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SS

ケンゴ「言えっ!どこだ!どこにいるんだっ!」

 ▼ 1 ドキング@マンキーのけ 24/02/04 15:41:10 ID:PMV.4m/. [1/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
男の右手のひらを無理矢理机に叩きつけ、その小指に拳銃を突き付けた。

「さあ、さあなぁ!今頃は…いひひひ」

ケンゴ「貴様っ!」

容赦なく引き金を引くと、男の小指が飛ぶ

「ぎゃはははははは!どこだろうなぁ!!」

今度は薬指に銃口を押し付け、さらにそれを弾き飛ばした

そんなことを繰り返し、10本の手指を部屋中にまき散らしても男はただ痛みに快感を得ているように大声で笑い叫ぶだけ。結局、最後に頭を打ち抜くまで、居場所を吐くことはなかった…
 ▼ 2 スイジュナイパー@かえんだま 24/02/04 15:42:40 ID:PMV.4m/. [2/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
数か月前…

ヒカリ「今日はお手柄だったみたいね」

明かりの消えた部屋の中、ヒカリが小さく呟いた

ケンゴ「ガーディがうまくやってくれただけさ」

照れ隠しするように、ヒカリに背を向ける

ヒカリ「謙遜しないの」

その背中にヒカリがそっと手を当て、頬を寄せる。彼女の温かさが伝わってくる

ヒカリ「ねぇ、ケンゴ」

ケンゴ「ん?」

ヒカリ「…先に言っとくね。私今度、転勤になるかもしれないから」

ケンゴ「え?」

驚きのあまり毛布を剥いで振り返ったケンゴの唇を、ヒカリが塞いだ

ケンゴ「ぇ?」

ヒカリがそっと唇を離す

ヒカリ「だから、今日は…お祝いしようか、お互いに」
 ▼ 3 イナン@サーナイトナイト 24/02/04 15:43:24 ID:PMV.4m/. [3/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌朝

『コトブキシティ郊外でポケモン同士による乱闘とみられる騒ぎが起きていると通報あり。現場近くを哨戒中の者は急行せよ』

ケンゴ「こちらK28、了解!」

走行させていたバイクの警察用無線から今日一つ目の仕事が発信され、ちょうど近辺をパトロール中だったケンゴがそれに答えた

ケンゴ「行くぞ、ガーディ」

現場方向へハンドルを切りながら、サイドカーに乗るガーディに呼びかける。職務上の相棒である。ガーディが「了解」と言わんばかりに吠えるのを確認すると、

ケンゴとヒカリは現在、警察に所属している。通称ジュンサーと呼ばれる女性警官が現場での主な任務を果たすものだが、近年の性別に関する社会の認識変化に順応して、男性警官の数も徐々に増え、ジュンサーという単語自体が死語となりつつあった

ケンゴが警官になろうと思ったのは、やはりヒカリに起因した。

ヒカリ『やっぱりさ、平穏なのが一番よ』

それぞれの旅を終え故郷に帰った時、ヒカリが言ったのはそんな言葉だった。

ヒカリ『平穏だからポケモンバトルができるし、平穏だからコンテストにだって出られる』

かつてのギンガ団による事件、ポケモンハンターとの闘い、旅の中でいくつもの苦難を乗り越えてきたヒカリ。ケンゴはその全てを知っているわけではないにしろ、とても強い意志があることをヒカリに感じた

ヒカリ『だからって、ケンゴまで警察に入ることないじゃない?』

その数年後、ヒカリに一年遅れて警察に就職したケンゴにヒカリは言ったものだった

ただ、一緒にいたかったから…その時のケンゴにはそれだけだった、それだけで良かった

ポケモンのことには詳しくとも、一般教養やらの勉学はからっきしのケンゴだった為、年に一度しかない採用試験に二人一緒に合格することは叶わなかったけれど
 ▼ 4 ミディグダ@ポイントアップ 24/02/04 16:09:58 ID:PMV.4m/. [4/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
現場は郊外にある小さな公園だった。到着すると、確かに野生ポケモン数匹同士が争っている

ケンゴ「ガーディ、とりあえず片方を抑えよう」

ガーディが頷くのを確認し、技の指示を出す。状況を見るに、近辺を縄張りとしているポケモン達に、どこかからの流れ者のポケモン達がくってかかっているようだった

片方のポケモン達を抑えている間に、応援の男性警官も到着し、同じく相棒のガーディがもう片方の抑え込みに入る

数分の攻防の後、事態は沈静化した。近辺を縄張りとしていたポケモン達は自分達のねぐらに戻り、流れ者のポケモン達はひとまずポケモンセンターへ搬送された

ケンゴの仕事は、大概いつもこんなものだった。大きな事件があるわけでもなく、ただ小さな騒ぎを毎日少しずつ解決していく。それだけこの町の治安が良いのだということもあるし、ケンゴもそんな毎日に満足していた

応援の警官に別れを告げ再びパトロールに戻り、しばらくバイクを走らせていると、警察無線が再び鳴った

『ケ…ゴ…ん…ね?』

しかし、平時とは違い、強いノイズ混じりで聴きとりづらい。ケンゴは音に集中しようといったんバイクを路肩に止めた

『ケンゴクんダね?』

無線機が不良を起こしているのかと思いながらも耳をそばだてて聴いてみると、若干の推測は入るが、途切れ途切れの言葉を頭の中で補完できそうだった

『このム線ハ君へのプライベートモードで発信していル』

自分のみ?なんとなく聞き覚えのある声、だが誰かまでははっきりとは分からない

『今カらイう場所に至キュウ急行して欲しイ。場ショは…』

そしてその声の主を思い出した時、無線は既に切れていた
 ▼ 5 ンシカイオーガ@うつしかがみ 24/02/04 16:22:23 ID:PMV.4m/. [5/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
言われた場所に到着すると、そこは昔に廃棄された研究施設だった

ケンゴ「確かナナカマド博士が昔使っていたっていうとこだよな」

ナナカマド博士がまだ若かった頃、研究者として駆け出しだった時代に入職していたという研究施設。今は売地となっているが、施設自体はそのまま残されていた

再びノイズ混じりの無線が鳴る

『ヨく来テくれた、なカへ入ってくレたまエ』

ケンゴ「本当に博士なんですか?」

試しに呼びかけてみる

『ナかへ入ってくレれバわかる』

応援を呼んだ方が良いのではないか?とも思ったが、その手段としての無線はこのプライベート通信に乗っ取られ操作がきかなかった

ケンゴ「仕方ない、よく注意して進もう」

相棒のガーディへ言い、二人は研究施設内へと踏み入った
 ▼ 6 ンフィア@ヤミラミナイト 24/02/04 16:42:25 ID:PMV.4m/. [6/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
同じ頃

ヒカリ「やっぱり、行かなきゃダメですかねぇ〜?」

上目遣いで、何度目ともわからない上司への転勤の取り下げを懇願する部下を見て、女上司は何度目ともわからないため息をついた

「これは決定したことなの。そんなに長くはかからないはずだから、行ってきなさい」

ヒカリ「でもですねぇ〜」

転勤先はオーレ地方。上司曰くやや大きな事件が起きたらしく、その事後処理で人員が不足しているとかで期間限定的に転勤ということだった

「何度も言うがこれは既に上が決めたことなの。他にもうちの部署から何人か行くんだから、一人だけ例外を出すわけにはいかないわよ」

ヒカリ「何人か行くんだったら、私一人行かなくても…」

左右の人差し指をこんこんと付け合わせながら小さく言うと、女上司がキッと目を剝いたので、ヒカリは観念したように後ずさりしながら自分のデスクに戻った

ノゾミ「またダメだったって?」

ヒカリ「あーあ、どうすれば丸め込めるのかなぁあの人」

ノゾミ「気持ちはわかるけど、今回はもうそのへんにしときなよ」

ヒカリ「ノゾミのいじわる」

同じ年に警察へ入ったノゾミに舌を出してあっかんべーをする

ヒカリ「だいたいあの人さぁ〜」

ノゾミ「はいはいおしゃべりはそこまで。早いとこ今日の分の仕事片付けて帰ろうよ。愚痴なら今日はゆっくり聞いてあげられるからさ」

ヒカリ「私今月ちょ〜っとだけピンチなのよねぇ」

ノゾミ「今日くらいは奢ってあげる」

ヒカリ「やったー!よぉしそれじゃあちゃちゃっと片付けちゃって、ちゃちゃっと飲みに行きましょう〜!」

ノゾミ「あんたの切り替えの早さを見習いもんだよ」
 ▼ 7 ェークル@ゾウドウのさび 24/02/04 16:57:55 ID:PMV.4m/. [7/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
その夜

ヒカリ「だ〜か〜ら〜、ち〜が〜い〜ま〜す〜」

ノゾミ「はいはい、そういうことにしといてあげるから」

次の店をどこにしようかと、二人は街中を歩いていた

ヒカリ「だいたいケンゴはさぁ〜」

ノゾミ「おっと。ねぇヒカリ、こっちに静かに飲める店があるんだけど、行ってみない?」

ノゾミが表通りから横道にそれた街灯の少ない道を指した

ヒカリ「へぇ、そなんだ」

ノゾミ「いわゆる“隠れ家的”な店ってやつ」

ヒカリ「へぇ、ノゾミ詳しいのね」

ノゾミ「先輩に一度連れてってもらったことがあってさ。凄く良いとこだったよ」

ヒカリ「うん、行く行く!」

二人はそのままその横道に入っていった。数分程歩いた所で居酒屋らしき看板が見えてきた

ヒカリ「確かに、なんか雰囲気良さそう」

ノゾミ「でしょ?さ、入ろっ…」

その時、何かが二人の背後に降り立つ気配がした。ハッとして振り返ったが、遅かった

ヒカリ「ノゾミ!!?」
 ▼ 8 ーケン@ポケモンのおとしもの 24/02/04 17:30:00 ID:PMV.4m/. [8/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
降り立った黒い何か、店の明かりに仄かに照らし出されてはいるものの、やはりその姿は黒く、はっきりと何者なのか認識できない。その何かの腕が、振り返りざまのノゾミの肩を裂き、赤い血が空中に弧を描いて飛び散った

ノゾミ「くっ…」

ヒカリ「しっかりしてノゾミッ!」

ノゾミ「わ、私は大丈夫…。それより、逃げるよっ!」

ノゾミは言い終わらないうちにヒカリの手を取り走り出す。が、肩の痛みで上手く走れず、ヒカリが代わりにノゾミの手を引き先導して走った。走りながらヒカリはポケッチで警察への通報ダイヤルをまわす。一度目のコールで繋がってくれた

ヒカリ「もしもし、こちらコトブキ署のヒカッきゃっ!!」

追ってきていた黒い何かはあっという間にヒカリ達に追いつき、今度はヒカリの肩を裂こうとしていた。間一髪のところでそれを避けた拍子に、二人は路肩の芝生に転倒してしまう

『もしもし!?どうしましたか!?』

転倒した拍子に後方に取り落としたポケッチの向こうで、警官が呼びかけてくる。しかし、黒い何かがまるで気づかぬ様子でそれを踏み潰しながらヒカリ達にゆっくりと近づいていくる。こんな時自分のポケモンがいればとヒカリは歯噛みする。規則上、職場には自分のポケモンを持ち込んではならず、訓練された警察ポケモンのみで業務にあたることになっている

ヒカリ(どうすれば…)

その瞬間、路肩に駐車されていた自動車が、突如として爆発した

ヒカリ「え…」

ただでさえ早鐘していた心臓がその爆音にさらに追い打ちをかけられる。黒い何かも足を止め、そちらに向き直った。バキッ、バキッと炎の中から破壊された車の残骸を踏みしめこちらに何かが近づいてくる音がする

ノゾミ「ぽ、ポケモン…?」

燃え上がる炎に照らされて、ヒカリはその姿をはっきりと認識できた

ヒカリ「ゴウカ…ザル?」
 ▼ 9 ガタブンネ@ソルガレオのおやつ 24/02/04 19:29:01 ID:IPuAjt.U NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
このらSSが面白いかどうかは置いといて、お前が龍が如く8やってるのはわかった
 ▼ 10 ニリッチ@アッキのみ 24/02/05 11:22:46 ID:0rrMRYqw [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それはほんの一瞬のことだった。

現れたゴウカザルが咆哮を上げると素早く黒い何かに飛びつき、そのまま自身が今現れた炎上する自動車へと放り投げた。炎に包まれた黒い何かが奇妙な悲鳴を上げる、瓦礫の間に挟まったらしく身動きが取れず蠢いている。

炎の照り返しによって、ヒカリはその黒い何かがポケモンであることをようやく認識できた。だが、通常知られているものとはどこか様子がおかしかった。目が赤く光り、身体の表面は原色とは異なり真っ黒なのだ。

ゴウカザルが再び咆哮を上げると、全身に真っ赤な炎を発生させる。炎の大玉となり、炎上する自動車目掛けて突貫した。燃え上がる黒いポケモンと激突する

ノゾミ「まずいよヒカリ!エンジンに…」

これから起こることを予測したノゾミがヒカリの手を引き立ち上がろうとしたが、遅かった。激しさを増した炎がついにエンジンに引火し、大爆発を起こした。強烈な爆風が周囲を襲う。周辺の建物のガラスは割れ、二人は芝生の上を何メートルも吹き飛ばされた

ノゾミ「うぅ…、大丈夫か?」

ヒカリ「え…えぇ、なんとか…」

吹き飛ばされた衝撃で身体のあちこちを打撲したらしく、うまく立ち上がれずにいた。改めて爆心地へ目を向けると、燃え上がる炎の中、再び足音が聞こえる。ゴウカザルが炎の化身のように、その中から現れた。

「………」

ゴウカザルと視線が合い、ヒカリは硬直した。次は自分なのだろうか?

「……」

数秒見つめ合うと、ゴウカザルはふっとどこかを振り返り、そちらへ向かって飛び去って行った

ノゾミ「助けて…くれた…?」

ヒカリ「………」

呆然とする二人の耳に、こちらへ急行してくる緊急車両のサイレンが届いたのは、それが現場へ到着してからだった
 ▼ 11 ドロクツキ@マルチアップ 24/02/05 11:46:38 ID:0rrMRYqw [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目が覚めた時、ケンゴは自宅のソファに横になっていた。ポケッチで時計を確認すると、既に深夜だった。

仕事を定時に終え帰宅する途中、『今日はノゾミと飲んでくるから遅くなるよ』というヒカリからのメールを確認した。今日の食事当番はヒカリなのにすっぽかしやがってと内心悪態をつきつつ、コンビニで適当に弁当を買って帰宅すると、それをちまちま食べ、風呂に入り、ヒカリが帰ってくるのを待っていようかとぼーっとテレビを見ていたら、いつの間にか眠っていたようだ

ケンゴ「それにしても…」

ケンゴは帰宅途中からずっと、『今日起きたこと』が気になっていた。いつも通り起床してヒカリと朝食を食べ、出勤し、いつも通りパトロールして、いくつかの揉め事を片付けて…。でも、どこか断片的に記憶が抜け落ちているような気がした。それがどこなのかは、思い出せない。その時、

ヒカリ「た…ただいまぁ…」

玄関が閉まる音と共に、ヒカリの憔悴しきった声が聞こえた

ヒカリ「あ、ケンゴ…起きてたんだ…」

声同様、表情も、それどころか全身が憔悴しきったヒカリがリビングに姿を見せた

ケンゴ「どうしたんだよ、服までそんなボロボロで?」

へへっと小さく微笑むとそのまま床にへたり込んだヒカリを見て、ケンゴは慌てて駆け寄り、ひとまず自分が今までいたソファに横にさせた

ヒカリ「ちょっと…ね?」
 ▼ 12 ブトロス@シンクロマシン 24/02/05 13:44:36 ID:0rrMRYqw [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝

昨夜の事件について、コトブキ署内でその概要通達が発信された

『通常とは異なる細胞組成を持つポケモンが出現し、突如当署所属警官へ暴行。しかし、野生とみられるゴウカザルがこれを制圧・焼死させた』

端末画面に表示された通達に目を通しつつ、昨日ヒカリから聞いたことと相違ないことをケンゴは確認した。

『なお、検出されたこの異常細胞組成は、過去オーレ地方にて確認された「ダークポケモン」のそれと非常に酷似したものと鑑識は見解している』

ケンゴ「ダークポケモンか…」

『当時のオーレ地方においては、特殊性能のモンスターボールを使用し捕獲することである程度その暴走を抑え、事件を終息へと導いたと記録されている。仮に他のダークポケモンがコトブキ・あるいはシンオウ地方に潜んでいる危険性を考慮し、現在オーレ地方支部とのリモートによる合同捜査本部を立ち上げている。署員は平時・緊急時を問わずこのダークポケモンの出現に厳重に注意されたし』

ケンゴ(そういえばヒカリの今度の転勤先もオーレ地方って言ってたよな…)

ヒカリの場合、今回の事件とは違う要件での期間限定転勤だが、言い知れぬ不安をケンゴは感じた
 ▼ 13 ボツボ@ニビあられ 24/02/05 14:24:02 ID:0rrMRYqw [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パトロールで巡回する場所はシフト制で、今日はハクタイシティ方面までバイクを走らせることになっていた。テンガン山を抜けもう少しでハクタイシティというところで、まるでケンゴの到着を見計らっていたかのように警察無線が鳴る

『ハクタイシティ中央広場付近でギンガ団残党と名乗る暴徒が発生中。周囲を哨戒中の者は急行せよ』

ギンガ団が解体されもう何年にもなるが、未だにその残党を名乗る者は後を絶たない。だがそれは、当時実際に所属していたものが地下へ潜り、しょうもない計画を立てては街で暴徒と化すか、“ギンガ団”という名を借りて目立ちたいだけのチンピラの類かのいずれかでしかなく、警察も左程手を煩わせているわけではない。ケンゴも、またいつものことだとため息をつきつつ、バイクの速度を上げた

ハクタイシティ広場に到着すると、二人組の男達が騒いでいた。片方はケンゴの二倍はありそうかという大きさの男で、広場のベンチやオブジェを力任せに破壊しまくっている。もう片方は細身で相方よりははるかに小さく、手に持ったムチで市民のポケモンを殴打しながら何かふんぞり返った戯れ言をほざいている

ケンゴ「止まれ!警察だ!」

ケンゴが警棒を構え彼らの前に躍り出る。相棒のガーディも彼らに激しく吠え威嚇した

「あぁ?なんだてめぇはぁ?」

「俺達“ギンガ団”に逆らっていいと思ってんのかよ?」

今回の場合は、どうやらただの目立ちたがり屋のチンピラのようだ

ケンゴ「聞こえなかったのか?今すぐその破壊活動を停止しろ。ポケモンも解放するんだ!」

「っるせぇんだよ!!」

細身の方がムチをケンゴに向けて振るう。相棒を守ろうとガーディがケンゴの前に飛び出しその殴打を受ける

ケンゴ「大丈夫かガーディ!?」

着地し、大丈夫と言うようにこちらを振り返りガーディが鳴いた

「よそ見してる場合かよっ!」

その隙をついてケンゴの後ろに回り込んでいたもう片方の大男が、ケンゴの頭よりはるかに大きな拳をケンゴ目掛けて振り下ろそうとしていた。咄嗟に警棒でガードするが、まるで小枝でも折るように拳が警棒を破砕し、ケンゴの頭部を殴打した

「大したことねぇなぁ〜警察さんよぉ〜」

衝撃で大きく吹き飛ばされたケンゴに、大男がのしのしと迫り、さらに拳を振り上げ殴打しようとする

背後でガーディのうめき声が聞こえた。細身の男に果敢に立ち向かっていたが、どうやら男のムチには電流を発する機能があるらしく、殴打された際にまともにそれを食らい倒れ伏してしまっていた

ケンゴ(ガーディ!!)

