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【SS】「私はロケット団で最も冷酷と呼ばれた男」

 ▼ 1 AYr1xkow/g 17/01/15 14:58:17 ID:THPX.20A [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……あー」

部屋に備え付けられたスピーカーから緊張している声が聞こえる。どうやらマイクテスト中のようだ。普段は笑うことのない男の口の端が、かすかにつり上がった。

「……我々は泣く子も黙るロケット団!」

声の主は高らかに続ける。

「組織の建て直しを進めた3年間の努力が実り今ここにロケット団の復活を宣言する!」

ああ、とうとうこの日が来たのだ。

「サカキさーん!……聞こえてますー?……ついにやりましたよー!ボスは今どこにいるんだろう……?ラジオを聞いてるかなあ………………」

ラジオから聞こえてくる声は、徐々に小さくなっていった。

確かあの構成員は、確かラムダの班の者だったか。男より年上だが、立場は下だ。一体なぜ彼がこの復活宣言をする役に抜擢されたのだろうか。アポロの考えることはよく分からない。

男はただ黙ってラジオ放送を聞いているだけ。

ボスは聞いてくれているのだろうか。この声は、ロケット団の声は届いているのだろうか。

ボス、私もあなたに伝えたい言葉があるのです。

だからサカキ様。どうか、戻ってきてください。
 ▼ 2 AYr1xkow/g 17/01/15 14:59:36 ID:THPX.20A [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
どこかでヤミカラスが鳴いている。

楽しげな声を上げる子供たちが自然公園を走り抜けていく。子供はもう帰る時間だ。

鮮やかな緑色の髪をした少年は、家に帰る子供たちとは反対方向に向かって黙々と進んでいた。

息が白い。季節は冬だが、少年の服装はしっかりと防寒できているとは到底言えないようなものだ。

この時期は日が落ちるのが早い。時刻はまだ夕方だと言うのに、空はすっかり暗くなってしまっている。ただ、少年にとってはその方が好都合だった。
 ▼ 3 AYr1xkow/g 17/01/15 15:00:34 ID:THPX.20A [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
反対方向から、一人の男が歩いてくるのが見える。

黒いコートに身を包み、帽子を目深にかぶった中年男性だ。

少年は男に気付かれないように口元を緩めると、少しだけ歩くスピードを速めた。

ドン。軽い衝撃が起こり、少年の肩と男の横腹の辺りがぶつかる。

「ごめん、おじさん」

少年は男の顔を見ずにそう言うと、足早に立ち去ろうとした。

「待て、小僧」
 ▼ 4 AYr1xkow/g 17/01/15 15:01:20 ID:THPX.20A [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
低い声が背後から聞こえる。あまりに低すぎて、初めは言葉に聞こえなかった。少年はその声の底冷えするような冷たさに思わず立ち止まった。

「手を見せなさい」

男はそう言いながら近づいてくる。少年は目を泳がせた。

「手を見せろと言っているんだ」

男が声を荒げた。少年は観念して振り返り、ポケットから手を出す。恐ろしすぎて誤魔化す気にもなれない。少年の手には、明らかに高価そうな革の財布が握られていた。

「あの一瞬で上手く抜き取ってみせたことに関しては、評価してやろう」

男はそう言いながら素早く少年の手から財布を取り上げた。
 ▼ 5 AYr1xkow/g 17/01/15 15:03:31 ID:THPX.20A [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「しかし明らかに怪しかった。私を見た瞬間に歩く速さが高くなっていたぞ。獲物を見つけて気分が高揚しているのを隠しきれていない。未熟な証拠だ」

「……」

少年は黙って地面をじっと睨みつけている。

「……どこに住んでいる?親御さんは?」

「……」

少年はなおも黙りこんだままだ。

「……まあいい。私も君のように弱い存在を甚振るほど落ちぶれてはいないさ」

男はそう言うと、帽子をかぶり直し、踵を返してそのまま立ち去っていった。少年は足音が聞こえなくなってから顔を上げた。そしてとっくに消えている男の通った道を睨みつける。その手に紙幣が数枚置かれていることに気づかないまま。
 ▼ 6 リープ@きのみプランター 17/01/24 08:57:11 ID:XDJa.lwc NGネーム登録 NGID登録 報告
感動した
 ▼ 7 AYr1xkow/g 17/01/25 22:40:38 ID:.REpGx.Q [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ほとんど散ってしまった桜の花びらが、ひらひらと目の前に落ちてきた。

昨日は雨だった。少年は濡れて岩にこびりついた一枚の花びらを爪先で剥がすのに躍起になっている。

ふと気配を感じて顔を上げると、一人の男がこちらへ歩いてくるのが見えた。その瞬間、ざわりと少年の体を怒りが駆け巡る。

やっと来た!ぼくはあいつをずっと待ち続けていた。
 ▼ 8 AYr1xkow/g 17/01/25 22:41:26 ID:.REpGx.Q [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「おいおっさん!」

少年の声は思ったよりも自然公園に響いた。幸いにも周りに少年と男の他に人はいなかったが、木に止まっていた二羽のポッポが驚いたようにバサバサと飛び去っていく。

男がゆっくりと顔を上げたのを見て、少年は息を呑んだ。やっぱりそうだ。半年ほど前に出会った、あの男に違いない。

少年は咄嗟に駆け出した。男は走り寄ってくる少年の姿を見て一瞬眉をぴくりと動かしたが、すぐに無表情に戻った。
 ▼ 9 AYr1xkow/g 17/01/25 22:42:10 ID:.REpGx.Q [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「おっさん!なんのつもりだよ!」

男の目の前に辿りついた少年が発した言葉はそれだった。

「……」

男は黙っている。少年は真っ赤な顔で叫び続けた。

「あんな風にぼくのこと怒ったくせに……怒ったくせに……なんでお金なんか置いていったんだよ!?ぼくのことをかわいそうとでも思ったのか!?そんなもの、いらない!!」

少年は鋭い目で男を睨みつけた。半年前、大金を握らされたあの時、嬉しくもなんともなかった。哀れに思われたのだ。何も知らない人間にそんな目で見られることほど屈辱なことはない。救いもしないくせに勝手に同情して、そんな自分がまるで聖人かのように振る舞う。そんな人間たちにはもう懲り懲りだ。彼らのせいでこんな惨めな思いをして生きているというのに。
 ▼ 10 速サメハダー◆uXlQ4JL2Hc 17/01/25 22:43:41 ID:bBNXUJKU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 11 ガジュペッタ@こううんのおこう 17/01/25 22:48:37 ID:dxQlsCd6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
紫煙
 ▼ 12 ルット@きあいのハチマキ 17/01/25 23:09:21 ID:c9vqfxp2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 13 AYr1xkow/g 17/01/27 00:20:07 ID:rMAL5p/Q [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「では、あの時渡した金を返してもらおうか」

男が発した言葉はそれだった。

「……」

少年は黙りこんだ。いくらプライドを守りたくとも、生活するためには金が必要だ。そしてあの時にはそれが少年の手の上にあった。答えはひとつしかない。

「……まあ、そうだろうな。予想していた通りだ」

少年の顔がまた赤くなった。色の変わった瞬間、ザッという音が聞こえたかと思うほどに素早く、苦しそうな赤。

「……ぼくは」

「それでいい」

少年が何を言いかけると、遮るように男は口を開いた。少年は驚いたように顔を上げる。男の顔は、帽子のつばの影に隠れてよく見えない。ただ、口元はうっすらと微笑んでいるように見えた。
 ▼ 14 AYr1xkow/g 17/01/27 00:22:38 ID:rMAL5p/Q [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「利用できるものはすべて利用する。それの何が悪いと言うのだ。私は君を評価しよう」

少年は訳が分からないと言いたげな表情をしている。

「それに、その感情も素晴らしい。期待通りだ。私への怒りだけで半年間生きてきたのだろう?略奪、そして殺戮の主な原動力は怒りだ。怒りとは強いエネルギーとなる」

少年は相変わらず男の言っていることはよく分からなかったが、とりあえず褒められているのだということは分かった。でも、一体なぜ褒められているのだろう。

「問題は君がそのエネルギーの使い方を知らないことだ。だが、それは些細な問題に過ぎない」

男がふと、手を差し出した。少年はその動きに一瞬びくりと体を震わせ、それから男の顔を見上げる。今度こそ、男の顔はよく見えた。やはり笑っている。
 ▼ 15 AYr1xkow/g 17/01/27 00:23:27 ID:rMAL5p/Q [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「私が教えてやろう。名はなんと言う?私はサカキ。今日から君のボスだ」
 ▼ 16 チャモ@ファイヤーメモリ 17/01/27 22:51:34 ID:glf7Z4mM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
これすき
 ▼ 17 17/01/28 01:58:37 ID:Objc02Gw NGネーム登録 NGID登録 報告
サカキもの流行っとるんか
 ▼ 18 AYr1xkow/g 17/01/29 12:51:12 ID:gK16B5sI [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……ランス」

少年、ランスは声を絞り出した。久しぶりに自分の名を口にしたような気がする。もう、誰からも呼ばれることはないと思っていた。

「ランス。そうか、ランスか。いい名だ」

「……」

そうだろうか?ランスはそう思った。名付けた本人たちは、ぼくを捨ててどこかへ行ってしまったというのに。

「……聞かないの?」

ランスが小さな声で言った。

「何をだ?」

サカキが聞き返す。ランスは不安げな表情でサカキを見上げた。

「その……なんでここにいるのかとか……」

ランスの声が徐々に小さくなっていく。たまに、嫌でも思い出してしまうのだ。何もかもを失った日のことを。
 ▼ 19 AYr1xkow/g 17/01/29 12:51:58 ID:gK16B5sI [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「なぜ自ら掘り起こす?私は過去を知ろうとは思わない。それに、我々はみんな君のような者たちの集まりだ。心配はいらない」

サカキの声は淡々としていた。あまり抑揚のない声で話す人だとは初めて会った時から思っていたが、今ではその声が不思議と温かくも感じるのだ。

「集まり?」

ランスが首を捻った。サカキはああ、と小さく呟いてから続ける。

「ランス、君には説明しなければならないことがたくさんあるな。まあ、それは後でいい。まずはこれだけ行っておこう。ロケット団へようこそ」

サカキはそう言って、にやりと不敵に笑ってみせた。

ロケット団?ロケット団って、なんだろう。ランスはサカキの顔をじっと見つめながら考えた。何も分からない。

それでも、ランスにはもう何もないのだ。帰る家もなければ優しく抱きしめてくれる親もいない。食糧を確保するだけの金もない。

足が寒かった。もう春になったとはいえ、夜は肌寒い日が続いている。この男についていけば、きっと暖かいところへと連れていってくれるに違いない。

ランスはサカキの目を見て、ゆっくりと頷いた。
 ▼ 20 びぐろす◆m4VTgVW/Po 17/01/29 16:44:29 ID:JMUyrSo. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援...!
 ▼ 21 ックラー@バンギラスナイト 17/01/29 16:46:11 ID:tI29mqBY NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 22 ーベム@ロックカプセル 17/01/29 17:22:18 ID:iUBSrE9Q NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
これは支援
 ▼ 23 AYr1xkow/g 17/01/30 01:02:01 ID:kf08ZhMM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
二頭のゼブライカと一頭のシママが右往左往している。親子だろうか。三頭とも疲弊しきっているように見える。片方のゼブライカは体が大きい。群れを率いるボスだったのだということは想像に難くないが、その風格はすっかり失われていた。

やがて二頭のゼブライカは倒れた。どうやら瀕死状態のようだ。シママが困ったように二頭の周りを走り回っている。すると、それを見つけた三羽のバルジーナがどこからともなく飛んできて、まるでゼブライカたちの息が絶えるのを待ち構えるかのように上をぐるぐると旋回し始めた。シママは怯えて震えている。

よく見れば、すぐ近くに二頭のカエンジシが影に隠れてこちらをじっと見つめている。振り切ったと思っていたが、そうはいかなかったようだ。とはいえシママももう限界だった。逃げなきゃ、分かっていても思うように脚が動かない。両親も目を覚ましてくれない。

凄まじい咆哮が聞こえたと思えば、カエンジシが勢いよくシママたちの方へ駆け抜けてきた。その瞬間、二頭のゼブライカは弾かれたように起き上がり、最後の力を振り絞って逃げ出した。シママをその場に置いてきぼりにして。
 ▼ 24 AYr1xkow/g 17/01/30 01:07:54 ID:kf08ZhMM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カエンジシはゼブライカたちに狙いを定めて確実に距離を縮めていく。そして、一頭のカエンジシが片方のゼブライカの首を噛み切った。続けてもう一頭のカエンジシも獲物を捕らえて喜びの雄叫びを上げる。シママはただ呆然とそこに立ち尽くしていた。

カエンジシたちがズルズルと両親を引きずってどこかへと連れていこうとしているのを、シママは息を殺して見つめていた。もはや何も考えられなくなっているようだ。

しかし、いきなり横から一頭のグラエナが飛び出してきてカエンジシたちに向かって激しく吠え始めた。カエンジシたちは食糧を奪わせまいと応戦したが、グラエナの数は徐々に増えていき、やがて七頭に増えたところで観念して逃げていってしまった。

七頭のグラエナが、ゼブライカの肉を貪り始める。やがて、一頭のグラエナが顔を上げた。シママの存在に気付いたようだった。

グラエナたちが唸り声を上げてシママの方へと近付いてくる。十四の赤い瞳が、ギラギラと鈍く光っている。

シママは逃げ出した。必死に逃げた。どんなに疲れても決して立ち止まってはいけないと本能で分かっていた。死に物狂いで体がボロボロになるまで逃げ続け、やがて力尽きて倒れこむと、草を抱いてそのまま眠り続けた。そこはとても暖かく、シママはやっと少しだけ安心することができた。あったかい。そういえば昔、父さんがぼくが眠るまでずっと隣で温めてくれたことがあったっけ……。

「――父さん」
 ▼ 25 AYr1xkow/g 17/01/31 00:29:16 ID:9mX2OPoY [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目を覚ましたランスが自分が見知らぬ街にいることに気付くまで、少し時間がかかった。

サカキに連れられてコガネシティに向かい、初めてリニアに乗ったところまではなんとなく覚えている。恐らくそのリニアに乗っている間に眠ってしまっていたのだろう。あまり覚えていないが、懐かしい夢を見た気がする。

「起きたか」

「あ……ごめんなさい」

しゃがみこんだサカキの背から下りながら、ランスはか細い声で謝った。サカキは神妙な顔をしていたかと思えば、すぐにいつもの表情に戻った。

「……いや、構わない。ただし、最初で最後だ。たとえ子供だとしても他の者に示しがつかん」

「……?」

ランスが首を捻る。

「行くぞ」

サカキはそれだけ言うと、少し歩いた先に見える建物の中に入っていった。
 ▼ 26 AYr1xkow/g 17/01/31 00:33:35 ID:9mX2OPoY [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ここ……何?」

ランスが建物の中をキョロキョロと見渡しながら聞く。スロット台がいくつも並べられているが、閉店している今はどれも動いていない。

「ロケットゲームコーナー。我々の経営するゲームセンターだ。この地下に我々のアジトがある」

「ふーん……アジト?」

「秘密基地のようなものだ」

「へえ。かっこいいね」

ランスは少し楽しそうだ。

「さて……ランスよ。君は私の部下になる。難しいかもしれないが、立場が上の者を敬うことを覚えなければな」

「うん?」

「……まあ、その教育はアポロに任せるとしよう」

サカキはそう言うと、壁の前で立ち止まった。ランスが首を捻っていると、サカキは壁に貼られたポスターの裏にあるスイッチのようなものを押した。すると、すぐ近くの床が階段に姿を変える。ランスは口をあんぐりと開けてそれを見つめた。

サカキはランスについてくるように指示し、素早く階段を降りていく。ランスもそれを追いかけた。
 ▼ 27 バイト@こだいのきんか 17/01/31 02:15:06 ID:TYgM2rik NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ランスのSSか、支援
 ▼ 28 AYr1xkow/g 17/01/31 20:28:50 ID:7YZEQWbs [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
アジトの中は、思っていたより暖かくなかった。それがランスの抱いた感想だった。

リノリウムの床を歩く。サカキの履いている高級そうな革靴がコツコツと鳴る音以外、何も聞こえない。と思えば、突然声が聞こえてきた。

「おかえりなさい、ボス……、その子供は?」

目の前にいたのは水色の髪の若い男だ。丁寧な物腰からは穏やかな印象を受けるが、その瞳は酷く冷たい。

「アポロ、いいところに来てくれた。半年ほど前に話しただろう、面白いものを見つけたと。この子供がそれだ。名はランスという。ランス、これはアポロ。私の腹心だ」

「えっと……よろしくお願いします?」

ランスはとりあえず挨拶をしておいた。アポロの水色の瞳が注意深くランスを観察している。ランスは少し居心地が悪かった。

「アポロ、世話を頼む」

「かしこまりました」

アポロという男は眉ひとつ動かすことなく淀みなく答える。

「失礼します」

アポロはサカキに一礼すると、ランスに向かって「ついてきてください」とだけ言ってさっさと歩いていってしまった。
 ▼ 29 AYr1xkow/g 17/01/31 20:29:49 ID:7YZEQWbs [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスが慌ててアポロを追いかけると、アポロは淡々と話し始めた。

「ランスと言いましたか。改めまして、私はアポロ。このロケット団の幹部です。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「ふむ、とりあえず着替えましょうか。とはいえ子供用の制服はない……困りましたね」

アポロはとある部屋の前でたどりつくと、ランスの体を頭のてっぺんから爪先まで注意深くゆっくりと眺めた。それから部屋の中に入り、いくつかある段ボールのうちひとつに手を突っ込んで黒い制服を取り出し、ランスに手渡す。

「少し大きいですが、我慢してください。近いうちにどうにかします」

「はい」

「着替えを終えたら出てきてください。外で待っています」

アポロはランスの返事を待つことなく部屋を出ていった。
 ▼ 30 ードリオ@パワーベルト 17/01/31 20:31:13 ID:yLvlrx1w NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスでらんす〜
 ▼ 31 AYr1xkow/g 17/01/31 20:43:28 ID:7YZEQWbs [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ふむ、やはりサイズが大きいですね。発注します。それでは幹部たちに挨拶をしに行きましょう。幹部は私の他に二人います。まずはこちらへ」

アポロはそう言って再び歩き出す。ランスはそれをどこか不安げな足取りで追いかけた。

制服は黒を基調としたもので、アポロの着ている白いものとは少しデザインが異なっていた。胸部から腹部にかけて「R」という大きな文字が赤くプリントされている。ランスは白い手袋を引っ張った。制服はかなりダサいと思ったが何も言わないでおいた。

アポロがとある部屋の前で立ち止まる。

「アテナ、いますか」

アポロが声をかけると、「いるわよ」という言葉と共に部屋の扉が開いて一人の女性が現れた。燃えるような赤い髪と、恐ろしく気の強そうな顔が特徴的な妙齢の女性だ。

「新しい団員の紹介です」

「ランスです。よろしくお願いします」

ランスが挨拶をしてアテナを見上げる。アテナは真っ赤な口紅を塗った唇を横に伸ばして目を細めた。

「あら、こんな可愛らしい仲間ができるなんて思ってもみなかったわ。あたくしはアテナ。よろしくね」

それから、なぜかクスクス笑って楽しそうにランスを見つめる。

「ふふ……将来有望ね!」

ランスは意味が分からず首を捻った。
 ▼ 32 AYr1xkow/g 17/02/02 00:46:09 ID:c6dK2D8k [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アポロが次に立ち止まったのはすぐ隣にある部屋だった。

「プロトン、いますか」

「……いない」

「入ります」

アポロはお構いなしにそう言って扉を開けた。中にいたのは黄色い髪をしたガタイのいい男だ。

「入室を許可した覚えはないんだが?」

プロトンと呼ばれた男は腹立たしげにアポロを睨みつけた。アポロは涼しい顔をして答える。

「声はかけました」

プロトンは何も言わなかったが、舌打ちした音が聞こえたような気がする。

「……それで、何の用だ。その子供は?」

プロトンはランスの方を顎でしゃくった。

グラエナのような瞳の男だ。そう思った。プロトンの濁った黄色い瞳はランスを品定めするかのようにじっとこちらを見つめている。

「新しい団員です」

「ランスです。よろしくお願いします」

プロトンは返事をしなかった。
 ▼ 33 AYr1xkow/g 17/02/02 00:56:56 ID:c6dK2D8k [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「さて、ではあなたの生活する部屋ですが……」

プロトンの部屋を出てアポロがそう言ったところで、一人の団員が慌てた様子で声をかけてきた。団員はちらりとランスを一瞥してから続ける。

「アポロさんすみません、あの……ちょっといいですか?」

「なんでしょう」

「あの、回収したポケモンの数が書類と合わないんです……確認してもらってもいいですか?」

団員が恐る恐るといった様子で尋ねる。アポロは表情ひとつ変えることなく、

「分かりました。ランス、ここで待っていてください」

「はい」

ランスはそう答えたが、既に視線は落ち着きなくあちこち動き回っている。アポロは団員の後についてその場を去っていった。
 ▼ 34 AYr1xkow/g 17/02/02 01:06:32 ID:c6dK2D8k [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
当然、子供であるランスが初めて来た場所で大人しくしているはずもなく、アポロの姿が見えなくなるとすぐにその場を離れて辺りを探索し始めた。

アジトの中は地下だからか、冷たい印象を受ける。ランスがしばらく歩いていると、紫色の髪をしたひょろりと背の高い男が壁にもたれかかって立っているのが見えた。口には何かを咥えている。煙草だ。

「んあ?誰だぁ?……子供?」

男はランスに気付いたようで、目を細めてこちらを凝視している。ランスは男に興味を持ち、自分から近づいていった。

「ランスです。よろしくお願いします」

「ほー?新しい団員?こんな小さいガキが?まあいーや、俺はラムダ。よろしくなー」

そう言ってラムダは口から煙を吐いた。ランスが咳き込む。

「あ、ごめんね」

ラムダはそう言って煙草を持つ手をランスのいる方とは反対方向に遠ざけたが、煙草を吸うのをやめようとはしなかった。
 ▼ 35 AYr1xkow/g 17/02/02 01:10:10 ID:c6dK2D8k [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「誰かに案内でもしてもらってたのか?……もしかして迷ってた?」

ラムダは気さくに話しかけてくる。

「別に、迷ってはないです。案内してくれてたのはアポロさん」

「ああ、アポロか。……アポロなー」

ラムダはなぜか意味ありげに繰り返した。

「……俺ね、あいつと同期なの。んで同時期に幹部にならないかとか言われたんだけど、俺あんまり人の上に立つのとか得意じゃねえからさ。俺よりやりたがってる奴にやらせてやった方がいいんじゃねえのってことでプロトンを推薦したんだけどよ、まあ失敗したよな」

聞いてもいないのにぺらぺらと話し始めるラムダ。ランスは話の半分も理解できず、怪訝な顔をしてラムダを見上げた。

「アポロ、あいつ、真面目だからよ。サカキ様一筋だし。野心家で常に地位と権力を求めてるような奴とはまあ馬が合わねえよな。悪いことしたわ」

そう言うラムダの顔は、ちょっぴり悲しげだ。
 ▼ 36 AYr1xkow/g 17/02/02 01:12:00 ID:c6dK2D8k [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……って、こんなこといきなり話しても分かんねえよな。ごめんな」

ラムダは苦笑いしながらそう言うと、ラムダに視線を合わせるようにしゃがみこみ、手品をするかのように右手をわざとらしく広げた。そこにあったのはひとつの飴玉。

「ま、分かんないだろうから俺も話したんだけど。ほれ。おじちゃんの独り言を聞いてくれたお礼に飴やるよ」

「ありがとう」

ランスは素直に礼を言うと、ラムダの右手から飴玉を取り、包みを開いて口の中に放りこんだ。甘い。

「……だからさ」

ラムダがランスに顔を近づけ、囁くように言う。

「ここで煙草吸ってたことアポロには秘密……」

「やっと見つけました。ここにいたのですね」

声が聞こえた瞬間、ラムダの顔はオレンの実よりも真っ青になった。
 ▼ 37 ラップ@ものしりメガネ 17/02/02 02:40:26 ID:HeqOVaps NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
支援
 ▼ 38 AYr1xkow/g 17/02/03 00:21:55 ID:w6S12nP2 [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……へへ、そんなに俺に会いたかったのかよぉ」

ラムダが慌てて煙草を背中に隠してわざとらしく笑う。

「お前じゃありません、ランスに言ったのです」

アポロはにべもなく言った。とはいえ、怒っている様子はない。ランスがあの場を離れて動き回ることなど想定の範囲内だったようだ。

「ところで、見えてますよ。アジトは禁煙です。何度言ったら分かるんですか」

アポロは厳しい声音で言うと、早足で二人の元へ近づいてきた。そしてラムダに向かって右手を差し出す。

「没収します」

「ええー!?頼むよアポロ、同期だろー?ちょっとは優しくしてくれよー」

「ダメです。他の者に示しがつきませんから」

あ、サカキさんと同じこと言ってる。ランスはそう思った。
 ▼ 39 AYr1xkow/g 17/02/03 00:26:12 ID:w6S12nP2 [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「頭かてーな、相変わらず」

ラムダがそう言いながら煙草の箱をアポロの手に向かって乱暴に投げつける。アポロはそれをしっかりとキャッチし、

「なんとでもどうぞ」

声色を変えずに答えた。ラムダは「冷てー」と非難しながら腰の辺りでもぞもぞと手を動かしている。こっそり盗み見ると、ラムダが煙草をもう一箱隠し持っているということが分かった。ラムダはアポロとランスが立ち去るのを待っているようだ。

「アポロさん。ラムダさん、もう一箱持ってますよ」

ランスは迷うことなくそう言った。
 ▼ 40 AYr1xkow/g 17/02/03 00:28:01 ID:w6S12nP2 [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「はあ!?ちょ、おま……!アホか!言うなよ!飴あげただろ!?」

ラムダが絶叫した。ランスはと言えば、澄ました顔をしてラムダをしれっと見つめ返している。ランスのその様子を見て、アポロはほう、と感心したように小さく声を上げた。

「有能な部下ができて喜ばしい限りです」

アポロはランスを賞賛すると、ラムダに向かってもう一度右手を伸ばした。ラムダはランスを睨みつけ、不承不承といった様子でもうひとつの箱を取り出し、未練たっぷりの表情でアポロの手の上に置いた。

「この野郎!満足かよ」

ラムダが吐き捨てるように言う。

「どうせ部屋にまだいくつも残ってるんでしょう。近いうちに片付けますからね」

「お袋かよ。やめてくれ……!」
 ▼ 41 ジャンボ@ダークメモリ 17/02/05 02:32:18 ID:DNgrT74s NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
支援
 ▼ 42 AYr1xkow/g 17/02/06 13:01:30 ID:q6RK2zVA [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「さて、ベッドが余っている部屋はここしかなかったのであなたの部屋はここになります。備品の使用について何か分からないことがあれば、同室の誰かに聞いてください」

「はい」

アポロに案内されたのは、二台の二段ベットが両側の壁に置かれた狭い部屋だった。とはいえ、自然公園を寝床にしていたランスからしてみれば、布団があるというだけで素晴らしい部屋に見えるというものだ。

「では、業務内容の説明ですが……」

そう言ってからアポロは少し考えるように沈黙し、ランスをじっと見つめた。一体こんな子供にどんな仕事をさせればいいのだろうか。

「……ああ、そういえば」

アポロがふと思い出したように口を開く。

「まあ問題はあまりなさそうですが、あなたは今ロケット団で一番下の立場の者。周りの人に敬意を払うことをお忘れなく。自分で言うのもなんですが、私たち幹部とそれからボスには特に」
 ▼ 43 AYr1xkow/g 17/02/06 13:02:58 ID:q6RK2zVA [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「はい」

そうは言ったものの、一応教育した方が良いかもしれない。そう思ったアポロは咳払いすると、

「……それでは、私の話し方を真似してください」

「……まね」

ランスが呟く。

「ぼくも私って言った方がいいんですか?」

「まあ、丁寧に越したことはありませんよ」

アポロがそう言うと、ランスは首を傾げた。十歳程度の子供に伝わるように説明するのは、こんなに難しいものなのか。アポロは嘆息しがちに言い直した。

「『私と言った方がいい』という意味です」
 ▼ 44 AYr1xkow/g 17/02/06 13:03:52 ID:q6RK2zVA [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……さてと。一度ボスにお返しした方が良さそうですね。戻りましょう。ついてきてください」

アポロがそう言って歩き出す。ランスもアポロを追いかけて歩き出した。

そういえば、動き回ったからか暖かくなってきた。ランスはそう思った。寝る場所を与えられただけでもとりあえずは嬉しいものだ。

でも、何も分からない。あのサカキって人は、一体何を考えてるんだろう。ランスはきびきびと歩くアポロの後ろについていきながら考える。ぼくを連れ出して、一体どうするつもりなんだ。教えてくれるって言ってた。でも、何を?

