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【SS】アシレーヌ「ポケモンサーカス団エクリプス!」

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:26:17 ID:cWAt11WY [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







――太陽と月が交わる時、新たな光が産み落とされると言う。






 ▼ 2 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:26:36 ID:cWAt11WY [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







プロローグ






 ▼ 3 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:27:10 ID:cWAt11WY [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
高くバルーンを跳ね上げる。

そう簡単には割れない奴だ。これを、いかにして声で割るか。

最終形態まで進化したオイラは、以前までの軽やかなジャンプは失われてしまった物の、代わりに美しい音を得た。

もちろん、跳ぶ事自体は可能であり、それを活かしたパフォーマンスだって、当然練習している。

けれど、そちらの感覚は、水による浮力のお陰か、感覚だけで言うならそこまで酷くは変わっておらず、そのリズムを取り戻すために、ニャビーが進化した時程厳しい練習は不要だった。

そして、その分を、新たに手に入れた、この声の練習に費やしているのだ。

小さくオイラは息を吸い込み、そして高らかに歌い上げる。

意味なんて何もない、ただ、綺麗な音を。

しかし、それはバルーンを震わせるだけで終わる。


アシレーヌ「あっちゃー、失敗かー……」


オイラは空を見上げて、そう呟いた。

まだまだ、声とバルーンの融合には程遠い。もっとしっかり練習しなければ。
 ▼ 4 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:27:42 ID:cWAt11WY [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
と、思った時の事。

バルーンが、突如として弾けた。

それは雨となり、屋外で練習していたオイラの体を濡らした。

え、と声が漏れる。

そう簡単に、それこそ、オシャマリとニャヒートが中に入っても割れない強度のバルーンを、いとも簡単に破壊した、何かがいる?


アシレーヌ「な、何……?」


問い掛けに、スッと横切る白と赤を基調とした5つの刃が答えた。


「綺麗な声だったね、カグヤちゃん」
 ▼ 5 ウワウ@ずがいのカセキ 17/03/28 06:30:25 ID:cWAt11WY [5/5] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
このSSは
【SS】ポケモン不思議のダンジョン 花の盗賊団(http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=563163
と相互補完しながら進行していきます
単体でも読めなくはないと思いますが、こちらも合わせて読む事を推奨します

基本的に盗賊2章→サーカス1章の順に読む事を想定しています
 ▼ 6 リリダマ@れいかいのぬの 17/03/28 14:33:27 ID:TpkDBWug NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リオルとイーブイとチョロネコのSSとレントラーのシンオウ1周のSS書いてた人か
支援
 ▼ 7 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:43:15 ID:WmToOqec [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
盗賊団編 プロローグ・1章・2章

http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=563163&l=1-37
 ▼ 9 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 20:54:25 ID:o.RG/8e6 [1/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







1章 エクリプスの再来






 ▼ 10 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 20:55:00 ID:o.RG/8e6 [2/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ウルトラビースト、というのを知っておるかの、ジュナイパー」


……知っている。僕は、確かにそう呼ばれる生命体と一度接触した事がある。

けれど、どうしてその単語が、急にこの顔なじみのジジーロンの口から飛び出して来たのだろう。


ジュナイパー「知ってますけど……」


僕とウルトラビーストとの接触は、数年前、僕がまだ、サーカス団エクリプスの団員として勤め始めたばかりの頃だった。

入団してすぐの公演で、照明係のエーフィとブラッキーのツインズを追いかけて、ミリスの街からヤレユータンと後1匹、あれ誰だっけ、まあいいや、の2匹でやって来て、それからいろいろあって、事情を説明してもらう直前に、2匹はそのビーストにやられた。

ヤレユータンはやられてこそいないけど動きを止めるため異世界へ2匹でワープしたのか、そのビーストと。

そこに、僕とアシマリは居合わせた。だから、会った事さえあると言ってもいい。


ジュナイパー「でもなんで、なんで急に?」

ジジーロン「ワシからの依頼みたいなもんじゃよ。そのウルトラビーストとやらに関する情報を、あるポケモンに聞かせてやって欲しいんじゃ」
 ▼ 11 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 20:56:03 ID:o.RG/8e6 [3/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あの事件以来、僕はアママイコと共に探偵事務所を開いた。

考えるのが好き、という特性を活かしてそうしたら、とアママイコからアドバイスをもらったのだ。

で、その事務所兼住居を構えた場所のすぐ近くに、このジジーロンの家があり、それから顔なじみとしてヒマな時は話に付き合ったりする仲にはなっている。

その彼から、依頼。これは、初めての事だった。

意外な展開に僕は彼の顔を見詰める。穏やかなその顔からは何を内に秘めているのかさっぱりだ。

僕はため息を吐くと、今となってはもう進化前のようにぐるぐるとは回らない首を傾げ、しばし思考を巡らせた。

ジジーロンはいいポケモンだ。それは断言できる。

けれど、騙されているのではないか。お年寄りは、詐欺に引っかかりやすいともいうし、まして今回の目的はウルトラビースト。

世界を破壊しかねない話題だ。そうやすやすと広めたくはない。


アママイコ「すいませんねジジーロンさん。うちのこれ、考え込むと潜り込んで止まらないから」

ジジーロン「構わんよ。年寄りからしたら、少し待つ事ぐらい気にもならんわい」

ジュナイパー「いえ、もう大丈夫です」
 ▼ 12 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 20:57:03 ID:o.RG/8e6 [4/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「その前に、ひとつだけ。そのポケモン、いいポケモンですか?

       ウルトラビーストを利用しようとする悪いポケモンだったら世界がとんでもない事になる」

ジジーロン「そこは心配せんでよい。間違いなくいいポケモンじゃよ」

ジュナイパー「どうしてそう言えるんですか?」

ジジーロン「ワシの孫を助けてくれたからの」

ジュナイパー「……そうですか。まあ、その辺はジジーロンさんを信じます。いつですか?」

ジジーロン「1週間後じゃよ。場所はワシの家じゃ」

ジュナイパー「わかりました。受けますよ。ただし、依頼になりますし、料金は発生しますけど」

ジジーロン「構わんよ」

ジュナイパー「まあ、内容も内容だし、依頼主があなたなので、格安でいいですよ」

アママイコ「ちょっとジュナイパー?!」

ジュナイパー「ごめんごめん。でも、時間はそう取られない。元とは言えエクリプス団員の務めも果たしたいし。

        貯金はあるでしょ?」

アママイコ「あるっちゃあるけど……わかった。仕方ない。あなたの好奇心はもう、止まらないんでしょ?」

ジュナイパー「うん」
 ▼ 13 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 20:57:41 ID:o.RG/8e6 [5/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
なぜ今、ウルトラビーストに関して調べたいポケモンがいるのか。

悪いポケモンでないとすれば、その狙いは何なのか。

隠していたのだが、やっぱりアママイコは欺けない。

今の所あり得ないけど将来別の♀に言い寄られたら死にそうだな、と思う。


ジュナイパー「ありがとね、わかってくれて」

アママイコ「仕方ないよ。じゃあジジーロンさん、料金は……」
 ▼ 14 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 20:58:22 ID:o.RG/8e6 [6/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジジーロンが自宅へ帰って行き、僕はまず、天文台の街イスカーを目指す。

次の日食……エクリプスはいつかを確かめるために。ウルトラホールの奥の世界とこの世界が最もつながりやすい日、それ即ちエクリプス。

ウルトラビースト。異世界からの侵略者がやって来る日だ。

懐かしい響きに、思わず僕は俯く。

今日は、数日の旅の準備に追われていた。

明日の朝出発し、情報を集め、帰って来た辺りで、ちょうど1週間ぐらいになるだろう。

そう遠くはないのだ。けれど、決して近くはない。


アママイコ「この保存用リンゴと、ピーピーエイダー、後保存用オレンと……」

ジュナイパー「こんなもんかな。よし、ありがとう」

アママイコ「どういたしまして!」


彼女はニコリと微笑んで見せる。
 ▼ 15 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 20:59:14 ID:o.RG/8e6 [7/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ああ、この顔が、アママイコだ。数年の間一緒にいるが、この顔だけはいくら見ても飽きる事がない。

ふと空を見ると、辺りには星が煌めいている。もう夜だ。

月はない。新月のようだ。


アママイコ「もう、寝なくちゃね」

ジュナイパー「だね……でも、ちょっとだけ……」
 ▼ 16 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 20:59:57 ID:o.RG/8e6 [8/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝、少しのつもりが大幅に伸びてしまったせいでまだ眠い目をこすりつつ僕は翼をはためかせた。

アママイコはまだ眠っている。だいたい責任は僕のお誘いだから仕方ない。寂しく出発するとしよう。

かばんを背負い、そして飛んだり歩いたり。

微妙な所なのだ。進化して以来、純粋な飛行は苦手になった。

滑空ならできるのだけれど、移動にはあまり有利にもならない。

過去を割り切ったつもりで、結局過去に縋る。まあ、縋る過去は別種なのだけれど。

でも、なんだかこの訳のない空想が、何かの暗示なような気がして、僕の背筋は思わず震えた。

はあ、とため息を吐く。

エクリプス時代を彷彿とさせるような単語に、思わず辟易した。

まだ、少し眠たいらしい。

そしてしばらく後、寝ぼけ眼では危険な箇所に差し掛かる。

不思議のダンジョンと呼ばれるものだ。もっともここは、そう危険度の高いダンジョンではないが。

それでも自我をなくして狂暴化した敵が襲い来る、探偵業務でもなければあまり近寄りたくはない箇所。

アシマリと、リンゴを回収しに行ったっけ。そんな風に、僕の胸を懐かしさが襲う。

頭を振り、僕はかばんの感触を感じながら、ダンジョンへ突っ込んだ。
 ▼ 17 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:00:42 ID:o.RG/8e6 [9/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
羽を1本、敵の影を縫い付ける役割で弓のように放つと、彼らは動けなくなる。いわゆる「かげぬい」だ。

後は遠距離攻撃にだけ警戒しつつ、それをゆうゆうとかわして階段を捜すだけでいい。

バトルもできない事はないのだけれど、気付けばそれを避けるようになっていた。

もちろん避けられるものは避けるに越した事ないが、大人になったと言う事か、とも感じる。


ジュナイパー「さ、行くか」


簡単にダンジョンを抜けると、もう夜。細い細い月が出ていた。

今夜はここで野宿だな。

そう決めると、僕はその辺に寝転がる。

羽毛やフードが保護してくれるから、藁を敷く必要もない。あればそれはもちろんいいのだけれど、なくても支障はないのだ。

草タイプに加えて、ゴーストタイプ。もはやたき火をする必要すらない。

野宿と言うのはだから、僕にとって、荷物を取られないように気を付けながら屋外でただ眠るだけ、特別な準備は不要なのだ。
 ▼ 18 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:01:14 ID:o.RG/8e6 [10/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
食料は別に特別ではない。荷物に入っている。

保存用リンゴを手に取り、その体勢で1つ頬張る。煌めく星空の元、何も考えないで、ボーっとしていた。

冷たい風がフードを撫で、軽く揺らめいた。

フードの前面を閉ざし眠る体勢に入って僕は、そのまま眠りに落ちた。
 ▼ 19 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:02:25 ID:o.RG/8e6 [11/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フードから漏れ入る朝の陽射しに目を覚まし、それから徐々にフードを開く。

抱き抱えていた荷物はきちんとそこにある。中を確認するが、なくなった物は何もない。

行くか。

僕は起き上がり、1つ伸びをすると、イスカー目指して再び足を進め始めた。

穏やかな、陽射し。何かが起きる気配もない。

けれど、確かに、何かが動こうとしているのかもしれなかった。

――

イスカーに辿り着いたのは、結局その日の夕方。

今から情報集まるだろうか、と沈みつつある太陽に背を向けながら考えている内に夜になってしまうという大ポカをしでかし、結局宿屋へ直行した。

前金で代金を支払った。一応領収書は貰っておく。経費で落とせる。

割安とはいえさすがに経費は割り引けない。損が出るのは厳しい。
 ▼ 20 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:03:28 ID:o.RG/8e6 [12/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そもそも、もしエクリプスが近付いて来ていたとしても、それこそエクリプスが止めてくれる。

文面だけ見ると訳がわからないけれど、でも僕は、もうそこに関与する必要もない。

だから、これは、あくまで仕事なのだ。

損を出す訳にはいかない。僕だって、2匹分の生活を背負っている。

そしていつかは……と思っていたが、どうにも僕とアママイコでは子どもは産めないらしい。

草、ゴーストタイプ、特性新緑なのにタマゴグループは飛行しかない。ううむ、謎だ。ジュナイパーという種族は何者なのだろう。

話を戻して。

布団に潜りながら、明日は朝一で天文台に行こう、と考え、そして思う。

……天文台って、夜も活動してるのでは?

星の観測など、仕事はむしろ、夜の方が多そうだ。

即断即決は美学に反するが、それでもどう考えてもその考えが胸を離れないために僕は立ち上がり、おかみさんに声を掛ける。


ジュナイパー「すいません、今からちょっと外出してきます」

おかみさん「はいはい。帰って来たらそのまま部屋へどうぞ」


了承は得た。さあ行こう。と息せき切って歩き始める。
 ▼ 21 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:04:12 ID:o.RG/8e6 [13/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
夜闇に隠れて歩くのは得意だが、生憎不要だ。

急ぐ必要はまだないが、かと言って過度に慎重になる必要もゼロ。

つまり、普通に歩いたり飛んだりしてればいい。

もう月は沈んでしまっている。昨日一昨日から鑑みるにまだ三日月、満月には程遠い。

日暮れのすぐ後に沈んでしまう。

星が瞬く空を見上げ、けれど何も考える事はなかった。
 ▼ 22 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:04:45 ID:o.RG/8e6 [14/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イスカー天文台。

その文字が書かれた看板の下に立つ。

警備員とかもいるだろう。もちろん疚しい事はないので普通に頼み込めばいいのだが。

この天文台は、昼は科学館としての役目を果たすが、夜は観測施設。

そう、もらったパンフレットに書いてある。

僕の考えは、半分辺りで、半分外れだ。昼に行った方が訊きやすそうではある物の、夜も活動している。


ジュナイパー「すいません」


室内に入りそう声を掛けると、受付の所に座っているポケモンがこちらを見た。


「夜中は開いてないよ」

ジュナイパー「いえ、ひとつ聞きたいんです。次のエクリプスがいつなのか。

       わかってる限りで構わないんですけど」

「一般人には教えられねぇよ」

ジュナイパー「元とは言え、サーカス団エクリプスのメンバーでも、ですか?」
 ▼ 23 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:05:40 ID:o.RG/8e6 [15/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そう言うと、彼ははじかれたように立ち上がり、受付の仕切りを跳び越えて僕に詰め寄って来た。

鬼気迫る表情が、僕を少し驚かせる。


ジュナイパー「ど、どうかしましたか?」

「お前エクリプスのメンバーか?! なら話は違う! 来てくれ!」


そう言って彼は僕のフードをひっつかみ、そして駆け出した。

人の入って来ないような通路に僕を引っ張り込む。


ジュナイパー「痛い痛いっ! 何するんですかっ?!」

ゴーリキー「あ、悪い悪い……。俺はゴーリキー。ここの警備を担当してる職員なんだが……。

      まあ、詳しい事は話せばわかる」

ジュナイパー「わ、私はただ、エクリプスがいつなのか知りたいだけで」
 ▼ 24 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:06:44 ID:o.RG/8e6 [16/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ゴーリキー「1か月後だ」


えっ、と思わず声が漏れる。

そんな……すぐに?

言葉を失った僕に、彼は「おいうち」を決めた。


ゴーリキー「だってのに、サーカス団のエクリプスが見付からないんだよ、どこ捜してもな」


日食が接近している。

それなのに、サーカス団エクリプスが見付からない。

脳内でその事実を反芻し、それから叫んだ。


ジュナイパー「マズイじゃないですか!」
 ▼ 25 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:07:43 ID:o.RG/8e6 [17/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ゴーリキー「ああ、非常にマズイ。生贄なんだろ?」


かいつまんで説明すると、そうなる。

エクリプスが止めなければ、次善の策として、生贄2匹。

けれど。


ジュナイパー「でも駄目。生贄も、たぶんもう用意できない」


エクリプスが見付からないとはそれ即ち、そういう事だ。

システムを詳しく聞いた訳ではないが、恐らくミリスに新たな生贄は生まれていないだろう。

だってまだ、彼らはこの世にいるのだから。


ゴーリキー「じゃあどうするんだよ」

ジュナイパー「どうする? 答えはひとつしかない。エクリプスを見付け出すんです。

       それしか道はない」
 ▼ 26 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:08:42 ID:o.RG/8e6 [18/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ゴーリキー「お前は知らないのか」

ジュナイパー「元、ですから」


ため息と共に言葉を吐き出す。場を陰鬱な沈黙が支配した。

再び、今度は双方のため息。

僕は、頭を切り替え、質問を開始する。


ジュナイパー「噂も聞かないんですか?」

ゴーリキー「ああ」


驚いた。エクリプスは、あのまま順当に行けば歩くだけで噂を残すぐらいには成長しているはずだ。

そこまで行かずとも、情報を意図的に収集してなお噂ひとつない。

僕は、ひとつの事実を確信した。

けれどまだ、続けて尋ねる。


ジュナイパー「この事、ミリスのポケモンたちには伝えましたか」
 ▼ 27 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:09:20 ID:o.RG/8e6 [19/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ゴーリキー「もちろん! エクリプスが見付からない事までな。ったく、日食はもうすぐって事すら知らねえんじゃねえのかあいつら……」

ジュナイパー「そうですか。……僕の方でも探します」


それにしても、大変な事になった。世界の危機は、こんなにも近付いていただなんて。

一般ポケとなり、初めてわかる。あの時、エクリプスに押し寄せた人たちの感情。

――どういう事? 世界を救ってくれないの?

全然違うか。
 ▼ 28 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:09:57 ID:o.RG/8e6 [20/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
別れを告げ部屋に戻り、それからしばらく考えを巡らせた。

ミリスは、生贄すらもエクリプスにいる事を伝えなかった。

騒ぎが大きくなるのを恐れたのだろう。それは、実際正しい。

天文台は、知らないのだ。その事実を。だから、生贄、なんて発言できた。

どうやら、僕が捜すしかないらしい。世界が本当に危ない事を知っているのは、ミリスの住民、エクリプスメンバー、そして僕。この3者だけだ。

ウルトラビースト。それに関して興味を持つポケモン。

彼ら彼女らは、何を狙っているのだろう。俄然興味が湧く。彼らは、この事実を知っているのか。

後1か月もしたら、ウルトラビーストが侵略してくる、という事実を。

――妙な塩梅になって来た。不確定要素が多過ぎる。

まあ、それは後でハッキリさせればいいのか。まだ、情報収集の段階だし。

ただひとつ、エクリプスは意図的に身を隠している。目的は知らないけれど。噂も聞かないのは、たぶんそういう事だ。

それがわかっただけでも収穫か。

そう割り切ると、僕は藁の布団に身を埋めた。
 ▼ 29 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:10:29 ID:o.RG/8e6 [21/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
まだ帰るまでに数日ある。時間はないが、予定は前倒しにできない。

翌朝目を覚まし、朝食を食べて僕は、しばらく思考を巡らせた。

意図的に隠れている以上僕が捜しても情報はあがらないだろう。

それならいっそ、足りないままでも考えた方がいい。

まず、考えられる場所として、ミリスに匿われている場合。

けれどこれを僕は候補から外した。もしそうなら危険度は恐らく低い。

何を狙っているのかしらないけれど、彼らと共にいれば寸前で止める事も可能だ。

可能性は高そうではあるものの、考えなくていい。

となるとだ。一体どこだ?
 ▼ 30 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:11:26 ID:o.RG/8e6 [22/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
いやでもそうか、全員が一緒にいると目立つし噂も立つな。

となると、今は一時的に解散しているのかもしれない。

ただそうなると、ニャヒートが死ぬな。

そんな風に考えて、思わず苦笑する。

ニャヒート。誰とも交われなかった、孤高の天才空中ブランコ乗り。

彼女は練習していないと死ぬ。これは彼女と一番親しくなった、僕の親友アシマリの弁だ。

当のニャヒートも否定してはいなかった。自虐的に自分から言う事さえあった。

けれど、解散しているとなると、彼女が練習を続けられる場は確かに必要となる。

そして恐らく、あの事件で、2匹の距離も一層近付いたはずだ。あの危険な火の中を2匹で抜け出したのだ。ならないはずがない。

きっと、今解散しているなら、2匹は一緒だ。

で、練習できる場所。


ジュナイパー「ラサーシャ……あり得るかも」
 ▼ 31 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:12:10 ID:o.RG/8e6 [23/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラサーシャ。僕の生まれ故郷であり、エクリプスに入団するまでアシマリとの関係を築いた場所である。

アシマリも、エクリプスに入るまでに関して言えば、ラサーシャの光景しか記憶にないはずだ。

そして、僕の家は、街外れの木立の中にあった。そこにロープを吊るして、バランスを取る練習をすれば、ブランコの練習にもなる。

あの家は放置していた。どうなっているかわからないが、調べる価値はある。

ただ、もし外れだった時、ラサーシャまでの距離が無駄になるのは結構痛い。

事務所と故郷は、存外遠い。

助手がいれば違ったのだろうけれど、生憎そんなの、アママイコしかいない。遠出させたくはないし。

ジジーロンの依頼に答えてもらえればいいのだけれど、やはりそれも駄目。概要程度は知っているだろうけれど、僕の方が詳しいのは確実だ。

ひとつ唸って、立ち上がる。

とりあえず、手紙でも書くか、アママイコに。現状を伝えたら不安がるかもしれないが、彼女には知る権利がある。

彼女も元サーカス団員なのだ。それに、噂の収集を実行してくれるかもしれない。

ダメ元ではあるけれど。
 ▼ 32 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:12:54 ID:o.RG/8e6 [24/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
で、アママイコに手紙を認め(したため)ながら、僕はふっと思い付いた。

手紙は、目的の場所に届けられる。

そこに誰かがいれば読まれるし、いなければ宛先不明として差し出した家に戻される!