ただのチンピラだと甘く見ていた…自身の油断への後悔に歯噛みしながら、声にならない声が心の中で叫んだ。目の前では大男の拳が迫っている。

その時、ケンゴの中で何かが燃え上がる感覚がほとばしった
 ▼ 14 ガハッサム@かわらずのいし 24/02/05 14:52:06 ID:0rrMRYqw [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
燃え上がる感覚はケンゴの心を激しく、しかし冷静に燃やした

大男の拳を右腕で受け止める。受け止めた瞬間、その腕は鋼鉄のように固い筋肉へと変化した

「!?」

驚く大男の隙を見逃さず、今度は左腕で大男の腹部目掛けて拳を突き出す。ちょうどド真ん中にヒットする瞬間に、右腕と同じ筋肉の塊へと変化した

「なっ…!なんだてめぇ!」

大男がケンゴの拳に吹っ飛ばされたのに気づいた細身が、慌ててケンゴへムチを振るってくる。ケンゴにはその軌道がはっきりと見えた。屈みこんで軌道を避け、立ち上がり越しに右足で回し蹴りを繰り出す。それが細身の足をすくい上げる瞬間、やはり腕と同じく、筋肉の塊へと変化する

「ひっ…!」

ひっくり返った細身の顔目掛け、今度は左足を振り下ろす。踵が顔面を殴打する瞬間、左足も変化する

「てめぇぇぇぇぇぇ!!」

復活した大男が、今度はケンゴを取り押さえようと両手を広げながらその巨体を突進させてきた。ケンゴはわざとそれに捕まってやった

「さぁ!!!おあそびは終わりだぁ!」

ドヤ顔の大男がケンゴをホールドした腕に全力を込め、締め上げようとする。が、ケンゴは何の反応も示さず、じっと大男を見つめる

ケンゴ「……燃えろ」

ケンゴの言葉の意味を理解する前に、大男の身体は炎に包まれた

「あああああああああああ!!!!」

ケンゴから離れ、自分を覆う炎を消そうと大男は地面をのたうち回る

「お…おまえは一体…」

その横で腰を抜かした細身がケンゴへがくがくと指を向ける

ケンゴ「…警官だよ」

しかしその姿は、灼熱の炎を全身にまとった獣だった
 ▼ 15 ホミル@ニビあられ 24/02/06 08:24:50 ID:Vi8kDuyU [1/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ケンゴは元の姿へと戻り、失禁でズボンを濡らした男達をそのままハクタイシティの拘置所へぶち込むと、再びバイクを走らせた。一旦ガーディの回復の為にポケモンセンターへ向かう

さっきの戦いの中、ケンゴは昨日起きたことを少し思い出していた、ハンドルを切りながらその続きを思い出そうとする

『君は適性者として選ばれた』

『これは、君にしか託すことができないことなのだ。現段階では』

あの研究施設で、ケンゴはそう言われた

だが、まだ断片的に思い出せるだけだった。もう一度あの研究施設へ行き、確かめる必要があると思う

……

終業後、昨日訪れた研究施設に再び足を踏み入れた

エントランスは一面ガラス張りの吹き抜けになっており、差し込む夕日が埃まみれの施設内を赤く照らし出している。その中央に、昨日自分がつけたであろう足跡もはっきりと認識できた。その足跡に従って奥へ進む。進むたび、自分の革靴の音がこつこつと施設内にこだまする。エントランス奥に見える一本道の通路に入り、その最奥のドアの前で立ち止まる

「入ってきたまえ」

中から声がした。昨日聞いた声と同じ声

ケンゴは小さく息を吞んでからドアを開く。小さな研究室のような室内、その奥の壁際に置かれたデスクに小さなデスクライトが一つあるだけで室内は暗かった。そして、デスクには男が一人座っている

「実験は成功したようだな」

椅子をぐるりと回転させながら男の身体がこちらへ向きを変える

ケンゴ「博士…」

昨日聞いた聞き覚えのあるノイズ混じりの無線の声、記憶の中で薄っすらとしか思い出せなかった声、そしてケンゴの目の前にいるその男も、やはりナナカマド博士だった

ケンゴ「実験って…どういうことですか…?」

ナナカマド「君の獣化実験だ」

ケンゴは絶句した
 ▼ 16 ノムッチ@ようきミント 24/02/06 08:46:55 ID:Vi8kDuyU [2/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ケンゴ「獣化…?」

やっと絞り出したその言葉で、昨日起きたことの記憶が一気に想起していく

………昨日、自分はこの施設に無線で呼ばれた

そして同じようにエントランスを歩き、この部屋に辿り着き、ナナカマド博士と対面した

ケンゴ『ナナカマド博士!?どうしてこんなところに?』

数年前、旅から戻った際にその報告をして以来会っていなかったが、博士は相変わらず表情のないような面持ちのままだった

ナナカマド『久しぶりだなケンゴ君。このようなかたちで呼び立ててすまないとは思っているが、とりあえずかけたまえ』

ナナカマドが指し示した傍らの椅子にケンゴは腰かける

ケンゴ『どうしてこんなところにいるんです?』

ケンゴは同じ質問を繰り返す

ナナカマド『君に協力してもらう為だ』

ナナカマドはそれだけ言うと、自分のデスクに向き直り、何やらカタカタとキーボードを叩く。すると、博士の端末から壁面に向かってホログラム映像が投影される。そこには顔写真と氏名が1セットになったブロックがいくつも並んでいる

ケンゴ『これって…』

それはシンオウ地方の警察内職員データだった
 ▼ 17 ゲキッス@バックのかんづめ 24/02/06 09:14:36 ID:Vi8kDuyU [3/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ナナカマド『君は適性者として選ばれた』

ナナカマドがブロックの一つ、ケンゴのものを拡大表示させる

ケンゴ『適性者?』

ナナカマド『生物はみな、個体毎に固有の塩基配列を持つDNAを有している』

拡大表示されたケンゴの情報の横に、DNAの塩基配列情報が映し出される

ナナカマド『私は、その塩基配列に別の塩基配列を組み合わせることで、互いの形質を共有できるのではないかと、ある者と研究を続けてきた』

ホログラム上の塩基配列に、別の塩基配列が組み合わさり、新たな螺旋を作り上げる

ケンゴ『博士、言ってることがよく…』

突然難解な化学の講義を始めるナナカマドにケンゴは戸惑い言葉を発するが、ケンゴの方を振り向いたナナカマドの顔の有無を言わせぬ厳格さにそれを仕舞った

ナナカマド『つまり、ヒトの塩基配列にポケモンのそれを組み込むとすると、どうなると思うかね?』

ケンゴ『え…?』

ナナカマド『ヒトの形質とポケモンの形質を併せ持った者…倫理性が著しく欠如したことだとは思うがね…』

少し委縮した声を出すナナカマドだが、表情は相変わらず堅い

ナナカマド『だが、どんな人間であってもポケモンの塩基配列を組み込めるわけではない。適性な塩基配列を持つ者と、それに適合するポケモンの塩基配列でなければならないのだ』

ケンゴ『……それが…僕だと?』

ナナカマドは頷いた
 ▼ 18 ガジュペッタ@サトピカZ 24/02/06 09:20:03 ID:jPQoLEOw NGネーム登録 NGID登録 報告
このケンゴはキレイなケンゴなん?
 ▼ 19 カヌチャン@ラルトスのおとしもの 24/02/06 09:40:12 ID:Vi8kDuyU [4/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ナナカマド『君の塩基配列は、このポケモンとの適合値が異常な程高い数値を示している』

ホログラムにさらにポケモンの画像が映る

ケンゴ『ゴウカザル』

ナナカマド『君には適性者として、このポケモンとの形質共有を受けてもらう』

突然の告白にケンゴは動揺し椅子から勢いよく立ち上がる

ケンゴ『ちょっと待ってください!突然そんなこと!!だいたい何で博士が警察の個人情報データベースをっ!!』

ナナカマド『動揺する気持ちはよく分かる。質問には、一つ一つ答えよう』

強い剣幕でまくし立てようとするケンゴに、ナナカマドはやはり冷静に答える

ナナカマド『適性者の選定・形質共有には塩基配列の適合とは別に、強固な肉体とある程度の忍耐力が求められる。その要素を満たす者が多いと見込まれる組織は、常にその職務において肉体の鍛錬を必要とする警察だったのだ』

ケンゴ『だからって、個人情報データベースはどうやって…そもそも塩基配列だって』

ナナカマド『警察の上層部に昔馴染みがいてな。塩基配列の採取について言えば、健康診断だ』

ケンゴ『健康診断?』

確かに安全衛生法上定められた定期健康診断を、毎年一度受けている

ケンゴ『でも、DNAを採取できるような検査なんて…』

言いながら、今年の初めに受けた定期健康診断を思い出した。昨年から続いていた冬期インフルエンザの流行で署内でも欠員・人員不足が続いていた。その蔓延防止策として、受診者全員にPCR検査が行われた。その時、看護師がケンゴの舌を綿棒でこすったのを覚えている。ケンゴは少し力が抜け、再び椅子に腰かけた
 ▼ 20 ルトラネクロズマ@おしえテレビ 24/02/06 09:41:12 ID:uSIMrmbU NGネーム登録 NGID登録 報告
早くセレナをレしろよ
 ▼ 21 アコイル@ピカピカだんご 24/02/06 10:09:14 ID:Vi8kDuyU [5/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
察したようなケンゴの態度にナナカマドは満足したのか、ケンゴの次の質問を予想したように説明を始める

ナナカマド『そもそもこのような研究を私が始めたのは、あることを未然に防ぎ、制圧する為だ』

ケンゴ『あること?』

ナナカマドが頷き、ホログラムに新たな画像を映す。全身に黒いオーラをまとい、目を赤く光らせるポケモン

ケンゴ『ダークポケモン…』

警察内の情報データベースでしか見たことがなかったが、数年前オーレ地方にてポケモンの大量誘拐が発生した。事件を起こした組織はそのポケモン達に特殊な処置を施すことでダークポケモン化させ、オーレ地方を支配しようとした。しかし、ある者たちの活躍によってダークポケモン達は全て保護・清浄化された。組織もトップの死を以って解体されたとされていた。しかし、その数年後にまた同じ事件が発生、今度は別の者がその事件を解決し、組織も完全に壊滅したということだった

ナナカマド『今再びダークポケモンが確認されている。しかもそれはオーレ地方に限らない』

ダークポケモンの画像の横に地図が表示され、その上に番号付きの複数の赤い点が現れる

ナナカマド『ダークポケモンが確認された場所と順番なわけだが』

ケンゴ『シンオウ地方に、近づいてる?』

ナナカマドが頷き、続ける

ナナカマド『確認されている場所は複数だが、目撃者の証言を総合するとおそらく、こちらへ向かってきているダークポケモン自体は一体だと思われる』

ケンゴ『以前事件を解決したという人達は、動いていないんですか?確か、スナッチボールだとか』

ケンゴが閲覧した情報では、特殊なモンスターボールを使うことでしかダークポケモンは捕獲することができなかったという

ナナカマド『勿論彼らも動きはした。だが、これを止めることはできなかった。スナッチボールは、そのダークポケモンには通じなかったのだ…』
 ▼ 22 リアドス@サーナイトナイト 24/02/06 10:36:26 ID:Vi8kDuyU [6/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ケンゴ『通じなかった?』

ナナカマド『オーレ地方のスナッチシステム研究機関がその対策として強化型を開発しているところではある。よって、現段階でこのダークポケモンを止める術は、瀕死状態にさせることのみだ』

ケンゴ『その為に、僕が必要だと?』

ナナカマド『一体とは言えダークポケモンが現れたということはつまり、背後にはかつての、あるいは新たにダークポケモンを利用した企みを持つ組織が存在することは確かだ』

ケンゴ『警察や他の機関との連携は?』

ナナカマド『先程言ったように、警察の上層部には昔馴染みがいる。それとの連携で極秘に動き出しているところだ。この研究施設を利用しているのもその為だ』

ケンゴ『どうして極秘なんですか?』

ナナカマド『我々にはまだ具体的な打開策が見いだせていないのだ。そんな中警察内で情報共有を行えば、必ずそれは外部へと漏洩する。止める術のない凶悪で謎のポケモンがシンオウ地方に迫りつつあると知れれば、市民のパニックは避けられまい。幸いにも、今までダークポケモンが確認されている地点はいずれも辺境の砂漠地帯や人里離れた森の中ばかりで、関係者以外でこれを知る者はいない』

ケンゴはひとまずは現状の情報に納得はした。が…

ケンゴ『僕は、どうすれば良いんですか、どう、なるんですか…?』

ダークポケモンの発生と博士の今の研究、つまりそれは…

ケンゴ『僕がポケモンになってそいつと戦えと…そういうことですか…?』

ナナカマド『ポケモンになるのではない。あくまでも君は人間だ、その上でポケモンとしての形質を発揮して欲しいのだ』

自分の言ったこととの違いがケンゴには理解できない

ケンゴ『人間でありポケモン…化け物じゃないですか』

ナナカマド『今は倫理観の話をしている場合ではないのだ。…すまない』

言うと、ナナカマドは素早くケンゴの腕に注射器のようなものを突き立てた。ケンゴの身体から即座に力が抜けていき、椅子から転げ落ちる。遠ざかる意識の中で見たものは、ナナカマドの沈痛な表情だった
 ▼ 23 ジオ@エルレイドナイト 24/02/06 10:49:37 ID:Vi8kDuyU [7/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
気づくと、ケンゴは手術台らしき物の上で両手足を拘束されていた

ケンゴ『博士、これは!?』

視界の隅に、手術用のヘアキャップとマスクをしたナナカマドが見える

ナナカマド『君にはいくら言葉を重ねて謝罪しても足りないだろう…しかし、これは、君にしか託すことができないことなのだ。現段階では』

ナナカマドは手元のチュープから注射器へその中身を移すと、ケンゴの左腕の制服をまくる

ナナカマド『しばらくは痛みが走るだろう。だが、どうか耐えてくれ…』

ケンゴの右腕に現れさせた血管に、注射針を射し、先程充填した液体を注入していく

ケンゴ『うっ…あ、ああああああああああああああ!!!!!』

初めは微かな痛みだけだった。それが段々と強さを増し、地獄の業火に焼けるような熱さと痛みが全身を覆い尽くす。拘束されているケンゴにはただ叫ぶことしかできなかった

ケンゴ『あああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!』

どれくらいの間苦しんでいただろうか、ケンゴはいつの間にか気を失った
 ▼ 24 ーシィ@ヘイラッシャのヒゲ 24/02/06 11:26:31 ID:Vi8kDuyU [8/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
再び気づいた時、今度は暗闇の中にいた。全身にはまだ焼けるような痛みが微かだが残っている。手探りで周囲を検索すると、自分が夜闇の自動車の中にいるのだと認識できた。状況をひとまず理解できたことに安堵し、シートに背をもたせる

ケンゴ『もう…化け物になってしまったんだろうか』

ナナカマドが注入した液体、おそらくあれにはゴウカザルのDNAが入っていたはずだ。自分はこれからどうなるのだろうという不安がケンゴを強く苛む

その時、自動車の外から悲鳴が聞こえた

暗闇の中、窓の外に目を凝らすと、二人の人影と、それを追う大きな黒い影が見えた。まばらな街灯の明かりに照らされたその人影は…

ケンゴ『ヒカリ!?』

ノゾミの姿も見える、どうやら肩を負傷しているらしく、動きがぎこちない。黒い大きな影がその二人を追うようにのしのしと歩を進めていた

ケンゴ『あれは…』

全身の黒いオーラ、赤く光る目、間違いなくダークポケモンだと認識できた

ケンゴ『まさか、もうやってきてたのか!?』

ヒカリ達を助けようと自動車のドアから飛び出そうとする。その時、こちらの音に気づいたのか、ダークポケモンが一瞬振り返る

そこからは一瞬のことだった。ケンゴの心の奥底で、何かに火が付いたような気がした。一瞬合ったダークポケモンの視線、そこから猛烈な殺意と、怨念めいた何かがケンゴの中に流れ込んでくる。心の奥底でついた火がそれを取込み、さらにその勢いを増す。そして炎へと進化したそれは、身体へと伝わり…

ケンゴ『うああああああああああ!!!!!!』

叫びと共に全身が燃え上がり、変化していく。燃え上がった炎で自動車が爆発した

ヒカリ達がその爆発に気づいたのが視界の隅で分かる。だが、分かるだけだった。ケンゴは自分の意識なのか別の意識なのかもわからぬままにダークポケモンへ突っ込み、燃え上がった自動車へ放り投げる

ケンゴ『うああああああああああ!!!!!!』

自分のなのか別のなのかもわからぬ叫びを再び上げると、全身に炎の鎧をまとい、うごめいているダークポケモンに再び突撃する。エンジンに引火し大爆発する炎の中、さらに自分の炎を増大させ、ケンゴはダークポケモンを焼き殺した

ダークポケモンが死んだのを認識すると、炎の鎧が消え、炎上するその場から外に出る。そこで、呆然とするヒカリ達と目合った。だが、ただ目が合っただけ。それだけだった。ケンゴは誰の者とも思えぬ意識でその場を飛び去った

そしていつの間にか自宅に着いていて、深夜に目覚めたのだった
 ▼ 25 ラブルタケ@ヨロイこうせき 24/02/06 11:50:27 ID:Vi8kDuyU [9/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
……想起した記憶から、目の前の現実に戻る

