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【SS】「私はロケット団で最も冷酷と呼ばれた男」

 ▼ 1 AYr1xkow/g 17/01/15 14:58:17 ID:THPX.20A NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……あー」

部屋に備え付けられたスピーカーから緊張している声が聞こえる。どうやらマイクテスト中のようだ。普段は笑うことのない男の口の端が、かすかにつり上がった。

「……我々は泣く子も黙るロケット団!」

声の主は高らかに続ける。

「組織の建て直しを進めた3年間の努力が実り今ここにロケット団の復活を宣言する!」

ああ、とうとうこの日が来たのだ。

「サカキさーん!……聞こえてますー?……ついにやりましたよー!ボスは今どこにいるんだろう……?ラジオを聞いてるかなあ………………」

ラジオから聞こえてくる声は、徐々に小さくなっていった。

確かあの構成員は、確かラムダの班の者だったか。男より年上だが、立場は下だ。一体なぜ彼がこの復活宣言をする役に抜擢されたのだろうか。アポロの考えることはよく分からない。

男はただ黙ってラジオ放送を聞いているだけ。

ボスは聞いてくれているのだろうか。この声は、ロケット団の声は届いているのだろうか。

ボス、私もあなたに伝えたい言葉があるのです。

だからサカキ様。どうか、戻ってきてください。
 ▼ 235 AYr1xkow/g 17/07/14 00:01:32 ID:P7HP68Fg NGネーム登録 NGID登録 報告
「ま、待ってくださいサカキ様!」

「えっ、そんな、えっ」

「解散?解散って言った?」

「サカキ様!サカキ様!撤回してください!」

「まだ娘が幼いのに……」

「やだぁ……解散なんてやだ!」

「ねえ、よく聞こえなかったんだけど解散ってマジ!?」

「サカキ様が決めたんだぞ!ごちゃごちゃうるせえんだよ!」

「サカキ様ー!サカキ様ー!」

「は?これからどうしろって言うの」

「ロケット団は!永久不滅!」

「解散!?意味分かんないんですけど!」

「サカキ様戻ってきてください!」

「え……うそ……は……?」

「サカキ様!待って!サカキ様!」
 ▼ 236 AYr1xkow/g 17/07/16 21:01:15 ID:32Y44QB2 [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それからのことは、あまりよく覚えていない。

最後、サカキと目があった。サカキの瞳はいつになく弱々しげに見えた。申し訳なさそうにも見えた。しかし、サカキは必要以上の言葉を一言も発さないままロケット団アジトを出ていってしまった。

騒ぐ者、途方にくれる者――反応は様々だ。泣いている者もいる。ランスも同じ気持ちだった。突然だ。何がどうなっているのかさえ分からないまま、解散を宣言されるなんて。

とはいえ、この混乱状態の中のロケット団をまとめられる人物は、自分ともう一人、ラムダしかいない。二人は考える暇もなく動かなければならなかった。

呆然としていると、ふと、ラムダと目が合う。ラムダも愕然としていたが、ランスと目が合ったことで少しだけ冷静になれたようだ。

「おいお前ら!早く逃げねえとポリ公が来んぞ!」

ラムダが叫ぶ。

「聞こえたろうが!解散だよ解散!さっさと出てけ!」

ラムダの声は、泣いているようにも聞こえた。
 ▼ 237 AYr1xkow/g 17/07/16 21:02:03 ID:32Y44QB2 [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラムダの声に触発されてアジトから逃亡しようとする団員たちを掻き分け、ランスはラムダの元へ向かった。

「ラムダ……!一体……どういう……!?」

ランスは騒々しいアジトの中、大声でラムダに話しかける。ラムダはランスの声を聞くと、無理しているような笑顔で言った。

「解散ってことは、多分どうしようもねえ状況なんだろ。アジトの場所もなんもかんも割れてるだろうよ。今はとりあえず、こいつらを逃がしてやるのが先だ」

「ら、ラムダは……」

ランスは息も絶え絶えに言った。正解が分からない。どうすればいいんだ?こんなこと、考えたこともなかった。

「こ、このままでいいのですか?引き止めなくていいのですか?わ、私たちは……」

ランスが言葉を詰まらせる。すると、ラムダは力強く言った。

「いいわけねえだろ」
 ▼ 238 AYr1xkow/g 17/07/16 21:02:50 ID:32Y44QB2 [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「いいわけねえ」

ラムダは繰り返した。

「俺だって納得いかねえよ。でも……解散ってサカキ様が言われたんだから、解散なんだ。あのお方は簡単には意志を曲げない……お前だって知ってるだろうがよ」

ラムダが言う。ランスは顔をしかめて俯いた。

「私が……私が二度も失敗したからです。だからこんな事態を招いてしまった」

オツキミ山でもポケモンタワーでも、例の子供に邪魔をされた。責任は幹部である自分にある。もしかしたら、役立たずだと思われたからシルフカンパニーに連れていってもらえなかったのかもしれない。あの場で何があったのか、ランスも詳しいことは知らないのだ。

「おい、あんま自分を責めるな」

ラムダがそう言って、ランスの両肩に手を置く。

「だいたい、お前がいなかったならなぁ、今頃まだプロトンの奴が調子乗っててなんかやらかして、俺ら絶対自滅してたぞ」

「……」

ランスは唇を噛みしめた。
 ▼ 239 AYr1xkow/g 17/07/16 21:03:37 ID:32Y44QB2 [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
周りは悲鳴やら怒号やらでうるさいはずなのに、なぜか静かに感じる。ランスの耳にはただ、ラムダの声だけが聞こえていた。

「お前が成功させた仕事だっていっぱいあるだろうが。それにお前が頑張ってなけりゃ俺だってここにいなかっただろうしな」

「……はい」

ランスは震える声でそう返して頷いた。それから小さな声で、

「アポロやアテナはどうしているのでしょう?」

ランスの質問に、ラムダは手を離すと微妙な顔をして考えるように視線を逸らした。

「どうだかなー、あいつら。サカキ様が連絡をしてくださってるんなら、知ってるだろうけどよ。その手段が断たれでもしてたら、まあ、伝わってないんじゃねえか……」

ラムダの声が徐々に小さくなっていく。ランスも黙っていた。
 ▼ 240 AYr1xkow/g 17/07/16 21:06:06 ID:32Y44QB2 [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「なあランス、俺はな。前も言ったけど、このロケット団が好きなのよ」

逃げ惑う構成員たち。何人かは現状を把握できず、ただ力なく立ち尽くしている。

「サカキ様はご考えがあってあんなこと言ったんだろうけどよ、俺は納得できてねえ。言った通りだ。このままじゃよくない」

ラムダはそう言うと、制服のポケットに手を突っ込んだ。それからごそごそと動かし、手を出す。握られていたのは、煙草のボックスとライターだ。

ラムダはボックスを開いた。しかし、そこには一本も煙草は入っていなかった。

「……クソッ」

ラムダは悪態をついて、空の煙草ボックスを投げ捨てた。最後なのだから、アジトで煙草を吸ってもいいだろうと思ったようだが、やはり許されないようだ。とはいえ、ラムダはアジト内は禁煙というルールを守ったことはないけれど。

ラムダは溜息をつくとランスの顔を見て、それから胡散臭い笑みを浮かべてみせる。

「達者でな、ランス。また会おうぜ」
 ▼ 241 AYr1xkow/g 17/07/20 00:11:24 ID:I.XoEyi. [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
タマムシゲームコーナーに、一人の青年がやってきた。

現在店主を務めている男は、受付の裏にある部屋に青年を案内した。

緑色の髪をした背の高い青年は、キャップを目深に被っており、顔が見づらい。しかし、所謂イケメンであることは店主もなんとなく察した。

店主は青年の持ってきた履歴書をテーブルに置くと、青年に座るように促した。青年が椅子に腰かけると、店主もその向かいの椅子に座る。

「えーと……カレンくん、19歳ね。……変わった名前だね?」

店主が履歴書を見ながら言う。カレンと呼ばれた青年は顔を動かさず、目線だけ動かして店主の顔を見た。

「そうですか?」

「女の子みたいな名前だね」

カレンは無言だった。店主はカレンが怒ったと思ったのか、慌てて取り消すように手を振りながら、

「いや、いやいや!変な意味じゃないからね。素敵な名前だよ。君、シュッとしてるし、雰囲気に合う」

カレンは特に何も言わなかった。店主は咳払いをして続ける。
 ▼ 242 AYr1xkow/g 17/07/20 00:12:57 ID:I.XoEyi. [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「実は、ここだけの話なんだけど……」

店主が声を落とす。カレンも思わず首を縮めて顔を店主に近づけた。

「うちは元々ロケット団と繋がっていたんだ。だけど、ほら、解散しただろう?だから後ろ盾がなくなってしまってね、今は経営難に陥ってるところなんだ」

店主が溜息をつく。

「ここは人気だからね。取り壊すのは忍びない。でも、今後どうなるかも分からない。それでも大丈夫かい?」

カレンは頷いた。

「構いません」

店主はほっとしたような顔を浮かべた。

「ありがとう。従業員も減ってしまってね……苦労してたところなんだ。本当に助かるよ」

店主がそう言ったところで、部屋の扉が開いた。入ってきたのは若い女性従業員だ。
 ▼ 243 AYr1xkow/g 17/07/20 00:13:54 ID:I.XoEyi. [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「新人さんですか?」

