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【SS】「私はロケット団で最も冷酷と呼ばれた男」

 ▼ 1 AYr1xkow/g 17/01/15 14:58:17 ID:THPX.20A NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……あー」

部屋に備え付けられたスピーカーから緊張している声が聞こえる。どうやらマイクテスト中のようだ。普段は笑うことのない男の口の端が、かすかにつり上がった。

「……我々は泣く子も黙るロケット団!」

声の主は高らかに続ける。

「組織の建て直しを進めた3年間の努力が実り今ここにロケット団の復活を宣言する!」

ああ、とうとうこの日が来たのだ。

「サカキさーん!……聞こえてますー?……ついにやりましたよー!ボスは今どこにいるんだろう……?ラジオを聞いてるかなあ………………」

ラジオから聞こえてくる声は、徐々に小さくなっていった。

確かあの構成員は、確かラムダの班の者だったか。男より年上だが、立場は下だ。一体なぜ彼がこの復活宣言をする役に抜擢されたのだろうか。アポロの考えることはよく分からない。

男はただ黙ってラジオ放送を聞いているだけ。

ボスは聞いてくれているのだろうか。この声は、ロケット団の声は届いているのだろうか。

ボス、私もあなたに伝えたい言葉があるのです。

だからサカキ様。どうか、戻ってきてください。
 ▼ 135 AYr1xkow/g 17/04/25 00:51:37 ID:JFQC5InY [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
せっかく居場所を見つけたと思ったのに、またこうやって奪われることに怯えて生きなければならないのか。ランスはそう思った。

父親のような愚かで弱い人間になるつもりはない。ランスは、結論から言うと奪う側の人間となった。でも、本当のところは結局変わることはできなかったというのか。自分はいつまでも奪われる側のまま。

いや、違う。ランスの手が、強く書類を握りしめた。ぐしゃりと書類が歪む。

このままでいいわけがない。ここで終わるわけにはいかないのだ。

絶対に隠し通す。例えプロトンがほぼ確信していようが、証拠はない。幸いにも、プロトンはかつてのカモの息子の名前を覚えていないようだ。あの時逃したことを後悔しているに違いない。きちんと手元に置いておいて、父亡き後に借金返済のために馬車馬のように働かせるように準備しておくべきだったと考えているだろう。まさか本当に逃げるとは思っていなかったのかもしれない。

プロトンの思い通りにはさせない。ランスはそう決意して作業に戻った。
 ▼ 136 ローン@セシナのみ 17/04/25 14:49:12 ID:oa4gLnmA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
すごい文章力です!シリアスな上に展開のスリリングさが半端じゃない!
もし個人サイトや支部アカ持ってたら速攻でブクマ&フォローします!
これからも応援してます。小説頑張って下さい!
 ▼ 137 AYr1xkow/g 17/04/25 17:46:45 ID:MAFwRe66 NGネーム登録 NGID登録 報告
>>136
ありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいです…
支部はやってますが、アカウントを教えるのは恥ずかしいのでグズルザ推しだということだけお伝えしておきますね。
 ▼ 138 AYr1xkow/g 17/04/25 22:20:17 ID:JFQC5InY [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日から、ランスとプロトンの間で戦が勃発した。

プロトンはランスがボロを出す瞬間を今か今かと待ち続けている。ランスは慎重に動いたが、その緊張が伝わってプロトンに勘付かれているのではないかと思い始めた。かといって、得策は思い浮かばない。どうすれば逃げ切れる?

気付けば、あの書類を見つけた日から一週間が経過していた。とにかく今は不審に思われない程度に逃げるしかない。大股に廊下を歩いていたランスは、思い詰めていたせいか前に人がいることに気付かず、何者かとぶつかってしまった。

「イテッ!」

「あ痛……すみません、お怪我は……」

慌てて顔を上げたランスの顔が、みるみるうちに青くなっていく。

なぜなら、そこにはポケモン研究の世界的権威であるオーキドが立っていたからだ。
 ▼ 139 AYr1xkow/g 17/04/25 22:22:04 ID:JFQC5InY [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「な、なな……なぜ……」

どうしてこんなところにオーキド博士がいるのだ。

ランスが呆然として口をパクパクさせていると、オーキドはぶつけた腹の辺りを少しさすった後、満面の笑みで話しかけてきた。

「そう!ワシこそオーキド様だ!驚きすぎて声も出ないかね?ハッハッハ!」

驚いているランスに向かって、オーキドは堂々と名乗ってみせた。それから豪快に笑い始める。

白衣を着た、白髪の小柄な猫背の男。ランスはその姿にどこか違和感を覚え、訝しげな表情で首を捻った。

「……ラムダさんですか?」

「アレッ!?なんで分かったんだよ!」

オーキドの姿をした何者かが喚く。姿はオーキドだったが、その声の主は紛れもなくラムダだった。
 ▼ 140 AYr1xkow/g 17/04/25 22:23:17 ID:JFQC5InY [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「私も彼と直接話したことがあるわけではないので正解は分かりませんが、それにしてもラムダさん、演技下手すぎですよ」

ランスがきっぱりと言うと、ラムダは舌打ちしながら変装を解いた。

「くっそー、やっぱりダメだな。まさかランスにまで見破られるとはよ……アポロやアテナにもバレたし……」

悔しそうに言うラムダにランスは追い打ちをかける。

「多分誰でも分かりますよ」

「うるせえ」

ラムダが余計なお世話だと言わんばかりの口調で言う。ランスは呆れたように肩をすくめると、素直に褒めた。

「でも、変装ができるということ自体はとてもすごいことだと思います」

「おう、ありがとよ。ただし真似はめちゃくちゃ下手くそだ!」

ラムダがなぜか胸を張る。

「それ、そんな自慢げに言えることじゃないですからね」
 ▼ 141 プ・レヒレ@きょうせいギプス 17/04/26 13:19:25 ID:pL0YQD0s NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 142 ンダー@ハバンのみ 17/04/27 07:57:15 ID:ixuOXzDw NGネーム登録 NGID登録 報告
支援上げ
更新待ってます
 ▼ 143 AYr1xkow/g 17/04/28 15:31:01 ID:ka5uNukg [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラムダと話しながら廊下を歩く。他愛もない内容だが、ラムダと話すことは結構楽しい。性格も年齢もまるで違うが、気の合う仲間であることは確かだ。

角を曲がると、向かいからプロトンが歩いてくるのが見えた。一瞬ランスの肩が強張る。しかしランスはすぐに緊張を解いた。

「お疲れ様です」

そう言って軽く頭を下げ、不自然な動きをしないようにしながらすれ違う。プロトンは薄気味悪い笑顔を浮かべただけで返事はしなかった。

プロトンの後ろ姿をラムダが疎ましげに睨みつける。プロトンの姿が見えなくなると、ラムダはおおげさに溜息をついた。

「あいつ、最近更に調子乗ってんな」

「そうですか?」

ランスはしらばっくれた。
 ▼ 144 AYr1xkow/g 17/04/28 15:32:08 ID:ka5uNukg [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラムダは思い出したようにハッとしてから、低い声で言う。

「おい、言うなよ本人に。お気に入りさんよ」

「言いませんよ」

ランスは呆れ気味に言った。まだ初日の煙草の件を根に持っているらしい。そもそも、ランスが本当にプロトンのお気に入りかというと、恐らくそうではない。

「幹部の中で一番年上だからってイキってんだよ。最近アポロもおとなしいしな」

ラムダはぶつぶつと呟いている。ランスはその様子を黙ってじっと見つめていた。

「今度アポロに酒でも奢ってやるかぁ……」

ラムダは、プロトンを幹部に推薦してアポロの心労を増やしたことも、未だ悩んでいるらしい。

その夜、ランスは夢を見た。夢を見たのは、サカキの背中で眠ってしまった時以来だ。といっても、目を覚ました頃には内容を忘れてしまったけれど。ただ、とてつもなく嫌な予感のする夢だったということだけを覚えていた。
 ▼ 145 ロベルト@とくせいカプセル 17/04/29 13:44:06 ID:e/DofQu6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しえん
 ▼ 146 AYr1xkow/g 17/04/29 23:56:07 ID:O490uIqg NGネーム登録 NGID登録 報告
朝の準備を終えたランスは、ウインディの入っているはずのモンスターボールがないことに気がついた。

部屋の中を探していると同室の三人が目を覚ましたので、協力してもらったが見つからなかった。

片付けはしっかりやる方だ。ましてや大事なポケモンの入ったモンスターボールをどこかに放置するだなんてありえない。ランスは朝礼の後は朝食も食べずにアジト内を探し回った。

アジト中を探し終える頃には、もう夕方になっていた。昼食も食べていない。しかし、ウインディの入ったモンスターボールはまだ見つかっていなかった。

「はあ……」

ランスは苛立ち気味に溜息をつくと、額を伝う汗を手で拭った。一体どこにいったというのか。毎日きちんと管理している。誰かが奪ったとしか考えられない。

ふと、ランスの脳裏にある考えがよぎった。そんなことがあるか。そうやってその考えを振り払いたかったが、ないとは言い切れない。まさか。本当にそんなことが?ランスは必死にそうではないことを祈りながら上司の部屋へと急いで向かった。すると、