ケンゴ「…あれが、ポケモンの形質ということですか」

ナナカマド「思い出したようだな……そうだ」

一つの疑問が頭をよぎる

ケンゴ「なんで僕は、昨日博士にあった記憶や、その…獣化した記憶を忘れていたんですか?」

ナナカマド「それが今回の実験のもう一つの目的だったのだ」

ケンゴ「もう一つの?」

ナナカマド「今回の目的の一つ目は君のポケモンとしての形質の発揮、つまり獣化が成功するかどうか。二つ目は、ショック軽減のようなものだ」

ケンゴ「ショック軽減?」

ナナカマド「一度獣化に成功できれば、再度そうすることも可能となるはずだ。その証拠に、君は今日ハクタイシティでチンピラを獣化によって蹂躙した」

昼間のことを思い返す。確かにあの時は何の意識もなく獣化できていた

ナナカマド「だが一度目が上手くいかなければそうはならなかっただろう。納得のいかぬまま処置を受け、初めて自分の意識が持っていかれるような体験をした。そのショックの記憶が二度目の獣化の抑制材料となる可能性は充分に有り得る。だから一時的に断片的な記憶喪失を起こす薬を、獣化処置の際に併せて投与していたのだ」

ケンゴ「完全に獣化をものにした…と?」

ナナカマド「二度目は成功した、ごく自然に。たとえ記憶が戻ろうとも、君はもう、再度ごく自然に獣化できよう」
 ▼ 26 ンリキー@2ごうしつのカギ 24/02/06 13:59:44 ID:Vi8kDuyU [10/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
確かにごく自然に獣化できたし、だからこそ今日の騒ぎを鎮圧できた。だが…

ケンゴ「もう僕は、純粋な人間ではないんですね…」

ヒトでありながらポケモンを殺せる程の力をもつ化け物。一度目の獣化の記憶からケンゴの中ではその印象が強く心を締め付ける

ナナカマド「純粋な人間とは、どういうものだと思うかね」

ケンゴ「え?」

ナナカマド「ヒトは古来より、欲望、嫉妬、羨望、怨嗟…ヒトがヒトたる所以とも言えるこれらの要因から、その闘争心を燃やし多くの争いを繰り返してきた。それは未だ止むこともなく、この世界のどこかで今も常に憎しみの渦が戦火を燃やし続けている。ヒトというのは生まれながらにして、潜在的に闘いという本能を持つ種なのだと私は思っている」

ケンゴ「潜在的な本能…」

ナナカマド「勿論現代では全てのヒトが闘争を繰り返しているわけではないがね。君の言う純粋な人間というのは、そういう者達のことであろう?」

ケンゴ「はい…」

ナナカマド「君が憂慮することは分かる。だが、ヒトという種に関して言うならば、君は今純粋な人間と言えるのだ」

話を煙に巻かれているようでケンゴは少し苛立ちを含んだ口調になる

ケンゴ「僕は…哲学を話しているわけではありません」

ナナカマド「この任務が終われば、君を元に戻すことはできる。一度注入した塩基配列をサルベージする技術は既に完成している。だから、今はあまり深く考えこまずにいて欲しい」

ケンゴ「元に戻れるなら、それを先に言ってください!」

ナナカマド「ただ、時間はあまりない」

ナナカマドがキーボードを叩き、昨日と同じようにホログラムが投影される。ヒトの心臓と、ポケモンのものと思われる心臓が脈打っている

ナナカマド「ヒトの心臓が一生のうちに脈打てる回数には限度があると、知っているかね?」

ケンゴ「はい…」

ナナカマド「それはヒトに限らず、ポケモンも同じだ。そして…」

ナナカマドがキーを押すと、投影の中の二つの心臓がその脈打ちを速める

ナナカマド「ポケモンの心臓は闘争時、つまりポケモンバトルやそれに類する興奮状態にある時、ヒトの12倍の速さで脈打つのだ。その急激な血液の循環が、トレーナーからの指示等への瞬時の反応、技を繰り出す為のエネルギーの生産、受けたダメージによる痛みの軽減を可能としているのだ」

片方の心臓がもう一つとは比較にならない程尋常な速さで脈打っている

ケンゴ「つまり…」

ポケモンとなって戦う自分。だが肉体自体は人間。戦えば戦う程、ケンゴの寿命は確実に通常の人間より急速に消費されていく…

ナナカマド「だから、この任務は、ただ治安維持の為だけではない。君の為にも早急に完遂させなければならないのだ」

ナナカマドは椅子から立ち上がりケンゴの肩にそっと手を置く

ナナカマド「本当にすまないと思っている。だが、今回の任務は、君に託すしかないのだ…」
 ▼ 27 リーン@ポケモンボックス 24/02/06 14:18:15 ID:Vi8kDuyU [11/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
帰宅すると、ヒカリがキッチンに立って夕食の準備をしていた

ヒカリ「おかえりケンゴ。遅かったね?」

ケンゴ「あぁ…」

昨夜ダークポケモンに襲われたことなどどこ吹く風で、鼻歌混じりに調理している

ヒカリ「ん?どうかしたの??」

ヒカリの背中をただじっと見つめているだけのケンゴを訝しんでヒカリが尋ねる

ヒカリ「なぁに?昨日の食事当番すっぽかした分なら、今やってるんだからチャラでしょう?」

ケンゴはうんうんと首を横に振る

ヒカリ「じゃあ…あっ!もしかして私が冷蔵庫のプリン食べちゃったのバレちゃった!?」

またケンゴが首を振る

ヒカリ「え〜。じゃあ一体何な…」

言いかけるヒカリをケンゴは勢いよく抱きしめた

ヒカリ「のよ…」

ケンゴ「…ごめんヒカリ……ごめん…」

ケンゴはヒカリの肩越しに涙を流していた

ヒカリ「ど、どうしたの急に?何か嫌なことあった??」

困惑しながらも、落ち着かせるようにケンゴの背中に手を回し優しくさする。ケンゴはまたうんうんと首を横に振るだけだ

ケンゴ「…ごめん…本当にごめん…」

これから待つ戦いに…それによる命の燃焼に…“ヒカリとの時間の燃焼”に、ケンゴはただ謝罪したかった

ヒカリ「おっと、ごめん…お湯、吹きこぼれそう…」

ケンゴ「あ…あぁ、ごめん…」

コンロで煮立たせていた鍋が抱擁する二人に嫉妬するように沸騰の音を立て、二人をとりあえずその場から離した
 ▼ 28 ェリンボ@メェークルのはっぱ 24/02/06 15:31:45 ID:X2zs2OS. [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
………ケンゴとヒカリが一緒に暮らし始めたのには、ほんの恣意的な理由からだった

お互いの旅が終わり、お互い警察に入ろうと頑張り、それは叶った時、

ヒカリ「ケンゴんちの方が近いんだから、別に良いじゃない?」

一年遅れで警察への就職が決まったケンゴに、ヒカリはそんな軽口で提案した

ケンゴ「なんで僕の家なんだよ、それならノゾミの家の方が近いだろ?」

ヒカリ「だってノゾミの家は親御さんいるけど、ケンゴんちはいない上に一人暮らしするには充分広いじゃない?」

ケンゴ「どうしてノゾミの家は“家”なのに、僕の家は“んち”なんだよ?」

ヒカリ「確かにそう言われてみれば……ま、どうでもいいじゃない?」

ケンゴ「なんだよそれ…」

おどけた表情で舌を出すヒカリにケンゴは肩をすくめた。嫁入り前の一人娘が付き合ってもいない男の家から仕事に通うとは何たることかと、まるで父親のような思考に陥る。だが一人の男としてのケンゴには、特にどうでも良い気がしていた

旅の途中、ヒカリと共に旅をするトレーナーに一方的な嫉妬心を抱いたこともあった。それを巡って勝てる見込みもないポケモンバトルを挑み敗北したこともあった。今となっては懐かしい思い出。だが、それ以降も旅を続けたケンゴは様々な人達と出会い、様々な価値観に触れ、成長した。他人を大切に想うことと、大切にすることは違うということを理解した。それは、ヒカリへの恋愛感情を否定することではない。ただ、ヒカリ自身が思うように生きていくことを見守ることが、自分にとってヒカリを想うということなのではないかと思ったのだった

だからケンゴは下心無しに、ヒカリの“ケンゴんち”への入居を許可した

一緒に起床し、朝食を食べ出勤し、帰ってきたらまた一緒に夕食を食べ眠る。家事は交代でやるし、眠る部屋も別々。そうやって日々を過ごしていくうち、二人の距離は物理的にだけでなく、自然と精神的にも近づいていった

ヒカリ「今日は一緒に寝よっか」

ある日のヒカリのそんな言葉で、二人の生活は少し変化した。その日ヒカリは仕事で嫌な目にあったらしく、その愚痴をいつも通り散々聞き、いつも通り慰めた日の夜だった。二人で入るには少し小さなベッドに二人で並んで入ると、当たり前だがヒカリのぬくもりと微かな良い匂いを間近で感じる。“男”としてのケンゴはその感覚に敏感に反応したが、男としてのケンゴは、ただ自分の家族と一緒に眠るような、懐かしい感覚に包まれた。もしかしたら、ヒカリもそうだったのかもしれない。二人は他愛のない言葉をいくつか交わすと、そのまま眠りについた

ケンゴにとってヒカリは、“慕う女性“というより"想う家族"へと変わり始めていた
 ▼ 29 ジャンボ@アーリーレッド 24/02/06 16:52:40 ID:X2zs2OS. [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
………ヒカリがケンゴと一緒に暮らそうと決めたのは、ほんの恣意的な理由からだった

お互いの旅が終わりケンゴに再会した時、どこかたくましくなったその姿にヒカリは少し驚いた

警察に就職する為、ケンゴが勉学に勤しんでいる時、その真剣なまなざしにヒカリは少しどきりとした

だが、恋愛感情というものとは違うと、ヒカリは思うことにした。幼馴染なだけで、昔からピカリピカリと自分を散々いじり倒してきて、一方的な嫉妬心で旅仲間にバトルを挑んで敗北し、勝手に落ち込んで去っていった、そんな友達以上何か未満のケンゴに限ってそんあことはと

でも…昔とは違う大人び、成長したケンゴと過ごす日々が続く中で、ヒカリのその思い込みは少しずつ瓦解していっているような気がした。“女性”としてのヒカリの心が、惹かれていっているように感じ始めていた

だから、試してみることにした

ヒカリ「ケンゴんちの方が近いんだから、別に良いじゃない?」

旅の中、ケンゴが自分へ慕う気持ちを持っていてくれていたことは何となく分かっていた。もし今もそうなのなら、これはケンゴにとっても悪い提案ではないだろう。ただ、今のケンゴのヒカリに対する態度にそんな気配はあまり感じられないけれど…。

自分の日々高まっていく気持ちがもし本当ならば、共に暮らしていく中でごく自然にそれは完全に開花するのではないかと思うのだ。開花しないのならば、やはりただの思い過ごしだったのだと割り切れる。どうせ腐れ縁の幼馴染なのだし、他の男との同棲なんかよりは幾分も軽い気持ちで臨めるだろう

ノゾミ「ねぇ、恋愛の順序って知ってる?」

同棲の話題を出した時、ノゾミにはそう言われた。確かにこれが恋愛なら、順序は滅茶苦茶なのだろう

ヒカリ「そんなんじゃないわよ。ただの寄宿先よ。ノゾミこそ、シェアハウスって言葉知ってる?」

暮らし始めてみると。ヒカリの気持ちは開花してしまった

ヒカリ「今日は一緒に寝よっか」

ある夜、堪えきれずそう切り出すと、ケンゴは特になんともないように承諾してくれた。初めて二人で同じベッドに入った時、ヒカリの胸は爆発しそうなくらいの鼓動を刻んでいた。でも、ケンゴはただ他愛のない話をするだけだった

こんなものなのかな…と、冷静さを欠いたヒカリの思考は少しの会話の後あっさりと夢の中に消えた
 ▼ 30 ガハッサム@グラードンのおやつ 24/02/06 16:52:56 ID:X2zs2OS. [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
………初めて唇を合わせたのは、ケンゴが仕事で手柄を立てた日、そしてヒカリのオーレ地方への転勤が正式に言い渡された日

転勤の話に驚き振り返ったケンゴの唇を、ヒカリが塞いだ

ケンゴ「ぇ?」

ヒカリがそっと唇を離す

ヒカリ「だから、今日は…お祝いしようか、お互いに」

何も起こらないのならそれでも良い。ただ、この家から離れる前に決着をつけておきたかった。ケンゴのお手柄のお祝い、そしてもし…今から何も起こらないのなら…自分の恋愛感情への卒業祝い…

ケンゴは突然のことに動揺した表情を見せながらも、優しくヒカリの肩に手を触れる

ケンゴ「ヒカリのお祝いって…?」

ヒカリ「転勤って言っても期間限定。つまり、充てにされてるってことでしょ?だから、私の出世街道開設に」

ケンゴ「そっか」

真剣な表情になったケンゴがそっとヒカリに顔を近づける。ヒカリは目を閉じ、ケンゴの唇を自分ので受け止める。数秒の沈黙の後、二人は顔を離した

ケンゴ「おめでとう、ヒカリ」

ヒカリ「うん、おめでとう、ケンゴ」

その時のヒカリにはもうそれだけで充分だった。そして、それで終わりだった
 ▼ 31 クガメス@じめんのジュエル 24/02/07 08:37:37 ID:TPkkjbhE [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
二度目にナナカマドの研究施設を訪れた翌日

出勤すると、上司に呼ばれ「至急署長室へ向かうように」とだけ告げられた

君何かしたの?と言わんばかりの表情には答えないようにして、ケンゴはそのまま署長室へ向かう

昨日ハクタイシティの広場で獣化した際、周囲には数人の市民もいた。獣化したことを見られているのだ。そのことで「人間が突然ポケモンの姿に変化した!」などとメディアが報じるかと思い不安だったが、今朝の新聞もテレビも、ただ単に「チンピラが暴徒を起こしたが警察がこれを鎮圧した」というようにしか報じていなかった

署長室のドアをノックすると、中から「入りたまえ」という声が聞こえた。ドアを開け中に入ると、こじんまりとした書斎の奥に口髭を蓄えたコトブキ署署長が座っている

ケンゴ「失礼いたします。捜査課のケンゴであります」

デスクの前に立って慇懃に敬礼をしたケンゴに、署長は近くの応接ソファに座るよう指示した

「早速だが、ナナカマドから話は聞いているね?」

ケンゴ「では…」

どうやらナナカマドの昔馴染みというのは署長のことのようだ

「辞令を確認してくれたまえ」

署長がテスクの引き出しから封筒を取り出し、ケンゴの向かいの応接ソファに座るとそれを差し出してきた。ケンゴはそれを受け取り中身を確認する

『辞令 オーレ地方におけるダークポケモン出現の経緯の調査、及びこれに関与するとされる組織の殲滅』

記されていたのはそれだけだった

「内容は確認できたかね?」

ケンゴ「は…はい」

署長が改めて手を差し出してくる。辞令の返却なのだと察して封筒をそのまま手渡すと、署長はポケットからライターを取り出しそれに火をつけ、二人を挟む応接机上の灰皿に放り投げた

「無論、口外は厳禁だ。現在君が行っている業務の引継ぎはこちらで処理してある。オーレ地方へは民間航空会社にて近隣地方まで飛び、そこからはこちらで準備したホバー機能付きバイクで向かってもらう。調査費用の不足などが生じた場合は連絡を。要件は以上、早急に準備を始め、本日中に出発してくれ」

それだけ言うと署長は何事もなかったかのように自分のデスクに戻る

辞令の発行は通常、個人所有の端末へとデータとして上層部より送信される。が、昨日ナナカマドから聞いたように、あくまでも内密に事を進める必要がある為、紙での通知とし、さらにそれさえも今ここで焼失させたのだった

ケンゴ「私は昨日、ハクタイシティ広場で市民の目のある中獣化してしまいました」

「それについてもこちらで処理してあるので心配する必要はない。それはオーレ地方へ着いてからもだ」

自分の端末に目を移し作業を始めた署長の「もう話は終わりだ」という態度にケンゴはそれ以上何も言えず、ただ立ち上がって敬礼をすると、退室しようとドアを開けた

「吉報と、無事の帰還を期待している。武運を」

沈痛な表情でケンゴに謝罪するナナカマドを思い出す。やはり昔馴染みなのだなとケンゴは再び署長に敬礼し、部屋を後にした
 ▼ 32 ラーチ@とけないこおり 24/02/07 09:17:25 ID:TPkkjbhE [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
捜査課へ戻る途中、ヒカリと鉢合わせた

ヒカリ「ね、署長になんて言われたの?」

どうやら署長室に向かうところを目撃され、出てくるのを待ち伏せされていたらしい

ケンゴ「そんなことより、仕事はいいのかよ?」

ヒカリ「ちょうどお手洗いの帰りだったから大丈夫大丈夫」

ケンゴ「そう」

ヒカリ「で?」

ケンゴ「いや、特には何も…」

ヒカリ「そんなはずないじゃない?署長室よ?」

ケンゴ「昨日ハクタイシティでチンピラに少しやり過ぎたことを注意されただけだよ」

ヒカリ「署長に?」

ケンゴ「そう」

ヒカリ「そういうのは直属の上司がやるもんでしょう?それとも何?よっぽど酷くやっちゃった?半殺しとか??」

ケンゴ「ま、まぁ……そんなところかな」

こめかみを搔きながら上手く話をはぐらかす為、そんなことよりも重要なことを告げる為、話題を切り替える

ケンゴ「それよりヒカリ。ごめん、急な出張が決まった、今日発たなきゃならなくなった」

ヒカリ「?そりゃあまた突然ね。何日くらい?」

ケンゴ「日程は出張先での進捗次第、ホントにごめん。すぐに帰れるとは思うけど…」

そんな見込みも保証もない

ヒカリ「今日からとなると、私の転勤と被るね。私は明後日出発だし。ケンゴの方が早く帰ってくるんじゃない?」

そんな見込みも保証もない

ケンゴ「そうかもな、ごめん…」

ヒカリ「なんでそんなに謝るのよ?仕事なんだし、仕方ないわよ」

ぽんとケンゴの背中を叩きながら、ヒカリは明るく言った

ヒカリ「頑張ってきてね!」

ケンゴ「あぁ」

帰れる見込みも保証もない。出発は今日。ヒカリと顔を合わせられるのは今日が最後かもしれないと思うと、目頭が熱くなてくる。同じ地方に行くのだから、もしかしたら奇跡的に鉢合わせるかもしれない。自分がさっさと敵を見つけてぶちのめして帰れれば、全て元に戻れるかもしれない。それでも、瞼にその姿を焼き付けたくてたまらず、ケンゴはヒカリを見つめる

ヒカリ「?どうしたの?あっ、やっぱり署長となんかあったんだぁ〜。特別任務とか??でも、まさかまだまだ新人で私の後輩のケンゴにかぎってねぇ〜」

言い当てるヒカリの表情があまりに可笑しくて、ヒカリの髪をくしゃくしゃに撫でまくって、二人で笑いあって、それぞれの課へと別れた
 ▼ 33 グノム@グッズケース 24/02/07 09:55:06 ID:TPkkjbhE [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
捜査課へ戻り自分のデスクを適当に片付け、必要な備品をまとめると、上司へ出発の報告をした。どうやら既に通達されていたらしく、これまた適当に「いってらっしゃい」のあいさつを受けた。一体どういった通達が下りてきているのかはわからないが、とりあえず敬礼し、ケンゴはコトブキ署を後にした