つまり僕の実家に手紙を送り、そこにアシマリたちがいれば伝わるし、いなければそうわかる。

ペリッパー便、ありがとう。こんな素晴らしいシステムを維持していてくれて。

取る物もとりあえず僕はアシマリに向けて久しぶりに会いたいという旨の手紙を認め、それから走り出した。
 ▼ 33 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:13:29 ID:o.RG/8e6 [25/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「いるかどうかわからないんですが」

ペリッパー「いなかったら自宅まで送り返させていただきますっぺり!」

ジュナイパー「ありがとうございます。私の自宅は……」


こんな会話の後、僕は、郵便局を去った。

なるべく急いでもらえるとありがたい、と伝えはしたが、ワイロとかも特に渡してはいない。普通になるだろう。

となると、やっぱり自宅に一回帰るのが得策か。


ジュナイパー「あ」


アママイコへの手紙。書き終わってるのに出すの忘れてた。

まあ、いいや。また会える時はそう遠くない。

とりあえず、エクリプスの噂を当たってみるか……。
 ▼ 34 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:14:13 ID:o.RG/8e6 [26/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
当然のように収穫はゼロ。

ダンジョンを練り歩いてリンゴを探す方がまだ期待値は高かったように思う。

どのみちイスカーは天文台が調べ尽しただろうから、僕が出る幕がないのは当然とも言えるけれど。


ジュナイパー「まあ、でしょうね」


そう呟いて、僕は宿に戻った。
 ▼ 35 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:14:44 ID:o.RG/8e6 [27/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
荷物をまとめておく。

明日、朝一で帰りたい。一日で帰れる訳ではないが、それでも進めるだけ進みたいから。

前金で料金を払っているので心配は不要だが、それでも一応おかみさんに声を掛けておく。


ジュナイパー「おかみさん、明日朝一で帰りますので」

おかみさん「あいよ。朝飯はいらないのかい?」

ジュナイパー「ええ。ありがとうございます」


晩ごはんを給仕してくれた際にそんな会話を交わした。

ここの食事はかなりおいしい。ブラッキーから学んだアママイコには劣るけれど。

エクリプスの事を思い出したせいで、ブラッキーの料理が無性に恋しくなって来る。

あの天にも昇る心地な絶品料理は、直接彼から料理を学んだアママイコでも再現できていない。まあ期間が短かったってのもあるけれど。

それにも劣ってはいるとはいえ、それでも充分に及第点だ。いい所を選んだ。
 ▼ 36 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:15:15 ID:o.RG/8e6 [28/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
完食し、部屋に戻って、エクリプスが姿を隠す理由について、しばし考えを巡らせる。

2パターンあるだろう。エクリプスの接近を知っている場合と、知らない場合。

どちらにせよわかりづらいけれど、でも知っているか否かで随分変わる。

そして、恐らく知らないのではないか。

天文台が伝える前に消息を絶っているのは先のゴーリキーの発言から明らかで、そうなると知る術はないだろう。

だとすると、動機はエクリプス……日食の接近以外にあるのかもしれない。

思考は、楽しい。彼らが今、何を考えているのか。

それを寄せて行くのが、凄く面白い。

けれど、眠気は僕を襲い、明日も早いのだからとそれに抗うのを自らに禁じた。
 ▼ 37 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:15:52 ID:o.RG/8e6 [29/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝、部屋を出る時に、おかみさんから声を掛けられた。

彼女は笑顔で僕に何かを手渡す。


ジュナイパー「なんですかこれ」

おかみさん「お弁当よ。料金には朝ごはん代まで含まれてたからね。ま、気にしなさんな」

ジュナイパー「えっ?! あ、ありがとうございます!」

おかみさん「しーっ。まだ他のお客さん寝てるから」

ジュナイパー「あっ、すいません……」

おかみさん「ま、またイスカーに来る事があれば、どうぞご贔屓に」

ジュナイパー「今度は妻も連れてきます。本当にありがとうございました」


料金は出しているとはいえ、この暖かさに胸を打たれた。

いつか、アママイコにも紹介してあげようと心に決めて、僕はイスカーを発った。
 ▼ 38 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:16:37 ID:o.RG/8e6 [30/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
帰り道。特別な何かが起こる事はなかった。

ただかげぬいでダンジョンを攻略し、野宿して、自宅を目指す。

少しずつ太って行く月。日食は確か、新月の時に起こるんだっけ。

となると、あの月が満月になるまでは心配いらないと言える。

そんな風に考えながら、旅路を行き、そして自宅に帰り着いた。


ジュナイパー「ただいま!」

アママイコ「お帰りなさいジュナイパー! あなたに手紙が来てる! ニャヒートたちから!!」


アママイコが、息せき切ってそう伝えて来た。

アママイコは、早く読みたくて仕方ないと言うように、けれど僕が開けるのを律儀に待ってくれている。

僕も慌てて開封した。
 ▼ 39 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:17:10 ID:o.RG/8e6 [31/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
久しぶりフクスロー。もう進化してたんだね。

なんでここにいるってわかったのかわかんないな。まさか手紙が来るとも思わなかったし。

アママイコとは仲良くやってる?

さて、オイラたちは今、いろいろとしないといけない事があるんだよね。

もし会いたいのなら、こっちに来てよ。住所はわかってるみたいだし。


アママイコ「これ……」

ジュナイパー「話すと、長くなるよ」


僕は、イスカーで得た情報を、そのままアママイコに伝えた。

彼女は一言も口を挟まず真剣に聞いてくれる。
 ▼ 40 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:17:52 ID:o.RG/8e6 [32/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「なるほど、わかったわ。で、どうする?」

ジュナイパー「まずは、ジジーロンさんの依頼を片付けるよ。そしたら、ラサーシャへ向かう。

       アママイコ、どうする? 来ても構わないとは思うけど」

アママイコ「……いや、いいや。あなた以外のメンバーとは、最後までちょっと仲いいぐらいだったし。

      それなら、あなただけで行かせてあげたい。大丈夫。事務所の留守はあたしがきちんと預かるから!」

ジュナイパー「ありがとう」

アママイコ「あたしも、危険が及ばない範囲でなら、エクリプスの噂、調べてみてもいい?

      ニャヒートたちがどうしてるのかわかればわかりそうだけど、でも何かしたいし」

ジュナイパー「いいよ、むしろありがたいぐらい。でもこれだけは約束して。危険は冒さないでね。絶対だよ!」

アママイコ「わかってますよーだ」


アママイコが頬を膨らませた。

僕は、そんな彼女に、思わず口付けをしてしまう。浅いタイプではあるけれど、それだけでもう幸せだ。ああ、大好きだ、アママイコ。

唇を離し、彼女は微笑んで言った。


アママイコ「じゃ、今からジジーロンさんとこだよね。行ってらっしゃい、頑張って!」
 ▼ 41 クリン@わすれもの 17/03/30 23:48:23 ID:ykN0tImw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヤレユータンともう一匹だれだっけと前のやつ読み返しよ
 ▼ 42 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 21:51:37 ID:gSqSiRdA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
盗賊団編 3章・4章
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=563163&l=79-179

79から179までです
 ▼ 43 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:26:06 ID:nE37tYMA [1/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







2章 ジュナイパーの旅路






 ▼ 44 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:26:51 ID:nE37tYMA [2/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
森の外れにある、小さな一軒家。

そこが、今回の依頼主であり、顔見知りのご近所さん、ジジーロンの自宅だ。

たまに付き合いであがった事はあるが、仕事で伺うのは初めて。

なかなかにない事だからこそ、僕は冷静になっていた。

慌てても、何もいい事なんてない。

ジュナイパーという種族の常で、計算外の事に対しパニクる事が多々ある。

しかし、そうなった時、物事が上手く運んだ事は、一度もない。

立ち止まって深呼吸。僕は、自分で考えられるから。


ジュナイパー「さて、ジジーロンへの依頼主、一体誰なんだろ」


疑問を脳裏に浮かべ、僕はすべての緊張を振り払う。

疑問さえ与えれば、僕は満足なのだ。納得いくまで考え続けられる。


ジュナイパー「すいません! 来ましたよジジーロンさん!」


扉を開き、僕は声をあげた。
 ▼ 45 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:28:46 ID:nE37tYMA [3/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジジーロンは、お茶を淹れてもてなしてくれた。

僕はそれをすすり、思わず顔をしかめる。

熱い。何度飲んでも、この感覚には慣れない。


ジュナイパー「すいません、熱くて……」

ジジーロン「ほっほっほっ。ワシぐらいの歳になると、熱い飲み物が沁みるのじゃ」


そう言って彼もお茶をすする。

そして幸福そうに吐息を漏らすのだ。

「ところで」と僕は切り出す。


ジュナイパー「どのぐらい、ウルトラビーストと、エクリプス事件をご存じなんですか?」
 ▼ 46 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:29:50 ID:nE37tYMA [4/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕が当事者である事実は知っていた。

この辺に来てすぐに、どこから来たのか、と言われた時に、隠す必要も感じなかったためそのまま説明してしまったから。

けれど、僕がエクリプスの元メンバーである事以上に情報はなかったはずだ。

はたしてジジーロンは「まったく知らないのお。ただ、ジュナイパーがエクリプスのメンバーじゃったと思い出したのじゃ」と答えた。

きっと、新聞に載った以上の情報はないはずだ。

――そして、それは半ば、僕も同じだ。

積極的に関わる立場だったとはいえ、ウルトラビーストに関してはほとんど何もわからない。
 ▼ 47 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:30:50 ID:nE37tYMA [5/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
話題を変え、エクリプスの公演を見た事があるか問う。

ふっと思い立っての事だが、もし最近見ていれば何かしらの手掛かりになる。

残念ながら、そこまで都合よく物事は進まない。


ジジーロン「ううむ……何年か前、孫にせがまれて連れて行っただけじゃのう……」

ジュナイパー「司会は誰でした?」

ジジーロン「ええと……赤くて、威厳のある……誰じゃったかのう」


アマージョ。僕が抜けてからの話である事が、これで確定した。

そして、エクリプスとルテーの合併が、真実である事も。


ジュナイパー「それで、そのパフォーマンス、お孫さんは喜んでました?」

ジジーロン「ああ、喜んでおったぞ! 感動したとはしゃいでおった」


アシマリたちは、たゆまず成長しているらしい。

きっと、誰かを喜ばせられる。みんなのパフォーマンスには、力があるから。

そんな安堵を僕は内心で呑みこんだ。
 ▼ 48 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:31:45 ID:nE37tYMA [6/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
少し冷めて来たお茶をすすりつつ僕はしばらく待っていた。

どんなポケモンがやって来るのか。聞いてしまいたかったけれど、好奇心が満たされるのはもう少し後でいい。

このじれったい時間が気持ちよく、そしてこれ以上の情報も引き出せないと踏んで、僕は世間話を続けていた。

と、扉が開く音がする。

ようやくだ。僕は、視線をそちらに向け、次いで下へとスライドさせる。

こちらを見て、少し警戒するような表情を浮かべている。

このイワンコが、依頼主なのか。僕は一層の興味を惹かれた。

大人を想定していたからこそ、僕よりもまだ年若い少年がやって来た事に驚きながら、僕は尋ねた。


ジュナイパー「あっ、この子が依頼主ですか?」

イワンコ「へ?」

ジジーロン「イワンコ、彼はワシの友達で、探偵の……」


ああ、なんだ。イワンコも僕同様、僕の事は聞かされていないのだ。

そう判断し、僕は威圧感を与えないように微笑んで、自己紹介をした。


ジュナイパー「ジュナイパーです。よろしくお願いします」
 ▼ 49 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:32:45 ID:nE37tYMA [7/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコは困惑したような顔をこちらに向け、問い掛けた。


イワンコ「探偵なんて雇った覚えないですけど……」

ジュナイパー「大丈夫。直接の依頼主はジジーロンだから。君のために、凄く割り引いたとはいえお金出してくれたんだよ」


思わず付け加えてしまう。料金の話は、意外にしんどく、だから早い段階でそれを済ませてしまいたかった。


イワンコ「え? あ、ありがとうございます!」


イワンコは、ジジーロンに向けて慌てたようにお礼を告げた。

ジジーロンは笑いながら言う。


ジジーロン「構わんよ。して、ミミッキュはどこかの?」


ミミッキュ? 複数匹で来る事は想定のひとつであったが、今ここにいない依頼主がいるとは思っていなかった。


イワンコ「ああ、あいつちょっと今日は忙しいらしくて。僕だけで来ました」

ジジーロン「そうか。よろしく伝えといてくれ」

イワンコ「はい」
 ▼ 50 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:33:48 ID:nE37tYMA [8/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジジーロンは、僕を置いてけぼりにしていた事に今さら気付いたのか、彼らとの関係を語る。

思い出しながらの話を要約すると、こうなる。

森の中で攫われた孫を探し出してくれたのだという。

しかし、攫ったというのは勘違いで、実はそのポケモンと孫が意気投合し、仲良く遊んでいただけだったのだ。

攫ったのがウルトラビーストだという事実も聞いた。

驚いたが、そんな事だろうとは思っていた。だからこそ、僕にウルトラビーストの事を聞いたのだろうと。

驚きを顔に出さないように気を付けながら、僕は呟く。


ジュナイパー「なるほど、だからいいポケモンと断言してたのか……」


そちらの疑問が氷解し、僕は頷いた。
 ▼ 51 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:34:33 ID:nE37tYMA [9/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しかし、そこから、驚きの事実が伝えられる。

彼は、記憶喪失なのだ。

ウルトラビーストの一種、ウツロイドに、彼の記憶が根底から揺さぶられたのか、激しく動揺してしまったのだという。

簡単にイコールで結ぶのもどうかとは思うが、僕はシンプルな結論に落ち着く。


ジュナイパー「記憶喪失。その鍵を握るのが、ウルトラビースト……」

イワンコ「はい」

ジュナイパー「君は、どこまで知ってるの?」

イワンコ「えっと……」


ここから先は、すべてイワンコの言葉だ。
 ▼ 52 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:35:49 ID:nE37tYMA [10/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、ある日草原に倒れてました。

行き場もわからなくて、どうすればいいのか困ってるとこに、ミミッキュが来たんです。

そして、助けてくれた。

まあ、それからいろいろありまして、森の中を2匹で散歩してたんですよ。

そしたら、ジジーロンさんの叫び声が聞こえて。

行ってみると、そこにウツロイドとミニリュウがお孫さんがいたんです。

で、動揺して、僕はそれに襲い掛かった……けど、為す術なくやられちゃいました。実力、けた違いです。

まあ、そのまま和解して、僕はミニリュウをジジーロンさんに引き渡しました。

そして、協力をお願いしたんです。まあ、そこはさっき説明したけど。

で、そこから僕もいろいろと調べてみました。

その結果、わかった事があります。

ウルトラビーストは、日食の時にこちらへやってくる侵略者である事。

サーカス団エクリプスがそれを止める鍵を握っている事。

今の所2匹と接触しています。ウツロイドと、フェローチェ。

もう、日食は近付いてるのかもしれない。
 ▼ 53 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:36:56 ID:nE37tYMA [11/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「でも、腑に落ちないんです」

ジュナイパー「ウツロイドが意外と優しそうだったんだ」


イワンコの言葉を、僕が引き取る。

けれど、イワンコは首を横に振り、続けた。


イワンコ「だけじゃない、フェローチェも気品系お姫様かっこバトル脳って感じだったけどいて不快じゃなかったし、敵意がある感じでもなかった」


僕は、ふと思い出す。

エクリプス事件で、ヤレユータンが動きを止めたあの赤い奴。


ジュナイパー「……あの赤い奴、乱暴だったけど、今会ったらどうなんだろ……」

イワンコ「赤い奴?」


口に出してしまっていた。それから気付く。僕は、まだロクに自己紹介をしていない。


ジュナイパー「ああ、そうか説明してなかった。僕は、元サーカス団エクリプスのメンバー」

イワンコ「え」
 ▼ 54 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:37:54 ID:nE37tYMA [12/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼は、驚いた声を出す。当然だ。

話題の中心に、どっしり腰を据えるサーカス団。僕は、そこの元メンバーなのだから。

少し懐かしさを覚え、それを呑み下しながら、続けた。


ジュナイパー「言葉にするとひとつの物語になるぐらいの複雑な事情があって僕は妻と一緒に抜ける決心をしたんだけど、まあそれは何もウルトラビーストに関係ないから割愛させてもらうね。

        一度、僕が入ってすぐの頃、エクリプスはウルトラビーストの接近を食い止めるために公演をしたんだけど、でもその時は、エクリプスが鍵を握ってるなんて誰も知らなかった。

        大昔からの伝承が、廃れちゃってたんだよね。親友の提案でサーカスをしたのが正解だったんだけど」

イワンコ「はあ、それで?」

ジュナイパー「その時に、ウルトラビーストに関してそのミリスの街のポケモンから聞いてる最中、襲われたんだよ、真っ赤なウルトラビーストに」


間髪入れずにイワンコが問い掛ける。


イワンコ「そのビーストの特徴は?」
 ▼ 55 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:38:56 ID:nE37tYMA [13/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「えっと……口が針みたいに尖ってて、凄い筋肉質だった。

       まだ、モクローだったなぁ、あの頃は」


えもいわれぬ寂寥感が僕を襲う。

今では遠い日々の思い出が脳裏を駆け巡る。

僕は、ため息をこっそり吐き出し、それから言った。


ジュナイパー「エクリプスの居場所……と言うより、エクリプスに所属してる親友の居場所は特定済み。

       ウルトラビーストの狙いが侵略その他こちらに不利な物なら、いつでもとは言えないが、封印自体は可能だ」

イワンコ「そうですか。あっ、でもそうなると、こっちに来たウルトラビーストたちは……」

ジュナイパー「強制送還って事になるだろうね」

イワンコ「……でも、それじゃ駄目。僕の友達の、コスモッグってポケモンが、実はウルトラビーストらしいんだ」

ジュナイパー「……友達、ウルトラビースト?」

イワンコ「そうなんだ。だから、ただ封印するだけじゃ……」
 ▼ 56 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:41:32 ID:nE37tYMA [14/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
コスモッグ。初めて聞く名前だが、当然だ。

ウルトラビーストに関わる知識は、エクリプス元メンバーだろうと普通のポケモンと大差ない。

しかし、ウルトラビーストの中に、コスモッグはカウントされていなかった。

彼の中で、まだ、コスモッグはウルトラビーストなのかどうか、微妙な所なのかもしれない。

イワンコは、諦めたような微笑みを浮かべ、それから続けた。


イワンコ「……だけど、侵略が狙いなら、それは封じないといけない。

     わかってます。そりゃ、そうだ」

ジュナイパー「ここで気になるのは……やっぱり君だ、イワンコ。

       君というイレギュラーな存在が、この件に関して何かしらの鍵を握っているのか。

       記憶の謎は、ウルトラビーストにどう絡むのか」


彼は、首を横に振る。そりゃそうだ。
 ▼ 57 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:42:30 ID:nE37tYMA [15/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「だよね。わかるはずがない。記憶がなくて、わからないからこそ、僕に依頼して来てるんだから」

イワンコ「……とにかく、僕らにできる事と言えば、探す事ぐらいだ」

ジュナイパー「その通り。僕がエクリプスの場所を特定してる間に、少しでも捜索できればいいんだけど」

イワンコ「……頑張ります」

ジュナイパー「ところで、僕“ら”?」

イワンコ「え? あっ」


ふと気になり、口をついて出た言葉。しかし、探偵としての数年間で、僕の思考能力はどんどん高まっているらしく、考えている事に後から気付く事すら多い。

僕は、気付かぬ内に、何かが欠如している事に気付いていた。

フェローチェと戦った存在。聞くに、イワンコとミミッキュは、ウツロイドに歯が立たなかったらしい。

コスモッグもウルトラビーストなら、さすがに同士討ちはしないだろう。

その3匹だけで、バトル脳のフェローチェを相手にできたとは到底思えない。

事実、イワンコは動揺を浮かべた。その気配はすぐに、彼のあどけない表情の奥に消えたが、探偵業で培った目は、それをキチンと捉えていた。


イワンコ「ミミッキュですよ。今はいないけど」
 ▼ 58 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:44:10 ID:nE37tYMA [16/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「……何か隠し事してるんじゃないか?

       ウルトラビーストの一種と互角にバトルする程の仲間がいるというのに、そっちに関して一切の言及がないって。

       ウツロイドに負けたミミッキュが、バトル脳と言われる程のウルトラビーストに勝てるとは……」

イワンコ「……ミミッキュ、バトルが凄い強いんです。ばけのかわを駆使して、相手の攻撃をかわすかわす。

     ある意味人質みたいなもんだったから、ウツロイドには本気を出せなかったって」

ジュナイパー「そう」


僕は、思案を巡らせる。

ミミッキュが強いというのは本当かもしれないが、今の話だけだと、戦うきっかけがつかめない。

バトル脳、という事は戦ったとみなしていいだろう。気品系お姫様(バトル脳)という相反する2つの性質は、実際に戦った後に話すという流れでしか付かない印象であろう。

順序が逆であれば、()の外の感想が付かないはずだ。
 ▼ 59 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:44:40 ID:nE37tYMA [17/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
だが、まあいいとしよう。

今ここで、何かを暴く理由は見当たらない。

嘘を吐いている他は、イワンコに、悪い感情を一切抱けない。

本当に、等身大に記憶を失った事に悩み、それを希求する少年。それが彼だ。

僕はふっと笑う。


ジュナイパー「ま、そんな事はどうでもいいや。僕の依頼主はジジーロン。

       そのジジーロンが君をいいポケモンだっていうんだし、話してて悪いポケモンに見えないのは事実。

       協力させてもらうよ」

イワンコ「ありがとうございます!」


露骨な表情は浮かべない。悪いポケモンではないようだが、中々に賢いようだ。

何か理由があるのだろう。記憶喪失の彼が嘘を吐く理由が。

完全にシロとみなすのは得策ではないが、それでもある程度は信じても構わないような気がする。
 ▼ 60 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:45:19 ID:nE37tYMA [18/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな風に考えていると、唐突にイワンコが告げる。


イワンコ「そうだ、ジジーロンさん。探検隊リアライズってここに来ました?」

ジジーロン「ああ、いや知らぬが」


探検隊リアライズ。聞き覚えがある。

最近街を賑わす盗賊を追うという、チラーミィとニューラの2匹組。

かのプクリンのギルド出身との噂もあるが、目下盗賊を捕まえる気配はないらしい。


ジュナイパー「ああ、最近盗賊を追っているっていう、あの」


その発言に、イワンコが少し、動きを止めた気がした。

しかし、その違和感は、すぐに掻き消える。

そのままイワンコは言葉を続けた。
 ▼ 61 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:45:58 ID:nE37tYMA [19/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「ええ、あのです。協力してくれる事になってるんですけど、情報があればここにって事にしちゃったんです。

     事後承諾になって申し訳ないんですけど」

ジジーロン「ほう! 構わんよ。こんな老いぼれの所でよければ、いつでも使ってもらっても」

ジュナイパー「リアライズが協力してくれるんだ」

イワンコ「ええ、まあ」


どのように接点を持ったのか。彼は、どうして探検隊に近付く事ができたのか。

疑問は尽きないが、今は恐らく関係ないだろう。

僕は、話をまとめにかかる。


ジュナイパー「なるほど。僕、君たち、それからリアライズ。3者でそれぞれウルトラビーストを追う訳だ。了解」

イワンコ「では、そういう事で、これからよろしくお願いします」


イワンコはそう言い、そしてそのまま別れを告げ、去って行った。
 ▼ 62 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:46:36 ID:nE37tYMA [20/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、大した情報を彼に与えられていない。改めて考えると、彼はもう、相当に調査を進めていた。

僕が持つ中で、彼が持っていた以上の情報はない。エクリプス事件は、ハッキリ言ってしまうと、底が浅い。

けれど、逆に言うと、この浅い情報だけで考えなければならない。これは、相当に難易度が高い事だ。

エクリプスが消息を絶つ理由。それさえつかめれば、何かわかるのかもしれない。


ジュナイパー「急ぐしかないか。僕が。ジジーロンさん、ありがとうございました」

ジジーロン「いやいや。ワシの依頼に答えてくれてありがとうの」

ジュナイパー「いや、違う」


これは、僕にとって有意義な会談だった。

彼が持つ知識。彼がこれから掴むであろう事実。

その全てが、何かしらに関わるであろう。

僕が、彼にこの段階で接触できたのは、幸運としか思えない。
 ▼ 63 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:47:18 ID:nE37tYMA [21/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
思考を中断し、僕もジジーロンに声を掛けた。


ジュナイパー「これから、忙しくなります。

       迷惑をかけるつもりはありませんが、もしかするとまた、僕もここを拠点にさせてもらう事があるかもです」

ジジーロン「ああ、構わんよ。賑やかなぐらいが楽しいわい」

ジュナイパー「ありがとうございます。それじゃあ、もうお暇しますね」

ジジーロン「ありがとうの」


僕は彼の家を出て、それからアママイコの待つ自宅へと戻って行った。
 ▼ 64 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:48:17 ID:nE37tYMA [22/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「お帰りなさい。バッグ、用意しといたよ」

