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女『キミ、旅の人かしら?』
男「うわあああああっ!!」
男は恐怖した。腰を抜かした。
恐怖するには、十分なシチュエーションだった。
そこはとある山道。時刻は昼間であるはずだが、薄暗く霧が覆うそこは灰色に薄暗い。男は1人で山を登っていたはずだが、道すがらの放棄されたバス停に女の姿があって、それがいきなり声を掛けてくる。しかも人間の声ではない──スマートフォンからのものであろう、読み上げソフトの音声。男は既に腰を抜かして、山道に尻餅をついている。登山用の重装備でなければ、きっと腰を痛めていた。
女『そんなに驚くことないでしょう、ただの雑談よ』
男はなおもずりずりと後ずさりながら、女を観察する。……普通の女の姿に見えた。白い上着に、青いジーンズ。身軽そうだが、とても山登りをする格好とは思えない。麓のコンビニまで歩いても、ここからなら1時間かかるだろうに。尚更不気味だ。
女『雑談、嫌い?』
男「……雑談を振られる覚えがないんですよ」
男「……それも、スマホの読み上げソフトなんて」
だが、少なくとも。女に敵意はなさそうだ。男は少し考えた後、ゆっくりと立ち上がる。女はそれを見てくすりと笑って、ぽん、と廃バス停のベンチを叩く。座れ、ということだろうか。
女『持病で喉が潰れているのよ』
男「それは……申し訳ありません」
女『慣れているわ』
促されるまま、男はベンチに腰掛けた。きしり、天板が軋んで、このまま割れやしないかと悪寒が走る。だがそんなことはなく、女は男を見つめている。
女『それで? 雑談をしていいかしら?』
男「…………どうぞ?」
女『キミは何故この山に登ってるの?』
女『ただの旅の人ではないんでしょう? きっと理由がある』
そう問われて、男は考えた。どこからどこまで話すべきか。そう迷うのは真横の女が不気味な存在だから、というわけではなく、何時誰に聞かれたとしても、同様に悩み込む癖がついていた。
だがここ数年は、彼が出す結論は常に同じ。
男「世界を滅ぼす、悪の組織があったとして。死なないためには、どうすればいいと思いますか?」
女『さあ、難しいわ』
男「……滅ぼす側に回れば、多分死なない。昔の俺はそう思いました」
男「フレア団にいたんです、俺は」