺の腹部から、滴る血。

――あなたは、そうだと信じてたのに。結局、裏切るんだ。


目の前に立つ少女。俺は、彼女を知っている。


「久瀬……お前……」


久瀬はただ、僕の名前を呼んだ。
 ▼ 236 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:30:09 ID:GHkOfw2I [16/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告








岩根君。










その声を最後に、意識が飛んで行く……。








 ▼ 237 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:30:42 ID:GHkOfw2I [17/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――――――――

――――――

――――

――――

――――――

――――――――
 ▼ 238 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:31:17 ID:GHkOfw2I [18/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「うわあっ!」

ミミッキュ「うわっ?! どうかしたイワンコ?!」

イワンコ「あ、いや……少しだけ、思い出したかもしれない」

ミミッキュ「え?」

イワンコ「ウツロイドの話が、僕の中で、何か教えたのかもしれない。ちょっとだけ、ほんのちょっと、思い出した」

ミミッキュ「の割に、苦しそうな顔だけど」

イワンコ「……うん。苦しかった。刃物で刺されて」

ミミッキュ「刃物……。ウツロイド?」

イワンコ「いや、違う。久瀬……人間の♀だ」

ミミッキュ「久瀬……」


ミミッキュが、ポツリと呟く。
 ▼ 239 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:31:50 ID:GHkOfw2I [19/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は辺りを見回し、そしてコスモッグがいない事に気が付いた。


イワンコ「そろそろ行かないとまずくないか?」

ミミッキュ「……ん? なんか言った?」

イワンコ「行かないとマズイんじゃねぇの?」

ミミッキュ「あ、そうだ。急がないと」
 ▼ 240 メルゴン@もののけプレート 17/04/04 19:32:51 ID:GHkOfw2I [20/53] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
>>235
俺じゃなく、僕です
すいません
 ▼ 241 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:33:40 ID:GHkOfw2I [21/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
朝ごはんの料理ができていて、僕は慌てて席に着く。

盗賊団フラワーズ。メンバー7匹。全員が揃っていた。


ヒドイデ「遅いぞイワンコ!」

イワンコ「ごめんごめん」

コスモッグ「まあ、悩む事も多いだろうしねえ」

ラランテス「ま、いいじゃないか! みんな、もう食べるよ!」

みんな「いっただっきまぁす!」


太陽の光に照らされて、どこかしら輝いて見える。

7匹が揃ったフラワーズが、ここまで心強いとは思わなかった。

先程の悪夢の闇を、眩く照らしてくれる。

僕を拾ってくれたのが、ここでよかった。

出会ったのが、ミミッキュでよかった。

心から、そう思えた。
 ▼ 242 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:34:34 ID:GHkOfw2I [22/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「今日は、ジジーロンに話を聞きに行ってきます。また、何か掴んでるかもしれない」

バクガメス「ああ。ジュナイパーが掴んで来た情報も気になる所だしな。まあ、あると確定した訳じゃないが」

ミミッキュ「となると、あたしは行けないか。イワンコ、行ってらっしゃい」

イワンコ「行ってきます」


僕は、アジトを抜け、森の外れへ向け走り出した。

そして、ジジーロンの家へ辿り着く。
 ▼ 243 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:35:23 ID:GHkOfw2I [23/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「お久しぶりです」

ジジーロン「おお! イワンコか! ……申し訳ないが、ワシは、何も情報を手に入れておらんよ」


入った途端に彼はそう言う。

気落ちして僕は呟く。


イワンコ「……そうですか」

ジジーロン「まあ、そう気落ちするでない! ジュナイパーも探索しておるし、リアライズとかいう探検隊も協力してくれておる」

イワンコ「ああ、そうですね……」


そんな風に話していると、不意に扉が開く音がした。
 ▼ 244 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:36:00 ID:GHkOfw2I [24/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ジジーロンさん」

「どうも」

ジジーロン「おお! 噂をすれば影じゃの! 探検隊リアライズじゃ」

イワンコ「あ、どうも」

チラーミィ「イワンコ! 久しぶり」

イワンコ「お久しぶりです。……こっちはいろいろ掴みましたよ」

チラーミィ「ホント? 凄い! こっちは全然だったから。停電の解決に尽力しようとしてたら、治っちゃっうなんて茶番もあったし」


あの件か。僕たちの手柄だ。

なんだか申し訳ない事をした。


ニューラ「ま、それはどうだっていい。何? ウルトラビーストに関して、何か掴んだって?」

イワンコ「はい」
 ▼ 245 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:37:10 ID:GHkOfw2I [25/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
デンジュモクから仕入れた知識をすべて白日に曝け出す。

情報源は秘匿。どうやって仕入れたのかに関しては、適当にぼやかした。肝心なのはそこじゃない。伝えなくても問題ないのだ。

というより、伝えてしまうと面倒くさい。どんな背景があり、警察とグルだったとしても、犯罪は犯罪。

探検隊にバレて、いい事があるはずもない。


ニューラ「ふぅん。テッカグヤ、カミツルギ、アクジキング、マッシブーン……」

チラーミィ「他はともかく、アクジキングの空腹を満たすことに関して言えば協力できるかもね」

ニューラ「埋めるメリットが明確に見えるまでは避けたいけどね」

イワンコ「え、マジっすか?」

ニューラ「ええ。風の大陸、セカイツリーに伝わる黄金のリンゴ。

     どんなポケモンの空腹をも完全に満たし、なおかつお腹の許容量を物凄く増やすと言われてる」

チラーミィ「あー、あれか。水の大陸の調査団が手に入れたっていう」

イワンコ「へえ……そんな凄いものが」

チラーミィ「空腹で暴れ出す、なんて事があったらそれを対策に使えるね。

      大量の金塊と引き換えにゴールドゴージャスって店で引き換えてくれるって噂もあるし」
 ▼ 246 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:37:51 ID:GHkOfw2I [26/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニューラ「ま、よっぽどたくさん必要らしいけどね。当のナエトルとピカチュウのコンビに直接頼んだ方が早い」

チラーミィ「ま、そんなもんだね。僕たちから提供できる情報は」

イワンコ「そうですか。じゃあまあ、情報共有って事で。僕もまた、ウルトラビーストを捜してみます。それでは。

     ジジーロンさんも、ありがとうございました」

ジジーロン「構わんよ」


それだけ言うと、僕は彼の家を後にした。
 ▼ 247 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:38:51 ID:GHkOfw2I [27/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ニューラ「どうする? 本当に後をつけるの?」

チラーミィ「……仕方ないよ。だって、見ちゃったんだもん」


僕は、ため息を吐いて、ジジーロンの家を抜け出し、それからニューラと一緒にドロンのタネを頬張った。

目立たないスカーフが僕たちだけに居場所を伝える。

完全に気配を断ち、イワンコの後を追うのだ。
 ▼ 248 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:39:26 ID:GHkOfw2I [28/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
話は数日前。街に停電が起こってしまった時の事。

ちょうど街中で見回りをしていた僕たちは、見事にその場に居合わせた。

騒ぎが起こり、僕たちが代表して発電所に向かう事になる。

ポケモン助けは大事な仕事だ。僕たちは頷いて、そちらの方へ駆けて行く。


ようやく到着した時、僕たちは発電所から脱出してくるポケモンたちを目撃した。

まず初めにイワンコの姿が見え、僕たちは声を掛けようと近寄りかけた。

と、後ろからラランテスが出てくる。そして――


ニューラ「あれ、ミミッキュ……?」

チラーミィ「え?」

ニューラ「同一個体かは知らないけど……イワンコもいるよね」

チラーミィ「うん……ねえ、もしかしてイワンコって……」

ニューラ「さあ。保障はない。けどもしかすると、あたしたち、担がれたのかもしれない」


後ろからバクガメスが彼らを追いかける。
 ▼ 249 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:40:24 ID:GHkOfw2I [29/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニューラ「どっちを先対処する?」

チラーミィ「それは……停電だ。イワンコなら、また会える。確かめるのはそれからで遅くない」

ニューラ「だね。とりあえず、発電所を確認して来よう」


結局、戦いの跡が見られただけで、特に何か問題があるようには見えなかった。

問題なく電気を供給できている。

少なくとも、停電の原因が彼ら、という訳ではないらしい。そもそも時間的な問題もある。

街のポケモンたちを「危ないから僕らだけで」と説得し、そして街からここまでにかかった時間を勘案するに、彼らが原因だとするとあのタイミングで脱出してくる事はあり得ない。

つまり、彼らが停電に対処した、という事だろうか。それか、何もなかったか。


ニューラ「ま、何もないならよかったじゃん。ただ何かが暴発しただけじゃない?」

チラーミィ「みたいだね……」
 ▼ 250 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:40:56 ID:GHkOfw2I [30/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
特に問題はなかったと説明するまでもなく、皆日常に戻っていた。

まあ、盗賊を逃がした探検隊に対する扱いなんてこんなもんだ。むしろ爪弾きにされないだけありがたい。

僕らは拠点としている空き家に戻り、それから作戦を練る。


チラーミィ「ジジーロンの家の場所はわかる。そこで待ってれば、いつかはイワンコと出くわす。

      そして、その後をつけて行けば、真偽はハッキリする」

ニューラ「ま、それが一番だろうね。明日から、張り込もう」
 ▼ 251 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:41:59 ID:GHkOfw2I [31/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
で、数日後。

どことなく晴れた表情でイワンコはジジーロンの家にやって来た。

不自然さを隠すようなタイミングで僕たちも家の中へ。

それから情報を共有し、イワンコは去って行く。

で、僕たちもジジーロンに別れを告げ、話は最初に戻る。

こっそりと、イワンコの往く道を辿る。

彼は森の奥の方へ歩いて行く。

その足取りに迷いはなく、日常的に出入りしている事が見て取れた。

チュート洞窟を迂回するルートを取り、荒れたルートを慣れた足取りで進む。

苦労しながらもなんとか見失わずに彼の後をつけ続けられた。

そして、何かの気配を感じる。テントのような、何かがある。


チラーミィ「あれ」
 ▼ 252 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:43:15 ID:GHkOfw2I [32/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニューラ「怪しい」

チラーミィ「だよね。イワンコはあそこに寝泊まりしてるのかな」

ニューラ「盗賊のアジト感はあるかもね。移動しやすいようにテント。見付かりにくい、こんな場所に建てるとことか」

チラーミィ「行こう」

ニューラ「だね」


僕らはそのアジトに向けて歩みを進めた。

イワンコはそこに入って行ったらしい。

そこにいたのは、ミミッキュだ。あの時の、僕たちから逃げおおせた。


チラーミィ「ビンゴ」

ニューラ「……他に誰かいるのかな」

チラーミィ「まだ透明だし、ちょっと見てみよう」
 ▼ 253 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:44:03 ID:GHkOfw2I [33/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
テントの中を覗く事はさすがにできないが、現在イワンコ、ミミッキュの他にもう1匹の気配を感じた。

今なら、戦ってもなんとかなるかもしれない……けれど。

そこにあったガルーラ像から僕は自分たちの不思議玉を引き出した。


ニューラ「敵縛り玉……。もっとそろってからだね」

チラーミィ「うん。とりあえず離れて、逃げよ――」

イワンコ「なんか……臭いがするんだけど。たぶん……チラーミィとニューラ?!」

チラ・ニュ「なっ?!」


声は聞こえていなかったらしい。そこまで大きな声で話す程バカではない。

視認もされていないだろう。しかし、彼は気付いた。臭いという、消せないもので。


ミミッキュ「えっ、その2匹って……」

イワンコ「ミミッキュを追ってた奴だよね」

ミミッキュ「どこにいるの?!」
 ▼ 254 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:44:46 ID:GHkOfw2I [34/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕たちは、そろりそろりと逃げ出そうとする。

しかし、イワンコは鼻をくんくんいわせて、正確に僕らの方へやって来た。


チラーミィ「しゃーない、やるよ」

ニューラ「だね」


僕たちは同時に、通常攻撃を繰り出した。


イワンコ「うぐうっ?!」


勢いで吹っ飛んだイワンコ。

ミミッキュが焦りの声をあげる。


ミミッキュ「イワンコっ!」


イワンコは最後の力を振り絞り、ある技を唱えた。


イワンコ「かぎ……わける……」
 ▼ 255 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:46:01 ID:GHkOfw2I [35/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その技の効能で僕らの姿が露わになる。


チラーミィ「あちゃー、バレちゃったか」


ミミッキュが怒りのままに攻撃をしかけてくる。ひっかくだ。


チラーミィ「でも、接近さえできればこっちのもんだ!」

ニューラ「ふん」


ニューラがつららおとしで攻撃をしかける。ミミッキュはばけのかわで攻撃を弾くが、しかし一撃でそのメッキは剥がれる。

何かに気付いたというように、サニーゴがやって来た。


チラーミィ「盗賊団はお前らだろ?! 逮捕する!」

サニーゴ「えっ?! ぽ、ポケ違いでは?!」

ニューラ「そこのミミッキュ、あたしたちを知ってるようよ」

ミミッキュ「……戦うしかないよサニーゴ! これでもくらえっ!」


ひっかく。威力のしょぼい技。逃げ足は速かったが、攻撃速度も高くない。簡単に見切れる。
 ▼ 256 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:47:12 ID:GHkOfw2I [36/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラーミィ「その程度?」


僕は尾を鋼鉄化させ、飛び上がった反動でミミッキュに斬りつける。さくり、と軽い感触がして、僕は既視感を覚える。

この、中に何も入っていないような感触。いくらミミッキュと言えど、ばけのかわを剥がせば後は中身に攻撃できるはずだ。


サニーゴ「……お願いします! これ以上やめてください! ……もう、降参です」

チラーミィ「降参?」


ミミッキュに、ダメージを与えられた気がしない。皮に尾を突き差したまま、僕は辺りを見回す。

今降参されても、嫌な予感しかしないのだ。油断した不意を突いて、ミミッキュが攻撃してくるのではないか。そんな予感が。


サニーゴ「お願いします、どいてください!」

チラーミィ「……この皮に、戻って来るはずなんだ。どこだ、どこにいるミミッキュ……」


ニューラも僕も、辺りを見回す。サニーゴの言葉を、まるで無視して。

そんな最中、不意にどす黒い声が聞こえた。


「どけつってんのがわかんねぇのかあぁん?」
 ▼ 257 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:48:08 ID:GHkOfw2I [37/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
唐突に、大地が唸り声をあげる。

尾で立っていた僕は、たまらずバランスを崩した。

大地から何かの気が溢れ出し、空気までがビリビリと震える。

とんでもない気配に振り向くと、そこにはサニーゴがいた。


サニーゴ「てめぇらポケモンが降参してるっつーのになぜ攻撃をやめない?」


思わず、震える。

どうしてだろう。先程まで物腰丁寧だった彼女に、僕は怯えを感じている。

親方様の本気と対峙した時にも似た、そんな恐怖。


チラーミィ「えっと……」

ニューラ「何これ」
 ▼ 258 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:49:36 ID:GHkOfw2I [38/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そういうニューラの声も震えていた。

我も忘れて……


チラーミィ「てっ、敵縛り玉!」


僕は思わずその不思議玉を投げつける。

3匹しかいない時に使いたくはなかったのだけれど、仕方ない。

根源から忍び寄る恐怖という感情に、僕は抗えなかった。

身動きをすべて拘束され、サニーゴはその体勢のままうなだれる。

イワンコは、気絶していた。ミミッキュは未だ見当たらない。

皮を手に僕は立ち上がる。

ミミッキュも恐らく、この不思議玉の作用を受けているだろう。

危険は去った。が、またやって来ないとも限らない。

何匹いるか、全貌が掴めないのだ。

ガルーラ像からもっとたくさんのアイテムを引き出し、それからイワンコを起こして言った。


チラーミィ「イワンコ、君も、盗賊だったんだ」
 ▼ 259 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:50:57 ID:GHkOfw2I [39/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


サニーゴの動きが完全に拘束されている。

ミミッキュのばけのかわが、チラーミィの手にある。

こんな状態で、ポケモンとしての経験も浅い僕に勝機があるとは思えなかった。

降参だ。


チラーミィ「とりあえず、ミミッキュを捜してもらえない? 臭いでわかりそうだけど」

イワンコ「無理ですよ。ばけのかわの臭いしかわかんないし」

ニューラ「……ばけのかわから抜け出すタイミング、見てない。ミミッキュ、完全に消えた」

イワンコ「……え?」

チラーミィ「イワンコ、とりあえず、この盗賊団について教えて。これは命令だよ」


チラーミィとニューラが、技の構えを見せる。僕の意識を一撃で刈り取ってしまった強力な技。

敵わないのはわかっている。諦めて、話そうとした、その時だった。


バクガメス「おう、荒れてるな」

イワンコ「バクガメスさん!」
 ▼ 260 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:51:36 ID:GHkOfw2I [40/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラーミィ「あっ、増えた。まずいな……」

バクガメス「さしずめ、探検隊リアライズが来た、ってとこか。

      ふん、構わん。俺たちを逮捕しろ」

ニューラ「なんとかしないと……え?」

バクガメス「ちっ、速くしやがれ。時間がないんだ」

チラーミィ「えと、逮捕してくれ? いやしますけど、なんで?」

バクガメス「いいから、連れて行け。後3匹いる。俺ら全員、しょっぴけ」

イワンコ「バクガメス……さん?」

バクガメス「おら」

チラーミィ「わ、わかった。とりあえず、ここでじっとしててください」

バクガメス「……あいつら、まだか」

サニーゴ「バクガメスさん、どういう事ですか?!」

バクガメス「黙ってろ」

サニーゴ「なんで?!」

バクガメス「……いつかは来ると思ってたんだ、こんな時が。俺の力だけじゃ、止められない物語が動き出すのがな」
 ▼ 261 ャノビー@せいれいプレート 17/04/04 19:51:45 ID:LcAj.rdI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 262 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:52:31 ID:GHkOfw2I [41/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サニーゴ「でも、それじゃ……」

バクガメス「安心しろ。お前の愛しのヒドイデとは同じとこに入れてもらう。そんぐらいの融通は効く。

      それに、俺の目算だと、半月もいないぜ? 牢屋」

チラーミィ「なっ、それ……」

バクガメス「ま、俺の読みが正しけりゃな。っと、3匹のお帰りだ。そのばけのかわを置いてやれ。ミミッキュが、戻れない」

チラーミィ「あっ、はあ」


どういう事だろう。バクガメスの狙いっていうのは、一体なんなのか。

僕は首を捻った。だが、反逆できる強さを持つポケモンがラランテスとバクガメスだけ、その片方が反逆しないと言っているのだから、負けは確定だ。

つまるところ、みすみす捕まるより他にないらしい。

考えを巡らせてはみるけれど、僕は何も思い付かなかった。

バクガメスの顔は、確信に溢れている。けれど、その一端も、僕には掴めないのだ。
 ▼ 263 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:53:13 ID:GHkOfw2I [42/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒドイデ「ええっ?! そりゃないっすよ?! ボス、なんとかならないんすか?!」

ラランテス「……バクガメスが何か考えてるみたいなんだ。あたいはそれを信じるよ」

コスモッグ「……なんで、どうして」

バクガメス「俺の仮説が正しけりゃ、これが最善手なんだ」

ミミッキュ「……事情は聴きました。あたしたちじゃ、無理ですか」

バクガメス「いや、お前ならできる。だからこそ、今は俺に従ってくれ」


戻って来たミミッキュも、コスモッグとヒドイデの2匹も、がっくりとうなだれる。

観念した僕らは、素直にリアライズの2匹に先導されていく。

だが、リアライズの2匹も2匹で、気味が悪そうだった。


チラーミィ「訳わかんないよ……どういう事イワンコ」

イワンコ「僕に聞かないでよ、僕にも謎なんだから」
 ▼ 264 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:54:16 ID:GHkOfw2I [43/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
道中、僕は、包み隠さずすべてを伝えた。

と言っても、元人間がバレている以上、隠し事はすべて、フラワーズにまつわる物語のみに限定される。

ウルトラビーストとの出会い方、僕がここに入ったきっかけ、この盗賊の裏にある事情、その他もろもろ。

どうせバレたのだからと開き直った訳だ。


チラーミィ「わかった。絶対に、君の、記憶の謎も解き明かしてみせる。ウルトラビーストが目指すものも特定してみせる。

      全部、解き明かすから、安心して、罪を償って」

ニューラ「それと、本当に悪いポケモンなんて、実はどこにもいないって、あたしたちが修行したギルドの親方のセリフ」

バクガメス「ほう、プクリンのギルド出身か」

チラーミィ「星の停止事件でポケダンズに憧れたクチですからね、僕」

ニューラ「あたしは……夢特性の解除かな。それはもう、達成されちゃったけど」

ラランテス「にしてもまあ、プクリンのギルドって言ったら有名な探検隊ギルドだろう?