ジュナイパー「ありがとう」


中身を検める。リンゴ、エイダー、地図に、それからプチ復活のタネ。

完璧だ。


アママイコ「お昼ごはん食べて、すぐ行く感じ? それとも明日出発?」

ジュナイパー「急ぎたいから、今日行くよ。お昼は?」

アママイコ「オレンサラダ! 疲れを癒すには、やっぱオレンだしね。

      ラサーシャ、結構遠いでしょ? 万全の体勢で行って欲しいから。

      無事に帰って来てくれないと、あたしも辛いし」

ジュナイパー「……ありがとう。ホントに」


それしか言えない。ただ、もう、大好きだ。


アママイコ「ほら、早く食べて食べて!」

ジュナイパー「いただきます!」
 ▼ 65 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:48:47 ID:nE37tYMA [23/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オレンサラダはあっという間に口の中へ飛び込んで行き、僕はごちそうさまを言って立ち上がった。

おいしかった。

余りに速く食べてしまったせいで、アママイコはまだ半分残している。

けれど、世界の明暗がかかっているのかもしれない。


ジュナイパー「行って来るよ。大丈夫。絶対、無事に帰って来るから」

アママイコ「わかってるよ! 頑張ってねジュナイパー!」

ジュナイパー「うん! 行ってきます!」


アママイコに微笑みかけ、それから僕は、顔を引き締め、前を向く。

ラサーシャへの道のりは、長い。危険という事はないが、急がなければ。
 ▼ 66 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:49:36 ID:nE37tYMA [24/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ルートの途中に、ミリスの街がある事に気付いたのは、地図を眺めていた時だった。

一度、寄ってみてもいいかもしれない。目算だと、ラサーシャまでが5日、ミリスは2日目の夜を過ごす辺りだ。

きっと、僕なら歓迎してもらえる。

そして、尋ねたい事もあるのだ。関係者へあたるのは、警察だけじゃなく、探偵にとっても必須だ。

むしろ、権力を行使して情報を集めるという事ができない分、探偵の方がその必要性に迫られるとも言える。

ミリスのポケモンたちは、間違いなく関係者だ。新聞風に言うなら、重要参考ポケモン。

エクリプスの方が先決ではあるが、道中に尋ねられるのなら、しておくに越した事はないだろう。

そんな事を考えながら、ダンジョンを進んで行く。

敵は、たいして強くない。かげぬいで動きを止め、それを避けながら行動するだけで安全に進める。

だからこそ、こうやってボーっと考え事をする事ができるのだ。
 ▼ 67 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:50:15 ID:nE37tYMA [25/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ダンジョンを抜けると、空には上弦の月が浮かんでいた。

瞬く星々が、辺りを照らす。

かばんからリンゴを取り出し、それにむしゃぶりついて、そのまま眠った。

食べてすぐ寝ると太る、とは言うけれど、時間が惜しい。

早寝すると睡眠時間が短くて済むのは、僕だけだろうか。

少なくとも僕はそうなので、早く寝てしまいたかった。

瞼を閉ざすと、思いが巡る。

イワンコはこの件にどう絡んで来るのだろうか。

記憶を失い、しかし事件に身を投じて行く存在。

何か、知っているのか。ウツロイドは、彼の記憶のどこに存在しているのか。

アシマリたちは、どうして姿を隠すのか。

まとまる気配もない思考は、くるくるとニャヒートの空中ブランコのように頭の中を巡っていたが、やがてそれも闇の中へ溶けて行った。
 ▼ 68 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:50:58 ID:nE37tYMA [26/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
光がフードの中に入り込んで、僕は目を覚ます。

ひとつ伸びをし、目をこすって立ち上がった。

今日も進まなければならない。

目的地は、ミリスの街だ。

地図を確認する。

幸い、ダンジョンはこの道中にないらしい。

昨日以上に楽な道のりとなるだろう。

僕は足取りも軽く歩き始めた。
 ▼ 69 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:52:48 ID:nE37tYMA [27/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
特筆すべき事は何もないまま、夕方にはミリスの門を叩いていた。


ジュナイパー「すいませーん!」


身元を明かすのは、まだ早い。

今エクリプスを名乗ると、逆に警戒されるかもしれない。

味方と呼べるのか、完全に確信できるまでは、明かさないつもりでいた。

門番がやって来て、僕に問うた。


門番「誰だ?」


種族を名乗り、それから尋ねた。


ジュナイパー「エクリプスに関して、何か知ってますか?」

門番「……それは、どっちの?」

ジュナイパー「どっちもです」
 ▼ 70 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:53:39 ID:nE37tYMA [28/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
門番「どうしてそれを聞く?」

ジュナイパー「日食、近付いてるらしいじゃないですか。なのにエクリプスが見付からないって」

門番「……ああ。どこにいるのか、皆目見当も付いてないんだ。

   どこにいるんだあいつら……エーフィとブラッキーも連れてるってのに……」


吐き捨てるような言葉が、心の底から漏れ出たようなものだった。

そもそも、こんな事をどこの誰とも知らない僕の前で明かそうとする時点で、嘘だという可能性は限りなく低い。


ジュナイパー「僕、元エクリプスメンバーです。居場所に心当たりがある。

       とりあえず、ヤレユータンと話をさせてくださ――」

門番「エクリプスの居場所がわかるだと?! それなら来てくれ! こっちだ!」


ここでもゴーリキーに連れられたように強引に腕を引っ張られて行く。

荒々しさは、焦りの裏返し。彼は、味方だ。

ミリスの街は、何かを隠している訳ではないと見ていいだろう。
 ▼ 71 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:54:19 ID:nE37tYMA [29/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヤレユータン「あれから……師匠の後を受け継ぎ、僕が向こうとこちらを繋ぐ神主をやってます」

ジュナイパー「先代は?」

ヤレユータン「……最期まで、幸せそうな顔をしてました。

       僕も、しっかり成長してましたし、皆に囲まれて……」

ジュナイパー「そうですか。ご冥福をお祈りします」


第一次エクリプス事件(簡便化のため、僕がモクローだった時代のエクリプス事件をこう呼ぶ事にした)以来の旧交を温める。

出されたおいしそうな料理を頬張りながら、会話を続けて行く。


ヤレユータン「ところで、どうしてエクリプスをおやめになられたんですか?」

ジュナイパー「……いろいろありまして。今は結婚して、探偵をやってます」
 ▼ 72 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:55:03 ID:nE37tYMA [30/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヤレユータン「そうですか。じっくり伺いたい所ですけど、時間も余りありませんしね。

       そろそろ本題に入りましょう。エクリプスの居場所を、ご存じなのですか?」

ジュナイパー「エクリプスの、かはわかりませんが、少なくとも何匹かは」

ヤレユータン「そうですか。やめてる可能性は……」

ジュナイパー「ないです。サーカスが命ってポケモンたちですもん。それに、今のエクリプスは、環境も整ってるし」

ヤレユータン「ならよかった……」


厳密には、一時解散までは視野に入れている。けれど、正式な解散を何も言わずにするとも思えない。何か、考えがあっての事だと思っている。


ジュナイパー「僕は、アシマリたちを捜します。今日は、その道中にたまたまミリスがあったので」

ヤレユータン「そうですか。僕たちも付いて行きましょうか?」

ジュナイパー「結構です。ここはここで、いつでもホールを開けるように、準備をしておいてください」

ヤレユータン「了解です。……とりあえず、今日はどうします?」

ジュナイパー「早寝して、明朝には出発しようと思っています。時間も惜しいですしね」

ヤレユータン「ええ。それでは、藁布団、用意しますね」

ジュナイパー「ありがとうございます」
 ▼ 73 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:56:00 ID:nE37tYMA [31/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヤレユータン「それにしても……何が狙いなんでしょうか」


ポツリと彼は漏らす。

本当にそうだ。アシマリたちは、何を思っているのだろう。

考えてはいる。けれど、答えは見付からない。


ジュナイパー「それじゃあ、おやすみなさい」

ヤレユータン「きっと、エクリプスを見付けてください」

ジュナイパー「任せてください」


そう言うと、僕は布団に倒れ込み、すぐに軽い寝息を立てていた。
 ▼ 74 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:56:32 ID:nE37tYMA [32/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝、まだ皆が寝静まっている時間に目を覚ました僕は、「ありがとうございました」と呟いてミリスの街を後にした。

そこからは、特に何もなかった。危険も、情報も、何も。

ただ、一切の疑問が、もうすぐアシマリと会える、という感慨にすり替わって行くのみ。

まあいいさ。会った時に聞けばいい。

僕はそんな事を思いつつ、ラサーシャの街へ帰って来た。
 ▼ 75 J44kAZeDOM 17/04/04 21:11:17 ID:GHkOfw2I NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
盗賊編 5章・6章
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=563163&l=183-274
183から274です
 ▼ 76 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:03:46 ID:.cWFKAr2 [1/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







3章 アシレーヌの結論






 ▼ 77 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:04:25 ID:.cWFKAr2 [2/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラサーシャの街に足を踏み入れ、僕は感嘆の声を漏らす。

凄いや。全く変わってない。

僕がエクリプスに入団し、この街を去ってから、一度も帰って来ていなかった。

元々この街に思い入れなんてなかった。けれど、ここまで綺麗に残っていると、一縷の感動が胸を襲うのだ。

そしてそうなると、探索はより容易だ。なんだかんだ言って、土地勘がある。

傾きかけた太陽。空を見上げると、上弦の月が少し太ったようなのが輝いている。

満月まで、後いくらもない。そして、日食は、新月の時に起こる現象。

とっくに、4分の1が過ぎているのだ。

ふう、と軽くため息を吐き出すと、僕は懐かしの自宅へ向けて駆け出した。
 ▼ 78 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:05:19 ID:.cWFKAr2 [3/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「この辺だよね……」


ここら一帯も、ほとんど変わっていない。

ただ、中々に大きな竹が生えているだけだ。

そのすぐそばに、僕の家があった。

ただ、気配を感じない。いや、何か並々ならぬ気配は感じるのだが、少なくともアシマリたちの気配は見当たらない。


「誰?」


不意に、声が聞こえた。

声の出所を見ると、何もない。

僕は声を潜め、それから目を閉ざし、全身の感覚を耳に集中させた。

カサリ、と音がする。

僕はそちらに向け、矢羽を飛ばした。
 ▼ 79 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:05:59 ID:.cWFKAr2 [4/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
???「ひえっ! 凄いね、君」

ジュナイパー「もう逃げられない。何者だ、姿を現せ」


探偵生活の性か、こういう時に使える声音を手に入れていた。

聞いた相手を威圧させるような声。先程のかげぬいと合わせ、相当に効力を発揮したはずだ。


???「でも、姿現そうにも、動けないし。ここだよー」


どこだ。声の元を探り、それから驚く。

小さな、紙のようなポケモンがいる。いや、こいつはポケモンなのか……?

少なくとも、今までの暮らしの中で見た事はなかった。


ジュナイパー「もしかして、ウルトラビーストか?」

???→カミツルギ「そうだよ。僕はカミツルギ。それからこっちがテッカグヤ。おーい! カグヤちゃん!」
 ▼ 80 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:06:58 ID:.cWFKAr2 [5/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カミツルギが上方に声を飛ばす。

その視線(目はないが、なぜかそちらを向いているとハッキリわかった)の先を辿ると、先程の竹がある。


ジュナイパー「……って、はああああ?!」


ただの竹だと思っていたが、上方に顔がある。

それはいい。けれど、僕を襲った衝撃は、また別種のものだった。

なんだこいつは。デカい、デカすぎる。

思わず取り乱してしまった後で、僕は慌てて首を振り、それから改めてそれを眺めた。


テッカグヤ「どうも。あんためっちゃ強いなー!」

ジュナイパー「き、君もウルトラビースト……?」


こんなデカいのが敵だとすると、到底勝ち目はないだろう。

テッカグヤはニコリと微笑み――少なくともこの位置からはそう見えた――それから言った。


テッカグヤ「せやで! うちとツルギ君、ウルトラビーストやねん!」
 ▼ 81 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:07:38 ID:.cWFKAr2 [6/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あっけらかんとした口調のテッカグヤ。

イワンコの言葉が脳裏によぎる。

意外にフレンドリー。あの赤い奴のイメージが強く、どうしても受け入れがたかったが、実物を見ると受け入れざるをえない。

動揺を振り切り、僕は彼らに声を掛ける。


ジュナイパー「ここに、アシマリがいるはずです。僕は、彼に用があって来ました」

テッカグヤ「まずあんた、なんて種族なん? 呼び方もわからへんし、困んねん」

ジュナイパー「ジュナイパーです。アシマリ、いません?」

カミツルギ「アシマリ……いなかったよね?」

テッカグヤ「おらへんでー、アシマリなんて」

ジュナイパー「え?! でも……」


確かに手紙はここに届いた。そして、返信が帰って来たのだ。

いないはずがない。

そんな風に思っていた時だ。


「あれ? どうしたの2匹とも……」
 ▼ 82 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:08:18 ID:.cWFKAr2 [7/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
声が聞こえ、振り向いた。

瞬間、僕の時間が止まった。

薄青い、頭から生えた長い体毛を星型の飾りと真珠で止めた、♂ポケモン。

種族は恐らくアシレーヌ。

気付けば僕は、彼を呼んでいた。


ジュナイパー「アシ……マリ……?」


彼の方も、僕に気付いたらしかった。


アシレーヌ「モクロー……だよね?! そうだよね?!」


世界が潤み始める。慌てて拭うと、僕は言った。久しぶり。

それから、示し合わせたように2匹、固く抱擁を交わした。
 ▼ 83 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:08:57 ID:.cWFKAr2 [8/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
テッカグヤ「どないしたんや2匹、♂同士で……」

カミツルギ「さあ……」

「感動の、親友同士の再開よ。そっとしてあげて」

カミツルギ「親友、ねえ。ニャヒート、ジュナイパーって……」

ニャヒート「エクリプスの元メンバーよ。後はジュナイパーから直接聞いて」


そんな会話を後ろで聞き、僕はアシレーヌを離し、それから向き直った。

彼女は、かわらずのいしを首から下げている。僕はそれを認めて、言った。


ジュナイパー「ニャヒート。久しぶり。まだブランコはやってる?」

ニャヒート「当たり前じゃない」

アシレーヌ「オイラたち、練習は欠かしてないよ」

ジュナイパー「そのオイラたちって、2匹だけ? 団長とか、エーフィたちとか……」

ニャヒート「……ジュナイパー。あんたが気になってんのも、そこに集約されると思う。説明するから、来て」
 ▼ 84 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:09:30 ID:.cWFKAr2 [9/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌとニャヒート、カミツルギの3匹に先導されて、懐かしの我が家へ足を踏み入れた。

テッカグヤは大きすぎて入れない。それはそうだろう。

中に目を移すと、内装自体は変わっていないが、ところどころ刀傷がある。


ジュナイパー「どしたの、これ」

カミツルギ「面目ない」


彼の体を眺め、それから納得した。

むしろ重いからと放置して来たアイテムが、彼がやって来るまで保存されていた事の方が驚きだった。


ジュナイパー「懐かしいなぁ」

アシレーヌ「でしょ。まだ残ってたんだねぇ」


僕とアシマリが暮らした部屋だが、もはやここは僕の部屋ではない。

長い事、離れすぎた。部屋はもう、僕を歓迎はしてくれない。

郷愁。それだけだった。
 ▼ 85 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:10:49 ID:.cWFKAr2 [10/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「……単刀直入に言うよ。なんでエクリプスは身を隠して、ウルトラビーストを匿ってるの?」

アシレーヌ「その前に、ちょっと教えてよ。ジュナイパーは、どうしてこの件に気付いたの?」

ジュナイパー「……僕、今探偵やってるんだ」

アシレーヌ「あー! すっごい似合ってる! オイラから離れて、ホントの自分、見付けられたみたいだね」

ジュナイパー「まあね」

ニャヒート「アママイコとは?」

ジュナイパー「聞きたい? 1時間はのろけられると思うけど」

ニャヒート「パス。で、あんたはなんでこれに首突っ込めたの?」

ジュナイパー「……実は、あるイワンコから依頼があったんだ。ウルトラビーストに関して調べてって」

カミツルギ「依頼……?」

ジュナイパー「記憶喪失で、その鍵をビーストの一種、ウツロイドが持ってるらしいんだ」


カミツルギが、少し考えを巡らせるようにくるりと回ると――いつぞやの僕みたいだ――言った。


カミツルギ「イワンコは入って来た覚えないけどなぁ……」

ジュナイパー「なるほど。イワンコがウルトラビーストの世界に行った事はない、と」
 ▼ 86 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:11:43 ID:.cWFKAr2 [11/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「とにかく、イワンコに調べてって依頼されたんだ。だから、調べてた。

       そしたらなんと、日食が来月で、だってのにエクリプスが見付からない。

       半ばやけくそで手紙出したらそれが大当たりして、今僕はここにいるって訳」

アシレーヌ「へえ……ホントにやけくそだったの?」

ジュナイパー「当たれば儲けものぐらいの感覚でしかなかったけど、、一応考えはした」

アシレーヌ「それで1発だもん。凄いよね」

ジュナイパー「今度はこっちの番。聞かせてよ」


僕の問い掛けに答えたのは、外にいるテッカグヤだった。

どうやら、声は聞こえているらしい。

彼女はカミツルギを呼び、そして相談しているようだった。


アシレーヌ「実は、オイラたちも全部教えてもらえてる訳じゃないんだ。

      オイラたちが練習してる時にやって来て、オイラのパフォーマンスを誉めてもらったんだ。

      テッカグヤが来て、みんな気付いて。

      誰だって聞いたらウルトラビーストって言うから二重にビックリだよ」
 ▼ 87 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:12:28 ID:.cWFKAr2 [12/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「どうしてこっち来たのかは言えないみたい。

      ただ、向こうが友好的だったから、ただ封じ込めるのも違うってのが、団長の判断だった」

アシレーヌ「エーフィとブラッキーも、夢に見たんだって。

      彼らを無下に拒むべきではないって、ソルガレオとルナアーラがそれぞれに」

ジュナイパー「なるほど……無下に拒むべからず……」


ソルガレオとルナアーラ。太陽と月を司る2匹が、各々の力を現世に伝える2匹の夢枕に立ち、そう伝えたのか。

それは確かに信じるしかない。
 ▼ 88 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:13:44 ID:.cWFKAr2 [13/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
戻って来たカミツルギが、どこから聞いていたのか話を引き取った。


カミツルギ「それから、皆さん、匿ってくれてるんです。共存の可能性を捜して。

      だけど、エクリプスが機能してると止めろって言われるだろうからって、一時解散させたんでしたよね」

アシレーヌ「そうそう! ジュナイパーが抜けてしばらくしてからやって来たスリーパーってポケモンの提案なんだけどね」


大当たりしている。行く先々で、不安な声を聞いて来た。

エクリプスがそのまま存続していれば、絶対に食い止めろと言われていたはずだ。

それこそ、「スポットライト」を浴びたポケモンを見るよりも明らか。

そのスリーパーは、的確な指示を出した事になる。事件慣れでもしていたのだろうか。

とにかく、僕が抜けてもきちんと回った訳だ。
 ▼ 89 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:14:42 ID:.cWFKAr2 [14/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「で、この作戦の行き付く先は?」

アシレーヌ「オイラたちポケモンとウルトラビーストの共存」

ジュナイパー「最終目的はわかってる。そのために、いろいろ障害があるのは目に見えてるでしょ?」

ニャヒート「結局のとこ、あたしたちにはサーカスしかない。わかってるでしょ?

      歓迎公演よ。それしかない。あたしたちのゼンリョクを彼らにぶつける。それから、その様子を知らしめるの」

ジュナイパー「そっか。ふふ、ふふふふ……」


気付けば、笑いが漏れていた。

さすがだ。2匹が、アシレーヌが出すとしたら、そういう結論にしかならない。


ジュナイパー「あっははは! さっすがだよアシレーヌ! 僕がいなくても、自分の答えを出せてるじゃん」

アシレーヌ「……違う。これは、こればっかりは、僕じゃない。カミツルギと、テッカグヤのアイデアなんだ」

カミツルギ「はい、まあ」

ジュナイパー「え、そ、そうなんだ。ごめん」
 ▼ 90 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:15:25 ID:.cWFKAr2 [15/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「いいよ。わかってる。オイラだけじゃ、ロクに、何も考えられないんだよ……何も……何も……」


アシレーヌがうつむいてしまい、僕は思わず黙り込んでしまう。

思えば、僕のワガママは、数こそ少ないけれど、いつも強大で、だからこそたった一度が、アシマリに、アシレーヌに強い影響を残していても何もおかしくはない。

僕は、彼から離れて幸せをつかんだ。

でも、彼はどうだったのだろう。

アシレーヌは、一体どれだけの苦悩を味わって来たのか。味合わせて、来たのか。


ジュナイパー「ごめん」

アシレーヌ「いいよ、別に。こうして、また会えたんだしね」

ニャヒート「ま、それはいいでしょ。みんな別々に他のウルトラビーストを捜してる。

      あたしたちはここを拠点にしたんだけど、なんか2匹に懐かれちゃってさ……」

カミツルギ「2匹のパフォーマンスと関係性が気に入っちゃってね。僕もカグヤちゃんも」
 ▼ 91 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:16:39 ID:.cWFKAr2 [16/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「へえ。で、他のウルトラビーストに関して、詳細を聞かせてもらっていい?

       僕がではないけど、今の所、ウツロイド、フェローチェ、コスモッグと接点があるポケモンと接点があるんだ」

カミツルギ「え、こ、コスモッグ?!」

ジュナイパー「え? まずかったですか?」

カミツルギ「いや、大丈夫です……」

ニャヒート「何その子。あたしたちが必死に捜してカミツルギたち以外1匹も見付けられてないのを3匹も見付けてるって?」

アシレーヌ「そうなるね。……なんでなんだろう?」

ジュナイパー「……カミツルギは、どうしてエクリプスに行き付いたの?」

カミツルギ「あー、いや、どことなく懐かしい臭いがあるようなないような、って感じですね。

      ずっと暮らしてた場所と、似た気配が薄く」


薄く、か。一番の接点と言えば、第一次のあの時だ。僕たちは、星を散らした空間で、ソルガレオとルナアーラに公演を見せた。

イワンコの、そして彼らの話を統合するに、あの2匹はウルトラビーストに対し綿密な接点を持っている、どころかウルトラビーストの一種と言っても過言ではない。

とすると、あの空間はウルトラビーストの空間、仮にウルトラスペースと呼ぶとして、ウルトラスペースとここの接点にあたる場所ではないか。
 ▼ 92 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:17:22 ID:.cWFKAr2 [17/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
こんな話を本で読んだ事がある。

この世界には、いくつかの領域がある。時間、空間、この世界、反転世界、それから始まりの間。

しかし、この複数の世界の狭間に、「なぞの領域」があるという。

なぞの領域に光はなく、ただ、そこにあるが、何もない。時間も、空間も。すべてから見放された領域。

そこに足を踏み入れたものがいるのか、その方法があるのかはわからない。

けれど、確かに存在するという。その言葉自体が伝承の一部なので実存は確かめられない。

もしかすると、その領域こそが、ウルトラスペースなのではないか。

――そして、伝承はこんな風に終わる。

その領域が創造主を取り込む時、世界は崩壊し、再創生される。
 ▼ 93 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:18:16 ID:.cWFKAr2 [18/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
これは仮定だ。確証なんて、何もない。

もしこれがそうだったとして、どう関わって来るのかも、そもそも関わるのかすらわからない。

ただ、もしそうだとすると、その領域に潜り込んだ事のあるポケモンに吸い寄せられる。

つまるところ、イワンコは、その領域に潜り込んだ事がある?