「あの、ランスさん!」

名を呼ばれ、振り向くと、同室で一番後輩の男がいた。ランスより何歳か年上だがまだ若い彼は、かなり切羽詰まっている様子だった。
 ▼ 147 w4AUIpPSng 17/04/30 00:38:05 ID:LV.xL1zo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援!
今日疲れてたけどこれで疲れふっとびました!自分のペースでいいので頑張ってください!
 ▼ 148 AYr1xkow/g 17/04/30 17:42:17 ID:xBfcH8I2 [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
後輩の案内で、アジトの倉庫に向かう。アジト内にはいくつか倉庫があるが、その中でも一番古く、ほとんど使われていないものだ。

この倉庫は先程も探しに来たのだが、その時はウインディはいなかった。その後にやってきた後輩がどうやらウインディを見つけたようだ。一体どういうことだろうか。

倉庫にたどりつき、急いで扉を開けると、埃が舞った。咳きこみながらランスが中に入ると、そこには傷だらけのウインディが横たわっていた。

「ウインディ!」

ランスが叫んでウインディに駆け寄る。

全身血だらけで、鳴くこともできずに息を漏らしているウインディが、瀕死状態よりも最悪な状態であることは火を見るよりも明らかだった。

「ああ……ウインディ……!ごめんなさい、今すぐに治してやりますから……!」

ランスは顔面蒼白になりながらそう言い、ウインディを横に落ちていたモンスターボールに入れた。そして後輩に礼を言うと、急いで医務室へ向かった。
 ▼ 149 AYr1xkow/g 17/04/30 17:43:28 ID:xBfcH8I2 [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
医務室にウインディを連れていき、至急手当てを頼みウインディを休ませる。すべてが終わるまで、ランスはそばで待っていた。

始めに倉庫を探した時はウインディはいなかった。つまり、何者かがあそこにウインディを連れていったのだ。医務室の団員によると、ウインディは襲われてからかなり時間が経っているようだった。恐らく、時間を稼いでより衰弱させるためだ。

誰がやったかだなんて、そんなものは分かりきっている。やはりランスの考えは間違っていなかったようだ。

プロトンは、ランスを脅したのだ。父親の借金を返さずに逃げてやり過ごそうとするランスに、実力行使も辞さないという意思表示としてウインディを襲った。

それも、深夜、眠っている間にモンスターボールを盗み出して暴行を加え、何時間も放置するという卑劣な方法でだ。
 ▼ 150 AYr1xkow/g 17/04/30 17:44:36 ID:xBfcH8I2 [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
うとうとしかけていたランスは、名を呼ばれてハッと目を覚ました。そういえば、腹が減っている。夕食すら食べていない。しかしそんな余裕はなかった。

「ウインディの様子はどうなんです?よくなりましたか!?」

ランスがそう聞いても、団員は申し訳なさそうに目を伏せるだけだ。最悪な予感がした。

ベッドの上のウインディは、今にも死にそうだった。力なく開かれた口からは、浅い息が漏れている。ランスは思わず唇を噛み締めた。

「ウインディ……ごめんなさい……もっと早く見つけていれば……」

トレーナー失格だ。自分のポケモンを守ることができないだなんて。

アテナのナゾノクサを借りて捕まえた日を、昨日のことように思い出す。あの時はまだガーディだった。よく一緒に遊んだものだ。

一昨年、タマムシデパートで購入したほのおのいしを使ってウインディに進化させた。ロケット団員のポケモンとして、良くないことをさせたこともあった。それでもいつでも感情を分かち合ったウインディはランスを理解し、従ってくれた。この世で一番大切な存在だ。

「ウインディ……」
 ▼ 151 AYr1xkow/g 17/04/30 17:51:24 ID:xBfcH8I2 [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>147
前も支援をくださった方でしょうか?何か力になれているのならとても光栄です。ありがとうございます

現時点での幹部たちの年齢はランス16歳、アポロ23歳、ラムダ31歳のつもりで書いています。アテナは秘密です。ご参考までに。
 ▼ 152 AYr1xkow/g 17/05/02 19:28:20 ID:WYhWjndk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
やがて、ウインディはそれから二時間後に息を引き取った。

冷たくなったウインディの体を撫でながら鼻をすするランスの目尻から顎にかけて、涙の筋ができていた。

プロトンの思い通りにはさせないと誓ったのに。私はまだ弱い。ランスは自分を責めた。結局、奪われ、虐げられる側から抜け出すことはできていないのだ。

両親もそうだ。散々利用された挙句に殺された。父親のことは哀れな男だと認識していたが、それでも家族だ。大切な存在であることに変わりはない。また大事なものを奪われたのだ。そして、ランスはそれに抗うことができなかった。

後悔。罪悪感。悲しみ。そして、怒り。ランスの感情がぐるぐると動き出し、やがて姿を変えていく。

深く息を吸う。それから、ランスはゆっくりと息を吐き出した。
 ▼ 153 マルス@チイラのみ 17/05/04 00:31:16 ID:ity5ojY. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しえん
 ▼ 154 AYr1xkow/g 17/05/09 00:20:28 ID:KnQ.2F3A [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
とあるきのみがある。そのきのみには鎮痛や陶酔といった作用があるが、使用するとやがて幻覚が見えるようになるなどの副作用があり、使用者の精神に異常をきたすようになる。依存性や毒性の強いそのきのみは、もちろん一般には流通しておらず、使用や所持、栽培は違法とされている。

さて、今日プロトンはそのきのみの売買の取引にやってきていた。ランスはそれに付き添いとして同行している。

あの日以来、ランスはプロトンに対しての態度をまったく変えていない。むしろ険悪になる前と同じように堂々と向き合っていた。プロトンはそんなランスを不審に思っているようだったが、次の給料日に何か行動を起こしてくるのではないかとランスは睨んでいた。奴が欲しているのは金だ。

取引はカントー地方のとある街にある陰気なバーで行われる。裏取引などでよく使われる、ならず者の集う店だ。
 ▼ 155 AYr1xkow/g 17/05/09 00:22:07 ID:KnQ.2F3A [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「モンスターボールは外してくれ。トラブルを避けるためにね。俺も置いてきた」

取引相手の男が言う。ランスより少し年上の、ガタイのいい男だ。プロトンは面倒臭そうな顔をすると、ベルトにつけていたふたつのモンスターボールを男の目の前で取り外し、ランスに手渡した。

「お前は外で待ってろ。監視を頼む」

「はい」

無機質な声で返して、ランスはプロトンからモンスターボールを受け取った。プロトンが更に一歩近づいてくる。ランスは眉を寄せた。プロトンはランスの耳元で、

「もうお前にはポケモンがいないから嬉しいだろう?あ?」

そう囁いて、意地の悪い笑みを浮かべて離れていく。ランスはプロトンの後ろ姿を思いきり睨みつけると、黙ってバーを出ていった。背後から、下品な笑い声と共に二人の声が聞こえる。

「本当にそれで全部か?どこかに隠してないか?ケツの穴には?」

「そこには何も入れたことはねえ。それに、それはこっちの台詞だ。ついでに言うと急いで出せないところに隠しておいても無駄だ」

「それもそうだ。さっさと始めよう」
 ▼ 156 AYr1xkow/g 17/05/09 00:23:47 ID:KnQ.2F3A [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
プロトンと男の取引はスムーズに終わった。男は確認を終えるとさっさと帰っていった。プロトンは密売人である男と関わっているところをできるだけ見られないようにするために、少し時間を空けてから店を出るつもりでいた。

ランスが店に入ってくることはなかった。まあ、恐らく何も問題はなかったのだろう。プロトンは薄汚れた店の出入口を一瞥すると、何度も確認した「ブツ」に再度目を落とした。

見た目は他のきのみと何ら変わらない。鮮やかな色をした美味そうなきのみだ。しかしこれが、いわゆる薬物と同じような効果を持つ危険なものなのである。

プロトンは下卑た笑みを浮かべた。裏組織に属する人間は、こういったものは過剰摂取していて強い耐性を持っているか、或いは逆にまったく摂取したことがなく、少量でも強く影響を受けてしまうかのどちらかだ。そしてプロトンは前者だった。

この取引で得た分のきのみをいくつ横領して、自分のものにしてやろうか。プロトンがそんなことを考えていると、暗い店の中に一筋の光が射した。思わず目を細めて振り返る。

プロトンは、ランスが入ってきたのだと思った。だからなぜ勝手な行動をするのかと怒鳴ってやるつもりだった。しかし、そこにはプロトンの知らない人物が立っていた。
 ▼ 157 AYr1xkow/g 17/05/10 00:43:55 ID:PN6vFtYE [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「だ……誰だてめえ?」

プロトンは思わず声を上げた。見知らぬ男の目が、ばっちりと自分を捉えていたからだ。スーツの上に高価そうなジャケットを着た男は小さく息を吐くと、もったいぶるような大股でこちらへと近づいてきた。

「はっはっは。まあ名乗るほどの者ではありませんよ。ただ、素性を現しておいた方がきっとあなたを脅せると思うので、言っときましょうか……」

男は胸ポケットから何かを取り出した。そしてプロトンに向けて開く。

「警察です」

瞬間、雷のような音が響き渡った。

「ランス!!!」

プロトンが叫んだからだ。今はポケモンを持っていない。ランスに預けたままだ。こんな丸腰では捕まってしまう。証拠品も目の前にたっぷりとあるのだ。

「はっはっは、それは、店の前にいたハンサムボーイの名前ですね?だとしたら、残念ながらもう彼はあなたの役には立たないでしょうね。なんせそこにはもういないので」

プロトンは音が聞こえるくらい大きな力で歯軋りした。一体どうしろと言うのだ。あの役立たずめ。人のポケモンを借りておきながらバトルに負け、捕まってしまったというのか。
 ▼ 158 AYr1xkow/g 17/05/10 00:45:55 ID:PN6vFtYE [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「さて、あなたにはたくさんの罪状があるんでしょうが……とりあえず、現行犯で逮捕できる理由があるところで会えるなんて、嬉しいですな」

刑事の男はわざとらしいほど朗らかに言った。警察の中でもそれなりに立場のある人物なのだろうということがなんとなく想像がつく。

プロトンは男の話などろくに聞いていなかった。気がつけば、店には誰もいない。ひたすら汚れたタオルでカクテルグラスを拭いていた陰気なバーテンダーさえいなくなっている。まさか、みんなここに警察が来ることを知っていたというのか?

