【SS】デデンネ殺害

デデンネ殺害が本当に正しかった行為なのかはわからない。
自分の良心に基づいた行動ではあったし、使命感という言葉で表されるような思いも確かにあった。
それでもこの行為が正しかったのかはわからないし、今後もわかることはないと思う。
だからとりあえずチーズを食べることにした。

エモンガという存在は自分にあてがわれた１つの社会的ステータスに過ぎない。
これが自分の今までの考え方だ。
だからエモなんていう語尾をつけて話すことはしなかった。
そうでないとこの考え方を維持することができないと感じたからだ。

エモンガという存在が嫌いだという訳ではない。
語尾にエモをつけて話す人は周りにいくらでもいるし、そういうエモンガにはそういうエモンガなりの考え方があるはずだ。
でも自分は（当たり前のことだが）そういう人の考え方とは違う。
エモンガが社会的ステータスに過ぎないという考え方をもってしまっているのだ。

なぜこの考え方をもっているのかと聞かれてもすぐには答えることができない。
それは自分が生きてきたこれまでで、それは内的であろうと外的であろうといくつもの影響を受けて形成されてきたからだ。
でもその影響というのは案外インパクトに比例しないのではないかと思い始めている。
例えば長年連れ添ってきた友人の死別は単なる悲しいという感情だけで片付いてしまうこともある一方で、今日食べたハンバーグが美味しかったのが将来の結婚相手を決めることになるかもしれない。
だから、とりあえず、今はこの考え方をもっているということしか言うことができない。

もう１つの欠かしてはならない視点は、なぜこの考え方を維持しないといけないのかということだ。
自分はエモという語尾を嫌っている、その原因としてエモを使ってしまうと今までの考え方が維持できなくなるからということを挙げている。
だから自分は自分の生き方にある程度の一貫性を持たせたいという別の考え方をもっているんじゃないかと思う。
それは例えば昨日の自分が明日の自分と異なっていいはずがないだろうという考えに思い至らせる。
その考えだけをスクラップのように切り取って考えてみると、別に昨日の自分と明日の自分が異なっていても何も問題はないと思うのだけれども、それを自分の考え方という大きな川の中に沈めて地上から眺めてみると、どうやら違った見え方をするらしい。

僕はチーズを求めてコンビニに行くことにした。

デデーン！

コンビニにはすぐ着いた。
店員はパモだった。

パモは形だけの「いらっしゃいませ」を言った。
僕は感心した。いや、僕が感心していい立場なのかわからないけれども。
深夜にコンビニに来店するようないわゆる面倒臭い客にもちゃんと挨拶をしてくれるんだと感心した。
でも引っかかる点があった。
語尾にパモをつけていないことだ。

パモは語尾にパモをつける。
これは一般論だ。
名前が２文字だからめんどくさい別れ方をしない。
めんどくさい別れ方と言うのは、例えばエモンガなら語尾がエモのエモンガとンガのエモンガの２種類が存在するといったことだ。
パモはパモ。パとかモだけのパモは自分の知る限りではいなかった。

話を戻すと、「いらっしゃいませ」は「いらっしゃいませパモ」ではいけなかった。
もし店員のパモが「いらっしゃいませパモ」と言っていたら自分はこの店でチーズを買わなかったかもしれない。
だから自分はコンビニの中に入って行った。

チーズは案外すぐ見つかった。
本当はもう少し見つけるのに手間取りたかったけれど、拍子抜けするくらいチーズはすぐ見つかった。
なぜなら自分はチーズを買うことは滅多にないからだ。
ではなぜチーズを食べたくなったのかというとこれはまた厄介な話になる。
なぜなら、自分があの時チーズを食べたくなったかを考えるにはこれまでの経験の全てを新聞の１文字１文字をルーペで観察するように振り返らないといけないからだ。

自分は到底そんなことはできないと思った。
それは単純な話だ。量が多すぎる。
それに覚えてない話が多すぎる。
デデンネ殺害の話は今でも明確に覚えているけれども、２週間前に食べた夜ご飯が何で、その時の食器の配置はどうだったかまでは覚えていなかったからだ。
でもそれがもしかしたら今チーズを食べたくさせている要因かもしれないし、それを全て辿っていくことは気が遠くなりそうな話に感じた。
だから今チーズを食べたいと言う思いは今チーズを食べたいという１つの現象として捉えることしか自分にはできなかった。
そしてそれは自分ではなかった。現象として捉えた時点で自分からは離れてしまっているのだから。