女性従業員が問う。

「うん。君の二歳年下だよ。カレンくん、彼女はリンゴちゃん。一番歳の近い先輩だから、仲良くできると思うよ」

カレンが顔を上げて、リンゴに小さく礼をする。リンゴはカレンを一目見た瞬間、嬉しそうな顔をした。

「カレンくんね。よろしくね!」

「リンゴちゃん、俺と話す時よりテンション高くないかい?」

「そんなことないですよー。カレンくん、色々教えたげる。あ、制服は店長が教えてあげてくださいねっ」

リンゴは機嫌の良さそうな声で言った。
 ▼ 244 AYr1xkow/g 17/07/20 00:15:45 ID:I.XoEyi. [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
カレンが店長の指示通り制服に着替えると、リンゴが仕事の説明を始めた。カレンは驚くほど物覚えがよく、まるで来たことがあるのではないかというほどすぐにゲームコーナーに馴染んだ。

「まあ、仕事はざっとこんな感じかな」

あらかた説明を終えたリンゴが、そう言って一息つく。

「カレンくんすごいねー。覚えるの早い!前は何の仕事してたの?」

リンゴの質問に、カレンはしばらく黙って考えた後、

「……なんでも屋みたいなところで働いていました」

自分でも納得がいっていないような表情で答えた。

「何それ!例えばどんなことしてたの?」

リンゴが食いつく。カレンはまたも考えこむ。

「……掃除ですかね」

「ええー!もっと面白いの何かなかったのー?」

リンゴは楽しそうに笑った。
 ▼ 245 AYr1xkow/g 17/07/20 01:04:18 ID:G2MBn7r6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リンゴは話の都合というか華を添えるために登場させているオリキャラです
カレンはお察しの通りオリキャラではありません
 ▼ 246 日ゴロゴロンダ◆XTk1MeLTks 17/07/20 02:12:26 ID:Oe5NHFFo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 247 AYr1xkow/g 17/07/21 01:08:39 ID:vFmSvLAM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リンゴの質問に答えながら仕事をしていると、ふとリンゴが「あっ」と声を上げた。

「どうしました?」

カレンが尋ねる。

「あー、あのね、あの人……」

リンゴは声を落としながら視線だけで一人の客を指した。中年の男性客だ。煙草を吸いながらスロットに向かっている。

「……別に普通じゃないですか?」

カレンがそう言うと、リンゴは意味ありげに笑う。

「んー、まあね」

そう言って、カレンにレジに戻るように目配せした。レジに戻ると、リンゴは待ってましたとばかりに口を開く。

「いつもなんだかそわそわしてるの。それにあんまり打ってないらしいよ。私はよく分かんないんだけどね」
 ▼ 248 AYr1xkow/g 17/07/21 01:09:35 ID:vFmSvLAM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カレンは先程の男の姿を思い出した。カレンが唯一知っている銘柄の煙草を吸っていた気がする。とはいっても、形状が似ているだけかもしれないが。

「最近来るようになったんだよねー。週に三回くらい来てると思う」

「常連なんですね」

カレンがそう言うと、リンゴは曖昧に笑った。

「店長も女子はあんまり近付かないようにって言ってるし。カレンくんは男の子だし強そうだから心配いらなそうだけど、一応気をつけてね」

「分かりました」
 ▼ 249 AYr1xkow/g 17/07/22 00:21:18 ID:mmwEuGLo [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
一週間も経つと、カレンはもう完璧に仕事をこなせるようになっていた。カレンがタマムシゲームコーナーで働くようになってから二週間ほどが過ぎた。店主や他の従業員ともそれなりに打ち解けたところだ。相変わらずリンゴは積極的に話しかけてくる。

「カレンくん、今日終わった後暇?」

この質問も、今週に入って既に三度目だ。

「すみません、今日も用事があります」

カレンがそう言うと、リンゴはぷくっと頬を膨らませた。

「えー、今日も?……もしかしてカレンくん、彼女いる?」

リンゴは恐る恐るといった様子で尋ねた。カレンはといえば、そんな質問は予想外だった、とでも言いたげな表情を浮かべている。

「いませんよ」

「そっか!」

リンゴは明らかにホッとした様子で笑った。
 ▼ 250 AYr1xkow/g 17/07/22 00:22:01 ID:mmwEuGLo [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
カレンはその後男性従業員に指示されて、ゲームコーナー内の見回りに向かった。

今日は火曜日。リンゴに気をつけるようにと言われた男性客は基本的に一日置きに現れる。昨日来ていたので、今日はいないだろう。カレンはさしてその男のことは危険視していなかった。むしろ、とある他の客との関係が気になっていた。

その客も一日置きに現れる。若い、愛想の悪い男性客だ。彼は、中年男性が来ない方の日に必ずやってくるのだ。始めはまるで意識していなかったのだが、彼に飲み物を提供した際に中年男性と同じ銘柄の煙草を吸っていることに気付いた。それ以来、カレンは決して同時に現れることのない二人がなんとなく気になっていた。

ただの偶然かもしれない。しかし、偶然ではない気がするのだ。タマムシゲームコーナーに休業日はない。つまり、二人がやってくる日に曜日は関係ないということか分かる。

例の若い男性客の後ろを通り過ぎる。男性客の煙草の煙がカレンにかかった。
 ▼ 251 クーン@ポイントカード 17/07/23 00:54:59 ID:zLrmazvo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 252 ルノズク@モーモーミルク 17/07/23 12:28:43 ID:HD6xS.mk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 253 AYr1xkow/g 17/07/23 18:05:19 ID:dkbtGtck [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「じゃ、これお店の鍵ね。クローズ作業も、さっき教えた通りだよ。カレンくん、覚え早いからもう問題ないね」

店主がにっこり笑う。

「何かミスしたらすみません」

カレンが前以て謝ると、店主は大きな声で笑った。

「君、ミスしたこと一度もないじゃないか!」

「カレンくんすごーい。二週間でクローズ任せられるなんて。私半年以上かかったよ?」

二人の会話を聞いていたリンゴが口を挟む。きっと、いつ話しかけられるのかうずうずしながら待っていたのだろう。

「それが普通だよ!」

店主がツッコミを入れた。
 ▼ 254 AYr1xkow/g 17/07/23 18:07:31 ID:dkbtGtck [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「あ、そうだカレンくん、もうひとつ。給料入れるための口座、聞いても大丈夫かい?」

店主の言葉に、カレンはなぜか一瞬固まった。それからカレンは、

「……現金で頂くことは可能ですか?」

店主は少し驚いた様子で答える。

「あー、うちは別に大丈夫だよ。じゃあ、了解。現金ね」

「カレンくん口座持ってないのー!?」

リンゴが大きな声で言う。店主はたしなめるような表情でリンゴを見つめた。

「持ってないんです。自分が生きた痕跡は出来るだけ残さないようにしているので」

淡々と答えたカレンに、思わず店主とリンゴは顔を見合わせる。

「何それ!?かっこいー!」

「カレンくん、真顔で面白いこと言うね!」

二人はツボにはまったらしく、しばらく腹を抱えて笑っていた。
 ▼ 255 のぼう◆Hqb4vy9wIU 17/07/25 10:53:14 ID:FknpF66E NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 256 だのオカルトマニア 17/07/25 11:40:27 ID:0alpDZQY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 257 AYr1xkow/g 17/07/27 00:09:50 ID:4i6HcONs [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
カレンがクローズ作業を任されるようになってから三日が経った。

カレンはすべての作業を終えると、私服に着替え、キャップを目深に被った姿で店のシャッターを閉め、近くの自動販売機で買った缶コーヒーを飲みながらしばらく店の前で休憩していた。

「お疲れ、兄ちゃん」

声がして、カレンは振り向いた。見れば、例の常連の中年男性客が煙草を吸いながらこちらへ手を振って歩いてくる。

「毎日よく働いてるねェ」

男はへらへらと笑っている。カレンは目を細め、試すような口調で、

「なぜ私が毎日働いていることをご存知なんですか?あなたが来ていない次の日、私はいないかもしれないのに」

カレンの言葉に、男は思いきり顔をしかめた。

「バレバレかよ」

「ええ、バレバレです」

目の前の男が落胆したような声で言う。カレンは思わず笑いそうになりながら答えた。
 ▼ 258 AYr1xkow/g 17/07/27 00:11:15 ID:4i6HcONs [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ま、お前にバレたところで問題は何もねえんだけどな」

隣にやってきた男はそう言うとふっと力を抜いて変装を解き、煙草をふかす。

「相変わらず分かりやすいですね。一日置きに二人に変装するのは良くないですよ。たまには二日連続で同じ人間として来店したり、来ない日を作ったりしないと、気になります」

カレン、もといランスは少し小馬鹿にした様子で言った。しかしラムダはまったく嫌そうではない。むしろ嬉しそうだった。

「だって毎日来たかったんだもんよ。最初は三、四人に変装することも考えたんだけどな。でも面倒でやめた。どうせすぐ要らなくなると思ったしな」

「そうですね」

ランスも答える。

「でもまさかこんなすぐに会えるとはさすがに思ってなかったわ。お前のことは一目見てすぐ分かったけどな」

「しょうがないじゃないですか、私は変装できないんですから」

ランスがむきになって言う。ラムダはくつくつと肩を揺らして笑った。
 ▼ 259 AYr1xkow/g 17/07/29 12:27:14 ID:MCmG7vGE [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
二人がしばらく他愛もない会話をしていると、暗闇から二人の人影が見えた。

今日だと思ったのだ。それはなんの理由もない、直感からだった。でも、当たっていた。通信機器がなくても、信頼している相手のことは分かってしまうものらしい。

人影はどんどん近付いてくる。片方の人物の歩き方はだいぶ荒々しく、見ていたランスとラムダは不思議そうに首を傾げた。アポロもアテナも、自分たちよりずっと落ち着いた性格をしていたような気がするが。いや、アテナはそうでもないかもしれない。