プロトンはガタンと大きな音を立てて立ち上がると、近くに飾られている空のワインボトルを手に持った。頭を狙えば、きっと逃げられる。しかし刑事にはそんなプロトンの考えはお見通しだったようだ。

「あなたね、そうやってまた罪を増やすつもりですか?無駄な抵抗はおやめください、ね。こちらにはポケモンがいますから」

刑事はそう言うと、モンスターボールを取り出し、ポケモンを繰り出した。出てきたのはドガースだ。
 ▼ 159 AYr1xkow/g 17/05/10 00:48:13 ID:PN6vFtYE [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
プロトンは考えた。この場をどうやって切り抜けるのかを。気を落ち着かせようと必死だった。

力を使うしかない。この世を制するのは暴力だ。そう判断したプロトンは、刑事の頭部に狙いを定めていきなり走り出した。

刑事はそんなプロトンの姿を見るなり、うんざりした表情で首を傾げ、ドガースに指示を出す。

「ドガース、どくガス」

刑事に指示されたドガースは、紫色をした酷い悪臭のするガスを噴き出した。たちまち店内に毒ガスが蔓延する。見れば刑事はちゃっかりマスクをして自身を守っていた。プロトンは手に力が入らず、ワインボトルを取り落とした。大きな音が鳴ってボトルが割れる。そして、プロトンはその場に手をついた。

「クソ……クソが……ッ!」

体がガクガクと震えている。この震えは、全身を襲う痛みによるものなのか。それとも、恐怖によるものなのか。
 ▼ 160 ュウコン@ヤタピのみ 17/05/10 01:29:40 ID:LdT7FcQQ NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 161 AYr1xkow/g 17/05/11 00:01:39 ID:UcZTxFKI [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
割れたワインボトルの破片が掌に刺さっている。でも、その痛みはまったく感じない。毒ガスのせいで、もはや体の感覚が麻痺し始めていた。苦しい。苦しい。そして、怖い。

捕まってしまう。ポケモンがいないので抵抗すらできない。どうすればいい?どうすればいいというのだ。

まだここで終わるわけにはいかない。愚かなプロトンは強欲だ。まだ、欲しくてたまらないものがこの世にたくさんある。このまま狭くて暗いブタ箱に閉じこめられて一生を終えるわけにはいかないのだ。

しかし、プロトンは抵抗する術を持っていない。それに今現在、既に不利な状況に陥っている。逃げ場は、ない。

警察に捕まることへの恐怖。それが、今のプロトンを支配している感情だった。

マスクを外した刑事が近づいてきた。プロトンは暴れて抵抗しようと思ったが、体が思うように動かない。やっとのことで顔を上げると、刑事が何かを言おうと口を開こうとしているところだということが分かった。
 ▼ 162 AYr1xkow/g 17/05/11 00:03:42 ID:UcZTxFKI [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「手荒な方法を取ってしまってすみませんね。まあ、少しスッキリしましたけど。おっと、これはこっちの話」

刑事はコホンと咳払いをすると続けた。

「では、本題に入りましょう。正直に言うと私はあなたを捕まえるつもりはありません。私と取引をしませんか?」

「とり……ひき」

プロトンが、回らない舌でどうにか繰り返す。

「ええ」

刑事は胡散臭いほどの笑顔を浮かべた。

「あなたはロケット団の幹部の一人、プロトンさんでしょう。あなたが情報を提供してくれるのなら、見逃しますよ。その代わり、洗いざらい、すべて、何もかも話してください」

プロトンは、もうまともに考えられなかった。今この場を切り抜けるには、そうするしかない。

「どうしますか?とはいえ、あなたに残された選択肢はひとつしかないと思いますがね」

そうだ。選択肢はひとつしかない。プロトンにとって、組織は守るべきものでもなんでもない。ただ、金と権力を得るためだけの手段として入ったのだ。組織への愛も、ボスへの忠誠も、何もない。
 ▼ 163 AYr1xkow/g 17/05/11 00:04:20 ID:UcZTxFKI [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
プロトンがもぞもぞと動いて呻き声を上げると、刑事は更にプロトンに一歩近付き、手を差し出した。

「プロトンさん。あなたは、組織に忠実な組員ですか。それとも……ただの愚かな犯罪者?」

プロトンは濁った目で刑事を見上げた。それから、ぶるぶると震える手をどうにか上げて、刑事の手を力なく握った。

これがプロトンの選択だ。組織を裏切ってでも、生きていたい。この後、一体どうなるのかは分からない。いつか警察がロケット団のアジトまでやってくるかもしれない。それでも、その時はその時だ。今が最大の危機なのだ。とやかく考えている余裕はない。

バレなければいい。知られなければ、また日常に戻ることができる。この恐怖から、早く抜け出したいのだ。そのためには、こうするしかない。

刑事はプロトンの手を握ると、強く引っ張り上げて体を起こした。毒にやられて涙の滲む目に映る刑事の顔は、なぜか少し悲しげに見えた。
 ▼ 164 AYr1xkow/g 17/05/11 00:06:31 ID:UcZTxFKI [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
プロトンが取引先の男と使用していたテーブルをもう一度使い、二人は向かい合う。刑事に貰った毒を治す薬を飲んでから始まり、尋問は結局三時間以上も続いた。刑事はボイスレコーダーを用意しており、刑事がプロトンに質問をし、プロトンがそれに答えるという形で録音されている。

構成員の数や、幹部について、アジトの場所など、様々なことを聞かれた。ボスに関わる情報も求められた。プロトンはさすがに一瞬逡巡したが、結局すべて話した。もう話していないことは何もないというくらい話した。

「……では、質問は終わりです。お疲れ様でした」

刑事はそう言うと、ボイスレコーダーの電源を切った。プロトンはホッとした。もう喉が渇いてカラカラだ。

「それじゃあ、もう帰っていいのか?」

プロトンが力なく言う。刑事は黙っていた。話が違うじゃねえかと声を上げようとした瞬間、若く、よく通る声が店内に響いた。

「帰る?一体どこに帰るつもりですか?」
 ▼ 165 AYr1xkow/g 17/05/12 00:06:25 ID:Z0QLoOOc [1/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
声の主は、もちろんすぐに分かった。ランスだ。

もう日は落ちており、外は暗い。扉を開けても光が見えないために、ランスが店に入ってきていたことに気付かなかったようだ。今日は制服ではなく私服で出てきていたランスは、ぱっと見は整った顔立ちをしたごく普通の少年だ。しかし、その緑の瞳は恐ろしく冷たい。

「ガキ!この……!一体どこにいやがった!?」

プロトンが立ち上がり、怒鳴る。弾みで椅子が倒れた。しかし、ランスは至って冷静だ。

「ずっとそこにいましたよ。全部聞いていました。……ご協力ありがとうございます、もういいですよ」

ランスは話しながら歩き、刑事の隣にやってきた。刑事は一瞬プロトンの方を見た。プロトンが瞬きをすると、刑事はもういなくなっていた。代わりにそこにいたのは、ラムダだ。

「!?」

プロトンは絶句した。まさか。そんなまさか。この俺が、こんなガキに担がれたのか!?
 ▼ 166 AYr1xkow/g 17/05/12 00:07:58 ID:Z0QLoOOc [2/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
「他人に興味がないあなたなら、ラムダさんの下手な物真似にもきっと気付かないかもしれないと思ったのですが、本当に気付かないとは。……そもそも、ラムダさんは変装が得意だということは知っていましたか?」

ランスの声には明らかに嘲弄の色が含まれていた。プロトンが歯軋りをする。ラムダがおい、と声を上げたが、ランスは無視した。

「まあ、そんなことはどうでもいいんですか……」

「どうでもいいってお前な、忘れてんのか知らねえけど、俺、先輩だからな?」

ランスとラムダの仲は良さそうだ。そんなものは、金や権力を得るためには不必要なものだと信じて疑わなかった。それがどうだ、今自分は人との関わりを持たなかったことが原因で無様に騙されてしまっている。

「……プロトンさん。一体どこに帰るつもりなんですか?」

ランスがもう一度、力強く、ゆっくりと問う。
 ▼ 167 AYr1xkow/g 17/05/12 00:09:48 ID:Z0QLoOOc [3/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスはラムダの手の中にあったボイスレコーダーを取り上げると、プロトンに見えるように持った。