すべてを失ったシママは、目を覚ますとまったく知らない場所にいた。彼の人生はここからもう一度始まるのだ。
 ▼ 45 メイル@キトサン 17/02/06 13:14:17 ID:ieFkvT9c NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 46 ュリネ@においぶくろ 17/02/06 13:15:35 ID:.WoZDTCM NGネーム登録 NGID登録 報告
シママって表現いいね
 ▼ 47 ュウ@もくたん 17/02/06 13:28:14 ID:ep0NLYOY NGネーム登録 NGID登録 報告
久しぶりの良SS
支援
 ▼ 48 AYr1xkow/g 17/02/06 23:23:55 ID:uPkN0Rk2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今更ですがプロトンはオリキャラです
話の都合上登場させています
名前はロケットの名前からつけました
 ▼ 49 ブラン@フーディナイト 17/02/07 01:25:19 ID:a9K3UgdQ NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
普通に面白いな
 ▼ 50 AYr1xkow/g 17/02/09 00:54:59 ID:RxmeJgRY [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「サカキ様。一通り案内を終えました。何か指示があればそちらに従いますが、一旦お返ししますね」

そう言うアポロがランスを連れていったのは、ロケット団のボスであるサカキの使用している部屋だ。

アテナやプロトンに与えられていた部屋より広かったが、必要最低限のものしか置かれていない殺風景な部屋だ。サカキの座っている、座り心地の良さそうな革張りの肘掛け椅子が目を引く。

「ああ、ご苦労。礼を言うぞ。もう戻っていい」

サカキはそう言いながら立ち上がった。アポロは小さく礼をしてから「失礼します」と言って部屋を出ていった。

「……さて、ランスよ」

サカキが口を開くと、ランスはそれを遮るように勢いよく声を上げた。

「何を教えてくれるんですか?ぼく……私は、なんでここに連れてこられたんですか?寝る場所も服も、食べ物もあるのは嬉しい……けど、分かりません」

心からの疑問だった。サカキはじっとランスを見つめている。
 ▼ 51 AYr1xkow/g 17/02/09 00:58:12 ID:RxmeJgRY [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……ロケット団の仕事。それは主に金儲けだ。私たちの最も大きな夢は世界征服。世界を支配するためには力が必要だ。そしてその力とは、金という意味なのだよ」

「……」

ランスは黙っていた。サカキの言いたいことは分かっていた。中途半端に力を持っているくせに、その力の本当の恐ろしさを知らないが故に騙され、破滅していく人間を目の前で見たのだから。でも、聞きたいのはそういうことじゃない。

「我々は金を得るためには手段を選ばない……まあそういったところだ。ランス、君はプロトンの班に入ってもらおう。分からないことがあれば他の者に聞いてくれ。それでは、今日はもう休むといい。明日から仕事の始まりだ」

「は?え……いや、ちょっと待ってください」

教えてほしいことは、ロケット団の仕事内容についてなどではない。そんなこと、これっぽっちも言ってなかった。ランスは慌てて言う。

「原動力が……とか、それをコントロールする方法……みたいなこと、言ってたじゃないですか!」

ランスはもはや叫んでいた。しかし、サカキは至って冷静な表情のまま続ける。

「すまないが、私は忙しいのだ。今日はもう戻れ」
 ▼ 52 AYr1xkow/g 17/02/09 01:00:08 ID:RxmeJgRY [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスは愕然とサカキを見上げた。

この人は一体何を言ってるんだ。ランスは信じられない思いで新しくできたボスを見つめる。騙されたのか?ぼくは父さんのように利用されたのだろうか。ランスの頭の中はぐるぐると激しく回っている。

結局、部屋を追い出されたランスは、アポロに案内された部屋へ向かってとぼとぼと歩いていった。地下なので窓がなく、時間は分かりにくいが、そういえば腹が減っているし、眠くなってきた。恐らく時刻は夜だろう。

部屋に戻ると、先程来た時にはいなかった二人の若い男がベッドの上に座っていた。二人はランスに気付くと同時にこちらを見つめてきた。

「ひゃひゃひゃ!新しくルームメイトができるって聞いたからどんな奴かと思えば、子供かよ!」

一人が甲高い声で笑う。もう一人は至って普通の青年、といった感じで、穏やかな声で話しかけてきた。

「えっと……よろしくな?この部屋は今まで二人だったんだ。だから三人だよ」

「……そうですか。よろしくお願いします」

ランスは最悪のテンションで返事した。
 ▼ 53 AYr1xkow/g 17/02/10 15:49:52 ID:MjiKVTf6 [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あ、晩飯食った?」

穏やかな方の男が言う。ランスは首を横に振った。

「じゃあ食べてきたらいいよ。もう今日は結構遅いし。俺たちはもう済ませちゃったけど……食堂の場所分かる?」

「案内してもらいました。大丈夫です」

ランスはそう言うと、部屋を出て足早に食堂に向かっていった。

明日、明日もう一度ボスのところに行こう。そしてちゃんと説明してもらおう。納得いかない。どうしてぼくをここに連れてきたのか、ちゃんと話してもらうんだ。

ランスはそう考えながら、早歩きで食堂へと歩き続ける。

別に、多くは望んでいないのだ。サカキに着いていったのは、きっと今までより暖かい場所で眠れるに違いない、そう思ったからに過ぎない。与えられたものに関しては何の不満もない。むしろ十分すぎるくらいだ。

でも。ランスは小さく息を吐いた。ランスに力がないことを分かっていて、利用するために都合のいい言葉で誘い出したのだとしたら。それだけは許せなかった。
 ▼ 54 AYr1xkow/g 17/02/10 15:51:03 ID:MjiKVTf6 [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
父親と同じような人生を歩むことだけは嫌だった。父親は生きていればあのサカキと同じくらいの年齢だが、恐らく今頃は海底でヒトデマンやヒドイデたちの集うパーティー会場となっているだろう。

奪われる側の人間として生き続けるのはごめんだ。かといって奪う側の人間になりたいとも思わないが、そんな人生を送り続けるなんて、惨めにも程がある。

あのグラエナたちは今どうしているのだろう。ランスはすべてを失った代わりに逃げ切ることはできたようだ。しかし、今でも油断は禁物である。

もやもやと考えながら食堂に辿りついた。もう多くの団員が食事を済ませているのか、疎らに何人かがいるだけだった。ランスはカウンターからカレーライスを受け取ると、誰も座っていないテーブルの椅子に腰かけ、黙々と食べ始めた。

「よお、ランス。さっきはよくもやってくれたな」

声が聞こえたので顔を上げると、何者かが向かいに座っていた。ラムダだ。

「……言うべきだと思ったので」

ランスは淡々と返した。
 ▼ 55 AYr1xkow/g 17/02/10 15:51:46 ID:MjiKVTf6 [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「言うべきってなんだよそれ……。くそ、お前からはアポロと同じ臭いがプンプンするぜ」

ラムダはそう言いながら口を大きく開けてカレーライスを頬張った。
「同じ臭い?どんな臭いですか」

ランスはラムダの言葉が気になり、ぐっと身を乗り出して聞いてみる。

「え?いや、説明しろって言われると難しいんだけどよ……」

ラムダがそう言って頭を掻くのを見て、ランスは拍子抜けだ、と言いたげに眉をぴくりと動かした。ラムダはそんなランスの反応を見てわざとらしく声を上げる。

「なんだよその顔は!?……ったく、最近の若い奴らは……まあいいや。せっかくだし仲良くやろうぜ」

ラムダがそう言って、右手を差し出してきた。ランスはしばらく黙ってラムダを見つめ返していたが、スプーンを置いて同じように右手を出し、握手に応じた。

「……ところで、お腹がまだ空いてるんで、半分くらいもらっていいですか?」

「さすが子供、食べるの早えな。……って、ダメだ!これは俺のカレーだから!ほら、福神漬けやるからこれで我慢しな」

「……ケチですね」

「いやいやいや!ケチとかじゃねえだろこれは!」
 ▼ 56 コルピ@エレキブースター 17/02/10 16:00:49 ID:fCXQtFXk NGネーム登録 NGID登録 報告
しえん
 ▼ 57 AYr1xkow/g 17/02/11 00:27:48 ID:Sd5aYKvY [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日。同室の二人に起こされたランスは、欠伸を噛み殺しながら改めて部屋を見回した。久しぶりにベッドで眠ったその夜は夢を見ることはなかった。

「ひゃひゃひゃ!朝飯食ったら初仕事が待ってるぜ!」

「さっさと着替えちゃいな。待ってるから」

「……はい」

こんなにぐっすり眠ったのはいつぶりだろうか。ベッドに敷かれた布団は硬かったが、真冬の自然公園の土よりは快適だ。

ランスは制服に着替えて二人の先輩と共に食堂に向かった。硬いパンを急いで食べ終えると、先に部屋に戻ると二人に告げ、食堂を出てサカキの部屋を目指す。昨日からそうすると決めていたのだ。廊下を早足で歩いていると、アポロと出くわした。

「……おや、ランス。おはようございます。そんなに急いでどうしたのですか?」
 ▼ 58 AYr1xkow/g 17/02/11 00:28:55 ID:Sd5aYKvY [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「おはようございます。サカキさんに会いたくて」

ランスのその言葉を聞いたアポロはほんの一瞬沈黙した。ランスには、アポロは何を言うか迷っているように見えた。

「ボスなら出張でシンオウに向かうところですので、今は邪魔でしょうからやめた方がいいでしょう」

「出張……?なぜ?」

ランスが怪訝な顔をする。

「……なぜ、と言われましても」

アポロはそう言って困ったように眉を下げた。

ランスは直感的に感じた。出張は嘘だ。奴はぼくを避けている。

ランスをロケット団に招くのなんて、いつでもできたはずだ。サカキはあの時、エネルギーの使い方を教えると確かに言った。その口調は、サカキ本人がランスに教えてくれると捉えて差し支えないようなものであった。じっくり教育をしたければ、出張が終わった後にランスを連れてくればよかった、ただそれだけの話だ。
 ▼ 59 AYr1xkow/g 17/02/11 00:29:57 ID:Sd5aYKvY [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……でも、部屋にはいるんですよね?なら行きます」

ランスがそう言うと、アポロは溜息をついた。

「言い方を変えましょう。お前は存外賢い人間のようですね。ボスの部屋には行ってはいけません。そのように指示が出ています」

ランスはアポロの言葉に苛立ちを隠せず、眉間に皺を寄せた。

「ボスが直々に勧誘した団員は多くありません。お前は確かに周りの団員と違うところがあります。それは認めましょう。しかし特別扱いはできません。サカキ様には簡単には会えないと考えておきなさい」

アポロの有無を言わせぬ口調に、ランスはすっかり気圧されてしまった。くそ、まずはこの人を出し抜く方法を考えなくちゃ。

「私の目を掻い潜ろうだなんて、百年早いですよ」

アポロがぴしゃりと言う。ランスはどきりとしたが、表情には出さずに済んだ。

「……分かりました」

そう言うランスの右手は、ギリギリと強く握りしめられていた。
 ▼ 60 ギギシリ@クラボのみ 17/02/12 15:02:46 ID:QtLfQ0Q2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロケット団最高幹部の年齢ってどのくらいなんだろうな
 ▼ 61 AYr1xkow/g 17/02/13 17:26:13 ID:P0jI2kMg NGネーム登録 NGID登録 報告
>>60
個人的なイメージですが最高幹部さんは29のイメージです
ちなみにこのSSにおいて現時点でランスは11歳、アポロは18歳、ラムダは26歳、アテナは秘密です
 ▼ 62 ガサメハダー@むげんのふえ 17/02/13 19:39:03 ID:YybUuIkI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 63 マヨール@たからぶくろ 17/02/14 19:34:19 ID:1KwcqgkU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
続き待ってます
 ▼ 64 AYr1xkow/g 17/02/14 22:12:41 ID:Dvn41Yws [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスが部屋に戻ると、同室の二人は既に戻っていた。どこに行っていたのかと聞かれたので、ランスはしれっとトイレに行っていたと嘘をついた。二人は特に疑ってはいないようだ。

「よし、それじゃ初仕事だな!俺たちプロトンさんの班は、現場に出るのが基本!」

「ひゃひゃひゃ!つまりポケモンを盗んだり捕まえたりするのが主な仕事ってわけだ!」

二人が言う。ランスは野蛮な仕事だと思ったが、自分がとやかく言える立場ではないことは分かっていたため何も言わないでおいた。サカキに気に入られたのも、彼の財布を盗もうとしたことがきっかけだったのだから。

ランスはその後朝礼というものに参加した後、時間になるまでポケモンをできるだけ集めてこいという非常に雑な指示を受けた。同室の二人曰く、プロトンの班はいつもこんな調子らしい。

ランスはポケモンを持っていない。二人に聞いてみると、申請すれば支給してもらえるらしい。ランスはどこに行けばいいのかを二人に確認すると、一人で言われた場所へと向かった。
 ▼ 65 AYr1xkow/g 17/02/14 22:14:56 ID:Dvn41Yws [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あのー、すみません」

教えられた部屋に入ってみると、中にはデスクが並んでおり、団員たちがパソコンに向かってデスクワークをしていた。

「あら?」

声が聞こえて振り向くと、そこにはアテナが立っていた。アテナは手に持ったカップからコーヒーを一口飲んでから、

「何のご用?……あ、分かったわ。ポケモンね」

「はい」

「今ちょうど一息ついたところだから、ちょうどいいわ。あたくしがやってあげる。着いてらっしゃい」

アテナはそう言うと部屋を突き抜け、奥にある扉に向かっていく。ランスはそれを追いかけた。
 ▼ 66 AYr1xkow/g 17/02/14 22:16:43 ID:Dvn41Yws [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アテナはランスが後ろにいることを確認すると話し始めた。

「プロトンの班は実戦メイン。まあそれは……」

アテナは一瞬何やら沈黙してから続けた。

「……結構放任主義なのよね。結果を出せば自由にやらせてくれるわ、彼は」

「そうなんですね」

ランスは適当に返した。アテナが本当は何か他のことを言おうとしていたことくらいは察しがつく。

「対するあたくしたちの班は、組織の管理がメインなの。ポケモンたちの保護もあたくしたちの仕事」

それは保護というのだろうか、とは口に出さないでおいた。
 ▼ 67 AYr1xkow/g 17/02/15 00:39:21 ID:i343Sg9I [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アテナは奥にある扉に辿りつくと、どこからともなく鍵を取り出して鍵穴に差しこみ、扉を開けた。その先に広がっていたのはそこは無機質な狭い部屋だ。中にはステンレス製の大きな棚がいくつも並べてある。そこに整理されているのは、大量のモンスターボールだ。

「うーん、どの子がいいかしら。今あまり揃ってないのよね……」

アテナがぶつぶつと呟きながら棚を物色していく。ランスは黙ってそれを見ていた。

「どんなポケモンがいい?」

「なんでもいいです」

ランスが無感情に言う。アテナはそんなランスを見つめると、何かを思いついたのか、ふふっと笑った。

「いいこと思いついたわ。あたくしのポケモンを貸してあげる」

アテナはそう言って、腰元につけていたモンスターボールをランスに向かって投げた。ランスは慌ててそれをキャッチする。
 ▼ 68 AYr1xkow/g 17/02/15 00:41:40 ID:i343Sg9I [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「え……?」

ランスが訳が分からないという顔をしてモンスターボールをまじまじと見つめる。

「自分の欲しいポケモンを捕まえたことがないんでしょう?奪うだけじゃなくてそういう経験も必要よ。その子と一緒にやってみなさいな」

「いいんですか?」

ランスが驚いてアテナを見上げる。アテナは含みのある笑みを浮かべて頷いた。厚く紅の塗られた唇が妖しく動く。

「何か言われたらあたくしの名前を出していいわよ。まあサカキ様はさすがにあたくしの力じゃどうにもならないけど、あのお方はこんなことじゃ怒らないわ」

「なんで、わざわざ」

ランスがそう言いかけると、アテナは口元に手を当てて高飛車な笑い声を上げた。

「うっふっふ。あたくしは我慢が嫌いなの。好きなものは好きだし嫌いなものは嫌いだって、はっきり意思表示させてもらうわ。……あなたのことは結構気に入ってるのよ」

ランスは眉をひそめて首を傾げた。まだ会って一日と経っていないというのに?
 ▼ 69 AYr1xkow/g 17/02/15 00:44:17 ID:i343Sg9I [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「だってランス、あなたとっても可愛いんだもの。……ま、理由はそれだけじゃないけどね……でもなんとなく、あなたとはうまくやれそうな気がするのよ。せっかくだから今から仲良くしときましょ」

アテナはそう言って、ランスに視線を合わせるように屈み、にんまりと微笑んだ。ランスはそんなアテナをじっと見つめる。アテナのつり上がった瞳には、確かに嘘はないように見えた。

「仲良くなれないのはプロトンさんですか」

ランスがズバッと言い当てる。アテナは目を見開いた。

「あら、バレちゃった?まあ、分かるわよね。あいつのことが好きな奴なんていないわよ」

アテナはにべもなく言うとべっと舌を出した。

「……さあ、早く行ってらっしゃい。自分の使うポケモンくらいには愛着あった方がやる気出るでしょう?」

「……そうですね」

ランスは素直にそう言うと、アテナから受け取ったモンスターボールをしっかりと握りしめ、小さく礼をした。
 ▼ 70 AYr1xkow/g 17/02/17 12:49:15 ID:GWRKGwmk [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスはアテナから借りたモンスターボールを何度かぽんぽんと投げて弄びながら部屋に戻った。二人はまだ部屋に残っていたが、ランスを待っているというよりはサボっていると言った方がしっくりくるほどにのんびりしている。

「行かないんですか」

ランスが聞いてみると、二人は顔を見合わせ、

「いやー、行くけどさ。時間とか特に決まってないんだ」

「プロトンさん、部下に興味がねえから決まりも何もねえんだよ!ひゃひゃひゃ!」

「……なるほど」

ランスは小さく呟いた。アテナもプロトンは放任主義だと言っていたが、それはなんとなく聞こえがいいように言い換えただけで本当は間違いだろう。ラムダの言葉を思い出して考えてみるに、奴は本当に自分の地位にしか興味がないのだ。あの時はラムダの言っていたことはよく分からなかったが、アテナの話を聞いて合点がいった。
 ▼ 71 AYr1xkow/g 17/02/17 12:50:19 ID:GWRKGwmk [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「では私は先に行ってきますね」

ランスはそう言ってくるりと踵を返す。二人は驚いたような声を上げた。

「真面目だな……いや、俺たちも行かなきゃだけど……」

「怪我すんなよ!ひゃひゃひゃ!」

ランスは無言で部屋を出た。怪我なんてするものか。自然公園で一人で生きてきたぼくを舐めるなよ。

あの後アテナに貰った空のモンスターボールをぎゅっと握りしめる。自然公園で野生のポケモンと戯れたことはあったが、トレーナーとしてポケモンと触れ合ったことは一度もない。柄にもなく自分が緊張していることに気付いて、ランスはふうと溜息をついた。

「……ぼくはこれから一体どうなるんでしょうかね」

ふとこぼれた独り言が敬語になっていたことにも気付かず、ランスは教えられた裏口からアジトを出た。目の前に広がっているのは知らない街並みだ。ランスは気を引き締めるように唇をキッと強く結んだ。
 ▼ 72 マンボウ@プテラナイト 17/02/18 02:41:00 ID:pEanLEKI NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
支援
 ▼ 73 AYr1xkow/g 17/02/21 18:47:34 ID:A3LKjYLk [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
ここはカントー地方のタマムシシティ。ランスが知っているのはそれだけだ。周りを見ると、高層マンションやデパートなどが並んでおり、なかなかに大きな都市であることが分かる。ランスは迷わないように辺りをよく確認しながら慎重に歩いた。できるだけ目立たずに済むように日陰を歩く。ちょうど後ろを振り向いたところでランスは小石に蹴躓き、足元を見て小さく舌打ちをした。

「失敗したな……」

制服を着てこなければよかったと思った。どうしても目立ってしまう。それに、緩い制服はどうも格好悪く見える。ランスはとりあえず帽子を脱ぐと、それで胸元の「R」の文字が見えないように持ってみた。それでもやはり怪しさは拭えない。

ランスは思いきってアテナから借りたポケモンの入ったモンスターボールを投げてみた。そこから現れたのはナゾノクサだ。
 ▼ 74 AYr1xkow/g 17/02/21 18:49:19 ID:A3LKjYLk [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「こんにちは。ちょっとだけぼくを助けてください」

ランスは小さな声で言う。ナゾノクサは首をこてんと傾げた。ランスはナゾノクサにそっと触れた。緊張で手が震えている。ナゾノクサはそんなランスを見て怯えるように一歩退いた。

「ああ……ごめんなさい、慣れてないだけなんです。あなたのご主人があなたをぼくに任せてくれたんですよ。悪い奴じゃありません」

厳密に言えばロケット団に所属している時点で悪い奴である。

ナゾノクサは様子を伺うようにランスにちらちらと視線を送り、恐る恐る近づいてきた。ランスはできるだけ優しくナゾノクサに触れる。どうやらナゾノクサは、許してくれたようだ。

「ありがとう」

ランスはナゾノクサを抱きかかえた。これでどうにか怪しい「R」マークを見えなくすることができそうだ。
 ▼ 75 ソクムシ@あかいかけら 17/02/23 17:53:01 ID:Rf3qAZg2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ナゾノクサ可愛い
 ▼ 76 ムリット@ウルトラボール 17/02/23 18:44:16 ID:3wOm0uU6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 77 クシー@グラスシード 17/02/26 01:20:45 ID:L9f9A8KI NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
支援
 ▼ 78 ガバクーダ@アンノーンノート 17/02/26 16:16:13 ID:VkLiVW7U NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 79 シボン@がくしゅうそうち 17/03/01 15:55:31 ID:YXHQaAQw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 80 AYr1xkow/g 17/03/04 00:11:42 ID:AthJwgp2 [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスはそのまま迷わないよう、辺りを確認しつつ慎重に歩いた。とりあえず今日は東方向へと進むことにする。腕の中でナゾノクサかもぞもぞと動くのがくすぐったい。ランスはゲートを抜けて街の外に出た。七番道路だ。野生のポケモンが隠れ棲んでいるような草むらの面積はあまり広くない、地味な道路だった。歩いているトレーナーも一人もいない。

しかし、今のランスにしてみればこれほど好都合なことはない。ランスは草むらまで駆け寄ると、ナゾノクサをそっと地面に下ろした。

「誰かいないか探してみましょう」

ナゾノクサに話しかけるように独り言ちた。ナゾノクサは特に聞いていない様子で、好き勝手に走り回っている。

野生のポケモンたちは怯えているのか疲れているのか、しばらく探してもまったく現れなかった。会いたい時に限ってその相手が現れないことは、往々にしてよくあることである。

草むらにしゃがみこんでポケモンを探していたランスが困ったように溜息をついて立ち上がると、少し遠くまで行っていたナゾノクサが走って戻ってくるのが見えた。

ランスが近くに寄ってみると、ナゾノクサが傷ついているのが見えた。どうやら火傷しているらしい。ということは、その向こうにポケモンがいるということだ。ランスはぱっと目を輝かせた。

「ナゾノクサ!こっち!」

思わず駆け出したランスに、ナゾノクサはじとりとした目を向けてから、ランスを追いかけた。
 ▼ 81 AYr1xkow/g 17/03/04 00:22:26 ID:AthJwgp2 [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスが向かった先にいたのは、こいぬポケモンのガーディだった。ガーディはランスに連れられて再びナゾノクサが戻ってきたのを見ると、嬉しそうに吠えた。ガーディはただじゃれているだけのつもりだったのかもしれない。とはいえ、くさタイプのナゾノクサにとっては迷惑な話である。

「初めて見た……ガーディは確か……ほのおタイプ!だからあなたはちょっと嫌かもしれませんが……」

ランスがそう言ってナゾノクサに視線を落とす。ナゾノクサはどうせやらなきゃいけないんでしょ、とでも言いたげな目つきでランスを見つめ返した。

「ありがとう、ナゾノクサ。すいとる!」

ランスの指示に従って、ナゾノクサはガーディの体力を吸いとろうとした。しかしガーディは跳ねるような動きであっさりと避け、ナゾノクサにひのこをお見舞いする。ナゾノクサは熱がってその場で駆け回った。

「ああっ……えっと……ねむりごな!」

ナゾノクサはどうにか立ち直り、きりりと表情を引き締め、頭の草を揺らして粉を撒き散らした。ガーディはその粉に興味を持ったのか、なんと自分から駆け寄ってきて、そしてそのままその場で眠りこけてしまった。
 ▼ 82 AYr1xkow/g 17/03/04 00:30:37 ID:AthJwgp2 [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスが勢いよくモンスターボールを投げつけた。モンスターボールが揺れる。ランスは両手を握り合わせて祈った。お願い、上手くいって、ぼくの初めてのポケモン……!

モンスターボールは三回揺れると、動かなくなった。ランスはナゾノクサに礼を言い、モンスターボールに戻すと、ガーディを捕まえたモンスターボールを拾い上げる。

「なんだか、落ち着かない奴ですね」

ランスはそう言うと、モンスターボールからガーディを繰り出した。ガーディはすやすやと眠っている。ランスはガーディを優しく撫でながら揺り起こした。

「ガーディ。……ガーディ」

ガーディがぱちりと目を開ける。そしてランスの姿を見た瞬間、ガバッと体を起こして嬉しそうに甲高い声で吠え始めた。大きな瞳はきらきらと輝いている。人懐こそうな瞳だ。

「よろしくお願いしますね」

ランスはガーディの姿に思わず嬉しそうに目を細めてそう言うと、もう一度ガーディの体を撫でた。ほのおタイプだからだろうか、ほんのり暖かくて心地いい。

ガーディは返事をするように元気よく吠えた。
 ▼ 83 AYr1xkow/g 17/03/05 23:21:27 ID:kqZDYxLU [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
気付けば日が落ち始めている。

ランスは今度はガーディを抱えてタマムシシティを歩いていた。あの後、夢中になってガーディと遊んでいたら、あっという間に時間が過ぎてしまった。結局、ガーディ以外のポケモンは捕まえていない。

しかし、ランスには大丈夫だという確信があった。プロトンは部下の仕事の成果などどうでもいいのだろうということは、ラムダやアテナの話でもう分かっていることだ。

迷うことなく無事にロケットゲームコーナーへ戻ると、ランスは人が見ていないことを確認して裏口からアジトへと滑りこんだ。遊び疲れたのか、ガーディは欠伸をしている。ランスはガーディをモンスターボールに戻すと、アテナの元へ向かった。
 ▼ 84 AYr1xkow/g 17/03/05 23:23:06 ID:kqZDYxLU [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「アテナさん、ありがとうございました」

アテナはランスが部屋に入ってくると、ランスがやってくるのを待っていたかのようにすぐに現れた。

表向きには組織全体のポケモンを借りたことにはなっているので、二人は乱獲や強奪によって手に入れたポケモンたちを「保護」している奥の部屋に入る。

ランスはナゾノクサの入ったモンスターボールと、それから余った空のモンスターボールをアテナへ返した。

「どういたしまして。いい感じの子、捕まった?」

「はい」

アテナの言葉に、ランスは笑顔で頷いた。

「それはよかったわ」

アテナはそう言って目を細めた。
 ▼ 85 AYr1xkow/g 17/03/05 23:24:21 ID:kqZDYxLU [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あの、アテナさん。お聞きしたいことがあるんですけど」

ふと思い立ち、部屋には二人しかいないというのにランスは声を落とした。

「何かしら?」

「その……サカキさんとお話したいことがあるんですけど、会わせてもらうことってできますか?」

ランスがそう言って、力強い瞳でアテナを見上げる。アテナはかすかに驚いたように口を小さく明けてから、困ったような笑顔を浮かべて答えた。

「うーん、どうかしら。やっぱりその辺はアポロに聞いてみた方が早いと思うわ」

「そうですか……」

ランスが分かりやすく落胆した様子で言う。

「ごめんなさいね」

「いえ、こちらこそすみません。ポケモンを貸してくださって本当にありがとうございました」

もう一度礼を言うと、ランスは部屋を後にした。
 ▼ 86 AYr1xkow/g 17/03/05 23:27:33 ID:kqZDYxLU [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アテナに協力してもらおうと思ったが、失敗に終わってしまった。アポロには聞いても無駄だということはもう分かっている。

では直属の上司に頼むべきだろうか?ランスは一瞬そう考えたが、あまりプロトンのことは頼りたくなかった。

アポロやアテナとはそれなりに上手くやれそうな気がする。同室の二人や、あのラムダという奴とも、関わる上で大きな問題はないように思える。ただし、プロトンだけは別だった。

自分はプロトンになんとなく快く思われていない、そんな自信があった。まあ、プロトンはランスだけでなく他のどの団員のことも好いてはいなさそうであるが。

さて、どうしたものか。ランスは腰につけたガーディの入ったモンスターボールを撫でながら、早足で寝室へと戻っていった。
 ▼ 87 AYr1xkow/g 17/03/07 16:51:28 ID:/mmSIAac [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日。ガーディを抱いて眠ったおかげで、眠っている間ずっと暖かかった。なんだか晴れやかな気分だ。ランスは目を覚まして制服に着替えて朝食を済ませると、部屋で私服に着替え直した。

「ひゃひゃひゃ!なんで着替えてんだよ?」

同室の男が言う。相変わらず耳障りな笑い声である。

「ガーディ、可愛いなあ」

もう一人がそう言いながらガーディを撫でようと手を伸ばすと、ガーディは「ガウ!」と鋭く吠えた。その声は可愛らしく、威嚇としての役割は果たしていなかったが、警戒しているのだということは分かる。

「ガーディ、その人は大丈夫ですよ」

ランスが着替えを終えてそう言うと、ガーディは今度は甲高い鳴き声を上げて自分から男の手に近づいていった。

「捕まえたばっかりなのにもう懐いてんのな。ほーれ、いい子いい子」

ガーディは気持ちよさそうに喉を鳴らしている。
 ▼ 88 AYr1xkow/g 17/03/07 16:52:14 ID:/mmSIAac [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「さて。私はもう行きますね」

ランスはそう言って立ち上がる。男はガーディを撫でながらランスを見上げ、

「なんで私服なんだ?」

ランスは男をちらりと見ると、ガーディをモンスターボールに戻した。

「この制服を着たら、嫌でも怪しまれますから」

床にくしゃくしゃに丸められた紙のゴミが落ちている。ランスはそれを軽く爪先で蹴り上げた。ふわりと浮かび上がるゴミを見事にキャッチすると、そのまま部屋のゴミ箱に投げ入れる。

「お見事」

男が感嘆の声を上げる。

「それが脅しになるんだろうがよ?」

もう一人がそう言った。ランスは小さく首を横に振って部屋を出た。
相手を怖がらせることよりも、油断させることの方が得意だ。今までそうやって生きてきた。自分が子供であることを最大限に利用するのだ。
 ▼ 89 AYr1xkow/g 17/03/16 23:18:07 ID:L2f7ZTIg [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスは私服姿のままアジトを出ると、堂々とタマムシシティを歩いた。今日は西に出てみることにする。辿りついたのは十六番道路だ。

ランスの服装は、とても立派なものとは言えない。いや、それなりに高価な服だったのだろうということが伺えるデザインではある。しかし、真っ白だったシャツも、深みのあるネイビーの膝丈のパンツも、着古されてもうボロボロになっている。

十六番道路の南には十七番道路へと続くサイクリングロードの入口がある。ランスは十六番道路に出て少し歩いたところにある草むらの近くに向かった。そして膝を抱えて座りこむ。ポイントは、寒そうに見せることだ。

「そこの僕、どうしたの?」

一時間くらい経っただろうか。声が聞こえ、ランスは顔を上げた。優しそうな女性が、心配そうな顔をしてランスを覗きこんでいる。

「大丈夫?具合が悪いの?」

ランスは目の前の女性に狙いを定めた。
 ▼ 90 AYr1xkow/g 17/03/16 23:18:56 ID:L2f7ZTIg [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
まずは無言で視線を落とす。もう慣れたものだ。どうすれば一番同情を買えるのかを、ランスはすっかり熟知していた。

「……お母さんやお父さんはどちら?」

躊躇いがちに女性が尋ねるのを聞いて、しめたとランスは思った。

「母さんも父さんも、もういない」

まあ、事実ではある。

女性が息を呑んだ。それから、困ったように辺りを見渡して、再びランスに視線を向ける。

「えっと……寒そうだわ。何か上に着れるもの……女物で申し訳ないけど、これをあげる」

女性がそう言って、着ていたショールを脱いでランスの体に巻きつけた。ランスはその間、じっくりと女性の腰を見つめる。モンスターボールが見当たらない。トレーナーではないようだ。ちぇっ、ハズレ。
 ▼ 91 AYr1xkow/g 17/03/16 23:19:50 ID:L2f7ZTIg [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ありがとう」

ランスはそう言って素早く立ち上がった。女性が慌てて声を上げる。

「大丈夫?お腹空いてないかしら?」

「ううん、大丈夫です。ありがとうございます」

ランスは視線を下に向けたままそう言うとさっさとその場を歩いて去っていった。

女性はそれなりに高級そうな身なりをしていたので、本当はいくらか頂戴したかったのだが、今は金には困っていない。それに、顔を覚えられると厄介だ。

しばらく歩いて物陰に隠れてから振り向くと、女性はもうそこにはいなかった。恐らくタマムシデパートに向かったのだろう。帰りにまた会ってしまうかもしれない。慎重に動こう、ランスはそう思った。

子供服の上にショールは目立つ。ランスはショールをその場に脱ぎ捨てると、ガーディをモンスターボールから出した。ガーディはランスの狙い通り、ショールで遊び始めた。じゃれて噛みつかれたショールがみるみるうちにボロボロになっていく。

ランスはその様子をぼんやりと眺めながら、もう少し遠出した方がいいかもしれない、と思った。今までの獲物は金持ちそうな人間だったが、今は違うのだ。ポケモンを持っていそうな人間を探さなければ。
 ▼ 92 AYr1xkow/g 17/03/24 01:22:49 ID:b7UxkTMU [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
少し場所を変えてみようかと考えたが、隣の十七番道路に向かうにはサイクリングロードに入らなければならない。ランスは自転車を持っていない。結局、先程と同じように草むらの横で餌食をずっと待ち続ける他なかった。

どれくらい経っただろうか。何度か話しかけられたが、品のいい四十代ほどの女性ばかり。一人もトレーナーではなかった。裕福で心に余裕があるから見知らぬ少年にも優しいのだろう。しかし、今欲しいのは金ではないのだ。とはいえ、まったく金を取らなかったと言えばそれは嘘になるが。

そろそろ諦めるかとランスが立ち上がった瞬間、また声をかけられた。若い男性の声だ。ランスは思わず勢いよく顔を上げてしまった。男は驚いたような顔をする。

「どうした、こんなとこで。大丈夫か?」

ランスの視線が、男のベルトの部分にさっと動いた。モンスターボールがある。トレーナーだ。

「お腹空いた……」

ホッとしたランスの口から出たのは、まさに本心だった。
 ▼ 93 AYr1xkow/g 17/03/24 01:23:30 ID:b7UxkTMU [2/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あー、うん。だよな?」

男は困ったようにそう言いながら、持っていたバッグに手を突っ込み、何かを取り出してランスに手渡した。小さなプラスチック製の袋の中に、可愛らしいクッキーがいくつか入っている。

「これ、さっきタマムシデパートで買ったクッキー。何個か食っちゃったけど、やるよ」

「ありがとうございます」

ランスはそう言って迷うことなく袋を開け、クッキーを口の中に運んだ。ほんのり甘くて美味しい。

「なんでこんなとこに……ってアレか。答えにくいか。いや、なんでもないよ」

男は質問しようとしてからそれを取り消すように大きく手を振った。ランスは気にせず口の中にクッキーを頬張ったまま、

「べふに、ほーはんもはーはんもひないしはふぇもなふへ」

「え、なんて?」
 ▼ 94 AYr1xkow/g 17/03/24 01:24:07 ID:b7UxkTMU [3/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスはごくりとクッキーを飲みこんでから言い直した。

「別に、父さんも母さんもいないしあてもなくて」

喉が渇いた。何か飲み物が欲しいところだ。ランスが呑気にそんなことを考えている間、男は申し訳なさそうな表情をしてランスを見つめていた。

「……俺んち来るか?いや、ちょっと厳しい……けど、まあ数日くらいなら……」

見てられねえよ、そうぼそりと呟いた男に、ランスは思わず目を瞬いた。そしてゆっくりと返事する。

「……大丈夫です」

しっかりと言ったつもりだったのに、存外小さな声になってしまった。

自然公園にいた頃にはこんな人物に出会ったことはなかった。もしあの時こんな出会いがあれば、ランスの生活はまったく違うものになっていたかもしれない。

いや、そうじゃない、ランスは必死にその考えを振り払った。数日間養ってもらっただけで一体何が変わると言うのだ。その後にはまた地獄のような毎日が待っている。
 ▼ 95 AYr1xkow/g 17/03/24 01:26:08 ID:b7UxkTMU [4/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「寒そうだし。マジで来れば?なんか……こう……バイトとか見つかるまで?とか?」

「……いえ、大丈夫です」

もうこれ以上彼とは関わりたくない。

「ありがとう……でも、本当に大丈夫です」

ランスはそう言うとその場でよろけた。

「うおっ!?大丈夫じゃなくね!?」

男がそう言ってランスを支える。ランスはできるだけ顔を見せないように礼をすると、その場から走り去った。力ずくで走るランスの右手には、三個のモンスターボールがしっかりと握られている。

人から何かを奪って、初めて罪悪感を抱いた。ロケット団のメンバーになったというのに。このままじゃだめだ。このままじゃだめだ。なんで今更!