      そこ出身であたいたちにこんな苦戦してるようじゃまだまだだね」

チラーミィ「いや、結構巧妙に隠れてましたよ。たまたま、イワンコの謎を解くために接近したからこそです」

バクガメス「そろそろ着くんじゃねぇか? 警察署」

ニューラ「はい。……ホント、なんなんですかあなたって。盗賊のボスなら、もっと、メンバーの事を思いやるべきだ!」
 ▼ 265 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:55:02 ID:GHkOfw2I [44/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
唐突に、ニューラが叫ぶ。


ニューラ「あたしのお母さん、MADのリーダー、マニューラ。だからこそ、あたしは、光の中を目指した。

     だけど、おかしいよっ! 闇なら闇で、もっと、自分たちの仲間内で助け合ってよっ!」

バクガメス「……あのマニューラの娘か。いい事を教えてやる」

ニューラ「え?」

バクガメス「やっちまった事からだけは、誰も逃れられない」

ニューラ「……それ、どういう……」

バクガメス「すべての行動が結果に寄与するのなら、すべてを前向きに使わないといけない。

      例え逮捕されようと、俺はそれすらも、こいつらのために活かすつもりだ」

ニューラ「はぁ……」

バクガメス「んじゃ、せめて、自首の形を取らせてくれ。ま、無意味な事だろうが、少しでも心象は上げておきたい」

チラーミィ「いいですよ」

バクガメス「それと、明日にまた、面会に来てくれ。大丈夫。俺とジバコイルは仲がいい。融通してもらうさ。

      後、ボスは俺じゃねぇ。ラランテスだ」
 ▼ 266 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:55:33 ID:GHkOfw2I [45/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その後、なんやらかんやらの手続きがあり、あれよあれよと言う間に僕はミミッキュ、コスモッグと共に3匹で牢屋に入っていた。

なぜ僕たち3匹なのかはわからない。バクガメスは、僕に何も伝えてくれなかった。

けれど、バクガメスの事だ。何かしら腹に一物あるのだろう。

そんな根拠のない断定が僕の中にあった。


ミミッキュ「……まあ、悪い事してたのは事実だから、いつかこうなるとは思ってたけど」

イワンコ「まさかこうなるとは思わなかったよね」


コスモッグが怒りを孕ませた口調で呟く。


コスモッグ「……なんでだよ。おかしいよ。みんな、いいポケモンじゃん。悪いポケモンじゃないじゃん……」

イワンコ「……警察ってのは、そういうもんじゃない。やった事が犯罪だったから――」

コスモッグ「犯罪?! バクガメスの話聞いといて、よくそんな事言えるね?!

      間違ってるよ、こんなの。絶対に。

      ……ここから、出られないの?」

イワンコ「出るには、時間がかかるだろうな。ポケモン世界のルールはわからないけど」

ミミッキュ「あたしも、さっぱりだ」
 ▼ 267 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:56:38 ID:GHkOfw2I [46/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
コスモッグ「……理不尽だよっ! なんで、なんでみんなが捕まらないといけないんだ……」

イワンコ「だからそれは……」

コスモッグ「……2匹とも、行くよっ!」

イワンコ「え?」

ミミッキュ「コスモッグ、テレポートはここじゃ使えない……」

コスモッグ「2匹だけでも、ここから逃げるべきだ……」


コスモッグは、苦しげな顔をして一心不乱に何かを念じている。

僕たちは、顔を見合わせた。


イワンコ「ミミッキュ、コスモッグは、どうしたの?」

ミミッキュ「わからない、あたしもこんなコスモッグ、見た事ない……」

コスモッグ「はぁぁぁああああああっ!」


コスモッグが力を放つと、そこに何か、ひずみが現れる。


コスモッグ「2匹とも、行くよっ!」
 ▼ 268 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:57:08 ID:GHkOfw2I [47/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、立ち竦んだ。

――このひずみを、僕は、どこかで見た事がある。

ひずみは増殖し、僕らを呑み込んだ。

それでも僕は、その強烈な既視感に、立ち竦むのみだった。
 ▼ 269 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:57:51 ID:GHkOfw2I [48/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幕章

「あたしを、入部させてください」

「お、ホントか?!」

「もともと、読書は好きですし。よろしくお願いします、小林先輩、岩根君」


翌日、あたしはそう持ち掛けていた。

相変わらずクラスには居場所なんてないけれど、ここならあたしは認められる。

あたしの空っぽな存在を、確かに満たしてくれるから。

だから、あたしは決めた。この同好会に入ろうと。


「久瀬、サンキューな」

「お礼言われる義理もないよー。あたしが入りたくて入ったんだし」
 ▼ 270 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:58:29 ID:GHkOfw2I [49/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
活動内容の紹介をぼおっと聞き流しながら、あたしはポケモンというものに関して考えていた。

昨日あれから少し調べてみた。ウルトラビーストと、その他ポケモンに関して。

いろいろな知識を蓄えて、あたしはいろいろ考えた。

向こうなら、少なくともあたしの存在は満たされるだろう。きっと、ハブなんてないはずだ。

いつしかあたしは、パラレルワールドの奥にあるであろうその世界に想いを巡らせるようになっていた。

もともと、読書というのを現実逃避に位置付けていたあたしだ。それ自体はおかしくもなんともない。

けれど、心のどこかでぼんやりと、「これ以上その妄想に依存すると危険」の声が聞こえるのだ。

もちろんあたしはそんなのを鼻で笑う。もちろん、現実でない事は承知している。その上で、それを信じているのだ。


「……心ここにあらずって感じだな。そんなに、何か気になるのか?」

「え? ああいや」

「まあ、とりあえず、小説を書くために、なんだけど……特にやり方を教えたりはしない。

 ただ、出来たものを添削したりするだけだからな。ま、いろいろ読んで来たお前なら、それなりにやれそうだ」

「わかりました」
 ▼ 271 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:59:05 ID:GHkOfw2I [50/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこから数日、あたしの日常は文芸同好会とポケモンに塗り潰された。

親の目を気にせず、やりたい事に没頭できるのが、この生活のメリットだ。

デメリットと釣り合いは取れていないが、少しは享受しなければもったいない。

本屋へ行き、ポケモンサンムーンの分厚い攻略本2冊を購入、そして熟読した。

虚構なのか。いいや、あたしは、確かに見た。

――あのひずみから飛び出して来る、ガラス質のクラゲを。

いや、違う。あれは、ウツロイドだ。間違いない。見れば見る程、確信は強まる。

ウツロイドが、この世界にやって来たのだ。


あたしは、どうなのだろう。その存在が、あたしの生活に、どう影響するのか。
 ▼ 272 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 19:59:45 ID:GHkOfw2I [51/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サン
なぞに つつまれた UBの いっしゅ。まちゆく ひとが きせいされ あばれだす すがたが もくげきされた。
(漢字) 謎に 包まれた UBの 一種。町ゆく 人が 寄生され 暴れだす 姿が 目撃された。
ムーン
UBの いっしゅ。 いしが あるかは ふめいだが ときおり しょうじょの ような しぐさを みせる。
(漢字) UBの 一種。 意思が あるかは 不明だが 時折 少女の ような 仕草を みせる。

あたしは、寄生されているのか、いないのか。

そんな事はどうでもいい。ただ、調べるに、このウルトラビーストは、あたしの中に眠る力を引き出してくれるという。

どうなるのか。あたしの力が引き出された時、どれだけあたしはやれるのか。

そんな妄想が、留まるところを知らない。

いじめの主犯をナイフで突き差す。

その想像が、創造へと昇華され、あたしは原稿用紙に書きなぐる。

反逆と、復讐の物語。あたしは、自らの中に溜まるストレスと欲望を、物語に変えて発散させるのだ。
 ▼ 273 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 20:00:16 ID:GHkOfw2I [52/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「へぇ、これはこれは」

「まあ、鬱憤をぶつけてるだけだから、駄作だと思いますけど」

「いや、でも描写がこう、来るものがあるね。……俺、前にいじめを無視した事があったから」

「そう……なんですか」

「ある強烈な体験があって、俺は心を入れ替えた。なんだかな……上から目線に感じちまうかもしれないけど」

「まあ、そうですね」

「言葉にするのは、だから辛い。それを、物語にする事によって、表現したかったんだ」

「はぁ……」

「……まあでも、とにかくこの話、いいと思うわ。頑張れ」

「ありがとう……ございます」
 ▼ 274 1◆J44kAZeDOM 17/04/04 20:00:52 ID:GHkOfw2I [53/53] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
教室でも、相変わらず無視は続くけれど、あたしは観察する。

人の行動を、もっとリアルに。

リアリティこそが、復讐の始まりだ。

すべてを破壊するための、始まり。

敵を知らなければ、戦いにはならないのだから。
 ▼ 275 りもの湖◆1kfBK4rWHM 17/04/04 20:59:26 ID:BIzR7nAw NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 276 リージオ@のんきのおこう 17/04/05 00:06:32 ID:6grXu2Z2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
生命の探検隊だっけ?のチラーミィとニューラなのね
 ▼ 277 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:47:43 ID:.cWFKAr2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サーカス団編 3章
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=563304&l=76-123
76から123です
 ▼ 278 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:08:00 ID:mM/kAz2c [1/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







7章 救出のマッシブーン






 ▼ 279 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:08:33 ID:mM/kAz2c [2/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
見渡す限り何も存在しない。

光どころか、闇とも呼べない何か。

混沌の中を、僕は何かと漂っていた。

世界と融け合い、僕は理解した。再構成が、始まる。

突然に世界が回り始め、僕はまた二足歩行になる。

光が窓から入り込み、そこには机がたくさんある。

教室。その単語が、ポロリと脳裏に浮かんだ。

そうだ、これは教室だ。

右後ろの座席に僕は座る。

どことなくよそよそしく感じるのはなぜだろう。間違いなく、ここは僕の席なはずなのに。

居心地が悪くなり、僕は立ち上がった。それから、惹かれるように教室の真ん中に目をやる。

久瀬の席は、確かそこだ。僕はそのままふらふらと彼女の席まで歩いて行った。

そして、その机に触れた途端、久瀬の声が響いた。


「どうしてっ?! ねえどうしてよっ?!」
 ▼ 280 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:09:17 ID:mM/kAz2c [3/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「どうしてっ?! ねえどうしてよっ?! 起きてよっ!」


聴覚に訴えかけてくるその声が、久瀬のものではないと気付いた瞬間、僕は目覚めていた。


イワンコ「……ミミッキュ……?」

ミミッキュ「イワンコっ! よかった……」


その安堵の声を聞いた瞬間、僕は現実に引き戻される。

そうだ。確か逮捕されて、コスモッグがひずみを作って、それで……。


イワンコ「コスモッグはっ?!」

ミミッキュ「そこよ。でも……なんかおかしいの」


そちらに目をやると、そこに3つの雲の塊はなく、金属質の何かに囲まれた星雲の中に、眠たげな顔が浮かぶのみ。


ミミッキュ「これ……コスモウムに進化したのかな」

イワンコ「コスモウム?」
 ▼ 281 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:09:47 ID:mM/kAz2c [4/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「なんだか、あたし、知ってるみたい。コスモッグは、コスモウムに進化して、それからソルガレオかルナアーラに進化するはず」

イワンコ「ソルガレオかルナアーラ……太陽と月の力を象徴するポケモンか」

ミミッキュ「正確には、その2匹もウルトラビースト。どちらに進化するのかは、いろいろな要因があるけど、昼か、夜かだね」

イワンコ「……そうなんだ」


コスモッグ、いや、コスモウムに関して語った所で、僕は辺りを見回す。

暗く、黒い場所。岩石なのかすら、定かではない。

その壁面に触れてみる。やはり、わからない。僕の常識では定義できない物質で構成されているようだ。
 ▼ 282 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:10:34 ID:mM/kAz2c [5/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
空を見上げると、太陽はおろか、月も、星も出ていない。

ここで僕は、デンジュモクの言葉を思い出す。

――彼らの世界に、光は存在しない。


イワンコ「ここ……ウルトラビーストたちの場所だ」

ミミッキュ「……みたいね。ウルトラスペースとでもいうべきかな」


それを自覚した途端、辺りにあの独特な臭いが満ちている事に気が付いた。

ああ、人間が、完全に抜けた。夢の中で、僕は一時的に戻っているのだ。だから、すぐには気付けなかった。

コスモウムは、何一つ言葉を発しない。

僕は、ミミッキュと顔を見合わせ、言った。


イワンコ「とりあえず、進もう。3方を壁に囲まれてるんだ。行けるのは一方向だけだよ」
 ▼ 283 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:11:18 ID:mM/kAz2c [6/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「あるいはじっとしてるか。でも……コスモウム、どう思う?」


コスモウムは、微かに体を動かして、開けた道の方を辿る。

少しずつ、彼はそちらを目指し、空を漂う。


イワンコ「正解みたいだ。行こう、ミミッキュ」

ミミッキュ「待って! アイテムも、何もないよ。だけど……向こう、たぶん不思議のダンジョン」


僕もつられてそちらを見る。

確かに、そんな気配がする。けれど、コスモウムは止まらない。ゆるゆると、確実にそちらへと歩を進める。


イワンコ「行くしかなさそうだよ」

ミミッキュ「みたいね。仕方ない。アイテム調達の手段もないし、このままじゃ飢え死にだもん」


僕たちは、そのダンジョンに足を踏み入れた。
 ▼ 284 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:12:01 ID:mM/kAz2c [7/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
名前もわからないそのダンジョンの中、僕たちは先に進んで行く。

充満する臭いはウルトラビーストたちの臭いを打ち消す。

だから、僕の嗅覚で探索する事はできない。

しかも、ウルトラビーストがここに生息している事はほぼ間違いないのだ。

戦っても勝てない。わかっている。

逃げながら進むにも、場所がわからなければ限界がある。


ミミッキュ「でも、どうしよう……襲い掛かって来られたら、まず間違いなく壊滅だよ」

イワンコ「僕もミミッキュも勝てる見込みないし、コスモウムはこんな調子だし……」


迷いのない足取りのコスモウムは、どう進めば先に進めるかを熟知しているようだった。

けれど、戦えるとはとても思えない。

僕たちはその足取りを信じ、辺りを警戒しながら先に進んで行く。
 ▼ 285 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:13:16 ID:mM/kAz2c [8/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「遅い……」

イワンコ「落ち着きなって」

ミミッキュ「……お腹空いたんだもん」


確かに、朝に食べたきりで、空腹になるのもわからなくはない。けれど、言わないで欲しかった。


イワンコ「自覚しちゃうと……辛いよ」

ミミッキュ「……どこに行き付くのかな」

コスモウム「……もう……すぐ……」


喋った。コスモウムが、喋った。


イワンコ「話せるの?」


何も語らない。必要以上の会話はしないようだ。


イワンコ「もうすぐだって」

ミミッキュ「みたいね。信じよう。コスモウム、隠し事はしても、嘘は吐かないよ」
 ▼ 286 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:14:19 ID:mM/kAz2c [9/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
奇跡的に一度もウルトラビーストに出会う事なくダンジョンを攻略できた。

コスモウムが回避してくれたのか、コスモウムを避けているのか、もともとダンジョン部には生息していないのか。

とにかく、次もこう行けるとは限らない。

それと、空腹もどうにかしなければならない。

コスモウムが、何かを示した。

そこには、何か木の実のようなものがある。

コスモウムが浮き上がり、その木の実を2個、落とした。

時間のかかる動作にイライラさせられながら、僕はでもお礼を言い、それからミミッキュと見合わせる。


イワンコ「ごはん……なのかな」

ミミッキュ「あたしたちも食べられるのかわからないけど……もう我慢できないっ!」


一口ミミッキュが頬張る。
 ▼ 287 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:15:12 ID:mM/kAz2c [10/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
表情が見えないが、味の程は果たして。


ミミッキュ「……びっみょー」

イワンコ「そう、なんだ」

ミミッキュ「でも、ちゃんとお腹には溜まる。栄養的には知らないけど、急場はしのげそう」

イワンコ「だね。食べるか……」


さくり。歯ざわりは悪くない。

けれど、味がしないのだ。微妙というより、気持ち悪い。

別にマズイ訳ではないのだ。ただただ違和感にむず痒くなるだけ。

コスモウムはいらないのかと思い聞いてみるが、反応がない。いらないのだろうとみなして、お腹の中に押し込んだ。

奇妙な沈黙が3匹の間に降りる。

コスモウムが、またふわふわと、先へ進み始めた。

僕とミミッキュはため息を吐いて、それに従う。
 ▼ 288 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:16:07 ID:mM/kAz2c [11/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


チラーミィ「え、脱獄?」

ジバコイル「キエテシマッタンデス。アトカタモナク」

ニューラ「……バクガメスさんの面会に来たんです。もしかしたら、何か知ってるかもしれない」

ジバコイル「ワタシモツキソイマス」

チラーミィ「はい」


イワンコ、ミミッキュ、コスモッグの3匹が脱獄した。

面会に来た所、そんな事を聞かされた。

普通はそんな状態で面会なんて許されないだろう。しかし、ジバコイルは僕たちを通した。

付き添いと言う名の監視の下ではあるけれど、話す事が許されるのだ。

バクガメスとジバコイルの交流があってこその技なのだろう。
 ▼ 289 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:17:03 ID:mM/kAz2c [12/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラーミィ「バクガメスさん、来ましたよ」

ニューラ「何ですか、要件って」


4匹全員が、向こうにいる。

サニーゴとヒドイデは、何も聞かされていないのだろうか、不安そうな顔をしている。

ラランテスとバクガメスは対照的に、どこか落ち着いていた。


バクガメス「ああ。よく来てくれた。これから俺は、俺の仮説を披露する。

      俺の言葉が確実に届けられるのはここだからな。だからワザと逮捕された」

チラーミィ「言葉を、確実に届ける……」

バクガメス「成立の事情は説明したよな。実は、あれは正確ではない。

      事を起こしさえすれば、あった事を白日の下に曝せる。

      そのための、盗賊なんだ」

ニューラ「へ?」

サニーゴ「それ、どういう事ですか……」
 ▼ 290 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:17:58 ID:mM/kAz2c [13/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「まあ、つまるところ、捕まって、その事情を説明するのがバクガメスの目的なんだよ。

      今までに、そうやってフラワーズから消えて行ったポケモンが数多くいる。

      力を付けたら、自首して、それから起こっていた事を警察に伝える。

      んで、それを解決するってのが、こいつらの目的。

      ジバコイルとバクガメスはくっついてるから、そんな荒業が可能なんだ」

ジバコイル「ユチャクトイワレルト、ソレマデダガナ……。ジジョウヲカンアンシ、ケイヲヨワメテキタ」

バクガメス「社会復帰も容易だ。どんな事をしでかそうと、罪を償い、改心さえしていれば受け入れられる。

      やってしまった事は変わらない。変わらなくても、乗り越える事ならできる」

ヒドイデ「……それが、フラワーズの、本当の狙い、か」

バクガメス「要するに、だ。

      俺の言葉を確実に伝えられるのは、やはりここ。俺の主張を公的に示すには、一度捕まる必要があったんだ。

      盗賊活動と事情の説明は、切っても切れないからな」


バクガメスは、そこでふっと一息吐き出し、それから僕たちを見据えた。


バクガメス「お前らに、聞いて欲しい。イワンコと関わりを持ち、ウルトラビーストに関して詮索を始めてる、お前らにな」
 ▼ 291 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:18:57 ID:mM/kAz2c [14/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


イワンコ「ぬ、抜けたぁ」


何匹か出会ったが、必死に逃げて先に進む。

コスモウムは相変わらずののろのろだったが、それでも無事に辿り着いた。

ミミッキュは、何かを考え込むように言った。


ミミッキュ「ねえ、イワンコ。あたしがなんで盗賊団にいるのか、言ったっけ」

イワンコ「え? あ、いや記憶にないな」

ミミッキュ「……そっか。ならいいや」

イワンコ「え、なんだよ気になるだろ」

ミミッキュ「なんでも。でも、なんでバクガメスさん、あたしとイワンコだけをコスモウムと同じ檻に入れたんだろ……」

イワンコ「あー、それはそうだ。まるで、僕たちに、この世界を見せたかったみたい……」


コスモウムがこちらに来ていた。

言葉は発しないが、僕たちの会話を聞いているらしい。
 ▼ 292 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:19:54 ID:mM/kAz2c [15/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「……記憶の手掛かりが、ここにあるかも、か。イワンコ、どう?」

イワンコ「残念ながら、全くヒットなし。でも、ウツロイドの言葉を聞いた時から、少しずつ戻って来てる」

ミミッキュ「あたしは、少しずつ、わかって来たよ。――記憶にまつわる物語、全部」

イワンコ「え?」

ミミッキュ「まだ、自信はない。でも、ぼんやりと、全体像がつかめて来た」

イワンコ「はぁ」


僕は、ミミッキュを見詰める。

ミミッキュは、上半身を横に振り、それから言う。


ミミッキュ「とりあえず、ここで寝よう。仕方ない。休まないと」
 ▼ 293 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:20:54 ID:mM/kAz2c [16/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「そうだね。うーん、固いなぁ、床」

ミミッキュ「贅沢を言わないの。ほら、休める時に休まないと、どうなるかわからないんだから」


コスモウムが激しい音を立てて地面に落ちた。

どうやら、眠っているらしい。

信じられない音だ。どれほどの重量を持っていれば、これ程の音が鳴るのか。絶句して、ミミッキュを見やる。

ミミッキュも、相変わらずの寝つきのよさを発揮し、もう眠っていた。

仕方ない、僕だけでも警戒していよう。

誰か1匹が見張りについていないと、1回の眠りが永遠の眠りになりかねない。

それにしても、ミミッキュはどうやって、僕の記憶を解き明かしたのだろうか。

この世界に来て、彼女の何が動き始めたのか。

ここから先、僕の思考は散らばり、気付けば僕まで、眠りの世界に落ちていた。
 ▼ 294 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:23:24 ID:mM/kAz2c [17/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


バクガメス「ウルトラビーストの狙いは、狙いなんてたいそれたもんじゃねぇ。ただの偵察だ。

      ただ、偵察の結果、この世界のポケモンたちに価値ないと思ったら滅ぼしてしまうぐらいの事は可能な、危険極まりない物事のための偵察」

チラーミィ「え?」

バクガメス「執拗に目的を隠すが、友好的。コスモッグはおろか、他のウルトラビーストにも等しく言えた事実だ。

      まずは、ウルトラビーストの成り立ちから語ろうか。

      この世界には、複数の領域がある。それが、平行していくつも存在しているんだ。

      現実世界、反転世界。そして、創造神の領域。

      現実は時間と空間の2本の軸によって支えられている。

      しかし、その領域は一体、どこで区切られているのか、知ってるか?」

チラーミィ「……謎の大陸にある運命の塔。あそこの途中から、現実世界を超越した所に行き付けるはず」

バクガメス「この世で最も高い場所。そここそが、創造神の領域だ。上下に仕切られている事になるな。その狭間にはしかし、明確に仕切りが敷かれている。

      運命の塔の外を飛んで昇っても、そこには何もない。その中に、不思議な何かがあるんだ。

      まあ、そっちに関しては今はどうでもいい。問題は、反転世界だ。ギラティナが司る世界」
 ▼ 295 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:24:07 ID:mM/kAz2c [18/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラーミィ「……世界の大穴。ギラティナはそこで守護神やってるはず」

バクガメス「ああ。だが、それは現実世界だ。反転世界ではない。それじゃあ、その仕切りはどこにあるのか。

      時間と空間が、反転世界の溢れるエネルギーを抑え込み、釣り合いが保たれている。

      そのせめぎ合う箇所。時間、空間から見捨てられ、反転世界にもなれないその狭間。

      そここそが、ウルトラビーストの領域、ウルトラスペース。ある者は「なぞのばしょ」と呼んだ領域だ」

ニューラ「……聞いた事もない」

バクガメス「だろうな。文献漁って、ようやっと辿り着いた情報だ。普通のポケモンなら知り得ない。

      ま、プクリンのギルドの情報通なら小耳に挟んだ事ぐらいならあるかもしれないが」


ペラップの事だ。小うるさい口調を思い出し、僕らは見合わせ、苦笑いを浮かべた。


バクガメス「そこもまあ、アルセウスの力で維持されていた……んだが、実はとある一件以降、この世界に本物のアルセウスはいない。

      いるのはただ、アルセウスが残した力の残骸だ」
 ▼ 296 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:24:56 ID:mM/kAz2c [19/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
唐突にそんな事を言われ、僕は思わず問い返す。


バクガメス「ま、訳わからんわな。俺もだ。ただ、世界創生のためにこの世界から消え、過去に遡ったらしい」

ニューラ「へぇ……」

バクガメス「そしてだ。縦になってる三角形を思い浮かべてくれ」


△?