「何もかも話して、裏切っておきながら、帰る?」

ランスの声は、突き刺さるように痛い。

「あなたにとってロケット団は帰る場所なんですか?違うでしょう」

プロトンは何も言い返せず、ずっと黙っていた。ラムダも黙っている。ランスは続けた。

「それかあなたがとんでもない大馬鹿者で、これでもまだロケット団を自分の居場所だと思っているのなら、言っておきましょう。ロケット団はあなたの居場所ではない」

ランスは冷たく言い放った。

「それに、こちらからも願い下げです。あなたには、帰ってきてもらいたくありません。このボイスレコーダーはサカキ様にお渡ししておきますね」

「やめろ!!」

ランスがそう言ってボイスレコーダーをしまう。プロトンは慌てて大きな声を上げた。
 ▼ 168 AYr1xkow/g 17/05/12 00:16:32 ID:Z0QLoOOc [4/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスはプロトンの声などまるで聞こえなかったとでもいうように完全に無視した。

「それと、もうひとつ。きのみを横領するつもりでしたね?前も報告書に怪しいところがあったらしいと聞いていたので、調べさせてもらいました。見たところ取引額と取引したきのみの量がどうも見合いません。どうやら黒ですね。この件もサカキ様にお伝えしておきます」

ランスは淡々と語る。

「この後どうなるのかは、私にも分かりません。サカキ様の決めることですから」

プロトンは愕然とランスを見つめていた。もう、本当に終わりだ。あのボイスレコーダーの中には、すべてを語ったプロトンの声がしっかりと録音されている。再生すればすぐに分かる。プロトンがロケット団を売ったということが。

騙されていたことなど関係ないのだ。これを聞かれれば、本当にそんな目に遭った時に同じことをするだろうと思われるだろう。それは何をしても償えない最も許されない行為なのだ。

きっと最悪の罰が与えられる。死よりも恐ろしい罰。身体の一部を切り取られるよりも残酷な罰だ。地下で暮らしている者を太陽の下に放り出す。その後、一体どうやって生きていけばいいというのだ?まさしく地獄だ。たとえ運良く小さな組織に拾われたとしても、結局、いつか本物の警察に捕まるのがオチだろう。
 ▼ 169 AYr1xkow/g 17/05/12 00:18:44 ID:Z0QLoOOc [5/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスはしばらく黙ってプロトンを見つめていたが、隣で俯いているラムダに目をやると呆れたように首を振った。

「プロトンさんを幹部に推薦してずっと後悔していると言っていたのはあなた自身ですよ。アポロさんに申し訳なく思っているなら、協力するべきでしょう。だからお誘いしたんです」

「……ああ」

ラムダはそう言うと、顔を上げた。

「だよなぁ。分かってる。後悔なんかしてねえぜ。いや、始めはここまでやる必要あんのかとちょっと思ったんだけどよ……」

ラムダは心からの憎しみをこめた表情でプロトンを睨みつけた。

「一瞬でも迷った自分が馬鹿みたいだ。こいつはただの愚かな犯罪者だ」

誇りも美学も何もない、正真正銘の愚か者だ。

ラムダは選択肢はひとつしかないと思った。しかし、プロトンはもうひとつの選択をした。もう、同情はこれっぽっちも残っていなかった。
 ▼ 170 AYr1xkow/g 17/05/12 00:23:24 ID:Z0QLoOOc [6/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……じゃ、後のことは任せたぜ、ハンサムボーイ」

ラムダはまったく違う調子で言った。まるで今日の夕食について話しているような声色だ。ランスが顔をしかめる。

「それ、やめてくれませんか?」

「お、なんだ、恥ずかしいのか?よし、もっと言ってやろう。先輩を敬わない罰だ」

「やめてください」

ランスは嫌そうにそう言うが、それてもどこか楽しげだ。

ラムダの方を見ていたランスはくるりとプロトンに顔を向けた。その表情はつい先程までとは打って変わっており、恐ろしかった。どんな感情がこめられているというのか。いや、もしかしたら何の感情もないのかもしれない。

「残念でしたね。プロトンさん」

ランスはそう言った。ちっとも残念そうではない声で。

「ランス、怒ってんのか?……いや、そりゃ怒ってるよな」

ラムダが言う。しかし、ランスはあっさりと返した。

「怒ってませんよ」

ランスの心を支配していた怒りはもう、復讐を完遂させるためのエネルギーへと変換されているのだから。
 ▼ 171 ースト@かくとうジュエル 17/05/12 21:17:44 ID:JuQobSDE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 172 ラエナ@かいのカセキ 17/05/12 23:50:33 ID:2XKKD09A NGネーム登録 NGID登録 報告
文章力が足りてるよ…。
 ▼ 173 AYr1xkow/g 17/05/13 00:19:49 ID:DaAuHP22 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日。プロトンの姿は、昨日あのバーに置き去りにしてから一度も見ていないが、サカキによって今日付けでロケット団を除籍されたと聞き、ランスは復讐が上手くいったということを知った。

ランスは部屋に一人佇んでいた。ランスはあの時にプロトンから預かったふたつのモンスターボールをずっと持っていた。少し考えてから、モンスターボールの中のポケモンを出す。現れたのはズバットとドガースだった。二匹は状況が分からず混乱しているようで、困ったような目でランスを見上げた。

「あなたたちの主人は、もういません」

ランスは二匹に冷たく言い放つ。それから小さく息を吸い、
「今日からあなたたちの主人は、私に変わります。私はランスといいます。よろしくお願いします」

二匹は未だ戸惑っているようだった。

ランスは、かつてサカキに貰った「利用できるものはすべて利用する。それの何が悪いと言うのだ」という言葉を思い出していた。
 ▼ 174 ブカス@スキルコール 17/05/13 01:24:35 ID:MPrtZP8E NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
更新されてるの見るとめっちゃ嬉しい…
支援
 ▼ 175 カグース@ポロックキット 17/05/13 01:24:57 ID:Yu.q6zcg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 176 AYr1xkow/g 17/05/14 13:16:42 ID:iTU9yzYM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
部屋の扉をノックする音が響く。ランスは二匹をモンスターボールに戻すと「どうぞ」と声をかけた。扉を開けたのは、アポロだ。

「ランス、サカキ様がお呼びです」

「分かりました」

ランスは素早く返すと、モンスターボールを腰のベルトにつけ、迅速に部屋を出た。

サカキの部屋まで来て、扉をノックする。サカキの「入りなさい」という声が聞こえ、ランスは扉を開けた。

「失礼いたします」

ランスは礼をして言う。座っていたサカキはランスに近くに来るように手招きした。

ランスが机越しにサカキの目の前で立ち止まる。サカキは口を開いた。
 ▼ 177 AYr1xkow/g 17/05/14 13:18:02 ID:iTU9yzYM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ランス。昨日も言ったが、君があんな行動を起こすだなんて、予想外だった。本来ならとても勝手な行動だと言わざるを得ない。だが……」

そう言って、サカキは意味ありげにランスの顔を見てから続けた。

「正直に言おう。君は厄介払いをしてくれた。君に事情があったことも承知の上で言うが、あの男を排除することを目的に君のとった行動は、そうだな、限りなく正解に近い」

ランスは黙って聞いている。

「あの男は我らロケット団の和を乱す存在だった。ランス、君には感謝しているということだ。嫌な仕事をさせてしまってすまなかったな」

「いいえ」

ランスはそれだけ言った。

「さて、ではここからが本題だ」

サカキははっきりとした口調で言った。ランスの肩が緊張で思わず固くなる。それからサカキの発した言葉は、衝撃的なものだった。
 ▼ 178 AYr1xkow/g 17/05/15 00:48:26 ID:D4rbfiw. [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ランス。君をロケット団の幹部に任命する」

「え……え?私をですか?」

動揺して思わず聞き返してしまった。サカキは力強く頷く。

「君の今までの成績や実力、仕事に対する姿勢など、すべてを考慮した上で決定したことだ。君にはかつてのプロトンのように、現場での仕事がメインの班を率いてもらいたい。一番得意だろう?」

ランスはまだ実感が湧かず、口を開けて呆然としていた。そんなランスを見て、サカキは笑い声を上げる。やがてランスはハッとして、慌てて返した。

「得意……得意です。事務作業より、現場に出る方が」

ランスは強く頷いた。サカキは微笑んでいる。ランスは小さな声で呟いた。

「……私が……幹部」

聞こえていたらしい。サカキはランスをしっかりと見据えて言う。

「ああそうだ。ランス、頼りにしているぞ」

ランスは瞬きした。目がチカチカする。

「……はい。ありがとうございます」
 ▼ 179 AYr1xkow/g 17/05/15 00:50:36 ID:D4rbfiw. [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「それにしても……」

サカキはそう言って、ちらりとランスの腰のベルトにつけられたモンスターボールを見る。

「一時期は自分を可愛がっていた上司を完膚なきまでに叩きのめした挙句、その上司のポケモンを自分のものにしてしまうとはな」

ランスが微妙な表情をしているのを見て、サカキは軽く笑ってから付け足した。

「いや、責めているのではない。褒めているのだよ。もしかしたら、その二匹が自分のポケモンを傷付けたのかもしれないというのに……いや、これは余計だったな。すまない」

とはいえ、サカキの声色は申し訳なさそうではない。試されているのだ。ランスは瞬時に悟り、平静を保った。とはいっても、もうランスの中に怒りはないのだが。サカキは期待通りのランスの反応が嬉しいようだった。