タマムシシティに繋がるゲートを抜け、男に気付かれていないことが分かると、ランスは少し速度を緩めてアジトまで早足で向かった。

途中で人かにぶつかる度に自棄になってモンスターボールを奪っていくうちに、何も知らない心優しい青年から奪った三個のモンスターボールはどれがどれだか分からなくなってしまった。
 ▼ 96 ルフォン@クリティカット 17/03/24 01:38:20 ID:q9C06PY. NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 97 AYr1xkow/g 17/03/24 20:53:55 ID:b7UxkTMU [5/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
気付けば奪ったモンスターボールは十三個になっていた。結局、変に同情を買って油断させるよりもさっさと奪っていった方が効率が良かったというわけだ。サカキに財布を抜き取ったのを見破られたことで少し自信をなくしていたが、スリの才能はまだ衰えていないようだ。

アジトに戻ると、ランスは一度自室に戻ってからプロトンの部屋まで向かった。奪ったポケモンについてはその数と種類を上司にしっかり報告しなければならない。

「失礼します」

返事はない。しかし、部屋の明かりはついているし、何よりガサゴソと音がしている。ランスは扉をノックしてから思いきって開けてみた。

プロトンは椅子に座ってこちら側には背を向けており、デスクに向かって何かをしているようだった。ランスは小さく息を吸うと、

「プロトンさん。奪ったポケモンについて、報告しに来ました」
 ▼ 98 AYr1xkow/g 17/03/24 20:55:00 ID:b7UxkTMU [6/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
プロトンは無言だった。振り向きもしなかった。

体はデスクに向けたまま右腕をこちらに向け、右手の人差し指で何かを差す。そこには小さなテーブルがあり、その上には何枚かプリントが置いてあった。見れば、報告内容を記入するための用紙であることが分かる。

「ああ。ありがとうございます」

ランスはざっと目を通した。自分の名前。入手したポケモンの数。その種類。ポケモンがトレーナーのものであったか否か。入手した場所、時間、備考欄。

ランスは急いで書類を埋めていった。奪ったポケモンの種類は先程部屋に戻った時に確認した。どれがどの人物のポケモンなのかはも分からないが、すべてトレーナーのものであったことは確かだ。

場所?分かんないけど、まあ三匹だけ十六番道路であとはタマムシシティ。時間……うーん、だいたいでいいや。

ランスは書類を記入し終えるとそのまま提出し、よろしくお願いしますと告げて素早く部屋を去った。
 ▼ 99 AYr1xkow/g 17/03/24 20:55:58 ID:b7UxkTMU [7/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスが次に向かったのは、管理部だ。今回はアテナはその場にいなかったため、若い女性の団員とやりとりを行うこととなった。

プロトンの部屋でやったように、もう一度報告を行っている間、その女性団員は、初めての仕事で十三匹もポケモンを奪ってきた新人を好奇と期待の入り混じった瞳で見つめていた。

すべてが終わると、どっと疲れが溢れてきた。ランスは部屋に戻り、ベッドに飛びこんだ。二人はまだ帰ってきていない。

あんな経験は初めてで、混乱してしまった。もし自然公園にいた頃にああやって家に来ないかと誘われていたらどうしていただろう。そこまで年の離れていない、若い男だった。兄のように思えたかもしれない。結構楽しく生活できたかもしれない。

鼓動が速い。何を恐れているのだ。アジトまで追いつかれるはずなんてないのに。もう二度と会うこともない。

あの青年は家に帰って上着を脱いでから、可哀想だと感じて助けてやりたいと思った少年に裏切られたことを知る。ただそれだけの話だ。

ランスは呻きながら寝返りを打った。もう夜の七時を過ぎていたが、中途半端な時間にクッキーを食べてしまったせいでまったく腹は空いていなかった。二人の先輩が帰ってきたのを音で感じ取ると、ランスは狸寝入りでやり過ごし、そして結局一睡もできないまま夜を明かした。
 ▼ 100 ガヤドラン@おはなのおこう 17/03/30 18:32:05 ID:1vU0ba1E NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援!
 ▼ 101 AYr1xkow/g 17/03/31 13:14:26 ID:VIJCjvag [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日、ランスは隈のできた顔で食堂に向かった。同室の二人は「寝てたんじゃないのかよ」とツッコミを入れてきたが、それなりに心配してくれているようだ。

二人と朝食を食べていると、誰かに話しかけられた。誰かと思えば、なんと、プロトンだ。

「おいガキ。十三匹もポケモンを奪ってきたって?」

ランスは驚いて、今しがた噛み切ったパンをそのまま丸呑みしてしまった。同室の二人は更に驚いた顔をしている。

「ひゃひゃひゃ!十三匹とか!」

「ちょ……すごいじゃんかよ!どうやったんだ!?」

「……ガキ、確かランスとかいったか?」

プロトンは二人を無視して、濁った瞳でランスを見つめる。ランスはオレンジジュースを飲み干して詰まった喉を流しこんでごくりと飲みこむ。それから慌てて「はい」と返事して頷いた。プロトンがニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

「やるじゃねえか。ちょっとは使える奴みたいだな。これからもよろしく頼むぜ」

プロトンはそう言うと、その場から去っていった。
 ▼ 102 AYr1xkow/g 17/03/31 13:15:24 ID:VIJCjvag [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
周りは未だにざわついている。まさかあのプロトンが部下を褒めるなんて。同室の二人を含め、みんながそれに驚いているようだった。ランスが十三匹のポケモンを奪ったことなんてその二の次だ。

「すげえじゃん……あのプロトンさんにちゃんと褒められるなんてさ」

「ひゃひゃひゃ!こりゃ期待大だな!」

その瞬間、ランスの頭にとある考えが浮かんだ。

仕事でいい結果を出したから、上司であるプロトンは直々にランスの元にやってきて褒めてくれたのだ。ならば、もっといい結果を出せば一体どうなるだろうか?きっとサカキさんに会える。そしてまたちゃんと話すことができるはず!

ランスの心は決まった。そうと決まれば、今日もまた大量のモンスターボールを奪って帰ってこないと。仕事をするのだ。
 ▼ 103 ュシュプ@だっしゅつボタン 17/03/31 13:41:20 ID:13clR1iQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 104 ニョニョ@エドマのみ 17/03/31 16:52:19 ID:pn52xtZg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ふぅ、追いついた。これは支援
 ▼ 105 蓮托生 連帯責任 17/04/01 09:16:13 ID:sm43dTdI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援するに決まってるだろ
イエェェェェェェェェェイww
 ▼ 106 AYr1xkow/g 17/04/01 18:10:31 ID:/MLzhXAs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それからランスは、ひたすらに仕事をし続けた。

ポケモンを奪うだけではなく、別の仕事を言い渡されたこともあった。ポケモンではなく人間を襲ったり、プロトンがとある「仕事」をしている近辺で一般人の通行止めをしたり。プロトンと一緒に行動したこともあった。

他人からしてみれば迷惑行為であっても、ランスにとっては仕事。そのすべてを完璧にこなす必要がある。ランスは行動範囲を広げ、カントー地方、それから故郷である隣のジョウト地方のあらゆるところで悪事を働いた。

そんなランスにとって原動力となったのは、当初の言葉とは異なる態度を取るサカキへの怒りだ。

怒りを力に。ランスはまるで何も意識していなかったが、つまりはそういうことである。怒りを感情として消化するのではない。目的を果たすためのエネルギーへと変えるのだ。

やがて怒りという感情は心から消え去り、目的のためならばどんな手段も厭わず、前へと突き進むようになる。

気付けば、ランスがロケット団に入ってもう一年が過ぎていた。
 ▼ 107 AYr1xkow/g 17/04/02 20:37:34 ID:FI/TbASI [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスがロケット団に入ったのは春だった。始まりの季節だ。それはロケット団も同様で、いわば学校でいう新学期がもう少しで始まる頃、といったところである。そのため、各部署が引継ぎなどの準備に追われていた。

プロトンの班の者たちは、特に異動などもないとのことで、体制も変わらず、班員の一年間の成績発表が行われるのみであった。とはいえ、誰が成績一位なのかはもう分かりきっている話である。

やがて、成績表が展示された。班の者たちは真っ先に見に行き、ガヤガヤと騒いでいた。やっぱりな、予想通り!という声が聞こえてくる。

ランスも同室の二人と成績表を見に来たところだった。掲示板には、分かりやすくランキング形式にされた表が貼られている。前にたくさんの人がいるので、ランスは爪先立ちになって成績表を見上げた。

ランスの名前は、成績表の左上、ランキングの一番最初のところに載っていた。
 ▼ 108 AYr1xkow/g 17/04/02 20:38:27 ID:FI/TbASI [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
まともな生活を送ってこなかったことが、こんなところで役に立つとは。ランスはぼうっとそんなことを考えながら成績表を見つめた。分かりきっていたことなので喜びの感情は特に感じない。

「予想通りだけど、すげーな。プロトンさんの班で歴代最年少で最高の成績だってさ」

「ひゃひゃひゃ!さすがだな!ちなみにロケット団全体では最高成績はアポロさんだってよ。お前さんは二位!」

隣の二人が盛り上がっている。ランスは表情を変えずに、

「へえ、そうなんですか」

ランスは冷静だ。高成績を残し優越感を得ることが目的なのではない。これはあくまで手段なのだ。

しかし周りの者たちは違った。「ガキのくせにやるじゃねえか!」「ほら、おめでとう!」などと言いながら、ランスをくすぐったり胴上げしたりする。差が圧倒的すぎて、嫉妬する余地すらない。みんな素直にランスを褒め称えていた。

そんな中、リノリウムを蹴る冷たい音がつんと響いた。一同は途端に静かになる。見れば、アポロがこちらへと向かってきていた。ランスは思わず生唾を飲みこんだ。
 ▼ 109 AYr1xkow/g 17/04/02 20:40:32 ID:FI/TbASI [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「お疲れ様です!」

一同が礼儀正しく言う。アポロは丁寧に返事しながら歩き、やがてランスの前で立ち止まった。

アポロはランスを見下ろした。ランスはじっとアポロを見つめ返す。アポロはしばらく黙っていたが、やがてふんと溜息をついて口を開いた。なんだか、笑っているように見える。

「よくやりましたね。お前の活躍は聞いています。プロトンも褒めていましたよ」

「ありがとうございます」

ランスはそう言いつつも、アポロを注意深く見つめたまま視線を外さない。アポロもランスを見つめていたが、これ以上は無駄だと判断したのか、

「……サカキ様がお待ちです。至急、部屋へ」

そう言って視線を外した。ランスの口元が、ようやく嬉しそうに歪んだ。この時をずっと待っていたのだ。
 ▼ 110 AYr1xkow/g 17/04/05 16:33:55 ID:ZBymmTJI [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
サカキの部屋に入るのは、ほぼ一年ぶりだ。

「失礼します」と声をかけると、「入りなさい」と声が返ってきた。それだけで正式に認められた気がして、ランスは嬉しくなる。小さく深呼吸をしてから、ランスは扉を押し開いた。

サカキは机に向かって座っていた。扉を閉めたランスが真っ直ぐ前を向くと、サカキと目が合った。サカキは笑っている。

「待っていたよ」

サカキの声は、思ったより柔らかかった。久しぶりに息子と再会した父親のような穏やかさすら感じる。ランスはごくりと喉を鳴らした。

今まで色々と考えてきた。たくさん言いたいことがあったのに、すべてが飲みこまれてしまう。ランスはただ黙ってその場に立ち尽くしていた。
 ▼ 111 AYr1xkow/g 17/04/05 16:34:36 ID:ZBymmTJI [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「さてランス……まず最初に詫びよう。すまなかったな」

サカキはそう言うと机から立ち上がり、ランスの方へと歩いてきた。高価そうな部屋の備品、サカキの背広、革靴。そのどれもがこれ以上ないほどの緊張感を生み出している。

「君が私に何を感じるかどうかは、私も予測済みだった。当然だな。いや、説明もなしに酷い態度を取ってしまった。すまない。ランス、君のためだったのだよ」

サカキの言葉に、ランスは首を傾げた。

「ランス。君はこの一年間、何を感じていたかね?」

サカキが問う。ランスは淀みなく答えた。

「怒りです」

そう、怒り。理不尽な態度を取るサカキへの怒りだ。

ランスの答えに、ふっとサカキは微笑んだ。ランスの瞳が思わず大きく見開かれる。
 ▼ 112 AYr1xkow/g 17/04/05 16:35:19 ID:ZBymmTJI [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「そう、怒り。そうだろう。私が憎かっただろう?それでいい」

サカキは両腕を広げ、嬉しそうに続ける。

「怒りこそが最も強い原動力だ。君はそれを使いこなし、良い成績を収めた。素晴らしい!」

ランスは呆けていた。

なんだ。全身の力が抜けていくのが分かる。そういうことだったのか。賢いランスはすべてを理解した。始めからサカキの思う通りに動いていたのだ。結局はサカキの掌の上。ランスは何も言えなかった。

「やはりだ。やはり君には見込みがある。思った通りだ。初めて出会った時から、私はそう思っていたのだよ」

サカキがランスを見つめる。ランスの瞳の奥には、強い炎がめらめらと蠢いている。その炎は緑色に燃え盛っており、冷たい印象さえ与えるが、何よりも熱い。サカキはそれをその時から既に見抜いていたのだ。

財布を取り返されて空っぽになった手の上にかすかに感じる、札束の感触。あの日のことを思い出したランスは、ぐっと拳に力をこめた。
 ▼ 113 リボーグ@ぼうごパット 17/04/06 12:03:41 ID:sZgpGG7U NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 114 AYr1xkow/g 17/04/07 17:14:30 ID:sj.idaqI [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「そう……だったんですね」

ランスの心にもう怒りはなかった。結局いいように利用されていたのだとか、そんなことは微塵も感じない。

サカキはランスを試したのだ。ランスはそれに期待通り、いや期待以上の結果を残した。サカキは自分の判断が間違っていなかったこと、それから優秀な部下を手に入れたことを再認識し、満足していた。

始めからすべてを見越し、その上で自分を試したサカキ。ランスはその意図に気付かず、ただ闇雲に動いた。結果的に良い方向に進んだが、自身の未熟さを思い知らされるばかりだ。

まだ子供だから?そんなことは関係ない。ここでは自分も、他の者と変わらないただの一人の構成員なのだ。
 ▼ 115 AYr1xkow/g 17/04/07 17:16:44 ID:sj.idaqI [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ああ。長く待たせてしまったな。だがもう心配無用だ。ランス、君はここで上手くやれる。私が保証しよう」

サカキの言葉は、ランスの心にじっくりと染み渡った。ランスはゆっくりと頷くと、

「ありがとうございます。サカキ様」

そうはっきりと言った。それから、深々と礼をする。

サカキはランスに「怒り」の使い方を教えた。それはこの世界で生きていく上で何よりも重要なことに違いない。

サカキはランスを上手く動かした。そしてランスは、きっとそれに上手く応えた。それはサカキだから成し得たこと。ランスはそう思った。他の誰がやっても上手くいかなかっただろう。不快感など微塵も感じない。むしろランスの心は満たされていた。

この人は今までに出会った中で誰よりも尊敬に値する人物だ。

「それでは、私はこれで失礼します」

ランスはそう言うと、もう一度小さく礼をして、サカキの部屋を出た。
 ▼ 116 AYr1xkow/g 17/04/07 17:17:54 ID:sj.idaqI [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
あなたは私に手を差し伸べ、寝る場所と食べ物と仕事を与え、最も大切なことを教えてくれた。

感謝してもしきれません。私はあなたに何を与えればいい?何を返せばいい?

そんなものは何ひとつない。分かっています。これから私がどう動くのか、それが重要なのでしょう。

サカキ様。私はあなたに心からの忠誠を誓います。あなたを追い、守り、従います。それが私にできる唯一のこと。そうでしょう。

あなたは私の上に立つに相応しい人。それなら、私はあなたの下に立つに相応しい人となります。

サカキ様。すべてはあなたの仰せのままに。
 ▼ 117 AYr1xkow/g 17/04/10 11:48:52 ID:TvxnJ.Ww [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あれから四年――。

十六歳になったランスは、アジトの廊下で幹部の一人であるアポロに対して大きな声で主張していた。

「だから、制服がもうきついんですよ。まだ身長は伸びると思うので、もう少し大きめの新しいものをください。できるだけ早く」

「今年に入って何回目だと思ってるんですか?毎度毎度発注が面倒なんですよ」

アポロは明らかに苛立っている。

「そんなこと言われても、生理現象ですから。私にはどうしようもできません」

ランスはしれっとそう答えた。アポロは頭を抱えて唸った。

「まったく……」
 ▼ 118 AYr1xkow/g 17/04/10 11:50:19 ID:TvxnJ.Ww [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「お、またやってんの?」

そう言って笑いながらラムダがその場を通り過ぎていくのが見える。その瞬間、アポロは思い出したように口を開いた。

「……ああ、そういえば。ラムダのために発注しているものが確かまだ残っているはず。あなたには少し大きいかもしれませんが、それでもよろしければ今準備できますよ」

アポロの言葉に、ランスは思いきり顔をしかめた。

「ええ、ラムダさんのですか?ラムダさん、ガリガリだからきつそうじゃないですか。それにラムダさんと一緒ってなんだか嫌ですね」

「おい、聞こえてるぞ」
 ▼ 119 AYr1xkow/g 17/04/10 11:51:16 ID:TvxnJ.Ww [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アポロが深く溜息をつく。

「とりあえず一度着てみてください。問題がないようでしたらそれでお願いしますよ」

そう言ってさっさと歩き去っていくアポロ。

「はあ……分かりました」

ランスが気のない声で言う。ラムダの不満そうな声が聞こえてきたが、ランスは無視してアポロを追いかけた。

目的の部屋に辿りつくと、アポロは中に入ってラムダのために発注した制服を引っ張り出した。

見てみると、残りはあと二着。もしランスにも合うようであれば、また発注し直さなければいずれ足りなくなってしまうだろう。結局面倒なことには変わらない。アポロは制服の皺を伸ばしながらまた溜息をついた。

アポロはランスに制服を渡し、部屋を出て着替え終わるのを待った。結果が気になるのか、なぜかついてきたラムダも一緒だ。二人が黙って待っていると、今度はアテナがその場を通りかかった。
 ▼ 120 AYr1xkow/g 17/04/10 11:52:25 ID:TvxnJ.Ww [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「もはや恒例行事ね」

アテナは呑気にそう言いながら二人に近づいてきた。

「アポロ、そろそろ身長抜かれちゃうじゃないかしら?」

アテナがクスクス笑いながら言う。すると、アポロは不機嫌そうな顔をして低い声で言った。

「もう抜かれてますよ」

「あら」

アテナが思わず口元を手で覆う。ラムダはぷっと吹き出した。アポロが素早く振り返り、ラムダを睨みつけたその瞬間、

「アポロさん。制服、大丈夫そうです」

ランスが部屋から出てきた。胸元には大きなRマークが光っている。

「ちょっと嫌ですけど」

そう付け足したランスに、ラムダがまた非難の声を上げた。
 ▼ 121 ガピジョット@シルフスコープ 17/04/10 12:51:55 ID:WldxlAto NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 122 ガタブンネ@ピンクのリボン 17/04/10 17:56:58 ID:9bdrfMfM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
わちゃわちゃしてきていいな  支援
 ▼ 123 ルノズク@おしえテレビ 17/04/13 17:50:18 ID:Fg7Vnick NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
保守
 ▼ 124 クリン@ダートじてんしゃ 17/04/20 14:06:28 ID:V2Lpc0w2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ksk
過疎化
 ▼ 125 AYr1xkow/g 17/04/21 00:11:41 ID:.vE2ioKM [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ウインディ、今日は恐らくバトルする仕事はありません。おとなしくしていてくださいね」

「ガウッ」

ウインディが吠える。ランスは薄く微笑んでから相棒をモンスターボールに戻した。

昨日アポロに新しく支給された制服に着替えながら、部屋をじっくりと眺める。

来たばかりの頃は大きく感じたベッドは、今や窮屈になっていた。ここ数年間でかなり身長が伸び、ランスはロケット団で二番目に背の高い構成員となっていた。入りたての頃は同年代の子供よりも華奢で小さかったというのに。

二年前、数人が新しくロケット団に加入したため、部屋のひとつ空いていたベッドも埋まった。今は同室の三人がまだすやすやと眠っている。

ランスはプロトン直々に様々な仕事を任されるようになっていた。とはいえ、雑用係のような仕事ばかり命じられることも多い。今日もそうだった。
 ▼ 126 AYr1xkow/g 17/04/21 00:12:45 ID:.vE2ioKM [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
プロトンの部屋に向かう。ノックをして名乗ると、「入れ」と声がした。

「失礼します」

ランスが小さく礼をしながら入る。見ると、プロトンは部屋に備えつけられたベッドに腰かけていた。ランスの顔を見た瞬間、プロトンがにやりと笑う。嫌な予感がした。

「ランス、部屋の掃除を頼む」

ランスは一瞬沈黙してから、

「はい」

「なんだ、不満か?」

プロトンがどこからともなく煙草を取り出して口から煙を吐きながら言う。アジト内は禁煙だというルールは、ランスがロケット団に入ってから変わったことはない。

「まあ、不満かそうでないかと言えば、不満です」

「ハッ、言うじゃねえか」

プロトンは笑いながら言った。気分を害した様子はない。
 ▼ 127 AYr1xkow/g 17/04/21 00:13:48 ID:.vE2ioKM [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「まあ頼むぜ。散らかってからな。いいじゃねえか。その辺のゴミを捨てて、書類を適当にまとめりゃいいだけの話だ。現場に出て肉体労働するよりずっとマシだろ?」

プロトンは煙草を噛んでそう言ったが、ランスはそうは思えなかった。

「私は現場に出る方が好きですね。若くて健康的なので」

「生意気だな?まあ、仕事が出来るから別にどうでもいいけどよ」

プロトンの指示が覆ることはなさそうだ。ランスはプロトンに気付かれないように(気付かれている気がする)小さく溜息をつくと、机に向き合った。大量の書類が山積みにされている。書類は床にも広がっていた。ランスの鋭い瞳が、不機嫌そうにじっとりと細くなっていった。
 ▼ 128 AYr1xkow/g 17/04/21 00:15:09 ID:.vE2ioKM [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスが掃除を始めてから、三時間が経過した。まだ書類の整理は終わらない。

プロトンは部屋で何かごそごそと作業をしたり、部屋の外に出たりと好き勝手に動いている。

ランスはとりあえず書類を種類順に分けていた。たまによく分からないものも出てくるが、すべて終わった後にまとめてプロトンに聞こうと思い、今は隅の方に寄せてある。黙ってひたすらに書類をめくり、仕分けていく。退屈すぎて死にそうだ。

次の書類は、今までに見たことのないものだった。ランスはうんざりした様子で目を凝らす。そして、自身の目を疑った。

その書類の一番下に、見覚えのある文字が見覚えのある筆跡で書かれていた。間違えるわけがない。捺印までされている。

ランスは完全に固まった。今はちょうどプロトンは部屋の外に出ていてよかったと思った。きっと見られていたら不審に思われたに違いない。

書類には、父親の名前が父親の筆跡で書かれていた。
 ▼ 129 ッサム@ぎんのこな 17/04/21 07:00:20 ID:1fh9V.zI NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 130 ゲボウズ@ポケモンずかん 17/04/21 23:23:22 ID:KGzE.FRs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
正直毎日これのために生きていると言えるわ
 ▼ 131 AYr1xkow/g 17/04/23 01:31:19 ID:xpeF/NzM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>130
そこまで言っていただけるなんて本当に嬉しいです
ありがとうございます
毎日更新できなくてすみません
皆さんも支援ありがとうございます
 ▼ 132 AYr1xkow/g 17/04/25 00:45:37 ID:JFQC5InY [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
落ち着け。落ち着け。

ランスは書類を持つ手が震えていることに気付き、必死に自分に言い聞かせた。

ざっと目を通しただけだが、ランスは確信した。資産家であった父親を騙し、最終的に両親を死に至らしめ、かつてのランスからすべてを奪ったその首謀者は、プロトンなのだ。

足音が聞こえ、ランスの意識が引き戻された。足の裏を擦りつけながら歩くようなこの音は、間違いなくプロトンの足音だ。

種類の分からない書類については後でまとめて質問しようと思っていたが、気になって仕方がない。怪しまれるだろうとは思ったが、それでも耐え切れなかった。

ランスはわざと書類を床に落とした。プロトンが部屋の扉を開ける。ランスはなんでもないような顔をしながらちょうどプロトンに見えるタイミングで書類を拾い上げた。

「……?これ、何の書類ですか」

今初めて見つけたようなそぶりでランスが尋ねる。

「ん?」

プロトンはランスの方までやってきて、書類を覗きこんだ。
 ▼ 133 AYr1xkow/g 17/04/25 00:47:14 ID:JFQC5InY [2/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ああ……これか」

プロトンがにやりと笑う。ランスはその顔を見て、得も言われぬ恐怖に襲われた。

「なんてことはねえ、ただの契約書だ。他の書類とは別のところに適当に置いておいてくれ」

「分かりました」

ランスはそう言ってくるりと向きを変え、再び書類の整理に取りかかることにした。詳しいことは何も教えてくれなかった。ランスは一瞬だけ瞳を閉じて気を落ち着かせると、作業を再開した。すると、背後から声が聞こえてきた。

「……そういえば、この契約で貸した金はまだ全額返済されてねえな」

プロトンの口調は軽かった。ランスにはプロトンの表情は分からない。

「逃げやがってよ。見つけた頃にはもうどうにもならなかったからな、残念ながら海の底で妻と一緒に眠ってもらうことにした。……そういえば、こいつには息子がいたな」

プロトンは続ける。

「確か今頃、お前と同じくらいの年齢になってるはずだ」
 ▼ 134 AYr1xkow/g 17/04/25 00:49:10 ID:JFQC5InY [3/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
プロトンの声からは何も読み取れない。ランスも出来るだけ感情をこめずに返した。

「そうなんですか」

絶対に振り向くな。ランスは自分に警告した。今振り向いたら終わりだ。ランスは本能で察知した。

プロトンは、きっとランスがこの書類にサインをした男の息子だということに気付き始めている。一体いつから気付いていたのだろうか。もしかして、もっと前から、ランスがロケット団に入った時に既に分かっていたのか?分かっていて今日ここに呼んだ?それとも偶然?どちらにしろ、動揺していることを絶対に知られてはいけない。振り向いたらそこで終わりだ。

プロトンがランスがかつて騙した男の息子であるということについて何らかの証拠を見つけてしまえば、プロトンの攻撃の矛先はランスに向く。両親は死んだ。未だに返済の終わっていない借金を代わりに返すことができるのは、ランスしかいない。

考えろ。ランスは作業を続けながら必死に頭を回転させた。まずは今この時間を気付かれずにやり過ごす。それが先決だ。
 ▼ 135 AYr1xkow/g 17/04/25 00:51:37 ID:JFQC5InY [4/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
せっかく居場所を見つけたと思ったのに、またこうやって奪われることに怯えて生きなければならないのか。ランスはそう思った。

父親のような愚かで弱い人間になるつもりはない。ランスは、結論から言うと奪う側の人間となった。でも、本当のところは結局変わることはできなかったというのか。自分はいつまでも奪われる側のまま。

いや、違う。ランスの手が、強く書類を握りしめた。ぐしゃりと書類が歪む。

このままでいいわけがない。ここで終わるわけにはいかないのだ。

絶対に隠し通す。例えプロトンがほぼ確信していようが、証拠はない。幸いにも、プロトンはかつてのカモの息子の名前を覚えていないようだ。あの時逃したことを後悔しているに違いない。きちんと手元に置いておいて、父亡き後に借金返済のために馬車馬のように働かせるように準備しておくべきだったと考えているだろう。まさか本当に逃げるとは思っていなかったのかもしれない。

プロトンの思い通りにはさせない。ランスはそう決意して作業に戻った。
 ▼ 136 ローン@セシナのみ 17/04/25 14:49:12 ID:oa4gLnmA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
すごい文章力です!シリアスな上に展開のスリリングさが半端じゃない!
もし個人サイトや支部アカ持ってたら速攻でブクマ&フォローします!
これからも応援してます。小説頑張って下さい!
 ▼ 137 AYr1xkow/g 17/04/25 17:46:45 ID:MAFwRe66 NGネーム登録 NGID登録 報告
>>136
ありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいです…
支部はやってますが、アカウントを教えるのは恥ずかしいのでグズルザ推しだということだけお伝えしておきますね。
 ▼ 138 AYr1xkow/g 17/04/25 22:20:17 ID:JFQC5InY [5/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日から、ランスとプロトンの間で戦が勃発した。

プロトンはランスがボロを出す瞬間を今か今かと待ち続けている。ランスは慎重に動いたが、その緊張が伝わってプロトンに勘付かれているのではないかと思い始めた。かといって、得策は思い浮かばない。どうすれば逃げ切れる?

気付けば、あの書類を見つけた日から一週間が経過していた。とにかく今は不審に思われない程度に逃げるしかない。大股に廊下を歩いていたランスは、思い詰めていたせいか前に人がいることに気付かず、何者かとぶつかってしまった。

「イテッ!」

「あ痛……すみません、お怪我は……」

慌てて顔を上げたランスの顔が、みるみるうちに青くなっていく。

なぜなら、そこにはポケモン研究の世界的権威であるオーキドが立っていたからだ。
 ▼ 139 AYr1xkow/g 17/04/25 22:22:04 ID:JFQC5InY [6/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「な、なな……なぜ……」

どうしてこんなところにオーキド博士がいるのだ。

ランスが呆然として口をパクパクさせていると、オーキドはぶつけた腹の辺りを少しさすった後、満面の笑みで話しかけてきた。

「そう!ワシこそオーキド様だ!驚きすぎて声も出ないかね?ハッハッハ!」

驚いているランスに向かって、オーキドは堂々と名乗ってみせた。それから豪快に笑い始める。

白衣を着た、白髪の小柄な猫背の男。ランスはその姿にどこか違和感を覚え、訝しげな表情で首を捻った。

「……ラムダさんですか?」

「アレッ!?なんで分かったんだよ!」

オーキドの姿をした何者かが喚く。姿はオーキドだったが、その声の主は紛れもなくラムダだった。
 ▼ 140 AYr1xkow/g 17/04/25 22:23:17 ID:JFQC5InY [7/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「私も彼と直接話したことがあるわけではないので正解は分かりませんが、それにしてもラムダさん、演技下手すぎですよ」

ランスがきっぱりと言うと、ラムダは舌打ちしながら変装を解いた。

「くっそー、やっぱりダメだな。まさかランスにまで見破られるとはよ……アポロやアテナにもバレたし……」

悔しそうに言うラムダにランスは追い打ちをかける。

「多分誰でも分かりますよ」

「うるせえ」

ラムダが余計なお世話だと言わんばかりの口調で言う。ランスは呆れたように肩をすくめると、素直に褒めた。

「でも、変装ができるということ自体はとてもすごいことだと思います」

「おう、ありがとよ。ただし真似はめちゃくちゃ下手くそだ!」

ラムダがなぜか胸を張る。

「それ、そんな自慢げに言えることじゃないですからね」
 ▼ 141 プ・レヒレ@きょうせいギプス 17/04/26 13:19:25 ID:pL0YQD0s NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 142 ンダー@ハバンのみ 17/04/27 07:57:15 ID:ixuOXzDw NGネーム登録 NGID登録 報告
支援上げ
更新待ってます
 ▼ 143 AYr1xkow/g 17/04/28 15:31:01 ID:ka5uNukg [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラムダと話しながら廊下を歩く。他愛もない内容だが、ラムダと話すことは結構楽しい。性格も年齢もまるで違うが、気の合う仲間であることは確かだ。

角を曲がると、向かいからプロトンが歩いてくるのが見えた。一瞬ランスの肩が強張る。しかしランスはすぐに緊張を解いた。

「お疲れ様です」

そう言って軽く頭を下げ、不自然な動きをしないようにしながらすれ違う。プロトンは薄気味悪い笑顔を浮かべただけで返事はしなかった。

プロトンの後ろ姿をラムダが疎ましげに睨みつける。プロトンの姿が見えなくなると、ラムダはおおげさに溜息をついた。

「あいつ、最近更に調子乗ってんな」

「そうですか?」

ランスはしらばっくれた。
 ▼ 144 AYr1xkow/g 17/04/28 15:32:08 ID:ka5uNukg [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラムダは思い出したようにハッとしてから、低い声で言う。

「おい、言うなよ本人に。お気に入りさんよ」

「言いませんよ」

ランスは呆れ気味に言った。まだ初日の煙草の件を根に持っているらしい。そもそも、ランスが本当にプロトンのお気に入りかというと、恐らくそうではない。

「幹部の中で一番年上だからってイキってんだよ。最近アポロもおとなしいしな」

ラムダはぶつぶつと呟いている。ランスはその様子を黙ってじっと見つめていた。

「今度アポロに酒でも奢ってやるかぁ……」

ラムダは、プロトンを幹部に推薦してアポロの心労を増やしたことも、未だ悩んでいるらしい。

その夜、ランスは夢を見た。夢を見たのは、サカキの背中で眠ってしまった時以来だ。といっても、目を覚ました頃には内容を忘れてしまったけれど。ただ、とてつもなく嫌な予感のする夢だったということだけを覚えていた。
 ▼ 145 ロベルト@とくせいカプセル 17/04/29 13:44:06 ID:e/DofQu6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しえん
 ▼ 146 AYr1xkow/g 17/04/29 23:56:07 ID:O490uIqg NGネーム登録 NGID登録 報告
朝の準備を終えたランスは、ウインディの入っているはずのモンスターボールがないことに気がついた。

部屋の中を探していると同室の三人が目を覚ましたので、協力してもらったが見つからなかった。

片付けはしっかりやる方だ。ましてや大事なポケモンの入ったモンスターボールをどこかに放置するだなんてありえない。ランスは朝礼の後は朝食も食べずにアジト内を探し回った。

アジト中を探し終える頃には、もう夕方になっていた。昼食も食べていない。しかし、ウインディの入ったモンスターボールはまだ見つかっていなかった。

「はあ……」

ランスは苛立ち気味に溜息をつくと、額を伝う汗を手で拭った。一体どこにいったというのか。毎日きちんと管理している。誰かが奪ったとしか考えられない。

ふと、ランスの脳裏にある考えがよぎった。そんなことがあるか。そうやってその考えを振り払いたかったが、ないとは言い切れない。まさか。本当にそんなことが?ランスは必死にそうではないことを祈りながら上司の部屋へと急いで向かった。すると、