オーレ地方近隣の地方への飛行機の中、ケンゴは改めて過去に二度に渡り起きたダークポケモン事件の資料データに再度目を通していた

事件は二度とも「シャドー」という組織によって引き起こされていた

一度目の事件は、組織幹部の一人だったワルダックが、オーレ地方南東の街フェナスシティの市長「バックレー」となって暗躍し、ダークポケモン量産の計画を企てたものだった。この事件は当時シャドーとの協力関係にあった「スナッチ団」の裏切り者によって解決されている。その裏切り者は事件解決後、自らダークポケモンを使用して市民に危害を加えたと報じられ、オーレ地方から姿を消したと記されている

二度目の事件はその数年後、その際は「シャドー」の総裁デスゴルドが直接現地に赴き、アイオポートという港町にて富豪「メチャリッチ」となって活動。ポケモンを多く乗せた客船の強奪、ダークポケモン工場の建設・運用により、ダークポケモンによるオーレ地方の支配を企てたものだった。こちらの事件は一度目と異なり、一人の幼い少年が中心となって活躍、スナッチ・リライブの研究機関・シャドーに見限られたスナッチ団等の協力もあってシャドー壊滅まで果たされていた

これらのことを踏まえ、ケンゴはこれから自分がどう動くべきなのか、頭の中で整理する

二つの事件に共通するのは、ダークポケモンのスナッチボールによる捕獲と、リライブと呼ばれる清浄化の行程。が、今回出現したダークポケモンに対しては現段階ではスナッチボールは通じないという。実際にケンゴは一度ダークポケモンを捕獲することなく殺害している。瀕死状態にすることはできても、ボールに入れられないダークポケモンをリライブすることはできるのだろうか?それともやはり殺害するしかないのか?その疑問は解決しておく必要があるだろう

ケンゴ「とりあえずは、研究機関を当たってみるか…」

スナッチ・リライブの研究を行っているという「ポケモン総合研究所」、二度目の事件を解決したという少年もそこに所属しているという。端末のディスプレイにオーレ地方の地図を呼び出し、西端にその位置を確認する。最初の目的地が決定した
 ▼ 34 コロモリ@ベロバーのけ 24/02/07 10:42:29 ID:TPkkjbhE [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
近隣地方の空港に着くとバイク屋だと名乗る恰幅の良い男が声をかけてきた。男の身分証を確認し同行すると、町外れの大きなガレージへ案内される

「ご注文の品はこれで間違いないか?」

ガレージの中で男が指示したそれにケンゴは頷く。車体はコトブキ署で運用されているのとほぼ変わりないバイクだが、ホバー機能が搭載されており、若干形状が異なっている。地方の東側をほぼ砂漠で覆われているオーレ地方での走行には不可欠な機能だ

ホバー機能の使用方法やメンテナンスについて軽いレクチャーを受け受領書にサインすると、ケンゴはバイクに搭乗しガレージを後にした

西方へ二日程走ればオーレ地方の東端の砂漠地帯へと到達する。途中小さな町がいくつかあることも確認しているので、食料やバイクのガソリンを心配する必要はないだろう。とりあえずは呑気なドライブが楽しめそうだとケンゴは思い、人も車もない広々とした田舎道を快適なスピードで走行した

快適なドライブ旅に異変が起きたのは、日が沈み始め、そろそろ宿を見つけようと最寄りの小さな町へ到着してからだった。確保した宿の部屋で荷物を整理し、外で夕食を食べようと宿を出た時、町中に大きな悲鳴が聞こえた。悲鳴のした大通りへ出ると、道路の真ん中で暴れ回るポケモンと逃げ惑う人々、暴れるポケモンを止めようとするトレーナー達や警官の姿があった。よく見れば、暴れ回っているポケモンは黒いオーラをまとい、赤い目をしたダークポケモン

ケンゴ「どうしたんですか!?」

私服に着替えていたケンゴは警察手帳を掲げながら近くで人々の避難誘導をしていた警官に問いかける

「とっ、突然空からあのポケモンが降ってきて、暴れ始めたんだ」

コトブキ署と記されている手帳を一瞥し、ケンゴが別署の警官であることを認識した警官が説明してくれる

ケンゴ「空から?」

見上げてみるが、ポケモンを投下したような飛行物体などは確認できなかった

「とりあえず、避難誘導に協力願いますか?」

警官に言われ、ケンゴも咄嗟に頷く。が、ダークポケモンを止めようとしている警察やトレーナー達のポケモンは苦戦しているように見えるどころか、段々とその戦力を削られているようにケンゴの目には見えた

ケンゴ(やるしかないんじゃないのか…?)

そう思い、人並みにそれとなく紛れ込み、路地裏へと向かう

ケンゴ「署長はああ言ってたけど…」

人間が突然ポケモンに変化すれば誰だって驚くだろう。署長はそのあたりの対処は任せろと言っていたが…それに、やはり今回もあのダークポケモンを殺害するしかこの騒ぎを止める手段はないのか?ケンゴ自体はためらいの気持ちを拭えずにいた。あの夜の日やハクタイシティでの変化も咄嗟のことだったが…。そう思いつつ体の中心に力を集中させる。まず胴体がばこっと音を立ててその筋肉を拡張させる。そして腕、足、頭部も同様に変化していく。完全にゴウカザルへと変化したケンゴは、脱兎の勢いで路地裏を飛び出した
 ▼ 35 リージオ@ギガトンボール 24/02/07 11:52:30 ID:TPkkjbhE [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ダークポケモンの前に躍り出た時には対抗しているポケモンは数匹しか残っておらず、その数匹もちょうどダークポケモンに吹き飛ばされ倒れ伏した

目前に現れたケンゴにダークポケモンが次の獲物を求めるような獰猛な視線を向けてくる。その赤く光る目線から、あの夜と同じく猛烈な殺意と怨念めいた何かがケンゴの中に流れ込んでくる。そして再びそれがケンゴの中の闘争心という炎をさらに燃え上がらせる

ケンゴ(落ち着け…あの時みたいには…)

初めてダークポケモンと対峙したあの夜には、その燃え上がる闘争心がケンゴの心と意識を支配し、半ばコントロールのきかない状態での戦闘となった。これからの戦いに耐える為には、今はその暴走を克服しなければならないと思う。だが、通常の12倍の速さで脈打つ心臓に未だ慣れないケンゴには、冷静さを保とうとするのはまだ難しかった

ダークポケモンがケンゴ目掛け火炎放射を放つ。すかさずそれを避けて相手の懐に潜り込むと、両の拳に炎をまとわせその腹部を連続で殴打する。相手がよろけ数歩後退するが、ダメージはあまり大きくないようだ。夕闇に目を凝らしてよく見てみれば相手はブーバーン。確かに炎技では効果は薄い、沈めるなら格闘技しかないだろうなとケンゴは気づく

そこからも相手との攻防が続く中、ケンゴは自分の意識が段々と燃え上がる闘争心に支配されていくのを感じる。このままではまずいと思いつつも、やはりその勢いに対する抵抗力は徐々に失われていく

その隙をついてか、相手の強烈なからてチョップがケンゴの頭部を直撃する。激しい衝撃にケンゴは後方へ吹き飛ばされる

ケンゴ(くそっ、こいつ……!)

その怨嗟の思いが、燃え上がる闘争心にケンゴの意識の支配権を完全に掌握させた

ケンゴは素早く立ち上がると咆哮を上げ、全身に炎の鎧をまとう。その色は、赤から徐々に青紫色、そして完全な青色へと変色した

ケンゴ「うああああああああああ!!!!!!」

再び咆哮を上げ、通常よりもはるかに高熱の炎の塊となったケンゴが相手へと突撃する。黒いブーバーンも同じようにフレアドライブで対抗しようとするが、二つの炎の色の勝負はあっという間に青色の圧勝となり、二人を包み込む

ケンゴ「うああああああああああ!!!!!!」

炎の中、ケンゴは苦しむブーバーンの首を締め上げる。ブーバーンはケンゴから離れようともせずただただ力任せに叫ぶばかりで、身体を襲う猛烈な炎の熱と息のできない苦しみによって数瞬のうちに絶命した
 ▼ 36 ロリーム@ゴージャスボール 24/02/07 11:52:59 ID:TPkkjbhE [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ダークポケモンの絶命を認識し、ケンゴは全身にまとった青い炎を鎮める。周囲で愕然とその光景を見ていた警官やトレーナー達は、ダークポケモンが倒れているのを見て安堵した様子を見せる

しかし、ケンゴの闘争心はそこで終わらなかった。周囲でこちらを見ていたポケモン達と視線が合う。その瞬間、再び衝動がケンゴの全身を駆け巡る

ケンゴ「うああああああああああ!!!!!!」

突如ケンゴは飛び上がると、視線を交わしたポケモン達へと襲いかかった。驚愕したトレーナー達が慌ててポケモンをモンスターボールへと戻そうとする

「ど、どうなってるんだ!?何なんだよあのゴウカザルはっ!」

ポケモンのいなくなると今度は獲物を探す様子で辺りを見回し、再びケンゴが咆哮を上げる

「皆さん!!下がってください!!」

応援に到着した警官達がトレーナー達を下がらせると、相棒たるガーディの群れが前に躍り出た。すると次の獲物を見つけたという表情で彼らに襲い掛かろうとする。その時…

ケンゴ「うっ…」

飛び上がったケンゴの首筋に小さな鈍い痛みと痺れが走った。そしてその痺れは全身へと瞬時に拡散し、地面に倒れこんだケンゴの意識を完全に閉した
 ▼ 37 ラルポニータ@ドクZ 24/02/07 14:13:03 ID:TPkkjbhE [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ケンゴが出発した日

ノゾミ「どうした?今日はやけに機嫌が良いみたいじゃないか。転勤の取消交渉にも行かないし」

少し上機嫌そうに事務仕事に励むヒカリにノゾミが声をかける

ヒカリ「うん?あーあれ?いいのいいの」

ノゾミ「何か良いことあった?」

ヒカリ「ふふん、ちょっとねー」

上機嫌とも言える。が、そう思おうと努めている自分を見透かされないよう、ヒカリは明るく答えた

ヒカリの気持ちは複雑だった

元々、オーレ地方への転勤が決まった時、開花してしまった感情がケンゴとひと時でも離れて生活することへの強い拒絶感を抱かせたのだ。だが、欠員補充とは言え期間限定的にも転勤の令が下るというのは、それだけ平時とは異なる経験を積み、自身のキャリアアップへと繋がる。その二つの気持ちを天秤にかけてみても、なかなかどちらか一方に傾くということはなかった。だからとりあえず、ダメ元で転勤の取り消しができないかだけは上司へ毎日のように懇願し続けてみたのだった

そしてそこに先程、ケンゴから言われたケンゴ自身に今日下された出張、しかもいつ戻れるかは進捗次第。転勤と何が違うのかとヒカリは少し困惑したが、これもヒカリと同じくケンゴ自身の新たな経験、キャリアアップには繋がるのだと思い、笑顔で見送ることも、ノゾミに上機嫌な様子を見せることもできた。しかしつまるところ、これでいずれにせよケンゴと離れて過ごすということ自体は成立してしまったのである。計っていた天秤が完全に壊れ、強い寂しさがこみ上げた。が、こうなってしまったら、自分のやれることをしっかりとこなそうという熱い気持ちも同時にこみ上げる。二つの新たな思いが、ヒカリの心の中で絡み合って解けずにいた

とりあえずその日のヒカリは、目の前の仕事をまるで憎たらしい敵を倒すアニメのヒーローのような勢いと気持ちでぶちのめして定時にさっさとコトブキ署を去った

ヒカリ「ただいま〜」

帰宅しても、出迎えてくれたのは静寂だけだった

ヒカリ「ねぇ、今日の夕飯何にしよっか〜」

静寂は何も答えてくれない

ヒカリ「そういえばさ、トラベルセットどこに仕舞ったっけ?」

夕食を食べて風呂に入り、明後日の出発に向けて何となく準備を進めていると、段々瞼が熱くなるのを感じ、ヒカリは思わずノゾミへ電話を掛けていた

ノゾミ「ヒカリあんた、一体何歳よ?学生かなんかなの?」

涙ぐみながら自分の今の気持ちを全てノゾミにぶつけた時、そんな答えが返ってきた

ヒカリ「だって…だって…こんな気持ちになるの初めてなんだもん…」

ノゾミ「そこはさ、ちーがーいーまーすーで返してよ」

そこから二人は夜通し話し続けた。色恋初心者は自分の思うままに話し、その良き友・ライバルはそれを受け止め続けた
 ▼ 38 ムカメ@ライブスーツ 24/02/07 14:39:21 ID:TPkkjbhE [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ケンゴの意識が戻ると、そこは今日取った宿の自分の部屋の中だった

どうやらベッドに横になっているらしい。起き上がろうとすると若干頭に痛みを感じる、どうやらブーバーンにくらったからてチョップが相当に効いたらしい。

「目が覚めたか」

突然聞こえた声にケンゴは飛び上がり、部屋中を見回す。備え付けのデスクの椅子に男が一人、座っていた

ケンゴ「あ…あなたは…?」

「俺はレオ」

上下共黒い服に身を包んだその男が無表情に答える

ケンゴ「レオ…」

ケンゴは記憶の中にその名前を最近刻んでいたことを思い出した。飛行機の中で確認したオーレ地方での一つ目のダークポケモン事件、それを解決した男の名前だ。目の前の男の姿も、データ資料にあった当時メディアが撮影したものとあまり相違なかった

レオ「お前は?」

ケンゴ「え?」

レオ「人に聞いておいて自分は答えないとは、無礼な奴だ」

無表情な顔の眉間にしわが寄る

ケンゴ「あ…あぁごめんなさい。僕はケンゴ」

レオ「そうか」

レオはまるで興味なさげに答える

ケンゴ「あの…僕は、どうやってここに…?」

レオ「俺が連れてきた」

ケンゴ「そうですか、ありがとうございます」

これまたどうでも良さそうな雰囲気のレオに一応頭を下げる

だがあの時、自分はゴウカザルだったはずだ…

レオ「まさか…これほど獣化に対して順応できていない者が来るとはな」

ケンゴ「え!?…じゃあ、あなたが…」

レオ「博士は人選を失敗したようだ」

ナナカマドが共同で研究を進めていた人物というのはレオだったのだと、ケンゴは理解した
 ▼ 39 ラルバリヤード@ストレンジボール 24/02/07 20:37:24 ID:nXC69.aI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 40 ワイトキュレム@ベリーアメざいく 24/02/08 08:48:30 ID:lBIMc.s. [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
闘争心に支配され自分をコントロールできていないことを指摘されて、ケンゴはうつむく

ケンゴ「すみません…まだうまく扱えないんです…」

レオ「まあ、そこはこれから訓練していけば良い。磨けば光るという言葉もあるしな」

慰めているのか蔑んでいるのかケンゴは図りかねる

ケンゴ「ところで、僕はあれからどうやってここに?」

レオ「…これだ」

レオは上着のポケットからモンスターボールを取り出した

レオ「麻酔銃でお前を昏倒させ、すぐにこれに避難させた」

ケンゴ「人間をモンスターボールに…?」

レオ「あの時のお前は人間ではない。ゴウカザルというポケモンだった」

ケンゴの頭に、昨夜自分の意志とは無関係に他のポケモンを襲おうとした記憶が蘇る。あの時レオは自身の宿泊していた宿の窓から麻酔銃でケンゴを狙撃し、昏倒したケンゴを瞬時にモンスターボールへ格納した。周囲の警官やトレーナー達はその一瞬の出来事に、何が起こったのか理解できずただどよめくだけだった

ケンゴ「…じゃあ僕は今、あなたのポケモンだということですか?」

ケンゴは背中に冷たい汗が流れるのを感じる

レオ「それも違う。これは、いわばシェルターのようなものだ」

ケンゴ「シェルター?」

レオ「これは獣化処置を施された者専用に改造されたモンスターボール。使用目的はあくまで、獣化した者をただのポケモンのように欺く、あるいは仮に暴走した場合などに強制的にその動きをシャットアウトするというものだ。昨夜のお前のようにな」

掌の上でシェルターだというそれを転がしながら、レオは説明する

ケンゴ「だから避難先、シェルターだと…」

レオ「ついでだ、他のことも説明しておこう。言ったようにこれは避難装置であってモンスターボールではない。これを他者が使用したとしても、格納された獣化者がその者の従順なポケモンとなるわけではない」

その言葉にケンゴはほっと息をつく

レオ「そして、他者が使用せずとも、獣化状態時であれば自身でこれの中に入ることが可能だ。逆に、外に出ることも。人間体に戻ればエラーを起こし、強制的に外に排出もされる」

ケンゴ「随分と便利な作りですね」

レオ「我々はあまり表立って行動できるわけではない。これは必要な技術だ」
 ▼ 41 ケンカニ@バンギラスナイト 24/02/08 09:30:19 ID:lBIMc.s. [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ケンゴ「あなたと博士とはどういう関係なのですか?」

レオ「俺のことはどうでもいい。それよりもお前のこれからの行動予定は?」

自分のことを詮索されるのに明確な嫌悪感を示してレオは尋ね返してくる

ケンゴ「……まずは、ポケモン総合研究所を訪ねてみようかと。スナッチ技術の進展状況の確認と、それに…」

レオ「それに?」

ケンゴ「スナッチができないのであれば、ダークポケモンにされてしまったポケモンを他に救う手立てがないのか、それを探りたいんです…」

瀕死状態にして動けなくできればリライブできるのか?それとも、今までのようにそのまま殺すしかないのか?既に二匹のポケモンを殺した自分の手を見つめ、苦い思いになる

レオ「なるほど」

レオは立ち上がると窓際に立ち、カーテンを思いきり左右にかき分けて窓を開ける。どうやら既に昼間らしく、間接照明しかなかった部屋に眩しい日差しが差し込む

レオ「リライブに繋げる為の手段は俺も少し調べていた。ダークポケモンにされたポケモンのことを想うのなら、研究所へ向かうのはまあ妥当なところか」

ケンゴ「あなたも同行してくれますか?」

レオ「博士からお前のサポートを依頼されている。日が沈む前には出発するぞ、準備しておけ」

ケンゴ「え…?あ…はい」

サポートを依頼されたと言いながらも、イニシアチブはあくまでレオにあると言うのかとケンゴは少しむっとなるが、自分より立場が上であるナナカマドと共同で動いているレオに対してすぐには文句を言えず、なんとなくの返答しかできなかった