やがて激昂している様子の方がアポロで、それを宥めるようにして歩いてくる方がアテナだと気付くと、二人は目を丸くしてお互い顔を見合わせた。
 ▼ 260 AYr1xkow/g 17/07/29 12:28:15 ID:MCmG7vGE [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……やはり本当だったのか」

アポロは、シャッター前で立ち尽くす同僚の姿を見て、悔恨と悲壮にまみれた声を絞り出した。

ランスは初めて見る取り乱したアポロの様子に、再会の挨拶もせずに驚いた顔でじっと見つめている。

「たかが子供に……クソッ……」

「アポロ、気持ちは分かるけどちょっと落ち着きましょ、ほら二人に会えたのよ」

アテナがまるで子供をあやすような口調で言う。相当のようだ。

アポロは顔を上げてランスとラムダを見た。それからおもむろに溜息をつく。

「おい、失礼だろ」

ラムダが間髪入れずにツッコミを入れた。
 ▼ 261 AYr1xkow/g 17/07/29 12:29:26 ID:MCmG7vGE [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……、……」

アポロが深呼吸をする。それから、無理をしたような声で口を開いた。

「……すみませんね」

「まー、もちろん同じ気持ちだぜ。気にすんな」

ラムダはそう言うと、思いきりアポロの背中を叩いた。アポロが痛そうな顔をする。ランスは、絶対に仕返しのつもりだろうと思った。

四人は、しっかりと顔を上げ、お互いの顔を見つめた。

「久しぶりですね」

「ええ、一年近く会っていませんでしたから」

「ほんとはもっと早く会いたかったぜ」

「あたくしも、ちょっと寂しかったわ」
 ▼ 262 AYr1xkow/g 17/07/30 00:38:51 ID:UG.Amk6g [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「やっぱりそっちには情報行ってなかったんだな、ナナシマにはよ」

ラムダが少し呆れたような口調で言う。

「ええ、結構前から連絡が途切れていました。トキワジムが復活したことも、その後再び閉鎖したことも知りませんでしたから」

アポロの言葉に、三人は首を傾げる。アポロはその様子を見て、思い出したように付け足した。

「サカキ様は、トキワシティのジムリーダーだったんですよ」

ランスたちの間に、小さなどよめきが走る。

「え……そんなの初めて知りましたよ」

「あたくしも初耳。……そう、再び閉鎖したのね……」

アテナが頬に手を当て、その意味を悟り、寂しげに言う。しかし、ラムダの反応だけは違った。

「かーっ、出たよ、自分が一番サカキ様のこと知ってますアピール」
 ▼ 263 AYr1xkow/g 17/07/30 00:41:54 ID:UG.Amk6g [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラムダの言葉をアポロは無視した。こんな光景も、懐かしい。

「私には考えがあります」

アポロが力強く言った。三人は耳を傾ける。

「ロケット団を復活させましょう。サカキ様を呼び戻すのです」

三人は真っ直ぐにアポロを見つめた。異論なんてない。あるわけがなかった。

「ナナシマへの出張のひとつの目的として、研究していたことがあるのです。研究の途中で帰る羽目にはなりましたが、あらかた終わっています」

アポロは早口になりながら続けた。

「ポケモンを人工的な力で進化させる方法です。利用価値はあるかと」

「またすげーもん持ち帰ってきたな」

ラムダが呑気な声で言った。
 ▼ 264 AYr1xkow/g 17/07/30 00:44:01 ID:UG.Amk6g [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ただ、今後の活動をどうするかですが……」

アポロが少し困ったように言う。その瞬間、ランスは思わず口を開いていた。

「活動拠点をジョウトに移すのはいかがですか?」

三人の注目が一気にランスに向かった。ランスは咄嗟に言ってしまった言葉に自分でも驚きながら続ける。

「隣の地方ですが、カントーで活動を続けるよりは多少目眩しになるかと思いまして。何より以前我々は度々ジョウトにも行っていたので、少しは融通が利きます」

「いいじゃない、ジョウト。紅葉を見に行けるわ、あたくし好きなの」

アテナが無邪気に言う。

「当てはあるのですか?」

アポロが鋭い視線をランスに向けた。
 ▼ 265 AYr1xkow/g 17/07/30 00:48:13 ID:UG.Amk6g [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あります」

ランスは頷いた。かつて昔、すべて持っていた頃のことを思い出しながら。よく世話になった、というよりは、まだ裕福だった頃にむしろよく世話をしていたとある店があるのだ。

「チョウジタウンに小さな土産屋があります。そこには地下室があるのですが、多分、簡単に乗っ取れますよ」

ランスがしれっと言う。土産屋の店主と仲良くしていたのは遠い過去のことだ。もう、どうなったっていい。

「あら、いいじゃない。お土産って何を売ってるの?」

「いかりまんじゅうです」

「お、いいね。俺食べたことねえわ」

「あたくしもないわね」

アテナとラムダが楽しそうに言う。そんな二人を見て、アポロは「では決まりですね」と言った。
 ▼ 266 AYr1xkow/g 17/07/31 15:40:16 ID:TbXrNJo. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……どれくらいかかるかは分かりません。ですが、絶対に成功させてみせます」

アポロが言う。

「ええ。サカキ様に戻ってきてもらいましょ!」

アテナは小さな声で、しかし声高らかに言った。

「当分は資金集めだけどな。一からやり直しだ」

そうは言いながらも、ラムダの口調は楽しそうだ。アポロとアテナが戻ってきたことが嬉しくてたまらないのだろう。

「私もサカキ様に、会ってお伝えしたいことがあります」

ランスも力強く言った。四人は見つめ合い、固く誓う。

いつか必ず、自分たちの手でロケット団を復活させると。
 ▼ 267 AYr1xkow/g 17/08/01 17:32:10 ID:Xdf.b24E [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「カレンくん、遅いなー」

リンゴが心配そうな声で独りごちる。

「無断欠勤するような子じゃないのに。……もしかして、倒れたとか……!?」

リンゴが顔を真っ青にして言った。すると、背後の扉が開き、店主が電話を片手に受付に出てきた。見ると、店主は顔を訝しげにしかめている。

「どうしました?」

リンゴが尋ねる。

「いや、カレンくんと連絡が取れなくてね……。実はこれ、二日目なんだよね」

「え!カレンくん、昨日も来なかったんですか?……やっぱり、具合悪くて電話出られないとかそんな感じですかね?でも、カレンくん真面目だし無理にでも出そうな気もするかも……」

リンゴがぶつぶつと呟く。しかし、店主は首を横に振った。

「いや、そもそも、この電話番号は現在使用できませんってなるんだよ」

「え、うそ……」
 ▼ 268 AYr1xkow/g 17/08/01 17:35:25 ID:Xdf.b24E [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「いやー、これバックレだったらかなり酷いよ……?うちの鍵だって持ってるわけだからね。もしかしてそれが狙いだったのかな……考えてみればちょっと怪しいところある子だったもんな……」

店主が、本人がいないことをいいことに好き勝手に言い始める。しかし、それだけのことを彼はしたのである。

「というか給料日も来てないから今までの分も渡せてないしね!?あんな毎日働いてたのに、やっぱりおかしいよね!?泥棒とかされたらどうしよう!?」

店主が喚く。しかし、リンゴにはその声は届いておらず、呆然と立ち尽くしていた。やがて、勤務中であるにも関わらず、リンゴの瞳には涙が溜まっていった。

「やだ、最悪」

結局、カレンがタマムシゲームコーナーに現れることはそれから二度となかった。
 ▼ 269 AYr1xkow/g 17/08/03 00:10:04 ID:7kFv0/dM NGネーム登録 NGID登録 報告
カレンという名はランスのアナグラムです(Lance→Calen)
本来人名としてあるスペルではないのですが一番それっぽかったのでこれを採用しました
 ▼ 270 リゴン@おおきなねっこ 17/08/03 00:37:32 ID:5NPYFjLo NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 271 だのオカルトマニア 17/08/03 01:02:47 ID:Yw2iDRXg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>269
なるほどアナグラムでしたか
支援
 ▼ 272 AYr1xkow/g 17/08/04 01:18:17 ID:rsN.V/7k [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それから、ランスたちはロケット団を復活させるための地道な活動を始めることとなった。

まずはランスの提案通り、活動拠点をジョウトに移した。チョウジタウンの小さな土産屋も、いともあっさりと乗っ取ることができた。といっても、建物ごと資産を強奪したわけではない。かつてのロケットゲームコーナーのように契約を結んだというだけのことだ。

何事も、暴力を振るわずに話し合いで解決した方がいい。上手くいけば、効果的に相手を騙すことができるのだから。

それに、土産屋も地味でちょうどいい。まさか地下が不法に拡張されていてそこにロケット団の新しいアジトがあるだなんて、誰も夢にも思わないだろう。
 ▼ 273 AYr1xkow/g 17/08/04 01:19:37 ID:rsN.V/7k [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
次に、四人は散り散りになった部下たちを探し出した。さすがに全員を集めることはできなかった。辞めた者もいるだろう。当然だ。彼らが今無事に生活できているかどうかは分からないけれど。

それでも、四人の努力の甲斐もあってか、かつての構成員の六割ほどは戻ってきていた。今は新しい団員も加わっている。何も問題はない。新生ロケット団の誕生だ。

新体制を取るにあたって、四人の状況も以前とは変わった。

まず、ナナシマに出張していたアポロとアテナは、長期間アジトを離れないことに決めた。今の時期に力の拡大を目指しても失敗するだけだ。全盛期でさえそうだったのだ。危ない橋は渡れない。四人は離れ離れにならないようルールを決めたのだった。