けれど、そんな事実はなかったという。本当かはわからない。知らなかっただけかもしれない。

そもそも、この考えが間違いなのだろうか。もっと、エクリプスに惹かれる理由が別にあるのか。

例えば、エーフィ、ブラッキーの2匹。

この可能性は普通にある。だが、そうだとすると、強烈でないというのが今度はネックになる。

こちらに関しては、堂々巡りだろう。

今度は、彼らがこの世界にやって来た理由だ。


ジュナイパー「どうしてこっち来たのかは言えないんですよね」

カミツルギ「ごめんね」

ジュナイパー「どうして言えないんですか?」
 ▼ 94 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:18:57 ID:.cWFKAr2 [19/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「もちろん、話したくない範囲までは話さなくて結構です。引き出すのは僕の、探偵の仕事だから。

       でも、協力するからには、情報が欲しい。他のウルトラビーストに関して。彼らをどう懐柔すればいいのか。

       前、赤い奴に襲われた事があって、不安なんです」

カミツルギ「……マッシブーンね。まあ、あの時はまだ、自我なんてあってないようなもんだったから」

ジュナイパー「それが、自我を持った。何かのきっかけで。そのきっかけこそが、あなたたちがこっちにやって来た理由ですか」

カミツルギ「……そうなるのかな。気付けば、あった。そして、その理由もまた、別に存在していた。自我の産まれた理由はわからないんだ」


危機的状況に対し、協力してそれを乗り越えようとした。

その結果の自我なのかもしれない。
 ▼ 95 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:19:57 ID:.cWFKAr2 [20/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
こちらへやって来る理由。向こうに懐かしさを覚えるような生き物が、こちらに居場所を求める理由。


ジュナイパー「向こうに住めない理由でもできたんですか?」

カミツルギ「……その通りです」

アシレーヌ「え?!」

ジュナイパー「冷静に考えればそうとしか考えられないよ。懐かしさでエクリプスを見付けたんなら、帰ればいい。

       論理的結論として、侵略じゃないとすると、帰れない以外にあり得ない」

アシレーヌ「じゃあ……」

ジュナイパー「当のウルトラビーストの前で言うのもどうかだけど、侵略じゃないんですよね?」

カミツルギ「……ああ」


侵略ではない。どこまで信じていいのかはわからないが、ここはソルガレオとルナアーラを信じよう。

だとすると、世間一般の協力と同意を可及的速やかに取りたいはずだ。けれど、そのための、情報を発信する機会はあまりない。

なぜならば、エクリプス事件で、ウルトラビースト=悪の公式が成り立ってしまったから。
 ▼ 96 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:20:58 ID:.cWFKAr2 [21/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
けれど、それだけか?

僕の脳内を、疑問が駆け巡った。

エクリプスが共にいれば、少しは主張も通るのではなかろうか。


ジュナイパー「この段階ではまだ、公表は、しないんだ」

カミツルギ「……はい」


協力的な態度を見せる彼ら。

けれど、行動が一貫していない。


ジュナイパー「今この段階では公表できないんだよね? どうして?」

カミツルギ「それが……言えない理由です」


そうか。なるほど。こっちにやって来た目的と、公表できない理由が一致している。

侵略ではない。信じてもいいだろう。こんな回りくどい事をせずとも、前回のようにそのまま力を振りかざせばいいのだから。

この巨体。この切れ味。これが束になってかかって来たら、たぶんポケモンは敵わない。

それが、こうしている。全てを公にできる程白ではなく、けれど黒でもない。
 ▼ 97 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:21:30 ID:.cWFKAr2 [22/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告















そうか、閃いた。
 ▼ 98 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:22:16 ID:.cWFKAr2 [23/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
白でも黒でもない、となると結論はひとつ。グレーだ。


ジュナイパー「まだ、侵略か、和解か、決まってないんだ」

カミツルギ「な、なんでそれを……」


ビンゴ。ぱたぱたと紙のような箇所を開け閉めするカミツルギは、明らかに動揺している。

ウルトラビーストの狙いは、調査。この世界のポケモンたちと、気持ちよく共存できるか否かを調べたいのだ。

白なら自分も白。黒なら自分も黒。

朱に交われば、赤くなる。


ジュナイパー「君たちも、僕と同じだ。調べて、結論を出す。

       この世界を調査対象に、全てのウルトラビーストを依頼主とした、探偵なんでしょ」

カミツルギ「……カグヤちゃんと相談してくる」


彼は、飛び去って行ってしまった。

僕は、ふうと息を吐き、それから笑った。
 ▼ 99 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:23:12 ID:.cWFKAr2 [24/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「凄い……なんでわかったの?」

ジュナイパー「いっつも、綱渡りだよ。いくらかある可能性の中から、一番確率の高そうなものを拾い上げる。

       大事なのは、気持ちを寄せる事。

       相手の立場に立った時、どう考えるだろうかってね。徹底的に調べる事で、その精度はより高まるんだ」

アシレーヌ「それでも正解してるんだもん。綱渡りだって、関係ないよ。答えがあってれば」

ジュナイパー「……でも、こんな考え方してたら、いつかは間違えそうで」

ニャヒート「ったく。なんだって、自信が大事なの。サーカスだって、できると思うからやれる。

      最悪の事態に備えて、最高の結果を描く。これが一番」

ジュナイパー「……そうだよね」

アシレーヌ「なるほど……」


ニャヒートが、驚いたように僕たちを見詰めている。


ニャヒート「何急に静まり返って」

ジュナイパー「いや、心のノートにメモってた」

アシレーヌ「オイラも」
 ▼ 100 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:23:44 ID:.cWFKAr2 [25/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「はぁ?! 別にメモる程の事でもないと思うけど」

ジュナイパー「いやいや、充分いいと思うよ、さっきのセリフ」

アシレーヌ「ま、そうやって謙遜しがちだよね。サーカス以外」

ニャヒート「……何これ。……ま、いいか」


そんな風に話していると、カミツルギが戻って来た。
 ▼ 101 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:24:49 ID:.cWFKAr2 [26/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カミツルギ「お待たせ。……君の想像通りだよ。正解。

      僕たちは、君たちのパフォーマンスに惹かれた。

      それで、この世界を好きになった。

      だから、みんなにも。そう思って欲しいなって」


戻って来たカミツルギから、その言葉を聞く。

僕は僕で、少し考えを巡らせた。


ジュナイパー「じゃあ大事なのは、他のウルトラビーストにも、この世界はいいものだ。ポケモンと共存する価値があると思わせればいい……って事?」

カミツルギ「まあ、そうなりますね。基本的に、ポケモンを滅ぼすべきかが問題になるので」

アシレーヌ「さらっと怖い事言うね……」

カミツルギ「仕方ないでしょ! アシレーヌ。まあ、それはともかく、この世界の、ポケモンのよさを知りたいんです」
 ▼ 102 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:25:51 ID:.cWFKAr2 [27/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼の言葉には、恐らくもう、嘘はないと見ていいだろう。


ジュナイパー「つまるところ……サーカスに、君はこの世界の素晴らしさを見た訳だ」

カミツルギ「そう。カグヤちゃんも……

 テッカグヤ「めっちゃ凄いやん! これで練習とか本番どないなってまうんや!」

      って言ってた。もちろん、僕だって感動したよ」

ジュナイパー「そういや、2匹ともまだやってるんでしょ? 見たいな、2匹のパフォーマンス」


不意に言葉が零れた。何も考えない、素の言葉。

しかし、アシレーヌは首を縦には振らなかった。
 ▼ 103 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:26:23 ID:.cWFKAr2 [28/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「ごめん。まだ、ジュナイパーには見せられない。

      本番の、みんなが揃った時に」

ニャヒート「アシレーヌ、ずっと言ってるの。いつかまた、あなたに公演を見て欲しいって。

      そこで、オイラのゼンリョクをぶつけるんだ、って」

アシレーヌ「うん。サーカスは、オイラだけのものじゃない。全部ひっくるめて、ひとつのショーだから」

ジュナイパー「そっか。楽しみにしてるよ。

       それからカミツルギ。他のウルトラビーストに関して教えてくれない?」

カミツルギ「ああ……了解です」
 ▼ 104 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:27:08 ID:.cWFKAr2 [29/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
コスモッグ:ウルトラビーストの王子。友達を欲しがっている

ウツロイド:楽しい事を求める天真爛漫な少女

フェローチェ:美を追求する戦闘脳お嬢様

デンジュモク:光を求めるチャラ男

テッカグヤ:省略

カミツルギ:同上

アクジキング:何でも食べる黒い塊。満腹感を求める


カミツルギ「一応マッシブーン……まだこの世界には来てないビーストも説明しときますね」


マッシブーン:力を追及する筋肉バカ
 ▼ 105 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:28:09 ID:.cWFKAr2 [30/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「デンジュモク、アクジキング、マッシブーンがまだ出会ってないのか」

カミツルギ「マッシの奴は向こうでまだ筋力鍛えてますね。赤い奴って、たぶんあいつだと思います」


ヤレユータンと共に戦ったあのウルトラビーストは、マッシブーンという種族だったのか。

彼とその名を結び付け、記憶の引き出しにしまいこんだ。


カミツルギ「ジュモクはこの世界の太陽と月が気になってたそうです。ポケモンとの関係はともかく、こっちを気に入ってはくれるかと。

      アクジキングさんは……どんだけ食べても食い足りないんです。どうにかして彼の空腹を満たす事ができればあるいは」

ジュナイパー「空腹を満たす、か」

アシレーヌ「腹ペコって……なんかかわいい」

カミツルギ「まさか! 何でも、それこそあなたたちも食べちゃう程のくいしんぼですよ!」

アシレーヌ「え、お、オイラたちも……?」

ジュナイパー「ブラックホールな空腹を埋める、かぁ」

アシレーヌ「まあ、方法は後で考えようよ。まずは捜す事。マッシブーンをノーカンとして、デンジュモク、アクジキング……」

ジュナイパー「僕も捜す。今は捜す事しかできないよね。

       でも、それと同時にアクジキングの空腹を満たす方法も探らないといけない、か」
 ▼ 106 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:30:30 ID:.cWFKAr2 [31/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カミツルギ「そういう事になりますね。

      でも、ウツロイド、フェローチェ、コスモッグ、それから後でやって来るであろうマッシブーンを納得させる術も欲しい」

ジュナイパー「前半3匹は大丈夫そうだけどね、イワンコたちの話を聞く限り」

カミツルギ「……考えても仕方ないですし。ジュナイパー、戻ってこの事をそのイワンコに伝えてください」

ジュナイパー「了解です。最後にひとつ、いいですか?」

カミツルギ「なんでしょう」

ジュナイパー「だいたい察しは付きますが、なんで隠してたんですか?」

カミツルギ「……素を見たかったから。着飾ったものなんて、意味がない。僕はもう降参ですけどね」

ジュナイパー「やっぱり。ありがとうございます」
 ▼ 107 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:31:36 ID:.cWFKAr2 [32/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
話を切り上げ、それからアシレーヌが料理を作り始めた。

カミツルギとテッカグヤは外に出て何やら話し込んでいる。

僕はニャヒートと会話を始めた。


ジュナイパー「ニャヒート、エクリプスのメンバーの技術、向上してる?」

ニャヒート「当たり前。アシレーヌがあんた消えてからすっごい頑張ってて、みんな、それに引っ張られるみたいに。

      明確な技術指導こそいないけど、ルテーも吸収して急成長した」

ジュナイパー「それで、今や押しも押されぬ人気サーカス団、か。向こうの知り合いのお孫さんが、エクリプスの公演誉めてたよ」

ニャヒート「そりゃどうも。ねえ、ジュナイパー」

ジュナイパー「どうしたの?」

ニャヒート「あたし、どうしてこうなっちゃったのかな」

ジュナイパー「え?」
 ▼ 108 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:32:08 ID:.cWFKAr2 [33/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「……もう、嫌になる。あたしにはサーカスしかない。

      あたしの覚悟が、あたしを孤独にする。アシレーヌとも、繋がれない。

      全部終わらせて、それからでも遅くはない。そう思ってた。

      だけど……あたしも、もうそろそろ、いい歳。まだ若いとはいえ、あそこまでのパフォーマンスを維持する体力は、少しずつ、衰えてる。

      でも、しがみつくしかない。……でも、それすらも、こんな事件のために奪われて」

ジュナイパー「こんなって……世界の一大事だってのに……」

ニャヒート「……それでも、あたしはわからない。あたしは、飛べればそれでいい。最後の、これで終わりと決めた、その瞬間まで、ただ飛べれば。

      こんな、世界の明暗を賭けたブランコなんて、違うよ」

ジュナイパー「……それでも、君にはそれだけの実力がある。実力は、責任を伴うもんだ」


ニャヒートは、微妙な顔で下を向く。

涙を流すだとか、声を荒げるというような激情は、現れない。

ただ、淡々と、自分の現状を嘆くのみ。
 ▼ 109 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:33:19 ID:.cWFKAr2 [34/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「ずっと、憧れて。いつか追い越して、追い掛けられて。

      あたしは、サーカスと共に生きて来た。

      それが、こんな風に中断されるってのが、どうにも辛いだけ。

      練習は続けてる。続けてるけど、あたしは、嫌」


きっと、不安定な心が、彼女の口を望む望まない関係なしに動かしている。

支離滅裂な、しかし心に迫る物言いで、彼女は力無げに微笑んだ。


ニャヒート「わかってる。ワガママだって事ぐらい。

      何があったって観客に見せるパフォーマンスは変えないし」

ジュナイパー「まあ、好きなだけ悩めばいいよ。何が正解なのか。真実なんて、視点が変われば全然違う」

ニャヒート「……ありがと」
 ▼ 110 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:34:11 ID:.cWFKAr2 [35/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「ごはんできたよ! ジュナイパー、これちょっと向こう2匹に持ってって」

ジュナイパー「了解」


会話を切り上げて数分、そう言われたため僕は外へ出た。

2匹は空高く、9メートルの位置で会話している。そのせいで、声は聞き取れない。


ジュナイパー「おおい! ごはんできましたよ!」


声を張り上げる。これは確かにしんどい。


カミツルギ「あ、はーい!」


カミツルギが凄いスピードで降りて来て、僕にお礼を言った。


カミツルギ「戻っていいですよ。こっからは僕がカグヤちゃんに届けるので」

ジュナイパー「は、はあ……」


どうやって。そんな疑問が胸を襲う。

持ち運ぶにしても、カミツルギが触れたらお皿が切れそうなのだが。
 ▼ 111 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:35:05 ID:.cWFKAr2 [36/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
頭を悩ませたまま部屋に戻ると、懐かしのアシレーヌの料理が並ぶ。


アシレーヌ「久々にジュナイパーがオイラの料理食べてくれるからさ、ちょっと気合い入れちゃった。

      ブラッキーには敵わないと思うけど」

ニャヒート「まあ、あれは比較しちゃ駄目。お金取れるもんあの料理」

ジュナイパー「そっか、ありがとう!」


献立は僕が考えていた。

今は自分で考えているのか、それともニャヒートたちとあらかじめ決めてあったのか。

いずれにせよ、成長したものだなと思う。

僕を振り切って、それだけゼンリョクを尽くしてくれたという事か。

そう考えるのは、虫が良過ぎかもしれないな。


ジュナ・ニャヒ・アシ「いただきまあす」


3匹の声が重なった。
 ▼ 112 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:36:36 ID:.cWFKAr2 [37/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オレンとパイルのクリームシチュー。

モーモーミルクの甘さを、パイルの酸味が引き締め、そこに様々な味の混ざり合うオレンがインパクトを与える。

口の中で広がる風味に、僕は舌鼓を打った。


ジュナイパー「おいしい! 腕をあげたね、アシレーヌ」

アシレーヌ「そうかな? えへへ……」

ニャヒート「まあ、普段以上ではあるけどね今日の」

アシレーヌ「なんだとぉ?!」

ジュナイパー「ぷっ」


思わず吹き出してしまう。口に何も入っていなくてよかった。
 ▼ 113 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:37:21 ID:.cWFKAr2 [38/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
懐かしい、この感じ。

アシレーヌがいろいろと話し、僕は笑い、ニャヒートが冷静に切り返す。

楽しかった。心の底から、楽しかった。

アママイコといる時とはまた違う。彼女には彼女の、アシレーヌにはアシレーヌの、ニャヒートにはニャヒートの個性がある。

その全て、僕には居心地がいい。

けれど、その種類は別物なのだ。


ジュナ・ニャヒ・アシ「ごちそうさまでした」
 ▼ 114 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:38:07 ID:.cWFKAr2 [39/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「それで……なんだけど」


皿洗いを手伝っていると、横からアシレーヌが声を掛けて来た。

僕は手を止めて、そちらを振り向く。


ジュナイパー「何?」

アシレーヌ「……いつ帰るの? まだまだ一緒にいたいけど、そうもいかないし……」

ジュナイパー「うん。明日、あさごはん食べたら、戻ろうと思ってる。

       日食は、新月の時に起こる現象だ。そして、もう上弦よりも膨らんだ。僕が家に着く頃には、満月も終わってる」

アシレーヌ「後だいたい……」

ジュナイパー「17日ぐらいかな。戻るのに、5日」

アシレーヌ「そう……だよね。仕方ないよ。頑張ってねジュナイパー」

ジュナイパー「もちろんだよ! ……再開は、きっと、エクリプスのその時、公演で。あれ、場所どこだ?」

アシレーヌ「ミリスだよ。そんな事も聞き忘れちゃうなんて、探偵失格じゃない?」

ジュナイパー「むぅ……」

アシレーヌ「よしっ、皿洗い終わり!」
 ▼ 115 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:38:44 ID:.cWFKAr2 [40/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
不意に、あくびが零れた。

それを見て、アシレーヌがこう呟く。


アシレーヌ「もう、寝ちゃおっか」

ジュナイパー「アシレーヌ」

アシレーヌ「何?」

ジュナイパー「……君こそ、頑張ってね」


アシレーヌは、にっと笑い、言った。


アシレーヌ「もっちろん!」
 ▼ 116 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:39:43 ID:.cWFKAr2 [41/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「藁布団は敷いといた。お休み」

アシレーヌ「お休みー」

ジュナイパー「あ、ありがとう。お休み」

ニャヒート「水が苦手なあたしの代わりに皿洗ってくれてるのに、お礼言われる筋合いもない」


そう言ってニャヒートは歩き去る。

さすがに別の部屋を使用していたらしい。

2匹は、どちらもタマゴグループ陸上を持つ。

なんの間違いがあるか、わかったもんじゃないからだろう。

互いに好意を抱いているのは、予測が付いている。恐らく、両方それを知っている。

けれどまだ、一線は超えていないのだろうと、容易に想像がついた。

子ども産んだら体格変わって飛べなくなるうんぬん。

らしいや、と微笑みが漏れた。


アシレーヌ「お休み」

ジュナイパー「お休み」
 ▼ 117 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:40:43 ID:.cWFKAr2 [42/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝、目を覚ますと、アシレーヌはいなかった。

だいたい何をしているのか察しは付いたから、僕はまた、眠りに落ちる。

見てはいけない。少なくとも、僕だけはまだ。

だから、力を蓄えよう。今日からまた、長旅だ。

しばらく微睡(まどろ)んでいると、アシレーヌが呼ぶ声が聞こえた。


アシレーヌ「できたよー」

ジュナイパー「ふああ、おはよ」

アシレーヌ「おはよ!」
 ▼ 118 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:41:36 ID:.cWFKAr2 [43/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナ・ニャヒ・アシ「いただきまあす」


少し頬張ってから、話を振ってみる。


ジュナイパー「朝も、練習してるんだよね」

アシレーヌ「え? まあね」

ニャヒート「テッカグヤに体借りてる。あの分離できる手が、バランス感覚を磨くのにちょうどいい上に、ブランコを吊ればそれっぽい事もできる」

ジュナイパー「へえ、それは凄いね……」


あの巨体の腕にブランコを吊るしそこを舞うニャヒートの姿を想像し、苦笑いが零れる。
 ▼ 119 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:42:11 ID:.cWFKAr2 [44/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「オイラもオイラで、バルーンを壊そうとしてるんだけど、なかなか上手く行かなくて。

      残ったバルーンを壊してもらってるんだ」

ジュナイパー「へえ」

アシレーヌ「この話はここまでだよ! ほら食べて食べて!」

ジュナイパー「ハハハ……」


本番。その日を、僕は絶対に無事に終わらせなければならない。

ウルトラビーストについて語るだけの依頼だったはずが、とんでもない展開になって来た。

――やるぞ。エクリプスの公演を見るまでは、この世界を終わらせない。


ジュナ・ニャヒ・アシ「ごちそうさま」
 ▼ 120 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:43:05 ID:.cWFKAr2 [45/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ごはんを食べ終わり、僕は部屋の玄関で、別れを告げていた。


アシレーヌ「……行ってらっしゃい」

ジュナイパー「行ってきます。アシレーヌ、バルーンを壊すの、頑張ってね」

アシレーヌ「うん!」

ニャヒート「あたしからは何も言わない。あんたは、プロなんでしょ?」

ジュナイパー「うん。君ほどの覚悟はないかもしれないけど、ゼンリョクを尽くすよ」

ニャヒート「……ま、それでいいんじゃない?」

ジュナイパー「2匹も、ウルトラビーストを捜すんでしょ? 頑張れ。頑張って、自分のサーカスを取り戻せ」

ニャヒート「当たり前じゃない。ほら、こうしてる時間ももったいないよ」

ジュナイパー「だね。……またね!」

アシレーヌ「またね!」


僕は、家を出た。
 ▼ 121 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:44:31 ID:.cWFKAr2 [46/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
最後に、カミツルギとテッカグヤに声を掛ける。

2匹は屋外で、身を寄せ合ってじっとしていた。

9メートルに向かって、僕は叫ぶ。


ジュナイパー「おーい! お2匹さん!」

テッカグヤ「……ん? どないしたんや?」

カミツルギ「ふああ、もう朝か」

ジュナイパー「僕は、もう行きますから! 2匹とも頑張ってください!」

テッカグヤ「任せとき! うち、頑張るからなー!」

カミツルギ「そちらこそ、頑張ってください!」


僕は、ふうと息を吐き出す。

これを、聞いてもいいのだろうか。

アシレーヌに対する裏切りのようにも感じられるし、そもそも逃げ出した僕にこんな事を聞く資格があるのかすらわからない。

けれど、それでも聞かずにはいられなかった。
 ▼ 122 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:45:13 ID:.cWFKAr2 [47/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







ジュナイパー「ねえ! アシレーヌたちは、成長してる?! あの2匹のパフォーマンスに対しての、感想を聞かせて!」






 ▼ 123 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:45:55 ID:.cWFKAr2 [48/48] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カミツルギ「感想?」

テッカグヤ「どないしたん急に?」

ジュナイパー「お願い!」

カミツルギ「……凄く綺麗だよ!」

テッカグヤ「めっちゃ楽しそうやで!」

ジュナイパー「ありがとう! ……行ってきます!」

テッカグヤ「頑張りーや!」

カミツルギ「行ってらっしゃい!」


僕は唇を固く結び、それから街の出口へ向かって駆け出した。
 ▼ 124 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 22:12:06 ID:RGqgKqVs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
盗賊団編 7章・8章
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=563163&l=278-347
278から347です
 ▼ 125 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 20:54:19 ID:0/HvBLZc [1/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







4章 アママイコの笑顔






 ▼ 126 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 20:54:59 ID:0/HvBLZc [2/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
脱獄ポケが出たらしい。

最近巷を騒がしていた盗賊のポケモンが3匹。

イワンコ、ミミッキュ、コスモッグ。


ジュナイパー「イワンコにミミッキュ……」


噂が街の中を暴れていた。

僕は話好きの奥さんに捕まり、それを聞く。

もとより、イワンコは少し怪しかった。けれど、まさか盗賊だったとは。

脱獄した、という事は今はシャバにいる。そして記憶喪失の彼が頼れる所なんて、一か所しかない。

が、とりあえずは家に帰る事にした。
 ▼ 127 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 20:55:51 ID:0/HvBLZc [3/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「ただいま」