レオ「あーあとそれから」

用件は済んだとばかりに部屋を出ていこうとするレオが、気だるげに振り返る

レオ「その妙な言葉づかいはやめろ、普通で良い。呼び方もレオで構わない」

ケンゴ「え?でも…」

レオ「俺達はこれから協力関係で動く、いわばバディと言ったところだ。心しておけ」

ケンゴ「わかりまし……。わかったよ、レオ」

相変わらずの無表情で、レオは部屋を後にした。ドアが閉まると、ケンゴの腹がぐーっと大きな音を鳴らした

ケンゴ「そういえば、昨日の夕食も食べてなかったっけ…」

とりあえず何か食べに行こうと、ケンゴは重い身体をベッドから這い出たせた
 ▼ 42 ルット@ラッキーパンチ 24/02/08 09:53:45 ID:lBIMc.s. [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その日の夕方、二人は町を出発しようとしていた

ケンゴ「随分大きなバイクだな」

レオの所有するバイクにケンゴは驚いた。サイズはケンゴのものの二倍以上はあり、運転席の他に複数人が相乗りできそうなスペースがある

レオ「昔仲間と旅をしていた時に使っていた。今はもうロートルだ」

ケンゴ「レオも旅をしてたんだ。どこの地方へ?」

レオ「無駄話などしてないで、とっとと行くぞ」

やはり自分のことはあまり詮索されたくないのだなとケンゴは再認識し、それ以上は何も聞かずに出発した

そこからは途中休憩を挟みつつ、二人は数日かけてオーレ地方東端の砂漠地帯へと到達した

ケンゴがバイクの車輪をホバーモードに切り替えていると、レオが携帯端末上にオーレ地方の全体地図をホログラム投影した

レオ「ポケモン総合研究所は現在地点とは真逆、地方の西端に位置している。このまま砂漠を西に走り続けていれば到着はするだろうが…」

ケンゴもホログラム上の地図に目を移す

ケンゴ「その進路だと町なんかは全然通れないね…」

レオ「補給の為にも、時間はかかるが町や補給施設の多い南側へ一度迂回するぞ」

地図上に研究所までのおおよそのルートが描かれる

ケンゴ「だいぶ迂回するね…どれぐらいかかりそう?」

レオ「最短でも一週間。寝食を忘れて走り続けたとしても」

ケンゴ「じゃあ、実質二週間ぐらいと考えるべきかな」

レオ「途中トラブルなどが起きなければな」

ケンゴ「ダークポケモン、また現れるかな?」

レオ「可能性はある。どういう組織が動いているかはまだ分からないが、同じ奴が既に自分のとこのを二匹も始末したんだ。目をつけられているとみて間違いはないだろう」

ケンゴ「そうだね…」

レオ「まあ安心しろ。お前が獣化を制御できるようになる為に、この期間で俺が訓練してやる」
 ▼ 43 オルブ@かるいし 24/02/08 10:18:59 ID:lBIMc.s. [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
砂漠地帯を南西へ走行し始めて数日後、“町はずれのスタンド”と呼ばれる古びたスタンドに辿り着いた

レオ「今日はここに世話になるぞ」

ケンゴ「ただのスタンドだけど、泊めてくれるの?」

レオ「主人と顔馴染みでな」

バイクを降り建物の中に入ると、中はバーのような内装だった

「よぉレオォ。久しぶりじゃねぇか!」

カウンターに立つ大男がレオを見とめた途端に大きな声で歓迎した

レオ「とりあえずあれを」

「はいよ」

レオは構わずカウンターの隅の椅子に腰かける。大男は暗黙の了解よろしく戸棚から酒瓶を取り出し、グラスに注ぐ

「そっちの兄ちゃんは?」

ぼーっとそれを眺めて突っ立っているケンゴに目をやり大男が言う

レオ「俺の連れだよ。同じので良い」

ケンゴには振り返りもせず言い、レオは大男から受け取ったグラスをぐっとあおった

「ま、とりあえず座んなよ」

大男に促されるまま、ケンゴはレオの隣の席に座る。レオと同じものを受け取り少し口に含むと、壮絶な苦みと辛みが口中に広まって思わず咳き込んだ

「がははははは!兄ちゃんにはまだ少し早かったかぁ!」

レオ「お前、飲めないのか?」

レオがちらとこちらを見る

ケンゴ「そうじゃないけど…この地方のお酒は、僕には合わないかも…」

がははと再び笑った大男がケンゴのグラスを下げ、代わりにオレンジジュースのグラスを置いた

「ここにはしばらくいれるのか?」

レオ「一つ用件があってな。それが片付くまでだ」

「そうかい。そんじゃあその間はここでじゃんじゃん飲み食いしてくれよなぁ!」

レオ「とりあえずは今日泊めてくれ」

「おう、自由に使いな!」

何となく置いてきぼりにされた感じのケンゴは、オレンジジュースを少し飲んだ。ご丁寧にグラスに刺さっていたストローで
 ▼ 44 ラックキュレム@まんたんのくすり 24/02/08 11:17:49 ID:lBIMc.s. [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
レオ「一息つける場所に着いたんだ。訓練を始めるぞ」

レオと大男との昔話が落ち着いたところで、レオがケンゴに向き直り言った

ケンゴ「分かった」

二人は一旦スタンドの外に出る

レオ「そもそもどういう処置によってダークポケモンが生まれるか、知っているか」

遠くを見るような目で砂漠を見つめ、レオが尋ねる。ケンゴが首を横に振るのを横目で確認すると、小さく肩を落とした。警察の資料データで事件のことを確認した時、ダークポケモンの凶暴性については言及されていても、シャドーが行っていた処置方法については一切触れられていなかった

レオ「博士とはあまり話せていないようだな」

ケンゴ「出発まであんまり時間がなかったんだ」

そうかと言うような素振りを見せてから、レオは話し始めた

レオ「ポケモンは古来、ただ闘争を繰り返すだけの生き物だった。闘争によって自らの欲求を満たし、殺した相手を喰らうことで己のエネルギー、強さとしていた。その姿も今俺達がよく目にするものとは異なり、戦うことに特化したフォルムだったんだ」

闘争を繰り返すだけの生き物…ケンゴはナナカマドから聞いたヒトという生き物の話を思い出していた

レオ「時代が移り変わりヒトの文明が栄え、ポケモンと出会い触れ合いが増えていくと、ただ闘争を繰り返すだけのその生き物の生態は変わり始めた。ヒトの持つ優しさや慈しみの心に触れた彼らの心から、徐々にその増大な闘争心が薄れていった。姿形もそれに合わせて変化していったんだ」

ケンゴ「でもヒトだって、闘争によって発達してきたし、その闘争にポケモンを利用してきた」

レオ「そう。だから必ずしも全てのポケモンが変化していったわけじゃない。しかし、闘争の中で生き続けるだけのポケモン達は徐々にその母数を減らしていった。ヒトがポケモンを守ろうと、あるいは共に歩いていこうと発達していった為だ。その中でただ闘争を繰り返すだけのポケモンは恐怖とされ、自然淘汰されていったんだ。ただし、ヒトの闘争に利用するポケモン達を除いてな」

ケンゴ「ヒトの発達がポケモンの発達に大きく影響したと…」

レオは遠くを見たまま小さく頷く

レオ「そうやって時代はまた移り変わった。ヒトの持つ優しさや慈しみが平和な世界を生み出していったが、それはあくまで世界の一部であって、別の一部では必ずそれとは逆の、闘争にあけくれるヒトやポケモン達がいる。俗に言うポケモンバトルというのは、平和な世界において、ヒトとポケモンの未だに消えない潜在的闘争心を満たす為の小さな戦争行為と言えるだろうな」

そんなことを言われて、ケンゴは今まで自分が経験してきたことを思い出す。たくさんの仲間、ライバル、修行、バトル…それらは全て所詮は本能による戦争でしかなかったのか?いや、違うはずだ。確かにポケモンバトルは闘いだが、それを通じて他の色んなことを経験、学習してきたのだ

レオ「そういえばお前もトレーナーだったな。悪い、俺はポケモンバトル自体をただの闘争だと否定しているわけではない」

表情をかげらせたケンゴに気づき、レオは気遣うようにそう言う

ケンゴ「あぁ、わかってるよ」
 ▼ 45 ーガポン@ネクロプラスソル 24/02/08 11:39:54 ID:lBIMc.s. [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
レオ「話を戻そう。かつてシャドーがダークポケモン作製において注目したのは、ポケモンが古代持っていたその大きな闘争心だった。化石ポケモンを知っているな」

ケンゴ「カブトプスとか、アーケオスとか…」

レオ「そうだ、それらのポケモン達も本来生きていた時代では強い闘争心を持って生きていた。だが、シャドーはそれよりもさらに古代のポケモンに注目し、その化石の発見に成功したんだ」

ケンゴ「さらに古代!?」

レオ「それを発見したのがここオーレ地方だった。だからシャドーはここを拠点とした」

ケンゴ「その化石は今どこに?」

レオ「さあ。少なくとも俺がシャドーを潰した時には見つけられなかった。とにかく、シャドーはその化石からはるか古代のポケモンのDNAサンプルを抽出し研究した。結果として、その塩基配列の中に古代ポケモンの闘争本能を呼び覚ます、あるいは植えつける因子を発見した。試しに通常のポケモンにそれを注入してみれば、見事にただただ凶悪なだけのポケモンが誕生した。それがダークポケモンだ。黒いオーラと赤い目は、塩基配列の強制的な変異による副作用だ」

ケンゴ「そうだったのか…でも、レオはどうしてそこまで知ってるんだ?」

レオ「初めにシャドーを潰したのは俺だぞ?潰す時に奪えるもんは全部奪った、それは情報も同じだ」
 ▼ 46 テボース@キラーメのけっしょう 24/02/08 13:47:07 ID:lBIMc.s. [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
レオ「さて、前置きが長くなったな。では本題だ」

レオはケンゴから少し離れたところに立つと、上着のポケットからスリット状のゴーグルを取り出す。それをかけると、その中央に単眼のような大きく丸く赤い光がついた。ダークポケモンの眼光に酷似しているとケンゴは思った

レオ「これはダークポケモンの眼を模して作ったものだ」

単眼がスリット状を左右に移動してみせる

レオ「お前がダークポケモンとの戦闘において意識を持っていかれるのは、相手から伝わる様々な思念によるものだろう?」

二度の戦闘時、ダークポケモンと視線を交わした瞬間にケンゴの中に流れ込んできた様々な思念を思い出し、ケンゴは頷く

レオ「ダークポケモンの眼自体に何か特別な能力があるわけではない。問題は視線にある」

ケンゴ「視線?」

レオ「冷たい視線、熱い視線なんて言葉があるように、ヒトが他人とコミュニケーションを取る時、無意識のうちに相手の視線からその感情や思考を読む、あるいは察しているものだろう?。視線というのはつまり、相手を捉えるだけではなく、己の思念をも同時に相手に発信しているものだ。そしてこれがダークポケモンの場合…」

ケンゴ「猛烈な殺意や、怨念…」

レオ「そうだ。強制的に植え付けられた闘争心による殺意、そしてダークポケモンに変えられたことに対する強い怨念などが大きな波となって視線に乗り、お前に流れ込んできているんだ」

ケンゴ「じゃあ、その視線を避けて戦い続けるしかないのか?」

レオ「いや違う。流れ込んでくる波を受け流すんだ。これからやるのはその訓練だ。さあ、獣化しろ」

言われるまま身体の中心に向かって力を集中させ、ゴウカザルへと獣化する

ケンゴ「でも、どうやるんだよ」

レオ「俺を見ろ」

レオに視線を向けると、赤い単眼と視線が合う。その瞬間、二度の戦闘時と同じく猛烈な殺意と怨念の濁流がケンゴの中に流れ込んでくる

ケンゴ「うっ…うぐっ…」

レオ「動くな、俺が良い言うまで、動くな」

思念の濁流が闘争心を暴走させ、今にもレオに襲い掛かりそうになるのを必死で抑えてみる

レオ「抑えるんじゃない、受け流すんだ。心を空っぽにしろ」

ケンゴ「そんなことしたら…うぅっ…」

レオ「自分の心臓の脈動だけに集中してみろ。そうすれば、お前に迫る思念はそのままお前を通り過ぎる」

言われるまま必死で濁流を止めようという思考を停止させ、ただ何も考えず心臓の脈動に集中する。通常の12倍で脈打つその音に

レオ「よし良いぞ、その調子だ」

五分程その膠着状態を続けた後、レオは単眼の明かりを消した。同時にケンゴへ流れ込んできていた濁流も止み、力と精神を消耗しきったケンゴの獣化は解け、その場に倒れこむ

レオ「このゴーグルの赤い眼は、ダークポケモンの視線に乗る思念を疑似的に再現した超音波を送る機能がある。勿論直近に出現した強化されたダークポケモンのデータもインプット済みだ。…このまま訓練を続ければ、いずれは意識を持っていかれることなく戦えるようになる」

ケンゴ「そ…そうかよ…」

荒い息を立てて倒れているケンゴに、レオは実験成功に歓喜する科学者のような口調で言った
 ▼ 47 ンジュモク@DSプレイヤー 24/02/08 14:14:18 ID:lBIMc.s. [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それからポケモン総合研究所への旅を続ける間も、ケンゴは思念を受け流す訓練を続けた

レオ「明日からはこれに耐えながら実際に戦闘するところまで進めるぞ」

“パイラタウン”という大きな町に差し掛かったその日の訓練の後、確保した宿の部屋でレオはそう言った

ケンゴ「戦闘って言ったって、どうやって?」

レオ「ここにはコロシアムがある。毎日のようにバトルトーナメントが開かれているんだ」

ケンゴ「でもどうやって出場するんだよ?トレーナーがポケモンですなんて言えないじゃないか」

レオ「俺がトレーナーで、お前がポケモン。そしていつものゴーグルは、客席にセットしておく。何も心配するな」

ケンゴ「…ところでさ」

レオ「なんだ?」

ケンゴ「どうして町に寄る度、僕だけを町に入れさせて買い出しやら宿の手配やらをさせるんだよ。宿に入ったらレオは窓から入ってくるし」

レオ「俺はまだ、この地方ではあくまで“お尋ね者”だからな。堂々と町を歩けるわけじゃない」

確かに警察の資料データでは、レオは事件解決後に自らダークポケモンを使用して市民に危害を加えたと記されていたが、先日立ち寄った“町はずれのスタンド”で、それがシャドー残党によるフェイクニュースだということを大男から聞かされた

ケンゴ「でもそれは誤解なんだろう?」

レオ「時間が解決するという言葉はあるが、一度広まった悪評を浄化させるのには、まだ足りていない」

ケンゴ「じゃあトーナメントにはどうやって出場するんだよ?」

レオ「だから心配するなと言っている。今日はもう寝るぞ」

ケンゴ「なんだかなぁ」

翌日出場したバトルトーナメント、レオは頭に紅白のアフロと星形の眼鏡をかけて出場した。レオの登場に会場は謎のどよめきを上げていたが、ケンゴにはよく分からなかった。客席にはレオの言うようにゴーグルも設置してあった。そして今までの訓練の甲斐もあり、ケンゴは思念の濁流を受け流しつつ“ポケモンバトル”し、優勝した
 ▼ 48 コガラ@ゆうかんミント 24/02/09 09:54:24 ID:fqAQ3EMs [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒカリはただただ仕事に奮闘していた

転勤先はオーレ地方西端の港街アイオポート。街中にはおしゃれなデザインの建物が並び、街から望む海はとても美しい。加えて二度目のダークポケモン事件後、シャドー総帥デスゴルドが潜伏していた場所だと報じられたこともあり、数年たった今ではちょっとした観光都市となっていた

しかし、数週間前に異変が起きた。近海に浮かぶ火山島“ニケルダーク島”が突如噴火し、それによる大量の火山灰が風に乗って街を埋め尽くしたのだ。火山灰により麻痺した都市機能回復の為、方々の地方より警察が派遣され復興活動にあたっている。ヒカリはシンオウ地方からの選抜組だった

そして転勤の理由はもう一つあった。今回噴火したニケルダーク島は歴史的にも噴火記録のない「死火山」なのだ。数年前シャドーの本拠地であったそこが何故噴火に至ったのかを調査する必要があるのだ

アイオポートに到着してから数週間程、ヒカリはまず街の火山灰除去作業に充てられた。力仕事が多いこともあって、通常なら相棒ポケモンとしてガーディが同行するが、今回はウインディを連れている。相棒と協力しながら、割り当てられた地区で火山灰除去作業をこなしていくものの、その物量の大きさに、ヒカリは疲労の色を見せ始めていた

ヒカリ「ウインディしんそく!」

そして自然災害で被災した地域というのは、えてしてその治安が崩れてしまう。大量の市民の避難所への避難で静まり返った街で横行する空き巣、ボランティアを騙りながらその対価として強引な略奪を行う者など…それらを取り締まることも警察として行わなければならない。ヒカリは今日も空き巣を働いていた数人の男達を発見し、対処していた。複数体のポケモンを繰り出してきた男達にウインディが神速でアタックする

ヒカリ「火炎放射!」

アタックが終わらぬ側から次の指示を飛ばし、ウインディが即座に炎を集団へ浴びせる。しんそくで怯んでいた集団はその速さについていけず、あっという間に蹂躙された

「ち、ちくしょぉ〜、にっ逃げるぞ!」

倒れた自分達のポケモンさえ放置して逃げようとする男達に、ウインディが勢いよくのしかかり取り押さえた

ヒカリ「ふぅ〜。まとめてお陀仏」

観念したようにへたり込んだ男達に、ヒカリは素早く手錠をかけた

ヒカリ「やっぱり私にはこういう方が向いてるのかも」

男達を仮設の拘置所にぶち込んだ後、港の桟橋に腰かけ昼食をとるヒカリは、同じく昼食のポケモンフーズを食べる相棒のウインディの頬を撫でながらそう呟く。ヒカリはコトブキ署では庶務課所属で、平時は事務作業に明け暮れている。火山灰除去の為に身体を動かし、時には悪党共とのポケモンバトルという流れにヒカリは昔旅したことを思い出し、どこか心地良いものを感じていた。その証拠に、復興支援に集結している警察の中での逮捕者数は、ヒカリがダントツでトップだった

昼食を終えて一息ついていると、ズボンのポケットに入れいている携帯端末がアラートを発した

『B28地区にて複数のポケモンが暴徒化、避難所付近の為、近郊の者は至急向かわれたし』

治安を乱すのは必ずしも人間だけとは限らず、ポケモンにおいても同様だった。ヒカリは早速次が来たなと意気込みながら現在位置との距離を確認し、無線に返答した

ヒカリ「こちらB16地区、シンオウ班のヒカリです。すぐに急行します!」

さっとウインディの背中に飛び乗ると、現場へ向けて出発させた
 ▼ 49 ラルジグザグマ@シシコのたてがみ 24/02/09 10:29:40 ID:fqAQ3EMs [2/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
現場に到着した時、ヒカリは戦慄した