バクガメス「その上の頂点に、おもりをぶら下げろ。

      そうしたら、どうなる? 右と左の下に、その力がかかるだろ?。

      まあ、つまるところだ。時間と空間で反転世界を抑え込む他に、上からアルセウスがそのつり合いを保っていた。

      だからこそ、三角形の内側に、隙間ができる。そこに、ウルトラスペースが存在している」
 ▼ 297 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:25:38 ID:mM/kAz2c [20/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「そして次に、縦の直線を考えろ。そして、左右から押せ。

      隙間、あるか?」

ニューラ「ない……アルセウスが消えた事で、ウルトラスペースは消失しつつある?」

バクガメス「さすがだ嬢ちゃん、呑み込みが早い。

      それが、いつもただ侵略するだけだったウルトラビーストが、今回に限ってこう焦らすかのように現れるのかの理由だと、俺は踏んだ」

ジバコイル「ソレデ、ウルトラビーストニハナニヲスレバイインダ?」

バクガメス「まあ待て。もう少しだ。サニーゴ、ヒドイデ。お前らも付いて来られてるか?」

ヒドイデ「なんとか大丈夫っす」

サニーゴ「私も、今の所は理解できています」

バクガメス「ならいい。続けるぞ」
 ▼ 298 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:26:47 ID:mM/kAz2c [21/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「今までは、ただ余裕のスペースを作りたかっただけなんだ。だから、侵略なんて態度を取って来た。

      けれど、今度ばかりはそうも行かない。もし追い返されれば、それで終わりだからだ。

      今までだって追い返されてきた。主に、ミリスの街から通ずる、ソルガレオとルナアーラの力によって。

      コスモッグは、そいつらの、息子なんだ。太陽の獣、月の獣、交わり新たないのち呼ぶ。

      コスモッグは、その新たな命なんだ」

チラーミィ「彼を手に入れた事が、ウルトラビーストにとって、最後の光?」

バクガメス「そうなる。ウルトラスペースを閉ざす力を持ったソルガレオとルナアーラ。

      閉ざせるなら、開く事もできるのではないか。

      その推測の結果が、あれだ。脱獄。あいつには、2つの領域を繋ぐ力がある。

      ったく、あん時のガキが、そんな凄い奴だなんて思わねぇよ。

      つくづく、俺が拾うガキは、凄い奴ばっかりだ」
 ▼ 299 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:27:47 ID:mM/kAz2c [22/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「あたいの事かい?」

バクガメス「ああそうだ」

チラーミィ「……自由に開け閉めできるようになった。目的は、ただの偵察。なるほど」

ニューラ「共存できるかを、探っているんだ」


バクガメスが、ニヤリと笑った。


バクガメス「その通りだ」
 ▼ 300 りもの湖◆1kfBK4rWHM 17/04/06 20:27:47 ID:fLxsUFj2 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 301 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:28:56 ID:mM/kAz2c [23/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


気付いた時、目の前に真っ赤な生き物がいた。

彼は、腕立て伏せでもしているのだろうか。

そこまで考えて、はたと気付く。目の前に、ウルトラビーストがいるという事実に。


イワンコ「うわあっ?!」

???「おお、起きたか少年よ!」


真っ赤な、筋肉バカ(誰も見てないのに腕立て伏せしている時点でこう断定して構わないだろう。口には出さないけれど)。

間違いない。


イワンコ「ま、マッシブーン……」

???→マッシブーン「お、我の名前を知っておるのか! コスモウムと共にある者よ!」

イワンコ「ええ、まぁ」
 ▼ 302 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:29:38 ID:mM/kAz2c [24/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マッシブーン「ほう。ところで、お主らはどうやってこちらに来たのだ?」

イワンコ「コスモッグが、ひずみを作って、気付いたらいました」

マッシブーン「なるほど……。お主らは、向こうに戻らないといけないという事か」

イワンコ「はい。でも、どうやって?」

マッシブーン「コスモウムの力を取り戻さねばならぬ。そのために、こちらに来たのではないのか?」

イワンコ「あ、いや、こいつに導かれるように来ただけです」

マッシブーン「なるほど。コスモウムはやるべき事を把握しているようだな。

       我も同行しようぞ! コスモウムを運べるのは、ウルトラスペース広しといえど、我が一族ぐらいなものだからな!」

イワンコ「あ、ありがとうございます……」


あれよあれよという間に話がまとまってしまった。

こちらの世界に関して何も知らない僕に、口を挟める要素など初めから存在していないのだけれど。
 ▼ 303 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:30:17 ID:mM/kAz2c [25/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「……イワンコ、おはよ。って、ええっ?! マッシブーン?!」

マッシブーン「我もそろそろ向こうへ行くべきかと思っていたの出な! 同行させてもらおう!」

ミミッキュ「えっと、その……ありがとうございます」


マッシブーンは、コスモウムを手に抱えた。

無感動なコスモウムの目が、微かに揺れたような気がする。浮かんでいるのは、呆れか、驚きか。


イワンコ「ちなみに、なんで1匹で残ってたんですか?」

マッシブーン「別に1匹ではないぞ? 他にもたくさんウルトラビーストは存在しておるからな!

       ただ、我は筋肉が足りぬような気がしたのみ! 満足行く筋肉が付いたから、行っても構わないと判断したのだ!」

ミミッキュ「は、はぁ……」


何はともあれ、4匹での行動は今までの2つのダンジョンより格段に速く進めた。

マッシブーンはコスモウムをダンベル代わりに使いながら歩いている。

呆れ顔で僕とミミッキュはそれを眺めていた。
 ▼ 304 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:31:18 ID:mM/kAz2c [26/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「コスモウム、めちゃくちゃ重いよ。あれをあんな軽々と……」

ミミッキュ「ウルトラビーストこっわいね」


小声でそんな話をする。


マッシブーン「そろそろ着くぞ!」
 ▼ 305 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:32:14 ID:mM/kAz2c [27/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「ところでコスモウムが戻るのに必要なんだとして、マッシブーンはどうやって遅れて向こうに行くつもりだったんですか?」

マッシブーン「ん? いや、不可能ではないのだ。ただ、過度に体力を消耗してしまうからな。

       我のように、力の強い者でなければひずみを生み出せないのだ。それでも、消耗は避けられない。

       我のみならともかく、お主らもいるとなるとさすがの我での力不足だからな」

ミミッキュ「コスモウムには、それだけの力があるって事か」

マッシブーン「2つの世界を繋ぐ存在だからな」

イワンコ「……コスモウム。帰れるか?」


コスモウムは、ゆっくりと頷いた。

そして、そのままじっと、何かを念じ始める。

何かが集まって来ているのを感じた。

辺りに充満した臭いが、強烈になって行く。

コスモウムの内側に向かって、強い風が吹き始めた。
 ▼ 306 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:32:49 ID:mM/kAz2c [28/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「何これ……」

マッシブーン「彼は力を蓄えておるのだ! この場所は、彼のエネルギーとシナジーの高いエネルギーが充満しておるからな!」


コスモウムから、何かの光が放たれる。

それに呑み込まれ、僕たち4匹は、気付けば森の中、アジトのあった場所に立っていた。
 ▼ 307 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:33:55 ID:mM/kAz2c [29/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幕章

え?

あたしは、思わず問い返す。

いつものように紙に物語を書きなぐっていると、唐突に岩根君から言われたのだ。


「インタビューって、何?」

「いや、だから……観察だけじゃなくて、もっとしっかり知らないと、表現のしようがないから。もちろん、無理強いはしない」
 ▼ 308 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:34:25 ID:mM/kAz2c [30/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしの信じていた何かが、脆く、砕けた気がした。

あの暖かい感情は、なんだったのか。

岩根君は、あたしを、「いじめられている悲劇のヒロイン」として、型にはめてしか見ていなかったのか。


「ごめん、ちょっと……考えさせて」


言葉をなんとか絞り出す。なぜか、酷く喉が乾いた。

カラカラなまま、あたしはまた、紙に向かった。

けれど、その日は結局、1行も書けないまま終わった。
 ▼ 309 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:35:07 ID:mM/kAz2c [31/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
家に辿り着き、どうしようもない吐き気に襲われ、あたしは、トイレに向かって、何度ももどした。

岩根君は、ただの取材で、あたしに近付いていた。

居場所なんて、初めからなかったのだ。

――あたしなんて、初めからいなかった。

そう思うと、もう、何もかも、どうでもよくなった。

そうだ。あたしは全部吐き出した、あたしは、空っぽ。空っぽだから、なんでも入れられる。

あたしは、虚ろ。中身なんて、何もない。

そうだ。そうなんだ。


「あは、アハハ、アハハハハハ!」


トイレの中で、あたしは一人、高らかに、笑った。
 ▼ 310 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:36:25 ID:mM/kAz2c [32/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしは、再びひずみの前に立つ。

そっと呼び掛けた。


「出て来ておいで、ウツロイド。あなたの事を、守ってあげる。

 あなたの好きなだけ、寄生させてあげる。だから、あたしに力をちょうだい」


もう、わかっていた。あたしは、完全に、寄生されている。

わかってはいるけれど、もはやそれは問題ではない。どのような末路を辿る事になっても構わない。

ウツロイド。あたしの力を、引き出して。空っぽなあたしを、お願い、満たして。

あなたの毒で、あたしを――
 ▼ 311 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:37:06 ID:mM/kAz2c [33/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日の事。

あたしはナイフを懐に潜ませ、学校に向かった。

これからしようとしている事は犯罪だ。それはわかっている。けれど、あたしはもう、止まらなかった。

授業中、すっくと立ちあがり、無視の主犯格の方へとまっすぐに歩き始める。

先生の制止の声も、あたしには響かなかった。


「何? 久瀬」


あたしは、ナイフを懐から取り出し、そのまま彼女ののどを一突きした。


「が……は……」


彼女は、血を吐いて、倒れる。

悲鳴があがった。あたしはナイフを引き抜く。彼女ののどから血が吹き出した。

頬にかかる血。彼女のうめき声。

あたしが、これをやった。そう思うと、何かのタガが、外れた。
 ▼ 312 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:37:48 ID:mM/kAz2c [34/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それからの事は、よく覚えていない。

気付けば、クラスには、いじめに関わったクラスメイトの死体と、それから岩根君だけが残されていた。

先生や、いじめに関与していない生徒は逃げ出して、助けを呼びに行ったのか。

あたしは、竦む岩根君に、声を掛ける。


――ねえ、岩根君。

――――誰かと本気でつながりたいって思った事、ある?


岩根君は、あたしに怯えていた。

――あたしは、空っぽ。何もできないから、せめて満たしてくれる存在が欲しかった。

彼の腹部から、滴る血。

――あなたは、そうだと信じてたのに。結局、裏切るんだ。


「久瀬……お前……」

「岩根君」


そして、彼は崩れ落ちた。
 ▼ 313 1◆J44kAZeDOM 17/04/06 20:38:22 ID:mM/kAz2c [35/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしはそれを抱き上げると、ウツロイドを呼んだ。

ひずみが現れ、あたしは、彼とともにその中へ飛び込んだ。


あたしの名前は、久瀬美々華。

この世界には、存在していない。

それならいっそ、人間の存在しない世界へ。

すべての記憶を失って。

あたしの名前も、あなたの記憶も失って――
 ▼ 314 りもの湖◆1kfBK4rWHM 17/04/06 21:54:03 ID:mHM36cbY NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 315 ミカラス@ピーピーリカバー 17/04/06 23:00:01 ID:fGozLbZM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 316 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 19:17:55 ID:RGqgKqVs [1/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







8章 ミミッキュの激白






 ▼ 317 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 19:18:26 ID:RGqgKqVs [2/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


バクガメス『ウルトラビーストを、だからもてなしてやるんだ。この世界は、共存に耐える。そんな世界だと教えるために』


その情報を携えて、僕らはジジーロンの家に向かった。

イワンコたちが戻って来た時、恐らくここが拠点になるだろう。

それに、まだ見ぬ協力者のジュナイパーも、ここでイワンコたちと情報を共有していたらしい。

情報を集めておくのは、だからここが最適だ。
 ▼ 318 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 19:18:59 ID:RGqgKqVs [3/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジジーロン「……なるほど。イワンコたちは、盗賊じゃったのか」

チラーミィ「……でも、悪いポケモンではなかった。お尋ね者だったとしても。それは、間違いない」

ジジーロン「そうじゃの。ワシも、孫を助けてもらったのじゃ」

チラーミィ「彼らは、脱獄しました。もしやって来たら、ここで匿ってやってください。もちろん、解決の暁には、何かしらのお礼をさせていただきます」

ジジーロン「お礼など構わんよ。長年生きて来たが、こんな刺激的な事件に巻き込まれる事など初めてなのじゃ。

      正直、童心を取り戻して、ワクワクしておるよ」

チラーミィ「いえ、さすがに甘えすぎだと思うので。そこらへんのけじめは付けたいから、受け取ってください」

ジジーロン「まあ、そういうのなら仕方ないの」

ニューラ「……本題に入ります。ジジーロンさん。ジュナイパーと、もし来たらイワンコたちに伝えてください」


ウルトラビーストを歓待する事で、世界の平和を保つ。

それが正解だ。

だから、リアライズは、アクジキングの空腹を満たすため、黄金のリンゴを調査団から貰って来る。

そちらで何ができるかわからないが、そちらの状況を見て、歓迎の準備だけをしておいてくれ。
 ▼ 319 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 19:19:37 ID:RGqgKqVs [4/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラーミィ「覚えきれますか? なんなら、書き留めますけど」

ジジーロン「いや、任せてくれ。こう見えてワシ、記憶力には自信があるからの」

ニューラ「わかりました。行こ、チラーミィ」

チラーミィ「だね。の前に、ちょっと気合い入れよ。行くよ」

ニューラ「オーケイ」

チラーミィ「リア!」

ニューラ「ライズ!」

リアライズ「ゴー!!」


僕たちの掌が、打ち合わされて、音を奏でた。
 ▼ 320 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 19:20:11 ID:RGqgKqVs [5/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


コスモウムはマッシブーンと共に、拘留所から4匹を助けたいと言いだし、顔が割れている僕たちは行けないからと2匹に別れを告げた。

それから、他に行くあてもなく、ジジーロンの家を目指す。


ミミッキュ「これで、本格的にお尋ね者だね。脱獄犯だもの」

イワンコ「だね。ほら、そろそろ着くよ」


辺りを見回しながら、僕はその家の扉を叩く。


イワンコ「すいませーん、ジジーロンいますか?」


ややあって、扉が開かれた。
 ▼ 321 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 19:20:42 ID:RGqgKqVs [6/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジジーロン「おお! イワンコに、ミミッキュ! 伝言を預かっておるぞ。そして、ジュナイパーもちょうど帰って来た所じゃ」

イワンコ「ホントですか?!」

ジジーロン「とりあえず、速く入った方がええ。指名手配犯じゃからな」

イワンコ「はい」


臭いで確かめる。確かに、ジジーロンの家の臭いと、ジュナイパーの臭いだけだ。

ジュナイパーがこのタイミングで警察に突き出すようなKYでなければ、安全と見ていいだろう。
 ▼ 322 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 19:21:21 ID:RGqgKqVs [7/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
はたして、ジュナイパーは、少し言及しただけだった。


ジュナイパー「隠し事してるなとは思ったんだけど、盗賊だとはね。さすがに気付けなかったよ」

イワンコ「やっぱり、バレてましたよね、隠し事してる事は」

ジュナイパー「探偵を舐めないで欲しいな。で、まずは君たちから情報を聞かせてもらおう」

イワンコ「はい」


フェローチェとの戦いに関して全て隠さず語り、デンジュモクとの対決について語り、それからコスモッグについて語った。

ウルトラスペースで出会ったマッシブーンに関しても。要するに、ウルトラビーストにまつわるすべてを隠さずに伝えたのだ。

未だ、彼らの動機は把握できていない。けれど、充分に有益な情報だと思っていた。

が……。


ジュナイパー「……なるほど。それだけ?」
 ▼ 323 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 19:21:53 ID:RGqgKqVs [8/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「え、ああ、まあ」

ジュナイパー「ジジーロンさん、リアライズの2匹から何か伝言預かってますよね?」

ジジーロン「おお、そうじゃそうじゃ。タイミングを見計らっておった所じゃ」


世界の平和を保つため、ウルトラビーストを歓待する。

共存に耐える世界だとアピールするため。

脳内でいろいろと繋がり、僕はあっと声をあげる。


ジュナイパー「……参ったな。僕の出番、完璧に奪われた。

       僕が掴んで来た情報も、だいたいその中に含まれる。旅に掛けた時間が長いからなあ、安楽椅子探偵には負ける。

       ただし、最高の協力を手に入れた」


なんでも、テッカグヤとカミツルギ、2匹のウルトラビーストが、既にサーカス団エクリプスと友好関係を築いていて、挙句の果てに協力してもらっているという。

エクリプスの中の旧友と再会し、ジュナイパーはエクリプスとウルトラビースト、事件の鍵を握る2つのグループから協力を取り付けたのだ。
 ▼ 324 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 19:22:42 ID:RGqgKqVs [9/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「凄い……」

ジュナイパー「僕の手柄ではないけどね。アクジキングの空腹を満たすための黄金のリンゴ、か」

イワンコ「……僕たちも僕たちで、アクジキングを捜さないとですね」


僕の呟きに、ジュナイパーがフードを閉ざす。

何か、喋りかけてはいけないというような雰囲気を感じ、僕は息を呑んだ。

どうしたのだろう。


ミミッキュ「ねえ、イワンコ。……コスモウム、大丈夫なのかな」

イワンコ「え?」

ミミッキュ「コスモウム、ポケモンの事、嫌いになってたりしないよね」
 ▼ 325 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 19:23:14 ID:RGqgKqVs [10/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
考えを巡らせる。留置所での慟哭。あの叫びに、どれほどの憎しみがこもっていたのか。

僕たちを逮捕するようなポケモンなんて、消してしまえ。そんな考えに至ったりしないか。

コスモウムは、素早さが遅い。1匹でキレられても、ポケモンが力を合わせれば抑えられるだろう。

けれど、それでいいはずもない。


イワンコ「大丈夫……だとは思うけど、わからない」

ジュナイパー「いや、君たちは、記憶を取り戻すのが先決だ」


不意にジュナイパーが言う。

驚いて振り返ると、ジュナイパーが僕らを見据えていた。
 ▼ 326 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 19:23:58 ID:RGqgKqVs [11/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「記憶の中に、何か大事な物事が隠れているかもしれない。

       ウルトラビーストに対しての、過剰な怯え。君のポケ生の中で、何があったのか」

イワンコ「記憶の中に……」

ジュナイパー「アクジキングは、僕が捜す。君たちは、ウツロイドを捜してくれ」

イワンコ「……コスモウムに関しても、心配です」

ジュナイパー「……ああ、さっきの話の中に出て来た、コスモッグの進化形か。

       ……心配って、何が?」


先程の懸念を彼に伝えた。

彼は、しばし考えを巡らせるようにうつむくと、それから言った。


ジュナイパー「仕方ない、僕がそっちに行くよ。きっと、アシレーヌたちが見付けてくれる。君たちはやっぱり、ウツロイドだ」

ミミッキュ「わかりました。他に何かありますか」
 ▼ 327 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 21:49:55 ID:RGqgKqVs [12/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「いや、これぐらいだ。君たちの拠点は……ここより、うちに来ないか? 妻のアママイコも伝達してくれるけど」

ジジーロン「いや、構わんよ。ワシも、何かしたいからの。ここまで知っておいて、何もできないのは辛いのじゃ」

ジュナイパー「そうですか。わかりました、ありがとうございます。

       よし、じゃあ行きましょう!」

みんな「おー!」
 ▼ 328 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 21:51:09 ID:RGqgKqVs [13/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
という事で、僕らは再びアテのないウツロイド捜しに精を出す事になる。

あまり街中に出られないから、活動範囲も限定されてしまう。

それでも、捜すしかなかった。それが現状僕らに与えられた課題だから。


ミミッキュ「ねえ、イワンコ」


唐突に、彼女が口火を切る。


イワンコ「何?」

ミミッキュ「ウツロイドは、あたしが願えば、たぶん来る」

イワンコ「え、どうした急に」


しかし、それきりミミッキュは黙り込んでしまった。

訳がわからない。願えば、来る?
 ▼ 329 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 21:51:55 ID:RGqgKqVs [14/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しかし本当に、あの臭いが接近して来た。

僕らも纏うその臭いだが、さらに強度を増したのだ。


イワンコ「ホントに来た、ウルトラビーストが……」


ミミッキュは、それでも何も言わない。

初めからわかっていたと言うように、じっとそこに佇んでいる。


イワンコ「ウツロイド? いるのか?!」


僕の呼びかけに、答えるひとつの陰。


ウツロイド「久しぶりーイワンコにミミッキュ」
 ▼ 330 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 21:53:20 ID:RGqgKqVs [15/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「ホントに来たぁ?!」

ウツロイド「いやー、だって、スペースの強烈な臭いがするから、ビースト仲間いるのかなーって思ったんだもん。

      まさか、2匹だなんて思わなかったよー」

ミミッキュ「……初めから、感じてたクセに」

イワンコ「え? いや、僕もミミッキュも、最初はそんな臭いしてなかったけど」

ミミッキュ「イワンコでも感じられない程だったとしても、あたしは知ってる!