アママイコ「お帰りジュナイパー! どうだった?」

ジュナイパー「元気そうだった。……まず、アママイコは何か掴んだ?」

アママイコ「残念ながら。まあ、仕方ないよ。あたしじゃ、力不足。ジュナイパー、あなたは何か掴んだ?」

ジュナイパー「もちろん」


僕はラサーシャで掴んだ情報をすべて話した。

アママイコは頷きながら聞いて、終わったタイミングでこう口を挟んで来た。


アママイコ「おもてなし、かぁ。なんだか、拍子抜けだね。でもま、平和が一番か」

ジュナイパー「平和に終わらせるために、僕はまだ、いろいろしないといけない。

       キチンと日食のその日までに、全員に満足していて欲しいから」

アママイコ「わかってる。でもとりあえず、ごはんぐらい食べて行きなさい。今日あたりだろうと思って、作ってあるから」
 ▼ 128 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 20:56:26 ID:0/HvBLZc [4/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、思わず彼女を強く抱きしめた。

僕のワガママに、こんなに付き合ってくれる彼女の事が、愛おしくてたまらない。


ジュナイパー「ありがとう」

アママイコ「どういたしまして」


彼女は、僕の頬に口付けた。
 ▼ 129 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 20:57:04 ID:0/HvBLZc [5/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
料理を平らげて、僕はジジーロンの家へ向かった。


ジュナイパー「こんにちはー」

ジジーロン「ん? おお、ジュナイパーか! あれから、どうじゃったかの?」

ジュナイパー「ああ、いろいろありましたよ」

ジジーロン「ワシも、探検隊リアライズから伝言を言付かっておってな」

ジュナイパー「そうなんですか! なんですか」

ジジーロン「それはの……はて、なんじゃったかの」

ジュナイパー「え、ちょっと」

ジジーロン「ここまで出ておるのじゃ。しばし待たれい……」


しばし待った。

ジジーロンが思い出したと声をあげた所で、外から声が聞こえた。


「すいませーん、ジジーロンいますか?」
 ▼ 130 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 20:57:54 ID:0/HvBLZc [6/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコだ。ジジーロンが立ち上がり、扉を開く。


ジジーロン「おお! イワンコに、ミミッキュ! 伝言を預かっておるぞ。そして、ジュナイパーもちょうど帰って来た所じゃ」

イワンコ「ホントですか?!」

ジジーロン「とりあえず、速く入った方がええ。指名手配犯じゃからな」

イワンコ「はい」
 ▼ 131 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 20:59:05 ID:0/HvBLZc [7/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコと、それからミミッキュが入って来た。

僕は少し挨拶をかわし、それから皮肉を効かせて言った。


ジュナイパー「隠し事してるなとは思ったんだけど、盗賊だとはね。さすがに気付けなかったよ」

イワンコ「やっぱり、バレてましたよね、隠し事してる事は」

ジュナイパー「探偵を舐めないで欲しいな。で、まずは君たちから情報を聞かせてもらおう」

イワンコ「はい」


盗賊である事を知られて開き直ったのか、彼は前より一層、開けっ広げに語った。

仲間だったコスモッグが行方不明になり、捜索している時にフェローチェとかち合ったという事。

停電をウルトラビーストと関連付け、デンジュモクと戦った事。

コスモッグが実は、ウルトラビーストの一味だった事。

再会して、それから逮捕され、コスモッグの力でウルトラスペースに投げ出された事。

そこでマッシブーンと出会った事。

ウツロイドに関しては隠し事もないらしかった。

他に、カミツルギ、テッカグヤ、アクジキングが存在している事。
 ▼ 132 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:00:10 ID:0/HvBLZc [8/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「……なるほど。それだけ?」

イワンコ「え、ああ、まあ」


本当にこれだけらしい。

情報戦では彼らは負けている。けれど、その過程をすっ飛ばして、彼らは正解に――ウルトラビーストと交流を結ぶべきという事実に辿り着いていたようだ。


ジュナイパー「ジジーロンさん、リアライズの2匹から何か伝言預かってますよね?」

ジジーロン「おお、そうじゃそうじゃ。タイミングを見計らっておった所じゃ。

      ウルトラビーストを歓待する事によって、世界の平和は保たれる、じゃったかの。

      アクジキングとやらの空腹を満たすため、黄金のリンゴをもらってくるとも言っておった」

ジュナイパー「…………」


端的に、セリフが奪われた。

最も重大な箇所を、奪われた。

「あっ」と、イワンコが納得したように声をあげた。
 ▼ 133 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:01:16 ID:0/HvBLZc [9/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「……参ったな。僕の出番、完璧に奪われた。

       僕が掴んで来た情報も、だいたいその中に含まれる。旅に掛けた時間が長いからなあ、安楽椅子探偵には負ける。

       ただし、最高の協力を手に入れた」


僕は、テッカグヤとカミツルギ、それからエクリプスの協力を取り付けた事を伝える。

ミミッキュが感嘆の声を漏らしたので、僕は慌てて否定した。


ジュナイパー「僕の手柄ではないけどね。アクジキングの空腹を満たすための黄金のリンゴ、か」

イワンコ「……僕たちも僕たちで、アクジキングを捜さないとですね」


そう、問題は、これからどうするか。

どうするのが最善手か。全ての情報は出揃っているのか。

視界をフードで遮る。

現状、ウルトラビーストの狙いは把握した。

ウルトラビーストの居場所を捜す事も重要だが、それは情報を超えた別物だ。

ウツロイド……イワンコ、そうだ、記憶。
 ▼ 134 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:02:22 ID:0/HvBLZc [10/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「いや、君たちは、記憶を取り戻すのが先決だ。

       記憶の中に、何か大事な物事が隠れているかもしれない。

       ウルトラビーストに対しての、過剰な怯え。君のポケ生の中で、何があったのか」

イワンコ「記憶の中に……」

ジュナイパー「アクジキングは、僕が捜す。君たちは、ウツロイドを捜してくれ」

イワンコ「……コスモウムに関しても、心配です」

ジュナイパー「……ああ、さっきの話の中に出て来た、コスモッグの進化形か。

       ……心配って、何が?」


なんでも、逮捕された際、こんないいポケモンたちを捕まえるなんて間違っていると恨み言のように言っていたらしい。

そのせいでポケモンに絶望していなければいいのだが、というものだった。

少しの間考えを巡らせ、それから結論を伝える。


ジュナイパー「仕方ない、僕がそっちに行くよ。きっと、アシレーヌたちが見付けてくれる。君たちはやっぱり、ウツロイドだ」
 ▼ 135 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:02:57 ID:0/HvBLZc [11/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「わかりました。他に何かありますか」

ジュナイパー「いや、これぐらいだ。君たちの拠点は……ここより、うちに来ないか? 妻のアママイコも伝達してくれるけど」

ジジーロン「いや、構わんよ。ワシも、何かしたいからの。ここまで知っておいて、何もできないのは辛いのじゃ」

ジュナイパー「そうですか。わかりました、ありがとうございます。

       よし、じゃあ行きましょう!」

みんな「おー!」
 ▼ 136 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:03:47 ID:0/HvBLZc [12/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕はジジーロンの家を出て、留置所へ向かう。

探偵業務で顔なじみになったジバコイルを見かけたが、無視。コスモウムと不用意に接触させたくない。


ジュナイパー「あ……」


ある赤い影を見付け、僕は一気に過去に引き戻される。

そう、あの時、襲い掛かって来た……


ジュナイパー「マッシブーン……」

マッシブーン「ん? 我が名を知っておるのか?」

ジュナイパー「前回のエクリプス事件で、あなたに襲われたモクローです」

マッシブーン「おお、あの時の! 昨日の敵は今日の友、仲良くしようではないか!」
 ▼ 137 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:04:23 ID:0/HvBLZc [13/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マッシブーンもマッシブーンで、やっぱりいい奴だった。

話した感じで、一発でわかる。

僕は腰を据え、彼に全ての事情を説明した。


マッシブーン「ほう、正解に辿り着いておったのか。その上で我とコスモウムの所に来たという事は……」

ジュナイパー「はい。コスモウムの状況を確認しに来ました」

マッシブーン「なかなかに反則気味に感じるが、まあいいだろう。気持ちよく共存できるに越した事はないからな!」


謎のポージングを決め、彼は笑うかのように言った。


マッシブーン「硬い殻の奥、主は言葉を届けられるか?」

ジュナイパー「……やってみます」
 ▼ 138 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:05:46 ID:0/HvBLZc [14/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マッシブーンの言葉からして、コスモウムは今、聞く耳を持たないようだ。

留置所の前でじっとしているのはなぜだろう。


ジュナイパー「初めまして。イワンコに協力している探偵の、ジュナイパーです」


コスモウムは、何も語らない。

僕は、言葉を紡ぎ始める。


ジュナイパー「君も、盗賊団フラワーズのメンバーなんだよね」


コスモウムが、その体をゆっくり縦に揺らした。


ジュナイパー「君は、残りの仲間を助けたい、違う?」


動きがない。それすらもしないというのか。


ジュナイパー「どうして動かないの? 見てるだけじゃ、何も変わらないよ」

コスモウム「…………」
 ▼ 139 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:06:49 ID:0/HvBLZc [15/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
話す、動く。その全てを拒み、ただじっと、留置所の傍に浮かぶ。

見付かると危険なのだが、恐らく進化によって姿を変じた事から、バレないと踏んでいるのだろう。

体も小さい。隠れるにはうってつけだ。

ウルトラビーストの容姿を知っているのはほんの一握り。マッシブーンもだから、心配はない。

ただ、ずっとその場にいると怪しまれるのではなかろうか。


ジュナイパー「動かないのは、何かの目的があるの」


沈黙。僕は思考を巡らせる。

エネルギーの消費を極端に抑えた状態で、彼が狙っているのは、恐らく、力を蓄える事。

聞いた話によると、彼が進化する事により、ソルガレオかルナアーラが現れるという。

その進化の条件はよくわかっていないが、進化というのは、基本的に力が必要だ。

内に溜まった力と、外から与えられる力の化学反応で、僕たちポケモンはその姿を変ずる。
 ▼ 140 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:07:51 ID:0/HvBLZc [16/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そして、進化して後、彼は留置所から仲間を助け出そうとしているのだ。

そういう事か。


ジュナイパー「助けたいんだ。君は今、力を蓄えてる。進化のための、力を」


コスモウムは、何も答えない。

何一つ、反応しない。

僕は話題を変えてみる事にした。
 ▼ 141 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:08:56 ID:0/HvBLZc [17/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「盗賊、か。善と悪って、考えた事ある?」


僕は、こうして探偵をやっている訳だけれど、それまでは、サーカス団エクリプスにいたんだ。

ウルトラビーストを、自分たちの世界に封じ込めるための、トリガー。それが、そのサーカス団。

だから僕は、ウルトラビーストを封じ込めるため、奔走した事もある。その時に、マッシブーンとも戦った。まあ、手も足もでなかったけど……。

だけど、今、こうして君たちといる中で、思ったんだ。

何が正義で、何が悪なんだろうって。

少し、僕の、僕の友達の昔話をしてもいいかな。
 ▼ 142 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:10:20 ID:0/HvBLZc [18/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サーカス団ルテーの物語。

ニャヒートと、彼女の憧れのポケモンとの決別の物語。

ルテーは、ニャビーに対して、やり過ぎた。けれど、それが悪だったのか。

あの結末が正しいなんて、そんなはずはない。事実、アママイコも時折寂しそうにしていた。

ルテーがもう、存在していないという事実は、アママイコの胸を蝕んでいた。最近はもう乗り越えているけれど。

けれど、どこで間違ったのか。アマージョたちも、僕たちも、誰も間違っていなかった。

全員が全員、自分の中にある正義を信じて、行動した。けれど、何かが壊れた。大切な何かが、なくなってしまった。


ジュナイパー「僕は、フラワーズに関してそれ程知ってる訳じゃない。

       けど、やってる事が犯罪だったとしても、君は仲間が好きなんだよね」


コスモウムは、微かに頷いた。

僕は微笑みながら言う。


ジュナイパー「後悔しないように、よく考えて。

       善か、悪か。誰もが、自分の中に答えを持ってる。それを、キチンと取り出してあげる事が重要なんだ」
 ▼ 143 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:11:10 ID:0/HvBLZc [19/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
コスモウムは、無感動な目をこちらに向けた。

それから、その体勢で、動きを止める。

これが限界だ。さすがに、ポケモン世界に絶望しないで、とかそういう直截的な事は言わない。

きっと、コスモウムなら、既にこの世界のポケモンたちと絆を交わした彼ならば、受け取ってくれるはずだ。

僕の想いを。この世界に確かにある「正義」を。

結局の所、彼は何を想うのか。見当も付かない。

彼の中に浮かぶのは、和解か、破壊か。

少しでも危険因子を潰しておきたいのだが、これ以上踏み込むべきなのか。

コスモウムを、僕は知らないのだ。勝手な事は言えない。


ジュナイパー「イワンコたち、記憶、取り戻せたかな……」
 ▼ 144 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:11:48 ID:0/HvBLZc [20/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
コスモウム「……大丈夫」


え?


ジュナイパー「コスモウム……?」


彼は、もう話す事はなかった。どういう事なのか、問いかけても反応はない。

諦めて、僕は立ち上がった。
 ▼ 145 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:12:38 ID:0/HvBLZc [21/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「マッシブーン、あなたはこの世界を見て、どう思う?」


そう声を掛ける。彼もまた、ウルトラビーストなのだ。

そこを確かめる事には確実に意義がある。


マッシブーン「我か? ……我が筋肉を、どう思う?」

ジュナイパー「筋肉? 凄いと思いますけど。あの時ヤングースを一撃でのして、ヤレユータンがいなかったら僕たちも無事じゃ済まなかった」

マッシブーン「そうか! 我が筋肉のよさをわかってくれる者がいたか!

       向こうの世界では、皆我の事を『筋肉バカ』などと散々に言ってきおったが、これで我も誇れる!

       ありがとう少年よ! 我に許しを与えてくれて!」


訳がわからない。ただまあ、機嫌を損ねる事はなかった所か、今の僕の発言が、彼を親ポケモンに傾かせるには充分だったんだなぁと感じ、呆れて息を吐いた。

絶対に言えない。こいつは、完全に、筋肉バカだ。
 ▼ 146 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:14:09 ID:0/HvBLZc [22/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それからなぜか、長々と筋肉についての講釈を聞かされる事になる。

この聞くという行為に世界がかかっているのかもしれない。つまらない話でも、真剣に聞かないと。


マッシブーン「見よ、この上腕二頭筋!」

ジュナイパー「は、はぁ……」


そこから先は、もう思い出したくもないです……。
 ▼ 147 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:14:54 ID:0/HvBLZc [23/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マッシブーン「ぬ? ウツロイドの呼ぶ声が」


筋肉講釈が終わりを告げ、僕はほっと息を吐く。


ジュナイパー「たぶん、イワンコたちも一緒です。行きましょう」


ああ、ありがとう神様仏様イワンコ様。
 ▼ 148 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:15:29 ID:0/HvBLZc [24/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコとミミッキュ、それからウルトラビーストと思われるガラス質の生物がいた。

ウツロイドの特徴と一致している。彼女がそうだとみなして構わないだろう。

それにしても、留置所のすぐ近く、指名手配中のポケモン、イワンコとミミッキュか。


ジュナイパー「よくここまで無事に来られたね」

イワンコ「まあ、なんとか」

ジュナイパー「記憶、取り戻せた?」

イワンコ「はい。だけどたぶん、この事件そのものには関係ないかと。

     どちらかと言うと、この事件によって引き起こされた二次災害みたいなもんだったんです」

ミミッキュ「要約するとそうなりますね。手掛かりはないと見ていい」

ジュナイパー「そうか」

イワンコ「そっちの進捗は?」
 ▼ 149 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:17:46 ID:0/HvBLZc [25/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
進捗。コスモウムに対して、僕は何も言えなかった。厳密には届いたかもしれない。けれど、僕はこう言った。


ジュナイパー「さっぱりだ。コスモウムは、言葉を受け入れる気配もない」

マッシブーン「硬い殻に閉じ籠ってしまっているからな。我らの言葉さえ、今は届かないだろう」

イワンコ「……そうですか」

ジュナイパー「君たちが思い出した以上、彼の説得には君らが適任だろう」


僕は、それから少し考えを巡らせ、こう言った。


ジュナイパー「となると、僕は、アクジキングや他のウルトラビースト……デンジュモクとフェローチェも念のために捜しておきたい」

ウツロイド「ジュモクっちはきっと、電気探してるよー」

ジュナイパー「電気……フェローチェは?」

ウツロイド「さー。でも、期限の時には、というよりフェロちゃんせっかちだから、もうそろそろミリスに着いて、どう身を隠すか悩んでるとこじゃない?」


今、初めて明かされた情報がある。僕は、それを口に出して確認する事にした。


ジュナイパー「集合場所は、やっぱりミリスか」

マッシブーン「あの場所が一番繋がりやすいものでな! この近辺もなかなかのものだが」
 ▼ 150 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:18:20 ID:0/HvBLZc [26/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「デンジュモクはたぶん、エレキ平原です。バクガメスが紹介してた」

ジュナイパー「了解。後は本当にアクジキングだけか……。アシレーヌたち、見付けてくれてるかな」

マッシブーン「アクジキング殿は、隠れるのも苦手そうなのだがな」

ジュナイパー「なんでも食べる……となると、目撃証言があがっていてもおかしくはないはずなんだけど」

ミミッキュ「アクジキングって、悪食なの? この世界のおいしい食べ物を探して、物凄い美食家と化してたりしない?」

ウツロイド「どーだっけなー。マッシ君、わかる?」

マッシブーン「そういえば、『ワシの舌を唸らせるメシがあるか、楽しみなもんじゃ!』なんて言っておったぞ!」

ジュナイパー「……なるほど。どうにかして、リアライズの2匹が持って来るであろうリンゴの存在を宣伝しないと」

イワンコ「でも、肝心の2匹がまだ……」

ジュナイパー「一旦戻ろうか。コスモウムは、まだ動く気配がない」


そう。彼は力を蓄えている。

まだ、誰も外から影響を与える事はできない。
 ▼ 151 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:19:05 ID:0/HvBLZc [27/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マッシブーンとウツロイドを残し、ジジーロンの家に向かう。

そこには、リアライズの2匹もいた。


ジジーロン「ついに全員集合かの」

チラーミィ「この街でウルトラビースト関連で動いてるのは、僕たち7匹ぐらいか」

イワンコ「動いてるのは……そうなりますね」

チラーミィ「とりあえず、現状報告だよ」


リアライズは、黄金のリンゴ、満腹リングルという、空腹対策2点セットを揃えていた。

これが、アクジキング対策のアイテム。

光輝くリンゴと、ドーナツにしか見えないリングル。

ハラヘラーズ。最高級の性能を持ったリングルとの噂だ。


チラーミィ「譲ってもらっただけだけどね。もう、先越されてた」


チラーミィはそう言って、自虐的に笑った。
 ▼ 152 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:19:54 ID:0/HvBLZc [28/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラーミィ「つながりオーブってシステムがあって、今、世界にウルトラビーストの目的を発信してる。

      ナエトルとピカチュウ……その調査団の2匹と繋がってる約780匹、伝説も含む。

      全員がそれを知っていれば、少なくとも世間が邪見に扱う事はない」

ニューラ「世間的な根回しは完了したと言っていい。ジュナイパーはサーカス団エクリプスよね」


唐突に水を向けられたが、慌てる事なく答えた。


ジュナイパー「うん。エクリプスは現状、ウルトラビーストの内2匹を味方に引き入れて、他のウルトラビーストに公演を見せようとしてる。

       今正体を現すと、追い返せと言われかねなかったから一時解散中。

       エクリプスの……日食の当日、ミリスの街に集まる事になってる。

       後留置所で、マッシブーンとは仲良くなれたように思う。

       アクジキングの居場所は未だ、見付からない。探すしか……」


この段階で、僕は甘い香りに気が付いた。

イワンコがうっとりしたような表情を浮かべるのは、嗅覚の為せる業だろうか。

そして、どうしてだ。どうして、君はここに来た?
 ▼ 153 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:20:30 ID:0/HvBLZc [29/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
扉が開くと、案の定。


ジュナイパー「アママイコ、どうかした?」


アママイコは、僕に手紙を手渡しながら、息せき切ってこう伝えて来た。


アママイコ「ニャヒートたちから手紙! もう、日食まで何日もないから、再結成してミリスに向かってるって」

ジュナイパー「そうか! よかった。ありがとう、アママイコ」


と、チラーミィが問い掛けて来る。


チラーミィ「誰?」

ジュナイパー「妻のアママイコです」

ミミッキュ「既婚者?!」

ジュナイパー「あれ、意外?」


驚いたように叫ぶと、ミミッキュはうつむいてしまう。どうしたのだろうか。

まあどうでもいいやと割り切り、僕は書かれている内容に目を通していく。
 ▼ 154 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:21:31 ID:0/HvBLZc [30/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミリスの街でアクジキングを見付けた。


ジュナイパー「アクジキングを見付けたあっ?!」


思わず叫び声をあげてしまった。そこから手紙の音読が始まる。


ジュナイパー「もう既にミリスの街にいて、何か食べるものをひたすらに要求し、街のポケモンたちを困らせている……」

イワンコ「……満足できるメシはなかったみたいだ。ジュナイパーさん、行ってください。エクリプスもそこにいるんでしょう?

     あなたが決着を付けるべきです」

ジュナイパー「……そうだな。リアライズの2匹さん、それからミミッキュも、反論ありますか?」

チラーミィ「異議なし!」

ニューラ「いいよ、誰でも」

ミミッキュ「あたしたちはコスモウムと話したいですし」


反論はないようだ。イワンコ、ありがとう。
 ▼ 155 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:22:01 ID:0/HvBLZc [31/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「じゃあ、行って来る! 黄金のリンゴと満腹リングルを」

チラーミィ「はい」

ジュナイパー「ありがとう! ……イワンコ、ミミッキュ。頑張って」

イワ・ミミ「はいっ!」


そう言って、僕は飛び去った。
 ▼ 156 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:23:49 ID:0/HvBLZc [32/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
後ろから声が聞こえる。


アママイコ「待ってよジュナイパー! あたしも連れてって!」


僕は急停止し、振り向いた。

そして言葉を続ける。


ジュナイパー「……エクリプスがいる。そりゃ、必然的に、ルテーのみんなもいる事になる、か」

アママイコ「うん。あたしだって、会いたいもん。みんなに、会いたいもん」

ジュナイパー「でも、アクジキングがいるって……危険だよ、特に君は、甘い匂いを放ってるんだ」

アママイコ「それでも、あたしも行かせてよ! あたし、寂しかったんだよ?!