「あの、ランスさん!」

名を呼ばれ、振り向くと、同室で一番後輩の男がいた。ランスより何歳か年上だがまだ若い彼は、かなり切羽詰まっている様子だった。
 ▼ 147 w4AUIpPSng 17/04/30 00:38:05 ID:LV.xL1zo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援!
今日疲れてたけどこれで疲れふっとびました!自分のペースでいいので頑張ってください!
 ▼ 148 AYr1xkow/g 17/04/30 17:42:17 ID:xBfcH8I2 [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
後輩の案内で、アジトの倉庫に向かう。アジト内にはいくつか倉庫があるが、その中でも一番古く、ほとんど使われていないものだ。

この倉庫は先程も探しに来たのだが、その時はウインディはいなかった。その後にやってきた後輩がどうやらウインディを見つけたようだ。一体どういうことだろうか。

倉庫にたどりつき、急いで扉を開けると、埃が舞った。咳きこみながらランスが中に入ると、そこには傷だらけのウインディが横たわっていた。

「ウインディ!」

ランスが叫んでウインディに駆け寄る。

全身血だらけで、鳴くこともできずに息を漏らしているウインディが、瀕死状態よりも最悪な状態であることは火を見るよりも明らかだった。

「ああ……ウインディ……!ごめんなさい、今すぐに治してやりますから……!」

ランスは顔面蒼白になりながらそう言い、ウインディを横に落ちていたモンスターボールに入れた。そして後輩に礼を言うと、急いで医務室へ向かった。
 ▼ 149 AYr1xkow/g 17/04/30 17:43:28 ID:xBfcH8I2 [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
医務室にウインディを連れていき、至急手当てを頼みウインディを休ませる。すべてが終わるまで、ランスはそばで待っていた。

始めに倉庫を探した時はウインディはいなかった。つまり、何者かがあそこにウインディを連れていったのだ。医務室の団員によると、ウインディは襲われてからかなり時間が経っているようだった。恐らく、時間を稼いでより衰弱させるためだ。

誰がやったかだなんて、そんなものは分かりきっている。やはりランスの考えは間違っていなかったようだ。

プロトンは、ランスを脅したのだ。父親の借金を返さずに逃げてやり過ごそうとするランスに、実力行使も辞さないという意思表示としてウインディを襲った。

それも、深夜、眠っている間にモンスターボールを盗み出して暴行を加え、何時間も放置するという卑劣な方法でだ。
 ▼ 150 AYr1xkow/g 17/04/30 17:44:36 ID:xBfcH8I2 [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
うとうとしかけていたランスは、名を呼ばれてハッと目を覚ました。そういえば、腹が減っている。夕食すら食べていない。しかしそんな余裕はなかった。

「ウインディの様子はどうなんです?よくなりましたか!?」

ランスがそう聞いても、団員は申し訳なさそうに目を伏せるだけだ。最悪な予感がした。

ベッドの上のウインディは、今にも死にそうだった。力なく開かれた口からは、浅い息が漏れている。ランスは思わず唇を噛み締めた。

「ウインディ……ごめんなさい……もっと早く見つけていれば……」

トレーナー失格だ。自分のポケモンを守ることができないだなんて。

アテナのナゾノクサを借りて捕まえた日を、昨日のことように思い出す。あの時はまだガーディだった。よく一緒に遊んだものだ。

一昨年、タマムシデパートで購入したほのおのいしを使ってウインディに進化させた。ロケット団員のポケモンとして、良くないことをさせたこともあった。それでもいつでも感情を分かち合ったウインディはランスを理解し、従ってくれた。この世で一番大切な存在だ。

「ウインディ……」
 ▼ 151 AYr1xkow/g 17/04/30 17:51:24 ID:xBfcH8I2 [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>147
前も支援をくださった方でしょうか?何か力になれているのならとても光栄です。ありがとうございます

現時点での幹部たちの年齢はランス16歳、アポロ23歳、ラムダ31歳のつもりで書いています。アテナは秘密です。ご参考までに。
 ▼ 152 AYr1xkow/g 17/05/02 19:28:20 ID:WYhWjndk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
やがて、ウインディはそれから二時間後に息を引き取った。

冷たくなったウインディの体を撫でながら鼻をすするランスの目尻から顎にかけて、涙の筋ができていた。

プロトンの思い通りにはさせないと誓ったのに。私はまだ弱い。ランスは自分を責めた。結局、奪われ、虐げられる側から抜け出すことはできていないのだ。

両親もそうだ。散々利用された挙句に殺された。父親のことは哀れな男だと認識していたが、それでも家族だ。大切な存在であることに変わりはない。また大事なものを奪われたのだ。そして、ランスはそれに抗うことができなかった。

後悔。罪悪感。悲しみ。そして、怒り。ランスの感情がぐるぐると動き出し、やがて姿を変えていく。

深く息を吸う。それから、ランスはゆっくりと息を吐き出した。
 ▼ 153 マルス@チイラのみ 17/05/04 00:31:16 ID:ity5ojY. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しえん
 ▼ 154 AYr1xkow/g 17/05/09 00:20:28 ID:KnQ.2F3A [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
とあるきのみがある。そのきのみには鎮痛や陶酔といった作用があるが、使用するとやがて幻覚が見えるようになるなどの副作用があり、使用者の精神に異常をきたすようになる。依存性や毒性の強いそのきのみは、もちろん一般には流通しておらず、使用や所持、栽培は違法とされている。

さて、今日プロトンはそのきのみの売買の取引にやってきていた。ランスはそれに付き添いとして同行している。

あの日以来、ランスはプロトンに対しての態度をまったく変えていない。むしろ険悪になる前と同じように堂々と向き合っていた。プロトンはそんなランスを不審に思っているようだったが、次の給料日に何か行動を起こしてくるのではないかとランスは睨んでいた。奴が欲しているのは金だ。

取引はカントー地方のとある街にある陰気なバーで行われる。裏取引などでよく使われる、ならず者の集う店だ。
 ▼ 155 AYr1xkow/g 17/05/09 00:22:07 ID:KnQ.2F3A [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「モンスターボールは外してくれ。トラブルを避けるためにね。俺も置いてきた」

取引相手の男が言う。ランスより少し年上の、ガタイのいい男だ。プロトンは面倒臭そうな顔をすると、ベルトにつけていたふたつのモンスターボールを男の目の前で取り外し、ランスに手渡した。

「お前は外で待ってろ。監視を頼む」

「はい」

無機質な声で返して、ランスはプロトンからモンスターボールを受け取った。プロトンが更に一歩近づいてくる。ランスは眉を寄せた。プロトンはランスの耳元で、

「もうお前にはポケモンがいないから嬉しいだろう?あ?」

そう囁いて、意地の悪い笑みを浮かべて離れていく。ランスはプロトンの後ろ姿を思いきり睨みつけると、黙ってバーを出ていった。背後から、下品な笑い声と共に二人の声が聞こえる。

「本当にそれで全部か?どこかに隠してないか?ケツの穴には?」

「そこには何も入れたことはねえ。それに、それはこっちの台詞だ。ついでに言うと急いで出せないところに隠しておいても無駄だ」

「それもそうだ。さっさと始めよう」
 ▼ 156 AYr1xkow/g 17/05/09 00:23:47 ID:KnQ.2F3A [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
プロトンと男の取引はスムーズに終わった。男は確認を終えるとさっさと帰っていった。プロトンは密売人である男と関わっているところをできるだけ見られないようにするために、少し時間を空けてから店を出るつもりでいた。

ランスが店に入ってくることはなかった。まあ、恐らく何も問題はなかったのだろう。プロトンは薄汚れた店の出入口を一瞥すると、何度も確認した「ブツ」に再度目を落とした。

見た目は他のきのみと何ら変わらない。鮮やかな色をした美味そうなきのみだ。しかしこれが、いわゆる薬物と同じような効果を持つ危険なものなのである。

プロトンは下卑た笑みを浮かべた。裏組織に属する人間は、こういったものは過剰摂取していて強い耐性を持っているか、或いは逆にまったく摂取したことがなく、少量でも強く影響を受けてしまうかのどちらかだ。そしてプロトンは前者だった。

この取引で得た分のきのみをいくつ横領して、自分のものにしてやろうか。プロトンがそんなことを考えていると、暗い店の中に一筋の光が射した。思わず目を細めて振り返る。

プロトンは、ランスが入ってきたのだと思った。だからなぜ勝手な行動をするのかと怒鳴ってやるつもりだった。しかし、そこにはプロトンの知らない人物が立っていた。
 ▼ 157 AYr1xkow/g 17/05/10 00:43:55 ID:PN6vFtYE [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「だ……誰だてめえ?」

プロトンは思わず声を上げた。見知らぬ男の目が、ばっちりと自分を捉えていたからだ。スーツの上に高価そうなジャケットを着た男は小さく息を吐くと、もったいぶるような大股でこちらへと近づいてきた。

「はっはっは。まあ名乗るほどの者ではありませんよ。ただ、素性を現しておいた方がきっとあなたを脅せると思うので、言っときましょうか……」

男は胸ポケットから何かを取り出した。そしてプロトンに向けて開く。

「警察です」

瞬間、雷のような音が響き渡った。

「ランス!!!」

プロトンが叫んだからだ。今はポケモンを持っていない。ランスに預けたままだ。こんな丸腰では捕まってしまう。証拠品も目の前にたっぷりとあるのだ。

「はっはっは、それは、店の前にいたハンサムボーイの名前ですね?だとしたら、残念ながらもう彼はあなたの役には立たないでしょうね。なんせそこにはもういないので」

プロトンは音が聞こえるくらい大きな力で歯軋りした。一体どうしろと言うのだ。あの役立たずめ。人のポケモンを借りておきながらバトルに負け、捕まってしまったというのか。
 ▼ 158 AYr1xkow/g 17/05/10 00:45:55 ID:PN6vFtYE [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「さて、あなたにはたくさんの罪状があるんでしょうが……とりあえず、現行犯で逮捕できる理由があるところで会えるなんて、嬉しいですな」

刑事の男はわざとらしいほど朗らかに言った。警察の中でもそれなりに立場のある人物なのだろうということがなんとなく想像がつく。

プロトンは男の話などろくに聞いていなかった。気がつけば、店には誰もいない。ひたすら汚れたタオルでカクテルグラスを拭いていた陰気なバーテンダーさえいなくなっている。まさか、みんなここに警察が来ることを知っていたというのか?

プロトンはガタンと大きな音を立てて立ち上がると、近くに飾られている空のワインボトルを手に持った。頭を狙えば、きっと逃げられる。しかし刑事にはそんなプロトンの考えはお見通しだったようだ。

「あなたね、そうやってまた罪を増やすつもりですか?無駄な抵抗はおやめください、ね。こちらにはポケモンがいますから」

刑事はそう言うと、モンスターボールを取り出し、ポケモンを繰り出した。出てきたのはドガースだ。
 ▼ 159 AYr1xkow/g 17/05/10 00:48:13 ID:PN6vFtYE [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
プロトンは考えた。この場をどうやって切り抜けるのかを。気を落ち着かせようと必死だった。

力を使うしかない。この世を制するのは暴力だ。そう判断したプロトンは、刑事の頭部に狙いを定めていきなり走り出した。

刑事はそんなプロトンの姿を見るなり、うんざりした表情で首を傾げ、ドガースに指示を出す。

「ドガース、どくガス」

刑事に指示されたドガースは、紫色をした酷い悪臭のするガスを噴き出した。たちまち店内に毒ガスが蔓延する。見れば刑事はちゃっかりマスクをして自身を守っていた。プロトンは手に力が入らず、ワインボトルを取り落とした。大きな音が鳴ってボトルが割れる。そして、プロトンはその場に手をついた。

「クソ……クソが……ッ!」

体がガクガクと震えている。この震えは、全身を襲う痛みによるものなのか。それとも、恐怖によるものなのか。
 ▼ 160 ュウコン@ヤタピのみ 17/05/10 01:29:40 ID:LdT7FcQQ NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 161 AYr1xkow/g 17/05/11 00:01:39 ID:UcZTxFKI [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
割れたワインボトルの破片が掌に刺さっている。でも、その痛みはまったく感じない。毒ガスのせいで、もはや体の感覚が麻痺し始めていた。苦しい。苦しい。そして、怖い。

捕まってしまう。ポケモンがいないので抵抗すらできない。どうすればいい?どうすればいいというのだ。

まだここで終わるわけにはいかない。愚かなプロトンは強欲だ。まだ、欲しくてたまらないものがこの世にたくさんある。このまま狭くて暗いブタ箱に閉じこめられて一生を終えるわけにはいかないのだ。

しかし、プロトンは抵抗する術を持っていない。それに今現在、既に不利な状況に陥っている。逃げ場は、ない。

警察に捕まることへの恐怖。それが、今のプロトンを支配している感情だった。

マスクを外した刑事が近づいてきた。プロトンは暴れて抵抗しようと思ったが、体が思うように動かない。やっとのことで顔を上げると、刑事が何かを言おうと口を開こうとしているところだということが分かった。
 ▼ 162 AYr1xkow/g 17/05/11 00:03:42 ID:UcZTxFKI [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「手荒な方法を取ってしまってすみませんね。まあ、少しスッキリしましたけど。おっと、これはこっちの話」

刑事はコホンと咳払いをすると続けた。

「では、本題に入りましょう。正直に言うと私はあなたを捕まえるつもりはありません。私と取引をしませんか?」

「とり……ひき」

プロトンが、回らない舌でどうにか繰り返す。

「ええ」

刑事は胡散臭いほどの笑顔を浮かべた。

「あなたはロケット団の幹部の一人、プロトンさんでしょう。あなたが情報を提供してくれるのなら、見逃しますよ。その代わり、洗いざらい、すべて、何もかも話してください」

プロトンは、もうまともに考えられなかった。今この場を切り抜けるには、そうするしかない。

「どうしますか?とはいえ、あなたに残された選択肢はひとつしかないと思いますがね」

そうだ。選択肢はひとつしかない。プロトンにとって、組織は守るべきものでもなんでもない。ただ、金と権力を得るためだけの手段として入ったのだ。組織への愛も、ボスへの忠誠も、何もない。
 ▼ 163 AYr1xkow/g 17/05/11 00:04:20 ID:UcZTxFKI [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
プロトンがもぞもぞと動いて呻き声を上げると、刑事は更にプロトンに一歩近付き、手を差し出した。

「プロトンさん。あなたは、組織に忠実な組員ですか。それとも……ただの愚かな犯罪者?」

プロトンは濁った目で刑事を見上げた。それから、ぶるぶると震える手をどうにか上げて、刑事の手を力なく握った。

これがプロトンの選択だ。組織を裏切ってでも、生きていたい。この後、一体どうなるのかは分からない。いつか警察がロケット団のアジトまでやってくるかもしれない。それでも、その時はその時だ。今が最大の危機なのだ。とやかく考えている余裕はない。

バレなければいい。知られなければ、また日常に戻ることができる。この恐怖から、早く抜け出したいのだ。そのためには、こうするしかない。

刑事はプロトンの手を握ると、強く引っ張り上げて体を起こした。毒にやられて涙の滲む目に映る刑事の顔は、なぜか少し悲しげに見えた。
 ▼ 164 AYr1xkow/g 17/05/11 00:06:31 ID:UcZTxFKI [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
プロトンが取引先の男と使用していたテーブルをもう一度使い、二人は向かい合う。刑事に貰った毒を治す薬を飲んでから始まり、尋問は結局三時間以上も続いた。刑事はボイスレコーダーを用意しており、刑事がプロトンに質問をし、プロトンがそれに答えるという形で録音されている。

構成員の数や、幹部について、アジトの場所など、様々なことを聞かれた。ボスに関わる情報も求められた。プロトンはさすがに一瞬逡巡したが、結局すべて話した。もう話していないことは何もないというくらい話した。

「……では、質問は終わりです。お疲れ様でした」

刑事はそう言うと、ボイスレコーダーの電源を切った。プロトンはホッとした。もう喉が渇いてカラカラだ。

「それじゃあ、もう帰っていいのか?」

プロトンが力なく言う。刑事は黙っていた。話が違うじゃねえかと声を上げようとした瞬間、若く、よく通る声が店内に響いた。

「帰る?一体どこに帰るつもりですか?」
 ▼ 165 AYr1xkow/g 17/05/12 00:06:25 ID:Z0QLoOOc [1/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
声の主は、もちろんすぐに分かった。ランスだ。

もう日は落ちており、外は暗い。扉を開けても光が見えないために、ランスが店に入ってきていたことに気付かなかったようだ。今日は制服ではなく私服で出てきていたランスは、ぱっと見は整った顔立ちをしたごく普通の少年だ。しかし、その緑の瞳は恐ろしく冷たい。

「ガキ!この……!一体どこにいやがった!?」

プロトンが立ち上がり、怒鳴る。弾みで椅子が倒れた。しかし、ランスは至って冷静だ。

「ずっとそこにいましたよ。全部聞いていました。……ご協力ありがとうございます、もういいですよ」

ランスは話しながら歩き、刑事の隣にやってきた。刑事は一瞬プロトンの方を見た。プロトンが瞬きをすると、刑事はもういなくなっていた。代わりにそこにいたのは、ラムダだ。

「!?」

プロトンは絶句した。まさか。そんなまさか。この俺が、こんなガキに担がれたのか!?
 ▼ 166 AYr1xkow/g 17/05/12 00:07:58 ID:Z0QLoOOc [2/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
「他人に興味がないあなたなら、ラムダさんの下手な物真似にもきっと気付かないかもしれないと思ったのですが、本当に気付かないとは。……そもそも、ラムダさんは変装が得意だということは知っていましたか?」

ランスの声には明らかに嘲弄の色が含まれていた。プロトンが歯軋りをする。ラムダがおい、と声を上げたが、ランスは無視した。

「まあ、そんなことはどうでもいいんですか……」

「どうでもいいってお前な、忘れてんのか知らねえけど、俺、先輩だからな?」

ランスとラムダの仲は良さそうだ。そんなものは、金や権力を得るためには不必要なものだと信じて疑わなかった。それがどうだ、今自分は人との関わりを持たなかったことが原因で無様に騙されてしまっている。

「……プロトンさん。一体どこに帰るつもりなんですか?」

ランスがもう一度、力強く、ゆっくりと問う。
 ▼ 167 AYr1xkow/g 17/05/12 00:09:48 ID:Z0QLoOOc [3/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスはラムダの手の中にあったボイスレコーダーを取り上げると、プロトンに見えるように持った。

「何もかも話して、裏切っておきながら、帰る?」

ランスの声は、突き刺さるように痛い。

「あなたにとってロケット団は帰る場所なんですか?違うでしょう」

プロトンは何も言い返せず、ずっと黙っていた。ラムダも黙っている。ランスは続けた。

「それかあなたがとんでもない大馬鹿者で、これでもまだロケット団を自分の居場所だと思っているのなら、言っておきましょう。ロケット団はあなたの居場所ではない」

ランスは冷たく言い放った。

「それに、こちらからも願い下げです。あなたには、帰ってきてもらいたくありません。このボイスレコーダーはサカキ様にお渡ししておきますね」

「やめろ!!」

ランスがそう言ってボイスレコーダーをしまう。プロトンは慌てて大きな声を上げた。
 ▼ 168 AYr1xkow/g 17/05/12 00:16:32 ID:Z0QLoOOc [4/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスはプロトンの声などまるで聞こえなかったとでもいうように完全に無視した。

「それと、もうひとつ。きのみを横領するつもりでしたね?前も報告書に怪しいところがあったらしいと聞いていたので、調べさせてもらいました。見たところ取引額と取引したきのみの量がどうも見合いません。どうやら黒ですね。この件もサカキ様にお伝えしておきます」

ランスは淡々と語る。

「この後どうなるのかは、私にも分かりません。サカキ様の決めることですから」

プロトンは愕然とランスを見つめていた。もう、本当に終わりだ。あのボイスレコーダーの中には、すべてを語ったプロトンの声がしっかりと録音されている。再生すればすぐに分かる。プロトンがロケット団を売ったということが。

騙されていたことなど関係ないのだ。これを聞かれれば、本当にそんな目に遭った時に同じことをするだろうと思われるだろう。それは何をしても償えない最も許されない行為なのだ。

きっと最悪の罰が与えられる。死よりも恐ろしい罰。身体の一部を切り取られるよりも残酷な罰だ。地下で暮らしている者を太陽の下に放り出す。その後、一体どうやって生きていけばいいというのだ?まさしく地獄だ。たとえ運良く小さな組織に拾われたとしても、結局、いつか本物の警察に捕まるのがオチだろう。
 ▼ 169 AYr1xkow/g 17/05/12 00:18:44 ID:Z0QLoOOc [5/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスはしばらく黙ってプロトンを見つめていたが、隣で俯いているラムダに目をやると呆れたように首を振った。

「プロトンさんを幹部に推薦してずっと後悔していると言っていたのはあなた自身ですよ。アポロさんに申し訳なく思っているなら、協力するべきでしょう。だからお誘いしたんです」

「……ああ」

ラムダはそう言うと、顔を上げた。

「だよなぁ。分かってる。後悔なんかしてねえぜ。いや、始めはここまでやる必要あんのかとちょっと思ったんだけどよ……」

ラムダは心からの憎しみをこめた表情でプロトンを睨みつけた。

「一瞬でも迷った自分が馬鹿みたいだ。こいつはただの愚かな犯罪者だ」

誇りも美学も何もない、正真正銘の愚か者だ。

ラムダは選択肢はひとつしかないと思った。しかし、プロトンはもうひとつの選択をした。もう、同情はこれっぽっちも残っていなかった。
 ▼ 170 AYr1xkow/g 17/05/12 00:23:24 ID:Z0QLoOOc [6/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……じゃ、後のことは任せたぜ、ハンサムボーイ」

ラムダはまったく違う調子で言った。まるで今日の夕食について話しているような声色だ。ランスが顔をしかめる。

「それ、やめてくれませんか?」

「お、なんだ、恥ずかしいのか?よし、もっと言ってやろう。先輩を敬わない罰だ」

「やめてください」

ランスは嫌そうにそう言うが、それてもどこか楽しげだ。

ラムダの方を見ていたランスはくるりとプロトンに顔を向けた。その表情はつい先程までとは打って変わっており、恐ろしかった。どんな感情がこめられているというのか。いや、もしかしたら何の感情もないのかもしれない。

「残念でしたね。プロトンさん」

ランスはそう言った。ちっとも残念そうではない声で。

「ランス、怒ってんのか?……いや、そりゃ怒ってるよな」

ラムダが言う。しかし、ランスはあっさりと返した。

「怒ってませんよ」

ランスの心を支配していた怒りはもう、復讐を完遂させるためのエネルギーへと変換されているのだから。
 ▼ 171 ースト@かくとうジュエル 17/05/12 21:17:44 ID:JuQobSDE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 172 ラエナ@かいのカセキ 17/05/12 23:50:33 ID:2XKKD09A NGネーム登録 NGID登録 報告
文章力が足りてるよ…。
 ▼ 173 AYr1xkow/g 17/05/13 00:19:49 ID:DaAuHP22 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日。プロトンの姿は、昨日あのバーに置き去りにしてから一度も見ていないが、サカキによって今日付けでロケット団を除籍されたと聞き、ランスは復讐が上手くいったということを知った。

ランスは部屋に一人佇んでいた。ランスはあの時にプロトンから預かったふたつのモンスターボールをずっと持っていた。少し考えてから、モンスターボールの中のポケモンを出す。現れたのはズバットとドガースだった。二匹は状況が分からず混乱しているようで、困ったような目でランスを見上げた。

「あなたたちの主人は、もういません」

ランスは二匹に冷たく言い放つ。それから小さく息を吸い、
「今日からあなたたちの主人は、私に変わります。私はランスといいます。よろしくお願いします」

二匹は未だ戸惑っているようだった。

ランスは、かつてサカキに貰った「利用できるものはすべて利用する。それの何が悪いと言うのだ」という言葉を思い出していた。
 ▼ 174 ブカス@スキルコール 17/05/13 01:24:35 ID:MPrtZP8E NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
更新されてるの見るとめっちゃ嬉しい…
支援
 ▼ 175 カグース@ポロックキット 17/05/13 01:24:57 ID:Yu.q6zcg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 176 AYr1xkow/g 17/05/14 13:16:42 ID:iTU9yzYM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
部屋の扉をノックする音が響く。ランスは二匹をモンスターボールに戻すと「どうぞ」と声をかけた。扉を開けたのは、アポロだ。

「ランス、サカキ様がお呼びです」

「分かりました」

ランスは素早く返すと、モンスターボールを腰のベルトにつけ、迅速に部屋を出た。

サカキの部屋まで来て、扉をノックする。サカキの「入りなさい」という声が聞こえ、ランスは扉を開けた。

「失礼いたします」

ランスは礼をして言う。座っていたサカキはランスに近くに来るように手招きした。

ランスが机越しにサカキの目の前で立ち止まる。サカキは口を開いた。
 ▼ 177 AYr1xkow/g 17/05/14 13:18:02 ID:iTU9yzYM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ランス。昨日も言ったが、君があんな行動を起こすだなんて、予想外だった。本来ならとても勝手な行動だと言わざるを得ない。だが……」

そう言って、サカキは意味ありげにランスの顔を見てから続けた。

「正直に言おう。君は厄介払いをしてくれた。君に事情があったことも承知の上で言うが、あの男を排除することを目的に君のとった行動は、そうだな、限りなく正解に近い」

ランスは黙って聞いている。

「あの男は我らロケット団の和を乱す存在だった。ランス、君には感謝しているということだ。嫌な仕事をさせてしまってすまなかったな」

「いいえ」

ランスはそれだけ言った。

「さて、ではここからが本題だ」

サカキははっきりとした口調で言った。ランスの肩が緊張で思わず固くなる。それからサカキの発した言葉は、衝撃的なものだった。
 ▼ 178 AYr1xkow/g 17/05/15 00:48:26 ID:D4rbfiw. [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ランス。君をロケット団の幹部に任命する」

「え……え?私をですか?」

動揺して思わず聞き返してしまった。サカキは力強く頷く。

「君の今までの成績や実力、仕事に対する姿勢など、すべてを考慮した上で決定したことだ。君にはかつてのプロトンのように、現場での仕事がメインの班を率いてもらいたい。一番得意だろう?」

ランスはまだ実感が湧かず、口を開けて呆然としていた。そんなランスを見て、サカキは笑い声を上げる。やがてランスはハッとして、慌てて返した。

「得意……得意です。事務作業より、現場に出る方が」

ランスは強く頷いた。サカキは微笑んでいる。ランスは小さな声で呟いた。

「……私が……幹部」

聞こえていたらしい。サカキはランスをしっかりと見据えて言う。

「ああそうだ。ランス、頼りにしているぞ」

ランスは瞬きした。目がチカチカする。

「……はい。ありがとうございます」
 ▼ 179 AYr1xkow/g 17/05/15 00:50:36 ID:D4rbfiw. [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「それにしても……」

サカキはそう言って、ちらりとランスの腰のベルトにつけられたモンスターボールを見る。

「一時期は自分を可愛がっていた上司を完膚なきまでに叩きのめした挙句、その上司のポケモンを自分のものにしてしまうとはな」

ランスが微妙な表情をしているのを見て、サカキは軽く笑ってから付け足した。

「いや、責めているのではない。褒めているのだよ。もしかしたら、その二匹が自分のポケモンを傷付けたのかもしれないというのに……いや、これは余計だったな。すまない」

とはいえ、サカキの声色は申し訳なさそうではない。試されているのだ。ランスは瞬時に悟り、平静を保った。とはいっても、もうランスの中に怒りはないのだが。サカキは期待通りのランスの反応が嬉しいようだった。

サカキはにやりとふてぶてしい笑みを浮かべると、真っ直ぐにランスを見つめた。
 ▼ 180 AYr1xkow/g 17/05/15 00:56:07 ID:D4rbfiw. [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「君はロケット団で最も冷酷な男だ」
 ▼ 181 ブライカ@ひかりのこな 17/05/15 22:39:52 ID:DA6Vbf2E NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 182 AYr1xkow/g 17/05/16 00:30:48 ID:7fqR68Ng [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
サカキの部屋から出ると、そこにはアポロがいた。アポロは既に何もかもを知っているようだ。

「幹部就任おめでとうございます。部屋に案内します」

「ありがとうございます」

相変わらずアポロはすべてにおいて完璧だ。ランスはそんな彼の後ろをついていく。案内されたのは、プロトンが使っていたものの隣の部屋だった。デスクとベッド以外は何も置かれていない、今まで四人で使っていた部屋よりもずっと広い部屋。今日、この瞬間からランスはここを自由に使っていいのだ。

「お伝えしておきますね。幹部は四人に増えました。それが一番バランスがいいと判断しました。四方からサカキ様を支えるのです」

「はい」

アポロがスラスラと言う。ランスは既にいっぱいいっぱいだったが、返事だけはちゃんとしておいた。

「それでは、落ち着きましたら会議室に来てください。幹部に集まるように言っていますので」
 ▼ 183 AYr1xkow/g 17/05/16 00:33:41 ID:7fqR68Ng [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
部屋の中で深呼吸をして、気を落ち着かせる。それからランスはすぐに会議室へと向かった。もう、何も怖いものはない。

会議室の扉をノックする。アポロの「どうぞ」という声が聞こえてきた。ランスは素早く息を深く吸うと、扉を開けた。

「失礼します」

会議室に入り、中にいる人物を確認する。アポロ、アテナ、そしてそれからラムダ。

「お、来たなハンサムボーイ」

ラムダがにやりと笑う。ランスは思わず安堵の息を漏らした。

「だから、それもうやめてくださいって」

ラムダは笑っているだけで返事をしない。でも、それだけで十分だった。

「うっふっふ。待ってたわよ」

アテナも笑顔だ。

「さあ、これで全員揃いましたね」

アポロも、微笑んでいた。
 ▼ 184 トデマン@メガストーン 17/05/16 08:44:08 ID:Tlb9eZIc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
久しぶりに見たら更新されてた
支援
 ▼ 185 AYr1xkow/g 17/05/17 23:51:14 ID:c2WztRAo [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「よし、ランス。もう俺は先輩じゃねえしな。俺のことはラムダ、って呼んでいいぞ」

ラムダが豪快に笑って言う。すると、アテナも負けじと割り入ってきた。

「あたくしのこともアテナでいいわよ。そんなに歳だって変わらないと思うし……」

どう見ても変わるのだが、ランスは黙っておいた。指摘すればどんな恐ろしい目に遭うのか、想像もしたくない。ランスはロケット団に入った時からまったく容姿の変わっていないアテナを少し不気味にさえ思っている。

「二人とも、なぜそうなるんですか」

アポロが怒ったように言う。アテナとラムダは顔を見合わせた。
 ▼ 186 AYr1xkow/g 17/05/17 23:53:46 ID:c2WztRAo [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「だってよぉ、俺とランス、これでも結構ウマが合うんだぜ。これからは対等にやろうぜっていう、俺なりの気遣いだよ、気遣い」

ラムダは楽しそうだ。アテナも含みのある笑いを見せている。

「あたくしもよ。前に言ったのよ、ランスとはうまくやれそうって。あたくしの勘はよく当たるの。さ、これからも仲良くやりましょ」

ランスは別に対等でなくていいと思った。自分がこの二人と同じ位置に立っているだなんて一度も思ったことはない。今だってそうだ。しかし、アテナとラムダは期待に満ちた瞳でランスを見つめている。

「では、ラムダ……と、アテナ……、……。よろしくお願いします」

少しつっかかりながらもランスがどうにかそう呼ぶと、二人はニヤニヤと楽しそうに笑っていた。
 ▼ 187 AYr1xkow/g 17/05/17 23:55:32 ID:c2WztRAo [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「私はそんなことは許しませんからね」

アポロが毅然として言う。ランスは別に構わないのでなんとも思わなかったが、アテナとラムダは違かったようだ。

「あーら、なぜかしら。あたくしたちのことは呼び捨てのくせに」

「あいつ、自分が一番サカキ様に信頼されてるからって調子に乗ってんだよ」

「嫌だわー。自分だってまだまだ若いひよっこじゃない。ねえ?」

「自分だけ年下にはさん付けで呼ばれようとしてんだぜ。やな上司だよなー。まだ23だろ?」

「あらやだ、赤ちゃんと大して変わらないじゃない!」

「ほら、ランスお前もなんか言ってやれ。俺の方がかっこいいですとか」

「嫌ですよ」
 ▼ 188 AYr1xkow/g 17/05/17 23:57:55 ID:c2WztRAo [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
アテナとラムダのわざとらしいやりとりを見ていたアポロは、大きく溜息をついた。それから観念したように言う。

「分かりましたよ。分かりました。アポロでいいです、もうなんでもいいです」

「よーし、よく言った!それでこそ男だ!」

ラムダはそう言って親指を突き立てた。

「こんなところで馴れ合いなんかして一体どうするつもりです?」

アポロが呆れたように言うと、ラムダは手をひらひらと振りながら、

「馴れ合いなんかじゃねえよ。大切なことだろ。俺たち四人が対等になってお互い信頼し合うことはよ」

アポロは何も言わなかった。納得したのかもしれない。

「じゃ、仕事に入りましょ。班員の振り分け、やり直さなくちゃいけないんでしょう?」

「ええ、そうです。班が増えましたからね」

アポロはそう言って、きびきびと動き出した。
 ▼ 189 AYr1xkow/g 17/05/18 00:48:03 ID:yVy3bkhc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
一区切りがつきましたところでご連絡です。これからは更新頻度が低くなると思います。すみません。
必ず完結させるつもりですので、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
 ▼ 190 ョロゾ@ウタンのみ 17/05/21 08:42:37 ID:mIY.UH2U NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 191 シズマイ@ギンガだんのカギ 17/05/27 23:44:14 ID:Lq4RSjJk NGネーム登録 NGID登録 報告
待ってます
 ▼ 192 レフワン@ヒメリのみ 17/05/30 23:26:48 ID:/GcTGwXw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
待ってます
 ▼ 193 AYr1xkow/g 17/06/04 00:06:11 ID:ihiaJYNo [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスがロケット団の幹部に任命されてから、早いものでもう三年が経過していた。ランスの周りの環境は少しずつ、確実に変わっていた。例えば、以前寮の同室で生活していた二人の先輩と一人の後輩の状況だ。三人とも、かつてランスと同じプロトンの班に所属していたが、今はラムダの班の配属になっている。