サカキはにやりとふてぶてしい笑みを浮かべると、真っ直ぐにランスを見つめた。
 ▼ 180 AYr1xkow/g 17/05/15 00:56:07 ID:D4rbfiw. [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「君はロケット団で最も冷酷な男だ」
 ▼ 181 ブライカ@ひかりのこな 17/05/15 22:39:52 ID:DA6Vbf2E NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 182 AYr1xkow/g 17/05/16 00:30:48 ID:7fqR68Ng [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
サカキの部屋から出ると、そこにはアポロがいた。アポロは既に何もかもを知っているようだ。

「幹部就任おめでとうございます。部屋に案内します」

「ありがとうございます」

相変わらずアポロはすべてにおいて完璧だ。ランスはそんな彼の後ろをついていく。案内されたのは、プロトンが使っていたものの隣の部屋だった。デスクとベッド以外は何も置かれていない、今まで四人で使っていた部屋よりもずっと広い部屋。今日、この瞬間からランスはここを自由に使っていいのだ。

「お伝えしておきますね。幹部は四人に増えました。それが一番バランスがいいと判断しました。四方からサカキ様を支えるのです」

「はい」

アポロがスラスラと言う。ランスは既にいっぱいいっぱいだったが、返事だけはちゃんとしておいた。

「それでは、落ち着きましたら会議室に来てください。幹部に集まるように言っていますので」
 ▼ 183 AYr1xkow/g 17/05/16 00:33:41 ID:7fqR68Ng [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
部屋の中で深呼吸をして、気を落ち着かせる。それからランスはすぐに会議室へと向かった。もう、何も怖いものはない。

会議室の扉をノックする。アポロの「どうぞ」という声が聞こえてきた。ランスは素早く息を深く吸うと、扉を開けた。

「失礼します」

会議室に入り、中にいる人物を確認する。アポロ、アテナ、そしてそれからラムダ。

「お、来たなハンサムボーイ」

ラムダがにやりと笑う。ランスは思わず安堵の息を漏らした。

「だから、それもうやめてくださいって」

ラムダは笑っているだけで返事をしない。でも、それだけで十分だった。

「うっふっふ。待ってたわよ」

アテナも笑顔だ。

「さあ、これで全員揃いましたね」

アポロも、微笑んでいた。
 ▼ 184 トデマン@メガストーン 17/05/16 08:44:08 ID:Tlb9eZIc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
久しぶりに見たら更新されてた
支援
 ▼ 185 AYr1xkow/g 17/05/17 23:51:14 ID:c2WztRAo [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「よし、ランス。もう俺は先輩じゃねえしな。俺のことはラムダ、って呼んでいいぞ」

ラムダが豪快に笑って言う。すると、アテナも負けじと割り入ってきた。

「あたくしのこともアテナでいいわよ。そんなに歳だって変わらないと思うし……」

どう見ても変わるのだが、ランスは黙っておいた。指摘すればどんな恐ろしい目に遭うのか、想像もしたくない。ランスはロケット団に入った時からまったく容姿の変わっていないアテナを少し不気味にさえ思っている。

「二人とも、なぜそうなるんですか」

アポロが怒ったように言う。アテナとラムダは顔を見合わせた。
 ▼ 186 AYr1xkow/g 17/05/17 23:53:46 ID:c2WztRAo [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「だってよぉ、俺とランス、これでも結構ウマが合うんだぜ。これからは対等にやろうぜっていう、俺なりの気遣いだよ、気遣い」

ラムダは楽しそうだ。アテナも含みのある笑いを見せている。

「あたくしもよ。前に言ったのよ、ランスとはうまくやれそうって。あたくしの勘はよく当たるの。さ、これからも仲良くやりましょ」

ランスは別に対等でなくていいと思った。自分がこの二人と同じ位置に立っているだなんて一度も思ったことはない。今だってそうだ。しかし、アテナとラムダは期待に満ちた瞳でランスを見つめている。

「では、ラムダ……と、アテナ……、……。よろしくお願いします」

少しつっかかりながらもランスがどうにかそう呼ぶと、二人はニヤニヤと楽しそうに笑っていた。
 ▼ 187 AYr1xkow/g 17/05/17 23:55:32 ID:c2WztRAo [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「私はそんなことは許しませんからね」

アポロが毅然として言う。ランスは別に構わないのでなんとも思わなかったが、アテナとラムダは違かったようだ。

「あーら、なぜかしら。あたくしたちのことは呼び捨てのくせに」

「あいつ、自分が一番サカキ様に信頼されてるからって調子に乗ってんだよ」

「嫌だわー。自分だってまだまだ若いひよっこじゃない。ねえ?」

「自分だけ年下にはさん付けで呼ばれようとしてんだぜ。やな上司だよなー。まだ23だろ?」

「あらやだ、赤ちゃんと大して変わらないじゃない!」

「ほら、ランスお前もなんか言ってやれ。俺の方がかっこいいですとか」

「嫌ですよ」
 ▼ 188 AYr1xkow/g 17/05/17 23:57:55 ID:c2WztRAo [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
アテナとラムダのわざとらしいやりとりを見ていたアポロは、大きく溜息をついた。それから観念したように言う。

「分かりましたよ。分かりました。アポロでいいです、もうなんでもいいです」

「よーし、よく言った!それでこそ男だ!」

ラムダはそう言って親指を突き立てた。

「こんなところで馴れ合いなんかして一体どうするつもりです?」

アポロが呆れたように言うと、ラムダは手をひらひらと振りながら、

「馴れ合いなんかじゃねえよ。大切なことだろ。俺たち四人が対等になってお互い信頼し合うことはよ」

アポロは何も言わなかった。納得したのかもしれない。

「じゃ、仕事に入りましょ。班員の振り分け、やり直さなくちゃいけないんでしょう?」

「ええ、そうです。班が増えましたからね」

アポロはそう言って、きびきびと動き出した。
 ▼ 189 AYr1xkow/g 17/05/18 00:48:03 ID:yVy3bkhc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
一区切りがつきましたところでご連絡です。これからは更新頻度が低くなると思います。すみません。
必ず完結させるつもりですので、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
 ▼ 190 ョロゾ@ウタンのみ 17/05/21 08:42:37 ID:mIY.UH2U NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 191 シズマイ@ギンガだんのカギ 17/05/27 23:44:14 ID:Lq4RSjJk NGネーム登録 NGID登録 報告
待ってます
 ▼ 192 レフワン@ヒメリのみ 17/05/30 23:26:48 ID:/GcTGwXw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
待ってます
 ▼ 193 AYr1xkow/g 17/06/04 00:06:11 ID:ihiaJYNo [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスがロケット団の幹部に任命されてから、早いものでもう三年が経過していた。ランスの周りの環境は少しずつ、確実に変わっていた。例えば、以前寮の同室で生活していた二人の先輩と一人の後輩の状況だ。三人とも、かつてランスと同じプロトンの班に所属していたが、今はラムダの班の配属になっている。

ロケット団はこの三年間でかなり力をつけていた。今やカントー地方の裏世界を完全に牛耳っている。サカキはロケット団の更なる発展を求めて、活動範囲を広げようとしていた。現在、アポロとアテナがカントー地方の南にあるナナシマに長期の出張に行っている。そして、ラムダは主にロケットゲームコーナーの運営、管理を担当する班のリーダーとなっていた。

ランス自身も変わった。十九歳になったランスは、ロケット団に入った日にアテナに言われた「将来有望」という言葉の意味をやっと理解した。正直、容姿が整っていることはばっちりと自覚している。

しかし、そんなことはランスにとってさほど重要ではなかった。鼻にかけて、自慢げに歩くようなことはない。だって、今のランスの頭の中を占めているのは、そんな自分を満たしてくれるような感情ではないのだから。
 ▼ 194 AYr1xkow/g 17/06/04 00:07:55 ID:ihiaJYNo [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今日はロケット団のアジトに、一人の客人が来ていた。瓶の底のように分厚い丸眼鏡をかけた、白衣姿の野暮ったい男だ。男は落ち着きがなく、応接間のソファに腰かけて茶を啜りながら周りをキョロキョロと見渡している。

「どうかしましたか?」

声が聞こえ、男はびくりと飛び上がった。ランスだ。

「お……驚かせるな!」

男はオドオドしながらも強く言った。ランスは「すみません」とまったく悪びれる様子もなく謝罪すると、

「お待たせしました。一体なんのご用でしょう」

「ふん……いいから、早く」

男はさっさと座れ、と言うように顎をしゃくって促す。ランスは男を眉をぴくりとも動かさずに黙って数秒見つめてから座った。

「……明日の計画に変わりはありません。準備も滞りなく終わりました。すべて順調です。心配はいらないと思いますが」

ランスがすらすらと言う。男は強く首を振った。
 ▼ 195 AYr1xkow/g 17/06/04 00:08:54 ID:ihiaJYNo [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「そういう話をしにきたんじゃない。その……確かめに来たんだ。見つけた化石は、僕が買い取る場合……」