アポロが新しいリーダーとなった。ボスはいない。それはサカキの座だ。サカキが戻ってくるまで、アポロが代表として組織を率いるというだけのこと。

そして、ランスは指示を出すだけではなく、自分も現場に出向くようになった。元々、幹部になってからもそのつもりでいたのだ。以前は色々重なってそういうわけにはいかなくなってしまったが、これからは好きなようにやる。ランスはそう決めた。
 ▼ 274 AYr1xkow/g 17/08/04 01:20:55 ID:rsN.V/7k [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
気がつけば、あれから三年が経っていた。サカキがロケット団の解散を宣言してから三年。

この三年間、永遠のようにも感じられた。あっという間にも思えた。今やロケット団は、再び力をつけ始めている。

ランスがロケット団に入ってから十一年が経過した。現在ランスは二十二歳。ジョウト地方の裏世界を牛耳るマフィアの若き幹部だ。今やランスは立派な青年に成長していた。

初めてロケット団にやってきた日のアテナは正しかった。顔立ちの整った背の高い若い青年が黙々と仕事をこなす姿を見て、組織の女性たちが黙っているわけがないのだ。
 ▼ 275 AYr1xkow/g 17/08/05 00:06:47 ID:sL4.NKDY [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ランスさーん。ここ、ちょっと分かんないですけど教えてもらっていいですか?」

とある用事があってランスが事務室に入った途端、すぐさまそんな甘ったるい声が聞こえてくる。彼女はこの三年間で新しく団員となった女性だった。ランスより年上の彼女は今の今まで無言でひたすら目の前のパソコンに文字を打ちこんでいたのだが、ランスが現れた途端この態度だ。

「どこですか」

ランスは必要最低限の言葉だけ口にして彼女に近づく。ランスが自分の後ろに回り込み、画面を覗きこむと、彼女は露骨にそわそわし始めた。

「ここです。表にちゃんと入力してるんですけど……計算が合わないんです」

「……なるほど」

ランスがそう言って、ぐっと顔をパソコン画面に近づける。彼女の顔はランスの後頭部をじっと見つめている。

ランスはしばらく画面を見て黙っていたが、軽く咳払いをすると、

「……今から出なければならないので、アテナかラムダを呼んできますね」

そう言って部屋を去っていってしまった。

ランスが事務室から出ていく様子を見つめる女性構成員の表情が分かりやすすぎるほど落胆の色に染まった。現場に出てばかりのランスは実は機械が苦手なため誤魔化したのだということには、どうやら気付いていないようだ。
 ▼ 276 AYr1xkow/g 17/08/05 00:09:11 ID:sL4.NKDY [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスが事務室を出て廊下を歩いていると、向かいからアテナが歩いてくるのが見えた。ランスは早速彼女に助けを求めることにした。

「アテナ、事務室に行ってもらっていいですか?計算が合わなくて困っている者がいたのですが、私はこれからヒワダに行かなくてはならないので」

「また逆ナンから逃げてきたのね」

アテナはくすくす笑っている。ランスは思わず違う、と声を荒げそうになったが、あながち間違いでもないことを認め、開きかけた口を閉じて鼻から息を出した。

「……私はパソコンが苦手なんですよ」

「うっふっふ。知ってるわよ。あたくしに任せなさい」

アテナはそう言ってわざとらしく自身の胸に手を当てる。

「頼みます」

「どうせただの入力ミスよ、今週に入って何度目だと思ってるのかしら。おかしいわよね、ランスが事務室に入ると必ず女の誰かがミスをするのよ」

アテナの口調は咎めるようなものではなかった。むしろ歌うような、楽しそうな声音だ。おかしいだなんてこれっぽっちも思っていないことが分かる。

なんとも言えず複雑な顔をして黙っているランスを見て、アテナは笑い出した。

「いいのよ、ランス、あなたはそのままで」

あなたのおかげで女子たちがやる気を出してくれてるからむしろありがたいわー。アテナはそんなことを言いながら陽気に事務室へと消えていった。
 ▼ 277 エルコ@アクセサリーいれ 17/08/05 06:38:49 ID:d46SDE5E NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>1
支援
 ▼ 278 AYr1xkow/g 17/08/06 00:52:52 ID:pyEoyo7Y [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスは持って書類をアポロの部屋へと向かっていた。本来事務室に赴いたのはこの書類のコピーを取りたかったからだ。

なぜわざわざ恥ずかしい思いをしなければならないのか。顔に出していないとはいえ、パソコンが使えないことを部下に悟られるのは恥ずかしい。まあ、彼女は気付いていないのだが。

アポロの部屋にたどりつくと、扉を叩く。中からどうぞと声が聞こえてきた。

「失礼します。お待たせしました」

ランスはそう言いながら部屋に入る。アポロは机に向かって何やら作業をしており、ランスに背を向けている。ランスが一歩進むと、アポロは椅子のキャスターをぐるりと動かして振り向いた。ランスは書類をアポロに手渡す。先月にランスの班が得た収益が事細かに記されている書類の、コピー分だ。

「ありがとうございます」
 ▼ 279 AYr1xkow/g 17/08/06 00:54:18 ID:pyEoyo7Y [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アポロは書類を受け取ると、パソコン画面と見比べた。画面には先々月分の収益が表示されている。

「順調ですね」

「ええ」

ランスは頷く。ここのところ、とても調子が良い。現在ランスが担当している仕事は化石やポケモンの骨の売買と比べるととても地味なものだが、まずまずの成績を残していた。

「私たちは今、また力をつけ始めていると……そう思っていいかもしれません」

アポロは考えながら、慎重な口調で言った。

「驕りは禁物ですがね」

アポロはそう言ってランスに視線を向け、薄く笑う。ランスも答えるように微笑んだ。

「今日もお前の活躍には期待していますよ。よろしくお願いします」

「はい、では」

ランスは軽く礼をして部屋を出ていった。
 ▼ 280 AYr1xkow/g 17/08/06 00:55:34 ID:pyEoyo7Y [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アポロの部屋を出たランスは、次はアジトの出口へと向かう。今日一緒に出動することになっている部下たちは、もう集まっているはずだ。急いだ方がいい。

ランスが廊下を大股で歩いていると、今度は反対方向からラムダがやってくるのが見えた。ラムダはランスに気付くなりにやにやと笑いながら近づいてくる。

「よ、ランス。行ってら」

「はい、行ってきます」

二人はそう言葉を交わす。なんだ、これだけかと拍子抜けしていると、すれ違いざまに思いきり背中を叩かれた。

「なっ、なんですか」

ランスが恨みがましい目線をラムダに向ける。ラムダはそのまま歩きながらランスの方を向き、大きく手を振りながら、

「今日帰ってきたら飲もうぜ。ホウエンの美味い酒手に入れたからよ!」

かなり機嫌の良さそうなラムダの様子に、ランスは思わず笑ってしまった。息を漏らし、同意の意をこめて小さく手を挙げる。

さあ、仕事だ。
 ▼ 281 コロモリ@ふうせん 17/08/06 09:32:00 ID:jbchfS2c NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 282 AYr1xkow/g 17/08/07 15:04:49 ID:52qkscyY [1/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
ヒワダタウンへと向かう。そのすぐ近くにあるヤドンの井戸が仕事場だ。井戸は狭いので、連れていく部下は三人のみ。

ヤドンの尻尾は美味しいらしく、高価で売れる。ヤドンが多く棲みついているそのヤドンの井戸で大量の尻尾を仕入れることが今のラムダの仕事だった。

正直、地味なものだ。それに単調な作業。退屈に感じないことはない。とはいえ、重要な仕事だ。怠るわけにはいかない。ちなみにまったくなんの名誉にもならないが、ランスはヤドンの尻尾を切ることにおいてロケット団で最も高速と呼ばれた男である。
 ▼ 283 AYr1xkow/g 17/08/07 15:05:31 ID:52qkscyY [2/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
ヤドンの井戸にたどりつくと、最奥部でランスは素早くナイフを取り出して黙々とヤドンの尻尾を切断し始めた。

しばらく経つと、怒鳴り声が聞こえてきた。おそらく、見張りを任せた部下が一般人を脅しているのだろう。ランスは特に気にせず作業を進めた。

更に時間が過ぎると、今度は二人分の怒声が聞こえてきた。一人は聞き覚えのない、年老いた男の声だ。それから鈍い音と呻き声がしたと思えば、静かになった。

ランスが様子を見ようと目の前のヤドンを退けようとすると、近くで仕事をしていた部下の女性が勢いよく立ち上がった。

「私が行きます!」

彼女はひとつ年下の部下で、カントーで活動していた頃からロケット団に所属している。積極的に仕事をしてくれるのでランスは彼女に対してありがたいと思っている。ランスの飲み終えた湯呑み茶碗を片付けてくれるのは大抵彼女だ。

「では頼みます」

ランスはそう言って、仕事に戻った。
 ▼ 284 AYr1xkow/g 17/08/07 15:06:13 ID:52qkscyY [3/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
そしてその瞬間、大きな音が井戸の中に響いた。ランスははっと顔を上げる。こんな音、人間の力では出せない。どう考えてもポケモンの技だろう。

急にヤドンが襲ってきたのだろうか。音のした方に視線をやると、ごうっと炎が燃え上がった。ランスは思わず顔をしかめた。ヤドンはほのおタイプではないし、部下たちもほのおタイプのポケモンは持っていない。