      あたしたち、初めからウルトラビーストと同じだったんだって!」

ウツロイド「……あー、もしかして、思い出したの? ミミッキュ」


この期に及んで、ようやく俺は違和感に気付く。

ミミッキュが、思い出した?


イワンコ「おま、記憶喪失だったのか?」
 ▼ 331 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 21:54:16 ID:RGqgKqVs [16/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、ミミッキュに声を掛ける。

ミミッキュはそのばけのかわを震わせた。

ふっと短く息を吐き出すと、彼女の本物の目はウツロイドを眺め、それから覚悟を決めたような表情を浮かべた。


ミミッキュ「……あたしも、あなたと同じだった。あなたと一緒に、あたしはこっちに来ていた」

ウツロイド「……ホールを通り抜けると、こんな事が起こるなんて、あたしビックリしちゃったんだ。

      ニンゲンが、ポケモンになっちゃうなんて」

ミミッキュ「ウツロイド。あなたは、殺したって言ったよね」

ウツロイド「そだよー」

ミミッキュ「本当に、“あなたが”殺したの?」

ウツロイド「……ううん。あたしに寄生された、ニンゲンがー」

イワンコ「なっ」


絶句する僕に、彼女は鋭く言い放った。


ミミッキュ「まだ思い出せない? イワンコ、ううん……岩根広大君!」
 ▼ 332 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 21:55:44 ID:RGqgKqVs [17/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
岩根広大。夢の中で聞いた、僕の苗字も、岩根だった。

けれど、まだだ。まだ、何も思い浮かばない。

ミミッキュが呆れたように僕を見据え、言った。
 ▼ 333 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 21:56:29 ID:RGqgKqVs [18/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



















ミミッキュ「あたしは……久瀬。久瀬美々華よ」
 ▼ 334 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 21:57:01 ID:RGqgKqVs [19/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「あ……」


その言葉を聞いた瞬間、記憶の扉の鍵が、かちゃりと音を立てて外れた気がした。


ミミッキュ「……思い出した?」

イワンコ「が……は……」


唐突な記憶の奔流に呑まれ、頭が割れそうに痛い。

うめき声が漏れる。

ああ、そうか。そうだったのか。




イワンコ「久瀬……」



ミミッキュ「久しぶり、岩根君」
 ▼ 335 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 21:57:57 ID:RGqgKqVs [20/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼女は、ばけのかわを、ひっぺがした。

その中には、何も入っていなかった。

「これが、あたしだよ」と、皮から聞こえる。

――あたしはまだ、空っぽ。


ウツロイド「思い出したみたいだねー」

ミミッキュ「うん。ウツロイド、初めから、最大級のヒントをくれてたんだ」

ウツロイド「まーねー。あれは、ほとんどあなたの感想。一生忘れないって、すぐに忘れちゃってるよねー」

ミミッキュ「何か別枠でしょ、それは」

ウツロイド「うん。昔っから、ホール通ったニンゲンって、記憶なくすことが多いんだー。姿まで変わっちゃうのは想定外だったけどー」
 ▼ 336 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 21:59:37 ID:RGqgKqVs [21/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕も、すべて思い出した。

久瀬の起こした乱闘。薄れゆく意識の中で、僕はひずみの中に入り込み、そして完全にすべてから解き放たれた。

再構成が始まる。僕は、人間から離れ、そして――

目が覚めたらポケモンになっていた。
 ▼ 337 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 22:00:18 ID:RGqgKqVs [22/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「……ウツロイド。教えて。あなたたちの本当の狙いは、調査なんでしょ? 人間の世界に行ったのも、その調査のため。

      この世界に現れたのも、同じ」

ウツロイド「……バレちゃったかー。うん。この世界は、いいとこだよー。きっと、みんな、一緒にいてくれると思うなー」

ミミッキュ「そっか。それと……アクジキングの場所、知ってる?」

ウツロイド「あっくん? うーんと、あたしはわからないけど、でもきっと、大食いの噂を辿ったらいると思うよー」

ミミッキュ「なるほどね。ま、それはみんな思い付くかな。あたしは、コスモウムと話したい」

ウツロイド「あたしも行くー!」

ミミッキュ「行こう、イワンコ。イワンコ?」


僕は、意識を投げ出して、どさりと大地に崩れ落ちた。
 ▼ 338 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 22:00:52 ID:RGqgKqVs [23/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


水の大陸はワイワイタウン。

その北部に拠点を構えるポケモン調査団の中で、僕たちはある2匹のポケモンと話していた。


ピカチュウ「なるほど……ウルトラビーストか。草の大陸今、大変な事になってるんだね」

ナエトル「みたいだね。それとサーカス団エクリプスか……」

ピカチュウ「あー、そういやあれか」

チラーミィ「あれって?」

ピカチュウ「いや、こっちの話。何年も前のクリスマスに、私たちの友達が、エクリプスに憧れてってサーカス団に入りに行ったんだよね」

ニューラ「まあ、それはともかくとして、お願い。黄金のリンゴを譲ってください」

ナエトル「……一応だけど、探検隊バッジを見せてくれませんか? 嘘を吐いてる可能性が0じゃない以上、確かめておきたくて」

ニューラ「なるほど。これ」

ナエトル「プクリンのギルド卒、探検隊リアライズ……」
 ▼ 339 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 22:01:36 ID:RGqgKqVs [24/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
この発言を聞き、1匹のポケモンが声を掛けて来た。


デンリュウ「プクリンですか?」

ピカチュウ「あっ、ダンチョー! 知り合いなの?」

デンリュウ「ええ。プクリンとは、結構交流があるんですよ」

チラーミィ「へぇ、親方、調査団とも知り合いだったんだ」

デンリュウ「元ニンゲンのポケモンが他にもいるという事を聞き、時間の空いた隙を狙って話を聞きに行ったんです」


彼はここで、謎のポージングをした後、がっくり肩を落とす。


デンリュウ「……話になりませんでしたけど」
 ▼ 340 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 22:02:29 ID:RGqgKqVs [25/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラーミィ「……でしょうね。ってあっ! あの時のデンリュウ!」

デンリュウ「あれ? 知り合いでしたっけ」

チラーミィ「いや、ギルドに来た時、僕たちまだいたんです」

デンリュウ「そういえば、いたようないないような……でも、プクリンのギルド卒業な以上、彼らの身分は私が保証します。

      ナエトル、ピカチュウ。協力してあげてください」

ナエ・ピカ「はい!」
 ▼ 341 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 22:03:39 ID:RGqgKqVs [26/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
こうして、僕らは調査団の2匹の協力を得た。彼らは預かりボックスから2つのアイテムを引き出して、言う。


ピカチュウ「これが黄金のリンゴ……これ何年前からあったっけ」

ナエトル「腐ってる感じはしないし大丈夫でしょ。黄金のリンゴだよ?」

ピカチュウ「それもそうか。それとこれ」

ナエトル「満腹リングル。これを付けていると、お腹が減らなくなる。アクジキングにこれを付けさせたら、食害がでる事もなくなると思う」

チラーミィ「凄い、これ……超絶レアアイテムだよね?」

ナエトル「苦労したけど、世界のためだもん。それに、金塊積めばデスカーンが引き換えてくれるから」

ニューラ「……そのデスカーン、いったい何者?」

ピカチュウ「さー、どうやって入手してるのか、全然教えてくれないんだよね」

ナエトル「利益の問題もあるから仕方ないとは思うけど、確かに凄い。次はその謎を調査してみる?」

ピカチュウ「それもありかもね。とりあえず、リアライズさん」

チラーミィ「はい」

ピカチュウ「世界、救ってくださいね」

チラーミィ「はい!」

ニューラ「もちろんよ。プクリンのギルドの名にかけて」
 ▼ 342 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 22:04:14 ID:RGqgKqVs [27/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ピカチュウ「ナエトル、私たちもなんかできないかな」

ナエトル「うーん……ここまで来たら僕らにできる事はないと思うよ。せいぜいが……情報を発信する事ぐらい。世界中のコネクトを駆使してね」

ピカチュウ「そっか、つながりオーブ! ウルトラビーストと仲良くしてあげてって、発信できるんだ」

ナエトル「うん。普通なら、そんな異世界からやって来た生き物なんて歓迎したくない。けど、危険な生き物じゃないんだ。

     それを正しく伝えれば、世論を味方に付けられる」

ピカチュウ「えっと……どう伝える?」

ナエトル「考えるから、ちょっと待って」

チラーミィ「いろいろありがとうございます」

ナエトル「いえいえ」

チラーミィ「じゃ、もう行きますね。肝心要のアクジキングそのものもまだ見付かってないので」

ピカチュウ「頑張ってね! バイバイ!」

チラーミィ「さようなら!」


それから再びラプラス大陸便を使用し、草の大陸へ向かう。

まずはジジーロンの家で情報を整理させてもらおう。そしてそれから、アクジキングを捜さなければ。
 ▼ 343 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 22:06:04 ID:RGqgKqVs [28/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


イワンコ「う、うーん……」

ジジーロン「おお! 目覚めたぞ!」

ミミッキュ「イワンコ、おはよう」


ミミッキュの上半身に浮かぶ顔は心配そうで、僕はうつむいて、少し考え込む。

そして、考えても埒が明かないと顔をあげた。


イワンコ「……そうなんだよな。うん。逃げちゃ駄目だ。ミミッキュ、ごめん」

ミミッキュ「いいよ別に。もう、気にしてない」


嘘だ。彼女はまだ、満たされていない。

それとも満たされている事に気付いていないのか。

とにかく、彼女は未だ、根に持っている。だからこそ、中身が存在しないのだ。
 ▼ 344 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 22:06:36 ID:RGqgKqVs [29/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジジーロン「何があったのかはわからぬが、とりあえず無事でよかった。そして、これからどうするのじゃ?

      ウツロイドを見付けたのじゃろ?」

ウツロイド「あたしここにいるもんねー」

イワンコ「とりあえず……留置所だ。コスモウムと、話そう」

ミミッキュ「わかってる。行こうイワンコ。

      ジジーロンさん、ありがとうございます」

ジジーロン「構わんよ。元気出しなされ!」

イワ・ミミ「はい」

ウツロイド「ほらー、もっと元気に」

イワ・ミミ「はい!」

ウツロイド「よろしー」


元凶であるというのに、彼女の天真爛漫さはどことなく懐かしささえ感じさせる。

苦笑しながら眺めていると、ミミッキュも同じ気持ちだったようで表情を苦笑いに変えていた。


ウツロイド「じゃ、レッツゴー」
 ▼ 345 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 22:08:05 ID:RGqgKqVs [30/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
留置所まで、気付かれないように進むのはさすがに骨が折れた。

他に気付かれないよう気を付けながらウツロイドがマッシブーンに合図を送ると、マッシブーンとジュナイパーがこちらへやって来た。


ジュナイパー「よくここまで無事に来られたね」

イワンコ「まあ、なんとか」

ジュナイパー「記憶、取り戻せた?」

イワンコ「はい。だけどたぶん、この事件そのものには関係ないかと。

     どちらかと言うと、この事件によって引き起こされた二次災害みたいなもんだったんです」

ミミッキュ「要約するとそうなりますね。手掛かりはないと見ていい」

ジュナイパー「そうか」

イワンコ「そっちの進捗は?」

ジュナイパー「さっぱりだ。コスモウムは、言葉を受け入れる気配もない」

マッシブーン「硬い殻に閉じ籠ってしまっているからな。我らの言葉さえ、今は届かないだろう」

イワンコ「……そうですか」


恐らく、そうだろうとは思っていた。彼が、今現在、一番危険なのだ。
 ▼ 346 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 22:09:03 ID:RGqgKqVs [31/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「君たちが思い出した以上、彼の説得には君らが適任だろう。

       となると、僕は、アクジキングや他のウルトラビースト……デンジュモクとフェローチェも念のために捜しておきたい」

ウツロイド「ジュモクっちはきっと、電気探してるよー」

ジュナイパー「電気……フェローチェは?」

ウツロイド「さー。でも、期限の時には、というよりフェロちゃんせっかちだから、もうそろそろミリスに着いて、どう身を隠すか悩んでるとこじゃないかなー」

ジュナイパー「集合場所は、やっぱりミリスか」

マッシブーン「あの場所が一番繋がりやすいものでな! この近辺もなかなかのものだが」

イワンコ「デンジュモクはたぶん、エレキ平原です。バクガメスが紹介してた」

ジュナイパー「了解。後は本当にアクジキングだけか……。アシレーヌたち、見付けてくれてるかな」
 ▼ 347 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 22:10:52 ID:RGqgKqVs [32/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マッシブーン「アクジキング殿は、隠れるのも苦手そうなのだがな」

ジュナイパー「なんでも食べる……となると、目撃証言があがっていてもおかしくはないはずなんだけど」

ミミッキュ「アクジキングって、悪食なの? この世界のおいしい食べ物を探して、物凄い美食家と化してたりしない?」

ウツロイド「どーだっけなー。マッシ君、わかるー?」

マッシブーン「そういえば、『ワシの舌を唸らせるメシがあるか、楽しみなもんじゃ!』なんて言っておったぞ!」

ジュナイパー「……なるほど。どうにかして、リアライズの2匹が持って来るであろうリンゴの存在を宣伝しないと」

イワンコ「でも、肝心の2匹がまだ……」

ジュナイパー「一旦戻ろうか。コスモウムは、まだ動く気配がない」


そう言われ、僕らはコスモウムを振り向く。彼は、じっと、そこに浮かんでいた。

確かに、一度リアライズと合流するのが得策に思える。僕は黙って頷いた。
 ▼ 348 シツブテ@イワZ 17/04/08 17:35:41 ID:reEtsVBQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 349 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 22:04:19 ID:0/HvBLZc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サーカス団編 4章
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=563304&l=125-199
125から199までです
 ▼ 350 リ解釈あり◆J44kAZeDOM 17/04/09 10:46:15 ID:jyWOxWLU [1/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







9章 コスモッグの記憶






 ▼ 351 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 10:46:55 ID:jyWOxWLU [2/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マッシブーンとウツロイドを残し、ジジーロンの家に向かう。

そこには、リアライズの2匹もいた。


ジジーロン「ついに全員集合かの」

チラーミィ「この街でウルトラビースト関連で動いてるのは、僕たち7匹ぐらいか」

イワンコ「動いてるのは……そうなりますね」

チラーミィ「とりあえず、現状報告だよ」


リアライズは、黄金のリンゴ、満腹リングルという、空腹対策2点セットを揃えていた。

譲ってもらっただけだけどね、と謙遜していたが、譲ってもらえる時点で凄い。

僕らなら、まず間違いなくアウトだろう。何せ、盗賊だもの。


チラーミィ「つながりオーブってシステムがあって、今、世界にウルトラビーストの目的を発信してる。

      ナエトルとピカチュウ……その調査団の2匹と繋がってる約780匹、伝説も含む。

      全員がそれを知っていれば、少なくとも世間が邪見に扱う事はない」

ニューラ「世間的な根回しは完了したと言っていい。ジュナイパーはサーカス団エクリプスよね」
 ▼ 352 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 10:48:07 ID:jyWOxWLU [3/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「うん。エクリプスは現状、ウルトラビーストの内2匹を味方に引き入れて、他のウルトラビーストに公演を見せようとしてる。

       今正体を現すと、追い返せと言われかねなかったから一時解散中。

       エクリプスの……日食の当日、ミリスの街に集まる事になってる。

       後留置所で、マッシブーンとは仲良くなれたように思う。

       アクジキングの居場所は未だ、見付からない。探すしか……」


と、扉が開いた。

鼻孔をくすぐる甘い香りに思わずうっとりしかけてそれから気付く。

ジュナイパーの驚いた表情に。


ジュナイパー「アママイコ、どうかした?」

アママイコ「ニャヒートたちから手紙!

      もう、日食まで何日もないから、再結成してミリスに向かってるって」

ジュナイパー「そうか! よかった。ありがとう、アママイコ」
 ▼ 353 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 10:48:46 ID:jyWOxWLU [4/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラーミィ「誰?」

ジュナイパー「妻のアママイコです」

ミミッキュ「既婚者?!」

ジュナイパー「あれ、意外?」


落ち着け、ミミッキュ。聞こえないからと言って、呪詛の言葉を呟くな。

久瀬美々華はそんなキャラではなかっただろ、少なくとも。


イワンコ「と、とりあえず僕らの成果。記憶を取り戻しました。直接説得に関係するもんじゃないけど……。

     後、恐らくデンジュモクとフェローチェには、満足してもらったと思います」

ジュナイパー「アクジキングを見付けたあっ?!」


手紙を読んでいたジュナイパーが叫び声をあげる。
 ▼ 354 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 10:49:28 ID:jyWOxWLU [5/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「もう既にミリスの街にいて、何か食べるものをひたすらに要求し、街のポケモンたちを困らせている……」

イワンコ「……満足できるメシはなかったみたいだ。ジュナイパーさん、行ってください。エクリプスもそこにいるんでしょう?

     あなたが決着を付けるべきです」

ジュナイパー「……そうだな。リアライズの2匹さん、それからミミッキュも、反論ありますか?」

チラーミィ「異議なし!」

ニューラ「いいよ、誰でも」

ミミッキュ「あたしたちはコスモウムと話したいですし」

ジュナイパー「じゃあ、行って来る! 黄金のリンゴと満腹リングルを」

チラーミィ「はい」

ジュナイパー「ありがとう! ……イワンコ、ミミッキュ。頑張って」

イワ・ミミ「はいっ!」


そう言って、ジュナイパーは飛び去ってしまった。
 ▼ 355 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 10:50:14 ID:jyWOxWLU [6/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
後に残されたアママイコは、呆れたようにため息を吐く。


アママイコ「まったく……。夫がお世話になってます。今回ばかりはあたしも行こっと。

      待ってよジュナイパー! あたしも連れてって!」

そう言って、彼女も走り去る。

後に残された5匹は、しばしその光景を眺めた後、それどころじゃないと会話を再開した。


ニューラ「あんたたちはコスモウムと話すんでしょ?