男がそう言った瞬間、ランスはまたか、と呆れたように目をぐるりと動かした。そして溜息を抑えつつ答える。

「何度も言っていますが、いくつかのルートでの売値を見てから決めます。あなたがそれよりも高価な額を出してくださるのなら、喜んでお売りしますよ」

「納得がいかない!」

男はそう言って、机をばんと叩いて立ち上がった。

「僕を雇ったのは君たちだろう!僕の要望が通らないのはおかしいじゃないか!」

激昂する男に反し、ランスは冷静だ。

「確かにそうですね。あなたの希望で計画を実行する日付は三度延期しましたし、連れていく団員の数は五人未満という条件も飲みました。報酬の金額もそれなりの金額をお求めでしたね。こちらもそれで決定したはず」
 ▼ 196 AYr1xkow/g 17/06/04 00:13:06 ID:ihiaJYNo [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスはそこまで言うと、男をじっと見つめてわざとらしく言った。

「……ええと、それで一体なんのご用でしたっけ?」

男はぐっと押し黙る。ランスは余裕の面持ちで続けた。

「まあ、いいでしょう。あなたが喧嘩を売るつもりなら、喜んで買いますよ。ロケット団に歯向かえば一体どうなるのかを身を以て知るといいでしょう。」

ランスが言い放つと、男は悔しそうに唇を震わせ、

「わ、分かったよ!」

そう言って、ランスを恨めしげにギロリと睨みつけた。とはいっても、分厚いレンズの向こうの目はこちら側から見えないのだが。

「この……クソッ……年下のくせに生意気な奴め……」

男はブツブツと呟くと、やがて吐き捨てるように「もういい!」と言って鼻息荒くアジトを出ていってしまった。

ランスはその後ろ姿が見えなくなるまで待ってから、大きな溜息をついた。
 ▼ 197 グカルゴ@ジュペッタナイト 17/06/04 05:58:29 ID:LRzvDnsk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
北支援
 ▼ 198 AYr1xkow/g 17/06/05 00:36:53 ID:i1zMUw9s [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスがくるりと方向転換すると、タイミングを見計らったかのように見知った顔がひょっこりと現れた。ラムダだ。

「よおランス。調子はどうだ?」

「ごくごく普通です」

ランスはそう言いながら、男の残した茶へと手を伸ばす。すると通りがかったひとつ年下の女性構成員が「私がやります!」と言って駆けつけてきたので、ランスは彼女に片付けを任せることにした。

「そうかぁー?」

ラムダは苦笑いして続けた。

「最近気が立ってるだろ。あいつのせいか?明日までの辛抱だ、頑張れよ」

ラムダがアジトの入口の方に視線を送りながら言った。言うまでもなく、先程までそこにいた男を指している。ランスはかぶりを振った。

「違いますよ」
 ▼ 199 AYr1xkow/g 17/06/05 00:38:00 ID:i1zMUw9s [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そう、違う。今ランスの頭の中を占めているのは、あの男への苛立ちや不信感などではない。たとえ奴が何かしでかそうと、後でどうとでもできる。そんなことは、どうだっていいのだ。

ランスは不満だった。幹部になってから、現場に赴くことが少なくなっている。最近の仕事は指示ばかりだ。

「何?なんだ?……あ」

物憂げな表情のランスをしばらく見つめていたラムダは何か思いついたような顔をして、下卑た笑みを浮かべる。

「女か?」

ランスは無視した。
 ▼ 200 AYr1xkow/g 17/06/05 00:38:35 ID:i1zMUw9s [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
無視されたラムダが喚いている。ランスは黙って物思いに耽っていた。

本当に、不満ばかりだ。この最近は満足できる仕事をまったくしていない。明日オツキミ山で実行する計画も、本来は自分が現場に出るつもりで考案したのだ。しかし、結局その希望は叶えられなかった。

考えれば分かる。幹部となった自分に求められているものが一体なんなのか。分かるのだ。でも、果たしてそれは本当に必要なのだろうかと疑問にも思う。

誰が悪いわけでもない。ラムダはもちろん、アポロやアテナのせいではない。サカキもまったく影響を与えていないと言えば嘘になるが、直接何か理由があるわけではない。ランス自身だってそうだ。

何が理由なのか?強いて言えば、この今現在のロケット団内の空気だ。この三年間で明らかに何かが変わった。そしてその変化は、ランスに大きな影響を及ぼしていた。
 ▼ 201 AYr1xkow/g 17/06/09 22:11:23 ID:ZQjjrLJ2 [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日、ランスの班に所属する団員四人と、ランスの雇った研究家の男はオツキミ山に向かった。

オツキミ山では、稀に珍しい化石が見つかるという。その情報を得たランスは、化石を発掘し、高額で売って資金を得ようと今回の計画を立てた。本来はランス自らがオツキミ山に赴くつもりだったのだが、その願いは叶わなかった。現場で仕事をすることがメインの班ではあるが、リーダーは自由には動き回れないらしい。皮肉なものである。

計画の実行に当たって、ランスは化石に詳しい研究家を雇うことにした。ロケット団員だけでオツキミ山に行ったとしても、化石を見つけることはできないだろう。しかし、ロケット団に協力してくれるような研究家はすぐには見つからなかった。ようやく一人が名乗りを上げてくれたが、あの男は無理矢理な要求を何度も出し、執拗に化石の買取を求めてきた。確実に何かを企んでいる。

結局ランスは男の動向が気になり、少し経ってから自分もオツキミ山へと向かうことにした。
 ▼ 202 AYr1xkow/g 17/06/09 22:11:54 ID:ZQjjrLJ2 [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ハナダシティ方面からオツキミ山に入り、急いで男を探す。途中、少年とすれ違った。こんな山奥に人の出入りがあるなんてと不思議に思ったが、そんなことは気にしていられない。

男は比較的すぐに見つかった。しかし、男はランスに気づくや否や脱兎の如く走り去っていく。ランスは思いきり顔をしかめると、腰のモンスターボールに手をかけた。

「ドガース!えんまく!」

繰り出されたドガースが、口から黒い煙を吐き出す。煙幕はもくもくと上がり、すぐに男の元までたどりついた。男はその場に立ち止まってゴホゴホと咳きこむ。ランスはその瞬間を見逃さなかった。
 ▼ 203 AYr1xkow/g 17/06/09 22:12:52 ID:ZQjjrLJ2 [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「どういうつもりですか」

「ヒィッ!」

素早く背後まで追いつき、できるだけ口を開かないようにしていつも通りの口調で尋ねる。男の方がびくりと跳ね上がった。

「なっ、ななななんだよ!お前は来ないって行ってただろう!」

男は振り向いて慌ててそう言ったが、煙幕を一気に吸いこんでしまったのか、地に左手をつけてへたばり、激しく咳をした。

ランスは黙ったまま男の左手を踏みつける。男は叫び声を上げた。ランスは注意深く男を観察した。右手が強く握られている。ランスはしゃがみこんで男の右手首を抑えると、無理矢理拳をこじ開けた。男の右手には、不思議な模様をした石のようなものがあった。男がやめろ!と叫ぶ。

「ほう。これが化石というやつですね。初めて見ました。なんという化石ですか?」

「ぐっ……、離せ!それ、は……っ、僕のだ……!」

男がゼエゼエ喘ぎながら抵抗した。ランスは男の抵抗を物ともせずに化石を取り上げ、男の言葉を無視して繰り返す。
 ▼ 204 AYr1xkow/g 17/06/09 22:13:41 ID:ZQjjrLJ2 [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「これはなんという化石ですか?質問に答えてください。それとも、もっと分かりやすいように聞いた方がいいですか?」

ランスの声は、暗いオツキミ山の中に冷たく響き渡った。男がガクガクと震えながらランスを見上げる。

「なぜ化石がひとつしかないのです?」

そう言うランスの顔は、いつもと変わらない。しかし、男は苦しさや恐怖で愕然としていた。

「オツキミ山で見つかる化石は二種類。あなたにはふたつ見つけてもらうことを条件に高額な報酬を支払いました。あなたが化石を持ち逃げすることなどは予測済みです、そんなことはどうでもいい」

ランスはぐっと自分の顔を男の顔に近づけた。その緑色の瞳の中に光は見えない。

「もうひとつはどこにあるんですか?」
 ▼ 205 タチマル@コインケース 17/06/09 23:45:44 ID:y5raeT2I NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスイケメンすぎ
支援ネ
 ▼ 206 AYr1xkow/g 17/06/11 13:07:21 ID:JVvKn.IM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
この男に二種類の化石を発掘させ、それを高額ルートで売ることで利益を得ようとしたのだ。それが一種類しか手に入らなかったとなると、割に合わない。

「……もだ」

男がわなわなと唇を震わせて囁くように言う。ランスは苛立ちを隠せない様子で「はい?」と聞き返した。

「……子供だ。子供が止めに来て……バトルしたんだ。そして僕は、まけ、負けて……ひとつを譲った」

ランスは大きな溜息をついた。

「譲った、って……あなたが勝手に判断していい問題ではないんですよ。……やはり、私も来ていれば……」

そう言ってランスは顔に手を当てた。それにしても、何か引っかかるものがある。

「……子供?」
 ▼ 207 AYr1xkow/g 17/06/11 13:09:37 ID:JVvKn.IM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しばらく考えこんでいたランスは思い出した。オツキミ山に入ってすぐ、少年とすれ違ったことを。

少年の顔はほとんど覚えていないが、服装は覚えている。次に出会ったとしたらすぐに分かるだろう。まさか、その少年がロケット団の邪魔をしたのか?