つまり、部外者が現れたいうことだ。
 ▼ 285 AYr1xkow/g 17/08/07 15:07:52 ID:52qkscyY [4/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
とはいえ、ランスはあまり気にしていなかった。こうやって一般人がバトルを仕掛けてくることはままあるのだ。

以前のロケット団は絶対的な存在として恐れられていたが、今は違う。三年前に解散したことだけが知られている。今ロケット団が復活を目指してまた活動をしていることなど、人々の思いもよらないことだ。

取るに足らない正義感を振りかざしてこの組織を止めようとするトレーナーもたまにいる。もしかしたら、三年前にたった一人でロケット団を壊滅させたあの十一歳の少年のような英雄になりたいと思っているのかもしれない。

団員からしてみればいい迷惑である。ランスは偽物のヒーローの対応は部下に任せてヤドンの尻尾を切り続けた。三、四時間もすればまた生えてくるのだから、きりがない。ランスは今しがた手をつけたヤドンの様子を見て、数時間前に切ったものと同個体であることに気づきながら新しく生えた尻尾を切り落とした。
 ▼ 286 AYr1xkow/g 17/08/07 15:09:34 ID:52qkscyY [5/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
スニーカーが土を蹴る音が徐々に大きくなる。ランスは小さく息を吐くと、ナイフを折りたたみポケットにしまった。それから立ち上がり、近づいてくる人影を見下ろす。

……小さい。子供だ。現れたのは、すぐ後ろにポケモンを連れ歩いている十一歳くらいの男の子。

「なんですか?」

ランスは正直面倒に感じていることを隠しきれない様子で声を上げる。それから少し脅してやるつもりで威圧的な声を出した。

「私はロケット団で最も冷酷と呼ばれた男」

子供は存外鋭い瞳でこちらを睨みつけてくる。あまり効果はなかったようだ。

「……私たちの仕事の邪魔などさせはしませんよ!」

ランスはそう言って、腰につけたモンスターボールを手に取った。
 ▼ 287 AYr1xkow/g 17/08/08 22:19:36 ID:/Ptr.DDU [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「行きなさい!ズバット!」

ランスがズバットを繰り出すと、少年はボールから出していたポケモンを下がらせ、別のポケモンを繰り出した。わたげポケモンのメリープだ。

「ズバット!きゅうけつ!」

ランスの指示に従い、ズバットは素早く動いた。かつてはプロトンのポケモンだったズバットもドガースも、今は迷いなくランスについてきてくれる。

ズバットはメリープの体まで近づくと、小さな牙で噛みつきメリープの血を吸った。メリープはその攻撃を避けきれず、まともに食らってしまう。

「メリープ!でんじはだ!」

少年が叫ぶ。メリープの体毛がパチパチと音を立て始めた。メリープがズバットめがけて電磁波をぶつけようとした瞬間、ランスはその攻撃を見切り、

「ズバット!かわしてちょうおんぱです!」

ズバットはでんじはを避け、ジグザグに飛び回って軽くメリープを錯乱してから超音波を起こした。メリープはその超音波のせいで目が回ったのか、辺りをキョロキョロと見回した。メリープの挙動不審になった姿を見て、ランスは攻撃が成功したのだと悟った。混乱している。
 ▼ 288 AYr1xkow/g 17/08/08 22:20:33 ID:/Ptr.DDU [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「め、メリープ!落ち着くんだ!」

少年が慌てた声で言うが、メリープの耳には届いていない。メリープは訳も分からないまま走り回り、そのまま壁に向かって突進し、頭から思いきりぶつかってその場に転倒した。

「ズバット。もう一度きゅうけつ!」

ランスが言い放つ。ズバットは余裕の面持ちでメリープの真上まで飛んでくると、またもがぶりと噛みつき血を吸い取った。

メリープが痛そうに鳴き声を上げる。血を吸って体力を回復したズバットが満足げに口を離して飛び去ると、メリープは呻き声を上げてその場に倒れこんだ。

「メリープ!」

少年が悲痛な声を上げる。そしてモンスターボールを取り出し、

「……ありがとう、ゆっくり休んで」

労いの言葉をかけてメリープを元に戻した。
 ▼ 289 AYr1xkow/g 17/08/08 22:21:22 ID:/Ptr.DDU [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
少年はそれから、後ろにいるポケモンに目配せをした。ポケモンは少年と心が通じ合っているのか、こくりと頷き、前に立つ。

「マグマラシ!頼んだぞ!」

その言葉に、ランスは思わずこっそり目を見開いた。一匹戦闘不能にしてやれば怯えて去っていくだろうと思っていたのだ。しかし少年は怯えている様子はない。それどころか、明らかにこちらに立ち向かってきている。そんな力強い姿に、呆れざるを得ない。

まあ、何も問題はない。我々は泣く子も黙るロケット団!それなら、もっと怖がらせてやるだけのことだ。

「ズバット!ちょうおんぱ!」

ランスが指示を出す。しかし、それよりも速くマグマラシが動いた。
 ▼ 290 AYr1xkow/g 17/08/08 22:21:51 ID:/Ptr.DDU [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「マグマラシ!でんこうせっかだ!」

少年の声を聞くなり、マグマラシは目にも留まらぬ速さで駆け抜けた。速すぎて、正確な位置が把握できない。しかしマグマラシは平気のようだ。一気にズバットとの間合いを詰め、そのままハイスピードで力強く体当たりした。

それから、ズバットに反撃の余地を与えぬままマグマラシは体勢を変える。

「マグマラシ、懐に突っ込め!ひのこ!」

マグマラシは高い鳴き声を上げたかと思いきや、いつの間にか距離を縮めていた。ズバットはそんなマグマラシの猛攻に、なすすべもなかった。マグマラシの吐く火の粉を正面から浴びたズバットは、力なくその場に落ちた。
 ▼ 291 ツロイド@カチャのみ 17/08/08 22:22:35 ID:AXo64Zws NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
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 ▼ 292 グノム@どくけし 17/08/09 16:19:37 ID:iLAIWe1s NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 293 AYr1xkow/g 17/08/09 16:44:37 ID:D9ferYxo [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……」

ランスは黙って少年を見つめ、大きく溜息をつくと、ズバットをボールに戻し、もうひとつのモンスターボールを手に持った。

「ドガース!出番です!」

それから、

「どこの街にも私たちに逆らう奴はいるのですねぇ……」

ランスはそう言いながら少年を見下ろした。ランスのつり上がった瞳はかなり冷たかったが、逆に少年の瞳はとても熱い。ランスはその目が気に入らない、と思った。

「ドガース!スモッグ!」

「マグマラシ!ひのこ!」

マグマラシの方が速かった。マグマラシは浮いているドガースめがけて勢いをつけて飛び上がり、口から火を吐いてドガースを攻撃する。ドガースはその攻撃を受けながらも口と体についた穴から汚れた空気を吐き出した。周りにスモッグが蔓延し、異臭を放ち始める。マグマラシは思いきり顔面にスモッグをくらい、咳きこみながら地面に着地した。気分が悪そうだ。どく状態だろう。
 ▼ 294 AYr1xkow/g 17/08/09 16:45:18 ID:D9ferYxo [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ドガース、もう一度スモッグ!」

ランスはたたみかけるつもりでそう声高らかに指示を出した。しかし、少年は諦めなかった。

「マグマラシ!頑張ってくれ!ひのこ!」

少年の声に、辛そうに呻いていたマグマラシが顔を上げる。それから、ギロリとドガースを睨みつけ、マグマラシは近くの岩を利用してもう一度高く飛び上がった。

そんな少年の勢いに気圧されそうになったランスは、心から驚いて、

「えっ?もしかして本気で邪魔をしに来たんですか……?」

そんなことを口走ってしまった。
 ▼ 295 AYr1xkow/g 17/08/09 16:46:41 ID:D9ferYxo [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
少年は本気だった。マグマラシは飛び上がった勢いでドガースの真上までやってくると、口から火の粉を撒き散らした。ドガースは攻撃を受けて苦しそうに呻くと、そのまま地面に落ち、戦闘不能状態になってしまった。

「くっ……、まだ子供だと侮っていたらなんということ……」

単純に、バトルに負けたことを悔しく思いながら呟く。ランスは黙ってドガースをボールに戻すと、ふふんと鼻を鳴らした。

この場の責任者である自分が負けてしまった。撤退する他ない。ランスは苦々しげな表情で口を開く。

「……確かに我らロケット団は三年前に解散しました。しかしこうして地下に潜り活動を続けていたのです」

そうだ。もう一度恐れられる存在として君臨するために、いくつもの地味な仕事を続けてきた。ランスはその精悍な顔を真っ直ぐに少年に向け、

「あなたごときが邪魔をしても私たちの活動は止められやしないのですよ!」

そうだ、止められるわけがない。我々ロケット団は復活するのだ。

「これから何が起きるか怯えながら待っていなさい!」

ランスはそう言い放つと、部下たちを無言で引き連れてヤドンの井戸を立ち去った。
 ▼ 296 AYr1xkow/g 17/08/09 16:47:22 ID:D9ferYxo [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
アジトに向かう中、何も喋らないランスを、部下たちが恐々と様子を伺うように見つめていた。

しばらく経って冷静になると、悔しさや怒りなどよりも、なんとも言えない焦燥感の方が湧き上がってきたのだ。

十一歳くらいの少年。三年前、ロケット団を壊滅させた少年と同じくらいだ。

嫌な予感がする。ランスはそう思った瞬間、その考えを打ち払った。

何を弱気になっているのか。そんなんじゃ前に進めない。それに、また子供一人に負けてすべてを失うなんて、そんなことはありえない。二度と起こらせてなるものか。
 ▼ 297 ストダス@しめつけバンド 17/08/09 22:45:57 ID:QqY3Cg6I NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 298 AYr1xkow/g 17/08/10 00:38:31 ID:n.4gR4Co [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「しけたツラしてんなぁ。ほら、飲め飲め」