     あたしたちは……念のため、エレキ平原にデンジュモクを捜しに行くかな」

チラーミィ「コスモウムからしたら、一番憎いポケモンだろうからね、僕たち。そっちには触れられない。

      ミリスにもう、何匹か集まってるらしいしウルトラビースト」

イワンコ「たぶん、フェローチェはもういる。ウツロイドがそう言ってた。カミツルギとテッカグヤは確定させていいでしょ」

ミミッキュ「アクジキングは間違いなくいるね。ウツロイド、マッシブーンはあそこ」

チラーミィ「デンジュモクだけじゃん。よし、行こう」

イワンコ「僕たちも」

ミミッキュ「だね」
 ▼ 356 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 10:51:49 ID:jyWOxWLU [7/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジジーロン「ワシは、ここで待機しておる。実は、ワシ、預かりボックスを持っておっての」

チラーミィ「えっ?! 銀行と倉庫使い放題の?」

ジジーロン「そうじゃ。歳食って、買い物もしづらいじゃろうという息子からの贈り物じゃ」

チラーミィ「凄くありがたいです! 倉庫と接続してるから、君たちも何か引き出して行けるよ」

イワンコ「マジっすか?!」

ミミッキュ「一応、いろいろ引き出そう。復活のタネとか、復活のタネとか、リンゴとか……」

イワンコ「だね」


久しぶりに、トレジャーバックにアイテムを詰め込んだ気がする。ウルトラスペースに関してはアイテムを持っていけなかったし。

しっかりアイテムを持っている安心感と来たらなかった。


チラーミィ「それと、これは僕らからの餞別。たいようのリボンと、げっこうのリボン。

      太陽の力と、月の力を備えたリボンだよ。まあ、進化アイテムでしかないんだけど……。

      でも、ソルガレオとルナアーラは、この事件に関係している。何かしらの役に立つんじゃないかな」

ニューラ「イワンコにとっては、進化に使うでしょ。どっちかの力の影響を色濃く受けた2通りの姿があるんだから」

イワンコ「はい。ありがとうございます」
 ▼ 357 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 10:52:32 ID:jyWOxWLU [8/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「太陽と、月か。イワンコ、どっちがいい?」

イワンコ「……こっち」


脳内でどちらにしようかなを行った所、たいようのリボンを指さしていた。

チラーミィが僕の首にそれを巻き付けてくれる。

ミミッキュはニューラに巻いてもらっていた。


チラーミィ「最後に、2匹はこのドロンのタネを食べて。透明になれるから。それじゃ、行こうみんな!」
 ▼ 358 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 10:53:57 ID:jyWOxWLU [9/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
再び僕らは、留置所に舞い戻る。

他の誰にも見付からないように、隠れながら。

といっても、ドロンのタネをリアライズから貰って食べたから、警戒の必要性は薄まった。

僕らはまた、誰にも見付かる事なくコスモウムたちの所へ到達する事ができた。


イワンコ「ウツロイド」

ウツロイド「んー? イワンコー?」


僕らは透明化を解除した。


ウツロイド「ふおー、急に出て来た、凄ーい」

マッシブーン「曲者?!」

ミミッキュ「あたしたちですよ……」

マッシブーン「そうか、透明化の力を手に入れたのだな!」

イワンコ「アイテム貰っただけ……」
 ▼ 359 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 10:54:28 ID:jyWOxWLU [10/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「コスモウムは、どんな感じですか?」

ウツロイド「うーん、あたしたちの声も届かない感じだねー。何言っても。

      ポケモンの事、どう思ってるのかもわかんないしー、そもそも期限に間に合わなそー」

マッシブーン「恐らくフェローチェが苛立っている頃だろうな! まだ日はあるというのに」


ウルトラビーストでさえ、言葉を届けられないのか。

それとも、届いていて、無視しているのか。


ミミッキュ「……コスモウム」


ミミッキュが声を掛ける。


ミミッキュ「あたし、思い出したよ。あなたが、あたしたちを逃がしてくれたお陰で。ありがとう」


コスモウムは、何も言わない。初めからわかっていたと言うように。
 ▼ 360 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 10:55:25 ID:jyWOxWLU [11/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「力を、蓄えてるんだよね」

コスモウム「…………」

イワンコ「……大丈夫だよ。ジバコイルとバクガメス、仲いいんだよ? そんなに心配する事ないって」


それにしても、と自分の発言に首を捻らざるをえなかった。

バクガメスは、これが最善だ、と言っていた。そして、僕ら3匹だけを、別の牢獄に入れた。

僕らは脱獄犯となり、こうしてこそこそとウルトラビーストとの共存に向けて行動している。

けれど、バクガメスたちは、どうやって抜け出すつもりだったのだろう。

助ける、の中には恐らく、ラランテス、ヒドイデ、サニーゴの3匹も含まれている。

彼には、きっちりと許されるためのビジョンが見えているのだ。僕たち3匹も、まだ捕らえられている3匹も。

ウルトラビーストと共に、僕たちも、社会と共存を果たすためのビジョンが。


イワンコ「大丈夫だよ、コスモウム。バクガメスが何の考えもなく、ボスたちを牢獄に残すとは思えない」

コスモウム「…………」

イワンコ「きっと、僕たちなら助けられるんだよ」
 ▼ 361 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 10:56:03 ID:jyWOxWLU [12/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「どうやって?」

イワンコ「わからないけど。でも、バクガメスだよ?」

ミミッキュ「……表面しか見てないクセに、あんたが言うんじゃないよ」

イワンコ「だから、僕はもう、反省したんだ。表面しか見てなかったからこそ、小説も微妙で、だからもっと表層的に、君を求めた」

ミミッキュ「ったく」


コスモウムが、大きく身震いした。まるで、喧嘩はやめろと言うように。

そう。僕は、他人の心に踏み込めなかった。

それじゃいけないのだ。全てがわかるなんて言ったら傲慢だけれど、それでも物語を創る以上、気持ちを寄せて行かないといけない。


イワンコ「とにかく、コスモウム。バクガメスの狙いを考えよう?」

コスモウム「…………」
 ▼ 362 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 10:56:44 ID:jyWOxWLU [13/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「ねえ、期限っていつなの? いつ、集合するの?」

ウツロイド「えっと、エクリプスの1週間前ー。前後1週間が、特に繋がりやすいのー。だから、もう3日後かなー」

イワンコ「うえっ?!」

ミミッキュ「たったの……3日?」

マッシブーン「そうだ。だから、明日にはここを発つ!」

イワンコ「明日……コスモウム、間に合わなくない……?」

ウツロイド「あたしもそれが心配でさー」


ミリスの街がここからどれぐらいの距離かはわからない。ただ、間に合わないのはほぼ確実だ。


イワンコ「コスモウム……」

ミミッキュ「……イワンコ。コスモウムは、あたしたちの、最高の仲間だよ」

イワンコ「……ああ」


彼は、他のウルトラビーストよりも、フラワーズの仲間たちを選んだ。今までの物事を総合すると、そうとしか考えられない。


イワンコ「とにかく、僕らも僕らで、平穏無事に4匹を助ける方法を考えよう」
 ▼ 363 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 10:57:36 ID:jyWOxWLU [14/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ウツロイド「助けるかー。でも、あんまり乱暴な事しちゃ駄目なんでしょー?」

イワンコ「ああ」

ウツロイド「うーん」

マッシブーン「留置所の壁など、あってないようなものではないか! 壊せば――」

ミミッキュ「やめて」

マッシブーン「何? 我が力を愚弄するか?!」

イワンコ「してない。乱暴しないで」

マッシブーン「ぬぅ……」

ウツロイド「あははー。さっすがマッシブーン」


ウツロイドが体を震わせた。

マッシブーンがコスモウムを持ち上げ、ダンベル代わりに上げ下げを始めてしまう。
 ▼ 364 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 10:59:54 ID:jyWOxWLU [15/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「でも、実際破壊は駄目、かと言って助け出す方法なんて……」

ミミッキュ「ないよね。警察だもん。ジバコイルとのコネがあるから釈放されるってのも、たぶん、あたしたちの脱獄のせいで難しい」

イワンコ「――そもそも、脱獄なんてしでかしたいと思ってるはずがないんだ。あんな事を言ってる人が」

ミミッキュ「うん。あたしたちを脱獄という形にしたのはたぶん、ウルトラスペースを通らせたかったから。

      コスモッグにそれを開く力がある事も、たぶん読んでた」

イワンコ「記憶を取り戻す、トリガーか。

     バクガメスが僕らだけをコスモッグと同じ牢獄に入れてもらったのは、たぶんそうだ」

ミミッキュ「それが、バクガメスさんの言う最善手。

      あたしたちの記憶を取り戻させるには、確かにウルトラスペースの光景が必要だった。

      あたしは、それで、思い出せたから」

イワンコ「うん。「僕たちだけ」を「ウルトラスペース」に送った理由はわかったとしよう。

      警察に捕まったのは、それに加えて、情報を発信するためってのもあると思う」

ミミッキュ「ああ、なるほど」
 ▼ 365 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 11:02:37 ID:jyWOxWLU [16/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ウルトラビーストとは戦うな。その情報を広げるには、捕まってしまうのが手っ取り早い。

ウルトラビーストとフラワーズの接点を語り、それを広めるためには、盗賊であるという事実がどうしても邪魔をする。

その垣根を取っ払い、全てを曝け出すには、一度罪を認めなければならない。

そして、彼らの言葉が広がった時、その動機は広く受け入れられるだろう。

けれど、もうひと押し。もっと直接的に、状況を改善すれば……


イワンコ「ああっ! わかった!」

ミミッキュ「ん? 何が?」


簡単過ぎて、これでいいのかと疑いたくなるような結論。

けれど、物事は時に、意外な程シンプルだったりする。

そして、シンプルな結論には、異論を差し挟む隙もない。シンプルというのは、強いのだ。
 ▼ 366 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 11:03:35 ID:jyWOxWLU [17/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「間違ってるかもしれない。けど、こうじゃないかなって。

     向こうが共存を望んでいるとしても、現実にウルトラビーストが僕らを上回る力を持ってるのには変わりない。

     最悪の方向に転べば、世界を滅ぼすかもしれない訳じゃん。

     それを、食い止めた。そうなると、世論は甘くなる。

     そこを突いて、ジバコイルの手引きで釈放させるんだよ。

     バクガメスは、ジバコイルと今でも仲がいいらしい。

     今釈放が許されないのは、記憶復活のための脱獄による世論の問題。

     僕らは、食い止めないと。ウルトラビーストが、反ポケモンに転ぶなら、僕たちが伝えないといけないんだ。

     外からやって来た僕らが感じた、この世界の暖かさを。この世界の素晴らしさを」

ミミッキュ「……なるほどね。筋は通ってる。あたしたちが、やらないといけない理由も。

      でも、ウルトラビーストの怖さを、誰も知らない。

      ねえ、そう上手く転ぶかな……」
 ▼ 367 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 11:04:24 ID:jyWOxWLU [18/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ウツロイド「んー? あたしたち、怖くなんてないよー? この世界気に入ったし、みんな楽しいしー」

マッシブーン「我が筋肉を受け入れてくれる素晴らしき世界、素晴らしき民がおるからな!」

イワンコ「……安泰そうだね」

ミミッキュ「2匹はね」

コスモウム「…………」


コスモウムが、いつの間にか隣に浮いていた。

そっと触れると、ほのかに温かい。


イワンコ「力を蓄えてるのか」

ミミッキュ「まだ、ね。壊しちゃいけない。けど、どうなるのか、わからない。

      コスモウムは、どっちに転ぶのか」

ウツロイド「たぶん、ほとんど聞いてないよー。諦めて、一旦寝たら? もうほとんど朝だよー」


そう言われ、気付く。もう空が白み始めている。夜になっていた事すら気付かなかった。

気付いた瞬間、もはや眠気は耐えきれない程になっていて、僕は崩れ落ちた。
 ▼ 368 マザラシ@しらたま 17/04/09 15:23:28 ID:7MB6UeR6 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 369 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:26:38 ID:jyWOxWLU [19/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目を覚ますと、マッシブーンはいなかった。

もう、ミリスの街に向かったらしい。


ウツロイド「おはよー」

イワンコ「……お前さ、間に合うのか?」


眠い目を瞬(しばた)かせながらウツロイドに問うと、彼女は朗らかに笑った。


ウツロイド「コスモウムも間に合いそうにないしー。

      それならあたしが巻き込んじゃった2匹に最後まで付き合うのも面白いかなーって」

イワンコ「面白いって……」


そして、あっと気付く。これが、久瀬美々華の味わった思いか。

遠くから面白がるのは、確かに楽しい。しかし、やられた方からしてみたら


イワンコ「たまったもんじゃないよな……」
 ▼ 370 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:27:13 ID:jyWOxWLU [20/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ウツロイド「えー、あたしがいて嫌ー?」

イワンコ「いや、ありがたい。ウツロイド、最後まで、僕たちといてくれ」


それが、僕の償いであり、久瀬美々華への許しなのだ。

彼女の存在が、僕たちを癒す。


ウツロイド「そうお? そんな事言われたら照れちゃうなー」

イワンコ「ハハ……」
 ▼ 371 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:28:32 ID:jyWOxWLU [21/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュは、まだ眠っていた。

既に太陽は空高い。僕はかばんから大量にあるリンゴの内のひとつを手に取り、かぶりついた。


イワンコ「コスモウム、食うか? ウツロイドも」

ウツロイド「え、いいのー?」

イワンコ「数だけはたくさんあるからな。にしても、よくバレなかったな僕たち。こんなとこで寝てさ……」

ウツロイド「まー、ここ見つかりにくいからってコスモウムがいるぐらいだしねー」


リンゴを触手を用いてガラス質の頭部の中に押し込めるウツロイド。

次第に融かされて行くそのグロテスクな光景から目を背けつつ、僕は尋ねた。


イワンコ「そういや、なんでお前は、久瀬だったんだ? 他に憑りつける奴は、たくさんいたんじゃねえの?」
 ▼ 372 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:29:35 ID:jyWOxWLU [22/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ウツロイド「え? それはー……あの子だよね、久瀬って」

イワンコ「ああ。お前が寄生した」

ウツロイド「……あの子も、あたしと同じだったからかなー。イワンコ、向こうの世界見て、どう思った?」

イワンコ「うん? えっと……何もないなって。本当に、光も、闇も」

ウツロイド「でしょー。……あの世界で、あたしは、寂しかったの。

      急に自我ができてさ、どうすればいいのかもわからないけど、世界が壊れて来ててさー。

      わけわかんないもん。怖かったもん。で、あたしは……やっぱり寂しかった。

      何も楽しい事がない世界で、あたしは、空っぽだった。満足なんて、した事がなかった」

イワンコ「……空っぽ。久瀬も、そんな事言ってた」

ウツロイド「そ。だからじゃないかなー。あたしがあの子を選んだの。あたしも、同じだったんだよねー。

      全然違うかもしれないけど、それでもおんなじ。周りに何もないと、自分まで空っぽになっちゃうもんなんだよ、きっと」

イワンコ「……そうなのか」
 ▼ 373 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:31:30 ID:jyWOxWLU [23/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
また、ふと疑問をぶつける。


イワンコ「なんで俺たちの世界は侵略も共存もしようと思わなかったんだ?」

ウツロイド「まー、あんな世界じゃ侵略する価値もないってのがみんなの結論だったよー。暑いし、住みにくくて」


なんだか複雑だ。少なくともウルトラスペースよりかはマシだと思うのだが。


ウツロイド「あたしはごちゃごちゃしてて面白そーって思ったけどねー。

      そんな事より、コスモウムがどうなるかだと思うよー?」

イワンコ「だな」
 ▼ 374 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:32:13 ID:jyWOxWLU [24/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それからずっと、僕たちは、ひたすらコスモウムの傍にいた。

もう、話せる事は何もない。ただ、コスモウムが力を集め終わった時、そこにいてあげたい。

それが、たぶん僕らに残された、今できる唯一の事だ。

そして、その時にどう転ぶのか。それは、その時になるまでわからない。


ミミッキュ「ふああ、おはよ。イワンコ、どうする?」

イワンコ「どうもしない。コスモウムでいる内はもう、僕らの声は届かない。だよな、ウツロイド」

ウツロイド「たぶんねー」

ミミッキュ「そっか。いてあげる、だけか……。

      ……あたし、見てるだけなんて、嫌だ。どうにかして、コスモウムと話したい!

      ……とは言っても、無理、だよね」

イワンコ「……久瀬」

ミミッキュ「岩根君、どうしたの?」

イワンコ「ごめんな」
 ▼ 375 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:34:35 ID:jyWOxWLU [25/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「ううん、あたしこそ。あなたを、ポケモンの世界まで連れて来ちゃって……」

イワンコ「お前は気にするな。操られていただけだろう? ウツロイドも、孤独だった。僕たちが、欲しかったんだ」

ミミッキュ「ううん、ウツロイドの毒はね、ただ操るんじゃない、本人の120%を引き出すだけ。あれが、あたしの本性なのっ!

      あれが、あたしの……」

イワンコ「本性なんて、そんなもんだ。誰だって、それを隠しながら生きている。

     誰かと繋がっていたい。お金を稼ぎたい。セックスしたい」

ミミッキュ「え、ちょっと!」

イワンコ「寝たい、食べたい、リア充が妬ましい! ……満たされたい、深く知りたい。

     誰だって、欲望を隠しながら、生きてる。その自制のタガが、外から取り払われたら、誰だって、ああなるよ」

ミミッキュ「でも、だけどあたしは……」


うつむくミミッキュを遮るように、ウツロイドが言葉を発した。
 ▼ 376 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:35:36 ID:jyWOxWLU [26/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ウツロイド「ま、でもさー。あたしがやったから言うんだけど、このお陰でみんな出会えたわけじゃんかー。

      そう考えると、あたし、向こうの世界に行ってよかったなーって」

ミミッキュ「何人も、殺したけどね」

イワンコ「……その罪も、全部、許される訳はない。お前をそこまで導いた、僕もこいつも同罪だ。

     共犯3匹、仲良くやろうぜ」

ウツロイド「だねー」

ミミッキュ「岩根君、ウツロイド……」


――やっぱり、あたしは間違っていなかった。

あたしの孤独は、ウルトラホールのお陰で、埋められた。


イワンコ「ん? なんか言ったか?」

ミミッキュ「ううん、何も。コスモウム、話そうよ。今ならあたし、素直になれるから。

      そしたらきっと、ホントの友達になれると思うから」
 ▼ 377 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:36:43 ID:jyWOxWLU [27/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「おいおい。お前らは正真正銘、ホントの友達だよ既に。

     僕だ。そのステップが必要なのは。

     一度だって、素直に話した事がない。腹割って、話そうぜ、コスモウム」


コスモウムは、なおも動かない。それでも構わなかった。

こんなクサい話ができる機会なんて、もうないだろう。

コスモウムが力を集め終わり、4匹でミリスに着く、その時までだ。

だから、今。僕は彼と話したかった。
 ▼ 378 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:37:36 ID:jyWOxWLU [28/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それからどのぐらいの時間をそうして過ごしただろうか。

3匹揃って、コスモウムを眺める。

彼はまだ、力を集めているようだった。

空が赤みを帯び、やがて闇に呑まれて行く。

リンゴをかじりながらそれを眺めていると、不意にコスモウムから、音が漏れ出た。

ゆったりとした、それでいてどこか力強さも感じさせるハミングが、コスモウムから零れ、そして、コスモウムが光に包まれる。

今は夕暮れ。

どちらだ。どちらに進化するのか。そして、コスモウムの答えはどちらなのか。それが、今、明らかになる。


ミミッキュ「来た!」

ウツロイド「どうなるのかなー」


僕は、何も言わなかった。ただ、その調べに、身を預けていた。
 ▼ 379 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:38:49 ID:jyWOxWLU [29/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
???「イワンコ、ミミッキュ、ウツロイド……」


彼が、僕らの名を呼ぶ。

ミミッキュは、愕然としたように呟いた。


ミミッキュ「……えっ、ちょっとこれ……」

イワンコ「どうしたミミッキュ」


コスモウムが進化したそいつは、黒光りする、カクカクした体躯を持ち、腕から鋭い突起を伸ばしていた。


ミミッキュ「こんな、こんなの聞いてない、コスモウムに、こんな進化なんてないはずよ……。





      なんで、なんで……ネクロズマなの?」

ネクロズマ「…………」
 ▼ 380 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:39:47 ID:jyWOxWLU [30/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ウツロイド「あれー、おっかしいなー。これ、どういう事なんだろ」

イワンコ「ネクロ……ソルガレオでも、ルナアーラでもなく?」

ミミッキュ「攻略本にも、こんな事書いてない……」


ネクロズマは、頭を抱えると、それから眩い光線を放った。

それが森を焼き払い、そして、炎が辺りを包んだ。


イワンコ「ネクロズマ……それが、答えなのか?」


ネクロズマは、何も語らない。ただ、頭を抱えるだけ。


ミミッキュ「ネクロズマっ! あなたは、この世界の事、駄目だった? 嫌いに、なっちゃった?」

ネクロズマ「……ああっ!」


ネクロズマはうめき声をあげて、飛び去って行く。その先にあるのは、恐らく街だ。


イワンコ「ヤバい、あいつを、街に行かせちゃ駄目だ! 行くぞミミッキュ!」

ミミッキュ「わかってるっ!」
 ▼ 381 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:41:00 ID:jyWOxWLU [31/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
と、ウツロイドの鋭い声が聞こえた。

およそ初めて聞くような、叫び声。

間延びしない、表記するならエクスクラメーションマークを付けたくなるような、そんな声で、彼女は言う。


ウツロイド「待って! ……2匹とも、あたしの毒に侵されて」
 ▼ 382 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:42:04 ID:jyWOxWLU [32/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「はぁ?!」