「……」

胸騒ぎがする。

落ち着かない心を少しでも鎮めようと、ランスは足元で苦しそうに呻く男に目をやった。まずはこの男の処置を決めなければ。

「……アジトに戻りましょうか」

ランスがそう言うと、男はまたヒッと声を上げた。

「ロケット団に歯向かうと一体どうなるのか、教えてさしあげますよ」

そうだ、ロケット団の邪魔をする者は許さない。たとえ子供だとしても。
 ▼ 208 ライオン@きぼんぐり 17/06/11 14:52:12 ID:ikLNY.D6 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 209 プラス@エドマのみ 17/06/14 06:58:26 ID:7zhxrzAM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 210 AYr1xkow/g 17/06/14 22:55:14 ID:8YcB4cps [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アジトに帰ってから、男が手に入れていたものは甲羅の化石と呼ばれるものだと判明した。

ランスは男に化石の鑑定をさせた後に部下に男への処置を命じたが、その内容については触れないでおこう。知らぬが仏というものだ。

数日後、ランスは条件のいい相手を見つけたため、取引のために目立たない私服姿でアジトを出た。すると、ロケットゲームコーナー前に見慣れた顔が見える。

「ラムダ」

ランスが呼びかけると、ラムダはのっそりと振り向いた。煙草を吸っている。

「お、出かけんのか?気をつけてな」

ラムダはそう言いながらひらひらと手を振った。
 ▼ 211 AYr1xkow/g 17/06/14 22:55:59 ID:8YcB4cps [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あなたも確か予定があるはずでは?」

ランスが怪訝な顔をして言うと、ラムダは煙を吐き出しながら、

「仕事前の一服だよ」

「そうですか」

ランスは気のない返事をする。ラムダは不満げな顔をしていたが、やがて小さく溜息をついて空を見上げた。

「注意してくれる奴も、いなくなると寂しいよな」

ラムダの呟きは、ランスの耳にもしっかり届いた。

「まあ、そうですね」

「元気でやってっかなー、あいつら。ナナシマって俺よく知らないのよね」

「私もです」

「いつ帰ってくんだよ?」

「まだ、としか言えませんね」
 ▼ 212 ネッコ@するどいキバ 17/06/14 22:57:01 ID:b0tYtJEU NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 213 AYr1xkow/g 17/06/14 22:57:46 ID:8YcB4cps [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスの淡白な返事に、ラムダは乾いた笑い声を漏らす。

「なあランス……お前も分かるよな、最近の俺たちの空気」

急にラムダの声色が変わった。ランスは一瞬迷ってから、頷いた。

「分かりますよ。私も影響されています」

「だよなぁ……?雰囲気悪いよなぁー?」

ラムダは少し嬉しそうだった。ランスが同意してくれたことで、安心したのかもしれない。ランスは黙ってラムダの話を聞いていた。

「俺としちゃさ、そりゃ組織の成功は嬉しいけどよ。それよりもこう……中身そのものを大切にしたいんだよな。今の俺たちは、なんかこう……」

ラムダはしっくりくる言葉が見つからず、唸っている。

「そのー……、急ぎ過ぎてるっつーか」

「急ぎ過ぎてる」

ランスは繰り返した。ラムダがその無機質さに思わず笑いをこぼす。
 ▼ 214 AYr1xkow/g 17/06/14 22:58:51 ID:8YcB4cps [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ッハ、ハハ、あー……。いや、前に進むためには必要なのかもしれねえけど……」

「なんとなく分かりますよ、あなたの言いたいことは」

ロケット団内の空気が以前とは違うということは、ランスも重々承知している。

ロケット団は徐々に力をつけ、拡大化してきた。今や一般市民を巻きこんだ凶悪な事件も何件か起こしている。ロケット団の目的は、前から変わらない。でも、手段が変わった。それは、誰が悪いだとかそういう話ではないのだ。

「俺はさぁ、好きなわけよ。悪いことやってるくせに、仲間思いでちょっと馬鹿な奴が多いロケット団のことがさ」

「……」

ランスは何も言えずにいた。

「……少しでも落ち着かないもんかね。俺はアポロとアテナに早く会いてえよ」

ラムダがぼそりと言った。それは、本心からの言葉だった。
 ▼ 215 ガライボルト@きんのたま 17/06/20 06:30:14 ID:8h/kzXi6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 216 AYr1xkow/g 17/06/26 17:45:42 ID:LfxKBKhM [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
化石の売買は、呆気ないほどすぐに終わった。

取引の最中、ランスは心ここに在らずといった様子だった。

どうにも胸騒ぎがするのだ。もうひとつの化石を持っていったという少年。うろ覚えの服装や身長から考えても、せいぜい十一歳くらいの幼い子供だ。

ランスには、現在進めている仕事がもうひとつある。化石の発掘は、思うようにいかなかった。しかし、もう一件は今のところ順調に進んでいる。そちらの仕事の方が優先度も高い。また邪魔をされては幹部の面目丸潰れというものだ。慎重に動かなければ。

今一度気を引き締めたランスがアジトに帰ると、アジトの中は騒然としていた。ランスは怪訝な表情をして首を傾げると、近くの構成員に声をかけた。
 ▼ 217 AYr1xkow/g 17/06/26 17:46:16 ID:LfxKBKhM [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「落ち着いてください。一体何があったんですか?」

ランスに話しかけられた構成員は、一瞬驚いたように肩をびくりと震わせると、ランスの顔を見てホッとしたような顔をした。

「ら、ランスさん!おかえりなさい!じ、実はですね……侵入者が現れまして……」

「!?」

ランスが息を呑む。一体誰が。ランスもラムダも外出していたこのタイミングで、誰がなんのために忍びこんできたというのか。

「もう逃げられてしまいました。それでですね……、その、サカキ様と戦って、サカキ様が、敗北されて……」

「え……」

部下の言葉に、ランスも思わず言葉を失った。まさか、そんなまさか、サカキ様が負けただなんて。

「そして、シルフスコープを奪われてしまいました……ッ!」
 ▼ 218 AYr1xkow/g 17/06/26 17:47:07 ID:LfxKBKhM [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスの脳内に、ビリビリと電流が流れた。そんな気がした。

「……その侵入者、まだこど」

「子供ですね?十一歳くらいの」

部下の言葉を遮って、ランスが早口に言う。部下は面食らったような表情をしてから、頷いた。

「ええ、そうです」

シルフスコープとは、シルフカンパニーで製造されている、人間の目では通常見ることのできないものを映し出すことのできる機械だ。その機械を持っていったということは、きっと、いや確実に、あいつはもうひとつの仕事のことも知っている!

「……クソッ」

ランスは思わず舌打ちをして悪態をつきながら、再びアジトを出ていった。

サカキ様が負けるなんて。ランスの心はざわざわと揺れていた。嫌な予感は当たるものだ。あの時すれ違った少年が、またもランスを邪魔しようとしている。早く、早く追いついて食い止めなければ。
 ▼ 219 AYr1xkow/g 17/07/02 18:30:40 ID:l4mJDVfc [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスが目的地であるシオンタウンのポケモンタワーに到着した時、既に事は終わっていた。

簡単に言えば、そう、負けたのだ。現場を任せていた部下たちは子供に敗北した。もうひとつの仕事であるカラカラとガラガラの骨の売買もこれで頓挫だ。

任務に失敗した部下たちは罪悪感に苛まれながら、申し訳なさそうな表情でランスを見つめている。その顔には、僅かに恐れの色も見えるような気がする。

「……アジトに帰りましょう。話はそれからです」

ランスは嘆息がちに言った。部下たちは小さな声で返事をする。

件の子供が何を考えて行動しているのかは分からない。だが、きっと正義感の強い、馬鹿がつくほど真っ直ぐで純粋な子供なのだろう。それでいてバトルも強い。ポケモンを利用して悪事を働くロケット団のことが許せず、闇雲に立ち向かって、倒していく。現にサカキも一度負けているのだ。これ以上放ってはおけない。
 ▼ 220 AYr1xkow/g 17/07/02 18:33:52 ID:l4mJDVfc [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
事態は予想以上に深刻だ。このままではまずい。ただでさえ団内の雰囲気があまり良くないのに、二回も仕事を邪魔され、挙げ句の果てにアジトにまで乗りこんできた。

ロケット団は、ランスの最も大切なものだ。八年前、すべてを失くしたランスがサカキに誘われて得たもの。それはランスにとってすべてだ。ここにランスのすべてがある。奪われてはならない。乱されてはならない。

ぎり、と音が鳴るほど強く歯を食いしばる。サカキと話をしよう。ランスはそう決めた。考えているだけではいけない。行動に移さなければ。
 ▼ 221 AYr1xkow/g 17/07/08 01:15:34 ID:skyrap56 [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスはアジトに帰るとすぐにサカキの部屋に向かった。慌ただしく大股で歩くランスを見て、構成員たちはランスの只事ではない空気を感じ取っている。

ランスは既に仕事を二回も失敗しているのだ。神経質にもなる。現場にいなかったとしても、責任は幹部であり指示をしたランスにある。
サカキの部屋の前に来ると、ランスは一呼吸置いてからノックした。冷静になったつもりだったのだが、存外大きな音で扉を叩いてしまった。

「入るといい」

中からはいつも通りの落ち着いた声が聞こえてきた。ランスは「失礼します」と早口に言いながら扉を開ける。革張りのソファに腰掛け、ランスの方を見るサカキの顔は真剣なものだった。
 ▼ 222 AYr1xkow/g 17/07/08 01:17:08 ID:skyrap56 [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……サカキ様」