ラムダがそう言って、お猪口に酒を注いでくる。ランスはお猪口の中がどんどん満たされていくのを見つめながら大きな声を上げた。

「なんなんですかもうー、なんでこの私が子供に負けなきゃいけないんですか」

既に出来上がっている。

「おーおー、それ、お前が子供の時の同僚みんな思ってたぞー?」

ラムダは面白そうに言った。そして、酒を注ぐのをやめた瞬間お猪口を手に取り一気に口の中に流しこんだランスを見て嬉しそうに手を叩きながら笑う。

「いやー、いい飲みっぷりだなランス!」

「うるさいですよ、何自分は酒強いから平気、みたいなスタンスでいるんですか。全然飲んでないでしょ、ラムダも飲んでください」

ランスはいつもよりいくらかフランクな調子でそう言って、ラムダのお猪口に酒を注ぐ。ホウエン地方のミナモシティで作られた、人気の日本酒だ。

「あっ、バレてた?っておい、こぼれるこぼれる」

ランスが今にも溢れそうなほどなみなみと酒を注ぐので、ラムダは慌てて熱燗をランスから取り上げた。それから、お猪口を口まで持っていって、こぼれないよう慎重に啜る。
 ▼ 299 AYr1xkow/g 17/08/10 00:39:36 ID:n.4gR4Co [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「何、アポロに怒られたのか?」

「いや別に……珍しいですねとは言われましたけど」

ランスが口を尖らせながら言う。

「ならいいじゃねえか。俺なんてしょっちゅう怒られてるぞ」

「……それはまた違うじゃないですか」

ランスはそう言いながらも、少し気を良くしたようだった。それからランスはしばらく空のお猪口をじっと見つめ、

「……それだけじゃありません」

ランスが言うと、ラムダが体を傾けて耳を寄せる。

「え、何?」

「あの時と同じくらいの子供……」

ランスは耳をすませても聞こえないくらいの小さな声で呟いた。

「妙な胸騒ぎがするんです」

ランスが神妙な顔をして言う。ラムダが続きを聞こうと「なんで?」と促すが、ランスはしばらく黙っていた。
 ▼ 300 AYr1xkow/g 17/08/10 00:40:47 ID:n.4gR4Co [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「え……もしかして寝た?」

ラムダがランスの顔を覗きこむ。その瞬間、会議室の扉が勢いよく開いた。

「お酒ーっ!」

ラムダが驚いて扉の方を見る。入ってきたのは上機嫌なアテナだった。

「……っくりしたー」

ラムダが胸を抑えながら言う。アテナは「大袈裟ね」と言ってから、姿勢正しく眠っているランスを見て「あら」と声を上げた。

「ランス、寝ちゃったの。まあ、疲れてたものね」

「毎日外に出てたもんなぁ」

「現場に出るのが好きって言ってたけど、あたくし違うと思うわ。単純に現場以外の仕事をほとんどしてないから分かってないだけなのよ」

アテナはそう言いながらランスの隣にやってきてラムダとランスを挟んて座った。

「プロトンの班にいた弊害か」

ラムダが酒を注ぎながら言う。

「そうね」

アテナは少し悲しげな笑みを浮かべてお猪口を持ち、ラムダと軽く乾杯をすると一気に酒を飲み干した。
 ▼ 301 AYr1xkow/g 17/08/11 01:09:46 ID:n5DMpx1I [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「それにしてもほんと綺麗な顔してるのねー。羨ましいわ」

アテナは頬杖をついてランスの顔をじっと見つめる。ラムダは何か言ってやるべきなのか悩んだ。

「せっかく、組織の女で誰が一番お気に入りなのかちょっと聞いてみようと思ったのに」

アテナの言葉に、ラムダは思わず体を乗り出す。

「こいつ、マジで興味ねえぞ。この前一個下の後輩の女に仕事熱心でいいですねとか言って褒めてるとこ見たけどよ、そいつランスに近づきたくて積極的にやってるだけだからな」

「それ多分、分かってて言ってると思うわよ」

アテナがそう言うと、ラムダはあー、と唸る。

「こいつも性格悪いなー」

ラムダが少しおちゃらけた口調で言うと、

「何言ってるの?」

アテナがそう言って不敵に笑った。

「ロケット団の幹部なんてやれる人が性格いいわけないでしょ」

アテナはそう言って、三度目の一気飲みをした。
 ▼ 302 AYr1xkow/g 17/08/11 01:12:33 ID:n5DMpx1I [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「おっしゃる通りです」

ラムダはふざけてへり下った。アテナも酒が回ってきたのか、上機嫌でクスクス笑いながら何度も頷いている。

「……にしても、いつもクールで仕事熱心なランス様が酔って寝ちゃってるとこ、女たちに見せてやりてえな」

ラムダがニヤニヤと笑いながら言う。

「やだ、きっともっと人気になるだけよ。『可愛い!』って」

アテナがそう言うと、ラムダは思いきり顔を歪ませた。

「顔がいいと酒に弱いのも魅力になっちまうのか?」

「そうね。母性本能がくすぐられるんじゃない?それにまあ、あの子たちは盲目だから。ランスが何しても喜んで受け入れるわよ」

「女って訳分かんねえな」

ラムダがそう言ったところで、ランスは机に突っ伏して更に深い眠りについた。
 ▼ 303 AYr1xkow/g 17/08/11 01:14:05 ID:n5DMpx1I [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラムダはじっとランスを見つめながらちびちびと酒を飲む。先程、ランスが言いかけていたことが気になっているのかもしれない。ラムダが何か言おうと口を開いた瞬間、また扉が開いた。

「お疲れ様です」

入ってきたのはアポロだ。

「おつかれー」

「お疲れ様」

「ランス起こす?」

「いいですよ。休ませてやりましょう」

「いつになく優しいわね」

アテナがにやにやと笑いながら言う。アポロは心外だ、という顔でアテナを見た。

「実験は成功しました」

アポロはそう言いながら、一番入り口から近かったラムダの隣に座る。アテナとラムダが勢いよくアポロに顔を向けた。

「コイキングをギャラドスに進化させることに成功しましたよ。明日にでも見に行ってみてください」

アポロは得意げな表情でそう言ってみせた。
 ▼ 304 AYr1xkow/g 17/08/12 00:25:37 ID:VvXXSPQI [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
昨夜酔って眠ってしまっていたランスは、晩酌の終盤で目を覚まし、水を飲んでから自室へと帰った。今日の目覚めは最悪だったが、仕方ない。ランスは朝の支度を終えるとアポロの部屋に向かった。

「どうしました?」

ランスが訪れると、アポロが驚いた声で問う。

「いえ……昨夜はすみません。ほとんど寝ていたので」

ランスがばつが悪そうに言うと、アポロは薄く微笑んだ。

「いいんですよ。また次回に。今度は勝利の祝杯を上げましょう」

アポロが意味ありげな口調で言う。ランスは一瞬驚いた顔をしてから、頷いた。
 ▼ 305 AYr1xkow/g 17/08/12 00:27:00 ID:VvXXSPQI [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「これでも結構楽しみにしているのですよ。……サカキ様ともご一緒できるかもしれませんし」

アポロの言葉に、ランスは「意外ですね」と揶揄いをこめて言う。今度はアポロが驚いた顔をした。

「そうですか?」

「ええ。……私も楽しみです」

「昨日、お前が寝ている時にアテナとラムダとも話したのです。今はその日のために力を尽くすと」

「……ええ」

ランスがもう一度、深く頷く。すると、

「そうです」

アポロが思い出したように声を上げる。ランスは首を傾げた。

「これも二人には話したのですが、実験は成功したので報告しておきますね。怒りの湖に様子を見に行ってみてください。今なら多分二人もいますよ」

アポロの言葉に、思わずランスは目を瞬いた。
 ▼ 306 AYr1xkow/g 17/08/12 15:17:11 ID:VvXXSPQI [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チョウジタウンから四十三番道路を抜けると、怒りの湖という湖沼がある。そこで真っ赤なギャラドスが暴れ狂っていた。

アポロがかつてナナシマで研究していた、ポケモンを人工的に進化させる電波の開発はこの三年間で無事に成功していた。現在、ロケット団のアジトからこの怪電波を発信している。このギャラドスは、その怪電波で無理矢理進化させたものであった。怪電波の影響で赤く変色してしまっているが、偶然にも稀に見られるという色違いの個体と同じ色だ。

ランスは大雨の降りしきる怒りの湖まで歩いていった。ほんの少しだけ見て帰ろうと、傘を持ってこなかったことを後悔した。既にずぶ濡れだ。

アポロの言っていた通り、アテナとラムダが先に湖に来ていた。二人はそれぞれ傘を差して、怒り狂うギャラドスを見上げている。ランスはそんな二人の隣に向かった。
 ▼ 307 AYr1xkow/g 17/08/12 15:18:17 ID:VvXXSPQI [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「おう、来たのかってお前、傘持ってこなかったのかよ」

先に気付いたラムダがそう言って、ランスを中に入れてやろうとする。しかしその瞬間、女性の高い声が響いた。

「あのランスさんっ!濡れてしまいます!」

例のひとつ年下の女性団員だ。彼女が凄まじいスピードでランスの元まで走ってきた。そして、自分より二十センチメートルは身長の高いであろうランスに合わせて傘を持った腕を高く上げる。