ロケット団はこの三年間でかなり力をつけていた。今やカントー地方の裏世界を完全に牛耳っている。サカキはロケット団の更なる発展を求めて、活動範囲を広げようとしていた。現在、アポロとアテナがカントー地方の南にあるナナシマに長期の出張に行っている。そして、ラムダは主にロケットゲームコーナーの運営、管理を担当する班のリーダーとなっていた。

ランス自身も変わった。十九歳になったランスは、ロケット団に入った日にアテナに言われた「将来有望」という言葉の意味をやっと理解した。正直、容姿が整っていることはばっちりと自覚している。

しかし、そんなことはランスにとってさほど重要ではなかった。鼻にかけて、自慢げに歩くようなことはない。だって、今のランスの頭の中を占めているのは、そんな自分を満たしてくれるような感情ではないのだから。
 ▼ 194 AYr1xkow/g 17/06/04 00:07:55 ID:ihiaJYNo [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今日はロケット団のアジトに、一人の客人が来ていた。瓶の底のように分厚い丸眼鏡をかけた、白衣姿の野暮ったい男だ。男は落ち着きがなく、応接間のソファに腰かけて茶を啜りながら周りをキョロキョロと見渡している。

「どうかしましたか?」

声が聞こえ、男はびくりと飛び上がった。ランスだ。

「お……驚かせるな!」

男はオドオドしながらも強く言った。ランスは「すみません」とまったく悪びれる様子もなく謝罪すると、

「お待たせしました。一体なんのご用でしょう」

「ふん……いいから、早く」

男はさっさと座れ、と言うように顎をしゃくって促す。ランスは男を眉をぴくりとも動かさずに黙って数秒見つめてから座った。

「……明日の計画に変わりはありません。準備も滞りなく終わりました。すべて順調です。心配はいらないと思いますが」

ランスがすらすらと言う。男は強く首を振った。
 ▼ 195 AYr1xkow/g 17/06/04 00:08:54 ID:ihiaJYNo [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「そういう話をしにきたんじゃない。その……確かめに来たんだ。見つけた化石は、僕が買い取る場合……」

男がそう言った瞬間、ランスはまたか、と呆れたように目をぐるりと動かした。そして溜息を抑えつつ答える。

「何度も言っていますが、いくつかのルートでの売値を見てから決めます。あなたがそれよりも高価な額を出してくださるのなら、喜んでお売りしますよ」

「納得がいかない!」

男はそう言って、机をばんと叩いて立ち上がった。

「僕を雇ったのは君たちだろう!僕の要望が通らないのはおかしいじゃないか!」

激昂する男に反し、ランスは冷静だ。

「確かにそうですね。あなたの希望で計画を実行する日付は三度延期しましたし、連れていく団員の数は五人未満という条件も飲みました。報酬の金額もそれなりの金額をお求めでしたね。こちらもそれで決定したはず」
 ▼ 196 AYr1xkow/g 17/06/04 00:13:06 ID:ihiaJYNo [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスはそこまで言うと、男をじっと見つめてわざとらしく言った。

「……ええと、それで一体なんのご用でしたっけ?」

男はぐっと押し黙る。ランスは余裕の面持ちで続けた。

「まあ、いいでしょう。あなたが喧嘩を売るつもりなら、喜んで買いますよ。ロケット団に歯向かえば一体どうなるのかを身を以て知るといいでしょう。」

ランスが言い放つと、男は悔しそうに唇を震わせ、

「わ、分かったよ!」

そう言って、ランスを恨めしげにギロリと睨みつけた。とはいっても、分厚いレンズの向こうの目はこちら側から見えないのだが。

「この……クソッ……年下のくせに生意気な奴め……」

男はブツブツと呟くと、やがて吐き捨てるように「もういい!」と言って鼻息荒くアジトを出ていってしまった。

ランスはその後ろ姿が見えなくなるまで待ってから、大きな溜息をついた。
 ▼ 197 グカルゴ@ジュペッタナイト 17/06/04 05:58:29 ID:LRzvDnsk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
北支援
 ▼ 198 AYr1xkow/g 17/06/05 00:36:53 ID:i1zMUw9s [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスがくるりと方向転換すると、タイミングを見計らったかのように見知った顔がひょっこりと現れた。ラムダだ。

「よおランス。調子はどうだ?」

「ごくごく普通です」

ランスはそう言いながら、男の残した茶へと手を伸ばす。すると通りがかったひとつ年下の女性構成員が「私がやります!」と言って駆けつけてきたので、ランスは彼女に片付けを任せることにした。

「そうかぁー?」

ラムダは苦笑いして続けた。

「最近気が立ってるだろ。あいつのせいか?明日までの辛抱だ、頑張れよ」

ラムダがアジトの入口の方に視線を送りながら言った。言うまでもなく、先程までそこにいた男を指している。ランスはかぶりを振った。

「違いますよ」
 ▼ 199 AYr1xkow/g 17/06/05 00:38:00 ID:i1zMUw9s [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そう、違う。今ランスの頭の中を占めているのは、あの男への苛立ちや不信感などではない。たとえ奴が何かしでかそうと、後でどうとでもできる。そんなことは、どうだっていいのだ。

ランスは不満だった。幹部になってから、現場に赴くことが少なくなっている。最近の仕事は指示ばかりだ。

「何?なんだ?……あ」

物憂げな表情のランスをしばらく見つめていたラムダは何か思いついたような顔をして、下卑た笑みを浮かべる。

「女か?」

ランスは無視した。
 ▼ 200 AYr1xkow/g 17/06/05 00:38:35 ID:i1zMUw9s [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
無視されたラムダが喚いている。ランスは黙って物思いに耽っていた。

本当に、不満ばかりだ。この最近は満足できる仕事をまったくしていない。明日オツキミ山で実行する計画も、本来は自分が現場に出るつもりで考案したのだ。しかし、結局その希望は叶えられなかった。

考えれば分かる。幹部となった自分に求められているものが一体なんなのか。分かるのだ。でも、果たしてそれは本当に必要なのだろうかと疑問にも思う。

誰が悪いわけでもない。ラムダはもちろん、アポロやアテナのせいではない。サカキもまったく影響を与えていないと言えば嘘になるが、直接何か理由があるわけではない。ランス自身だってそうだ。

何が理由なのか?強いて言えば、この今現在のロケット団内の空気だ。この三年間で明らかに何かが変わった。そしてその変化は、ランスに大きな影響を及ぼしていた。
 ▼ 201 AYr1xkow/g 17/06/09 22:11:23 ID:ZQjjrLJ2 [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日、ランスの班に所属する団員四人と、ランスの雇った研究家の男はオツキミ山に向かった。

オツキミ山では、稀に珍しい化石が見つかるという。その情報を得たランスは、化石を発掘し、高額で売って資金を得ようと今回の計画を立てた。本来はランス自らがオツキミ山に赴くつもりだったのだが、その願いは叶わなかった。現場で仕事をすることがメインの班ではあるが、リーダーは自由には動き回れないらしい。皮肉なものである。

計画の実行に当たって、ランスは化石に詳しい研究家を雇うことにした。ロケット団員だけでオツキミ山に行ったとしても、化石を見つけることはできないだろう。しかし、ロケット団に協力してくれるような研究家はすぐには見つからなかった。ようやく一人が名乗りを上げてくれたが、あの男は無理矢理な要求を何度も出し、執拗に化石の買取を求めてきた。確実に何かを企んでいる。

結局ランスは男の動向が気になり、少し経ってから自分もオツキミ山へと向かうことにした。
 ▼ 202 AYr1xkow/g 17/06/09 22:11:54 ID:ZQjjrLJ2 [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ハナダシティ方面からオツキミ山に入り、急いで男を探す。途中、少年とすれ違った。こんな山奥に人の出入りがあるなんてと不思議に思ったが、そんなことは気にしていられない。

男は比較的すぐに見つかった。しかし、男はランスに気づくや否や脱兎の如く走り去っていく。ランスは思いきり顔をしかめると、腰のモンスターボールに手をかけた。

「ドガース!えんまく!」

繰り出されたドガースが、口から黒い煙を吐き出す。煙幕はもくもくと上がり、すぐに男の元までたどりついた。男はその場に立ち止まってゴホゴホと咳きこむ。ランスはその瞬間を見逃さなかった。
 ▼ 203 AYr1xkow/g 17/06/09 22:12:52 ID:ZQjjrLJ2 [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「どういうつもりですか」

「ヒィッ!」

素早く背後まで追いつき、できるだけ口を開かないようにしていつも通りの口調で尋ねる。男の方がびくりと跳ね上がった。

「なっ、ななななんだよ!お前は来ないって行ってただろう!」

男は振り向いて慌ててそう言ったが、煙幕を一気に吸いこんでしまったのか、地に左手をつけてへたばり、激しく咳をした。

ランスは黙ったまま男の左手を踏みつける。男は叫び声を上げた。ランスは注意深く男を観察した。右手が強く握られている。ランスはしゃがみこんで男の右手首を抑えると、無理矢理拳をこじ開けた。男の右手には、不思議な模様をした石のようなものがあった。男がやめろ!と叫ぶ。

「ほう。これが化石というやつですね。初めて見ました。なんという化石ですか?」

「ぐっ……、離せ!それ、は……っ、僕のだ……!」

男がゼエゼエ喘ぎながら抵抗した。ランスは男の抵抗を物ともせずに化石を取り上げ、男の言葉を無視して繰り返す。
 ▼ 204 AYr1xkow/g 17/06/09 22:13:41 ID:ZQjjrLJ2 [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「これはなんという化石ですか?質問に答えてください。それとも、もっと分かりやすいように聞いた方がいいですか?」

ランスの声は、暗いオツキミ山の中に冷たく響き渡った。男がガクガクと震えながらランスを見上げる。

「なぜ化石がひとつしかないのです?」

そう言うランスの顔は、いつもと変わらない。しかし、男は苦しさや恐怖で愕然としていた。

「オツキミ山で見つかる化石は二種類。あなたにはふたつ見つけてもらうことを条件に高額な報酬を支払いました。あなたが化石を持ち逃げすることなどは予測済みです、そんなことはどうでもいい」

ランスはぐっと自分の顔を男の顔に近づけた。その緑色の瞳の中に光は見えない。

「もうひとつはどこにあるんですか?」
 ▼ 205 タチマル@コインケース 17/06/09 23:45:44 ID:y5raeT2I NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスイケメンすぎ
支援ネ
 ▼ 206 AYr1xkow/g 17/06/11 13:07:21 ID:JVvKn.IM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
この男に二種類の化石を発掘させ、それを高額ルートで売ることで利益を得ようとしたのだ。それが一種類しか手に入らなかったとなると、割に合わない。

「……もだ」

男がわなわなと唇を震わせて囁くように言う。ランスは苛立ちを隠せない様子で「はい?」と聞き返した。

「……子供だ。子供が止めに来て……バトルしたんだ。そして僕は、まけ、負けて……ひとつを譲った」

ランスは大きな溜息をついた。

「譲った、って……あなたが勝手に判断していい問題ではないんですよ。……やはり、私も来ていれば……」

そう言ってランスは顔に手を当てた。それにしても、何か引っかかるものがある。

「……子供?」
 ▼ 207 AYr1xkow/g 17/06/11 13:09:37 ID:JVvKn.IM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しばらく考えこんでいたランスは思い出した。オツキミ山に入ってすぐ、少年とすれ違ったことを。

少年の顔はほとんど覚えていないが、服装は覚えている。次に出会ったとしたらすぐに分かるだろう。まさか、その少年がロケット団の邪魔をしたのか?

「……」

胸騒ぎがする。

落ち着かない心を少しでも鎮めようと、ランスは足元で苦しそうに呻く男に目をやった。まずはこの男の処置を決めなければ。

「……アジトに戻りましょうか」

ランスがそう言うと、男はまたヒッと声を上げた。

「ロケット団に歯向かうと一体どうなるのか、教えてさしあげますよ」

そうだ、ロケット団の邪魔をする者は許さない。たとえ子供だとしても。
 ▼ 208 ライオン@きぼんぐり 17/06/11 14:52:12 ID:ikLNY.D6 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 209 プラス@エドマのみ 17/06/14 06:58:26 ID:7zhxrzAM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 210 AYr1xkow/g 17/06/14 22:55:14 ID:8YcB4cps [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アジトに帰ってから、男が手に入れていたものは甲羅の化石と呼ばれるものだと判明した。

ランスは男に化石の鑑定をさせた後に部下に男への処置を命じたが、その内容については触れないでおこう。知らぬが仏というものだ。

数日後、ランスは条件のいい相手を見つけたため、取引のために目立たない私服姿でアジトを出た。すると、ロケットゲームコーナー前に見慣れた顔が見える。

「ラムダ」

ランスが呼びかけると、ラムダはのっそりと振り向いた。煙草を吸っている。

「お、出かけんのか?気をつけてな」

ラムダはそう言いながらひらひらと手を振った。
 ▼ 211 AYr1xkow/g 17/06/14 22:55:59 ID:8YcB4cps [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あなたも確か予定があるはずでは?」

ランスが怪訝な顔をして言うと、ラムダは煙を吐き出しながら、

「仕事前の一服だよ」

「そうですか」

ランスは気のない返事をする。ラムダは不満げな顔をしていたが、やがて小さく溜息をついて空を見上げた。

「注意してくれる奴も、いなくなると寂しいよな」

ラムダの呟きは、ランスの耳にもしっかり届いた。

「まあ、そうですね」

「元気でやってっかなー、あいつら。ナナシマって俺よく知らないのよね」

「私もです」

「いつ帰ってくんだよ?」

「まだ、としか言えませんね」
 ▼ 212 ネッコ@するどいキバ 17/06/14 22:57:01 ID:b0tYtJEU NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 213 AYr1xkow/g 17/06/14 22:57:46 ID:8YcB4cps [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスの淡白な返事に、ラムダは乾いた笑い声を漏らす。

「なあランス……お前も分かるよな、最近の俺たちの空気」

急にラムダの声色が変わった。ランスは一瞬迷ってから、頷いた。

「分かりますよ。私も影響されています」

「だよなぁ……?雰囲気悪いよなぁー?」

ラムダは少し嬉しそうだった。ランスが同意してくれたことで、安心したのかもしれない。ランスは黙ってラムダの話を聞いていた。

「俺としちゃさ、そりゃ組織の成功は嬉しいけどよ。それよりもこう……中身そのものを大切にしたいんだよな。今の俺たちは、なんかこう……」

ラムダはしっくりくる言葉が見つからず、唸っている。

「そのー……、急ぎ過ぎてるっつーか」

「急ぎ過ぎてる」

ランスは繰り返した。ラムダがその無機質さに思わず笑いをこぼす。
 ▼ 214 AYr1xkow/g 17/06/14 22:58:51 ID:8YcB4cps [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ッハ、ハハ、あー……。いや、前に進むためには必要なのかもしれねえけど……」

「なんとなく分かりますよ、あなたの言いたいことは」

ロケット団内の空気が以前とは違うということは、ランスも重々承知している。

ロケット団は徐々に力をつけ、拡大化してきた。今や一般市民を巻きこんだ凶悪な事件も何件か起こしている。ロケット団の目的は、前から変わらない。でも、手段が変わった。それは、誰が悪いだとかそういう話ではないのだ。

「俺はさぁ、好きなわけよ。悪いことやってるくせに、仲間思いでちょっと馬鹿な奴が多いロケット団のことがさ」

「……」

ランスは何も言えずにいた。

「……少しでも落ち着かないもんかね。俺はアポロとアテナに早く会いてえよ」

ラムダがぼそりと言った。それは、本心からの言葉だった。
 ▼ 215 ガライボルト@きんのたま 17/06/20 06:30:14 ID:8h/kzXi6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 216 AYr1xkow/g 17/06/26 17:45:42 ID:LfxKBKhM [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
化石の売買は、呆気ないほどすぐに終わった。

取引の最中、ランスは心ここに在らずといった様子だった。

どうにも胸騒ぎがするのだ。もうひとつの化石を持っていったという少年。うろ覚えの服装や身長から考えても、せいぜい十一歳くらいの幼い子供だ。

ランスには、現在進めている仕事がもうひとつある。化石の発掘は、思うようにいかなかった。しかし、もう一件は今のところ順調に進んでいる。そちらの仕事の方が優先度も高い。また邪魔をされては幹部の面目丸潰れというものだ。慎重に動かなければ。

今一度気を引き締めたランスがアジトに帰ると、アジトの中は騒然としていた。ランスは怪訝な表情をして首を傾げると、近くの構成員に声をかけた。
 ▼ 217 AYr1xkow/g 17/06/26 17:46:16 ID:LfxKBKhM [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「落ち着いてください。一体何があったんですか?」

ランスに話しかけられた構成員は、一瞬驚いたように肩をびくりと震わせると、ランスの顔を見てホッとしたような顔をした。

「ら、ランスさん!おかえりなさい!じ、実はですね……侵入者が現れまして……」

「!?」

ランスが息を呑む。一体誰が。ランスもラムダも外出していたこのタイミングで、誰がなんのために忍びこんできたというのか。

「もう逃げられてしまいました。それでですね……、その、サカキ様と戦って、サカキ様が、敗北されて……」

「え……」

部下の言葉に、ランスも思わず言葉を失った。まさか、そんなまさか、サカキ様が負けただなんて。

「そして、シルフスコープを奪われてしまいました……ッ!」
 ▼ 218 AYr1xkow/g 17/06/26 17:47:07 ID:LfxKBKhM [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスの脳内に、ビリビリと電流が流れた。そんな気がした。

「……その侵入者、まだこど」

「子供ですね?十一歳くらいの」

部下の言葉を遮って、ランスが早口に言う。部下は面食らったような表情をしてから、頷いた。

「ええ、そうです」

シルフスコープとは、シルフカンパニーで製造されている、人間の目では通常見ることのできないものを映し出すことのできる機械だ。その機械を持っていったということは、きっと、いや確実に、あいつはもうひとつの仕事のことも知っている!

「……クソッ」

ランスは思わず舌打ちをして悪態をつきながら、再びアジトを出ていった。

サカキ様が負けるなんて。ランスの心はざわざわと揺れていた。嫌な予感は当たるものだ。あの時すれ違った少年が、またもランスを邪魔しようとしている。早く、早く追いついて食い止めなければ。
 ▼ 219 AYr1xkow/g 17/07/02 18:30:40 ID:l4mJDVfc [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスが目的地であるシオンタウンのポケモンタワーに到着した時、既に事は終わっていた。

簡単に言えば、そう、負けたのだ。現場を任せていた部下たちは子供に敗北した。もうひとつの仕事であるカラカラとガラガラの骨の売買もこれで頓挫だ。

任務に失敗した部下たちは罪悪感に苛まれながら、申し訳なさそうな表情でランスを見つめている。その顔には、僅かに恐れの色も見えるような気がする。

「……アジトに帰りましょう。話はそれからです」

ランスは嘆息がちに言った。部下たちは小さな声で返事をする。

件の子供が何を考えて行動しているのかは分からない。だが、きっと正義感の強い、馬鹿がつくほど真っ直ぐで純粋な子供なのだろう。それでいてバトルも強い。ポケモンを利用して悪事を働くロケット団のことが許せず、闇雲に立ち向かって、倒していく。現にサカキも一度負けているのだ。これ以上放ってはおけない。
 ▼ 220 AYr1xkow/g 17/07/02 18:33:52 ID:l4mJDVfc [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
事態は予想以上に深刻だ。このままではまずい。ただでさえ団内の雰囲気があまり良くないのに、二回も仕事を邪魔され、挙げ句の果てにアジトにまで乗りこんできた。

ロケット団は、ランスの最も大切なものだ。八年前、すべてを失くしたランスがサカキに誘われて得たもの。それはランスにとってすべてだ。ここにランスのすべてがある。奪われてはならない。乱されてはならない。

ぎり、と音が鳴るほど強く歯を食いしばる。サカキと話をしよう。ランスはそう決めた。考えているだけではいけない。行動に移さなければ。
 ▼ 221 AYr1xkow/g 17/07/08 01:15:34 ID:skyrap56 [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスはアジトに帰るとすぐにサカキの部屋に向かった。慌ただしく大股で歩くランスを見て、構成員たちはランスの只事ではない空気を感じ取っている。

ランスは既に仕事を二回も失敗しているのだ。神経質にもなる。現場にいなかったとしても、責任は幹部であり指示をしたランスにある。
サカキの部屋の前に来ると、ランスは一呼吸置いてからノックした。冷静になったつもりだったのだが、存外大きな音で扉を叩いてしまった。

「入るといい」

中からはいつも通りの落ち着いた声が聞こえてきた。ランスは「失礼します」と早口に言いながら扉を開ける。革張りのソファに腰掛け、ランスの方を見るサカキの顔は真剣なものだった。
 ▼ 222 AYr1xkow/g 17/07/08 01:17:08 ID:skyrap56 [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……サカキ様」

ランスはなんと言うべきか迷ったが、考えている余裕はもはやなかった。

「相談があります。我々ロケット団の今後の方針と、それから例の子供についてです」

サカキは黙っている。ランスは構わず続けた。

「現在我々は、最終目標である世界征服に向け、ありとあらゆる手段を用いて金を稼ごうとしています。それは概ね成功しており、悪事を働くことで我々は遂に人々に怖れられる存在となりました」

ランスは小さく息を吸った。

「ですが、今までに培ったものがすべて、崩れようとしています。……とても悔しいことに、それは、」

ランスは思わず歯を食いしばった。こんなこと、認めたくない。

「小さな子供によってです」

ランスがそう言った瞬間、サカキの表情が、明らかに曇った。
 ▼ 223 AYr1xkow/g 17/07/08 01:17:58 ID:skyrap56 [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスは顔を見上げ、サカキの顔を一瞬見つめてから、続ける。

「大袈裟だと思われるかもしれません。それに、その子供によって仕事を二度も邪魔されてしまったことは私が至らなかったせいです。本当に申し訳ありません――ですが、私は感じるのです、このままではいけないと」

ランスはごくりと唾を飲みこんだ。喉がカラカラだ。

「今、アポロとアテナがアジトにいない状態で、私たちは、その……急ぎ過ぎているのではないでしょうか?」

ランスは言葉に迷った結果、ラムダの言っていた台詞を拝借することにした。

「たかが子供ですが、サカキ様も……、……いえ、なんでもありません。ただ、考え直すべきではないかと」

頭が回らない。何もまとめていなかったせいで、ランスの言っていることは無茶苦茶だった。ランスは俯くと唇を噛み、眉間に皺を寄せて目を逸らした。これじゃあまるで、子供の我儘ではないか。
 ▼ 224 AYr1xkow/g 17/07/08 01:18:55 ID:skyrap56 [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ここで一旦立ち止まるべきだ。

要するに、ランスはそう言いたかったのだ。あの子供がいる今、闇雲に動くことは危険だ。自分よりもずっと頼りになる幹部が二人とも不在のまま、組織内の雰囲気が良くないまま、前に進むべきではない。このままでは本当に、取り返しのつかないことになる。

だって、奪われてしまう。ランスにとって一番大切な、すべてを。冷静でいられるわけがないのだ。

「……ランス」

サカキがやっと口を開いた。ランスははっと顔を上げる。

お願いだから、同意してください、サカキ様。君の言う通りだと言ってください。そして、命令してください。止まれと。私は、このロケット団を守りたい。そのためなら、私は本当に、なんだってするつもりなのです。
 ▼ 225 マタナ@ジュナイパーZ 17/07/08 01:47:13 ID:iYP6H.hU NGネーム登録 NGID登録 報告
し…支援ネ
 ▼ 226 AYr1xkow/g 17/07/09 20:53:32 ID:9FkIaLUM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「君の言いたいことは、とてもよく分かる」

サカキは一言一言、噛みしめるようにゆっくりと言葉を吐いた。

「我々のことを思ってそう言ってくれているのだろう。君はまだ幼いが……」

サカキは一呼吸置いてランスの表情を伺うようにちらりとこちらを見た。

「……基本的に冷静だ。頼りになる。ランスだけじゃない、アポロもアテナもラムダも。私はみんなを信用している。それが間違っているとは思わない」

ランスはああ、と心の中で深く息を吐いた。

結局、私の思いは届かないのですね。

「しかし、ここで立ち止まるわけにはいかないのだよ」

サカキの声が、大きくなった。サカキは立ち上がり、ランスの元へ歩きながら続けた。
 ▼ 227 AYr1xkow/g 17/07/09 20:54:52 ID:9FkIaLUM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ロケット団は高みに到達しようとしている。これはまたとない機会だ。間もなく、カントー全土を支配できるだろう。手始めにヤマブキを制圧する。そのために、一週間後、シルフカンパニーの社長と話しに行くことになっている」

サカキはそう言うとランスの目の前で立ち止まり、ぽんとランスの肩に手を置いた。

「アジトの留守は頼んだぞ、ランス」

ランスはサカキをじっと見つめた。

サカキが言うのだ。きっと間違いはないだろう。そうだ、我々ロケット団は強い。あんな子供ごときに敗北し続けるなんてありえない。私たちは強い。こんなにたくさんのトレーナーが集まっているのだ、弱いわけがない……。

「承知いたしました」

ランスは頷いた。それが、サカキと直接言葉を交わした最後の会話になるとも知らずに。
 ▼ 228 アルヒー@こおりのジュエル 17/07/09 21:57:08 ID:xIZi3uaU NGネーム登録 NGID登録 報告
うおお文章力すげえ
支援
 ▼ 229 テッコツ@リュガのみ 17/07/09 22:55:52 ID:dYEOGJ16 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 230 ャラドス@こだいのうでわ 17/07/12 13:02:20 ID:hGqQ2iY. [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一週間後、今までに見たことがないほど淀んだ空気のアジトの談話室で、ランスとラムダはソファに腰かけてがっくりと項垂れていた。二人の顔は真っ青だ。

ボスにアジトの留守を頼まれた二人は、シルフカンパニーには出向かずここでいつも通り仕事をこなしていた。アジトに特に何も異変はなかった。サカキが構成員のうち六割を連れてヤマブキシティへと向かったため、静かだったというのもあるかもしれない。

つい先程、団員たちが帰ってきた。疲弊しきった顔は悔恨と悲哀に満ちていた。結末は聞かずとも分かる。失敗したのだ。また邪魔されたのだ。あの子供に。ロケット団の悪事を許さない、正義の心を持った、あの小さな子供に。
 ▼ 231 AYr1xkow/g 17/07/12 13:03:09 ID:hGqQ2iY. [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「こんなことになるのなら、あの時殺していればよかったですね……」

ランスが呟く。かつてオツキミ山に向かう際にすれ違った時に分かっていれば。分かっていれば、あの時殺せたのに。

「……物騒だなぁ」

ラムダが力なく笑う。物騒な世の中になったのは、自分たちが力をつけたからだというのに。なんという皮肉だろうか。

「……いえ、この際子供なんてどうでもいいんです。そんなことより、もっと重大な問題があるでしょう」

ランスが顔に手を当て、溜息をつきながら言う。ラムダはやるせない表情でこくこくと頷いた。

シルフカンパニーからサカキが帰ってこないのだ。サカキに連れられて出ていった構成員たちに聞いても、誰も行方を知らないと言う。

「本当に、重大だ……」

ラムダも深い溜息をついた。
 ▼ 232 AYr1xkow/g 17/07/12 13:04:12 ID:hGqQ2iY. [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……ランス。サカキ様が帰ってくるまで、お前さんが仕切ってくれよ。俺よりしっかりしてんだろ」

ラムダが言う。ランスは顔を上げ、とんでもない、という表情でラムダを見つめた。

「無理ですよ。ラムダ、みんなあなたの言うことの方が聞きます」

幹部とはいっても、ランスはまだ成人していないのだ。威厳も何もない若造だ。団員全員をまとめるほどの力は持っていない。

「……っかぁー……」

ラムダが頭を掻きむしる。

「アポロ……アテナ……頼むから早く帰ってきてくれよぉ……」

ラムダが切実そうな声を上げる。ランスは悲痛な思いで唇を噛みしめた。本当に、そう思う。

二人はどこまで知っているのだろう。ナナシマではロケット団の噂は流れているのだろうか?二人との連絡は、すべてサカキが行なっていた。今はそれもままならない。
 ▼ 233 AYr1xkow/g 17/07/12 13:05:56 ID:hGqQ2iY. [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「二人で、力を合わせるしかないようですね……」

「ああ、そうだな、頑張るしかねえ」

二人は視線を合わせ、頷いた。

ふとラムダが立ち上がり、ランスの隣までやってきて腰かける。それから、ランスの肩を組んだ。

「これは俺たちへのツケだ。ロケット団の空気が変わったと分かっていながら、戻すことも合わせることもできねえで流され続けただけの俺たちへのツケ」

ラムダの声はぼそぼそと呟くようなものだったが、ランスの耳にはしっかり聞こえた。

「まあ、こんな空気になっちまったのは誰が悪いってわけでもない。強いて言うなら、俺たち全員が悪い」

ラムダはそう言うと、にやりと笑った。それから低い声で、不敵に言ってみせる。

「だってロケット団は悪い奴らだからな」

ランスも薄く笑った。二人の笑顔はどこか弱々しくぎこちない。それでも、まだ諦めるわけにはいかないのだ。

「ええ、そうですね」

ランスは頷いた。
 ▼ 234 AYr1xkow/g 17/07/14 00:00:21 ID:P7HP68Fg [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
あれから数日経ったある日、とあるニュースが流れた。長い間閉鎖されていたトキワシティのジムが復活したというのだ。

カントー地方はこの話題で持ちきりだった。それもそのはず、ポケモントレーナーたちにとってはとても重大なニュースである。とはいえ、ロケット団にはあまり関係ないけれど。

そして、その翌日。

サカキがアジトに帰還し、ロケット団の解散を宣言して去っていった。
 ▼ 235 AYr1xkow/g 17/07/14 00:01:32 ID:P7HP68Fg [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ま、待ってくださいサカキ様!」

「えっ、そんな、えっ」

「解散?解散って言った?」

「サカキ様!サカキ様!撤回してください!」

「まだ娘が幼いのに……」

「やだぁ……解散なんてやだ!」

「ねえ、よく聞こえなかったんだけど解散ってマジ!?」

「サカキ様が決めたんだぞ!ごちゃごちゃうるせえんだよ!」

「サカキ様ー!サカキ様ー!」

「は?これからどうしろって言うの」

「ロケット団は!永久不滅!」

「解散!?意味分かんないんですけど!」

「サカキ様戻ってきてください!」

「え……うそ……は……?」

「サカキ様!待って!サカキ様!」
 ▼ 236 AYr1xkow/g 17/07/16 21:01:15 ID:32Y44QB2 [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それからのことは、あまりよく覚えていない。

最後、サカキと目があった。サカキの瞳はいつになく弱々しげに見えた。申し訳なさそうにも見えた。しかし、サカキは必要以上の言葉を一言も発さないままロケット団アジトを出ていってしまった。

騒ぐ者、途方にくれる者――反応は様々だ。泣いている者もいる。ランスも同じ気持ちだった。突然だ。何がどうなっているのかさえ分からないまま、解散を宣言されるなんて。

とはいえ、この混乱状態の中のロケット団をまとめられる人物は、自分ともう一人、ラムダしかいない。二人は考える暇もなく動かなければならなかった。

呆然としていると、ふと、ラムダと目が合う。ラムダも愕然としていたが、ランスと目が合ったことで少しだけ冷静になれたようだ。

「おいお前ら!早く逃げねえとポリ公が来んぞ!」

ラムダが叫ぶ。

「聞こえたろうが!解散だよ解散!さっさと出てけ!」

ラムダの声は、泣いているようにも聞こえた。
 ▼ 237 AYr1xkow/g 17/07/16 21:02:03 ID:32Y44QB2 [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラムダの声に触発されてアジトから逃亡しようとする団員たちを掻き分け、ランスはラムダの元へ向かった。

「ラムダ……!一体……どういう……!?」

ランスは騒々しいアジトの中、大声でラムダに話しかける。ラムダはランスの声を聞くと、無理しているような笑顔で言った。

「解散ってことは、多分どうしようもねえ状況なんだろ。アジトの場所もなんもかんも割れてるだろうよ。今はとりあえず、こいつらを逃がしてやるのが先だ」

「ら、ラムダは……」

ランスは息も絶え絶えに言った。正解が分からない。どうすればいいんだ?こんなこと、考えたこともなかった。

「こ、このままでいいのですか?引き止めなくていいのですか?わ、私たちは……」

ランスが言葉を詰まらせる。すると、ラムダは力強く言った。

「いいわけねえだろ」
 ▼ 238 AYr1xkow/g 17/07/16 21:02:50 ID:32Y44QB2 [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「いいわけねえ」

ラムダは繰り返した。

「俺だって納得いかねえよ。でも……解散ってサカキ様が言われたんだから、解散なんだ。あのお方は簡単には意志を曲げない……お前だって知ってるだろうがよ」

ラムダが言う。ランスは顔をしかめて俯いた。

「私が……私が二度も失敗したからです。だからこんな事態を招いてしまった」

オツキミ山でもポケモンタワーでも、例の子供に邪魔をされた。責任は幹部である自分にある。もしかしたら、役立たずだと思われたからシルフカンパニーに連れていってもらえなかったのかもしれない。あの場で何があったのか、ランスも詳しいことは知らないのだ。