ウツロイド「あの力、見たでしょ。あたしでも敵わないもん。

      あたしに負ける2匹が、勝てる訳ないでしょ。

      だから、力を引き出すの。

      大丈夫、終わったらあたしが毒を抜くからさ」

イワンコ「抜けるのか?」

ウツロイド「抜けるよー。現に、ミミッキュだって、イワンコだって、もう毒ないでしょー?」

ミミッキュ「……わかった。お願いする。いいよね、イワンコ。友達だし」

イワンコ「……わかった」

ウツロイド「よーし、行くよー」


触手が、僕たちの口の中に入り込む。そして、口の中に、何か甘美な蜜が広がった。

それをごくりと呑み下す。体の中を、鋭い痛みが走り抜けた。


ウツロイド「これで、あなたたちの力を引き出しましたー。

      あたしも、後から追っかけるからねー。ネクロズマを、絶対説得してねー」
 ▼ 383 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:42:49 ID:jyWOxWLU [33/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「任せてくれ」

ミミッキュ「あたしたち、やるから! あなたのために。あたしたちの、仲間のために!」


痛みが去り、どことなく、元気になったような気がする。

ある種の麻薬というかドーピングアイテムのようなものだろうか。


イワンコ「さ、今度こそ行こう、ミミッキュ。ネクロズマになら、声は届くはず。

     そして、止められるのは、僕たちだけだ」

ミミッキュ「あっちよね。急ごう!」
 ▼ 384 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:43:57 ID:jyWOxWLU [34/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
体が飛ぶように軽い。これもウツロイドの毒のお陰か。


ミミッキュ「ウツロイドの毒。ポテンシャルを全部引き出して、

      それから思考を、いつの間にかウルトラビーストのためになるようにって改変されちゃう。

      でも、今は問題ない。初めから、あたしたちは、同じ目的で動いてる。

      ウルトラビーストのために。なら、問題ないでしょ? 毒が抜かれなくたって」

イワンコ「まあ、毒が抜かれないとそれはそれで辛いがな。そんな嘘吐くような奴と共存したくねぇ」

ミミッキュ「それもそうね。あっ、いたっ!」


黒い体躯は、夕空に紛れ、怪しく輝いていた。

街の傍に立ち、近辺の森を焼き払う。


イワンコ「ネクロズマっ!」

ミミッキュ「落ち着いてっ!」


ネクロズマがちらとこちらを見やる。

そして、それからまた飛び去って行った。
 ▼ 385 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:44:43 ID:jyWOxWLU [35/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
町民A「あっ、あれ脱獄した……」

町民B「イワンコとミミッキュよね……」


街中を突っ切って行くのが最短距離だったが、僕たちの立場を忘れていた。

避難中の町民たちから、僕らに向かって疑惑の目を投げかける。

ええい、ままよ。後でいくらでも逮捕されてやる。今はネクロズマだ。

噂を吹っ切り、僕たちは先へ進んで行く。


ミミッキュ「このまま進むと……アジトだよ」


わかっていた。彼が目指すのは、あの場所なのだ。


イワンコ「やっぱり、ケリをつけるのは、そこになるみたいだ。

     最短ルートで向こうに行くには……」

ミミッキュ「チュート洞窟を抜けるのが一番。大丈夫、今のあたしたちなら、速攻で抜けられる」

イワンコ「だね。行こう!」
 ▼ 386 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:46:18 ID:jyWOxWLU [36/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
最初はそれなりに苦労したあの洞窟も、今となっては慣れた道。

僕らは、全速力で洞窟を駆け抜けた。

息もあがっていない。ウツロイドの毒の効能は、やはり凄い。


ミミッキュ「見てっ! あそこにっ!」

イワンコ「いる。行こう」


僕らの、フラワーズのアジトに、彼は立っていた。
 ▼ 387 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:46:51 ID:jyWOxWLU [37/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
必死で叫ぶ。彼に、声を届けるために。


イワンコ「ネクロズマっ! 待ってくれ!」


ネクロズマは、こちらを見下ろす。威圧感は物凄いが、どうしてか、力が湧いて来る。

怯んでしまう事なんて考えられない。


ミミッキュ「落ち着いて! こんな事したって、なんにもならない!」

ネクロズマ「こんな……こんな世界、みんなを逮捕するような、こんな世界っ!」


ネクロズマが再び頭を抱え、それから僕たちのすぐ傍を薙ぎ払う光線を吐き出す。


ネクロズマ「う……ぉあっ!」


背後で爆発音が聞こえる。もしあれが直撃していたら、どうなっていた事か。

背筋が凍る。けれど、怯んではいられない。怯んでは、いけない。


イワンコ「コスモッグ! お前は、こんな奴じゃないだろう?! 訳もなく暴れるような!」
 ▼ 388 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:47:33 ID:jyWOxWLU [38/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ネクロズマ「訳も……」


一瞬、ネクロズマの体が震えたような気がした。


ネクロズマ「そこに、誰か……うおぁっ!」


僕たちの背後を光線が襲う。そこから、悲鳴が聞こえた。

ミミッキュが大丈夫ですかと駆けよって行く。僕は、なおもネクロズマに向けて言葉を投げかける。


イワンコ「なあ、考え直せよ。この世界の、全てが悪い訳じゃないのは、お前もわかってるんだろ?!」

ネクロズマ「あ……がぁっ……」


次の瞬間、僕とネクロズマは、我が耳を疑う事になる。


ミミッキュ「ヒドイデっ?! サニーゴもっ?! どうしてみんな?!」
 ▼ 389 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:49:22 ID:jyWOxWLU [39/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこには、盗賊団のメンバー4匹、そしてジバコイル保安官がいた。


イワンコ「なっ?!」

ジバコイル「アンナチカクデアレホドノコウゲキヲサレテ、キヅクナトイウホウガムリナソウダンダ」

バクガメス「最悪のシナリオも用意してたんだが、これはまだマシな方さ」

ネクロズマ「みんな……うがあっ!」


彼は、空めがけて光線を放つ。もう完全に暗くなった空を、一筋の光が照らした。


ヒドイデ「俺たち、チームだし。無理いって、出させてもらったぜ」

サニーゴ「バクガメスさんがいたからこそ、ですね。緊急事態ですもの」

ラランテス「ま、あたいたちも、戦う訳じゃない。説得しかないよ。そしてたぶんそれは、あんたたちの仕事だ」

バクガメス「そういうこったな。イワンコ、ミミッキュ。異世界からやって来たのは、お前らも同じ。お前らの答え、聞かせてやってくれや」

イワ・ミミ「……はいっ!」


どうしてだろう。みんなの顔を見て、急に自信が湧いて来た。

行ける。そんな確信を得た僕らは、ネクロズマに向けて駆け出し、彼と向き合った。
 ▼ 390 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:50:24 ID:jyWOxWLU [40/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「あたし、この世界に来て、右も左もわからないとこを、ボスに拾ってもらった。

      それから、いろいろ特訓して、盗みぐらいは働けるようになった。

      もちろんそれは許されない事。だけど、楽しかったよね、間違いなく!」

イワンコ「こっちに来て、僕は、訳もわからないままいろんな事件に巻き込まれた。

     だけど、いつだって、みんながいた。気を許せる、仲間がいた!

     この世界は、あったかい。誰かを、無視したりなんか、しないっ!」

ネクロズマ「バクガメスの、事情も考えずっ! うおぁっ!」


再び光線を放つ。

虚空を鋭く射たそれは、何の主張を込めているのか。


イワンコ「確かに、この世界も、完璧じゃない。でも、完璧な奴らなんていない!」
 ▼ 391 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:51:42 ID:jyWOxWLU [41/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕らは、示し合わせたように、言葉を重ねる。


ミミッキュ「あたしは、空っぽだった。ウツロイドも、そう。周りに誰もいなくって、あたしたちまで消されて行った!」

イワンコ「僕だって、誰かを思いやる気持ちを欠いた、不完全な性格だ!」

ミミッキュ「それだけじゃない。ラランテスは、おしとやかさを欠いた不完全」

イワンコ「バクガメスは、優しさ、穏やかさが欠けていた!」

ミミッキュ「ヒドイデとサニーゴは、所構わずのろけるし!」

イワンコ「コスモッグだって、何も言えずに消えたりした!」


そこで、僕たちは一息吐いて、再び叫ぶ。


ミミッキュ「それだけじゃないっ!」

イワンコ「誰かをいじめて喜ぶ奴!」

ミミッキュ「誰かに近寄って、偽善を振りかざす奴!」

イワンコ「――復讐に、その力を振りかざす奴!」


僕たちは、互いを見合わせ、頷いた。
 ▼ 392 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:52:39 ID:jyWOxWLU [42/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「あたしたちは、みんな、不完全なんだよ。社会から爪弾きにされた、なりそこないばっかり」

イワンコ「でも、弾く社会だってなりそこない。そんなポケモンに目を向けられない社会は、不完全だ」

ミミッキュ「でも、不完全だからこそ……不完全だからこそ、あたしたちは、ボスの下で、助け合えたっ!」

イワンコ「なあ、楽しかっただろ? みんな不完全でも、楽しかっただろ?

     僕たちを、事情も詮索せずに弾く社会が不完全だったとしても、壊すなんて、ない」

ネクロズマ「……うるさい、うるさいうるさいうるさいっ! 収まれ、僕の中の何か……うおぁっ!」


ネクロズマが、今度はこちらをめがけて光線を放つ。それは、今度は直撃した。

躱す間もなかった。

壮絶な痛みが僕を襲う。固く目を閉ざし、歯を食いしばる。

攻撃が去った。ウツロイドの毒のお陰か、致命傷にはならなかったらしい。辺りを見回す。森が、燃えていた。

幸い、4匹とジバコイルはかわしていたらしい。

それが、この位置から確認できた。


ラランテス「イワンコ! ミミッキュ!」

バクガメス「ちぃっ! あいつ、マジになりやがったぜ……暴走してやがる……」
 ▼ 393 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:53:23 ID:jyWOxWLU [43/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、ミミッキュの方を見た。攻撃をばけのかわで無効化した彼女は既に、ネクロズマの方へ向かっていた。


バクガメス「こうなっちまったら、一旦あいつを倒すしか……お前、何付けてんだ?」

イワンコ「たいようのリボンですけど……ミミッキュが、げっこうのリボンをつけてます」

バクガメス「……なるほどな。お前、あいつと戦ってくれ。たぶん俺らも、あのプリズムレーザーには敵わねぇ」

サニーゴ「そんなっ?! 戦うなんてっ?!」

バクガメス「落ち着け。ネクロズマを、落ち着けないといけない。あいつに、お前らの持つ、太陽と月の力を注ぎ込め」

イワンコ「太陽と……月?」

バクガメス「あいつは、そのどちらにも属さない、お前ら風に言うならなりそこないだ。

      だから、どちらかを、あるいはどちらもを、満たしてやるんだ。お前らなら行ける。

      異世界から来た同士、そしてウツロイドの力を手に入れた、お前らにしかできない」

イワンコ「太陽……これか」


ふう、とひとつ息を吐く。

静かに、それを吸い込む。


――太陽の、力っ!
 ▼ 394 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:54:41 ID:jyWOxWLU [44/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、光を纏って走り出す。

首に掛けたリボンから、力が伝わって来る。

太陽が、注がれて行く。そんな感覚。


「うおぉっ! ネクロズマっ!」


僕は、ふいうちを食らわせた。


ミミッキュ「イワンコっ?! イワン……コ?」

「一回、戦おう。リボンの力を、分け与えるんだ。ネクロズマに」

ミミッキュ「岩根君……ルガルガン、真昼の姿!」

ルガルガン「え?」


首元に、まだリボンを掛けた状態で僕は、進化していた。

まだ、リボンは力を放っている。というより、僕がまだ、太陽の力を纏っている。


ミミッキュ「……行こう、ルガルガン。ネクロズマを、止めなくちゃ」
 ▼ 395 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:56:49 ID:jyWOxWLU [45/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ネクロズマは、苦しげに頭を抱えると、僕らの事を強く見据えた。

それと目が合い、僕はすっと覚悟を決める。


これが最後だ。ウルトラビーストを巡る物語の、最後の戦いだ。


僕は相手を見据え、それから素早く背後を取る。

急接近して、僕はネクロズマに向け飛び上がり、岩を纏った一撃を繰り出す。

アクセルロック。それがこの技の名前だと後から聞いた。

ネクロズマは、驚いたような顔でこちらを見やる。それから、頭を抱える。

攻撃の前触れだ。僕は、彼の手を踏み台に、さらに高くへ飛び上がった。

ミミッキュが、僕に気を取られている隙を狙ってだましうちを食らわせていた。

尾の後ろをレーザーがかすめる。それだけで、危険信号が脳にまで伝わる。

強い。わかり過ぎる程に、それがわかった。
 ▼ 396 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:57:54 ID:jyWOxWLU [46/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ルガルガン「落ち着いてくれネクロズマ! 僕たちだっ!」

ネクロズマ「う……があっ?!」


僕は、彼の後頭部、トランプのダイヤのような形をした箇所にアクセルロックをくらわせた。

太陽を纏った僕。月を身に付けたミミッキュ。恐らく、バクガメスの推測が正しいならば、これを続けていれば、彼は正気を取り戻す。

レーザーが、僕の方に照準を合わせる。

彼は、その顔を苦痛に歪め、そして言った。


ネクロズマ「イワンコ……助けて……」


僕は、それを聞き、ハッと息を呑む。

ネクロズマはそのまま、僕に向けて光線をぶっ放した。

空中に浮かんで、しかも唐突な言葉に動揺していた僕に、避ける術はない。


ミミッキュ「ルガルガンっ!」
 ▼ 397 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 20:58:38 ID:jyWOxWLU [47/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
燃えるように熱い。僕はそのまま地面に叩き付けられる。

ふっと、力が湧いて来るのがわかった。

かばんの中の、ふっかつのタネだ。


ルガルガン「さ、さすがに効いたぁ……」

ミミッキュ「ルガルガン大丈夫っ?!」

ルガルガン「なんとかね……。ネクロズマ、苦しんでる。僕たちが、助けるんだ」


ネクロズマは、まだ、苦しげに頭を抱える。

それは、攻撃の合図であり、同時に苦悩の表現でもあるらしい。
 ▼ 398 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:00:58 ID:jyWOxWLU [48/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「……闇雲に攻撃してても、落ち着けるなんて無理だ。もっと効率的に、このリボンをネクロズマに付けてあげないと」


上と下の境目に巻かれたげっこうのリボン。それを、直接ネクロズマに。

方法は、見当たらない。けれど、やるしかない。

僕は、必死に考えを巡らせる。こう、何か、方法はないのか。


ミミッキュ「ルガルガン危ないっ!」


え、と呟く間もなく、ネクロズマが僕の方に光線を発射してきた。

ミミッキュが、僕を庇うように、ばけのかわを広げて盾となる。
 ▼ 399 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:02:22 ID:jyWOxWLU [49/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ばけのかわ。その中身は、存在していない。空虚だと自虐する久瀬美々華を象徴するかのような現象。

それを見ていて、ふと、天啓が降りて来た。

ミミッキュ。現状、その存在はまだ、布一枚。


ルガルガン「ばけのがわ越しに、リボンを巻き付ける!」

ミミッキュ「え?」

ルガルガン「中身がないなら、久瀬は今、布だ。それをネクロズマに……」

ミミッキュ「あたしが……」

ルガルガン「もう、それしか思いつかない。乗ってくれ」

ミミッキュ「……わかった」


僕は、ミミッキュを背中に乗せた。意外な程、ずしりと重いその感触に、少し驚く。

先程は中身に何もなかった。恐らく今もだろう。けれど、確実に、久瀬は自分を取り戻しているのだ。


ルガルガン「行くぞ」
 ▼ 400 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:03:25 ID:jyWOxWLU [50/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、ネクロズマの周りを駆け巡る。

ネクロズマは僕を視線で追い掛ける。しかし、僕の俊足は、その程度で追い付けるものではない。

ネクロズマは巨体だ。その分、小回りを利かせた動作に対しての反応は鈍い。


ミミッキュ「でも、どうやって?」

ルガルガン「大丈夫。さっき1回やった」


ネクロズマが、頭を抱える。攻撃前のモーションだ。僕はそれを躱すと、後ろの木に飛び乗った。遠目に炎が燃えているのが見える。


ルガルガン「捕まれ! 飛ぶぞ!」


僕は、もう一度跳躍する。そして、ネクロズマの上に飛び乗った。

ミミッキュが、叫びながら自らの体をネクロズマに被せる。

小さな、小さな一角。けれど、ミミッキュは、空っぽのはずの中身で、確かに笑った。
 ▼ 401 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:04:21 ID:jyWOxWLU [51/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「ネクロズマ。月よ。落ち着いて」

ネクロズマ「がぁっ……」

ルガルガン「ほら、苦しまなくていいんだ。僕たちがいる。ほら、大丈夫だから」

ネクロズマ「イワンコ……ミミッキュ……」

ミミッキュ「ネクロズマっ!」


僕の首から、たいようのリボンが滑り落ちた。僕と、ネクロズマ。2度もその力を消費し、恐らく維持できなかったのだろう。

ミミッキュが付けていた、げっこうのリボンも、淡い輝きを放って、それからほどけ、落下していく。


ミミッキュ「どうだ……」

ルガルガン「ネクロズマ」

ネクロズマ「ああっ! 僕は、何を……」


ネクロズマが、茫然自失としたかのように呟く。恐らく、我に返った。
 ▼ 402 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:05:55 ID:jyWOxWLU [52/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、思わずミミッキュと見合わせる。


ルガルガン「ミミッキュ!」

ミミッキュ「ルガルガン! ……やったよ! あたしたち、やったよ!」


2人して、快哉をあげた。

ネクロズマが、小さく声をあげた。


――ありがとう。
 ▼ 403 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:06:51 ID:jyWOxWLU [53/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
数分後。

ネクロズマは、燃え盛る森を見て、また違った意味で頭を抱えていた。


ネクロズマ「これを、ここまで酷い事……これを僕がやったのか……どうしよう」

ルガルガン「とりあえず、みんなのとこに行こう。話はそれからだ」

ネクロズマ「みんな、か」

ミミッキュ「とにかく、どうすればいいのか、指示を仰ぐのが先だよ」

ルガルガン「だな。僕たちは3匹とも、この世界の事がよくわからない」

ネクロズマ「……だね」


そういって、僕たちはみんなが待っているであろう場所へ到達した。
 ▼ 404 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:07:26 ID:jyWOxWLU [54/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「イワンコ、ミミッキュ! 無事だったかい?!」

バクガメス「俺の読み通りだったな」

ジバコイル「ネクロズマヲシズメテクレテ、カンシャスル」


3匹しかいなかった。そういえばジバコイルもいたんだったっけ。


ルガルガン「あのバカップルは?」

バクガメス「消火を命じた。あいつらだけじゃねぇ、たぶん、他の街の奴らも来る頃だぜ」

ジバコイル「ビビット、ナカマヲヨンダカラナ!」

ミミッキュ「消火……。大丈夫なの?」

ジバコイル「アア。コノケンモカンガミテ、モウトウゾクダンフラワーズハムザイホウメントツタエテアル」

ネクロズマ「それじゃあ!」

バクガメス「ああ。俺たちゃ晴れて、お天道様の下を歩けるっつー訳だ」
 ▼ 405 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:08:14 ID:jyWOxWLU [55/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメスがにっと笑い、それからネクロズマに対し、鋭く言う。


バクガメス「その代償としてだ……消火活動に協力しろ。もう危険は去った。ジバコイルがそう伝えてくれている」

ラランテス「もうあんたを怖がる必要はないんだってね。反省の色を見せるのも、大事じゃないかい?」

ネクロズマ「言われなくても、そんな事で許されるのなら!」

ルガルガン「僕たちも……」

ミミッキュ「やろうか」

バクガメス「おっと、お前ら2匹はちょっと待て」

ルガ・ミミ「え?」


僕らを見る彼の目線は、厳しいものではない。

しかし、何を言われるのだろうか。

戦々恐々としながら構えていると、ラランテスがバクガメスをこづく。


ラランテス「ほら、速く言いな!」
 ▼ 406 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:08:54 ID:jyWOxWLU [56/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「あー、その、だな。……記憶、戻ったか?」

ルガルガン「へ? ああ、まあ」

ミミッキュ「あたしの記憶も戻りました」

バクガメス「そうか。よかったな」

ラランテス「バクガメス!」

バクガメス「ちっ。あー! お前ら!