「これ、良ければお使いください!」

「ありがとうございます」

ランスはそう言うと、傘を受け取るわけでもなくそのままラムダたちの方へと向き直った。

結果的にランスと相合傘をする形となった女性団員は嬉しそうな顔をして、熱っぽい目でランスをじっと見つめている。

「……あれでいいのかよ」

その様子を見ていたラムダが呟く。

「きっといいのよ」

アテナはそう呟き返した。
 ▼ 308 AYr1xkow/g 17/08/12 15:19:07 ID:VvXXSPQI [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「すごいわよね、あのギャラドスの迫力。アポロもよく頑張ったものね」

「赤いギャラドスとかかっけぇよな」

二人は呑気にそんなことを言っている。それにしても、この辺りは元々雨が多いとはいえ、この量は異常である。ギャラドスがあまごいでもしているのだろうか。

「ね、そういえば、ランスこれからどうするの?今日はあなたの班お休みでしょう?」

アテナが話題を変える。

「そうですね……もうヤドンの井戸へは、行けませんし」

ランスは嘆息がちにそう返した。昨日は子供に負けてしまった。また向かっても、その二の舞になるだけだろう。ヤドンの尻尾に関する仕事がなくなってしまったため、ランスの班は強制的に休みが決まってしまった。自分がバトルに負けたせいでこんなことになったというのが、悔しくてたまらない。
 ▼ 309 AYr1xkow/g 17/08/12 15:19:49 ID:VvXXSPQI [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ある程度新しい仕事の目処はついているんです。ですが、最近部下たちにも休息を与えていませんでしたから、とりあえず明日くらいまでは休みにしておきますかね」

ランスはどことなくぼんやりとした様子で答えた。その瞳は、ギャラドスを見ているようで、どこも見ていない。

「その口ぶりだと、お前は休まねえつもりだろ」

「ダメよ、ランス。たまにはちゃんと休まないと」

二人にはお見通しだったようだ。ランスは大きく息を吐いた。休んでいる場合ではないのだ。

とはいえ、焦りは禁物だ。三年前に何が起こったのかを忘れてはならない。ランスは素直に頷いた。

「そうします」

ランスがそう言うと、二人はその答えに満足したのかうんうんと何度も頷く。
 ▼ 310 AYr1xkow/g 17/08/12 15:21:16 ID:VvXXSPQI [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラムダはランスの横の団員をちらりと一瞥した。彼女は今や両手で傘を持って必死に雨からランスを守っていた。彼女はほとんど傘に入っていない。

「……相合傘、濡れてる方が惚れている……っていうの、あったわよね」

アテナがどこか夢見心地な声で言う。

「エンジュ銀行のCMだろ?……普通、濡れてるのは男の方だと思うけどな」

ラムダは冷静にツッコミを入れた。

すると、暴れ狂う赤いギャラドスが尾びれを水面を勢いよく叩きつけた。凄まじい量の水飛沫がランスたちを襲う。ランスとアテナとラムダは傘のおかげで無事だったが、女性団員はまともに水を浴びてしまった。

「……なあ、本当にあれでいいのか?」

ラムダがもう一度尋ねる。

「……きっと、いいのよ」

そう言うアテナの声は少し自信がなさそうだ
 ▼ 311 AYr1xkow/g 17/08/12 15:23:02 ID:VvXXSPQI [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しばらくぼうっとしていたランスは、やがて気を引き締め直すと、傘を持っている部下に話しかける。

「ありがとうございます。あとはあなたが使ってください」

彼女は声をかけられたことに驚いて、目を丸くし、口を開けてランスを見つめている。かなりの間抜け顔だ。ランスは彼女がずぶ濡れになっていることに気付くと、

「風邪をひかないようにしてくださいね」

こんな大切な時期に体調を崩して仕事にならないなんてことになってしまっては困りものだ。ランスはそう言うと、できるだけ濡れないように大股で怒りの湖を去っていく。思いがけない言葉を貰った彼女は、完全に骨抜きになっていた。腕の痺れも忘れて、去っていくランスを一心不乱に見つめる瞳には、ハートマークが浮かんでいる。

「……よかったみたいだな」

ラムダが呟く。

「そうね」

アテナも呟いた。
 ▼ 312 ァイアロー@エレキシード 17/08/12 15:32:12 ID:./OeZFqQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
何か面白そう。
長いので誰か簡単に内容教えてくれませんか?
金銀の話かな?
 ▼ 313 だのオカルトマニア◆t9l2LsYlS6 17/08/13 00:01:10 ID:Or6tkojs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>312
赤緑〜金銀のロケット団の話が、ランス目線で描かれています
ランスの幼少期、ロケット団に入団したきっかけ、幹部になった理由などのオリジナルストーリーもありますよ

…説明下手だし文章変だし…すみません、これで伝わるかな…?
とにかくお勧めですので、是非どうぞ!
 ▼ 314 オガエン@マトマのみ 17/08/13 01:13:59 ID:fY2cC2u. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 315 ュリネ@リバティチケット 17/08/13 02:20:32 ID:e16Ep3.U NGネーム登録 NGID登録 報告
ロケット団入って片っ端から下っ端とバトルしたい
支援
 ▼ 316 AYr1xkow/g 17/08/13 12:39:41 ID:dYpA/uyM [1/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
数日もすると、ランスは新しい仕事を行なっていた。特別に任された重大な仕事だ。

ランスは私服姿でコガネシティに出向いていた。目的地はラジオ塔だ。ラジオ塔は自由に内部を見ることができるようになっているが、中を歩くランスはどうしても見学に来た一般人というよりはラジオ番組のゲストとして呼ばれた芸能人のようなオーラを放っていた。

ランスは、各階をゆっくりと見て回った。時折何かを確認するよう立ち止まる。まるで部屋の数や廊下の距離を計っているかのようだ。

一度展望台まで上がっていったランスは、今度は五階へと向かった。そして、局長室と書かれた部屋を確認すると、扉を叩く。

「どうぞ」

ランスは重い扉を開けた。中で机に向かって腰掛けていた局長は、謎の来客に目を丸くして驚いている。まさか、堂々と扉を叩いた者が見知らぬ人物だったとは思っていなかったのだろう。

「随分警備が手薄ですね」

ランスはそう言いながら、後ろ手にこっそり扉の鍵を内側から閉めた。

「き……君は?一体誰だね?」

局長の質問に、ランスは臆面もなく答える。

「私はロケット団の幹部のランスといいます」
 ▼ 317 AYr1xkow/g 17/08/13 12:40:29 ID:dYpA/uyM [2/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスの言葉に、局長は更に驚いて思いきり震え上がった。その弾みで椅子がガシャンと音を立てて倒れ、局長は仰向けに倒れこんでしまった。

ランスは「おや」と声を上げ、ゆっくりと歩いて机に近づき、回りこんで局長の元へと向かう。それから右手を差し出した。

倒れた局長はなんとも情けない姿を晒しながらも、ランスに対して険しい表情を向けていた。ランスはやれやれとかぶりを振りながら、

「手荒な真似はいたしませんよ。ご相談があって参りました。驚かせてしまい、大変申し訳ございません。……どうぞお掴まりください」

局長は無言でランスを睨みつけている。しかし、ランスの丁寧な物腰と柔らかい口調に少しだけ安堵したのか、恐る恐るランスの手を掴んだ。ランスは局長の腕をぐっと引っ張り上げ、起こしてやる。

「お怪我はございませんか?」

「……ああ、ない。大丈夫だ……」

局長は慎重にランスを観察しながら答えた。
 ▼ 318 AYr1xkow/g 17/08/13 12:41:04 ID:dYpA/uyM [3/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
局長は、複雑な表情でランスを見つめていた。目の前にいる容姿端麗な青年は、三年前に解散したはずのロケット団の幹部だという。一体どういうことだろうか。そもそも、なぜここに来たというのだろう。

ランスは、黙ったままの局長が何か言うのをしばらく待っていたが、局長が口を開くそぶりを見せないので、自分から切り出すことにした。

「確かに我々ロケット団は、三年前に解散しました。……ええ、あなたがお考えになっていることは手に取るように分かりますよ」

ランスは局長が再び驚いた表情を浮かべるのを面白そうに眺めながら続ける。

「ですが、じきに復活します。そのためにこの三年間、地道な活動を続けて参りました。そこで、あなたがたにもご協力を賜りたい」

「協力だと……?」

局長の顔が歪んだ。ランスはといえばコロコロと表情を変える局長の顔を相変わらず興味深げに見つめている。
 ▼ 319 AYr1xkow/g 17/08/13 12:41:57 ID:dYpA/uyM [4/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「一体何を企んでいるんだ」

局長は妙に抑えたような口調で言った。本当は、今すぐにでもランスをここから追い出したいのだろう。ロケット団と関わることなんて、何がなんでも遠慮したいと思っているに違いない。とはいえ刺激すれば何をされるか分からないからと慎重になっているのだ。

「そうですね……我々の開発した電波を流してほしい……といったところでしょうか」

ランスは曖昧に答えた。

「断る」

局長は有無を言わせぬ、強い口調で言った。その電波がどんなものかは一切説明していないが、なんらかの悪影響を与えるものであることは想像に難くない。局長は真剣な表情でランスを睨みつける。

「そうですか。残念ですね」

ランスはちっとも残念そうではない声でそう言った。
 ▼ 320 AYr1xkow/g 17/08/13 12:43:28 ID:dYpA/uyM [5/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「なんだ一体……?まだ何かあるのかね?」