ランスはなんと言うべきか迷ったが、考えている余裕はもはやなかった。

「相談があります。我々ロケット団の今後の方針と、それから例の子供についてです」

サカキは黙っている。ランスは構わず続けた。

「現在我々は、最終目標である世界征服に向け、ありとあらゆる手段を用いて金を稼ごうとしています。それは概ね成功しており、悪事を働くことで我々は遂に人々に怖れられる存在となりました」

ランスは小さく息を吸った。

「ですが、今までに培ったものがすべて、崩れようとしています。……とても悔しいことに、それは、」

ランスは思わず歯を食いしばった。こんなこと、認めたくない。

「小さな子供によってです」

ランスがそう言った瞬間、サカキの表情が、明らかに曇った。
 ▼ 223 AYr1xkow/g 17/07/08 01:17:58 ID:skyrap56 [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスは顔を見上げ、サカキの顔を一瞬見つめてから、続ける。

「大袈裟だと思われるかもしれません。それに、その子供によって仕事を二度も邪魔されてしまったことは私が至らなかったせいです。本当に申し訳ありません――ですが、私は感じるのです、このままではいけないと」

ランスはごくりと唾を飲みこんだ。喉がカラカラだ。

「今、アポロとアテナがアジトにいない状態で、私たちは、その……急ぎ過ぎているのではないでしょうか?」

ランスは言葉に迷った結果、ラムダの言っていた台詞を拝借することにした。

「たかが子供ですが、サカキ様も……、……いえ、なんでもありません。ただ、考え直すべきではないかと」

頭が回らない。何もまとめていなかったせいで、ランスの言っていることは無茶苦茶だった。ランスは俯くと唇を噛み、眉間に皺を寄せて目を逸らした。これじゃあまるで、子供の我儘ではないか。
 ▼ 224 AYr1xkow/g 17/07/08 01:18:55 ID:skyrap56 [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ここで一旦立ち止まるべきだ。

要するに、ランスはそう言いたかったのだ。あの子供がいる今、闇雲に動くことは危険だ。自分よりもずっと頼りになる幹部が二人とも不在のまま、組織内の雰囲気が良くないまま、前に進むべきではない。このままでは本当に、取り返しのつかないことになる。

だって、奪われてしまう。ランスにとって一番大切な、すべてを。冷静でいられるわけがないのだ。

「……ランス」

サカキがやっと口を開いた。ランスははっと顔を上げる。

お願いだから、同意してください、サカキ様。君の言う通りだと言ってください。そして、命令してください。止まれと。私は、このロケット団を守りたい。そのためなら、私は本当に、なんだってするつもりなのです。
 ▼ 225 マタナ@ジュナイパーZ 17/07/08 01:47:13 ID:iYP6H.hU NGネーム登録 NGID登録 報告
し…支援ネ
 ▼ 226 AYr1xkow/g 17/07/09 20:53:32 ID:9FkIaLUM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「君の言いたいことは、とてもよく分かる」

サカキは一言一言、噛みしめるようにゆっくりと言葉を吐いた。

「我々のことを思ってそう言ってくれているのだろう。君はまだ幼いが……」

サカキは一呼吸置いてランスの表情を伺うようにちらりとこちらを見た。

「……基本的に冷静だ。頼りになる。ランスだけじゃない、アポロもアテナもラムダも。私はみんなを信用している。それが間違っているとは思わない」

ランスはああ、と心の中で深く息を吐いた。

結局、私の思いは届かないのですね。

「しかし、ここで立ち止まるわけにはいかないのだよ」

サカキの声が、大きくなった。サカキは立ち上がり、ランスの元へ歩きながら続けた。
 ▼ 227 AYr1xkow/g 17/07/09 20:54:52 ID:9FkIaLUM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ロケット団は高みに到達しようとしている。これはまたとない機会だ。間もなく、カントー全土を支配できるだろう。手始めにヤマブキを制圧する。そのために、一週間後、シルフカンパニーの社長と話しに行くことになっている」

サカキはそう言うとランスの目の前で立ち止まり、ぽんとランスの肩に手を置いた。

「アジトの留守は頼んだぞ、ランス」

ランスはサカキをじっと見つめた。

サカキが言うのだ。きっと間違いはないだろう。そうだ、我々ロケット団は強い。あんな子供ごときに敗北し続けるなんてありえない。私たちは強い。こんなにたくさんのトレーナーが集まっているのだ、弱いわけがない……。

「承知いたしました」

ランスは頷いた。それが、サカキと直接言葉を交わした最後の会話になるとも知らずに。
 ▼ 228 アルヒー@こおりのジュエル 17/07/09 21:57:08 ID:xIZi3uaU NGネーム登録 NGID登録 報告
うおお文章力すげえ
支援
 ▼ 229 テッコツ@リュガのみ 17/07/09 22:55:52 ID:dYEOGJ16 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 230 ャラドス@こだいのうでわ 17/07/12 13:02:20 ID:hGqQ2iY. [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一週間後、今までに見たことがないほど淀んだ空気のアジトの談話室で、ランスとラムダはソファに腰かけてがっくりと項垂れていた。二人の顔は真っ青だ。

ボスにアジトの留守を頼まれた二人は、シルフカンパニーには出向かずここでいつも通り仕事をこなしていた。アジトに特に何も異変はなかった。サカキが構成員のうち六割を連れてヤマブキシティへと向かったため、静かだったというのもあるかもしれない。

つい先程、団員たちが帰ってきた。疲弊しきった顔は悔恨と悲哀に満ちていた。結末は聞かずとも分かる。失敗したのだ。また邪魔されたのだ。あの子供に。ロケット団の悪事を許さない、正義の心を持った、あの小さな子供に。
 ▼ 231 AYr1xkow/g 17/07/12 13:03:09 ID:hGqQ2iY. [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「こんなことになるのなら、あの時殺していればよかったですね……」

ランスが呟く。かつてオツキミ山に向かう際にすれ違った時に分かっていれば。分かっていれば、あの時殺せたのに。

「……物騒だなぁ」

ラムダが力なく笑う。物騒な世の中になったのは、自分たちが力をつけたからだというのに。なんという皮肉だろうか。

「……いえ、この際子供なんてどうでもいいんです。そんなことより、もっと重大な問題があるでしょう」

ランスが顔に手を当て、溜息をつきながら言う。ラムダはやるせない表情でこくこくと頷いた。

シルフカンパニーからサカキが帰ってこないのだ。サカキに連れられて出ていった構成員たちに聞いても、誰も行方を知らないと言う。

「本当に、重大だ……」

ラムダも深い溜息をついた。
 ▼ 232 AYr1xkow/g 17/07/12 13:04:12 ID:hGqQ2iY. [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……ランス。サカキ様が帰ってくるまで、お前さんが仕切ってくれよ。俺よりしっかりしてんだろ」

ラムダが言う。ランスは顔を上げ、とんでもない、という表情でラムダを見つめた。

「無理ですよ。ラムダ、みんなあなたの言うことの方が聞きます」

幹部とはいっても、ランスはまだ成人していないのだ。威厳も何もない若造だ。団員全員をまとめるほどの力は持っていない。

「……っかぁー……」

ラムダが頭を掻きむしる。

「アポロ……アテナ……頼むから早く帰ってきてくれよぉ……」

ラムダが切実そうな声を上げる。ランスは悲痛な思いで唇を噛みしめた。本当に、そう思う。

二人はどこまで知っているのだろう。ナナシマではロケット団の噂は流れているのだろうか?二人との連絡は、すべてサカキが行なっていた。今はそれもままならない。
 ▼ 233 AYr1xkow/g 17/07/12 13:05:56 ID:hGqQ2iY. [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「二人で、力を合わせるしかないようですね……」

「ああ、そうだな、頑張るしかねえ」

二人は視線を合わせ、頷いた。

ふとラムダが立ち上がり、ランスの隣までやってきて腰かける。それから、ランスの肩を組んだ。

「これは俺たちへのツケだ。ロケット団の空気が変わったと分かっていながら、戻すことも合わせることもできねえで流され続けただけの俺たちへのツケ」

ラムダの声はぼそぼそと呟くようなものだったが、ランスの耳にはしっかり聞こえた。

「まあ、こんな空気になっちまったのは誰が悪いってわけでもない。強いて言うなら、俺たち全員が悪い」

ラムダはそう言うと、にやりと笑った。それから低い声で、不敵に言ってみせる。

「だってロケット団は悪い奴らだからな」

ランスも薄く笑った。二人の笑顔はどこか弱々しくぎこちない。それでも、まだ諦めるわけにはいかないのだ。

「ええ、そうですね」

ランスは頷いた。
 ▼ 234 AYr1xkow/g 17/07/14 00:00:21 ID:P7HP68Fg NGネーム登録 NGID登録 報告
あれから数日経ったある日、とあるニュースが流れた。長い間閉鎖されていたトキワシティのジムが復活したというのだ。

カントー地方はこの話題で持ちきりだった。それもそのはず、ポケモントレーナーたちにとってはとても重大なニュースである。とはいえ、ロケット団にはあまり関係ないけれど。

そして、その翌日。

サカキがアジトに帰還し、ロケット団の解散を宣言して去っていった。
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