「おい、あんま自分を責めるな」

ラムダがそう言って、ランスの両肩に手を置く。

「だいたい、お前がいなかったならなぁ、今頃まだプロトンの奴が調子乗っててなんかやらかして、俺ら絶対自滅してたぞ」

「……」

ランスは唇を噛みしめた。
 ▼ 239 AYr1xkow/g 17/07/16 21:03:37 ID:32Y44QB2 [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
周りは悲鳴やら怒号やらでうるさいはずなのに、なぜか静かに感じる。ランスの耳にはただ、ラムダの声だけが聞こえていた。

「お前が成功させた仕事だっていっぱいあるだろうが。それにお前が頑張ってなけりゃ俺だってここにいなかっただろうしな」

「……はい」

ランスは震える声でそう返して頷いた。それから小さな声で、

「アポロやアテナはどうしているのでしょう?」

ランスの質問に、ラムダは手を離すと微妙な顔をして考えるように視線を逸らした。

「どうだかなー、あいつら。サカキ様が連絡をしてくださってるんなら、知ってるだろうけどよ。その手段が断たれでもしてたら、まあ、伝わってないんじゃねえか……」

ラムダの声が徐々に小さくなっていく。ランスも黙っていた。
 ▼ 240 AYr1xkow/g 17/07/16 21:06:06 ID:32Y44QB2 [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「なあランス、俺はな。前も言ったけど、このロケット団が好きなのよ」

逃げ惑う構成員たち。何人かは現状を把握できず、ただ力なく立ち尽くしている。

「サカキ様はご考えがあってあんなこと言ったんだろうけどよ、俺は納得できてねえ。言った通りだ。このままじゃよくない」

ラムダはそう言うと、制服のポケットに手を突っ込んだ。それからごそごそと動かし、手を出す。握られていたのは、煙草のボックスとライターだ。

ラムダはボックスを開いた。しかし、そこには一本も煙草は入っていなかった。

「……クソッ」

ラムダは悪態をついて、空の煙草ボックスを投げ捨てた。最後なのだから、アジトで煙草を吸ってもいいだろうと思ったようだが、やはり許されないようだ。とはいえ、ラムダはアジト内は禁煙というルールを守ったことはないけれど。

ラムダは溜息をつくとランスの顔を見て、それから胡散臭い笑みを浮かべてみせる。

「達者でな、ランス。また会おうぜ」
 ▼ 241 AYr1xkow/g 17/07/20 00:11:24 ID:I.XoEyi. [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
タマムシゲームコーナーに、一人の青年がやってきた。

現在店主を務めている男は、受付の裏にある部屋に青年を案内した。

緑色の髪をした背の高い青年は、キャップを目深に被っており、顔が見づらい。しかし、所謂イケメンであることは店主もなんとなく察した。

店主は青年の持ってきた履歴書をテーブルに置くと、青年に座るように促した。青年が椅子に腰かけると、店主もその向かいの椅子に座る。

「えーと……カレンくん、19歳ね。……変わった名前だね?」

店主が履歴書を見ながら言う。カレンと呼ばれた青年は顔を動かさず、目線だけ動かして店主の顔を見た。

「そうですか?」

「女の子みたいな名前だね」

カレンは無言だった。店主はカレンが怒ったと思ったのか、慌てて取り消すように手を振りながら、

「いや、いやいや!変な意味じゃないからね。素敵な名前だよ。君、シュッとしてるし、雰囲気に合う」

カレンは特に何も言わなかった。店主は咳払いをして続ける。
 ▼ 242 AYr1xkow/g 17/07/20 00:12:57 ID:I.XoEyi. [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「実は、ここだけの話なんだけど……」

店主が声を落とす。カレンも思わず首を縮めて顔を店主に近づけた。

「うちは元々ロケット団と繋がっていたんだ。だけど、ほら、解散しただろう?だから後ろ盾がなくなってしまってね、今は経営難に陥ってるところなんだ」

店主が溜息をつく。

「ここは人気だからね。取り壊すのは忍びない。でも、今後どうなるかも分からない。それでも大丈夫かい?」

カレンは頷いた。

「構いません」

店主はほっとしたような顔を浮かべた。

「ありがとう。従業員も減ってしまってね……苦労してたところなんだ。本当に助かるよ」

店主がそう言ったところで、部屋の扉が開いた。入ってきたのは若い女性従業員だ。
 ▼ 243 AYr1xkow/g 17/07/20 00:13:54 ID:I.XoEyi. [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「新人さんですか?」

女性従業員が問う。

「うん。君の二歳年下だよ。カレンくん、彼女はリンゴちゃん。一番歳の近い先輩だから、仲良くできると思うよ」

カレンが顔を上げて、リンゴに小さく礼をする。リンゴはカレンを一目見た瞬間、嬉しそうな顔をした。

「カレンくんね。よろしくね!」

「リンゴちゃん、俺と話す時よりテンション高くないかい?」

「そんなことないですよー。カレンくん、色々教えたげる。あ、制服は店長が教えてあげてくださいねっ」

リンゴは機嫌の良さそうな声で言った。
 ▼ 244 AYr1xkow/g 17/07/20 00:15:45 ID:I.XoEyi. [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
カレンが店長の指示通り制服に着替えると、リンゴが仕事の説明を始めた。カレンは驚くほど物覚えがよく、まるで来たことがあるのではないかというほどすぐにゲームコーナーに馴染んだ。

「まあ、仕事はざっとこんな感じかな」

あらかた説明を終えたリンゴが、そう言って一息つく。

「カレンくんすごいねー。覚えるの早い!前は何の仕事してたの?」

リンゴの質問に、カレンはしばらく黙って考えた後、

「……なんでも屋みたいなところで働いていました」

自分でも納得がいっていないような表情で答えた。

「何それ!例えばどんなことしてたの?」

リンゴが食いつく。カレンはまたも考えこむ。

「……掃除ですかね」

「ええー!もっと面白いの何かなかったのー?」

リンゴは楽しそうに笑った。
 ▼ 245 AYr1xkow/g 17/07/20 01:04:18 ID:G2MBn7r6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リンゴは話の都合というか華を添えるために登場させているオリキャラです
カレンはお察しの通りオリキャラではありません
 ▼ 246 日ゴロゴロンダ◆XTk1MeLTks 17/07/20 02:12:26 ID:Oe5NHFFo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 247 AYr1xkow/g 17/07/21 01:08:39 ID:vFmSvLAM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リンゴの質問に答えながら仕事をしていると、ふとリンゴが「あっ」と声を上げた。

「どうしました?」

カレンが尋ねる。

「あー、あのね、あの人……」

リンゴは声を落としながら視線だけで一人の客を指した。中年の男性客だ。煙草を吸いながらスロットに向かっている。

「……別に普通じゃないですか?」

カレンがそう言うと、リンゴは意味ありげに笑う。

「んー、まあね」

そう言って、カレンにレジに戻るように目配せした。レジに戻ると、リンゴは待ってましたとばかりに口を開く。

「いつもなんだかそわそわしてるの。それにあんまり打ってないらしいよ。私はよく分かんないんだけどね」
 ▼ 248 AYr1xkow/g 17/07/21 01:09:35 ID:vFmSvLAM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カレンは先程の男の姿を思い出した。カレンが唯一知っている銘柄の煙草を吸っていた気がする。とはいっても、形状が似ているだけかもしれないが。

「最近来るようになったんだよねー。週に三回くらい来てると思う」

「常連なんですね」

カレンがそう言うと、リンゴは曖昧に笑った。

「店長も女子はあんまり近付かないようにって言ってるし。カレンくんは男の子だし強そうだから心配いらなそうだけど、一応気をつけてね」

「分かりました」
 ▼ 249 AYr1xkow/g 17/07/22 00:21:18 ID:mmwEuGLo [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
一週間も経つと、カレンはもう完璧に仕事をこなせるようになっていた。カレンがタマムシゲームコーナーで働くようになってから二週間ほどが過ぎた。店主や他の従業員ともそれなりに打ち解けたところだ。相変わらずリンゴは積極的に話しかけてくる。

「カレンくん、今日終わった後暇?」

この質問も、今週に入って既に三度目だ。

「すみません、今日も用事があります」

カレンがそう言うと、リンゴはぷくっと頬を膨らませた。

「えー、今日も?……もしかしてカレンくん、彼女いる?」

リンゴは恐る恐るといった様子で尋ねた。カレンはといえば、そんな質問は予想外だった、とでも言いたげな表情を浮かべている。

「いませんよ」

「そっか!」

リンゴは明らかにホッとした様子で笑った。
 ▼ 250 AYr1xkow/g 17/07/22 00:22:01 ID:mmwEuGLo [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
カレンはその後男性従業員に指示されて、ゲームコーナー内の見回りに向かった。

今日は火曜日。リンゴに気をつけるようにと言われた男性客は基本的に一日置きに現れる。昨日来ていたので、今日はいないだろう。カレンはさしてその男のことは危険視していなかった。むしろ、とある他の客との関係が気になっていた。

その客も一日置きに現れる。若い、愛想の悪い男性客だ。彼は、中年男性が来ない方の日に必ずやってくるのだ。始めはまるで意識していなかったのだが、彼に飲み物を提供した際に中年男性と同じ銘柄の煙草を吸っていることに気付いた。それ以来、カレンは決して同時に現れることのない二人がなんとなく気になっていた。

ただの偶然かもしれない。しかし、偶然ではない気がするのだ。タマムシゲームコーナーに休業日はない。つまり、二人がやってくる日に曜日は関係ないということか分かる。

例の若い男性客の後ろを通り過ぎる。男性客の煙草の煙がカレンにかかった。
 ▼ 251 クーン@ポイントカード 17/07/23 00:54:59 ID:zLrmazvo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 252 ルノズク@モーモーミルク 17/07/23 12:28:43 ID:HD6xS.mk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 253 AYr1xkow/g 17/07/23 18:05:19 ID:dkbtGtck [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「じゃ、これお店の鍵ね。クローズ作業も、さっき教えた通りだよ。カレンくん、覚え早いからもう問題ないね」

店主がにっこり笑う。

「何かミスしたらすみません」

カレンが前以て謝ると、店主は大きな声で笑った。

「君、ミスしたこと一度もないじゃないか!」

「カレンくんすごーい。二週間でクローズ任せられるなんて。私半年以上かかったよ?」

二人の会話を聞いていたリンゴが口を挟む。きっと、いつ話しかけられるのかうずうずしながら待っていたのだろう。

「それが普通だよ!」

店主がツッコミを入れた。
 ▼ 254 AYr1xkow/g 17/07/23 18:07:31 ID:dkbtGtck [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「あ、そうだカレンくん、もうひとつ。給料入れるための口座、聞いても大丈夫かい?」

店主の言葉に、カレンはなぜか一瞬固まった。それからカレンは、

「……現金で頂くことは可能ですか?」

店主は少し驚いた様子で答える。

「あー、うちは別に大丈夫だよ。じゃあ、了解。現金ね」

「カレンくん口座持ってないのー!?」

リンゴが大きな声で言う。店主はたしなめるような表情でリンゴを見つめた。

「持ってないんです。自分が生きた痕跡は出来るだけ残さないようにしているので」

淡々と答えたカレンに、思わず店主とリンゴは顔を見合わせる。

「何それ!?かっこいー!」

「カレンくん、真顔で面白いこと言うね!」

二人はツボにはまったらしく、しばらく腹を抱えて笑っていた。
 ▼ 255 のぼう◆Hqb4vy9wIU 17/07/25 10:53:14 ID:FknpF66E NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 256 だのオカルトマニア 17/07/25 11:40:27 ID:0alpDZQY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 257 AYr1xkow/g 17/07/27 00:09:50 ID:4i6HcONs [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
カレンがクローズ作業を任されるようになってから三日が経った。

カレンはすべての作業を終えると、私服に着替え、キャップを目深に被った姿で店のシャッターを閉め、近くの自動販売機で買った缶コーヒーを飲みながらしばらく店の前で休憩していた。

「お疲れ、兄ちゃん」

声がして、カレンは振り向いた。見れば、例の常連の中年男性客が煙草を吸いながらこちらへ手を振って歩いてくる。

「毎日よく働いてるねェ」

男はへらへらと笑っている。カレンは目を細め、試すような口調で、

「なぜ私が毎日働いていることをご存知なんですか?あなたが来ていない次の日、私はいないかもしれないのに」

カレンの言葉に、男は思いきり顔をしかめた。

「バレバレかよ」

「ええ、バレバレです」

目の前の男が落胆したような声で言う。カレンは思わず笑いそうになりながら答えた。
 ▼ 258 AYr1xkow/g 17/07/27 00:11:15 ID:4i6HcONs [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ま、お前にバレたところで問題は何もねえんだけどな」

隣にやってきた男はそう言うとふっと力を抜いて変装を解き、煙草をふかす。

「相変わらず分かりやすいですね。一日置きに二人に変装するのは良くないですよ。たまには二日連続で同じ人間として来店したり、来ない日を作ったりしないと、気になります」

カレン、もといランスは少し小馬鹿にした様子で言った。しかしラムダはまったく嫌そうではない。むしろ嬉しそうだった。

「だって毎日来たかったんだもんよ。最初は三、四人に変装することも考えたんだけどな。でも面倒でやめた。どうせすぐ要らなくなると思ったしな」

「そうですね」

ランスも答える。

「でもまさかこんなすぐに会えるとはさすがに思ってなかったわ。お前のことは一目見てすぐ分かったけどな」

「しょうがないじゃないですか、私は変装できないんですから」

ランスがむきになって言う。ラムダはくつくつと肩を揺らして笑った。
 ▼ 259 AYr1xkow/g 17/07/29 12:27:14 ID:MCmG7vGE [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
二人がしばらく他愛もない会話をしていると、暗闇から二人の人影が見えた。

今日だと思ったのだ。それはなんの理由もない、直感からだった。でも、当たっていた。通信機器がなくても、信頼している相手のことは分かってしまうものらしい。

人影はどんどん近付いてくる。片方の人物の歩き方はだいぶ荒々しく、見ていたランスとラムダは不思議そうに首を傾げた。アポロもアテナも、自分たちよりずっと落ち着いた性格をしていたような気がするが。いや、アテナはそうでもないかもしれない。

やがて激昂している様子の方がアポロで、それを宥めるようにして歩いてくる方がアテナだと気付くと、二人は目を丸くしてお互い顔を見合わせた。
 ▼ 260 AYr1xkow/g 17/07/29 12:28:15 ID:MCmG7vGE [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……やはり本当だったのか」

アポロは、シャッター前で立ち尽くす同僚の姿を見て、悔恨と悲壮にまみれた声を絞り出した。

ランスは初めて見る取り乱したアポロの様子に、再会の挨拶もせずに驚いた顔でじっと見つめている。

「たかが子供に……クソッ……」

「アポロ、気持ちは分かるけどちょっと落ち着きましょ、ほら二人に会えたのよ」

アテナがまるで子供をあやすような口調で言う。相当のようだ。

アポロは顔を上げてランスとラムダを見た。それからおもむろに溜息をつく。

「おい、失礼だろ」

ラムダが間髪入れずにツッコミを入れた。
 ▼ 261 AYr1xkow/g 17/07/29 12:29:26 ID:MCmG7vGE [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……、……」

アポロが深呼吸をする。それから、無理をしたような声で口を開いた。

「……すみませんね」

「まー、もちろん同じ気持ちだぜ。気にすんな」

ラムダはそう言うと、思いきりアポロの背中を叩いた。アポロが痛そうな顔をする。ランスは、絶対に仕返しのつもりだろうと思った。

四人は、しっかりと顔を上げ、お互いの顔を見つめた。

「久しぶりですね」

「ええ、一年近く会っていませんでしたから」

「ほんとはもっと早く会いたかったぜ」

「あたくしも、ちょっと寂しかったわ」
 ▼ 262 AYr1xkow/g 17/07/30 00:38:51 ID:UG.Amk6g [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「やっぱりそっちには情報行ってなかったんだな、ナナシマにはよ」

ラムダが少し呆れたような口調で言う。

「ええ、結構前から連絡が途切れていました。トキワジムが復活したことも、その後再び閉鎖したことも知りませんでしたから」

アポロの言葉に、三人は首を傾げる。アポロはその様子を見て、思い出したように付け足した。

「サカキ様は、トキワシティのジムリーダーだったんですよ」

ランスたちの間に、小さなどよめきが走る。

「え……そんなの初めて知りましたよ」

「あたくしも初耳。……そう、再び閉鎖したのね……」

アテナが頬に手を当て、その意味を悟り、寂しげに言う。しかし、ラムダの反応だけは違った。

「かーっ、出たよ、自分が一番サカキ様のこと知ってますアピール」
 ▼ 263 AYr1xkow/g 17/07/30 00:41:54 ID:UG.Amk6g [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラムダの言葉をアポロは無視した。こんな光景も、懐かしい。

「私には考えがあります」

アポロが力強く言った。三人は耳を傾ける。

「ロケット団を復活させましょう。サカキ様を呼び戻すのです」

三人は真っ直ぐにアポロを見つめた。異論なんてない。あるわけがなかった。

「ナナシマへの出張のひとつの目的として、研究していたことがあるのです。研究の途中で帰る羽目にはなりましたが、あらかた終わっています」

アポロは早口になりながら続けた。

「ポケモンを人工的な力で進化させる方法です。利用価値はあるかと」

「またすげーもん持ち帰ってきたな」

ラムダが呑気な声で言った。
 ▼ 264 AYr1xkow/g 17/07/30 00:44:01 ID:UG.Amk6g [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ただ、今後の活動をどうするかですが……」

アポロが少し困ったように言う。その瞬間、ランスは思わず口を開いていた。

「活動拠点をジョウトに移すのはいかがですか?」

三人の注目が一気にランスに向かった。ランスは咄嗟に言ってしまった言葉に自分でも驚きながら続ける。

「隣の地方ですが、カントーで活動を続けるよりは多少目眩しになるかと思いまして。何より以前我々は度々ジョウトにも行っていたので、少しは融通が利きます」

「いいじゃない、ジョウト。紅葉を見に行けるわ、あたくし好きなの」

アテナが無邪気に言う。

「当てはあるのですか?」

アポロが鋭い視線をランスに向けた。
 ▼ 265 AYr1xkow/g 17/07/30 00:48:13 ID:UG.Amk6g [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あります」

ランスは頷いた。かつて昔、すべて持っていた頃のことを思い出しながら。よく世話になった、というよりは、まだ裕福だった頃にむしろよく世話をしていたとある店があるのだ。

「チョウジタウンに小さな土産屋があります。そこには地下室があるのですが、多分、簡単に乗っ取れますよ」

ランスがしれっと言う。土産屋の店主と仲良くしていたのは遠い過去のことだ。もう、どうなったっていい。

「あら、いいじゃない。お土産って何を売ってるの?」

「いかりまんじゅうです」

「お、いいね。俺食べたことねえわ」

「あたくしもないわね」

アテナとラムダが楽しそうに言う。そんな二人を見て、アポロは「では決まりですね」と言った。
 ▼ 266 AYr1xkow/g 17/07/31 15:40:16 ID:TbXrNJo. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……どれくらいかかるかは分かりません。ですが、絶対に成功させてみせます」

アポロが言う。

「ええ。サカキ様に戻ってきてもらいましょ!」

アテナは小さな声で、しかし声高らかに言った。

「当分は資金集めだけどな。一からやり直しだ」

そうは言いながらも、ラムダの口調は楽しそうだ。アポロとアテナが戻ってきたことが嬉しくてたまらないのだろう。

「私もサカキ様に、会ってお伝えしたいことがあります」

ランスも力強く言った。四人は見つめ合い、固く誓う。

いつか必ず、自分たちの手でロケット団を復活させると。
 ▼ 267 AYr1xkow/g 17/08/01 17:32:10 ID:Xdf.b24E [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「カレンくん、遅いなー」

リンゴが心配そうな声で独りごちる。

「無断欠勤するような子じゃないのに。……もしかして、倒れたとか……!?」

リンゴが顔を真っ青にして言った。すると、背後の扉が開き、店主が電話を片手に受付に出てきた。見ると、店主は顔を訝しげにしかめている。

「どうしました?」

リンゴが尋ねる。

「いや、カレンくんと連絡が取れなくてね……。実はこれ、二日目なんだよね」

「え!カレンくん、昨日も来なかったんですか?……やっぱり、具合悪くて電話出られないとかそんな感じですかね?でも、カレンくん真面目だし無理にでも出そうな気もするかも……」

リンゴがぶつぶつと呟く。しかし、店主は首を横に振った。

「いや、そもそも、この電話番号は現在使用できませんってなるんだよ」

「え、うそ……」
 ▼ 268 AYr1xkow/g 17/08/01 17:35:25 ID:Xdf.b24E [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「いやー、これバックレだったらかなり酷いよ……?うちの鍵だって持ってるわけだからね。もしかしてそれが狙いだったのかな……考えてみればちょっと怪しいところある子だったもんな……」

店主が、本人がいないことをいいことに好き勝手に言い始める。しかし、それだけのことを彼はしたのである。

「というか給料日も来てないから今までの分も渡せてないしね!?あんな毎日働いてたのに、やっぱりおかしいよね!?泥棒とかされたらどうしよう!?」

店主が喚く。しかし、リンゴにはその声は届いておらず、呆然と立ち尽くしていた。やがて、勤務中であるにも関わらず、リンゴの瞳には涙が溜まっていった。

「やだ、最悪」

結局、カレンがタマムシゲームコーナーに現れることはそれから二度となかった。
 ▼ 269 AYr1xkow/g 17/08/03 00:10:04 ID:7kFv0/dM NGネーム登録 NGID登録 報告
カレンという名はランスのアナグラムです(Lance→Calen)
本来人名としてあるスペルではないのですが一番それっぽかったのでこれを採用しました
 ▼ 270 リゴン@おおきなねっこ 17/08/03 00:37:32 ID:5NPYFjLo NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 271 だのオカルトマニア 17/08/03 01:02:47 ID:Yw2iDRXg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>269
なるほどアナグラムでしたか
支援
 ▼ 272 AYr1xkow/g 17/08/04 01:18:17 ID:rsN.V/7k [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それから、ランスたちはロケット団を復活させるための地道な活動を始めることとなった。

まずはランスの提案通り、活動拠点をジョウトに移した。チョウジタウンの小さな土産屋も、いともあっさりと乗っ取ることができた。といっても、建物ごと資産を強奪したわけではない。かつてのロケットゲームコーナーのように契約を結んだというだけのことだ。

何事も、暴力を振るわずに話し合いで解決した方がいい。上手くいけば、効果的に相手を騙すことができるのだから。

それに、土産屋も地味でちょうどいい。まさか地下が不法に拡張されていてそこにロケット団の新しいアジトがあるだなんて、誰も夢にも思わないだろう。
 ▼ 273 AYr1xkow/g 17/08/04 01:19:37 ID:rsN.V/7k [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
次に、四人は散り散りになった部下たちを探し出した。さすがに全員を集めることはできなかった。辞めた者もいるだろう。当然だ。彼らが今無事に生活できているかどうかは分からないけれど。

それでも、四人の努力の甲斐もあってか、かつての構成員の六割ほどは戻ってきていた。今は新しい団員も加わっている。何も問題はない。新生ロケット団の誕生だ。

新体制を取るにあたって、四人の状況も以前とは変わった。

まず、ナナシマに出張していたアポロとアテナは、長期間アジトを離れないことに決めた。今の時期に力の拡大を目指しても失敗するだけだ。全盛期でさえそうだったのだ。危ない橋は渡れない。四人は離れ離れにならないようルールを決めたのだった。

アポロが新しいリーダーとなった。ボスはいない。それはサカキの座だ。サカキが戻ってくるまで、アポロが代表として組織を率いるというだけのこと。

そして、ランスは指示を出すだけではなく、自分も現場に出向くようになった。元々、幹部になってからもそのつもりでいたのだ。以前は色々重なってそういうわけにはいかなくなってしまったが、これからは好きなようにやる。ランスはそう決めた。
 ▼ 274 AYr1xkow/g 17/08/04 01:20:55 ID:rsN.V/7k [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
気がつけば、あれから三年が経っていた。サカキがロケット団の解散を宣言してから三年。

この三年間、永遠のようにも感じられた。あっという間にも思えた。今やロケット団は、再び力をつけ始めている。

ランスがロケット団に入ってから十一年が経過した。現在ランスは二十二歳。ジョウト地方の裏世界を牛耳るマフィアの若き幹部だ。今やランスは立派な青年に成長していた。

初めてロケット団にやってきた日のアテナは正しかった。顔立ちの整った背の高い若い青年が黙々と仕事をこなす姿を見て、組織の女性たちが黙っているわけがないのだ。
 ▼ 275 AYr1xkow/g 17/08/05 00:06:47 ID:sL4.NKDY [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ランスさーん。ここ、ちょっと分かんないですけど教えてもらっていいですか?」

とある用事があってランスが事務室に入った途端、すぐさまそんな甘ったるい声が聞こえてくる。彼女はこの三年間で新しく団員となった女性だった。ランスより年上の彼女は今の今まで無言でひたすら目の前のパソコンに文字を打ちこんでいたのだが、ランスが現れた途端この態度だ。

「どこですか」

ランスは必要最低限の言葉だけ口にして彼女に近づく。ランスが自分の後ろに回り込み、画面を覗きこむと、彼女は露骨にそわそわし始めた。

「ここです。表にちゃんと入力してるんですけど……計算が合わないんです」

「……なるほど」

ランスがそう言って、ぐっと顔をパソコン画面に近づける。彼女の顔はランスの後頭部をじっと見つめている。

ランスはしばらく画面を見て黙っていたが、軽く咳払いをすると、

「……今から出なければならないので、アテナかラムダを呼んできますね」

そう言って部屋を去っていってしまった。

ランスが事務室から出ていく様子を見つめる女性構成員の表情が分かりやすすぎるほど落胆の色に染まった。現場に出てばかりのランスは実は機械が苦手なため誤魔化したのだということには、どうやら気付いていないようだ。
 ▼ 276 AYr1xkow/g 17/08/05 00:09:11 ID:sL4.NKDY [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスが事務室を出て廊下を歩いていると、向かいからアテナが歩いてくるのが見えた。ランスは早速彼女に助けを求めることにした。

「アテナ、事務室に行ってもらっていいですか?計算が合わなくて困っている者がいたのですが、私はこれからヒワダに行かなくてはならないので」

「また逆ナンから逃げてきたのね」

アテナはくすくす笑っている。ランスは思わず違う、と声を荒げそうになったが、あながち間違いでもないことを認め、開きかけた口を閉じて鼻から息を出した。

「……私はパソコンが苦手なんですよ」

「うっふっふ。知ってるわよ。あたくしに任せなさい」

アテナはそう言ってわざとらしく自身の胸に手を当てる。

「頼みます」

「どうせただの入力ミスよ、今週に入って何度目だと思ってるのかしら。おかしいわよね、ランスが事務室に入ると必ず女の誰かがミスをするのよ」

アテナの口調は咎めるようなものではなかった。むしろ歌うような、楽しそうな声音だ。おかしいだなんてこれっぽっちも思っていないことが分かる。

なんとも言えず複雑な顔をして黙っているランスを見て、アテナは笑い出した。

「いいのよ、ランス、あなたはそのままで」

あなたのおかげで女子たちがやる気を出してくれてるからむしろありがたいわー。アテナはそんなことを言いながら陽気に事務室へと消えていった。
 ▼ 277 エルコ@アクセサリーいれ 17/08/05 06:38:49 ID:d46SDE5E NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>1
支援
 ▼ 278 AYr1xkow/g 17/08/06 00:52:52 ID:pyEoyo7Y [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスは持って書類をアポロの部屋へと向かっていた。本来事務室に赴いたのはこの書類のコピーを取りたかったからだ。

なぜわざわざ恥ずかしい思いをしなければならないのか。顔に出していないとはいえ、パソコンが使えないことを部下に悟られるのは恥ずかしい。まあ、彼女は気付いていないのだが。

アポロの部屋にたどりつくと、扉を叩く。中からどうぞと声が聞こえてきた。

「失礼します。お待たせしました」

ランスはそう言いながら部屋に入る。アポロは机に向かって何やら作業をしており、ランスに背を向けている。ランスが一歩進むと、アポロは椅子のキャスターをぐるりと動かして振り向いた。ランスは書類をアポロに手渡す。先月にランスの班が得た収益が事細かに記されている書類の、コピー分だ。

「ありがとうございます」
 ▼ 279 AYr1xkow/g 17/08/06 00:54:18 ID:pyEoyo7Y [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アポロは書類を受け取ると、パソコン画面と見比べた。画面には先々月分の収益が表示されている。

「順調ですね」

「ええ」

ランスは頷く。ここのところ、とても調子が良い。現在ランスが担当している仕事は化石やポケモンの骨の売買と比べるととても地味なものだが、まずまずの成績を残していた。

「私たちは今、また力をつけ始めていると……そう思っていいかもしれません」

アポロは考えながら、慎重な口調で言った。

「驕りは禁物ですがね」

アポロはそう言ってランスに視線を向け、薄く笑う。ランスも答えるように微笑んだ。

「今日もお前の活躍には期待していますよ。よろしくお願いします」

「はい、では」

ランスは軽く礼をして部屋を出ていった。
 ▼ 280 AYr1xkow/g 17/08/06 00:55:34 ID:pyEoyo7Y [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アポロの部屋を出たランスは、次はアジトの出口へと向かう。今日一緒に出動することになっている部下たちは、もう集まっているはずだ。急いだ方がいい。

ランスが廊下を大股で歩いていると、今度は反対方向からラムダがやってくるのが見えた。ラムダはランスに気付くなりにやにやと笑いながら近づいてくる。

「よ、ランス。行ってら」

「はい、行ってきます」

二人はそう言葉を交わす。なんだ、これだけかと拍子抜けしていると、すれ違いざまに思いきり背中を叩かれた。

「なっ、なんですか」

ランスが恨みがましい目線をラムダに向ける。ラムダはそのまま歩きながらランスの方を向き、大きく手を振りながら、

「今日帰ってきたら飲もうぜ。ホウエンの美味い酒手に入れたからよ!」

かなり機嫌の良さそうなラムダの様子に、ランスは思わず笑ってしまった。息を漏らし、同意の意をこめて小さく手を挙げる。

さあ、仕事だ。
 ▼ 281 コロモリ@ふうせん 17/08/06 09:32:00 ID:jbchfS2c NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 282 AYr1xkow/g 17/08/07 15:04:49 ID:52qkscyY [1/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
ヒワダタウンへと向かう。そのすぐ近くにあるヤドンの井戸が仕事場だ。井戸は狭いので、連れていく部下は三人のみ。

ヤドンの尻尾は美味しいらしく、高価で売れる。ヤドンが多く棲みついているそのヤドンの井戸で大量の尻尾を仕入れることが今のラムダの仕事だった。

正直、地味なものだ。それに単調な作業。退屈に感じないことはない。とはいえ、重要な仕事だ。怠るわけにはいかない。ちなみにまったくなんの名誉にもならないが、ランスはヤドンの尻尾を切ることにおいてロケット団で最も高速と呼ばれた男である。
 ▼ 283 AYr1xkow/g 17/08/07 15:05:31 ID:52qkscyY [2/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
ヤドンの井戸にたどりつくと、最奥部でランスは素早くナイフを取り出して黙々とヤドンの尻尾を切断し始めた。

しばらく経つと、怒鳴り声が聞こえてきた。おそらく、見張りを任せた部下が一般人を脅しているのだろう。ランスは特に気にせず作業を進めた。

更に時間が過ぎると、今度は二人分の怒声が聞こえてきた。一人は聞き覚えのない、年老いた男の声だ。それから鈍い音と呻き声がしたと思えば、静かになった。

ランスが様子を見ようと目の前のヤドンを退けようとすると、近くで仕事をしていた部下の女性が勢いよく立ち上がった。

「私が行きます!」

彼女はひとつ年下の部下で、カントーで活動していた頃からロケット団に所属している。積極的に仕事をしてくれるのでランスは彼女に対してありがたいと思っている。ランスの飲み終えた湯呑み茶碗を片付けてくれるのは大抵彼女だ。

「では頼みます」

ランスはそう言って、仕事に戻った。
 ▼ 284 AYr1xkow/g 17/08/07 15:06:13 ID:52qkscyY [3/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
そしてその瞬間、大きな音が井戸の中に響いた。ランスははっと顔を上げる。こんな音、人間の力では出せない。どう考えてもポケモンの技だろう。

急にヤドンが襲ってきたのだろうか。音のした方に視線をやると、ごうっと炎が燃え上がった。ランスは思わず顔をしかめた。ヤドンはほのおタイプではないし、部下たちもほのおタイプのポケモンは持っていない。

つまり、部外者が現れたいうことだ。
 ▼ 285 AYr1xkow/g 17/08/07 15:07:52 ID:52qkscyY [4/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
とはいえ、ランスはあまり気にしていなかった。こうやって一般人がバトルを仕掛けてくることはままあるのだ。

以前のロケット団は絶対的な存在として恐れられていたが、今は違う。三年前に解散したことだけが知られている。今ロケット団が復活を目指してまた活動をしていることなど、人々の思いもよらないことだ。

取るに足らない正義感を振りかざしてこの組織を止めようとするトレーナーもたまにいる。もしかしたら、三年前にたった一人でロケット団を壊滅させたあの十一歳の少年のような英雄になりたいと思っているのかもしれない。