局長は一切態度を変えないランスを怯えるように見つめながら尋ねる。

「いいえ。本日私がこちらへ持って参りましたのはその件についてのみです」

ランスはそう言うと、大股で一歩踏み出し、ぐいと局長に近付いた。

「悪い話ではないと思うのですが。ご協力いただいた暁には、多額の資金を提供させていただきますよ」

「そ……そんな卑怯な手段に乗るわけにはいかない!」

局長は語気を荒げた。ランスは澄まし顔で局長を見下ろす。それから、「そうですか」とだけ言った。

「納得いただけないようであれば、何度も参りますと言いたいところですが、それはやめておきましょう。どうやら、労力の無駄のようなので」

ランスは肩をすくめた。局長は相変わらず険しい表情でランスを睨みつけている。

「それでは、失礼いたします。もしお気持ちが変われば、すぐに駆けつけますよ。とはいえ、そんなことはなさそうですがね」

ランスはそう言うと、局長の部屋を出ていった。

局長はランスの出ていった扉をじっと見つめ、唇を震わせながら、

「この部屋には誰も立ち入らせんぞ……!」

強い口調でそう呟いた。
 ▼ 321 AYr1xkow/g 17/08/13 12:44:19 ID:dYpA/uyM [6/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
局長室を出たランスは、何食わぬ顔でラジオ塔を下っていく。

局長の協力は得られなかったが、それは予想の範囲内だ。懐柔できれば幸運、くらいの認識で今日はここまでやってきた。真の目的はこれではないのだ。

ランスはラジオ塔を出ると、今度は地下通路へと向かった。それから、地下通路の南側にある細い道を通り、とある扉の前で立ち止まる。
ランスはポケットから鍵を取り出した。ここ何年かはあまりやっていなかったが、スリの技術はまだ衰えていないようだ。これは、局長の手を掴んだ際にこっそり拝借したものだ。

鍵穴に鍵を差しこむ。とあるルートで手に入れた情報によると、ラジオ塔の局長がコガネシティの地下通路の鍵を持っているとのことだったが、どうやらビンゴだったようだ。カチャリと小気味よい音がして、扉が開いた。

今回の目的はふたつだ。ひとつは、ラジオ塔の内装を詳しく覚えて帰ること。もうひとつは、コガネシティの地下通路の鍵を手に入れること。どちらも、現在計画しているコガネシティの制圧に向けて必要なものである。

そういえば、地下通路を歩いている途中、なぜかロケット団の制服を着て写真撮影のできるスタジオの前を通った。大方、プロトンが在籍していた頃に私的に制服を様々な場所に売りさばいて利益を得ていたのだろう。金儲けのアイデアに関しては、あの彼には敵わない。

ランスは扉を開けてその中に入ると素早く扉を閉めると、奥に向かってゆっくりと歩き始めた。
 ▼ 322 ンクルス@きいろいバンダナ 17/08/13 12:48:08 ID:74NRBbIk NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
クソザコナメクジランス、アポロ
 ▼ 323 ブンネ@ハンサムチケット 17/08/13 21:28:06 ID:Q.28ob36 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 324 イアント@ズアのみ 17/08/13 22:48:17 ID:lb4dHav6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今HGやってるけどランスを倒すの可哀想になってきた…
 ▼ 325 AYr1xkow/g 17/08/14 00:53:34 ID:.Pqi2zgM [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
数日後。ランスは再びコガネシティにやってきていた。今回は珍しくアポロと一緒だ。二人は、以前ランスが手に入れた地下の鍵を使用して再び地下通路の奥へと入っていた。

「もう一度ラジオ塔の見取り図を見せてもらっていいですか?」

アポロがカツカツと音を鳴らして進んでいきながら、後ろを歩くランスに向かって言う。

ランスは前回ラジオ塔に出向き、内装を覚えて見取り図を作った。完全に正確とは言い切れないが、最低限必要な情報はすべて正確に作ることができたと自負している。

ランスはその見取り図の入ったファイルを持った手をアポロに近づけると、

「もうアポロが持っていてください。私は大体覚えてますから」

少し面倒臭そうな声で言った。先程から何回もアポロに渡しては返されているのだ。

「それもそうですね」

アポロは納得し、ランスからファイルを受け取ると中の見取り図を取り出す。
 ▼ 326 AYr1xkow/g 17/08/14 00:54:33 ID:.Pqi2zgM [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……」

アポロは立ち止まると、しばらく黙って見取り図を見ていた。それから、

「地下通路は部下たちに任せましょう。幹部は全員ラジオ塔に配置します」

そう言って再び歩き出す。

「私は展望台に行きます」

「眺めは悪くありませんでしたよ」

ランスはそう返した。

「それほど高くありませんので、街を歩いている人間の姿も確認できます」

ランス意味ありげに言った。

「それはとても重要ですね」

アポロにはもちろん伝わったようだった。
 ▼ 327 AYr1xkow/g 17/08/14 00:56:24 ID:.Pqi2zgM [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……おや」

ふとアポロが立ち止まる。見れば、行き止まりだった。アポロが最奥に少し広めの部屋を見つけたのだ。

「……ふむ」

アポロは考えるように顎に手を当てると、

「局長にはここにいてもらいましょうか」

「はい」

ランスが答える。

「……急遽ですが、コガネ制圧の際にはロケット団以外の者数名に協力してもらうことになりました。彼らも地下通路に配置します」

アポロはてきぱきと言った。

「特に異論はありません」

ランスが返すと、

「それでは、これで視察は完了です」

アポロはそう言ってファイルを閉じた。
 ▼ 328 AYr1xkow/g 17/08/14 00:57:12 ID:.Pqi2zgM [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「さあ、もうすぐですよ」

アポロが呟く。ランスは無言で頷いた。

「もうすぐです。昔の栄光を取り戻すまで、もう少し……」

アポロの声は、どんどん小さくなって消えていった。
 ▼ 329 リムー@たんちき 17/08/14 01:50:05 ID:UiFYs7fc NGネーム登録 NGID登録 報告
ロケット団重いなぁ
 ▼ 330 AYr1xkow/g 17/08/14 13:25:34 ID:U8A8FIng [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスのゴルバットのそらをとぶで二人はチョウジタウンへと帰った。本来はジムバッジを五個所有していないと使うことを認められないのだが、ロケット団の幹部であるランスがそんな規則をしっかり守るわけがない。

二人は人気のないところでこっそり下りると、私服姿なので堂々と土産屋の入口からアジトに戻ることにした。そして土産屋の中に入った瞬間、二人は息を呑む。

「一体何が起こったのです?」

アポロが素早く尋ねた。土産屋の中は、壁が抉れるほどの凄まじい襲撃を受けていたのだ。抉れた壁の前には、人が倒れている。土産屋の店員だ。

ランスが近づくと、店員はどうにか体を起こし、

「……すいません……はかいこうせん、されまして……」

「はかいこうせん!?」

二人は同時に素っ頓狂な声を上げた。そして、

「我々ロケット団よりも極悪非道な人間が侵入したようですね」

アポロはやけに冷静にそう言った。
 ▼ 331 AYr1xkow/g 17/08/14 13:26:24 ID:U8A8FIng [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「し、侵入者が……」

店員が呻きながら言う。すると、他の声が聞こえてきた。

「もう、全員逃げてしまいました……」

奥に店員がもう一人いたらしい。アポロがその店員の方に素早く顔を向けると、冷たく言い放つ。

「お前たちの処遇はまたあとで考えます。ランス、行きますよ。中を確認しましょう」

「……はい」

ずっと黙りこくっていたランスは、妙に抑えた声で答えた。

また自分が不在の時にアジトに侵入されてしまった。

侵入してきたのは、一体どんな人物なのだろう。しかも、二人も。

ランスは、またあの嫌な胸騒ぎを感じながら中へと入っていった。
 ▼ 332 AYr1xkow/g 17/08/14 13:27:23 ID:U8A8FIng [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
アジトの留守を預かっていたアテナとラムダと合流し、詳しく話を聞く。アテナは明らかに苛立っており、対照的にラムダは落ちこんでいた。

「二人もいたのよ、とても強いのが二人。あたくし、思わずロケット団に勧誘しちゃったわ。力強い味方になってくれそうだもの」

アテナは早口で皮肉っぽく言う。

「俺はさ……物真似を見破られちまったよ。それにやらかした。ヤミカラスがよぉ……」

ラムダはそう言って両手で顔を覆った。ランスは侵入者の二人がどんな人物だったのかを詳しく知りたいと思ったのに、二人は自分のことで精一杯で何も教えてくれない。なんだかランスも腹が立ってきた。

アポロが溜息をつく。その息の音を聞いた瞬間三人は我に返り、アポロの方を見る。

「もうここにはいられません。……視察が終わっていたのが不幸中の幸いでしたね」

アポロの言葉に、ラムダが「え」と声を上げる。

「行くのね……」

アテナが囁く。

「まさか、こんな急に実行することになるとは」

ランスは呟いた。それでも、仕方がない。

「コガネシティに向かいますよ」

アポロの言葉に、三人は強く頷いた。
 ▼ 333 AYr1xkow/g 17/08/14 13:30:38 ID:U8A8FIng [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
クライマックスなので更新量、頻度共に上げたいと思います
あと少しですのでどうか最後までお付き合いください
読んでくださってる方々、本当にありがとうございます
 ▼ 334 ーフィ@はっきんだま 17/08/14 14:24:22 ID:TB93QFGU NGネーム登録 NGID登録 報告
素晴らしい
ゼンリョクで支援する

そしてこのSSが終わった後に始まるであろうSSもゼンリョクで支援する所存
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https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=503492
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