      ……ジュナイパー。大好きだよ。大好きだから、連れてって」


この旅は、ハッキリと危険だ。

今まで噂を聞かなかった分、アクジキングは今、本当に空腹に襲われているはずだ。

それでなくとも空腹は収まるところを知らないというのに。

そんな中、こんな香しい香りを放つポケモンが現れたら?
 ▼ 157 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:25:33 ID:0/HvBLZc [33/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな僕の不安を目で読み取ったのか、アママイコが少しふてくされた口調でこう呟いた。


アママイコ「……あたし、自分の身ぐらい守れるもん。

      ジュナイパー、大丈夫だから。あなたが想ってくれてる事は知ってる。あたしは、自分を大事にする。

      だからお願い」


アママイコの潤んだ目。それが上目遣いで僕を見詰めて来る。そういえば、あの時もこんなだった。

あたしも連れてって。僕は、強く彼女を抱き寄せる。


ジュナイパー「わかった。約束だよ。君は、自分の安全を第一に考えて」

アママイコ「ジュナイパー……。ありがとっ!」


その白い顔が、ニコリと微笑む。少し来るものがあったが、僕は、彼女を離して言った。


ジュナイパー「きつい旅になるよ。覚悟してよね」

アママイコ「大丈夫よ」


たぶん、ここでキスをしてしまうと、我慢できない。僕は、照れを隠すため、前を振り向き駆け出した。
 ▼ 158 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:26:07 ID:0/HvBLZc [34/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ダンジョンを、アママイコを守るように立ち回りながら攻略。

夜は欲望が解放されてしまうのを嫌って少し離れて眠った。

アママイコは仕方ないと笑って許してくれた。というより、ここでワガママを言うようなポケモンに、惹かれないと思う。

けれど、強く言われるので仕方なく、藁だけ集めて布団を作る事になった。「体壊しちゃ駄目だし」との事。
 ▼ 159 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:26:43 ID:0/HvBLZc [35/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝、リンゴをかじりながら、アママイコがこう聞いて来た。


アママイコ「ジュナイパーって、やっぱり、旅とか慣れてるの?」

ジュナイパー「旅はあんまりかな。でも、ダンジョンには慣れてる。

       ちっちゃい頃、エクリプスに入るまではアシマリとダンジョンに潜ってリンゴ売って稼いでたし」

アママイコ「いや、改めてかっこいいなって。さすがあたしが愛したポケモンだよ」


そう言って、しゃくりとリンゴをかじる。僕は笑った。


ジュナイパー「今日中にはミリスに着くよ。そしたら、アクジキングを捜して、黄金のリンゴを食べさせる」
 ▼ 160 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:27:50 ID:0/HvBLZc [36/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「あー、それとさ。こんなもの見付けたんだ。

      じゃじゃーん! 虹色ポケマメ! ……正直もったいないけど、あげちゃおう、これも」

ジュナイパー「いつの間に?!」

アママイコ「昨日、藁を探してる間」

ジュナイパー「凄い! 満腹感、絶品、それから空腹対策! 三拍子そろったし、もうアクジキングは何も怖くないね」

アママイコ「ほら、あたしいてよかったでしょ?」

ジュナイパー「ホントだよ、ありがとうアママイコ。

       でも、そうとばかりも言ってられない。急がないと」

アママイコ「わかってる。ごちそうさま」
 ▼ 161 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:29:25 ID:0/HvBLZc [37/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこから、もうひとつのダンジョンを潜り抜け、僕たちはミリスの街に到着……


アママイコ「わーお」


テッカグヤの巨体と、真っ黒な体躯を持つ巨体が、遠くから眺めていてもはっきり確認できる。

驚いた顔で見詰めるアママイコに、僕は言った。


ジュナイパー「これが、ウルトラビーストだよ。こんな規格外。だから、危険だって止めたんだ」

アママイコ「凄い……ホエルオー並だね」

ジュナイパー「っと、それもそうか」


そうか。規格外と言っても、ポケモンにだってホエルオーがいる。

全身刃物なら、キリキザンが。

大喰いならカビゴン。俊足なら……デオキシスかな。筋肉バカは、カイリキー?

ウルトラビーストだって、ポケモンと変わらない。だって、こんなにたくさんのポケモンがいるのだ。

違う個性を受け入れて成立している世界。それがここだ。ウルトラビーストだからと言って、特別視する必要は何もないんだ。
 ▼ 162 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:29:55 ID:0/HvBLZc [38/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「なるほどね」

アママイコ「何が?」

ジュナイパー「なんでもない。行くよっ!」
 ▼ 163 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:31:19 ID:0/HvBLZc [39/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
門番は前回の来訪時に顔なじみになっているので顔パス。

僕は彼に、アクジキングの場所まで案内するように頼んだ。


ジュナイパー「僕は、彼の空腹を埋められる」

門番「ホントですか?! こっちです!」


そして誘導された先、真っ黒な体躯の巨大なウルトラビーストがいた。

胴体に大きく開いた口。その他のパーツに、どこか禍々しいものを感じた。

けれど、怯んではいられない。


ジュナイパー「アクジキング!」

アママイコ「あなたの空腹を満たしに来ました! この世界が誇る絶品もありますよ!」

アクジキング「……ワシの空腹を、満たしてくれるのか?」

ジュナイパー「はい」

アクジキング「もし埋まらなかったら、お主らを喰っても構わんのだな?」
 ▼ 164 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:31:59 ID:0/HvBLZc [40/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「ら、は駄目です。僕だけで。まあ、埋まると思います。この世界に伝わる伝説の食材、黄金のリンゴでね」

アママイコ「え……ジュナイパー、それ……」

ジュナイパー「大丈夫だよ。きっと。ウルトラビーストだって、ポケモンと変わらないんだ」


僕は彼女に微笑みかける。

彼女は、目を強く瞑(つむ)った。


アクジキング「黄金のリンゴとやら……食させてもらうとするか」

ジュナイパー「どうぞ」


どこかから腕が伸びて来て、僕が手に持った黄金のリンゴを奪い取る。

そして、それを大きな口に投げ入れた。
 ▼ 165 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:33:11 ID:0/HvBLZc [41/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しばらくの時が経つ。アママイコが、祈るように手を合わせていた。


アクジキング「……なんじゃ、この感覚は。

       もう、しばらく食す必要を感じぬ……。ハッ、まさか、これが……」

ジュナイパー「満腹、です、恐らく」


僕の声を聞き、アママイコが目をそっと開いて言う。


アママイコ「やった……の?」

ジュナイパー「ああ」

アクジキング「これが、満腹か……ふふ。

       初めて感じる感覚じゃ。礼を言うぞ」

ジュナイパー「礼を言うのは早いです。まだ2つ、贈り物があります。

       ほら、アママイコ」

アママイコ「うん。この、虹色ポケマメ! お口に会うかわかりませんが、少なくともポケモンにとってはごちそうです!

      よければまた、しばらく後、お腹空いたら!」

アクジキング「ほう、虹色ポケマメとな。頂かせてもらうとするかの……」
 ▼ 166 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:34:03 ID:0/HvBLZc [42/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼は少しの時間も空けずにそのポケマメを食す。

ややあって、彼は食レポを始めた。


アクジキング「噛めば噛む程に、甘さが広がり、それを丸める酸味が効き過ぎない程度に訪れ、そしてほのかに辛い……。

       しかし、苦味や渋みも内包し、しかし最後には甘さが口の中に広がる……。

       なんじゃこれは?! なんじゃこの絶品は?!」

アママイコ「虹色ポケマメ、です」


アママイコが微笑んだ。
 ▼ 167 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:34:40 ID:0/HvBLZc [43/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「最後にこれ。その満腹感を、維持するためのアイテム、満腹リングルです。

       食べないでくださいね。着用品です」

アクジキング「ほう? 試してみるとするかの」

ジュナイパー「すぐに効果がでる訳ではないと思いますが」


彼は、それを指先にハメた。

これで、アクジキングの空腹対策は万全だ。


アクジキング「ああ、満腹感に、これ程の絶品、ワシはこの上なく幸せじゃ……。

       お主ら、感謝するぞ」

アママイコ「ジュナイパー! これって!」

ジュナイパー「たぶんね」


彼を、満足させられた。それがわかれば充分だった。
 ▼ 168 メラ@ブリーのみ 17/04/08 21:35:32 ID:lHxflJDg NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 169 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:35:47 ID:0/HvBLZc [44/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アクジキング「して……主らの名は?」

アママイコ「アママイコです」

ジュナイパー「ジュナイパー。探偵です」

アクジキング「ほう、主らがか……。となると、お主ら、サーカス団を捜しておるな?」

ジュナイパー「え? まあ、すぐ見付かるとは思いますが」

アクジキング「どれ、そんな面倒な事をせずともよい! ワシを満足させてくれたお礼じゃ! 乗れい!」


そう言って、彼は僕たちをつまみ上げた。


アママイコ「きゃっ!」

ジュナイパー「アママイコっ!」

アクジキング「安心せい、食ったりせんわい。どれ……おったおった。あそこに下ろすぞ!」


その言葉に嘘はないようだった。安心して、僕はアママイコの横に腰を下ろす。

空高く、風を切って進んで行く。
 ▼ 170 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:36:43 ID:0/HvBLZc [45/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
鳥属性のある、というよりあった僕ならともかく、アママイコはほぼ初めてだ。

……あの時は、切羽詰まって風景を楽しむ余裕なんてなかったし。


アママイコ「ふわあ、凄い……高いなぁ」

ジュナイパー「あ、あれが……」


その先に、サーカス団のテントがあり、僕はあっという間に過去に引き戻されて行く。

――帰って来た。この場所へ。


ジュナイパー「おーい! アシレーヌ! ニャヒートぉ!」

アママイコ「お母さーん! いるー?!」


テントに向けて叫んだ。
 ▼ 171 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:37:22 ID:0/HvBLZc [46/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕はアクジキングに向けて、振り向き言った。


ジュナイパー「ありがとうございます」

アクジキング「構わんわい。ワシがしてもらった事に対するお礼なのでな。して、主、甘い香りがするの」

アママイコ「え?! だ、駄目ですよ?!」

アクジキング「わかっておる。ほれ、着いたぞ」


僕たちは地面に降り立ち、そしてアクジキングに一礼すると、テントに向けて駆け出した。
 ▼ 172 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:38:09 ID:0/HvBLZc [47/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「お帰り、モクローとアママイコ」

ジュナイパー「久しぶり」


一番に気付いたのが、エーフィだったようだ。色違いの、緑の体躯を持つ彼女は自慢のエスパーでもってそれを予知したらしい。

双子の弟(彼もまた色違いだ)と共に僕らを出迎えてくれる。


ブラッキー「2匹とも、幸せそうだね」

ジュナイパー「まあね。アシレーヌたちから、話は聞いてると思う」

エーフィ「うん。みんなに伝えてるから、中でみんな、ドタバタしてると思う。さ、行こ!」

アママイコ「ねえ、お母さんは、いる?」

ブラッキー「いるよ。みんな……何匹か引退しちゃったけど、でもほとんどみんな」

アママイコ「ちょっと待ってね……」


そう言って、彼女は頬を軽く叩く。甘い香りが広がった。


アママイコ「もう大丈夫。行こう」
 ▼ 173 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:39:23 ID:0/HvBLZc [48/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕らは、エクリプスのテントに足を踏み入れた。

しんと静まり返っている。サプライズという訳でもなく、ただ、どう接すればいいのかわからないようだった。

そんな中、ある強烈なオーラが近付いて来て、苦笑する。

アマージョだ。こんな独特の威厳を放つポケモンが、2匹といてたまるか。


ジュナイパー「アママイコ、行って来なよ。親子水入らずで話したいでしょう?」

アママイコ「うん。お母さん」


アママイコは、自らの母、アマージョと向き合う。

彼女はアマージョの頬を、叩いた。パンと音が鳴る。どれほどの強さなのかはわからなかった。


アマージョ「アママイコ……どうして何も言ってくれなかったの?!」

アママイコ「ごめんなさい……」


アマージョは、彼女を強く抱き寄せた。


アマージョ「お帰りなさい、アママイコ」

アママイコ「ただいま、お母さん」
 ▼ 174 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:40:39 ID:0/HvBLZc [49/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕はアシレーヌたちを捜す。

視線を巡らせるが、そこにはいない。


ジュナイパー「お義母さん」

アマージョ「お義母さんだなんて呼ばないでちょうだい。それで、要件は?」

ジュナイパー「アシレーヌとニャヒート、それから全然姿を現さない団長どこですか?」

アマージョ「奥よ。あなたと久しぶりに話すってので緊張して、1歩も歩けないらしいわ。2匹がそれをなんとかして連れて来ようとしてる」


苦笑する。らしいや。


ジュナイパー「行って来ます。みんなとも、積もる話はいろいろあるけど、まずはあの3匹と話したい」

エーフィ「うん。行ってらっしゃい」

ジュナイパー「あー、いや、できればエーフィたちには来て欲しい。ミリスとウルトラビーストを巡るこの事件、君たち抜きでは語れない気がするから」

ブラッキー「……だって」
 ▼ 175 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:41:23 ID:0/HvBLZc [50/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「ほら、みんな。確かに今はそれどころじゃなかったとしても、ジュナイパーは仲間なんだよ!

     そんな緊張する事もないんじゃない?」


エーフィが周りにそう声を掛ける。

みんながちらほらと会話を始めた。


エーフィ「戻って来たら、ジュナイパー、質問攻めにするぐらいのつもりでいてよ!」

ジュナイパー「……ありがと、エーフィ」

エーフィ「いいって事よ! みんなこんな空気だと、あたしも辛いし」

ジュナイパー「ハハ……。あそこか」

ブラッキー「団長」

ジュナイパー「お久しぶりです!」


フーディンに向けてそう声を掛けると、遠目にも彼は体をビクンと跳ねさせた。

横に、アシレーヌとニャヒートもいる。僕はそちらに向けて走る。後ろから2匹も付いて来た。


アシレーヌ「あーもう! ダンチョー、来たよ!」
 ▼ 176 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:42:40 ID:0/HvBLZc [51/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「いやだって、まだ公演見に来てくれとは言ったが、まさかこのタイミングで来るとか思わねぇし!」

ニャヒート「なんでみんな成長してるのにあんただけそのままなのよ。もうステージに出て粗治療した方がいいいんじゃない?」

フーディン「いやだって、あの時あんな別れ方して、どう話せばいいんだよぉー!」

ジュナイパー「……ねえ、アシレーヌ」

アシレーヌ「あっ、ジュナイパー! ……これ、どうすればいいと思う?」


僕に聞くな。何年も会っていないのだ。

とりあえず3秒程考えて、適当な結論を下す。


ジュナイパー「ほっとこう。しばらく話してたら治るでしょ」

ニャヒート「そうね」


フーディンは「おいっ!」と叫び、振り向く。勢いで目が合い、途端にフーディンの体が赤くなった。


フーディン「ああ、ひ、ひ、ひさ、ひさし、ひさしぶりだな」

ジュナイパー「あがり症、治ってないんですね……」

フーディン「あーもう限界。お前らで話進めてくれ」
 ▼ 177 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:44:38 ID:0/HvBLZc [52/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「うーん、今日はいつもより酷いね。まあ、いいとしよう。団長が持ってる知識はみんな持ってるしね」

アシレーヌ「だね、仕方ない。何か進展はあった?」


僕は、全て話した。

アクジキングに黄金のリンゴその他アイテムを献上して、空腹を収めた事。

皆、ここで凄いと反応したため、探検隊リアライズの手柄だと伝えておく。

デンジュモクは既にイワンコたちが交流していた事。

マッシブーンとも出会っていた事。

そして、マッシブーンの筋肉講釈を聞かされる事により、彼を満足させた事。


エーフィ「ウルトラビーストは、全部で8匹だっけ。ウツロイドとフェローチェはもうあれなんでしょ?

     カミツルギとテッカグヤは、もうフェローチェとアクジキングと一緒にいるし、たぶん大丈夫。

     ソルガレオ様とルナアーラ様もそうだって聞いたけど」

ジュナイパー「あの2匹は初めから考慮しなくて大丈夫。

       もともとあの2匹も、エクリプスのサーカスに惹かれて、こっちの世界に付いてくれたんだから」

ブラッキー「僕たちにアドバイスをくれた。そりゃそうだ」
 ▼ 178 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:45:50 ID:0/HvBLZc [53/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「コスモッグは?」


それが、問題なのだ。少しの躊躇いの後、僕はそう言った。


ジュナイパー「彼は、友達が逮捕されたのをきっかけに、こっちの世界にいい印象を持っていない、かもしれない。

       コスモウムって姿に進化して、そうなっちゃって、何も聞いてくれる気配がないんだ」

アシレーヌ「ええ?! 逮捕?! 誰が?!」


盗賊団フラワーズ。その詳細を、僕は知らない。イワンコとミミッキュ、コスモウムの他にまだ幾匹か囚われていると言う事ぐらいだ。

そう伝えると、イワンコの事を伝えていたアシレーヌとニャヒートが、反応はそれぞれだが、驚いたような顔を浮かべる。


アシレーヌ「イワンコが盗賊〜?!」

ニャヒート「しかも脱獄までしでかすとは、凄いな……」

ブラッキー「でも、話聞いてる限りだと、協力関係なんだよね」

ジュナイパー「まあね。ウルトラビースト事件の前には、些細な問題だと判断した」
 ▼ 179 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:46:35 ID:0/HvBLZc [54/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「その2匹が、コスモウムを説得できるかにかかってるって事?」

ジュナイパー「そうなるね。……多数決制ならもう安泰だけど、でもなんか違う。全員を納得させてあげたい。この世界のよさを伝えたい」

アシレーヌ「そのためのサーカスなんだけど、そこまでにってか」

ジュナイパー「……いずれにせよ、僕らにできるのは、もう待つ事だけだ。集合は、明日。

       明日にコスモウムが間に合うかはともかく、それ以上何ができる訳じゃない」

アシレーヌ「だね。ね、ジュナイパー、ちょっといいかな」


不意にアシレーヌが、僕に持ち掛ける。


ジュナイパー「何?」
 ▼ 180 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:47:05 ID:0/HvBLZc [55/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





アシレーヌ「……お願い、司会して! このエクリプスの公演で、最後に1回!」





ジュナイパー「……え?」
 ▼ 181 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:47:49 ID:0/HvBLZc [56/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌが、拝むような顔でこちらを見る。

ああ、とわかってしまう。

やっぱり、アシマリは、母性本能をくすぐるのが上手い。

僕は駄目だ。やっぱり、彼の頼みを、受け入れてしまう。


ジュナイパー「わかった。いいよ」

アシレーヌ「え、いいの? 拝んで拝んで拝み倒すつもりだったのに……」

ジュナイパー「だって、アシレーヌ、拝んで拝んで拝み倒すでしょ? 降参。僕は、君に敵わないよ」

アシレーヌ「ありがとう!」


僕は、ふうと息を吐く。

そして、みんなを見やった。


ジュナイパー「最後の大仕事、か。久々に練習しないと。ん、練習……? 今、司会担当って……」

アシレーヌ「アマージョだよ」


邪気のない顔でアシレーヌが笑う。
 ▼ 182 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:48:33 ID:0/HvBLZc [57/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「あっと……やめても、いい、かな?」

アシレーヌ「ええっ?! そんなぁ……」


やめてくれ、瞳を潤ませるな。

助けを求めてニャヒートを見ると、ニヤニヤ笑っている。


ニャヒート「ま、頑張れ。駆け落ちなんてするからよ」

エーフィ「ほら、♂に二言はないよ! しっかりしなさい!」

ブラッキー「諦めた方がいい」


ため息が零れた。お義母さん、かぁ……。
 ▼ 183 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:49:11 ID:0/HvBLZc [58/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「あー、うん。落ち着いた」

エーフィ「やっと?!」

フーディン「悪かったなこんにゃろ。ジュナイパー、久しぶりだな」

ジュナイパー「急に治りましたね……」

フーディン「まあな。何があれって、元はモクローだ。何もビビるこたぁねぇ。というより、もう観客じゃなくて、メンバーだからな」

ジュナイパー「ハハ……」

フーディン「さ、とりあえず、今日はこいつとアママイコの歓迎パーティーだな。ブラッキー、頼んだぞ」

ブラッキー「了解」

フーディン「で、もう俺たちができる事は終わりか。よし、みんな、いつも通り、練習だ。明日、ゼンリョクを尽くせるように」

みんな「はい!」
 ▼ 184 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:49:51 ID:0/HvBLZc [59/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
戻って行くと、みんなから質問攻めにされる。

探偵ってどんな事をするのか。アママイコとはどんな感じなのか。子どもは産まれそうか、そもそもヤッているのか(この質問を出した奴にはとりあえずかげぬいをお見舞いした)。

結局お前は今、幸せなのか。

僕はそれらの質問にひとつひとつ答えて行った。

アママイコの方はと見やると、ルテーメンバーと思しきポケモンたちに囲まれていた。

きっと、今の僕と同じ立ち位置なのだろう。

彼女の顔も、笑顔だった。

ああそうか、と今さら気付く。

本当の幸せは、依存を断ち切る事じゃない。依存を超えた所で、繋がっている事なんだ。


アシレーヌ「ジュナイパー、お帰り」

ジュナイパー「アシレーヌ、ただいま」
 ▼ 185 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:50:32 ID:0/HvBLZc [60/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

フーディン「ほら、みんな! 明日は本番なんだ! ジュナイパーを歓迎するのは後でもできるだろ? 練習するぞ!」

みんな「はーい」

フーディン「あー、それとアマージョさん」

アマージョ「何かしら」

フーディン「明日の司会を、こいつに譲ってやってくれないか? そして、そのために指導してくれないか?」


アマージョは、ニヤリと微笑みながら言う。


アマージョ「ええ、お受けしますわ」


嫌な予感しかしない。

汗をダラダラと垂らしながら、引きつった笑みを浮かべるより他になかった。
 ▼ 186 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:51:23 ID:0/HvBLZc [61/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「優しくしてあげてね」

アマージョ「そんな時間はないわ。明日だもの。ビシバシ行くわよ」

アママイコ「酷い、酷過ぎるよ!」

ジュナイパー「いいよ、覚悟は決めた。アママイコ、もし生きてエクリプスを迎えられなかったら骨は拾ってね……」

アママイコ「……頑張ってね」


アママイコも苦笑している。仕方ない。

やりますか。僕はそう、力なく呟いた。
 ▼ 187 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:52:04 ID:0/HvBLZc [62/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこからしばらくそうしていると、フーディンが手を叩きながらやって来た。

ジュナイパー「あえいうえおあお」

アマージョ「もっとお腹から声を出しなさい! あんた、最初は指導もロクにない状態でできてたんでしょ?」

ジュナイパー「歳食うと声でなくなるんですって」

アマージョ「甘ったれた事言わない! あたしの娘を攫って行った罰は重いわよ」


アマージョに腹部を蹴られ、しかしタイプ相性はそれを透かしてしまう。

決まり悪げにアマージョが叫んだ。


アマージョ「と、とにかくあなた! お腹に力を込めるの!」


害意というよりは、それを伝えるための暴行だろう。しかし悲しいかな、僕はゴーストタイプを得た。

打撃系の攻撃は、透かせるのだ。
 ▼ 188 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:52:48 ID:0/HvBLZc [63/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それはともかく、お腹から出さないといけないのは本当なので、僕はそれに従う。


ジュナイパー「あ! え! い! う! え! お! あ! お!」

アマージョ「その調子! 発声練習が終わったら、とりあえず最初と最後だけでも叩き込みなさい!」

ジュナイパー「はいっ!」


途中の過程全てに司会を挟むのは、今の僕じゃ無理だ。恐らく、最初と最後だけになる。

だからこそ、そこのセリフだけは、きちんと覚えなければならない。


ジュナイパー「レイディースアーンドジェントルメーン!」

アマージョ「もっとお腹から!」

ジュナイパー「レイディースアーンドジェントルメーン!」

アマージョ「その調子もういっちょう!」

ジュナイパー「レイディースアーンドジェントルメーン!」


こんな調子で一夜漬けならぬ一日漬けの練習は進んで行き……。
 ▼ 189 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:54:11 ID:0/HvBLZc [64/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「もうダメ……」

ニャヒート「甘ったれないでよあたしの前で。うつる。奥さんのとこ行って来たら?」

ジュナイパー「今、料理作ってるから……」

ニャヒート「そ。ま、邪魔しないでよね」


ニャヒートの練習を眺めていた。

休憩にと、アシレーヌがここを推してくれたのだ。

今にして思えば、わざわざストイックの権化の練習を眺めさせに行くアシレーヌもアシレーヌだ。

彼はきっと、綺麗なパフォーマンスを見たらやる気も出るぐらいにしか考えていないだろう。

僕が気付くべきだった。

けれど、バテていた僕はそこまで考えも行き付かなかった。

ニャヒートは、気を高めるかのようにブランコに座って目を閉ざしている。

これは、確かに邪魔してはいけないような気がする。

僕はその場を離れると、布団を探して倒れ込んだ。
 ▼ 190 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:55:06 ID:0/HvBLZc [65/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目を覚ますと、アマージョがそこにいた。

悲鳴をあげて飛び上がると、アマージョはツンと顔を背け、それから言った。


アマージョ「あんたに倒れられると、アママイコからなんて言われるかわかったもんじゃないもの」

ジュナイパー「ハハ……。やりますか」

アマージョ「ええ。と言いたい所だけれど、まだ休憩タイムよ。アママイコとブラッキーが呼んでるわ」

ジュナイパー「! って事は……」

アマージョ「お仕置きは後回しね。食事よ」


食事会場に出て行くと、「おー、主役が来たぜ」なんて声があがる。

フーディンがえらくかしこまったように立っていた。


フーディン「あー、みんな知ってると思うが、元メンバーのジュナイパーとアママイコが帰って来ました」


堅苦しいのやめろよーとヤジが飛ぶ。フーディンが、照れ笑いして、それから言った。


フーディン「明日は、本番だ。だから、リラックスのためにも、今日ははしゃぎすぎない程度に騒いでくれ! 以上!