商店街であるその場所で破壊行為を行っていたのは、ダークポケモンだった

ノゾミと飲みに行った夜に襲ってきたあの黒い影がダークポケモンだったと、ヒカリは後日警察内で発信された通達で知った。そこから過去のダークポケモン事件について警察の資料データを確認し、その凶暴性についても理解していた。それが何故今ここに…?ヒカリはあの夜の恐怖を思い出し、数瞬硬直した

ヒカリ「ウインディ!かみなりのキバ!」

だが任務は果たさねばならない。相手は黒いシャワーズとヒヤッキーの二匹。どちらも水タイプでウインディにとって分は悪いがやるしかないと指示を飛ばす。破壊活動に夢中だった二匹は突如襲来したウインディに対応できず、かみなりのキバの直撃をうけて吹き飛ぶ。しかしすぐに態勢を立て直すと、二匹同時にハイドロポンプを放ってきた

ヒカリ「回避っ!」

ウインディは素早く回避する。が、相手のハイドロポンプは通常のものよりはるかに強力で、横腹をかすめただけにも関わらずウインディは吹き飛ばされた

ヒカリ「ウインディ!」

負傷箇所はわずかでも大ダメージを受けているようで、立ち上がるのがやっとのようだった。その時…

「ヒカリィィ!!」

どこからかバイクの音と自分を呼ぶ声が聞こえ、ヒカリは咄嗟にそちらへ目を向ける

ヒカリ「ケ、ケンゴ!?」

二匹が走ってくるバイクにハイドロポンプを放つが、バイクはいとも簡単にそれを回避する。バイクはそのままダークポケモンに突撃し、その車体で二匹を弾き飛ばした

ケンゴ「大丈夫か、ヒカリ!?」

バイクを止め、ケンゴがヒカリに駆け寄る

ヒカリ「どうしてケンゴがここに!?」

ケンゴ「話はあとでっ!」

ヒカリが負傷していないことを確認すると、ケンゴはヒカリをウインディの背中に無理矢理乗せる

ヒカリ「ちょっ、ちょっと!」

ケンゴ「普通のポケモンじゃダークポケモンには勝てない。ヒカリは退くんだ!」

ヒカリ「勝てないって…じゃあケンゴは?」

ケンゴ「ウインディ、みんなのところまで走るんだ、いけるね?」

ウインディが状況を察して頷くと、踵を返して走り出す

ヒカリ「ケンゴ!!?」

ウインディが角を曲がり、お互いを視認できなくなる。それを確認すると、ケンゴは態勢を立て直した二匹に向き直り、獣化した
 ▼ 50 カマル@でんせつのメモ? 24/02/09 10:53:25 ID:fqAQ3EMs [3/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ウインディが走り始めてから一分もしないうちに、ヒカリは堪えきれずウインディが走るのをやめさせた

ヒカリ「ごめん、ここで待ってて!」

突然現れたケンゴ、通常のポケモンじゃ倒せないと言われたこと、そして自分だけがその場に残りヒカリを逃がしたこと、ヒカリは突然湧いた困惑から逃れられず、とにかくケンゴの身だけを心配して今来た道を走って戻り始めた。本当は逃げてはいけなかったし、応援を呼ぶことが警官として適切な判断だが、ヒカリは完全に冷静さを失っていた

同じ頃、獣化したケンゴはタイプ相性など関係ないと言うように水タイプの二匹を圧倒して戦っていた。思念の濁流を受け流し、自分の意識のまま身体を動かし技を繰り出す。完全に獣化をものにしていた

ケンゴ「どおぉぉりゃぁぁぁ!!」

拳が心臓部を直撃し、二匹目のダークポケモンを殺害した。自在に戦うことはできても、ダークポケモンを生きたまま戦闘不能にすること自体はまだケンゴにはできずにいた。また、殺した…瀕死状態にできなかった…殺すしかなかった…。さっきまで命だった二つの亡骸を見つめ、そんな自責の念に駆られながら、ケンゴは獣化を解いた

「ケンゴ…?」

その時、背後で声がした

ケンゴ「ヒカリ…!?」

ケンゴを想って戻ってきたヒカリと、ヒカリを守る為に戦ったケンゴは、互いに呆然と見つめ合った
 ▼ 51 ブト@ピーピーリカバー 24/02/09 11:16:03 ID:fqAQ3EMs [4/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒカリは完全に混乱し、その場に立ちすくむことしかできなかった、ケンゴの元に戻った時、あの夜見たのと同じゴウカザルがダークポケモンを殴り飛ばしていた。ダークポケモンは地面に叩きつけられ、絶命した。そして、戦闘を終えたゴウカザルは少しずつ姿形を変化させ…

ヒカリ「どういう……ことなの…?」

そんな言葉しか口からは発することができなかった

ケンゴ「これは…」

目的地が同じオーレ地方であることから、万が一にも自分の獣化を知られてしまうのではないかと思っていたケンゴは、実際に訪れたその場面に、どう答えれば良いのか分からず、ただうつむくしかなかった

ヒカリ「どういう……ことなの…?」

同じ言葉しか発することが出来ないヒカリを見て、ケンゴは勇気を振り絞ってヒカリに近づこうとした

ヒカリ「近寄らないでっ!」

その一歩を踏み出す前にヒカリが叫んだ。その瞳は驚愕と恐怖で潤んでいる。そういう反応が返ってくることをケンゴは分かっていた。ヒトがポケモンに、ポケモンがヒトに変化するなどという化け物じみた光景を見れば、そういう反応になるだろうと

ケンゴ「ごめん……」

口外は厳禁だとされてはいるが、ヒカリは自分の“想う家族”だ。後から向かうと言っていたレオはまだ到着していない。見られてしまった以上、話しておこうとケンゴは決心した

ヒカリ「ケンゴ…化け物になっちゃったの…?」

ヒカリがかすれた声で尋ねる

ケンゴ「一つ一つ、話をさせて欲しい…近寄って欲しくないならこのままでも良い。とりあえず、聞いて欲しい…」

ヒカリはこくんと、小さく頷いた
 ▼ 52 ッツー@メタモンのべたべた 24/02/09 11:47:30 ID:fqAQ3EMs [5/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒカリ「ケンゴは…元に戻れるのよね…?」

ケンゴが今置かれている状況の全てを話し終えると、ヒカリが小さく尋ねた。二人は付近にあったベンチに腰掛けている、その両端に。

ケンゴ「うん…この任務を終わらせられれば、博士がゴウカザルの塩基配列を抽出する処置をしてくれる」

ヒカリ「そう…」

そこから、長い沈黙が続いた。ヒカリを少しでも安心させてあげられる言葉をケンゴは探すが、まるでダメだった

ヒカリ「……じゃあ、私も頑張らないと」

ケンゴ「え?」

ヒカリはベンチから勢い良く立ち上がるとそう言った

ヒカリ「ケンゴがそんな大変な思いして戦ってるのに、私があんな態度取っちゃダメだよね。仕事も、もっと頑張らないとっ!」

笑顔でケンゴに振り返るヒカリ、その勢いが空元気であることがケンゴにはすぐに理解できた

ケンゴ「ヒカリ…」

ヒカリ「私なら大丈夫大丈夫!なんたってここじゃ検挙数ナンバーワンの凄腕警官なのよ?………だから、ケンゴも…気をつけてね…」

次第にヒカリの潤んでいくのが見える。ケンゴは、小さく頷いた

ヒカリ「私、もう行かなきゃ。さっきの騒ぎの報告しないといけないし」

ケンゴ「うん…頑張って、ヒカリ」

ヒカリ「うん!」

顔を制服で拭うと、ヒカリは自分が今来た道へ再び歩き去っていく。ケンゴはそれをただ見送ることしかできなかった。ヒカリが角を曲がり見えなくなった時、

「口外は厳禁だと言われなかったか?」

ベンチの後ろでした声に振り返ると、眉間にしわを寄せ険しい表情のレオが立っていた

ケンゴ「ごめん。でも、“家族”なんだ」

家族という言葉に反応したのかレオの表情が少し崩れる

レオ「そんなことは関係ない。よって、罰を与える」

特殊任務における規律違反は重罪だ。だがレオは少し考えるような表情になってから続ける

レオ「これから三日間の食事は全て、ポケモンフーズとする」

ケンゴ「は?」

レオ「獣化してから食べなければ、美味しくないだろうな」
 ▼ 53 ツハニー@カントーのせきばん 24/02/09 13:26:06 ID:fqAQ3EMs [6/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その夜、復興支援にあたる地方警察用寄宿舎の自室で、ヒカリは転勤以来初めてノゾミに電話した

ヒカリ「肩の具合はどう?」

ノゾミ「もうなんともないよ。ってか、負傷したのだってもう何週間も前でしょう?」

ヒカリ「そだったね…」

ノゾミ「そっちはどう?うまくやれてるの?」

ヒカリ「こっちじゃ検挙数ナンバーワンの凄腕なのよ私。まさに、世にはびこる悪をばったばったとなぎ倒し!みたいな?」

ノゾミ「なんかそれ、仕事の方向性がちょっとズレてない?」

ヒカリ「大丈夫大丈夫!」

ノゾミ「てっきりある意味でのホームシック起こしてんじゃないかって心配してたけど。ま、とりあえず元気で良かったよ」

ヒカリ「何よある意味でのって〜」

その意味をなんとなく察したヒカリは少しむっとなる

ノゾミ「出発する前はあれだけピーピー泣いてたのにさ」

ヒカリ「今はお互い頑張る時なのよ、だから大丈夫大丈夫!」

今日ケンゴと会ったこと、起こったことはノゾミには話せない。でも、お互いに頑張らなければならない時であることに間違いはないから…お互い一生懸命頑張っていれば、いつか報われる、元に戻れたケンゴとのいつもの他愛のない日常を取り戻せるはず…その気持ちはケンゴと繋がっているはずだと思えるから…そう思うとヒカリは心に温かいものを感じてそう言った
 ▼ 54 リーラ@ちいさなはなたば 24/02/09 14:14:17 ID:fqAQ3EMs [7/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アイオポートを発ってから数日後の夜。明日にはポケモン総合研究所へ到着できるという森の中で、ケンゴたちは野宿していた

当初の予定では二週間程で到着できる予定であったが、ケンゴが獣化をものにする為の訓練や、幾度となく現れたダークポケモンの対処などでいつの間にか倍近くの期間が過ぎてしまっていた

レオ「この間、お前はあの女を家族と言ったな」

小枝で焚き火をなんとなくいじっているケンゴに、寝袋に入って横になっているレオがそう問いかけた

ケンゴ「え?…うん」

レオ「兄妹…にしては似ていないな。妻か?」

妻という言葉に驚き、ケンゴの手が思わず焚き火の中に入りそうになった

ケンゴ「ち、違うよ!」

レオ「じゃあなんだ?」

血縁関係なわけでもなければ、恋愛関係でもない、ただ同じ部屋で暮らしているだけ。そして漠然と家族と思える存在…今更他人から何なんだと聞かれて、ケンゴはその関係の不明瞭さに言葉を詰まらせる

レオ「……まあ、どうでもいいがな」

黙り込むケンゴにしびれを切らしたのか、レオは顔を背けてそう言った

ケンゴ「どうしたんだよ突然」

もう一月近くレオと一緒にいるが、互いのプライベートについて話し合ったことはない。それはレオに出会った頃、雑談としてケンゴがレオのプライベートについて問いかける度に、「お前には関係ない」と著しい拒絶の姿勢を見せた為、ケンゴもあえてそれ以上は問うことも、自分の話をすることもなかったのだ。逆に、レオがケンゴのプライベートについて尋ねてきたのはこれが初めてだった

レオ「どうもしない」

ケンゴ「なんだよそれ。僕が君のことを聞いても、何も答えてくれないくせに」

少し意趣返しするような口調でケンゴが言う

レオ「俺は、自分にできないことを他人には求めない。そしてその逆もそうだ」

ケンゴ「どういう意味だよ」

レオ「俺は自分のことなど他人に話したくない…いや、話せない。だから他人に対してもそれを求めたりはしない」

ケンゴ「話せない?」

レオ「ああ」

ケンゴ「そんなに恥ずかしがり屋には見えないけど…」

レオ「そういう意味じゃない」

小首をかしげるケンゴに、レオは少し考える表情になった後、寝袋から這い出で焚き火の前に座る

レオ「まあお前になら、良いだろう。ただし…」

レオは決心した様子で立ち上がると、力み始める。すると、レオの姿形が少しずつ変化していく

ケンゴ「え…」

ケンゴの目の前で、レオは獣化した
 ▼ 55 クバリス@カリキリのはっぱ 24/02/10 07:27:49 ID:SU.YV4is [1/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
ピンク色の皮膚に青い瞳、四つ足になったその姿は…

ケンゴ「エーフィ…」

レオ「驚いたか?」

ケンゴが頷く

レオ「何の実証実験も無く、博士がお前に処置を施すと思うか?俺は被験体第1号として処置を受けた」

確かにレオとナナカマドは共同で研究を進めていたと聞いてはいたが

ケンゴ「どうしてレオ自身が…」

レオ「俺は自分のことなど話したくはない。思い出したくもない。だから代わりにお前には、見せてやる」

レオが言うと、その青い瞳がうっすらと光を帯びる。ケンゴの頭の中に何かが流れ込んでくる。しかしそれはダークポケモンから発せられる負の濁流とは違う何か。ケンゴの意識はその何かに吸い込まれていった
 ▼ 56 ルデアケンタロス@GBプレイヤー 24/02/10 08:07:54 ID:SU.YV4is [2/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
ケンゴの周りの風景が砂漠に変わる。夢の中のようなぼんやりとした感覚で、実際に砂漠にいるわけではないというのはわかる。どうやら自分はレオのバイクを運転しているらしい、着ている服もレオのものだ

ケンゴ「これは…レオの記憶?」

そのバイクには他に、エーフィ・ブラッキー。そして見たことのない女性が乗っている。何やら皆で雑談をしているようで、誰もが笑顔だった

そこから場面は変わり、戦闘が始まる。レオが次々とダークポケモンを捕獲していく。恐らくそのボールがスナッチボールなのだろうとケンゴは理解した

その後も次々と場面は移り変わる

シャドー達を次々と倒し、その最大幹部の乗ったヘリが火の鳥のようなポケモンに撃墜される

森の中の祠の前で、多くのダークポケモン達が清浄化されていく

レオと瓜二つの姿をした男と戦い、その男が使うダークポケモンをスナッチすると、レオは変装を解いた相手を殴り殺す

二匹と一人の仲間を連れオーレ地方を離れていくレオ

世界中を旅し、その先で戦争や紛争、様々な闘争を目にする

時にはレオ達もその争いに巻き込まれるが、なんとかいくつものピンチを乗り越える

そして次に映ったのは、とある紛争地帯で共に旅をする女性がダークポケモンに締め上げられる光景。エーフィやブラッキーは既に絶命し、レオも地面に倒れ伏して動けずにいる。レオにはただもがき苦しむ女性を見て叫ぶことしかできなかった。鈍い音と共にその首が折れ、女性はごみのように地面に捨てられる…ダークポケモンは次の獲物を探すようにどこかへと消えていく…

豊かな自然の広がる村の片隅の墓地に、レオは立っていた。目の前の墓石には三つの名前が記されている

少しの間暗い闇に包まれると、今度は手術台の上で仰向けになっていた。傍らに立つナナカマドと何かを話している

そこで、記憶の放流は収まり、ケンゴは現実に戻された。ケンゴの頬をいくつもの涙が流れいていた

レオ「思い出さなくとも、俺の中に眠る記憶を見せることはできる」

ケンゴ「レオ…君は…」

レオ「これでお前の知りたいことは全て見せた。俺の獣化のことを隠していたのは、お前のポケモンとしての経験を多く積ませる為だ」

レオが獣化を解くと、寝袋に戻る。ケンゴは涙を抑えきれずにいる

レオ「さてじゃあもう一度聞くとするか。あの女はお前のなんだ?」

ケンゴ「大切な…家族だよ…」

ケンゴは嗚咽混じりにそれだけ答える。レオはふんと鼻を鳴らすと寝袋の中でこちらに背を向け、ぽつりと呟く

レオ「こんなくだらん戦いは、さっさと終わらせるぞ」

レオには見えないけれど、ケンゴはただ頷いた
 ▼ 57 プ・レヒレ@ナマケロのけ 24/02/10 08:52:24 ID:SU.YV4is [3/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日ようやく到着したポケモン総合研究所、所員達は二人を快く迎え入れてくれた

「ナナカマド博士より連絡は頂いております」

レオ「前置きはいい。それより状況の確認をさせてくれ」

不愛想に言うレオに案内役の所員が少したじろぐ

ケンゴ「すみません。こいつあまり人付き合いが上手じゃなくて」

ケンゴが弁解すると、レオが思い切りケンゴの足を踏む。それに気づかず「はあ」という反応をする所員にケンゴは痛みを必死に隠しつつ愛想笑いを返した

「正直なところ、研究はあまり進展していません」

案内された研究室で所員がそう言った

「ナナカマド博士から、シンオウ地方に出現した今回の新たなダークポケモンのDNAサンプルの一部を送って頂き、研究してみてはいるのですが、どうやらスナッチをブロックする因子が紛れ込んでいるようで…」

ケンゴ「スナッチをブロックする因子?」

研究所に来るまでの間、ケンゴはナナカマドからスナッチに関するデータを送ってもらい確認はしていた。スナッチはダークポケモンをダークポケモンたらしめる因子を認識し、半ば強引にモンスターボールに封じ込めるという仕組みらしい。スナッチボールというのはそれ自体が一種のボールなのではなく、スナッチマシンという小型端末を使用し通常のモンスターボールにその機能を付与することでできるものなのだそうだ

「その因子をシャットアウトできるような機能を研究中なのですが、現段階での成果はほとんど…」

ケンゴ「そうですか…。では、リライブについては?」

「それについても同じく、その因子の影響で困難だと考えられます」

従来のダークポケモン因子には弱点があった。それは、外部からの優しさや慈しみにさらされ続けることで徐々にその構造が破綻していくというものだともケンゴはデータで確認していた

ケンゴ「じゃあ…今のダークポケモンを救う手段は…」

「はい…残念ですが…ありません…。戦闘不能にしてどこかに収容するにも、核兵器を完全に防げる頑丈なシェルターでもない限りは、完全に絶命させるしか」

何となく予想はしていたし、ケンゴも今までそうしてきた。しかしそれでも何か手はないのかと思いここまで来たのに…。ケンゴも所員も苦い顔になり歯噛みする

レオ「二度目のシャドー事件の時の貢献者は今どこにいる?」

レオがふと研究室の隅の机を見ながら言った。そこにはスナッチマシンが置かれていた。随分と汚れており、どうやら事件当時に使用されたもののようだ

「旅に出ています。そういう歳で、おまけに立派なポケモントレーナーですから」

どの地方でもある一定の歳になれば子供達はポケモントレーナーとして旅に出る。この地方でもそれは同じなのだとケンゴは理解した

レオ「シャドーの本隊をぶっ潰したのが俺より年下の子供だったとはな。なかなかやる」

スナッチマシンを見ながら、レオが少し嬉しそうに頬を緩めた
 ▼ 58 ャランゴ@ふといホネ 24/02/10 09:22:47 ID:SU.YV4is [4/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
ケンゴ「じゃあ、今戦えるのはやはり僕達だけか…」