      ……ありがとうな、俺の無言の指示を、全部受け止めてくれて」

ラランテス「あたいからも言うよ。ありがとう」


2匹からの、まっすぐな感謝に、僕はふと、思い立つ。


ルガルガン「ミミッキュ」

ミミッキュ「ん? 何?」
 ▼ 407 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:09:25 ID:jyWOxWLU [57/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







ルガルガン「これでも、お前は空っぽか?」






 ▼ 408 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:10:12 ID:jyWOxWLU [58/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュは、その瞳から、涙をこぼした。

ふにゃふにゃのばけのかわが、こてんと崩れる。


ミミッキュ「ううん、そんな事ない……あたし、いっぱい、あたしの事、見てくれる人がいる……」

ルガルガン「僕も……決めたから。君と、一緒にいるって。戻れるかどうかはともかく、君は戻っても、いい事なんて何もない。

      戻る気は、ないだろう?」

ミミッキュ「……うん」

ルガルガン「僕も、君といる。やっと、わかったんだ。

      久瀬、僕は、君が好きだったんだ」

ミミッキュ「ふふ……ありがと。でも、まだ駄目。今は、いい仲間で、最高の相棒でいて! 恋は、もっと後でいい」

ルガルガン「……そっか」


僕は、空を見上げる。

満点の星が、あたりに広がっていた。
 ▼ 409 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:11:15 ID:jyWOxWLU [59/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「おーい! 2匹とも、消化活動するよ!」

ルガ・ミミ「はーいボス!」


僕らは顔を見合わせて、走って行く。

涙は、もう流れない。笑顔でいればいい。僕らには、仲間がいるのだから。
 ▼ 410 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:12:18 ID:jyWOxWLU [60/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「黒光りする変なポケモンが放つレーザーに触れて森が大火事だ」

「脱獄犯のイワンコとミミッキュがそいつを追いかけて行ったらしい」


ミリスまでの道中、不安気なヒソヒソ話をチラっと聞き、それから僕らは、少し足を止め、話し始めた。


ニューラ「なんか、ヤバい事になってる感じみたいね」

デンジュモク「ネクロズマっすね。太陽も月もないタイミングでコスモウムが進化したっす。

       話聞く限りだと、あいつ、大事な何かがない感じっすよね」

チラーミィ「うん。それが?」

デンジュモク「それを満たすために、暴れてるんだと思うっす」

チラーミィ「……どうすればいい?」

デンジュモク「太陽か、月。どっちかの力を分け与えて、自分が満たされてる事に気付かせる。こうっすね」

チラーミィ「……何かの役に立つかもと思ったアイテムが、役立つ時が来たみたいだね」

ニューラ「正直、出来過ぎなぐらい。きっと、あの2匹なら大丈夫でしょ」
 ▼ 411 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:13:06 ID:jyWOxWLU [61/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕らはそれから、示し合わせたように呟いた。


「消火しなきゃ」
 ▼ 412 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:13:37 ID:jyWOxWLU [62/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ふっとデンジュモクが体をうねらせる。

そして、目なんてあるのかもわからないけれど、視線を巡らせた。

その先に、また顔なしの……。


デンジュモク「ウツロイド!」

ウツロイド「デンジュっちだ。久しぶりー」

デンジュモク「どうしたんすか? そんな慌てて」

ウツロイド「あたしねー、ネクロズマとイワンコたちを追ってるのー」

チラーミィ「奇遇だね。僕らもなんだ。行こう、ウツロイド」

ウツロイド「うん」


それから僕たちは、4匹で森の方を目指す。
 ▼ 413 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:14:14 ID:jyWOxWLU [63/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
森の気配は騒がしく、少し遠くからでも戦闘の音が聞こえるようだった。

不意に、光線が付近の木を貫き、燃え始めた。


チラーミィ「ウツロイド、デンジュモク! 周りの木を粉々に粉砕するよ! 燃えるものがなければ火事は広がらない!」

ウツロイド「りょーかーい」

デンジュモク「了解っす!」


ニューラは、もうつららおとしの準備に入っていた。

彼女得意の大技であり、半端な火なら鎮火してしまうぐらいの威力を持つ。


ニューラ「はっ!」


空から一直線、炎に向けて落とされたそのつららは、燃えた木ごと貫き、そして炎の中でまだ融け残る。

氷は融ければ水。まだしばらくは残るだろう。そうなると、鎮火も時間の問題だ。

ウツロイドとデンジュモクが、各々の得意技で木を粉砕していく。毒で融かしてみたり、電撃で倒してみたり。

もう、危険は去ったと見ていい。


チラーミィ「行こう! みんなは向こうにいる! 火勢が強いのも、向こうだ」
 ▼ 414 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:15:16 ID:jyWOxWLU [64/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
定期的に鎮火をしながら僕らは少しずつ、ある場所へ向かっていた。


ニューラ「アジト、か」

チラーミィ「たぶんね」


ネクロズマは、暴れていても、その場所を忘れていないという事か。

現に、まだ街に被害はない。自我が、少しは残っているのだと見て構わないだろう。

そうなると、決着を付けるにも、そこがふさわしい。

街から離れたその場所でなら、自我を乗っ取られても街に危険を及ぼす心配はない。

そんな思考の下なのか、僕らはアジトの場所に辿り着く。
 ▼ 415 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:16:16 ID:jyWOxWLU [65/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そして、いるはずのないポケ影を見付け、僕はえっと声を漏らした。


ラランテス「あっ! リアライズと……」


最初に気付いたラランテスに釣られ、他の2匹もこちらを振り向いた。

バクガメスと、ジバコイル保安官だ。

咄嗟に伝えるべき出来事を脳内でまとめ、それを伝えた。


チラーミィ「町民は、ちゃんと避難しています。この2匹はウツロイドとデンジュモク、ウルトラビースト。

      鎮火するのがまず第一ですよね。イワンコたちがネクロズマに対処してくれる。

      というより……なんでここにいられてるんですか?」

ジバコイル「ワタシガキョカシマシタ。ショウカガセンケツ……ドウスレバヨイノデショウ」

ニューラ「イワンコたちの控えと街との連絡手段として他3匹は残ってた方がいい」

バクガメス「ああ」

チラーミィ「燃えてる木の周りの木を切り倒してきます。僕らも」

バクガメス「頼めるか? 俺らは残ってあいつらを見ている責任がある」

リアライズ「了解!」
 ▼ 416 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:16:57 ID:jyWOxWLU [66/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕らは4匹で、また燃え盛る火の方めがけて走る。

木に毒液を浴びせかけ、かばんからモモンスカーフを取り出して巻いておいた僕がそれにスイープビンタを食らわせる。

ニューラはつららで鎮火に励む。デンジュモクは電撃で木を薙ぎ払う。

ふと、水が視界の外から飛んで来て、そちらを見やるとサニーゴとヒドイデが必死に水技で鎮火していた。

ヒドイデは、技マシンでも使ったのかなみのりを。サニーゴは、しおみずを。


チラーミィ「サニーゴ! ヒドイデっ! 協力するよっ!」

ヒドイデ「お前らっ……協力、してくれるのか?」

ニューラ「火事なんて一大事に、探検隊も盗賊もない」

サニーゴ「ありがとう! 私たちは、水で鎮火します! あなたたちも、できる事をやってください! それと、後ろの……」

チラーミィ「ウルトラビースト! 2匹も協力してくれてるんだ!」

ヒドイデ「わかった。詳しい事は、消し終わった後だ! 今はこっち優先だ!」
 ▼ 417 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:18:16 ID:jyWOxWLU [67/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕らは、各々の消火活動を続けた。

その甲斐あってか、少しずつ火勢は弱まって来る。

しかし、新たに燃えている場所があるらしく、僕らはそこをサニーゴたちに任せ、新たな火災現場へ駆け出し、そしてそこでも鎮火させていく。

そうしていると、街の方から何か声が聞こえた。

この声は、コイルだ。

という事はつまり、ジバコイルが危険は去ったと呼び寄せたという事。

今に、他の町民で、鎮火作業にあたれるポケモンがやって来るはず。

終わりなのか。そう思っていると、アジトの方から黒光りするポケモンがやって来た。いや、あれはポケモンではない。


ウツロイド「ネクロズマー、正気を取り戻したんだー」

ネクロズマ「おかげさまで、ね。何か、僕にできる事ない?」

デンジュモク「木を、切り倒していくっす。燃え広がらないように」

ネクロズマ「了解!」
 ▼ 418 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:19:01 ID:jyWOxWLU [68/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それからしばらく、盗賊の4匹がやって来て、消火を始めた。

街からも、水系のポケモンがたくさんやって来る。

ポケモンも、ウルトラビーストも。盗賊も、探検隊も、一般ポケも何もない。

ただ、みんなで協力して、森の火災を静めていた。

夜の闇を、赤く照らす炎も、次第に弱まって行く。

ふっと気付けば、下弦の月が空高く昇っている。もう朝だ。

少しずつ、少しずつ、炎は消えて行く。

そして、太陽の光が、辺りを強く照らしたその瞬間、火種は、完全に消えた。


「消えた……終わった……いぃやったぁ!」


誰からともなく喝采をあげる。皆それに追随し、たちまち辺りは歓喜の渦に包まれた。
 ▼ 419 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:19:45 ID:jyWOxWLU [69/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、ポケ込みの中からルガルガンとミミッキュを見付け出す。

2匹は疲れ果てたような顔で、チラとこちらを見やる。


ルガルガン「やったよ……」

チラーミィ「しゃべらなくていい。夜通しバトルからの消火だ。疲れてるだろ。休んで」

ミミッキュ「ふふ、ありがとう……」


そう言って、ミミッキュはかくりとうなだれ、そのまま穏やかな寝息を立て始めた。

ルガルガンは、その顔に愛おしそうに目をやると、静かに眠りに落ちて行く。


ニューラ「……この2匹、なんかお似合いだと思わない?」

チラーミィ「ホントにねぇ。ま、一緒に危機を乗り越えた異性が、惹かれ合うってのはよくある事じゃないかい?」


そう言って僕は彼女を見詰める。彼女は呆気にとられたような顔を浮かべた後、堪え切れないといった体で噴き出した。


チラーミィ「ちょ、なんで笑うのさ!」

ニューラ「ごめんごめん、今さらってさ」

チラーミィ「え?」
 ▼ 420 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:20:18 ID:jyWOxWLU [70/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
問い返した僕に、ニューラはこう答える。


ニューラ「なんでも……あ」


次の言葉はなんだと待っていると、ロマンのカケラもない、爆弾発言が投下された。


ニューラ「明日……だよね、ウルトラビーストの集合。こっからミリスまで、間に合わない」

チラーミィ「……あ」
 ▼ 421 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:21:06 ID:jyWOxWLU [71/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
慌ててウルトラビーストの3匹と盗賊団フラワーズのメンバーを捜しだし、ここに呼び寄せる。

すうすうと穏やかな寝息を立てる2匹を起こさないように、3匹に伝えた。


チラーミィ「完全に遅刻だね。どうする?」

ラランテス「一日ぐらいいいじゃないのかい?」

ウツロイド「いや、フェロちゃん激おこプンプンまるだよー」

デンジュモク「こ、殺されるっす! 助けてくださいっ!」

ネクロズマ「とりあえず、急ごう。二徹覚悟で急げば、間に合う……と思いたいね」

ヒドイデ「ぷっ、にしても遅刻たぁ、お前らもあんま俺たちとかわんねぇのな」

ウツロイド「まーねー」

デンジュモク「それどころじゃないっすよー……」

ネクロズマ「よいしょっと。とりあえず、2匹は僕が運びます。みんな、行きましょう」

ウツロイド「っと、その前に、2匹を解毒しないと」


ウツロイドは、ルガルガンとミミッキュにその触手を突き差す。そして、その透明な管から、黒っぽい毒液が吸い取られて行くのが見えた。


ウツロイド「これで、全部おしまいだねー。後は、急ぐだけだよー」
 ▼ 422 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:22:04 ID:jyWOxWLU [72/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこからは、特に何かを問題にする必要もなかった。

11匹パーティーなんて機動性に欠けるチームだが、各々の強さによってそれを問題にする事もなくミリスの街を目指し進む。

ヒドイデの眠たげな顔が、正しくヒドイデ、なんてつまらないジョークを飛ばし、みんな笑うぐらいには深夜のテンションだった。


ルガルガン「ハハッ、最高」

ミミッキュ「なんか、くだらなさ過ぎて笑える」



僕は、涙に滲んだ目をこすりながら、ニューラに話し掛ける。


チラーミィ「懐かしいね。この感じ」

ニューラ「本当に。ビッパさんがぼけて、あたしがツッコんで、みんな笑って。……でも、どんどん入れ替わってっちゃったなぁ。

     今じゃ、エンドレスが最古参だっけ。ペラップはノーカンで」

チラーミィ「僕たちが卒業したんだもんね。あ、でもグレッグルは……」

ニューラ「あれはなんか別枠でしょ」
 ▼ 423 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:22:59 ID:jyWOxWLU [73/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目を瞑れば、蘇るプクリンのギルドの思い出。

イベルタルとみんなで戦ったっけ。あの時、ブリガロンが泣きながらゼルネアスを殴ってた。

ルカリオがやって来て、そこから3匹は、ますます力を付けて行った。

僕たちの最初の後輩が、今ではあのギルドの主力メンバー。あの頃が懐かしいよ。


ニューラ「起きろ。目を閉じたら、帰って来られなくなる」

チラーミィ「はっ! ……あー、駄目。クソ眠い」

ニューラ「ま、でもさ。こんなんも、いいんじゃない? みんな繋がって。昔、わるいてぐせでいじめられてた頃からしたら考えられないよ」

チラーミィ「だね。……ねぇ、ニューラ」

ニューラ「……何」


僕は、彼女を抱き寄せた。深夜のテンションと、懐かしいノリが、僕にそうさせた。

そっと呟く。大好きだよ、僕の最高のパートナー。彼女も答える。あたしも。
 ▼ 424 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:23:43 ID:jyWOxWLU [74/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
本当と嘘。そんな意味を持った「リアライズ」。だけど。


ルガルガン「そーいや、なんでリアライズなんですか?」

チラーミィ「あー、僕たちどっちも、昔は性別間違えられがちで。ホントと嘘。組み合わせて、リアライズ」

ミミッキュ「でも、リアライズって言えば気付くって意味だよね」

ニューラ「まあね。そっちは、あんまりかな」

ルガルガン「でもさ、もいっこ意味あったよな。なんだっけ。英語苦手でさぁ」

ミミッキュ「えっと……そうだ」


We realize our dream. 私たちは、夢を叶える。


サニーゴ「実現する、かぁ。いい名前だね」


実現する。そっちの意味は、初めて聞いた。

夢を、叶えるか。
 ▼ 425 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:24:21 ID:jyWOxWLU [75/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ルガルガン「こっちなんて、フラワーズだぞ。花でしかない」

ミミッキュ「小麦粉舐めちゃだめよ。いろんな料理に使えるんだから」

ルガルガン「いや違うだろ」

ラランテス「小麦粉? 何の事だい?」

ミミッキュ「実は小麦粉と花、どっちもフラワーなんですよ。全く同じ音」

ラランテス「ぷっ、小麦粉かい! こいつは傑作だよ。バクガメス! 知ってるかい? フラワーって……」

ヒドイデ「ひっでー。小麦粉て」

サニーゴ「でもさ、小麦粉って、なんにでも化けられる。パン、麺、お菓子。

     フラワーズの目的を考えたら、ある意味ピッタリかも」

ヒドイデ「いい事言うじゃんサニーゴちゃん!」

サニーゴ「ヒド君……」

ネクロズマ「あー、またのろけ始まっちゃったよ」

ミミッキュ「……ま、いっか」


ルガルガンが、驚いたようにミミッキュを見詰めた。2匹の目が合って、それから笑う。

もう、呪う必要もない、か。
 ▼ 426 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:25:02 ID:jyWOxWLU [76/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ウツロイド「おーい。もうそろそろ到着だよー」

デンジュモク「まだ間に合うっす! 急ぎましょう!」

バクガメス「楽しいムードも構わんが、ウルトラビーストが結論を出すのは、この1週間だ。

      ミリスに着いたらまずはゆっくり休んで、それから万が一に備えてしっかり力を蓄えるぞ!」

ネクロズマ「それ僕らの前で言います?」

バクガメス「ああ。最悪に備えて、最高を思い描く。これが、成功の秘訣だ」

ネクロズマ「ハハ、らしいですね」

ラランテス「ま、あたいは心配してないけどね。バクガメス、警察だったから疑り深いんだよ」

デンジュモク「いやどころじゃねえっす! とりあえず走ってくださーい!」
 ▼ 427 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:25:59 ID:jyWOxWLU [77/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミリスの街に到達した。

出迎えたのは、イライラ顔のフェローチェ。そして、呆れたような顔で1匹のポケモンが横にいた。その隣に、もう1匹。縮こまっている。

呆れているのがアマージョで、縮こまっているのがフーディンだ。


フェローチェ「遅い! 2時間37分19秒の遅刻よ!」

アマージョ「待ちくたびれてしまったわ!」

ラランテス「仕方ないだろう! 火事を止めてたんだから!」

フーディン「と、とにかく早く行きましょう!」

ウツロイド「昨日一日寝てないしー、寝かせてよフェロちゃん」

フェローチェ「ああ、こうして行く間にも2秒3秒5秒7秒……」

ウツロイド「時間に追われてると早くふけちゃうよー」

フェローチェ「なんですって?! わたくしの美貌に気付けないというのですか?!」

ウツロイド「フェロちゃんもっとゆったりしてたらかわいいのにー」

フェローチェ「きーっ!」

デンジュモク「ああ、生きた心地がしないっす……」

フーディン「俺もだ……」
 ▼ 428 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:26:55 ID:jyWOxWLU [78/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目の前で繰り広げられるコメディを笑いながら、僕はフーディンに問いかける。


チラーミィ「あなたは?」

フーディン「ああ、も、申し遅れました。お、俺はフーディン……エクリプスの、あがり症の団長です」

バクガメス「あがり症? サーカスなのにか?」

フーディン「ああ。でも、本番には出ないから……」

バクガメス「はあっ! とりあえず、俺らを案内してくれや。二徹だ。俺はともかく、みんなもう眠い」

フーディン「わ、わかり、わかりました……き、きき、来てください」

ウツロイド「えー、なんでそんな怒ってるのー? 綺麗な顔がもったいないよー」

フェローチェ「今度という今度はもう許さない! ウツロイド、覚悟なさい!」

デンジュモク「」

ネクロズマ「ほら、2匹の事はほっといて、行こうデンジュモク」
 ▼ 429 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:27:28 ID:jyWOxWLU [79/79] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディンの案内で、僕らはサーカス団のテントの所にやって来た。


フーディン「みんな、リハやってるので、何もできないですが……」

バクガメス「いや、結構。みんな、最後の一仕事だ」

ラランテス「テント張るよ! 張ったら好きなだけ寝るんだよ!」

みんな「やったー!」


それから、エクリプスの邪魔にならないような位置を狙って彼らのテントを組み立てる。

そして、あっという間に生活に耐えそうなアジトが出来上がった。


ラランテス「あんたらも、一緒に寝るかい?」

チラーミィ「あ、じゃあお言葉に甘え……て……」


僕は、もう意識を投げ出してしまった。

限界だ。もう。

太陽は既に空高く。日差しに照らされたまま、僕らは前後不覚の眠りの世界へ落ちて行った。
 ▼ 430 ガルデ@けむりだま 17/04/09 21:39:23 ID:tPyTQfx2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 431 チャブル@ダイブボール 17/04/10 04:22:29 ID:Nb9k1ses NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 432 ダリン@マトマのみ 17/04/10 08:25:07 ID:0AA2x3iU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 433 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:34:51 ID:MWtBCePY [1/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サーカス団編 5章
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=563304&l=201-236
201から236です
 ▼ 434 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:35:22 ID:MWtBCePY [2/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







エピローグ 盗賊団の解散






 ▼ 435 イプ:ヌル@ロックカプセル 17/04/11 20:35:39 ID:GW7R1viY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 436 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:36:16 ID:MWtBCePY [3/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


向こうの世界で、一度だけサーカスを見た記憶がある。

けれど、これ程の迫力があっただろうか。まあ、明らかな反語な訳で、これ程のものだとは正直思っていなかった。

ウルトラビーストたちが喝采で讃える。

ジュナイパーが、アシレーヌ、ガオガエンと共に交わる事の素晴らしさを説いた。

そして、自らのチーム名を叫ぶ。文脈としては不自然極まりないが、それでも受け入れざるを得ない程に、力のある声で。

拍手しようとしたその瞬間、ジュナイパーが崩れ落ちる。


アママイコ「ジュナイパーっ!」


アママイコが駆け寄る。妻だというから当然か。

舞台の裏側が、ざわざわと騒がしくなる。


ルガルガン「これ、マジな奴じゃ……」

ウツロイド「どうしたのー?」

バクガメス「……この事件解決に際し、各地を旅して周って、それからお前らにとっては司令塔みたいなもんか。

      おまけに司会と来ちゃあ、そりゃ苦しいわ。たぶん、過労だ。休めばよくなる」
 ▼ 437 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:37:34 ID:MWtBCePY [4/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あれよあれよという間に、ジュナイパーはアシレーヌ、ガオガエン、アママイコの3匹で運ばれて行く。


何匹か補助に入ったらしい。

アマージョが出て来て、「ご覧くださりありがとうございました。お気を付けて」と引き取る。

ライトが消えた。ざわめきの残るままだが、ソルガレオとルナアーラ、そしてネクロズマが吼える。

気付いたら、僕たちは、ミリスの森の中にいた。

ウルトラビーストたちは、いない。恐らく、向こうで話し合うのだろう。

後半は、完全に作為だった。作為見え見えの状態で、ウルトラビーストたちが納得してくれたのか。そこが一番の問題だ。

だが、もうどうにもならない。できることはすべてやったのだ。

少なくとも、悪感情は抱かれていないだろう。そう期待するしかない。
 ▼ 438 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:38:26 ID:MWtBCePY [5/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エクリプスメンバーと、付き添ったリアライズが、ジュナイパーを運んで行く。