      それじゃあ2匹とも席に着いてくれ」
 ▼ 191 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:56:16 ID:0/HvBLZc [66/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕らは二手に分かれて着席する。アママイコはこちらを認めると、小さく手を振ってそれから口パクと身振りでこう伝えて来た。

今日はそっち行きなよ。あたしたちは、いつでも一緒だし、今ぐらい分かれてさ。

そうだね、と頷いて、僕はエクリプスのメンバーの方の机に駆け寄って行く。

僕らにまつわる思い出は、エクリプスとルテー、双方の中で共有されていない。

今日だけは机を分けようというのは、向こうも配慮しているのだろう。

さすがに普段分かれているようじゃ問題だ。今まで持ちこたえている以上、その心配はしなくていいだろう。
 ▼ 192 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:56:52 ID:0/HvBLZc [67/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、エクリプスのメンバーたちに向け、言葉を紡ぎ始めた。


ジュナイパー「みなさん、本当に、お騒がせしました。迷惑も、散々かけた事と思います。

       本当に、すみませんでした」

アシレーヌ「ジュナイパー、心配しないでも……」

ジュナイパー「いや、これは僕なりのけじめだ。言わせて。

       僕はあれから、アママイコと2匹、自分ってのを探してきました。その答えが見付かった時、公演を見に来い。そう、団長に言われたのは、まだ覚えてます。

       残念ながら、本当の自分、なんてそんなもの、まだ見付かってません。探偵が自分に向いてるって事ぐらいです。

       でも、そうじゃないんです。自分が見付かるかじゃない。幸せになれるかだ。

       僕は、今この時が、幸せです。最高の仲間たちと、最高の妻と、それから……」


僕は、アシレーヌを見やる。そして、そのまま言った。


ジュナイパー「最高の友達に囲まれて」
 ▼ 193 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:57:38 ID:0/HvBLZc [68/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「ジュナイパー……」

ジュナイパー「それが言い訳になるかって、ならないですよね。だけど、迷惑を掛けてまで欲したものを、僕はキチンと掴んだ。

       それを、みんなに知って欲しかった。

       僕のワガママに付き合わせてしまって、ごめんなさい」


気にするなよ、そんな温かい言葉がいくつも飛ぶ中で、ひとつの言葉が鋭く響いた。


ニャヒート「そこはごめんねじゃないよね」
 ▼ 194 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:58:26 ID:0/HvBLZc [69/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「え?」

ニャヒート「サーカスってのは、観客に幸せを届けるもの。

      あんたがそれを掴めたのは、確かにあたしたちがあんたのワガママに付き合ったから。

      でもね、観客だけじゃない。やってる当のあたしたちが幸せじゃないと、意味なんてない。

      それを言うならさ……感謝だよ。謝罪なんていらない。似合わない」

ジュナイパー「……ありがとう、か。ニャヒート、自分にだけわかる文脈で話さないでよね。

       ニャヒートは凄い。だけど、僕は、僕なりの文脈で話を進める。

       僕は、ごめんと思ってる。だから謝る。謝らなくていいって言われてもね」

ニャヒート「ま、それがいいんじゃない? あたしとあんたじゃ、全然違う。

      お互い違うから、そしてそれをぶつけ合うからこそ、いいものができる」

アシレーヌ「うーん、なんか空気が重くなっちゃったけど、みんな食べよ! ごちそうが冷めちゃうよ!」

ジュナイパー「だね、ごめん」

フーディン「ま、そうだな。じゃあ改めて……」

みんな「いただきまあす!」
 ▼ 195 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:59:04 ID:0/HvBLZc [70/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
久しぶりに食べるブラッキーの料理は、正に天にも昇る心地だった。

アママイコもなかなかの精度でコピーしていたが、オリジナルにはやはり敵わないという所だろうか。


アシレーヌ「どう? 久々のブラッキーの料理は」

ジュナイパー「なんでサーカス団にいるのかわからなくなるレベル。あれ、ここレストランだっけ」

アシレーヌ「いや違うってば」


笑い声。エクリプスの雰囲気だ。

最高だ。そして、今僕は――


幸せだ!
 ▼ 196 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:59:40 ID:0/HvBLZc [71/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「でも、オイラの事、大勢の前で友達だなんて大声で言わないでよ。恥ずかしいじゃん」

ジュナイパー「仕方ないじゃん、事実そうなんだから。親友じゃなかっただけマシだと思ってよ」

アシレーヌ「えっ、オイラたち、親友じゃなかったの……」

ジュナイパー「えっ、どうしてそうなった……」

エーフィ「聞いてるだけで笑えるよ、あなたたちの会話」

アシレーヌ「エーフィー……」

エーフィ「こら、泣きそうな顔しない! あんたたちは傍から見て、充分親友だから!」

ジュナイパー「親友なんて、言葉にすると安っぽいじゃん。いいんだよ、これで」

アシレーヌ「うーん、そういうもんかなぁ……」

エーフィ「ま、なんだっていいじゃん! ほら、早く食べなよ!」
 ▼ 197 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 22:00:26 ID:0/HvBLZc [72/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな騒ぎの中食事はなくなり、そしてアマージョと共に最後の追い込みを掛けた後、僕とアママイコは別の部屋をあてがわれた。


フーディン「スペースがないからな、急ごしらえで用意した。変な事するなよ? 明日もあるんだからな」

ジュナイパー「わかってますって……」

アマージョ「もし何かしようもんなら」

ジュナイパー「だからしないってば! っと、すいませんお義母さ」

アマージョ「その呼び方はやめてちょうだい」

アママイコ「ケンカしないでよ! ジュナイパーもお母さんも!」

ジュナイパー「冗談だよ」

アマージョ「冗談よ」


見事にハモり、僕らは顔を見合わせる。

アママイコがこらえきれずにと言うように噴き出した。


フーディン「それじゃあ、また明日」

ジュナイパー「はい」
 ▼ 198 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 22:00:57 ID:0/HvBLZc [73/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
布団に潜り込みながら、僕はアママイコと話を始めた。

彼女の方は見ない。それでも、その存在は、彼女の甘い体臭とほのかな体温が伝えてくれた。


アママイコ「楽しかったね、今日は」

ジュナイパー「アマージョの特訓、厳しかったけどね……」

アママイコ「そりゃね。お母さん、もともと厳しいのは確かだし。あの時はやり過ぎだっただけで」

ジュナイパー「いや、それだけじゃないでしょあれは……お姑(しゅうと)さんって怖いね」

アママイコ「それ嫁のセリフだってば!」

ジュナイパー「いびられる嫁の気持ちがよくわかったよ……」

アママイコ「ま、でもさ、よかったと思う。あなたと出会えて。あたしも、幸せだからね」

ジュナイパー「アママイコ……」

アママイコ「ま、明日も早いし、寝ないとね。お休み」

ジュナイパー「そうだね。お休み」
 ▼ 199 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 22:01:48 ID:0/HvBLZc [74/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
眠って、起きたら、もう当日だ。

僕の、最後の公演がやって来る。

ウルトラビーストを巡る事件も、これでおしまいだ。

今日は、あんなに特訓した。大丈夫。僕ならできる。

と、そこまで考えて、今までのてんやわんやに押し出されていた最重要事項を思い出す。

――そうだ、アシレーヌ。

君の答えは、どんななの?

絶対、教えてね。ゼンリョクで感じ取るから。

君のゼンリョクを、僕が……。

そして、僕の意識は途切れて行った。
 ▼ 200 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:28:44 ID:jyWOxWLU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
盗賊団編 9章
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=563163&l=350-429
350から429までです
 ▼ 201 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:32:01 ID:ahuEvCG. [1/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







5章 ガオガエンの告白






 ▼ 202 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:32:37 ID:ahuEvCG. [2/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「レイディースアーンドジェントルメーン! ようこそ! ポケモンサーカス団エクリプスへ!」


僕は声を張り上げる。

星空のステージ。ソルガレオとルナアーラの空間に、僕たちエクリプスは今、立っている。

観客席には、その2匹を含むウルトラビースト。

それはもちろん、ネクロズマも含めて。

そして、愛しの妻アママイコ、この事件に密接に関わっていたフラワーズのメンバー、そして探検隊リアライズのチラーミィとニューラ。

サーカスの事をわかっているアママイコが、皆を静めていた。

そこに向けて、僕は、高らかに声をあげる。


ジュナイパー「それでは、皆さんを新たな世界へと誘い(いざない)ましょう!

       それでは、アシレーヌのパフォーマンスをどうぞ!」


僕は、舞台袖に引っ込んで行った。

それと同時に、照明が落ちる。

この、瞼の裏に残る眩い照明。懐かしい感覚に、思わずめまいがする。
 ▼ 203 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:33:33 ID:ahuEvCG. [3/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌは、バルーンを創りあげ、そしてその中へと飛び込んで行く。

舞台裏から、僕はそれを眺めていた。

誰も、何も声を掛けて来ない。

恐らく、わかってくれている。僕の想いを、みんな。

だから、思いっきり、親友が生み出す幻想的な光景に浸った。

大きなバルーンの中を、自由自在に飛び回る。

そのバルーンが空へと浮かぶ物だから、次第に次第に、当のアシレーヌも高みへと上がって行く。

バルーンから、長い尾だけをはみ出させ、それからしばらくくるくると、アイドルのように回り始める。

アシマリの短い胴体ではできなかった、新たなパフォーマンス。

僕が知らない景色だ。

観客席から喝采が起こる。

手がないビーストがほとんどなので、拍手を催促しようにも、ウルトラビーストの中では恐らくマッシブーンとネクロズマの物しか帰って来ないのだ。

けれど、声なら、口がなくともどこか発声器官を震わせる事によってか出せる。

それが、このパフォーマンスを讃えている。

さすがだ。僕がいない間にも、ずっと、留まる事なく成長を続けていた。
 ▼ 204 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:34:34 ID:ahuEvCG. [4/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌが、今度はバルーンから顔を出し、それから歌を奏でた。

それは綺麗な音。アシレーヌ特有の、美しい声。

バルーンを震わし、そして破裂。

地面と呼べる箇所に向けてバルーンを打ち出し、それをトランポリンのように駆使して着地を決めた。

その真上に、虹。

エーフィの光に照らされて、アシレーヌが大きくお辞儀をする。皆、見惚れたようだった。

掴みは抜群だ。僕は、小さくガッツポーズを作る。


ニャヒート「ジュナイパー、ガッツポーズなんかしないでよ。まだ何も終わってない。むしろ、今が始まりだよ。

      この公演は、あたしのパフォーマンス、そしてあんたの司会で終わるの。喜ぶには早過ぎる」


おもむろに声を掛けて来たニャヒート。

それに対し、僕は依頼を持ち掛けた。ワガママばっかりだ、僕。でも、少しぐらい、僕は周りを頼るべきなんだ。


ジュナイパー「……それもそうだね。……ニャヒート。お願いだ。君も、最後、一緒に司会をしてくれ」

ニャヒート「はあ?!」

ジュナイパー「しっ、音が漏れる」
 ▼ 205 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:35:37 ID:ahuEvCG. [5/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒートが慌てたように口を堅く引き絞り、それからひっそりと、しかし顔には動揺と怒りを浮かべて言った。


ニャヒート「どういう事よ。あたし、司会なんてできない」

ジュナイパー「言い方が悪かった。いてくれればいい。

       ……エクリプスを巡る物語は、アシレーヌと、それから君と一緒に決着を付けたいんだ」


と、そこに自らのパフォーマンスを終え戻って来たアシレーヌがやって来た。

僕の仕事は、司会。最初と最後。日常と非日常、2つの世界を繋げるのが司会の役目だ。

だから、この時間は、僕の仕事なんてないに等しい。


アシレーヌ「何? どうかしたの? オイラの事呼んだ?」

ジュナイパー「うん」

ニャヒート「聞いて驚かないでよ。こいつ、あたしとあんたを最後司会一緒にさせようとしてる」

ジュナイパー「僕の、最後のワガママだ。もう、充分迷惑を掛けたのはわかってる。それで――」
 ▼ 206 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:36:20 ID:ahuEvCG. [6/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕の言葉を、アシレーヌが強く遮った。


アシレーヌ「ワガママ? とんでもない!

      ジュナイパーがオイラの事心配してくれてるのはわかってるし、

      自分を犠牲にして、オイラを育ててくれた。

      いくらお礼しても足りないぐらい、オイラは君に感謝してる。

      司会でもなんでも、やってやる!」

ニャヒート「…………」

ジュナイパー「声が漏れるから静かに。でも、ありがとう」


涙は流さない。それこそ、終わった後でいい。
 ▼ 207 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:37:29 ID:ahuEvCG. [7/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒートが、苛立った声で、しかし潜めて言った。


ニャヒート「あーもう、わかった。いるだけでいいのね?」

ジュナイパー「……ありがとう」

ニャヒート「でも、なんであたしなの? アシレーヌだけでいいじゃない」

ジュナイパー「……君が、全てを繋いでくれたから。

       僕と、アシレーヌと、それからエクリプス。君と、それから君の……」


僕は、言葉を呑み込んだ。ルテー事件で明かされた彼女の過去は、改めて語るまでもなく、伝わったらしい。


彼女はふっと息を吐く。そして、それから言った。


ニャヒート「とにかく、みんなのパフォーマンス、見てあげて。

      あんたがいなくなってからの、あたしたちの成長、見て欲しいんでしょアシレーヌ」
 ▼ 208 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:38:05 ID:ahuEvCG. [8/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「うん。ほら、凄いよ。あのミス、ワザとやってる。

      ジュナイパーがいた時には、ここまでの事はできなかったよね」


ステージの方に目を向けると、スリーパーがボールを落としていた。

5個のお手玉。その難易度は確かに高いが、慣れていればミスをする要素は確かにない。

それでも落とすのは、難しさを演出し、それから観客を引き込むためだ。

案の定、共にステージに出ていたエテボースが2本の尾を叩き合わせ、皆の積極的な参加を求めている。

それに真っ先に答えるのはアママイコ。ある意味サクラだ。


アママイコ「頑張れ! 頑張れ!」


リズムに乗せて、手拍子と共に。

それを見たチラーミィとニューラも手拍子を合わせる。

盗賊団のメンバーたちも、各々に調子を取り始めた。

ウツロイドが楽しそうに体を揺らし始め、それからそれが徐々にビーストたちに伝播する。

マッシブーンとフェローチェだけが、最後まで恥ずかしそうにしていた。
 ▼ 209 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:39:05 ID:ahuEvCG. [9/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サーカスというのは、やっぱりこういう何気ない場面での、積極的な参加を求める。

斜に構えてしり込みするより、飛び込んでしまった方が、間違いなく楽しい物だ。

ウツロイドが何やら伝えたように見えた。フェローチェが頭を掻き、マッシブーンが筋肉を見せつける。

スリーパーが、今度は2つから始める。

そして、1つ、エテボースが投げ込む。2つ、3つ。

そして……計6つ。彼は何の躊躇いもなく、お手玉を回していた。

僕は、思わず笑みを浮かべる。懐かしい、この感じ。舞台袖からしか見えない景色。

サーカスは、ここに向けられていない。けれど、ここの景色は、僕の根底に刻み付けられていた。

離れて、ようやくわかる。そんな事もある。


アシレーヌ「ほら、オイラたち、成長してるでしょ?」

ジュナイパー「まあね。ここまで積極的に観客を惹き込めてなかった。僕がいた頃はね」

ニャヒート「実力はあったけど、そういう大技ばっかだったから。小技で楽しませられるようになったって事」


ニャヒートの解説が入る。

照明が2匹を照らし、深々とお辞儀をして引っ込んで来た。
 ▼ 210 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:39:45 ID:ahuEvCG. [10/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこからも、成長をまざまざと見せつけられる事になる。

僕がいた時より、さらにという事だ。

火の輪くぐりのカエンジシは、見事、くるりと飛び込んで、綺麗に着地を決めた。

ドンファンの球回しも、鼻先で決めながら、自らも転がるという芸当をこなしている。


フェローチェ「頑張れー!」


恥ずかしがっていたフェローチェが誰よりも大声で叫ぶ。

周りの視線を浴び、白い体を赤く染めて座り込んでしまった。僕は、思わずクスリと笑う。

そして――


ニャヒート「んじゃ、行って来る。あたし、最後をきっちり決めるから」


ニャヒートが、すっくと立ちあがった。
 ▼ 211 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:40:15 ID:ahuEvCG. [11/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
照明が落ちる。

そしてブランコに昇ると彼女は、自らの体を炎で包んだ。

突如現れた煌めく炎は、観客の興味を惹いているはずだ。見えないが、その気配が伝わって来る。

ニャヒートは、口を真一文字に結び、それから跳んだ。

勢いを付けて揺れるブランコ。ニャヒートがその勢いをさらに増す。

2つのブランコの継ぎ目で、彼女は跳躍する。

くるりと、まずは1回転。炎の勢いが増し、辺りを照らす。

そして、ようやく気付く。もはや、彼女はブラッキーの光を必要としていない。

自らの過去を断ち切り、前を向いて進めたのであろうか。

もう、誰もいない世界へ潜ろうとする彼女はいない。

彼女自身が、誰かを、光を必要とする誰かを照らすため、太陽となっている。

本当に、楽しそうだった。真顔でも、その感覚が体中から溢れている。


アシレーヌ「凄い……今までで、最高の出来だ……」


アシレーヌも、その白い顔をステージに向け、見呆けていた。
 ▼ 212 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:40:46 ID:ahuEvCG. [12/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
最高の出来。

アシレーヌは彼女を、そう評した。


ジュナイパー「え?」

アシレーヌ「……オイラと、ニャヒートが、混ざってる。それで、最高なんだ」


そうか、楽しさが伝わるパフォーマンス。

彼女が、アシマリに見出した物。

僕が戻って来て、彼女は、ようやくそこに辿り着いたと言うのか。

ニャヒートは、くるり、3回回って、それから、前脚でしっかりとブランコを掴む。そのまま逆上がりの要領で棒の上に立つと、ニコリと笑った。

その笑顔のまま、大きく飛んだ。そのままくるりと回転する。

1回。2回、3回……4回。


アシレーヌ「練習でも、4回はできてない……」


僕は、ただ、彼女のパフォーマンスを眺めていた。
 ▼ 213 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:41:46 ID:ahuEvCG. [13/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ルテーの事件で明かされた彼女の過去、その呪縛。

もう、呪縛は解かれている。それが、ハッキリわかった。

彼女は安定した台に飛び乗り、そのまま炎を消す。

後には、星の煌めきだけが残っていた。

拍手喝采が鳴り響く。

僕はアシレーヌに呼びかけた。


ジュナイパー「行こ、アシレーヌ――」

アシレーヌ「ねえ、見てあれ……」


震える声のアシレーヌに釣られ、僕はそちらを――ニャヒートの方を見やる。

コン、と乾いた音がした。


アシレーヌ「あれ、かわらずのいし……」
 ▼ 214 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:45:18 ID:ahuEvCG. [14/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「えっ?!」


かわらずのいしを、外した?

つまり、彼女は進化する。同い年の僕どころか年下のアシレーヌすら進化していたのだ。きっと、そうなる。

あたし、最後をきっちり決めるから。

最後って、そういう事なの、ニャヒート。

もう、自分は飛ばないって、宣言してるの。

彼女の体は、光を纏った。
 ▼ 215 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:45:49 ID:ahuEvCG. [15/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、それすらも気にせずに、アシレーヌと共にステージに立った。

いや、気にはしている。つとめて気に留めないだけ。

だって彼女の出す答えはいつだって唐突で、だからこそ真実味を孕むのだから。

案の定、進化の光を放ち切ったガオガエンが、何も言わないままに僕の横に立つ。

その反対には、生来の大親友。

エーフィとブラッキーのライトが、僕たちを照らした。


ジュナイパー「皆さん! お楽しみ頂けたでしょうか?!」


叫び声。観客たちから喝采があがる。

しばらくそれを聞き、それから続けた。


ジュナイパー「今まで、様々な事が起こりました。あなた方にとってもいろいろな事が起こったでしょう。

       きっと、これからだって。あまりあなた方の事を快く思わないポケモンがいないとも限りません。

       だけど、交わるという事は、難しくて、そして楽しいものです」
 ▼ 216 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:46:26 ID:ahuEvCG. [16/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、2匹を抱き寄せる。

驚いたような声を無視して、僕は声を張り上げる。


ジュナイパー「この2匹は、正反対です! 何から何まで、サーカスに懸ける情熱以外、全て!

       片や全部を骨肉に変えて成長して来ました。

       片や、ひたすらに閉じこもって上を目指して来ました。

       どうだったでしょうか? 全く異なる2匹の出会いが起こした化学反応は!

       2匹とも、お互いがいたからこそここまで来られた!

       ……綺麗事を言うようですが、悪くない関係ですよね?!」

アシレーヌ「ちょ、ちょっと……」

ガオガエン「なんであたしたち……」

ジュナイパー「僕らは、混ざり合って、上を目指してます! 僕らの舞台は、これからも!」
 ▼ 217 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:47:06 ID:ahuEvCG. [17/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
2匹は、諦めたように頷くと、それからすっくと立ちあがった。


アシレーヌ「どうだった?! オイラたちのパフォーマンス!」

ガオガエン「サーカスってのは、全体で創るもの。たぶん、ある意味交流の理想形があると思う」


僕は、頷いて、それから声を張り上げた。


ジュナイパー「きっと、覚えていてください! いつでもあなた方みんなを、歓迎します。僕たちが……。僕たち!」


2匹と、示し合わせた訳でもないのに、セリフがピッタリ噛みあった。
 ▼ 218 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:47:45 ID:ahuEvCG. [18/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







――ポケモンサーカス団エクリプス!






 ▼ 219 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:48:45 ID:ahuEvCG. [19/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「それでは、ご覧くださりありがとうございまし――」


不意に、力が抜けて行く。あっ、と自覚した時にはもう、仰向けに倒れていた。


――――――

――――

――
 ▼ 220 ガフーディン@クサZ 17/04/10 21:55:10 ID:F2LgM7Yc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 221 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 22:32:47 ID:ahuEvCG. [20/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――

――――

――――――

「……イパー! 起きてよ! しっかりしてよ!」


アママイコの声だ。


「早く……どうしちゃったのジュナイパー?!」


アシレーヌの泣き声も聞こえる。

どうやら、気絶していたらしい。うめき声を漏らして目を開けると、2匹の心配そうな顔が真っ先に飛び込んで来た。

アママイコが、頭部から突き出た突起を振りかざし、僕をはたき続けている。タイプ相性の暴力で無効化してはいるけれど、驚いた。


ジュナイパー「う……がぁ……」
 ▼ 222 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 22:34:55 ID:ahuEvCG. [21/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「……なんで、なんでこんななるまで頑張ってたのよ! バクガメスさん、言ってたよ?!

      ジュナイパー、司令塔だったんでしょ? ほとんど休まず、ここまでぶっ通しで!