「あの、こちらも一つよろしいでしょうか」

所員があらたまった様子で尋ねてくる

ケンゴ「何ですか?」

「いえ、おそらく大したことではないと思うのですが、ここ数日ナナカマド博士と連絡が取れずにいるのです」

ケンゴ「連絡が?」

レオ「確かに。俺も博士へは数日に一度定期連絡を行っているが、数時間前に通信を入れた時には反応がなかったな」

「体調を崩されて休まれているだけということでしたら良いのですが…」

レオ「いや。博士の場合、体調不良でも俺との定期連絡には応じるはずだ、便所の時を除いてな。それに着信を残していれば折り返しがくる」

その時、研究室のドアが勢いよく開き、別の所員が飛び込んでくる

「大変ですみなさん、早くこちらへ!!」

ただ事ではないという雰囲気に、ケンゴ達はその所員に従って研究室を出た。休憩スペースらしい部屋に案内されるとそこに設置してあったテレビ画面に衝撃的なニュースが流れていた

『繰り返しお伝えいたします。昨日シンオウ地方コトブキシティ郊外の研究施設で、ポケモン進化研究の権威であるナナカマド博士が何者かによって殺害されているのが発見されました。現場は酷く荒らされており、身体中に爪痕のような深い傷がみられることから、ポケモンによる犯行であると警察は発表しています』

ケンゴ「博士が…死んだ…?」

ケンゴは慌てて自分の携帯端末を取り出しコトブキ署のネットワークにアクセスする。すぐにナナカマドの事件情報に辿り着くと、今テレビ画面の中でキャスターが話していることと同じことが記されていた

「そ、そんな…」

一緒に研究室から来た所員はそのニュースに愕然とし、その場にへたりこむ。その時、ケンゴとレオそれぞれの携帯端末に着信音が鳴った。二人は顔を見合わせ、着信したメールを開く

『コロサレタカラ、コロシタ。ジョウホウモ。イタダイタ』

差出人不明のそのメールには書かれていたのはそれだけだった
 ▼ 59 ランテス@ぼうけんノート 24/02/10 10:03:16 ID:SU.YV4is [5/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
レオ「これで敵の尻尾はつかめそうだな」

メールを見た二人のうち、最初に口を開いたのはレオだった

ケンゴ「どうしてそんなに冷静でいられるんだ!!」

ケンゴは思わずレオにつかみかかる

ケンゴ「博士が…殺されたんたぞ!!?」

レオ「ダークポケモンによってというのは、間違いないだろうな」

冷静に言うレオを見て、ケンゴは激昂を抑えきれずにレオの顔を思い切り殴った。だが、殴られた痛みなど、博士が死んだことへの悲しみなどまるで無いというように、レオは無表情のままだ

ケンゴ「一緒に研究していたんじゃないのか!!?お前には人間の心が無いのか!!!?」

レオ「今博士の死を想ってどうなる?」

レオがぽつりと呟く

ケンゴ「え…?」

レオ「それで博士が戻ってくるか?ダークポケモンによる被害がなくなるのか?俺達が今やるべきなのは泣くことじゃない。博士の意志をしっかりと継ぎ、終わらせることだ、このクソみたいな連鎖を」

レオはケンゴを突き飛ばすと、自分の携帯端末を操作し始める

ケンゴ自身も自分の知る人間の死を経験したのはこれが初めてではない。親族や友達が何人か亡くなっている。その度に大きな悲しみがケンゴを襲ったが、時が過ぎれば段々と平気になれた。だがそれらの死はどれも病気だったりどうしようもない事故だったりが原因だった。何者かによる明確な殺害という事実を突きつけられるのは、これが初めての経験だった

レオ「俺達が戦わければ、被害はこれからもっと拡大する。悲しみも同じように拡がっていく」

ケンゴはレオに見せられたレオの記憶を思い出す。あの死の光景を…。だからレオは戦う道を選んだのだと、ケンゴは理解した

レオ「差出人は不明だが、このメールが発信された位置を特定すること自体は造作もない。そこに向かえば大きな情報が得られるだろう。だが、特定には少し時間がかかる。特定でき次第出発するぞ、泣きたいのなら、その間だけにしろ」

ケンゴはうつむいたままただただ涙を流すばかりで、何も答えられない

レオ「PCを借りれるか?」

「え…あっはい!」

ケンゴを振り返りもせず、所員についてレオは部屋を後にする

発信源がオーレ地方北部にある“バトル山”であることが特定できたのは、その翌朝のことだった

レオ「もういいのか?」

バイクに乗りながらレオが尋ねる

ケンゴ「レオが言ったことは何も間違ってなんかいない。一晩寝ずに考えて、よくわかったよ…」

ケンゴは一晩中悲しみに明け暮れ。考えた。自分が今どうしなければならないのかを

ケンゴ「昨日は殴ったりなんかしてごめん」

レオはふんと鼻を鳴らしただけで何も答えない。そんな態度の意味をもう理解しているケンゴは小さく微笑み返す。二人はバイクを発進させて“バトル山”へと出発した
 ▼ 60 ノンド@まるいおまもり 24/02/10 10:43:16 ID:SU.YV4is [6/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
“バトル山”へは一週間程で到着した。そこは“ニケルダーク島”と同じく歴史的に噴火記録のない死火山で、多くのトレーナーが己を鍛える為、100人のトレーナーと戦いながら頂上を目指すバトル施設が建設されている。しかし一月前の“ニケルダーク島”の噴火によってこちらも噴火が誘発されるかもしれないという地質学専門家の意見から、今は閉鎖状態にあった

レオ「発信源は、この頂上だ」

バイクを降りながらレオが言う

ケンゴ「レオのバイクでも流石に火山は登れない?」

レオ「まあな。だからバトル山施設内を通って登るぞ」

ケンゴもバイクから降り、二人で施設内へ入ろうとした時、上空から何かが接近する音が聞こえてきた。見上げると、警察のヘリコプターが数機、こちらへ向かって着陸してきていた

ヒカリ「ケンゴ!?」

着陸したその中の一機から、ヒカリが姿を現す

ケンゴ「ヒカリ!?」

真っ先にケンゴに駆け寄るヒカリに、ケンゴは驚愕した

ケンゴ「どうしてここに!?」

ヒカリ「私達も、ダークポケモンを追ってきたの」

ケンゴ「でも、普通のポケモンじゃ…」

ヒカリ「大丈夫大丈夫。だって、ケンゴが守ってくれるでしょう?」

ケンゴ「え?」

ヒカリ「頼りにしてるね?」

各ヘリコプターから数人ずつ警官達が降りてくるのが見える。彼らはヒカリの後ろへ走ってくると、さっと整列した

ヒカリ「あ、でも私今はこの隊の隊長ってことだから、そこんとこのメンツは潰さないようにしてよね?」

他の警官には見えないようにしてヒカリはちらっと舌を出して見せた

ヒカリの話では、数日前“ニケルダーク島”噴火の原因を調査する為に島へと上陸した警察は、シャドーの本拠地跡の調査中にダークポケモンと遭遇したという。相棒ポケモン達の力を総動員して対処し、あと一歩で倒せるかもしれないという時、そのダークポケモンは飛翔し島から逃げ去ったという。そしてその向かった先がここ“バトル山”であると、警察は特定したのだった

ケンゴ「つまり。警察側もここに何かがあると読んでヒカリ達を」

ヒカリ「そういうこと。ただ一匹のダークポケモンを抑えるのにさえ相当戦力の消耗が発生するし、他にもダークポケモンが出現する可能性が高いから、あくまで施設内の仮調査ってことで落ち着いたの」

ヒカリからの説明を受けながら、ケンゴは彼女の後ろで整列し姿勢よく直立したままの他の警官達が気になった

ケンゴ「…ところで、何でヒカリが隊長に?」

ヒカリ「この前も言ったけど、私ここじゃ検挙数ナンバーワンの凄腕なのよ?ポケモンリーグで言うとチャンピオンみたいなもんなんだから!」

ヒカリは腰に手をあて、えへんと踏ん反り返った
 ▼ 61 ンプク@かいふくポケット 24/02/10 11:27:42 ID:SU.YV4is [7/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
ケンゴとレオを先頭にし、全員がバトル山施設内に入った。初めにエントランスがあり、ポケモンの回復マシンやパソコンが置かれている。少し前までは通常営業していたのもあり内装はまだきれいだった

レオ「通常ならこのドアの先から、トレーナー達の挑戦場となる」

最奥の受付のさらに奥のドアの前でレオが言った。ケンゴは試しに聞いてみる

ケンゴ「レオは100人抜き挑戦したことあるのか?」

レオ「二度程な。どちらも余裕だった」

ケンゴ「二度?」

レオ「ああ。今はどうか知らんが、当時バトル山の100人目のトレーナーは二人いた。バトラスとムゲンダイという男達だ。100人目にどちらが相手になるのかは挑戦するトレーナーの強さによって決まっていたらしい。強さを求めてポケモンバトルに明け暮れていたその頃の俺は、その両方をぶちのめしたかったんだ」

ケンゴ「合計200人か…なんか気が遠くなる話だ」

レオ「無駄話などしていないで、とっとと行くぞ」

エントランス内にも何か手掛かりがないかの調査と、上で何かあった時にすぐに本部へ応援を呼ぶ役割として警官隊のうちの数人はそこに残るようにとヒカリは指示した

ケンゴ達とヒカリ、複数人の隊員達がドアを開いて先に進み、施設内を道なりに登っていく。通路は階段と大きな踊り場がひたすら繰り返し続いており、最初の踊り場にはかすれた赤い字で1と大きく描かれていた。描かれている数字は登るにつれて一つずつ大きくなっていく。そしてその数字が10までくると、休憩所らしい建物があった

レオ「10人倒す毎に、ここの休憩所でポケモンの回復などができる」

そう言ってドアを開けようとしたレオは、その手を止めヒカリに振り返った

レオ「女、隊員達にポケモンを出すよう指示しろ。この中に、敵がいるぞ」

ヒカリ「ヒカリでいいわよ。ケンゴの仲間なんでしょう?」

女という言われ方にむっとしながらも、隊員達にポケモンを出すよう指示する。ヒカリもウインディをボールから出した

ケンゴ「俺達はどうする?」

隊員達に聞こえないように、小声でレオに問いかける

レオ「獣化のことか?あいつらが戦闘に集中している隙を狙ってそれとなくやれ」

ケンゴ「それとなくって…」

ヒカリには全て話してはいるが、他の隊員達は知らない。余計な動揺を与えるわけにはいかないのだが…

レオ「準備できたようだな。じゃあ、いくぞ」

レオが休憩所のドアを開け放つと、その中で一体のダークポケモンが待っていた
 ▼ 62 ョジオーン@スペシャルアップ 24/02/10 11:56:58 ID:SU.YV4is [8/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
初めの戦闘が終わった時、隊員達もそのポケモン達も全て気絶させられ。残ったのはケンゴとレオ、ヒカリだけになった

レオ「使えないな」

力なく地面に倒れている隊員達を見てレオが呟いた

ヒカリ「仕方ないじゃない!元は街の復興支援に来ただけの人達なんだから」

自分の部下を馬鹿にされたヒカリが肩を上げて怒る

ケンゴ「まぁヒカリ落ち着いて。こいつ、あまり人付き合いが上手じゃないんだよ」

獣化を解きながらケンゴがヒカリをなだめる。結局、またケンゴがダークポケモンを殺した。レオは獣化せずおとりとなってダークポケモンの注意を引き付けるだけだった

ヒカリ「昔旅してた時もいたわね。こういうやつ」

ケンゴ「確かに」

レオ「人のことをどうこう言う暇があるならさっさと行くぞ」

ケンゴとヒカリは昔シンオウ地方を旅していた時に出会った男を思い出し、懐かしみながらレオの後に続く

そこからも休憩所に限らず、時には踊り場や階段の途中でダークポケモンは襲来した。少ない戦力ではあるが、三人はうまく役割を分担してこれに対処した。レオがおとりとなって走り回ることでダークポケモンの注意を逸らし、その隙にヒカリのウインディが少しずつダメージを与えて足止めし、獣化したケンゴがトドメを刺す。そのコンビネーションは踊り場に描かれている数字と共にどんどん上がっていった。消耗していく体力は、ダークポケモンが現れなかった休憩所で回復させる

そして約半日かけて、100と地面に大きく描かれた頂上広場に辿り着いた

ヒカリ「何も…ないみたいね…」

警察で身体を鍛えているといっても、何百段もの階段を登ってきたヒカリとケンゴの息は上がっていた。がレオは対照的に未だ涼しい顔をしている

レオ「いや、間違いなくいる」

ケンゴ「うん…僕も感じるよ…」

地面にぺたりとへたり込むヒカリに対して二人は言い知れぬ殺気を周囲に感じていた

レオ「出てきたらどうだ」

レオが言うと、何もない広場の中心に突然、ぽーっと人影が現れた

「久しぶりじゃのうレオ」

明瞭になった人影は、髭を蓄えた老人だった

レオ「貴様だったか、ムゲンダイ」

ケンゴ「ムゲンダイ!?じゃあこの人が…」

レオ「そう。親玉だ」
 ▼ 63 イクン@レンブのみ 24/02/10 15:15:54 ID:SU.YV4is [9/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
レオ「貴様が何故ダークポケモンを?」

ムゲンダイ「人もポケモンも、戦いをやめることはできぬ。どれだけ時代が移り変わろうとな。今でこそポケモンバトルなどという文化が広がっておるが、それでも本来の闘争本能を拭い去ることなどできぬのじゃ」

ケンゴはナナカマドやレオから聞かされたヒトとポケモンの歴史を思い出す

ムゲンダイ「じゃがわしにとって戦うことなどはどうでもよい。かつてここで100人目の役割を担っていたのもただの小銭稼ぎのようなものじゃ」

レオ「雑魚だったからな、貴様は」

ムゲンダイ「言ってくれるのぉ。まあ良い。わしは戦うことよりも、それを眺めることが好きでのぅ」

ケンゴ「眺める?」

ムゲンダイ「戦う為に必要なもの、それは兵器じゃ。そしてその兵器に焼かれた者は憎しみを抱き、より強力な兵器で相手を焼く。それはさらに大きな憎しみを生む。そうやってこの世界では一生、闘争と憎しみの連鎖の輪が途切れることはない。ただひたすらに、殺されたから殺し、殺したから殺される」

コロサレタカラ、コロシタ…ケンゴ達に送られてきたメールにもそう記されていた

ムゲンダイ「わしはその連鎖の輪を眺めているのが好きなのじゃ。だから、それが途切れてしまうのは寂しくてのぉ。そんな時現れたのがシャドーじゃった」

レオ「あの時からお前らは繋がっていたのか?」

ムゲンダイ「それは違う。わしとて悪党に自分の土地で好き勝手暴れ回わられるのは好かんからのぅ。お前が始末してくれるのを見ておった」

レオ「自己中のゴミクズが」

ムゲンダイ「戦いの連鎖を望むわしにシャドーは良いものを教えてくれた。それがおぬしらのいうところのダークポケモンじゃよ」

レオもケンゴも全てを察したような表情になる

ムゲンダイ「じゃがあやつらの作るダークポケモンは兵器としては不完全じゃった。じゃからわしがそれを完全なものにしたのじゃ」

レオ「それが今回のやつか」

ムゲンダイ「研究には苦労したのぉ。スナッチもされぬようにせねばならなかったしの。その試作品が完成した時、いの一番にそれを見せてやりたかったのは誰じゃと思う?」

ムゲンダイはレオをじっと見つめる

レオ「じゃあ、あれもお前が……お前が!!」

こんなにも激昂するレオの表情を、ケンゴは今まで見たことがなかった

ムゲンダイ「試作品じゃったし殺されても構わんかったのじゃがなぁ。その方がより完璧なものを生み出す為のデータが取れる。じゃが、殺されたのは別のもののようじゃったな…」

首が折れる鈍い音、ケンゴが見たレオの記憶の中の音…

レオ「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」

レオが獣化して全身からエネルギーを発すると、そのエネルギーは6つのトゲとなってムゲンダイに襲い掛かかる。しかしムゲンダイの周囲に見えない壁が現れ、それを弾いた

ムゲンダイ「まあ落ち着けレオ、年寄りの話は最後まで聞くものじゃ」

レオはそれから何度もサイコショックを繰り返し放つが、やはり見えない壁に弾き飛ばされる

ムゲンダイ「ダークポケモンを世界へ売り込み、戦いの連鎖の輪を途切れさせぬこと、それが今のわしの生きる目的じゃ」
 ▼ 64 レズン@ジメンZ 24/02/10 15:33:40 ID:SU.YV4is [10/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
ケンゴ「だから、博士も殺したのか…?」

激昂するレオの横で、ケンゴも拳を握りしめる

ムゲンダイ「ナナカマドのことか?あやつは昔からわしの邪魔ばかりしおったなぁ。それも本当に遠い昔から」

ムゲンダイが懐かしむような表情で空を見上げる

ムゲンダイ「別に殺そうと思って殺したわけではない。ただ、わしの今の生きる目的にとって邪魔じゃっただけじゃ」

ケンゴ「なんだと…」

ムゲンダイ「ただでさえ生い先短いジジイのちっぽけな願いさえあやつは邪魔しようとしおったからのぅ。その証拠に今おぬしらがここにおる」

ケンゴも獣化し、固く握りしめられた拳に炎をまとわせる

ムゲンダイ「まあそのおかげでまた新しいおもちゃが手に入ったのじゃがな」

ムゲンダイが微笑んだのとケンゴがムゲンダイに殴りかかったのは同時だった。しかし繰り出された炎の拳も、やはり見えない壁に当たっただけでムゲンダイには届かない

ムゲンダイ「そろそろおぬしらもまともにわしの話を聞く気もなくなってきたことじゃし、そろそろおいとまするかのぅ」

そう言うとムゲンダイが空中に浮遊し始める

レオ「逃がすものかぁぁぁぁぁぁ!!!!」

レオが再度サイコショックを放つ。それがまた見えない壁に弾かれたのに併せて、ムゲンダイの姿が消える

『わしを止めたければ、北東にくるがよい。わしは逃げも隠れもせんぞい』

どこかからムゲンダイの声がそう響いた後、その場に静寂が訪れた
 ▼ 65 ーロット@うみなりのスズ 24/02/10 16:04:31 ID:SU.YV4is [11/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
二人共が冷静さを取り戻して獣化を解き、バトル山を下りて地上で情報を整理し始めるのにまた半日の時間を要した。冷静さを取り戻すまでのレオは、頂上の広場をひたすらに破壊し続けた