僕らはそれの手伝いに行こうとして、ラランテスに制止された。


ラランテス「ジュナイパーの事は心配だけど、向こうで世話するだろうし、あたいたちが首突っ込むのもお門違いだ。

      あたいたちはあたいたちで、これからを考えよう」

バクガメス「もう、フラワーズの存在を世間に公表した。ウルトラビーストの件で釈放されたとはいえ、もうやれないのは間違いない。

      お前らの身の振り方を考えないとならん」

ヒドイデ「あー、そうか。もう俺たち、フラワーズでいられないのか」

サニーゴ「私はヒド君といられればそれでいいけどね」

ヒドイデ「でも、どこで一緒にいられるのか……」

バクガメス「ま、ゆっくり考えりゃいいわな。別に、今決めろつってる訳じゃねぇ」


バクガメスがそう締める。ラランテスが叫んだ。


ラランテス「とりあえず帰るよ! テントまでね!」
 ▼ 439 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:39:22 ID:MWtBCePY [6/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
6匹揃ってアジト用のテントに戻り(エクリプスのテントのすぐ近くにあるのでジュナイパーの介抱に回ってもよかったように思うが)、

それから僕らはそれぞれに考え始めた。


ルガルガン「ミミッキュ、戻る気はないんだろ?」

ミミッキュ「戻ったらそれこそ逮捕だしね。あたしを待ってくれる人なんていないもん」

ルガルガン「お前のお袋だけは気の毒だけどな……」

ミミッキュ「まあ、なんだかんだ言って、子どもなのは間違いない。でも、自業自得よ。

      あたしのSOSに気付こうともしないで、今さら帰って来いなんて、虫がよ過ぎ。

      小林先輩だけね、気になるのは」

ルガルガン「まぁ……あの人なら、僕たちがポケモンになってる事も気付いてそうだけど」
 ▼ 440 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:39:59 ID:MWtBCePY [7/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あの人は、小説とは別に、二次創作を書いていた。徹底した一人称で書かれた、小説というより、SS。

たぶん、あれを誰かに見せるつもりはない。

あまりに真剣に書いているのに、何も教えてくれないから、こっそりタイトルだけをチラと盗み見ただけだ。

そのタイトルは「目が覚めたらポケモンになってたんだが……」。

あの話を書いている時の先輩の目を覗き込んだら、どこか遠い目をしていた。

たぶん、あれは本当に、先輩が経験した事なのだろうと、今になって思う。だって僕らは、こんな体験をしてしまったのだ。

その可能性を考慮しない訳にはいかない。

そしてそうだったとして、まあたぶん、気付いているのだろう。


ミミッキュ「うーん、小林先輩はじゃあわかってるとして、でも、何をどうすればいいのかなぁ……」

ルガルガン「……そういや、リアライズの2匹が、元人間のポケモンを知ってるって言ってた。

      とりあえず、参考までに聞いてみようぜ」

ミミッキュ「へぇ、他にも。うん、そうね」
 ▼ 441 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:41:02 ID:MWtBCePY [8/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒドイデ「お前ら落ち着いたか?」

ルガルガン「ああ、はい」

ヒドイデ「俺たちもどうすればいいか、一緒に考えてくれねぇか?」

ミミッキュ「え? まあいいですけど」

サニーゴ「ありがとう。……私たち、駆け落ちしてここに行き付いたんだけどさ」

ルガルガン「私たちの関係を認めてくれる所、が条件か」

サニーゴ「うん。でも、そんな所、あるのかな……」

ルガルガン「探せばいっぱいあると思うけど。このポケモン世界の話なんて、僕らにはよくわからない」

ヒドイデ「なんだよなぁ。選択肢の多さが逆に、辛い」

ミミッキュ「何したいとかないの? のろけ禁止で」

ヒドイデ「うーん……」

サニーゴ「ねぇ、ヒド君。ちょっといい?」

ヒドイデ「ん? 何でもいいぞ」
 ▼ 442 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:41:41 ID:MWtBCePY [9/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サニーゴは、もともと赤みがかった体をさらに赤らめて、意を決したようにこう言った。


サニーゴ「私……サーカス、やってみたいなー、なんて?

     あっ、もちろんヒド君が嫌なら行かないよ?!

     あの……その……」

ヒドイデ「なーに言ってんだよ」


慌てて照れ隠しに走るサニーゴに対し、ヒドイデは、男でも惚れかねないような爽やかな笑顔で言った。


ヒドイデ「お前がやりたい事、嫌だなんて言う訳ないじゃんか」

サニーゴ「でも……ヒド君が何かやりたい事……」

ヒドイデ「あったらとっくに言ってるよ。思い付かないしさ。サニーゴ、後でエクリプスに頼みに行こうぜ」


サニーゴは、その顔いっぱいに笑みを浮かべて、言った。


サニーゴ「……うん!」


掠れて上ずった声に、彼女の喜びが滲み出ているのを感じた。
 ▼ 443 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:42:24 ID:MWtBCePY [10/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒドイデが、僕らを見て言う。


ヒドイデ「なんか、悪かったな。頼んでおいて、すぐ決まっちまった」

ルガルガン「いえいえ」

ミミッキュ「大丈夫ですよ」

ヒドイデ「そーいや、お前らはどうするんだ?」

ルガルガン「えっと、とりあえず僕ら元人間なんで、同じ元人間に心当たりがあるリアライズの2匹に相談してみます」

ヒドイデ「なるほどねぇ。……そーいや、ボスとバクガメスさん、どうすんだろ」

ミミッキュ「あー、それはそうね」

サニーゴ「聞きに行こうよ」


3匹は、めいめいに同意の声をあげた。
 ▼ 444 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:43:42 ID:MWtBCePY [11/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「お前らには関係ないだろ。俺は俺で考える」とあっさり切り返され、バクガメスに聞くのは早々に諦めた。

そして、ラランテスにそれを聞きに行くと、彼女はあっさり答えてくれた。


ラランテス「あたいかい? あたいは……旅にでも出ようかと思ってるんだ。あたいの腕力が、誰かの役に立つならいい。

      お宝とか見付けたり、誰か助けたり。そんな風に、この力を使えればいいって、そう思ったんだ」

ミミッキュ「鍛えた力は人のため……」

ヒドイデ「くー、かっけぇ! さすがボスだぜ」

ラランテス「誉めても何も出さないよ!」


そう言っても、満更でもなさそうな表情は見てわかる。

彼女はきっと、上手くやるだろう。もともと悪人……おっと、悪いポケモンではないのだ。

誰かのために。そんな思いでやって行けるなら、それに越した事はない。
 ▼ 445 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:45:29 ID:MWtBCePY [12/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
物思いに耽っていると、ヒドイデが声を掛けて来た。


ヒドイデ「とりあえず、お前らさ。リアライズと話に行けば? 引き留めといてこの言い方もヒドイとは思うけど」

ルガルガン「ハハ……。行く?」

ミミッキュ「うん、行こう」
 ▼ 446 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:46:06 ID:MWtBCePY [13/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
すぐ隣のテントから出て来たリアライズの2匹と、偶然出くわした。

何かを狙った訳ではない。たまたまだ。


チラーミィ「あ、ルガルガン、ミミッキュ」

ミミッキュ「ちょうどいいじゃん! ねえ、チラーミィにニューラ。ちょっと教えてよ。元人間のポケモンについて」

チラーミィ「あー、いいけど、どれ?」

ルガルガン「2匹が一番詳しい件」

ニューラ「じゃあ、ポケダンズだよ、探検隊の。……あんたたち、もう盗賊はできないでしょ?」

ルガルガン「そうなんだ。だから、身の振り方を考えてて」

ニューラ「別に、いいよね。2匹、ウツロイドの毒がなくても実力はあるみたいだし」

チラーミィ「だね。ねぇ、ルガルガンにミミッキュ。探検隊、やる気ない?」


え、と小さく呟いて、僕はミミッキュと見合わせる。

彼女もまた、ビックリしたかのような表情を浮かべていた。
 ▼ 447 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:46:42 ID:MWtBCePY [14/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラーミィ「いや、ルガルガンには話したと思うけどさ、僕たちの憧れの探検隊のリーダーがまた、元ニンゲンなんだ」

ルガルガン「あー、言ってましたね……って、まさか」

チラーミィ「ギルドの修行は厳しいけど、君たちなら耐えられるでしょ。

      それに……実際、同じ境遇のポケモンが他にいるってのは、心強いと思うよ?」

ミミッキュ「……まあ、考えてみます。ルガルガン、どうせ他に行くあてもないんだしさ、探検隊もありじゃない?」

ルガルガン「まあ、それもそうだな」

チラーミィ「ま、今すぐじゃなくていいよ。まだ日食当日までは時間があるんだ。そこまでに決めればいい」

ルガルガン「……ですね」

チラーミィ「じゃ、また。しばらくこの辺うろついて、隠されてると噂のお宝探してきますわ」

ニューラ「探検隊だしね」


そう言って、2匹は去って行く。
 ▼ 448 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:47:41 ID:MWtBCePY [15/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「探検隊……もしかして、空の探検隊かな」

ルガルガン「ん? 何それ」

ミミッキュ「ううん、なんでもない。そうだったとしても、何も言えないし」

ルガルガン「ふーん。ま、いいや。ゆっくり考えようぜ」

ミミッキュ「だね。戻ろっか、とりあえず」


それからしばらく、僕らはアジトの中で、ちょっと休憩のつもりが爆睡してしまっていた。

疲れは、やはり体を蝕んでいたらしい。

目が覚めると、外はもう、ほのかに薄暗かった。


ルガルガン「ふあぁ……」

ミミッキュ「おはよ、ルガルガン。あたし、どんぐらい寝てたかな……」

ルガルガン「だね。わかんないや」

バクガメス「お前らが寝てる間に、結論は出たみたいだけどな」

ルガ・ミミ「うわあっ?!」


背後からの声に、僕らは飛び上がって驚いた。
 ▼ 449 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:48:25 ID:MWtBCePY [16/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメスは呆れたように笑う。


バクガメス「あいつらの口から直接言ってくれるから、早く集まれ」


慌てて広間と呼ぶべき空間に向かう。

そこには、ウルトラビーストたち。

左から、ウツロイド、デンジュモク、フェローチェ、アクジキング、ネクロズマ、マッシブーン、カミツルギ、テッカグヤの順に並んでいた。

フェローチェがウツロイドに火花を向けていて、間のデンジュモクは、立つ瀬がないという感じだ。

マッシブーンがマッスルポーズを見せ付ける。

カミツルギとテッカグヤが寄り添う。アクジキングとネクロズマは、威風堂々と言った趣だった。
 ▼ 450 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:49:01 ID:MWtBCePY [17/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ネクロズマ「えーと、代表として、僕が皆さんに伝えます。

      確かに、皆さんの作為は薄々感じてはいました。

      けれど、作為を超えた所で心を通じさせてくれた事も、また事実です。

      そして、作為があったとしても、頑張って練習して、考えて、苦労して。

      その末にしてくれた作為なら、それは間違いなく本物だと、僕らは思いました。

      反対意見は、ゼロ。満場一致で、僕らは、あなた方との共存を望みます」


「って事は」「やったんだよな?」


皆がざわめき始める。それから、歓声があがった。

やったんだよね。そうだよね。興奮して確かめる声が数多響き渡る。
 ▼ 451 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:49:34 ID:MWtBCePY [18/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フェローチェ「まったく、このぐらいでこんなに騒いで……美しくない」

ウツロイド「だーかーらー。フェロちゃん、見下してばっかだと美しくないよー」

デンジュモク「や、やめてくれっす!」

マッシブーン「我が筋肉を認めてくれた友はどこにおるのだ!」

カミツルギ「ジュナイパー? 倒れてたし、今はいないんじゃない?」

マッシブーン「なぬ?」

テッカグヤ「マッシ君、やっぱあんた筋肉バカやで!」

マッシブーン「我を愚弄するか?!」

テッカグヤ「ちゃうちゃう、誉めてんのや、あんたの筋肉!」

マッシブーン「何だと?! バカというからには貶して――」
 ▼ 452 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:50:32 ID:MWtBCePY [19/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕らは、ネクロズマに歩み寄る。

ネクロズマも、僕らを、フラワーズのメンバー全員を見付け、それからいつものように笑った。


ネクロズマ「みんな、この世界の、ポケモンたちのよさ、感じてた。よかったよ、全員一致して」

ラランテス「ネクロズマ、ちょっといいかい」

ネクロズマ「ん? どうしたのボス」

ラランテス「フラワーズは、今日付けで解散する事になった」

ネクロズマ「……え?」


ラランテスは、ニッと笑う。


ラランテス「解散と言っても、前向きな奴だよ。それに、解散しても、あたいたちの関係が消えてなくなる訳じゃない」

ネクロズマ「……うん。それもそうだ」

ラランテス「だから、考えといてくれよ。これからどうするのか」
 ▼ 453 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:51:16 ID:MWtBCePY [20/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今度は、ネクロズマが微笑んだ。

そのまま彼は続ける。


ネクロズマ「大丈夫。続けられないのはわかってる。それに、続いてたとしても、僕はやめてた。

      ウルトラビーストは、まだまだ異端だ。みんな、世界に溶け込めるように、僕たちで頑張るって決めたんだ」

ラランテス「そうかい」

ミミッキュ「そっか、ネクロズマも考えてたんだ、これからの事」

ネクロズマ「当たり前だろー? 僕が一番考えないとだよ」

ルガルガン「これで決め切れてないのは僕たちだけか」

ミミッキュ「ま、でもさ。たぶん、あたしたちは、探検隊になるんだよ。そんな気がする。

      元人間とも会ってみたいし」

ルガルガン「……だな。最終決定でいいか?」

ミミッキュ「……うん」

ルガルガン「よし決定! リアライズに、話しに行こう!」

ミミッキュ「うん!」
 ▼ 454 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:52:55 ID:MWtBCePY [21/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
こうして、エクリプスとウルトラビーストを巡る物語は終わった。

ふと考えてみる。僕なら、この物語に、どう名前を付けるだろうか。

盗賊団の物語? これは違う。

ウルトラビースト事件? なんだか違和感。

……いいのを思い付いた。

「盗賊団フラワーズの栄光」。

僕らを包んでくれた、温かな犯罪組織。

フラワーズの、光だ。

よし、これに決定。

ミミッキュにこれを伝えると、彼女はクスリと笑って言った。


ミミッキュ「いいじゃん。面白そう」
 ▼ 455 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:53:35 ID:MWtBCePY [22/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――数か月後

「「みーっつ! みんな笑顔で明るいギルド!」」

ペラップ「それじゃあみんな! 今日も仕事にかかるよ!」

「「おー!」」


僕らは、晴れてプクリンのギルドのメンバーとなった。

小うるさいペラップもいるけれど、それも含めてこのギルドもまた、温かい。


ペラップ「今日は掲示板の仕事をこなしてくれ。頼んだよ!」

ルガ・ミミ「はーい」
 ▼ 456 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:54:18 ID:MWtBCePY [23/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マフォクシー「お、今日も頑張るねー」

ルガルガン「まあ、修行ですし」

ゲッコウガ「頑張ってくれよ?」

ブリガロン「ほら、ルカリオ早く決めちゃおうよ」

ルカリオ「ちょっと待ってくれよ……」


この4匹は、探検隊エンドレス。今このギルドで、一番実力があるという噂だ。

なんでもこのルカリオ、元人間らしい。僕らがそう伝えると、彼らの方からカミングアウトして来た。


ミミッキュ「……ありふれてるのね、元人間」

ルガルガン「……だな」


なんて、呆れたように反応した。
 ▼ 457 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:54:49 ID:MWtBCePY [24/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しかし、周りは誰も、その事実を知らないようだった。どういう事なのだろう。

物思いに耽っていると、ペラップの声が聞こえた。


ペラップ「お、いたいた! そこの2匹!」

ミミッキュ「なんですか?」

ペラップ「手紙が来てるよ、3通」

ルガルガン「手紙? あ、もしかして!」


手紙を奪い取ると、予想通り、そこにはネクロズマ、サニーゴとヒドイデ、それからバクガメス。

3通の手紙は、僕たちの仲間からのものだった。


ペラップ「読み終わったら、仕事頑張ってくれ」

ルガ・ミミ「はーい」
 ▼ 458 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:55:56 ID:MWtBCePY [25/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ネクロズマは、ウルトラビーストたちと共に、様々な人……ポケ助けの旅をしているらしい。

共存するには、向こうも歩み寄らないといけない。魚心あればなんとやら、だ。

サニーゴとヒドイデは、初めての公演で無事成功したと書かれていた。

きっと、楽しんでいるのだろう。

バクガメスは……何をしているのかはわからなかったが、なぜか僕らを気遣うような文面が続いて思わず吹き出してしまう。


ミミッキュ「さいっこうだよホント! ……ボスも、何してるんだろ」

ルガルガン「まあ、やってる事似てるし、いつか会えるよ」

ミミッキュ「だね。じゃ、行きますか!」


空高く、日は昇る。

僕らは4つ角を東へ進み、ダンジョンへ飛び出していった。
 ▼ 459 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:57:46 ID:MWtBCePY [26/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――

「あいつら、今頃どうしてんだろ」


ウルトラホールに呑み込まれた、2人の後輩。

恐らくは、ポケモンの世界へ行ったのだろう。

そして、ポケモンのいない時空から向こうに行った時、人間がポケモンになる。俺の身に起こった現象だ。

岩根はイワンコかね。久瀬はミミッキュか? 俺がコリンクだったんだし、このぐらいの偶然はあっておかしくない。

あいつらは、俺と違って帰らないといけないというような理由もない。

帰って来たら、地獄しかないだろう。

帰って来る見込みは少ないと見ていた。

悲しくはない。ただ、無性に懐かしかった。

俺は、原稿用紙を広げ、闇雲に目を通す。

ポケットに入れた小石がほのかに熱を持つ。

――あいつら、どうしてるんだろうな。元気にやってればいいんだが……。

そんな風にため息を吐いて、原稿をしまった。
 ▼ 460 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:58:38 ID:MWtBCePY [27/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「まあ、人生は、ほんの些細な事で変わるってか。

 ……さあて、書きますか。

 せめて、俺だけでも、あいつらの事を現状、唯一正しく知ってる俺だけでも、忘れないように」


あいつらが、こっちにいた証を残してやろう。そのぐらいしか、できないし、する意味もない。

向こうの世界が楽しいのは、俺が一番知っている。きっと、忘れて楽しんでるだろ。

この事実は、俺が胸に秘めてればいい。それだけだ。

だよな、エンペルト。あいつらは、向こうで必要とされてる。

それで充分だ。

俺はそう呟いて、それから原稿用紙に向かった。
 ▼ 461 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 20:59:13 ID:MWtBCePY [28/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







【SS】ポケモン不思議のダンジョン 花の盗賊団 完






 ▼ 462 リーン@ドクZ 17/04/11 20:59:44 ID:MGbVgRQ2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙!
 ▼ 463 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 21:00:05 ID:MWtBCePY [29/29] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
当SSはこれにて完結になります
お読み下さりありがとうございました
質問等ございましたらお気軽にどうぞ

以下おまけ

岩根広大("iwaneko"udai)→イワンコ(iwannko)
久瀬美々華→美々久→ミミッキュ
小林久→コリンク

関連作
http://pokemonbbs.net/poke/read.cgi?no=105591(ポケダン 生命の探検隊)
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=253444(シンオウ転生記3スレ目)
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=481298(超ダンカレンダーシリーズ13スレ目)
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=563304(サーカス団エクリプスシリーズ3スレ目)
 ▼ 464 ジョン@フォーカスレンズ 17/04/11 21:12:08 ID:WnNs8Cd6 NGネーム登録 NGID登録 報告
乙!!
 ▼ 465 MR00PBvMIc 17/04/11 21:20:34 ID:phIJrLsg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙でした
 ▼ 466 エルオー@でかいきんのたま 17/04/11 23:28:53 ID:Pa7rcyLU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 467 ツケラ@ながねぎ 17/04/11 23:30:06 ID:S9lHITxE NGネーム登録 NGID登録 報告
なんか集大成ね
 ▼ 468 1◆J44kAZeDOM 17/04/12 20:23:55 ID:927RLNTY NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
おまけ補足

幕章で2人が本を交換するシーンがありますが、
久瀬が読んでいた本は宮部みゆき氏の「ブレイブ・ストーリー」
岩根が読んでいた本は辻村深月氏の「凍りのくじら」
です
よければ読んでみてください
このページは検索エンジン向けページです。
閲覧&書き込みは下URLよりお願いします。
https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=563163
(ブックマークはこちらのページをお願いします)
  ▲  |  全表示468   | << 前100 | 次  |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |  ▲      
                  スレ一覧                  
荒らしや削除されたレスには反応しないでください。

. 書き込み前に、利用規約を確認して下さい。
レス番のリンクをクリックで返信が出来ます。
その他にも色々な機能があるので詳しくは、掲示板の機能を確認して下さい。
荒らしや煽りはスルーして下さい。荒らしに反応している人も荒らし同様対処します。




面白いスレはネタ投稿お願いします!

(消えた画像の復旧依頼は、お問い合わせからお願いします。)
スレ名とURLをコピー(クリックした時点でコピーされます。)
新着レス▼