買うチーズは迷わなかった。生まれた時からこの瞬間この場所でこのチーズを買うことが決まっていたかのように、なぜだかはわからないが買うことにしたチーズが頭の中に浮かんでいた。
他のチーズに比べて際立って見えるとか、そんな幻のようなことは一切起こらなかったけれど、なぜだかこのチーズを買うような気がした。
けれども結果として自分はチーズを買わなかった。

支援

良SS
支援

支援ネ

チーズを食べたいと思う自分がそこにはいないことに気がついたからだ。
自分のお腹の調子を探るのは簡単だった。
なぜだかわからないが、お腹が空いているかを知ろうと思うと、鍵がぴったり鍵穴にはまるようにちょうどそれに合った情報が頭の中に浮かんできた。
これは、むしろこれくらいかもしれないけど、生まれてからずっと確かに言えることでそれが誤りだと言うことは一度もなかった。
だから、自分がチーズを食べたくないことは明確にわかったし、チーズを買わなかったことに対しては納得感があった。
コンビニを出た。パモは「ありがとうございました」は言わなかった。

行く場所はなかった。
家に帰れば眠る場所はあったんだけど、眠りたいと言う気持ちではなかった。
でもこれに関しては疑いがあった。
眠りたいと思った時、必ずしも眠りたいとは限らないからだ。
眠りたいと思ってもなぜだか数分後には眠りたくなくなることはあるし、逆に眠りたいと思わなくても数分後には寝ていることもある。
だから、自分は自分の眠りたいと言う思いには疑いをもっている。
それなら家に帰っても良いようには思うのだけれど、でも家には帰らなかった。
でもそれは殺害したデデンネがあるからという理由ではない気がした。
気がしたと言うのは、前から言うように自分の行動の理由を明確に突き止める気力が自分にはないからであって、もしかしたらデデンネがあるから家に帰りたくないのかもしれないが、それを確信するほどの何かがそこにはなかった。

この何かを説明するのは非常に難しい。
因果関係というものは単純化された現実世界では役に立たないような定規で、物事に理由をつけることは到底できないしそれは科学のような条件が単純化された世界でしか生きられないと思ったからだ。
例えば、理論的には水は100度で沸騰することになっている。でもこの理論的な世界にはオモダカはいないし、ヤーコンも存在していないだろう。
だから、科学者はオモダカもヤーコンもいない不完全な世界を勝手に作り上げて、その世界の中で水は100度で沸騰すると言っているに過ぎない。
もしかしたらオモダカが水の沸点に関係しているのかもしれないけれど、科学者はそれを考えないことにしている。
実際にオモダカがいる現実でも水の沸点は100度だから結果的にオモダカと水の沸点は関係ないのかもしれないけれど、自分はその関係性をキッパリと否定する自信がなかった。

何かに話を戻すと、この科学の大原則である因果関係が役に立たないのだから因果関係をもってこの何かを説明することはできない。
だからこういう方法でその何かを説明しようと思う。
自分とは何ですかを説明するとき方法は２種類ある。地球から自分を取り出してこれが自分ですと見せる方法と、自分以外を取り出して、これらじゃないものが自分ですという方法だ。
だから何かを説明することは難しいが、何か以外の全てを取り出して残ったものが何かであるという説明の仕方をしてみようと思う。

でも、魚の身だけを食べるときに完全に食べ尽くすことは難しい。
骨に身がくっついて残ってしまうからだ。
何が言いたいかというと、自分とそれ以外を分けることは難しいということである。
元々それがわかっているなら最初から自分を取り出して見せればいいだけの話だ。

だから、できるかわからないけど、明らかにこれは自分ではないなと思うものを省いていくことにした。
まず自分は自分だろうと思った。
絶対にそうとまでは言い切れないが、手を動かそうと思えば動かせるし、お腹の調子が知りたければ知ることができる。
だからこれは自分である可能性が高かった。
もしかしたら違うのかもしれないが、仮にそうだとしてもこれは骨にへばりついた身のように骨なのか身なのかわからないギリギリのところに位置していると感じた。

でも明らかに自分ではないなと思うものが近くにあった。
それはパモだった。

完

こういうのよく本屋で買って読むからめっちゃ好き
お疲れ様ですﾝﾈ>o'ω'o<

例えスギィ！

デデーン？

これは哲学SSS

結局なにがいいたいねん