レオ「奴の狙いはダークポケモンの量産と、兵器としての世界への拡散」

ケンゴ「それによって今起こっている世界中の争いをさらに拡大させようとしている」

ヒカリが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、二人はそれぞれのバイクにもたれかかっていた

レオ「ジジイは新しいおもちゃが手に入ったとも言っていたな」

ケンゴ「博士の研究施設を襲ったとなると、獣化のことが?」

レオ「となれば、今度はポケモンだけでなく、人間自体も誘拐し利用し始める可能性があるわけだ。兵器として」

二人は示し合わせてもいないのに、飲んでいたコーヒーの紙コップを同時に握り潰す

ケンゴ「そんなことは絶対にさせちゃいけない。これ以上、悲劇を起こさせるわけにはいかない」

レオ「ああ。……行くか」

二人はそれぞれのバイクのエンジンに火を入れる

ヒカリ「ケンゴ!」

出発しようとする二人に、彼らを遠巻きに見ていたヒカリが駆け寄ってくる

ケンゴ「ヒカリは一度アイオポートに戻るんだ。そしてこのことを本部に伝えて」

ヒカリはうんと頷くが、まだそこから動こうとはしない

レオ「先に行ってるぞ。早く追いつけよ」

何かを察してか、レオはそう言うと先にバイクを発進させて行ってしまった。それを見送ったヒカリがケンゴに向き直る

ヒカリ「帰ってきてよね…必ず…」

ケンゴ「当り前じゃないか。すぐに済ませて帰ってくるよ。……元に戻れる保証はなくなっちゃったけど」

ナナカマドはもういない。自分は元に戻れるんだろうかとケンゴは今更ながらに疑問に思う

ヒカリ「戻れるわよ…レオって人、博士と一緒に研究してたんでしょう?きっとなんとかなるわ」

ヒカリの頬を涙がつーつーと伝いだす

ヒカリ「だから…」

ヒカリは目を閉じ、ケンゴの唇に自分のそれを重ねる。ケンゴもそれに応え、そっとヒカリを抱きしめる。数秒の後、二人は身体を離した

ケンゴ「いってくるよ」

ヒカリ「うん。いってらっしゃい」

ケンゴはレオに追いつく為に、バイクを急加速で発進させた
 ▼ 66 ガジュカイン@ナマケロのけ 24/02/10 16:48:57 ID:SU.YV4is [12/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
レオはムゲンダイの居所をオーレ地方の最北東端だと推測してケンゴに言った。隣接する地方も砂漠に覆われており、いわば砂漠のド真ん中だと言える場所。バイクを全速で走らせても、“バトル山”からだと一週間近くかかる距離にあった

レオ「補給は望めない。片道切符になるかもしれないが。本当に良いのか?」

走り始めて数日後の野宿の時に、レオが尋ねた

ケンゴ「今更どうしてそんなこと。早く潰しに行こう、そして往復切符にすればいいさ」

寝袋の中で、レオはケンゴに背を向ける

レオ「…あの女のことは、いいのか?」

レオはぽつりと呟いた。レオの悲劇的な記憶を思い出し、ケンゴは察する

ケンゴ「それこそ僕らがさっさとこれを終わらせてしまえばいい。それにヒカリはあそこじゃ検挙数ナンバーワンの凄腕警官なんだぜ?ちょっとの危険ぐらいどうにでもできるさ」

レオ「そうか…」

その時、ケンゴの携帯端末に着信が入る。ケンゴが電話に出ると、相手はポケモン総合研究所の所員だった

『大変ですケンゴさん!アイオポートにある地方警察用の仮設寄宿舎が、何者かによって奪取されました!!』

ケンゴ「奪取って。どういう…」

『言葉の意味そのままです。ニュースで報じている限りだと、得体の知れない飛行物体が飛来し、寄宿舎をレーザーのようなもので吊り上げ、奪取したと。おそらく、二度目のダークポケモン事件当時に大量のポケモンを乗せた船をシャドーが奪取する際使用したものと同じ技術のようです』

ケンゴ「そんな…」

あそこにはヒカリがいるはずだ…

レオ「あの死にぞこない、もう動き出したか」

スピーカー音声にしていたので、それを聞いていたレオが寝袋から出てきた

ケンゴ「わかりました。ありがとうございます」

それだけ言って雑に電話を切ると、不安が頭を支配し始める

レオ「獣化に耐えうる人間のサンプルを多く得るには、持って来いの人材だろうからな」

ケンゴ「急がないとっ!」

興奮してバイクを発進させようとするケンゴの肩をレオがつかむ

ケンゴ「離してくれっ!早く行かないと、ヒカリが!!」

レオの手を振り払おうとするが、レオは動じない

レオ「落ち着け、今慌ててどうする。そもそも個人のDNAの解析と適性者の判定には時間がかかる。ましてや博士のとこから持ち出したデータだけの浅知恵でやれるほど簡単なものじゃない。安心しろ、俺達が到着するまでに連れ去られた人間達の身に危険が及ぶ可能性はかなり低い」

ケンゴ「それでもヒカリがっ」

レオ「お前が今から休みなくあの死にぞこないのところに向かったとして、着いた時に戦える体力が残ってないんじゃ意味がないだろう。苦しいだろうが、ここは堪えてとっとと寝ろ」

そこまで言われてケンゴはようやく冷静になれた。確かに自分が戦えなければ意味がない、ヒカリを救えない

ケンゴ「…ごめん。悪かったよ」

レオはケンゴがバイクから離れたのを確認すると、そそくさと自分の寝袋に戻った。ケンゴも湧き上がる怒りを抑えつつ寝袋に入る。ヒカリへの思いが、ケンゴの心に少しずつ黒い火を灯していった
 ▼ 67 トリンダー@ハッサムナイト 24/02/10 17:11:31 ID:SU.YV4is [13/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
ムゲンダイが潜伏していると思われる巨大な要塞を砂漠の中に見つけたのは、やはり“バトル山”を出発してから一週間後のことだった

ケンゴ「やっと辿り着いた」

レオ「最後の場所だ」

バイクのスピードを上げる二人に、またどこかから声が響く

『早かったのぅ二人共、歓迎するぞい。なに、数日前に捕獲したサンプルのことなら気にするな。まだ何もしておらんよ』

ムゲンダイの声、もはや人間さえサンプル呼ばわりするその声に、二人は険しい表情になる

『ちゃんと玄関から入るのじゃぞ。手洗いとうがいも忘れずになぁ』

そこでムゲンダイの声は消えた

レオ「ぶっ殺してやる」

そう言いながら、到着した要塞に向けてバイクを突撃させ、巨大な正門を破壊する。ケンゴもそれに続いた

広いエントランスに入るとやはりダークポケモン達が待ち受けていた。レオが先に獣化し、目を青白く光らせる。すると数十体はいようというダークポケモン達が一斉に苦しみ始め、そして一斉に絶命した。強烈な念力により、直接全員の心臓を圧縮・破裂させたのだ

レオ「ここからは二手に分かれるぞ。俺はムゲンダイを探す。お前は捕まっている人間達を探し出して逃がせ」

ケンゴ「わかった」

レオ「それと」

獣化し駈け出そうとするケンゴにレオが付け足す

レオ「念の為にこれを持っていけ」

レオが何かをケンゴに放ってくる。受け取るとそれは、以前レオがケンゴを回収するのに使った“シェルター”だった

レオ「逃げ場がなくなりそうになった時にこれに避難しろ。ダークポケモンなんて馬鹿ばかりだから、突然お前がいなくなったと思ってどこかへ行くだろう。間違っても中で獣化を解くなよ」

ケンゴ「でも、レオは?」

レオ「俺を誰だと思ってる。悪の組織一つ潰した男だ、心配するな」

ケンゴが頷くと、二人はそれぞれの道に走り出した
 ▼ 68 ルンゲル@きせきのみ 24/02/10 17:37:11 ID:SU.YV4is [14/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
いくつかのブロックを走りすぎる度、何体かのダークポケモンと鉢合わせたが、難なく全員を絶命させる。今のケンゴには、ダークポケモンを殺すことに対する罪悪感を覚えることができずにいた。ただただヒカリを救い出し、この戦いを終わらせることだけを考えた

そして一つの小部屋に辿り着く。指令室らしいそのドアを開けると、中に人影があった

ケンゴ「あなたは…」

そこにいたのは、コトブキ署の署長だった。ナナカマドの昔馴染みのはずの男だった。ケンゴは思わず獣化を解く

「やあ、久しぶりじゃないか」

デスクに踏ん反り返って座る署長がケンゴに気づくとそう言い、立ち上がる

ケンゴ「どうしてあなたがここにいるんですか!」

「どうして?それはね、私はナナカマドが昔から嫌いだったからだよ。いつも偉そうで、その実あいつはどんどんエリートになっていったからな」

ケンゴ「博士が嫌いだった?」

「そう。それに…」

署長は引き出しを開くと拳銃を取り出し、ケンゴに向ける

「君も、もう用済みだ。元々君にオーレ地方への出発を命じたのは、あいつを守れる人間を離れさせる為だったのだからね」

署長が発砲すると同時にケンゴは再び獣化してそれを受け止める。銃弾など、獣化していればききはしない

ケンゴ「じゃあ、博士を殺させたのは…」

「利害の一致というやつだ。私はこれからここでダークポケモン生産工程の管理主任となる」

言われた瞬間、ケンゴは燃え上がる怒りのままに署長に飛び掛かり張り倒す。そして拳銃を奪い取り、署長に向ける

ケンゴ「捕まっている人達はどこにいるんですか!?」

署長は不敵な笑みを浮かべるだけで、何も答えない

ケンゴ(殺してやる…)

獣化していれば人間一人殺すなんて簡単なことだが、ヒカリ達の居場所は喋らせなければならない

ケンゴ「言えっ!どこだ!どこにいるんだっ!」

署長の右手のひらを無理矢理机に叩きつけ、その小指に拳銃を突き付けた

「さあ、さあなぁ!今頃は…いひひひ」

ケンゴ「貴様っ!」

容赦なく引き金を引くと、男の小指が飛ぶ

「ぎゃはははははは!どこだろうなぁ!!」

今度は薬指に銃口を押し付け、さらにそれを弾き飛ばした

そんなことを繰り返し、10本の手指を部屋中にまき散らしても署長はただ痛みに快感を得ているように大声で笑い叫ぶだけ。結局、最後に頭を打ち抜くまで、居場所を吐くことはなかった
 ▼ 69 ラルダルマッカ@エネコのシッポ 24/02/10 21:02:00 ID:SU.YV4is [15/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
さっきまで署長だったものを部屋の隅へ蹴り飛ばし、ケンゴはデスク上の端末を素早く操作した。要塞内の見取り図を画面に呼び出すと、内容を頭に叩き込む

この部屋から少し行ったところに大きな格納庫がある、詳細を確認するとそこには仮設寄宿舎を奪取したと思われる飛行物体が格納されていることがわかる。その機数も相当なものだった。次に本来の目的であるヒカリ達が収容されているスペースを検索する。比較的大きな部屋を中心にそこに設置されてある監視カメラ映像を呼び出す。その中の一つに、すし詰めになって収容されている制服姿の人影を見つけると、もう用済みだというようにケンゴは端末を叩き潰し、部屋を飛び出した

ケンゴの心の中に小さく灯っていた黒い火が、炎へと進化していくのを自覚した

目的の部屋の前まで辿り着くとドアのロックを破壊する。獣化を解いてから、部屋のドアを開ける

ケンゴ「皆さん助けに来ました!ここから脱出します、僕についてきて下さい!!」

突然現れた男に中にいた警官達は驚き戸惑ったが、同じ制服を着ていることと発せられたその言葉を認識すると、ケンゴに従って次々と部屋を走り出ていく。ケンゴは背中越しにヒカリが自分を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、今は皆の誘導に専念する。道中においてもダークポケモンは出現した。しかしケンゴは構わず獣化しそれらを全て燃やし尽くした。他の警官達にバレてしまったが、そんなことはもうどうでもよかった

格納庫まで全員を誘導し、飛行物体へ乗せていく。ヘリコプターの運転のできるものを各機のパイロットにあてがい、全ての警官の搭乗を確認すると、獣化して外へと続くハッチを破壊した。一面の砂漠が眼前に拡がる

ケンゴ「フルスピードでここから退避してください!!」

獣化したまま叫ぶケンゴに、飛行物体が次々起動し発進していく。その中で再びヒカリの声が聞こえたが、ケンゴはまたそれに応じなかった。ケンゴはこの時にはもう既に、壊れていたのかもしれない

全ての飛行物体が空の彼方に消えたのを確認すると、レオの応援へ行く為に移動を開始しようとする。その時、飛行物体が去ったのとは反対方向の要塞の外壁が爆発した。その爆風の中からエーフィに獣化したレオが飛び出し、地面に倒れこむ

ムゲンダイ「なんじゃ、つまらんのぅ」

その後を追って、浮遊したムゲンダイが姿を現した、多数のダークポケモンと共に

レオ「くっ…くそが…」

呻くレオの前に、ケンゴが躍り出る。ケンゴの視認できる範囲で、ダークポケモンの数は数百匹を超えいた

レオ「わるいな…もうわざもだせない…あいつのみえないかべが…」

レオはダークポケモンを無視してムゲンダイのみに技を集中させて戦っていたが、やはり見えない壁がその技全てを弾いた。その隙にダークポケモンの攻撃を受け続け、レオは既にほぼ瀕死状態にあった

ムゲンダイ「忌々しいナナカマドの使いが二人、揃ったわい。せっかくうちまで来てくれたことじゃし、ゆっくり遊んでやろうかのぅ」

そう言うとムゲンダイの身体が見る見る膨れ上がり、同時にその姿形も変化していく

レオ「おまえが……じゅうかを…」

ムゲンダイ「おぬしらとは違うわい」

巨大な何かに変化したムゲンダイの身体は黒いオーラに覆われ、赤い目を光らせていた
 ▼ 70 スイクレベース@スモークきりみ 24/02/10 21:26:28 ID:SU.YV4is [16/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
レオ「じぶんでだーくぽけもんになるなど……おろかなやつ…」

ムゲンダイはナナカマドの研究施設から奪取したデータを元に、適合するポケモンの延期配列、同時にダークポケモン因子を自分の身体に埋め込んだのだった

ムゲンダイ「さあ、遊びの時間じゃぁ」

巨大な腕が二人を襲おうと振り上げられた

その瞬間ケンゴは、いくつもの言葉を思い出していた

『殺されたから殺し、殺したから殺され』

『ヒトはその闘争本能を抑えることはできない』

『ポケモンバトルなどというのは、所詮小さな戦争行為でしかない』

『ヒトもポケモンも、結局はその闘争本能を拭い去ることはできない』

『争いと憎しみの輪は途切れることはない』

じゃあ、争いのない世界はいつ訪れる?

ただ殺しあって命を消費していくのなら、何故命はまた新しく生まれなければならない?

何故、戦わなければ生き残れない?

ヒトもポケモンも平和を作れる同じ生き物のはずなのに、どうして、何故……

ケンゴの心の中の黒い炎が燃え上がり、己の闘争心と混じりあい、さらに大きなどす黒い炎の渦となってケンゴの心を包む。心臓の鼓動も、動いているのかいないのかすらわぁらない程の速さでその回数を刻んでいるのを感じる。ケンゴは咆哮を上げ、全身に炎の鎧をまとう。それはどんどんと周囲に膨張していく

レオ「や…やめろけんご…おまえ…」

レオが初めて自分の名前を呼んでくれたなと、ケンゴは認識した。認識しただけだった…

ケンゴの炎はさらに膨張し続ける。その色は段々と赤紫、そして青色に変わっていく

ムゲンダイ「ブラスとバーン?いや、違う。これは…」

二人に向かって振り下ろそうとしていた手を止め、見る見る膨らんでいく炎を防ぐ為に見えない壁を作るムゲンダイだったが、その壁も炎に飲み込まれる

ムゲンダイ「ぬお、なぜじゃ…なぜじゃあああ……」

その場にいたダークポケモンをも全て炎の中に消える

青く輝く炎が、その勢いをとどめることなく全てを飲み込んでいった

……………

…………

………

 ▼ 71 ガチャーレム@トーフ 24/02/10 21:49:34 ID:SU.YV4is [17/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
ヒカリは気密服に全身を包み、その場所に立っていた。放射能汚染が確認されたその場所には、数日前まで自分が閉じ込められていた要塞が見えるが、今はその半分も原型をとどめていない。周囲にはいくつもの黒い塊が散らばっている。鑑識が話すには被爆したダークポケモン達だという

ヒカリはただ、直径3キロにもわたるその巨大なクレーターの中を彷徨い続けた。黒い雨が降る中、自分が想う人の面影を探して…

……………

レオが目覚めた時、自分が見覚えのある場所に倒れていることに気づいた

暖かい日差しが照らすその場所はとある辺境の村の端。倒れている自分の目の前には、接続部がひしゃげて真っ二つになった“シェルター”の破片が転がっている

レオ「あのバカ…」

ケンゴはあの時、瀕死状態だったレオを“シェルター”の中に避難させていた

全身の痛みを堪えつつ起き上がると、のどかな自然の風景が目に入る。その中に、小さな墓が一つ見えた。そこには二匹のポケモンと、一人の女性の名前が刻まれている

レオ「そっちにいくのは、まだ少し先になりそうだ」

レオはそれを見て、小さく呟いた

……………

一月後、ヒカリが家に辿り着いた時、玄関の前に何かを見つけた。それが何であるかは近づかずともすぐに分かった

玄関にもたれてへたり込んでいるその姿に、ヒカリは涙をぐっとこらえ、その隣に同じように座る

ケンゴ「遅いよ…」

ヒカリ「忙しかったから…」

ケンゴ「大変…だったんだな…」

ヒカリ「なんたって…凄腕だから…引っ張りだこだったのよ?」

そっとケンゴの手を握ると、ケンゴが優しく握り返してくれる

ヒカリ「おかえり…ケンゴ」

ケンゴ「うん、ただいま…ヒカリ…」

心臓が最後の鼓動を鳴らし、その役目を終えた





おわり
 ▼ 72 ーギラス@けんこうおまもり 24/02/11 21:38:11 ID:Ky5.RsTg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
なんかのパロディ?
 ▼ 73 クレオン@キーのみ 24/02/12 10:51:17 ID:0bsUDGYs NGネーム登録 NGID登録 報告
アニポケダイパ編見てなかったり、ポケモンコロシアム・XD未プレイなにわかはついて行きづらい内容だったな

でも面白かった
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