団員からしてみればいい迷惑である。ランスは偽物のヒーローの対応は部下に任せてヤドンの尻尾を切り続けた。三、四時間もすればまた生えてくるのだから、きりがない。ランスは今しがた手をつけたヤドンの様子を見て、数時間前に切ったものと同個体であることに気づきながら新しく生えた尻尾を切り落とした。
 ▼ 286 AYr1xkow/g 17/08/07 15:09:34 ID:52qkscyY [5/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
スニーカーが土を蹴る音が徐々に大きくなる。ランスは小さく息を吐くと、ナイフを折りたたみポケットにしまった。それから立ち上がり、近づいてくる人影を見下ろす。

……小さい。子供だ。現れたのは、すぐ後ろにポケモンを連れ歩いている十一歳くらいの男の子。

「なんですか?」

ランスは正直面倒に感じていることを隠しきれない様子で声を上げる。それから少し脅してやるつもりで威圧的な声を出した。

「私はロケット団で最も冷酷と呼ばれた男」

子供は存外鋭い瞳でこちらを睨みつけてくる。あまり効果はなかったようだ。

「……私たちの仕事の邪魔などさせはしませんよ!」

ランスはそう言って、腰につけたモンスターボールを手に取った。
 ▼ 287 AYr1xkow/g 17/08/08 22:19:36 ID:/Ptr.DDU [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「行きなさい!ズバット!」

ランスがズバットを繰り出すと、少年はボールから出していたポケモンを下がらせ、別のポケモンを繰り出した。わたげポケモンのメリープだ。

「ズバット!きゅうけつ!」

ランスの指示に従い、ズバットは素早く動いた。かつてはプロトンのポケモンだったズバットもドガースも、今は迷いなくランスについてきてくれる。

ズバットはメリープの体まで近づくと、小さな牙で噛みつきメリープの血を吸った。メリープはその攻撃を避けきれず、まともに食らってしまう。

「メリープ!でんじはだ!」

少年が叫ぶ。メリープの体毛がパチパチと音を立て始めた。メリープがズバットめがけて電磁波をぶつけようとした瞬間、ランスはその攻撃を見切り、

「ズバット!かわしてちょうおんぱです!」

ズバットはでんじはを避け、ジグザグに飛び回って軽くメリープを錯乱してから超音波を起こした。メリープはその超音波のせいで目が回ったのか、辺りをキョロキョロと見回した。メリープの挙動不審になった姿を見て、ランスは攻撃が成功したのだと悟った。混乱している。
 ▼ 288 AYr1xkow/g 17/08/08 22:20:33 ID:/Ptr.DDU [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「め、メリープ!落ち着くんだ!」

少年が慌てた声で言うが、メリープの耳には届いていない。メリープは訳も分からないまま走り回り、そのまま壁に向かって突進し、頭から思いきりぶつかってその場に転倒した。

「ズバット。もう一度きゅうけつ!」

ランスが言い放つ。ズバットは余裕の面持ちでメリープの真上まで飛んでくると、またもがぶりと噛みつき血を吸い取った。

メリープが痛そうに鳴き声を上げる。血を吸って体力を回復したズバットが満足げに口を離して飛び去ると、メリープは呻き声を上げてその場に倒れこんだ。

「メリープ!」

少年が悲痛な声を上げる。そしてモンスターボールを取り出し、

「……ありがとう、ゆっくり休んで」

労いの言葉をかけてメリープを元に戻した。
 ▼ 289 AYr1xkow/g 17/08/08 22:21:22 ID:/Ptr.DDU [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
少年はそれから、後ろにいるポケモンに目配せをした。ポケモンは少年と心が通じ合っているのか、こくりと頷き、前に立つ。

「マグマラシ!頼んだぞ!」

その言葉に、ランスは思わずこっそり目を見開いた。一匹戦闘不能にしてやれば怯えて去っていくだろうと思っていたのだ。しかし少年は怯えている様子はない。それどころか、明らかにこちらに立ち向かってきている。そんな力強い姿に、呆れざるを得ない。

まあ、何も問題はない。我々は泣く子も黙るロケット団!それなら、もっと怖がらせてやるだけのことだ。

「ズバット!ちょうおんぱ!」

ランスが指示を出す。しかし、それよりも速くマグマラシが動いた。
 ▼ 290 AYr1xkow/g 17/08/08 22:21:51 ID:/Ptr.DDU [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「マグマラシ!でんこうせっかだ!」

少年の声を聞くなり、マグマラシは目にも留まらぬ速さで駆け抜けた。速すぎて、正確な位置が把握できない。しかしマグマラシは平気のようだ。一気にズバットとの間合いを詰め、そのままハイスピードで力強く体当たりした。

それから、ズバットに反撃の余地を与えぬままマグマラシは体勢を変える。

「マグマラシ、懐に突っ込め!ひのこ!」

マグマラシは高い鳴き声を上げたかと思いきや、いつの間にか距離を縮めていた。ズバットはそんなマグマラシの猛攻に、なすすべもなかった。マグマラシの吐く火の粉を正面から浴びたズバットは、力なくその場に落ちた。
 ▼ 291 ツロイド@カチャのみ 17/08/08 22:22:35 ID:AXo64Zws NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
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 ▼ 292 グノム@どくけし 17/08/09 16:19:37 ID:iLAIWe1s NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 293 AYr1xkow/g 17/08/09 16:44:37 ID:D9ferYxo [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……」

ランスは黙って少年を見つめ、大きく溜息をつくと、ズバットをボールに戻し、もうひとつのモンスターボールを手に持った。

「ドガース!出番です!」

それから、

「どこの街にも私たちに逆らう奴はいるのですねぇ……」

ランスはそう言いながら少年を見下ろした。ランスのつり上がった瞳はかなり冷たかったが、逆に少年の瞳はとても熱い。ランスはその目が気に入らない、と思った。

「ドガース!スモッグ!」

「マグマラシ!ひのこ!」

マグマラシの方が速かった。マグマラシは浮いているドガースめがけて勢いをつけて飛び上がり、口から火を吐いてドガースを攻撃する。ドガースはその攻撃を受けながらも口と体についた穴から汚れた空気を吐き出した。周りにスモッグが蔓延し、異臭を放ち始める。マグマラシは思いきり顔面にスモッグをくらい、咳きこみながら地面に着地した。気分が悪そうだ。どく状態だろう。
 ▼ 294 AYr1xkow/g 17/08/09 16:45:18 ID:D9ferYxo [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ドガース、もう一度スモッグ!」

ランスはたたみかけるつもりでそう声高らかに指示を出した。しかし、少年は諦めなかった。

「マグマラシ!頑張ってくれ!ひのこ!」

少年の声に、辛そうに呻いていたマグマラシが顔を上げる。それから、ギロリとドガースを睨みつけ、マグマラシは近くの岩を利用してもう一度高く飛び上がった。

そんな少年の勢いに気圧されそうになったランスは、心から驚いて、

「えっ?もしかして本気で邪魔をしに来たんですか……?」

そんなことを口走ってしまった。
 ▼ 295 AYr1xkow/g 17/08/09 16:46:41 ID:D9ferYxo [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
少年は本気だった。マグマラシは飛び上がった勢いでドガースの真上までやってくると、口から火の粉を撒き散らした。ドガースは攻撃を受けて苦しそうに呻くと、そのまま地面に落ち、戦闘不能状態になってしまった。

「くっ……、まだ子供だと侮っていたらなんということ……」

単純に、バトルに負けたことを悔しく思いながら呟く。ランスは黙ってドガースをボールに戻すと、ふふんと鼻を鳴らした。

この場の責任者である自分が負けてしまった。撤退する他ない。ランスは苦々しげな表情で口を開く。

「……確かに我らロケット団は三年前に解散しました。しかしこうして地下に潜り活動を続けていたのです」

そうだ。もう一度恐れられる存在として君臨するために、いくつもの地味な仕事を続けてきた。ランスはその精悍な顔を真っ直ぐに少年に向け、

「あなたごときが邪魔をしても私たちの活動は止められやしないのですよ!」

そうだ、止められるわけがない。我々ロケット団は復活するのだ。

「これから何が起きるか怯えながら待っていなさい!」

ランスはそう言い放つと、部下たちを無言で引き連れてヤドンの井戸を立ち去った。
 ▼ 296 AYr1xkow/g 17/08/09 16:47:22 ID:D9ferYxo [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
アジトに向かう中、何も喋らないランスを、部下たちが恐々と様子を伺うように見つめていた。

しばらく経って冷静になると、悔しさや怒りなどよりも、なんとも言えない焦燥感の方が湧き上がってきたのだ。

十一歳くらいの少年。三年前、ロケット団を壊滅させた少年と同じくらいだ。

嫌な予感がする。ランスはそう思った瞬間、その考えを打ち払った。

何を弱気になっているのか。そんなんじゃ前に進めない。それに、また子供一人に負けてすべてを失うなんて、そんなことはありえない。二度と起こらせてなるものか。
 ▼ 297 ストダス@しめつけバンド 17/08/09 22:45:57 ID:QqY3Cg6I NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 298 AYr1xkow/g 17/08/10 00:38:31 ID:n.4gR4Co [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「しけたツラしてんなぁ。ほら、飲め飲め」

ラムダがそう言って、お猪口に酒を注いでくる。ランスはお猪口の中がどんどん満たされていくのを見つめながら大きな声を上げた。

「なんなんですかもうー、なんでこの私が子供に負けなきゃいけないんですか」

既に出来上がっている。

「おーおー、それ、お前が子供の時の同僚みんな思ってたぞー?」

ラムダは面白そうに言った。そして、酒を注ぐのをやめた瞬間お猪口を手に取り一気に口の中に流しこんだランスを見て嬉しそうに手を叩きながら笑う。

「いやー、いい飲みっぷりだなランス!」

「うるさいですよ、何自分は酒強いから平気、みたいなスタンスでいるんですか。全然飲んでないでしょ、ラムダも飲んでください」

ランスはいつもよりいくらかフランクな調子でそう言って、ラムダのお猪口に酒を注ぐ。ホウエン地方のミナモシティで作られた、人気の日本酒だ。

「あっ、バレてた?っておい、こぼれるこぼれる」

ランスが今にも溢れそうなほどなみなみと酒を注ぐので、ラムダは慌てて熱燗をランスから取り上げた。それから、お猪口を口まで持っていって、こぼれないよう慎重に啜る。
 ▼ 299 AYr1xkow/g 17/08/10 00:39:36 ID:n.4gR4Co [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「何、アポロに怒られたのか?」

「いや別に……珍しいですねとは言われましたけど」

ランスが口を尖らせながら言う。

「ならいいじゃねえか。俺なんてしょっちゅう怒られてるぞ」

「……それはまた違うじゃないですか」

ランスはそう言いながらも、少し気を良くしたようだった。それからランスはしばらく空のお猪口をじっと見つめ、

「……それだけじゃありません」

ランスが言うと、ラムダが体を傾けて耳を寄せる。

「え、何?」

「あの時と同じくらいの子供……」

ランスは耳をすませても聞こえないくらいの小さな声で呟いた。

「妙な胸騒ぎがするんです」

ランスが神妙な顔をして言う。ラムダが続きを聞こうと「なんで?」と促すが、ランスはしばらく黙っていた。
 ▼ 300 AYr1xkow/g 17/08/10 00:40:47 ID:n.4gR4Co [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「え……もしかして寝た?」

ラムダがランスの顔を覗きこむ。その瞬間、会議室の扉が勢いよく開いた。

「お酒ーっ!」

ラムダが驚いて扉の方を見る。入ってきたのは上機嫌なアテナだった。

「……っくりしたー」

ラムダが胸を抑えながら言う。アテナは「大袈裟ね」と言ってから、姿勢正しく眠っているランスを見て「あら」と声を上げた。

「ランス、寝ちゃったの。まあ、疲れてたものね」

「毎日外に出てたもんなぁ」

「現場に出るのが好きって言ってたけど、あたくし違うと思うわ。単純に現場以外の仕事をほとんどしてないから分かってないだけなのよ」

アテナはそう言いながらランスの隣にやってきてラムダとランスを挟んて座った。

「プロトンの班にいた弊害か」

ラムダが酒を注ぎながら言う。

「そうね」

アテナは少し悲しげな笑みを浮かべてお猪口を持ち、ラムダと軽く乾杯をすると一気に酒を飲み干した。
 ▼ 301 AYr1xkow/g 17/08/11 01:09:46 ID:n5DMpx1I [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「それにしてもほんと綺麗な顔してるのねー。羨ましいわ」

アテナは頬杖をついてランスの顔をじっと見つめる。ラムダは何か言ってやるべきなのか悩んだ。

「せっかく、組織の女で誰が一番お気に入りなのかちょっと聞いてみようと思ったのに」

アテナの言葉に、ラムダは思わず体を乗り出す。

「こいつ、マジで興味ねえぞ。この前一個下の後輩の女に仕事熱心でいいですねとか言って褒めてるとこ見たけどよ、そいつランスに近づきたくて積極的にやってるだけだからな」

「それ多分、分かってて言ってると思うわよ」

アテナがそう言うと、ラムダはあー、と唸る。

「こいつも性格悪いなー」

ラムダが少しおちゃらけた口調で言うと、

「何言ってるの?」

アテナがそう言って不敵に笑った。

「ロケット団の幹部なんてやれる人が性格いいわけないでしょ」

アテナはそう言って、三度目の一気飲みをした。
 ▼ 302 AYr1xkow/g 17/08/11 01:12:33 ID:n5DMpx1I [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「おっしゃる通りです」

ラムダはふざけてへり下った。アテナも酒が回ってきたのか、上機嫌でクスクス笑いながら何度も頷いている。

「……にしても、いつもクールで仕事熱心なランス様が酔って寝ちゃってるとこ、女たちに見せてやりてえな」

ラムダがニヤニヤと笑いながら言う。

「やだ、きっともっと人気になるだけよ。『可愛い!』って」

アテナがそう言うと、ラムダは思いきり顔を歪ませた。

「顔がいいと酒に弱いのも魅力になっちまうのか?」

「そうね。母性本能がくすぐられるんじゃない?それにまあ、あの子たちは盲目だから。ランスが何しても喜んで受け入れるわよ」

「女って訳分かんねえな」

ラムダがそう言ったところで、ランスは机に突っ伏して更に深い眠りについた。
 ▼ 303 AYr1xkow/g 17/08/11 01:14:05 ID:n5DMpx1I [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラムダはじっとランスを見つめながらちびちびと酒を飲む。先程、ランスが言いかけていたことが気になっているのかもしれない。ラムダが何か言おうと口を開いた瞬間、また扉が開いた。

「お疲れ様です」

入ってきたのはアポロだ。

「おつかれー」

「お疲れ様」

「ランス起こす?」

「いいですよ。休ませてやりましょう」

「いつになく優しいわね」

アテナがにやにやと笑いながら言う。アポロは心外だ、という顔でアテナを見た。

「実験は成功しました」

アポロはそう言いながら、一番入り口から近かったラムダの隣に座る。アテナとラムダが勢いよくアポロに顔を向けた。

「コイキングをギャラドスに進化させることに成功しましたよ。明日にでも見に行ってみてください」

アポロは得意げな表情でそう言ってみせた。
 ▼ 304 AYr1xkow/g 17/08/12 00:25:37 ID:VvXXSPQI [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
昨夜酔って眠ってしまっていたランスは、晩酌の終盤で目を覚まし、水を飲んでから自室へと帰った。今日の目覚めは最悪だったが、仕方ない。ランスは朝の支度を終えるとアポロの部屋に向かった。

「どうしました?」

ランスが訪れると、アポロが驚いた声で問う。

「いえ……昨夜はすみません。ほとんど寝ていたので」

ランスがばつが悪そうに言うと、アポロは薄く微笑んだ。

「いいんですよ。また次回に。今度は勝利の祝杯を上げましょう」

アポロが意味ありげな口調で言う。ランスは一瞬驚いた顔をしてから、頷いた。
 ▼ 305 AYr1xkow/g 17/08/12 00:27:00 ID:VvXXSPQI [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「これでも結構楽しみにしているのですよ。……サカキ様ともご一緒できるかもしれませんし」

アポロの言葉に、ランスは「意外ですね」と揶揄いをこめて言う。今度はアポロが驚いた顔をした。

「そうですか?」

「ええ。……私も楽しみです」

「昨日、お前が寝ている時にアテナとラムダとも話したのです。今はその日のために力を尽くすと」

「……ええ」

ランスがもう一度、深く頷く。すると、

「そうです」

アポロが思い出したように声を上げる。ランスは首を傾げた。

「これも二人には話したのですが、実験は成功したので報告しておきますね。怒りの湖に様子を見に行ってみてください。今なら多分二人もいますよ」

アポロの言葉に、思わずランスは目を瞬いた。
 ▼ 306 AYr1xkow/g 17/08/12 15:17:11 ID:VvXXSPQI [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チョウジタウンから四十三番道路を抜けると、怒りの湖という湖沼がある。そこで真っ赤なギャラドスが暴れ狂っていた。

アポロがかつてナナシマで研究していた、ポケモンを人工的に進化させる電波の開発はこの三年間で無事に成功していた。現在、ロケット団のアジトからこの怪電波を発信している。このギャラドスは、その怪電波で無理矢理進化させたものであった。怪電波の影響で赤く変色してしまっているが、偶然にも稀に見られるという色違いの個体と同じ色だ。

ランスは大雨の降りしきる怒りの湖まで歩いていった。ほんの少しだけ見て帰ろうと、傘を持ってこなかったことを後悔した。既にずぶ濡れだ。

アポロの言っていた通り、アテナとラムダが先に湖に来ていた。二人はそれぞれ傘を差して、怒り狂うギャラドスを見上げている。ランスはそんな二人の隣に向かった。
 ▼ 307 AYr1xkow/g 17/08/12 15:18:17 ID:VvXXSPQI [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「おう、来たのかってお前、傘持ってこなかったのかよ」

先に気付いたラムダがそう言って、ランスを中に入れてやろうとする。しかしその瞬間、女性の高い声が響いた。

「あのランスさんっ!濡れてしまいます!」

例のひとつ年下の女性団員だ。彼女が凄まじいスピードでランスの元まで走ってきた。そして、自分より二十センチメートルは身長の高いであろうランスに合わせて傘を持った腕を高く上げる。

「これ、良ければお使いください!」

「ありがとうございます」

ランスはそう言うと、傘を受け取るわけでもなくそのままラムダたちの方へと向き直った。

結果的にランスと相合傘をする形となった女性団員は嬉しそうな顔をして、熱っぽい目でランスをじっと見つめている。

「……あれでいいのかよ」

その様子を見ていたラムダが呟く。

「きっといいのよ」

アテナはそう呟き返した。
 ▼ 308 AYr1xkow/g 17/08/12 15:19:07 ID:VvXXSPQI [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「すごいわよね、あのギャラドスの迫力。アポロもよく頑張ったものね」

「赤いギャラドスとかかっけぇよな」

二人は呑気にそんなことを言っている。それにしても、この辺りは元々雨が多いとはいえ、この量は異常である。ギャラドスがあまごいでもしているのだろうか。

「ね、そういえば、ランスこれからどうするの?今日はあなたの班お休みでしょう?」

アテナが話題を変える。

「そうですね……もうヤドンの井戸へは、行けませんし」

ランスは嘆息がちにそう返した。昨日は子供に負けてしまった。また向かっても、その二の舞になるだけだろう。ヤドンの尻尾に関する仕事がなくなってしまったため、ランスの班は強制的に休みが決まってしまった。自分がバトルに負けたせいでこんなことになったというのが、悔しくてたまらない。
 ▼ 309 AYr1xkow/g 17/08/12 15:19:49 ID:VvXXSPQI [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ある程度新しい仕事の目処はついているんです。ですが、最近部下たちにも休息を与えていませんでしたから、とりあえず明日くらいまでは休みにしておきますかね」

ランスはどことなくぼんやりとした様子で答えた。その瞳は、ギャラドスを見ているようで、どこも見ていない。

「その口ぶりだと、お前は休まねえつもりだろ」

「ダメよ、ランス。たまにはちゃんと休まないと」

二人にはお見通しだったようだ。ランスは大きく息を吐いた。休んでいる場合ではないのだ。

とはいえ、焦りは禁物だ。三年前に何が起こったのかを忘れてはならない。ランスは素直に頷いた。

「そうします」

ランスがそう言うと、二人はその答えに満足したのかうんうんと何度も頷く。
 ▼ 310 AYr1xkow/g 17/08/12 15:21:16 ID:VvXXSPQI [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラムダはランスの横の団員をちらりと一瞥した。彼女は今や両手で傘を持って必死に雨からランスを守っていた。彼女はほとんど傘に入っていない。

「……相合傘、濡れてる方が惚れている……っていうの、あったわよね」

アテナがどこか夢見心地な声で言う。

「エンジュ銀行のCMだろ?……普通、濡れてるのは男の方だと思うけどな」

ラムダは冷静にツッコミを入れた。

すると、暴れ狂う赤いギャラドスが尾びれを水面を勢いよく叩きつけた。凄まじい量の水飛沫がランスたちを襲う。ランスとアテナとラムダは傘のおかげで無事だったが、女性団員はまともに水を浴びてしまった。

「……なあ、本当にあれでいいのか?」

ラムダがもう一度尋ねる。

「……きっと、いいのよ」

そう言うアテナの声は少し自信がなさそうだ
 ▼ 311 AYr1xkow/g 17/08/12 15:23:02 ID:VvXXSPQI [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しばらくぼうっとしていたランスは、やがて気を引き締め直すと、傘を持っている部下に話しかける。

「ありがとうございます。あとはあなたが使ってください」

彼女は声をかけられたことに驚いて、目を丸くし、口を開けてランスを見つめている。かなりの間抜け顔だ。ランスは彼女がずぶ濡れになっていることに気付くと、

「風邪をひかないようにしてくださいね」

こんな大切な時期に体調を崩して仕事にならないなんてことになってしまっては困りものだ。ランスはそう言うと、できるだけ濡れないように大股で怒りの湖を去っていく。思いがけない言葉を貰った彼女は、完全に骨抜きになっていた。腕の痺れも忘れて、去っていくランスを一心不乱に見つめる瞳には、ハートマークが浮かんでいる。

「……よかったみたいだな」

ラムダが呟く。

「そうね」

アテナも呟いた。
 ▼ 312 ァイアロー@エレキシード 17/08/12 15:32:12 ID:./OeZFqQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
何か面白そう。
長いので誰か簡単に内容教えてくれませんか?
金銀の話かな?
 ▼ 313 だのオカルトマニア◆t9l2LsYlS6 17/08/13 00:01:10 ID:Or6tkojs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>312
赤緑〜金銀のロケット団の話が、ランス目線で描かれています
ランスの幼少期、ロケット団に入団したきっかけ、幹部になった理由などのオリジナルストーリーもありますよ

…説明下手だし文章変だし…すみません、これで伝わるかな…?
とにかくお勧めですので、是非どうぞ!
 ▼ 314 オガエン@マトマのみ 17/08/13 01:13:59 ID:fY2cC2u. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 315 ュリネ@リバティチケット 17/08/13 02:20:32 ID:e16Ep3.U NGネーム登録 NGID登録 報告
ロケット団入って片っ端から下っ端とバトルしたい
支援
 ▼ 316 AYr1xkow/g 17/08/13 12:39:41 ID:dYpA/uyM [1/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
数日もすると、ランスは新しい仕事を行なっていた。特別に任された重大な仕事だ。

ランスは私服姿でコガネシティに出向いていた。目的地はラジオ塔だ。ラジオ塔は自由に内部を見ることができるようになっているが、中を歩くランスはどうしても見学に来た一般人というよりはラジオ番組のゲストとして呼ばれた芸能人のようなオーラを放っていた。

ランスは、各階をゆっくりと見て回った。時折何かを確認するよう立ち止まる。まるで部屋の数や廊下の距離を計っているかのようだ。

一度展望台まで上がっていったランスは、今度は五階へと向かった。そして、局長室と書かれた部屋を確認すると、扉を叩く。

「どうぞ」

ランスは重い扉を開けた。中で机に向かって腰掛けていた局長は、謎の来客に目を丸くして驚いている。まさか、堂々と扉を叩いた者が見知らぬ人物だったとは思っていなかったのだろう。

「随分警備が手薄ですね」

ランスはそう言いながら、後ろ手にこっそり扉の鍵を内側から閉めた。

「き……君は?一体誰だね?」

局長の質問に、ランスは臆面もなく答える。

「私はロケット団の幹部のランスといいます」
 ▼ 317 AYr1xkow/g 17/08/13 12:40:29 ID:dYpA/uyM [2/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスの言葉に、局長は更に驚いて思いきり震え上がった。その弾みで椅子がガシャンと音を立てて倒れ、局長は仰向けに倒れこんでしまった。

ランスは「おや」と声を上げ、ゆっくりと歩いて机に近づき、回りこんで局長の元へと向かう。それから右手を差し出した。

倒れた局長はなんとも情けない姿を晒しながらも、ランスに対して険しい表情を向けていた。ランスはやれやれとかぶりを振りながら、

「手荒な真似はいたしませんよ。ご相談があって参りました。驚かせてしまい、大変申し訳ございません。……どうぞお掴まりください」

局長は無言でランスを睨みつけている。しかし、ランスの丁寧な物腰と柔らかい口調に少しだけ安堵したのか、恐る恐るランスの手を掴んだ。ランスは局長の腕をぐっと引っ張り上げ、起こしてやる。

「お怪我はございませんか?」

「……ああ、ない。大丈夫だ……」

局長は慎重にランスを観察しながら答えた。
 ▼ 318 AYr1xkow/g 17/08/13 12:41:04 ID:dYpA/uyM [3/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
局長は、複雑な表情でランスを見つめていた。目の前にいる容姿端麗な青年は、三年前に解散したはずのロケット団の幹部だという。一体どういうことだろうか。そもそも、なぜここに来たというのだろう。

ランスは、黙ったままの局長が何か言うのをしばらく待っていたが、局長が口を開くそぶりを見せないので、自分から切り出すことにした。

「確かに我々ロケット団は、三年前に解散しました。……ええ、あなたがお考えになっていることは手に取るように分かりますよ」

ランスは局長が再び驚いた表情を浮かべるのを面白そうに眺めながら続ける。

「ですが、じきに復活します。そのためにこの三年間、地道な活動を続けて参りました。そこで、あなたがたにもご協力を賜りたい」

「協力だと……?」

局長の顔が歪んだ。ランスはといえばコロコロと表情を変える局長の顔を相変わらず興味深げに見つめている。
 ▼ 319 AYr1xkow/g 17/08/13 12:41:57 ID:dYpA/uyM [4/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「一体何を企んでいるんだ」

局長は妙に抑えたような口調で言った。本当は、今すぐにでもランスをここから追い出したいのだろう。ロケット団と関わることなんて、何がなんでも遠慮したいと思っているに違いない。とはいえ刺激すれば何をされるか分からないからと慎重になっているのだ。

「そうですね……我々の開発した電波を流してほしい……といったところでしょうか」

ランスは曖昧に答えた。

「断る」

局長は有無を言わせぬ、強い口調で言った。その電波がどんなものかは一切説明していないが、なんらかの悪影響を与えるものであることは想像に難くない。局長は真剣な表情でランスを睨みつける。

「そうですか。残念ですね」

ランスはちっとも残念そうではない声でそう言った。
 ▼ 320 AYr1xkow/g 17/08/13 12:43:28 ID:dYpA/uyM [5/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「なんだ一体……?まだ何かあるのかね?」

局長は一切態度を変えないランスを怯えるように見つめながら尋ねる。

「いいえ。本日私がこちらへ持って参りましたのはその件についてのみです」

ランスはそう言うと、大股で一歩踏み出し、ぐいと局長に近付いた。

「悪い話ではないと思うのですが。ご協力いただいた暁には、多額の資金を提供させていただきますよ」

「そ……そんな卑怯な手段に乗るわけにはいかない!」

局長は語気を荒げた。ランスは澄まし顔で局長を見下ろす。それから、「そうですか」とだけ言った。

「納得いただけないようであれば、何度も参りますと言いたいところですが、それはやめておきましょう。どうやら、労力の無駄のようなので」

ランスは肩をすくめた。局長は相変わらず険しい表情でランスを睨みつけている。

「それでは、失礼いたします。もしお気持ちが変われば、すぐに駆けつけますよ。とはいえ、そんなことはなさそうですがね」

ランスはそう言うと、局長の部屋を出ていった。

局長はランスの出ていった扉をじっと見つめ、唇を震わせながら、

「この部屋には誰も立ち入らせんぞ……!」

強い口調でそう呟いた。
 ▼ 321 AYr1xkow/g 17/08/13 12:44:19 ID:dYpA/uyM [6/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
局長室を出たランスは、何食わぬ顔でラジオ塔を下っていく。

局長の協力は得られなかったが、それは予想の範囲内だ。懐柔できれば幸運、くらいの認識で今日はここまでやってきた。真の目的はこれではないのだ。

ランスはラジオ塔を出ると、今度は地下通路へと向かった。それから、地下通路の南側にある細い道を通り、とある扉の前で立ち止まる。
ランスはポケットから鍵を取り出した。ここ何年かはあまりやっていなかったが、スリの技術はまだ衰えていないようだ。これは、局長の手を掴んだ際にこっそり拝借したものだ。

鍵穴に鍵を差しこむ。とあるルートで手に入れた情報によると、ラジオ塔の局長がコガネシティの地下通路の鍵を持っているとのことだったが、どうやらビンゴだったようだ。カチャリと小気味よい音がして、扉が開いた。

今回の目的はふたつだ。ひとつは、ラジオ塔の内装を詳しく覚えて帰ること。もうひとつは、コガネシティの地下通路の鍵を手に入れること。どちらも、現在計画しているコガネシティの制圧に向けて必要なものである。

そういえば、地下通路を歩いている途中、なぜかロケット団の制服を着て写真撮影のできるスタジオの前を通った。大方、プロトンが在籍していた頃に私的に制服を様々な場所に売りさばいて利益を得ていたのだろう。金儲けのアイデアに関しては、あの彼には敵わない。

ランスは扉を開けてその中に入ると素早く扉を閉めると、奥に向かってゆっくりと歩き始めた。
 ▼ 322 ンクルス@きいろいバンダナ 17/08/13 12:48:08 ID:74NRBbIk NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
クソザコナメクジランス、アポロ
 ▼ 323 ブンネ@ハンサムチケット 17/08/13 21:28:06 ID:Q.28ob36 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 324 イアント@ズアのみ 17/08/13 22:48:17 ID:lb4dHav6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今HGやってるけどランスを倒すの可哀想になってきた…
 ▼ 325 AYr1xkow/g 17/08/14 00:53:34 ID:.Pqi2zgM [1/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
数日後。ランスは再びコガネシティにやってきていた。今回は珍しくアポロと一緒だ。二人は、以前ランスが手に入れた地下の鍵を使用して再び地下通路の奥へと入っていた。

「もう一度ラジオ塔の見取り図を見せてもらっていいですか?」

アポロがカツカツと音を鳴らして進んでいきながら、後ろを歩くランスに向かって言う。

ランスは前回ラジオ塔に出向き、内装を覚えて見取り図を作った。完全に正確とは言い切れないが、最低限必要な情報はすべて正確に作ることができたと自負している。

ランスはその見取り図の入ったファイルを持った手をアポロに近づけると、

「もうアポロが持っていてください。私は大体覚えてますから」

少し面倒臭そうな声で言った。先程から何回もアポロに渡しては返されているのだ。

「それもそうですね」

アポロは納得し、ランスからファイルを受け取ると中の見取り図を取り出す。
 ▼ 326 AYr1xkow/g 17/08/14 00:54:33 ID:.Pqi2zgM [2/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……」

アポロは立ち止まると、しばらく黙って見取り図を見ていた。それから、

「地下通路は部下たちに任せましょう。幹部は全員ラジオ塔に配置します」

そう言って再び歩き出す。

「私は展望台に行きます」

「眺めは悪くありませんでしたよ」

ランスはそう返した。

「それほど高くありませんので、街を歩いている人間の姿も確認できます」

ランス意味ありげに言った。

「それはとても重要ですね」

アポロにはもちろん伝わったようだった。
 ▼ 327 AYr1xkow/g 17/08/14 00:56:24 ID:.Pqi2zgM [3/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……おや」

ふとアポロが立ち止まる。見れば、行き止まりだった。アポロが最奥に少し広めの部屋を見つけたのだ。

「……ふむ」

アポロは考えるように顎に手を当てると、

「局長にはここにいてもらいましょうか」

「はい」

ランスが答える。

「……急遽ですが、コガネ制圧の際にはロケット団以外の者数名に協力してもらうことになりました。彼らも地下通路に配置します」

アポロはてきぱきと言った。

「特に異論はありません」

ランスが返すと、

「それでは、これで視察は完了です」

アポロはそう言ってファイルを閉じた。
 ▼ 328 AYr1xkow/g 17/08/14 00:57:12 ID:.Pqi2zgM [4/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「さあ、もうすぐですよ」

アポロが呟く。ランスは無言で頷いた。

「もうすぐです。昔の栄光を取り戻すまで、もう少し……」

アポロの声は、どんどん小さくなって消えていった。
 ▼ 329 リムー@たんちき 17/08/14 01:50:05 ID:UiFYs7fc NGネーム登録 NGID登録 報告
ロケット団重いなぁ
 ▼ 330 AYr1xkow/g 17/08/14 13:25:34 ID:U8A8FIng [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスのゴルバットのそらをとぶで二人はチョウジタウンへと帰った。本来はジムバッジを五個所有していないと使うことを認められないのだが、ロケット団の幹部であるランスがそんな規則をしっかり守るわけがない。