      疲れ果てるのも当然だって! ねえ、なんでよ……あなたの苦しみ、あたしに分けてよ……。

      楽しい事、分けてるんだから……」


彼女は、強引に、僕に接吻した。アシレーヌがいるにも関わらず。

しばらくそれを味わった後、そっと唇を離して、問うた。


ジュナイパー「公演は、どうなった?」

アシレーヌ「あれから、気絶したジュナイパーをエクリプスの何匹かで運んだの。

      ウルトラビーストはしばらく話し合って、どうするか決めるって。

      盗賊団のみんなはこれからの事を考えるらしくって、自分のテントに待機してる。

      探検隊の2匹はやる事がないってうろついてるらしいよ。

      公演は、もちろん大成功……だと思うんだけど、ドタバタがね……」

ジュナイパー「……ごめん。ありがと」
 ▼ 223 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 22:36:43 ID:ahuEvCG. [22/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
と、ガオガエンが隅にいるのに気が付いた。

彼女は、腕組みしてもたれかかっている。


ガオガエン「まあ、起きたばっかだし、あんまり喋らせるのもよくない。しばらく、ゆっくりしなよ」


僕は、けれどじっとしているのも違和感で、何か、気付いたら話し始めていた。


ジュナイパー「今でも、たまに夢に見るんだ。

       もし、僕らが出会ったのが、サーカスじゃなかったとしたら、どうだったんだろって」

アママイコ「その中に、あたしは?」

ジュナイパー「夢で見なくても、君はすぐ傍にいてくれたから」

アママイコ「むぅ、なんか焼いちゃうな」
 ▼ 224 1◆FvXQeTACDA 17/04/10 22:37:28 ID:ahuEvCG. [23/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「僕と、アシレーヌと、ガオガエン。

       僕ら3匹が、まだ進化してない頃に、サーカス以外の何かで出会ってたらって。

       例えば――」

アシ・ガオ「物語の評価。え?」

ジュナイパー「え?」


僕は、唖然として2匹を見詰める。2匹も僕と同じような反応だった。


アシレーヌ「ポケモンだけじゃない、ニンゲンも出て来たリ、時にはポケモンがまったく出て来ない話に関して3匹でワイワイ言い合って……」

ガオガエン「めっちゃポケモンが出て来ない奴、酷評したよね。」

ジュナイパー「同族が出てくる話について言い合ったり……」

アシレーヌ「うん。なんだか、自分がホントは知らないような事まで知ってたり……え?」

ジュナイパー「……夢ってのが、外からやって来るって説がある。ダークライのナイトメアとか考えても、あながち間違いじゃないと思う。

       もしかしたら、僕ら3匹とも、何か凄い力で、同じ夢を見るよう仕向けられてたのかもね」
 ▼ 225 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 22:39:32 ID:ahuEvCG. [24/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
子どもっぽい笑い声を聞いた気がした。

――さっすが、鋭いねー。ずっと1匹で、ヒマだったしさー。

誰だかわからないけれど、ありがとう。

――お礼言われる事でもないよー。それじゃあ!

ふっと答えが脳裏に現れた。思考もクソもない。ただ、そこに答えができた。創造神アルセウス。

いや、さすがにないだろう。こんな無邪気な創造神が、いてたまるか。


彼は、何年も前のとある事件の最中、この時代にいる事をやめたという。

そんな事を、僕は後から知るのだけれど、だからと言ってそれが何になるというのだろう。

ただの退屈しのぎ。残留思念のクセに、やる事がいちいち大袈裟だ。
 ▼ 226 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 22:40:09 ID:ahuEvCG. [25/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「ほんっと、嫉妬しちゃうよ」

ジュナイパー「だからー、そういう事じゃなくてさぁ」

アママイコ「なーんて、冗談よ。わかってる。恋愛してるのは、あたしだけ。でしょ?」


僕は、しっかり頷いた。

たぶん、これで本当におしまいなのだ。もうたぶん、あの夢を見る事もない。


アシレーヌ「まあ、やれる事はやったよね。ウルトラビーストのみんな、楽しんでくれたかな」

ガオガエン「まあ、祈るしかないね。あたしたちの想いが、届いた事を」
 ▼ 227 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 22:40:43 ID:ahuEvCG. [26/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「あ、そうだ」


ふと思い立ち、ガオガエンを見詰める。

彼女は不思議そうにこちらを見返して来た。僕は問いかける。


ジュナイパー「なんで進化したの、ガオガエン。かわらずのいしを捨ててまで、わざわざ公演中に」

ガオガエン「あー、知りたい?」

ジュナイパー「いや、ちょっと待って。考えさせて」

アシレーヌ「えー! 教えてくれるんだから、聞けばいいじゃん!」

アママイコ「ふふ、アシレーヌ。あなた、全然わかってない。これがジュナイパーよ」

アシレーヌ「そうだけどさぁ……気絶したばっかなんだよ?」

アママイコ「それでも、ジュナイパーは考える。息を吸うのと同じだからね」

アシレーヌ「うーん、やっぱり?」

アママイコ「やっぱり。考えるのが好きなのよ」

アシレーヌ「いよいよ重症化したみたいだね。

      でも首回さず考えてるジュナイパーなんて新鮮だなぁ」
 ▼ 228 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 22:41:14 ID:ahuEvCG. [27/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「あたしは新鮮じゃないもーん」

ガオガエン「つまんない事で張り合わないの。妻と親友じゃ求める役割は違うでしょ」

アシ・アマ「う……」

ガオガエン「ほら、本当にジュナイパーのためを思うなら黙ってあげて」


僕は、思考の世界に潜って行く。

ガオガエンが頑なに進化を拒んだのは、体格の変化を恐れたから。

体格の変化は、モロに空中ブランコに影響がでる。

それを受け入れたという事はつまり、もう飛ばないという事。そのぐらいは考えるまでもなくわかる。

なぜ、この段階でそう決意したのか。

自意識過剰ではない。こうとしか考えられない。僕が、また彼女の……彼女たちの公演を見たからだ。

ガオガエンは、でも僕に拘泥する理由はないはず。拘泥しているのはむしろ、アシレーヌだ。

しかし、彼女はアシレーヌと強く結ばれている。彼女の決意は、そこのラインに影響されたと考えるのが妥当だろう。

彼女は言っていた。「飛ぶ事があたしの命。飛ぶのをやめる時、少なくとも新たな命が始まる」。

彼女は、新たな一生を始めるのだ。サーカスを除いて彼女が愛しているもの。恐らくは……。
 ▼ 229 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 22:41:49 ID:ahuEvCG. [28/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告















ジュナイパー「アシレーヌ。幸せにしてあげないと駄目だよ。結婚するからには」
 ▼ 230 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 22:42:20 ID:ahuEvCG. [29/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「ふえ?!」

ジュナイパー「あっ……」


行き過ぎた。アシレーヌの前で、こんな答えを提示して、いいはずがない。

恐る恐るガオガエンを振り向くと、彼女は呆れたような顔で笑っていた。


ガオガエン「ったく、そこまで察するのか。鋭いってもんじゃない。……ねえ、アシレーヌ」

アシレーヌ「あ、いやその……」

ガオガエン「あたし、ずっとあなたの事……」

アシレーヌ「待って! そっから先は、オイラに言わせて」

アママイコ「あたしたち、席外そうか?」

アシレーヌ「いや、いて。ジュナイパーと、ジュナイパーが愛したポケモンに、いて欲しい。

      オイラたちの事、見届けるのは、2匹以外いないよ」

アママイコ「……そっか。わかった」
 ▼ 231 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 22:42:51 ID:ahuEvCG. [30/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌは、覚悟を決めた。僕には、確かにそれを見届ける義務がある。


アシレーヌ「オイラ、ガオガエンの事――」
 ▼ 232 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 22:43:32 ID:ahuEvCG. [31/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「おーい! 起きたかジュナイパー! ん? あ、あれ?」


僕らは、全員でずっこけていた。アママイコがむくれたようになじる。


アママイコ「もー、空気読んでよダンチョー!」

フーディン「ど、どうかしたのか?」

アシレーヌ「は、ハハ……どうしたの、ダンチョー」

フーディン「ああ。エクリプスを待つまでもない。ウルトラビーストが、答えを出したんだ。

      共存だってよ」


共存。その言葉が、ここまで快く聞こえた事があっただろうか。

できる事なら、もっと気合いを入れて聞きたかった。こんなずっこけた状態ではなくて。


アシレーヌ「やった……みたいだね」

フーディン「ん? 嬉しくなさそうだが」

アシレーヌ「いや嬉しいんだけど……話してた話が話だったから」

フーディン「ん? なんかすまない。思う存分続けてくれ」
 ▼ 233 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 22:44:02 ID:ahuEvCG. [32/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディンは出て行った。

僕らは、座り込んで、笑った。誰からともなく、笑った。

ひとしきり笑った後、アシレーヌが言った。


アシレーヌ「大好きだよ、ガオガエン」

ガオガエン「あたしも。アシレーヌ、あなたの事が好きだった」


2匹はまっすぐ見詰め合い、それから照れたように視線を背ける。
 ▼ 234 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 22:45:17 ID:ahuEvCG. [33/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「えー、では誓いのキスを」

ジュナイパー「なっ……」

アママイコ「いいでしょ別に。ほら、2匹とも」

アシレーヌ「ふえっ?!」

ガオガエン「あんたバカなの?」

アママイコ「あー! 今のちょっとグサッて来たよグサッて!」

ガオガエン「ったく……ま、いいや。とりあえず今は、喜ぼう。全部終わった事をね」


僕らは皆、それぞれに頷いた。


そう。これで終わりだ。エクリプス事件はこれで終わり。空中ブランコ乗りのニャビーの物語も終わり。
 ▼ 235 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 22:45:54 ID:ahuEvCG. [34/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「でも……終わらないものもあるよ。例えば、オイラたちの絆とかね」

ジュナイパー「ハハ! 恥ずかしい事言わないでよ!」

ガオガエン「ま、間違っちゃいない。言葉にすると冷めるけど」

アママイコ「でも、言葉に出すのも大事だよ」

アシレーヌ「だよね! ……でも、寂しくなるな。また、ジュナイパーは行っちゃうんでしょ?」

ジュナイパー「うん。……そういや、2匹、子ども産めるじゃん。どうするの? やっぱサーカス?」

ガオガエン「うーん、あたしは、サーカスしかできない訳だから、むしろ子どもにはサーカス以外の道を示してあげたい」

アシレーヌ「オイラも賛成」

ジュナイパー「それなら、うちに預けてみない? 少なくとも一か所に定住してるから、普通の子どもと同じ暮らしをさせてあげられるよ」

アシレーヌ「そっか。それも楽しそう。どう?」

ガオガエン「まあ、考えとくよ」


そう、と僕は微笑んだ。
 ▼ 236 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 22:46:31 ID:ahuEvCG. [35/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
きっと、これからも、それぞれに道を進んで行く。それぞれの幸せを目指して。

アシレーヌたちは、サーカスに留まる。

僕たちはサーカスから離れる。それぞれに違う。けれど。けれど、きっと。


ジュナイパー「ま、とりあえず、そろそろ起きたい。そんで、風に当たって来るよ」


みんな、描く未来がある。そこに向かって、進んで行くんだ。
 ▼ 237 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 21:00:47 ID:MWtBCePY [1/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







エピローグ サーカス団の未来






 ▼ 238 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 21:02:12 ID:MWtBCePY [2/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「なぁ、ひとつ聞かせてくれ。お前も、察してたんだろ? 自分が暴れないと、俺たちが助からないって」

ネクロズマ「何の事ですか? 僕、さっぱりなんですけど。ただ、進化して、力が暴走して、苦しかった。それだけです」


ずっと寝ていて、外の空気に当たりにたまたま外に出たら、とんでもないシーンに出くわした。

バクガメスの顔は険しく、ネクロズマもまた、真剣な面持ちだ。

この期に及んで何をそんな緊迫した雰囲気の中で話す必要があるのだろうか。


バクガメス「の割には、街の被害が無さ過ぎる。お前が、まだ自我を保ってた証拠じゃねぇのか?

      ハッキリ言うぜ。俺はお前が暴れる事も考慮していた。

      それでも、留置所を壊して、俺たちを助け出すぐらいかと思ったんだ。

      暴れてるのを俺たちが止めれば、それで充分だった。

      まさかあんな遠くに行くとは思わなかったし、自我を保てるとも思ってなかった」

ネクロズマ「……なるほど、全部織り込み済みですか。怖いよバクガメス」
 ▼ 239 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 21:03:26 ID:MWtBCePY [3/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「ウルトラビーストも、フラワーズのメンバーも、この世界も。全部救うには、それが一番だと思った。

      留置所からなら声を届けてもらえるし、説明も盗賊を隠さなくていいから容易。

      お前が暴れて死ぬようなヤワい奴らでもないし、それに改心の様子を知らしめれば世論の誘導も容易。

      いい事ずくめだったんだ」

ネクロズマ「……まあ実際、僕も力は制御しきれませんでした。声は聞こえました。

      だけど、途中から、おかしかった」

バクガメス「まあ、それは気付いたさ。本当に、イワンコたちを狙った辺りだろ?」

ネクロズマ「うん。そんなつもりはなかったんだけど、気付いたら攻撃してました。

      まったく、強過ぎる力って厄介だね」

バクガメス「まあな。制御しきれず孤独を招いた奴を、俺も1匹知ってるよ」

ネクロズマ「……とりあえず、正解。お互い様ですよ、でも。

      お互いが、お互いのため、隠し事をしていた。

      でも、なんでわざわざ問い詰めたの? 気付いてるなら、そのままでよかったのに」

バクガメス「まあ……本質は、俺も知りたがりなんだ。だから警察になんかなった。

      ま、結局、小回りの利かなさに限界感じてやめたんだがな」

ネクロズマ「……なるほどね。この事は、僕とバクガメスしか知らない、か」
 ▼ 240 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 21:04:23 ID:MWtBCePY [4/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
さすがに、これ以上黙っているのも限界だ。

2匹だけの秘密。それを僕まで知っている。そんな事黙っていられない。申し訳なさ過ぎて。


ジュナイパー「すいません、そこに僕も入れてくれません?」


沈黙。驚いたような顔を浮かべる2匹。

気配を感じなかったとしたら、無理もない。ゴーストタイプであり、かつ探偵でもともとその術に長けている。


ジュナイパー「聞くつもりは……最初はありませんでした。ただ、僕も知りたがりなもんで」

バクガメス「ったぁ、俺も衰えたな。盗み聞きに気付けないだなんて」


盗み聞きなんてそんな、と言おうとして、紛れもなく盗み聞きだと言葉を詰まらせた。

照れたような笑いを浮かべると、バクガメスはニヤリと笑う。


バクガメス「ま、しゃーねぇ。黙っててくれるよな?」

ジュナイパー「はい」

ネクロズマ「うーん、ジュナイパーと共有しても嬉しくないというかなぁ……あんまり接点なかったし。コスモウムの時話してくれたけど」
 ▼ 241 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 21:05:01 ID:MWtBCePY [5/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「まあ、聞いてたんだよね」

ネクロズマ「うん。全部聞いてた。聞いてた上で、いろいろ考えた結果、あんな事やったんだ」

ジュナイパー「なるほどね。ところでバクガメスさん、ひとついいですか?」

バクガメス「なんだ、脅しか?」

ジュナイパー「いえ、提案です」


さっきの話を聞いて、ふと閃いた。

そもそも、もう盗賊団フラワーズは維持できない。

一度逮捕された盗賊団を再結成なんてしていたら、さすがの彼でも普通に逮捕だろう。

もう言い逃れはできない。

となると、新たな仕事を考えなければならないのだ。

そして、彼ならば。


ジュナイパー「知りたがりで、小回りが利く職業がいいあなたに、ピッタリの仕事があるんです」
 ▼ 242 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 21:06:09 ID:MWtBCePY [6/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「ああ。探偵だろ?」


バクガメスはお見通しだと言わんばかりに頷く。

それを見て確信する。彼は、知能が極めて高い。

僕のポケモン選定眼は、間違っていないとハッキリわかった。


ジュナイパー「その通り。一緒に来ませんか?」

バクガメス「ふん……始めからそのつもりだったよ。むしろこっちから頼む手間が省けたぐらいだ」


了承か。よかった。

フラワーズを裏から動かし、この事件の真相にいち早く気付き、大半を手玉に取ったバクガメス。

彼の明晰な頭脳と警察とのコネクションが加われば、百匹力だ。


ジュナイパー「ありがとうございます」

バクガメス「なぜ礼を言う。むしろ、こっちが言うべきだ。ありがとう」

ジュナイパー「いえいえ」
 ▼ 243 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 21:06:48 ID:MWtBCePY [7/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ネクロズマ「よかったですね! バクガメスさん!」

バクガメス「ああ」

ジュナイパー「それでは、この件は、僕たちだけの秘密、ですね」

ネクロズマ「お願いね」


僕は、共犯者の笑みで、彼らに別れを告げた。
 ▼ 244 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 21:07:22 ID:MWtBCePY [8/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「どうかした?」

ジュナイパー「スカウト完了。バクガメスが、同僚になってくれるって」

アママイコ「へぇ。賑やかになる……かなぁ? イメージあんまよくないけど……」

ジュナイパー「まあ、探偵業的に有能だから」

アママイコ「へぇ。なるほどねぇ」


僕は少し考えを巡らせる。

これから、バクガメスを加えて、僕たちの探偵事務所はさらに発展していくだろう。

そして、サーカス団エクリプスも、2度も世界を救ったサーカス団として、さらに名をあげて行くに違いない。

いい、凄くいい。
 ▼ 245 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 21:08:06 ID:MWtBCePY [9/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「明日になったら、帰ろうと思う。アシレーヌ、凄いの見せてくれて、ありがとう」

アシレーヌ「こっちこそ、ありがとうね」

ガオガエン「一件落着、ってとこね」

アママイコ「だね。そっか、明日か。よし、お母さんと話して来る!」


アママイコが立ち上がって、席を離れた。

残された僕ら3匹は、また話し始める。


ガオガエン「それにしても、明日からどうしようかな……」

アシレーヌ「まあ、進化しちゃったしね」

ガオガエン「他に何もできないってのが致命傷」

ジュナイパー「それならさ、サーカスから離れなくてもいいじゃん。これからのために――」

ヒドイデ「すいませーん」

サニーゴ「フーディンさんどこですかー?」


アママイコと入れ替わりで入って来たのは、フラワーズの2匹だった。

彼らは、団長を捜しているらしい。
 ▼ 246 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 21:08:38 ID:MWtBCePY [10/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「ダンチョー? その辺にいると思うけど……どうして?」

サニーゴ「私たち、エクリプスに入ろうかな、と思って」

アシレーヌ「ホント?!」

ガオガエン「……思い付きでサーカスがしたいなんて言われても困るけど。見たの、初めてでしょ?」

サニーゴ「……はい。だけど、今日のパフォーマンス、感動しました。私も、ああなりたいって、本気で……」

ガオガエン「ま、いいや。本気かどうかはすぐわかる。なんたって、あたしが教えるんだから。そういう事でしょジュナイパー」

ジュナイパー「まあね。後進の育成。今の君でも、できるでしょ?」

ガオガエン「うん。よし、とりあえず団長捜しますか。行って来るね」


そう言って、ガオガエンは2匹を引き連れて去って行く。

後には、僕とアシレーヌ。親友2匹で残された。
 ▼ 247 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 21:09:58 ID:MWtBCePY [11/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「ジュナイパー。なんだろ、これで本当に終わっちゃうんだって感じ」

ジュナイパー「何言ってるのさ。終わらないよ、君たちのサーカスは。

       君が続けてる限り、ずっと。

       ガオガエンという目標も、僕という張り合いも失ってがっくり来てるのはわかるよ。

       でも、忘れちゃ駄目だ。君は最初、ただ「サーカスが好き」なだけだった。

       それだけで、ここまで来られたかはともかくね。

       その気持ちまで終わった訳じゃないでしょ?」

アシレーヌ「……うん」

ジュナイパー「いつまでだって応援するよ。僕は君のファン第一号で、育ての親で、何より……親友だから」

アシレーヌ「だね。オイラも、ジュナイパーの夢、応援してる。もう叶えたかもしれないけどね」

ジュナイパー「いや、まだまだ途中だよ。……道は、遠くて長いけど。もしかしたら、ゴールなんてないのかもしれない」

アシレーヌ「……でも、行くしかない、よね」

ジュナイパー「アシレーヌ……」
 ▼ 248 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 21:10:44 ID:MWtBCePY [12/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、彼を強く抱きしめた。

♂同士とか、そんな事は気にもならなかった。ただ、アシレーヌといたい。そう思えた。

やっぱり僕は、彼に依存されていて、それはやめられない。だって、それが僕の一部だ。

アシレーヌに依存されている事が、僕を僕たらしめる要素の一部。

でも、だからなんだ。依存を断ち切られたら、なんて心配、しなくてもいいんだ。

だって、親友だから。

アシレーヌの目には、薄く涙が浮かんでいた。たぶん、次別れたら、いつ会えるかもわからないからだ。

気付けば、僕の頬も涙が伝っていた。

僕は、手を外し、そして言った。


ジュナイパー「元気で、アシレーヌ。頑張ってね」

アシレーヌ「こちらこそ」
 ▼ 249 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 21:11:50 ID:MWtBCePY [13/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――

ジュナイパー「ありがとう! ごっざいましたー!」

アママイコ「みんな! これからも応援してるよー! こっちに来る事があったら見に行くからねー!」


バクガメスは、フラワーズのメンバーともう少しいるらしい。

彼ら全員がここを離れるまで見届けるのが、彼なりの責任だと言っていた。


アシレーヌ「バイバーイ!」

ガオガエン「元気で!」

ジュナイパー「元気でねー!」


最後に一度、お腹の底から必死に声を張り上げて、そして振り返ると、僕はそのまま前だけを見て歩き出した。

山に、白い雲がかかり、なんとも素晴らしい光景を映し出している。

もちろん、山に登ればそれが牙を剥いて来るのはわかっている。

けれど、それでも構わない。道は、険しい。それでも、登った先にあるのはきっと、絶景だから。
 ▼ 250 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 21:12:25 ID:MWtBCePY [14/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコが、少し瞳を潤ませて、言った


アママイコ「……懐かしかったな。ルテーのみんな」

ジュナイパー「だね。でも、仕方ない。これが、僕たちの決めた道だ。

       自分の道を信じて、歩いて行こう」

アママイコ「うんっ! あたし、ジュナイパーとなら、どこまででも行ける気がするよ!」

ジュナイパー「ハハ、ありがとう」


最高の仲間、最高の妻、最高の親友。

きっと僕は、世界一の幸せものだ。


アママイコ「おーいジュナイパー、速く速く!」

ジュナイパー「よし、行こう!」
 ▼ 251 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 21:13:01 ID:MWtBCePY [15/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







【SS】アシレーヌ「ポケモンサーカス団エクリプス!」






 ▼ 252 1◆J44kAZeDOM 17/04/11 21:14:02 ID:MWtBCePY [16/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
当SSはこれにて完結です
お読み下さりありがとうございました
質問等ございましたらお気軽にどうぞ

エクリプスシリーズ過去編
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=404456(アシマリ)
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=491425(オシャマリ)

その他関連作
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=510686(アローラ御三家のSS評価スレ)
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=563163(盗賊団編)
 ▼ 253 イケンキ@メンタルハーブ 17/04/11 21:14:58 ID:MGbVgRQ2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙ゥ!
 ▼ 254 バゴ@マグマのしるし 17/04/11 21:19:47 ID:o/hSZWQQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

アローラ御三家評価スレ貴方だったのか
 ▼ 255 ガカイロス@かいのカセキ 17/04/11 21:42:38 ID:KjvUPSNA NGネーム登録 NGID登録 報告
 ▼ 256 メハダー@ふしぎなタマゴ 17/04/11 23:13:01 ID:couBzEKw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 257 トシゲッコウガ@デルダマ 17/04/11 23:17:20 ID:Pa7rcyLU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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