二人は人気のないところでこっそり下りると、私服姿なので堂々と土産屋の入口からアジトに戻ることにした。そして土産屋の中に入った瞬間、二人は息を呑む。

「一体何が起こったのです?」

アポロが素早く尋ねた。土産屋の中は、壁が抉れるほどの凄まじい襲撃を受けていたのだ。抉れた壁の前には、人が倒れている。土産屋の店員だ。

ランスが近づくと、店員はどうにか体を起こし、

「……すいません……はかいこうせん、されまして……」

「はかいこうせん!?」

二人は同時に素っ頓狂な声を上げた。そして、

「我々ロケット団よりも極悪非道な人間が侵入したようですね」

アポロはやけに冷静にそう言った。
 ▼ 331 AYr1xkow/g 17/08/14 13:26:24 ID:U8A8FIng [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「し、侵入者が……」

店員が呻きながら言う。すると、他の声が聞こえてきた。

「もう、全員逃げてしまいました……」

奥に店員がもう一人いたらしい。アポロがその店員の方に素早く顔を向けると、冷たく言い放つ。

「お前たちの処遇はまたあとで考えます。ランス、行きますよ。中を確認しましょう」

「……はい」

ずっと黙りこくっていたランスは、妙に抑えた声で答えた。

また自分が不在の時にアジトに侵入されてしまった。

侵入してきたのは、一体どんな人物なのだろう。しかも、二人も。

ランスは、またあの嫌な胸騒ぎを感じながら中へと入っていった。
 ▼ 332 AYr1xkow/g 17/08/14 13:27:23 ID:U8A8FIng [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
アジトの留守を預かっていたアテナとラムダと合流し、詳しく話を聞く。アテナは明らかに苛立っており、対照的にラムダは落ちこんでいた。

「二人もいたのよ、とても強いのが二人。あたくし、思わずロケット団に勧誘しちゃったわ。力強い味方になってくれそうだもの」

アテナは早口で皮肉っぽく言う。

「俺はさ……物真似を見破られちまったよ。それにやらかした。ヤミカラスがよぉ……」

ラムダはそう言って両手で顔を覆った。ランスは侵入者の二人がどんな人物だったのかを詳しく知りたいと思ったのに、二人は自分のことで精一杯で何も教えてくれない。なんだかランスも腹が立ってきた。

アポロが溜息をつく。その息の音を聞いた瞬間三人は我に返り、アポロの方を見る。

「もうここにはいられません。……視察が終わっていたのが不幸中の幸いでしたね」

アポロの言葉に、ラムダが「え」と声を上げる。

「行くのね……」

アテナが囁く。

「まさか、こんな急に実行することになるとは」

ランスは呟いた。それでも、仕方がない。

「コガネシティに向かいますよ」

アポロの言葉に、三人は強く頷いた。
 ▼ 333 AYr1xkow/g 17/08/14 13:30:38 ID:U8A8FIng [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
クライマックスなので更新量、頻度共に上げたいと思います
あと少しですのでどうか最後までお付き合いください
読んでくださってる方々、本当にありがとうございます
 ▼ 334 ーフィ@はっきんだま 17/08/14 14:24:22 ID:TB93QFGU NGネーム登録 NGID登録 報告
素晴らしい
ゼンリョクで支援する

そしてこのSSが終わった後に始まるであろうSSもゼンリョクで支援する所存
 ▼ 335 ーメイル@メトロノーム 17/08/14 16:18:00 ID:hvKkJrEU NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 336 AYr1xkow/g 17/08/14 19:22:54 ID:.Pqi2zgM [5/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロケット団の構成員は、全員でコガネシティへと向かった。それからポケモンたちを繰り出し、一般人を脅して撤退させ、ラジオ塔へと向かう。

「ゴルバット、あやしいひかり!マタドガス、えんまくです!」

ランスは先日進化したゴルバットとマタドガスに指示を出し、周囲の人間を錯乱させながらラジオ塔内を歩いていく。今この場に一番詳しいのは自分だ。私がしっかりしなければ。

ランスはラムダを連れて五階へと向かっていた。三階に上がろうとすると、警備員が二人を見て怯えながらも声を張り上げた。

「な、なんだお前ら!ここから先は立ち入り禁止だ!」

局長はあの日以来、警備を強化したのか。そう思いながらもランスは警備員の言葉を無視し、マタドガスに声をかけた。

「マタドガス、スモッグ」

マタドガスはニタニタと気味の悪い笑みを浮かべながら警備員の前までふわふわと浮いていき、警備員の顔面めがけて思いきり臭いガスを吹きかけた。すると、警備員は苦しそうな顔をして咳きこむ。
 ▼ 337 AYr1xkow/g 17/08/14 19:24:00 ID:.Pqi2zgM [6/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスはその隙を見て、警備員の腕を掴み、もう片方の手で警備員の首を掴むと、壁に向けて押さえつけ、両腕を背中で捻り上げた。警備員が痛みに叫ぶ。

一部始終を呑気に待っていたラムダは、

「よし、ちょっと失礼するぜー」

そう言って警備員の制服にあるポケットを順に漁り始める。

「早くしてくださいよ。意外と疲れるんですからね」

「まあちょっと待てよ」

ラムダはそう言うと、嬉しそうな顔をして「おっ」と声を上げた。三階へと繋がる階段を封鎖していた扉の鍵を見つけたのだ。

ランスは警備員の腕を離すと、その背中を蹴りつけた。警備員は顔を床にまともに正面からぶつけてうつ伏せに倒れ、気を失ってしまった。幹部で一番腕っ節が強いのは若くて体格のいいランスだ。こういう時には本当に役に立つ。

ランスが警備員を気絶させている間に、ラムダは鍵を開け終えていた。二人は急いで階段を上っていった。
 ▼ 338 AYr1xkow/g 17/08/14 19:24:59 ID:.Pqi2zgM [7/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
二人は五階へとたどりついた。お目当てはもちろん、局長である。ランスは以前ここを訪れた時とは異なり、ノックもせず声もかけずにいきなり扉を開いた。

「!?一体何が……、……!」

局長はそんな声を上げたかと思えば、ランスを見て絶句した。あのロケット団の幹部が、今度は黒い装束に身を包んでまた目の前に現れたのだ。

「お久しぶりです」

ランスは爽やかに言い、恭しく礼をした。その瞬間、扉から更に三人の団員たちが入ってきた。

「っしゃオラァ!」

「おいおっさん、おとなしくしてろよ」

「抵抗しなければ痛い目には遭わせないからよぉ」

三人は乱暴な言葉を吐きながら局長を拘束した。局長は「なんだね君たちは!放したまえ!」と大声を上げるが、三人は構わず強引に部屋から連れ出していく。

「そのお方を地下通路の奥まで連れていったら、ラムダは鍵を持ってここに戻ってきてくださいね」

ランスがそう言うと、ラムダは右手の親指を立ててみせた。

「ん、了解。お前も頑張れよ!」

「言われなくてももちろん、力を尽くしますよ」

「相変わらず一言多いな。……じゃあ、後でな」

ラムダはそう言って軽く手を振って、部下たちについていった。
 ▼ 339 AYr1xkow/g 17/08/14 19:25:58 ID:.Pqi2zgM [8/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスは自身の持ち場に向かい、階段を降りてラジオ塔の廊下を歩いていた。すると、反対方向から三人の構成員が歩いてくるのが見える。三人はランスに気がつくと、声をかけてきた。

「ひゃひゃひゃ!久しぶりだな、幹部のランス様!」

「あ、久しぶり」

「お久しぶりです!」

その三人は、かつて同室で生活していた二人の先輩と一人の後輩だった。元々は四人全員プロトンの班に所属していたのだが、プロトンが除籍されランスが幹部になってからは、三人はラムダの班へと移動になった。それゆえにほとんど会うことはなくなったのだった。

「ええ、お久しぶりです」

ランスも挨拶を返した。ランスが幹部に昇進してすぐ、先輩の二人は敬語を使うべきかどうか悩んでいたが、面倒だったランスは今まで通りでいいと伝えたことが、今となっては懐かしい。

「ひゃひゃひゃ!こいつガチガチになってるから、緊張ほぐしてやってくれよ!」
 ▼ 340 AYr1xkow/g 17/08/14 19:26:37 ID:.Pqi2zgM [9/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あの奇妙な笑い声が特徴的な男が言う。見れば、もう一人の先輩の顔が強張っている。

「緊張することは悪いことではありませんよ。……それにしても、ちょっと緊張しすぎではありますが」

ランスは先輩の男を見つめながら冷静に言った。すると、先輩はビクビクしながら口を開く。

「お、おおお俺……復活宣言係に任命されちまったんだよ……!」

ランスは目を丸くした。

「一体なぜあなたが?」

思わずそんな言葉が口から飛び出してしまう。

「ひゃひゃひゃ!失礼かよ!」

「いやほんとなんでだろう?俺が一番分かんねえよ!」

彼は「恐れ多いわ!」と喚いている。話を聞くと、どうやらアポロが任命したらしい。アポロの考えることはよく分からない、とランスは心の中でこっそり呟いた。
 ▼ 341 AYr1xkow/g 17/08/14 19:27:47 ID:.Pqi2zgM [10/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「いやまあ、もちろん、ちゃんとやるよ。大切な任務だ……。落ち着け、落ち着け俺」

先輩が深呼吸をしながら言う。

「自分も、入り口付近担当になったんで。責任重大ですね。侵入者が来たら、すぐに連絡しないといけませんし!」

後輩もそう言った。

「ひゃひゃひゃ!俺もアジトで侵入者に負けちまったからな、気を引き締めないとな!」

三人はそう言って、各々の士気を高めている。

そうだ。あと少し、あと少しでロケット団はついに正式に復活する。ラジオを利用して、復活宣言を全国中に放送するのだ。

過去の栄光を取り戻すために。そして、どこかで聞いているかもしれないサカキに声を届けるために。
 ▼ 342 AYr1xkow/g 17/08/14 19:28:50 ID:.Pqi2zgM [11/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスは三人に「力を尽くしましょう」と声をかけると、別れを告げ、自分の持ち場へと再び歩き出した。

そして三階にあるスタジオの隣の小部屋にたどりついた。

ランスは部屋に入ると内側から鍵を閉めた。ここの鍵は誰が持っているのかは分からない。恐らく局長だろう。つまり、侵入者はラジオ塔に入りこむことができても、局長を探し出さなければ展望台までたどりつけないということだ。

ランスはそのまま部屋にある階段を登り、四階に上がると、自分の持ち場に着く。

「……」

ランスは小さく息を吐いた。

そろそろ、頃合いだ。
 ▼ 343 AYr1xkow/g 17/08/14 19:31:06 ID:.Pqi2zgM [12/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……あー」

部屋に備え付けられたスピーカーから緊張している声が聞こえる。どうやらマイクテスト中のようだ。普段はあまり笑うことのないランスの口の端も、思わずかすかにつり上がる。

「……我々は泣く子も黙るロケット団!」

声の主は高らかに続ける。

「組織の建て直しを進めた三年間の努力が実り、今ここにロケット団の復活を宣言する!」

ああ、とうとうこの日が来たのだ。

「サカキさーん!……聞こえてますー?……ついにやりましたよー!ボスは今どこにいるんだろう……?ラジオを聞いてるかなあ……」

ラジオから聞こえてくる声は、徐々に小さくなっていった。

聞こえてくるのは先輩の声だ。それにしても、一体なぜ彼がこの復活宣言をする役に抜擢されたのだろうか。再び疑問が湧いてくる。アポロの考えることはやはりよく分からない。

ランスはただ黙ってラジオ放送を聞いているだけ。

ボスは聞いてくれているのだろうか。この声は、ロケット団の声は届いているのだろうか。

ボス、私もあなたに伝えたい言葉があるのです。

だからサカキ様。どうか、戻ってきてください。
 ▼ 344 AYr1xkow/g 17/08/14 19:31:33 ID:.Pqi2zgM [13/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
外はどうなっているのだろう。ラジオを聞いた者たちは、何を感じただろう。

恐れ?嘆き?それとも――怒り?

ランスはじっとただ一点を見つめ、身じろぎひとつせずに待機している。背後のガラス越しに強烈な視線を感じるが、ランスは無視していた。いつもなら当たり障りのない言葉をかけて適当に喜ばせてやっているところだが、今はそれどころではない。それに、本当はああいう女の相手をするのは面倒なので嫌いなのだ。

やがて、ラジオ塔内がざわつき始めた。通信機から声が聞こえる。どうやら、侵入者が現れたらしい。ランスは冷静に返事をし、瞳を閉じて神経を研ぎ澄ます。

ここで負けるわけにはいかない。負けるわけにはいかないのだ。
 ▼ 345 ギギアル@いんせき 17/08/14 21:54:09 ID:b4SXFZD2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 346 AYr1xkow/g 17/08/15 02:04:37 ID:9uUYbGE6 [1/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
階段を上がる音がする。

その足音は、思ったより軽い。侵入者はどうやら小柄なようだ。

その足音には強い意志が感じられた。一歩一歩踏みしめるように、しかし急ぎながら、足音はどんどん近づいてくる。

ランスは腰につけたモンスターボールに手をかけた。

ここまでやってくるとは、本当に大したものだ。

ならばこちらも本気で迎え撃ってやらなければ。
 ▼ 347 AYr1xkow/g 17/08/15 02:06:08 ID:9uUYbGE6 [2/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
侵入者は、ポケモンを後ろに連れていた。階段を登りきると真っ直ぐ進み、五階へと繋がる階段へと向かおうとする。前を向いて歩く彼は、ランスよりもずっと小さい。そう、子供だ。

「お待ちなさい!」

ランスは鋭い声を出した。子供が振り返る。瞬間、ランスは「……おや?」と声を上げる。

やはり、そうだったのだ。後ろのポケモンを見てもしやとは思ったが、ずっと感じていた嫌な予感は当たっていた。きっと、アジトに侵入したのもこの子供なのだろう。

ランスはわざとらしく首を捻り、顎に手を当て、子供を冷たい瞳で見下ろした。そう、あの時と同じように。

「君は確かヤドンの井戸で我々の作戦を邪魔してくれた……」

そう言いながら、少年の方へとゆっくり歩いていく。
 ▼ 348 AYr1xkow/g 17/08/15 02:07:01 ID:9uUYbGE6 [3/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
少年はランスの顔を見上げ、睨みつけた。身長は三十センチメートルは違うだろう。まだ幼い。十一歳くらいの少年だ。

少年の目は、ヤドンの井戸で戦った時と同様、本気だった。屈する気配は感じられない。

「なるほど……そうまでして私を怒らせたいのですね……」

とうとうここまで来たのだ。あと少しでロケット団は復活するのだ。邪魔されてなるものか。相手が子供であろうと変わらない。それを止めたいのなら、それなりの覚悟が必要だ。この少年だって覚悟を決めてここまでやってきたのだろう。

そうだ、絶対に邪魔させない。ロケット団は、ランスにとってのすべてだ。復活させる。絶対に取り戻す。そう決めたのだ。三年前に、三人の同胞と共に誓ったのだ。

「いいでしょう」

ランスの表情は怒りのあまり引きつっていた。ランスは完全に「怒り」の使い方を忘れていた。この怒りは、手段ではない。ランスのありのままの感情だ。

「お望み通りロケット団幹部の怒りを見せてさしあげますよ!」
 ▼ 349 AYr1xkow/g 17/08/15 02:08:29 ID:9uUYbGE6 [4/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスはモンスターボールからゴルバットを繰り出した。少年も背後のポケモンではなく、モンスターボールからポケモンを繰り出す。現れたのは、なんと赤いギャラドスだった。

ランスは無言でギャラドスを見上げた。この子供は、ランスをとことん怒らせたいようだ。アジトに侵入したのもこの子供なのだと、ランスは今度こそ確信した。

「ゴルバット、あやしいひかり!」

「ギャラドス、たつまきだ!」

ギャラドスは少年に指示され、竜巻を起こした。ゴルバットは飛び回って竜巻を避け、ギャラドスの顔までやってくると、目の前で光を発する。ギャラドスは目を何度も瞬いた。そして、どこかへ飛んでいく光を追ってキョロキョロと目を忙しなく動かし、大きな体を動かして追いかける。成功だ。

「ゴルバット、かみつく」

ランスは冷静に指示を出した。ゴルバットは混乱して動き回るギャラドスの背後に回り、がぶりと噛みつく。ギャラドスは痛みに呻き、振り返った。ゴルバットはその隙を見てまた背後へと飛んでいく。
 ▼ 350 AYr1xkow/g 17/08/15 02:09:51 ID:9uUYbGE6 [5/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「つばさでうつ!」

ランスの声にゴルバットは素早く反応し、翼を思いきりギャラドスの背中に叩きつけた。ギャラドスはまたも呻く。

ギャラドスはゴルバットを払いのけようとしたのか、大きく尾ビレを振り上げた。しかし混乱しているせいか、尾ビレはまったく見当違いな方向へ行き、ギャラドスはバランスを崩してその場に倒れこんだ。

「ギャラドス!落ち着くんだ!」

まったく攻撃できていないギャラドスを見て、少年は慌てて声を上げる。ランスはいい気味だと思いながら更に指示を出した。この子供は実験に使用したポケモンを奪っていったのだ。徹底的にぶちのめしてやらないと気が済まない。

「ゴルバット、さっさと終わらせてやりましょう。つばさでうつ!」

ランスの声を聞いたゴルバットは高く飛び上がった。そして、未だ起き上がることのできないギャラドスの顔面めがけて猛スピードで降下し、勢いをつけたまま翼を打ちつけた。

ギャラドスはそのまま動くなり、戦闘不能状態になってしまった。少年は悔しそうな顔でギャラドスをボールに戻してランスを睨む。ランスは澄まし顔で応えた。
 ▼ 351 AYr1xkow/g 17/08/15 02:10:25 ID:9uUYbGE6 [6/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
少年は今度は可愛らしいポケモンを繰り出してきた。モココだ。あの時のメリープが進化したものだろう。

「モココ!でんきショックだ!」

少年は焦っているのか、メリープを出した瞬間叫んだ。しかし、ゴルバットの方が素早い。モココの起こした電流を飛んでかわすと、ランスの「ゴルバット、あやしいひかりです!」という声に合わせ、ゴルバットは光を発生させた。

光はくるくると回りながらモココの方へと降りていく。モココは光を追いかけてその場を回り、目を回してしまった。今度も成功。

「ゴルバット、かみつく!」

ゴルバットはモココの尻に噛みついた。モココが痛みに叫ぶ。

「モココ、大丈夫だ。でんきショック!」

少年は指示を出したが、モココはまだ目を回してフラフラと動き回っている。

「ゴルバット、つばさでうつ!」

ゴルバットはもう一度飛び上がって体勢を整え直すと、モココの体に翼を打ちつけた。ゴルバットの翼が、モココの綿毛に触れる。パチッという音がして、ゴルバットはその場で硬直し体を震わせた。どうやら、せいでんきで麻痺してしまったらしい。
 ▼ 352 AYr1xkow/g 17/08/15 02:11:01 ID:9uUYbGE6 [7/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ゴルバット、耐えてください。もう一度つばさでうつ!」

ランスはそう言ったが、ゴルバットは危なげに飛んで苦しそうにしていた。体が痺れているので上手く飛べないのだ。ゴルバットが動けずにいる間に混乱が解けたのか、モココはゴルバットに向き直りこちらを睨みつけてきている。

「モココ、でんきショックだ!」

モココの攻撃はゴルバットに直撃した。ゴルバットは痺れが治らずかなりダメージを受けている。しかし、ランスは厳しく指示を出した。

「ゴルバット、飛ぶのです。つばさでうつ!」

ゴルバットはランスの言葉を聞いて、苦しそうながらも羽ばたいて高度を上げた。そう、ゴルバットの主人は決して優しくない。ゴルバットももう分かっていることだ。
 ▼ 353 AYr1xkow/g 17/08/15 02:12:53 ID:9uUYbGE6 [8/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ゴルバットはモココの元まで飛んでいき、翼を叩きつけた。モココはきゃん、と可愛らしい鳴き声を上げ、倒れた。少年は唇を噛みしめてモココをボールに戻し、「ごめんなモココ。お疲れ」と声をかけた。

二匹のポケモンを瀕死にされた少年は、鼻から息を吐いた。そして、拳をぎゅっと握りしめる。ランスが黙ってそれを眺めていると、少年は後ろを振り向いた。そして、そこで待機していたポケモンに声をかける。

「バクフーン。頼んだ!」

バクフーンと呼ばれたポケモンは頷いた。そして、ゴルバットの前へとやってくる。このポケモンも、以前戦ったポケモンが進化したものだろう。

バクフーンはゴルバットの前までやってくると、体に力をこめた。すると、首の周りから炎が燃え上がる。バクフーンは威嚇するように鳴き声を上げた。

「バクフーン!ふんえん!」

少年が言うと、バクフーンは再び体に力をこめた。首の周りの炎が更に激しく燃え上がり、火が噴出してきた。凄まじい勢いだ。飛び出した火がゴルバットに当たる。ゴルバットは地面に叩きつけられ、そのまま力尽きた。

このバクフーンは強い。今までのポケモンとは違う。ランスはそう確信した。ゴルバットをボールに戻し、もうひとつのボールを投げる。

「マタドガス!行きますよ!」

マタドガスは体に空いた穴と口と鼻から異臭のするガスを吐きながらボールから出てきた。ランスは少年を見つめる。少年は怒っている。しかし、その顔には希望も感じられる。見れば分かる。大して辛い経験もしたことのない小童だ。ああ、見れば見るほど腹が立つ。

「私をこれほどまでに追い詰めるとは……!」

ランスは歯を食いしばりながら声を絞り出した。
 ▼ 354 AYr1xkow/g 17/08/15 02:13:40 ID:9uUYbGE6 [9/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「バクフーン!スピードスター!」

バクフーンは正確にマタドガスに狙いを済まし、攻撃を当てた。マタドガスはまともに攻撃を受けてふらつき、思わず落ちそうになってしまう。かなりダメージを受けてしまったようだ。

「マタドガス、ヘドロこうげき!」

マタドガスは持ち直すと、口からヘドロを吐き出してバクフーンにかける。バクフーンは気持ち悪そうな声を出した。濡れたヨーテリーのように体を震わせ、ヘドロを払う。毒状態にはならなかったようだ。

ランスはむむ、と唸った。それから口元を引きつらせ、ピクピクと口の端を震わせながら「なんて奴!」と呟いた。言葉遣いが荒くなっていることには気付いていない。
 ▼ 355 AYr1xkow/g 17/08/15 02:14:10 ID:9uUYbGE6 [10/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「バクフーン!次で決めよう!ふんえんだ!」

少年が叫ぶ。バクフーンは力強く頷き、マタドガスに向き直ると体に力をこめた。

まずい。あの攻撃をもう一度受ければ、きっと負けてしまう。子供に負けてしまう。ロケット団の邪魔をする者に負けてしまう。この私が負けてしまう!

「マタドガス!よけ――」

ランスは叫んだ。しかし、言い終わる前にバクフーンの首の周りから炎が大きくなり、辺り一面に火を撒き散らした。マタドガスはまたその炎を受け、熱さに呻きながらよろよろと浮かんでいたかと思えば、やがて落ちて戦闘不能になってしまった。
 ▼ 356 AYr1xkow/g 17/08/15 02:15:46 ID:9uUYbGE6 [11/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスは愕然とマタドガスを見下ろす。

負けてしまった。小さな子供に、同じ相手に、ロケット団の行く道を阻む者にまた負けてしまった……。

ランスはマタドガスをモンスターボールに戻した。そして無言で腰にボールをつけながら息を吐く。

「ふぅぅ……」

音が聞こえるほど大きく息を吐いていたらしい。ただ、そのおかげで少し冷静になることができた。ランスは、自分が我を忘れていたことにやっと気がついた。

悔しげに少年を睨みつける。少年と目が合った。二人は数秒間無言で睨み合う。ランスは唇を震わせながら口を開いた。
 ▼ 357 AYr1xkow/g 17/08/15 02:16:43 ID:9uUYbGE6 [12/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「私に勝ったところで、所詮はロケット団の怒りを強めただけですよ……」

ランスの発した言葉は、ただの負け惜しみだった。

少年はランスを睨みつけたまま数歩後ろに下がった。そして、バクフーンを労わりながら駆けていく。少年は振り向きもせずに、真っ直ぐに進んでいった。

部屋に鈍い音が響き渡った。ランスが拳を思いきり後ろの壁に叩きつけた音だ。

ランスはそれから、深い溜息をつきながら壁に体をくっつけてずるずるとその場に座りこんだ。
 ▼ 358 AYr1xkow/g 17/08/15 02:20:25 ID:9uUYbGE6 [13/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
十一歳の少年だった。今も。三年前も。ランスの居場所を奪っていったのは、勇気と希望に満ち溢れ、明るい未来の待っている十一歳の少年だった。

あの時、ランスは十一歳の少年だった。すべてを失い、サカキに試され、拾われ、ロケット団に入ったのは十一歳の少年だった。

悔しかった。何が変わればこんなことにならずに済んだのだろうか。一体何が悪かったと言うのだろう。信念があったとしても、世の中で悪とされる立場にいる限り、どうしても天は味方してくれないらしい。でも、じゃあどうすればよかったと言うのだ。父が騙されて借金も背負わされてしまうようなことのない抜け目ない人間であればよかった?あの時、サカキの誘いを断ればよかった?

そういえば、あの少年はアジトに来た時に青年の仲間を連れていたという。ランスにもそうやって、正しい道へと導いてくれるような存在がいればいたのだろうか。かつて十六番道路で声をかけてくれた、あの青年のポケモンを盗まずについていけばよかったのだろうか。

今まで、過去のことを後悔したことは一度もなかったが、ランスはふとそんな疑問にかられた。

すべてを失ったシママは、美しく、素早く、賢いゼブライカに進化した。それでも、結局失ったものは失ったままなのだ。
 ▼ 359 AYr1xkow/g 17/08/15 02:21:52 ID:9uUYbGE6 [14/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
後悔してもしきれない。そもそもこれは後悔なのだろうか。それさえも分からなかった。すべてを与えてくれたはずのサカキは、もうここにはいない。ラジオも聞いていないのではないかと思えた。

ランスがサカキに伝えたいこと。それは、怒りだった。サカキに対する強い怒りだった。

ランスはかつてサカキにロケット団で最も冷酷な男だと言われた。しかしそれは違う。サカキに教えられた通りに動いた結果、冷酷に見えただけである。怒りをエネルギーに変えて行動していたら、そのように見えただけである。

ランスは、自分が冷酷だと思ったことは一度もなかった。自分なんかより、サカキの方がよっぽど冷酷だ。だって、こんなにも呼んでいるのに、戻ってきてくれないのだから。
 ▼ 360 ゲツケサル@カロスエンブレム 17/08/15 13:17:55 ID:olvHt6D6 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援…
 ▼ 361 RIVER◆zFLCCAWaiw 17/08/15 13:20:20 ID:B3k6xIos NGネーム登録 NGID登録 報告
サカキのセレビィイベントって主人公が負けたら何度でもやり直しになるんだよね……

確定で詰んでるロケット団の悲しみ

支援
 ▼ 362 ャラランガ@にじいろのはね 17/08/15 15:11:03 ID:HhGzI2mI NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 363 AYr1xkow/g 17/08/16 00:14:52 ID:aJ09toHQ [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
どれくらいの時間が経っただろうか。

一瞬のようにも、永遠のようにも感じられた。

力なく座りこんだままのランスの耳に、通信機の音声が聞こえてくる。

「――りました。サカキ様がそうしたように」

アポロの声だ。誰かに語りかけているような口調だ。きっとあの子供と話しているのだろう。話している途中で通信機をつけたのだろうか。

ランスはそれ以上聞きたくないと思った。アポロの声を聞けば分かる。最悪の結果となったのだ。

「私たちロケット団は、ここで解散しましょう」

ああ、そんな。

「さらばです」
 ▼ 364 AYr1xkow/g 17/08/16 00:16:13 ID:aJ09toHQ [2/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロケット団の団員たちが、逃げ惑っている。通信機でアポロから撤退命令が出たからだ。

ラジオ塔を降りていると、アテナとラムダに会った。三人は無言のまま歩いていく。

ラジオ塔の外に出ると、コガネシティは部下たちに溢れており、混乱状態だった。命令通り逃げている者もいれば、迷っている者もいる。立ち尽くしている者もいた。

背後から足音が聞こえ、三人はほぼ同時に振り向く。やってきたのはアポロだった。

「……私の責任ですね」

アポロが呟く。

「最高幹部である私が、責任を取らなければ」

アポロの言葉に、三人はそれぞれ何かを言おうと口を開いた。
 ▼ 365 AYr1xkow/g 17/08/16 00:17:37 ID:aJ09toHQ [3/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「嫌よ、何を言ってるの。やめてちょうだい……」

アテナは涙声になっていた。

「そうだぜ。自分が一番偉いアピール、やめろって言ってるだろ」

ラムダがやるせなさの残る声で言う。

「……私たちも、同じですよ。立場も、罪の重さも」

ランスも悲痛な声を出した。

そうだ、三年前にこの四人で誓ったのだ。ロケット団を復活させると。

どこまでも行くつもりだった。でも、限界があった。そしてランスたちは、ロケット団は限界を知ってしまったのだ。もうこれ以上、上には行けない。過去の栄光を取り戻すことはできない。サカキを呼び戻すことはできない……。
 ▼ 366 AYr1xkow/g 17/08/16 00:18:22 ID:aJ09toHQ [4/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
どこからか、パトカーのサイレンが聞こえてくる。団員たちは本格的に逃げ始めた。かつての同室だった先輩や後輩はもう逃げ切っただろうか。ランスのことを特に好いていたあの女の部下はどうだろう。今もどこかでランスを見ていて、早く逃げてください!と声をかけたそうにしているかもしれない。

でも、そんなことはもう、どうでもいい。

四人は、逃げる部下たちとは反対方向へと歩いていった。

すべてがスローモーションのように感じられる。

「我々は、泣く子も黙るロケット団……」

誰かが呟いた。ラムダの声だろうか。アテナの声のようにも聞こえた。いや、アポロの声だったか。もしかしたら、ランスの声だったかもしれない。それとも、幻聴だろうか。
 ▼ 367 AYr1xkow/g 17/08/16 00:20:02 ID:aJ09toHQ [5/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ああ、サカキ様。

結局、私たちの声はあなたに届かなかった。

あなたは冷酷な方だ。あなたのことを待っている部下たちがこんなにいるのに、大事なことは何も告げずに去っていって、戻ってきてもくれないなんて。私なんかよりずっと、あなたの方が冷酷です。

……でも、それでも、私はロケット団で最も冷酷と呼ばれた男ですから。ロケット団の幹部ですから。諦めきれないのです。どんなに怒りを感じていても、あなたのことを。組織のことを。

だから、あなたがいつかまたロケット団を復活させてくれたとしたら。私たちに「戻ってこい」と何らかの手段で伝えてくれたとしたら。

私たちは四人とも、どこまでもついていきます。独房なんてどんな手段を使ってでも抜け出して、またあなたの元へと馳せ参じますよ。

ですから、待っています。待たせてください。どうしても、待ってしまうのです。
 ▼ 368 AYr1xkow/g 17/08/16 00:20:47 ID:aJ09toHQ [6/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロケット団の四人の幹部は、人で溢れる混乱状態のコガネシティの中を、何にも阻まれることなくゆっくりと歩いていく。

やがて、コガネシティに四台のパトカーが入ってきた。

〈了〉
 ▼ 369 ィオネ@しんかのきせき 17/08/16 00:48:08 ID:DQz4l6k. [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
お疲れ様でした!
素晴らしいSSをありがとうございます!
 ▼ 370 RIVER◆zFLCCAWaiw 17/08/16 01:10:19 ID:HJ0F.cC2 NGネーム登録 NGID登録 報告
乙です

地の文がすごかった
 ▼ 371 ニューラ@こころのしずく 17/08/16 01:11:59 ID:OX37.8vY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
語彙力? に感動
イッチお疲れ様!!!
 ▼ 372 AYr1xkow/g 17/08/16 01:28:51 ID:aJ09toHQ [7/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
最後まで読んでくださりありがとうございます
ランスは人間キャラでも特に好きなキャラのうちの一人です
明らかに一番若いので、他の三人と比べてサカキとの接点はあまりなさそうだと勝手に解釈していたのですが、このSSでは逆に接点ありまくりにしてみました
ロケット団幹部は地味ですがいいキャラしてると思うのです

余談ですが、ロケット団の3DSテーマ最高だと思いませんか?
四人の幹部とボスが一緒にいるのです、初めて五人が一緒にいるイラストを見て本当に泣きそうになりました
後ろにいる下っ端たちは緑髪なので、FRLG時代のロケット団なんですね

ロケット団幹部たちのことを好きになってくれる方が増えたら嬉しいなと思います
最後までお付き合いくださり本当にありがとうございました!
 ▼ 373 リゴン2@スピードパウダー 17/08/16 01:30:44 ID:DQz4l6k. [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
この作者のとあるSSのファンであるこの私は
この作者が次にどんなSSを書くかを把握している
誠に楽しみである
 ▼ 374 ャランゴ@ふといホネ 17/08/16 02:17:47 ID:/3iTxVFg NGネーム登録 NGID登録 報告
イッチさんお疲れ様でした。
元々ポケモンの悪役が好きな私ですが、このSSを観てゲームでは見られないロケット団の一面が見えました。
想像力も語彙力も素晴らしく(ヒガナさんも納得しそう)、話を読んでいるだけで物語が脳内再生されるようで、とても楽しい一時を過ごせました。
アクア、マグマ、ギンガ、白プラズマ、黒プラズマ、フレアも
掘り下げていって欲しいなと思います。

次回作も胸を高鳴らせて待っています。
本当にありがとうございました!!
このページは検索エンジン向けの機能制限版の旧ページです。
下URLから閲覧下さい。
https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=503492
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